説明

二軸延伸フィルムの製造方法

【課題】光の反射率が高く隠蔽性の高い二軸延伸された白色フィルムのエッジ部をテンター内で切断しても切り粉の発生が抑制され、フィルムに付着する異物のない低熱収の二軸延伸フィルムの製造方法を提供する。
【解決手段】不活性粒子の含有量が少ない熱可塑性樹脂からなるA層と不活性粒子を20〜80重量%含有する熱可塑性樹脂からなるB層が少なくとも2層交互に積層してダイより押出し、少なくともその片面にB層が露出した未延伸フィルムとし、その後にテンターの中で前記未延伸フィルムを延伸してそのエッジ部を刃で切断して縦弛緩熱処理するのに際して、フィルムの両エッジ部をA層のみからなる単層としてテンター内で刃で切断し、テンターを出たフィルムの多層部をさらにトリミンングして製品部分を巻き取きとる二軸延伸フィルムの製造方法とする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、フィルム中に多量の不活性粒子が含まれる低熱収縮の二軸延伸フィルムの製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
光の反射率が高く隠蔽性の高い白色フィルムは、液晶テレビの輝度を向上させるためにバックライトの反射シートとして用いられている。この白色フィルムは、フィルム中に例えば無機顔料を大量に含有させることで反射率と輝度の向上が図られているおり、例えば、特許文献1において無機顔料を多く含む層を反射面とすることで輝度を向上させる反射板用フィルムが開示されている。なお、このような液晶テレビ用途に使用されるフィルムでは、液晶テレビの大画面化に伴って、光源から発せられる熱量が増大し、熱によるフィルムの変形を抑制することが必要になり、低熱収のフィルムが求められている。
【0003】
そこで、前述の問題を解消するために特許文献2において、テンター内でフィルム端部を切断して分離し、引き取り速度を減じて縦弛緩するフィルムの弛緩熱処理方法が提案されている。したがって、市販のテンターを改造してこの方法を用いることで低熱収のフィルムを得ることができる。
【0004】
しかしながら、上記のように顔料が多く含まれているために、延伸の際に顔料粒子の周辺に空気のボイドを形成するフィルムでは、高温のテンター内で露出したボイド層に刃を入れてフィルムのエッジ部を切断分離する際に切り粉が多量に生じるという問題がある。このような切り粉が生じると、フィルムへ付着して異物欠点となるので生産上好ましくない。このために、切り粉を除去する必要がある。
【0005】
一般に、切り粉を除去する方法としてゴムロールのような粘着ロールに切り粉を付着させて除去する方法があるが、高温のテンター内でゴムロールを使用することは、ゴムが熱劣化してコンタミになる問題がある。また、フィルムがテンターのクリップから切り離され、さらに弛緩されて弛んだ状態であるため、フィルムの走行が不安定となっており、ロールをフィルムに押し付けることが困難である。更に、切り粉をテンター内で吸引して除去する方法もあるが、テンター内の熱風の流れが吸引によって変わることにより、フィルムの巾方向における物性が変化する問題が生じる。
【0006】
一方、テンターを出たフィルムの切り粉を常温で除去する方法もあるが、フィルムがテンターを出るまでに切り粉がフィルム全巾に広がってしまい除去が困難となる。また、フィルムがテンターを出た直後で切り粉を除去する場合には、フィルム両面に付着した切り粉を全巾で除去するための大掛かりな除塵装置が必要となる。このため、コスト増となる上に除塵装置の設置スペースの問題も生じる。更に、後段の搬送ロール群のどこかで切り粉を除去する場合には、除去するまでの搬送ロール群を切り粉で汚してしまう問題も生じる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特開2007−320238号公報
【特許文献2】特開昭51−46372号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
本発明の目的は、前述のように従来技術では解決できなかった、光の反射率が高く隠蔽性の高い二軸延伸された白色フィルムのエッジ部をテンター内で切断しても切り粉の発生が抑制され、フィルムに付着する異物のない低熱収の二軸延伸フィルムの製造方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0009】
ここに、前記課題を解決するための本発明として、「不活性粒子を1〜15重量%含有する熱可塑性樹脂からなるA層と不活性粒子を20〜80重量%含有する熱可塑性樹脂からなるB層が少なくとも2層交互に積層してダイより押出し、少なくともその片面にB層が露出した未延伸フィルムとし、その後にテンターの中で前記未延伸フィルムを延伸すると共にそのエッジ部を刃で切断して縦弛緩熱処理する方法において、前記未延伸フィルムの両エッジ部をA層のみからなる単層として、前記単層部をテンター内で刃で切断し、テンターを出たフィルムの多層部をさらにトリミンングして製品部分を巻き取ることを特徴とする二軸延伸フィルムの製造方法」が提供される。
なお、本発明においては、前記A層とB層に含まれる前記不活性粒子が硫酸バリウムおよび/または酸化チタンであることが好ましい。
【発明の効果】
【0010】
本発明によれば、光の反射率が高く隠蔽性の高いに軸延伸された白色フィルムを製造するために、フィルム中に多量の不活性粒子が含まれていたとしても、エッジ部を切断するようにしても切り粉を生じることなく低熱収縮のフィルムを得ることができる。
【発明を実施するための形態】
【0011】
以下、本発明の二軸延伸フィルムの製造方法について説明する。
本発明の二軸延伸フィルムは、製品となる中央部は多量の不活性粒子を含むB層と不活性粒子の少ないA層とが積層された多層フィルムであって、前記B層が少なくともフィルムの片面に露出したものである。このようなフィルムでは不活性粒子自体は延伸されないため、延伸されると周囲の樹脂との間にボイドが形成され、このボイドの作用によりライトの反射率が向上するなどの機能がフィルムに付与される。
【0012】
一方、本発明の二軸延伸フィルムのエッジ部は、テンター内でフィルムが延伸される際にグリップされる製品とならない部分であるので、この部分は製品となる中央部と切り離す必要がある。そこで、フィルムのエッジ部を不活性粒子の少ないA層のみの単層として、エッジ部には延伸によってもボイドができないようにする。そうすると、テンター内でエッジ部に刃を入れても切り粉が発生しないが、ボイドが形成されたフィルム部に刃を入れてしまうと高温で軟化した樹脂とともに不活性粒子が脱落してしまい切り粉となる。
【0013】
本発明における縦弛緩熱処理の例としては、テンターの熱固定ゾーンを経た直後に二軸延伸フィルムの単層となった両端部に刃を挿入してクリップから切離し、テンタークリップの走行速度より後続の引き取りローラーの速度をわずかに減じて、フィルムを弛緩させる。このようにすれば、フィルムは、走行方向である縦方向に弛緩するので常温まで冷却し、巻き取り装置で巻き取ることで低熱収縮のフィルムを製造できる。このとき、弛緩率は0.5〜2.0%が好ましい。なお、弛緩率が下限より小さいと熱収縮率を下げる効果が殆どなく、逆に上限を超えるとフィルムの平面性が悪化する。
【0014】
なお、フィルムを弛緩処理する時の処理温度は(Tg+80)〜(Tg+150)℃が好ましい(但し、Tgはポリエステルのガラス転移温度)。また、フィルムのエッジ部を切断するための刃は市販のものを使用できるが、耐磨耗の点から超硬刃が好ましく、その厚みは50〜250μmが好ましい。
【0015】
本発明においては、以上に説明したようにフィルムのエッジ部を切断した後、縦方向に弛緩処理した直後から巻き取るまでの間の常温に近い状態にまでなった製品となる多層部でフィルムのエッジをトリミングする。なお、このトリミングは従来公知の方法で実施することができるが、フィルムの多層部と単層部の境界は異樹脂の境界であり延伸性も異なることから厚み斑が存在することが多く、境界を含む状態で巻き取ると端面ズレなどの巻き異常を生じる。
【0016】
本発明において、反射面を構成する層をB層、他方の層をA層とすると、白色積層ポリエステルフィルムを構成するポリエステルA層は粒子を、好ましくは1〜15重量%含有する。何故ならば、1重量%未満であると滑性が低下して巻取りが難しくなり好ましくなく、15重量%を超えると破れやすいフィルムとなり、製膜性が低下すると共に切り粉の発生が多くなって好ましくない。
【0017】
他方、B層には不活性粒子を20〜80重量%含有することが好ましい。何故ならば、20重量%未満であっても良いがフィルムとしての機能が低下するからである。逆に、80重量%を超えると延伸する際に製品部のB層でボイドが無数に発生してこれらが連なって大きな穴明き異常が生じる。
【0018】
なお、A層とB層の不活性粒子は、その平均粒径は0.3〜3.0μmが好ましく、平均粒径が0.3μm未満であると分散性が極端に悪くなり、粒子の凝集が起こるため生産工程上のトラブルが発生しやすい。
【0019】
その際、粒子の平均粒径は、島津製作所製CP―50型セントリフュグル パーティクル サイズ アナライザー(Centrifugal Particle Size Analyzer)を用いて測定した。得られる遠心沈降曲線を基に算出した各粒径の粒子とその存在量との積算曲線から、50マスパーセントに相当する粒径を読み取り、この値を上記平均粒径とした(「粒度測定技術」日刊工業新聞社発行、1975年、頁242〜247参照)。
【0020】
本発明のフィルムに用いる不活性粒子としては、フィルムの可視光透過率を下げ反射性能を向上させる観点では好ましくは白色顔料を用いる。この白色顔料としては、例えば、酸化チタン、硫酸バリウム、炭酸カルシウム、二酸化珪素、好ましくは、硫酸バリウムおよび/または酸化チタンを用いる。硫酸バリウムは板状、球状いずれの粒子形状でもよい。硫酸バリウムを用いることで一層良好な反射率を得ることができる。酸化チタンを用いる場合、ルチル型酸化チタンを例示できる。
【0021】
本発明において、多層フィルムは熱可塑性樹脂を従来から知られる方法で2層以上に積層しダイより押出して得られる。例えば、公知のフィードブロック法により溶融樹脂の状態で製品該当部を2層以上に積層し、その両端へA層のみを合流積層させ(特開2002−225107)、ダイよりシート状に押し出すことができる。また、フィードブロックで多層に積層させ、エッジ部のA層はダイの両端部で個別に合流させるダイ(特開平9−76323)を例示できる。ダイから吐出されたシート状の溶融樹脂は、静電気を印加してキャストドラム上に密着冷却固化される。
【0022】
このようにして得られた未延伸フィルムを縦方向に(Tg−10)〜(Tg+70)℃の温度で2.5〜5.0倍の倍率で延伸し、次いでテンターで横方向にTg〜(Tg+70)℃の温度で2.5〜5.0倍の倍率で延伸し、更に(Tg+70)〜Tm℃の温度で熱固定することで製造することができる(Tm:融点)。また、ポリエチレンテレフタレートフィルムについては190〜240℃で熱固定するのが好ましい。熱固定時間は1〜60秒が好ましい。また、二軸延伸後のフィルム厚みは38〜300μmが好ましく、この範囲より薄いと弛緩しにくい。
【0023】
本発明における熱可塑性樹脂は、ポリエチレンテレフタレート、ポリブチレンテレフタレート、ポリエチレン−2,6−ナフタレート等のポリエステル類、ポリエチレン、ポリプロピレン等のポリオレフィン類、ナイロン6、ナイロン66等のポリアミド類、ポリイミド類、ポリスチレン類、ポリカーボネート類、ポリビニル類等の溶融押出し成形に用いられる樹脂である。本発明で好適なポリエステル類は、ジカルボン酸成分とグリコール成分からなるポリエステルである。このジカルボン酸成分としては、例えばテレフタル酸、イソフタル酸、ナフタレン−2,6−ジカルボン酸の如き芳香族ジカルボン酸が好ましく、またグリコール成分としては、エチレングリコール、ジエチレングリコール、テトラメチレングリコール、ネオペンチルグリコールの如きグリコールが好ましい。
【0024】
本発明におけるポリエステルは、例えば芳香族ジカルボン酸とグリコールとを直接重縮合させて得ることができるが、芳香族ジカルボン酸のジアルキルエステルとグリコールとをエステル交換反応させた後重縮合させる方法によっても得ることができる。このようなポリマーの代表例としては、ポリエチレンテレフタレート、ポリブチレンテレフタレート、ポリエチレン−2,6−ナフタレートを挙げることができる。ポリエステルは、これらの共重合体であってもよく、或いはこれら以外の第3成分を共重合させたものであってもよい。
上記熱可塑性樹脂には、安定剤、滑剤、ピンニング剤、粘度調整剤、酸化防止剤、顔料、着色染料、蛍光増白剤、紫外線吸収剤、帯電防止剤等を含有させてもよい。
【実施例】
【0025】
以下、実施例によって本発明を更に具体的に説明する。なお、物性と表中の評価は下記要領とした。
(1)切り粉
24時間の製膜で評価した。切り粉はロールに付着するため、テンター出口の引き取りロールの白化汚れを目視で確認できるので、目視で白化するまでの時間で評価した。
○:24時間、白化していない。
△:約4時間で白化が確認できる。
×:約0.5時間で白化が確認できる。
(2)ブツ
切り粉は巻き取った製品フィルムからなるロールを剥ぎ取っていった際に表面の突起状物として確認できる。したがって、1.5時間に渡って巻き取った製品フィルムからなるロールを展開してブツの個数をフィルム外層から内層まで数えた。
(3)85℃熱収縮率
熱処理温度が85℃に設定されたオーブン中でフィルムサンプルを無緊張状態で30分間保持し、加熱処理前後の標点間距離を測定し、下記式により熱収縮率を算出した。
熱収縮率(%)=((L−L)/L)×100
:熱処理前の標点間距離
L :熱処理後の標点間距離
【0026】
[実施例1]
熱可塑性樹脂として固有粘度(オルトクロロフェノール、35℃)0.64dl/gのイソフタル酸ポリエチレンテレフタレートで共重合成分が12mol%に、平均粒径0.8μmの硫酸バリウムをA層に4重量%含有させ、B層に50重量%含有させたものをそれぞれ準備した。
それぞれのポリエチレンテレフタレートのペレットを160℃で4時間乾燥して別々の溶融押出機に供給し、275℃で溶融状態とし、フィードブロック内でA層とB層の2層となるように積層し、さらにA層がダイの両端部30mmに位置するように幅方向に積層して、ダイより押し出し未延伸シートとした。得られた未延伸シートを静電印加しながら、キャスティングドラム上で15m/分の速度で引き取り、急冷固化した。
【0027】
このようにして得られた未延伸フィルムをロールの周速差とIRヒーターを利用し、90℃、3.2倍で縦延伸した後、ついでテンターで120℃、3.4倍で横延伸し、両端の単層部に刃を入れてクリップからフィルムを切り離し、弛緩率を1.0%、190℃で縦弛緩熱処理して、188umの2軸延伸ポリエステルフィルムを連続して巻き取った。
このようにして24時間製膜した状況を表1に示した。その結果、切り粉の発生は認められなかった。なお、85℃で30分間にわたって熱処理した際の低熱収縮フィルムの縦熱収縮は0.30であった。
【0028】
[実施例2、3]
B層の顔料濃度を変更した以外は実施例1と同様の条件で製膜した。その結果、切り粉の発生は認められなかった。
【0029】
[実施例4]
A層とB層の顔料を変更した以外は実施例1と同様の条件で製膜した。その結果、切り粉の発生は認められなかった。
【0030】
[比較例1]
両エッジ部までA層とB層の2層とした以外は実施例2と同様に製膜した。その結果、切り粉が多量に発生したことが認められた。
【0031】
[比較例2]
両エッジ部までA層とB層の2層とした以外は実施例3と同様に製膜した。その結果、切り粉が多量に発生したことが認められた。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
不活性粒子を1〜15重量%含有する熱可塑性樹脂からなるA層と不活性粒子を20〜80重量%含有する熱可塑性樹脂からなるB層が少なくとも2層交互に積層してダイより押出し、少なくともその片面にB層が露出した未延伸フィルムとし、その後にテンターの中で前記未延伸フィルムを延伸すると共にそのエッジ部を刃で切断して縦弛緩熱処理する方法において、前記未延伸フィルムの両エッジ部をA層のみからなる単層として、前記単層部をテンター内で刃で切断し、テンターを出たフィルムの多層部をさらにトリミンングして製品部分を巻き取ることを特徴とする二軸延伸フィルムの製造方法。
【請求項2】
前記B層に含まれる不活性粒子が硫酸バリウムおよび/または酸化チタンである、請求項1に記載の二軸延伸フィルムの製造方法。

【公開番号】特開2010−280123(P2010−280123A)
【公開日】平成22年12月16日(2010.12.16)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−134988(P2009−134988)
【出願日】平成21年6月4日(2009.6.4)
【出願人】(301020226)帝人デュポンフィルム株式会社 (517)
【Fターム(参考)】