説明

二相潤滑油組成物

【課題】 低粘度成分および、低粘度成分と低温で相分離可能であり、高温で均一となる高粘度成分の二成分を有する潤滑油組成物を提供する。
【解決手段】 コントロール成分を用いることによって、二成分混合型の潤滑油組成物の分離温度を適切に制御するとともに、高温での動粘度をコントロール成分を用いない場合とほぼ同じレベルに維持しうる。低温では低粘度成分が機能し、高温では高粘度成分と低粘度成分が混和することで高められた粘度の潤滑油が機能することによって、かかる潤滑油組成物を広範囲の温度域で用いることができる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、潤滑油組成物に関する。より詳細には、二相潤滑油組成物に関する。
【背景技術】
【0002】
潤滑油は、通常、温度上昇に伴い粘度が低くなる。そのため、一般に低温では粘性が高く、高温では粘性が低い。使用される環境(特に温度)に応じて使われる潤滑油の種類も異なる。低温環境と高温環境の両者において用いられる潤滑油は、低粘度のものだと、高温では粘性が低すぎるために油膜切れを起こし、潤滑油としての機能を果たさないことがあり、逆に高粘度のものだと、低温では粘性が高すぎて、撹拌損失が増大したり、ポンプ給油ができず焼付きや摩耗を起こしたりすることがある。
【0003】
作動開始時(停止状態から動作状態になるとき、すなわち、低温時)には、低粘度であることが重要である。この作動開始時に高粘度だと、停止状態から動作状態にするまでの初期作動力が必要となるからである。他方、一旦機械が動き出したら、それほど粘度は関係なくなる。機械が作動し続けると、機械は熱を有し、その温度が上昇する(例えば、100℃程度)。高温になった際には前記の通り粘度が下がり過ぎて、油膜切れを起こす可能性がある。
【0004】
このように、一つの潤滑油だけでは広範囲の温度条件において必要な粘度を担保することが難しい。そこで、特許文献1では、低粘度の潤滑油と、高粘度の潤滑油を組み合わせることによって、低温では低粘度の潤滑油の特性のみを利用し、高温では高粘度の潤滑油が低粘度の潤滑油と混和することで粘度が上がるという特性を利用し、低温でも高温でも機能する潤滑油を開示している。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】国際公開第96/11244号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、特許文献1記載の方法では、組み合わせる油の種類と比により分離温度や動粘度が一義的に決まってしまい、用途に応じた特性を出しづらいという課題がある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明は、上記の課題に鑑み、以下の発明[1]〜[11]からなる。
[1] (A)低粘度成分として炭化水素、
(B)高粘度成分として酸素/炭素重率が0.450〜0.580であるポリアルキレングリコール(PAG)、および
(C)コントロール成分として酸素/炭素重率が0.080〜0.350である化合物
を混合してなる潤滑油組成物。
[2] 前記低粘度成分が、ポリα−オレフィン、鉱油、GTLまたはそれらの混合物である前項[1]記載の潤滑油組成物。
[3] 前記コントロール成分が脂肪族エステル化合物であって、エステル基以外の炭素鎖がC4〜C18である前項[1]または[2]記載の潤滑油組成物。
[4] 前記低粘度成分の密度が0.750〜0.950 g/cm3であり、前記高粘度成分の密度が1.000〜1.050 g/cm3である前項[1]〜[3]のいずれか一項記載の潤滑油組成物。
[5] 前記コントロール成分の密度が0.800〜1.000 g/cm3である前項[1]〜[4]のいずれか一項記載の潤滑油組成物。
[6] 前記低粘度成分の40℃における動粘度が5〜500 mm2/sである請求項[1]〜[5]のいずれか一項記載の組成物。
[7] 前記高粘度成分の100℃における動粘度が2.5〜100 mm2/sである前項[1]〜[6]のいずれか一項記載の潤滑油組成物。
[8] 100℃における動粘度が1.5〜100 mm2/sである前項[1]〜[7]のいずれか一項記載の潤滑油組成物。
[9] 組成物全体100重量%に対して、前記低粘度成分の配合割合が30〜80重量%であり、前記高粘度成分の配合割合が3〜35重量%であり、前記コントロール成分の配合割合が1〜30重量%である前項[1]〜[8]のいずれか一項記載の潤滑油組成物。
[10] 各種車両または産業機械の、回転部材または摺動部材の潤滑に適用される、前項[1]〜[9]のいずれか一項記載の潤滑油組成物。
[11] エンジン、歯車装置、変速機、軸受、油圧装置または圧縮機に用いられる前項[1]〜[10]のいずれか一項記載の潤滑油組成物。
【0008】
当該発明を別の観点から捉えると下記の通りである。本発明は、(A)低粘度成分として炭化水素、(B)高粘度成分として酸素/炭素重率が0.450〜0.580であるポリアルキレングリコール(PAG)、(C)コントロール成分として酸素/炭素重率が0.080〜0.350である化合物を含有してなる潤滑油組成物であって、当該組成物の分離温度を任意に低減できるコントロール成分を混合してなる潤滑油組成物に関する。
【発明の効果】
【0009】
本発明により、低粘度成分である炭化水素と、高粘度成分である酸素/炭素重率が0.450〜0.580であるポリアルキレングリコール(PAG)に加えて、コントロール成分としての酸素/炭素重率が0.080〜0.350である化合物を用いることにより、コントロール成分が存在しない系と比較し、分離温度を低下させるとともに高温度での動粘度をほぼ同レベルに維持することが可能となるため、異なる特性が求められる様々な潤滑用途に使用できるという効果を奏する。
【図面の簡単な説明】
【0010】
【図1】本発明(一例)の二相系の模式図を示す。
【図2】本発明における潤滑油組成物の分離温度測定の一態様を示す。
【図3】本発明(一例)と従来技術の分離温度と動粘度の相関を示す。
【発明を実施するための形態】
【0011】
以下、本発明を詳細に説明するが、本発明は、このような特定の用途に何ら限定されるものではなく、任意の用途において幅広く適用できることは言うまでもない。
【0012】
本発明の潤滑油組成物には、低粘度成分と、高粘度成分と、それらの中間の性質を有するコントロール成分が含まれる。以下、有効成分として用いられるそれぞれの成分について説明を行い、次いで潤滑油組成物について説明を行う。
【0013】
(A)低粘度成分(炭化水素)
本発明の潤滑油組成物において、低粘度成分として、炭化水素が用いられる。ここで、本発明にかかる炭化水素は、当業界にて潤滑油の基油として使用可能なものを指し、合成油、鉱油、GTLでもよく、例えばグループI〜Vのものを挙げることができる。ここで、グループI、II、III、IV、およびVは、潤滑油基油の指針を作成するためにアメリカ石油協会(American Petroleum Institute)によって定義された基油材料の広範な分類である。
【0014】
ここで、より好適な炭化水素は、ポリα−オレフィン(PAO)のうち一種以上である。PAOとは、α−オレフィンの単重合体または共重合体である。例えば、α−オレフィンとしては、C−C二重結合が末端にある化合物であり、エチレン、プロピレン、ブテン、イソブテン、ブタジエン、ヘキセン、シクロヘキセン、メチルシクロヘキセン、オクテン、ノネン、デセン、ドデセン、テトラデセン、ヘキサデセン、オクタデセン、エイコセンなどが例示される。これらの化合物は単独でも、また二種類以上の混合物としても用いることができる。またこれらの化合物はC−C二重結合が末端にある限り、とり得る異性体構造のどのような構造を有していてもよく、分枝構造でも直鎖構造でもよい。これらの構造異性体や二重結合の位置異性体の二種類以上を併用することもできる。これらのオレフィンのうち、炭素数6〜30の直鎖オレフィンの使用がより好ましい。
【0015】
本発明においては、PAOは、Durasyn(イネオス社)、Spectrasyn(エクソンモービルケミカル社)、Lucant(三井石油化学)などの市販製品が入手可能である。
【0016】
その他、一般的な鉱油を低粘度成分として用いてもよい。鉱油としては、例えば、原油を常圧蒸留および減圧蒸留して得られた潤滑油留分に対して、溶剤脱れき、溶剤抽出、水素化分解、溶剤脱ろう、接触脱ろう、水素化精製、硫酸洗浄、白土処理などの一種もしくは二種以上の精製手段を適宜組み合わせて適用して得られるパラフィン系またはナフテン系などの鉱油を挙げることができる。
【0017】
また、天然ガスの液体燃料化技術のフィッシャートロプッシュ法により合成されたGTL(ガストゥリキッド)を用いることもできる。GTLは、原油から精製された鉱油基油と比較して、硫黄分や芳香族分が極めて低く、パラフィン構成比率が極めて高いため、酸化安定性に優れ、蒸発損失も非常に小さいため、本発明の基油として好適に用いることができる。
【0018】
(低粘度成分の動粘度、密度)
本発明にかかる低粘度成分である炭化水素の40℃動粘度は5〜500 mm2/s、好ましくは5〜50 mm2/s、より好ましくは5〜25 mm2/sであり、100℃動粘度は1.1〜50 mm2/s、好ましくは1.5〜10 mm2/s、より好ましくは1.5〜5 mm2/sである。また、本発明にかかる低粘度成分である炭化水素の密度は、好ましくは0.750〜0.950 g/cm3、より好ましくは0.750〜0.910 g/cm3、さらに好ましくは0.790〜0.850 g/cm3である。なお、二種類以上の低粘度成分を組み合わせて用いてもよい。
【0019】
(B)高粘度成分(酸素/炭素重率が0.450〜0.580であるポリアルキレングリコール(PAG))
本発明において、前記低粘度成分の炭化水素とともに用いる高粘度成分として、低温では低粘度成分と実質的に混じり合わず、また高温で混じり合う酸素/炭素重率が0.450〜0.580、好ましくは0.450〜0.500、より好ましくは0.450〜0.470であるポリアルキレングリコール(PAG)が用いられる。
【0020】
(酸素/炭素重率)
ここで、酸素/炭素重率は、成分中における炭素重量に対する酸素重量の割合を表し、この値は主に化合物の密度および極性などの物性に影響する。例えば、極性については、エーテル基、エステル基、水酸基、カルボキシル基といった官能基の種類にも影響されるが、酸素原子は電気陰性度が高いことから、一般に酸素/炭素重率が大きいほど極性が高くなる傾向にある。密度については、酸素が炭素よりも重いことから、一般に酸素/炭素重率が大きい化合物の方が高密度の傾向にある。酸素/炭素重率の測定は、JPI-5S-65(石油製品−炭素分、水素分および窒素分試験方法)およびJPI-5S-68(石油製品−酸素分試験方法)に従って行うことができる。
【0021】
本発明の潤滑油組成物において用いられる酸素/炭素重率が0.450〜0.580であるポリアルキレングリコール(PAG)としては、例えば、以下の一般式(1)〜(4)で示されるものが挙げられる。
【化1】

式中、Rはそれぞれ独立してC2〜C10、好ましくはC2〜8、より好ましくはC2〜6の直鎖または分枝鎖炭化水素基を表し、mは2〜500、好ましくは2〜400、より好ましくは2〜300の整数を表す。なお、Rのいずれについても、単独のアルキレンである必要は無く、異なったアルキレンの組み合わせであってもよい。具体例としては、上記の(RO)が二種類のアルキレンオキサイドのブロック共重合体の場合、上記の(RO)は(R1−1O)m−1(R1−2O)m−2とも記載できる。
【0022】
例えば、酸素/炭素重率が0.450〜0.580であるポリアルキレングリコール(PAG)としては、アルコール類にアルキレンオキサイドを付加重合することで得られたものを挙げることができる。原料のアルキレンオキサイドは、一種類でも二種類以上でもよい。ここで、付加するモノマー成分としては、例えば、エチレンオキサイド、プロピレンオキサイド又はブチレンオキサイドを単独で、またはこれらの二種以上を組み合わせて用いたもの(例えば、エチレンオキサイド/プロピレンオキサイド)を挙げることができる。
【0023】
(高粘度成分の動粘度、密度)
本発明にかかる高粘度成分である酸素/炭素重率が0.450〜0.580であるポリアルキレングリコール(PAG)は、100℃動粘度が2.5〜100 mm2/s、好ましくは2.5〜80 mm2/s、より好ましくは2.5〜70 mm2/sである。さらに、本発明にかかる前記ポリアルキレングリコール(PAG)は、密度が1.000〜1.050 g/cm3、好ましくは1.000〜1.020 g/cm3、より好ましくは1.000〜1.010 g/cm3である。なお、二種類以上の高粘度成分を組み合わせて用いてもよい。
【0024】
(C)コントロール成分(酸素/炭素重率が0.080〜0.350である化合物)
本発明の潤滑油組成物において、コントロール成分として酸素/炭素重率が0.080〜0.350、好ましくは0.080〜0.300、より好ましくは0.080〜0.250である化合物が用いられる。コントロール成分とは、その存在下で、低温では低粘度成分と高粘度成分が実質的に混じり合わないものの、高温では混合して均一となることを促進する成分をいう。なお、二種以上のコントロール成分を組み合わせて用いてもよい。ここで、コントロール成分としては、前記の酸素/炭素重率である化合物であれば特に限定されないが、例えば、その中でも、極性や粘度などの観点から、エステル基を含有する化合物(エステル化合物)が好適に用いられる。エステル基を含有する化合物としては、直鎖または分枝鎖炭化水素部分とエステル官能基を有する脂肪族エステル化合物、芳香族部分とエステル官能基を有する芳香族エステル化合物、などが好適に用いられる。より好ましくは、炭素、水素および酸素のみを構成元素とする脂肪族エステル化合物(例えば、エステル基以外の炭素鎖がC4〜18、好ましくはC4〜16、より好ましくはC4〜14である脂肪族エステル化合物)および/または芳香族エステル化合物である。
【0025】
上記エステル化合物として、モノエステル、ジエステルおよびトリエステルが好ましく用いられ、ジエステルがより好ましい。モノエステルとしては、1価カルボン酸(例えば、ギ酸、酢酸、プロピオン酸、酪酸、吉草酸、カプロン酸、エナント酸、カプリル酸、ぺラルゴン酸、カプリン酸、ウンデシル酸、ラウリン酸、トリデシル酸、ヘキサデシル酸、ヘプタデシル酸、ステアリン酸など)と1価アルコール(例えば、メタノール、エタノール、プロパノール、ブタノール、ペンタノール、ヘキサノール、ヘプタノール、オクタノール、ノナノール、デカノールなどの直鎖または分枝鎖の1価アルコール)とのエステルが挙げられる。ジエステルとしては、ジカルボン酸(例えば、マロン酸、コハク酸、グルタル酸、アジピン酸、ピメリン酸、スベリン酸、アゼライン酸、セバシン酸などの、直鎖または分枝鎖ジカルボン酸)と1価アルコール(例えば、前記の1価アルコール)とのエステルや、1価カルボン酸(例えば、前記の1価カルボン酸)と2価アルコール(例えば、エチレングリコール、プロピレングリコール、ブチレングリコール、ペンチレングリコール、ヘキシレングリコールなどの直鎖または分枝鎖の2価アルコール)とのエステルが挙げられる。トリエステルとしては、1価カルボン酸(例えば、前記の1価カルボン酸)と3価アルコール(例えば、グリセリン、ブタントリオール)とのエステルや、3価カルボン酸(例えば、クエン酸、イソクエン酸)と1価アルコール(例えば、前記の1価アルコール)とのエステルなどが挙げられる。具体的には、脂肪酸ジエステル[例えば、ジイソノニルアジピン酸(田岡化学工業の商品名DINA)など]、脂肪酸モノエステル[例えば、ステアリン酸イソオクチル(花王の商品名エキセパールEH−S)など]、トリメリット酸エステル[例えば、トリメリット酸トリノルマルアルキル(花王の商品名トリメックスN−08)など]、脂肪酸トリエステル[例えば、オレイン酸トリメチロールプロピル(花王の商品名カオールーブ190)など]が好適に用いられる。
【0026】
(コントロール成分の動粘度、密度)
本発明にかかるコントロール成分である酸素/炭素重率が0.080〜0.350である化合物は、40℃での動粘度が5〜75 mm2/s、好ましくは7〜60 mm2/s、より好ましくは9〜50 mm2/sであり、100℃での動粘度が2.5〜18 mm2/s、好ましくは2.7〜15 mm2/s、より好ましくは2.8〜10 mm2/sであり、密度が0.800〜1.010 g/cm3、好ましくは0.830〜1.005 g/cm3、より好ましくは0.850〜1.000 g/cm3のものが使用される。
【0027】
<任意含有物>
本発明の潤滑油組成物には、摩耗防止剤、防錆剤、金属不活性剤、加水分解防止剤、帯電防止剤、消泡剤、酸化防止剤、分散剤、清浄剤、極圧剤、摩擦調整剤、粘度指数向上剤、流動点降下剤、増粘剤、金属清浄剤、無灰分散剤、腐食防止剤など必要に応じて任意の一種以上の添加物が使用可能である。例えば、性能向上として用いられる「添加剤パッケージ」(例えば、ATF添加剤パッケージなどの各種パッケージ)を用いることができる。
【0028】
(全体の組成)
本発明の潤滑油組成物は、潤滑油組成物の全重量(100重量%)に対し、
(A)低粘度成分である炭化水素を、好ましくは30〜80重量%、より好ましくは40〜80重量%、さらに好ましくは50〜80重量%含有し、
(B)高粘度成分である酸素/炭素重率が0.450〜0.580であるポリアルキレングリコール(PAG)を、好ましくは3〜35重量%、より好ましくは7.5〜30重量%、さらに好ましくは10〜25重量%含有し、
(C)コントロール成分である酸素/炭素重率が0.080〜0.350である化合物を、好ましくは1〜30重量%、より好ましくは2〜25重量%、さらに好ましくは3〜20重量%含有する。さらに任意含有物を、潤滑油組成物の全重量に対し、例えば、1〜25重量%含有する。
【0029】
(粘度)
本発明の潤滑油組成物は、酸素/炭素重率が0.080〜0.350であるコントロール成分を加えることにより、低温では低粘度成分と高粘度成分が二相に分離しているが、温度上昇に伴って低粘度成分と高粘度成分が混和して、分離温度以上では両者が一相となる。通例、潤滑油の液面近くに潤滑の対象となる機械が接触することから、低温では、好ましくは通常上相側にある低粘度成分の粘度が寄与し、40℃における動粘度は好ましくは5〜500 mm2/s、より好ましくは8〜400 mm2/s、さらに好ましくは10〜300 mm2/sである。ここで、40℃動粘度は二相である潤滑油組成物の上相を測定対象とするが、一度加熱して均一になった潤滑油組成物を冷却して二相に分離したものが用いられる。従って、加熱と冷却を経た結果、低粘度成分の相にコントロール成分の一部が混和することがある。一方、高温では、低粘度成分と高粘度成分が均一になった混合物の粘度が寄与し、100℃における動粘度は好ましくは1.5〜100 mm2/s、より好ましくは2.0〜20 mm2/s、さらに好ましくは2.5〜15 mm2/sである。
【0030】
本発明の潤滑油組成物のみかけ粘度指数(Viscosity Index;VI)は、好ましくは50〜1000であり、より好ましくは200〜800であり、さらに好ましくは300〜800である。粘度指数とは、温度変化により起こる潤滑油の粘度変化の程度を示す便宜的な指数である。本発明における粘度指数は、試料油(二相に分離した上相)の40℃における粘度と試料油(一相となった潤滑油組成物)100℃における粘度をもとにJISL2283に規定される粘度指数算出方法にもとづいて算出することができる。粘度指数が高いことは、温度変化に対する粘度の変化が小さいことを意味する。
【0031】
本発明において、酸素/炭素重率が0.080〜0.350であるコントロール成分を加えることによって、任意温度に分離温度を下げることが可能である。従って、本発明は、潤滑油組成物の分離温度をコントロールする方法をも提供する。
【0032】
(分離温度)
前述の通り、本発明の潤滑油組成物は、一相状態から二相状態へと遷移する分離温度がある。ここで、分離温度とは、二相状態にある潤滑油組成物を加熱して一相状態にした後、冷却した際に曇り(析出物)が見られる温度をいう。本発明の潤滑油組成物は、高温領域において高粘度成分が低粘度成分の粘度を高めるよう混和されていることが好ましい(より好ましくは低粘度成分と高粘度成分が均一になっている)。本発明の好適な潤滑油組成物は、40℃では二相に分離し、100℃では一相(均一)になっており、所望の分離温度に任意に制御することができる。
【0033】
(コントロール成分の寄与)
コントロール成分は、好適には、40℃では二相に分離しており100℃では一相(均一)になっている潤滑油において、一相から二相へと遷移する分離温度を40〜100℃の範囲内の所望値に制御する機能を有する。また、低温時、コントロール成分は、その一部または全部が上相および/または下相に混じっていても、あるいは別の相として存在していてもよい。このことから、低温時にコントロール成分が上相および/または下相に混じっている場合には、コントロール成分は、上相の主成分である低粘度成分および/または下相の主成分である高粘度成分の、もともとの粘度を変え得る成分としても機能する。例えば、低温時にコントロール成分が上相および下相に混じる状況下、粘度が低粘度成分<コントロール成分<高粘度成分である場合、上相の主成分である低粘度成分の粘度<上相の粘度、下相の粘度<下相の主成分である高粘度成分の粘度、となる。
【0034】
<実際の潤滑油の使用態様例>
まず、機械使用開始時の態様例について図1を参照して説明する。図1(上図)は、本発明の潤滑油組成物の一態様であり、低温状態である二相状態10を表す。低粘度成分20が低密度の潤滑油であることから上相に位置し、高粘度成分22が高密度の潤滑油であることから下相に位置する。図1(下図左)は、被潤滑物である機械1を用いる態様であり、機械が潤滑油組成物の上相に浸漬している。始動時(低温)では低粘度の上相20が潤滑に主に寄与し、高粘度の下相22は潤滑にはほとんど寄与しない。低温では低粘度の潤滑油は潤滑に十分な性能(粘度)を有するので、低粘度成分のみでも潤滑性能に支障をきたさない。図1(下図右)は、使用を持続した結果高温になった一相状態12を表す。ここでは、温度上昇によって、低粘度成分20と、高粘度成分22が混和し、均一な潤滑油組成物24となっている。低粘度成分20のみの時よりも、高粘度成分22が混じり合うことで低粘度成分20の温度上昇に伴う粘度低下を高粘度成分22が補うことで、高温になっても油膜切れなどの支障をきたさない。分離温度以上の温度で均一な一相系となることで、低粘度成分の粘度低下を高粘度成分が補うこととなる。
【0035】
本発明の特徴の一つは、低粘度成分と高粘度成分を混合した潤滑油組成物の挙動である。具体的には、低温では通常上相にある、炭化水素のような低粘度の潤滑油が機械の潤滑に寄与し、高温では高粘度の潤滑油と低粘度の潤滑油との混合物が寄与する。その場合において、本発明ではコントロール成分を用いることによって、分離温度を低下させながらも高温での動粘度をほぼ近接したレベルに維持しうる。一方、特許文献1のように、単純に低粘度成分と高粘度成分の割合を変える手法だと、その動粘度と分離温度には必ずしも関連性が見られず、そのため使用目的や使用環境に応じた動粘度や分離温度の設計が極めて困難である。
【0036】
<用途>
特に限定されないが、本発明の潤滑油組成物は、各種機械の潤滑油として用いることができる。例えば、各種車両や産業機械の回転部材や摺動部材の潤滑に適用される。特に、低温(例えば、−40℃)から高温(例えば、120℃)の領域において用いられる、自動車用エンジン(ディーゼルエンジン、ガソリンエンジンなど)、変速機(歯車装置、CVT、AT、MT、DCT、Diffなど)、工業用(建設機械、農耕機、工業機械、歯車装置など)、軸受(タービン、スピンドル、工作機械など)、油圧装置(油圧シリンダー、ドアチェックなど)、圧縮機(コンプレッサー、ポンプなど)などの潤滑油として用いることができる。
【0037】
本発明の潤滑油組成物は用途により求められる粘度が異なり、例えば、エンジン油では100℃動粘度が5〜14 mm2/s、好ましくは5〜12 mm2/s、より好ましくは5.5〜11 mm2/s、手動変速機では100℃動粘度が6〜15 mm2/s、好ましくは6〜13 mm2/s、より好ましくは6〜11 mm2/s、自動変速機では100℃動粘度が4〜8.5 mm2/s、好ましくは4〜7.5 mm2/s、より好ましくは4〜6.5 mm2/sである。
【実施例】
【0038】
以下、実施例によって本発明を説明するが、本発明は以下の実施例に限られない。
<試験方法>
各種データ測定
以下の方法に従って、本発明の潤滑油組成物および比較例の潤滑油組成物の各種データを測定した。
[1]分離温度
分離温度は、ヒーターとしてCORNING PC-420Dを用いて測定を行った。
(1)100 mlビーカーに試料50 gを採取し、撹拌子100を入れた。
(2)図2のように実験器具を組み、温度計101を接続した油温計測用に熱電対102を油中に差し込んだ。
(3)ホットスターラー103の撹拌速度を300rpmに設定した。
(4)プレート温度を200℃に設定し、油温が120℃になるまで加熱した。
(5)油温が120℃に達したら加熱をやめ、試料を室温付近まで冷却した。
(6)操作(4)と同様に油温を120℃に加熱した。
(7)油温が120℃に達したら加熱をやめ、ビーカー内のサンプルの状況を観察した。
(8)ビーカー内のサンプルが曇りを生じたら(析出物が見えたら)油温を記録し、分離温度とした。測定方法は目視だが、アニリン点の測定(JIS K 2256)を参考にした。
【0039】
[2]動粘度(40℃)
[1]で分離温度を測定した試料を用いた。動粘度(40℃)の測定は、試験装置としてウベローデを用いて、JIS K 2283に従って行った。測定温度において二相に分離可能であるため、上相(低粘度成分が主成分)の上澄み部分を採取し、粘度測定用の試料とした。
【0040】
[3]動粘度(100℃)
[2]と同様、[1]で分離温度を測定した試料を用いた。動粘度(100℃)の測定は、試験装置としてウベローデを用いて、JIS K 2283に従って行った。試料を予め100℃に加温した状態で粘度管に採取し、温度が低下しないうちに浴に入れ、測定を実施した。
【0041】
[4]見かけ粘度指数(見かけVI)
見かけVI(viscosity index)は、JIS K 2283に従って、上記40℃および100℃の動粘度から計算した。なお、見かけVIは、通常のVIと異なり、40℃動粘度が組成物の一部である上澄みを用いて計測している。
【0042】
[5]密度(15℃)
密度(15℃)の測定は、振動式試験装置(京都電子工業:DA-300)を用いて、JIS K 2249に従って行った。
【0043】
[6]酸素/炭素重率
酸素/炭素重率(炭素重量に対する酸素重量の割合)は、試験装置としてエレメンタール社のvario EL IIIを用いて、JPI-5S-65(石油製品−炭素分、水素分および窒素分試験方法)およびJPI-5S-68(石油製品−酸素分試験方法)に従って行った。
【0044】
実施例および比較例
以下の実施例および比較例において、下記の成分を用いて潤滑剤組成物を製造した。量は特に記載のない場合、重量部で表す。実施例及び比較例に用いられた成分は、以下の通りである。
【0045】
[1] 低粘度成分
低粘度成分としては、以下の基油1〜6を用いた。なお、これらの酸素/炭素重率はいずれも0であった(酸素原子を含まないため)。
(1)「基油1」は、20℃での密度0.8198 g/cm3、40℃で7.65 mm2/s、100℃で2.28 mm2/sの動粘度を有しているG-II鉱油(S-Oil:Ultra S-2として市販)であった。
(2)「基油2」は、20℃での密度0.7972 g/cm3、40℃で5.75 mm2/s、100℃で1.85 mm2/sの動粘度を有しているG-IV合成油(INEOS:Durasyn162として市販)であった(一般名称PAO2)。
(3)「基油3」は、20℃での密度0.8326 g/cm3、40℃で19.38 mm2/s、100℃で4.25 mm2/sの動粘度を有しているG-III鉱油(パラフィン基油)(SKルブリカンツ:Yubase4として市販)であった。
(4)「基油4」は、20℃での密度0.8189 g/cm3、40℃で17.57 mm2/s、100℃で3.96 mm2/sの動粘度を有しているG-IV合成油(エクソンモービルケミカル:Spectra Syn 4として市販)であった(一般名称PAO4)。
(5)「基油5」は、40℃で17.25 mm2/s、100℃で3.88 mm2/sの動粘度を有しているG-IV鉱油(モービル:SHF41として市販)であった(一般名称PAO4)。
【0046】
[2] 添加剤
添加剤として、ATF添加剤パッケージをコントロール成分に配合した。「添加剤パッケージ」は伝達流体の特別の性能向上パッケージで、摩擦改良剤、酸化防止剤、抗さび剤、抗摩耗剤、分散剤および清浄剤を含む性能改善用添加剤の組合せを含むものである。
【0047】
[3] コントロール成分
コントロール成分としては、以下のエステル1〜4を用いた。
(1)「エステル1」は、20℃での密度0.924 g/cm3、酸素/炭素重率0.221、40℃で10.81 mm2/s、100℃で3.042 mm2/sの動粘度を有している脂肪酸ジエステル(田岡:DINAとして市販のアジピン酸ジイソノニル)であった。
(2)「エステル2」は、20℃での密度0.8577 g/cm3、酸素/炭素重率0.0969、40℃で9.701 mm2/s、100℃で2.928 mm2/sの動粘度を有している脂肪酸モノエステル(花王:エキセパールEH-Sとして市販のステアリン酸イソオクチル)であった。
(3)「エステル3」は、20℃での密度0.982 g/cm3、酸素/炭素重率0.219、40℃で45.81 mm2/s、100℃で7.272 mm2/sの動粘度を有しているトリメリット酸エステル(花王:トリメックスN-08として市販のトリメリット酸トリノルマルアルキル)であった。
(4)「エステル4」は、20℃での密度0.918 g/cm3、酸素/炭素重率0.128、40℃で49.21 mm2/s、100℃で9.816 mm2/sの動粘度を有している脂肪酸トリエステル(花王:カオールーブ190として市販のオレイン酸トリメチロールプロピル)であった。
【0048】
[4] 高粘度成分
高粘度成分としては、以下のポリアルキレングリコールを用いた。
(1)「PAG1」は、20℃での密度0.995 g/cm3、酸素/炭素重率0.428、40℃で73.4 mm2/s、100℃で13.75 mm2/sの動粘度を有しているポリアルキレングリコール(日油:MB-14として市販)であった。
(2)「PAG2」は、20℃での密度1.000 g/cm3、酸素/炭素重率0.446、40℃で125 mm2/s、100℃で22.13 mm2/sの動粘度を有しているポリアルキレングリコール(日油:MB-22として市販)であった。
(3)「PAG3」は、20℃での密度1.002 g/cm3、酸素/炭素重率0.451、40℃で227 mm2/s、100℃で36.28 mm2/sの動粘度を有しているポリアルキレングリコール エチレンオキサイド+プロピレンオキサイド(日油:MB-38として市販)であった。
(4)「PAG4」は、20℃での密度1.003 g/cm3、酸素/炭素重率0.451、40℃で616 mm2/s、100℃で92.73 mm2/sの動粘度を有しているポリアルキレングリコール エチレンオキサイド+プロピレンオキサイド(日油:MB-700として市販)であった。
(5)「PAG5」は、20℃での密度1.006 g/cm3、酸素/炭素重率0.453、40℃で398 mm2/s、100℃で62.23 mm2/sの動粘度を有しているポリアルキレングリコール エチレンオキサイド+プロピレンオキサイド(ダウケミカル:P4000として市販)であった。
(6)「PAG6」は、20℃での密度1.008 g/cm3、酸素/炭素重率0.460、40℃で321.4 mm2/s、100℃で47.17 mm2/sの動粘度を有しているポリアルキレングリコール エチレンオキサイド+プロピレンオキサイド(日油:TG-4000として市販)であった。
(7)「PAG7」は、20℃での密度1.019 g/cm3、酸素/炭素重率0.578、40℃で23 mm2/s、100℃で3.215 mm2/sの動粘度を有しているポリアルキレングリコール エチレンオキサイド+プロピレンオキサイド(日油:D-250として市販)であった。
(8)「PAG8」は、20℃での密度1.058 g/cm3、酸素/炭素重率0.550、40℃で397 mm2/s、100℃で71.07 mm2/sの動粘度を有しているポリアルキレングリコール エチレンオキサイド+プロピレンオキサイド(日油:50MB-72として市販)であった。
(9)「PAG9」は、20℃での密度1.13 g/cm3、酸素/炭素重率0.760、40℃で40.6 mm2/s、100℃で7.316 mm2/sの動粘度を有しているポリアルキレングリコール(日油:PEG400として市販)であった。
(10)「PAG10」は、75°Fでの密度1.00 g/cm3、40℃で143 mm2/s、100℃で22.6 mm2/sの動粘度を有しているポリアルキレングリコール(ラインケミー(RheinChemie):Baylube150GLとして市販)であった。
【0049】
実施例1
下記に示すように高粘度成分、添加剤、コントロール成分、低粘度成分の投入順でビーカーに秤取り、混合を行って、各試料の潤滑油組成物を調製した。表1は、低粘度成分として基油1、高粘度成分としてPAG、コントロール成分としてエステル1を用いた組み合わせの組成および分離温度、動粘度(40℃および100℃)を示す。
【0050】
【表1】

【0051】
実施例2
実施例1と同様に、下記に示すように高粘度成分、添加剤、コントロール成分、低粘度成分の投入順でビーカーに秤取り、混合を行って、各試料の潤滑油組成物を調製した。表2および3は、種々の高粘度成分やコントロール成分を用いた組み合わせの組成および分離温度、動粘度(40℃および100℃)を示す。
【0052】
【表2】

【0053】
【表3】

【0054】
比較例1
特許文献1の実施例(特許文献1の28〜29頁、表3、2番目の潤滑油)の開示に従って、潤滑油組成物を調製した。表4は、従来技術である特許文献1記載の低粘度成分、高粘度成分の組み合わせの組成および分離温度、100℃動粘度を示す。なお、特許文献1記載の処方では、本発明におけるコントロール成分を使用していない。
【0055】
【表4】

【0056】
比較例2
実施例1と同様に、下記に示すように高粘度成分、添加剤、コントロール成分、基油の投入順でビーカーに秤取り、混合を行って、各試料の潤滑油組成物を調製し、分離温度および動粘度(40℃および100℃)を測定した。
【0057】
【表5】

【0058】
なお、(2−1)〜(2−3)は25℃で混和したので、混和した成分の40℃、100℃における動粘度を測定した(*印)。(2−4)〜(2−6)では120℃に加熱しても混和せず二相のままであったので、本発明の二相系潤滑油としては不適であると判断して、動粘度を測定しなかった。
【0059】
考察
(1)コントロール成分の有無(実施例1と比較例1)
実施例1の結果より、本発明にかかる二相潤滑油組成物は、低粘度成分と高粘度成分にコントロール成分であるエステル化合物を加えることで、100℃動粘度をほぼ同レベルに保ちつつも、分離温度を変化させることが可能である。例えば、実施例1における(1−1)〜(1−3)は100℃動粘度を6.5 mm2/s前後に維持しつつ、分離温度を50℃〜69℃の範囲で制御可能であり、実施例1における(1−4)〜(1−5)は100℃動粘度を2.8 mm2/s前後に維持しつつ、分離温度を69℃〜100℃の範囲で制御可能であり、実施例1における(1−6)〜(1−8)は100℃動粘度を6.0 mm2/s前後に維持しつつ、分離温度を49℃〜77℃の範囲で制御可能である。すなわち、コントロール成分としてエステル化合物を用いると、分離温度が低下するとともに、その動粘度にはほとんど変化がないことが分かった(図3参照)。
【0060】
さらに、コントロール成分としてのエステル化合物を増量[実施例1における(1−1)と(1−2)、(1−4)と(1−5)、(1−6)と(1−7)]すると(5%から20%)、エステル化合物の量が多いほど相転移温度(分離温度)の低下度も大きいことが分かった。その場合でも、動粘度にはほとんど変化がなかった。このエステル化合物は、低粘度成分と高粘度成分を混和しやすくするために数多くの種類の中から選択した結果、適度な極性を有するものを見出したものであり、その結果コントロール成分を加えない場合に比べてより低い温度で両成分を混和することができ、かつその動粘度には大きな影響を与えないことが分かった。
【0061】
一方、特許文献1記載の処方[比較例1における(1−2)〜(1−6)]だと、コントロール成分を用いずに、高粘度成分と低粘度成分の比率を変化させるのみである。その場合、図3に示すように、高粘度成分の割合を増やすことで100℃動粘度が高くなるが、分離温度が高くなったり低くなったりが不確かで大きく変動するため、動粘度と分離温度のコントロールが非常に困難であり、実用に適した潤滑油組成物を得ることが難しい。
【0062】
(2)高粘度成分の比較(実施例1〜2と比較例2)
実施例1および2にあるように、低粘度成分と、PAG3、PAG4、PAG5、PAG6およびPAG7といった高粘度成分に加えてコントロール成分を用いると、40〜100℃の間の温度で混合物が二相から一相に混和するので、低温では二相、高温では一相となり、また一相となった混合物の100℃動粘度が2.5〜15 mm2/sの間に留まっていることから、高温領域で油膜切れを起こさないという本発明の目的に適う。この効果を奏するのは、密度1.000〜1.050 g/cm3、酸素/炭素重率0.450〜0.580の高粘度成分であると考えられる。
【0063】
一方、比較例2に示すように、高粘度成分としてPAG1およびPAG2といった低密度かつ酸素/炭素重率の低い成分を用いると[比較例(2−1)〜(2−3)]、加熱する前の25℃の時点ですでに低粘度成分と高粘度成分が混和しており、低温では通常上相にある低粘度成分のみの粘度を利用するという目的に適わない。一方、PAG8およびPAG9といった高密度かつ酸素/炭素重率の高い成分を用いると[比較例(2−4)〜(2−6)]、120℃まで加温しても、低粘度成分と高粘度成分が二相に分離したまま混和しなかったため、100℃付近の高温で低粘度成分と高粘度成分の両者を用いるという目的には適わない。自動車や工業機械などの使用温度域を考慮すると、二相に分離する温度は40℃から100℃の間にあり、分離温度未満では二相、分離温度より高い温度では一相であることが好ましい。比較例2における(2−1)〜(2−6)はこの範囲外に分離温度があることから、これらは本発明の目的には適さない。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
(A)低粘度成分として炭化水素、
(B)高粘度成分として酸素/炭素重率が0.450〜0.580であるポリアルキレングリコール(PAG)、および
(C)コントロール成分として酸素/炭素重率が0.080〜0.350である化合物
を混合してなる潤滑油組成物。
【請求項2】
前記低粘度成分が、ポリα−オレフィン、鉱油、GTLまたはそれらの混合物である請求項1記載の潤滑油組成物。
【請求項3】
前記コントロール成分が脂肪族エステル化合物であって、エステル基以外の炭素鎖がC4〜C18である請求項1または2記載の潤滑油組成物。
【請求項4】
前記低粘度成分の密度が0.750〜0.950 g/cm3であり、前記高粘度成分の密度が1.000〜1.050 g/cm3である請求項1〜3のいずれか一項記載の潤滑油組成物。
【請求項5】
前記コントロール成分の密度が0.800〜1.000 g/cm3である請求項1〜4のいずれか一項記載の潤滑油組成物。
【請求項6】
前記低粘度成分の40℃における動粘度が5〜500 mm2/sである請求項1〜5のいずれか一項記載の組成物。
【請求項7】
前記高粘度成分の100℃における動粘度が2.5〜100 mm2/sである請求項1〜6のいずれか一項記載の潤滑油組成物。
【請求項8】
100℃における動粘度が1.5〜100 mm2/sである請求項1〜7のいずれか一項記載の潤滑油組成物。
【請求項9】
組成物全体100重量%に対して、前記低粘度成分の配合割合が30〜80重量%であり、前記高粘度成分の配合割合が3〜35重量%であり、前記コントロール成分の配合割合が1〜30重量%である請求項1〜8のいずれか一項記載の潤滑油組成物。
【請求項10】
各種車両または産業機械の、回転部材または摺動部材の潤滑に適用される、請求項1〜9のいずれか一項記載の潤滑油組成物。
【請求項11】
エンジン、歯車装置、変速機、軸受、油圧装置または圧縮機に用いられる請求項1〜10のいずれか一項記載の潤滑油組成物。


【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公開番号】特開2013−23596(P2013−23596A)
【公開日】平成25年2月4日(2013.2.4)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−160351(P2011−160351)
【出願日】平成23年7月21日(2011.7.21)
【出願人】(000186913)昭和シェル石油株式会社 (322)
【Fターム(参考)】