説明

二軸配向フィルム

【課題】寸法安定性および、表面平滑性に優れ、磁気記録媒体、特にデジタルデータストレージなどのベースフィルムに適した二軸配向積層フィルムの提供。
【解決手段】無水マレイン酸共重合ポリスチレン(A)を含有する芳香族ポリエステル組成物(B)からなるフィルム層(I)を有する二軸配向フィルムであって、無水マレイン酸共重合ポリスチレン(A)における無水マレイン酸単位の割合が、無水マレイン酸共重合ポリスチレン(A)の繰り返し単位のモル数を基準として、15〜30モル%の範囲であり、かつ、芳香族ポリエステル組成物(B)の質量を基準として、無水マレイン酸共重合ポリスチレン(A)の割合が1〜10質量%の範囲である二軸配向フィルム。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、寸法安定性に優れた二軸配向フィルムに関し、さらに詳しくは、寸法安定性に優れた磁気記録媒体用、特にデジタルデータストレージテープ用に適した二軸配向フィルムに関する。
【背景技術】
【0002】
ポリエステルフィルムは優れた熱、機械特性を有することから磁気記録媒体用など広い分野で用いられている。磁気記録媒体、特にデータストレージ用磁気記録媒体においては、テープの高容量化、高密度化が進み、それに伴ってベースフィルムへの特性要求も厳しいものとなっている。QIC、DLT、さらに高容量のスーパーDLT、LTOのごとき、リニアトラック方式を採用するデータストレージ用磁気記録媒体では、テープの高容量化を実現するために、トラックピッチを非常に狭くしており、そのためテープ幅方向の寸法変化が起こると、トラックずれを引き起こし、エラーが発生するという問題をかかえている。これらの寸法変化には、温湿度変化によるもの、走行時にかかる張力の変化によるもの、高張力で巻き取られた状態で保管中に生じる経時変化によるものとがある。これらの寸法変化が大きいと、トラックずれを引き起こし、電磁変換時のエラーが発生する。なお、説明の便宜上、フィルムの製膜方向を、MD方向、縦方向または長手方向と称し、製膜方向に直交する面内方向を、TD方向、横方向または幅方向と称することがある。
【0003】
このような寸法変化を解決するために、特開平5−212787号公報には、縦方向のヤング率(EM)および横方向のヤング率(ET)がそれぞれ550kg/mm以上および700kg/mm以上であり、両ヤング率の比(ET/EM)が1.1〜2.0であり、70℃で相対湿度が65%の状態に無荷重下で1時間保持したときの縦方向の収縮率が0.02%以下であり、縦方向の温度膨張係数(αt)が10×10−6/℃以下であり、そして縦方向の湿度膨張係数(αh)が15×10−6/%RH以下である二軸配向ポリエチレン−2,6−ナフタレンジカルボキシレートフィルムが開示されている。また、国際公開第99/29488号パンフレットには、横方向の温度膨張係数αt(×10−6/℃)、横方向の湿度膨張係数αh(×10−6/%RH)および縦方向に荷重を負荷したとき該荷重に対する横方向の収縮率P(ppm/g)とを特定の範囲にした二軸配向ポリエステルフィルムが開示されている。さらにまた、国際公開第00/76749号パンフレットには、縦方向に荷重を負荷して放置したときの幅方向の寸法変化、幅方向の温度膨張係数αt(×10−6/℃)、幅方向の湿度膨張係数αh(×10−6/%RH)および縦方向に荷重を負荷したとき該荷重に対する幅方向の収縮率P(ppm/g)とを特定の範囲にした二軸配向ポリエステルフィルムが開示されている。
【0004】
しかしながら、これらの公報で提案されている方法は、延伸条件やその後の熱固定処理条件を特定の範囲にすることで達成するものであり、例えば、縦方向に荷重をかけたときの幅方向の経時収縮は、ベースフィルムの縦方向ヤング率を大きくすることで改善することができるが、他方ではポリマー特性と製膜性の点から、縦方向のヤング率を大きくすればする程、横方向のヤング率の上限は小さくなり、結果として、温湿度変化による寸法変化が大きくなってしまうなど、根本的な解決には至っていなかった。
【0005】
ところで、特許文献4には、シンジオタクチックポリスチレンなどのポリオレフィンを積層することで湿度膨張係数を低減できることが提案されている。しかしながら、これらの積層フィルムは、シンジオタクチックポリスチレンとポリエステルとの親和性の乏しさから、層間で剥離しやすく、磁気記録媒体に加工する工程での取り扱い性の悪化、長期使用に対する耐久性の不足といった問題があり、改善が望まれていた。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開平5−212787号公報
【特許文献2】国際公開第99/29488号パンフレット
【特許文献3】国際公開第00/76749号パンフレット
【特許文献4】特開2005−327411号公報
【特許文献5】特開2010−253799号公報
【特許文献6】特開2010−264657号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明の目的は、寸法安定性に優れ、しかも表面の平坦性にも優れた二軸配向フィルムの提供にある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明者らは上記従来技術に鑑み鋭意検討を重ねた結果、従来のポリエステルフィルムを、特定の無水マレイン酸共重合ポリスチレンを含有する芳香族ポリエステル組成物からなる二軸配向フィルムとすることで、力学的特性を維持しつつ、湿度変化に対する寸法変化が縮小され、しかも表面平坦性にも優れた磁気記録媒体に適した二軸配向フィルムが得られることを見出し、本発明に至った。
【0009】
かくして本発明によれば、無水マレイン酸共重合ポリスチレン(A)を含有する芳香族ポリエステル組成物(B)からなるフィルム層(I)を有する二軸配向フィルムであって、無水マレイン酸共重合ポリスチレン(A)における無水マレイン酸単位の割合が、無水マレイン酸共重合ポリスチレン(A)の繰り返し単位のモル数を基準として、15〜30モル%の範囲であり、かつ、芳香族ポリエステル組成物(B)の質量を基準として、無水マレイン酸共重合ポリスチレン(A)の割合が1〜10質量%の範囲である二軸配向フィルムが提供される。
【0010】
また、本発明によれば、本発明の好ましい態様として、芳香族ポリエステル組成物(B)が、無水マレイン酸の共重合割合が10モル%以下のポリスチレン(C)を、芳香族ポリエステル組成物(B)の質量を基準として、1〜10質量%の範囲で含有すること、ポリスチレン(C)がシンジオタクチック構造を有するポリスチレンであること、二軸配向フィルムが、フィルム層(I)と、無水マレイン酸共重合ポリスチレン(A)を含有しないか、またはその含有量が芳香族ポリエステル組成物(B)よりも少ない芳香族ポリエステル組成物(D)からなるフィルム層(II)とを積層した二軸配向積層フィルムであること、フィルム層(I)と(II)とを全層数で少なくとも4層積層した二軸配向積層フィルムであること、芳香族ポリエステルがエチレンテレフタレートまたはエチレン−2,6−ナフタレンジカルボン酸を主たる繰り返し単位とする芳香族ポリエステルであること、フィルム厚みが2〜10μmの範囲にあること、磁気記録媒体のベースフィルムとして用いられること、の少なくともいずれかひとつを具備する二軸配向フィルムも提供される。
【発明の効果】
【0011】
本発明によれば、特定の無水マレイン酸共重合ポリスチレンを含有する芳香族ポリエステル組成物からなる二軸配向フィルムであることから、従来のポリエステルフィルムに比べ、ヤング率などに基づく寸法安定性は維持しつつ、湿度変化に対する寸法変化を小さくすることができ、さらに、無水マレイン酸共重合ポリエステルにおける無水マレイン酸単位の割合を15〜30モル%とすることで、表面平坦性も兼ね備えた、磁気記録媒体のベースフィルムに好適な二軸配向フィルムを提供することができる。
【発明を実施するための形態】
【0012】
以下、本発明を詳しく説明する。
<無水マレイン酸共重合ポリスチレン(A)>
本発明における無水マレイン酸共重合ポリスチレン(A)は、ポリスチレンに無水マレイン酸が共重合されたものである。共重合体における無水マレイン酸単位の割合は、該無水マレイン酸共重合ポリスチレン(A)の繰り返し単位のモル数を基準として、15〜30モル%であり、好ましくは18〜28モル%、さらに好ましくは20〜25モル%である。無水マレイン酸単位の割合が下限より少ないと、芳香族ポリエステルとの相溶性が悪くなり、二軸配向フィルムにしたときに表面平滑性が悪化する。また、無水マレイン酸単位の割合が上限より多くなると、疎水性が低下し二軸配向フィルムにしたときの湿度に対する寸法安定性が悪化する。共重合体の構造は特に限定されず、ランダム共重合であっても、ブロック共重合やグラフト共重合であっても良い。また、二軸配向フィルムとしたときの湿度寸法安定性や表面平滑性といった効果を損なわない範囲で、他の共重合成分が共重合されていても良い。
【0013】
<芳香族ポリエステル組成物(B)>
本発明の芳香族ポリエステル組成物(B)は、芳香族ポリエステルと無水マレイン酸共重合ポリスチレン(A)の混合物であり、無水マレイン酸共重合ポリスチレン(A)の割合は、芳香族ポリエステル組成物(B)の重量に対し1〜10重量%、好ましくは3〜8重量%、さらに好ましくは、4〜7重量%である。無水マレイン酸共重合ポリエステル(A)の割合が上限より多いと、二軸配向フィルムとしたときの表面平滑性が悪化する。また、下限より少ないと、二軸配向フィルムとしたときの湿度寸法安定性が悪化する。
【0014】
芳香族ポリエステル組成物(B)は、さらに無水マレイン酸の共重合割合が10モル%以下のポリスチレン(C)を含有させてもよい。ポリスチレン(C)を含有させることで、二軸配向フィルムとしたときの湿度寸法安定性を一層良くすることが出来る。一方、通常であれば、ポリスチレン(C)を含有させることで、表面の平坦性が悪化するが、本発明では前述の無水マレイン酸共重合ポリスチレン(A)の存在により、その悪化を小さくすることができる。ポリスチレン(C)の割合は、芳香族ポリエステル組成物(B)の重量に対し、1〜10重量%、好ましくは3〜8重量%、さらに好ましくは4〜7重量%である。ポリスチレン(C)の割合が上限より多いと二軸配向フィルムの表面平滑性が悪化し、下限より少ないと二軸配向フィルムの湿度寸法安定性向上効果が乏しくなる。
【0015】
芳香族ポリエステル組成物(B)の主成分である芳香族ポリエステルは、ジオールと芳香族ジカルボン酸との重縮合によって得られるポリマーである。かかる芳香族ジカルボン酸として、例えばテレフタル酸、イソフタル酸、2,6−ナフタレンジカルボン酸、4,4’−ジフェニルジカルボン酸が挙げられ、またジオールとして、例えばエチレングリコール、1,4−ブタンジオール、1,4−シクロヘキサンジメタノール、1,6−ヘキサンジオールが挙げられる。これらの中でも、力学特性の観点から、ポリエチレンテレフタレートとポリエチレン−2,6−ナフタレンジカルボキシレートが好ましく、特にポリエチレン−2,6−ナフタレンジカルボキシレートが好ましい。
【0016】
本発明における芳香族ポリエステルは、単独でも他のポリエステルとの共重合体、2種以上の芳香族ポリエステルからなる混合体のいずれであってもかまわないが、力学特性の観点からは、単独の方が好ましい。共重合成分としては、ジエチレングリコール、ネオペンチルグリコール、ポリアルキレングリコール等のジオール成分、アジピン酸、セバシン酸、フタル酸、イソフタル酸、テレフタル酸、5−ナトリウムスルホイソフタル酸等のジカルボン酸成分が挙げられる。
【0017】
本発明における芳香族ポリエステルの固有粘度は、ο−クロロフェノール中、35℃において、0.40dl/g以上であることが好ましく、0.40〜0.80dl/gであることがさらに好ましい。固有粘度が0.4dl/g未満ではフィルム製膜時に切断が多発したり、成形加工後の製品の強度が不足することがある。一方固有粘度が0.8dl/gを超える場合は重合時の生産性が低下する。
【0018】
本発明における芳香族ポリエステルの融点は、200〜300℃であることが好ましく、更には260〜290℃であることが好ましい。融点が下限に満たないとポリエステルフィルムの耐熱性が不十分な場合がある。また融点が上限を超える場合は無水マレイン酸共重合ポリスチレンを含有した組成物の溶融押出しが難しくなることがある。
【0019】
<ポリスチレン(C)>
本発明におけるポリスチレン(C)としては、無水マレイン酸の共重合割合が10モル%以下のポリスチレンであれば良い。例えば、ポリ−3−メチルブテン−1、ポリ−4−メチルペンテン−1、ポリビニル−t−ブタン、1,4−トランス−ポリ−2,3−ジメチルブタジエン、ポリビニルシクロヘキサン、ポリスチレン、ポリメチルスチレン、ポリジメチルスチレン、ポリブチルスチレンなどが挙げられる。これらの中でも、耐熱性および力学特性の点から、シンジオタクチック構造を有するスチレン系重合体(以下、シンジオタクチックスチレン系重合体と称することがある。)が好ましい。
【0020】
本発明におけるシンジオタクチックスチレン系重合体は、立体化学構造がシンジオタクチック構造を有するポリスチレンであり、核磁気共鳴法(13C−NMR法)により測定されるタクティシティーが、ダイアッド(構成単位が2個)で75%以上、好ましくは85%以上、ペンタッド(構成単位が5個)で30%以上、好ましくは50%以上である。
【0021】
かかるシンジオタクチックスチレン系重合体としては、ポリスチレン、ポリ(アルキルスチレン)として、ポリ(メチルスチレン)、ポリ(エチルスチレン)、ポリ(プロピルスチレン)、ポリ(ブチルスチレン)、ポリ(フェニルスチレン)が挙げられ、これらのうち、ポリスチレン、ポリ(p−メチルスチレン)、ポリ(m−メチルスチレン)、ポリ(p−ターシャリーブチルスチレン)が好ましく例示される。
【0022】
本発明におけるシンジオタクチックスチレン系重合体は、単独であっても、2種以上併用したものであっても良い。
また、本発明におけるシンジオタクチックスチレン系重合体は、重量平均分子量が10,000以上、さらに50,000以上であることが好ましい。重量平均分子量が下限に満たない場合、耐熱性や機械特性が不十分である。一方、重量平均分子量の上限は500,000以下であることが好ましい。かかる上限を超える場合、製膜性に乏しくなる場合がある。
【0023】
本発明におけるポリスチレン(C)は、必ずしも単一化合物である必要はなく、2種以上のポリスチレンの混合体であってもかまわない。
本発明におけるポリスチレン(C)の融点は、230℃〜280℃であることが好ましく、更には240〜275℃であることが好ましい。融点が下限に満たないと得られる二軸配向積層フィルムの耐熱性が不十分な場合がある。また融点が上限を超える場合は芳香族ポリエステル組成物に含有させて溶融押出しすることが難しくなることがある。
【0024】
<積層フィルム>
本発明の二軸配向フィルムは、磁気記録媒体としたときに磁性層を設ける側の表面平滑性を一層向上させるために、芳香族ポリエステル組成物(B)からなるフィルム層(I)に、無水マレイン酸共重合ポリスチレン(A)を含有しないか、またはその含有量が芳香族ポリエステル組成物(B)より少ない芳香族ポリエステル組成物(D)からなるフィルム層(II)を積層することができる。この積層フィルムを磁気記録媒体に用いる場合、フィルム層(II)を磁性層を設ける側として用いると、表面平滑性が一層優れ好ましい。フィルム層(I)と(II)の厚み比率は特に制限されないが、フィルム層(I)の比率を高くすると、より湿度寸法安定性が向上して好ましく、フィルム層(II)の比率を高くすると、より表面平滑性が向上して好ましい。
【0025】
また、フィルム層(I)と(II)は、4層以上積層した多層積層フィルムとすることもできる。このときフィルム層(I)とフィルム層(II)の積層構成は特に制限されないが、通常は交互に積層され、本発明の目的を阻害しない範囲で、他の樹脂からなるフィルム層が積層されていても良い。
【0026】
<ヤング率>
本発明の二軸配向フィルムは、フィルムの製膜方向(以下、縦方向、長手方向またはMD方向と称することがある。)および幅方向(以下、横方向またはTD方向と称することがある。)のヤング率がともに4.5GPa以上であることが好ましい。どちらか一方でもヤング率が下限よりも小さいと、湿度変化による寸法変化が小さくても、磁気記録媒体としたときにかかる負荷に耐えられなかったり、温度変化による寸法変化が大きくなったりしてしまうことがある。また、製膜方向と幅方向のヤング率の和は、22GPa以下であることが好ましい。製膜方向のヤング率と幅方向のヤング率の和が、上限を超えると、フィルム製膜時、延伸倍率が過度に高くなり、フィルム破断が多発し、製品歩留りが著しく悪くなる。好ましい製膜方向と幅方向のヤング率の和の上限は、20GPa以下、さらに18GPa以下である。
【0027】
ところで、リニアトラック方式の磁気テープ用として供する場合、製膜方向の伸びを少なくする観点からは、製膜方向のヤング率が幅方向のヤング率より大きいことが好ましい。好ましいヤング率は、製膜方向のヤング率が幅方向のヤング率より大きく、製膜方向のヤング率が6GPa以上、7GPa以上、特に8GPa以上であり、幅方向のヤング率が、5GPa以上、さらには6GPa以上、特に7GPa以上である。また、幅方向の伸びを極めて少なくする観点からは、幅方向のヤング率が製膜方向のヤング率より大きいことが好ましい。好ましいヤング率は、幅方向のヤング率が製膜方向のヤング率より大きく、幅方向のヤング率が7GPa以上、8GPa以上、特に9GPa以上であり、製膜方向のヤング率が、5GPa以上、さらには6GPa以上、特に7GPa以上である。さらにまた、製膜方向と幅方向の伸びをともに少なくする観点からは、製膜方向のヤング率と幅方向のヤング率との差が2GPa以下、特に1GPa以下で、製膜方向のヤング率が6GPa以上、7GPa以上、特に8GPa以上であり、幅方向のヤング率が、6GPa以上、さらには7GPa以上、特に8GPa以上であることが好ましい。
【0028】
<湿度膨張係数>
本発明の二軸配向フィルムは、フィルムの幅方向の湿度膨張係数αhが0.1×10−6〜13×10−6/%RHの範囲にあることが好ましい。好ましいαhは、0.5×10−6〜10×10−6/%RH、特に1×10−6〜8×10−6/%RHの範囲である。αhを下限よりも小さくするには、過度に無水マレイン酸共重合ポリスチレン(A)やポリスチレン(C)を存在させたりすることになり、製膜性が低下する。一方、上限を超えると、湿度変化によってフィルムが伸びてしまい、トラックずれなどを惹起することがある。このようなαhは、測定方向のヤング率を延伸により向上させ、かつ無水マレイン酸共重合ポリスチレン(A)および必要に応じて含有させるポリスチレン(C)の含有量を、前述の範囲とすることで達成される。なお、説明の便宜上、10−6/%RHをppm/%RHと称することがある。
【0029】
<温度膨張係数>
本発明の二軸配向フィルムは、フィルムの幅方向の温度膨張係数αtが−10×10−6〜+15×10−6/℃の範囲にあることが好ましい。より好ましいαtは、−8×10−6〜+10×10−6/℃、特に−5×10−6〜+5×10−6/℃の範囲である。αtが下限よりも小さいと、磁気記録媒体としたときの温度変化に対する寸法変化が、磁気ヘッドに対し相対的に収縮方向に大きくずれてしまい、一方上限を超えると、逆に磁気ヘッドに対し相対的に膨張方向に大きくずれてしまうため、いずれの場合もトラックずれなどを惹起することがある。このようなαtは、測定方向のヤング率を延伸により適度に向上させ、かつ無水マレイン酸共重合ポリスチレン(A)および必要に応じて含有させるポリスチレン(C)の含有量を前述の範囲内にすることによって達成される。なお、説明の便宜上、10−6/℃をppm/℃と称することがある。
【0030】
<フィルム厚み>
本発明の二軸配向フィルムは、フィルム全体の厚みが2〜10μm、さらに3〜7μm、特に3.5〜6μmであることが好ましい。この厚みが上限を超えると、テープ厚みが厚くなりすぎ、例えばカセットに入れるテープ長さが短くなったりして、十分な磁気記録容量が得られないことがある。一方、下限未満ではフィルム厚みが薄すぎて、フィルム製膜時にフィルム破断が多発したり、またフィルムの巻取性が不良となったりすることがある。
【0031】
<製膜方法>
本発明の二軸配向フィルムは、以下の方法にて製造するのが好ましい。
本発明の二軸配向フィルムは、上述の無水マレイン酸共重合ポリスチレン(A)を含有する芳香族ポリエステル組成物(B)を原料とし、溶融押出し法によって製造することができる。すなわち、芳香族ポリエステル組成物(B)を乾燥後、300℃程度に加熱された押出機に供給し、ダイに展開して押出す。また、芳香族ポリエステル組成物(B)からなるフィルム層(I)と芳香族ポリエステル組成物(D)からなるフィルム層(II)の積層フィルムとする場合には、フィルム層(I)を構成する組成物とフィルム層(II)を構成する組成物をそれぞれ別の押出機に供給し、所定の積層数に応じたフィードブロックを用いて積層すると良い。そして、ダイから押し出されたシート状物を、テンター法、インフレーション法など公知の製膜方法を用いて製造することができる。
【0032】
具体的には、芳香族ポリエステルの融点(Tm:℃)ないし(Tm+70)℃の温度で押出し、急冷固化して未延伸フィルムとし、さらに該未延伸フィルムを一軸方向(縦方向または横方向)に(Tg−10)〜(Tg+70)℃の温度(但し、Tg:芳香族ポリエステル(a)のガラス転移温度)で所定の倍率に延伸し、次いで上記延伸方向と直角方向(一段目が縦方向の場合には二段目は横方向となる)にTg〜(Tg+70)℃の温度で所定の倍率に延伸し、さらに熱処理する方法を用いて製造することができる。その際延伸倍率、延伸温度、熱処理条件等は上記フィルムの特性から選択、決定される。面積延伸倍率は15〜40倍、さらには20〜35倍にするのが好ましい。熱固定温度は190〜250℃の範囲内から、また処理時間は1〜60秒の範囲内から決めるとよい。
【0033】
かかる逐次二軸延伸法のほかに、同時二軸延伸法を用いることもできる。また逐次二軸延伸法において縦方向、横方向の延伸回数は1回に限られるものではなく、縦−横延伸を数回の延伸処理により行うことができ、その回数に限定されるものではない。例えば、さらに機械特性を上げたい場合には、熱固定処理前の上記二軸延伸積層フィルムについて、(Tg+20)〜(Tg+70)℃の温度で熱処理し、さらにこの熱処理温度より10〜40℃高い温度で縦方向または横方向に延伸し、続いてさらにこの延伸温度より20〜50℃高い温度で横方向または縦方向に延伸し、縦方向の場合総合延伸倍率を3.0〜7.0倍、横方向の場合総合延伸倍率を3.0〜8.0倍にとすることが好ましい。
また、塗布層を設ける場合、前記した積層未延伸フィルムまたは積層一軸延伸フィルムの片面または両面に所望の塗布液を塗布するのが好ましい。
【0034】
<磁気記録媒体>
本発明の上記二軸配向フィルムは、その片面に磁性層を設けることにより、磁気記録媒体のベースフィルムとして好ましく用いられる。なお、積層フィルムの場合、磁性層を形成する面は、二軸配向積層フィルムのより平坦な方の表面であることが好ましい。
磁気記録媒体としては、特に限定されないが、例えば、QICやDLTさらには高容量タイプであるS−DLTやLTO等のリニアトラック方式のデータストレージテープが挙げられる。なお、ベースフィルムが温湿度変化による寸法変化が極めて小さいので、テープの高容量化を確保するためにトラックピッチを狭くしてもトラックずれを引起こし難く、高密度高容量に好適な磁気記録媒体となる。
【実施例】
【0035】
以下、実施例に基いて本発明をさらに説明する。なお、本発明における種々の物性値および特性は、以下のようにして測定されたものであり、かつ定義される。
【0036】
(1)ヤング率
フイルムを試料幅10mm、長さ15cmに切り、チャック間100mmにして引張速度10mm/min、チャート速度500mm/minでインストロンタイプの万能引張試験装置にて引張り、得られる荷重−伸び曲線の立上り部の接線よりヤング率を計算する。ヤング率は10回測定し、その平均値を用いた。
【0037】
(2)温度膨張係数(αt)
得られたフィルムから幅4mmのサンプルを切り出し、チャック間長さ20mmとなるように、セイコーインスツル製TMA/SS6000にセットし、窒素雰囲気下(0%RH)、80℃で30分前処理し、その後室温まで降温させた。その後30℃から80℃まで2℃/minで昇温して、各温度でのサンプル長を測定し、次式より温度膨張係数(αt)を算出した。なお、5回測定し、その平均値を用いた。
αt={(L60−L40)/(L40×△T)}+0.5×10−6
ここで、上記式中のL40は40℃のときのサンプル長(mm)、L60は60℃のときのサンプル長(mm)、△Tは20(=60−40)℃、0.5×10−6/℃は石英ガラスの温度膨張係数(αt)である。
【0038】
(3)湿度膨張係数(αh)
得られたフィルムから幅5mmのサンプルを切り出し、チャック間長さ15mmとなるように、ブルカーAXS製TMA4000SAにセットし、30℃の窒素雰囲気下で、湿度20%RHと湿度80%RHにおけるそれぞれのサンプルの長さを測定し、次式にて湿度膨張係数(αh)を算出した。なお、5回測定し、その平均値をαhとした。
αh=(L80−L20)/(L20×△H)
ここで、上記式中のL20は20%RHのときのサンプル長(mm)、L80は80%RHのときのサンプル長(mm)、△H:60(=80−20)%RHである。
【0039】
(4)ガラス転移点および融点
芳香族ポリエステルまたはポリオレフィン10mgを、測定用のアルミニウム製パンに封入し、DSC(TAインスツルメンツ社製、Q100)を用いて25℃から300℃まで20℃/minの昇温速度で測定し、それぞれの融点およびそれぞれのガラス転移点を求めた。
【0040】
(5)トラックずれ
下記に示す組成物をボールミルに入れ、16時間混練、分散した後、イソシアネート化合物(バイエル社製のデスモジュールL)5重量部を加え、1時間高速剪断分散して磁性塗料とした。
磁性塗料の組成:
針状Fe粒子 100重量部
塩化ビニル― 酢酸ビニル共重合体 15重量部
(積水化学製エスレック7A)
熱可塑性ポリウレタン樹脂 5重量部
酸化クロム 5重量部
カーボンブラック 5重量部
レシチン 2重量部
脂肪酸エステル 1重量部
トルエン 50重量部
メチルエチルケトン 50重量部
シクロヘキサノン 50重量部
この磁性塗料を、得られた二軸配向積層フィルムの一方の表面に乾燥後の塗布厚さ0.5μmとなるように塗布し、次いで2,500ガウスの直流磁場中で配向処理を行い、100℃で加熱乾燥後、スーパーカレンダー処理(線圧2,000N/cm、温度80℃)を行い、巻き取った。この巻き取ったロールを55℃のオーブン中に3日間放置した。
さらに下記組成のバックコート層塗料を、二軸配向積層フィルムの他方の表面に、乾燥後の厚さが1μmとなるように塗布し、乾燥させ、さらに12.65mm(=1/2インチ)に裁断し、磁気テープを得た。
バックコート層塗料の組成:
カーボンブラック 100重量部
熱可塑性ポリウレタン樹脂 60重量部
イソシアネート化合物 18重量部
( 日本ポリウレタン工業社製コロネートL)
シリコーンオイル 0.5重量部
メチルエチルケトン 250重量部
トルエン 50重量部
このようにして得られた磁気テープを、恒温恒湿槽内へ入れ、長手方向に1Nの張力を掛けた状態で各環境(環境A:10℃10%RH、環境B:29℃80%RH)にて5時間静置した後、それぞれレーザー寸法測定機によって幅を測定した。そして、下記式によりトラックずれ率を算出した。
トラックずれ率(ppm)=((LB−LA)/LA)*10−7×(29−10)
上記式中のLBは環境Bで測定した幅、LAは環境Aで測定した幅、7は磁気ヘッドの温度膨張係数(ppm)、(29−10)(℃)は温度の変化量である。ちなみに、磁気ヘッドの湿度膨張係数は0ppm/%RHとした。
そして、トラックずれ率は絶対値が少ないほど、トラックズレが良好であり、以下の基準により評価した。
◎ : ずれ幅250ppm未満(トラックずれ極めて良好)
○ : ずれ幅250ppm以上、360ppm未満(トラックずれ良好)
× : ずれ幅360ppm以上(トラックずれ不良)
【0041】
(6)各層の厚み
積層フィルムを3角形に切り出し、包埋カプセルに固定後、エポキシ樹脂にて包埋する。ミクロトーム(ULTRACUT−S)で、製膜方向と厚み方向とに平行な方向にカットして、厚み50nm薄膜切片にする。そして、透過型電子顕微鏡を用い、加速電圧1000kvにて観察し、倍率1万倍〜10万倍で撮影し、写真より各層の厚みを測定した。
【0042】
[実施例1]
融点(Tm)269℃のポリエチレン−2,6−ナフタレート(PEN)を160℃で5時間乾燥後、無水マレイン酸が23モル%共重合された無水マレイン酸共重合ポリスチレン(Polyscope社製、Xiran−SZ23001)と重量比で95:5となるようにブレンドして、フィルム層(I)に用いる芳香族ポリエステル組成物(B)として調整した。そして、フィルム層(I)のポリマーを押し出し機に供給して溶融し、フィードブロック装置を使用して積層し、ダイへと導き、キャスティングドラム上にキャストして未延伸シートを作成した。なお、ダイから押し出された積層未延伸シートは、表面仕上げ0.3S、表面温度60℃に保持したキャスティングドラム上で急冷固化せしめて、未延伸フィルムとされた。
この未延伸フィルムを90℃にて予熱し、さらに低速、高速のロール間で14mm上方より830℃の表面温度の赤外線ヒーターにて加熱してフィルムの製膜方向に4.7倍に延伸し、急冷し、続いてステンターに供給し、125℃にて横方向に6.5倍延伸した。さらに引き続いて210℃で10秒間熱固定した後、120℃にて横方向に1.0%弛緩処理をし、厚み5.0μmの二軸配向フィルムを得た。得られた二軸配向フィルムの特性を表1に示す。
【0043】
[実施例2および3]
PENと無水マレイン酸共重合ポリスチレンとの重量比を、表1に示すとおり、実施例2は98:2、実施例3は90:10に変更したほかは、実施例1と同様な操作を繰り返した。得られた二軸配向フィルムの特性を表1に示す。
【0044】
[実施例4および5]
PENと無水マレイン酸共重合ポリスチレンのほかに、無水マレイン酸の共重合されていないシンジオタクチックポリスチレン(出光興産株式会社製、XAREC90ZC)も加え、PENと無水マレイン酸共重合ポリスチレンと無水マレイン酸の共重合されていないシンジオタクチックポリスチレンとの重量比を、表1に示すとおり、実施例4は85:5:10、実施例5は92:5:3に変更したほかは、実施例1と同様な操作を繰り返した。得られた二軸配向フィルムの特性を表1に示す。
【0045】
[実施例6および7]
Polyscope社製、Xiran−SZ23001の代わりに、表1に示すとおり、実施例6は無水マレイン酸が18モル%共重合された無水マレイン酸共重合ポリスチレンを、実施例7は無水マレイン酸が30モル%共重合された無水マレイン酸共重合ポリスチレンを用いたほかは、実施例1と同様な操作を繰り返した。得られた二軸配向フィルムの特性を表1に示す。
【0046】
[実施例8]
融点(Tm)258℃のポリエチレンテレフタレート(PET)を160℃で3時間乾燥後、無水マレイン酸が23モル%共重合された無水マレイン酸共重合ポリスチレン(Polyscope社製、Xiran−SZ23001)と重量比で95:5となるようにブレンドして、フィルム層(I)に用いる芳香族ポリエステル組成物(B)として調整した。そして、フィルム層(I)のポリマーを押し出し機に供給して溶融し、フィードブロック装置を使用して積層し、ダイへと導き、キャスティングドラム上にキャストして未延伸シートを作成した。なお、ダイから押し出された積層未延伸シートは、表面仕上げ0.3S、表面温度60℃に保持したキャスティングドラム上で急冷固化せしめて、未延伸フィルムとされた。
この未延伸フィルムを75℃にて予熱し、さらに低速、高速のロール間で14mm上方より800℃の表面温度の赤外線ヒーターにて加熱してフィルムの製膜方向に4.3倍に延伸し、急冷し、続いてステンターに供給し、110℃にて横方向に6.0倍延伸した。さらに引き続いて210℃で10秒間熱固定した後、120℃にて横方向に1.0%弛緩処理をし、厚み5.0μmの二軸配向フィルムを得た。得られた二軸配向フィルムの特性を表1に示す。
【0047】
[実施例9]
実施例1で作成したフィルム層(I)に用いる芳香族ポリエステル組成物(B)と、PENを、160℃で5時間乾燥させ、フィルム層(II)に用いる芳香族ポリエステル組成物(D)とを調整した。これらのフィルム層(I)および(II)のポリマーを押し出し機に供給して溶融し、フィードブロック装置を使用して積層し、ダイへと導き、キャスティングドラム上にキャストして層(I)と層(II)が積層された未延伸シートを作成した。このとき、層(I)と層(II)のポリマーの押し出し量比が7:3になるように調整したほかは、実施例1と同様な操作を繰り返して、厚み5.0μmの二軸配向積層フィルムを得た。得られた二軸配向積層フィルムの特性を表1に示す。
【0048】
[実施例10]
実施例8で作成したフィルム層(I)に用いる芳香族ポリエステル組成物(B)と、PETを、160℃で5時間乾燥させ、フィルム層(II)に用いる芳香族ポリエステル組成物(D)とを調整した。これらのフィルム層(I)および(II)のポリマーを押し出し機に供給して溶融し、フィードブロック装置を使用して積層し、ダイへと導き、キャスティングドラム上にキャストして層(I)と層(II)が積層された未延伸シートを作成した。このとき、層(I)と層(II)のポリマーの押し出し量比が9:1になるように調整したほかは、実施例8と同様な操作を繰り返して、厚み5.0μmの二軸配向積層フィルムを得た。得られた二軸配向積層フィルムの特性を表1に示す。
【0049】
[実施例11]
実施例10において、フィルム層(I)に用いる芳香族ポリエステル組成物(B)を、ポリエチレンテレフタレート(PET)と無水マレイン酸共重合ポリスチレンとの重量比95:5の組成物から、表1に示すとおり、ポリエチレンテレフタレート(PET)と無水マレイン酸共重合ポリスチレンとポリエーテルイミド(GE社製、ウルテム1010)の重量比90:5:5の組成物に変更したほかは、実施例10と同様な操作を繰り返して、厚み5.0μmの二軸配向積層フィルムを得た。得られた二軸配向積層フィルムの特性を表1に示す。
【0050】
[比較例1]
無水マレイン酸共重合ポリスチレンを、Polyscope社製、Xiran−SZ23001から、無水マレイン酸を10モル%共重合したNova Chemicals社製、商品名:DYLARK232に変更したほかは、実施例1と同様にして二軸配向フィルムを得た。得られた二軸配向フィルムの特性を表1に示した。
【0051】
[比較例2]
無水マレイン酸共重合ポリスチレンとPENの割合を表1に示したとおり変更したほかは、比較例1と同様にして二軸配向フィルムを得た。得られた二軸配向フィルムの特性を表1に示した。
【0052】
[比較例3]
比較例1において、PENと無水マレイン酸共重合ポリスチレンのほかに、無水マレイン酸の共重合されていないシンジオタクチックポリスチレン(出光興産株式会社製、XAREC90ZC)も加え、PENと無水マレイン酸共重合ポリスチレンと無水マレイン酸の共重合されていないシンジオタクチックポリスチレンとの重量比を、表1に示すとおり、90:5:5に変更したほかは、同様な操作を繰り返した。得られた二軸配向フィルムの特性を表1に示す。
【0053】
[比較例4]
無水マレイン酸共重合ポリスチレンを含有させなかったほかは、実施例1と同様にして二軸配向フィルムを得た。得られた二軸配向フィルムの特性を表1に示した。
【0054】
[比較例5]
PENと無水マレイン酸共重合ポリスチレンとの割合を表1に示したとおり、85:15に変更したほかは、実施例1と同様にして二軸配向フィルムを得た。得られた二軸配向フィルムの特性を表1に示した。
【0055】
[比較例6]
無水マレイン酸共重合ポリスチレンを、Polyscope社製、Xiran−SZ23001から、無水マレイン酸を35モル%共重合した無水マレイン酸共重合ポリスチレンに変更したほかは、実施例1と同様な操作を繰り返した。ただ、二軸配向フィルムを製膜しようとしたところ、ゲル化による影響か、未延伸フィルムの厚み斑がひどく、延伸以降の操作は取りやめた。結果を表1に示す。
【0056】
【表1】

【0057】
ここで、表1中の、MPstは無水マレイン酸共重合ポリスチレン、PENはポリエチレン−2,6−ナフタレンジカルボキシレート、PETはポリエチレンテレフタレート、SPSはシンジオタクチックポリスチレン、PEIはポリエーテルイミド、MDは製膜方向、TDは幅方向を意味する。
【産業上の利用可能性】
【0058】
本発明の二軸配向積層フィルムは、従来のポリエステルフィルムに比べ、ヤング率などに基づく寸法安定性は維持しつつ、湿度変化に対する寸法変化を小さくすることができ、しかも表面平滑性も優れることから、磁気記録媒体のベースフィルムとして好適に使用でき、特にQICやDLTさらに高容量タイプであるS−DLTやLTO等のリニアトラック方式のデータストレージテープのベースフィルムとして好適に利用できる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
無水マレイン酸共重合ポリスチレン(A)を含有する芳香族ポリエステル組成物(B)からなるフィルム層(I)を有する二軸配向フィルムであって、
無水マレイン酸共重合ポリスチレン(A)における無水マレイン酸単位の割合が、無水マレイン酸共重合ポリスチレン(A)の繰り返し単位のモル数を基準として、15〜30モル%の範囲であり、かつ、芳香族ポリエステル組成物(B)の質量を基準として、無水マレイン酸共重合ポリスチレン(A)の割合が1〜10質量%の範囲である二軸配向フィルム。
【請求項2】
芳香族ポリエステル組成物(B)が、無水マレイン酸の共重合割合が10モル%以下のポリスチレン(C)を、芳香族ポリエステル組成物(B)の質量を基準として、1〜10質量%の範囲で含有する請求項1記載の二軸配向フィルム。
【請求項3】
ポリスチレン(C)がシンジオタクチック構造を有するポリスチレンである請求項2記載の二軸配向フィルム。
【請求項4】
二軸配向フィルムが、フィルム層(I)と、無水マレイン酸共重合ポリスチレン(A)を含有しないか、またはその含有量が芳香族ポリエステル組成物(B)よりも少ない芳香族ポリエステル組成物(D)からなるフィルム層(II)とを積層した二軸配向積層フィルムである、請求項1記載の二軸配向フィルム。
【請求項5】
フィルム層(I)と(II)とを全層数で少なくとも4層積層した、請求項4記載の二軸配向フィルム。
【請求項6】
芳香族ポリエステルがエチレンテレフタレートまたはエチレン−2,6−ナフタレンジカルボン酸を主たる繰り返し単位とする芳香族ポリエステルである請求項1記載の二軸配向フィルム。
【請求項7】
フィルム厚みが2〜10μmの範囲にある請求項1記載の二軸配向フィルム。
【請求項8】
磁気記録媒体のベースフィルムとして用いる請求項1〜7のいずれかに記載の二軸配向フィルム。

【公開番号】特開2013−23530(P2013−23530A)
【公開日】平成25年2月4日(2013.2.4)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−158099(P2011−158099)
【出願日】平成23年7月19日(2011.7.19)
【出願人】(301020226)帝人デュポンフィルム株式会社 (517)
【Fターム(参考)】