説明

二軸延伸ポリエステルフィルム

【課題】欠点が少なく、透明性の高い二軸延伸ポリエステルフィルムに関する。
【解決手段】厚さ50〜400μmであって下記要件(1)〜(7)を満足する二軸延伸ポリエステルフィルム。(1)ポリエステル中のマグネシウム化合物の含有量が5〜160ppm、(2)ポリエステル中のアルカリ金属化合物の含有量が1〜40ppm、(3)ポリエステルの極限粘度が0.580〜0.630dl/g、(4)ポリエステルの酸価が10〜25eq/ton、(5)ポリエステル中の不溶性のアルカリ土類金属がポリエステル1kg当り1mg以下、(6)フィルムのヘイズが2%以下、(7)フィルム表面の高さ0.5μm以上長さ20μm以上の核無し欠点が10個/m以下

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は良好な静電密着性を有し、しかも、欠点が少なく、透明性の高い二軸延伸ポリエステルフィルムに関する。
【背景技術】
【0002】
ポリエステルは、機械的特性、及び化学的特性に優れており、包装用、磁気テープ用、光学用などのフィルムやシート等の広範な分野において使用されている。近年、より高精度化、高速化、高級感等が求められるに伴い、表面外観が劣るとか、ビデオテープとして画像の乱れが生じるとか、液晶画面の表層として光散乱により画像が見にくくなるとか、或いは、コンデンサーフィルムとして絶縁破壊が生じる等の種々の問題が指摘されている。これらの問題は、樹脂製造時に用いられるアンチモン化合物等の重縮合触媒や各種添加剤がこれらの残渣等として樹脂中に粒子状に存在していることに起因すると考えられている。
【0003】
ポリエステルフィルムは、ポリエステルを溶融押出した後、2軸延伸して得られる。すなわち、押出機により溶融押出されたシート状物を回転する冷却ドラムの表面に密着させて引き取り、次いで、該シート状物を冷却ドラムの後段に配置された延伸ロールへと導いて縦延伸し、さらに、テンターで横延伸した後、熱固定される。ここで、フィルムの厚みの均一性を高め、また、キャスティングの速度を高めるには、押出口金から溶融押出したシート状物を回転冷却ドラム表面で冷却する際に、該シート状物とドラム表面とが十分に高い付着力で密着していなければならない。このため、シート状物と回転ドラムの表面との付着力を高めるための方法として、押出口金と冷却回転ドラムの間にワイヤー状の電極を設けて高電圧を印加し、未固化のシート状物の表面に静電気を析出させて、該シート状物を冷却ドラムの表面に静電付着させて、急冷する、所謂、静電密着キャスト法が多く使用されている。
【0004】
静電密着キャスト法において、シート状物の冷却ドラムへの静電密着性を向上させるにはシート状物表面における電荷量を多くすることが有効であり、該電荷量を多くするには、原料となるポリエステルを改質してその比抵抗を低くすることが有効であることが知られている。そして、この比抵抗を低くする方法として、原料ポリエステルの製造段階において、エステル化またはエステル交換反応中にアルカリ金属またはアルカリ土類金属化合物を添加すること等が行われている。
【0005】
また、ポリエステルフィルムは厚みの均一性が高くても、それのみでは十分な品質を有しているとは言えず、フィルム中の異物量を少なくして、フィッシュ・アイ等の欠陥を極力少なくする必要がある。すなわち、ポリエステルフィルムには清澄度が要求される。そのために、原料ポリエステルにも高度の清澄度が必要となり、清澄度を高めるための対策がとられている。その一つとして、ポリエステルの反応生成物であるポリマーを微細なフィルターを使ってろ過することによって清澄度を高める方法が提案されている(特許文献1参照)。
【0006】
一方、フィルムの電子機器用、光学用途では、表面欠点に対する要求特性は一段と厳しいものとなっている。特に、精密な光学特性が要求される用途においては、これまで問題とされていなかったものまで欠点として認識されるようになってきた。例えば、フィルム表面に凸状の盛り上がりを有する核のない欠点(核なし欠点)については、これまで視認されないものでも、光学的な歪みを生じるため、欠点として認識される。また、通常光では視認が困難な光学欠点であっても、ポリエステルフィルムを偏光板の保護フィルムや離型フィルムとして用いた場合、クロスニコル下など特異な偏光条件下においては、偏光光りを歪め輝点として認識しうる場合もあった。このような、核なし欠点を低減する方法としては、ポリエステル中に酸化防止剤を添加することにより低減する方法が提案されている(特許文献2、3参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特開2002−327053号公報
【特許文献2】特開2004−263133号公報
【特許文献3】特開2007−9997号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
特許文献2、3の方法によりポリエステル中のゲル状物の低減については一定の効果があるものの、酸化防止剤の添加により、フィルム表面への添加剤のブリードアウトが生じ、密着性などの表面物性が低下するという問題があった。また、特許文献1の方法では、フィルム中の異物の低減に一定の効果はあるものの、長期間に渡り連続生産をした場合に、製造ライン中に経時的に蓄積する不溶性異物により、安定して異物の存在量を低いレベルで保つことが困難な場合があった。
【0009】
本発明は従来技術の課題を背景になされたもので、良好な静電密着性を有し、異物含有量の増加が少なく、極めて高度な清澄度を有するポリエステルフィルムを提供するものである。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明は、厚さ50〜400μmの二軸延伸ポリエステルフィルムであって、下記要件(1)〜(7)を満足する二軸延伸ポリエステルフィルムである。
(1)ポリエステル中のマグネシウム化合物の含有量が5〜160ppm
(2)ポリエステル中のアルカリ金属化合物の含有量が1〜40ppm
(3)ポリエステルの極限粘度が0.580〜0.630dl/g
(4)ポリエステルの酸価が10〜25eq/ton
(5)ポリエステル中の不溶性のアルカリ土類金属がポリエステル1kg当り1mg以下
(6)フィルムのヘイズが2%以下
(7)フィルム表面の高さ0.5μm以上長さ20μm以上の核無し欠点が10個/m以下
【発明の効果】
【0011】
本発明の二軸延伸ポリエステルフィルムは、欠点が少なく、極めて高度な清澄度を有する。よって、精密電子用途、光学用途、偏光板保護用途の基材フィルムとして好適である。
【発明を実施するための形態】
【0012】
核なし欠点とは、視認しうる異物核を有さず、全く基材フィルムの樹脂と同質でありながら、表面に特異的な凸形状を有する欠点であり、後述の方法により測定することができる。上記欠点は核がなく、視認は困難であるものの、光学的な屈折率の差によるレンズ様の効果を生じ、ディスプレイの構成部材や光学用途として用いる場合や偏光板保護フィルムなど特異な偏光条件下で用いた場合に欠点として認識される。本発明のフィルムおいてフィルム表面の高さ0.5μm以上、長さ20μm以上の核無し欠点の数は、1m当り10個以下であり、好ましくは8個以下、より好ましくは5個以下、さらに好ましくは3個以下である。上記欠点が1m当り10個以下であれば、ディスプレイ部材として使用可能である。また、上記欠点が1m当り5個以下であれば偏光板保護部材としてより好適に適用が可能である。
【0013】
このような核なし欠点は、ポリエステル中のゲル状物が何らかのメカニズムにより生成され、それがフィルム製膜の延伸工程において応力により表面付近に表出し、核のない凸状の構造を形成するものと推察された。そこで、本願発明者は、ポリエステル中のゲル状物の生成メカニズムについて鋭意検討した結果、以下のような知見を得た。すなわち、ポリエステルを長期間連続的に製造すると、ポリエステル製造のラインにおいて、デッドスペースが形成され、そこにポリエステルが長期間滞留することで、熱変性が生じ、ゲル状物が形成される。係るゲル状物が精製濾過の孔を変形しながら通過することで、フィルム原料に混入し、延伸により表出する凸状の欠点となる。
【0014】
本発明者は、ゲル状物の混入が極めて少なく、高い清澄度を有するポリエステルを得る手段について鋭意検討を行った。その結果、本願発明者らは以下の知見を得て本発明に至った。そこで、まずこれらの特徴について説明する。
【0015】
(1)重合反応後の濾過工程に用いるフィルターろ過孔径の制御
本発明では、ポリエステルに静電密着性を付与するためにアルカリ金属またはアルカリ土類金属を添加する。本願出願人はこれらの添加剤の濃度や添加方法を制御することで高い清澄度のポリエステルを製造する方法を開示しているが(特許文献1)。長期間連続運転する場合は、これら添加剤に起因する不溶性異物が経時的に蓄積するため、安定的に高い清澄度を維持することは困難な場合があった。そこで、本発明者は、鋭意検討した結果、ポリエステル製造における重合反応後のフィルターろ過孔径の大きさの分布態様が、清澄度の高いポリエステルの安定的な連続生産に重要であることを見いだした。
【0016】
清澄度の高いポリエステル、特に5μm以下の粗大粒子(異物)が少ないポリエステルを得るためには、フィルターの中間孔径は少なくとも5μm以下であることが望ましい。一方、フィルターの孔径は中間孔径を中心としたある一定の分布を示すが、フィルターの最大孔径が中間孔径を大きく上回ると捕捉し切れなかったゲル状物の量が増し、清澄度が低下する。しかし、最大孔径が小さい場合は、連続製造により蓄積した異物の目詰まりに背圧が増大し、濾過寿命が低下する。さらに、フィルターを洗浄によっても蓄積した異物が除去しきれない場合が生じる。よって、本発明では最大孔径の大きさは10μmであることが望ましい。このように、フィルターの孔径分布を制御することで安定的な連続製造を実現したことが本発明の重要な知見である。
【0017】
(2)重合反応後の濾過工程に用いるフィルター形状の制御
フィルターの濾過寿命を長くする為には、フィルターの濾過面積を大きくすることが望ましい。また、ポリエステルの生産効率をあげる点においても、フィルターの濾過面積を大きくすることが望ましい。しかしながら、重合後のポリエステルを濾過する場合、フィルター部分での滞留時間が長くなると、ポリエステルの熱劣化が生じ、重合度の低下や変色が生じやすくなり、ゲル状物の発生頻度が上昇する場合がある。そのため、本発明ではフィルターの濾過面積を4〜200mにすることが重要である。
【0018】
また、フィルター濾過工程においてデッドスペースがあると、その部位でポリエステルが滞留し、熱劣化が生じ、ゲル状物の発生頻度が上昇する。よって、単位体積あたりの濾過面積は大きくすることが望ましい。そのため、本発明では円筒形のプリーツ形エレメントの集合体を、フィルターハウジング内に空間充填率が大きくなるように設置することが好ましい。しかし、単位体積あたりの濾過面積を大きくしすぎると、フィルターエレメントの耐圧性が低下し、容易に変形したり、フィルターエレメントの洗浄再生においても蓄積した異物が除去しきれない場合が生じる。そこで、本発明では、所定の形状を有したフィルターエレメントを用いることが好ましい。最適なフィルターエレメントの形状、および濾過速度については、後述する。
【0019】
本発明は上記の達成手段をとること、つまり十分な生産性を維持しながらポリエステル重合反応後の濾過工程においてゲル状物の発生を抑制し、さらにゲル状物の補足を向上させることが重要である。係る技術思想を利用するものであれば、その具体的な手段は上記以外のものであっても構わない。さらに、本発明について以下に詳細に説明する。
【0020】
本発明で用いられるポリエステルは、芳香族ジカルボン酸を主体とするジカルボン酸と、炭素数2〜4のアルキレングリコールのいずれか1種を原料とするものが好適である。
【0021】
本発明において、芳香族ジカルボン酸とは、オルソフタル酸、イソフタル酸、テレフタル酸、5−(アルカリ金属)スルホイソフタル酸、ジフェニン酸、1,3−ナフタレンジカルボン酸、1,4−ナフタレンジカルボン酸、1,5−ナフタレンジカルボン酸、2,6−ナフタレンジカルボン酸、2,7−ナフタレンジカルボン酸、4、4’−ビフェニルジカルボン酸、4、4’−ビフェニルスルホンジカルボン酸、4、4’−ビフェニルエーテルジカルボン酸、1,2−ビス(フェノキシ)エタン−p,p’−ジカルボン酸、パモイン酸、アントラセンジカルボン酸などに例示される分子構造中に芳香族環構造を含むジカルボン酸、またはこれらのエステル形成性誘導体である。なお、本発明において「主体とする」とは、カルボン酸成分中、50モル%以上が上記芳香族ジカルボン酸であることをいう。
【0022】
上記芳香族ジカルボン酸のうちテレフタル酸および2,6−ナフタレンジカルボン酸が、得られるポリエステルの物性等の点で好ましく、必要に応じて他のジカルボン酸を構成成分とする。
【0023】
本発明において炭素数2〜4のアルキレングリコールとしては、エチレングリコール、n−プロピレングリコール、n−ブチレングリコールが例示される。上記アルキレングリコールとしては、エチレングリコールが特に好ましい。
【0024】
なお、上記芳香族ジカルボン酸、炭素数2〜4のアルキレングリコールの他に、本発明の効果を奏するのであれば、他のジカルボン酸成分、グリコール成分、及び、これらの誘導体を3〜10モル%程度添加しても構わない。
【0025】
本発明のポリエステルとしてはPET、PBT、PTT、PEN、ポリブチレンナフタレート、ポリプロピレンナフタレートおよびこれらの共重縮合体が好ましく、これらのうちポリエチレンテレフタレートおよびこの共重縮合体が特に好ましい。共重縮合体としてはエチレンテレフタレート単位を50モル%以上よりなるものが好ましく、70モル%以上がより好ましい。
【0026】
本発明において用いられる重縮合触媒は、限定されない。アンチモン化合物、ゲルマニウム化合物、チタン化合物、スズ化合物およびアルミニウム化合物等の従来公知の重縮合触媒が使用できる。
【0027】
本発明において使用可能なアンチモン化合物としては、特に限定はされないが、好適な化合物として三酸化アンチモン、五酸化アンチモン、酢酸アンチモン、アンチモングリコキサイドなどが挙げられ、特に三酸化アンチモンの使用が好ましい。また、ゲルマニウム化合物としては、特に限定はされないが、二酸化ゲルマニウム、四塩化ゲルマニウムなどが挙げられ、特に二酸化ゲルマニウムが好ましい。二酸化ゲルマニウムとしては結晶性のものと非晶性のものの両方が使用できる。
【0028】
本発明において使用可能なチタン化合物としては特に限定はされないが、テトラ−n−プロピルチタネート、テトライソプロピルチタネート、テトラ−n−ブチルチタネート、テトライソブチルチタネート、テトラ−tert−ブチルチタネート、テトラシクロヘキシルチタネート、テトラフェニルチタネート、テトラベンジルチタネート、蓚酸チタン酸リチウム、蓚酸チタン酸カリウム、蓚酸チタン酸アンモニウム、酸化チタン、チタンとケイ素やジルコニウムやアルカリ金属やアルカリ土類金属などとの複合酸化物、チタンのオルトエステルまたは縮合オルトエステル、チタンのオルトエステルまたは縮合オルトエステルとヒドロキシカルボン酸からなる反応生成物、チタンのオルトエステルまたは縮合オルトエステルとヒドロキシカルボン酸とリン化合物からなる反応生成物、チタンのオルトエステルまたは縮合オルトエステルと少なくとも2個のヒドロキシル基を有する多価アルコール、2−ヒドロキシカルボン酸および塩基からなる反応生成物などが挙げられ、このうちチタンとケイ素の複合酸化物、チタンとマグネシウムの複合酸化物、チタンのオルトエステルまたは縮合オルトエステルとヒドロキシカルボン酸とリン化合物からなる反応生成物が好ましい。
【0029】
またスズ化合物としては、ジブチルスズオキサイド、メチルフェニルスズオキサイド、テトラエチルスズ、ヘキサエチルジスズオキサイド、トリエチルスズハイドロオキサイド、モノブチルヒドロキシスズオキサイド、トリイソブチルスズアセテート、ジフェニルスズジラウレート、モノブチルスズトリクロライド、ジブチルスズサルファイド、ジブチルヒドロキシスズオキサイド、メチルスタンノン酸、エチルスタンノン酸などが挙げられ、特にモノブチルヒドロキシスズオキサイドの使用が好ましい。
【0030】
また、アルミニウム化合物としては、ギ酸アルミニウム、酢酸アルミニウム、プロピオン酸アルミニウム、シュウ酸アルミニウム、アクリル酸アルミニウム、ラウリン酸アルミニウム、ステアリン酸アルミニウム、安息香酸アルミニウム、トリクロロ酢酸アルミニウム、乳酸アルミニウム、クエン酸アルミニウム、酒石酸アルミニウム、サリチル酸アルミニウムなどのカルボン酸塩、塩化アルミニウム、水酸化アルミニウム、水酸化塩化アルミニウム、硝酸アルミニウム、硫酸アルミニウム、炭酸アルミニウム、リン酸アルミニウム、ホスホン酸アルミニウムなどの無機酸塩、アルミニウムメトキサイド、アルミニウムエトキサイド、アルミニウムn−プロポキサイド、アルミニウムiso−プロポキサイド、アルミニウムn−ブトキサイド、アルミニウムt−ブトキサイドなどアルミニウムアルコキサイド、アルミニウムアセチルアセトネート、アルミニウムアセチルアセテート、アルミニウムエチルアセトアセテート、アルミニウムエチルアセトアセテートジiso−プロポキサイドなどのアルミニウムキレート化合物、トリメチルアルミニウム、トリエチルアルミニウムなどの有機アルミニウム化合物及びこれらの部分加水分解物、アルミニウムのアルコキサイドやアルミニウムキレート化合物とヒドロキシカルボン酸からなる反応生成物、酸化アルミニウム、超微粒子酸化アルミニウム、アルミニウムシリケート、アルミニウムとチタンやケイ素やジルコニウムやアルカリ金属やアルカリ土類金属などとの複合酸化物などが挙げられる。これらのうちカルボン酸塩、無機酸塩及びキレート化合物が好ましく、これらの中でもさらに酢酸アルミニウム、乳酸アルミニウム、塩化アルミニウム、水酸化アルミニウム、水酸化塩化アルミニウム及びアルミニウムアセチルアセトネートが特に好ましい。
【0031】
これらのアルミニウム化合物の中でも、アルミニウム含有量が高い酢酸アルミニウム、塩化アルミニウム、水酸化アルミニウム、水酸化塩化アルミニウムが好ましく、さらに溶解度の観点から酢酸アルミニウム、塩化アルミニウム、水酸化塩化アルミニウムが好ましい。さらに、装置を腐食しない観点から、酢酸アルミニウムの使用がとくに好ましい。
【0032】
ここで、水酸化塩化アルミニウムは一般にポリ塩化アルミニウムや塩基性塩化アルミニウムなどとも呼ばれるものの総称であり、水道用に使われるものなどが使用できる。これらは、例えば一般構造式[Al(OH)Cl6−n(ただし1≦n≦5)で表される。これらの中でも、装置を腐食しない観点から塩素含有量の少ないものが好ましい。
【0033】
上記の酢酸アルミニウムは、塩基性酢酸アルミニウム、トリ酢酸アルミニウム、酢酸アルミニウム溶液などに代表される酢酸のアルミニウム塩の構造を有するものの総称であり、これらの中でも、溶解性および溶液の安定性の観点から、塩基性酢酸アルミニウムの使用が好ましい。塩基性酢酸アルミニウムの中でも、モノ酢酸アルミニウム、ジ酢酸アルミニウム、あるいはこれらがホウ酸で安定化されたものが好ましい。ホウ酸で安定化されたものを用いる場合、塩基性酢酸アルミニウムに対して等モル以下の量のホウ酸で安定化されたものを用いることが好ましく、とくに1/2〜1/3モル量のホウ酸で安定化された塩基性酢酸アルミニウムの使用が好ましい。塩基性酢酸アルミニウムの安定剤としては、ホウ酸以外に尿素、チオ尿素などが挙げられる。
【0034】
本発明においては、上記重縮合触媒の添加量は限定されない。実用的な重縮合触媒活性を示す範囲で適宜設定すればよい。ただし、該重縮合触媒起因の異物生成を抑制し、得られるポリエステルの清澄度を確保する点より必要最低限の添加に留めるのがよい。例えば、重縮合触媒としてアンチモン化合物を用いる場合、当該アンチモン化合物は、最終的に得られるポリエステルに対するアンチモン原子の含有量が100〜200ppmとなる量添加するのが好ましく、100ppm未満であると重合生産性が低下し、逆に、200ppmを超えると、不溶性の異物を生じやすくなる。より好ましいアンチモン原子の含有量は140〜170ppmである。また、ゲルマニウム化合物、チタン化合物を用いる場合は、それぞれ、最終的に得られるポリエステルに対するゲルマニウム原子またはチタン原子の含有量が多くても50ppm以下となる量とすることが好ましい。
【0035】
本発明においては、上記重縮合触媒とともにマグネシウム化合物の存在下で実施するのが好ましい。該マグネシウム化合物はポリエステルの溶融比抵抗を下げ、静電密着性を向上するために添加される。
【0036】
また、本発明においては、さらにアルカリ金属化合物の存在下で実施するのがより好ましい。該アルカリ金属化合物を添加することにより、静電密着性向上効果を増大させることができ、かつ、副反応であるグリコール成分同士の縮合反応、例えば、グリコール成分としてエチレングリコールを用いた場合はジエチレングリコールの副生が抑制される。
【0037】
本発明において使用するアルカリ金属は、Li,Na,K,Rb,Csである。NaまたはK化合物の使用が好ましい。
【0038】
上記のマグネシウム化合物やアルカ金属化合物としては、例えば、これら金属のギ酸、酢酸、プロピオン酸、酪酸、蓚酸などの飽和脂肪族カルボン酸塩、アクリル酸、メタクリル酸などの不飽和脂肪族カルボン酸塩、安息香酸などの芳香族カルボン酸塩、トリクロロ酢酸などのハロゲン含有カルボン酸塩、乳酸、クエン酸、サリチル酸などのヒドロキシカルボン酸塩、炭酸、硫酸、硝酸、リン酸、ホスホン酸、炭酸水素、リン酸水素、硫化水素、亜硫酸、チオ硫酸、塩酸、臭化水素酸、塩素酸、臭素酸などの無機酸塩、1−プロパンスルホン酸、1−ペンタンスルホン酸、ナフタレンスルホン酸などの有機スルホン酸塩、ラウリル硫酸などの有機硫酸塩、メトキシ、エトキシ、n−プロポキシ、iso−プロポキシ、n−ブトキシ、tert−ブトキシなどのアルコキサイド、アセチルアセトネートなどとのキレート化合物、水素化物、酸化物、水酸化物などが挙げられる。これらのアルカリ金属やマグネシウム化合物のうち、水酸化物等のアルカリ性の強いものを用いる場合、これらはエチレングリコール等のジオールもしくはアルコール等の有機溶媒に溶解しにくい傾向があるため、水溶液で重合系に添加しなければならず重合工程上問題となる場合が有る。さらに、水酸化物等のアルカリ性の強いものを用いた場合、重合時にポリエステルが加水分解等の副反応を受け易くなるとともに、重合したポリエステルは着色し易くなる傾向があり、耐加水分解性も低下する傾向がある。従って、本発明のアルカリ金属化合物あるいはマグネシウム化合物として好適なものは、アルカリ金属あるいはマグネシウム金属の飽和脂肪族カルボン酸塩、不飽和脂肪族カルボン酸塩、芳香族カルボン塩、ハロゲン含有カルボン酸塩、ヒドロキシカルボン酸塩、硫酸、硝酸、リン酸、ホスホン酸、リン酸水素、硫化水素、亜硫酸、チオ硫酸、塩酸、臭化水素酸、塩素酸、臭素酸から選ばれる無機酸塩、有機スルホン酸塩、有機硫酸塩、キレート化合物、および酸化物である。これらの中でもさらに、取り扱い易さや入手のし易さ等の観点から、マグネシウム金属あるいはアルカリ金属などの金属の飽和脂肪族カルボン酸塩、特に酢酸塩の使用が好ましい。
【0039】
ポリエステル中のマグネシウム化合物の含有量はマグネシウム原子の量として5〜160ppmがより好ましく、10〜120ppmがさらに好ましく、15〜100ppmがよりさらに好ましい。マグネシウム原子含有量が3ppm未満ではポリエステルの溶融比抵抗の低下が少なくなり静電密着性が悪化するので好ましくない。逆に、200ppmを超えた場合は、該アルカリ土類金属起因の異物生成が増大するとともに、ポリエステルの熱安定性等の安定性が低下したり、ポリエステルの着色やゲル状物は発生量が増大するので好ましくない。
【0040】
ポリエステル中のアルカリ金属化合物量は、アルカリ金属原子の含有量として1〜40ppmがより好ましく、2〜30ppmがさらに好ましく、3〜20ppmがよりさらに好ましい。アルカリ金属原子の含有量が0.5ppm未満ではポリエステルの溶融比抵抗の低下が少なくなり静電密着性が悪化する。さらに、副反応であるグリコール成分同士の縮合反応が増加し、例えば、グリコール成分としてエチレングリコールを用いた場合はジエチレングリコールの副生が増大する。該副反応の増大によりポリエステルの融点低下や熱酸化安定性等の品質低下やゲル状物の発生頻度が上昇するので好ましくない。逆に、50ppmを超えた場合は、ポリエステルの溶融比抵抗の低下やグリコール成分同士の縮合反応の抑制効果が頭打ちになり、かつポリエステルの着色が増大し色調の低下が起こるので好ましくない。
【0041】
本発明においては、リン化合物の存在下で実施するのが好ましい。該リン化合物は、例えば、リン酸、亜リン酸、ホスホン酸およびそれらの誘導体等が挙げられ、具体例としては、リン酸、リン酸トリメチル、リン酸トリブチル、リン酸トリフェニル、リン酸モノメチル、リン酸ジメチル、リン酸モノブチル、リン酸ジブチル、亜リン酸、亜リン酸トリメチル、亜リン酸トリブチル、メチルホスホン酸、メチルホスホン酸ジメチル、エチルホスホン酸ジエチル、エチルホスホン酸ジメチル、フェニールホスホン酸ジメチル、フェニールホスホン酸ジエチル、フェニールホスホン酸ジフェニール等が挙げられる。これらはいずれか1種を単独で使用しても、2種以上を併用してもよい。また、これらのうちでもリン酸トリメチル、エチルホスホン酸ジエチル、および/またはリン酸が好ましい。
【0042】
当該リン化合物量は、マグネシウム原子/リン原子(モル比)で1.0〜10の範囲が好ましく、1.5〜3.5が特に好ましい。マグネシウム原子/リン原子(モル比)が1.0未満ではポリエステルの静電密着性向上効果が低下するので好ましくない。一方、10を超えた場合はポリエステルの耐熱性やレジンカラーが悪化するので好ましくない。
【0043】
本発明においては、得られるポリエステルは275℃での溶融比抵抗が0.5×10Ω・cm以下であることが好ましい。0.4×10Ω・cm以下がより好ましく、0.3×10Ω・cm以下がさらに好ましい。該ポリエステルの溶融比抵抗が0.5×108Ω・cmを超えた場合は、静電密着性が悪化し、キャスティング速度が遅くなり生産性が悪くなる。ここで、溶融比抵抗とは、静電密着キャスト法においてピンナーブルの発生を抑制しながらキャストできる最高のキャスティング速度、すなわち静電密着性と相関している。溶融比抵抗が低いポリマーほど、高速でキャスティングすることが可能となり、フィルム生産性の面から非常に重要である。ただし、0.1×108Ω・cm未満になると該ポリエステルを用いた成型体がエレクトレットを形成し易くなるので好ましくないことも発生する。
【0044】
該ポリエステルの溶融比抵抗は、275℃で溶融したポリエステル中に2本の電極(ステンレス針金)を置き、120Vの電圧を印加した時の電流(io)を測定し、これを次式に当てはめて求めた比抵抗値Si(Ω・cm)である。
Si(Ω・cm)=(A/L)×(V/io
[A:電極間面積(cm2)、L=電極間距離(cm)、V=電圧(V)]
【0045】
本発明においては、得られるポリエステルの清澄度が高いことが好ましい。該ポリエステルの清澄度は、ポリエステルチップに含まれる粗大粒子(5μm以上の粒子)を位相差顕微鏡で観察して、その個数によっても評価できる。すなわち、この方法は、ポリエステルチップ(一粒)を2枚のカバーグラス間に挟んで280℃で溶融プレス(樹脂厚み:0.6mm)し、急冷したのち、100倍の位相差顕微鏡で20視野観察(合計視野面積:2.4mm)し、イメージアナライザーで2.4mm当たりの5μm以上の粒子の数をカウントして評価する方法によっても行うことができる。この方法で測定した2.4mm当たりの5μm以上の粒子の合計個数が30個以下であれば、そのようなポリエステルは、不溶性の異物(粗大粒子)が少なく、高度の清澄度を有し、例えば、製膜して得られるフィルムは高度の清澄度を有するので高度の清澄度が要求される光学用フィルムとしても好適に使用することができる。
【0046】
また、該ポリエステルの清澄度は、該ポリエステルを溶媒に溶解し、その溶液を平均孔径0.1μmのメンブランフィルターでろ過した後のフィルター上の残渣における金属量を定量することによっても測定することができる。本発明においては、該ポリエステル中の不溶性のアルカリ土類金属分が、該ポリエステル1kg当たり1mg以下であることが好ましく、0.8mg以下がより好ましく、0.6mg以下がさらに好ましい。
【0047】
さらに、本発明においては、ポリエステルを長期に渡り連続生産した場合に、上記の清澄度がポリエステルの製造開始より少なくとも3ヶ月間に渡り維持されることが好ましい。
【0048】
本発明のポリエステルは、0.580〜0.630dl/gの極限粘度を有することが好ましい。極限粘度が0.580dl/g未満であるようなポリエステルは、製膜して得られるフィルムの力学的特性が劣悪になるため好ましくなく、逆に、0.630dl/gを超えるようなポリエステルは、ポリエステルチップをシート状に押出す際の押出機負荷が大きくなって、生産性が低下したり、ゲル状物が生じやすくなるので好ましくない。より好ましい極限粘度は0.600〜0.620dl/gである。
【0049】
また、本発明のポリエステルは、10〜25eq/tonの酸価を有することが好ましい。酸価が10eq/ton未満のポリエステルを得ようとすると、重合生産性が低下する傾向となり、逆に、酸価が25eq/tonを超えるようなポリエステルは、加水分解安定性が低下し、フィルムに製膜する際の極限粘度が低下したり、ゲル状物の発生頻度が向上する場合がある。より好ましい酸価は15〜20eq/tonである。
【0050】
本発明において、マグネシウム化合物、リン化合物を添加する態様としては、次の(a)〜(c)の条件を満たすことが好ましい。
(a)缶内を常圧以上の圧力とした少なくとも3缶以上のエステル化反応缶を用いてエステル化反応を行う。
(b)マグネシウム化合物は前記3缶以上のエステル化反応缶のうちの第2番目以降のエステル化反応缶に添加する。
(c)リン化合物は前記3缶以上のエステル化反応缶のうちのマグネシウム化合物を添加するエステル化反応缶以降のエステル化反応缶であって、少なくとも2缶以上の反応缶に分けて添加する。
【0051】
すなわち、上記(a)〜(c)の条件を満足することは、以下の技術内容を意味する。エステル化反応缶の缶内を減圧状態にすると、マグネシウム化合物およびリン化合物が逃散してしまう。従って、これを避けるためにエステル化反応缶の圧力を常圧以上にする。圧力の上限はゲージ圧で29.4kPaが好ましい。29.4kPaを超えると、ジエチレングリコール(DEG)の副生量が増加し、ポリエステルの軟化点を低下させ、例えば、フィルムの製膜時にフィルムの破断等を生じて、製膜作業を悪化させてしまう。
【0052】
エステル化反応缶内に、ジカルボン酸とグリコールを供給すると、エステル化反応によって、ジカルボン酸−グリコールジエステルおよび/またはそのオリゴマーを生成する(例えば、テレフタル酸とエチレングリコールを供給した場合、ビス−(β−ヒドロキシエチルテレフタレート)および/またはそのオリゴマーを生成する。)が、第1エステル化反応缶では生成するオリゴマーの酸価が大きく、この段階でマグネシウム化合物を供給(添加)すると、マグネシウム化合物とジカルボン酸間で不溶性の異物(Mg塩)が生成しやすくなる。従って、マグネシウム化合物を2缶目以降のオリゴマーの酸価が小さいエステル化反応缶に供給する。
【0053】
リン化合物は液状で低沸点のものが多いので、リン化合物をマグネシウム化合物が存在しない反応缶に添加すると、逃散して反応系に有効に取り込まれなくなる。従って、マグネシウム化合物の存在下に添加する(マグネシウム化合物と反応させる)のが好ましく、そのために、リン化合物を、マグネシウム化合物を供給(添加)する反応缶と同じ反応缶に添加する。また、リン化合物は1つの反応缶に添加するよりも、2つ以上の反応缶に分けて添加することによって、不溶性の異物(Mg塩)の低減効果がより高くなる。
【0054】
マグネシウム化合物は前記のように第2番目以降のエステル化反応缶に供給(添加)すればよいが、第3番目以降のエステル化反応缶に供給(添加)すれば、生成オリゴマーの酸価がより小さくなっており、不溶性の異物(Mg塩)の低減効果がより高くなり、好ましい。
【0055】
なお、かかる本発明のポリエステルの製造方法において、重合触媒であるアンチモン化合物の添加時期は特に制限されない。すなわち、エステル化反応における初期段階で添加しておいても、その後に添加してもよい。また、マグネシウム化合物およびリン化合物は、供給精度の点からエチレングリコール溶液として添加するのが好ましい。また。3缶以上のエステル化反応缶における缶内(反応系)温度は通常240〜280℃、好ましくは255〜265℃である。240℃未満では、オリゴマーが固化する恐れがあり、反応速度が低下するので、好ましくなく、逆に、280℃を超えるとDEGの副生量が増大し、また、生成ポリマーの色相が変化する傾向を示すので好ましくない。また、エステル化反応缶はポリエステルの製造効率の観点からは、5缶以下とするのが好ましい。
【0056】
本発明においてエステル化反応や重縮合反応の条件は限定されないが、例えば、下記条件が例示される。例えば、テレフタル酸1モルに対して1.02〜1.5モル、好ましくは1.03〜1.4モルのエチレングリコ−ルが含まれたスラリーを調製し、これをエステル化反応工程に連続的に供給する。エステル化反応は、少なくとも3個のエステル化反応槽を直列に連結した多段式装置を用いて、反応によって生成した水を精留塔で系外に除去しながら実施する。第1段目のエステル化反応の温度は240〜270℃、好ましくは245〜265℃、圧力は常圧〜0.29MPa、好ましくは0.005〜0.19MPaである。最終段目のエステル化反応の温度は通常250〜290℃好ましくは255〜275℃であり、圧力は通常0〜0.15MPa、好ましくは0〜0.13MPaである。3段階以上で実施する場合には、中間段階のエステル化反応の反応条件は、上記第1段目の反応条件と最終段目の反応条件の間の条件が好ましく。これらエステル化反応の反応率の上昇は、それぞれの段階で滑らかに分配されることが好ましい。最終的にはエステル化反応率は90%以上、好ましくは93%以上に達することが望ましい。これらのエステル化反応により分子量500〜2000程度の低次縮合物が得られる。
【0057】
引き続き重縮合反応槽に移送し重縮合を行う。該重縮合工程の反応槽数も限定されない。一般には初期重縮合、中期重縮合および後期重縮合の3段階方式が取られている。重縮合反応条件は、第1段階目の重縮合の反応温度は250〜290℃、好ましくは260〜280℃であり、圧力は0.065〜0.0026MPa、好ましくは0.026〜0.0039MPaで、最終段階の重縮合反応の温度は265〜300℃、好ましくは275〜295℃であり、圧力は0.0013〜0.000013MPa、好ましくは0.00065〜0.000065MPaである。3段階以上で実施する場合には、中間段階の重縮合反応の反応条件は、上記第1段目の反応条件と最終段目の反応条件の間の条件である。これらの重縮合反応工程の各々において到達される極限粘度の上昇の度合は滑らかに分配されることが好ましい。
【0058】
本発明では、ポリエステルを連続的に製造する方法において、重縮合反応後に中間孔径が5μm以下で、かつバブルポイント法での最大孔径が10μm以下であるフィルターでポリエステルを濾過することが好ましい。重縮合反応を多槽で行う場合は、該フィルターは最終重合反応槽の出口に設置することが好ましい。一般にポリエステルの製造においてポリエステルの濾過に用いられるフィルターは、該濾過においてフィルターの背圧が所定値を超えたらその使用を取りやめ、該使用済みのフィルターを洗浄し再使用される。しかしながら、上記使用において発生した目詰まり等のフィルターの汚染や目開きの変化等により生じた機能劣化を該洗浄で取り除くことは困難であり、該フィルターの使用回数の増大により、該フィルターの性能低下を引き起こし、該フィルターの繰り返し使用により前記したような高清澄なポリエステルを長期に渡り安定して生産することが困難であることが発生することがある。そこで、本発明者等は、該課題の解決法について鋭意検討して、上記の特性を有したフィルターを常時、用いることで該課題が解決できて、ゲル状物の混入が少なく、高清澄なポリエステルを長期に渡り安定して生産することができることを見出して本発明を完成した。
【0059】
上記フィルターの中間孔径は4μm以下がより好ましく、3μm以下がさらに好ましい。また、中間孔径の下限は1μm以上が好ましい。中間孔径が1μm未満では、濾過時の背圧が高くなり過ぎるので、濾過面積を大きく増やす必要があり経済的に不利になるだけでなく、偏流によるポリマーの滞留が生じてポリマーが劣化してゲル状物を生成するので好ましくない。フィルターの中間孔径が5μm以上ではポリエステルの清澄が低下し、前記したような高清澄なポリエステルを長期に渡り安定して生産することが困難となるだけでなく、ゲル状物の混入が多くなるので好ましくない。
【0060】
なお、上記中間孔径は、JIS K 3832 のバブルポイント法に準じて以下に示す方法により測定する。
(1)あらかじめ10分以上イソプロピルアルコールに浸したフィルターエレメントを水平にし、タンク内に配管された空気管に取り付ける。
(2)タンクにイソプロピルアルコールを満たし、その液面の高さは、フィルター上端から15mmとする。
(3)フィルターエレメント内の空気圧を0から徐々に増加させ、メディアより連続して気泡が発生する時点(初期バブルポイント)より、空気流量−空気圧曲線を実測して描く。
(4)一般にある空気圧までは空気圧に対して空気流量が出にくい状態が続き、その後空気流量が急激に増加して空気圧に対する空気流量の変化率が一定となる。
(5)この両曲線の接線の交点に相当する空気圧を交点のバブルポイント圧(P)とする。
(6)このPからイソプロピルアルコールによるヘッド圧(15mmイソプロピルアル コール)を差し引いて、標準状態に補正をした値PESが細孔に発生する気泡とイソ プロピルアルコールの界面張力(すなわち表面張力S)と釣り合うことから導き出される次の式から中間孔径(D)を算出する。
= 4Scosθ/PES(ただし、θは接触角)
【0061】
上記の中間孔径を満たすフィルターとして、例えば、ステンレス、アルミニウムなどの金属繊維を積層し、燒結圧縮成形した3次元網状構造をもつ焼結繊維フィルター、焼結金属粉末フィルターが望ましが、特に限定はしない。
【0062】
バブルポイント法による最大孔径が10μm以下であることが好ましく、8μm以下であるフィルターの使用がより好ましく、6μm以下であるフィルターの使用がさらに好ましい。最大孔径が1μm未満では、濾過時の背圧が高くなり過ぎるので、濾過面積を大きく増やす必要があり経済的に不利になるだけでなく、偏流によるポリマーの滞留が生じてポリマーが劣化により、ゲル状物の発生頻度が高くなるので好ましくない。フィルターの最大孔径が10μm以上ではポリエステルの清澄が低下し、前記したような高清澄なポリエステルを長期に渡り安定して生産することが困難となるだけでなく、ゲル状物の混入頻度ガ高まるので好ましくない。
【0063】
なお、上記のバブルポイント法による最大孔径はJIS K 3832 に準じて、実施例において後述する方法により評価し求められたものである。
【0064】
上記のバブルポイント法による最大孔径を満たす方法は限定されないが、使用済みのフィルターの洗浄を以下のごとくの方法で実施するのが好ましい実施態様である。
(1)フィルターハウジングの配管の出入口を閉じ、270℃以上、300℃未満で1〜5日間静置し、ハウジング内のポリエステルを熱劣化させる。ポリエステルを熱劣化させた後、劣化したポリエステルを抜き出してから、フィルターハウジングからフィルターエレメントを取り出す。
(2)フィルターハウジング内を、常圧下で、270〜290℃のトリエチレングリコールなどの溶媒で、2〜10時間、循環洗浄する。その後、ハウジング内の残留した溶媒を抜き取り、乾燥させる。
(3)フィルターエレメントを単体に分解し、フィルターエレメントに対して、3〜10倍容量のトリエチレングリコールなどの溶媒に浸漬させ、常圧下、270〜290℃で、5〜15時間加熱する。次いで、水洗後、アルカリ溶液(例えば、20質量% NaOH水溶液)で常圧下、60〜100℃で、4〜8時間加熱する。さらに水洗後、必要により20質量%の硝酸水溶液で常温で1分間フィルターエレメントを浸漬したのち、超音波洗浄を行い乾燥する。
(4)乾燥したフィルターエレメントについては1本ずつ、バブルポイント法により最大孔径を検査する。
【0065】
本発明において、上記フィルターが円筒形のプリーツ型エレメントの集合体よりなることが好ましい。円筒形のプリーツ型エレメントの集合体にすることで、フィルター部におけるポリエステルの流れのデットスペースを少なくし、かつ効率的な濾過が可能となる。デットスペースを低減することにより、該ポリエステルの滞留によるポリエステルの劣化を抑制され、ゲル状物の発生頻度を抑制することが可能となり、フィルターの背圧上昇の抑制や得られるポリエステルの清澄度の向上に繋がる。
【0066】
本発明においては、上記単位エレメントの外径が40〜60mmで、かつ内径/外径比が0.50〜0.75であることが好ましい。外径は43〜57mmがより好ましく、45〜55mmがさらに好ましい。また、内径/外径比は0.55〜0.70がより好ましく、0.60〜0.65がさらに好ましい。上記対応により単位エレメントの濾過面積、耐圧性、デッドスペースおよび成形性のバランスが取れる。ここで、外径とは上記単位エレメントのプリーツの外側に外接する外接円の直径をいい、内径とは上記単位エレメントのプリーツの内側に内接する内接円の直径をいう。
【0067】
本発明においては、上記フィルターが上記単位エレメントの複数本をフィルターハウジングに収納されてなり、該フィルターハウジング容量1リットル当たりの総エレメントの濾過面積が0.05〜0.3mであることが好ましい。フィルターハウジング容量1リットル当たりの総エレメントの濾過面積は0.1〜0.25mがより好ましく、0.15〜0.2mがさらに好ましい。
【0068】
上記対応により、フィルターハウジング内におけるポリエステルの流れのデットスペースを低減することにより、該ポリエステルの滞留によるポリエステルの劣化を抑制し、ゲル状物の発生頻度を抑制することが可能となり、フィルターの背圧上昇の抑制や得られるポリエステルの清澄度の向上に繋がる。
【0069】
上記要件を満たす方法は限定されないが、上記要件を満たす単位エレメントを用いることが重要である。さらに、フィルターハウジング内の単位エレメントの配置を最適化するのが好ましい。例えば、プリーツ型円筒フィルターを円筒型のフィルターハウジング内に配置する場合は、同心円状や、スパイラル状に配置することが好ましい。また、多角型のフィルターハウジングについてはハニカム状に配置することが好ましい。このような配置にすることで、単位体積当りのろ過面積を大きくすることができ、ろ過速度を上昇し、生産性を高めることができる。
【0070】
本発明においては、上記フィルターハウジングに収納されてなる総エレメントに対するポリエステルの通過量が0.1〜0.3g/cm・分であることが好ましい。該通過量は0.13〜0.27g/cm・分がより好ましく、0.15〜0.25g/cm・分がさらに好ましい。該通過量が0.1g/cm・分未満では、フィルターの総面積を増大する必要があり、例えば、単位エレメントの本数を増大したり、フィルターハウジングの容量を大きくする必要がある等、経済性が低下するだけでなく、偏流によるポリマーの滞留が生じてポリマーが劣化してゲル状物を生成するので好ましくない。また、フィルター部でのポリエステルの滞留量が増大するので前記と同様の課題発生にも繋がる。逆に、0.3g/cm・分を超えた場合は、フィルターの背圧が上がり、ゲル状物が通過するなど濾過効率が低下して得られるポリエステルの清澄度が低下するので好ましくない。
【0071】
本発明において、フィルターの合計ろ過面積は、重合設備の大きさにも依存するが、4〜200mであることが好ましい。該ろ過面積は、10〜150mがより好ましく、20〜100mがさらに好ましい。ろ過面積を上記範囲内にすることでポリエステルの通過量を上記範囲に制御することができる。ろ過面積が4m未満の場合は、フィルターの背圧が上がり濾過効率が低下して得られるポリエステルの清澄度が低下するので好ましくない。逆に、ろ過面積が200mを越えると、経済性が低下するので好ましくない。
【0072】
本発明においては、ポリエステルを上記単位エレメントの外側から内側の方向に通過させてなることが好ましい。理由は定かでないが、逆方向、すなわち、ポリエステルの通過をエレメントの内側から外側の方向に通過させた場合は、フィルターエレメントの変形を招き易く、フィルターを洗浄して再使用する場合に、目詰まりした異物を除去し難く不適である。
【0073】
本発明のポリエステル中には、他の任意の重縮合体や制電剤、消泡剤、染色性改良剤、染料、顔料、艶消剤、蛍光増白剤、安定剤、その他の添加剤が含有されていてもよい。安定剤としては、リン酸やリン酸エステル系等のリン系、硫黄系、アミン系等の安定剤が使用可能である。
【0074】
これらの添加剤は、ポリエステルの重縮合時もしくは重縮合後、あるいはポリエステル成形時の任意の段階で添加することが可能であり、どの段階が好適かは対象とするポリエステルの構造や得られるポリエステルの要求性能に応じてそれぞれ適宜選択すれば良い。
【0075】
本発明は上記の態様により製造したポリエステルを原料として、二軸延伸ポリエステルフィルムを作成する。本発明のポリエステルフィルムは、上記態様により製造したポリエステルのみからなることもできるが、本発明の目的の範囲内であれば、上記態様により製造したポリエステルと上記以外の態様により製造したポリエステルを所定の割合で混合したものであっても構わない。所定の割合で混合したポリエステルを用いる場合は、上記態様により製造したポリエステルの混合割合を全体の50%以上とすることが望ましい。
【0076】
本発明のポリエステルフィルムは、上記ポリエステルを用いて、未延伸シートを得るシート化工程、未延伸シートを延伸する延伸工程、延伸したフィルムを熱処理する熱固定工程をへて得ることができる。
【0077】
シート化工程では、押出機を用い、融点以上の温度で溶融し、ダイスから層状に押出し、回転式冷却ロールに密着固化させて未延伸ポリエステルフィルムを得る。回転式冷却ロールへ密着させる方法として、静電密着法を用いることができる。これにより厚み変動の少ない平坦な表面を有するフィルムをえることができる。また、必要に応じて、回転式冷却ロールの反対面から空気を吹付けて冷却してもかまわない。
【0078】
延伸工程においては、上記により得られた未延伸ポリエステルフィルムは、少なくとも一軸方向、好ましくは二軸方向に延伸することが望ましい。具体的に、上記により得られたポリエステルシートを延伸機に導き、80〜125℃に加熱した後、縦方向に2.5〜5.0倍延伸して一軸延伸フィルムを得る。延伸工程については、逐次延伸であっても、同時二軸延伸であってもかまわない。
【0079】
次いで、必要に応じて一軸延伸ポリエステルフィルムの片面、若しくは両面に、樹脂塗布層を設ける。例えば、本発明の製造方法で得られる二軸延伸ポリエステルフィルムでは、易滑性付与を目的とした粒子を含有しないポリエステル原料を用いることが多いため、上記の樹脂塗布層により易滑性を付与してもよく、また、光学用加工を施す際の加工性向上のため、接着性を付与してもよい。
【0080】
接着性を付与するために、本発明のフィルムの少なくとも片面に、ポリエステル樹脂、ポリウレタン樹脂またはポリアクリル樹脂の少なくとも1種類を主成分とする塗布層を有することが好ましい。ここで、「主成分」とは被覆層を構成する固形成分のうち50質量%以上である成分をいう。塗布層の形成に用いる塗布液は、水溶性又は水分散性の共重合ポリエステル樹脂、アクリル樹脂及びポリウレタン樹脂の内、少なくとも1種を含む水性塗布液が好ましい。これらの塗布液としては、例えば、特許第3567927号公報、特許第3589232号公報、特許第3589233号公報、特許第3900191号公報、特許第4150982号公報等に開示された水溶性又は水分散性共重合ポリエステル樹脂溶液、アクリル樹脂溶液、ポリウレタン樹脂溶液等が挙げられる。
【0081】
上記樹脂塗布層を設ける方法の具体例として、リバースロール・コート法、グラビア・コート法、キス・コート法、ロールフラッシュ法、スプレーコート法、エアナイフコート法、マイヤーバーコート法、パイプドクター法、含浸・コート法およびカーテン・コート法等が挙げられ、これらの方法を単独、または、組み合わせて行ってもよい。
【0082】
次いで、前記塗布液を塗布した後の一軸延伸ポリエステルフィルムをクリップ方式の横延伸機に導き、80〜180℃に加熱した後、横方向に2.5〜5.0倍延伸し、次いで、200〜240℃で熱固定処理した後、必要に応じて縦方向および/または横方向に1〜10%緩和処理し、次いで、フィルムワインダーで巻き取って二軸延伸ポリエステルフィルムを得る。
【0083】
また、熱固定処理工程後に、縦方向および/または横方向に再延伸して、フィルムの配向を高めてもよい。
【0084】
本発明の製造方法で得られる熱可塑性樹脂フィルムの厚みまたは層構成(単層または多層)は限定しないが、50μm以上400μm以下であることが好ましい。下限については、好ましくは70μm、より好ましくは100μmである。上限については350μmが好ましく、より好ましくは300μmである。フィルムの厚みが50μm未満では剛性が不十分となり場合があり、400μmを超えると、フィルムの剛性が増大し加工が困難となる場合がある。
【0085】
本発明のフィルムのヘイズは2.0%以下であることが、ディスプレイ部材などの光学用途として透明性が高度に要求される用途で使用する際に好ましい。前記のヘイズは1.5%以下であることがより好ましく、1.0%以下であることがさらに好ましい。フィルムのヘイズを1.5%以下にするためには、フィルム中の粒子濃度を50ppm以下、好ましくは10ppm以下とするか、粒子を含有させないことが好ましい。フィルム中に粒子を含有させない場合、耐スクラッチ性やロール状に巻取る際や巻出す際のハンドリング性(滑り性、走行性、ブロッキング性、巻取り時の随伴空気の空気抜け性など)を改善するために、フィルム表面に粒子を有する塗布層を設けることが好ましい。
【0086】
前記粒子としては、炭酸カルシウム、リン酸カルシウム、不定形シリカ、球状シリカ、結晶性のガラスフィラー、カオリン、タルク、二酸化チタン、アルミナ、シリカ−アルミナ複合酸化物粒子、硫酸バリウム、フッ化カルシウム、フッ化リチウム、ゼオライト、硫化モリブデン、マイカなどの無機粒子や、架橋ポリスチレン粒子、架橋アクリル系樹脂粒子、架橋メタクリル酸メチル系粒子、ベンゾグアナミン・ホルムアルデヒド縮合物粒子、メラミン・ホルムアルデヒド縮合物粒子、ポリテトラフルオロエチレン粒子などの耐熱性高分子微粒子が挙げられる。なかでも、シリカはポリエステルと屈折率が比較的近いため、より透明性に優れたフィルムを確保し得る点で最も好適である。
【実施例】
【0087】
以下、本発明を実施例により説明するが、本発明はこれらの実施例に制限されるものではない。なお、評価法は以下の方法で実施した。
【0088】
なお、以下の実施例、比較例においてTPAはテレフタル酸、EGはエチレングリコール、を意味する。また、各特性、物性値は下記の試験方法で測定した。
【0089】
(1)極限粘度
JIS K 7367−5に準拠し、ポリエステルをフェノール(6重量部)と1,1,2,2−テトラクロルエタン(4重量部)の混合溶媒に溶解し、30℃で測定する。
【0090】
(2)ポリエステルの溶融比抵抗(ρi)
275℃で溶融したポリエステル中に2枚の電極板を置き、120Vの電圧を印加した時の電流値(i0)を測定し、比抵抗値ρiを次式により求める。
ρi(Ω・cm)=A/l×V/ i
ここで、A=電極面積(cm)、l=電極間距離(cm)、V=電圧(V)である。
【0091】
(3)ポリエステル中の不溶性のマグネシウム(Mg)およびアンチモン(Sb)量
ポリエステルチップ100gを水洗乾燥してから、パラクロロフェノールとテトラクロルエタンの75:25(重量比)の混合溶媒に溶解し、この溶液を、親水性ポリテトラフルオロエチレン製の平均孔径0.1μmのメンブランフィルターでろ過し、フィルターを乾燥後、フィルター上の残渣のマグネシウム分およびアンチモン分を蛍光X線で測定し、これをポリエステル1kg当りの量に換算した。
【0092】
(4)ポリエステル中の粗大粒子数(粒径5μm以上の粒子数)
ポリエステルチップ(一粒)を2枚のカバーグラス間に挟んで280℃で溶融プレス(樹脂厚み:0.6mm)し、急冷したのち、100倍の位相差顕微鏡で20視野観察(合計視野面積:2.4mm)し、最大径5μm以上の粒子の数をカウントした。2.4mm当たりの個数で表示した。
【0093】
(5)ポリエステルの静電密着性
押出機の口金部と冷却ドラムの間にタングステンワイヤー製の電極を設け、電極とキャスティングドラム間に10〜15KVの電圧を印加してキャスティングを行い、得られたキャスティング原反の表面を肉眼で観察し、ピンナーバブルの発生が起こり始めるキャスティング速度で評価する。キャスティング速度が大きいポリマー程、静電密着性が良好である。
【0094】
(6)フィルターエレメントの最大孔径
予め10分以上イソプロピルアルコール(25℃での表面張力21dyne/cm)に浸漬したフィルターエレメントを水平にして、イソプロピルアルコールの入ったタンクに入れ、JIS K 3832に準拠したバブルポイント法により、最初に連続的にバブルが発生した時の圧力P(初期バブルポイント圧)を測定した。測定した圧力PからWashburn式(D=4Scosθ/P、D:最大孔径、S:イソプロパノールの表面張力、θ:接触角)により最大孔径を求めた。
【0095】
(7)フィルターエレメントの中間孔径
予め10分以上イソプロピルアルコール(25℃での表面張力21dyne/cm)に浸漬したフィルターエレメントを水平にして、イソプロピルアルコールの入ったタンクに入れ、JIS K 3832に準拠したバブルポイント法により、フィルターエレメント内の空気圧を0から徐々に増加させ、メディアより連続して気泡が発生する時点(初期バブルポイント)より、空気流量−空気圧曲線を実測して描いた。この両曲線の接線の交点に相当する空気圧を交点のバブルポイント圧(P)とし、このPからイソプロピルアルコールによるヘッド圧(15mmイソプロピルアル コール)を差し引いて、標準状態に補正をした値PESが細孔に発生する気泡とイソ プロピルアルコールの界面張力(すなわち表面張力S)と釣り合うことから導き出される次の式から中間孔径(D)を算出した。D= 4Scosθ/PES(ただし、θは接触角)
【0096】
(8)核なし欠点
(欠点の検出)
得られたフィルムのフィルムロール表層から10mの部分を取り除き、続く長さ1m以上のフィルムを抜き出し、垂直方向に垂らした。次いでフィルムの背面に三波長昼白色蛍光灯(FL20SS EX−N/18P:ナショナル社製)を配置し前面からフィルム面に対し約10°から45°の範囲で角度を変えながら周囲と比べ、輝く点または、白っぽく見える点、または黒っぽく見える点をマーキングした。
【0097】
(核の有無の判定)
マーキングした欠点を顕微鏡(倍率100倍)で観察し視認できる核を有する欠点を抽出し、核を有する欠点は除外した。
【0098】
(欠点形状の測定)
前記抽出した欠点を非接触表面形状計測システム(VertScan R550H−M100)を用いて、下記の条件で測定した。
【0099】
(測定条件)
測定モード:WAVEモード
対物レンズ:10倍
0.5×Tubeレンズ
測定面積:938×696μm
【0100】
等高線表示モードにて、測定面が高さによって色分けされた画像を表示させた。この時、表面形状のうねりを除去するため面補正(4次関数補正)を行った。等高線表示モードでは、測定範囲内の平均高さを0nmとし、高さ最高値を500nm、高さ最低値を−500nmに設定し、高さ500nm以上の突起部分が赤色に表示されるように表示させた。
【0101】
次いで同一測定視野の断面プロファイル表示モードを表示させた。等高線画面で、カーソルの両端をつまんで高さ500nm以上の表面突起の長尺方向に沿うように、かつ、断面プロファイルが表面突起の最高高さ位置を通るように移動させた。また、断面プロファイル表示モードの高さのスケールは表面突起全体が表示されるように調整した。断面プロファイル表示モードにてカーソルを移動、回転させ最高点高さを求めた。(この時、測定範囲内の平均高さ線である高さを0nmとした。)次いで、断面プロファイルと測定範囲内の平均高さ線である高さ0nmの線とが交わった2箇所の交点間の距離を読み取り、核無し欠点の長さ(最大径)を測定した。
尚、同等かそれ以上の機能を有する測定機であればレーザーを使用した非接触粗さ測定器であっても良い。
【0102】
(9)フィルム厚み
フィルムの厚みは、電子マイクロメーターMILLITRON(精工精密機械販売)を用いて長手方向300mm、それに直角な方向に210mmに切り出したフィルム試料の長手方向に直角な方向に約20mmずつの位置で10回計測し、その平均値を求める。
【0103】
(10)へイズ
フィルム試料のヘイズ(曇価)および全光線透過率は、日本電色工業社製NDH−300A型濁度計を用い、JIS K 7105「プラスチックの光学的特性試験方法」に準拠して測定した。
【0104】
実施例1
〔スラリー調製〕
スラリー調合槽の保持量が0.5時間量となったら、TPA2700kgと第一エステル化反応槽から留出する留出分を後述の方法で蒸留し蒸留塔最下部から回収したEG(水分3.5%含有)1080kg、新規のEG664kgの3種を原料とし、同時に20分掛けて一定速度でスラリー調合槽に仕込み、TPAのEGスラリーを調合した。保持量が0.5時間量になった時点で上記の調合を繰り返した。
【0105】
[エステル化反応〕
エステル化反応装置として、攪拌装置、仕込み口、生成物取り出し口および蒸気放出口を有する4基の完全混合槽よりなるエステル化反応槽と2基の蒸留塔を使用し、第一エステル化反応槽は温度259℃、絶対圧力125kpaで、平均滞留時間4時間となるように、TPAのEGスラリーを反応槽上部から連続して受け入れ、生成オリゴマーを連続して反応槽下部から第二エステル化反応槽へ移送した。なお、第二エステル化反応槽に送られたオリゴマーの酸価は1600eq/トン、水酸基価(OH価)は1650eq/トンであった。またスラリーの受け入れ配管から三酸化アンチモンを含むEG溶液(アンチモン原子として12g/L)を51kg/Hrの速度で第一エステル化反応槽に連続供給した(生成PETに対してSb原子で146ppm相当量)。
【0106】
第ニエステル化反応槽液中にTPAのEGスラリー調合に使用した回収EGと同じEGを生成PETに対する比率で8質量%だけ供給しエステル化反応を進めた。第ニエステル化反応槽は温度260℃、圧力常圧で平均滞留時間0.95時間となるように、横部受け入れ口からオリゴマーを第一エステル化反応槽より受け入れ、生成オリゴマーを反応槽下部から第三エステル化反応槽へ移送した。なお、第三エステル化反応槽に送られたオリゴマーの酸価は520eq/トン、水酸基価(OH価)は1150eq/トンであった。
【0107】
第三エステル化反応槽は温度260℃、圧力常圧で平均滞留時間0.35時間となるよう、オリゴマーを反応槽下部から受け入れ、堰からのオーバーフローでオリゴマーを第四エステル化反応槽に移送した。第三エステル化反応槽の上部の添加ノズルから、酢酸マグネシウム4水和物を含むEG溶液(50g/L)と、リン酸トリメチルを含むEG溶液(65g/L)を別々に、生成PETに対してマグネシウム原子として65ppm、リン原子として20ppmのとなるように添加した。
【0108】
第四エステル化反応槽は温度260℃、圧力常圧で平均滞留時間0.35時間となるよう、第三エステル化反応槽の堰からオーバーフローでオリゴマーを受け入れ,第四エステル化反応槽の下部からギアポンプでオリゴマーをとりだし、初期重縮合槽に移送した。なお、第四エステル化反応槽から取り出されたオリゴマーの酸価は350eq/トン、水酸基価(OH価)は1270eq/トンであった。
【0109】
第四エステル化反応槽上部の添加ノズルから第三エステル化反応槽に添加したものと同じリン酸トリメチルを含むEG溶液(65g/L)と、酢酸ナトリウムを含むEG溶液(20g/L)を別々に、生成PETに対してリン原子として23ppm、ナトリウム原子として10ppmとなるように添加した。
【0110】
〔重縮合反応〕
重縮合反応装置として攪拌装置、仕込み口、生成物取り出し口および蒸気放出口を有する、1基の縦型反応槽(初期重縮合反応槽)と2基の横型反応槽(中期重縮合反応槽、後期重縮合反応槽)を使用し水蒸気エジェクターで真空を発生させながら重縮合を行った。初期重縮合反応槽は温度275℃、絶対圧力4kpaで、平均滞留時間1.4時間となるよう第四エステル化反応槽からギアポンプで反応槽横部の受け入れ口からオリゴマーを受け入れ、反応槽下部のプレポリマー取り出し口からギアポンプでPETの生産量が90t/日となるように一定回転でプレポリマーを取り出し、中期重縮合反応槽に移送した。なお、初期重縮合反応槽から取り出されたプレポリマーの酸価は105eq/トン、極限粘度は0.18dl/gであった。
【0111】
中期重縮合反応槽は温度277℃、絶対圧力0.5kpaで平均滞留時間0.7時間となるよう初期重縮合反応槽からギアポンプで反応槽底部の受け入れ口からプレポリマーを受け入れ、受け入れ口とは反対方向の反応槽底部のプレポリマー取り出し口からギアポンプで取り出し、後期重縮合反応槽に移送した。なお、中期重縮合反応槽から取り出されたプレポリマーの酸価は31eq/トン、極限粘度は0.40dl/gであった。
【0112】
後期重縮合反応槽は温度282℃、平均滞留時間0.7時間となるよう中期重縮合反応槽からギアポンプで反応槽底部から受け入れ、受け入れ口とは反対方向の反応槽底部のポリマー取り出し口からギアポンプで取り出し、中間孔径3μmの焼結金属繊維フィルターで濾過を行い、ダイからポリマーをストランド状に押し出した後、中間孔径5μmの焼結金属繊維フィルターで濾過し塩素滅菌した水で冷却し、カッターで3.5mm長に切断してから金網で水切りを行い、中間ホッパー経由した2段の空送設備で空送してサイロに投入した。後期重縮合反応槽の圧力は取り出されるポリマーの極限粘度が0.620dl/gとなるように制御したので0.05〜0.25kpaであった。またポリマーの酸価は15eq/トン、溶融比抵抗は0.24×10Ω・cm、切断後のチップの大きさは100粒で3.2gであった。なお。チップの空送に使用する空気は全て、0.3μmのヘパフィルターで濾過したものを用いた。
【0113】
〔ポリマー濾過〕
なお、ポリマーの濾過に用いたフィルターは、ハウジング容量が300Lであり、その中にプリーツ(襞)数(山数)が1本当たり38個で、プリーツの外接円の直径が50mm、長さが87cmの円筒状のフィルターエレメント(内径/外径比0.6)について、バブルポイント法による最大孔径が7μm以下のフィルターエレメントを選別し、87本をセットした。この時の合計濾過面積は44mであり、濾過速度は1分当たり0.14g/cmであった。また、フィルターハウジング容量1リットル当たりの総エレメントの濾過面積は0.147mであった。また、ポリエステルは上記単位エレメントの外側から内側の方向に通過させた。
【0114】
〔フィルターエレメントの洗浄〕
上記フィルターエレメントは使用済みのものを下記方法で洗浄して用いた。
(1)フィルターハウジングの配管の出入口を閉じ、280℃で2日間静置し、ハウジング内のポリエステルを熱劣化させる。ポリエステルを熱劣化させた後、劣化したポリエステルを抜き出してから、フィルターハウジングからフィルターエレメントを取り出した。
(2)フィルターハウジング内を、常圧下で、285℃のトリエチレングリコーで、4時間、循環洗浄した。その後、ハウジング内を洗浄した後、トリエチレングリコールを抜き取り、乾燥させた。
(3)フィルターエレメントを単体に分解し、フィルターエレメントに対して、5倍容量のトリエチレングリコールに浸漬させる。常圧下、280℃で、8時間加熱した。次いで、水洗後、20質量% NaOH水溶液で常圧下、90℃で、2時間加熱する。さらに、水洗後、超音波洗浄を行った後、乾燥した。
(4)乾燥したフィルターエレメントについては1本ずつ、バブルポイント法により最大孔径を検査した。
【0115】
上記方法で作成した粒子を含有していない極限粘度が0.62dl/gのポリエチレンテレフタレートを、135℃で6時間減圧乾燥(133.3Pa)した。樹脂を押出機で285℃で溶融した後、濾過粒子サイズ(初期濾過効率95%)が15μmのステンレス製濾過材で濾過し、285℃でTダイスから層状に押出し、25℃の回転式冷却ロールに密着固化させて未延伸ポリエステルフィルムを得た。この際、シート状の溶融樹脂を静電密着法を用いて回転式冷却ロールに密着させた。
【0116】
次いで、未延伸ポリエステルシートをロール方式の縦延伸機に導き、赤外線ヒーターで100℃に加熱した後、ロールの周速差により縦方向に3.5倍延伸して一軸延伸フィルムを得た。
【0117】
次いで、一軸延伸ポリエステルフィルムの片面に水溶性ポリエステル樹脂溶液を塗布した後、120℃で乾燥させ、固形分濃度が0.08g/mの塗布層(平均粒径0.2μmのシリカを0.003質量%含有)を設けた。
【0118】
次いで、この一軸延伸ポリエステルフィルムをクリップ方式の横延伸機に導き、100℃で予熱した後、130℃で横方向に4.0倍延伸し、次いで、230℃で熱固定処理した後、200℃で横方向に3%緩和処理し、次いで、フィルムワインダーで巻き取って厚み188μmの二軸延伸ポリエステルフィルムを得た。
【0119】
実施例2
実施例1の方法において、ポリエステルをフィルターの単位エレメントの内側から外側の方向に通過させるように変更する以外は、実施例1と同様の方法でポリエステルを得た。
実施例3
実施例1の方法において、ポリエステルのフィルターの中間孔径を4μm、かつバブルポイント法による最大孔径が10μmの焼結金属繊維フィルターに替えた以外は、実施例1と同様のにしいてポリエステルフィルムを得た。

【0120】
比較例1
実施例1の方法において、バブルポイント法による最大孔径が15μmのフィルターエレメントを選別使用する以外は、実施例1と同様にしてポリエステルフィルムを得た。
【0121】
比較例2
実施例1の方法において、中間孔径10μmの焼結金属繊維フィルターで、かつバブルポイント法による最大孔径が20μmのフィルターに替える以外は、実施例1と同様にしてポリエステルフィルムを得た。
【0122】
比較例3
実施例1の方法において、ろ過面積を400mとし、それに併せてフィルターハウジング容量などの条件を表1のように変更した以外は、実施例1と同様にしてポリエステルを得た。本比較例においては、ポリエステルの熱劣化が進み、ポリエステルの製造開始後3日経過時には茶色のポリエステルの劣化物が生成され、1ヶ月以上の長期の連続運転ができなかった。
【0123】
比較例4
実施例1の方法において、フィルターエレメントの外径を75mmとし、それに併せて他の条件を表1のように変更した以外は、実施例1と同様にしてポリエステルを得た。本比較例においては、ポリエステルの連続開始後10日以降では、背圧の急激な上昇が見られ、フィルターを取り出して観察すると、フィルターエレメントのプリーツの襞形状が変形し、1ヶ月以上の長期の連続運転ができなかった。
【0124】
比較例5
実施例1の方法において、フィルターエレメントの内径/外径比を0.20とし、それに併せて他の条件を表1のように変更した以外は、実施例1と同様にしてポリエステルを得た。本比較例においては、ポリエステルの連続開始後2日後に比較例4と同じ現象が発生し、1ヶ月以上の長期の連続運転ができなかった。
【0125】
比較例6
実施例1の方法において、フィルターエレメントの内径/外径比が0.80とし、それに併せて他の条件を表1のように変更した以外は、実施例1と同様にしてポリエステルを得た。本比較例においては、ポリエステルの生産能力を40%減少する必要が生じ、1ヶ月以上の長期の連続運転ができなかった。
【0126】
【表1】

【産業上の利用可能性】
【0127】
本発明のポリエステルフィルムは、欠点も少なく、極めて高度な清澄度を有する。従って、ディスプレイの構成部材や光学用途のフィルムとして好適である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
厚さ50〜400μmの二軸延伸ポリエステルフィルムであって、下記要件(1)〜(7)を満足する二軸延伸ポリエステルフィルム。
(1)ポリエステル中のマグネシウム化合物の含有量が5〜160ppm
(2)ポリエステル中のアルカリ金属化合物の含有量が1〜40ppm
(3)ポリエステルの極限粘度が0.580〜0.630dl/g
(4)ポリエステルの酸価が10〜25eq/ton
(5)ポリエステル中の不溶性のアルカリ土類金属がポリエステル1kg当り1mg以下
(6)フィルムのヘイズが2%以下
(7)フィルム表面の高さ0.5μm以上長さ20μm以上の核無し欠点が10個/m以下

【公開番号】特開2010−260892(P2010−260892A)
【公開日】平成22年11月18日(2010.11.18)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−110410(P2009−110410)
【出願日】平成21年4月30日(2009.4.30)
【出願人】(000003160)東洋紡績株式会社 (3,622)
【Fターム(参考)】