説明

二種類以上のタグと親和性物質を利用した精製方法

【課題】 簡易な操作で、温和な条件における高純度の精製が可能な精製手段を提供する。
【解決手段】 精製対象物に含まれるタグに対する親和性物質を固定化した担体を用いて精製対象物を精製する方法であって、以下の(1)〜(3)の工程を含むことを特徴とする精製方法、
(1)二種類以上のタグを含む精製対象物を、各タグに対する親和性物質が固定されている担体と接触させ、タグを親和性物質と結合させる工程、
(2)タグと親和性物質の結合の一部を解離させる溶液で担体を洗浄し、担体に吸着された夾雑物を除去する工程、
(3)すべてのタグと親和性物質の結合を同時に解離させる溶液で担体を洗浄し、担体に吸着された精製対象物を溶出させる工程。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、二種類以上のタグを含む精製対象物を、それぞれのタグに対する同数の親和性物質を利用して、精製する方法に関する。この方法により、温和な環境における簡易な操作で高純度の精製が可能になる。
【背景技術】
【0002】
組換えタンパク質の精製を容易にするために、目的タンパク質に夕グを付加したタグ付きタンパク質を発現させることがしばしば行われる(S W. Boguslaw et al., J. Protein Express Purific, 7, 183-193 (1996))。タグ付きタンパク質の精製には、タグと特異的に結合する物質(リガンド)を多孔性ビーズや多孔性膜などの担体に固定したアフィニティ・クロマトグラフィが、一般的に用いられる。アフィニティ・クロマトグラフィは、本来の生体親和性に準拠するため他種類のクロマトグラフィに比べ選択性に優れ、簡単な操作で高純度と高回収率が期待できるため、夾雑タンパク質を多く含む細胞破砕液からの組換えタンパク質の精製に有用である(大島泰郎ら,ポストシークエンスタンパク質実験法,(東京化学同人,東京,2002)pp.116-123)。しかしながら、哺乳類細胞系では大腸菌や昆虫細胞の系よりも組換えタンパク質の発現効率が低いため、アフィニティ・クロマトグラフィを用いた一ステップの精製だけでは得られるタンパク質の純度は低い(C. Brian et al., J. Protein Express. Puriflc, 40, 77-85 (2005)、S. W. Boguslaw et al., J. Protein Express Purific, 7, 183-193 (1996))。また、親和性が非常に高い結合を解離させる溶出過程では、pHや変性剤の使用など非常に厳しい溶液条件を必要とするため、精製対象自体の性質を損ねる場合も多い。
【0003】
精製純度を高めるために、二種類のタグを目的タンパク質に付加して、それぞれのタグに対するリガンドを有する二種類のアフィニティ・カラムを連続して用い、二ステップで精製を行う方法が知られている(非特許文献1、非特許文献2、非特許文献3)。これらの方法では、非特異的な結合による夾雑物を除去できるため精製純度は高くなる。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0004】
【非特許文献1】D. P. KellyAnn and L. Barbara, J. Protein Express Purtfic., 10, 309-319 (1997)
【非特許文献2】Y. Alexei. et al., J. Protein Express Purific., 53, 153-163 (2007)
【非特許文献3】M. Fiedler et al., J. Protein Eng., 15, 931-941 (2002)
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
上述の二ステップ精製法では、精製純度を高めることができるが、二種類の別のカラムを用いるため、カラム数の増加により操作が煩雑で、収率も下がる傾向にある。
【0006】
本発明は、このような技術的背景のもと、温和な溶液条件、簡易な操作で高純度の精製が可能な精製手段を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明者は、上記課題を解決するため鋭意検討を重ねた結果、二種類のタグを付加したタンパク質を、タグに対する一種類の親和性物質が固定された二つのアフィニティ・カラムを用いて精製するのではなく、二種類の親和性物質が固定された一つのアフィニティ・カラムを用いて精製することにより、以下のような利点があることを見出した。
【0008】
1)精製対象物が担体と二種類の結合部位で接するため、片方のタグと親和性物質との組み合わせの間の結合が弱くても系全体の親和性は極めて高くなり、結果的に高純度に精製できる。また、タグと親和性物質との間の結合が弱ければ、その分、温和な溶液条件で溶出が可能である。
2)一つのカラムで精製できるため、他のカラムに移し変える必要がなく、収率が高い。
【0009】
本発明は、以上の知見に基づき完成されたものである。
【0010】
即ち、本発明は、以下の〔1〕〜〔6〕を提供するものである。
〔1〕精製対象物に含まれるタグに対する親和性物質を固定化した担体を用いて精製対象物を精製する方法であって、以下の(1)〜(3)の工程を含むことを特徴とする精製方法、
(1)二種類以上のタグを含む精製対象物を、各タグに対する親和性物質が固定されている担体と接触させ、タグを親和性物質と結合させる工程、
(2)タグと親和性物質の結合の一部を解離させる溶液で担体を洗浄し、担体に吸着された夾雑物を除去する工程、
(3)すべてのタグと親和性物質の結合を同時に解離させる溶液で担体を洗浄し、担体に吸着された精製対象物を溶出させる工程。
〔2〕精製対象物が、生体高分子であることを特徴とする〔1〕に記載の精製方法。
〔3〕生体高分子が、タンパク質又は核酸であることを特徴とする〔2〕に記載の精製方法。
〔4〕担体が、表面にグラフト鎖を有する多孔性材料であることを特徴とする〔1〕乃至〔3〕のいずれかに記載の精製方法。
〔5〕多孔性材料が、多孔性ビーズ、多孔性平膜、多孔性中空糸膜、多孔性シート、又は多孔性ディスクであることを特徴とする〔4〕に記載の精製方法。
〔6〕タグと親和性物質の組み合わせが、ストレプトアビジン結合ペプチドとストレプトアビジン、ヒスチジンタグとニッケル、FK506結合タンパク質とFK506、抗原又はそのエピトープと抗体又は断片化抗体、セルロースとセルロース結合配列からなる群から選ばれる少なくとも二種以上であることを特徴とする〔1〕乃至〔5〕のいずれかに記載の精製方法。
【発明の効果】
【0011】
本発明の精製方法は、温和な溶液条件における簡易な操作で精製対象物を高純度に精製でき、細胞破砕液からの組換えタンパク質の精製などに有用である。
【図面の簡単な説明】
【0012】
【図1】本発明の精製方法を模式的に表した図。
【図2】ストレプトアビジン及びニッケルを固定した膜の作製経路を示す図。
【図3】ストレプトアビジン結合ペプチド及びヒスチジンタグを付加した緑色蛍光タンパク質(SBP/His-tag GFP)を含む溶出液の電気泳動像。レーン7が、SBP/His-tag GFPを含む溶出液の電気泳動像である。レーン1とレーン8は分子量マーカー、レーン2は大腸菌破砕液、レーン3は吸着における流出液、レーン4とレーン5はイミダゾールの洗浄液、レーン6はデスチオビオチンの洗浄液の電気泳動像である。
【符号の説明】
【0013】
1 精製対象物
2a タグ
2b タグ
3 担体
4a 親和性物質
4b 親和性物質
5a 夾雑物
5b 夾雑物
【発明を実施するための形態】
【0014】
以下、本発明を詳細に説明する。
【0015】
最初に、図1を用いて、本発明の精製方法の原理を従来の精製方法と比較しながら説明する。なお、図1に示される精製方法は、本発明の精製方法の一態様にすぎず、本発明の範囲はこれに限定されるものではない。
【0016】
従来の精製方法では、精製対象物1に一種類のタグ2aのみが付加されており(図1(a))、また、担体3には、一種類の親和性物質4aのみが固定されている(図1(b))。試料液(図1(a))には、精製対象物1のほかに、タグ2aと類似の構造を持つ夾雑物5aとタグ2aと類似の構造を持たない夾雑物5bが含まれている。この試料液を担体3に接触させると、精製対象物1だけでなく、夾雑物5aも担体に吸着されてしまう(図1(c))。従来の精製方法では、この後、タグ2aと親和性物質4aの結合を解離させる溶液で担体を洗浄するが、この洗浄により、精製対象物1と夾雑物5aの両者が溶出されてくる(図1(d))。このため、精製純度は低くなってしまう。
【0017】
これに対し、本発明の精製方法では、精製対象物1にはタグ2aとタグ2bの二種類のタグが付加されており(図1(e))、また、担体3には、親和性物質4aと親和性物質4bの二種類の親和性物質が固定されている(図1(f))。この担体3に上記と同様の試料液(図1(e))を接触させると、従来の精製方法と同様に、精製対象物1だけでなく、夾雑物5aも担体に吸着されてしまう。しかし、本発明の精製方法では、この後、タグ2aと親和性物質4aの結合を解離させる溶液で洗浄するため、この洗浄により、夾雑物5aは担体3から除去される。一方、精製対象物1は、前者に併せてタグ2bと親和性物質4bの結合によっても担体3と結合しているので、この洗浄を行っても担体から除去されることはない。このため、担体3には、精製対象物1のみが残る(図1(g))。この後、タグ2aと親和性物質4aの結合及びタグ2bと親和性物質4bの結合の両者を同時に解離させる溶液で洗浄し、精製対象物1を溶出させる。従来の精製方法と異なり、溶出液中には夾雑物5aは含まれないので(図1(h))、精製純度は高くなる。
【0018】
次に、本発明の精製方法の内容について詳しく説明する。
【0019】
本発明の精製方法は、精製対象物に含まれるタグに対する親和性物質を固定化した担体を用いて精製対象物を精製する方法であって、以下の(1)〜(3)の工程を含むことを特徴とするものである。
【0020】
工程(1)では、二種類以上のタグを含む精製対象物を、各タグに対する親和性物質が固定されている担体と接触させ、タグを親和性物質と結合させる。
【0021】
精製対象物は、一般的なアフィニティ精製方法において精製可能な物質、例えば、生体高分子などでよい。具体的には、タンパク質、核酸、脂質、糖、ビタミンや補酵素などの低分子化合物などを挙げることができ、これらの中でもタンパク質や核酸が好ましく、タンパク質が特に好ましい。また、本発明の精製方法では、単純な単一タンパク質などの物質だけでなく、超分子複合体、生体膜ベシクルや細胞内小器官のような天然の、あるいは人工的な巨大分子構築も精製対象物とすることができる。
【0022】
タグとしては、一般的なアフィニティ精製方法において使用可能なタグを使用することができる。このようなタグとしては、ヒスチジンタグ、ストレプトアビジン結合ペプチド、FK506結合タンパク質(FKBP)、抗体およびFab、Fvなどの各種断片化抗体、さらにはセルラーゼのセルロース結合配列などを挙げることができ、これらの中では、ヒスチジンタグ、ストレプトアビジン結合ペプチドを例として挙げることができる。
【0023】
タグは、精製対象物に元から存在するものであってもよく、また、人工的に精製対象物に付加されたものであってもよい。
【0024】
精製対象物へのタグの付加は、精製対象物とタグに含まれる官能基を利用するなど、一般的なアフィニティ精製方法に従って行うことができる。また、精製対象物及びタグの両者がタンパク質(又はペプチド)である場合は、精製対象物及びタグの両者をコードする融合遺伝子を作製し、それを発現させることにより、タグを付加した精製対象物を作製してもよい。精製対象物に含まれるタグは二種類以上であればよいが、種類が多くなるに従って精製純度が高くなる一方、担体を作製する操作が煩雑になる。このため、特に純度を高めたい場合や夾雑物が多い場合などを除き、タグは二種類とすることが好ましい。
【0025】
精製対象物に含まれる二種類以上のタグの中の一部しか親和性物質と結合しなかった場合、その精製対象物は夾雑物と共に担体から除去されてしまう可能性がある。このため、精製対象物に含まれるタグは、担体に固定された親和性物質と結合し易い位置に配置されることが好ましい。親和性物質を多孔性膜などの担体に固定した場合、通常、各親和性物質は同一の方向に配置される。従って、精製対象物に含まれる各タグもこれらの親和性物質と結合し易い方向に配置されるのが好ましい。また、担体に固定する各親和性物質の数などから、各親和性物質間の距離もある程度予測可能な場合もある。各タグ間の距離が、各親和性物質間の距離と近似する方がタグと親和性物質は結合し易いと考えられるので、各タグはそのような距離をとるように配置されることが好ましい。但し、タグの位置が不適当であっても、最終的に得られる精製対象物の量が減少するだけであり、本発明の特徴である精製純度に影響を与えるわけではない。また、得られる精製対象物の量の減少は、供給する精製対象物を含む試料の量を増加させれば容易に解決できる。従って、精製対象物中のタグの位置は本発明においては重要な要素ではなく、多くの場合、担体上に配置されたグラフト鎖などの柔軟性により対処可能である。
【0026】
担体には、各タグに対応する親和性物質を固定する。従って、親和性物質の種類は、通常、タグの種類と同数になる。
【0027】
親和性物質としては、一般的なアフィニティ精製方法において使用可能な親和性物質を使用することができる。このような物質としては、例えば、タグがヒスチジンタグであればニッケル、タグがストレプトアビジン結合ペプチドであればストレプトアビジンやアビジン、タグがFK506結合タンパク質であればFK506などの既知のさまざまなリガンド、タグがセルロース結合配列であればセルロースなどを挙げることができる。また、抗原(又はそのエピトープ)と抗体(又は各種断片化抗体)の一方をタグに他方を親和性物質とすることもできる。
【0028】
担体としては、一般的なアフィニティ精製方法において使用可能な担体を使用することができる。このような担体としては多孔性材料、例えば、多孔性ビーズ、多孔性平膜、多孔性中空糸膜、多孔性シート、多孔性重層ディスクなどを挙げることができ、これらの中では、多孔性中空糸膜を好ましい担体として挙げることができる。多孔性材料の表面には、グラフト鎖などの柔軟なポリマー鎖が付加されていることが好ましい。
【0029】
親和性物質の担体への固定は、親和性物質と担体に含まれる官能基を利用するなど、一般的なアフィニティ精製方法に従って行うことができる。担体へ固定される親和性物質の数は特に限定されない。各親和性物質の比は、特に限定されず、各親和性物質が同数になるようにしてもよいし、タグとの結合力が弱い親和性物質の量を多く、タグとの結合力が強い親和性物質の量を少なくなるようにしてもよい。なお、固定される親和性物質の数や各親和性物質の比が不適当であっても、タグの位置と同様、最終的に得られる精製対象物の量が減少するだけである。従って、これらの要素も本発明においては重要なものではない。
【0030】
親和性物質を固定した担体の具体例としては、実施例に記載されているストレプトアビジンとニッケルを固定したポリエチレン製多孔性中空糸膜を挙げることができる。この担体は、以下のように作製することができる。(A)ポリエチレン製多孔性中空糸膜をグリシジルメタクリレートで処理し、前記中空糸膜にエポキシ基を導入する、(B)前記処理をした中空糸膜をイミノ二酢酸二ナトリウムで処理し、エポキシ基の一部をイミノ二酢酸基にする、(C)前記処理をした中空糸膜を硫酸中で処理し、残りのエポキシ基をジオール基にする、(D)前記処理をした中空糸膜をストレプトアビジンで処理し、イミノ二酢酸基の一部にストレプトアビジンを固定する、(E)前記処理をした中空糸膜を硫酸ニッケル溶液で処理し、イミノ二酢酸基にニッケルを固定する。
【0031】
精製対象物と担体との接触は、一般的なアフィニティ精製方法に従って行うことができるが、本発明の精製方法では、精製対象物を、タグと親和性物質との二つ以上の結合を介して担体に吸着させるので、すべてのタグと親和性物質とが結合できるような態様で精製対象物と担体を接触させるのが好ましい。具体的には、精製対象物を含む試料液が、親和性物質が固定されているビーズあるいは重層シートを充填したカラムを通過するようにしたり、精製対象物を含む試料液を、親和性物質が固定された多孔性膜を透過させることにより行うことができる。
【0032】
工程(2)では、タグと親和性物質の結合の一部を解離させる溶液で担体を洗浄し、担体に吸着された夾雑物を除去する。
【0033】
タグと親和性物質の結合を解離させる溶液としては、一般的なアフィニティ精製方法において使用可能な溶液を使用することができる。一般的なアフィニティ精製方法においては、親和性物質に対してタグと競合的に結合する物質、例えば、タグとなる物質そのもの、あるいはタグとなる物質と構造的に類似した物質などを含む溶液が用いられる。本発明においても、このような溶液を用いることができる。具体的には、タグがヒスチジンタグであればイミダゾールなど、タグがストレプトアビジン結合ペプチドであればビオチンやデスチオビオチンなど、タグがFK506結合タンパク質であればFK506などの各種リガンドなど、タグが断片化抗体であれば当該エピトープなど、タグがセルロース結合配列であれば
セロビオースなどを含む溶液を使用できる。
【0034】
この工程では、担体を洗浄し、担体に吸着された夾雑物を除去する。このとき、タグと親和性物質のすべての結合を解離させる溶液で洗浄すると、夾雑物だけでなく、精製対象物も担体から除去されてしまうので、そのような溶液はこの工程では使用しない。夾雑物は、通常、一種類の親和性物質にのみ結合していると考えられる。従って、一種類のタグと親和性物質の結合のみを解離させる溶液を使用し、各結合ごとに洗浄を行うことにより、温和な条件で効率的に夾雑物のみを除去できる。
【0035】
工程(3)では、タグと親和性物質の結合を同時に解離させる溶液で、担体を洗浄し、担体に吸着された精製対象物を溶出させる。
【0036】
この工程では、工程(3)と異なり、精製対象物を担体から溶出させるので、すべてのタグと親和性物質の結合を解離させる物質をすべて含む溶液を使用して洗浄を行う。
【実施例】
【0037】
以下、実施例により本発明を更に詳細に説明する。
【0038】
〔実施例1〕 ストレプトアビジン及びニッケルを固定した膜の作製
ストレプトアビジン及びニッケルを固定した膜(以下、「SA-Ni膜」という)の作製経路を図2に示す。まず、基材となるポリエチレン製多孔性中空糸膜(以下、「PE膜」という)に200 kGyの電子線を照射し、ラジカルを発生させた。つぎに、ラジカルが発生したPE膜を5 (v/v) %グリシジルメタクリレート (GMA) /メタノール溶液に40℃で浸漬した(このGMA処理によって得られた膜を以下「GMA膜」という)。反応に伴う重量増加率を式 (1) によりグラフト率として定義し、今回は130%に設定した。これを0.43 Mイミノ二酢酸二ナトリウム (IDA) 溶液 (H2O:dioxane = 6:4) に80℃で浸漬し、エポキシ基をIDA基に転化した(このIDA処理によって得られた膜を以下「IDA膜」という)。エポキシ基からIDA基へのモル転化率を式 (2) により定義し、今回は 5%に設定した。IDA膜の残存エポキシ基に水を付加し、残存エポキシ基をジオール(diol)基に転化した。得られた膜を「IDA-diol膜」と称す。
【数1】

0.25 g/Lストレプトアミジン(SA)溶液 (100 mM 4‐モルホリンエタンスルフォン酸(MES)緩衝液、pH 4.7) 4.0 mLをIDA-diol膜に30 mL/hで透過し、SAをIDA基に吸着させた。SAが吸着したIDA-diol膜に10 mM EDC溶液 (100 mM MES緩衝液、pH 4.7) を10 mL/hで2 h透過させ、SAをアミド結合によりIDA基に固定した。その後、IDA-diol膜を20 mMリン酸緩衝液(pH 7.4)および1.0 M NaCl溶液 (20 mMリン酸緩衝液、 pH 7.4) で洗浄した。得られた膜を「IDA-SA 膜」と呼ぶ。SAの吸着量、洗浄量、および固定量を式 (3) 、(4) 、および (5) により定義し、算出した。
【数2】

ここで、C0およびCは、それぞれ供給液および流出液のSAの濃度である。また、V、VA、VW、およびWは、それぞれ流出液量 (mL) 、供給液全量 (=4.0 mL) 、洗浄に要した液量 (mL) 、およびGMA膜の体積 (mL) である。
【0039】
IDA-SA膜に5 mM NiSO4溶液 (100 mM MES 緩衝液、pH 4.7) を供給液として、膜からの流出液の濃度が供給液の濃度と一致するまで透過した。最後に、IDA-SA膜を100 mM MES緩衝液(pH 4.7)で洗浄した。得られた膜をSA-Ni膜と呼ぶ。Niの吸着量、洗浄量、および固定量を式 (6) 、(7) 、および (8) により定義し、算出した。
【数3】

ここで、C0およびCは、それぞれ供給液および流出液のNiの濃度である。また、V、VE、VW、およびWは、それぞれ流出液量 (mL) 、供給液量 (mL) 、洗浄に要した液量 (mL) 、およびGMA膜の体積 (mL) である。
【0040】
〔実施例2〕SA-Ni膜を用いたSBP及びHis-tagを付加したGFPの精製
ストレプトアビジン結合ペプチド (SBP)及びヒスチジンタグ (His-tag)を付加した緑色蛍光タンパク質(SBP/His-tag GFP) を発現させた大腸菌の破砕液を供給液として、流出液の濃度が供給液の濃度と一致するまで供給液をSA-Ni膜に30 mL/hで通過させ、その後、SA-Ni膜を20 mM 4-(2-ヒドロキシエチル)-1-ピペラジンエタンスルフォン酸(HEPES)緩衝液(0.5 M NaCl、pH 7.4) 、500 mM イミダゾール溶液 (20 mM HEPES緩衝液、0.5 M NaCl、pH 7.4) 、および2 mM デスチオビオチン溶液 (20 mM HEPES 緩衝液、0.5 M NaCl、pH 7.4) で洗浄した。最後に、500 mM イミダゾール、2mM デスチオビオチン混合溶液 (20 mM HEPES 緩衝液、0.5 M NaCl、pH 7.4) を通過させてSBP/His-tag GFPを溶出した。
【0041】
イミダゾールとデスチオビオチンの混合溶液によって溶出されたSBP/His-tag GFPの電気泳動像を図3(レーン7)に示す。図3に示すように、溶出液中には、31kDa付近のSBP/His-tag GFPを示すバンドが検出されたが、それ以外に明確なバンドは検出されなかった。このことから、SBP/His-tag GFPが高純度に精製されたことが確認できた。
【産業上の利用可能性】
【0042】
本発明により、タンパク質などの生体分子を温和な条件で高純度に精製することができるようになる。このため、本発明は、医学、生命科学の実験や創薬などの産業分野において利用可能である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
精製対象物に含まれるタグに対する親和性物質を固定化した担体を用いて精製対象物を精製する方法であって、以下の(1)〜(3)の工程を含むことを特徴とする精製方法、
(1)二種類以上のタグを含む精製対象物を、各タグに対する親和性物質が固定されている担体と接触させ、タグを親和性物質と結合させる工程、
(2)タグと親和性物質の結合の一部を解離させる溶液で担体を洗浄し、担体に吸着された夾雑物を除去する工程、
(3)すべてのタグと親和性物質の結合を同時に解離させる溶液で担体を洗浄し、担体に吸着された精製対象物を溶出させる工程。
【請求項2】
精製対象物が、生体高分子であることを特徴とする請求項1に記載の精製方法。
【請求項3】
生体高分子が、タンパク質又は核酸であることを特徴とする請求項2に記載の精製方法。
【請求項4】
担体が、表面にグラフト鎖を有する多孔性材料であることを特徴とする請求項1乃至3のいずれか一項に記載の精製方法。
【請求項5】
多孔性材料が、多孔性ビーズ、多孔性平膜、多孔性中空糸膜、多孔性シート、又は多孔性ディスクであることを特徴とする請求項4に記載の精製方法。
【請求項6】
タグと親和性物質の組み合わせが、ストレプトアビジン結合ペプチドとストレプトアビジン、ヒスチジンタグとニッケル、FK506結合タンパク質とFK506、抗原又はそのエピトープと抗体又は断片化抗体、セルロースとセルロース結合配列からなる群から選ばれる少なくとも二種以上であることを特徴とする請求項1乃至5のいずれか一項に記載の精製方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公開番号】特開2012−62276(P2012−62276A)
【公開日】平成24年3月29日(2012.3.29)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−207655(P2010−207655)
【出願日】平成22年9月16日(2010.9.16)
【出願人】(504137912)国立大学法人 東京大学 (1,942)
【出願人】(304021831)国立大学法人 千葉大学 (601)
【Fターム(参考)】