説明

二軸延伸ポリエステルフィルムおよびその製造方法

【課題】引裂直線性を有し、かつフィルム中の残留アウトガス量が低減された二軸延伸ポリエステルフィルムを提供する。
【解決手段】変性ポリブチレンテレフタレート(変性PBT)と、ポリエチレンテレフタレート(PET)とを含有する二軸延伸フィルムであり、変性PBTとPETとの質量比(変性PBT/PET)が20/80〜5/95であり、変性PBTが、分子量600〜4,000のポリテトラメチレングリコール単位5〜20質量%を含有するPBTであり、二軸延伸フィルムをヘリウムガス雰囲気下で180℃、30分間熱処理することにより発生するテトラヒドロフラン(THF)量が50μg/g以下であり、長手方向に引裂直線性を有することを特徴とする二軸延伸ポリエステルフィルム。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、包装材料、電気絶縁材料、一般工業材料等に使用されるフィルムとして好適な、引裂直線性を有するポリエステルフィルムに関する。
【背景技術】
【0002】
食品、医薬品、雑貨の包装には、各種のプラスチックフィルムを用いた包装袋が多く使用されており、二軸延伸されたプラスチックフィルムに、ヒートシール可能な無配向プラスチックが2層あるいは3層以上ラミネートされた包装袋が広く使用されている。
プラスチックフィルムのなかでも、二軸延伸ポリエステルフィルムは、耐久性、防湿性、力学的強度、耐熱性、耐油性が優れており、チューブラー法、フラット式同時二軸延伸法、フラット式逐次二軸延伸法などを用いて製造され、食品包装分野などにおいて幅広く使用されている。
【0003】
しかしながら、二軸延伸ポリエステルフィルムを用いた包装袋は、引裂開封性が悪いという問題点を有している。開封性を良くするためにノッチを付与する方法があるが、ノッチから引き裂いた際に直線的に引き裂けない現象がしばしば発生し、内容物が飛散して無駄になるばかりでなく、クッキーなどの軟らかい菓子は、開封時に割れたり、内容物が液体の場合には衣服を汚したりするトラブルが起こる場合がある。
【0004】
フィルムを引き裂いた際に直線的に引裂ける引裂直線性に優れる易開封性材料としては、一軸延伸ポリオレフィンフィルムを中間層としてラミネートしたものがある。このようなものとしては、たとえば、二軸延伸ポリエステルフィルム/一軸延伸ポリオレフィンフィルム/無延伸ポリオレフィンフィルムの3層ラミネートフィルムがあるが、わざわざ中間層を設けなければならず、コスト的に問題があり、用途が限定されていた。
【0005】
そこで、本出願人は先に二軸延伸ポリエステルフィルム自体に引裂直線性を付与する方法として、分子量600〜4000のポリテトラメチレングリコール(PTMG)を5〜20%の割合で含有したポリブチレンテレフタレート(変性PBT)を、ポリエチレンテレフタレート(PET)に、変成PBT/PET=30/70〜5/95の割合で配合する方法を見出した(特許文献1〜6)。
【0006】
さらに、本出願人は、引裂直線性を有した二軸延伸ポリエステルフィルムの少なくとも片面に、酸化アルミニウムや酸化珪素などの金属化合物を蒸着することによって、酸素や水蒸気に対して高度なバリア性を有しつつ、引裂直線性を有した二軸延伸ポリエステルフィルムおよび積層体を提案した(特許文献7〜8)。
【0007】
しかしながら、この引裂直線性が付与された二軸延伸ポリエステルフィルムは、フィルム中に残留するアウトガスが、通常のポリエステルフィルムに比べて多いものであった。このため、高度な清浄性が要求される半導体などの電子材料を収納する容器や包装体を構成するフィルムとして、このフィルムを使用することができなかった。また、このフィルムは、真空雰囲気中で蒸着加工すると、ロール長の増加に伴って、蒸着層の品質が不安定になりやすいという問題点があった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【特許文献1】特開平10−168293号公報
【特許文献2】特開平11−227135号公報
【特許文献3】特開平11−300916号公報
【特許文献4】特開平11−302405号公報
【特許文献5】特開2000−318035号公報
【特許文献6】特開2002−20597号公報
【特許文献7】特開2001−162752号公報
【特許文献8】特開2006−150617号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
本発明の課題は、引裂直線性を有し、かつフィルム中の残留アウトガス量が低減された二軸延伸ポリエステルフィルムを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明者らはこのような課題を解決するために鋭意検討した結果、引裂直線性を有するポリエステルフィルムから発生するアウトガスは、一般のPETフィルムから発生するアウトガスに比べて、特にテトラヒドロフラン(THF)を多量に含んでいること、またこのTHFは、ポリテトラメチレングリコール(PTMG)を含有したPBT(変性PBT)から発生していることを明らかにした。本発明者らはこの変成PBTに残留するTHF量に着目し、チップの段階でこれを大幅に除去した後に、PET樹脂と配合し、フィルム化することによって、ポリエステルが引裂直線性機能を有しかつ、残留アウトガス量も少ない二軸延伸ポリエステルフィルムが得られることを見出し本発明に到達した。
【0011】
すなわち、本発明の要旨は、次の通りである。
(1)変性ポリブチレンテレフタレート(変性PBT)と、ポリエチレンテレフタレート(PET)とを含有する二軸延伸フィルムであり、変性PBTとPETとの質量比(変性PBT/PET)が20/80〜5/95であり、変性PBTが、分子量600〜4,000のポリテトラメチレングリコール単位5〜20質量%を含有するPBTであり、二軸延伸フィルムをヘリウムガス雰囲気下で180℃、30分間熱処理することにより発生するテトラヒドロフラン(THF)量が50μg/g以下であり、長手方向に引裂直線性を有することを特徴とする二軸延伸ポリエステルフィルム。
(2)上記(1)記載の二軸延伸ポリエステルフィルムの少なくとも片面に、アルミニウム、酸化アルミニウム、酸化珪素の少なくとも一種が蒸着され、ガスバリア性と引裂直線性とを有することを特徴とする二軸延伸ポリエステルフィルム。
(3)上記(1)記載の二軸延伸ポリエステルフィルムを製造するための方法であって、分子量600〜4,000のポリテトラメチレングリコール単位5〜20質量%を含有し、ヘリウムガス雰囲気下で180℃、30分間熱処理することにより発生するテトラヒドロフラン(THF)量が800μg/g以下である変性ポリブチレンテレフタレート(変性PBT)と、ポリエチレンテレフタレート(PET)とを、変性PBTとPETとの質量比(変性PBT/PET)が20/80〜5/95となるように配合して、製膜、延伸することを特徴とする二軸延伸ポリエステルフィルムの製造方法。
【発明の効果】
【0012】
本発明によれば、耐久性、防湿性、力学的性質、耐熱性、耐油性を有すると共に、長手方向に引裂直線性を有し、また残留アウトガス量も少ない二軸延伸ポリエステルフィルムが提供される。また、本発明のフィルムはアウトガスの発生量が少ないため、特に清浄性が要求される分野の包装袋に適しており、また真空状態にしても蒸着層を安定して形成することができる。
【図面の簡単な説明】
【0013】
【図1】フィルムの引裂直線性評価に用いた試験片の形状を示す。
【図2】引裂試験における引き裂き後の試験片の形状を示す図であり、(a)は引裂直線性が良好な試料の引き裂き後の試験片の例を示し、(b)は引裂直線性が不良な試料の引き裂き後の試験片の例を示す。
【発明を実施するための形態】
【0014】
本発明の二軸延伸ポリエステルフィルムは、変性ポリブチレンテレフタレート(変性PBT)と、ポリエチレンテレフタレート(PET)とを含有する。
【0015】
本発明においてPETは、テレフタル酸とエチレングリコールとを重合成分とするものであり、本発明の効果を損ねない範囲であれば、他の成分が共重合されてもよい。
他の共重合成分としては、イソフタル酸、フタル酸、2,6−ナフタレンジカルボン酸、5−ナトリウムスルホイソフタル酸、コハク酸、アジピン酸、セバシン酸、ドデカン二酸、ダイマー酸、無水マレイン酸、マレイン酸、フマール酸、イタコン酸、シトラコン酸、メサコン酸、シクロヘキサンジカルボン酸などのジカルボン酸、4−ヒドロキシ安息香酸、ε−カプロラクトン、乳酸などのオキシカルボン酸、1,3−プロパンジオール、1,6−ヘキサンジオール、シクロヘキサンジメタノールなどのグリコールや、トリメリット酸、トリメシン酸、ピロメリット酸、トリメチロールプロパン、グリセリン、ペンタエリスリトールなどの多官能化合物が挙げられる。
PETは、公知の製法、すなわち、テレフタル酸ジメチルとエチレングリコールとからのエステル交換反応法、あるいは、テレフタル酸とエチレングリコールとからの直接エステル化法によりオリゴマーを得た後、溶融重合、あるいはさらに固相重合して得ることができる。
【0016】
本発明において変性ポリブチレンテレフタレート(変性PBT)は、分子量600〜4,000のポリテトラメチレングリコール(PTMG)単位5〜20質量%を含有するポリブチレンテレフタレート(PBT)である。
【0017】
本発明において、変性PBTを構成するPTMGの分子量は、600〜4,000であることが必要であり、1,000〜3,000であることが好ましく、1,000〜2,000であることがさらに好ましい。PTMGの分子量が600未満の場合には、得られるフィルムの引裂直線性が得られず、4,000を超える場合には、得られるフィルムの機械的強度、寸法安定性、ヘーズなどの性能が低下し、また、安定した引裂直線性が発現しない。
【0018】
変性PBTにおけるPTMG単位の含有量は、5〜20質量%であることが必要であり、10〜20質量%であることが好ましく、10〜15質量%であることがさらに好ましい。PTMGの含有量が5質量%未満の場合には、得られるフィルムの引裂直線性が発現せず、20質量%を超える場合には、得られるフィルムの機械的強度、寸法安定性、ヘーズなどの性能が低下し、また、安定したフィルムの引裂直線性を得ることが困難となる。また、PTMGの含有量が20質量%を超える場合には、特に量産スケールで生産した場合に押出時にフィルムが脈動する現象(いわゆるバラス現象)が発現することがあり、フィルムの厚み斑が大きくなるという問題が発生することがある。
【0019】
変性PBTは、PBTの重合工程において、PTMGを添加して重縮合して得ることができる。たとえば、ジメチルテレフタレートと1,4−ブタンジオールのエステル交換反応物と、分子量600〜4,000のPTMGとの重縮合反応により得ることができる。
【0020】
本発明の二軸延伸ポリエステルフィルムにおいて、変性PBTとPETの質量比(変性PBT/PET)は、20/80〜5/95であることが必要であり、15/85〜10/90であることが好ましい。変性PBTの質量比率が5質量%未満の場合には、フィルムの引裂直線性を得ることが困難となる。また、20質量%を超える場合には、フィルムの厚み変動が大きくなったり、得られるフィルムの引裂直線性が低下するのみならず、本発明で規定したアウトガス発生量を超える恐れがある。すなわち、フィルムに引裂直線性を付与し、またアウトガス発生量を低減するためには、変性PBTとPETの混合比率を上記範囲内とすることが必要である。
【0021】
なお、本発明の二軸延伸ポリエステルフィルムは、本発明の効果を損ねない範囲であれば、ポリエチレンナフタレート、ポリシクロヘキシレンジメチレンテレフタレートなどの他のポリマーを含有することができる。
【0022】
本発明の二軸延伸ポリエステルフィルムは、ヘリウムガス雰囲気下で180℃、30分の熱処理を行った際に発生するテトラヒドロフラン(THF)量が、50μg/g以下であることが必要であり、30μg/g以下であることが好ましく、20μg/g以下であることがより好ましい。本発明において、発生する成分の中で特にTHFの発生量を規定する理由は、THFが揮発性(低沸点)の成分であるためである。
THF発生量が50μg/gを超える場合、発生したTHFによって、包装された内容物を汚染してしまう恐れがある。また、ガスバリア性、水蒸気ガスバリア性向上を目的として二軸延伸ポリエステルフィルム上に蒸着加工が施されても、蒸着処理中にフィルムからTHFが発生して蒸着膜の形成に悪影響を及ぼし、フィルムのガスバリア性、水蒸気ガスバリア性が安定して向上しない恐れがある。
【0023】
本発明の二軸延伸ポリエステルフィルムから発生するTHF量を、本発明で規定する50μg/g以下とするには、フィルム製造時に使用する変成PBTチップから発生するTHF量を、800μg/g以下とすることが好ましく、500μg/g以下とすることがより好ましく、300μg/g以下とすることが最も好ましい。変成PBTから発生するTHF量が800μg/gより大きい場合、変成PBTとPETの配合比によっては、フィルム中から発生するTHF量が本発明で規定した値より大きくなることがある。
【0024】
変成PBTチップから発生するTHF量を800μg/g以下にする方法としては、重合された変成PBTチップを減圧環境下で乾燥させる方法や、窒素雰囲気下で乾燥させる方法、熱風ドライヤーで乾燥させる方法が挙げられるが、減圧環境下での乾燥が最も効率的であり、作業性・経済性の観点からも好ましい。
これらの方法で乾燥させる場合、温度は80〜180℃が好ましく、時間は12時間以上が好ましく、24時間以上がより好ましい。また減圧環境下で乾燥させる場合は、上記温度、時間に加えて、減圧度は10Pa以下が好ましい。
【0025】
本発明の二軸延伸ポリエステルフィルムを製造するには、まず、たとえば、変性PBTとPETを混合したものを押出機に投入し、加熱溶融した後、Tダイのダイオリフィスからシート状に押し出し、未延伸シートを製造する。Tダイのダイオリフィスから押し出されたシートは、静電印加キャスト法などにより冷却ドラムに密着して巻きつけて冷却し、次に、温度90〜140℃で、縦横にそれぞれ3.0〜5.0倍の倍率で延伸し、さらに温度210〜245℃で熱処理し、二軸延伸フィルムとする。
延伸温度が90℃未満の場合には、均質な延伸フィルムを得ることができない場合があり、140℃を超えると、PETの結晶化が促進されて、透明性が悪くなる場合がある。延伸倍率が3.0倍未満の場合には、得られる延伸フィルムの強度が低く、袋にしたときにピンホールが発生しやすくなり、延伸倍率が5.0倍を超えると延伸が困難となる場合がある。また、熱処理温度が210℃より低いと、得られる延伸フィルムの熱収縮率が大きくなり、製袋後の袋が変形する場合があり、また、熱処理温度が245℃より高いとフィルムの溶断が発生する場合がある。
【0026】
なお、二軸延伸方法としては、テンター同時二軸延伸法、ロールとテンターによる逐次二軸延伸法のいずれでもよい。また、チューブラー法で二軸延伸フィルムを製造してもよい。
【0027】
上記のようにして得られた本発明の二軸延伸ポリエステルフィルムは、アルミニウム、酸化珪素、酸化アルミニウムを、または酸化珪素と酸化アルミニウムのようにこれらの二種以上の成分の組み合わせを、フィルムの少なくとも片面に蒸着処理を施すことによって、フィルムの酸素ガスバリア性、水蒸気バリア性を高めることができる。蒸着薄膜の作製方法としては、真空蒸着法、EB蒸着法、スパッタリング法、イオンプレーティング法などを用いることができるが、生産性やコストの点から、真空蒸着法が最も好ましい。
【0028】
真空蒸着法は、フィルムをチャンバー内で真空状態にした後、蒸着させる成分を溶融させた後、蒸発させてフィルムに付着し膜を形成させる方法である。この方法では、フィルム中にアウトガスが多量に存在すると、チャンバー内の真空度がアウトガスの放散によって安定しないという問題が発生し、蒸着膜の形成が不安定となり、所望の酸素バリア、水蒸気バリア性を得ることが困難になることがある。特に、ロールフィルムに真空蒸着を行う場合は、ロール表面が連続的に更新されるため、蒸着開始時は安定した蒸着膜を形成できても、フィルム中にアウトガスが残留していた場合は、蒸着処理が進むにしたがって蒸着膜の形成が不安定となる場合がある。しかしながら本発明の二軸延伸ポリエステルフィルムはアウトガス残留量が少ないので、ロールフィルムであっても、蒸着層を安定して形成することができる。
【0029】
なお、本発明の二軸延伸ポリエステルフィルムの表面は、アルミニウム等の蒸着膜との密着性を向上させるために、あらかじめコロナ放電処理やアンカーコート剤を塗布するなどの方法により前処理しておくことが好ましい。
【0030】
また本発明の二軸延伸ポリエステルフィルムは、その用途に応じて、コロナ放電処理、表面硬化処理、メッキ処理、着色処理、あるいは各種のコーティング処理により、その表面を処理することができる。
【実施例】
【0031】
次に、本発明を実施例によって具体的に説明する。なお、実施例及び比較例の評価方法は、次の通りである。
【0032】
(1)引裂直線性の評価
二軸延伸ポリエステルフィルムより長手方向(MD)に205mm、巾方向(TD)に20mmの短冊状のフィルム片を採取し、このフィルム片の一方のTD辺の中央部に長さ5mmの切り込み(ノッチ)を入れた試料を10本作製し、次にノッチよりMD方向に手で引き裂き、引裂伝播端がノッチを入れた辺に向かい合うTD辺に到達した試料本数を評価した。
評価基準を下記に示す。
評価◎:到達した試料片が9〜10本
評価○:到達した試料片が7〜8本
評価△:到達した試料片が5〜6本
評価×:到達した試料片が4本以下
本発明においては評価○以上を合格とした。
【0033】
(2)アウトガス成分の特定と発生量の測定
アウトガス成分の特定は、二軸延伸ポリエステルフィルムまたは変成PBTチップ約15mgを精秤して試料カップに詰め、パイロライザー(PY−2020iD)中、ヘリウムガス雰囲気下で180℃×30分間加熱し、発生した揮発成分についてGC/MS(GC:Agilent 6890N、MS:Agilent 5975C)測定により行った。この際、発生したアウトガスは、テトラヒドロフラン(THF)、1,4−ブタンジオール(BD)、水であり、二軸延伸ポリエステルフィルムからは、エチレングリコール(EG)も発生した。
各アウトガスの発生量については、以下の標準試料と内部標準を用いて測定した。すなわち、標準試料として、ヘキサン中に、ヘキサデカン、THF、BDおよびEGが各100ppm溶解した溶液を調製し、これを試料と同じ条件でGC/MS測定を行い、ヘキサデカンに対する各成分のピーク面積比を算出した。次に内部標準としてヘキサデカン濃度が100ppmのヘキサン溶液を調製し、二軸延伸ポリエステルフィルムまたは変成PBTチップ約15mgを精秤した試料に、この内部標準5μl添加してGC/MS測定を行うことにより、各アウトガス成分の発生量を定量した。
【0034】
(3)蒸着フィルム性能の評価
ポリエステル系樹脂(ユニチカ社製エリーテルUE−3200、Tg:65℃)とイソシアネート系硬化剤(東洋モートン社製CAT−10)とを、10/1(質量比)の配合比で混合して塗料を調製した。得られた塗料をアンカーコート剤として、厚みが0.1μmとなるように、巻長8000mの二軸延伸ポリエステルフィルム上に塗布したのち、連続式真空蒸着装置を用いて、蒸着厚みが40〜50nmとなるように、酸化アルミニウム層を蒸着した。この蒸着フィルムの表層(投入した二軸延伸ポリエステルフィルムの巻芯側)から100m、2000m、4000m、7500mの部分でサンプリングを行い酸素透過度、水蒸気透過度の測定を行った。
【0035】
(3−a)酸素透過度(ml/m・day・MPa)
JIS K−7129に準じて、モダンコントロール社製、OX−TRAN100型を用いて、温度20℃、湿度100%RHの条件下で測定した。
評価基準を下記に示す。
評価◎:酸素透過度が20ml/(m・day・MPa)未満
評価○:酸素透過度が20以上、30ml/(m・day・MPa)未満
評価△:酸素透過度が30以上、50ml/(m・day・MPa)未満
評価×:酸素透過度が50ml/(m・day・MPa)以上
本発明においては評価○以上を合格とした。
【0036】
(3−b)水蒸気透過度(g/m・day)
JIS K−7129に準じて、モダンコントロール社製、PARMATRAN W3/31を用いて温度40℃、湿度90%RHの条件下で測定した。
評価基準を下記に示す。
評価◎:水蒸気透過度が2g/(m・day)未満
評価○:水蒸気透過度が2以上、5g/(m・day)未満
評価△:水蒸気透過度が5以上、10g/(m・day)未満
評価×:水蒸気透過度が10g/(m・day)以上
本発明においては評価○以上を合格とした。
【0037】
実施例1
<変性PBTの製造>
ジメチルテレフタレート194質量部と、1,4−ブタンジオール108質量部と、テトラブチルチタネート80ppm(ポリマーに対するチタン金属の質量に換算した数値)とを、150℃から210℃に加熱昇温しながら、2.5時間エステル交換反応を行った。得られたエステル交換反応生成物85質量部を重合缶に移送し、テトラブチルチタネートを40ppm添加した後、分子量1,100のPTMGを15質量部添加して、減圧を開始し、最終的に1hPaの減圧下、210℃から昇温し最終的に245℃の温度で2時間溶融重合し、相対粘度1.62の変性PBTを製造した。
製造された変成PBTから発生したアウトガス量は、THF3000μg/g、1,4−ブタンジオール(BD)10μg/gであった。
上記方法で製造された変性PBTを、減圧乾燥機内で120℃、5Pa条件下で72時間乾燥させた。乾燥後の変成PBTから発生したアウトガス量は、THF280μg/g、BD5μg/gであった。
<二軸延伸ポリエステルフィルムの製造>
この変成PBTとPET(相対粘度:1.38)とを、質量比15/85で単純チップ混合したものを、コートハンガータイプのTダイを具備した200mmφ押出機を使用して、樹脂温度280℃で溶融押出し、20℃に温調されたキャストロールにピニングワイヤーに7kVの印加電圧をかけて密着急冷し、厚さ約190μmの未延伸シートを得た。
得られた未延伸シートを、ロール縦延伸機で90℃で3.5倍、テンター横延伸機で120℃で4.5倍に延伸した後、横方向の弛緩率を3%として、235℃で熱処理を施し、室温まで徐冷し、厚さ12μmの二軸延伸ポリエステルフィルムを得た。
製造された二軸延伸ポリエステルから発生したアウトガス量はTHF8μg/g、BD1μg/g、エチレングリコール(EG)70μg/gであった。
【0038】
実施例2〜3、比較例1
変成PBTチップの乾燥時間を表1に示すように変更した以外は実施例1と同様にして二軸延伸ポリエステルフィルムを得た。
【0039】
実施例4
変成PBTチップを5mの乾燥機に入れ、120℃雰囲気下にて、乾燥機内に窒素を5m/sの流量で流しつつ24時間乾燥させた。乾燥後の変成PBTから発生したアウトガス量はTHF480μg/g、BD8μg/gであった。この変成PBTチップを用いて実施例1と同様にして二軸延伸ポリエステルフィルムを得た。
【0040】
実施例5、比較例2
変成PBTチップの乾燥時間を表1に示すように変更した以外は実施例4と同様にして二軸延伸ポリエステルフィルムを得た。
【0041】
実施例6
変成PBTチップを、120℃の熱風乾燥機にて72時間乾燥させた。乾燥後の変成PBTから発生したアウトガス量はTHF1200μg/g、BD9μg/gであった。この変成PBTチップを用いて実施例1と同様にして二軸延伸ポリエステルフィルムを得た。
【0042】
比較例3
変成PBTチップの乾燥時間を表1に示すように変更した以外は実施例6と同様にして二軸延伸ポリエステルフィルムを得た。
【0043】
実施例7〜9、比較例4〜5
変成PBTチップ中のPTMGの割合を表1に示すように変更した以外は実施例1と同様にして二軸延伸ポリエステルフィルムを得た。
【0044】
実施例10〜12、比較例6〜7
変成PBTとPETの配合割合を表1に示すように変更した以外は実施例1と同様にして二軸延伸ポリエステルフィルムを得た。
【0045】
実施例13〜15、比較例8〜9
変成PBTに用いるPTMGの分子量を表1に示すように変更した以外は実施例1と同様にして二軸延伸ポリエステルフィルムを得た。
【0046】
実施例16
変成PBTとPETの配合割合を表1に示すように変更した以外は実施例6と同様にして二軸延伸ポリエステルフィルムを得た。
【0047】
比較例10
変成PBTとPETの配合割合を表1に示すように変更した以外は比較例1と同様にして二軸延伸ポリエステルフィルムを得た。
【0048】
実施例、比較例で得られた二軸延伸ポリエステルフィルムの引裂直線性、発生したアウトガス中のTHF量、また、このフィルムに蒸着処理を施した後の酸素透過度、水蒸気透過度の評価結果などを表1に示す。
【0049】
【表1】

【0050】
表1から明らかなように、実施例では、変成PBTに含まれるPTMG量とその分子量や、変成PBTとPETとの配合割合、二軸延伸ポリエステルフィルムから発生するTHF量が、本発明で規定する範囲を満たすことによって、優れた直線引裂性を有し、アウトガスの発生量も少なく、蒸着処理後のフィルムのガスバリア性が安定したフィルムを作成することができた。
これに対し、比較例では、次のような問題があった。
比較例1〜3では、変成PBTに含まれるPTMG量とその分子量や、変成PBTとPETの配合割合が、本発明で規定する範囲を満たすので、直線引裂性を有するフィルムが得られたものの、THF発生量が本発明で規定した範囲を超えていたために、蒸着フィルムは、酸素透過度・水蒸気透過度が不安定となった。
比較例4では、変成PBT中に含まれるPTMGの割合が本発明で規定する範囲より多かったため、製膜が困難となり、二軸延伸ポリエステルフィルムを採取することができなかった。また比較例5では、本発明で規定するTHF発生量を満たすので、蒸着フィルムの酸素透過度・水蒸気透過度は安定したものの、変成PBT中に含まれるPTMGの割合が本発明で規定する範囲より少なかったため、良好な引裂直線性を有するフィルムを得ることができなかった。
比較例6〜7では、本発明で規定するTHF発生量を満たすので、蒸着フィルムの酸素透過度・水蒸気透過度は安定したものの、変成PBTとPETの割合が本発明で規定する範囲外であるために、良好な引裂直線性を有するフィルムを得ることはできなかった。
比較例8〜9では、本発明で規定するTHF発生量を満たすので、蒸着フィルムの酸素透過度・水蒸気透過度は安定したものの、変成PBTチップに含まれるPTMGの分子量が本発明で規定する範囲外であるために、良好な引裂直線性を有するフィルムを得ることはできなかった。
比較例10では、二軸延伸ポリエステルフィルム中から発生するTHF量が本発明で規定した範囲を超えていたために、蒸着フィルムの酸素透過度・水蒸気透過度が不安定となった。さらに変成PBTとPETの割合が本発明で規定する範囲外であるために、良好な引裂直線性を有するフィルムを得ることはできなかった。



【特許請求の範囲】
【請求項1】
変性ポリブチレンテレフタレート(変性PBT)と、ポリエチレンテレフタレート(PET)とを含有する二軸延伸フィルムであり、変性PBTとPETとの質量比(変性PBT/PET)が20/80〜5/95であり、変性PBTが、分子量600〜4,000のポリテトラメチレングリコール単位5〜20質量%を含有するPBTであり、二軸延伸フィルムをヘリウムガス雰囲気下で180℃、30分間熱処理することにより発生するテトラヒドロフラン(THF)量が50μg/g以下であり、長手方向に引裂直線性を有することを特徴とする二軸延伸ポリエステルフィルム。
【請求項2】
請求項1記載の二軸延伸ポリエステルフィルムの少なくとも片面に、アルミニウム、酸化アルミニウム、酸化珪素の少なくとも一種が蒸着され、ガスバリア性と引裂直線性とを有することを特徴とする二軸延伸ポリエステルフィルム。
【請求項3】
請求項1記載の二軸延伸ポリエステルフィルムを製造するための方法であって、分子量600〜4,000のポリテトラメチレングリコール単位5〜20質量%を含有し、ヘリウムガス雰囲気下で180℃、30分間熱処理することにより発生するテトラヒドロフラン(THF)量が800μg/g以下である変性ポリブチレンテレフタレート(変性PBT)と、ポリエチレンテレフタレート(PET)とを、変性PBTとPETとの質量比(変性PBT/PET)が20/80〜5/95となるように配合して、製膜、延伸することを特徴とする二軸延伸ポリエステルフィルムの製造方法。



【図1】
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【図2】
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【公開番号】特開2013−53258(P2013−53258A)
【公開日】平成25年3月21日(2013.3.21)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−193431(P2011−193431)
【出願日】平成23年9月6日(2011.9.6)
【出願人】(000004503)ユニチカ株式会社 (1,214)
【Fターム(参考)】