説明

二軸延伸ポリブチレンテレフタレートフィルム

【課題】コンバーティングフィルム、食品包装用フィルム、絞り成形用フィルムに適する特性のフィルム、すなわち異方性が少なく、機械的性質や寸法安定性に優れた二軸延伸PBTフィルムを安定して製造する。
【解決手段】4方向すべての引張破断強度が200MPa以上、引張破断伸度が50%以上150%以下である二軸延伸ポリブチレンテレフタレート(PBT)フィルムが好適である。このようなフィルムは、押出されたPBT樹脂溶融体を200℃/秒以上の極めて高い冷却速度で急冷製膜し、それを縦横それぞれ2.7〜4.0倍に同時二軸延伸することにより安定して得られる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は延伸加工の安定性、および生産性が良好で、かつ異方性が少なく、機械的性質や寸法安定性に優れた二軸
延伸ポリブチレンテレフタレート(以下、PBT)フィルムに関するものである。
【背景技術】
【0002】
PBT樹脂は、優れた機械的強度、耐熱性、耐薬品性、柔軟性、透明性、表面光沢性、耐候性、および低吸水性等の特性を有しており、従来から代表的なエンジニアリングプラスチックとして幅広い分野、用途で利用されてきた。特に、注目すべきPBT樹脂の特徴として、その他汎用プラスチックと比べて結晶化速度が著しく高い点が挙げられ、その特徴を活かして各種自動車部品や電気・電子部品等の射出成形用途でハイサイクル性を目的に、近年広く用いられている。
【0003】
一方、フィルム用途では、主に一般惣菜向けとしてキャスト成形による未延伸PBTフィルム、または飲料ボトルのシュリンクラベル向けに一軸延伸PBTフィルムが製造されているが、これらの二軸延伸でないフィルムは強度や寸法安定性に問題があるため用途が限定され、特にコンバーティングフィルムなどに用いることはできない。また、二軸延伸PBTフィルムに関しては、食品用包材向けにコンバーティングフィルムとして一般的に使用されている二軸延伸ポリエチレンテレフタレート(以下、PET)フィルムと比べると耐ピンホール性、耐衝撃性が優れており、また二軸延伸ナイロン6(以下、ONY)フィルムと比べると耐薬品性、防湿性が優れているものの、引張破断強度や寸法安定性、異方性等のフィルムの品質面で問題点があり、またPBT樹脂の特性により安定した二軸延伸が難しいことから、未だ実用化に至っていないのが現状である。
【0004】
PBT樹脂は、周知の通り、その高い結晶化速度の影響により二軸延伸が極めて困難であり、PET、ナイロン6、ポリプロピレン等の汎用プラスチックの二軸延伸技術をそのまま応用するだけでは安定製造は難しい。特に、未延伸原反製膜時の結晶化を極力抑え、その低結晶状態を維持したまま延伸を行うことがPBT樹脂を安定的に二軸延伸フィルムにする大きなポイントと言える。そのPBT樹脂の未延伸原反の製膜法、二軸延伸法、および二軸延伸フィルムの品質改善に関して、これまで種々の方法が提案されている。特許文献1、特許文献2、および特許文献3では、テンター法同時、または逐次二軸延伸法において、延伸温度、延伸倍率、延伸変形速度、延伸システム等の各種延伸条件、あるいは原反冷却速度等の未延伸原反製膜条件を工夫して延伸性、およびフィルム物性を改良する方法が提案されている。また、特許文献3、特許文献4、および特許文献5では、チューブラー法同時二軸延伸法において、結晶性が比較的低い未延伸原反の製膜法とその低結晶状態を延伸工程まで維持する方法、および延伸温度、延伸倍率等の各種延伸条件の適正化を図ることにより、PBT樹脂の二軸延伸性を向上させる方法が提案されている。さらには、同製膜、延伸技術を用いることにより、機械的強度が比較的大きく、異方性が小さい二軸延伸PBTフィルムを得ることが出来ている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開昭49−80178号公報
【特許文献2】特開昭51−146572号公報
【特許文献3】特開昭53−79969号公報
【特許文献4】特開平5−261809号公報
【特許文献5】特開平5−269843号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、テンター法二軸延伸法では得られた二軸延伸PBTフィルムは異方性が大きく、また引張破断強度、あるいは破断伸度が低すぎる場合があり、コンバーティングフィルムとして取り扱うには、印刷やラミネート、成形等の二次加工適性の点で大きな問題があった。また、特許文献3で提案された冷却ドラムを用いたキャスト方式による原反製膜法では、未延伸原反の冷却速度をある程度までしか上げられず、急冷製膜という点で十分とは言えなかった。一方、チューブラー法同時二軸延伸法である特許文献5では、異方性は少ないものの、引張破断強度が十分とは言えず、またインモールド転写用基材フィルム用途であるため基材の破断伸度が大きく、包装用フィルム、絞り成形用としては寸法安定性の点で改善の余地があった。さらには、特許文献4で提案された原反製膜法、すなわちチューブ状に押出された溶融体の外側は直接水冷、内側は間接水冷方式では、冷却速度を上げるのが困難であり、また原反の内外で結晶性に差が生じ、その結果、PBT樹脂を安定的に延伸するポイントの一つであった原反の結晶化抑制、および原反トータルの結晶均一化の点で十分では無かった。さらには、原反冷却速度の観点から、生産速度アップも限界があり、さらなるPBT未延伸原反の製膜法の改良が必要であった。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明者らは、4方向すべての引張破断強度が大きく、かつ引張破断伸度が50〜150%の範囲内であるポリブチレンテレフタレートフィルムが包装用、絞り成形用に適していること、さらに、極めて高い冷却速度で急冷製膜した未延伸原反を縦横同時二軸延伸することにより、延伸安定性、生産性が良好であるとともに、異方性が少なく、上記の条件を満たす機械的性質や寸法安定性に優れた二軸延伸ポリブチレンテレフタレートフィルムを得ることが出来ることを見い出し、本発明を完成するに至った。
【0008】
すなわち、本発明は以下の物及び手段を提供する。
[1]4方向(0°(MD)、45°、90°(TD)、135°)すべての引張破断強度が200MPa以上、引張破断伸度が50%以上150%以下であることを特徴とする二軸延伸ポリブチレンテレフタレートフィルム。
[2]4方向(0°(MD)、45°、90°(TD)、135°)の引張破断強度のうち、最大値と最小値の比が1.5以下であることを特徴とする上記[1]に記載の二軸延伸ポリブチレンテレフタレートフィルム。
[3]ポリブチレンテレフタレート樹脂を溶融押出した直後に200℃/秒以上の冷却速度で急冷製膜して得られた未延伸原反を縦横それぞれ2.7〜4.0倍同時二軸延伸することにより得られる、上記[1]または[2]に記載の二軸延伸ポリブチレンテレフタレートフィルム。
[4]前記冷却速度が250℃/秒以上であることを特徴とする上記[3]に記載の二軸延伸ポリブチレンテレフタレートフィルム。
[5]前記冷却速度が350℃/秒以上であることを特徴とする上記[3]に記載の二軸延伸ポリブチレンテレフタレートフィルム。
[6]前記未延伸原反の40℃、0.5kg/cm荷重下における伸び率が5%以上であることを特徴とする上記[3]〜[5]に記載の二軸延伸ポリブチレンテレフタレートフィルム。
[7]前記未延伸原反の40℃、0.5kg/cm荷重下における伸び率が30%以上であることを特徴とする上記[3]〜[5]に記載の二軸延伸ポリブチレンテレフタレートフィルム。
[8]前記急冷製膜が、膜状に溶融押出された直後のポリブチレンテレフタレートの両面に30℃以下の水を直接接触させることによるものである、上記[3]〜[7]に記載の二軸延伸ポリブチレンテレフタレートフィルム。
[9]下記(a)のいずれか一種または二種以上と貼り合わせて用いられることを特徴とする上記[1]〜[8]に記載の二軸延伸ポリブチレンテレフタレートフィルム。
(a)二軸延伸ナイロン6フィルム、二軸延伸ポリプロピレンフィルム、二軸延伸ポリエチレンテレフタレートフィルム、二軸延伸エチレン−ビニルアルコール系フィルム、二軸延伸ポリエチレンナフタレートフィルム、二軸延伸ポリスチレンフィルム、二軸延伸芳香族ポリアミドフィルム、二軸延伸ポリ塩化ビニリデンフィルム、二軸延伸ポリビニルアルコールフィルム、各種コートフィルム、各種蒸着フィルム、未延伸ポリエチレン系フィルム、未延伸ポリプロピレン系フィルム、未延伸ポリ塩化ビニルフィルム、エチレン−酢酸ビニルフィルム、アイオノマーフィルム、その他エチレンコポリマー系フィルム、未延伸ポリビニルアルコールフィルム、未延伸ナイロン6フィルム、アルミ箔、銅箔、ステンレス箔、紙、不織布、発泡ポリスチレン。
[10]印刷して使用されることを特徴とする上記[1]〜[9]に記載の二軸延伸ポリブチレンテレフタレートフィルム。
[11]食品包装用、絞り成形用の基材として使用されることを特徴とする上記[1]〜[10]に記載の二軸延伸ポリブチレンテレフタレートフィルム。
【発明の効果】
【0009】
本発明者らは、極めて高い冷却速度で急冷製膜したPBT未延伸原反を縦横同時二軸延伸することにより、延伸が長時間安定的となり、生産速度アップも可能となった。また、得られた二軸延伸PBTフィルムは、引張破断強度が高く、かつ破断伸度が低いという特徴を有し、さらには物性の異方性が少なく、寸法安定性にも優れていることから、包装用、絞り成形用、一般コンバーティングフィルムとして好適に用いることが可能となった。
【図面の簡単な説明】
【0010】
【図1】チューブラー同時二軸延伸装置の概略図である。
【発明を実施するための最良の形態】
【0011】
以下に、本発明を実施するための最良の形態について説明する。
(二軸延伸PBTフィルムの原料) 二軸延伸PBTフィルムに用いられる原料は、ブチレンテレフタレートを主たる繰返し単位とするポリエステルであれば特に限定されるものでは無いが、具体的にはグリコール成分としての1,4−ブタンジオール、又はそのエステル形成性誘導体と、二塩基酸成分としてのテレフタル酸、又はそのエステル形成性誘導体を主成分とし、それらを縮合して得られるホモ、またはコポリマータイプのポリエステルである。最適な機械的強度特性を付与するためには、ポリブチレンテレフタレート系樹脂のうち、融点200〜250℃、IV値1.10〜1.35dl/gの範囲のものが好ましく、さらには融点215〜225℃、IV値1.15〜1.30dl/gの範囲のものが特に好ましい。
【0012】
ここでポリブチレンテレフタレートを主体とするコポリエステルとは、二塩基酸成分としてのテレフタル酸成分の一部を、例えばイソフタル酸、フタル酸、アジピン酸、セバシン酸等の他の二塩基酸成分に置き換えたもの、及び/またはグリコール成分としての1,4−ブタンジオール成分の一部を、例えばエチレングリコール、ジエチレングリコール、プロピレングリコール、ネオペンチルグリコール、シクロヘキサンジメタノール等の他のグリコール成分に置き換えたものを縮合させたポリエステルであり、ブチレンテレフタレート単位が70%以上のものが好ましい。
【0013】
なお、本発明のポリブチレンテレフタレートには、物性に支障をきたさない範囲で、ポリエチレンテレフタレート、ポリエチレンナフタレート、ポリヘキサメチレンテレフタレート、ポリ(エチレンテレフタレート/エチレンイソフタレート)などの他のポリエステル類やポリカーボネート、ポリアミド等を混合、あるいは積層して延伸加工をしても良く、さらに必要に応じて滑剤、アンチブロッキング剤、無機増量剤、酸化防止剤、紫外線吸収剤、帯電防止剤、難燃剤、可塑剤、着色剤、結晶化抑制剤、結晶化促進剤等の添加剤を加えても差し支えない。また、PBT樹脂ペレットは加熱溶融時の加水分解による粘度低下を避けるため、加熱溶融前に水分率が0.05wt%以下、好ましくは0.02wt%以下になるように十分予備乾燥を行った上で使用するのが好ましい。
【0014】
(PBT未延伸原反の製造方法)前記の通り、PBT樹脂を安定的に二軸延伸するには、延伸前未延伸原反の結晶化を極力抑制する必要があり、押出されたPBT溶融体を冷却して製膜する際、該ポリマーの結晶化温度領域をある速度以上で冷却する、すなわち原反冷却速度が重要な因子となる。その原反冷却速度は200℃/秒以上、好ましくは250℃/秒以上、特に好ましくは350℃/秒以上であり、高い冷却速度で製膜された未延伸原反は極めて低い結晶状態を保っているため、延伸時のバブルの安定性が飛躍的に向上する。さらには高速での製膜も可能になることから、生産性も向上する。冷却速度が200℃/秒未満では、得られた未延伸原反の結晶性が高くなり延伸性が低下するばかりでなく、極端な場合には延伸バブルが破裂し、延伸が継続しない場合がある。
【0015】
原反製膜方式は、前記原反冷却速度を満たす方法であれば特に限定されるものでは無いが、急冷製膜の点では内外直接水冷式がもっとも適している。その内外直接水冷式による原反製膜法の概要を以下に説明する。まず、PBT樹脂は210〜270℃の温度に設定された押出機によって溶融混練され、Tダイ製膜の場合は、シート状の溶融樹脂を水槽に浸漬することにより内外とも直接水冷する。一方、環状製膜の場合は、押出機に下向きに取り付けられた環状ダイより下方に押し出され、溶融管状薄膜が成形される。
【0016】
次に環状ダイに連結されている冷却マンドレルに導かれ、冷却マンドレル各ノズルから導入された冷却水が溶融管状薄膜の内側に直接接触して冷却される。同時に、冷却マンドレルと組み合わせて使用される外部冷却槽からも冷却水が流され、溶融管状薄膜の外側にも冷却水が直接接触して冷却される。内部水、および外部水の温度は30℃以下が好ましく、急冷製膜の観点では20℃以下が特に好ましい。30℃より高くなると、原反の白化や冷却水の沸騰による原反外観不良等を招き、延伸も徐々に困難になる。
【0017】
上記方法により製膜された未延伸原反の40℃、0.5kg/cm荷重下における伸び率は5%以上である。延伸性の点では、同伸び率が40%以上であることが特に望ましい。伸び率が5%未満であると、延伸バブルの揺れが大きくなるだけで無く、延伸自体が困難な場合さえある。なお、0.5kg/cm荷重は、延伸開始点部分の原反に加わる延伸応力におおよそ相当する張力である。
【0018】
(二軸延伸PBTフィルムの製造方法)PBT未延伸原反は、25℃以下、好ましくは20℃以下の雰囲気温度に保ちつつ延伸ゾーンまで搬送する必要があり、当該温度管理下では滞留時間に関係無く、製膜直後の未延伸原反の結晶性を維持することが出来る。この延伸開始点までの結晶化制御は、前記未延伸原反の製膜技術とともに、PBT樹脂の二軸延伸を安定して行う上で重要なポイントと言える。
【0019】
同時二軸延伸法は、例えばチューブラー方式やテンター方式が挙げられるが、縦横の強度バランスの点で、チューブラー法が特に好ましい。図1はチューブラー法同時二軸延伸装置の概略図である。延伸ゾーンに導かれた未延伸原反1は、一対の低速ニップロール2間に挿通された後、中に空気を圧入しながら延伸用ヒーター3で加熱するとともに、延伸終了点に冷却ショルダーエアーリング4よりエアーを吹き付けることにより、チューブラー法によるMD、およびTD同時二軸延伸フィルム7を得た。延伸倍率は、延伸安定性や得られた二軸延伸PBTフィルムの強度物性、透明性、および厚み均一性を考慮すると、MD、およびTDそれぞれ2.7〜4.0倍の範囲であることが好ましい。延伸倍率が2.7倍未満である場合、得られた二軸延伸PBTフィルムの引張強度や衝撃強度が不十分となり好ましくない。また4.0倍超の場合、延伸により過度な分子鎖のひずみが発生するため、延伸加工時に破断やパンクが頻繁に発生し、安定的に生産出来ない。延伸温度は、40〜80℃の範囲が好ましく、特に好ましくは45〜65℃である。前記の高い冷却速度で製造した未延伸原反は、結晶性が低いため、比較的低温域の延伸温度で安定して延伸可能である。80℃を超える高温延伸では、延伸バブルの揺れが激しくなり、大きな延伸ムラが発生して厚み精度の良好なフィルムは得られない。一方、40℃未満の延伸温度では、低温延伸による過度な延伸配向結晶化が発生し、フィルムの白化等を招き、場合によって延伸バブルが破裂し延伸継続困難となる。このように二軸延伸加工を施すことにより、特に強度物性が飛躍的に向上し、かつ異方性が少ない二軸延伸PBTフィルムを得ることが出来る。
【0020】
得られた二軸延伸PBTフィルムを熱ロール方式またはテンター方式、あるいはそれらを組み合わせた熱処理設備に任意の時間投入し、180〜240℃、特に好ましくは190〜210℃で熱処理を行うことにより、熱寸法安定性に優れた二軸延伸PBTフィルムを得ることができる。熱処理温度が220℃よりも高い場合は、ボーイング現象が大きくなり過ぎて幅方向での異方性が増加する、または結晶化度が高くなり過ぎるため強度物性が低下してしまう。一方、熱処理温度が185℃よりも低い場合は、フィルムの熱寸法安定性が大きく低下するため、ラミネートや印刷加工時にフィルムが縮み易くなり、実用上問題が生じる。
【0021】
本発明の二軸延伸PBTフィルムの厚みは、特に制限されるものでは無いが、一般コンバーティングフィルムとして用いる場合は5〜50μm、好ましくは10〜20μmである。
【0022】
二軸延伸PBTフィルムの4方向(0°(MD)、45°、90°(TD)、135°)における引張破断強度は、いずれも200MPa以上であることが好ましく、これにより耐ピンホール性や耐衝撃性、耐突刺し性、および二次加工適性等の特性が格段に向上する。さらに、異方性を小さくするためには、4方向(0°(MD)、45°、90°(TD)、135°)の引張破断強度のうち、最大値と最小値の比が1.5以下に調整することが好ましく、特に好ましくは1.3以下である。一方、引張破断伸度は50%以上150%以下であり、好ましくは70%以上140%以下、特に好ましくは80%以上120%以下である。150%より大きい、あるいは50%より小さい場合、印刷や他基材と貼り合わせる際の張力により、フィルムの破断や伸び等が発生しやすくなるため好ましくない。このような特性をもつフィルムは、上述した製造方法により安定して得られる。
【0023】
本発明の二軸延伸PBTフィルムは、単独で用いることも可能だが、一種または二種以上の他基材と貼り合わせるコンバーティングフィルムとして用いることが出来る。代表的なものとして、二軸延伸ナイロン6フィルム、二軸延伸ポリプロピレンフィルム、二軸延伸ポリエチレンテレフタレートフィルム、二軸延伸エチレン−ビニルアルコール系フィルム、二軸延伸ポリエチレンナフタレートフィルム、二軸延伸ポリスチレンフィルム、二軸延伸芳香族ポリアミドフィルム、二軸延伸ポリ塩化ビニリデンフィルム、二軸延伸ポリビニルアルコールフィルム、各種コートフィルム、各種蒸着フィルム、未延伸ポリエチレン系フィルム、未延伸ポリプロピレン系フィルム、未延伸ポリ塩化ビニルフィルム、エチレン−酢酸ビニルフィルム、アイオノマーフィルム、その他エチレンコポリマー系フィルム、未延伸ポリビニルアルコールフィルム、未延伸ナイロン6フィルム、アルミ箔、銅箔、ステンレス箔、紙、不織布、発泡ポリスチレンが挙げられる。
【0024】
また、本発明の二軸延伸PBTフィルムは、グラビア印刷、フレキソ印刷、オフセット印刷といった既知の印刷方法により印刷を施して用いることも出来る。
【0025】
本発明の二軸延伸PBTフィルムは、特に食品包装用フィルム、リチウムイオン2次電池用、医薬PTP用等の冷間(常温)成形用フィルム、および食品等の容器成形貼り合わせ用フィルムとして好適に用いることが出来る。
【実施例】
【0026】
以下に実施例および比較例を用いて、本発明を具体的に説明する。
<実施例1> (二軸延伸PBTフィルムの製造)
140℃で5時間熱風乾燥機にて乾燥したPBT樹脂ペレット(ホモタイプ、融点=224℃、IV値=1.26dl/g)を押出機中、シリンダーおよびダイ温度210〜260℃の各条件で溶融混練して溶融管状薄膜を環状ダイより下方に押し出した。引き続き、冷却マンドレルの外径を通しカラプサロールで折り畳んだ後、引取ニップロールにより1.2m/minの速度で製膜引取りを行った。溶融管状薄膜に直接接触する冷却水の温度は内側、外側ともに20℃であり、原反冷却速度は416℃/秒であった。未延伸原反の厚みは130μm、折径は143mmであり、PBT樹脂中にはあらかじめ滑剤としてステアリン酸マグネシウムを1000ppm添加した。以上の条件で製膜した未延伸原反1を20℃の雰囲気中で低速ニップロール2まで搬送し、図1に示す構造のチューブラー同時二軸延伸装置にて縦横同時二軸延伸を行った。延伸倍率はMDが3.0倍、TDが2.8倍であり、延伸温度は60℃であった。次に、この二軸延伸フィルム7を熱ロール式、およびテンター式熱処理設備にそれぞれ投入し、210℃で熱処理を施すことにより本発明の二軸延伸PBTフィルムを得た。なお、二軸延伸PBTフィルムの厚みは15μmであった。
【0027】
(原反冷却速度の測定方法)前記原反冷却速度は下記に示した式により算出した。溶融薄膜、および原反温度は接触式の放射温度計にて測定した。また、冷却開始点は溶融薄膜が冷却水、または冷却装置に接触する部分、冷却終了点は未延伸原反の温度が30℃に到達する部分をいう。
原反冷却速度(℃/秒)=(冷却開始点直前の溶融薄膜温度−冷却終了点の原反温度)(℃)/(冷却開始点〜冷却終了点間距離)(m)×冷却開始点〜冷却終了点間の原反の通過速度(m/秒)
【0028】
(延伸バブルの安定性)延伸時のバブル安定性は、目視にて下記4段階で評価した。
◎: 延伸バブルの揺れがほとんど無く安定性に優れ、連続生産も十分可能。
○: 延伸バブルの揺れがやや見られるが、連続生産性に支障が無い。
△: 延伸バブルの揺れ大きく、長時間の連続生産は困難。
×: 短時間で延伸バブルの破裂やフィルムの破断が発生。
【0029】
(未延伸原反の40℃、0.5kg/cm荷重下における伸び率の評価方法)SIIナノテクノロジー製−EXSTAR6220を使用し、−20℃に冷却した前記製膜直後の未延伸原反を、チャック間10mm、1400mN/3mm試験巾の一定荷重下で、0〜200℃の温度範囲を10℃/分ピッチで昇温し、各温度における未延伸原反の伸び率を連続的に測定した。未延伸原反伸び率の温度カーブより求めた40℃での伸び率は43%であった。
【0030】
(二軸延伸PBTフィルムの引張破断強伸度の評価方法) 二軸延伸PBTフィルムの引張破断強伸度は、オリエンテック製―テンシロン(RTC−1210−A)を使用し、試料幅15mm、チャック間100mm、引張速度200mm/minの条件で、0℃(MD)方向/45°方向/90°(TD)方向/135°方向の4方向についてそれぞれ測定を行った。得られた応力−ひずみ曲線に基づいて求めた、各方向での引張破断強度、破断伸度、および4方向の引張破断強度のうち最大値と最小値の比を表1に示した。
【0031】
<実施例2〜6、比較例1〜3> 実施例1において、延伸倍率を表1に記載した条件に変えた以外は実施例1と同様に行った。
【0032】
<実施例7〜9、比較例4〜7> 実施例1において、未延伸原反の製膜方式、または原反冷却速度を表1に記載した条件に変えた以外は実施例1と同様に行った。
【0033】
<実施例10、比較例8> 実施例1において、未延伸原反製膜時の内部、および外部冷却水温度を表1に記載した条件に変えた以外は実施例1と同様に行った。
【0034】
表1に示すように、押出されたPBT樹脂溶融体を200℃/秒以上の極めて高い冷却速度で急冷製膜し、40℃、0.5kg/cm荷重下における伸び率が5%以上の未延伸原反をチューブラー法で縦横同時二軸延伸することにより、延伸バブルの揺れがほとんど無く安定性に優れ、連続運転も十分可能なレベルに生産性が向上した。また、得られた二軸延伸PBTフィルムは、異方性が少なく、かつ引張破断強度が高く、引張破断伸度が低いという特徴を有していることが分かった。
【0035】
【表1】

【産業上の利用可能性】
【0036】
本発明の二軸延伸PBTフィルムが利用される分野、および用途としては、異方性が少なく、機械的性質や寸法安定性が良好で、一種または二種以上の他基材とラミネート、あるいは印刷等の二次加工適性に優れていることから、乾燥食品、水物食品、保香食品、レトルト食品等の一般食品包装用コンバーティングフィルムとして利用可能である。また、引張強度等の機械的強度が高く、張出し成形、または深絞り成形などの冷間(常温)成形性にも優れており、かつ防湿性、耐酸性が良好なため、水分や酸素の侵入を極度に嫌う電解液を使用したリチウムイオン二次電池の電池ケース用外装材の主要基材、およびそれ以外の一次電池、二次電池などにおいても使用可能である。さらには弁当容器、トレー、丼容器他、多様な形状の容器向けに深絞りが可能な熱成形用包材の主要基材としても好適に用いることが出来る。
【符号の説明】
【0037】
1 未延伸原反
2 低速ニップロール
3 延伸用ヒーター
4 冷却ショルダーエアーリング
5 カラプサロール
6 高速ニップロール
7 二軸延伸フィルム


【特許請求の範囲】
【請求項1】
4方向(0°(MD)、45°、90°(TD)、135°)すべての引張破断強度が200MPa以上、引張破断伸度が50%以上150%以下であることを特徴とする二軸延伸ポリブチレンテレフタレートフィルム。
【請求項2】
4方向(0°(MD)、45°、90°(TD)、135°)の引張破断強度のうち、最大値と最小値の比が1.5以下であることを特徴とする請求項1に記載の二軸延伸ポリブチレンテレフタレートフィルム。
【請求項3】
ポリブチレンテレフタレート樹脂を溶融押出した直後に200℃/秒以上の冷却速度で急冷製膜して得られた未延伸原反を縦横それぞれ2.7〜4.0倍同時二軸延伸することにより得られる、請求項1または2に記載の二軸延伸ポリブチレンテレフタレートフィルム。
【請求項4】
前記冷却速度が250℃/秒以上であることを特徴とする請求項3に記載の二軸延伸ポリブチレンテレフタレートフィルム。
【請求項5】
前記冷却速度が350℃/秒以上であることを特徴とする請求項3に記載の二軸延伸ポリブチレンテレフタレートフィルム。
【請求項6】
前記未延伸原反の40℃、0.5kg/cm荷重下における伸び率が5%以上であることを特徴とする請求項3〜5のいずれか一項に記載の二軸延伸ポリブチレンテレフタレートフィルム。
【請求項7】
前記未延伸原反の40℃、0.5kg/cm荷重下における伸び率が30%以上であることを特徴とする請求項3〜5のいずれか一項に記載の二軸延伸ポリブチレンテレフタレートフィルム。
【請求項8】
前記急冷製膜が、膜状に溶融押出された直後のポリブチレンテレフタレートの両面に30℃以下の水を直接接触させることによるものである、請求項3〜7のいずれか一項に記載の二軸延伸ポリブチレンテレフタレートフィルム。
【請求項9】
下記(a)のいずれか一種または二種以上と貼り合わせて用いられることを特徴とする請求項1〜8のいずれか一項に記載の二軸延伸ポリブチレンテレフタレートフィルム。
(a)二軸延伸ナイロン6フィルム、二軸延伸ポリプロピレンフィルム、二軸延伸ポリエチレンテレフタレートフィルム、二軸延伸エチレン−ビニルアルコール系フィルム、二軸延伸ポリエチレンナフタレートフィルム、二軸延伸ポリスチレンフィルム、二軸延伸芳香族ポリアミドフィルム、二軸延伸ポリ塩化ビニリデンフィルム、二軸延伸ポリビニルアルコールフィルム、各種コートフィルム、各種蒸着フィルム、未延伸ポリエチレン系フィルム、未延伸ポリプロピレン系フィルム、未延伸ポリ塩化ビニルフィルム、エチレン−酢酸ビニルフィルム、アイオノマーフィルム、その他エチレンコポリマー系フィルム、未延伸ポリビニルアルコールフィルム、未延伸ナイロン6フィルム、アルミ箔、銅箔、ステンレス箔、紙、不織布、発泡ポリスチレン。
【請求項10】
印刷して使用されることを特徴とする請求項1〜9のいずれか一項に記載の二軸延伸ポリブチレンテレフタレートフィルム。
【請求項11】
食品包装用、絞り成形用の基材として使用されることを特徴とする請求項1〜10のいずれか一項に記載の二軸延伸ポリブチレンテレフタレートフィルム。


【図1】
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【公開番号】特開2012−121241(P2012−121241A)
【公開日】平成24年6月28日(2012.6.28)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−274362(P2010−274362)
【出願日】平成22年12月9日(2010.12.9)
【出願人】(000142252)株式会社興人 (182)
【Fターム(参考)】