説明

二軸延伸スチレン系樹脂シートおよびその成形体

【課題】透明性が格段に改善され、かつゴム含有量が少なくても耐衝撃性の高い二軸延伸スチレン系樹脂シートとその製造方法を提供する。
【解決手段】スチレン系単量体と(メタ)アクリル系単量体とが共重合したスチレン系樹脂と、ゴム成分にスチレン系単量体と(メタ)アクリル系単量体とがグラフト重合したゴム含有スチレン系樹脂とを前者/後者=98/2〜40/60(重量比)の割合で含み、ゴム含有スチレン系樹脂はサラミ構造の形態でゴム成分を含有し、スチレン系樹脂及びゴム含有スチレン系樹脂全体に対してゴム成分の含有量は0.1〜3重量%程度と少ないスチレン系樹脂組成物を比較的低温で延伸して、二軸延伸スチレン系樹脂シートを得る。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、耐衝撃性、高い剛性および減容性に加えて、透明性が著しく改善された二軸延伸スチレン系樹脂シートおよびこのシートで形成された二次成形体(例えば、容器、トレーなど)に関する。
【背景技術】
【0002】
ジエン系ゴムにスチレン系単量体をグラフト重合したグラフト共重合体(耐衝撃性スチレン系樹脂又はゴム含有スチレン系樹脂)は耐衝撃性及び成形性に優れているため、シート成形され、このシートは容器などの種々の成形体に成形されている。しかし、上記ゴム含有スチレン系樹脂はジエン系ゴムを粒子の形態で含有するため、得られたシート及び成形体の透明性を改善することが困難である。
【0003】
透明性を改善したゴム含有スチレン系樹脂として、ゴム成分にスチレン系単量体とメタクリル酸メチルと必要により(メタ)アクリル酸C2−8アルキルエステルとをグラフト重合したMBS樹脂も知られている。特開平4−253736号公報(特許文献1)には、スチレン系単量体20〜70重量%と(メタ)アクリル酸C2−8アルキルエステル0.5〜20重量%とメタクリル酸メチル29.5〜79.5重量%とのスチレン系重合体(I)と、ブタジエン系ゴムに、芳香族ビニル化合物単位10〜90重量%とメタクリル酸メチル90〜10重量%からなる共重合体をグラフト重合したグラフト共重合体(II)とからなり、スチレン系重合体(I)とグラフト共重合体(II)との重量比が99.5:0.5〜40:60であり、スチレン系重合体(I)とグラフト共重合体(II)との屈折率の差が0.01以内であるスチレン系樹脂で形成したスチレン系樹脂シートが開示されている。なお、特許文献1の実施例には、スチレン系重合体(I)95重量部と、ゴム成分としてスチレン−ブタジエンブロック共重合体(ブタジエン含量65重量%)を35重量%の割合で含むグラフト共重合体(II)5重量部又は2重量部とを含み、スチレン系重合体(I)及びグラフト共重合体(II)の総量に対するブタジエン成分の含有量が1.8重量%又は0.7重量%のシートが記載され、各シートのヘーズが4.7、4.1又は3.9であることが記載されている。特許文献1には、スチレン系樹脂シートが、従来のスチレン系樹脂シートよりも低温で成形でき、強度および透明性が向上していることも記載されている。
【0004】
特開平10−306164号公報(特許文献2)には、ゴム状重合体を3〜20重量%含み、スチレン系樹脂(スチレン系単量体20〜99重量%、アクリル酸(メタクリル酸)エステル単量体1〜80重量%のスチレン系樹脂)からなる連続相と、平均粒径0.2〜3μmのゴム状重合体の分散粒子よりなるゴム変性スチレン系樹脂組成物より成形されたシートまたはフィルムであって、シートまたはフィルムの表面に突出したゴム状重合体を含む分散粒子が凹状の形態であるシートまたはフィルムが開示されている。この文献には、連続相をなすスチレン系樹脂の屈折率と、変性前の該ゴム状重合体の屈折率との差が0〜0.01であることも記載され、耐衝撃性と、光沢や透明性を同時に満足し、容器、フィルム、熱収縮フィルムなどの光沢や透明性と耐衝撃性が要求される分野に広範囲に使用できることも記載されている。
【0005】
特開2006−213811号公報(特許文献3)には、スチレン−ブタジエンブロック共重合体ゴム(A)の存在下、スチレン系単量体(B)と(メタ)アクリル酸エステル系単量体(C)を、成分(A)+成分(B)+成分(C)の合計量に対して、成分(A)3〜16重量%、成分(B)+成分(C)97〜84重量%、成分(B)+成分(C)の合計量に対して、成分(B)100〜82重量%、成分(C)0〜18重量%の組成で重合し、分散ゴム粒子の平均粒子径が0.1〜0.5μm、全分散ゴム粒子数に対するコアーシェル構造を有するゴム粒子数が90%以上の割合であり、かつビカット軟化点温度が85℃以上であるゴム変性スチレン系樹脂を成形したゴム変性スチレン系樹脂フィルムが開示されている。この文献には、成分(C)が、メタクリル酸メチル及び/又はアクリル酸ブチルであることも記載され、前記フィルムは、耐衝撃性、透明性、耐印刷性に優れ、また縦方向又は横方向の引張強度と引張破断伸びのバランスがよいことが記載されている。
【0006】
これらの文献に記載のMBS樹脂はゴム含有スチレン系樹脂と比較して透明性が高い。しかし、これらの透明性の高いMBS樹脂を用いても、二軸延伸すると、透明性が低下し、シート又はフィルムの透明性を向上させることが困難である。さらに、耐衝撃性はゴム含有量に大きく依存し、通常、スチレン系樹脂とMBS樹脂との総量に対して3重量%以上のゴム含有量が必要とされている。そのため、ゴム含有量がさらに少ない樹脂組成物で耐衝撃性を向上させることはできないと考えられている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特開平4−253736号公報(特許請求の範囲、実施例、発明の効果)
【特許文献2】特開平10−306164号公報(特許請求の範囲、発明の効果)
【特許文献3】特開2006−213811号公報(特許請求の範囲、発明の効果)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
従って、本発明の目的は、透明性が格段に改善され、かつゴム含有量が少なくても耐衝撃性の高い二軸延伸スチレン系樹脂シートとその製造方法を提供することにある。
【0009】
本発明の他の目的は、剛性及び熱成形性に優れた二軸延伸スチレン系樹脂シートとその製造方法を提供することにある。
【0010】
本発明のさらに他の目的は、ゴム含有量が3重量%以下であっても耐衝撃性が高く、透明性が著しく向上し、剛性、熱成形性及び減容性に優れた二軸延伸スチレン系樹脂シートとその製造方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明者は、前記課題を達成するため鋭意検討した結果、MBS樹脂を含むゴム含有スチレン系樹脂であっても、ゴム成分がサラミ構造の形態のスチレン系樹脂を低温で二軸延伸すると、透明性が低下することなく、しかもゴム含有量が少なくても耐衝撃性が大きく向上することを見いだし、本発明を完成した。
【0012】
すなわち、本発明の二軸延伸スチレン系樹脂シートは、スチレン系単量体と(メタ)アクリル系単量体とが共重合したスチレン系樹脂と、ゴム成分にスチレン系単量体と(メタ)アクリル系単量体とがグラフト重合したゴム含有スチレン系樹脂とを前者/後者=98/2〜40/60(重量比)の割合で含むスチレン系樹脂組成物で形成されている。この二軸延伸されたスチレン系樹脂シートにおいて、ゴム含有スチレン系樹脂はサラミ構造の形態でゴム成分を含有している。また、スチレン系樹脂及びゴム含有スチレン系樹脂全体に対してゴム成分の含有量は0.1〜3重量%程度と少ない。このような樹脂シートでは、比較的低温で二軸延伸すると透明性の低下を抑制できるとともに、ゴム成分が耐衝撃性の改善に有利なサラミ構造の形態で含有されているため、ゴム成分の含有量を低減できる。しかも、ゴム成分の含有量の低減に伴って、透明性をさらに改善できる。
【0013】
前記スチレン系樹脂及びゴム含有スチレン系樹脂において、(メタ)アクリル系単量体は、それぞれ、メタクリル酸メチルと(メタ)アクリル酸C2−8アルキルエステルとを含んでいてもよい。例えば、スチレン系樹脂組成物は、スチレン系単量体とメタクリル酸メチルと(メタ)アクリル酸C2−8アルキルエステルとが共重合したスチレン系樹脂と、ジエン系ゴム成分にスチレン系単量体とメタクリル酸メチルと(メタ)アクリル酸C2−8アルキルエステルとがグラフト重合したゴム含有スチレン系樹脂とを含んでいてもよい。
【0014】
スチレン系樹脂とゴム含有スチレン系樹脂との割合は、前者/後者=90/10〜70/30(重量比)程度であってもよい。また、ジエン系ゴム成分の含有量は、ジエン換算でスチレン系樹脂及びゴム含有スチレン系樹脂全体に対して0.5〜1.5重量%程度であってもよく、ゴム含有スチレン系樹脂は、サラミ構造の形態で平均粒子径0.1〜1μmのゴム成分を含有していてもよい。
【0015】
スチレン系樹脂は、スチレン系単量体とメタクリル酸メチルとの割合が前者/後者=42/58〜72/28(重量比)であり、(メタ)アクリル酸C2−8アルキルエステルの割合が、スチレン系単量体及びメタクリル酸メチルの総量100重量部に対して0.1〜15重量部である単量体の共重合体であってもよい。また、ゴム含有スチレン系樹脂は、ブタジエン系ゴム成分をブタジエン換算で1〜15重量%の割合で含み、スチレン系単量体とメタクリル酸メチルとの割合が前者/後者=35/65〜70/30(重量比)であり、(メタ)アクリル酸C2−8アルキルエステルの割合が、スチレン系単量体及びメタクリル酸メチルの総量100重量部に対して0.1〜15重量部である単量体のグラフト共重合体であってもよい。
【0016】
二軸延伸スチレン系樹脂シートの収縮応力は、縦方向及び横方向において、それぞれ、0.5〜1.5MPa程度であってもよい。また、二軸延伸スチレン系樹脂シートは透明性が高く、例えば、厚み200μmの二軸延伸スチレン系樹脂シートのヘーズは1〜3程度であってもよい。
【0017】
本発明は、スチレン系単量体と(メタ)アクリル系単量体とが共重合したスチレン系樹脂と、ゴム成分にスチレン系単量体と(メタ)アクリル系単量体とがグラフト重合したゴム含有スチレン系樹脂とを前者/後者=98/2〜40/60(重量比)の割合で含み、二軸延伸スチレン系樹脂シートを得るための樹脂組成物であって、ゴム含有スチレン系樹脂がサラミ構造の形態でゴム成分を含有しており、スチレン系樹脂及びゴム含有スチレン系樹脂全体に対してゴム成分の含有量が0.1〜3重量%であるスチレン系樹脂組成物も包含する。
【0018】
本発明の二軸延伸スチレン系樹脂シートは、前記スチレン系樹脂組成物を溶融してシート状に成形し、得られたシートを、比較的低温、例えば、110〜125℃で二軸延伸することにより製造できる。また、二軸延伸スチレン系樹脂シートは、熱成形性も高く、成形体(容器、トレー、キャリアテープなど)を製造するのに適している。そのため、本発明は、前記二軸延伸スチレン系樹脂シートで形成された成形体、および前記二軸延伸スチレン系樹脂シートを熱成形し、成形体を製造する方法も包含する。
【0019】
なお、本明細書において、アクリル系単量体とメタクリル系単量体とを単に(メタ)アクリル系単量体と総称する。
【発明の効果】
【0020】
本発明では、少量のゴム成分がサラミ構造の形態で含有されているため、二軸延伸されていても、透明性が格段に改善され、かつ耐衝撃性が高く、透明性と耐衝撃性とを両立できる。また、二軸延伸スチレン系樹脂シートは、剛性及び熱成形性に優れている。特に、ゴム含有量が3重量%以下であっても耐衝撃性が高く、透明性が著しく向上し、剛性、熱成形性及び減容性に優れている。
【発明を実施するための形態】
【0021】
二軸延伸スチレン系樹脂シートを形成するスチレン系樹脂組成物は、スチレン系単量体と(メタ)アクリル系単量体とが共重合したスチレン系樹脂(所謂、MS樹脂など)と、スチレン系単量体と(メタ)アクリル系単量体とがゴム成分にグラフト重合したゴム含有スチレン系樹脂(所謂、MBS樹脂など)とを含んでいる。
【0022】
[スチレン系樹脂]
スチレン系樹脂(非ゴム含有スチレン系樹脂)のスチレン系単量体としては、例えば、スチレン、ベンゼン環にアルキル基が置換したスチレン(例えば、ビニルトルエン、ビニルキシレン、p−エチルスチレン、p−イソプロピルスチレン、p−ブチルスチレン、p−t−ブチルスチレンなどのC1−6アルキル置換スチレンなど)、ベンゼン環にハロゲン原子が置換したスチレン(例えば、クロロスチレン、ブロモスチレンなど)、α位にアルキル基が置換したα−アルキル置換スチレン(例えば、α−メチルスチレンなどのα−C1−6アルキルスチレンなど)などが例示できる。これらのスチレン系単量体は、単独で又は二種以上組み合わせて使用できる。これらの単量体のうち、通常、スチレン、ビニルトルエン、α−メチルスチレンなどが使用され、特にスチレンが使用される。
【0023】
(メタ)アクリル系単量体としては、(メタ)アクリル酸エステル、例えば、(メタ)アクリル酸メチル、(メタ)アクリル酸エチル、(メタ)アクリル酸プロピル、(メタ)アクリル酸ブチル、(メタ)アクリル酸t−ブチル、(メタ)アクリル酸ヘキシル、(メタ)アクリル酸オクチル、(メタ)アクリル酸2−エチルへキシルなどの(メタ)アクリル酸直鎖状又は分岐鎖状C1−16アルキルエステル、(メタ)アクリル酸シクロへキシル、(メタ)アクリル酸フェニル、(メタ)アクリル酸ベンジル、(メタ)アクリル酸グリシジル、(メタ)アクリル酸2−ヒドロキシエチル、(メタ)アクリル酸2−ヒドロキシプロピルなどの(メタ)アクリル酸ヒドロキシC2−4アルキルエステル、(メタ)アクリル酸、(メタ)アクリロニトリルなどが例示できる。これらの(メタ)アクリル系単量体は、単独で又は二種以上組み合わせて使用できる。
【0024】
これらの(メタ)アクリル系単量体は、透明性及び機械的強度の点から、少なくともメタクリル酸メチルを含むのが好ましい。さらに、(メタ)アクリル系単量体が(メタ)アクリル酸C2−8アルキルエステルを含むと、スチレン系樹脂の溶融温度などを調整するのに有利である。そのため、好ましい(メタ)アクリル系単量体は、メタクリル酸メチルと(メタ)アクリル酸C2−8アルキルエステルとを含んでいる。(メタ)アクリル酸C2−8アルキルエステルは、メタクリル酸アルキルエステルであってもよいが、アクリル酸アルキルエステル、特にアクリル酸直鎖状又は分岐鎖状C2−8アルキルエステル(好ましくはアクリル酸ブチルなどのアクリル酸C2−6アルキルエステル)である。すなわち、スチレン系樹脂において、主たる単量体は、スチレン系単量体とメタクリル酸メチルとを含有しており、この主たる単量体に対して少量の(メタ)アクリル酸C2−8アルキルエステルが使用される。
【0025】
スチレン系単量体と(メタ)アクリル系単量体(特にメタクリル酸メチルなど)との割合(重量比)は、単量体の種類などに応じて前者/後者=40/60〜75/25程度の範囲から選択でき、例えば、前者/後者=42/58〜72/28、好ましくは45/55〜65/35、さらに好ましくは48/52〜60/40(例えば、48/52〜55/45)程度である。
【0026】
(メタ)アクリル系単量体がメタクリル酸メチルと(メタ)アクリル酸C2−8アルキルエステルとを含む場合、(メタ)アクリル酸C2−8アルキルエステルの使用量は、スチレン系単量体とメタクリル酸メチルとの総量100重量部に対して、例えば、0.1〜15重量部、好ましくは0.2〜10重量部、さらに好ましくは0.3〜8重量部、特に0.5〜6重量部(例えば、1〜5重量部)程度である。なお、(メタ)アクリル酸C2−8アルキルエステルが少なすぎると成形サイクルを短縮できなくなる場合があり、多すぎると耐熱性が低下する。
【0027】
なお、スチレン系単量体及び(メタ)アクリル系単量体に加えて、必要により共重合可能な単量体(共重合性単量体)を用いてもよい。共重合性単量体としては、例えば、不飽和多価カルボン酸又はその酸無水物(例えば、マレイン酸、イタコン酸、シトラコン酸又はその酸無水物など)、イミド系単量体[例えば、マレイミド、N−アルキルマレイミド(例えば、N−C1−4アルキルマレイミドなど)、N−シクロアルキルマレイミド(例えば、N−シクロヘキシルマレイミドなど)、N−アリールマレイミド(例えば、N−フェニルマレイミドなど)などのN−置換マレイミド]などが例示できる。これらの共重合可能な単量体も、単独で又は二種以上組み合わせて使用できる。全単量体中の共重合可能な単量体の使用量は、通常、1〜30重量%、好ましくは3〜25重量%、さらに好ましくは5〜20重量%程度の範囲から選択できる。
【0028】
代表的なスチレン系樹脂は、スチレンとメタクリル酸メチルと必要によりアクリル酸C2−6アルキルとがグラフト重合したMS樹脂である。
【0029】
スチレン系樹脂の重量平均分子量Mwは、1×10〜100×10程度の範囲から選択でき、通常、5×10〜50×10(例えば、8×10〜15×10)、さらに好ましくは8×10〜30×10(例えば、9×10〜13×10)程度であってもよく、10×10〜12×10程度であってもよい。スチレン系樹脂の数平均分子量Mnは、0.7×10〜75×10程度の範囲から選択でき、通常、1×10〜20×10(例えば、3×10〜8×10)、好ましくは2.5×10〜15×10(例えば、4×10〜7×10)、さらに好ましくは3×10〜10×10(例えば、4.5×10〜6.5×10)程度であってもよい。さらに、スチレン系樹脂の分散度(Mw/Mn)は、例えば、1.2〜5、好ましくは1.5〜4、さらに好ましくは1.8〜3.5程度であってもよい。なお、スチレン系樹脂の重量平均分子量Mw、数平均分子量Mnは、ゲルパーミエーションクロマトグラフィ(GPC)によるポリスチレン換算の分子量である(以下、同じ)。
【0030】
スチレン系樹脂のメルトフローレート(MFR)は、例えば、温度200℃、荷重49.1Nにおいて、0.5〜5g/10分、好ましくは1〜4g/10分、さらに好ましくは1.5〜3.5g/10分程度であってもよい。スチレン系樹脂のビカット軟化温度は、例えば、80〜105℃、好ましくは80〜100℃、さらに好ましくは80〜98℃程度であってもよい。
【0031】
[ゴム含有スチレン系樹脂]
ゴム含有スチレン系樹脂(グラフト共重合体又はゴム強化スチレン系樹脂)は、少なくともスチレン系単量体及び(メタ)アクリル系単量体の共重合体で構成されたマトリックス中にゴム成分が粒子状に分散した形態を有している。ゴム含有スチレン系樹脂(グラフト共重合体又はゴム強化スチレン系樹脂)において、スチレン系単量体及び(メタ)アクリル系単量体としては、前記スチレン系樹脂と同様の単量体が例示でき、好ましいスチレン系単量体及び(メタ)アクリル系単量体の種類も前記スチレン系樹脂と同様である。すなわち、好ましいスチレン系単量体は、スチレン、ビニルトルエン、α−メチルスチレン、特にスチレンであり、好ましい(メタ)アクリル系単量体は、少なくともメタクリル酸メチルを含んでおり、特に、メタクリル酸メチルと(メタ)アクリル酸C2−8アルキルエステル(特に、アクリル酸ブチルなどのアクリル酸C2−6アルキルエステルなど)とを含んでいる。また、必要であれば、前記共重合性単量体を前記と同様に併用してもよい。
【0032】
ゴム含有スチレン系樹のゴム成分(ゴム状重合体)としては、例えば、ジエン系ゴム[ポリブタジエン(低シス型又は高シス型ポリブタジエン)、ポリイソプレン、共重合ゴム(例えば、スチレン−ブタジエン共重合体、スチレン−イソプレン共重合体、スチレン−イソブチレン−ブタジエン共重合体などのスチレン−ジエン共重合体、ブタジエン−アクリロニトリル共重合体、イソブチレン−イソプレン共重合体など)]、エチレン−酢酸ビニル共重合体、アクリルゴム(ポリアクリル酸C2−8アルキルエステルを主成分とする共重合エラストマーなど)、エチレン−α−オレフィン系共重合体[エチレン−プロピレンゴム(EPR)など]、エチレン−α−オレフィン−ポリエン共重合体[エチレン−プロピレン−ジエンゴム(EPDM)など]、ウレタンゴム、シリコーンゴム、ブチルゴム、水添ジエン系ゴム(水素化スチレン−ブタジエン共重合体、水素化ブタジエン系重合体など)、ポリエステルエラストマー、ポリアミドエラストマーなどが挙げられる。なお、これらのゴム成分において、共重合体はランダム又はブロック共重合体であってもよく、ブロック共重合体は、AB型、ABA型、テーパー型、ラジアルテレブロック型などの構造を有していてもよい。これらのゴム成分は、単独で又は二種以上組み合わせて使用できる。
【0033】
好ましいゴム状重合体成分は、ジエン系ゴム(特にブタジエン系ゴム)、例えば、ポリブタジエン(ブタジエンゴム)、イソプレンゴム、スチレン−ブタジエンゴム(ポリスチレン−ポリブタジエンブロック共重合体)である。
【0034】
スチレン系単量体と(メタ)アクリル系単量体(特にメタクリル酸メチルなど)との割合(重量比)は、前者/後者=35/65〜70/30(例えば、38/62〜68/32)、好ましくは45/55〜65/35(例えば、45/55〜60/40)、さらに好ましくは48/52〜58/42(例えば、50/50〜60/40)程度であってもよく、52/48〜62/38程度であってもよい。
【0035】
(メタ)アクリル系単量体がメタクリル酸メチルと(メタ)アクリル酸C2−8アルキルエステルとを含む場合、(メタ)アクリル酸C2−8アルキルエステルの使用量は、スチレン系単量体とメタクリル酸メチルとの総量100重量部に対して、例えば、0.1〜15重量部、好ましくは0.5〜12重量部、さらに好ましくは1〜9重量部、特に2〜8重量部(例えば、3〜7重量部)程度である。(メタ)アクリル酸C2−8アルキルエステルの使用量が少なすぎると成形サイクルを短縮できなくなる場合があり、多すぎると耐熱性が低下する。
【0036】
代表的なゴム含有スチレン系樹脂は、ポリブタジエンなどのジエン系ゴムに、スチレンとメタクリル酸メチルと必要によりアクリル酸C2−6アルキルとがグラフト重合したMBS樹脂である。
【0037】
スチレン系単量体と(メタ)アクリル系単量体がゴム成分にグラフト重合したグラフト共重合体(ゴム含有スチレン系樹脂)において、ゴム成分の含有量は、例えば、1〜15重量%、好ましくは1.5〜10重量%(例えば、2〜10重量%)、さらに好ましくは2.5〜8重量%(例えば、3〜8重量%)程度であってもよく、3〜6重量%程度であってもよい。なお、ゴム成分がジエン系ゴム成分(ブタジエン系ゴム成分など)である場合、前記ゴム成分の含有量は、ブタジエンなどのジエン換算による含有量を意味する。ゴム成分が少なすぎると耐衝撃性が低下し、多すぎると透明性が低下しやすい。なお、本発明では、ゴム成分がサラミ構造の形態でグラフト共重合体(ゴム含有スチレン系樹脂)中に分散して含有されているため、ゴム成分の含有量が少なくても二軸延伸スチレン系樹脂シートに高い耐衝撃性を付与できる。
【0038】
ゴム成分(ゴム状重合体)のグラフト率は、例えば、0.5〜4%、好ましくは1〜3.5%(例えば、1.2〜3%)、さらに好ましくは1.3〜2.8%(例えば、1.3〜2.3%)程度であってもよい。なお、グラフト率は、次のようにして測定できる。サンプル1.0gを精秤して、メチルエチルケトン/アセトン=1/1(容量比)溶液35mlを加えて1.5時間振とう機で溶解させ、溶液を冷却遠心分離器(Beckman Instruments,Inc製 Avanti HP-30I)で、温度−4℃、回転数10000rpmで30分間遠心分離し、上澄み液を除いて沈殿分を取り出し、80℃、真空で3時間乾燥させ、乾燥ゲルの重量を測定し、ゲル分率Gを次式で算出する。次いで、このゲル分率Gを用いて、グラフト率g(%)を下記式で算出できる。この方法は、当業者において、通常、便宜的に用いられている方法であり、グラフト率g(%)には、グラフト化ポリスチレン(ゴムにグラフト化したスチレン系樹脂)のほか、ゴム内に内包されたスチレン系樹脂も含まれる。
G=100×(乾燥ゲル重量)/(サンプル重量)
g=(G−RC)/RC
(式中、RCはゴム含有量を示す)
【0039】
ゴム含有スチレン系樹脂はゴム成分をサラミ構造の形態で含有している。ゴム成分がコアシェル構造などの他の形態で分散していると、少ないゴム成分の含有量で耐衝撃性を向上させるのが困難である。サラミ構造の形態で分散するゴム成分の平均粒子径は、例えば、0.1〜1μm、好ましくは0.2〜0.9μm、さらに好ましくは0.3〜0.8μm(例えば、0.4〜0.7μm)程度である。ゴム成分の平均粒子径が小さいと耐衝撃性が低下し、大きいと透明性が低下する。なお、ゴム成分の平均粒子径(体積平均粒子径)は、樹脂の断面を電子顕微鏡で観察し、5000個の粒子径を測定して、次式より算出される。
平均粒子径=(ΣniDi)/(ΣniDi
(式中、niは粒子径Diを有するゴム粒子の個数を示す)
マトリックス中に分散するゴム成分の形態は、全てがサラミ構造である必要はなく、コア−シェル構造、オニオン構造などの他の形態を、透明性及び耐衝撃性を損なわない範囲、例えば、全体の0〜25%程度の個数割合で含んでいてもよい。
【0040】
なお、ゴム含有スチレン系樹脂(グラフト共重合体又はゴム強化スチレン系樹脂)のマトリックス樹脂の重量平均分子量Mw、数平均分子量Mn、分散度(Mw/Mn)、メルトフローレート(MFR)、ビカット軟化温度は、前記スチレン系樹脂と同様である。
【0041】
[スチレン系樹脂組成物]
スチレン系樹脂とゴム含有スチレン系樹脂との割合(重量比)は、前者/後者=98/2〜40/60程度の範囲から選択でき、通常、90/10〜50/50(例えば、90/10〜70/30)、好ましくは87/13〜70/30(例えば、85/15〜75/25)程度であってもよい。スチレン系樹脂(特にMS系樹脂など)が多いと耐衝撃性が低下し、ゴム含有スチレン系樹脂(特にMBS系樹脂など)が多いと透明性が低下する。
【0042】
スチレン系樹脂組成物において、ゴム成分の含有量(ジエン系ゴム成分ではジエン換算)は、スチレン系樹脂及びゴム含有スチレン系樹脂の総量に対して、例えば、0.1〜3重量%、好ましくは0.3〜2重量%、さらに好ましくは0.5〜1.5重量%(例えば、0.6〜1.2重量%)程度であり、0.6〜1重量%程度であってもよい。
【0043】
スチレン系樹脂(非ゴム含有スチレン系樹脂)及びゴム含有スチレン系樹脂の総量に対して(メタ)アクリル酸C2−6アルキルエステル単位(アクリル酸ブチルなどの単位)の含有量は、例えば、0.1〜15重量%、好ましくは0.3〜10重量%(例えば、0.5〜8重量%)、さらに好ましくは0.7〜7重量%、特に1〜5重量%(例えば、1.5〜3.5重量%)程度であってもよい。
【0044】
スチレン系樹脂(非ゴム含有スチレン系樹脂)及びゴム含有スチレン系樹脂は、慣用の方法で製造できる。例えば、スチレン系樹脂(非ゴム含有スチレン系樹脂)は、少なくともスチレン系単量体及び(メタ)アクリル系単量体を、塊状重合、塊状懸濁重合、溶液重合、乳化重合などの方法で重合することにより製造でき、ゴム含有スチレン系樹脂は、通常、ゴム成分の存在下、少なくともスチレン系単量体及び(メタ)アクリル系単量体を、塊状重合、塊状懸濁重合、溶液重合、乳化重合などの方法で重合することにより得られる。
【0045】
なお、スチレン系樹脂組成物は、必要により、ポリスチレン(GPPS)、スチレン−アクリロニトリル共重合体(AS樹脂)、アクリル系樹脂(PMMA)、透明なゴム含有スチレン系樹脂[例えば、メタクリル酸メチル変性ABS樹脂(透明ABS又はMABS樹脂)、α−メチルスチレン変性ABS樹脂、イミド変性ABS樹脂、AXS樹脂、メタクリル酸メチル変性AXS樹脂など]などの樹脂成分を添加してもよい。なお、AXS樹脂とは、ゴム成分X(アクリルゴム、塩素化ポリエチレン、エチレン−プロピレンゴム、エチレン−酢酸ビニル共重合体など)にアクリロニトリルAとスチレンSとがグラフト重合した樹脂を意味し、例えば、アクリロニトリル−アクリルゴム−スチレン樹脂(AAS樹脂)、アクリロニトリル−エチレン・プロピレンゴム−スチレン樹脂(AES樹脂)などが含まれる。
【0046】
さらに、スチレン系樹脂組成物は、種々の添加剤、例えば、安定化剤(酸化防止剤、紫外線吸収剤、耐光安定剤、熱安定化剤など)、帯電防止剤、難燃剤(リン系難燃剤、ハロゲン系難燃剤、無機系難燃剤など)、難燃助剤、架橋剤、補強材(充填剤など)、核剤、カップリング剤、滑剤、摺動剤(球状シリコーンゴム粒子又はシリコーン樹脂粒子などの粒子状摺動剤など)、ワックス、可塑剤、離型剤、耐衝撃改良剤、色相改良剤、流動性改良剤、着色剤(染料など)、分散剤、抗菌剤、防腐剤などを含有していてもよい。これらの添加剤は、単独で又は二種以上組み合わせて使用できる。
【0047】
なお、帯電防止剤は、低分子量であってもよく高分子量であってもよい。高分子帯電防止剤は、例えば、オレフィン系ブロック(エチレン及び/又はプロピレンで構成されたブロックなど)及び/又はポリアミド系ブロック(ジアミン及びジカルボン酸、アミノカルボン酸やラクタムの反応により生成するC6−12アルキレン鎖を有するポリアミド系ブロック、C6−12アミノカルボン酸の縮合によって得られたアルキレン骨格を有するポリアミドブロック)と、親水性ブロック(ポリC2−4アルキレンオキシドなど)とのブロック共重合体などが挙げられる。このような高分子帯電防止剤(帯電防止性樹脂)は、例えば、三洋化成工業(株)から商品名「ペレスタット300」として、チバスペシャルティケミカルズ(株)から商品名「イルガスタットP16」「イルガスタットP18」として、三洋化成工業(株)から商品名「ペレスタットNC6321」「ペレスタットNC7530」として入手できる。
【0048】
このような帯電防止性樹脂は、単独でも高い帯電防止性を有しているが、さらに金属塩類と組み合わせて用いてもよい。金属塩類と帯電防止性樹脂とを組み合わせると、金属塩類から解離した金属イオンが、帯電防止性樹脂の親水性ブロックに対して作用してイオン伝導性を発現することにより、帯電防止性樹脂の持続性などをさらに向上できるイオン伝導性帯電防止剤を構成できる。金属塩類としては、リチウム塩類、例えば、トリフルオロメタンスルホン酸リチウム、ビス(トリフルオロメタンスルホニル)イミドリチウム、トリス(トリフルオロメタンスルホニル)メチドリチウムなどのフッ素原子及びスルホニル基又はスルホン酸基を有するリチウム金属塩などが例示できる。これらの金属塩類は、単独で又は二種以上組み合わせて使用できる。
【0049】
金属塩類の割合は、帯電防止性樹脂100重量部に対して、例えば、0.01〜30重量部、好ましくは0.05〜20重量部、さらに好ましくは0.01〜10重量部程度である。帯電防止性樹脂と金属塩類とを組み合わせたイオン伝導性帯電防止性樹脂は、例えば、三光化学工業(株)から商品名「サンコノール(登録商標)TBX−65」「サンコノールTBX−35」として入手できる。
【0050】
帯電防止剤の割合は、前記スチレン系樹脂及びゴム含有スチレン系樹脂の総量100重量部に対して、例えば、1〜50重量部、好ましくは3〜40重量部、さらに好ましくは5〜30重量部(特に10〜30重量部)程度であってもよい。また、イオン伝導性帯電防止性樹脂(帯電防止性樹脂及び金属塩類の総量)の使用量は、前記スチレン系樹脂及びゴム含有スチレン系樹脂の総量100重量部に対して、例えば、1〜30重量部、好ましくは5〜20重量部程度であってもよい。
【0051】
[二軸延伸スチレン系樹脂シートとその製造方法]
このようなスチレン系樹脂組成物は、透明性が高いだけでなく耐衝撃性も高く、剛性も備えた二軸延伸スチレン系樹脂シートを製造するのに有用である。また、二軸延伸スチレン系樹脂シートは、減容性も備えている。
【0052】
二軸延伸スチレン系樹脂シートの収縮応力は、縦方向及び横方向において、それぞれ、0.5〜1.5MPa、好ましくは0.6〜1.3MPa、さらに好ましくは0.7〜1.1MPa程度であってもよい。収縮応力が小さいと耐衝撃性及び透明性が低下し、大きいと延伸加工性が低下し、延伸時に破断する可能性がある。
【0053】
二軸延伸スチレン系樹脂シートの耐衝撃性は、厚み200μmにおいて、例えば、全吸収エネルギー(単位:J/mm)として、3〜15(例えば、3.5〜14)、好ましくは4〜13(例えば、5〜13)、さらに好ましくは6〜12.5(例えば、7〜12)程度であってもよく、7.5〜15(例えば、8〜12.5)程度である場合が多い。なお、二軸延伸スチレン系樹脂シートの全吸収エネルギーは、実施例に記載の方法で測定できる。
【0054】
二軸延伸スチレン系樹脂シートのヘーズは、厚み200μmにおいて、例えば、1〜5.5%(例えば、1〜3%)、好ましくは1.2〜3.5%(例えば、1.3〜2.7%)、さらに好ましくは1.5〜2.8%(例えば、1.5〜2.5%)、特に1.7〜2.3%程度である。
【0055】
二軸延伸スチレン系樹脂シートの厚みは、二次形成品の種類に応じて選択でき、例えば、0.07〜0.5mm(例えば、0.09〜0.45mm)、好ましくは0.1〜0.4mm(例えば、0.105〜0.35mm)、さらに好ましくは0.11〜0.3mm(例えば、0.15〜0.25mm)程度であってもよい。
【0056】
二軸延伸スチレン系樹脂シートは、比較的低温で延伸する以外、慣用の方法で製造できる。例えば、樹脂シート(未延伸シート)は、各成分をタンブラー、スーパーミキサーなどを用いて混合して調製したスチレン系樹脂組成物を押出成形機(例えば、単軸押出機や二軸押出機など)やカレンダー成形機を使用して製造でき、通常、前記シートはスチレン系樹脂組成物を押出成形機内で溶融混練し、押出成形機の先端部の口金(ダイ)より押出することにより成形される。前記ダイはインフレーション成形に利用されるリングダイであってもよいが、通常、T−ダイなどのフラットダイが使用できる。
【0057】
二軸延伸スチレン系樹脂シートは、ダイより押出された前記シートを二軸延伸(逐次または同時延伸)することによって形成できる。逐次延伸としては、例えば、未延伸シートを一軸方向に延伸し、次いで、上記延伸方向に直交する方向に延伸する方法などが挙げられる。同時二軸延伸としては、例えば、テンター延伸において縦、横方向の延伸を同時に行う方法、及びインフレーション法などが挙げられる。なお、これらの方法は商業的生産方法に利用され、小規模に二軸延伸シートのサンプルを作製する場合は、前記スチレン系樹脂組成物を圧縮成形機などで未延伸シート状にし、既知の二軸延伸試験機(米国、T.M.Long社製など)を用いて同時又は逐次延伸にて二軸延伸シートを得てもよい。
【0058】
シートの延伸温度は、スチレン系樹脂組成物のピカット軟化温度などに応じて、110〜130℃(例えば、110〜125℃)程度の範囲から選択でき、通常、113〜125℃(例えば、113〜123℃)、好ましくは115〜123℃(例えば、115〜122℃)、さらに好ましくは116〜120℃(例えば、116〜119℃)程度であり、例えば、117〜119℃程度であってもよい。延伸温度は、延伸シートの収縮応力に大きく影響し、この収縮応力は透明性や耐衝撃性に大きく影響する特性値の一つである。また、同じ温度で延伸しても、樹脂(組成物)種により収縮応力が異なる。そのため、樹脂(又は樹脂組成物)の種類に応じて、延伸温度を選択し、比較的低温で延伸すると、延伸シートの収縮応力を高めることができ、シートの透明性及び耐衝撃性を改善できる。なお、スチレン系樹脂組成物のシートの延伸温度について、特許文献1では「120〜130℃」と記載され、特許文献3では120℃、132℃が記載されている。しかし、このような温度で延伸すると、延伸シートの透明性が低下する。また、特許文献2では、100℃で二軸延伸したことが記載されているものの、100℃で延伸することは実質的に困難である。
【0059】
シートの延伸倍率は、縦方向及び横方向において、例えば、1.5〜5倍、好ましくは2〜3.5倍、さらに好ましくは2.2〜3倍程度であってもよい。なお、シートの延伸には、慣用の延伸装置、例えば、ロール延伸装置、テンター延伸装置などが利用できる。
【0060】
[成形体及びその製造方法]
このようにして得られたシート状成形品(二軸延伸シート)は、成形性に優れるため、圧空成形(押出圧空成形、熱板圧空成形、真空圧空成形など)、自由吹込成形、真空成形、折り曲げ加工、マッチド・モールド成形、熱板成形などの慣用の熱成形を利用して二次成形し、所定形状の成形体を簡便に製造できる。
【0061】
熱成形工程においては、加熱したシートを加圧や減圧により成形し、例えば、圧空成形の場合は、加熱したシートを圧空により金型に押し当てて容器を成形する。真空成形の場合は、金型と加熱したシートとの間を真空にすることにより、加熱シートを金型側に引き込んで容器を成形する。前記金型には、空気を引き込むための小孔やスリットが設けられている。
【産業上の利用可能性】
【0062】
本発明の二軸延伸シートの成形体は、種々の成形体(各種分野の部材、容器、包装材料など)、例えば、物品の包装用容器、搬送容器又は部材などとして利用できる。より具体的には、食品包装用容器やトレー(蓋材を含む)、電子部品(半導体[例えば、IC(高密度集積回路)やICを用いた電子部品]や液晶などの電子部品)などの収容容器や搬送部材(キャリアテープなどの電子部品搬送用成形品)などとして利用できる。特に、透明性及び耐衝撃性が高いため、包装用容器では透視性が求められる蓋材などとして有用である。
【実施例】
【0063】
以下に、実施例に基づいて本発明をより詳細に説明するが、本発明はこれらの実施例によって限定されるものではない。なお、特に断りのない限り、「部」は重量基準である。また、以下の例で用いた各成分と、評価項目の測定方法は下記の通りである。
【0064】
[スチレン系樹脂組成物の成分]
[スチレン系樹脂]
MS系樹脂:スチレン−メタクリル酸メチル系共重合体(DIC(株)「クリアパクト TS−50」)
スチレン単位:52重量%,メタクリル酸メチル(MMA)単位:46重量%,アクリル酸ブチル(BA)単位:2.0重量%(H−NMRによる組成分析)
GPPS:ポリスチレン(東洋スチレン(株)「東洋スチロールGP HRM63C」)
[ゴム含有スチレン系樹脂]
MBS系樹脂1:ブタジエン系ゴムグラフトスチレン−メタクリル酸メチル系共重合体(DIC(株)「クリアパクト TI−300S」)
スチレン単位:50重量%,MMA単位:41重量%,BA単位:5.0重量%,ブタジエン単位:4.0重量%(H−NMRによる組成分析)、ゴムの平均粒子径:0.57μm、ゴムの分散形態:サラミ構造
MBS系樹脂2:下記のように、特開2006−213811号公報の実施例9に準じてMBS系樹脂2を調製した。
【0065】
撹拌機を備えた層流型反応器3基(1.5リットル)を直列に連結し、その後に二段ベント付き押出機を配置した重合装置を用いて、ゴム変性スチレン系樹脂を製造する。スチレン−ブタジエンブロックゴム(日本エラストマー社製670A、スチレン含有量約40%)5.0重量部、スチレン75.6重量部、メタクリル酸メチル6.8重量部、アクリル酸n−ブチル2.6重量部、エチルベンゼン10.0重量部、1,1−ビス(t−ブチルパーオキシ)シクロヘキサン0.020重量部(重合開始剤)、α−メチルスチレンダイマー0.20重量部(分子量調整剤)の原料溶液を反応器に0.75リットル/hrの容量で供給し、重合を行った。また、反応器の温度は100〜145℃、押出機温度は200〜240℃、真空度は10〜60torr、最終反応器での重合溶液中の全固形分は68〜74重量%の範囲に調整した。得られた樹脂のゴム粒子は電子顕微鏡写真から全粒子数の90%以上がコア−シェル構造を有していた。樹脂のゴム含有量(ブタジエンの含有量)は4.0重量%、ゴムの平均粒子径は0.25μmであった。
【0066】
HIPS−1(ポリブタジエングラフトスチレン系樹脂):下記のように、特開2004−51680号公報に記載のHIPS3と同様にして調製した。
【0067】
ポリブタジエン(旭化成(株)製「ジエン55」)2.0kg、スチレンモノマー16kgおよび重合開始剤(日本油脂(株)製「パーブチルZ」)0.0048kgを反応器に仕込み、117℃に昇温して重合反応を開始した。117℃、撹拌速度20rpmで2時間、135℃、20rpmで2時間、その後150℃、10rpmにして1時間反応させた。230℃、ギアポンプ出力10%の条件で押出し、未反応のモノマーおよび溶剤を取り除いた。溶融ストランドは冷却後切断しペレット状のサンプルを得た。樹脂ペレットのゴム含有量(ブタジエンの含有量)は9.4重量%、ゴムの平均粒子径は1.9μmであり、ゴムはサラミ構造の形態で分散していた。
【0068】
HIPS−2(ポリブタジエングラフトスチレン系樹脂):東洋スチレン(株)「東洋スチロールHI H380」。この樹脂のゴム含有量(ブタジエンの含有量)は8.1重量%、ゴムの平均粒子径は0.4μmであり、ゴムはコア−シェル構造の形態で分散していた。
【0069】
SB(スチレン−ブタジエンブロック共重合体):フィリップス石油(株)「Kレジン KK38」。この共重合体のブタジエン含有量は30重量%である。
【0070】
[他のシート]
A−PET(アモルファスポリエチレンテレフタレート)シート:帝人化成(株)「一般タイプ」厚み0.20mm(無延伸シート)
透明PP(ポリプロピレン)シート:シーダム(株)「AQUA 600C(透明)」厚み0.20mm(無延伸シート)
PC(ポリカーボネート)シート:帝人化成(株)「パンライト PC−2151」厚み0.20mm(無延伸シート)
[評価方法]
[収縮応力]
ASTM D−1504に規定される方法(125℃での収縮応力)に準じて収縮応力を測定した。すなわち、二軸延伸シート中央部から3つの試験片(サイズ25mm×120mm)に切り取る。試験片の両端を固定治具にチャッキングして固定し、125℃恒温槽内に配置し、熱収縮により生じる荷重の最大値(最大荷重)を読み取り、最大荷重を初期試験片の断面積で除して収縮応力を算出する。3つの試験片について収縮応力を測定し、平均値を算出した。
【0071】
[透明性]
ヘーズ測定器(日本電色(株)製、「300A」を用い、ASTM D1003に準じてシートのヘーズを測定し、5つの測定値の平均値を算出した。
【0072】
[剛性]
各シートをJIS K 7113に準じた2号ダンベルで縦横に打抜き、サンプルシートを得た。このサンプルシートを用いて、テンシロン(RTA500、(株)エー・アンド・デイ製)により、試験スピード50mm/分で縦横それぞれ5つの試験片について引張弾性率を測定し、平均値を算出した。
【0073】
[耐衝撃性]
各シートを落錘衝撃試験機((株)東洋精機製作所製)に装着した。試験片に対して、ストライカー(直径12.7mm、全重量6.5kg)を40cmの高さから自由落下させてシートに衝突させ、その時の荷重−変位を測定し、全吸収エネルギーを算出した。
【0074】
[減容性]
試験シートを180°に折り曲げ、折り曲げ線上に破断がない場合は、この線を中心に逆方向に360°曲げる。この繰り返しで3回以上行っても破断がないことが前提である。かつ、新たに試験シートを15mm×110mmの長方形に切り取り、長手方向の中間位置で折り曲げたあと、直径150mmで重さ1kgの錘をサンプルシートに覆い被さるようにして、1分間置いた。その後30分間放置し、折り曲げた部分の角度を測定し、下記の基準で減容性を評価した。
【0075】
○:70°以下
△:70°を超え100°以下
×:100°を超える
【0076】
実施例1〜10及び比較例1〜7
スチレン系樹脂とゴム含有スチレン系樹脂とを表に示す割合で2軸押出機(池貝(株)製)で混練押出し、ペレット状の樹脂組成物を得た。このペレットを圧縮成形機(松田工業(株)製)を用いて230℃で2分加熱し、厚さ1.0mm(実施例8は0.5mm、実施例9は1.5mm、実施例10は2.0mm)のシートを成形した。このシートを縦130mm、横130mmの正方形に裁断し、2軸延伸機(米国T.M Long社製)で厚さ0.2mm(実施例8は0.1mm、実施例9は0.3mm、実施例10は0.4mm)大きさ縦295mm横295mmの正方形シートに2軸延伸した(チャック掴みシロ:20mm)。2軸延伸の条件は次の通りであった。
【0077】
加熱時間:2分,延伸速度:900mm/分,延伸倍率(縦×横):2.5倍×2.5倍,延伸温度:表に示す温度。
【0078】
比較例8及び9
スチレン系樹脂(GPPS)とスチレンーブタジエンブロック共重合体SBとを表に示す割合で直径65mmの押出機(シリンダ温度200℃)を用いてT−ダイから押出し、厚み0.2mmのシート(無延伸シート、比較例8)を得た。
【0079】
また、比較例9ではMBS系樹脂1の無延伸シートを用いた。
【0080】
比較例10〜12
購入した上記他のシート(A−PETシート,透明PPシート,PCシート)を評価した。
【0081】
結果を表に示す。
【0082】
【表1】

【0083】
【表2】

【0084】
【表3】

【0085】
表1と表2及び表3との対比から、MS系樹脂とサラミ構造の形成でゴム成分が分散したゴム含有MS系樹脂(MBS系樹脂)とを所定の割合で用い、比較的低温で延伸すると、ゴム含有量が少なくとも高い衝撃性を示すとともに、透明性の高い二軸延伸シートが得られる。
【0086】
なお、実施例5のスチレン系樹脂組成物を用い、延伸温度130℃で二軸延伸する以外、実施例5と同様にして二軸延伸シート(厚み0.2mm)を得たところ、この二軸延伸シートの収縮応力(縦)及び収縮応力(横)はそれぞれ0.33MPa、剛性[引張弾性率(縦横平均)]は3740MPa、減容性の評価は「○」であった。また、実施例5のスチレン系樹脂組成物を用い、延伸温度108℃で二軸延伸しようとしたところ、延伸できなかった。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
スチレン系単量体と(メタ)アクリル系単量体とが共重合したスチレン系樹脂と、ゴム成分にスチレン系単量体と(メタ)アクリル系単量体とがグラフト重合したゴム含有スチレン系樹脂とを前者/後者=98/2〜40/60(重量比)の割合で含む樹脂組成物で形成され、かつ二軸延伸されたスチレン系樹脂シートであって、ゴム含有スチレン系樹脂がサラミ構造の形態でゴム成分を含有しており、スチレン系樹脂及びゴム含有スチレン系樹脂全体に対してゴム成分の含有量が0.1〜3重量%である二軸延伸スチレン系樹脂シート。
【請求項2】
収縮応力が、縦方向及び横方向において、それぞれ、0.5〜1.5MPaである請求項1記載の二軸延伸スチレン系樹脂シート。
【請求項3】
ヘーズが、厚み200μmにおいて1〜3である請求項1又は2記載の二軸延伸スチレン系樹脂シート。
【請求項4】
スチレン系樹脂及びゴム含有スチレン系樹脂において、(メタ)アクリル系単量体が、メタクリル酸メチルと(メタ)アクリル酸C2−8アルキルエステルとを含んでいる請求項1〜3のいずれかに記載の二軸延伸スチレン系樹脂シート。
【請求項5】
スチレン系単量体とメタクリル酸メチルと(メタ)アクリル酸C2−8アルキルエステルとが共重合したスチレン系樹脂と、ジエン系ゴム成分にスチレン系単量体とメタクリル酸メチルと(メタ)アクリル酸C2−8アルキルエステルとがグラフト重合したゴム含有スチレン系樹脂とを前者/後者=90/10〜70/30(重量比)の割合で含み、ゴム含有スチレン系樹脂がサラミ構造の形態で平均粒子径0.1〜1μmのゴム成分を含有しており、ジエン系ゴム成分の含有量がジエン換算でスチレン系樹脂及びゴム含有スチレン系樹脂全体に対して0.5〜1.5重量%である請求項1〜4のいずれかに記載の二軸延伸スチレン系樹脂シート。
【請求項6】
スチレン系樹脂が、スチレン系単量体とメタクリル酸メチルとの割合が前者/後者=42/58〜72/28(重量比)であり、(メタ)アクリル酸C2−8アルキルエステルの割合が、スチレン系単量体及びメタクリル酸メチルの総量100重量部に対して0.1〜15重量部である単量体の共重合体であり、ゴム含有スチレン系樹脂が、ブタジエン系ゴム成分をブタジエン換算で1〜15重量%の割合で含み、スチレン系単量体とメタクリル酸メチルとの割合が前者/後者=35/65〜70/30(重量比)であり、(メタ)アクリル酸C2−8アルキルエステルの割合が、スチレン系単量体及びメタクリル酸メチルの総量100重量部に対して0.1〜15重量部である単量体のグラフト共重合体である請求項1〜5のいずれかに記載の二軸延伸スチレン系樹脂シート。
【請求項7】
請求項1記載のスチレン系樹脂組成物を溶融してシート状に成形し、得られたシートを110〜125℃で二軸延伸し、請求項1〜6のいずれかに記載の二軸延伸スチレン系樹脂シートを製造する方法。
【請求項8】
請求項1〜6のいずれかに記載の二軸延伸スチレン系樹脂シートで形成された成形体。
【請求項9】
請求項1〜6のいずれかに記載の二軸延伸スチレン系樹脂シートを熱成形し、成形体を製造する方法。

【公開番号】特開2011−184608(P2011−184608A)
【公開日】平成23年9月22日(2011.9.22)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−52799(P2010−52799)
【出願日】平成22年3月10日(2010.3.10)
【出願人】(501073426)ダイセルパックシステムズ株式会社 (20)
【Fターム(参考)】