説明

二軸延伸ポリエステルフィルム及びその製造方法並びに太陽電池モジュール

【課題】屋外で長期間の使用に耐えうる十分な耐加水分解性、電気絶縁性、強度、さらに透明性を有するポリエステルフィルム、およびその製造方法を提供する。
【解決手段】厚みが200μm以上800μm以下であり、縦延伸方向及び横延伸方向の破断強度がいずれも180MPa以上300MPa以下であり、内部ヘイズ(Hin)が0.3%以上20%以下であり、かつ、外部ヘイズ(Hsur)と内部ヘイズ(Hin)との差(ΔH=Hsur−Hin)が2%以下であり、極限粘度が0.68以上0.90以下である二軸延伸ポリエステルフィルム、その製造方法、並びにそれを用いた太陽電池発電モジュールを提供する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、二軸延伸ポリエステルフィルム及びその製造方法並びに太陽電池モジュールに関する。
【背景技術】
【0002】
ポリエステルフィルムは、電気絶縁用途や光学用途など、種々の用途で使用されている。電気絶縁用途としては、近年、特に、太陽電池用バックシート等の太陽電池用途が注目されている。
太陽電池用裏面保護シート(適宜、太陽電池用バックシート、又は、バックシートと記す)用のポリエステルフィルムには、長期間にわたって素子を保護するために優れた耐加水分解性能が求められる。また、太陽電池システムの作動時に高い電圧が長時間かかるため、バックシート用のポリエステルフィルムには高い電気絶縁性が求められる。現在、太陽電池システムは、1000Vに対応したものが提案されているが、今後更なる高性能化のため、システム電圧の更なる高電圧化が求められており、バックシートの絶縁性も更なる改良が切望されている。
屋外用ディスプレイ用途などのポリエステルフィルムには、耐候性と強度、および透明性が求められている。
【0003】
特許文献1には、基材フィルム上に無機酸化物からなる蒸着層を設けたガスバリア性蒸着フィルムと、電気絶縁性を有するポリエステルフィルムとを積層して一体化されてなる太陽電池用バックシートが提案されている。
特許文献2には、充填剤に接する樹脂フィルム及び最外層となる耐加水分解性白色樹脂フィルムとを有し、部分放電電圧が1000V以上である太陽電池用バックシートが提案されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2006−253264号公報
【特許文献2】特開2008−166338号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明は、屋外で長期間の使用に耐えうる十分な耐加水分解性、電気絶縁性、強度のほか、透明性を有するポリエステルフィルム、およびその製造方法を提供し得る。また、本発明は、長期間にわたって光電変換特性を維持することができる太陽電池モジュールを提供し得る。
【課題を解決するための手段】
【0006】
前記目的を達成するため、以下の発明が提供される。
<1> 厚みが200μm以上800μm以下であり、縦延伸方向及び横延伸方向の破断強度がいずれも180MPa以上300MPa以下であり、内部ヘイズ(Hin)が0.3%以上20%以下であり、外部ヘイズ(Hsur)と内部ヘイズ(Hin)との差(ΔH=Hsur−Hin)が2%以下であり、かつ、極限粘度が0.68以上0.90以下である二軸延伸ポリエステルフィルム。
<2> 最大長さが1μm以上の空隙の含有量が、二軸延伸ポリエステルフィルム400μmあたり1個以下である、<1>に記載の二軸延伸ポリエステルフィルム。
<3> 構成単位の80モル%以上がエチレンテレフタレート単位または1,4−シクロヘキサンジメチレンテレフタレート単位であり且つ末端カルボキシル基濃度が25eq/ton以下であるポリエステルからなる<1>又は<2>に記載の二軸延伸ポリエステルフィルム。
<4> グリコール可溶性のチタン化合物、アルミニウム化合物、及びゲルマニウム化合物からなる群より選択される少なくとも1つを重合触媒として用いて合成されたポリエステルを含み、かつ、リン元素の含有量と金属元素の含有量の総和が10ppm以上300ppm以下である<1>〜<3>のいずれか一つに記載の二軸延伸ポリエステルフィルム。
<5> 構成単位の0.1モル%〜20モル%または80モル%〜100モル%が1,4−シクロヘキサンジメチレンテレフタレート単位である<1>〜<4>のいずれか一項に記載の二軸延伸ポリエステルフィルム。
<6> <1>〜<5>のいずれか一つに記載の二軸延伸ポリエステルフィルムを製造する方法であって、
グリコール可溶性のチタン化合物、アルミニウム化合物、及びゲルマニウム化合物から選ばれる少なくとも1つを重合触媒として用いて合成され、かつ、リン元素の含有量と金属元素の含有量との総和が300ppm以下である原料ポリエステル樹脂を準備すること、
前記原料ポリエステル樹脂を、当該原料ポリエステルの融点より10℃高い温度以上であり且つ融点より35℃高い温度以下の範囲にある温度で可塑化させ、溶融押出して冷却することにより、厚みが2.5mm〜7.0mmの未延伸ポリエステルフィルムを形成すること、及び
前記未延伸ポリエステルフィルムを縦延伸及び横延伸して厚みが200μm以上800μm以下である二軸延伸ポリエステルフィルムを形成すること、
を含む方法。
<7> 前記原料ポリエステル樹脂の極限粘度IVが0.68〜0.95である<6>に記載のポリエステルフィルムの製造方法。
<8> カルボジイミド基の第一窒素と第二窒素とが結合基により結合されている環状構造を含む化合物が、前記冷却以前に、前記原料ポリエステル樹脂の質量に対して0.1質量%〜5質量%の量で前記原料ポリエステル樹脂に添加される、<6>又は<7>に記載の方法。
<9> <1>〜<5>のいずれか一つに記載の二軸延伸ポリエステルフィルムを備えた太陽電池発電モジュール。
【発明の効果】
【0007】
本発明は、屋外で長期間の使用に耐えうる十分な耐加水分解性、電気絶縁性、強度のほか、透明性を有するポリエステルフィルム、およびその製造方法を提供し得る。また、本発明は、長期間にわたって光電変換特性を維持することができる太陽電池モジュールを提供し得る。
【図面の簡単な説明】
【0008】
【図1】本発明の一実施形態に係るポリエステルフィルムの製造方法を実施するための二軸押出機の構成例を示す概略図である。
【図2】本発明の一実施形態に係るポリエステルフィルムの製造方法を実施するフローの例示的態様を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0009】
本明細書における数値範囲の表示は、当該数値範囲の下限値として表示される数値を最小値として含み、当該数値範囲の上限値として表示される数値を最大値として含む範囲を示す。
組成物中のある成分の量について言及する場合において、組成物中に当該成分に該当する物質が複数存在する場合には、特に別途定義しない限り、当該量は、組成物中に存在する当該複数の物質の合計量を意味する。
「工程」との語には、独立した工程だけでなく、他の工程と明確に区別できない場合であっても本工程の所期の作用を達成する工程であれば、本用語に含まれる。
組成物中のある成分の存在量を表示する単位「ppm」は、特に別途定義しない限り、質量基準(すなわち、組成物の全質量に対する当該成分の質量の表示)である。
【0010】
<二軸延伸ポリエステルフィルム>
本発明の一実施形態である二軸延伸ポリエステルフィルム(適宜、「ポリエステルフィルム」又は「フィルム」と記す。)は、厚みが200μm以上800μm以下であり、縦延伸方向及び横延伸方向の破断強度がいずれも180MPa以上300MPa以下であり、内部ヘイズ(Hin)が0.3%以上20%以下であり、かつ、外部ヘイズ(Hsur)と内部ヘイズ(Hin)との差(ΔH=Hsur−Hin)が2%以下であり、極限粘度が0.68以上0.90以下である。
【0011】
前記ポリエステルフィルムは、200μm以上の厚さでありながら、高い透明性を有する。すわなち、ヘイズの低い厚手のポリエステルである。また、前記ポリエステルフィルムは、200μm以上の厚さでありながら、高い耐加水分解性能と破断応力を有する。
【0012】
−フィルムの厚み−
前記二軸延伸ポリエステルフィルムの厚みは200μm〜800μmであり、好ましくは240μm〜500μmであり、特に好ましくは240μm〜400μmである。
フィルムの厚みが200μm未満では、1kV以上の部分放電電圧を得がたいことがある。1kV以上の部分放電電圧をより安定的に確保する観点からは、フィルム厚みは240μm以上であることが好ましい。
フィルム厚みが800μmを超えると、二軸延伸を行うために極めて大きな張力が必要となり、生産性が劣り得る。得られた二軸延伸フィルムの2次加工のための巻き取り、切断、搬送性の観点からは、フィルム厚みは500μm以下であることが好ましい。
【0013】
−破断強度−
太陽電池用バックシートや屋外ディスプレイ用保護フィルムとして十分な物理的強度を確保する観点から、前記ポリエステルフィルムの縦横延伸方向の破断強度はいずれも180MPa以上300MPa以下であり、200MPa以上250MPa以下であることが好ましい。破断強度が300MPaを越えると、フィルムの延伸時に破断が起き易くなり、生産性が劣り得る。良好な生産性とフィルムの実用強度を共に確保し得る最適な範囲は、205MPa以上240MPa以下であり得る。
【0014】
−ヘイズ−
フィルムのヘイズは小さいほど透明性が良化するので好ましいが、フィルムの破断強度が低下する。この観点から、前記ポリエステルフィルムの内部ヘイズ(Hin)は0.3%以上20%以下とされ、好ましくは0.5%以上15%以下であり、特に好ましくは1%以上10%以下である。内部ヘイズが0.3%未満であると、フィルムの破断強度が十分確保できない場合がある。また、内部ヘイズが20%を越えると、フィルムの延伸時に破断しやすくなり、生産適性が乏しい。
【0015】
前記二軸延伸ポリエステルフィルムにおいて、内部ヘイズ(Hin)と外部ヘイズ(Hsur)との差(ΔH=Hsur−Hin)は2%以下である。Hsurは、フィルム表面の反射光の散乱の大きさを意味する。ΔHが2%を超えると、フィルム表面の平坦性が悪く、表面光沢性が低下する。ΔHを0.1%未満にするためには、フィルム延伸工程でロールとの接触によるスリキズなどを極度に抑制するために生産速度を大きく下げる必要があるため、生産性が低下し得る。ΔHが1%以下であると、良好なフィルム表面の平坦性及び/又は表面光沢性を得うる。このため、ある実施形態において、ΔHは好ましくは0.1%以上1%以下である。
ここで、内部ヘイズ(Hin)は、二軸延伸フィルムをリン酸トリクレジルを満たした厚み10mmの石英セル中に入れ、ヘイズメータ(例えば、スガ試験機(株)製SMカラーコンピュータ、商品名:SM−T−H1型)によって測定する。フィルムをリン酸トリクレジル中に浸すことで、フィルム表面のキズや凹凸などによる反射や散乱等の影響が消去され、フィルム内部のヘイズを測定することができる。また、外部ヘイズ(Hsur)は、同様の装置を用い、二軸延伸フィルムをリン酸トリクレジルに浸さず直接測定する。
【0016】
−フィルム中の空隙−
前記二軸延伸ポリエステルフィルムは、フィルム中の最大長さが1μm以上の空隙が、1個/400μm以下であることが好ましく、実質的に上記サイズの空隙を有しないことが好ましい。フィルム中の空隙は、フィルムを鋭利なカッターで切断し、その断面を倍率1000倍の電子顕微鏡で観察することで確認される。
フィルムの製造工程におけるポリエステル中に不溶成分が存在すると、二軸延伸時に不溶成分とポリエステルとの界面が剥離し、フィルム中に空隙が生成する。ポリエステル重合のために使用した触媒や添加剤類、および原料のグリコール、ジカルボン酸化合物中の異物も空隙生成の原因となる。かかる空隙が存在すると、フィルム製造工程において、縦方向または横方向に延伸する際、破断が生じやすい。また、空隙の点在がフィルム破断時の起点になり、破断強度が安定しない。より好ましい空隙含有量は、フィルム400μmあたり最大長さ1μm以上の空隙が0.5個以下、さらに好ましくは0.2個以下である。
【0017】
−ポリエチレンテレフタレート成分の量−
前記ポリエステルフィルムは、ポリエチレンテレフタレートまたはポリ−1,4−シクロヘキサンジメチレンテレフタレートを主としたポリエステルからなることが好ましい。
前記ポリエステルフィルムがポリエチレンテレフタレートを主としたポリエステルからなる場合、ある実施形態において、ポリエステル中のエチレンテレフタレート単位の含有量は、ポリエステルを構成する重合性成分(すなわち、構成単位)の全てに対して80モル%以上であることが好ましく、85モル%以上であることがより好ましく、さらに好ましくは90モル%以上である。
前記ポリエステルフィルムがポリ−1,4−シクロヘキサンジメチレンテレフタレートを主としたポリエステルからなる場合、ある実施形態において、ポリエステル中の1,4−シクロヘキサンジメタノール(CHDM)単位の含有量は、ポリエステルを構成する重合性成分(すなわち、構成単位)の全てに対して80モル%以上であることが好ましく、85モル%以上であることがより好ましく、さらに好ましくは90モル%以上である。エチレンテレフタレート単位またはCHDM単位が80モル%以上であると、フィルムの耐熱性や耐加水分解性が優れ得る。
ある実施形態では、エチレンテレフタレート単位またはCHDM単位の含有量を前記好ましい範囲とし且つ20モル%を超えない範囲で他の共重合成分を添加することにより、ポリエチレンテレフタレートまたはポリ−1,4−シクロヘキサンジメチレンテレフタレートの結晶化速度および結晶化度を変化させ、これによりフィルムの内部ヘイズを低減することができる。
【0018】
またある実施形態では、前記ポリエステルフィルムがポリ−1,4−シクロヘキサンジメチレンテレフタレートを含有するポリエステルからなる場合、ポリエステル中の1,4−シクロヘキサンジメチレンテレフタレート(CHDM)単位の含有量は、ポリエステルの全構成単位に対して0.1モル%〜100モル%であり得、ある実施形態においては80モル%以上であることが好ましい。またある実施形態においては0.1モル%〜20モル%または80モル%〜100モル%であることが好ましく、0.5モル%〜16モル%または83モル%〜98モル%であることがさらに好ましく、1モル%〜12モル%または86モル%〜96モル%であることが一層好ましい。CHDM単位の含有量がこのような範囲であると、フィルムの耐候性が優れ得る。
前記好ましい態様においてはCHDM単位の含有量が少ない領域(0.1モル%〜20モル%)と多い領域(80モル%〜100モル%)との二つの領域が存在するのは、これらの領域において、特に、ポリエステルが結晶を形成し易く、結晶間に取り込まれた非晶が橋渡しする「タイチェーン」を形成し易いためである。すなわち、この二つの領域に於いてポリエステルが結晶構造を取りやすく、高い力学強度および高い耐熱性を発揮し易くなる。ポリエステルの分子内に、このようなCHDM単位由来の構造が存在することで、ポリエステル分子の配向性が増加し、タイチェーンの生成を促す。これは以下の理由によるものと考えられる。
【0019】
−環状構造化合物−
ある実施形態において前記ポリエステルフィルムは、(A)ポリエステルと、(B)カルボジイミド基の第一窒素と第二窒素とが結合基により結合されている環状構造を含む化合物(以下、環状カルボジイミド化合物とも称する)及び当該環状カルボジイミド化合物に由来する構造を有する成分の少なくとも一方と、を含有し得る。
ある実施形態においては、前記ポリエステルフィルムの作製において、前記ポリエステルフィルムを構成するポリエステルの量に対して、環状カルボジイミド化合物を0.1質量%〜5質量%添加し得る。
(B)環状カルボジイミド化合物は、いわゆる末端封止剤として前記(A)ポリエステルの末端カルボキシル基を封止して、ポリエステルフィルムの湿熱耐久性を改善することができる。
【0020】
環状カルボジイミド化合物は、その分子量が400以上であることが好ましく、500〜1500であることがより好ましい。
【0021】
環状カルボジイミド化合物は、環状構造を複数有していてもよい。
【0022】
環状カルボジイミド化合物において、環状構造は、カルボジイミド基(−N=C=N−)を1個有しその第一窒素と第二窒素とが結合基により結合されている。一つの環状構造中には、1個のカルボジイミド基のみを有する。環状カルボジイミド化合物はその分子中に1つ又は複数のカルボジイミド基を有し得る。環状カルボジイミド化合物が、例えば、スピロ環など、その分子中に複数の環状構造を有する場合には、スピロ原子に結合するそれぞれの環状構造中に1個のカルボジイミド基を有し、以って化合物の1分子中に複数のカルボジイミド基を有し得る。環状構造中の原子数は、好ましくは8〜50、より好ましくは10〜30、さらに好ましくは10〜20、一層好ましくは10〜15であり得る。
【0023】
ここで、環状構造中の原子数とは、環状構造を直接構成する原子の数を意味する。例えば、環状構造が8員環であれば当該原子数は8であり、環状構造が50員環であれば当該原子数は50である。環状構造中の原子数が8以上であると、環状カルボジイミド化合物の安定性が向上し、保管及び使用が容易となり得る。反応性の観点よりは環員数の上限値に関しては特別の制限はないが、合成上の困難によるコスト上昇を回避し得る観点からは、環状構造中の原子数が50であることが好適であり得る。
【0024】
環状構造は、下記式(1)で表される構造であることが好ましい。
【0025】
【化1】

【0026】
式中、Qは、脂肪族基、脂環族基、芳香族基、及び、これらから選択される2つ以上の基の組み合わせからなる群より選択される2価〜4価の結合基である。なお、2つ以上の基の組み合わせは、同種の基を組み合わせた態様であってもよい。
Qを構成する脂肪族基と脂環族基と芳香族基とは、それぞれヘテロ原子及び置換基の少なくとも一つを含んでいてもよい。ヘテロ原子とはこの場合、O、N、S、又はPを指す。この結合基の価のうち2つの価は環状構造を形成するために使用される。Qが3価あるいは4価の結合基である場合、Qは単結合、二重結合、原子、及び原子団のうち少なくとも一つを介して、ポリマーあるいは他の環状構造と結合している。
【0027】
結合基は、好ましくは、それぞれヘテロ原子及び置換基の少なくとも一つを含んでいてもよい、2〜4価の炭素数1〜20の脂肪族基、2〜4価の炭素数3〜20の脂環族基、2〜4価の炭素数5〜15の芳香族基またはこれらから選択される2つ以上の基の組み合わせであり、上記で規定される環状構造を形成するための必要炭素数を有する結合基である。組み合わせの例としては、アルキレン基とアリーレン基が結合した、アルキレン−アリーレン基のような構造などが挙げられる。
結合基(Q)は、下記式(1−1)、(1−2)または(1−3)で表される2〜4価の結合基であることが好ましい。
【0028】
【化2】

【0029】
式中、ArおよびArは各々独立に、2〜4価の炭素数5〜15の芳香族基を表す。ArおよびArは各々独立に、ヘテロ原子及び1価の置換基のうち少なくとも一つを含んでいてもよい。
芳香族基としては、それぞれへテロ原子を含んで複素環構造を有していてもよい、炭素数5〜15のアリーレン基、炭素数5〜15のアレーントリイル基、炭素数5〜15のアレーンテトライル基が挙げられる。アリーレン基(2価)としては、フェニレン基、ナフタレンジイル基などが挙げられる。アレーントリイル基(3価)としては、ベンゼントリイル基、ナフタレントリイル基などが挙げられる。アレーンテトライル基(4価)としては、ベンゼンテトライル基、ナフタレンテトライル基などが挙げられる。これらの芳香族基は置換基を有していても良い。置換基としては、炭素数1〜20のアルキル基、炭素数6〜15のアリール基、ハロゲン原子、ニトロ基、アミド基、ヒドロキシル基、エステル基、エーテル基、アルデヒド基などが挙げられる。
【0030】
およびRは各々独立に、それぞれヘテロ原子及び1価の置換基のうち少なくとも一つを含んでいてもよい、2〜4価の炭素数1〜20の脂肪族基、2〜4価の炭素数3〜20の脂環族基、およびこれらから選択される2つ以上の基の組み合わせ、またはこれら脂肪族基もしくは脂環族基と2〜4価の炭素数5〜15の芳香族基との組み合わせを表す。
【0031】
脂肪族基としては、炭素数1〜20のアルキレン基、炭素数1〜20のアルカントリイル基、炭素数1〜20のアルカンテトライル基などが挙げられる。アルキレン基としては、メチレン基、エチレン基、プロピレン基、ブチレン基、ペンチレン基、ヘキシレン基、へプチレン基、オクチレン基、ノニレン基、デシレン基、ドデシレン基、へキサデシレン基などが挙げられる。アルカントリイル基として、メタントリイル基、エタントリイル基、プロパントリイル基、ブタントリイル基、ペンタントリイル基、ヘキサントリイル基、ヘプタントリイル基、オクタントリイル基、ノナントリイル基、デカントリイル基、ドデカントリイル基、ヘキサデカントリイル基などが挙げられる。アルカンテトライル基としては、メタンテトライル基、エタンテトライル基、プロパンテトライル基、ブタンテトライル基、ペンタンテトライル基、ヘキサンテトライル基、ヘプタンテトライル基、オクタンテトライル基、ノナンテトライル基、デカンテトライル基、ドデカンテトライル基、ヘキサデカンテトライル基などが挙げられる。これらの脂肪族基は置換基を有していても良い。置換基としては、炭素数1〜20のアルキル基、炭素数6〜15のアリール基、ハロゲン原子、ニトロ基、アミド基、ヒドロキシル基、エステル基、エーテル基、アルデヒド基などが挙げられる。
【0032】
脂環族基としては、炭素数3〜20のシクロアルキレン基、炭素数3〜20のシクロアルカントリイル基、炭素数3〜20のシクロアルカンテトライル基が挙げられる。シクロアルキレン基として、シクロプロピレン基、シクロブチレン基、シクロペンチレン基、シクロヘキシレン基、シクロへプチレン基、シクロオクチレン基、シクロノニレン基、シクロデシレン基、シクロドデシレン基、シクロへキサデシレン基などが挙げられる。アルカントリイル基として、シクロプロパントリイル基、シクロブタントリイル基、シクロペンタントリイル基、シクロヘキサントリイル基、シクロヘプタントリイル基、シクロオクタントリイル基、シクロノナントリイル基、シクロデカントリイル基、シクロドデカントリイル基、シクロヘキサデカントリイル基などが挙げられる。アルカンテトライル基として、シクロプロパンテトライル基、シクロブタンテトライル基、シクロペンタンテトライル基、シクロヘキサンテトライル基、シクロヘプタンテトライル基、シクロオクタンテトライル基、シクロノナンテトライル基、シクロデカンテトライル基、シクロドデカンテトライル基、シクロヘキサデカンテトライル基などが挙げられる。これらの脂環族基は置換基を有していても良い。置換基としては、炭素数1〜20のアルキル基、炭素数6〜15のアリール基、ハロゲン原子、ニトロ基、アミド基、ヒドロキシル基、エステル基、エーテル基、アルデヒド基などが挙げられる。
【0033】
芳香族基としては、それぞれへテロ原子を含んで複素環構造を有していてもよい、炭素数5〜15のアリーレン基、炭素数5〜15のアレーントリイル基、炭素数5〜15のアレーンテトライル基が挙げられる。アリーレン基としては、フェニレン基、ナフタレンジイル基などが挙げられる。アレーントリイル基(3価)としては、ベンゼントリイル基、ナフタレントリイル基などが挙げられる。アレーンテトライル基(4価)としては、ベンゼンテトライル基、ナフタレンテトライル基などが挙げられる。これら芳香族基は置換基を有していても良い。置換基としては、炭素数1〜20のアルキル基、炭素数6〜15のアリール基、ハロゲン原子、ニトロ基、アミド基、ヒドロキシル基、エステル基、エーテル基、アルデヒド基などが挙げられる。
【0034】
上記式(1−1)、(1−2)においてXおよびXは各々独立に、それぞれヘテロ原子及び1価の置換基のうち少なくとも一つを含んでいてもよい、2〜4価の炭素数1〜20の脂肪族基、2〜4価の炭素数3〜20の脂環族基、2〜4価の炭素数5〜15の芳香族基、またはこれらから選択される2つ以上の基の組み合わせを表す。
【0035】
脂肪族基としては、炭素数1〜20のアルキレン基、炭素数1〜20のアルカントリイル基、炭素数1〜20のアルカンテトライル基などが挙げられる。アルキレン基としては、メチレン基、エチレン基、プロピレン基、ブチレン基、ペンチレン基、ヘキシレン基、へプチレン基、オクチレン基、ノニレン基、デシレン基、ドデシレン基、へキサデシレン基などが挙げられる。アルカントリイル基として、メタントリイル基、エタントリイル基、プロパントリイル基、ブタントリイル基、ペンタントリイル基、ヘキサントリイル基、ヘプタントリイル基、オクタントリイル基、ノナントリイル基、デカントリイル基、ドデカントリイル基、ヘキサデカントリイル基などが挙げられる。アルカンテトライル基として、メタンテトライル基、エタンテトライル基、プロパンテトライル基、ブタンテトライル基、ペンタンテトライル基、ヘキサンテトライル基、ヘプタンテトライル基、オクタンテトライル基、ノナンテトライル基、デカンテトライル基、ドデカンテトライル基、ヘキサデカンテトライル基などが挙げられる。これらの脂肪族基は置換基を有していても良い。置換基としては、炭素数1〜20のアルキル基、炭素数6〜15のアリール基、ハロゲン原子、ニトロ基、アミド基、ヒドロキシル基、エステル基、エーテル基、アルデヒド基などが挙げられる。
【0036】
脂環族基としては、炭素数3〜20のシクロアルキレン基、炭素数3〜20のシクロアルカントリイル基、炭素数3〜20のシクロアルカンテトライル基が挙げられる。シクロアルキレン基としては、シクロプロピレン基、シクロブチレン基、シクロペンチレン基、シクロヘキシレン基、シクロへプチレン基、シクロオクチレン基、シクロノニレン基、シクロデシレン基、シクロドデシレン基、シクロへキサデシレン基などが挙げられる。アルカントリイル基としては、シクロプロパントリイル基、シクロブタントリイル基、シクロペンタントリイル基、シクロヘキサントリイル基、シクロヘプタントリイル基、シクロオクタントリイル基、シクロノナントリイル基、シクロデカントリイル基、シクロドデカントリイル基、シクロヘキサデカントリイル基などが挙げられる。アルカンテトライル基としては、シクロプロパンテトライル基、シクロブタンテトライル基、シクロペンタンテトライル基、シクロヘキサンテトライル基、シクロヘプタンテトライル基、シクロオクタンテトライル基、シクロノナンテトライル基、シクロデカンテトライル基、シクロドデカンテトライル基、シクロヘキサデカンテトライル基などが挙げられる。これらの脂環族基は置換基を有していても良い。置換基としては、炭素数1〜20のアルキル基、炭素数6〜15のアリール基、ハロゲン原子、ニトロ基、アミド基、ヒドロキシル基、エステル基、エーテル基、アルデヒド基などが挙げられる。
【0037】
芳香族基としては、それぞれへテロ原子を含んで複素環構造を有していてもよい、炭素数5〜15のアリーレン基、炭素数5〜15のアレーントリイル基、炭素数5〜15のアレーンテトライル基が挙げられる。アリーレン基としては、フェニレン基、ナフタレンジイル基などが挙げられる。アレーントリイル基(3価)としては、ベンゼントリイル基、ナフタレントリイル基などが挙げられる。アレーンテトライル基(4価)としては、ベンゼンテトライル基、ナフタレンテトライル基などが挙げられる。これらの芳香族基は置換基を有していても良い。置換基としては、炭素数1〜20のアルキル基、炭素数6〜15のアリール基、ハロゲン原子、ニトロ基、アミド基、ヒドロキシル基、エステル基、エーテル基、アルデヒド基などが挙げられる。
【0038】
上記式(1−1)、(1−2)においてs及びkはそれぞれ0〜10の整数、好ましくは0〜3の整数、より好ましくは0〜1の整数を表す。s及びkが10以下であると、環状カルボジイミド化合物の合成上困難によるコスト上昇を回避し得る。sまたはkが2以上であるとき、繰り返し単位としてのX、あるいはXが、他のX、あるいはXと同じでもよく異なっていてもよい。
【0039】
上記式(1−3)においてXは、それぞれヘテロ原子及び1価の置換基のうち少なくとも一つを含んでいてもよい、2〜4価の炭素数1〜20の脂肪族基、2〜4価の炭素数3〜20の脂環族基、2〜4価の炭素数5〜15の芳香族基、またはこれらから選択される2つ以上の基の組み合わせを表す。
【0040】
脂肪族基としては、炭素数1〜20のアルキレン基、炭素数1〜20のアルカントリイル基、炭素数1〜20のアルカンテトライル基などが挙げられる。アルキレン基としては、メチレン基、エチレン基、プロピレン基、ブチレン基、ペンチレン基、ヘキシレン基、へプチレン基、オクチレン基、ノニレン基、デシレン基、ドデシレン基、へキサデシレン基などが挙げられる。アルカントリイル基としては、メタントリイル基、エタントリイル基、プロパントリイル基、ブタントリイル基、ペンタントリイル基、ヘキサントリイル基、ヘプタントリイル基、オクタントリイル基、ノナントリイル基、デカントリイル基、ドデカントリイル基、ヘキサデカントリイル基などが挙げられる。アルカンテトライル基としては、メタンテトライル基、エタンテトライル基、プロパンテトライル基、ブタンテトライル基、ペンタンテトライル基、ヘキサンテトライル基、ヘプタンテトライル基、オクタンテトライル基、ノナンテトライル基、デカンテトライル基、ドデカンテトライル基、ヘキサデカンテトライル基などが挙げられる。これら脂肪族基は置換基を含んでいてもよく、置換基として、炭素数1〜20のアルキル基、炭素数6〜15のアリール基、ハロゲン原子、ニトロ基、アミド基、ヒドロキシル基、エステル基、エーテル基、アルデヒド基などが挙げられる。
【0041】
脂環族基としては、炭素数3〜20のシクロアルキレン基、炭素数3〜20のシクロアルカントリイル基、炭素数3〜20のシクロアルカンテトライル基が挙げられる。シクロアルキレン基としては、シクロプロピレン基、シクロブチレン基、シクロペンチレン基、シクロヘキシレン基、シクロへプチレン基、シクロオクチレン基、シクロノニレン基、シクロデシレン基、シクロドデシレン基、シクロへキサデシレン基などが挙げられる。アルカントリイル基としては、シクロプロパントリイル基、シクロブタントリイル基、シクロペンタントリイル基、シクロヘキサントリイル基、シクロヘプタントリイル基、シクロオクタントリイル基、シクロノナントリイル基、シクロデカントリイル基、シクロドデカントリイル基、シクロヘキサデカントリイル基などが挙げられる。アルカンテトライル基としては、シクロプロパンテトライル基、シクロブタンテトライル基、シクロペンタンテトライル基、シクロヘキサンテトライル基、シクロヘプタンテトライル基、シクロオクタンテトライル基、シクロノナンテトライル基、シクロデカンテトライル基、シクロドデカンテトライル基、シクロヘキサデカンテトライル基などが挙げられる。これら脂環族基は置換基を含んでいてもよく、置換基として、炭素数1〜20のアルキル基、炭素数6〜15のアリーレン基、ハロゲン原子、ニトロ基、アミド基、ヒドロキシル基、エステル基、エーテル基、アルデヒド基などが挙げられる。
【0042】
芳香族基としては、それぞれへテロ原子を含んで複素環構造を有していてもよい、炭素数5〜15のアリーレン基、炭素数5〜15のアレーントリイル基、炭素数5〜15のアレーンテトライル基が挙げられる。アリーレン基としては、フェニレン基、ナフタレンジイル基などが挙げられる。アレーントリイル基(3価)としては、ベンゼントリイル基、ナフタレントリイル基などが挙げられる。アレーンテトライル基(4価)としては、ベンゼンテトライル基、ナフタレンテトライル基などが挙げられる。これらの芳香族基は置換基を有していても良い。置換基としては、炭素数1〜20のアルキル基、炭素数6〜15のアリール基、ハロゲン原子、ニトロ基、アミド基、ヒドロキシル基、エステル基、エーテル基、アルデヒド基などが挙げられる。
【0043】
Ar、Ar、R、R、X、XおよびXはヘテロ原子を含有していてもよい。Qが2価の結合基であるときは、Ar、Ar、R、R、X、XおよびXは全て2価の基である。Qが3価の結合基であるときは、Ar、Ar、R、R、X、XおよびXの内の一つが3価の基である。Qが4価の結合基であるときは、Ar、Ar、R、R、X、XおよびXの内の一つが4価の基であるか、二つが3価の基である。
【0044】
環状カルボジイミド化合物として、以下(a)〜(c)で表される化合物が挙げられる。
【0045】
(環状カルボジイミド化合物(a))
環状カルボジイミド化合物として下記式(2)で表される化合物(以下、「環状カルボジイミド化合物(a)」ということがある。)を挙げることができる。
【0046】
【化3】

【0047】
式中、Qは、脂肪族基、脂環族基、芳香族基またはこれらから選択される2つ以上の基の組み合わせである2価の結合基であり、ヘテロ原子を含有していてもよい。脂肪族基、脂環族基、芳香族基、及び組み合わせである基の定義及びその詳細は、式(1)のQで表される脂肪族基、脂環族基、芳香族基、及び組み合わせである基について説明したものと同じである。但し、式(2)の化合物においては、Qで表される脂肪族基、脂環族基、芳香族基及び組み合わせである基は全て2価である。Qは、下記式(2−1)、(2−2)または(2−3)で表される2価の結合基であることが好ましい。
【0048】
【化4】



【0049】
式中、Ar、Ar、R、R、X、X、X、sおよびkの定義及びその詳細は、各々式(1−1)〜(1−3)中のAr、Ar、R、R、X、X、X、sおよびkについて説明したものと同じである。但し、Ar、Ar、R、R、X、X、Xは全て2価である。
環状カルボジイミド化合物(a)の例としては、以下の化合物が挙げられる。
【0050】
【化5】



【0051】
(環状カルボジイミド化合物(b))
環状カルボジイミド化合物としてはまた下記式(3)で表される化合物(以下、「環状カルボジイミド化合物(b)」ということがある。)を挙げることができる。
【0052】
【化6】

【0053】
式中、Qは、脂肪族基、脂環族基、芳香族基、またはこれらから選択される2つ以上の基の組み合わせである3価の結合基であり、ヘテロ原子を含有していてもよい。tは2以上の整数を表す。Yは、環状構造を担持する担体である。脂肪族基、脂環族基、芳香族基、及び組み合わせである基の定義及びその詳細は、式(1)のQで表される脂肪族基、脂環族基、芳香族基、及び組み合わせである基について説明したものとそれぞれ同じである。但し、式(3)の化合物において、Qは3価である。従って、Qが上記組み合わせである3価の結合基である場合、組み合わせを構成する基の内一つは3価である。
は、下記式(3−1)、(3−2)または(3−3)で表される3価の結合基であることが好ましい。
【0054】
【化7】



【0055】
式中、Ar、Ar、R、R、X、X、X、sおよびkの定義及びその詳細は、各々式(1−1)〜(1−3)のAr、Ar、R、R、X、X、X、sおよびkについて説明したものと同じである。但しAr、Ar、R、R、X、X、Xの内の一つは3価の基である。
Yは、単結合、二重結合、原子、原子団またはポリマーであることが好ましい。複数の環状構造がYを介して結合し、式(3)で表される構造を形成している。
環状カルボジイミド化合物(b)の例としては、下記化合物が挙げられる。
【0056】
【化8】



【0057】
(環状カルボジイミド化合物(c))
環状カルボジイミド化合物としてはまた下記式(4)で表される化合物(以下、「環状カルボジイミド化合物(c)」ということがある。)を挙げることができる。
【0058】
【化9】

【0059】
式中、Qは、脂肪族基、脂環族基、芳香族基またはこれらから選択される2つ以上の基の組み合わせである4価の結合基であり、ヘテロ原子を保有していてもよい。tは2以上の整数を表す。ZおよびZは、環状構造を担持する担体である。ZおよびZは、互いに結合して環状構造を形成していてもよい。 脂肪族基、脂環族基、芳香族基、及び組み合わせである基の定義及びその詳細は、式(1)のQで表される脂肪族基、脂環族基、芳香族基、及び組み合わせである基で説明したものとそれぞれ同じである。但し、式(4)の化合物において、Qは4価である。従って、Qが上記組み合わせである4価の結合基である場合、組み合わせを構成する基の内の一つが4価の基であるか、二つが3価の基である。
は、下記式(4−1)、(4−2)または(4−3)で表される4価の結合基であることが好ましい。
【0060】
【化10】



【0061】
Ar、Ar、R、R、X、X、X、sおよびkの定義及びその詳細は、各々式(1−1)〜(1−3)の、Ar、Ar、R、R、X、X、X、sおよびkについて説明したものと同じである。但し、Ar、Ar、R、R、X、XおよびXは、これらの内の一つが4価の基であるか、二つが3価の基である。
およびZは各々独立に、単結合、二重結合、原子、原子団またはポリマーであることが好ましい。複数の環状構造がZおよびZを介して結合し、式(4)で表される構造を形成している。
環状カルボジイミド化合物(c)の例としては、下記化合物を挙げることができる。
【0062】
【化11】



【0063】
環状カルボジイミド化合物をポリエステルに添加すると、ポリエステル末端のカルボン酸と反応し、この反応によって生成する化合物がポリエステル末端の水酸基やポリエステルフィルム中の水などと反応して、様々な構造を生じ得る。具体的には例えば、下記の環状カルボジイミド化合物を用い、且つポリエステルとしてポリエチレンテレフタレートを用いる場合、下記に示される反応スキームによって、前記環状カルボジイミド化合物に由来する構造を有する成分である反応生成物(1)や反応生成物(2)を生成し、更にそのうちの一部がポリエステル末端の水酸基と反応して反応生成物(3)や反応生成物(4)を生成し得る。
【0064】
【化12】

【0065】
(環状カルボジイミド化合物の製造方法)
前記環状カルボジイミド化合物は、特開2011−256337号公報に記載の方法などに基づいて合成することができる。
【0066】
−末端カルボキシル基濃度および極限粘度−
前記フィルムを構成するポリエステルの極限粘度(IV)は0.68以上0.90以下である。IVが0.68以上0.90以下とすることで、フィルム延伸時の破断が少なく、高い生産性でフィルムを製造することが可能になる。前記フィルムを構成するポリエステルの末端カルボキシル基濃度(AV)は25eq/ton以下であることが好ましい。AVが25eq/ton以下とすることでフィルムの耐加水分解性が向上し、屋外使用可能期間が延び得る。IVは、高いほどフィルムの破断強度が増加するが、IVが増加するとポリエステルの溶融粘度が増加するため、フィルムを製造する溶融押出工程において剪断発熱が起き易くなる。この発熱によってポリエステルが分解し、この分解によってAVが増加し得る。かかる観点から、さらに好ましくは、AVは22eq/ton以下且つIVは0.70以上0.90以下、特に好ましくは、AVは20eq/ton以下且つIVは0.72以上0.85以下である。ある実施形態においては、AVを低減するために、カルボン酸基と反応可能な他の化合物を、ポリエステル重合中および/またはポリエステルフィルム製造工程中に添加することも好ましい。
【0067】
−フィルム中のP成分と金属成分の総和−
前記ポリエステルフィルムを構成するポリエステルは、グリコール可溶性の、チタン化合物(Ti化合物)、アルミニウム化合物(Al化合物)、及びゲルマニウム化合物(Ge化合物)の少なくとも1種を重合触媒として用いて合成したものであり、かつ、フィルム中のP成分の含有量(リン元素換算値)と金属成分の含有量(金属元素換算値)との総和が、10ppm以上300ppm以下であることが好ましい。ここで、P成分、金属成分とは、前記重合触媒の他、耐熱着色性を向上せしめるためのリン化合物(P化合物)、エステル化反応の促進、ポリエステルの製膜適性を付与、および色味調整等の目的で使用される公知の化合物、例えば、Mg、Mn、Zn、Co化合物、などを含む。これにより、ポリエステルの重合中および溶融押し出し中の不溶粒子の析出を効果的に抑制することができる。フィルム中のP成分の含有量(リン元素換算値)と金属成分の含有量(金属元素換算値)との総和は、好ましくは20ppm以上250ppm以下、より好ましくは50ppm以上200ppm以下である。ポリエステル中の金属成分量が少ないほど、不溶粒子の発生が少なくなり、フィルム中の空隙が減少し、フィルムの破断強度が安定する。一方、フィルム中のP成分の含有量(リン元素換算値)と金属成分の含有量(金属元素換算値)との総和が10ppm未満では、ポリエステルの重合速度が減少するため生産性が劣り得、また、溶融時の着色安定性が低下する傾向がある。
【0068】
−用途−
前記二軸延伸ポリエステルフィルムの用途は特に限定されない。長期にわたりフィルム強度と電気絶縁性を維持することができ、透明性が高い厚手のポリエステルフィルムであるため、太陽電池用バックシートの他、屋外用ディスプレイ、電気絶縁フィルム、種々の包装用、保護フィルム等に好適に使用できる。
【0069】
<太陽電池モジュール>
本願発明の一実施形態である太陽電池モジュールの用途の構成例としては、電気を取り出すリード配線で接続された発電素子(太陽電池素子)をエチレン・酢酸ビニル共重合体系(EVA系)樹脂等の封止剤で封止し、これを、ガラス等の透明基板と、前記ポリエステルフィルム(バックシート)とで挟んで互いに張り合わせた構成が挙げられる。太陽電池素子としては、単結晶シリコン、多結晶シリコン、アモルファスシリコンなどのシリコン系、銅−インジウム−ガリウム−セレン、銅−インジウム−セレン、カドミウム−テルル、ガリウム−砒素などのIII−V族やII−VI族化合物半導体系など、各種公知の太陽電池素子を適用することができる。
【0070】
<ポリエステルフィルムの製造方法>
本願発明の一実施形態である前記ポリエステルフィルムを製造する方法の例としては、グリコール可溶性のTi化合物、Al化合物、及びGe化合物から選ばれる少なくとも1つを重合触媒として用いて合成され、かつ、P成分の含有量(リン元素換算値)と金属成分の含有量(金属元素換算値)との総和が300ppm以下である原料ポリエステル樹脂を準備することと、
前記原料ポリエステル樹脂を溶融押出して冷却することにより、厚みが2.5mm〜7.0mmの未延伸ポリエステルフィルムを形成することと、
前記未延伸ポリエステルフィルムを縦延伸及び横延伸して厚みが200μm以上800μm以下である二軸延伸ポリエステルフィルムを形成することと、
を少なくとも有する方法が挙げられる。
【0071】
前記ポリエステルフィルムを製造する場合、例えば、0.3%以上20%以下の内部ヘイズは、下記(1)〜(3)の構成要素を組み合わせて、厚み中央付近の結晶化を低く抑えることで実現することができる。
【0072】
(1)高延伸倍率であること
十分な破断強度のポリエステルフィルムを得るためには、二軸延伸を、低めの温度で、かつ、高い延伸倍率で行い、ポリエステルを構成するポリエステル分子を延伸方向に十分に配向させる。
フィルムの耐加水分解性は、同一ポリエステル材料であれば、分子の配向度が高いほど高くなるため、耐加水分解を高めるには、高い延伸倍率で行う。
ある実施形態では、未延伸シートの厚みが3mm以上の場合、延伸による空隙の生成を防ぐために、縦延伸において延伸ゾーン内に設置する近赤外ヒーターは、シートを挟むように上下の対とし、これを流れ方向に2対以上配置してシートの内部まで十分加熱することが好ましい。また、延伸ゾーン(周速の異なる2本の延伸ロールの間)内に、駆動力を持たないフリーロールを設置し、延伸ゾーンを2分化することで、延伸によるシートの幅方向の収縮(ネックイン現象)を小さくすることが好ましい。
【0073】
(2)不溶成分を有しないこと
ポリエステルフィルムの空隙は、未延伸ポリエステルシート中の不溶成分とポリエステルとの界面剥離によって生成すると考えられる。そのため、本実施形態では、ポリエステル中に不溶成分が少ないことが好ましい。不溶成分としては、ポリエステルの重合工程中に添加する触媒・添加剤などの析出物、原料中の異物、ポリエステル重合〜樹脂乾燥〜押し出し〜延伸までの全ての工程内で混入する異物・塵埃の他、ポリエステルの溶融押し出し時に熱劣化や加水分解などで生じた不溶性劣化物(ゲル、コゲ)、および未溶融物などが挙げられる。
【0074】
ポリエステル重合工程中に添加する触媒・添加剤などの析出物は、グリコール可溶性のTi化合物、Al化合物、Ge化合物の少なくとも1種を重合触媒として用い、かつ、フィルム中のP成分の含有量(リン元素換算値)と金属成分の含有量(金属元素換算値)との総和が、300ppm以下とすることで低減することができる。P成分、金属成分とは、前記重合触媒の他、耐熱着色性を向上せしめるためのリン化合物(P化合物)、エステル化反応の促進、ポリエステルの製膜適性を付与、および色味調整等の目的に使用される公知の化合物、例えば、Mg、Mn、Zn、Co化合物、などを含む。フィルム中のP成分の含有量(リン元素換算値)と金属成分の含有量(金属元素換算値)との総和は、好ましくは20ppm以上250ppm以下、より好ましくは50ppm以上200ppm以下である。
【0075】
原料中の異物、及びポリエステル重合〜樹脂乾燥〜押し出し〜延伸までの全ての工程内で混入する異物・塵埃の量を低減するためには、異物の十分少ない原材料を使用すること、溶融重合、固相重合、及び押し出しのうち少なくとも一つの工程を担う各ユニットに、異物・塵挨を除去するためのフィルタを設置すること、工程内の樹脂に接する媒体(重合したポリエステルをチップ状に切断する際に冷却する水、およびチップを空気搬送するために供給する空気など)は、予めもしくはその工程内でフィルタにより異物を除去されたものを使用すること、等の手段を講じ得る。
フィルタの目開きは、小さいほど異物濾過効果は高いが、フィルタ目詰まりによる生産性の低下が起きやすい。ある実施形態においては、ポリエステル溶融重合および/又は押し出しで使用されるフィルタは3μm〜20μmの濾過精度を有し、樹脂に接する媒体(水、空気、固相重合工程における窒素ガスなど)の異物除去に使用されるフィルタは0.5μm〜10μmの濾過精度を有することが好ましい。
【0076】
原料ポリエステル樹脂は、融点が300℃以上の成分の含有量が1000ppm以下であることが好ましい。原料ポリエステル樹脂を得る方法は、溶融重合によって極限粘度0.4〜0.65のチップ状ポリエステルを得、これを固相重合によって極限粘度0.69〜0.90まで上げることを含み得る。
融点が300℃以上の成分は、固相重合に供する極限粘度0.5〜0.65のポリエステルチップに付着したチップ粉や、風送配管中に配管壁面と接触して生成した紐状物など、チップに比べて比表面積が大きいポリエステルが、固相重合によってチップ以上に高分子量化することで生成し得る。このため、融点が300℃以上の成分を1000ppm以下にするには、固相重合に供するポリエステルチップ中のチップ粉の濃度を500ppm以下にすることが好ましい。また、固相重合後のポリエステルチップは、溶融押し出し前までの風送経路の任意の段階でダスト分離機によるダスト除去を行うことが好ましい。固相重合に供するポリエステルチップ中のチップ粉を500ppm以下にする方法としては、溶融ポリエステルのチップ化を水中カッターで行い、使用する冷却水中のチップ粉の濃度が100ppm以下になるように新鮮水を供給しつつ、循環時にフィルタでチップ粉を除去する方法が挙げられる。
【0077】
(3)未延伸シートの結晶化を特定の範囲に制御すること
フィルムのヘイズを0.3%以上20%以下にするためには、未延伸シートが延伸可能でありながら、僅かに結晶を生成させることが好ましく、グリコール可溶性触媒の使用と含有する金属成分を特定の範囲にすること、また、IVを特定の範囲に調整することに加え、未延伸フィルムの結晶化度を特定の範囲にすることが好ましい。
未延伸フィルムの結晶化度を特定の範囲にするためには、例えば、ポリエステルを溶融押し出しする際に、可塑化を制御する方法が好ましく用いられ、ポリエステルの融点より35℃高い温度以下で可塑化することが好ましい。
具体的には、融点が260℃であるポリエチレンテレフタレートの場合では、溶融押し出し時の最高樹脂温度を295℃以下にすることが好ましい。この場合に295℃よりも高い温度で可塑化させると、未延伸シートに成形する際、ポリエステルの結晶化が遅くなり、ヘイズを上記範囲にすることが困難になり得る。
ポリエステルの結晶化特性として、結晶化温度が120℃〜140℃であることが好ましい。
延伸によるフィルム中の空隙を抑制するためには、未延伸シートの結晶化度を好ましくは0.1%〜5%、より好ましくは0.5%〜3%の範囲に制御し得る。
未延伸シートの結晶化度が0.1%よりも低い場合には、延伸フィルムの破断強度が低下し得る。また、未延伸シートの結晶化度が5%を超えて高くなると、延伸時にフィルムが破断しやすくなり、生産性が低下し得る上、得られたフィルムに空隙が生じるため破断強度が低下し得る。高延伸倍率でフィルムを作製するためには、未延伸シートは2.5mm以上の厚さを有し得る。2.5mm以上の厚さで、かつ均一な未延伸シートを作製する方法が好ましい。さらに、シートの両面を350℃/分〜590℃/分の冷却速度の範囲で冷却する。この方法によって、特定の範囲の結晶化度の未延伸シートを得うる。これを二軸延伸せしめることで、特定のヘイズを有し、かつ表面平坦性が良好なポリエステルフィルムを得ることができる。
【0078】
[1]原料ポリエステル樹脂準備工程
原料樹脂は、極限粘度IVが0.68〜0.95であるポリエステル樹脂であることが好ましい。
原料樹脂のIVは、重合方式および重合条件によって調整することができる。液相重合の後に固相重合を行うことによって、原料となる極限粘度IVが0.68〜0.95のポリエステル樹脂を得ることができる。IVが0.68以上であれば、延伸時に破断しにくく、強度が良好な2軸延伸フィルムが得られ、0.95以下であればポリエステルの溶融押し出し時の剪断発熱による劣化が少ない、末端カルボキシル基濃度の小さいポリエステルを得ることができる。かかる観点から、IVはより好ましくは0.70〜0.90であり、特に好ましくは0.72〜0.85である。
【0079】
極限粘度IVは、種々の濃度における溶液粘度(η)と溶媒粘度(η0)の比ηr(=η/η0;相対粘度)から1を引いた比粘度(ηsp=ηr−1)を各々の濃度で割り、この値を濃度がゼロの状態に外挿した値である。IVは、ウベローデ型粘度計を用い、ポリエステルを1,1,2,2−テトラクロルエタン/フェノール(=2/3[質量比])混合溶媒に溶解させて得られる溶液の、25℃における粘度から求められる。
【0080】
原料樹脂の末端カルボキシル基濃度(AV)は20eq/ton以下であることが好ましく、18eq/ton以下がより好ましい。AVが20eq/ton以下の原料樹脂を溶融押出ししてフィルムを製造することで、末端カルボキシル基濃度の増加を抑え、25eq/ton以下とすることで、高い耐加水分解性を有するポリエステルフィルムが得られる。なお、本明細書において、組成物中のある成分の濃度に付される単位「eq/ton」とは、組成物1トン当たりの当該成分のモル当量を表す。
【0081】
末端カルボキシル基濃度AVは、以下の方法により測定される値である。すなわち、原料樹脂0.1gをベンジルアルコール10mlに溶解後、さらにクロロホルムを加えて混合溶液を得、これにフェノールレッド指示薬を滴下する。この溶液を、基準液(0.01N KOH−ベンジルアルコール混合溶液)で滴定し、滴下量から末端カルボキシル基濃度を求める。
【0082】
‐原料成分‐
原料樹脂を構成するポリエステル樹脂は、ポリエチレンテレフタレートまたはポリ−1,4−シクロヘキサンジメチレンテレフタレートを主成分とするポリエステルであることが好ましく、ある実施形態においては、構成単位の80モル%以上がエチレンテレフタレート単位またはCHDM単位であるポリエステルであることが好ましい。ポリエステル樹脂は、ジカルボン酸又はそのエステル誘導体と、ジオール化合物とを公知の方法でエステル化反応及び/又はエステル交換反応させることによって得ることができる。
前記ジカルボン酸又はそのエステル誘導体としては、主成分はテレフタル酸又はそのエステル誘導体であり、その他の成分としては、例えば、マロン酸、コハク酸、グルタル酸、アジピン酸、スベリン酸、セバシン酸、ドデカンジオン酸、ダイマー酸、エイコサンジオン酸、ピメリン酸、アゼライン酸、メチルマロン酸、エチルマロン酸等の脂肪族ジカルボン酸類、アダマンタンジカルボン酸、ノルボルネンジカルボン酸、イソソルビド、シクロヘキサンジカルボン酸、デカリンジカルボン酸、などの脂環族ジカルボン酸、イソフタル酸、フタル酸、1,4−ナフタレンジカルボン酸、1,5−ナフタレンジカルボン酸、2,6−ナフタレンジカルボン酸、1,8−ナフタレンジカルボン酸、4,4’−ジフェニルジカルボン酸、4,4’−ジフェニルエーテルジカルボン酸、5−ナトリウムスルホイソフタル酸、フェニルエンダンジカルボン酸、アントラセンジカルボン酸、フェナントレンジカルボン、9,9’−ビス(4−カルボキシフェニル)フルオレン酸等の芳香族ジカルボン酸などのジカルボン酸又はそのエステル誘導体が挙げられる。
前記ジオール化合物としては、主成分はエチレングリコールもしくはシクロヘキサンジメタノールであり、その他の成分としては、1,2−プロパンジオール、1,3−プロパンジオール、1,4−ブタンジオール、1,2−ブタンジオール、1,3−ブタンジオール等の脂肪族ジオール類、シクロヘキサンジメタノール、スピログリコール、イソソルビドなどの脂環式ジオール類、ビスフェノールA、1,3―ベンゼンジメタノール,1,4−ベンセンジメタノール、9,9’−ビス(4−ヒドロキシフェニル)フルオレン、などの芳香族ジオール類等が挙げられる。
【0083】
CHDM系ポリエステル樹脂を合成するときは、ジオール化合物として、少なくとも1,4−シクロヘキサンジメタノール(CHDM)を用いるが、さらに、CHDM以外のジオール化合物を用いてもよい。このとき、CHDM以外のジオール化合物としては、既述のジオール化合物が挙げられ、エチレングリコールが好ましい。
CHDM系ポリエステル樹脂を合成するときに用いるジカルボン酸は、既述のジカルボン酸又はそのエステル誘導体が用いられ、テレフタル酸が好ましい。ジカルボン酸としては、テレフタル酸に加えてイソフタル酸(IPA)を用いてもよい。IPA量は、ポリエステル樹脂合成に使用される全ジカルボン酸量に対して0モル%〜15モル%が好ましく、0モル%〜12モル%であることがより好ましく、0モル%〜9モル%であることがさらに好ましい。
【0084】
エステル化反応及び/又はエステル交換反応には、従来から公知の反応触媒や安定剤を用いることができる。反応触媒としては、アルカリ金属化合物、アルカリ土類金属化合物、亜鉛化合物、鉛化合物、マンガン化合物、コバルト化合物、アルミニウム化合物、アンチモン化合物、チタン化合物が挙げられ、安定剤としてはリン化合物、イオウ化合物などが挙げられる。ある実施形態では、ポリエステルの製造方法が完結する以前の任意の段階において、重合触媒としてグリコール可溶性のチタン化合物、アルミニウム化合物、ゲルマニウム化合物の少なくとも1種を添加することが好ましい。
【0085】
これらのグリコール可溶性化合物を重合触媒に使用することで、得られたポリエステル中への触媒残渣(すなわち、不溶性粒子)の析出を抑制することができる。
例えば、チタン(Ti)系化合物を、ポリエステルの構成成分の全質量に対してTi元素換算値で1ppm以上30ppm以下、より好ましくは2ppm以上20ppm以下、さらに好ましくは3ppm以上15ppm以下の範囲で用いて重合を行なうことが好ましい。この場合、本発明の一実施形態である前記方法によって製造されるポリエステルフィルムには、1ppm以上30ppm以下のチタンが含まれる。
Ti系触媒の量は、1ppm以上であると好ましいIVが得られ、30ppm以下であると、末端カルボキシル基濃度を低く抑えることができ、耐加水分解性の向上に有利である。
【0086】
ある実施形態では、原料樹脂として、ジカルボン酸とジオールに加え、カルボン酸基と水酸基との合計が3以上である多官能モノマー(以下、「3官能以上の多官能モノマー」又は「多官能モノマー」と記す場合がある。)を重縮合反応させたポリエステルを用いることができる。
ここで、カルボン酸基の数(a)と水酸基の数(b)との合計(a+b)が3以上である多官能モノマーとしては、カルボン酸基の数(a)が3以上のカルボン酸並びにこれらのエステル誘導体や酸無水物等、水酸基数(b)が3以上の多官能モノマー、並びに「一分子中に水酸基とカルボン酸基の両方を有し、カルボン酸基の数(a)と水酸基の数(b)との合計(a+b)が3以上であるオキシ酸類」などを挙げることができる。
【0087】
カルボン酸基数(a)が3以上のカルボン酸の例としては、三官能の芳香族カルボン酸として、トリメシン酸、トリメリット酸、ピロメリット酸、ナフタレントリカルボン酸、アントラセントリカルボン酸等が、三官能の脂肪族カルボン酸として、メタントリカルボン酸、エタントリカルボン酸、プロパントリカルボン酸、ブタントリカルボン酸等が、四官能の芳香族カルボン酸としてベンゼンテトラカルボン酸、ベンゾフェノンテトラカルボン酸、ナフタレンテトラカルボン酸、アントラセンテトラカルボン酸、ペリレンテトラカルボン酸等が、四官能の脂肪族カルボン酸として、エタンテトラカルボン酸、エチレンテトラカルボン酸、ブタンテトラカルボン酸、シクロペンタンテトラカルボン酸、シクロヘキサンテトラカルボン酸、アダマンタンテトラカルボン酸等が、五官能以上の芳香族カルボン酸として、ベンゼンペンタカルボン酸、ベンゼンヘキサカルボン酸、ナフタレンペンタカルボン酸、ナフタレンヘキサカルボン酸、ナフタレンヘプタカルボン酸、ナフタレンオクタカルボン酸、アントラセンペンタカルボン酸、アントラセンヘキサカルボン酸、アントラセンヘプタカルボン酸、アントラセンオクタカルボン酸等が、五官能以上の脂肪族カルボン酸として、エタンペンタカルボン酸、エタンヘプタカルボン酸、ブタンペンタカルボン酸、ブタンヘプタカルボン酸、シクロペンタンペンタカルボン酸、シクロヘキサンペンタカルボン酸、シクロヘキサンヘキサカルボン酸、アダマンタンペンタカルボン酸、アダマンタンヘキサカルボン酸等が挙げられ、並びにこれらのエステル誘導体や酸無水物等が例として挙げられるがこれらに限定されない。
また、上述のカルボン酸のカルボキシ末端に、l−ラクチド、d−ラクチド、ヒドロキシ安息香酸などのオキシ酸類、およびその誘導体、そのオキシ酸類が複数個連なったもの等を付加させたものも好適に用いられる。また、これらは単独で用いても、必要に応じて、複数種類用いても構わない。
【0088】
また、水酸基数(b)が3以上の多官能モノマーの例としては、三官能の芳香族として、トリヒドロキシベンゼン、トリヒドロキシナフタレン、トリヒドロキシアントラセン、トリヒドロキシカルコン、トリヒドロキシフラボン、トリヒドロキシクマリン、三官能の脂肪族アルコールとして、グリセリン、トリメチロールプロパン、プロパントリオール、四官能の脂肪族アルコールとして、ペンタエリスリトール等の化合物が挙げられる。また、上述の化合物の水酸基末端にジオール類を付加させた化合物も好ましく用いられる。これらは単独で用いても、必要に応じて、複数種類用いても構わない。
【0089】
また、上記以外の他の多官能モノマーとして、一分子中に水酸基とカルボン酸基の両方を有し、かつカルボン酸基数(a)と水酸基数(b)との合計(a+b)が3以上であるオキシ酸類が挙げられる。このようなオキシ酸類の例としては、ヒドロキシイソフタル酸、ヒドロキシテレフタル酸、ジヒドロキシテレフタル酸、トリヒドロキシテレフタル酸などを挙げることができる。
【0090】
また、上述の多官能モノマーのカルボキシ末端に、l-ラクチド、d−ラクチド、ヒドロキシ安息香酸などのオキシ酸類及びその誘導体、そのオキシ酸類が複数個連なったもの等を付加させたものも好適に用いられる。また、これらは単独で用いても、必要に応じて、複数種類併用しても構わない。
前記多官能モノマーの含有比率は、ポリエステル中の全構成単位に対して、0.005モル%以上2.5モル%以下であることが好ましく、より好ましくは0.020モル%以上1モル%以下、更に好ましくは0.025モル%以上1モル%以下、更に好ましくは0.035モル%以上0.5モル%以下、更に好ましくは0.05モル%以上0.5モル%以下、特に好ましくは0.1モル%以上0.25モル%以下である。
【0091】
また、原料樹脂は、樹脂フィルムの粉砕片を混合して調製してもよい。樹脂フィルムとしては、ポリエステルフィルムが好適であり、原料樹脂中のポリエステル樹脂と同種のポリエステルのフィルムが好ましい。樹脂フィルムの粉砕片は、例えば不要となったフィルムを粉砕して小片(いわゆるチップ)や屑片等にした粉砕物である。
【0092】
−末端封止剤−
ある実施形態では、ポリエステルフィルムは、末端封止剤及び末端封止剤に由来する構造を有する成分のうち少なくとも一つを含有し得る。
ポリエステルフィルムは、ポリエステル結晶間を橋架けする分子(タイチェーン)を有する構造であると、強固となり、耐候性に優れ得る。ポリエステルフィルムが末端封止剤及び末端封止剤に由来する構造を有する成分のうち少なくとも一つを含有していると、タイチェーンが発達し過ぎることがなく、脆化を抑えつつも耐熱性を高め得る。
ある実施形態では、得られるポリエステルフィルム中に末端封止剤及び末端封止剤に由来する構造を有する成分のうち少なくとも一つが含まれるようにポリエステルフィルムを製造し得る。末端封止剤は、溶融された原料ポリエステル樹脂が冷却されるより前の時点(すなわち、未延伸ポリエステルフィルムの作製が完了するより前の時点)であれば、どの時点で原料ポリエステル樹脂と混合させてもよい。ある実施形態では、末端封止剤は、原料ポリエステル樹脂を二軸押出機の原料供給口に供給する前に原料ポリエステル樹脂と混合してもよいし、二軸押出機で原料ポリエステル樹脂を溶融混練しているときに原料ポリエステル樹脂と混合してもよいし、二軸押出機から溶融樹脂を排出した後で排出された溶融樹脂と混合してもよい。
【0093】
ある好適な実施形態では、原料ポリエステル樹脂全量に対して末端封止剤が10質量%〜60質量%となるように原料ポリエステル樹脂と末端封止剤とを溶融混合して、マスターペレットを作成し、当該マスターペレットを二軸押出機に投入することにより、末端封止剤及び末端封止剤に由来する構造を有する成分のうち少なくとも一つをポリエステルフィルム中に包含させ得る。
【0094】
末端封止剤とは、ポリエステルの末端のカルボキシル基と反応し、ポリエステルの末端カルボキシル基濃度を減少させる添加剤である。
好ましい末端封止剤として、オキサゾリン化合物、カルボジイミド化合物、エポキシ化合物を挙げることができる。これらは単独で用いてもよく、組合せて用いても良い。末端封止剤を添加し、特に5%以上50%以下の結晶化度分布を持つポリエステルフィルムを製造することで、末端カルボキシル基濃度が減少し、耐加水分解性能が向上する。また、上記範囲の結晶化度分布を持つポリエステルフィルム中に前記末端封止剤が含有されていると、相乗効果により、塗布層との密着性が促進される。即ち、ポリエステルフィルムの結晶化度の低い部分に塗布液が浸透し、相互貫入し密着を向上させるが、その時、ポリエステルフィルムの末端が上記封止剤と反応し嵩高くなることで、塗布液成分から引き抜き難くなる(アンカー効果)。この結果相互作用力が高まり密着が強くなると考えられる。
【0095】
これらの末端封止剤は、ポリエステル樹脂に対して0.1質量%以上5質量%以下添加することが好ましく、より好ましくは0.3質量%以上4質量%以下、さらに好ましくは0.5質量%以上2質量%以下である。ポリエステル樹脂に対する末端封止剤の添加量が0.1質量%以上であれば、上記アンカー効果が発現し易くなり、密着力がさらに向上し易い。一方、5質量%以下であれば嵩張った末端のためにポリエステル分子が配列し難くなることが抑制され、結晶を形成し易くなる。この結果、高結晶領域が増加し、結晶化度の分布を形成し易くなり密着力が向上する。
【0096】
カルボジイミド基を有するカルボジイミド化合物は、一官能性カルボジイミドと多官能性カルボジイミドがある。一官能性カルボジイミドとしては、ジシクロヘキシルカルボジイミド、ジイソプロピルカルボジイミド、ジメチルカルボジイミド、ジイソブチルカルボジイミド、ジオクチルカルボジイミド、t−ブチルイソプロピルカルボジイミド、ジフェニルカルボジイミド、ジ−t−ブチルカルボジイミドおよびジ−β−ナフチルカルボジイミドなどが挙げられる。特に好ましくは、ジシクロヘキシルカルボジイミドやジイソプロピルカルボジイミドである。
【0097】
多官能性カルボジイミドとしては、重合度3〜15のポリカルボジイミドが好ましく用いられる。ポリカルボジイミドは、一般に、「−R−N=C=N−」等で表される繰り返し単位を有し、前記Rは、アルキレン、アリーレン等の2価の連結基を表す。このような繰り返し単位としては、例えば、1,5−ナフタレンカルボジイミド、4,4’−ジフェニルメタンカルボジイミド、4,4’−ジフェニルジメチルメタンカルボジイミド、1,3−フェニレンカルボジイミド、2,4−トリレンカルボジイミド、2,6−トリレンカルボジイミド、2,4−トリレンカルボジイミドと2,6−トリレンカルボジイミドの混合物、ヘキサメチレンカルボジイミド、シクロヘキサン−1,4−カルボジイミド、キシリレンカルボジイミド、イソホロンカルボジイミド、ジシクロヘキシルメタン−4,4’−カルボジイミド、メチルシクロヘキサンカルボジイミド、テトラメチルキシリレンカルボジイミド、2,6−ジイソプロピルフェニルカルボジイミドおよび1,3,5−トリイソプロピルベンゼン−2,4−カルボジイミドなどを例示することができる。
【0098】
カルボジイミド化合物は、熱分解によりイソシアネート系ガスの発生を発生するため、末端封止剤は耐熱性の高いカルボジイミド化合物であることが好ましい。耐熱性を高めるためには、分子量(重合度)が高いほど好ましく、またカルボジイミド化合物の末端が耐熱性の高い構造にであることが好ましい。カルボジイミド化合物は一度熱分解を起こすとさらなる熱分解を起こし易くなる。原料ポリエステル樹脂を溶融押出する温度をなるべく低温とすることで、カルボジイミド化合物による耐候性の向上効果及び熱収縮の低減効果がより効果的に得られる。
【0099】
カルボジイミド化合物を添加した前記ポリエステルフィルムは、300℃の温度で30分間保持した際のイソシアネート系ガスの発生量が0質量%〜0.02質量%であることが好ましい。イソシアネート系ガスとはイソシアネート基をもつガスであり、例えば、ジイソプロピルフェニルイソシアネート、1,3,5−トリイソプロピルフェニルジイソシアネート、2−アミノ−1,3,5−トリイソプロピルフェニル−6−イソシアネート、4,4’−ジシクロヘキシルメタンジイソシアネート、イソホロンジイソシアネートおよびシクロヘキシルイソシアネートなどが挙げられる。イソシアネート系ガスが0.02質量%以下であると、ポリエステルフィルム中に気泡(ボイド)が生成され難く、応力集中する部位が形成されにくいため、ポリエステルフィルム内に生じやすい破壊や剥離を防ぐことができる。これにより、隣接する材料との間の密着が良好になる。
エポキシ化合物の好ましい例としては、グリシジルエステル化合物やグリシジルエーテル化合物などが挙げられる。
【0100】
グリシジルエステル化合物の具体例としては、安息香酸グリシジルエステル、t−Bu−安息香酸グリシジルエステル、P−トルイル酸グリシジルエステル、シクロヘキサンカルボン酸グリシジルエステル、ペラルゴン酸グリシジルエステル、ステアリン酸グリシジルエステル、ラウリン酸グリシジルエステル、パルミチン酸グリシジルエステル、ベヘン酸グリシジルエステル、バーサティク酸グリシジルエステル、オレイン酸グリシジルエステル、リノール酸グリシジルエステル、リノレイン酸グリシジルエステル、ベヘノール酸グリシジルエステル、ステアロール酸グリシジルエステル、テレフタル酸ジグリシジルエステル、イソフタル酸ジグリシジルエステル、フタル酸ジグリシジルエステル、ナフタレンジカルボン酸ジグリシジルエステル、メチルテレフタル酸ジグリシジルエステル、ヘキサヒドロフタル酸ジグリシジルエステル、テトラヒドロフタル酸ジグリシジルエステル、シクロヘキサンジカルボン酸ジグリシジルエステル、アジピン酸ジグリシジルエステル、コハク酸ジグリシジルエステル、セバシン酸ジグリシジルエステル、ドデカンジオン酸ジグリシジルエステル、オクタデカンジカルボン酸ジグリシジルエステル、トリメリット酸トリグリシジルエステルおよびピロメリット酸テトラグリシジルエステルなどが挙げられ、これらは1種または2種以上を用いることができる。
【0101】
オキサゾリン化合物としては、オキサゾリン基を有する化合物の中から適宜選択して用いることができるが、その中ではビスオキサゾリン化合物が好ましい。具体的には、2,2’−ビス(2−オキサゾリン)、2,2’−ビス(4−メチル−2−オキサゾリン)、2,2’−ビス(4,4−ジメチル−2−オキサゾリン)、2,2’−ビス(4−エチル−2−オキサゾリン)、2,2’−ビス(4,4’−ジエチル−2−オキサゾリン)、2,2’−ビス(4−プロピル−2−オキサゾリン)、2,2’−ビス(4−ブチル−2−オキサゾリン)、2,2’−ビス(4−ヘキシル−2−オキサゾリン)、2,2’−ビス(4−フェニル−2−オキサゾリン)、2,2’−ビス(4−シクロヘキシル−2−オキサゾリン)、2,2’−ビス(4−ベンジル−2−オキサゾリン)、2,2’−p−フェニレンビス(2−オキサゾリン)、2,2’−m−フェニレンビス(2−オキサゾリン)、2,2’−o−フェニレンビス(2−オキサゾリン)、2,2’−p−フェニレンビス(4−メチル−2−オキサゾリン)、2,2’−p−フェニレンビス(4,4−ジメチル−2−オキサゾリン)、2,2’−m−フェニレンビス(4−メチル−2−オキサゾリン)、2,2’−m−フェニレンビス(4,4−ジメチル−2−オキサゾリン)、2,2’−エチレンビス(2−オキサゾリン)、2,2’−テトラメチレンビス(2−オキサゾリン)、2,2’−ヘキサメチレンビス(2−オキサゾリン)、2,2’−オクタメチレンビス(2−オキサゾリン)、2,2’−デカメチレンビス(2−オキサゾリン)、2,2’−エチレンビス(4−メチル−2−オキサゾリン)、2,2’−テトラメチレンビス(4,4−ジメチル−2−オキサゾリン)、2,2’−9,9’−ジフェノキシエタンビス(2−オキサゾリン)、2,2’−シクロヘキシレンビス(2−オキサゾリン)および2,2’−ジフェニレンビス(2−オキサゾリン)等を例示することができる。これらの中では、ポリエステルとの反応性が良好で耐候性の向上効果が高い観点から、2,2’−ビス(2−オキサゾリン)が最も好ましく用いられる。上記で挙げたビスオキサゾリン化合物は、本発明の効果を損なわない限り、一種を単独で用いても、二種以上を併用してもどちらでも良い。
これらの末端封止剤の中でも、特に、前述の「環状構造化合物」であるカルボジイミドが好ましい。すなわち、カルボジイミド基の第一窒素と第二窒素とが結合基により結合されている環状構造を含む化合物は、末端封止剤としてポリエステルの末端カルボキシル基を封止して、ポリエステルフィルムの湿熱耐久性を特に効果的に改善することができる。
【0102】
−その他の添加剤−
前記ポリエステルフィルムは、光安定化剤、酸化防止剤などの添加剤を更に含有することができる。
光安定化剤を含有すると、紫外線劣化を防ぐことができる。光安定化剤とは、紫外線などの光線を吸収して熱エネルギーに変換する化合物、樹脂が光吸収して分解して発生したラジカルを捕捉し、分解連鎖反応を抑制する材料などが挙げられる。光安定化剤として好ましくは、紫外線などの光線を吸収して熱エネルギーに変換する化合物である。このような光安定化剤を含有することで、長期間継続的に紫外線の照射を受けても、部分放電電圧の向上効果を長期間高く保つことが可能になったり、樹脂中の紫外線による色調変化、強度劣化等が防止される。
【0103】
光安定化剤のポリエステルフィルム中における含有量は、ポリエステルフィルムの全質量に対して、0.1質量%以上10質量%以下が好ましく、より好ましくは0.3質量%以上7質量%以下であり、さらに好ましくは0.7質量%以上4質量%以下である。これにより、長期経時での光劣化によるポリエステルの分子量低下を抑止でき、その結果発生するフィルム内の凝集破壊に起因する密着力低下を抑止できる。
【0104】
前記ポリエステルフィルムは、前記光安定化剤の他にも、例えば、易滑剤(微粒子)、紫外線吸収剤、着色剤、核剤(結晶化剤)、難燃化剤、などを添加剤として含有することができる。
【0105】
例えば紫外線吸収剤は、ポリエステルの他の特性が損なわれない範囲であれば、有機系紫外線吸収剤、無機系紫外線吸収剤、及びこれらの併用のいずれも、特に限定されることなく好適に用いることができる。一方、紫外線吸収剤は、耐湿熱性に優れ、樹脂中に均一分散できることが望まれる。
紫外線吸収剤の例としては、有機系の紫外線吸収剤として、サリチル酸系、ベンゾフェノン系、ベンゾトリアゾール系、シアノアクリレート系等の紫外線吸収剤及びヒンダードアミン系等の紫外線安定剤などが挙げられる。具体的には、例えば、サリチル酸系のp−t−ブチルフェニルサリシレート、p−オクチルフェニルサリシレート、ベンゾフェノン系の2,4−ジヒドロキシベンゾフェノン、2−ヒドロキシ−4−メトキシベンゾフェノン、2−ヒドロキシ−4−メトキシ−5−スルホベンゾフェノン、2,2’,4,4’−テトラヒドロキシベンゾフェノン、ビス(2−メトキシ−4−ヒドロキシ−5−ベンゾイルフェニル)メタン、ベンゾトリアゾール系の2−(2’−ヒドロキシ−5’−メチルフェニル)ベンゾトリアゾール、2−(2’−ヒドロキシ−5’−メチルフェニル)ベンゾトリアゾール、2,2’−メチレンビス[4−(1,1,3,3−テトラメチルブチル)−6−(2Hベンゾトリアゾール−2−イル)フェノール]、シアノアクリレート系のエチル−2−シアノ−3,3’−ジフェニルアクリレート)、トリアジン系として2−(4,6−ジフェニル−1,3,5−トリアジン−2−イル)−5−[(ヘキシル)オキシ]−フェノール、ヒンダードアミン系のビス(2,2,6,6−テトラメチル−4−ピペリジル)セバケート、コハク酸ジメチル・1−(2−ヒドロキシエチル)−4−ヒドロキシ−2,2,6,6−テトラメチルピペリジン重縮合物、そのほかに、ニッケルビス(オクチルフェニル)サルファイド、及び2,4−ジ−t−ブチルフェニル−3’,5’−ジ−t−ブチル−4’−ヒドロキシベンゾエート、などが挙げられる。
これらの紫外線吸収剤のうち、繰り返し紫外線吸収に対する耐性が高いという点で、トリアジン系紫外線吸収剤がより好ましい。これらの紫外線吸収剤は、上述の紫外線吸収剤単体でフィルムに添加してもよいし、有機系導電性材料や、非水溶性樹脂に紫外線吸収剤能を有するモノマーを共重合させた形態で導入してもよい。
【0106】
−原料ポリエステル樹脂の重合−
原料ポリエステル樹脂は、例えば、以下の方法によって得ることができる。
芳香族ジカルボン酸、またはその低級アルキルエステルと脂肪族ジオールとを、チタン化合物を含有する触媒の存在下で重合するとともに、前記チタン化合物の少なくとも一種が有機酸を配位子とする有機キレートチタン錯体であって、(1)前記有機キレートチタン錯体と、(2)マグネシウム化合物と、(3)置換基として芳香環を有しない5価のリン酸エステルとをこの順序で添加することを少なくとも含むエステル化反応、またはエステル交換反応工程と、前記エステル化反応またはエステル交換反応工程で生成された生成物を重縮合反応させて重縮合物を生成することと、を含む方法によって原料ポリエステル樹脂を製造することができる。
【0107】
エステル化反応またはエステル交換反応において、チタン化合物として有機キレートチタン錯体を存在させた中に、マグネシウム化合物を添加し、次いで特定の5価のリン化合物を添加する添加順とする。これにより、チタン触媒の反応活性を適度に高く保ち、マグネシウムによる静電印加特性を付与しつつ、かつ重縮合における分解反応を効果的に抑制することができる。結果として着色が少なく、高い静電印加特性を有するとともに高温下に曝された際の黄変色が改善されたポリエステル樹脂が得られる。
これにより、重合時の着色及びその後の溶融製膜時における着色が少なくなり、従来のアンチモン(Sb)触媒系のポリエステル樹脂に比べて黄色味が軽減され、また、透明性の比較的高いゲルマニウム(Ge)触媒系のポリエステル樹脂に比べて遜色のない色調、透明性を持ち、しかも耐熱性に優れたポリエステル樹脂を提供できる。また、コバルト化合物や色素などの色調調整材を用いずに高い透明性を有し、黄色味の少ないポリエステル樹脂が得られる。
【0108】
このポリエステル樹脂は、透明性に関する要求の高い用途(例えば、光学用フィルム、工業用リス等)に利用が可能であり、高価なゲルマニウム系触媒を用いる必要がないため、大幅なコスト低減が図れる。加えて、Sb触媒系で生じやすい触媒起因の異物の混入も回避されるため、製膜過程での故障の発生や品質不良が軽減され、得率向上による低コスト化も図ることができる。
【0109】
−エステル化反応またはエステル交換反応−
エステル化反応またはエステル交換反応では、芳香族ジカルボン酸及びその低級アルキルエステルのうち少なくとも一つとジオールとを、チタン化合物を含有する触媒の存在下で反応させる。このエステル化反応は、触媒であるチタン化合物として、有機酸を配位子とする有機キレートチタン錯体を用いると共に、少なくとも、有機キレートチタン錯体と、マグネシウム化合物と、置換基として芳香環を有しない5価のリン酸エステルとをこの順序で添加することを含む。
【0110】
ここでは、重縮合反応が始まるまでをエステル化工程と定義し、例えば、エステル化から重縮合反応槽へ移送する配管もエステル化工程に含まれるものとする。
【0111】
有機キレートチタン錯体とマグネシウム化合物と5価のリン酸エステルとをこの順序で添加する場合、必ずしも所期の全量をこの順序で添加する必要はないが、添加しようとする有機キレートチタン錯体、マグネシウム化合物、及び5価のリン酸エステルの各々について、それぞれ全添加量の70質量%以上を、この順序に添加する態様が好ましく、更にはそれぞれ全添加量の80質量%以上を、この順序に添加する態様にするのがより好ましい。
【0112】
まず初めに、芳香族ジカルボン酸及びその低級アルキルエステルのうち少なくとも一つとジオールとを、マグネシウム化合物及びリン化合物の添加に先立って、チタン化合物である有機キレートチタン錯体を含有する触媒と混合する。有機キレートチタン錯体等のチタン化合物は、エステル化反応に対しても高い触媒活性を持つので、エステル化反応を良好に行なわせることができる。このとき、ジカルボン酸成分及びジオール成分を混合した中にチタン化合物を加えてもよいし、ジカルボン酸成分(又はジオール成分)とチタン化合物を混合してからジオール成分(又はジカルボン酸成分)を混合してもよい。ジカルボン酸成分とジオール成分とチタン化合物とを同時に混合してもよい。混合は、その方法に特に制限はなく、従来公知の方法により行なうことが可能である。
【0113】
エステル化反応させるにあたり、チタン化合物である有機キレートチタン錯体と添加剤としてマグネシウム化合物と5価のリン化合物とをこの順に添加する過程を設ける。このとき、有機キレートチタン錯体の存在下、エステル化反応を進め、その後はマグネシウム化合物の添加を、リン化合物の添加前に開始する。
【0114】
(チタン化合物)
触媒成分であるチタン化合物として、有機酸を配位子とする有機キレートチタン錯体の少なくとも1種が用いられる。有機酸としては、例えば、クエン酸、乳酸、トリメリット酸、リンゴ酸等を挙げることができる。中でも、クエン酸又はクエン酸塩を配位子とする有機キレート錯体が好ましい。
【0115】
例えばクエン酸を配位子とするキレートチタン錯体を用いた場合、微細粒子等の異物の発生が少なく、他のチタン化合物に比べ、化合物自体の熱安定性が高いため、重合反応中における触媒の分解少なく、それに伴う反応性の低下及び副反応による色調の低下が少なく、結果として重合活性と色調の良好なポリエステル樹脂が得られる。更に、クエン酸キレートチタン錯体を用いる場合でも、エステル化反応の段階で添加することにより、エステル化反応後に添加する場合に比べ、重合活性と色調が良好で、末端カルボキシル基の少ないポリエステル樹脂が得られる。この点については、チタン触媒はエステル化反応の触媒効果もあり、エステル化段階で添加することでエステル化反応終了時におけるオリゴマー酸価が低くなり、以降の重縮合反応がより効率的に行なわれること、またクエン酸を配位子とする錯体はチタンアルコキシド等に比べて加水分解耐性が高く、エステル化反応過程において加水分解せず、本来の活性を維持したままエステル化及び重縮合反応の触媒として効果的に機能するものと推定される。
また、一般に、ポリエステル樹脂は末端カルボキシル基濃度が高いほど耐加水分解性が悪化することが知られている。前記添加方法によってポリエステル樹脂の末端カルボキシル基濃度が低くなることで、耐加水分解性の向上が期待される。
【0116】
前記クエン酸キレートチタン錯体としては、例えば、ジョンソン・マッセイ社製のVERTEC(登録商標) AC−420など市販品として容易に入手可能である。
【0117】
エステル化反応させる際において、Ti触媒を用い、Ti添加量が元素換算値でポリエステル樹脂の構成成分の全質量に対して1ppm以上30ppm以下、より好ましくは3ppm以上20ppm以下、さらに好ましくは5ppm以上15ppm以下の範囲で重合反応させる態様が好ましい。チタン添加量は、1ppm以上であると、重合速度が速くなる点で有利であり、30ppm以下であると、良好な色調が得られる点で有利である。
【0118】
チタン化合物としては、有機キレートチタン錯体以外には一般に、酸化物、水酸化物、アルコキシド、カルボン酸塩、炭酸塩、蓚酸塩、及びハロゲン化物等が挙げられる。本発明の効果を損なわない範囲であれば、有機キレートチタン錯体に加えて、他のチタン化合物を併用してもよい。
このようなチタン化合物の例としては、テトラ−n−プロピルチタネート、テトラ−i−プロピルチタネート、テトラ−n−ブチルチタネート、テトラ−n−ブチルチタネートテトラマー、テトラ−t−ブチルチタネート、テトラシクロヘキシルチタネート、テトラフェニルチタネート、テトラベンジルチタネート等のチタンアルコキシド、チタンアルコキシドの加水分解により得られるチタン酸化物、チタンアルコキシドと珪素アルコキシドもしくはジルコニウムアルコキシドとの混合物の加水分解により得られるチタン−珪素もしくはジルコニウム複合酸化物、酢酸チタン、蓚酸チタン、蓚酸チタンカリウム、蓚酸チタンナトリウム、チタン酸カリウム、チタン酸ナトリウム、チタン酸−水酸化アルミニウム混合物、塩化チタン、塩化チタン−塩化アルミニウム混合物、チタンアセチルアセトナート等が挙げられる。
【0119】
このようなチタン化合物を用いたTi系ポリエステルの合成には、例えば、特公平8−30119号公報、特許2543624号、特許3335683号、特許3717380号、特許3897756号、特許3962226号、特許3979866号、特許399687号1号、特許4000867号、特許4053837号、特許4127119号、特許4134710号、特許4159154号、特許4269704号、特許4313538号等に記載の方法を適用することができる。
【0120】
(リン化合物)
5価のリン化合物として、置換基として芳香環を有しない5価のリン酸エステルの少なくとも一種が用いられる。例えば、リン酸トリメチル、リン酸トリエチル、リン酸トリ−n−ブチル、リン酸トリオクチル、リン酸トリス(トリエチレングリコール)、リン酸メチルアシッド、リン酸エチルアシッド、リン酸イソプロピルアシッド、リン酸ブチルアシッド、リン酸モノブチル、リン酸ジブチル、リン酸ジオクチル、リン酸トリエチレングリコールアシッド等が挙げられる。
【0121】
本発明者による研究結果から、上記の5価のリン酸エステルの中では、炭素数2以下の低級アルキル基を置換基として有するリン酸エステル〔(OR)−P=O;R=炭素数1又は2のアルキル基〕が好ましく、具体的には、リン酸トリメチル、リン酸トリエチルが特に好ましい。
【0122】
特に、前記チタン化合物として、クエン酸又はその塩が配位するキレートチタン錯体を触媒として用いる場合、5価のリン酸エステルの方が3価のリン酸エステルよりも重合活性、色調が良好であり、更に炭素数2以下の5価のリン酸エステルを添加する態様の場合に、重合活性、色調、耐熱性のバランスを特に向上させることができる。
【0123】
リン化合物の添加量は、P元素換算値がポリエステル樹脂の構成成分の全質量に対して50ppm以上90ppm以下の範囲となる量が好ましい。リン化合物の量は、より好ましくは60ppm以上80ppm以下となる量であり、さらに好ましくは65ppm以上75ppm以下となる量である。
【0124】
(マグネシウム化合物)
マグネシウム化合物を含めることにより、静電印加性が向上する。この場合に着色がおきやすいが、本発明においては、着色を抑え、優れた色調、耐熱性が得られる。
【0125】
マグネシウム化合物としては、例えば、酸化マグネシウム、水酸化マグネシウム、マグネシウムアルコキシド、酢酸マグネシウム、炭酸マグネシウム等のマグネシウム塩が挙げられる。中でも、エチレングリコールへの溶解性の観点から、酢酸マグネシウムが最も好ましい。
【0126】
マグネシウム化合物の添加量としては、高い静電印加性を付与するためには、Mg元素換算値がポリエステル樹脂の構成成分の全質量に対して50ppm以上となる量が好ましく、50ppm以上100ppm以下の範囲となる量がより好ましい。マグネシウム化合物の添加量は、静電印加性の付与の点で、好ましくは60ppm以上90ppm以下の範囲となる量であり、さらに好ましくは70ppm以上80ppm以下の範囲となる量である。
【0127】
エステル化反応においては、触媒成分である前記チタン化合物と、添加剤である前記マグネシウム化合物及びリン化合物とを、下記式(i)から算出される値Zが下記の不等式(ii)を満たすように、添加して溶融重合させる場合が特に好ましい。ここで、P含有量は芳香環を有しない5価のリン酸エステルを含むリン化合物全体に由来するリン量であり、Ti含有量は、有機キレートチタン錯体を含むTi化合物全体に由来するチタン量である。このように、チタン化合物を含む触媒系でのマグネシウム化合物及びリン化合物の併用を選択し、その添加タイミング及び添加割合を制御することによって、チタン化合物の触媒活性を適度に高く維持しつつも、黄色味の少ない色調が得られ、重合反応時やその後の製膜時(溶融時)などで高温下に曝されても黄着色を生じ難い耐熱性を付与することができる。
(i)Z=5×(P含有量[ppm]/P原子量)−2×(Mg含有量[ppm]/Mg原子量)−4×(Ti含有量[ppm]/Ti原子量)
(ii)0≦Z≦+5.0
これは、リン化合物はチタンに作用するのみならずマグネシウム化合物とも相互作用することから、3者のバランスを定量的に表現する指標となるものである。
前記式(i)は、反応可能な全リン量から、マグネシウムに作用するリン分を除き、更にチタンに作用可能なリンの量を表現したものである。値Zが正の場合は、チタンを阻害するリンが余剰な状況にあり、逆に負の場合はチタンを阻害するために必要なリンが不足する状況にあるといえる。反応においては、Ti、Mg、Pの各原子1個は等価ではないことから、式中の各々の粒子数(ppm/原子量)に価数を乗じて重み付けを施してある。
【0128】
本発明においては、特殊な合成等が不要であり、安価でかつ容易に入手可能なチタン化合物、リン化合物、マグネシウム化合物を用いて、反応に必要とされる反応活性を持ちながら、色調及び熱に対する着色耐性に優れたポリエステル樹脂を得ることができる。
【0129】
前記不等式(ii)において、重合反応性を保った状態で、色調及び熱に対する着色耐性をより高める観点から、+1.5≦Z≦+5.0を満たす場合が好ましく、+1.5≦Z≦+4.0を満たす場合が好ましく、+1.5≦Z≦+3.0を満たす場合がより好ましい。
【0130】
本発明における好ましい態様として、エステル化反応が終了する前に、芳香族ジカルボン酸及び脂肪族ジオールに、1ppm以上30ppm以下のクエン酸又はクエン酸塩を配位子とするキレートチタン錯体を添加後、該キレートチタン錯体の存在下に、60ppm以上90ppm以下(より好ましくは70ppm以上80ppm以下)の弱酸のマグネシウム塩を添加し、該添加後にさらに、60ppm以上80ppm以下(より好ましくは65ppm以上75ppm以下)の、芳香環を置換基として有しない5価のリン酸エステルを添加する態様が挙げられる。
【0131】
エステル化反応は、エチレングリコールが還流する条件下で、反応によって生成した水又はアルコールを系外に除去しながら実施することができる。
【0132】
エステル化反応は、一段階で行なってもよいし、多段階に分けて行なうようにしてもよい。
エステル化反応を一段階で行なう場合、エステル化反応温度は230〜260℃が好ましく、240〜250℃がより好ましい。
エステル化反応を多段階に分けて行なう場合、第一反応槽のエステル化反応の温度は230℃〜260℃が好ましく、より好ましくは240℃〜250℃であり、圧力は1.0kg/cm〜5.0kg/cmが好ましく、より好ましくは2.0kg/cm〜3.0kg/cmである。第二反応槽のエステル化反応の温度は230℃〜260℃が好ましく、より好ましくは245℃〜255℃であり、圧力は0.5kg/cm〜5.0kg/cm、より好ましくは1.0kg/cm〜3.0kg/cmである。さらに3段階以上に分けて実施する場合は、中間段階のエステル化反応の条件は、前記第一反応槽と最終反応槽の間の条件に設定するのが好ましい。
【0133】
−重縮合−
前記エステル化反応で生成されたエステル化反応生成物を重縮合反応させて重縮合物を生成する。
重縮合反応は、1段階で行なってもよいし、多段階に分けて行なうようにしてもよい。
【0134】
エステル化反応で生成したオリゴマー等のエステル化反応生成物は、引き続いて重縮合反応に供される。この重縮合反応は、多段階の重縮合反応槽に供給することにより好適に行なうことが可能である。
【0135】
重縮合反応を1段階で行なう場合、重縮合温度は260〜300℃が好ましく、275〜285℃がより好ましい。また、圧力は10〜0.1torr(1.33×10−3〜1.33×10−5MPa)、より好ましくは5〜0.1torr(6.67×10−4〜6.67×10−5MPa)であることが好ましい。
また、例えば3段階の反応槽で行なう場合、重縮合反応条件は、第一反応槽は、反応温度が255〜280℃、より好ましくは265〜275℃であり、圧力が100〜10torr(13.3×10−3〜1.3×10−3MPa)、より好ましくは50〜20torr(6.67×10−3〜2.67×10−3MPa)であって、第二反応槽は、反応温度が265〜285℃、より好ましくは270〜280℃であり、圧力が20〜1torr(2.67×10−3〜1.33×10−4MPa)、より好ましくは10〜3torr(1.33×10−3〜4.0×10−4MPa)であって、最終反応槽内における第三反応槽は、反応温度が270〜290℃、より好ましくは275〜285℃であり、圧力が10〜0.1torr(1.33×10−3〜1.33×10−5MPa)、より好ましくは5〜0.1torr(6.67×10−4〜1.33×10−5MPa)である態様が好ましい。
【0136】
上記のエステル化反応及び重縮合により、チタン原子(Ti)、マグネシウム原子(Mg)、及びリン原子(P)を含むと共に、前記式(i)から算出される値Zが、前記不等式(ii)を満たすポリエステル樹脂組成物を生成することができる。
【0137】
前記ポリエステル樹脂組成物は、0≦Z≦+5.0を満たすものであることで、Ti、P、及びMgの3元素のバランスが適切に調節されているので、重合反応性を保った状態で、色調と耐熱性(高温下での黄着色の低減)とに優れ、かつ高い静電印加性を維持することができる。また、コバルト化合物や色素などの色調調整材を用いずに高い透明性を有し、黄色味の少ないポリエステル樹脂を得ることができる。
【0138】
前記式(i)は既述のように、リン化合物、マグネシウム化合物、及びリン化合物の3者のバランスを定量的に表現したものであり、反応可能な全リン量から、マグネシウムに作用するリン分を除き、チタンに作用可能なリンの量を表したものである。値Zが0未満、つまりチタンに作用するリン量が少な過ぎると、チタンの触媒活性(重合反応性)は高まるが、耐熱性が低下し、得られるポリエステル樹脂の色調は黄色味を帯び、重合後の例えば製膜時(溶融時)にも着色し、更に色調が低下する。また、値Zが+5.0を超える、つまりチタンに作用するリン量が多過ぎると、得られるポリエステルの耐熱性及び色調は良好なものの、触媒活性が低下しすぎ、生成性に劣るだけでなく、ポリエステル樹脂が系内に滞留する時間が増加することで、分解反応の影響が大きくなり、色調が低下したり、末端カルボン酸が増加したりする。
ある実施形態においては、上記同様の理由から、前記不等式(ii)は、+1.5≦Z≦+5.0を満たす場合が好ましく、+1.5≦Z≦+4.0を満たす場合が好ましく、+1.5≦Z≦+3.0を満たす場合がより好ましい。
【0139】
Ti、Mg、及びPの各元素の測定は、高分解能型高周波誘導結合プラズマ−質量分析(HR-ICP-MS、商品名:AttoM、SIIナノテクノロジー社製)を用いてPET中の各元素を定量し、得られた結果から含有量[ppm]を算出することにより行なうことができる。
【0140】
前記ポリエステル樹脂組成物の全質量に対する末端カルボキシル基(−COOH)の量(酸価(AV))、すなわち末端カルボキシル基濃度は25eq/t(トン)以下であることが好ましい。末端カルボキシル基濃度が25eq/t以下であると、ポリエステル分子末端のCOOH基のHが引き起こす加水分解反応を低減させることができるので、ポリエステルフィルムの耐加水分解性が向上する。末端カルボキシル基濃度は、5〜25eq/tの範囲が好ましい。末端カルボキシル基濃度の下限値は、カルボキシル基が少なくなり過ぎない点で、5eq/tが望ましい。
【0141】
溶融重合によって得られるポリエステル樹脂組成物の極限粘度(Intrinsic Viscosity(IV))は、目的に応じて適宜選択することができるが、0.40以上0.65以下の範囲が好ましく、より好ましくは0.45以上0.65以下、さらに好ましくは0.50以上0.63以下である。IVが0.40以上であると、被着体と密着させた界面での凝集破壊が生じにくく、良好な密着が得られやすい。また、IVが0.65以下であると、溶融重合において末端カルボキシル基濃度の少ないポリエステルが得られる。
【0142】
−固相重合−
上記の重縮合を終了した後には、得られたポリエステル樹脂をペレット状等に加工し、これを用いて固相重合を行なってもよい。
固相重合は、連続法(タワーの中に樹脂を充満させ、これを加熱しながらゆっくり所定の時間滞流させた後、順次送り出す方法)でもよく、バッチ法(容器の中に樹脂を投入し、所定の時間加熱する方法)でもよい。具体的には、固相重合として、特許第2621563号、特許第3121876号、特許第3136774号、特許第3603585号、特許第3616522号、特許第3617340号、特許第3680523号、特許第3717392号、特許第4167159号等に記載の方法を用いることができる。
【0143】
固相重合の温度は、170℃以上240℃以下が好ましく、より好ましくは180℃以上230℃以下であり、さらに好ましくは190℃以上220℃以下である。温度が上記範囲内であると、耐加水分解性を達成する上で好ましい。また、固相重合時間は、5時間以上100時間以下が好ましく、より好ましくは10時間以上75時間以下であり、さらに好ましくは15時間以上50時間以下である。時間が上記範囲内であると、耐加水分解性を達成する上で好ましい。固相重合は、真空中あるいは窒素雰囲気下で行なうことが好ましい。
【0144】
固相重合後のポリエステル樹脂組成物のIVとしては、0.68以上0.95以下の範囲が好ましく、より好ましくは0.70以上0.85以下の範囲がより好ましい。
【0145】
固相重合に供する極限粘度0.40〜0.65のポリエステルチップに付着したチップ粉や、風送配管中に配管壁面と接触して生成した紐状物など、チップに比べて比表面積が大きいポリエステルが、固相重合によってチップ以上に高分子量化することで生成する。このため、融点が300℃以上の成分を1000ppm以下にするには、固相重合に供するポリエステルチップ中のチップ粉を500ppm以下にすることが好ましい。また、固相重合後のポリエステルチップは、溶融押し出し前までの風送経路の任意の段階でダスト分離機によるダスト除去を行うことが好ましい。固相重合に供するポリエステルチップ中のチップ粉を500ppm以下にする方法としては、溶融ポリエステルのチップ化を水中カッターで行い、使用する冷却水中のチップ粉の濃度を100ppm以下になるように新鮮水を供給しつつ、循環時にフィルタでチップ粉を除去する方法が挙げられる。
【0146】
[2]未延伸フィルム形成
未延伸フィルム形成では、後述するポリエステル樹脂を冷却ドラム上にシート状に溶融押出しし、冷却ドラムの反対側から冷却風をあてることで、溶融ポリエステルシートを冷却固化する。シート状ポリエステルの厚みは2.5mm以上7.0mm以下であることが好ましい。
【0147】
−押出機−
溶融押出しは押出機を用いて実施し得る。押出機は、単軸押出機でも二軸押出機でもよい。原料ポリエステ樹脂を十分溶融せしめ、加水分解・熱分解などの劣化を抑制しつつ押し出すために、例えば、供給口及押出機出口を有するバレルと、それぞれ140mm以上の径を有し、前記バレル内で回転する2つのスクリュと、前記バレルの周囲に配置され、該バレルの温度を制御する温度制御手段とを備えた二軸押出機を用いることが好ましい。
【0148】
原料となるポリエステル樹脂を二軸押出機に供給し、該押出機内の樹脂温度が該押出機の上流端から押出機全長の40%〜80%の位置に295℃以下の範囲の最大値を有し、かつ、該押出機出口の樹脂温度を275℃〜285℃に制御して溶融押出を行うことが好ましい。
【0149】
図1は、本発明一実施形態であるポリエステルフィルムの製造方法を実施する際に使用する二軸押出機の構成の一例を概略的に示している。図2は、前記ポリエステルフィルムの製造方法を実施するフローの一例を示している。
図1に示す二軸押出機100は、供給口12及び押出機出口14を有するシリンダー10(バレル)と、シリンダー10内で回転する2つのスクリュ20A,20Bと、シリンダー10の周囲に配置され、該シリンダー10内の温度を制御する温度制御手段30と、を備えている。供給口12の手前には原料供給装置46が設けられている。また、押出機出口14の先には、図2に示すようにギアポンプ44と、フィルタ42と、ダイ40が設けられている。
【0150】
−シリンダー
シリンダー10は原料樹脂を供給するための供給口12と、加熱溶融された樹脂が押し出される押出機出口14を有する。
シリンダー10の内壁面は、耐熱、耐磨耗性、及び腐食性に優れ、樹脂との摩擦が確保可能な素材を用いることが必要である。一般的には内面を窒化処理した窒化鋼が使用されているが、クロムモリブデン鋼、ニッケルクロムモリブデン鋼、ステンレス鋼を窒化処理して用いることもできる。特に耐摩耗性、耐食性を要求される用途では、遠心鋳造法によりニッケル、コバルト、クロム、タングステン等の耐腐食性、耐磨耗性素材合金をシリンダー10の内壁面にライニングさせたバイメタリックシリンダーを用いることや、セラミックの溶射皮膜を形成させることが有効である。
【0151】
シリンダー10には真空を引くためのベント16A,16Bが設けられている。ベント16A,16Bを通じて真空引きをすることでシリンダー10内の樹脂中の水分等の揮発成分を効率的に除去することができる。ベント16A,16Bを適正に配置することにより、未乾燥状態の原料(ペレット、パウダー、フレークなど)や製膜途中で出たフィルムの粉砕屑(フラフ)等をそのまま原料樹脂として使用することができる。
ベント16A,16Bは脱気効率との関係で、開口面積やベントの数を適正にすることが求められる。二軸押出機100は、1箇所以上のベント16A,16Bを有することが望ましい。なお、ベント16A,16Bの数が多過ぎると、溶融樹脂がベントから溢れ出るおそれ、滞留劣化異物増加の懸念があるので、ベントは1箇所又は2箇所設けることが好ましい。
また、ベント付近の壁面に滞留した樹脂や析出した揮発成分が押出機100(シリンダー10)の内部に落下すると、製品に異物として顕在化する可能性があり、注意が必要である。滞留については、ベント蓋の形状の適正化や、上部ベント、側面ベントの適正な選定が有効であり、揮発成分の析出は、配管等の加熱で析出を防止する手法が一般的に用いられる。
【0152】
例えば、ポリエチレンテレフタレート(PET)を押出す場合、加水分解、熱分解、酸化分解の抑制が製品(フィルム)の品質に大きな影響を及ぼす。
例えば、樹脂供給口12を真空化したり、窒素パージを行うことで酸化分解を抑えることができる。
また、ベント16A,16Bを複数箇所に設けることで、原料水分量が2000ppm程度の場合でも、50ppm以下に乾燥した樹脂を単軸で押出した場合と同様の押出しが可能である。
剪断発熱による樹脂分解を抑えるため、押出と脱気が両立できる範囲でニーディング等のセグメントは極力設けないことが好ましい。
また、スクリュ出口(押出機出口)14の圧力が大きいほど剪断発熱が大きくなるため、ベント16A,16Bによる脱気効率と押出の安定性が確保できる範囲内で、押出機出口14の圧力は極力低くすることが好ましい。
【0153】
ベント16A,16Bを通じて真空引きをすることでシリンダー内の樹脂中の水分等の揮発成分を効率的に除去することができる。ベント圧力が低過ぎると溶融樹脂がシリンダー10の外に溢れ出るおそれがあり、ベント圧力が高過ぎると揮発成分の除去が不十分となり、得られたフィルムの加水分解が生じ易くなるおそれがある。溶融樹脂がベント16A,16Bから溢れ出ることを防ぐとともに揮発成分を選択的に除去する観点から、ベント圧力は0.01Torr〜5Torr(1.333Pa〜666.5Pa)とすることが好ましく、0.01Torr〜4Torr(1.333Pa〜533.2Pa)とすることがより好ましい。
【0154】
−二軸スクリュ−
シリンダー10内には、モータおよびギアを含む駆動手段21によって回転する2つのスクリュ20A,20Bが設けられている。スクリュ径Dが大きくなるほど、大量生産が可能である一方、溶融ムラが生じ易い。スクリュ径Dは、30〜250mm以下が好ましく、より好ましくは50〜200mm以下である。
【0155】
二軸押出機は、2つのスクリュ20A,20Bの噛み合い型と非噛み合い型に大別され、噛み合い型のほうが、非噛み合い型よりも混練効果が大きい。本発明の実施形態では、噛み合い型と非噛み合い型のいずれのタイプを用いても良いが、原料樹脂を十分混練して溶融ムラを抑制する観点から、噛み合い型を用いることが好ましい。
2つのスクリュ20A,20Bの回転方向は同方向と異方向とに分かれる。異方向回転スクリュ20A,20Bは同方向回転型よりも混練効果が高く、同方向回転型は自己清掃効果を持っているため、押出機内の滞留防止には有効である。
スクリュの軸方向も平行と斜交があり、強いせん断を付与する場合に用いられるコニカルタイプの形状もある。
【0156】
二軸押出機では、様々な形状のスクリュセグメントを用いることができる。スクリュ20A,20Bの形状としては、例えば、等ピッチの1条のらせん状フライト22が設けられたフルフライトスクリュが用いられる。
加熱溶融部に、ニーディングディスクやローターなどの剪断を付与するセグメントを用いることで、原料樹脂をより確実に溶融することができる。また、逆スクリュやシールリングを用いることにより、樹脂をせき止め、ベント16A,16Bを引く際のメルトシールを形成することができる。例えば、図1に示すように、ベント16A,16B付近に、上記のような原料樹脂の溶融を促進する混練部24A,24Bを設けることができる。
【0157】
押出機100の出口付近では溶融樹脂を冷却するための温調ゾーン(冷却部)が有効である。剪断発熱よりもシリンダー10の伝熱効率が高い場合は、例えば、温調ゾーン(冷却部)にピッチの短いスクリュ28を設けることで、シリンダー10壁面の樹脂移動速度が高まり、温調効率を上げることができる。
【0158】
−温度制御手段−
シリンダー10の周囲には、温度制御手段30が設けられている。図1に示す押出機100では、原料供給口12から押出機出口14に向けて長手方向に9つに分割された加熱/冷却装置C1〜C9が温度制御手段30を構成している。このようにシリンダー10の周囲に分割して配置された加熱/冷却装置C1〜C9によって、例えば加熱溶融部C1〜C7と冷却部C8,C9の各領域(ゾーン)に区画し、シリンダー10内を領域ごとに所望の温度に制御することができる。
【0159】
加熱は、通常バンドヒーターまたはシーズ線アルミ鋳込みヒーターが用いられるが、これらに限定されず、例えば熱媒循環加熱方法も用いることができる。一方、冷却はブロワーによる空冷が一般的であるが、シリンダー10の周囲に巻き付けたパイプ(通水路)に水または油を流す方法もある。
【0160】
−ダイ−
シリンダー10の押出機出口14には、押出機出口14から押出された溶融樹脂をフィルム状(帯状)に吐出するためのダイ40が設けられている。また、シリンダー10の押出機出口14とダイ40との間には、フィルムに未溶融樹脂や異物が混入することを防ぐためのフィルタ42が設けられている。バレル内で加熱溶融された原料樹脂が押出機出口を出てから、ダイからフィルム状に押出されるまでの時間(図2において両矢印で示される過程に要する時間)を、以下「滞留時間」と称する。
【0161】
−ギアポンプ−
厚み精度を向上させるためには、押出量の変動を極力減少させることが重要である。押出量の変動を極力減少させるために押出機100とダイ40との間にギアポンプ44を設けてもよい。ギアポンプ44から一定量の樹脂を供給することにより、厚み精度を向上させることができる。特に、二軸スクリュ押出機を用いる場合には、押出機自身の昇圧能力が低いため、ギアポンプ44による押出安定化を図ることが好ましい。
【0162】
ギアポンプ44を用いることにより、ギアポンプ44の2次側の圧力変動を1次側の1/5以下にすることも可能であり、樹脂圧力変動幅を±1%以内にできる。その他のメリットとしては、スクリュ先端部の圧力を上げることなしにフィルタによる濾過が可能なことから、樹脂温度の上昇の防止、輸送効率の向上、及び押出機内での滞留時間の短縮が期待できる。また、フィルタの濾圧上昇が原因で、スクリュから供給される樹脂量が経時変動することも防止できる。ただし、ギアポンプ44を設置すると、設備の選定方法によっては設備の長さが長くなり、樹脂の滞留時間が長くなることと、ギアポンプ部のせん断応力によって分子鎖の切断を引き起こすことがあり注意が必要である。
【0163】
ギアポンプ44は1次圧力(入圧)と2次圧力(出圧)の差を大きくし過ぎると、ギアポンプ44の負荷が大きくなり、せん断発熱が大きくなる。そのため、運転時の差圧は20MPa以内、好ましくは15MPa、更に好ましくは10MPa以内とする。また、フィルム厚みの均一化のために、ギアポンプ44の一次圧力を一定にするために、押出機のスクリュ回転を制御したり、圧力調節弁を用いたりすることも有効である。
【0164】
前記供給口から極限粘度IVが0.68〜0.95であるポリエステル樹脂を原料として供給し、前記温度制御手段により前記バレルの前記押出機出口側の内壁の温度をポリエステル樹脂の融点Tm(℃)以下に制御して冷却部となるように制御しながら前記バレル内で加熱溶融して押出機出口から押出した後、10分〜20分の平均滞留時間を経て、下記不等式(1)を満たす条件下でフィルム状に溶融押出しを行うことによりポリエステルフィルムを成形することが好ましい。
6.0×10−6×D≦Q/N≦1.1×10−5×D 不等式(1)
(不等式(1)中、Dは二軸押出機のスクリュ径(mm)、Nはスクリュ回転数(rpm)、Qは押出量(kg/hr)をそれぞれ表す。)
【0165】
上記押し出し方法により、IV0.68〜0.95のポリエステル樹脂の劣化を抑えつつ、シート状に溶融押し出しすることができる。
また、例えば、PETを押出す場合、加水分解、熱分解、酸化分解をさらに抑制するために、樹脂供給口を減圧真空化を行ったり、窒素パージを行うことが好ましい。また、ベントを複数箇所に設けることで、原料であるポリエステル樹脂の水分による加水分解を抑えることができるため、好ましい。
また、剪断発熱による樹脂分解を抑えるため、押出と脱気が両立できる範囲でニーディング等のセグメントは極力設けないことが好ましい。
また、スクリュ出口(押出機出口)の圧力が大きいほど剪断発熱が大きくなるため、ベントによる脱気効率と押出の安定性が確保できる範囲内で、押出機出口の圧力は極力低くすることが好ましい。
【0166】
押出機の後半で溶融樹脂を冷却するための温調ゾーン(冷却部)における冷却効果を高める観点から、冷却部に位置するスクリュのピッチは、スクリュ径Dに対し、0.5D〜0.8Dであることが好ましい。
【0167】
シート状押し出しの際、厚み精度を向上させるためには、押出量の変動を極力減少させることが重要である。押出量の変動を極力減少させるために押出機とダイとの間にギアポンプを設けてもよい。ギアポンプから一定量の樹脂を供給することにより、厚み精度を向上させることができる。特に、二軸スクリュ押出機を用いる場合には、押出機自身の昇圧能力が低いため、ギアポンプによる押出安定化を図ることが好ましい。
【0168】
‐加熱溶融‐
上記のような極限粘度IVが0.68〜0.95のポリエステル樹脂の原料(原料樹脂)を用意し、温度制御手段によりバレルを加熱するとともにスクリュを回転させ、供給口から原料樹脂を供給する。
バレル内に供給された原料樹脂は、温度制御手段による加熱のほか、スクリュの回転に伴う樹脂同士の摩擦、樹脂とスクリュやバレルとの摩擦などによる発熱によって溶融されるとともに、スクリュの回転に伴って押出機出口に向けて徐々に移動する。
バレル内に供給された原料樹脂は融点Tm(℃)以上の温度に加熱される。樹脂温度が低過ぎると溶融押出時の溶融が不足し、ダイからの吐出が困難になり得、樹脂温度が高過ぎると熱分解によって末端カルボキシル基濃度が著しく増加して耐加水分解性の低下を招き得る。
【0169】
具体的には、温度制御手段30によりシリンダー10を加熱するとともにスクリュを回転させ、供給口12からポリエステル樹脂の原料(原料樹脂)を供給する。なお、供給口12は、原料樹脂のペレット等が加熱されて融着しないようにすることと、モータなどのスクリュ駆動設備を保護するため、伝熱防止として冷却することが好ましい。
【0170】
シリンダー内に供給された原料樹脂は、温度制御手段30による加熱のほか、スクリュ20A,20Bの回転に伴う樹脂同士の摩擦、樹脂とスクリュ20A,20Bやシリンダー10との摩擦などによる発熱によって溶融されるとともに、スクリュの回転に伴って押出機出口14に向けて徐々に移動する。
シリンダー内に供給された原料樹脂は融点Tm(℃)以上の温度に加熱される。樹脂温度が低過ぎると溶融押出時の溶融が不足し、ダイ40からの吐出が困難になり得、樹脂温度が高過ぎると熱分解によって末端COOH基濃度が著しく増加して耐加水分解性の低下を招き得る。
ある実施形態では、温度制御手段30による加熱温度及びスクリュ20A,20Bの回転数を調整することにより、押出機内の樹脂温度が押出機の上流端から押出機全長の40%〜80%の位置に295℃以下の最大値を有し、かつ、押出機出口の樹脂温度が275℃〜285℃となるように溶融押出しを行う。なお、押出機の上流端とは、スクリュの溝がある根元の位置を意味する。
【0171】
二軸押出機内の樹脂温度の最大値が樹脂の融点より10℃高い温度(融点+10℃)未満であると、溶融樹脂の一部が固化して未溶融樹脂が発生し得、樹脂の融点より35℃高い温度(融点+35℃)の温度を超えると結晶化温度が高くなり、結晶化度を特定の範囲に制御することが困難になり得る。また、樹脂の末端COOH基濃度が増大して耐加水分解性が大きく低下し得る。このような観点から、ある実施形態では、二軸押出機内の樹脂温度の最大値は樹脂の融点+10℃以上樹脂の融点+35℃以下とし、樹脂の融点+15℃以上樹脂の融点+35℃以下が好ましく、樹脂の融点+20℃以上樹脂の融点+30℃以下が特に好ましい。
【0172】
また、二軸押出機内の樹脂温度の最大値が押出機の上流端から押出機全長の40%未満の位置にあると、発熱が大きくなり、出口樹脂温度を十分に低くすることが困難となり、80%を超える位置にあると、冷却による樹脂冷却効果が不十分となる。このような観点から、本発明では、二軸押出機内の樹脂温度の最大値は、押出機の上流端から押出機全長の40%〜80%の位置とし、押出機全長の45%〜70%の位置にあることが好ましく、50%〜60%の位置にあることがより好ましい。
【0173】
二軸押出機出口の樹脂温度については、従来の一般的な溶融押出しでは、通常、300℃程度で押出されるが、押出機出口の樹脂温度が275℃未満では未溶融異物が発生し得、285℃を超えると末端COOHが増大して耐加水分解性が大きく低下し得る。このような観点から、本発明のある実施形態では、押出機出口の樹脂温度は275℃〜285℃とし得、278℃〜283℃が好ましく、280℃〜282℃がより好ましい。
【0174】
押出機出口の樹脂温度を275℃〜285℃の範囲に制御する手段としては、空冷してもよいが、シリンダーの出口の温度を液体の熱媒によって制御することが好ましい。例えば、シリンダーの出口付近に配置されている加熱/冷却装置C9において、シリンダーを囲むように通水路を設け、通水路内に水等の液体を通すことで押出機出口の樹脂温度を効率的に低下させ、精度良く制御することができる。
【0175】
押出機出口側の先端部のシリンダー温度は、ポリエステル樹脂の融点未満であることが好ましい。押出機出口側の先端部のシリンダー温度をポリエステル樹脂の融点未満に制御すれば、押出機出口の樹脂を効率的に冷却して樹脂温度を275℃〜285℃に制御することができる。ただし、シリンダー温度が低すぎると、溶融樹脂の固化を招くおそれがあるため、押出機出口側の先端部のシリンダー温度は、ポリエステル樹脂の融点より150℃低い温度以上とすることが好ましく、ポリエステル樹脂の融点より100℃低い温度以上とすることがより好ましい。
【0176】
スクリュの仕事は摩擦熱として樹脂に伝わり、樹脂温度に大きく関わる。本発明のある実施形態では、押出量(kg/h)をQ、ポリエステル樹脂の熱容量(J/kgK)をCpとしたときに、ポリエステル樹脂の熱交換量Epolyに対して、下記の不等式(2)を満たすことが好ましい。
Epoly+20QCp<Esp<Epoly+50QCp (2)
なお、ポリエステル樹脂に対する押出機の比動力は、スクリュの仕事量として、スクリュ電流、電圧から算出することができる。
また、ポリエステル樹脂の熱交換量Epoly(J/s)は下記式により算出される。
Epoly=QCp(Tout−Tin)+QE
(Q:樹脂の吐出量(kg/s)、Cp:樹脂の熱容量(J/kg℃)、Tout:押出機出口樹脂温度(℃)、Tin:原料温度(℃)、E:融解潜熱(J/kg))
【0177】
なお、理論上はポリエステル樹脂の熱交換量Epolyを与えることで溶融することになるが、未溶融樹脂の残存及び溶融樹脂の固化を確実に抑制しつつ、末端COOHの増加を確実に抑制する観点から、ポリエステル樹脂の熱交換量に熱量(仕事量)を一定の範囲で上乗せすることが好ましい。
ポリエステル樹脂に対する押出機の比動力Espが(Epoly+20QCp)よりも大きければ、未溶融樹脂の残存及び溶融樹脂の固化を抑制することができ、一方、(Epoly+50QCp)よりも小さければ末端COOHの増加を抑制することができる。このよう観点から、ポリエステル樹脂に対する押出機の比動力Espは下記不等式(3)の関係を満たすことがより好ましく、不等式(4)の関係を満たすことがさらに好ましい。
Epoly+25QCp<Esp<Epoly+40QCp (3)
Epoly+25QCp<Esp<Epoly+35QCp (4)
【0178】
また、ポリエステル樹脂を二軸押出機で溶融押出した後、水冷したストランドの昇温結晶化温度Tc(℃)が130<Tc<150であることが好ましい。前記のように二軸押出機内の樹脂温度と押出機出口の樹脂温度を制御して溶融押出したポリエステル樹脂を水中に入れて得たもの(ストランド)について、DSC(示差走査熱量測定)によって昇温結晶化温度Tc(℃)を測定する。未溶融樹脂が残存していればTcは低く(120℃程度)なるが、Tcが130より大きければ未溶融樹脂がほとんどなく、Tcが150未満であれば樹脂の分解を抑えて十分な耐候性を得ることが可能となる。
【0179】
‐ベント圧力‐
ベントを通じて真空引きをすることでバレル内の樹脂中の水分等の揮発成分を効率的に除去することができる。ベント圧力が低過ぎると溶融樹脂がバレルの外に溢れ出るおそれがあり、ベント圧力が高過ぎると揮発成分の除去が不十分となり、得られたフィルムの加水分解が生じ易くなるおそれがある。溶融樹脂がベントから溢れ出ることを防ぐとともに揮発成分を選択的に除去する観点から、ベント圧力は0.01Torr〜5Torr(1.333Pa〜666.5Pa)とすることが好ましく、0.01Torr〜4Torr(1.333Pa〜533.2Pa)とすることがより好ましい。
【0180】
‐平均滞留時間‐
バレル内で原料樹脂が加熱溶融され、押出機出口を出た後、ダイからフィルム状に押出されるまでの時間の平均(平均滞留時間)は10分〜20分が好ましい。平均滞留時間が10分未満では未溶融樹脂が残留し易く、一方、20分を超えると、熱分解によって末端カルボキシル機基濃度が増加して耐加水分解性が低下する。このような観点から、平均滞留時間は、10分〜20分が好ましく、10分〜15分がより好ましい。
ここで、平均滞留時間は、下記式で定義される。
平均滞留時間(秒)=[{押出機下流配管容積(cm)×溶融体密度(g/cm)×3600}/1000]÷押出量(kg/h)
【0181】
‐冷却‐
上記のように原料樹脂をバレル内で加熱溶融する一方、温度制御手段によりバレル押出機出口側の内壁がポリエステル樹脂(原料樹脂)の融点Tm(℃)以下の冷却部となるように制御する。バレルの押出機出口側の内壁を冷却部として原料樹脂の融点Tm(℃)以下に制御すれば、樹脂が過剰に加熱されて末端カルボキシル基濃度が増加することを抑制することができる。末端カルボキシル基濃度の増加を確実に抑制する観点から、かかる冷却部における温度は、(Tm−150)℃〜Tm℃の範囲内が好ましく、(Tm−100)℃〜(Tm)℃の範囲内がより好ましい。
【0182】
冷却部の長さは、スクリュ径Dに対し、4D〜11Dにすることが好ましい。冷却部の長さが4D以上であれば、溶融加熱された樹脂を効果的に冷却して末端カルボキシル基濃度の増加を抑制する。一方、冷却部の長さが11D以下であれば、樹脂を冷却し過ぎて固化することを防ぎ、溶融押出しを円滑に行うことができる。
押出機出口における樹脂温度ToutがTm+30℃以下となるようにすることが好ましい。ただし、押出機出口における樹脂温度Toutが低過ぎると溶融樹脂の一部が固化する恐れもあるため、押出機出口における樹脂温度ToutはTm〜(Tm+25)℃以下とすることがより好ましく、(Tm+10)℃〜(Tm+20)℃とすることがさらに好ましい。
【0183】
‐溶融押出し‐
原料樹脂をバレル内で加熱溶融して押出機出口から押出された後、10分〜20分の平均滞留時間を経て、スクリュ径Dを考慮してスクリュ回転数N(rpm)と押出量Q(kg/hr)を制御することで下記不等式(5)を満たす条件下でフィルム状に溶融押出しを行うことが好ましい。
6.0×10−6×D≦Q/N≦1.1×10−5×D 不等式(5)
【0184】
Q/Nが6.0×10−6×D未満では、スクリュの高回転によって樹脂が高温に発熱し、熱分解により末端カルボキシル基濃度が増加する。Q/Nが1.1×10−5×Dを超えると、ベント直下の樹脂充填率が増加し、ベントから溶融樹脂が溢れ易くなるほか、ベント圧が低下するため、押出機内部での樹脂の加水分解が進行し、末端カルボキシル基濃度が増加してしまう。さらに、未溶融樹脂がフィルムに混入し易くなり、フィルムの強度が低下することで延伸工程におけるフィルム破断の原因となる。
一方、上記不等式(5)を満たす条件下で溶融押出しを行う場合、ベントから樹脂が溢れ出ることが防止されるとともに、スクリュ回転数Nが比較的遅くなり、押出機出口の手前の冷却部によって過剰な加熱が抑制されるとともに、樹脂とスクリュやバレルとの接触による発熱が抑制され、熱分解による末端カルボキシル基濃度の増加を抑制することができる。
【0185】
上記観点から下記不等式(6)を満たす条件下で溶融押出しを行うことが好ましく、下記不等式(7)を満たす条件下で溶融押出しを行うことがより好ましい。
7×10−6×D≦Q/N≦1×10−5×D 不等式(6)
8×10−6×D≦Q/N≦9×10−6×D 不等式(7)
【0186】
スクリュ回転数Nが低過ぎると、温度制御手段によって温度ムラが生じて未溶融樹脂が生じ易い。スクリュ回転数Nが高過ぎると、過度に発熱して末端カルボキシル基濃度の増加につながる。スクリュ回転数Nは1.9×10×D−0.5rpm〜8.4×10×D−0.5rpmが好ましく、6.3×10×D−0.5rpm〜7.9×10×D−0.5rpmがより好ましい。
押出量Qが少な過ぎると過度に加熱され易くなり、多過ぎると未溶融樹脂が生じ易くなる。押出量Qは1.1×10−3×D2.5kg/hr〜7.6×10−3×D2.5kg/hrが好ましく、3.8×10−3×D2.5kg/hr〜7.1×10−3×D2.5kg/hrがより好ましい。
バレルの押出機出口から押し出された樹脂をフィルタに通してダイから(例えば冷却ロールに)押し出してフィルム状に成形する。
【0187】
ダイからメルト(溶融樹脂)を押出した後、冷却ロールに接触させるまでの間(エアギャップ)は、湿度を5%RH〜60%RHに調整することが好ましく、15%RH〜50%RHに調整することがより好ましい。エアギャップでの湿度を上記範囲にすることで、フィルム表面のCOOH量やOH量を調節することが可能であり、低湿度に調節することで、フィルム表面のカルボン酸量を減少させることができる。
前記方法によれば、樹脂温度を一度上げてから冷却部で下げることで、末端COOH量の増加を抑制するとともに、未溶融異物の発生を抑制することができるほか、フィルムのヘイズ上昇を制御しやすくなる効果が得られる。特に本発明の一実施形態における厚手製膜をする際は、冷却ドラムおよび逆面からのエア冷却の条件と組み合わせることにより、シートの厚み方向中央付近での結晶化によるヘイズ量の制御が可能となる。
未延伸フィルムの厚さは、2.5mm〜8mmが好ましく、より好ましくは2.5mm〜7mmであり、さらに好ましくは2.5mm〜5mmである。厚みを厚くすることで、押出されたメルトがガラス転移温度(Tg)以下に冷却するまでの所要時間を長くすることができる。この間に、フィルム表面のCOOH基はポリエステル内部に拡散され、表面COOH量を低減することができる。
【0188】
溶融押出しされるポリエステルは、降温結晶化温度の半値幅が25℃以上50℃以下であることが好ましい。
ここで、降温結晶化温度の半値幅が25℃以上50℃以下であるとする物性は、押出機より溶融押出しされる際のポリエステル(溶融樹脂)が備えていればよい。すなわち、原料であるポリエステルが、押出機に投入される前は、降温結晶化温度の半値幅が25℃以上50℃以下である物性を備えていなくとも、溶融され、押出機の中を通過して押出ダイから押出されるときに、降温結晶化温度の半値幅が25℃以上50℃以下である物性を備えていることが好ましい。
降温結晶化の半値幅が50℃を超えると、未延伸シートの結晶化速度が低くなりすぎる傾向がある。半値幅が25℃未満では、未延伸シートの結晶化速度が高くなりすぎ、延伸特性が低下し得る。
【0189】
溶融押出しされるポリエステルの降温結晶化温度の半値幅がかかる範囲であることで、後述する冷却工程で結晶化を抑制し得る。より具体的には、降温結晶化温度の半値幅を25℃以上とすることで、冷却工程で、球晶が発生することを抑制することができ、50℃以下とすることで、結晶の成長が抑制され得る。
【0190】
降温結晶化温度は、溶融樹脂を冷却しながら、溶融樹脂の熱量を、島津製作所社製の示差走査熱量測定装置 (Differential scanning calorimetry;DSC)を用いて測定したとき、縦軸に熱量、横軸に温度をとった座標系で、得られた発熱ピークの頂点の温度をいい、Tcとも称する。降温結晶化温度(Tc)の半値幅(半値全幅)は、当該発熱ピークのピーク幅をいう。
半値幅の測定方法の詳細は、次のとおりである。
【0191】
(1)試料としてポリエステルシートを10mg秤量し、アルミパンにセットし、昇温速度10℃/minで、室温から最終温度300℃まで昇温しながら、示差走査熱量測定装置(商品名:DSC−60、島津製作所社製)で、温度に対する熱量を測定する。
(2)最終温度の300℃に到達後、保持せずに、降温速度−10℃/minで、最終温度60℃まで降温する。
(3)300℃から60まで降温する間に検出される凸状の発熱ピークの頂点の温度を降温結晶化温度(Tc)とし、当該発熱ピークの幅を半値幅とする。より具体的には、縦軸に試料の熱量を、横軸に温度を取った座標系で、高温側から低温側にプロットして作成したDSC曲線において、発熱吸収により、DSC曲線のベースラインからピークが立ち上がり始める温度と、発熱吸収が無くなり、ベースラインに到達する温度との温度幅を半値幅とする。
【0192】
降温結晶化温度(Tc)の半値幅は、25℃以上40℃以下であることが好ましく、30℃以上37℃以下であることがより好ましい。
また、降温結晶化温度は、160℃以上220℃以下であることが好ましい。降温結晶化温度が160℃以上であることで冷却速度を大きくすることができ(低温では冷媒との温度差小さく、冷却速度を稼げない)、220℃以下であることで結晶化が始まるのを遅くすることができる。降温結晶化温度は、170℃以上210℃以下であることがより好ましい。
【0193】
溶融押出しされるポリエステルの降温結晶化温度の半値幅は、例えば、押出機中の溶融樹脂に圧力変動等の変動を与えることで制御し得る。具体的には、溶融樹脂を押出す圧力、すなわち、背圧を変動させたり、押出機内の温度を変化させて溶融樹脂の温度分布を変動させたり、押出機のスクリュの回転数を変動させることが挙げられる。
背圧、温度分布、及びスクリュ回転数等を変動して、半値幅を25℃以上50℃以下とすることで、溶融樹脂中に熱分解物が生じ易くなる。溶融樹脂に熱分解物が含まれていると、溶融樹脂中に球晶が発生していても、結晶が成長しにくくなるため、結果、ポリエステルシートの結晶化を制御することが可能になると考えられる。
【0194】
具体的には、次のように圧力や温度を変動させることにより、溶融樹脂の降温結晶化温度の半値幅を25℃以上50℃以下とし易い。下記に示す圧力ないし温度の変動の数値範囲は、下限よりも小さいと、降温結晶化温度の半値幅を25℃としにくく、上限よりも大きいと、溶融樹脂の熱分解が生じ過ぎて、却ってポリエステルの結晶化を促進するおそれがある。
背圧は、押出機バレル内での平均圧力に対して0.5%以上1.5%以下の範囲で加圧することで変動させることが好ましい。背圧変動は、0.8%以上1.1%以下である
ことがより好ましい。
【0195】
溶融樹脂の温度分布は、押出機バレル内での平均温度に対して0.5%以上4%以下の範囲で加熱することで変動させることが好ましい。さらには、0.8%以上2.5%以下であることがより好ましい。
なお、ポリエステルの降温結晶化温度の半値幅を制御するに当たり、背圧、温度分布、スクリュ回転数のいずかのみを変動させてもよいし、2つ以上を組み合わせて変動させてもよい。
以上のようにポリエステルの降温結晶化温度を制御することで、シート状ポリエステルの結晶化速度を制御しやすくし、以下に述べる冷却方法と組み合わせることで、シート厚み方向の中心近傍の結晶化生成を制御する。
【0196】
−冷却工程−
冷却工程では、溶融押出しされたシート状のポリエステルを、前記ポリエステルの表面温度が350℃/min以上590℃/min以下で低下するように冷却することが好ましい。
本発明では、ポリエステルシート(未延伸フィルム)の厚みが大きいため、冷却面であるポリエステルの表面の冷却速度と、ポリエステルの内部の冷却速度とに差が生じやすい。冷却速度が遅いと、ポリエステルシート内部で球晶が生じ、延伸時に空隙(ボイド)が生成したり、破断しやすくなる。このため、ポリエステルの冷却は、冷却ドラムと反対側の面からの強制冷却を行うことが好ましい。
【0197】
溶融樹脂の冷却速度は、370℃/min以上590℃/min以下であることがより好ましく、400℃/min以上590℃/min以下であることが特に好ましい。
冷却手段は、連続運転時のシート表面へのオリゴマー付着防止の観点および、ポリエステルシートの厚み方向中心近傍の結晶化速度の制御のしやすさの観点から、押出機から押出された溶融樹脂を冷風で冷却すると共に、溶融樹脂を冷却キャストドラムに接触させて冷却することが好ましい。
【0198】
冷風による冷却は、冷風温度が低い方が好ましいが、給気エアの冷却コストが上がるため、シート状ポリエステルのヘイズ制御が可能な範囲で室温近傍の温度で行うこともできる。
冷風温度は、具体的には、0℃以上50℃以下とすることが好ましく、5℃以上40℃以下とすることがより好ましく、10℃以上35℃以下とすることがさらに好ましい。また、風速は、冷却の観点からは高い方が好ましいが、過度に風速を高めると、シート表面の平坦性が損なわれる。したがって、20m/sec以上70m/sec以下とすることが好ましく、40m/sec以上65m/sec以下とすることがより好ましく、50m/sec以上60m/sec以下とすることがさらに好ましい。
【0199】
冷却キャストドラムの温度は、−10℃以上30℃以下が好ましく、より好ましくは−5℃以上25℃以下、さらに好ましくは0℃以上15℃以下である。さらに、溶融樹脂と冷却キャストドラムとの間で密着性を高め、冷却効率を上げる観点からは、冷却キャストドラムに溶融樹脂が接触する前に静電気を印加しておくことが好ましい。
なお、上記冷却風の温度と風速、および冷却ドラムの温度を変更することで、目的とするシートのヘイズを調整することが好ましい。
溶融樹脂を、冷却キャストドラムを用いて冷却した場合、冷却したポリエステルシートの表面温度が、下記不等式(8)を満たす温度であるときに、冷却キャストドラムから剥離することが好ましい。
Tg−10<TL<Tg 不等式(8)
〔不等式(8)中、Tgはポリエステルのガラス転移温度(℃)を示し、TLは冷却されたポリエステルの表面温度を示す。〕
【0200】
すなわち、冷却したポリエステルシートの表面温度TLが、ポリエステルのガラス転移温度Tgよりも低くなったときに、ポリエステルシートを冷却キャストドラムから剥離することが好ましい。また、冷却したポリエステルシートの表面温度TLが、ポリエステルのガラス転移温度Tgより10℃低い温度以下となる前に、ポリエステルシートを冷却キャストドラムから剥離することが好ましい。
【0201】
冷却したポリエステルシートの表面温度TLが、ポリエステルのガラス転移温度Tgを下回ることで、ポリエステルシートが十分に固化され、柔軟性が低下しているため、剥離の際に、ポリエステルシートの一部が伸びる等の損傷を抑制し得る。冷却したポリエステルシートの表面温度TLが、ポリエステルのガラス転移温度Tgより10℃低い温度より高い温度で剥離することで、ポリエステルシートのひび割れ等の欠損を抑制することができる。
なお、ポリエステルシートの原料であるポリエステルのガラス転移温度(Tg)は、特に制限されないが、65℃以上80℃以下であることが好ましく、70℃以上80℃以下であることがより好ましい。
【0202】
さらに、冷却したポリエステルの冷却キャストドラムからの剥離は、冷却キャストドラムに対向配置された剥ぎ取りロールを用いて行なうことが好ましい。
剥ぎ取りロールを用いて、冷却したポリエステルを冷却キャストドラムから剥離することで、冷却したポリエステルに偏った引っ張り応力を与えずに剥離することができるため、冷却したポリエステルを損ない難い。
また、剥ぎ取りロールのロール径は、冷却キャストドラムのロール径との間に、下記不等式(9)を満たす大きさであることが好ましい。
(D1/D2)<7 不等式(9)
〔不等式(9)中、D1は冷却キャストドラムのロール径を示し、D2は剥ぎ取りロールのロール径を示す。〕
さらに、剥ぎ取りロールのロール径は、冷却キャストドラムのロール径との間に、下記不等式(9−2)を満たす大きさであることがより好ましい。
3≦(D1/D2)<7 不等式(9−2)
〔不等式(9−2)中、D1は冷却キャストドラムのロール径を示し、D2は剥ぎ取りロールのロール径を示す。〕
D1/D2が3以上となると、冷却したポリエステルを冷却キャストドラムから剥離するときに、ポリエステルが、剥ぎ取りロールに沿って、偏らずに剥離することができる。
【0203】
ポリエステルのガラス転移温度Tgは、前述のDSCを用いて測定する。具体的には、試料としてポリエステルシートを10mg秤量し、アルミパンにセットし、昇温速度10℃/minで、室温から最終温度300℃まで昇温しながら、DSC装置で、温度に対する熱量を測定したとき、DSC曲線が屈曲する温度をガラス転移温度とした。なお、ポリエステルの融点(溶融温度)Tmは、当該DSC曲線において得られる凹状の吸熱ピークのピーク頂点における温度として求める。
【0204】
上記のポリエステルシートの製造方法により、厚さ2.5mm以上8mm以下のポリエステルシートが得られる。なお、厚さが5mmを超えると、溶融樹脂の厚み方向中央部近傍の冷却速度が過度に低下するため、ヘイズが急上昇しやすくなるため、冷却速度をさらに高める手段を併用しても良い。具体的には、好ましい例として、冷却風に水のミストを混合して蒸発潜熱による冷却を行う方法が挙げられる。
【0205】
シートの厚みは、好ましくは2.5mm〜7mm、さらに好ましくは2.5mm〜5mmである。ポリエステルシートの厚さが3mm未満であると、二軸延伸後のフィルムの厚みを200μm以上とした場合、延伸倍率を低くしなければならず、破断応力が小さなフィルムになってしまう。
好ましい二軸延伸フィルムとして、例えば、250μm、内部ヘイズ1.5%、外部ヘイズ2.0%、破断応力210MPaの二軸延伸フィルムを製造する場合、冷却ドラム上で形成される未延伸ポリエステルフィルムは、例えば、厚み3.0〜3.5mm、外部ヘイズは30〜80%、となるように成形することが好ましい。
【0206】
以上のようにして得られた厚みが好ましくは2.5mm以上7.0mm以下の未延伸ポリエステルフィルムを、後述する延伸工程において延伸する。
【0207】
[3]延伸
未延伸フィルム形成工程により得られた未延伸ポリエステルフィルム(ポリエステルシート)を、例えば、平均温度T1(℃)が下記不等式(10)で示す関係を満たし、且つ、表面温度が中心温度よりも0.3℃以上15℃未満高くなるように加熱した後、縦横の方向(搬送方向及び幅方向)に延伸する。
Tg−20℃<T1<Tg+25℃ 不等式(10)
[不等式(10)中、Tgは前記ポリエステル樹脂のガラス転移温度(℃)を表す。]
【0208】
ある実施形態では、未延伸ポリエステルフィルムを、予熱ロールにより加熱した後、近赤外ヒーター又は遠赤外ヒーターによって加熱しながら延伸ロールにより延伸することが好ましい。
【0209】
延伸に供される未延伸ポリエステルフィルムは、その温度が、平均温度T1(℃)が上記式(1)で示す関係を満たし、且つ、表面温度が中心温度よりも0.3℃以上15℃未満高くなるように加熱することが好ましい。厚さが2.5mm以上7.0mm以下の未延伸ポリエステルフィルムを用い、且つ、該フィルムの温度を特定の範囲に制御することにより、延伸時における傷の発生を抑制しうる程度にフィルム表面の近傍を柔らかくできる一方、フィルムの内部においては配向性を保つことができる。このため、2.5mm以上7.0mm以下の厚手の未延伸ポリエステルフィルムを、傷の発生を抑制し且つフィルムの配向性を低下させることなく延伸することができることから、上記延伸方法で得られたポリエステルフィルムは、フィルム表面の平滑性を保持しつつも、耐加水分解性及び耐電圧性の双方に優れたものとなる。
【0210】
未延伸ポリエステルフィルムの平均温度T1(℃)とは、加熱された未延伸ポリエステルフィルムの表面温度と中心温度との平均値である。
なお、上記延伸方法に関し、温度の測定方法の詳細は、以下に示す通りである。
【0211】
フィルムの表面温度は、測定対象となるフィルムの表面2面(両面)に、熱電対を貼り付けて測定する。フィルムの中心温度は、測定対象となるフィルムの膜厚方向における中心部に、熱電対を埋め込むことによって測定する。
測定範囲は、フィルムの表面温度及び中心温度のいずれについても、測定開始点を延伸開始点より3m前(フィルム搬送方向長)とし、該測定開始点から延伸開始点までとする。ここで、「延伸開始点」とは、搬送された未延伸ポリエステルフィルムが、延伸ロールと接触する点を意味する。
測定は、測定開始点及び測定開始から100msec経過する毎に、フィルムの表面温度及び中心温度の双方を測定することにより行う。
平均温度T1(℃)は、測定された表面温度及び中心温度の平均値を各測定点毎に算出し、それらを相加平均することにより算出する。
フィルムの表面温度と中心温度との差は、測定された表面温度から中心温度を減じた値を測定点毎に算出し、それらの値を相加平均することにより算出する。
【0212】
未延伸ポリエステルフィルムの温度を、平均温度T1(℃)が前記式(1)で示す関係を満たし、且つ、表面温度が中心温度よりも0.3℃以上15℃未満高くなるように制御する方法としては、予熱ロールの温度を調整する態様、予熱ロールの温度及び予熱ロール周囲の温度を調整する態様、ロール間距離、フィルム搬送速度を調整する態様が挙げられる。
【0213】
未延伸ポリエステルフィルムの平均温度T1(℃)は、下記不等式(10−2)の関係を満たすことがより好ましい。
Tg−10℃<T1<Tg+20℃ ・・・不等式(10−2)
[不等式(10−2)中、Tgは前記ポリエステル樹脂のガラス転移温度(℃)を表す。]
【0214】
予熱ロールにより加熱された未延伸ポリエステルフィルムの表面温度と中心温度との関係は、表面温度が中心温度よりも1℃以上10℃以下高いことがより好ましい。
【0215】
延伸においては、未延伸ポリエステルフィルムの加熱に用いる予熱ロールの表面温度及び周辺雰囲気温度が、いずれも下記不等式(11)示す関係を満たす温度T2(℃)であることが好ましい。
Tg−25℃<T2<Tg+40℃ 不等式(11)
[不等式(11)中、Tgは前記ポリエステルのガラス転移温度(℃)を表す。]
【0216】
予熱ロールが2本以上設置される場合には、予熱ロールの表面温度及び周辺雰囲気温度は、すべての予熱ロールにおける表面温度、及び、これらの予熱ロールの周辺雰囲気温度が、上記不等式(11)で示す関係を満たすことが好ましい。
予熱ロールの表面温度及び周辺雰囲気温度の双方が、上記不等式(11)で示す関係を満たす温度T2(℃)であることで、延伸時における傷の発生をより効果的に抑制することができる。
【0217】
予熱ロールの表面温度は、予熱ロールの表面を、放射温度計(商品名:型番RT60、(株)チノー製)にて測定することができる。
予熱ロールの周辺雰囲気温度は、予熱ロール表面の周辺空間であって、予熱ロールからの熱放射の影響を受けない位置における温度(℃)を、熱電対にて測定した測定値である。
【0218】
予熱ロールの周辺雰囲気温度を、不等式(11)で示す関係を満たすように調整する方法としては、熱風の送風、IRヒーターでの加熱、予熱ロール周辺の断熱材によるケーシング等が挙げられる。
【0219】
延伸方法の好適な態様の一つは、予熱ロールの雰囲気温度を管理した中で、未延伸ポリエステルフィルムを予熱ロールにて予熱し、近赤外ヒーターにて加熱を開始した箇所から所定の速度比に調整した延伸ロールによって搬送方向に延伸する縦一軸延伸を行った後、テンターにて横延伸する延伸方法である。
【0220】
二軸延伸は、例えば、ポリエステルシートを、ポリエステルシートの長手方向に、延伸応力が5MPa以上20MPa以下、かつ、延伸倍率が2.5倍以上4.5倍以下の縦延伸及び幅方向に延伸倍率が2.5倍以上5倍以下の横延伸を行えばよい。
【0221】
より具体的には、ポリエステルシートを、70℃以上120℃以下の温度に加熱されたロール群に導き、長手方向(縦方向、すなわちフィルムの進行方向)に、延伸応力が5MPa以上20MPa以下、かつ、延伸倍率が2.5倍以上4.5倍以下、より好ましくは、延伸応力が8MPa以上18MPa以下、かつ、延伸倍率が3.0倍以上4.0倍以下の縦延伸を行い得る。縦延伸後、20℃以上50℃以下の温度のロール群で冷却することが好ましい。
【0222】
続いて、ポリエステルシートの両端をクリップで把持しながらテンターに導き80℃以上180℃以下の温度に加熱された雰囲気中で、長手方向に直角な方向、すなわち、幅方向に延伸応力が8MPa以上20MPa以下であり、かつ、延伸倍率が3.4倍以上4.5倍以下の横延伸を行うことが好ましく、延伸応力が10MPa以上18MPa以下、かつ、延伸倍率が3.6倍以上5倍以下の横延伸を行うことがより好ましい。
【0223】
上記二軸延伸による延伸面積倍率(縦延伸倍率×横延伸倍率)は、9倍以上20倍以下であることが好ましい。面積倍率が9倍以下では、二軸延伸フィルムの破断応力が小さくなり、また、フィルムの耐候性能が低下するので好ましくない。
延伸の面積倍率が20倍以上では、延伸張力が膨大になるため、これに耐えうる設備(高張力化ロール、および超高トルクモータなど)コストが高価になる。また、延伸時にフィルムの破断が生じやすくなるため、生産性が低下する。
より好ましい延伸面積倍率は、10倍以上18倍以下である。
フィルムの縦・横の二軸方向の破断応力などの均一性の観点から、縦/横の延伸倍率は0.5〜1.3が好ましく、さらに好ましくは0.6〜1.2である。
【0224】
二軸延伸する方法は、上述のように、長手方向と幅方向の延伸とを分離して行なう逐次二軸延伸方法であってもよく、長手方向と幅方向の延伸を同時に行なう同時二軸延伸方法のいずれであってもよい。
【0225】
ポリエステルフィルムには、必要に応じて、その表面上に着色剤で着色された着色層(太陽光を反射する光反射層を含む)や、電池側基板の構成基材(例えばEVA等の封止材)との間の接着性を高める易接着性層などの、一つまたは複数の機能性層を設けてもよく設けなくてもよい。機能性層を設ける場合、ポリマー支持体となるポリエステルフィルム表面と機能性層との間に、下塗り層を設けることができる。
【0226】
機能性層を設ける場合、二軸延伸した後のポリエステルフィルムに機能性層を形成するための塗布液を塗布した後、塗膜を乾燥させてもよいし、一軸延伸後のポリエステルフィルムに塗布液を塗布して塗膜を乾燥させた後に、初めの延伸と異なる方向に延伸する方法でもよい。さらに、延伸前のポリエステルフィルムに塗布液を塗布して塗膜を乾燥させた後に2方向に延伸してもよい。
【0227】
(下塗り層)
下塗り層の厚みは、2μm以下の範囲が好ましく、より好ましくは0.005μm〜2μmであり、更に好ましくは0.01μm〜1.5μmである。厚みが0.005μm以上であると、塗布ムラの発生を回避し易く、2μm以下であると、ポリマー支持体がベタつくのを回避し得、良好な加工性を得うる。
【0228】
下塗り層は、ポリオレフィン樹脂、アクリル樹脂、ポリエステル樹脂、ポリウレタン樹脂からなる群より選ばれる1種類以上のポリマーを含有することが好ましい。
【0229】
ポリオレフィン樹脂としては、例えば、変性ポリオレフィン共重合体が好ましい。前記ポリオレフィン樹脂としては市販品を用いてもよく、例えば、アローベース(登録商標)SE−1013N、アローベース(登録商標)SD−1010、アローベース(登録商標)TC−4010、アローベース(登録商標)TD−4010(ユニチカ(株)製)、ハイテックS3148、ハイテックS3121、ハイテックS8512(全て商品名、東邦化学(株)製)、ケミパール(登録商標)S−120、ケミパール(登録商標)S−75N、ケミパール(登録商標)V100、ケミパール(登録商標)EV210H(三井化学(株)製)などを挙げることができる。ある実施形態では、低密度ポリエチレン、アクリル酸エステル、無水マレイン酸の三元共重合体である、アローベース(登録商標)SE−1013N(ユニチカ(株)製)を用いることが好ましい。
【0230】
アクリル樹脂としては、例えば、ホリメチルメタクリレート、ポリエチルアクリレート等を含有するポリマー等が好ましい。アクリル樹脂としては市販品を用いてもよく、例えば、AS−563A(商品名、ダイセルフアインケム(株)製)を好ましく用いることができる。
【0231】
ポリエステル樹脂としては、例えば、ポリエチレンテレフタレート(PET)、ポリエチレン−2,6−ナフタレート(PEN)等が好ましい。ポリエステル樹脂としては市販品を用いてもよく、例えば、バイロナール(登録商標)MD−1245(東洋紡(株)製)を好ましく用いることができる。
ポリウレタン樹脂としては、例えば、カーボネート系ウレタン樹脂が好ましく、例えば、スーパーフレックス(登録商標)460(第一工業製薬(株)製)を好ましく用いることができる。
【0232】
これらの中でも、ポリマー支持体および前記白色層との接着性を確保する観点から、ポリオレフィン樹脂を用いることが好ましい。これらのポリマーは単独で用いても2種以上併用して用いてもよい。2種以上併用する場合は、アクリル樹脂とポリオレフィン樹脂の組合せが好ましい。
【0233】
下塗り層は、架橋剤を含有すると、下塗り層の耐久性を向上することができる。架橋剤としては、エポキシ架橋剤、イソシアネート架橋剤、メラミン架橋剤、カルボジイミド架橋剤、オキサゾリン架橋剤等を挙げることができる。ある実施形態では、下塗り層に含まれる架橋剤が、オキサゾリン架橋剤であることが好ましい。オキサゾリン基を有する架橋剤として、エポクロス(登録商標)K2010E、エポクロス(登録商標)K2020E、エポクロス(登録商標)K2030E、エポクロス(登録商標)WS−500、エポクロス(登録商標)WS−700(いずれも日本触媒化学工業(株)製)等を利用することができる。
【0234】
架橋剤の添加量は、下塗り層を構成するバインダーの全質量に対して0.5質量%〜30質量%が好ましく、より好ましくは5質量%〜20質量%であり、さらに好ましくは3質量%以上15質量%未満である。特に架橋剤の添加量は、0.5質量%以上であると、下塗り層の強度及び接着性を保持しながら充分な架橋効果が得られ、30質量%以下であると、塗布液のポットライフを長く保て、15質量%未満であると塗布面状を改良できる。
【0235】
下塗り層は、アニオン系やノニオン系等の界面活性剤を含有することが好ましい。下塗り層に用いることができる界面活性剤の範囲は前記白色層に用いることができる界面活性剤の範囲と同様である。中でもノニオン系界面活性剤が好ましい。
界面活性剤を添加する場合、その添加量は0.1mg/m〜10mg/mが好ましく、より好ましくは0.5mg/m〜3mg/mである。界面活性剤の添加量は、0.1mg/m以上であると、ハジキの発生を抑えて良好な層形成が得られ、10mg/m以下であると、ポリマー支持体前記白色層との接着を良好に行なうことができる。
【0236】
下塗り層は、光安定化剤、易滑剤(微粒子)、紫外線吸収剤、着色剤、核剤(結晶化剤)、及び/又は難燃化剤などを添加剤として含有してもよい。
【0237】
下塗り層を設ける方法には、公知のコーティング方法が適宜採択される。例えば、リバースロールコーター、グラビアコーター、ロッドコーター、エアドクタコーター、スプレーあるいは刷毛を用いたコーティング方法等の方法がいずれも使用できる。また、ポリマー支持体を下塗り層形成用水性液に浸漬して行ってもよい。
【0238】
ある実施形態においては、コスト低減の観点から、下塗り層は、下塗り層形成用組成物を、ポリマー支持体製造工程内でポリマー支持体にコーティングする、いわゆるインラインコート法により塗布することを含む方法で形成されることが好ましい。
本実施形態の具体例としては、下塗り層を含むポリマー支持体の作製において、(1)ポリマー支持体を構成するポリマーを含む未延伸シートを供給すること、(2)未延伸シートの、下塗り層が形成されるべき面に対して平行な一方向(第一の方向)に、未延伸シートを延伸すること(第一延伸)、(3)第一の方向に延伸されたシートの少なくとも一表面の上に、下塗り層形成用組成物を付与すること、及び、(4)下塗り層形成用組成物が付与されたシートを、第一の方向に対して下塗り層形成面内で直交する方向に延伸すること(第二延伸)、を少なくとも含む方法が挙げられる。
より具体的には、例えば、(1)’ポリマー支持体を構成するポリマーを、押し出し、静電密着法等を併用しつつ冷却ドラム上にキャストして未延伸シートを得、(2)’未延伸シートを縦方向(MD)に延伸し、(3)’当該縦方向延伸済シートの一表面に下塗り層形成用水性液を塗布し、(4)’下塗り層形成用水性液塗布済みシートを横方向(TD)に延伸するなどの方法を使用することができる。
このように、未延伸シートを予め少なくとも一回一方向に延伸し、下塗り層形成用組成物を付与し、その後に当該方向に対して直交する方向に少なくとも一回延伸する工程によってポリマー支持体と下塗り層とを形成することにより、ポリマー支持体と下塗り層との密着性が向上し、下塗り層の均一性を高め、且つ下塗り層をより薄膜状となし得る。
【0239】
下塗り層形成時の乾燥、熱処理の条件は、塗布層の厚み、装置の条件にもよるが、コート後直ちに第二延伸工程に送入し、第二延伸工程の予熱ゾーンあるいは第二延伸ゾーンで乾燥させることが好ましい。このような場合、乾燥、熱処理は通常50℃〜250℃程度で行う。
なお、下塗り層の表面及びポリマー支持体の表面にコロナ放電処理、その他の表面活性化処理を施してもよい。
【0240】
下塗り層形成用組成物として使用し得る水性塗布液中の固形分濃度は、30質量%以下であることが好ましく、より好ましくは10質量%以下である。固形分濃度の下限は1質量%が好ましく、より好ましくは3質量%、さらに好ましくは5質量%である。上記範囲により、面状が良好な下塗り層を形成することができる。
【0241】
−熱固定−
得られた二軸延伸フィルムの結晶配向を完了させて、平面性と寸法安定性を付与するために、引き続きテンター内にて、熱固定処理を行うことが好ましい。二軸延伸後のフィルムを、張力が1kg/m以上10kg/m以下、かつ、170℃以上230℃以下で熱固定処理を行うことが好ましい。このような条件下で熱固定処理を行うことで、平面性と寸法安定性が向上し、例えば、任意の10cm間隔で測定した含水率の差を0.01質量%以上0.06質量%以下にすることができる。
【0242】
好ましくは、ポリエステルシートの原料であるポリエステルのガラス転移温度(Tg)以上融点(Tm)未満の温度で1秒以上30秒以下の熱固定処理を行ない、均一に徐冷後、室温まで冷却する。一般に、熱固定処理温度(Ts)が低いとフィルムの熱収縮が大きいため、高い熱寸法安定性を付与するためには、熱処理温度は高い方が好ましい。しかしながら、熱処理温度を高くし過ぎると配向結晶性が低下し、その結果形成されたフィルム中の含水率が上昇して耐加水分解性に劣ることがある。そのため、前記ポリエステルフィルムの熱固定処理温度(Ts)は、40℃≦(Tm−Ts)≦90℃であるのが好ましい。より好ましくは、熱固定処理温度(Ts)を50℃≦(Tm−Ts)≦80℃、更に好ましくは55℃≦(Tm−Ts)≦75℃とすることが好ましい。
【0243】
得られたポリエステルフィルムは、太陽電池モジュールを構成するバックシートとして用いることができるが、モジュール使用時には雰囲気温度が100℃程度まで上昇することがあるため、熱固定処理温度(Ts)は、160℃以上Tm−40℃(但し、Tm−40℃>160℃)以下であるのが好ましい。より好ましくは170℃以上Tm−50℃(但し、Tm−50℃>170℃)以下、更に好ましくはTsが180℃以上Tm−55℃(但し、Tm−55℃>180℃)以下である。上記の熱固定処理温度は、2つ以上に分割された領域で、温度差を1〜100℃の範囲で順次降温しながら熱固定することが好ましい。
【0244】
−熱緩和−
必要に応じて、幅方向あるいは長手方向に1〜12%の弛緩処理を施してもよい。
熱固定されたポリエステルフィルムは通常Tg以下まで冷却され、ポリエステルフィルム両端のクリップ把持部分をカットしロール状に巻き取られる。この際、最終熱固定処理温度以下、Tg以上の温度範囲内で、幅方向及び/または長手方向に1〜12%弛緩処理することが好ましい。
冷却は、最終熱固定温度から室温までを毎秒1℃以上100℃以下の冷却速度で徐冷することが寸法安定性の点で好ましい。特に、Tg+50℃からTgまでを、毎秒1℃以上100℃以下の冷却速度で徐冷することが好ましい。冷却、弛緩処理する手段は特に限定はなく、従来公知の手段で行えるが、特に複数の温度領域で順次冷却しながら、これらの処理を行うことが、ポリエステルフィルムの寸法安定性向上の点で好ましい。
上記ポリエステルフィルムの製造に際し、ポリエステルフィルムの強度を向上させる目的で、多段縦延伸、再縦延伸、再縦横延伸、横・縦延伸など公知の延伸フィルムに用いられる延伸を行ってもよい。縦延伸と横延伸の順序を逆にしてもよい。
【実施例】
【0245】
以下、本発明を実施例により更に具体的に説明するが、本発明はその主旨を越えない限り、以下の実施例に限定されるものではない。特に断りのない限り、「部」は質量基準である。
【0246】
特性値は、以下の方法により測定および評価した。
(1)極限粘度 (IV)
ウベローデ型粘度計を用い、ポリエステルを1,1,2,2−テトラクロルエタン/フェノール(=2/3[質量比])混合溶媒に溶解させ、本文前記の方法にて25℃にて測定した。
【0247】
(2)末端カルボキシル基濃度 (AV)
ポリエステル試料0.1gをベンジルアルコール10mlに溶解後、さらにクロロホルムを加えて混合溶液を得、これにフェノールレッド指示薬を滴下した。この溶液を、基準液(0.01N KOH−ベンジルアルコール混合溶液)で滴定し、滴下量から末端カルボキシル基濃度を求めた。
【0248】
(3)破断強度、破断伸度
ポリエステルフィルムを、1cm幅×20cmのサイズで製膜流れ方向(MD)、フィルム幅方向(TD)に各々10本切り出した。これらの試料に対して、テンシロン万能引張試験機(商品名:RTC−1210、オリエンテック株式会社製)を用いて引っ張り試験を行った。測定は25℃60%RHの環境下、試料の両端において端から5cmまでの領域をそれぞれチャッキングし、延伸される部分の長さを10cmとし、引っ張り速度を毎分20%/分として、破断伸度と破断強度を求めた。そして、MD、TDのそれぞれ10本の破断伸度、破断強度の平均値をそれぞれ求めた。
【0249】
(4)内部ヘイズ、および外部ヘイズ
内部ヘイズ(Hin)は、二軸延伸フィルムをリン酸トリクレジルを満たした厚み10mmの石英セル中に入れ、スガ試験機(株)製SMカラーコンピュータ(商品名:SM−T−H1型)で測定した。
また、外部ヘイズは、同様の装置を用い、二軸延伸フィルムをリン酸トリクレジルに浸さずに直接測定した。
【0250】
(5)フィルム中の空隙
二軸延伸フィルムを鋭利なカッターで切断し、その切断面をミクロトームで切削した後、切断面を倍率1000倍の電子顕微鏡で観察し、最大長さが1μm以上の空隙の数を観察面積400μmあたりの数に換算した。
【0251】
(6)ポリエステル中の金属量
高分解能型高周波誘導結合プラズマ−質量分析(HR-ICP-MS、商品名:AttoM、SIIナノテクノロジー社製)を用いて測定した。
【0252】
(7)耐加水分解性
ポリエステルフィルムに、120℃100%RH環境下で80時間放置する湿熱処理を施した。湿熱処理前後でのフィルムの破断伸度を、上記の破断伸度の測定方法と同様の方法で測定し、破断伸度保持率が50%未満をB、50%以上60%未満をA、60%以上70%未満をS、70%以上80%未満をSS、80%以上のものをSSSで表した。
破断伸度保持率(%)=[湿熱試験後の破断伸度]/[湿熱試験前の破断伸度]
【0253】
(8)電気絶縁性
ポリエステルフィルムの部分放電電圧を、23℃、65%RHの室内で一晩放置したものを用いて試料として、部分放電試験器(商品名:KPD2050、菊水電子工業(株)製)を用い、部分放電電圧を測定した。
試料としたフィルムの一方の面を(i)上部電極側にした場合と(ii)下部電極側にした場合のそれぞれについて、フィルム面内において任意の10カ所で測定を実施し、得られた当該10カ所の測定値の平均値を求めた。(i)について得られた平均値と(ii)について得られた平均値とのうち、高い方の値をもって、部分放電電圧V0とした。試験条件は下記の通りである。
<試験条件>
・出力シートにおける出力電圧印加パターンは、1段階目が0Vから所定の試験電圧までの単純に電圧を上昇させるパターン、2段階目が所定の試験電圧を維持するパターン、3段階目が所定の試験電圧から0Vまでの単純に電圧を降下させるパターンの3段階からなるパターンのものを選択する。
・周波数は50Hzとする。
・試験電圧は1kVとする。
・1段階目の時間T1は10sec、2段階目の時間T2は2sec、3段階目の時間T3は10secとする。
・パルスカウントシートにおけるカウント方法は「+」(プラス)、検出レベルは50%とする。
・レンジシートにおける電荷量はレンジ1000pCとする。
・プロテクションシートでは、電圧のチェックボックスにチェックを入れた上で2kVを入力する。また、パルスカウントは100000とする。
・計測モードにおける開始電圧は1.0pC、消滅電圧は1.0pCとする。
上記条件によって測定した部分放電電圧V0を、以下の基準で判定して表記した。
A:1kV以上
B:1kV未満
【0254】
(9)延伸性
未延伸シートの二軸延伸において、24時間破断することなく延伸できたものをA、破断が1度でも生じたものをB、で表した。
【0255】
ポリエステルフィルムの部分放電電圧、延伸性、耐加水分解性、及び総合評価結果を、表2にまとめた。
総合評価は、太陽電池バックシート用ポリエステルフィルムとしての適性を下記の4段階で表示するものである。
SS ;特に優れており、バックシート用途に好適に使用できる
S ;非常に優れており、バックシート用途に好適に使用できる
A ;バックシート用途に好適に使用できる
B ;性能および/または生産性に劣り、バックシート用途に好ましくない
【0256】
[実施例1〜20、比較例1〜6]
以下のようにして、実施例及び比較例の各ポリエステルフィルムを作製した。
【0257】
〔ポリエテルフィルムの作製〕
(実施例1のポリエテルフィルムの作製)
<原料ポリエステル樹脂1の合成>
以下に示すように、テレフタル酸及びエチレングリコールを直接反応させて水を留去し、エステル化した後、減圧下で重縮合を行なう直接エステル化法を用いて、連続重合装置によりポリエステル樹脂(Ti触媒系PET)を得た。
【0258】
(1)エステル化反応
第一エステル化反応槽に、高純度テレフタル酸4.7トンとエチレングリコール1.8トンを90分かけて混合してスラリー形成させ、3800kg/hの流量で連続的に第一エステル化反応槽に供給した。更にクエン酸がTi金属に配位したクエン酸キレートチタン錯体(VERTEC(登録商標)AC−420、ジョンソン・マッセイ社製)のエチレングリコール溶液を連続的に供給し、反応槽内温度250℃、攪拌下で平均滞留時間約4.3時間で反応を行なった。このとき、クエン酸キレートチタン錯体は、Ti添加量が元素換算値で9ppmとなるように連続的に添加した。このとき、得られたオリゴマーの酸価は600当量/トンであった。
【0259】
この反応物を第二エステル化反応槽に移送し、攪拌下、反応槽内温度250℃で、平均滞留時間で1.2時間反応させ、酸価が200当量/トンのオリゴマーを得た。第二エステル化反応槽は内部が3ゾーンに仕切られており、第2ゾーンから酢酸マグネシウム四水和物のエチレングリコール溶液を、Mg添加量が元素換算値で75ppmになるように連続的に供給し、続いて第3ゾーンから、リン酸トリメチルのエチレングリコール溶液を、P添加量が元素換算値で65ppmになるように連続的に供給した。
【0260】
(2)重縮合反応
上記で得られたエステル化反応生成物を連続的に第一重縮合反応槽に供給し、攪拌下、反応温度270℃、反応槽内圧力20torr(2.67×10−3MPa)で、平均滞留時間約1.8時間で重縮合させた。
【0261】
更に、第二重縮合反応槽に移送し、この反応槽において攪拌下、反応槽内温度276℃、反応槽内圧力5torr(6.67×10−4MPa)で平均滞留時間約1.2時間の条件で反応(重縮合)させた。
【0262】
次いで、更に第三重縮合反応槽に移送し、この反応槽では、反応槽内温度278℃、反応槽内圧力1.5torr(2.0×10−4MPa)で、平均滞留時間1.5時間の条件で反応(重縮合)させ、反応物(ポリエチレンテレフタレート(PET))を得た。
【0263】
次に、得られた反応物を、冷水にストランド状に吐出し、直ちにカッティングしてポリエステル樹脂のペレット(断面:長径約4mm、短径約2mm、長さ:約3mm)を作製した。
【0264】
得られたポリエステル樹脂について、高分解能型高周波誘導結合プラズマ−質量分析(HR-ICP-MS、商品名:AttoM、SIIナノテクノロジー社製)を用いて以下に示すように測定した結果、Ti=9ppm、Mg=75ppm、P=60ppmであり、ポリエステル中のP成分と金属成分の総和は144ppmであった。Pは当初の添加量に対して僅かに減少しているが、重合過程において揮発したものと推定される。
得られたポリマーは、固有粘度(IV)=0.58、末端COOH量(AV)=20当量/トン、であった。
【0265】
−固相重合−
上記で重合したPETサンプルをペレット化(直径3mm、長さ7mm)し、得られた樹脂ペレットを、バッチ法で固相重合を実施した。
固相重合は、樹脂ペレットを容器に投入した後、真空にして撹拌しながら、以下の条件で行った。
150℃で予備結晶化処理した後、190℃で30時間の固相重合反応を行った。
得られた固相重合後のポリエステル樹脂(PET−1)は、固有粘度(IV)=0.78dl/g、末端COOH量(AV)=15当量/トン、であった。
【0266】
−未延伸フィルムの形成−
上記のように固相重合を終えた原料ポリエステル−1を、含水率20ppm以下に乾燥させた後、下記に記載の二軸押出機を用いて、ポリエステルを押し出した。
【0267】
押出機として、図1に示すように2箇所にベントが設けられたシリンダー内に下記構成のスクリュを備え、シリンダーの周囲には長手方向に9つのゾーンに分割して温度制御を行うことができるヒーター(温度制御手段)を備えたダブルベント式同方向回転噛合型の二軸押出機を準備した。
スクリュ径D:65mm
長さL[mm]/スクリュ径D[mm]:31.5(1ゾーンの幅:3.5D)
スクリュ形状:第1ベント直前に可塑化混練部、第2ベント直前に脱気促進混練部
【0268】
この二軸押出機の押出機出口以降には、ギアポンプ、金属繊維フィルタおよびダイを接続し、ダイを加熱するヒーターの設定温度は280℃とし、平均滞留時間は10分とした。
ギアポンプ:2ギアタイプ
フィルタ:金属繊維焼結フィルタ(孔径20μm)
ダイ:リップ間隔4mm
【0269】
‐溶融押出し‐
二軸押出機の各ゾーン(C1〜C9)は以下のように温度設定して溶融押出を行った。
C1:70℃、C2:270℃、C3〜C6:280℃、C7:270℃、C8:260℃、C9:260℃
スクリュの回転数を120rpmに設定し、供給口12から原料樹脂を供給して加熱溶融し、押出量を250kg/hに設定し、溶融押出を行った。この時の押出機における可塑化の最高樹脂温度は、290℃であった。
【0270】
押出機出口から押出された溶融体(メルト)をギアポンプ、金属繊維フィルタを通した後、ダイから冷却(チル)ロールに押出した。押出されたメルトは、静電印加法を用いて冷却ロールに密着させた。冷却ロールは、中空のチルロールを用い、この中に熱媒として水を通して温調できるようになっており、水温を10℃とした。
冷却ロールに対面して設置された冷風発生装置から、25℃の冷風を風速60m/secで吹き出し、溶融樹脂に当てたところ、ポリエステルの表面温度は、450℃/minの冷却速度で低下した。
ダイ出口から冷却ロールまでの搬送域(エアギャップ)は、この搬送域を囲い、この中に調湿空気を導入することにより、湿度を30%RHに調節してある。
【0271】
冷却速度は次のようにして求めた。溶融されたポリエステル(溶融樹脂)が冷却キャストドラム上に押出されたときから、ポリエステルが冷却され、冷却キャストドラムから剥離されるまでの間、ポリエステルの表面温度を5秒おきに測定し、当該表面温度をもとに、シート内部の温度シミュレーションを実施して、220℃から120℃まで低下するのに掛かる最長時間を求め、速度に換算した。
【0272】
冷却されたポリエステルは、表面温度(TL)が70℃となったときに、冷却キャストドラムに対向配置された剥ぎ取りロールを用いて、冷却キャストドラムから剥離した。
剥ぎ取りロールは、冷却キャストドラムのロール径をD1とし、剥ぎ取りロールのロール径をD2としたとき、D1/D2が6.3となる寸法のロールを用いた。
未延伸フィルムの厚みは、剥ぎ取りロールの後方に設置した自動厚み計(WEBFREX(登録商標)、横河電機(株)製)により測定した。
以上のようにして、厚さ4mmのポリエステルシートを得た。このポリエステルシートの降温度結晶化温度は185℃、密度法から算出した結晶化度は1.2%であった。
【0273】
−二軸延伸フィルムの作製−
未延伸フィルムを、以下の方法で二軸延伸して、PETフィルムを得た。
予熱ロール周辺の雰囲気温度を、セラミックヒーターを利用した温風発生器により温度制御を行い、42℃の温風を供給することで30℃に調整した。次いで、直径:180mm〜200mm、設置間隔(ローラーの面間距離):10mm、表面温度:75〜85℃の範囲とした予熱ロール15本にて、上記にて得られた未延伸フィルムを搬送した。この
とき、前記の測定方法により測定したフィルムの表面温度と中心温度との差は3.5℃であった。
その後、未延伸フィルムの上下に設置した近赤外ヒーターにより予熱し90℃に加熱せしめた。この未延伸フィルムを、近赤外ヒーターの前後に設置した周速の異なる2本の延伸ロールにより、フィルムの搬送方向(縦方向)に3.5倍に延伸した。
この縦延伸フィルムは、直径:350mm、表面温度20℃の千鳥状に配置した冷却ロール5本に接触搬送し、40℃まで冷却した。
【0274】
次いで、縦延伸フィルムの両端をクリップで把持しながらテンターに導いて横方向に4.4倍に延伸した。
【0275】
テンターは、予熱ゾーン温度:110℃、延伸ゾーン温度:120℃、熱固定ゾーン温度:200℃、熱緩和ゾーン温度:175℃とし、熱緩和ゾーンにて延伸部ゾーン幅に対し10%緩和収縮せしめた。
【0276】
以上のようにして、実施例1では、二軸延伸ポリエステルフィルムは24時間破断することなく得ることができた。得られたポリエステルフィルムの特性等を表1、表2に記した。
【0277】
(実施例2、実施例3のポリエテルフィルムの作製)
二軸押出機の可塑化時の最高温度と冷却ロールの温度を表1に示すように変更し、且つ未延伸フィルムの形成において、押出し機の吐出量、ダイのスリット高さを表1に示すように変更した以外は、実施例1と同様の方法で二軸延伸フィルムを得た。
【0278】
(実施例4のポリエテルフィルムの作製)
テレフタル酸の量を4.6トン、イソフタル酸を0.1トンとし、エチレングリコール1.8トンに加え、シクロヘキサンジメタノールを0.6トンを混合、スラリー化した原料を用いてポリエステルを合成し、固相重合せしめた以外は、実施例1と同様の方法で二軸延伸フィルムを得た。
【0279】
(実施例5のポリエステルフィルムの作製)
リン酸トリメチルのエチレングリコールにポリエステルのテレフタル酸成分の0.5モル%になるように、トリメリット酸を混合して添加し、ポリエステルを得、このポリエステルを固相重合せしめた以外は、実施例1と同様の方法で二軸延伸フィルムを作製した。
【0280】
(実施例6、実施例7のポリエステルフィルムの作製)
重合触媒として、クエン酸がTi金属に配位したクエン酸キレートチタン錯体(VERTEC(登録商標) AC−420、ジョンソン・マッセイ社製)のエチレングリコール溶液に代えて、二酸化ゲルマニウム(MERCK社製)のエチレングリコール溶液、またはアルミニウムアセチナート(MERCH社製)のエチレングリコール溶液を、各々Geとして50ppm、Alとして30ppmとなる量を添加してポリエステルを作製し、次いで、固相重合せしめた以外は、実施例1と同様の方法で二軸延伸フィルムを作製した。
【0281】
(実施例8のポリエステルフィルムの作製)
溶融押し出しを行う際、二軸押出機にポリエステル樹脂と共に、スタバクゾール(登録商標)P100(Rhein Chemie社製;表1中に、「CI」と記載)をポリエステル樹脂の質量に対して0.1重量%の割合で添加した以外は、実施例1と同様に二軸延伸フィルムを作製した。
【0282】
(実施例9〜15のポリエステルフィルムの作製)
表1に示すように、スタバクゾール(登録商標)P100の添加量を変更するか、またはスタバクゾール(登録商標)P100に代えて以下に記す化合物を用いた以外は、実施例8と同様に二軸延伸フィルムを作製した。
(a)カルボジイミド系化合物
ラインケミー社製 スタバクゾール(登録商標)P100 (表1中に「CI」と記載)
(b)エポキシ系化合物
Hexion Speciality Chemicals社製 商品名:カラージュE10P(表1中に「EP」と記載)
(c)オキサゾリン系化合物
日本触媒社製 エポクロス(登録商標)RPS−1005 (表1中に「OX」と記載)
【0283】
(実施例16,17のポリエステルフィルム(CHDM系ポリエステルフィルム)の作製)
1,4−シクロヘキサンジメタノール成分を80モル%以上含有するポリエステルは、以下に示すようなエステル交換法により、バッチ重合装置を用いて作製した。
【0284】
・第1工程
ジカルボン酸成分としてテレフタル酸ジメチルを用いた。ジオール成分として、ジカルボン酸の2.5倍モル量となるように、1、4−シクロヘキサンジメタノール、及び必要に応じてエチレングリコールを用いた。触媒として、クエン酸がTi金属に配位したクエン酸キレートチタン錯体(VERTEC(登録商標) AC−420、ジョンソン・マッセイ社製)のエチレングリコール溶液を、出来上がりポリエステルに対しTi元素量として重量基準で9ppmとなる量、および、酢酸マグネシウム4水和物を、Mg元素量として75ppmとなる量を用いた。これらをエステル交換反応層に所定量仕込み、槽内を窒素雰囲気とし、反応槽内温度を室温から230℃まで3時間かけて昇温し、攪拌下でエステル交換反応せしめながら、反応により生成するメタノールをエステル交換反応槽に接続された精留塔から抜き出した。2時間かけて、250℃まで昇温し、メタノールの留出が停止するまで反応せしめた。
【0285】
・第2工程
エステル交換反応終了後、エステル交換反応槽の内容物に、トリメチルリン酸のエチレングリコール溶液を、ポリエステルの質量に対してリン元素の濃度(含有量)が60ppmとなるように添加し、5分間、攪拌を継続した。
【0286】
・第3工程
エステル交換反応槽の内容物を、当該槽に直列接続された重縮合反応槽内に移し、重合反応を行った。重縮合反応は、最終到達温度285℃、真空度0.1Torrで行い、ポリエステルを得、次に、窒素で重縮合槽内を大気圧に戻し、さらに0.1MPa加圧して実施した。得られた反応物をストランド状に吐出し水冷し、直ちにカッティングしてCHDM系ポリエステル樹脂のペレット<(断面:長径約4mm、短径約2mm、長さ:約3mm>)を作製した。
【0287】
・第4工程
上記で得られたポリエステルペレットを、160℃で6時間乾燥、結晶化した。
【0288】
実施例16
上記方法において、ジオール成分として1、4−シクロヘキサンジメタノールのみを用いて、ポリシクロヘキサンジメタノールテレフタレートからなるポリエステルを作製した。このポリエステルの極限粘度は0.80、融点は281℃であった。このポリエステルペレットを、実施例1におけるポリエステルペレットに代えて使用したこと以外は実施例1と同様の方法で、実施例16の二軸延伸フィルムを作製した。作製に使用された条件と、作製された二軸延伸フィルムの特性を、表1、表2に記した。
【0289】
実施例17
上記方法において、ジオール成分として1、4−シクロヘキサンジメタノール80モル%とエチレンテレフタレート20モル%とをそれぞれ用いて、ポリエステルを作製した。このポリエステルの極限粘度は0.81、融点は276℃であった。このポリエステルペレットを、実施例1におけるポリエステルペレットに代えて使用したこと以外は実施例1と同様の方法で、実施例17の二軸延伸フィルムを作製した。作製に使用された条件と、作製された二軸延伸フィルムの特性を、表1、表2に記した。
【0290】
(実施例18,19のポリエステルフィルムの作製)
(環状カルボジイミド化合物を添加してなる二軸延伸ポリエステルフィルムの作製)
溶融押し出しを行う際、二軸押出機にポリエステル樹脂と共に、以下の環状カルボジイミド化合物(1)または(2)を添加したこと以外は実施例1と同様の方法で、二軸延伸フィルムを作製した。ただし、環状カルボジイミド化合物の添加量は、ポリエステル樹脂に対し1質量%とした。
・環状カルボジイミド(1)
特開2011−256337号公報の実施例に記載の分子量516の化合物であり、特開2011−256337号公報の参考例2に記載の合成方法を参考に合成した環状カルボジイミド(1)を、実施例18において使用した。
・環状カルボジイミド(2)
特開2011−256337号公報の実施例に記載の分子量252の化合物であり、特開2011−256337号公報の参考例1に記載の合成方法を参考に合成した環状カルボジイミド(2)を、実施例19において使用した。
【0291】
【化13】

【0292】
(比較例1)
重合触媒として、クエン酸がTi金属に配位したクエン酸キレートチタン錯体(VERTEC(登録商標) AC−420、ジョンソン・マッセイ社製)のエチレングリコール溶液に代えて、三酸化アンチモン(日本精鉱社製)のエチレングリコール溶液を、Sb量としてポリエステルに対し250ppmの量を添加し、Sb含有量が210ppmであるポリエステルを得、このポリエステルを固相重合せしめた以外は、実施例2と同様の方法で二軸延伸フィルムを作製した。
【0293】
(比較例2〜3)
溶融押し出し時の押出機温度と冷却ロール上での冷却速度を表1に示すように変えた以外は、実施例1と同様に二軸延伸フィルムを作製した。
【0294】
【表1】

【0295】
【表2】

【0296】
〔実施例20〜実施例38〕
<太陽電池モジュールの作製>
実施例1〜実施例19の各ポリエステルフィルムを太陽電池用バックシートとして用い、次のようにして、実施例20〜実施例38の太陽電池モジュールを作製した。
厚さ3.2mmの強化ガラスと、第一のEVAシート〔商品名:SC50B、三井化学ファブロ社製〕と、結晶系太陽電池セルと、第二のEVAシート〔商品名:SC50B、三井化学ファブロ社製〕と、実施例1〜実施例19のポリエステルフィルムのいずれか1枚とを、この順に重ね合わせ、真空ラミネータ〔日清紡社製〕を用いてホットプレスすることにより、第一のEVAシートと、結晶系太陽電池セルと、第二のEVAシートと、バックシートとを接着させた。具体的には、真空ラミネータを用いて、128℃で3分間の真空引き後、2分間加圧して仮接着し、その後、ドライオーブンにて150℃で30分間、接着処理を施した。
【0297】
このようにして、実施例20〜実施例38の結晶系太陽電池モジュールを作製した。作製した太陽電池モジュールを用いて発電運転をしたところ、いずれも太陽電池として良好な発電性能を示した。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
厚みが200μm以上800μm以下であり、縦延伸方向及び横延伸方向の破断強度がいずれも180MPa以上300MPa以下であり、内部ヘイズ(Hin)が0.3%以上20%以下であり、外部ヘイズ(Hsur)と内部ヘイズ(Hin)との差(ΔH=Hsur−Hin)が2%以下であり、かつ、極限粘度が0.68以上0.90以下である二軸延伸ポリエステルフィルム。
【請求項2】
最大長さが1μm以上の空隙の含有量が、二軸延伸ポリエステルフィルム400μmあたり1個以下である、請求項1に記載の二軸延伸ポリエステルフィルム。
【請求項3】
構成単位の80モル%以上がエチレンテレフタレート単位または1,4−シクロヘキサンジメチレンテレフタレート単位であり且つ末端カルボキシル基濃度が25eq/ton以下であるポリエステルからなる請求項1又は請求項2に記載の二軸延伸ポリエステルフィルム。
【請求項4】
グリコール可溶性のチタン化合物、アルミニウム化合物、及びゲルマニウム化合物からなる群より選択される少なくとも1つを重合触媒として用いて合成されたポリエステルを含み、かつ、リン元素の含有量と金属元素の含有量の総和が10ppm以上300ppm以下である請求項1〜請求項3のいずれか一項に記載の二軸延伸ポリエステルフィルム。
【請求項5】
構成単位の0.1モル%〜20モル%または80モル%〜100モル%が1,4−シクロヘキサンジメチレンテレフタレート単位である請求項1〜請求項4のいずれか一項に記載の二軸延伸ポリエステルフィルム。
【請求項6】
請求項1〜請求項5のいずれか一項に記載の二軸延伸ポリエステルフィルムを製造する方法であって、
グリコール可溶性のチタン化合物、アルミニウム化合物、及びゲルマニウム化合物から選ばれる少なくとも1つを重合触媒として用いて合成され、かつ、リン元素の含有量と金属元素の含有量との総和が300ppm以下である原料ポリエステル樹脂を準備すること、
前記原料ポリエステル樹脂を、当該原料ポリエステルの融点より10℃高い温度以上であり且つ融点より35℃高い温度以下の範囲にある温度で可塑化させ、溶融押出して冷却することにより、厚みが2.5mm〜7.0mmの未延伸ポリエステルフィルムを形成すること、及び
前記未延伸ポリエステルフィルムを縦延伸及び横延伸して厚みが200μm以上800μm以下である二軸延伸ポリエステルフィルムを形成すること、
を含む方法。
【請求項7】
前記原料ポリエステル樹脂の極限粘度IVが0.68〜0.95である請求項6に記載の方法。
【請求項8】
カルボジイミド基の第一窒素と第二窒素とが結合基により結合されている環状構造を含む化合物が、前記冷却以前に、前記原料ポリエステル樹脂の質量に対して0.1質量%〜5質量%の量で前記原料ポリエステル樹脂に添加される、請求項6又は請求項7に記載の方法。
【請求項9】
請求項1〜請求項5のいずれか一項に記載の二軸延伸ポリエステルフィルムを含む太陽電池発電モジュール。

【図1】
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【図2】
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