説明

二種以上の金属からなる金属ナノ粒子及びその形成方法

【課題】本発明は、光化学反応を用いて、媒体中に二種以上の金属からなる金属ナノ粒子を効率的に形成する方法を提供する。
【解決手段】媒体中に二種以上の金属からなる金属ナノ粒子を形成する方法であって、光励起によってラジカルを生じるラジカル前駆体及び二種以上の金属イオン又は金属錯体を含んだ媒体に、励起光を照射することを特徴とする形成方法、及び、該形成方法により媒体中に形成された金属ナノ粒子。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、光化学反応を用いて、媒体中に二種以上の金属からなる金属ナノ粒子を作成する方法に関する。
【背景技術】
【0002】
ナノサイズの金属粒子である金属ナノ粒子は様々な応用の可能性が指摘されており、実用化に向けての研究が盛んに進んでいる。それを受けて、気相から溶液、ミセル、またはゾル、ゲルなどのソフトマテリアル、ガラスなどの固体に至るまで、様々な条件下で金属ナノ粒子を作成する方法が開発されている。
【0003】
ゲル、ゾル、フィルムなどのポリマーマトリクス中に作成された金属ナノ粒子は金属ナノ粒子−ポリマー複合材料としての機能を持つため、非線形光学材料、フォトイメージング、フォトパターニング、磁気材料やセンサーとしての応用が期待されている(例えば、非特許文献1〜3等)。
【0004】
金属ナノ粒子のなかでも二種類以上の金属からなるものは、用途に応じ調整可能な光学的、電気化学的な性質を持つため、さらに広い用途に応用することが可能であると考えられる。
【0005】
媒体中に一種類の金属からなる金属ナノ粒子を作成する方法は盛んに研究されているが、二種類以上の金属からなる金属ナノ粒子の作成方法は、充分な研究がなされているとは言いがたい。
【0006】
二種以上の金属からなるナノ粒子(マルチメタルナノ粒子)の作成方法として現在研究されているのは、化学的還元法であり、これは複数の金属イオンを含む溶液を化学的方法によって還元する方法である。または、あらかじめ作成した核の周囲に他の金属を化学的手法によって析出させるという方法もある。
【0007】
しかし、これらはいずれも化学的還元法であり、光の空間分解能を生かした光化学的還元法を用いて、媒体中に二種以上の金属からなる金属ナノ粒子を作成する報告例はない。また、これらの手法によって、固体媒体(樹脂等)中にマルチメタルナノ粒子を作成するのは困難である。
【非特許文献1】Stellacci, C. A. Bauer, T. Meyer-Friedrichen, W. Wenseleers, V. Alain, S. M. Kuebler, S. J. Pond, Y. Zhang, S. R. Marder, J. W. Perry, Adv. Mater. 2002, 14, 194.
【非特許文献2】G. B. Smith, C. A. Deller, P. D. Swift, A. Gentle, P. D. Garrett, W. K. J. Fisher, Nanopart. Res. 2002, 4, 157.
【非特許文献3】F. P. Zamborini, M. C. Leopold, J. F. Hicks, P. J. Kulesza, M. A. Malik, R. W. Murray, J. Am. Chem. Soc. 2002, 124, 8958.
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
本発明の目的は、光化学反応を用いて、媒体中に二種以上の金属からなる金属ナノ粒子を効率的に形成する方法を提供することにある。具体的には、媒体中に二種以上の金属からなる、合金、コアシェル等の多様な構造を有する金属ナノ粒子を効率的に形成する方法を提供することにある。
【0009】
本発明の目的は、さらに、該形成方法により得られる金属ナノ粒子を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明者は、上記の課題を解決するため鋭意研究を行った結果、次のような知見を得た。
【0011】
ラジカルは一般的にその親分子(ラジカル前駆体)よりもはるかに高い還元力を持つことが知られている。例えば、芳香族ラジカルの一つであるベンゾフェノンケチルラジカルの半波電位は、-0.25 V vs. SCE と報告されていて、非常に高い還元力を有している。
【0012】
ラジカル前駆体を光化学的手法(ランプやレーザー照射等)で処理して得られるラジカルは、高い還元力を持つ活性中間体となり還元剤として機能する。この還元剤を用いて、共存する二種類以上の金属錯体又は金属イオンを同時に又は連続的に還元し、二種類以上の金属からなる金属ナノ粒子を製造することができることを見出した。
【0013】
具体的には、例えば、媒体中にてラジカルにより金属錯体又は金属イオンを同時に還元することにより、二種類以上の金属からなる金属ナノ粒子を作成できること、或いは、媒体中にてラジカルにより金属錯体又は金属イオンを還元して該金属ナノ粒子の核(コア)を形成した後、連続して、共存する金属錯体又は金属イオンを該核表面で還元させて殻(シェル)を堆積させることにより、コアシェル型(或いは多層構造型)の二種類以上の金属からなる金属ナノ粒子を形成できることを見出した。
【0014】
特に、後者のコアシェル型の金属ナノ粒子は、核(コア)を形成する金属とそれを取り巻く殻(シェル)を形成する金属からなり、核表面で金属イオンが還元される場合、金属イオンの還元電位が上昇することを利用して形成される。
【0015】
かかる知見に基づき、さらに研究を重ねた結果、本発明を完成するに至った。
【0016】
即ち、本発明は、以下の媒体中に二種以上の金属からなる金属ナノ粒子を形成する方法、及び該形成方法により形成された金属ナノ粒子に関する。
【0017】
項1.媒体中に二種以上の金属からなる金属ナノ粒子を形成する方法であって、光励起によってラジカルを生じるラジカル前駆体及び二種以上の金属イオン又は金属錯体を含んだ媒体に、励起光を照射することを特徴とする形成方法。
【0018】
項2.前記ラジカル前駆体が、ビスアリールケトン類、アリールアルキルケトン類、ベンゾイン、ベンジル、又はキノン類である項1に記載の形成方法。
【0019】
項3.前記励起光が、レーザー光又はランプ光であり、かつ、ラジカル前駆体を励起し得る波長を有する項1に記載の形成方法。
【0020】
項4.前記二種以上の金属イオン又は金属錯体を構成する金属が、パラジウム、鉄、銅、ニッケル、金、銀及び白金からなる群より選ばれる少なくとも二種であるである項1に記載の形成方法。
【0021】
項5.前記媒体が、固体媒体又は液体媒体である項1に記載の形成方法。
【0022】
項6.形成される二種以上の金属からなる金属ナノ粒子が、二種以上の金属からなる合金であるか又はコアシェル構造体である項1に記載の形成方法。
【0023】
項7.前記項1〜6のいずれかに記載の形成方法により媒体中に形成された金属ナノ粒子。
【0024】
以下、本発明を詳細に説明する。
【0025】
本発明は、ラジカル前駆体及び二種以上の金属イオン又は金属錯体を含んだ媒体に、励起光を照射して、媒体中に二種以上の金属からなる金属ナノ粒子を形成する方法である。つまり、所定のラジカル前駆体を含む媒体に励起光を照射してラジカルを生成させ、該ラジカルにより、二種以上の金属イオン又は金属錯体を同時、もしくは連続的に還元することにより、二種類以上の金属からなる金属ナノ粒子を生成させる方法である。
【0026】
ラジカル前駆体
本発明で用いる「ラジカル前駆体」とは、光照射により直接励起される化合物であり、その励起状態が共存する媒体等から水素やハロゲン等を引き抜いたり、又は、該励起状態が結合開裂することによってラジカルを生じる性質を有する化合物を意味する。
【0027】
ラジカル前駆体としては、上記の性質を有していれば特に限定はなく、広範な化合物を用いることができる。例えば、ベンゾフェノン、4−メトキシベンゾフェノン、ナフチルフェニルケトン、4−ベンゾイルビフェニル、ビス−ビフェニル−4−イル−メタノン等のビスアリールケトン類;アセトフェノン等のアリールアルキルケトン類;ジフェニルメタン、ジナフチルメタン等のビスアリールメタン類;ジフェニルメチルクロリド、ジナフチルメチルクロリド等のビスアリールメチルハライド類;ベンゾイン;ベンゾキノン、アントラキノン等のキノン類などが挙げられる。このうち、光励起状態が高い水素やハロゲン等の引き抜き能力を持ち、生成するラジカルが金属イオン又は金属錯体に対し比較的高い還元能を持つ点から、ビスアリールケトン類、特にベンゾフェノン又はその誘導体が好適である。
【0028】
具体的には、例えば、ビスアリールケトン類、アリールアルキルケトン類等は、励起光により励起されると一旦三重項励起状態を生成し、これが共存する水素またはハロゲン供与体から水素やハロゲン等を引き抜いてラジカルを生じる。また、ビスアリールメタン類等は、励起光により生じた励起状態からのC−H結合開裂によって、またビスアリールメチルハライド類は励起光により生じた励起状態からのC−ハロゲン結合開裂によってラジカルを生じる。
【0029】
このラジカルからの電子移動により金属イオン又は金属錯体を還元する。この様に、ラジカル前駆体は、媒体中での光励起及び光化学反応によってラジカルを生成し、該ラジカルによって金属イオン又は金属錯体を還元する、いわゆるドーパントとして用いられる。
【0030】
金属イオン又は金属錯体
本発明で用いる金属イオン又は金属錯体は、電子を受容して0価の金属に還元されるものであれば特に限定はない。また、金属イオン又は金属錯体は、二種以上の金属を含むものである。
【0031】
金属イオン又は金属錯体を構成する金属としては、例えば、鉄、銅、ニッケル、金、銀、白金などが挙げられる。すなわち、金属イオンとしては、鉄イオン、銅イオン、ニッケルイオン、金イオン、銀イオン、白金イオンなどが例示され、また、金属錯体としては、HAuCl4、AgNO2、PtCl4、Cu(CH3COO)2、FeCl3、AuCl3などが例示される。金属イオン又は金属錯体は、ラジカルの還元力に応じて、上記のうちから二種以上の金属を含むように適宜選択することができる。
【0032】
具体的な組み合わせとしては、金イオン/銅イオン、金イオン/銀イオン、
金イオン/鉄イオン、プラチナイオン/鉄イオン等が例示される。より具体的には、HAuCl4/Cu(CH3COO)2、HAuCl4/FeCl3等が例示される。そのうち好ましくは、HAuCl4/Cu(CH3COO)2である。
【0033】
媒体
本発明において金属ナノ粒子が形成される媒体としては、各種固体媒体又は液体媒体を用いることができる。本発明で用いられる固体媒体又は液体媒体としては、前記ラジカル前駆体及び金属イオン等を分散乃至溶解できるものであり、かつ、ラジカルの生成が可能なものであれば特に限定はない。
【0034】
例えば、ミセル(例えば、ポリスチレン−ポリ−4−ビニルピリジン等)、樹脂(例えば、ポリビニルアルコール(PVA)、ポリビニルアセテート(PVAc)等)、ゼオライト、ガラスなどの固体媒体、水、有機溶媒(例えば、メタノール、エタノール、2−プロパノ−ル、ベンゼン、トルエン、メチルテトラヒドロフラン等)等の液体媒体の使用が可能である。いずれの固体媒体又は液体媒体を用いる場合でも、その中に均質な金属ナノ粒子を形成するためには、ラジカル前駆体、ラジカル前駆体、及び金属イオン又は金属錯体を均一に分散乃至溶解できるものが好ましい。
【0035】
なお、媒体中におけるラジカル前駆体、金属イオン又は金属錯体の濃度は、特に限定はなく広範な範囲から適宜選択することができる。例えば、媒体(例えば、PVA等)中におけるラジカル前駆体の濃度は、例えば、5〜50mol/L程度、好ましくは20〜30mol/L程度であればよい。また、媒体中における金属イオン又は金属錯体の濃度は、例えば、0.1〜10mol/L程度、好ましくは1〜5mol/L程度であればよい。媒体中の各成分の濃度が上記の範囲であれば、ラジカルから金属イオン又は金属錯体への電子移動が容易となり、金属ナノ粒子を効率的に形成することができる。
【0036】
なお、本発明の方法は、これらの濃度に限定されるわけではなく、本方法が適用できるすべての金属イオン又は金属錯体、媒体、ラジカル前駆体等の組み合わせによって、広範囲の濃度条件下で実施が可能である。
【0037】
媒体(固体媒体又は液体媒体)中にラジカル前駆体及び金属イオン又は金属錯体を溶解乃至分散させる方法として、例えば次のような方法が例示できる。
【0038】
液体媒体を用いた場合は、ラジカル前駆体及び二種以上の金属イオン又は金属錯体を該液体媒体中に入れて均一に混合し、溶解又は分散すればよい。
【0039】
固体媒体を用いた場合、特に樹脂を用いた場合は、ドーパントであるラジカル前駆体、金属イオン又は金属錯体、及び樹脂を、いずれも溶解し得る溶媒(例えば、水、蟻酸、酢酸、アルコール類、アセトニトリル、DMF、エチレングリコールもしくはこれらの混合物等)に溶解し、これを所望の形状に成形して溶媒を除去すればよい。
【0040】
成形の方法は特に限定はなく、その形状に応じて射出成形、押出成形、スピンコート等の公知の方法を採用すればよい。形状は用途に応じて選択でき、例えば、フィルム、シート等の平面状、或いは立方体、直方体、球、その他任意の三次元形状にすることも可能である。三次元形状にする場合は、その強度を向上させるため、必要に応じ樹脂に架橋剤を添加して架橋処理を施しても良い。
【0041】
また、固体媒体としてゼオライトを用いた場合は、ドーパントであるラジカル前駆体、金属イオン又は金属錯体、及び水素供与体を、いずれも溶解し得る溶媒に溶解し、ゼオライト中に取り込ませればよい。
【0042】
金属ナノ粒子の形成
次に、上記のようにして作成した、媒体中にラジカル前駆体、及び金属イオン又は金属錯体を含む複合物に、励起光を照射して媒体中に金属ナノ粒子を形成する。
【0043】
本発明の形成方法は、光反応によって生じるラジカルの高い還元応力を利用し、媒体中に二種類以上の金属からなる金属ナノ粒子を作成することができるという特徴を有している。
【0044】
金属イオン又は金属錯体を還元して金属ナノ粒子を形成するには、まず媒体中で還元剤として機能するラジカルを生成させる必要がある。光源によって媒体中にドープされたラジカル前駆体を励起して、光化学反応によってラジカルを生成させる。適切な金属イオン又は金属錯体の存在下では、生成したラジカルからの電子移動により金属イオン又は金属錯体の還元反応が起こり、金属ナノ粒子の種結晶が生じる。
【0045】
この場合、金属ナノ粒子の形成過程として次の二つが考えられる。(1)ラジカルが、共存する複数の金属イオン又は金属錯体(An+及びBn+)を同時に還元できる場合には、複数の金属からなる合金のナノ粒子又はその凝集体(A及びB)が形成される(図1(a)を参照)。(2)ラジカルが、共存する複数の金属イオン又は金属錯体のうち一つ(An+)が選択的に還元できる場合には、還元によって核が形成される。共存する金属イオン又は金属錯体(Cn+)が、ラジカルにより該核表面でさらに還元されることにより該核表面に析出(堆積)する。これにより、コアシェル型或いは二層構造型のバイメタルナノ粒子が形成される(図1(b)及び図2を参照)。なお、複数種の金属が存在する場合は多層構造型のマルチメタルナノ粒子を形成できる。
【0046】
なお、図1及び図2中、例えば、An+/Aatomは単一の金属イオン(An+)が還元されて金属原子(Aatom)になる過程を意味し、An+/Ametalは、金属表面で金属イオンが還元されて金属表面に堆積(Ameta)する過程を意味する。
【0047】
上記(2)の場合、即ち、媒体中の金属ナノ粒子表面で金属イオン又は金属錯体が還元されて金属ナノ粒子が成長する場合は、上記(1)の場合、即ち、媒体中で金属イオン又は金属錯体が還元されて金属原子が形成される場合に比べ、還元電位が大きく上昇する(還元されやすくなる)。この現象は、同一の金属イオン又は金属錯体が還元される場合に限らない。すなわち、通常では還元することの難しい金属イオン又は金属錯体であっても、金属の表面においてならば容易に還元することができるのである。
【0048】
この点については、例えば、Kaushik Mallik, Madhuri Mandal, Narayan Pradhan, and Tarasankar Pal. Nano lett. 2001, 6, 319には、水溶液中において、AuIII/Auatom(aqueous)の還元電位は-1.5 V (vs. NHE)であるが、AuIII/Aumetal(aqueous)の還元電位は+1.5 V (vs. NHE)となることが報告されていることからも、容易に理解できる。
【0049】
本発明の形成方法によれば、その過程によって様々な形状、比率をもつ二種以上の金属からなる金属ナノ粒子を作成することができる。
【0050】
光源からの励起光の波長は、ラジカル前駆体の構造・性質、還元しようとする金属イオン又は金属錯体の種類等に応じて当業者が適宜選択して設定できる。例えば、励起光の波長は、通常180 nm〜800 nm程度、特に180〜532 nm程度の範囲であればよい。具体例として、ラジカル前駆体としてベンゾフェノンを用いた場合、ベンゾフェノンを三重項励起状態に励起する励起光の波長は、通常180〜360nm程度であれば良い。
【0051】
励起光の光源としては、Nd:YAGレーザー、エキシマーレーザー等のレーザー光、水銀灯、Xe-ランプなどのランプ光などが用いられる。レーザー光にはパルス光と連続発振光(continuous-wave light)があるが、いずれも用いることができる。また、ランプ光は通常連続発振光のみであるが、機械的手段によってパルス化にして用いることも可能である。レーザー照射では、ランプによる光照射に比較してより高効率で金属ナノ粒子を作成できるだけでなく、レーザーの持つ空間分解能を得ることができるため好ましい。
【0052】
この様にして、媒体中にその平均粒子径が、1〜100nm程度、特に4〜10nm程度の二種類以上の金属からなる金属ナノ粒子が形成される。金属ナノ粒子の生成の確認及びサイズの測定は、走査型電子顕微鏡(TEM)を用いて行うことができる。
【0053】
本発明では光励起されるのはラジカル前駆体であり、媒体の損傷を回避するためには、媒体の吸収光波長がラジカル前駆体の吸収光波長を外れていることが必要である。例えば、ラジカル前駆体(例えば、ベンゾフェノン等)を355nmレーザーで励起する場合、355 nmに吸収を持たない媒体が選択される。355nmに吸収を持たない媒体は比較的多いことから、広範な媒体を選択することができる。このようなラジカルの前駆体をドーパントとして用いる。
【0054】
媒体としては、前記したものが例示されるが、ラジカルの前駆体を取り込むことができ、その中で励起したラジカルの前駆体が反応することができる、ありとあらゆるポリマーマトリクス、多孔質材料、固体、溶液、ソフトマテリアルなどの使用が可能である。
【0055】
例えば、固体媒体の形状がフィルム、シート等の平面状の場合、ラジカル前駆体及び金属イオン又は金属錯体を含んだ固体媒体に、励起光を照射することにより、金属ナノ粒子を形成することができる。
【0056】
さらに、ラジカル前駆体及び金属イオン又は金属錯体を含んだ固体媒体に、所定のパターンを有するマスク(フォトマスク)をかぶせて励起光を照射すれば、該固体媒体上の光が照射された部分だけに該固体媒体に金属ナノ粒子からなる回路パターンを形成することもできる。つまり、この方法では、細幅は、励起光の照射幅に依存し任意に制御することができるのであり、光の回折限界(波長の約半分)程度の幅の極微細線でも自由に配線することができる。金属ナノ粒子の線幅は光の回折限界、例えば、266 nmの光源を用いた場合は133nm程度の線幅まで任意に制御できる。なお、励起光の照射幅は、レンズ等を用いて絞ることにより任意に選択できる。線幅は、走査型電子顕微鏡(TEM)、光学顕微鏡等を用いて確認できる。金属ナノ粒子が形成された部位は電気伝導性を有しているため、広範な用途に利用が可能である。
【0057】
さらに、本発明の二種類以上の金属からなる金属ナノ粒子の形成方法によれば、媒体(特に固体媒体)中において二種以上の金属からなる金属ナノ粒子(特に二種の金属からなるバイメタルナノ粒子)の細線を形成した場合、その細線が経時的に安定なものとなる点に特徴がある(例えば、試験例1、図3を参照)。即ち、励起光照射により形成される二種以上の金属からなる金属ナノ粒子の細線は、媒体中での拡散が抑制され、形成された直後の細線の線幅が長期間維持されるのである。
【0058】
これについては、理由は明らかではないが、二種類以上の金属を還元することにより作成された二種類以上の金属からなる金属ナノ粒子(特にバイメタルナノ粒子)では、その周囲に、共存する金属イオンから形成される二次生成物からなる層が形成されることにより拡散が妨げられるためであると考えられる。例えば、図3の左の光学顕微鏡写真において、文字「6」の線の輪郭の外部にさらに別の層が形成されている。
【0059】
これに対し、同様にして形成される一種の金属からなる金属ナノ粒子の細線は、上記の層が形成されず、時間の経過と共に媒体中で金属ナノ粒子が拡散し易くなるために、にじみや線太りが生じてしまう。
【0060】
従って、本発明の方法を用いれば、経時的に安定な細線を形成することができるため、例えば、この方法をレーザープリンターへと応用することでレーザープリンターを用いて、極微細線でできた金属ナノ粒子の回路を基盤にプリントすることも可能である。これは、非常に薄いコンピュータや、電子ペーパーの作成に応用できる。
【0061】
本発明の方法において、二種類以上の金属からなる金属ナノ粒子が形成されているか否かは、次のようにして確認することができる。二種類以上の金属からなる金属ナノ粒子が形成されることによって特徴的な表面プラズモン吸収が確認される。表面プラズモン吸収は、二種類以上の金属からなる金属ナノ粒子特有のものか、もしくは殻を構成する金属のものであると考えられる。これにより、ナノ粒子が生成したことを確認することができる。
【0062】
また、粉末X線回折によって、金属ナノ粒子が生じているか、生じた金属ナノ粒子が結晶もしくは非晶質からなるものであるかどうかを調べることができる。
【発明の効果】
【0063】
本発明は、ラジカル前駆体及び二種類以上の金属イオン又は金属錯体を含んだ媒体に、励起光を照射して、媒体中に二種類以上の金属からなるナノ粒子を形成する方法である。つまり、所定のラジカル前駆体を含む媒体中で、励起光を用いてラジカル生成させて、金属イオン又は金属錯体を同時、もしくは段階的に還元することにより、二種類以上の金属からなる金属ナノ粒子を生成させることができる。本発明の方法によって様々な形状、金属の比率を持つナノ粒子を作成することができる。
【0064】
本発明の方法では、二種類以上の金属からなる金属ナノ粒子からなる細線を容易に形成することができる。光の回折限界(波長の約半分)程度の幅のナノ粒子でできた細線を、自由に配線することができる。例えば、レーザープリンターを用いて極微細線でできた回路を基盤にプリントすることが可能である。
【発明を実施するための最良の形態】
【0065】
以下に、実施例に基づいて本発明をより詳細に説明するが、本発明はこれらの実施例により限定されるものではない。
【0066】
実施例1
以下のようにして、ポリビニルアルコール(PVA)媒体中に、金/銅バイメタルナノ粒子を高効率に作成した
水素引き抜き能力があり、水素引き抜きの結果生じるラジカルが強い還元力を持つベンゾフェノンをドーパントとして用いた。ベンゾフェノン、HAuCl4及びCu(OOCCH3)2を含むPVAフィルムを製膜した。製膜のための溶媒としては、ベンゾフェノン、HAuCl4及びPVAをよく溶解する蟻酸を用いた。ベンゾフェノン(5〜15mM)、HAuCl4(1mM)、Cu(OOCCH3)2 (1~5mM)及びPVA(5wt%)を含む蟻酸溶液をキャスティング法によって石英プレート上に製膜した。生成したPVAフィルムはCu2+とPVAの錯体の吸収に由来する薄い青色を示した。
【0067】
このPVAフィルムに355nmレーザーを照射して、ベンゾフェノンを励起したところ、ベンゾフェノンの三重項励起状態はPVAから水素を引き抜き、ベンゾフェノンケチルラジカルを生成させた。ラジカルからHAuCl4への電子移動によって金ナノ粒子が生成し、この金ナノ粒子の表面で銅イオンが還元されることによって金/銅バイメタルナノ粒子が形成された(図2を参照)。
【0068】
形成された金/銅バイメタルナノ粒子のUV-Vis吸収スペクトルを測定し、特有の表面プラズモン吸収を観測した。また、走査型電子顕微鏡(TEM)によって、直接的に金/銅バイメタルナノ粒子の生成を確認した。TEM観察により、生成したナノ粒子の平均サイズ(平均粒径)は2nm程度であった。
【0069】
比較例1
実施例1においてPVAフィルムにHAuCl4をドープしないこと以外は、実施例1と同様にして金ナノ粒子を作成した。
【0070】
しかしながら、このPVAフィルムおいては、ケチルラジカルの生成は確認されたが、銅ナノ粒子の形成は確認されなかった。
【0071】
これにより、実施例1では、まずラジカルに還元されやすい金イオンから金ナノ粒子の核が生じ、その表面に存在することによって還元電位が上昇した銅イオンが還元されることによって、金/銅バイメタルナノ粒子が生成することが分かった。
【0072】
実施例2
実施例1においてレーザーに代えてXe-ランプ、水銀灯などのCW-光源を励起光として用いること以外は、実施例1と同様にしてPVA媒体中に金/銅バイメタルナノ粒子を作成した。
【0073】
その結果、CW-光源を用いた場合も同様に、金/銅バイメタルナノ粒子が生成していることを確認した。
【0074】
実施例3
以下のようにして、媒体中に金/銅バイメタルナノ粒子からなる二次元の回路を作成した。
【0075】
実施例1に記載の方法を用いてHAuCl4、Cu(OOCCH3)2及びラジカル前駆体のドープされた各種のフィルムを作成した。光照射法は、波長355 nmのレーザー(又はCW光)を局所的に照射した。或いは、フォトマスクをフィルム上にかぶせ波長355 nmのレーザー(又はCW光)を全体的に照射した。
【0076】
355 nmの光の照射によってラジカル前駆体が励起され、該ラジカルによるHAuCl4の還元がおこり、さらにはその核表面での段階的還元によって、フィルム中に金/銅バイメタルナノ粒子の細線が作成された。
【0077】
また、透過型電子顕微鏡(TEM)によって、直接的に金/銅バイメタルナノ粒子の生成を確認した。TEMもしくは光学顕微鏡観察により、金/銅バイメタルナノ粒子細線の幅を求めることができた。なお、フォトマスクを用いた場合の細線の幅は、フォトマスクに設けられた細線の幅が反映された。
【0078】
比較例2
実施例1に記載の方法を用いてHAuCl4及びラジカル前駆体のドープされた各種のフィルムを作成した。光照射法は、波長355 nmのレーザー(又はCW光)を局所的に照射した。或いは、フォトマスクをフィルム上にかぶせ波長355 nmのレーザー(又はCW光)を全体的に照射した。
【0079】
355 nmの光の照射によってラジカル前駆体が励起され、該ラジカルによるHAuCl4の還元がおこって、フィルム中に金ナノ粒子の細線が作成された。
【0080】
試験例1
上記実施例3及び比較例2における細線が形成されたフィルムを、25℃、大気中で1週間放置した。その後、両者の細線を、光学顕微鏡を用いて観察したところ、図3に示すように、実施例3の細線では金属ナノ粒子の拡散はほとんど起きず、細線形成直後の線幅が保持されていた。一方、比較例2の細線では金属ナノ粒子の拡散が生じ、細線形成直後の線幅よりも大きくなっていた。
【0081】
従って、本発明の方法では、光の回折限界(波長の約半分)程度の幅のナノ粒子でできた細線を自由に配線することができ、しかもその細線は経時的に安定なものとなる。例えば、レーザープリンターを用いて、基盤に極微細線でできた回路をプリントすることが可能である。
【図面の簡単な説明】
【0082】
【図1】本発明による還元の機構を模式的に示した図である。
【図2】本発明による還元の機構の具体例を模式的に示した図である。
【図3】実施例3の細線と比較例2の細線の1週間放置した後の光学顕微鏡写真である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
媒体中に二種以上の金属からなる金属ナノ粒子を形成する方法であって、光励起によってラジカルを生じるラジカル前駆体及び二種以上の金属イオン又は金属錯体を含んだ媒体に、励起光を照射することを特徴とする形成方法。
【請求項2】
前記ラジカル前駆体が、ビスアリールケトン類、アリールアルキルケトン類、ベンゾイン、ベンジル、又はキノン類である請求項1に記載の形成方法。
【請求項3】
前記励起光が、レーザー光又はランプ光であり、かつ、ラジカル前駆体を励起し得る波長を有する請求項1に記載の形成方法。
【請求項4】
前記二種以上の金属イオン又は金属錯体を構成する金属が、パラジウム、鉄、銅、ニッケル、金、銀及び白金からなる群より選ばれる少なくとも二種であるである請求項1に記載の形成方法。
【請求項5】
前記媒体が、固体媒体又は液体媒体である請求項1に記載の形成方法。
【請求項6】
形成される二種以上の金属からなる金属ナノ粒子が、二種以上の金属からなる合金であるか又はコアシェル構造体である請求項1に記載の形成方法。
【請求項7】
前記請求項1〜6のいずれかに記載の形成方法により媒体中に形成された金属ナノ粒子。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate


【公開番号】特開2007−169763(P2007−169763A)
【公開日】平成19年7月5日(2007.7.5)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−372786(P2005−372786)
【出願日】平成17年12月26日(2005.12.26)
【出願人】(504176911)国立大学法人大阪大学 (1,536)
【Fターム(参考)】