説明

二軸配向フィルム

【課題】湿度寸法安定性に優れ、磁気記録媒体、特にデジタルデータストレージなどのベースフィルムに適した二軸配向フィルムの提供。
【解決手段】芳香族ポリエステル(A)に、下記式(B)で表されるジカルボン酸成分および式(C)で表されるジオール成分からなるポリエーテルエステル(D)を8〜30質量%含有する芳香族ポリエステル組成物(E)からなる二軸配向フィルム。
【化1】


(式(B)中、Phはフェニレン基またはナフタレンジイル基、式(C)中、Rは炭素数2〜10のアルキレン基もしくは炭素数8〜10のシクロアルキレン基を表す。)

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、寸法安定性に優れる二軸配向フィルムに関し、さらに詳しくは、寸法安定性に優れた磁気記録媒体用、特にデジタルデータストレージテープに適した二軸配向フィルムに関する。
【背景技術】
【0002】
ポリエステルフィルムは優れた熱、機械特性を有することから磁気記録媒体用など広い分野で用いられている。磁気記録媒体、特にデータストレージ用磁気記録媒体においては、テープの高容量化、高密度化が進み、それに伴ってベースフィルムへの特性要求も厳しいものとなっている。QIC、DLT、さらに高容量のスーパーDLT、LTOのごとき、リニアトラック方式を採用するデータストレージ用磁気記録媒体では、テープの高容量化を実現するために、トラックピッチを非常に狭くしており、そのためテープ幅方向の寸法変化が起こると、トラックずれを引き起こし、エラーが発生するという問題をかかえている。これらの寸法変化には、温湿度変化によるもの、走行時にかかる張力の変化によるもの、高張力で巻き取られた状態で保管中に生じる経時変化によるものとがある。この寸法変化が大きいと、トラックずれを引き起こし、電磁変換時のエラーが発生する。なお、説明の便宜上、フィルムの製膜方向を、MD方向、縦方向または長手方向と称し、製膜方向に直交する面内方向を、TD方向、横方向または幅方向と称することがある。
【0003】
このような寸法変化を解決するために、特開平5−212787号公報には、縦方向のヤング率(EM)および横方向のヤング率(ET)がそれぞれ550kg/mm以上および700kg/mm以上であり、両ヤング率の比(ET/EM)が1.1〜2.0であり、70℃で相対湿度が65%の状態に無荷重下で1時間保持したときの縦方向の収縮率が0.02%以下であり、縦方向の温度膨張係数(αt)が10×10−6/℃以下であり、そして縦方向の湿度膨張係数(αh)が15×10−6/%RH以下である二軸配向ポリエチレン−2,6−ナフタレンジカルボキシレートフィルムが開示されている。また、国際公開第99/29488号パンフレットには、横方向の温度膨張係数αt(×10−6/℃)、横方向の湿度膨張係数αh(×10−6/%RH)および縦方向に荷重を負荷したとき該荷重に対する横方向の収縮率P(ppm/g)とを特定の範囲にした二軸配向ポリエステルフィルムが開示されている。さらにまた、国際公開第00/76749号パンフレットには、縦方向に荷重を負荷して放置したときの幅方向の寸法変化、幅方向の温度膨張係数αt(×10−6/℃)、幅方向の湿度膨張係数αh(×10−6/%RH)および縦方向に荷重を負荷したとき該荷重に対する幅方向の収縮率P(ppm/g)とを特定の範囲にした二軸配向ポリエステルフィルムが開示されている。
【0004】
しかしながら、これらの公報で提案されている方法は、延伸条件やその後の熱固定処理条件を特定の範囲にすることで達成するものであり、例えば、縦方向に荷重をかけたときの幅方向の経時収縮は、ベースフィルムの縦方向ヤング率を大きくすることで改善することができるが、他方ではポリマー特性と製膜性の点から、縦方向のヤング率を大きくすればする程、横方向のヤング率の上限は小さくなり、結果として、温湿度変化による寸法変化が大きくなってしまうなど、根本的な解決には至っていなかった。
【0005】
ところで、特許文献4には、シンジオタクチックポリスチレンなどのポリオレフィンを積層することで湿度膨張係数を低減できることが提案されている。しかしながら、これらの積層フィルムは、シンジオタクチックポリスチレンとポリエステルとの親和性の乏しさから、層間で剥離しやすく、磁気記録媒体に加工する工程での取り扱い性の悪化、長期使用に対する耐久性の不足といった問題があり、改善が望まれていた。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開平5−212787号公報
【特許文献2】国際公開第99/29488号パンフレット
【特許文献3】国際公開第00/76749号パンフレット
【特許文献4】特開2005−327411号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明の目的は、寸法安定性に優れ、磁気記録媒体、特にデジタルデータストレージなどに用いられるベースフィルムに適した二軸配向フィルムの提供にある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明者らは上記従来技術に鑑み鋭意検討を重ねた結果、従来の二軸配向フィルムを、疎水性に優れた特定のポリエステルを含有した芳香族ポリエステル組成物からなる二軸配向フィルムとすることで、湿度寸法安定性が大きく向上することを見出し、本発明に至った。
【0009】
かくして、本発明によれば、芳香族ポリエステル(A)に、下記式(B)で表されるジカルボン酸成分および下記式(C)で表されるジオール成分からなるポリエーテルエステル(D)を8〜30質量%含有する芳香族ポリエステル組成物(E)からなる二軸配向フィルムが提供される。
【0010】
【化1】

(式(B)中、Phはフェニレン基またはナフタレンジイル基を表し、式(C)中、Rは炭素数2〜10のアルキレン基もしくは炭素数8〜10のシクロアルキレン基を表す。)
【0011】
また、本発明によれば、本発明の好ましい態様として、二軸配向フィルムの面方向における少なくとも一方向のヤング率が4.5GPa以上であること、二軸配向フィルムの厚みが2〜10μmの範囲にあること、磁気記録媒体のベースフィルム材料として用いられることの少なくともいずれかひとつを具備する二軸配向フィルムも提供される。
【発明の効果】
【0012】
本発明によれば、疎水性に優れた特定のポリエーテルエステルを含有する芳香族ポリエステル組成物からなる二軸配向フィルムであることから、従来の二軸配向フィルムに比べ、ヤング率などに基づく寸法安定性は維持しつつ、湿度変化に対する寸法変化を小さくすることができ、磁気記録媒体のベースフィルム材料に好適な二軸配向フィルムを提供することができる。
【発明を実施するための形態】
【0013】
以下、本発明を詳しく説明する。
本発明の二軸配向フィルムは、芳香族ポリエステル(A)に、前記式(B)で表されるジカルボン酸成分および前記式(C)で表されるジオール成分からなるポリエーテルエステル(D)を、8〜30質量%含有する芳香族ポリエステル組成物(E)からなる。
疎水性に優れるポリエーテルエステル(D)を上記範囲の割合で含有することで、二軸配向フィルムの湿度寸法安定性を向上させることができる。ポリエーテルエステル(D)の割合は、好ましくは9質量%以上25質量%以下、さらに好ましくは10質量%以上20質量%以下である。ポリエーテルエステル(D)の割合が下限より少ないと湿度寸法安定性の向上効果が不十分となり、上限を超えると二軸配向フィルムとしたときの機械特性が低下したり、製膜性が低下したりする。
【0014】
<ポリエーテルエステル(D)>
本発明におけるポリエーテルエステル(D)は、前記式(B)のジカルボン酸成分と前記式(C)のジオール成分からなるポリエーテルエステルである。前記式(B)中、Phはフェニレン基またはナフタレンジイル基であり、1,4−フェニレン基と2,6−ナフタレンジイル基が好ましく、特に製膜性などの観点から、1,4−フェニレン基が好ましい。また、前記式(C)中、Rは炭素数2〜10のアルキレン基もしくは炭素数8〜10のシクロアルキレン基を表す。二軸配向フィルムとするときの製膜性からは、エチレン基、1,4−ブチレン基、1,4−シクロヘキサンジメチレン基が好ましく、特に炭素数2のエチレン基が好ましい。
【0015】
<芳香族ポリエステル(A)>
本発明における芳香族ポリエステル組成物(E)のポリエーテルエステル(D)以外の主成分である芳香族ポリエステル(A)は、ジオールと芳香族ジカルボン酸との重縮合によって得られるポリマーである。かかる芳香族ジカルボン酸として、例えばテレフタル酸、イソフタル酸、2,6−ナフタレンジカルボン酸、4,4’−ジフェニルジカルボン酸が挙げられ、またジオールとして、例えばエチレングリコール、1,4−ブタンジオール、1,4−シクロヘキサンジメタノール、1,6−ヘキサンジオールが挙げられる。これらの中でも、力学特性の観点から、エチレンテレフタレートとエチレンナフタレンジカルボキシレートを主たる繰り返し単位とするものが好ましく、特にエチレン−2,6−ナフタレンジカルボキシレートを主たる繰り返し単位とするポリエチレン−2,6−ナフタレンジカルボキシレートが好ましい。
【0016】
また、本発明における芳香族ポリエステル(A)は、単独でも他のポリエステルとの共重合体、2種以上の芳香族ポリエステルからなる混合体のいずれであってもかまわないが、力学特性の観点からは、単独の方が好ましい。共重合成分としては、ジエチレングリコール、ネオペンチルグリコール、ポリアルキレングリコール等のジオール成分、アジピン酸、セバシン酸、フタル酸、イソフタル酸、テレフタル酸(主たる酸成分がナフタレンジカルボキシレートの場合)、ナフタレンジカルボン酸(主たる酸成分がテレフタル酸の場合)、5−ナトリウムスルホイソフタル酸等のジカルボン酸成分が挙げられる。
【0017】
本発明における芳香族ポリエステル(A)の固有粘度は、ο−クロロフェノール中、35℃において、0.40以上であることが好ましく、0.40〜0.80であることがさらに好ましい。固有粘度が0.4未満ではフィルム製膜時に切断が多発したり、成形加工後の製品の強度が不足することがある。一方固有粘度が0.8を超える場合は重合時の生産性が低下する。
【0018】
本発明における芳香族ポリエステル(A)の融点は、200〜300℃であることが好ましく、更には260〜290℃であることが好ましい。融点が下限に満たないとポリエステルフィルムの耐熱性が不十分な場合がある。また融点が上限を超える場合はポリエーテルエステル(D)を含有させて溶融押出しすることが困難となることがある。
【0019】
なお、本発明におけるポリエステル組成物(E)は前記の通り、芳香族ポリエステル(A)とポリエーテルエステル(D)とからなるが、それ自体公知の機能剤を含有させても良い。具体的には、不活性粒子、ワックスなどの潤滑剤、酸化防止剤、紫外線吸収剤などが挙げられ、またポリエーテルイミドなどの他の樹脂などを含有させることも好ましい。
【0020】
<ヤング率>
本発明の二軸配向フィルムは、その面方向の少なくとも一方向のヤング率は4.5GPa以上とすることが好ましい。製膜方向(以下MD方向、縦方向、長手方向と称することがある。)のヤング率がこの範囲以上であると、磁気記録媒体としたときに長手方向にかかる張力に対する寸法安定性が高くなる。一方、製膜方向に直交する方向(以下TD方向、横方向、幅方向と称することがある。)のヤング率がこの範囲以上であると、磁気記録媒体としたときの幅方向の湿度寸法安定性をさらに向上させることができ、また幅方向の温度寸法安定性も同時に向上させることができる。ヤング率の範囲は、好ましくは、5GPa以上であり、さらに好ましくは5.5GPa以上である。また、製膜方向と幅方向のヤング率の和は、22GPa以下であることが好ましい。製膜方向のヤング率と幅方向のヤング率の和が、上限を超えると、フィルム製膜時、延伸倍率が過度に高くなり、フィルム破断が多発し、製品歩留りが著しく悪くなる。好ましい製膜方向と幅方向におけるヤング率の和の上限は、20GPa以下、さらに18GPa以下である。
【0021】
<湿度膨張係数>
本発明の二軸配向フィルムは、フィルムの幅方向の湿度膨張係数αhが0.1×10−6〜13×10−6/%RHの範囲にあることが好ましい。好ましいαhは、0.5×10−6〜10×10−6/%RH、特に1×10−6〜8×10−6/%RHの範囲である。αhを下限よりも小さくするには、過度にポリエーテルエステル(D)を存在させたりすることになり、製膜性が低下し、一方上限を超えると、湿度変化によってフィルムが伸びてしまい、トラックずれなどを惹起することがある。このようなαhは、測定方向のヤング率を延伸により向上させ、かつポリエーテルエステル(D)を含有させることによって達成される。
【0022】
<温度膨張係数>
本発明の二軸配向フィルムは、フィルムの幅方向の温度膨張係数αtが−10×10−6〜+15×10−6/℃の範囲にあることが好ましい。より好ましいαtは、−8×10−6〜+10×10−6/℃、特に−5×10−6〜+5×10−6/℃の範囲である。αtが下限よりも小さいと、磁気記録媒体としたときの温度変化に対する寸法変化が、磁気ヘッドに対し相対的に収縮方向に大きくずれてしまい、一方上限を超えると、逆に磁気ヘッドに対し相対的に膨張方向に大きくずれてしまうため、いずれの場合もトラックずれなどを惹起することがある。このようなαtは、測定方向のヤング率を延伸により適度に向上させ、かつポリエーテルエステル(D)の含有量を前述の範囲内にすることによって達成される。
【0023】
<フィルム厚み>
本発明の二軸配向フィルムは、フィルム全体の厚みが2〜10μm、さらに3〜7μm、特に3.5〜6μmであることが好ましい。この厚みが上限を超えると、テープ厚みが厚くなりすぎ、例えばカセットに入れるテープ長さが短くなったりして、十分な磁気記録容量が得られないことがある。一方、下限未満ではフィルム厚みが薄すぎて、フィルム製膜時にフィルム破断が多発したり、またフィルムの巻取性が不良となったりすることがある。
【0024】
本発明の二軸配向フィルムは、他のフィルム層と積層した二軸配向積層フィルムとすることができる。特に磁気記録媒体に用いる場合、ポリエーテルエステル(D)の含有量が芳香族ポリエステル組成物(E)より少ないか、含有しないポリエステル組成物からなるフィルム層を、磁性層を設ける側の表面に積層することは、表面平滑性を向上し、磁気記録媒体の電磁変換特性を優れたものとすることができ好ましい。
【0025】
<製膜方法>
本発明の二軸配向フィルムは、以下の方法にて製造するのが好ましい。
上述の芳香族ポリエステル(A)に、ポリエーテルエステル(D)を含有させた芳香族ポリエステル組成物(E)を乾燥後、300℃程度に加熱された押出機に供給し、ダイに展開して押し出す。そして、ダイから押し出されたシート状物を、テンター法、インフレーション法など公知の製膜方法を用いて製造することができる。具体的には、芳香族ポリエステル(A)の融点(Tm:℃)ないし(Tm+70)℃の温度で押出し、急冷固化して未延伸フィルムとし、さらに該未延伸フィルムを一軸方向(縦方向または横方向)に(Tg−10)〜(Tg+70)℃の温度(但し、Tg:芳香族ポリエステルのガラス転移温度)で所定の倍率に延伸し、次いで上記延伸方向と直角方向(一段目が縦方向の場合には二段目は横方向となる)にTg〜(Tg+70)℃の温度で所定の倍率に延伸し、さらに熱処理する方法を用いて製造することができる。その際延伸倍率、延伸温度、熱処理条件等は上記フィルムの特性から選択、決定される。面積延伸倍率は15〜40倍、さらには20〜35倍にするのが好ましい。熱固定温度は190〜250℃の範囲内から、また処理時間は1〜60秒の範囲内から決めるとよい。
【0026】
かかる逐次二軸延伸法のほかに、同時二軸延伸法を用いることもできる。また逐次二軸延伸法において縦方向、横方向の延伸回数は1回に限られるものではなく、縦−横延伸を数回の延伸処理により行うことができ、その回数に限定されるものではない。例えば、さらに機械特性を上げたい場合には、熱固定処理前の上記二軸延伸フィルムについて、(Tg+20)〜(Tg+70)℃の温度で熱処理し、さらにこの熱処理温度より10〜40℃高い温度で縦方向または横方向に延伸し、続いてさらにこの延伸温度より20〜50℃高い温度で横方向または縦方向に延伸し、縦方向の場合総合延伸倍率を3.0〜7.0倍、横方向の場合総合延伸倍率を3.0〜8.0倍にとすることが好ましい。
【0027】
また、塗布層を設ける場合、前記した未延伸フィルムまたは一軸延伸フィルムの片面または両面に所望の塗布液を塗布するのが好ましい。また、本発明の二軸配向フィルムを積層フィルムとする場合、それ自体公知の方法で、2種以上の原料を用意し、マルチマニホールドダイやフィードブロックで積層して、共押出すればよい。
【0028】
<磁気記録媒体>
本発明の上記二軸配向フィルムは、その片面に磁性層を設けることにより、磁気記録媒体のベースフィルムとして好ましく用いられる。なお、磁性層を形成する面は、二軸配向フィルムが積層フィルムの場合、より平坦な方の表面であることが好ましい。
磁気記録媒体としては、特に限定されないが、例えば、QICやDLTさらには高容量タイプであるS−DLTやLTO等のリニアトラック方式のデータストレージテープが挙げられる。なお、ベースフィルムが温湿度変化による寸法変化が極めて小さいので、テープの高容量化を確保するためにトラックピッチを狭くしてもトラックずれを引起こし難く、高密度高容量に好適な磁気記録媒体となる。
【実施例】
【0029】
以下、実施例に基づいて本発明をさらに説明する。なお、本発明における種々の物性値および特性は、以下のようにして測定されたものであり、かつ定義される。
【0030】
(1)ヤング率
フイルムを試料幅10mm、長さ15cmに切り、チャック間100mmにして引張速度10mm/min、チャート速度500mm/minでインストロンタイプの万能引張試験装置にて引張り、得られる荷重−伸び曲線の立上り部の接線よりヤング率を計算する。ヤング率は10回測定し、その平均値を用いた。
【0031】
(2)温度膨張係数(αt)
得られたフィルムから幅4mmのサンプルを切り出し、チャック間長さ20mmとなるように、セイコーインスツル製TMA/SS6000にセットし、窒素雰囲気下(0%RH)、80℃で30分前処理し、その後室温まで降温させた。その後30℃から80℃まで2℃/minで昇温して、各温度でのサンプル長を測定し、次式より温度膨張係数(αt)を算出した。なお、5回測定し、その平均値を用いた。
αt={(L60−L40)/(L40×△T)}+0.5×10−6
ここで、上記式中のL40は40℃のときのサンプル長(mm)、L60は60℃のときのサンプル長(mm)、△Tは20(=60−40)℃、0.5×10−6/℃は石英ガラスの温度膨張係数(αt)である。
【0032】
(3)湿度膨張係数(αh)
得られたフィルムから幅5mmのサンプルを切り出し、チャック間長さ15mmとなるように、ブルカーAXS製TMA4000SAにセットし、30℃の窒素雰囲気下で、湿度20%RHと湿度80%RHにおけるそれぞれのサンプルの長さを測定し、次式にて湿度膨張係数(αh)を算出した。なお、5回測定し、その平均値をαhとした。
αh=(L80−L20)/(L20×△H)
ここで、上記式中のL20は20%RHのときのサンプル長(mm)、L80は80%RHのときのサンプル長(mm)、△H:60(=80−20)%RHである。
【0033】
(4)ガラス転移点および融点
芳香族ポリエステルまたはポリエーテルエステル10mgを、測定用のアルミニウム製パンに封入し、DSC(TAインスツルメンツ社製、Q100)を用いて25℃から300℃まで20℃/minの昇温速度で測定し、それぞれの融点およびそれぞれのガラス転移点を求めた。
【0034】
(5)トラックずれ
下記に示す組成物をボールミルに入れ、16時間混練、分散した後、イソシアネート化合物(バイエル社製のデスモジュールL)5重量部を加え、1時間高速剪断分散して磁性塗料とした。
磁性塗料の組成:
針状Fe粒子 100重量部
塩化ビニル― 酢酸ビニル共重合体 15重量部
(積水化学製エスレック7A)
熱可塑性ポリウレタン樹脂 5重量部
酸化クロム 5重量部
カーボンブラック 5重量部
レシチン 2重量部
脂肪酸エステル 1重量部
トルエン 50重量部
メチルエチルケトン 50重量部
シクロヘキサノン 50重量部
この磁性塗料を、得られた二軸配向フィルムの一方の表面に乾燥後の塗布厚さ0.5μmとなるように塗布し、次いで2,500ガウスの直流磁場中で配向処理を行い、100℃で加熱乾燥後、スーパーカレンダー処理(線圧2,000N/cm、温度80℃)を行い、巻き取った。この巻き取ったロールを55℃のオーブン中に3日間放置した。
【0035】
さらに下記組成のバックコート層塗料を、二軸配向フィルムの他方の表面に、乾燥後の厚さが1μmとなるように塗布し、乾燥させ、さらに12.65mm(=1/2インチ)に裁断し、磁気テープを得た。
バックコート層塗料の組成:
カーボンブラック 100重量部
熱可塑性ポリウレタン樹脂 60重量部
イソシアネート化合物 18重量部
( 日本ポリウレタン工業社製コロネートL)
シリコーンオイル 0.5重量部
メチルエチルケトン 250重量部
トルエン 50重量部
このようにして得られた磁気テープを、恒温恒湿槽内へ入れ、長手方向に1Nの張力を掛けた状態で各環境(環境A:10℃10%RH、環境B:29℃80%RH)にて5時間静置した後、それぞれレーザー寸法測定機によって幅を測定した。そして、下記式によりトラックずれ率を算出した。
トラックずれ率(ppm)=((LB−LA)/LA)*10−7×(29−10)
上記式中のLBは環境Bで測定した幅、LAは環境Aで測定した幅、7は磁気ヘッドの温度膨張係数(ppm)、(29−10)(℃)は温度の変化量である。ちなみに、磁気ヘッドの湿度膨張係数は0ppm/%RHとした。
そして、トラックずれ率は絶対値が少ないほど、トラックずれが良好であり、以下の基準により評価した。
◎ : ずれ幅250ppm未満(トラックずれ極めて良好)
○ : ずれ幅250ppm以上、450ppm未満(トラックずれ良好)
× : ずれ幅450ppm以上(トラックずれ不良)
【0036】
(6)各層の厚み
積層フィルムを3角形に切り出し、包埋カプセルに固定後、エポキシ樹脂にて包埋する。ミクロトーム(ULTRACUT−S)で、製膜方向と厚み方向とに平行な方向にカットして、厚み50nm薄膜切片にする。そして、透過型電子顕微鏡を用い、加速電圧1000kvにて観察し、倍率1万倍〜10万倍で撮影し、写真より各層の厚みを測定した。
【0037】
[実施例1]
2,6−ナフタレンジカルボン酸ジメチルエステルとエチレングリコールとを、テトラブトキシチタンを触媒として用いて反応させ、固有粘度(o−クロロフェノール、35℃)が0.62dl/gで融点(Tm)が269℃のポリエチレンナフタレート(PEN−1)を作成した。また、平均粒径0.1μmの球状シリカ粒子を1.0質量%となるように添加した以外は同様な操作を行い、固有粘度(o−クロロフェノール、35℃)が0.62dl/gで融点(Tm)が269℃のポリエチレンナフタレート(PEN−2)を作成した。
一方、シクロヘキサンジメタノールをピリジンの溶媒化で塩化トシル(p-CH3C6H4SO2Cl)と反応させて、シクロヘキサンジメタノールの水酸基の水素をトシル基で置換したものを作成し、これをジメチルホルムアミド((CH3)2CHO)の溶媒下で、炭酸カリウムを触媒として用い、p−ヒドロキシ安息香酸メチルと反応させ、下記式で表されるジカルボン酸のジメチルエステルを作成した。
【0038】
【化2】

【0039】
そして、このジカルボン酸のジメチルエステルとエチレングリコールとをテトラブトキシチタンを触媒として用い、エステル交換反応および重縮合反応を行い、固有粘度(P−クロロフェノール/テトラクロロエタン(40/60重量比)の混合溶媒にて35℃で測定)が0.75dl/g、融点が280℃のポリエーテルエステル(D)を作成した。なお、ポリエーテルエステル(D)中のシクロヘキサンジメタノールのCisとTransの割合は、モル比で16対84であった。
そして、得られる樹脂組成物の重量を基準として、球状シリカ粒子の含有量が0.3質量%となるように、またポリエチレン−2,6−ナフタレート(PEN)とポリエーテルエステル(D)との重量比が85:15となるように、PEN−1とPEN−2とポリエーテルエステルDをブレンドして樹脂組成物1を作成した。そして、160℃で5時間乾燥後、押し出し機に供給して300℃にて溶融し、ダイへと導き、キャスティングドラム上にキャストして未延伸シートを作成した。なお、ダイから押し出された未延伸シートは、表面仕上げ0.3S、表面温度60℃に保持したキャスティングドラム上で急冷固化せしめて、未延伸フィルムとされた。
この未延伸フイルムを、130℃で製膜方向および幅方向にそれぞれ4倍と6倍に延伸し、さらに引き続いて200℃で10秒間熱固定した後、120℃にて横方向に1.0%弛緩処理をし、厚み5.0μmの二軸配向フィルムを得た。得られた二軸配向フィルムの特性を表1に示す。
【0040】
[実施例2〜4]
ポリエーテルエステル(D)の割合を、表1に示すように変更した以外は、実施例1と同様にして二軸配向フィルムを得た。得られた二軸配向フィルムの特性を表1に示す。
【0041】
[実施例5]
ポリエチレン−2,6−ナフタレンジカルボキシレートを固有粘度(o-クロロフェノール、35℃)0.62dl/gのポリエチレンテレフタレートに変更した樹脂組成物2を用い、延伸温度を100℃に変更したほかは、実施例1と同様な操作を繰り返した。得られた二軸配向フィルムの特性を表1に示す。
【0042】
[実施例6]
実施例1において作成した樹脂組成物1と、PEN−1とを用意し、それぞれを160℃で5時間乾燥後、押し出し機に供給して300℃にて溶融し、ダイへと導き、共押出により、キャスティングドラム上にキャストして未延伸積層シートを作成した。なお、未延伸積層シートは、樹脂組成物1の層とPEN−1の層との2層からなり、樹脂組成物1の層とPEN−1の層との厚みの比は7:3であった。このようにして得られた未延伸積層シートを、実施例1と同様な操作を繰り返して、二軸配向積層フィルムを得た。得られた二軸配向積層フィルムの特性を表1に示す。
【0043】
[実施例7]
実施例6において、未延伸積層シートを、樹脂組成物1の層とPEN−1の層との厚みの比を7:3となるように維持しつつ、樹脂組成物1の層とPEN−1の層とが交互に25層ずつ積層された合計50層の多層未延伸積層シートとなるように各フィルム層の厚みを変更した以外は、実施例6と同様な操作を繰り返して、二軸配向積層フィルムを得た。得られた二軸配向積層フィルムの特性を表1に示す。
【0044】
[実施例8]
実施例1において、製膜方向と幅方向の延伸倍率をそれぞれ6倍と4倍に変更した他は同様な操作を繰り返した。得られた二軸配向積層フィルムの特性を表1に示す。
【0045】
[実施例9]
固有粘度(o−クロロフェノール、35℃)が0.62dl/gのポリエチレンテレフタレートとポリエーテルイミド(GE社製ウルテム1010(ガラス転移温度:215℃))とを重量比95:5でブレンドし、平均粒径0.1μmの球状シリカ粒子を0.3質量%となるように含有させたものを樹脂組成物3として用意し、固有粘度(o−クロロフェノール、35℃)が0.62dl/gのポリエチレンテレフタレートとポリエーテルイミド(GE社製ウルテム1010(ガラス転移温度:215℃))と実施例1で用いたポリエーテルエステルDとを重量比で80:5:15でブレンドしたものを樹脂組成物4として用意した。
そして、樹脂組成物3と4とを、それぞれを160℃で5時間乾燥後、押し出し機に供給して300℃にて溶融し、ダイへと導き、共押出により、キャスティングドラム上にキャストして未延伸積層シートを作成した。なお、未延伸積層シートは、樹脂組成物3の層と樹脂組成物4の層との2層からなり、樹脂組成物3の層と樹脂組成物4の層との厚みの比は1:9であった。このようにして得られた未延伸積層シートを、実施例1と延伸温度を110℃に変更したほかは、同様な操作を繰り返して、二軸配向積層フィルムを得た。得られた二軸配向積層フィルムの特性を表1に示す。
【0046】
[比較例1]
実施例1で用いたPEN−1とPEN−2とを球状シリカ粒子の含有量が0.3質量%となるようにブレンドして樹脂組成物5を作成した。そして、樹脂組成物1の代わりに樹脂組成物5を用いたほかは、実施例1と同様な操作を繰り返した。得られた二軸配向フィルムの特性を表1に示す。
【0047】
[比較例2]
製膜方向および幅方向の延伸倍率をそれぞれ3.5倍と6.5倍に変更し、未延伸シートの厚みを調整して、厚み5μmの二軸配向フィルムとしたほかは、比較例1と同様な操作を繰り返した。得られた二軸配向フィルムの特性を表1に示す。
【0048】
[比較例3]
製膜方向および幅方向の延伸倍率をそれぞれ5倍と5倍に変更し、未延伸シートの厚みを調整して、厚み5μmの二軸配向フィルムとしたほかは、比較例1と同様な操作を繰り返した。得られた二軸配向フィルムの特性を表1に示す。
【0049】
[比較例4および5]
ポリエーテルエステル(D)の割合を、表1に示すように変更した以外は、実施例1と同様にして二軸配向フィルムを得た。得られた二軸配向フィルムの特性を表1に示す。なお、比較例5では、製膜中に破断が多発してフィルムに製膜できなかった。
【0050】
【表1】

【0051】
表1中のPENはポリエチレン−2,6−ナフタレンジカルボキシレート、PETはポリエチレンテレフタレート、PECPは実施例1で作成したポリエーテルエステル(D)、PEIはポリエーテルイミドを意味する。
【産業上の利用可能性】
【0052】
本発明の二軸配向フィルムは、従来の二軸配向フィルムに比べ、ヤング率などに基づく寸法安定性は維持しつつ、湿度変化に対する寸法変化を小さくすることができ、磁気記録媒体のベースフィルムとして好適に使用でき、特にQICやDLTさらに高容量タイプであるS−DLTやLTO等のリニアトラック方式のデータストレージテープのベースフィルムとして好適に利用できる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
芳香族ポリエステル(A)に、下記式(B)で表されるジカルボン酸成分および下記式(C)で表されるジオール成分からなるポリエーテルエステル(D)を、8〜30質量%含有させた芳香族ポリエステル組成物(E)からなる二軸配向フィルム。
【化1】

(式(B)中、Phはフェニレン基またはナフタレンジイル基を表し、式(C)中、Rは炭素数2〜10のアルキレン基もしくは炭素数8〜10のシクロアルキレン基を表す。)
【請求項2】
芳香族ポリエステル(A)が、エチレンテレフタレートまたはエチレンナフタレンジカルボキシレートを主たる繰り返し単位とする請求項1記載の二軸配向フィルム。
【請求項3】
フィルム面方向における少なくとも一方向のヤング率(Y)が4.5GPa以上である請求項1に記載の二軸配向フィルム。
【請求項4】
フィルム厚みが2〜10μmの範囲にある請求項1記載の二軸配向フィルム。
【請求項5】
磁気記録媒体のベースフィルムとして用いる請求項1〜4のいずれかに記載の二軸配向フィルム。

【公開番号】特開2012−229367(P2012−229367A)
【公開日】平成24年11月22日(2012.11.22)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−99787(P2011−99787)
【出願日】平成23年4月27日(2011.4.27)
【出願人】(301020226)帝人デュポンフィルム株式会社 (517)
【Fターム(参考)】