説明

二軸配向フィルム

【課題】磁性層を塗布した後の乾燥工程のような高温で張力が加わる加工を行なうとき、フィルムが伸びやすくしわなどが入るといった問題の解消された二軸配向フィルムの提供。
【解決手段】(a)少なくともひとつのフィルム層が、(i)ジカルボン酸成分が5モル%以上50モル%未満の6,6’−(アルキレンジオキシ)ジ−2−ナフトエ酸成分および50モル%を超え95モル%以下の6,6’−(アルキレンジオキシ)ジ−2−ナフトエ酸以外の芳香族ジカルボン酸成分を含有し、(ii)ジオール成分が90〜100モル%のアルキレングリコール成分を含有する芳香族ジカルボン酸成分およびジオール成分とのポリエステルからなり、(b)示差走査型熱量計(DSC)での測定において、110〜140℃の温度範囲に0.5J/g以上の熱量の吸熱ピークを持つことを特徴とする二軸配向フィルム。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、新規なポリエステル組成物を用いた二軸配向フィルムに関する。
【背景技術】
【0002】
ポリエステルフィルムは優れた熱的および機械的特性を有することから、磁気記録媒体用、電気絶縁用など広い分野で用いられている。近年、磁気記録媒体、特にデータストレージテープにおいては高容量化、高密度化がかなり進み、それに伴ってベースフィルムへの特性要求もより厳しいものとなっている。
【0003】
テープの高容量化を確保するためにテープ厚みを薄くし、テープ長を長くしたり、磁性面を平坦にし、線記録密度を上げたり、またトラック本数を増やすことが考えられ、より平坦で、より強度の高い、しかも幅寸法安定性に優れたベースフィルムが要求されている。
【0004】
従来、磁気テープ用ベースフィルムとして、ポリエチレンテレフタレートフィルムが広く用いられているが、最近、強度、寸法安定性に優れたポリエチレン−2,6−ナフタレンジカルボキシレートフィルムが多く用いられるようになってきた。しかしながら、縦方向の強度を上げようとすると、横方向の強度が低くなって幅方向の寸法安定性が悪化し、また横方向の寸法安定性を良くしようと横方向の強度を上げると、縦方向の強度が下がるなど、縦方向および横方向ともに有用な高ヤング率を維持しつつ、優れた寸法安定性をも兼備させた二軸配向ポリエチレン−2,6−ナフタレンジカルボキシレートフィルムはいまだ提供されていないのが現状である。
【0005】
一方で、ポリエステルに異なるポリマーを配合して、磁気記録媒体用フィルムとして強度、耐熱性などの改善を図った例としては、ポリエチレンテレフタレートとポリエーテルイミドからなるポリエステルフィルムの例がある。上記のような異なるポリマーを配合したポリエステルフィルムにおいては、樹脂同士の相溶性の観点から延伸後においても均質なフィルムが得られ難く、非常に平坦な表面を得ることが難しい。特許文献1では、ポリエチレンテレフタレートとポリエーテルイミドからなるポリエステルフィルムにおいて、延伸方法を複数回に分けて、延伸することで表面性の平坦化を図っているが、近年の高密度化された磁気記録媒体のベースフィルムとしては、不十分であった。
【0006】
また、特許文献2〜6には6,6’−(エチレンジオキシ)ジ−2−ナフトエ酸を主とする酸成分と、ジオール成分とのエステル単位からなるポリエステルが提案されている。該文献には、結晶性で、融点が294℃のポリエステルが開示されている。
【0007】
しかしながら、これらの文献に開示されたポリエステルは、融点が非常に高く、また結晶性も非常に高く、フィルムなどに成形しようとすると、溶融状態での流動性が乏しく、押出しが不均一化したり、押出した後に延伸しようとしても結晶化が進んで高倍率で延伸すると破断したりするなどの問題があった。
【0008】
【特許文献1】特開2001−319323号公報
【特許文献2】特開昭60−135428号公報
【特許文献3】特開昭60−221420号公報
【特許文献4】特開昭61−145724号公報
【特許文献5】特開平6−145323号公報
【特許文献6】WO2008/10607号パンフレット
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
本発明者らは、まず温度膨張係数(αt)および湿度膨張係数(αh)が低いフィルムを提供することを鋭意検討した結果、テレフタル酸、ナフタレンジカルボン酸などをジカルボン酸成分とするポリエステルに、5〜50モル%の範囲で6,6’−(アルキレンジオキシ)ジ−2−ナフトエ酸(ANA)を共重合させたポリエステルは、製膜性に優れることからヤング率を高くしてαtを小さくでき、しかも非常に低い湿度膨張係数を示すフィルムが得られることを見出した。しかしながら、さらに研究を進めていくと、上記の二軸配向フィルムには、該ポリエステルの共重合成分の相溶性に起因すると思われる10μm程度の周期のうねりのような凹凸が形成される問題が潜在していた。
【0010】
したがって、本発明の課題は、湿度膨張係数が小さくて環境変化に対する優れた寸法安定性を有し、しかも長周期のうねりのような凹凸も抑制された二軸配向フィルムを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0011】
そこで、本発明者らは上記凹凸も解消しようと鋭意研究したところ、二軸配向フィルムに、その二次元広角X線回折測定したときのedge viewから得られるフィルム厚み方向の結晶配向度を85%以上、thru viewから得られるフィルム面内の配向軸に対して結晶配向度を70%以下に制御することでうねりを抑制できることを見出し、本発明に到達した。
【0012】
かくして本発明によれば、(i)ジカルボン酸成分の5モル%以上50モル%未満が下記式(A)および50モル%を超え95モル%以下が下記式(B)で表される繰り返し単位で、(ii)ジオール成分の90〜100モル%が下記式(C)で表される繰り返し単位であるポリエステルからなり、二次元広角X線回折測定で得られるフィルム厚み方向の結晶配向度が85%以上、フィルム面内の配向軸に対して結晶配向度が70%以下である二軸配向フィルムが提供される。
【0013】
【化1】

(式(A)中、Rは炭素数2〜10のアルキレン基、式(B)中、Rはフェニレン基またはナフタレンジイル基、式(C)中、Rは炭素数2〜10のアルキレン基である。)
【0014】
また、本発明によれば、本発明の二軸配向フィルムの好ましい態様として、厚みが3〜10μmの範囲にあることおよび磁気記録媒体のベースフィルムに用いることの少なくともいずれか一つを具備する二軸配向フィルムも提供される。
【発明の効果】
【0015】
本発明の二軸配向フィルムは、湿度膨張係数(αh)が低く、環境変化などに対する優れた寸法安定性を有しながらも、長周期でのうねりも解消されており、磁気記録媒体のベースフィルムなどに好適に用いることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0016】
まず、本発明について説明する前に、二軸配向フィルムの面方向とはフィルムの厚みに直交する面の方向であり、フィルムの製膜方向(縦方向)をMachine Direction(MD方向)、フィルムの幅方向(横方向)とはフィルムの製膜方向(MD方向)に直交する方向であり、Transverse Direction(TD方向)という。
本発明におけるポリエステルは、後述のジカルボン酸成分およびジオール成分を含有する。
【0017】
〔ジカルボン酸成分〕
ジカルボン酸成分は、5モル%以上50モル%未満の前記式(A)および50モル%を超え95モル%以下の前記式(B)で表される繰り返し単位を含有する。
式(A)中、Rは炭素数2〜10のアルキレン基である。アルキレン基としてエチレン基、トリメチレン基、テトラメチレン基、ヘキサメチレン基、オクタメチレン基等が挙げられる。
【0018】
式(A)で表される繰り返し単位の含有量の上限は、50モル%(上限は含まず)、好ましくは45モル%、より好ましくは40モル%、さらに好ましくは35モル%、特に好ましくは30モル%である。下限は、好ましくは5モル%、より好ましくは7モル%、さらに好ましくは10モル%、特に好ましくは15モル%である。従って、式(A)で表される繰り返し単位の含有量は、好ましくは5〜45モル%、より好ましくは7〜40モル%、さらに好ましくは10〜35モル%、特に好ましくは15〜30モル%である。
【0019】
式(A)で表される繰り返し単位は、好ましくは6,6’−(エチレンジオキシ)ジ−2−ナフトエ酸、6,6’−(トリメチレンジオキシ)ジ−2−ナフトエ酸および6,6’−(ブチレンジオキシ)ジ−2−ナフトエ酸由来の単位が好ましい。これらの中でも式(A)におけるRの炭素数が偶数のものが好ましく、特に6,6’−(エチレンジオキシ)ジ−2−ナフトエ酸由来の単位が湿度膨張係数を抑えつつ機械的特性を高度に維持しやすいことから好ましい。
【0020】
本発明の特徴の一つは、ジカルボン酸成分が5モル%以上50モル%未満の式(A)で示される単位を含有することである。式(A)で示される単位の割合が下限未満では共重合による湿度膨張係数(αh)の低減効果などが発現し難い。また上限よりも少なくすることで製膜性に優れ、温度膨張係数(αt)なども小さくしやすいという利点がある。また、式(A)で示される単位による湿度膨張係数(αh)の低減効果は、少量で非常に効率的に発現され、式(A)で表される繰り返し単位を上記範囲で含有するポリエステルを用いることで、温度膨張係数(αt)と湿度膨張係数(αh)の両方をともに低いフィルムを製造することができる。
【0021】
つぎに、式(B)中、Rはフェニレン基またはナフタレンジイル基である。式(B)で表される繰り返し単位として、テレフタル酸、イソフタル酸、2,6−ナフタレンジカルボン酸、2,7−ナフタレンジカルボン酸に由来する単位、またはこれらの組み合わせが挙げられる。これらの中でも、テレフタル酸と2,6−ナフタレンジカルボン酸が好ましく、特に2,6−ナフタレンジカルボン酸が好ましい。
【0022】
〔ジオール成分〕
ジオール成分は、90〜100モル%の前記式(C)で表される繰り返し単位を含有する。式(C)で表される繰り返し単位の含有量は、好ましくは95〜100モル%、より好ましくは98〜100モル%である。
【0023】
式(C)中、Rは炭素数2〜10のアルキレン基である。Rのアルキレン基として、エチレン基、プロピレン基、イソプロピレン基、トリメチレン基、テトラメチレン基、ヘキサメチレン基、オクタメチレン基等が挙げられる。これらの中でも式(C)で表されるジオール成分として、エチレングリコール、トリメチレングリコール、テトラメチレングリコール、シクロヘキサンジメタノール等に由来する単位が好ましく挙げられ、これらの中でも特にエチレングリコールが好ましい。
【0024】
〔ポリエステル〕
本発明におけるポリエステルは、式(A)で表される繰り返し単位と、式(C)で表される繰り返し単位で構成されるエステル単位(−(A)−(C)−)の含有量は、全繰り返し単位の好ましくは5モル%以上50モル%未満、より好ましくは5〜45モル%、さらに好ましくは7〜40モル%、よりさらに好ましくは10〜35モル%、最も好ましくは15〜30モル%である。
【0025】
また、式(B)で表される繰り返し単位と、式(C)で表される繰り返し単位で構成されるエステル単位(−(B)−(C)−)としては、エチレンテレフタレート、トリメチレンテレフタレート、ブチレンテレフタレートなどのアルキレンテレフタレート単位、エチレン−2,6−ナフタレンジカルボキシレート、トリメチレン−2,6−ナフタレンジカルボキシレート、ブチレン−2,6−ナフタレンジカルボキシレートなどのアルキレン−2,6−ナフタレンジカルボキシレート単位が好ましく挙げられる。これらの中でも機械的特性などの点からエチレンテレフタレート単位やエチレン−2,6−ナフタレンジカルボキシレート単位が好ましく、特にエチレン−2,6−ナフタレンジカルボキシレート単位が好ましい。
【0026】
ところで、本発明におけるポリエステルは、6,6’−(アルキレンジオキシ)ジ−2−ナフトエ酸成分を有する繰り返し単位と6,6’−(アルキレンジオキシ)ジ−2−ナフトエ酸成分を有しない繰り返し単位とが隣接する割合を抑制することで、より高温加工時の伸びを抑制できる。
【0027】
具体的には、前記エステル単位(−(A)−(C)−)で示される繰り返し単位(D)と前記エステル単位(−(B)−(C)−)で示される繰り返し単位(E)とからなり、繰り返し単位(D)と(E)とが隣り合う割合(CD−E)が、下記式(1)
(CD−E)/2(C)*(C)<0.90 (1)
(上記式(1)中の、(C)は繰り返し単位(D)と(E)の合計モル数を基準としたときの繰り返し単位(D)の割合、(C)は繰り返し単位(D)と(E)の合計モル数を基準としたときの繰り返し単位(E)の割合、(CD−E)は繰り返し単位(D)と(E)、(E)と(E)および(D)と(D)が隣り合う合計のモル数を基準としたときの、繰り返し単位(D)と(E)とが隣り合う割合を意味する。)を満足するポリエステルであることが好ましい。
【0028】
ここで、前述の式(1)における分母は、確率的に繰り返し単位(D)と(E)が隣り合う割合である。したがって、繰り返し単位(D)と(E)を構成する芳香族ジカルボン酸成分とグリコール成分とを一緒にエステル化反応またはエステル交換反応させてから重縮合反応させると、ほぼこの値近くになる。そして、前述の式(1)の範囲にするということは、繰り返し単位(D)と(E)とが隣り合って結合する割合を少なくし、繰り返し単位(D)同士が隣り合う割合(CD−D)や繰り返し単位(E)同士が隣り合う割合(CE−E)を多くすることを意味する。そして、前述の式(1)の値を上限以下にすることで、前述の温度膨張係数や湿度膨張係数などの環境変化に対する寸法安定性の向上効果を損なうことなく、加工時に受けるような高温下で張力がかかったときの伸びをより抑制しやすくなる。このようなポリエステルは、単純に繰り返し単位(D)と(E)を構成する芳香族ジカルボン酸成分とグリコール成分とを一緒にエステル化反応またはエステル交換反応および重縮合反応させるのではなく、例えば繰り返し単位(E)を主たる繰り返し単位とするポリエステル樹脂Eと、繰り返し単位(D)を主たる繰り返し単位とするポリエステル樹脂Eとを用意し、それらを溶融混練させることなどで製造できる。もちろん、溶融混練で完全にエステル交換が進行してしまうと、前述の確率的に計算される割合に近づくため、溶融混練を比較的低温で短時間にすることが好ましい。なお、前述の式(1)で示される比の下限は特に制限されないが、少なくとも2つ以上のポリエステル樹脂を溶融混練するときにエステル交換反応が進むことから、通常0.4以上になりやすく、ポリエステル樹脂Aとポリエステル樹脂Bとを緊密に混練しようとすると0.6以上になりやすい。
【0029】
一方、表面粗さにおける長周期のうねりをより小さくする観点からは、共重合成分の相分離を抑えやすい、前述の(CD−E)/2(C)*(C)が0.9以上であるものが好ましい。
【0030】
本発明におけるポリエステルは、P−クロロフェノール/1,1,2,2−テトラクロロエタン(重量比40/60)の混合溶媒を用いて35℃で測定した固有粘度が0.4〜3、好ましくは0.4〜1.5dl/g、さらに好ましくは0.5〜1.2dl/gである。
【0031】
本発明におけるポリエステルの融点は、200〜260℃の範囲、好ましくは205〜257℃の範囲、より好ましくは210〜255℃の範囲である。融点はDSCで測定する。融点が上限を越えると、溶融押出して成形する際に、流動性が劣り、吐出などが不均一化しやすくなる。一方、下限未満になると、製膜性は優れるものの、ポリエステルの持つ機械的特性などが損なわれやすくなる。
【0032】
一般的に共重合体は単独重合体に比べ融点が低く、機械的強度が低下する傾向にある。しかし、本発明におけるポリエステルは、式(A)の単位および式(B)の単位を含有する共重合体であり、式(A)の単位を有する単独重合体に比べ、融点が低いが機械的強度は同じ程度であるという優れた特性を有する。
【0033】
本発明におけるポリエステルのDSCで測定したガラス転移温度(以下、Tgと称することがある。)は、好ましくは80〜125℃、より好ましくは95〜123℃、さらに好ましくは110〜120℃の範囲にある。Tgがこの範囲にあると、耐熱性および寸法安定性に優れたフィルムが得られる。融点やガラス転移温度は、共重合成分の種類と共重合量、そして副生物であるジアルキレングリコールの制御などによって調整できる。
【0034】
本発明におけるポリエステルは、本発明の効果を阻害しない範囲で、それ自体公知の他の共重合成分を共重合しても良い。
もちろん、上述のポリエステルは、フィルムにしたときの走行性や巻取り性などの観点から、それ自体公知の滑剤、例えば不活性粒子などを含有した組成物としてもよい。また、本発明におけるポリエステルの組成物は、本発明の効果を阻害しない範囲で、他の熱可塑性ポリマー、紫外線吸収剤等の安定剤、酸化防止剤、可塑剤、滑剤、難燃剤、離型剤、顔料、核剤、充填剤あるいはガラス繊維、炭素繊維、層状ケイ酸塩などを必要に応じて配合した組成物としても良い。他種熱可塑性ポリマーとしては、液晶性樹脂、脂肪族ポリエステル系樹脂、ポリアミド系樹脂、ポリカーボネート、ABS樹脂、ポリメチルメタクリレート、ポリアミド系エラストマー、ポリエステル系エラストマー、ポリエーテルイミド、ポリイミドなどが挙げられる。
【0035】
[二軸配向フィルム]
本発明の二軸配向フィルムは、前述のポリエステルを含有する、2軸に配向したフィルムである。2層以上のフィルム層を有する積層フィルムの場合は、これを構成する少なくとも表面側に位置する1層が本発明の二軸配向フィルムからなる層であればよい。
本発明の二軸配向フィルムは、前述のポリエステル組成物を溶融状態で、シート状に押出して延伸することで得られる。そして、前述のポリエステルは、溶融時の流動性、その後の結晶性、製膜性に優れ、厚み斑の均一なフィルムとなる。さらに本発明の二軸配向フィルムは、式(B)の繰り返し単位を含有するポリエステルの持つ、優れた機械的特性をも有する。
【0036】
[温度膨張係数:αt]
本発明の二軸配向フィルムは、フィルムの幅方向の温度膨張係数(αt)が、好ましくは14×10−6/℃以下、より好ましくは10×10−6/℃以下、さらに好ましくは7×10−6/℃以下、特に好ましくは5×10−6/℃以下の範囲であることが、雰囲気の温度が変化したときの寸法変化が小さい、すなわち優れた寸法安定性を発現できることから好ましい。
【0037】
本発明における二軸配向フィルムの幅方向の温度膨張係数(αt)の下限は、好ましくは−15×10−6/℃、より好ましくは−10×10−6/℃、さらに好ましくは−7×10−6/℃である。フィルムの幅方向の温度膨張係数が上記範囲であることで、磁気テープにしたときの寸法変化を抑制しやすくなる。
なお、特許文献4によれば、ポリアルキレン−6,6’−(アルキレンジオキシ)ジ−2−ナフトエートを共重合したポリエステルフィルムの温度膨張係数(αt)は大きくなることが予想される。しかし、本発明によれば、特定の共重合比のポリエステルを採用し、かつ延伸することにより、温度膨張係数(αt)を小さくすることができる。
【0038】
[湿度膨張係数:αh]
本発明の二軸配向フィルムは、フィルムの幅方向の湿度膨張係数(αh)が1×10−6〜7×10−6/%RH、さらに1×10−6〜6×10−6/%RHの範囲にあることが好ましい。αhがこの範囲にあると、磁気記録テープにしたときの寸法安定性が良好となる。
【0039】
[ヤング率:Y]
本発明の二軸配向フィルムは、フィルムの製膜方向のヤング率が、好ましくは4.5GPa以上、より好ましくは5GPa以上であることが好ましい。上記下限以上であることで、磁気テープなどに加工するときや加工後、製膜方向に張力がかかっても伸びにくく、シワなどの発生や幅方向の寸法変化が抑制できる。フィルムの製膜方向のヤング率(Y)の上限は12GPa程度がフィルムの幅方向にも十分なヤング率を具備させやすいことから好ましい。
一方、本発明の二軸配向フィルムは、フィルムの幅方向のヤング率が、6〜14GPa、より好ましくは7〜12GPaの範囲にあることが、フィルムの幅方向の温度膨張係数や湿度膨張係数を上記範囲内に調整しやすいことから好ましい。
【0040】
[うねり値]
本発明におけるうねり値とは、非接触式三次元表面粗さ計(ZYGO社製:New View5022)を用いて測定倍率10倍、測定面積283μm×213μm(=0.06mm)の条件にて二軸配向フィルムの表面を測定し、該粗さ計に内蔵された表面解析ソフトMetro Proにより周波数解析を実施したときの、波長10μmにおける最大振幅を意味する。
この値は、0.40nm以下であることが好ましく、さらに0.30nm以下であることが好ましい。上記うねり値が上記の範囲にあることで本発明の二軸配向フィルムを磁気記録テープとしたとき、得られる磁気記録テープに優れた電磁変換特性を付与しやすい。
【0041】
<二軸配向フィルムの製造方法>
(ポリエステルの製造工程)
本発明におけるポリエステルは、それ自体公知の方法で製造でき、例えば、6,6’−(アルキレンジオキシ)ジ−2−ナフトエ酸およびナフタレンジカルボン酸、テレフタル酸もしくはそのエステル形成性誘導体を含有するジカルボン酸成分と、エチレングリコール等のジオール成分とをエステル化反応またはエステル交換反応させポリエステル前駆体を製造する。そして、得られたポリエステル前駆体を重合触媒の存在下で重合することで製造できる。もちろん、必要に応じて固相重合などを施しても良い。また、前述の通り、組成の異なるポリエステルを用意し、それらを混合して所望のポリエステルとしても良い。
【0042】
(押出工程)
まず、前述のポリエステルを乾燥後、該ポリエステルの融点(Tm:℃)ないし(Tm+50)℃の温度に加熱された押出機に供給して溶融し、例えばTダイなどのダイよりシート状に押出す工程である。
【0043】
(冷却工程)
この押出されたシート状物を回転している冷却ドラムなどで急冷固化して未延伸フィルムとする工程である。
前述のαt、αh、ヤング率などを達成するためには、その後の延伸を進行させやすくすることが必要であり、そのような観点から冷却ドラムによる冷却は非常に速やかに行なうことが好ましい。そのような観点から、特許文献4に記載されるような80℃といった高温ではなく、20〜60℃という低温で行なうことが好ましい。このような低温で行なうことで、未延伸フィルムの状態での結晶化が抑制され、その後の延伸をよりスムーズに行なうことが可能となる。
【0044】
(延伸工程)
得られた未延伸フィルムを二軸延伸する工程である。二軸延伸としては、逐次二軸延伸でも同時二軸延伸でもよい。
逐次二軸延伸の場合には、最初の縦延伸は、芳香族ポリエステルのガラス転移温度(Tg)+10℃〜Tg+30℃の範囲で延伸することが好ましい。縦延伸温度が(Tg+10℃)よりも低いと配向結晶化が進み、横延伸工程において結晶成分と非晶成分と分離が進み表面にうねりが形成されやすい。一方、縦延伸温度が(Tg+30℃)よりも高いと、熱結晶化が進み製膜工程が不安定化しやすくなり、さらには得られるフィルムの物性が不均一になることがある。なお、縦延伸における延伸倍率は4.0倍以上であることが好ましく、上限は製膜安定性の観点から8.0倍程度が好ましい。
【0045】
次いで、横方向の延伸については、通常テンター延伸にて実施されることが好ましい。テンターでの横延伸においては、テンター内でフィルムが十分にかつ均一に加熱された状態になることが好ましく、あらかじめTg近くの温度にまで予備加熱を実施することが好ましい。具体的には、Tg+10℃〜Tg+30℃の範囲で1〜20秒間予備加熱を行うことが好ましい。このようにして適度に1軸フィルムを結晶化させたのちに横延伸することで、延伸時に十分な応力が確保でき、非常に均質なフィルムを得ることができる。予備加熱温度が(Tg+10℃)よりも低い、または加熱時間1秒以下であると配向結晶化が進み、横延伸工程において結晶成分と非晶成分と分離が進み表面にうねりが形成される。
【0046】
さらに、横延伸工程では、得られる二軸配向フィルムに、低い湿度膨張係数および機械強度を効率よく発現させる観点から、2段階に分けて延伸することが好ましい。1段階目の横延伸では、延伸速度50%/秒−500%/秒程度の範囲で延伸することが好ましい。1段階目の横延伸温度については、Tg+10℃〜Tg+30℃、さらにTg+17℃〜Tg+27℃の範囲で延伸することが好ましい。1段階目の横延伸温度がTg+10℃よりも低いと延伸時に結晶成分と非晶成分と分離が進み表面にうねりが形成されやすい。一方、1段階目の横延伸温度が(Tg+30℃)よりも高いと熱結晶化が進み製膜が不安定化したり、得られるフィルムの物性が不均一になることがある。1段階目の横延伸倍率は、延伸応力が十分に確保される6.0倍以上であることが好ましい。上限は製膜安定性の観点から12.0倍程度である。
【0047】
つぎに、2段階目の横延伸では、延伸速度を1段階目の延伸速度の1/3〜1/10の範囲で延伸することが好ましい。2段階目の延伸温度については、Tg+30℃〜Tg+60℃の範囲で延伸することが好ましい。また、横延伸倍率は、1.1〜1.5倍の範囲であることが好ましい。2段階目の横延伸温度および横延伸倍率が上記の範囲を外れると低い湿度膨張係数および機械強度を効率よく発現することが難しくなる。さらに熱寸法安定性の確保のため、ポリエステルの融点(Tm)−10℃から(Tm−50℃)の範囲で1〜20秒間熱固定することが好ましい。
【0048】
また、同時二軸延伸を用いる場合は、前述の逐次二軸延伸で説明したことを同様に用いればよく、特にポリエステルのTg+10℃〜Tg+30℃の範囲の範囲で延伸することが好ましい。延伸温度が下限未満では、延伸時に結晶成分と非晶成分と分離が進み表面にうねりが形成されやすい。他方、縦延伸温度が上限よりも高いと熱結晶化が進み、製膜が不安定化しやすく、また得られるフィルムの物性が不均一になりやすい。延伸倍率においては、縦方向および横方向ともに4.0倍以上であることが好ましい。上限は製膜安定性の観点から縦方向および横方向ともに、特に10.0倍以下であることが好ましい。なお、同時二軸延伸においても、逐次二軸延伸と同様にTm−10℃からTm−50℃の範囲で1〜20秒間熱固定することが好ましい。
【0049】
本発明における二軸配向ポリエステルフィルムは、6,6’−(アルキレンジオキシ)ジ−2−ナフトエ酸成分が共重合されていることから極めて延伸性に富む反面、同じ延伸倍率ではヤング率が低くなる傾向があり、目的とするヤング率を得るにはより高めの延伸倍率で延伸することが必要である。通常であれば、延伸倍率を上げると製膜安定性が損なわれるが、本発明では6,6’−(アルキレンジオキシ)ジ−2−ナフトエ酸成分が共重合されているので延伸性が非常に高く、そのような問題は無い。
【0050】
また、本発明における二軸配向ポリエステルフィルムが積層フィルムの場合、2種以上の溶融ポリエステルをダイ内で積層してからフィルム状に押出すことができる。また2種以上の溶融ポリエステルをダイから押出した後に積層し、急冷固化して積層未延伸フィルムとすることもできる。押し出し温度は、好ましくはそれぞれのポリエステルの融点(Tm:℃)ないし(Tm+70)℃の温度である。
ついで前述の単層フィルムの場合と同様な方法で二軸延伸および熱処理を行なうとよい。また、塗布層を設ける場合、未延伸フィルムまたは一軸延伸フィルムの片面または両面に所望の塗布液を塗布し、後は前述の単層フィルムの場合と同様な方法で二軸延伸および熱処理を行なうことが好ましい。
【実施例】
【0051】
以下に実施例および比較例を挙げ、本発明をより具体的に説明する。なお、本発明では、以下の方法により、その特性を測定および評価した。
【0052】
(1)固有粘度
得られたポリエステルの固有粘度はP−クロロフェノール/1,1,2,2−テトラクロロエタン(40/60重量比)の混合溶媒を用いてポリマーを溶解して35℃で測定して求めた。
【0053】
(2)ガラス転移点および融点
ガラス転移点および融点はDSC(TAインスツルメンツ社製、商品名:Q100)により昇温速度20℃/minで測定した。
【0054】
(3)共重合量
(グリコール成分)試料10mgをp−クロロフェノール:1,1,2,2−テトラクロロエタン=3:1(容積比)混合溶液0.5mlに80℃で溶解し、イソプロピルアミンを加えて十分に混合した後に、600MHzのH−NMRを日本電子株式会社製、JEOL A600を用いて80℃で測定し、それぞれのグリコール成分量を求めた。
(酸成分)試料60mgをp−クロロフェノール:1,1,2,2−テトラクロロエタン=3:1(容積比)混合溶液0.5mlに140℃で溶解し、150MHzの13C−NMRを日本電子株式会社製、JEOL A600を用いて140℃で測定し、それぞれの酸成分量を求めた。
【0055】
(4)ヤング率
得られたフィルムを試料巾10mm、長さ15cmで切り取り、チャック間100mm、引張速度10mm/分、チャート速度500mm/分の条件で万能引張試験装置(東洋ボールドウィン製、商品名:テンシロン)にて引っ張り、得られた荷重―伸び曲線の立ち上がり部の接線よりヤング率を計算した。
【0056】
(5)温度膨張係数(αt)
得られたフィルムを、フィルムの幅方向が測定方向となるように幅4mmに切り出し、セイコーインスツル株式会社製、商品名TMA/SS6000に測定長20mmでセットし、窒素雰囲気下(0%RH)、80℃で30分前処理し、その後室温まで降温させた。その後30℃から80℃まで2℃/minで昇温して、各温度でのサンプル長を測定し、次式より温度膨張係数(αt)を算出した。なお、測定方向が切り出した試料の長手方向であり、5回測定し、その平均値を用いた。
αt={(L60−L40)}/(L40×△T)}+0.5×10−6
ここで、上記式中のL40は40℃のときのサンプル長(mm)、L60は60℃のときのサンプル長(mm)、△Tは20(=60−40)℃、0.5×10−6(/℃)は石英ガラスの温度膨張係数(αt)である。
【0057】
(6)湿度膨張係数(αh)
得られたフィルムを、フィルムの幅方向が測定方向となるように幅5mmに切り出し、ブルカー・エイエックスエス株式会社製、商品名TMA4000SAに測定長15mmでセットし、30℃の窒素雰囲気下で、湿度20%RHと湿度80%RHにおけるそれぞれのサンプルの長さを測定し、次式にて湿度膨張係数(αh)を算出した。なお、測定方向が切り出した試料の長手方向であり、5回測定し、その平均値をαhとした。
αh=(L80−L20)/(L20×△H)
ここで、上記式中のL20は20%RHのときのサンプル長(mm)、L80は80%RHのときのサンプル長(mm)、△H:60(=80−20)%RHである。
【0058】
(7)うねり値の測定
得られた二軸配向フィルムを、非接触式三次元表面粗さ計(ZYGO社製:New View5022)を用いて測定倍率10倍、測定面積283μm×213μm(=0.06mm)の条件にて測定し、表面平均粗さ(Ra)を求めた。そして、該粗さ計に内蔵された表面解析ソフトMetro Proにより周波数解析を実施し、周波数10μmの最大振幅を持ってうねり値とした。
【0059】
(8)結晶配向度
2次元広角X線回折(WAXD)測定には、理学電気製ROTA FLEX RU200BよりConfocal Mirrorで単色化したCuKαを用い、透過法による回折X線をカメラ長95mmでイメージングプレートに記録した。
なお、2次元WAXD測定のサンプルとして、得られた二軸フィルムを製膜方向と幅方向との軸が揃うように製膜方向に平行な方向に長さ6.5mm×幅方向に平行な方向に幅2mmの短冊状にカットし、これらの製膜時に冷却ドラムで冷却した面と空冷された面とが接するように、すなわち製膜時の表裏の面の関係も維持するように揃えて積層することにより厚み1.5mmの積層サンプルを準備した。
この積層サンプルの2次元WAXD測定におけるセッティング条件としては、入射X線が製膜方向に垂直で、かつフィルム表面に垂直な条件(Thru view)と、入射X線が製膜方向に垂直で、かつフィルム表面に平行な条件(Edge view)について、ともに2次元WAXDプロファイルの子午線方向が製膜方向に一致するようにセッティングし測定を行った。
【0060】
そして、フィルム面内の配向軸に対する結晶配向度f(%)は、Thru view の2次元WAXDプロファイルで観測される回折ピーク(例えば式(B)の成分が2,6−ナフタレンジカルボン酸で、式(C)の成分がエチレングリコールの場合は、回折角2θ=15°付近に現れるPENの結晶(010)回折ピーク)について、方位角まわりで最大強度となる方位から90°ずらした方向をフィルム面内の配向軸に定義し、その方位角成分の半値幅Δ(°)から次式(I)を用いて算出した。
またフィルム厚み方向の結晶配向度f(%)はEdge viewの2次元WAXDプロファイルの赤道方向に観測される回折ピーク(例えば式(B)の成分が2,6−ナフタレンジカルボン酸で、式(C)の成分がエチレングリコールの場合は、2θ=26°付近に現れるPENの結晶(−110)回折ピーク)について、その方位角成分の半値幅Δ(°)から次式(I)を用いて算出した。
【0061】
【数1】

【0062】
(9)電磁変換特性の測定
幅500mmにスリットされた長さ500mのフィルムの一方の表面に、下記組成の非磁性塗料、磁性塗料をダイコータで同時に、乾燥後の非磁性層および磁性層の厚みが、それぞれ1.2μmおよび0.1μmとなるように膜厚を変えてこの順で塗布し、磁気配向させて張力20MPa、温度100℃×60秒の条件にて乾燥させる。さらに、小型テストカレンダ−装置(スチ−ルロール/ナイロンロール、5段)で、温度:70℃、線圧:200kg/cmでカレンダ−処理した後、70℃、48時間キュアリングする。この磁性層付フィルムを必要に応じてバックコート層などを設けた上で、幅12.65mmにスリットし、カセットに組み込むことで磁気記録テープにした。
【0063】
非磁性塗料の組成
・二酸化チタン微粒子 :100重量部
・エスレックA(積水化学製塩化ビニル/酢酸ビニル共重合体 :10重量部
・ニッポラン2304(日本ポリウレタン 製ポリウレタンエラストマ):10重量部
・コロネートL(日本ポリウレタン製ポリイソシアネート) : 5重量部
・レシチン : 1重量部
・メチルエチルケトン :75重量部
・メチルイソブチルケトン :75重量部
・トルエン :75重量部
・カーボンブラック : 2重量部
・ラウリン酸 :1.5重量部
【0064】
磁性塗料の組成
・鉄(長さ:0.3μm、針状比:10/1、1800エルステッド)
:100重量部
・エスレックA(積水化学製塩化ビニル/酢酸ビニル共重合体 :10重量部
・ニッポラン2304(日本ポリウレタン 製ポリウレタンエラストマ):10重量部
・コロネートL(日本ポリウレタン製ポリイソシアネート) : 5重量部
・レシチン : 1重量部
・メチルエチルケトン :75重量部
・メチルイソブチルケトン :75重量部
・トルエン :75重量部
・カーボンブラック : 2重量部
・ラウリン酸 :1.5重量部
【0065】
上記、磁気記録テープの特性評価は、メディアロジック社製 ML4500B、QIC用システムを用いて測定した。なお、評価は、実施例1サンプルのS/Nを0dBとし、下記基準にて相対評価する。
◎:+1dB以上
○:−1dB以上+1dB未満
×:−1dB未満
【0066】
(10)(CD−D)、(CE−E)、(CD−E)の割合
試料60mgをP−クロロフェノール:1,1,2,2−テトラクロロエタン=3:1の混合溶媒に140℃で溶解した。完全に溶解したことを確認後、150MHzの13C−NMRを日本電子株式会社製、JEOL A600を用いて140℃で測定した。なお、グリコール成分の両端に繰り返し単位(D)の酸成分が結合しているものと、グリコール成分の両端に繰り返し単位(E)の酸成分が結合しているものと、グリコール成分の一方の端に繰り返し単位(D)の酸成分が結合し、他方に繰り返し単位(E)の酸成分が結合しているものとでは、グリコール成分のピークの位置が異なる。したがって、(CD−D)、(CE−E)、(CD−E)の割合は、検出される、異なる位置に出てくるグリコール成分のピーク面積比から求めた。
【0067】
[参考例1]
2,6−ナフタレンジカルボン酸ジメチル、6,6’−(エチレンジオキシ)ジ−2−ナフトエ酸そしてエチレングリコールとを、チタンテトラブトキシドの存在下でエステル化反応およびエステル交換反応を行い、さらに引き続いて重縮合反応を行って、固有粘度0.62dl/gで、酸成分の30モル%が2,6−ナフタレンジカルボン酸成分、酸成分の70モル%が6,6’−(アルキレンジオキシ)ジ−2−ナフトエ酸成分、グリコール成分がエチレングリコールである芳香族ポリエステル(PB1)を得た。
【0068】
[参考例2]
2,6−ナフタレンジカルボン酸ジメチル、6,6’−(エチレンジオキシ)ジ−2−ナフトエ酸そしてエチレングリコールとを、チタンテトラブトキシドの存在下でエステル化反応およびエステル交換反応を行い、さらに引き続いて重縮合反応を行って、固有粘度0.62dl/gで、酸成分の99.5モル%が2,6−ナフタレンジカルボン酸成分、酸成分の0.5モル%が6,6’−(アルキレンジオキシ)ジ−2−ナフトエ酸成分、グリコール成分がエチレングリコールである芳香族ポリエステル(PA1)を得た。
【0069】
[参考例3]
2,6−ナフタレンジカルボン酸ジメチルおよび6,6’−(エチレンジオキシ)ジ−2−ナフトエ酸の割合を変更した以外は参考例1と同様な操作を繰り返して、固有粘度0.62dl/gで、酸成分の73モル%が2,6−ナフタレンジカルボン酸成分、酸成分の27モル%が6,6’−(アルキレンジオキシ)ジ−2−ナフトエ酸成分、グリコール成分がエチレングリコールである芳香族ポリエステル(PA2)を得た。
【0070】
[参考例4]
2,6−ナフタレンジカルボン酸ジメチルおよび6,6’−(エチレンジオキシ)ジ−2−ナフトエ酸の割合を変更した以外は参考例1と同様な操作を繰り返して、固有粘度0.62dl/gで、酸成分の65モル%が2,6−ナフタレンジカルボン酸成分、酸成分の35モル%が6,6’−(アルキレンジオキシ)ジ−2−ナフトエ酸成分、グリコール成分がエチレングリコールである芳香族ポリエステル(PA3)を得た。
【0071】
[参考例5]
6,6’−(エチレンジオキシ)ジ−2−ナフトエ酸を加えなかった以外は参考例2と同様な操作を繰り返して、固有粘度0.62dl/gで、酸成分が2,6−ナフタレンジカルボン酸成分、グリコール成分がエチレングリコールである芳香族ポリエステル(PA4)を得た。
【0072】
[実施例1]
参考例1および2で得られた芳香族ポリエステル(PA1)と(PB1)とを、表1に示す組成となるように押し出し機に供給して295℃(平均滞留時間:20分)でダイから溶融状態で回転中の温度55℃の冷却ドラム上にシート状に押し出し未延伸フィルムとした。そして、製膜方向に沿って回転速度の異なる二組のローラー間で、上方よりIRヒーターにてフィルム表面温度が140℃になるように加熱して縦方向(製膜方向)の延伸を、延伸倍率4.5倍で行い、一軸延伸フィルムを得た。そして、この一軸延伸フィルムをステンターに導き、135℃で予備加熱を4秒間行った後、第1段目の横延伸を、延伸温度140℃、延伸倍率6.5倍、延伸速度160%/秒で行い、引続き第2段目の横延伸を、延伸温度150℃、延伸倍率1.2倍、延伸速度50%/秒で行い、その後熱固定処理(205℃で2秒間)および冷却を行い、厚さ5.0μmの二軸配向フィルムを得た。
得られた二軸配向フィルムの特性を表1に示す。
【0073】
[実施例2]
実施例1において、縦方向の延伸倍率を5.5倍に変更し、第1段目の横延伸の延伸温度を135℃に変更し、厚さが5.0μmになるように調整したほかは同様な操作を繰り返した。
得られた二軸配向フィルムの特性を表1に示す。
【0074】
[実施例3]
実施例1において、縦方向の延伸温度を145℃、延伸倍率を5.5倍に変更し、第1段目の横延伸の延伸温度を135℃および延伸倍率を8.0倍(延伸速度200%/秒)、第2段目の横延伸の延伸倍率を1.3倍(延伸速度55%/秒)に変更し、厚さが5.0μmになるように調整したほかは同様な操作を繰り返した。
得られた二軸配向フィルムの特性を表1に示す。
【0075】
[実施例4]
PA1とPB1との供給量を表1に示す組成となるように変更し、縦方向の延伸倍率を5.0倍に変更し、予備加熱の温度を140℃に変更し、第1段目の横延伸の延伸温度を145℃および延伸倍率を7.0倍(延伸速度180%/秒)に変更し、厚さが5.0μmになるように調整したほかは実施例1と同様な操作を繰り返した。
得られた二軸配向フィルムの特性を表1に示す。
【0076】
[実施例5]
PA1とPB1との供給量を表1に示す組成となるように変更し、縦方向の延伸温度を135℃、延伸倍率を5.0倍に変更し、第1段目の横延伸の延伸倍率を8.0倍(延伸速度200%/秒)に変更し、第2段目の横延伸の延伸倍率を1.3倍(延伸速度55%/秒)に変更し、厚さが5.0μmになるように調整したほかは実施例1と同様な操作を繰り返した。
得られた二軸配向フィルムの特性を表1に示す。
【0077】
[実施例6]
PA1とPB1との供給量を表1に示す組成となるように変更し、縦方向の延伸温度を125℃、延伸倍率を5.0倍に変更し、予備加熱の温度を130℃に変更し、第1段目の横延伸の延伸温度を130℃および延伸倍率を10.0倍(延伸速度250%/秒)に変更し、第2段目の横延伸の延伸温度を125℃、延伸倍率を1.3倍(延伸速度55%/秒)に変更し、厚さが5.0μmになるように調整したほかは実施例1と同様な操作を繰り返した。
得られた二軸配向フィルムの特性を表1に示す。
【0078】
[実施例7]
第1段目の横延伸の延伸温度を135℃および延伸倍率を7.0倍(延伸速度175%/秒)に変更し、第2段目の横延伸の延伸倍率を1.3倍(延伸速度55%/秒)に変更し、厚さが5.0μmになるように調整したほかは実施例5と同様な操作を繰り返した。
得られた二軸配向フィルムの特性を表1に示す。
【0079】
[実施例8]
熱固定処理温度を215℃に変更したほかは実施例7と同様な操作を繰り返した。
得られた二軸配向フィルムの特性を表1に示す。
【0080】
[実施例9]
PA1およびPB1の代わりに、参考例3で製造したPA2を用い、熱固定処理温度を180℃に変更したほかは実施例7と同様な操作を繰り返した。
得られた二軸配向フィルムの特性を表1に示す。
【0081】
[実施例10]
縦方向の延伸温度を145℃、延伸倍率を4.0倍に変更し、予備加熱の温度を140℃に変更し、第1段目の横延伸の延伸温度を135℃および延伸倍率を6.5倍(延伸速度160%/秒)に変更し、厚さが5.0μmになるように調整したほかは実施例4と同様な操作を繰り返した。
得られた二軸配向フィルムの特性を表1に示す。
【0082】
[実施例11]
縦方向の延伸倍率を5.5倍に変更し、第1段目の横延伸の延伸倍率を8.0倍(延伸速度200%/秒)に変更し、第2段目の横延伸の延伸倍率を1.2倍(延伸速度50%/秒)に変更し、厚さが5.0μmになるように調整したほかは実施例6と同様な操作を繰り返した。
得られた二軸配向フィルムの特性を表1に示す。
【0083】
[比較例1]
PA1およびPB1の代わりに、参考例3で製造したPA2を用い、縦方向の延伸倍率を3.5倍に変更し、第2段目の横延伸の延伸倍率を1.0倍(延伸速度0%/秒)に変更し、熱固定処理温度を150℃に変更し、厚さが5.0μmになるように調整したほかは実施例5と同様な操作を繰り返した。
得られた二軸配向フィルムの特性を表1に示す。
【0084】
[比較例2]
縦方向の延伸温度を140℃に変更し、横延伸の予備加熱温度を110℃、第1段目の横延伸の延伸温度を125℃および延伸倍率を7.0倍(延伸速度195%/秒)に変更し、第2段目の横延伸の延伸倍率を1.2倍(延伸速度50%/秒)に変更し、厚さが5.0μmになるように調整したほかは実施例6と同様な操作を繰り返した。
得られた二軸配向フィルムの特性を表1に示す。
【0085】
[比較例3]
PA1およびPB1の代わりに、参考例4で製造したPA3を用い、縦方向の延伸温度を140℃、延伸倍率を3.5倍に変更し、横延伸の予備加熱温度を110℃、第1段目の横延伸の延伸温度を125℃および延伸倍率を4.0倍(延伸速度100%/秒)に変更し、第2段目の横延伸の延伸倍率を1.0倍(延伸速度0%/秒)に変更し、厚さが5.0μmになるように調整したほかは実施例1と同様な操作を繰り返した。
得られた二軸配向フィルムの特性を表1に示す。
【0086】
[比較例4]
PA1を供給せず、PB1のみに変更し、縦方向の延伸倍率を3.5倍に変更し、予備加熱の温度を125℃に変更し、横延伸の予備加熱温度を125℃、第1段目の横延伸の延伸温度を135℃および延伸倍率を8.0倍(延伸速度200%/秒)に変更し、第2段目の横延伸の延伸倍率を1.0倍(延伸速度0%/秒)に変更し、厚さが5.0μmになるように調整したほかは実施例1と同様な操作を繰り返した。
得られた二軸配向フィルムの特性を表1に示す。
【0087】
[比較例5]
PA1およびPB1の代わりに、参考例5で製造したPA4を用い、縦方向の延伸温度を135℃、延伸倍率を4.0倍に変更し、横延伸の予備加熱の温度を125℃に変更し、第1段目の横延伸の延伸倍率を6.0倍(延伸速度150%/秒)に変更し、第2段目の横延伸の延伸温度を180℃に変更し、厚さが5.0μmになるように調整したほかは実施例1と同様な操作を繰り返した。
得られた二軸配向フィルムの特性を表1に示す。
【0088】
[比較例6]
縦方向の延伸温度を140℃、延伸倍率を5.0倍に変更し、第1段目の横延伸の延伸倍率を5.5倍(延伸速度140%/秒)に変更し、第2段目の横延伸の延伸倍率を1.0倍(延伸速度0%/秒)に変更し、厚さが5.0μmになるように調整したほかは比較例5と同様な操作を繰り返した。
得られた二軸配向フィルムの特性を表1に示す。
【0089】
[比較例7]
縦方向の延伸温度を140℃、延伸倍率を6.0倍に変更し、第1段目の横延伸の延伸温度を145℃および延伸倍率を5.0倍(延伸速度125%/秒)に変更し、第2段目の横延伸の延伸倍率を1.0倍(延伸速度0%/秒)に変更し、厚さが5.0μmになるように調整したほかは比較例5と同様な操作を繰り返した。
得られた二軸配向フィルムの特性を表1に示す。
【0090】
【表1】

【0091】
表1中の、B成分は2,6−ナフタレンジカルボン酸成分、A成分は6,6’−(エチレンジオキシ)ジ−2−ナフトエ酸成分、Tgはガラス転移温度、MDはフィルムの製膜方向、TDはフィルムの幅方向を示す。
【産業上の利用可能性】
【0092】
本発明の二軸配向フィルムは、従来のポリエチレンテレフタレート、ポリエチレン−2,6−ナフタレートやポリアルキレン−6,6’−(アルキレンジオキシ)ジ−2−ナフトエートでは達成できなかったような優れた寸法安定性を有し、寸法安定性が求められる用途、特に高密度磁気記録媒体のベースフィルムとして、好適に使用することができる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
(i)ジカルボン酸成分の5モル%以上50モル%未満が下記式(A)および50モル%を超え95モル%以下が下記式(B)で表される繰り返し単位で、(ii)ジオール成分の90〜100モル%が下記式(C)で表される繰り返し単位であるポリエステルからなり、二次元広角X線回折測定で得られるフィルム厚み方向の結晶配向度が85%以上、フィルム面内の配向軸に対する結晶配向度が70%以下であることを特徴とする二軸配向フィルム。
【化1】

(式(A)中、Rは炭素数2〜10のアルキレン基、式(B)中、Rはフェニレン基またはナフタレンジイル基、式(C)中、Rは炭素数2〜10のアルキレン基である。)
【請求項2】
厚みが3〜10μmの範囲にある請求項1記載の二軸配向フィルム。
【請求項3】
磁気記録媒体のベースフィルムに用いる請求項1記載の二軸配向フィルム。

【公開番号】特開2010−31138(P2010−31138A)
【公開日】平成22年2月12日(2010.2.12)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−194445(P2008−194445)
【出願日】平成20年7月29日(2008.7.29)
【出願人】(000003001)帝人株式会社 (1,209)
【Fターム(参考)】