説明

二軸配向ポリエステルフィルムおよびその製造方法

【課題】260℃という高温下での機械的強度および寸法安定性が非常に高い二軸配向ポリエステルフィルムを提供する。
【解決手段】ポリエチレンナフタレンジカルボキシレートを主たる成分とする二軸配向ポリエステルフィルムであって、該フィルムの粘弾性測定における260℃の貯蔵弾性率がフィルム長手方向および幅方向においていずれも500MPa以上であり、かつ260℃、10分間熱処理したときのフィルム長手方向および幅方向の熱収縮率がともに0.5%以下である二軸配向ポリエステルフィルムによって達成される。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は二軸配向ポリエステルフィルムおよびその製造方法に関する。更に詳しくは、高温下での耐熱寸法安定性および機械的強度の優れたポリエチレンナフタレンジカルボキシレートからなる二軸配向ポリエステルフィルムおよびその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、電気あるいは電子回路の小型化の要求に伴い、これら各種用途の構成部材についても小型化や実装化が進んでおり、更なる耐熱性が要求されるようになってきた。また、自動車用途においては、運転室内での使用のみならず、エンジンルーム内にまで使用範囲が拡大しており、より高温下での寸法安定性に適した構成部材が要求されている。
【0003】
例えばフレキシブル回路基板に着目してみると、フレキシブル回路は可撓性を有する基板上に電気回路を配置してなるものであり、基板となるフィルムに金属箔を貼りあわせたり、メッキ等を施した後にエッチングを行い回路を形成し、加熱処理、回路部品の実装等が行われ作成されるものである。従来、フレキシブル回路基板用フィルムとしては、回路との密着性、回路部品実装時のハンダ付けでの耐熱性等が良好であるとの理由からポリイミド(以下「PI」と称する場合がある)フィルムが一般的に使用されてきた。
【0004】
フレキシブル回路の小型化、高密度化が要求される一方で、基板材料に対してより廉価な材料が求められている。ポリエチレンテレフタレート(以下「PET」と称することがある)フィルムは廉価であり、また耐薬品性、絶縁性等が良好であるとの理由から一部で使用されている。しかしながら、最近の高密度化した回路基板フィルムとしては耐熱性が十分でないことがあった。また、環境対応の点から、最近鉛フリーハンダが使用されつつあり、鉛フリーハンダリフロー工程では従来のフローハンダに比べてハンダ付け温度を高くすることがあり、PETフィルムでは依然として耐熱性が不足する。
【0005】
このような背景から、PIフィルムやPETフィルムに代わるプラスチックフィルムの探索が行われており、耐熱性を有するプラスチックフィルムの中では比較的安価なポリエチレンナフタレート(以下「PEN」と称することがある)フィルムが検討されている。
例えば、特許文献1にはフレキシブル回路基板用フィルムをPENフィルムにすることが提案されている。しかしながら、最近の回路の高密度化に対して要求されている高温下での寸法安定性が不足するため、このままでは回路部品実装工程でのハンダ付け後にフィルムにシワが入ったり、回路の平面性が崩れ凹凸が発生することがある。
【0006】
ポリエチレンナフタレートフィルムの耐熱寸法安定性を高める方法として、例えば特許文献2には、フィルムに熱弛緩処理を施すことによって200℃で10分間加熱処理したときの熱収縮率がフィルムの長手方向および幅方向共それぞれ1.5%以下であり、230℃で10分間加熱処理したときの熱収縮率がフィルムの長手方向および幅方向共それぞれ2.0%以下であるPENフィルムが得られることが記載されている。また特許文献3には、熱弛緩処理方法を特定の条件で行うことにより、200℃で10分間加熱処理した際にフィルム長手方向に0%以上1%以下収縮し、かつ幅方向に0%以上0.5%以下伸張するPENフィルムが得られることが記載されている。
【0007】
これらの先行技術は、いずれもポリエチレンナフタレートの融点自体を高くすることまでは着目しておらず、200℃、230℃といった温度域での寸法安定性を向上させる技術である。それに対し、ポリエチレンナフタレートの高融点化により、従来のポリエチレンナフタレートの融点を超える260℃の高温域でのフィルム寸法安定性を高める技術も検討されてきており、特許文献4では260℃、10分間熱処理したときの熱収縮率が1.5%以下である二軸配向PENフィルムが、また特許文献5では260℃、10分間熱処理したときの熱収縮率が1.5%を超えて5.0%以下である二軸配向PENフィルムが提案されている。
【0008】
しかしながら、例えばフレキシブル回路基板に適用する場合、高温下での寸法安定性と同時に高温下でのフィルムの機械強度を確保することが肝要であるが、260℃程度の温度での収縮を十分に抑え、かつ機械的強度についても満足するPENフィルムは未だ提供されていないのが現状である。また、ハンダ加工においては、使用するハンダの種類にもよるが、通常240〜260℃の温度で加工するため、260℃での優れた熱収縮率特性と機械特性と同時に、PENフィルムの融点のさらなる向上が求められているのが現状である。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0009】
【特許文献1】特開昭62−93991号公報
【特許文献2】特開平11−168267号公報
【特許文献3】特開2001−191405号公報
【特許文献4】特開2006−316217号公報
【特許文献5】特開2006−316218号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
本発明の目的は、上述の従来技術の課題を解決し、260℃という高温下での機械的強度および寸法安定性が非常に高い二軸配向ポリエステルフィルムを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明者らは、前記課題を解決するために鋭意検討した結果、ポリエチレンナフタレンジカルボキシレートを主たる成分とするフィルムを配向結晶化させ、その配向状態を保ちながら従来行われていなかった高温かつ長時間の熱処理をフィルムに施すことにより、結晶化度を著しく向上させることができること、その結果、融点の大幅向上かつ高温での配向状態緩和を抑えることができ、260℃という通常のポリエチレンナフタレートフィルムでは溶解するような高温環境下においても、機械的強度および寸法安定性が極めて優れた二軸配向ポリエステルフィルムが得られることを見出し、本発明を完成するに至った。
【0012】
すなわち本発明の目的は、ポリエチレンナフタレンジカルボキシレートを主たる成分とする二軸配向ポリエステルフィルムであって、該フィルムの粘弾性測定における260℃の貯蔵弾性率がフィルム長手方向および幅方向においていずれも500MPa以上であり、かつ260℃、10分間熱処理したときのフィルム長手方向および幅方向の熱収縮率がともに0.5%以下である二軸配向ポリエステルフィルムによって達成される。
【0013】
また、本発明の二軸配向エステルフィルムは、その好ましい態様として、フィルムの密度が1.362cm以上1.370g/cm以下であること、20℃/minの昇温条件でのDSC測定における融点(Tm)が280℃以上であること、20℃/minの昇温条件でのDSC測定における融解開始温度(Tms)が270℃以上であること、DSC測定における融点(Tm)と融解開始温度(Tms)の差が4℃以内であること、X線回折から求められる27°〜28°の範囲にピークの最大値があり、かつ該ピークの半値幅が1.0°以下であること、の少なくともいずれか一つを具備するものを包含する。
そして、本発明の二軸配向ポリエステルフィルムは、フレキシブル回路基板または太陽電池のベースフィルムに用いられることを包含するものである。
【0014】
さらに、本発明はポリエチレンナフタレンジカルボキシレートを主たる成分とする二軸配向ポリエステルフィルムの製造方法であって、フィルム長手方向および幅方向それぞれに2倍以上5倍以下で二軸延伸する工程、1秒以上100秒以下の熱固定処理を行う工程を含み、これらの工程の後に二軸配向ポリエステルフィルムの両端を固定した状態で255℃以上275℃以下の温度雰囲気下において180分以上2000分以下の長時間熱処理を行う工程を含む二軸配向ポリエステルフィルムの製造方法に関する。
【発明の効果】
【0015】
本発明の二軸配向ポリエステルフィルムは、従来のポリエチレンナフタレンジカルボキシレートフィルムに較べて結晶化度が大幅に向上し、粘弾性測定における260℃の貯蔵弾性率が500MPa以上と高強度であり、かつ260℃での熱収縮率が0.5%以下であるという従来にない高温寸法安定性および強度特性を有しているため、従来ポリイミドフィルムでなければ対応できなかった耐熱性が必要とされる用途に好適に用いることができる。例えば260℃での十分なハンダ加工耐性を有することから、フレキシブル回路基板用に用いることで、回路部品実装後の回路の平面性が従来のポリイミドフィルムと比べて同等のフィルムをより安価に提供できる。また太陽電池用基板フィルムとしても有用である。
【発明を実施するための形態】
【0016】
以下、本発明を詳しく説明する。
<ポリエチレンナフタレンジカルボキシレート>
本発明のフィルムを構成するポリエチレンナフタレンジカルボキシレートは、主たるジカルボン酸成分としてナフタレンジカルボン酸が用いられ、主たるグリコール成分としてエチレングリコールが用いられる。ナフタレンジカルボン酸としては、たとえば2,6−ナフタレンジカルボン酸、2,7−ナフタレンジカルボン酸、1,5−ナフタレンジカルボン酸を挙げることができ、これらの中で2,6−ナフタレンジカルボン酸が好ましい。ここで「主たる」とは、本発明のフィルムの成分であるポリマーの構成成分において全繰返し単位の少なくとも90mol%、好ましくは少なくとも95mol%を意味する。ポリエチレンナフタレンジカルボキシレートがコポリマーである場合、コポリマーを構成する共重合成分としては、分子内に2つのエステル形成性官能基を有する化合物を用いることができ、かかる化合物としては例えば、蓚酸、アジピン酸、フタル酸、セバシン酸、ドデカンジカルボン酸、イソフタル酸、テレフタル酸、1,4−シクロヘキサンジカルボン酸、4,4’−ジフェニルジカルボン酸、フェニルインダンジカルボン酸、2,7−ナフタレンジカルボン酸、テトラリンジカルボン酸、デカリンジカルボン酸、ジフェニルエーテルジカルボン酸等の如きジカルボン酸、p−オキシ安息香酸、p−オキシエトキシ安息香酸の如きオキシカルボン酸、あるいはトリメチレングリコール、テトラメチレングリコール、ヘキサメチレングリコール、シクロヘキサンメチレングリコール、ネオペンチルグリコール、ビスフェノールスルホンのエチレンオキサイド付加物、ビスフェノールAのエチレンオキサイド付加物、ジエチレングリコール、ポリエチレンオキシドグリコールの如き2価アルコールを好ましく用いることができる。これらの化合物は1種のみ用いてもよく、2種以上を用いてもよい。またこれらの中で、好ましくは酸成分としてイソフタル酸、テレフタル酸、4,4’−ジフェニルジカルボン酸、2,7−ナフタレンジカルボン酸、またはp−オキシ安息香酸であり、グリコール成分としてはトリメチレングリコール、ヘキサメチレングリコールネオペンチルグリコール、またはビスフェノールスルホンのエチレンオキサイド付加物が挙げられる。
【0017】
ポリエチレンナフタレンジカルボキシレートに混合できる他のポリエステルとして、ポリエチレンテレフタレート、ポリエチレンイソフタレート、ポリトリメチレンテレフタレート、ポリエチレン−4,4’−テトラメチレンジフェニルジカルボキシレート、ポリエチレン−2,7−ナフタレンジカルボキシレート、ポリトリメチレン−2,6−ナフタレンジカルボキシレート、ポリネオペンチレン−2,6−ナフタレンジカルボキシレート、ポリ(ビス(4−エチレンオキシフェニル)スルホン)−2,6−ナフタレンジカルボキシレート等を挙げることができ、これらの中でポリエチレンイソフタレート、ポリトリメチレンテレフタレート、ポリトリメチレン−2,6−ナフタレンジカルボキシレート、ポリ(ビス(4−エチレンオキシフェニル)スルホン)−2,6−ナフタレンジカルボキシレートが好ましい。これらの他のポリエステルをさらに混合する場合、1種であっても2種以上を併用してもよい。
【0018】
また、本発明のポリエチレンナフタレンジカルボキシレートは、例えば安息香酸、メトキシポリアルキレングリコールなどの一官能性化合物によって末端の水酸基および/またはカルボキシル基の一部または全部を封鎖したものであってよく、極く少量の例えばグリセリン、ペンタエリスリトール等の如き三官能以上のエステル形成性化合物で実質的に線状のポリマーが得られる範囲内で共重合したものであってもよい。
本発明のポリエチレンナフタレンジカルボキシレートは、従来公知の方法、例えばジカルボン酸とグリコールの反応で直接低重合度ポリエステルを得るか、あるいはジカルボン酸の低級アルキルエステルとグリコールとをエステル交換触媒を用いて反応させた後、重合触媒の存在下で重合反応を行う方法で得ることができる。
【0019】
<添加剤>
本発明のフィルムには添加剤として、例えば安定剤、滑剤、または難燃剤等を含有することができる。
フィルムに滑り性を付与するためには、不活性粒子を少量含有させることが好ましい。かかる不活性粒子としては、例えば球状シリカ、多孔質シリカ、炭酸カルシウム、アルミナ、二酸化チタン、カオリンクレー、硫酸バリウム、ゼオライトの如き無機粒子、あるいはシリコン樹脂粒子、架橋ポリスチレン粒子の如き有機粒子を挙げることができる。無機粒子は粒径が均一である等の理由で、天然品よりも合成品であることが好ましく、あらゆる結晶形態、硬度、比重、色の無機粒子を使用することができる。
【0020】
かかる不活性粒子の平均粒径は0.05〜5.0μmの範囲であることが好ましく、0.1〜3.0μmであることがさらに好ましい。また、不活性粒子の含有量は、フィルム重量を基準として0.001〜1.0重量%であることが好ましく、0.03〜0.5重量%であることがさらに好ましい。フィルムに添加する不活性粒子は、上記に例示した中から選ばれた単一成分でもよく、あるいは二成分以上を含む多成分でもよい。
不活性粒子の添加時期は、ポリエチレンナフタレンジカルボキシレートを製膜する迄の段階であれば特に制限はなく、例えば重合段階で添加してもよく、また製膜の際に添加してもよい。
【0021】
<貯蔵弾性率>
本発明の二軸配向ポリエステルフィルムは、粘弾性測定において、周波数10Hzで室温から270℃まで昇温速度5℃/分の条件で測定した場合の260℃における貯蔵弾性率の値が、フィルム長手方向(以下、フィルム連続製膜方法、縦方向、MD方向と称することがある)および幅方向(以下、フィルム長手方向と直交する方向、横方向、TD方向と称することがある)において、いずれも500MPa以上であることが必要である。かかる260℃における貯蔵弾性率は、好ましくは800MPa以上である。
【0022】
かかる貯蔵弾性率が下限値に満たない場合、260℃という高温下での機械的強度が足りないためにハンダ加工時に変形やふくれが生じ、ハンダ加工に適した十分な機械的強度が得られない。なお、260℃における貯蔵弾性率の上限値は高ければ高いほど好ましいが、2000MPaを超える範囲の特性を得ることは困難である。
かかる貯蔵弾性率特性を得るためには、ポリエチレンナフタレンジカルボキシレートを主たる成分とするフィルムを通常の延伸方法により配向結晶化させ、その配向状態を保ちながら、従来行われていなかった高温かつ長時間の熱処理、具体的には255〜275℃の温度で180〜2000分間、熱処理を施す方法が挙げられる。
【0023】
<熱収縮率>
本発明の二軸配向ポリエステルフィルムは、260℃、10分間熱処理したときのフィルム長手方向および幅方向の熱収縮率がともに0.5%以下である。かかる熱収縮率は、フィルム長手方向および幅方向ともに0.3%以下であることが好ましい。
260℃の温度で10分間加熱処理したときの熱収縮率が上限値を超える場合、例えばフレキシブル回路基板に用いる際に、金属箔を貼りあわせた後のキュアリング時のフィルムの寸法変化や印刷後の乾燥処理でのフィルムの寸法変化が大きくなるため、回路基板に反りやふくれが発生する。
【0024】
かかる熱収縮率特性を得る方法として、ポリエチレンナフタレンジカルボキシレートを主たる成分とするフィルムを通常の延伸方法により配向結晶化させ、その配向状態を保ちながら、従来行われていなかった高温かつ長時間の熱処理、具体的には255〜275℃の温度で180〜2000分間、熱処理を施す方法が挙げられる。
【0025】
<密度>
本発明の二軸配向ポリエステルフィルムは、フィルム密度が1.362g/cm以上1.370g/cm以下の範囲であることが好ましい。フィルムの密度は、より好ましくは1.365g/cm以上1.369g/cm以下である。密度が下限値に満たない場合、熱寸法安定性が不足することがある。一方、フィルムの密度が上限を超える場合、フィルムが脆くなることがある。これらの密度の範囲は、適切な熱処理温度及び熱処理時間によって得られる。
【0026】
<融点>
本発明の二軸配向ポリエステルフィルムは、サンプル量10mgを測定用のアルミニウム製パンに封入し、示差熱量計を用いた20℃/minの昇温条件でのDSC測定において、融点(Tmと称することがある)が280℃以上であることが好ましい。融点はより好ましくは285℃以上である。融点が下限値に満たない場合、高温下での機械的な強度が不足することがあり、例えば260℃でのハンダ加工時に変形やふくれを生ずることがある。これらの融点の範囲は、貯蔵弾性率特性と同様の熱処理温度及び熱処理時間によって得られる。
本発明の二軸配向ポリエステルフィルムの融点はより高い方が好ましいが、かかる熱処理温度及び熱処理時間を達成手段とするフィルム融点の上限値は高くても295℃である。
【0027】
また、本発明の二軸配向ポリエステルフィルムは、上記の条件でDSC測定した融解開始温度(Tms)が270℃以上であることが好ましい。ここで融解開始温度とは、DSC測定によって得られる融点とベースラインの交点を指す。融点のみが高くても融解開始温度が270℃に満たない場合には、270℃未満で結晶融解が始まり、高温下での機械的な強度が不足することがある。
さらに、DSC測定における融点(Tm)と融解開始温度(Tms)の差は4℃以内であることが好ましい。融点と融解開始温度の差が小さいほど結晶構造の均質性が高く、高温下での機械的な強度を高くすることができる。
【0028】
<X線回折強度比>
本発明の二軸配向ポリエステルフィルムは、X線回折から求められる27°〜28°の範囲にピークの最大値があり、かつ該ピークの半値幅が1.0°以下であることが好ましい。ここで27°〜28°の範囲にピークの最大値があるピークは、α晶の結晶におけるナフタレン面に起因するピークであり、そのピークより得られる半値幅から、下記式(1)より結晶の層厚を求めることができる。
結晶層厚(nm)=0.094*1.5418/(π/180)/I/cos(θ*(π/180)/2) ・・・(1)
(式中、θはピーク角度、Iはピークの半値幅をそれぞれ表わす)
【0029】
すなわち、ピーク半値幅が小さいほど結晶層厚が大きいことを示しており、ピーク半値幅が1.0°以下であるとフィルム中に含有する結晶のサイズおよび結晶化度が大きく、高温下での機械的な強度を確保できることから、例えば260℃でハンダ加工した際にフィルム形状を十分に保持することができる。一方、X線回折から求められる27°〜28°におけるピークの半値幅が1.0を超えると高温下での機械的な強度が不足することがある。これらのピーク半値幅は、貯蔵弾性率特性と同様の熱処理温度及び熱処理時間によって得ることができる。
【0030】
<フィルム厚み>
本発明の二軸配向ポリエステルフィルムの厚みは、好ましくは5〜100μmの範囲であり、さらに好ましくは10〜75μm、特に好ましくは12〜75μmである。フィルム厚みが下限値に満たない場合、例えばフレキシブル回路基板や太陽電池のベースフィルムとして用いる際にフィルムの絶縁性能が不足することがある。一方、フィルム厚みが上限値を超える場合、フィルムの耐屈曲性が不足することがあり、外力を加えられた場合にフィルムに割れが発生したり、折れた状態のまま戻らなくなることがある。
【0031】
<フィルムの固有粘度>
本発明の二軸配向ポリエステルフィルムは、フィルムの固有粘度が0.47〜1.10dl/gであることが好ましく、さらに好ましくは0.60〜0.90dl/gである。固有粘度が下限値に満たない場合、熱処理後にフィルムが脆くなることがあり、例えばフレキシブル回路基板や太陽電池のベースフィルムとして用いる際にベースフィルムとしての機械的強度が不足することがある。その他、フィルムを所定の大きさに裁断したり、回路部品実装のための固定用の穴を穿孔する時に端面にバリが発生することがある。また、フィルムの固有粘度が上限値を超える場合、ポリマー自体の固有粘度をかなり高くする必要があり、専用の設備が必要となるため生産コストが高くなることがある。
【0032】
<製膜方法>
本発明は、ポリエチレンナフタレンジカルボキシレートを主たる成分とする二軸配向ポリエステルフィルムの製造方法であり、フィルム長手方向および幅方向それぞれに2倍以上5倍以下で二軸延伸する工程、1秒以上100秒以下の熱固定処理を行う工程を含み、これらの工程の後に二軸配向ポリエステルフィルムの両端を固定した状態で255℃以上275℃以下の温度雰囲気下において180分以上2000分以下の長時間熱処理を行う工程を含む製造方法を用いることにより、本発明の貯蔵弾性率特性や熱収縮率特性を有する二軸配向ポリエステルフィルムを得ることができる。すなわち、本発明の二軸配向ポリエステルフィルムは、通常の方法により得た未延伸フィルム、すなわちポリエチレンナフタレンジカルボキシレートをフィルム状に溶融押出し、キャスティングドラムで冷却固化させて得られた未延伸フィルムを二軸延伸し、通常行われる短時間の熱固定処理を施した後、さらに本発明の貯蔵弾性率特性や熱収縮率特性を得るための達成手段にあたる高温、長時間での熱処理を施すことで得ることができる。
【0033】
具体的には、未延伸フィルムをポリエチレンナフタレンジカルボキシレートのガラス転移点(以下、Tgと称することがある)〜(Tg+60)℃の温度で縦方向、横方向それぞれに倍率2.0倍以上5.0倍以下、好ましくは2.5倍以上4.5倍以下、さらに好ましくは3.0倍以上4.5倍以下の延伸倍率で二軸延伸を行う。その後、通常の熱固定処理にあたる短時間の熱処理として、(Tg+130)〜(Tg+160)℃にて、1〜100秒程度の条件で行う。
【0034】
延伸は一般に用いられる方法、例えばロールによる方法やステンターを用いる方法で行うことができ、縦方向、横方向を同時に延伸してもよく、また縦方向、横方向に逐次延伸してもよい。また必要に応じて、通常の熱固定処理にあたる短時間の熱処理後にさらに弛緩処理を行ってもよい。
その後に、本発明の貯蔵弾性率特性や熱収縮率特性を得るための達成手段にあたる高温、長時間での熱処理として、ステンターなどの両端を固定できる設備により、255℃以上275℃以下、好ましくは260℃以上270℃以下の温度雰囲気下において、180分以上2000分以下の範囲で熱処理を実施する。また熱処理時間は、好ましくは480分以上1500分以下である。熱処理温度が低すぎると結晶成長が進まず、貯蔵弾性率、熱収縮率特性、融点の向上が不十分となり、一方で、熱処理温度が高すぎるとフィルムが融解する。また熱処理時間についても、処理時間が短すぎると結晶成長が進まないため、貯蔵弾性率、熱収縮率特性、融点の向上が十分でない。一方で、処理時間が長すぎると分子量低下、酸化劣化により熱処理後にフィルムが脆くなる。
【0035】
また、かかる長時間熱処理を行うに際し、フィルムの両端を固定することに加えて、さらに張力を付加してもよく、0〜10%程度までの割合で、縦ないしは横方向に延伸を適宜施してもよい。
【0036】
<用途>
本発明の二軸配向ポリエステルフィルムは、従来のポリエチレンナフタレンジカルボキシレートフィルムに較べて260℃という高温での耐熱寸法安定性および機械的強度に優れているため、従来ポリイミドフィルムでなければ対応できなかった耐熱性が必要とされる用途に好適に用いることができる。例えばフレキシブル回路基板のベースフィルムとして用いることで、回路部品実装後の回路の平面性が従来のポリイミドフィルムと比べて同等のフィルムをより安価に提供できる。また、太陽電池のベースフィルムとして有用である。
【実施例】
【0037】
以下、実施例により本発明を詳述するが、本発明はこれらの実施例のみに限定されるものではない。なお、各特性値は以下の方法で測定した。また、実施例中の部および%は、特に断らない限り、それぞれ重量部および重量%を意味する。
【0038】
(1)固有粘度
フィルムサンプルの固有粘度([η]dl/g)を、35℃のo−クロロフェノール溶液で測定した。
【0039】
(2)粘弾性測定における貯蔵弾性率
フィルムサンプルを幅3mm、長さ35mmに切り、オリエンテック(株)製のバイブロン装置(DDV−01FP)を用い、荷重3g、周波数10Hzで室温から270℃まで5℃/分で昇温して測定する。得られたチャートより150℃、200℃、260℃での貯蔵弾性率をそれぞれ求めた。
【0040】
(3)熱収縮率
フィルムサンプルに30cm間隔で標点をつけ、荷重をかけずに260℃の温度のオーブンで10分間熱処理を実施し、熱処理後の標点間隔を測定して、フィルム長手方向(MD方向)と幅方向(TD方向)において、それぞれ下記式(2)にて熱収縮率を算出した。
熱収縮率(%)=((L−L)/L)×100・・・(2)
(式中、Lは熱処理前の標点間距離、Lは熱処理後の標点間距離をそれぞれ示す。)
【0041】
(4)密度
硝酸カルシウム水溶液を用いて密度勾配管法にて測定した。
【0042】
(5)融点、融解開始温度、融解エンタルピー
セイコーインスツルメント社製DSC SSC5200を使用して、サンプル量10mgを測定用のアルミニウム製パンに封入し、20℃/minの昇温条件でDSC測定を行い、融解ピーク温度を求めてピーク温度を融点とした。また得られたチャートより融解エンタルピー、融点とベースラインの交点から融解開始温度を求めた。
【0043】
(6)X線回折ピーク角度、ピークの半値幅、結晶層厚
リガク(株)製のX線回折装置RINT2500HLを使用し、管電圧30KV,管電流45mA、スキャン速度で2θ/θスキャンを実施し、フィルムサンプルを測定した時に27°〜28°の範囲に出てくるピーク角度とピークの半値幅をそれぞれ測定した。得られたピークの最大値をピーク角度(θ)とし、ピーク角度(θ)とピークの半値幅(I)を用いて、下記式(1)より結晶層厚を求めた。
結晶層厚(nm)=0.094*1.5418/(π/180)/I/cos(θ*(π/180)/2) ・・・(1)
【0044】
(7)フィルム厚み
アンリツ(株)製の打点式厚み計を用いて、打点法でのフィルム厚み測定を行った。
【0045】
(8)銅張積層板のハンダ耐熱評価
JIS規格C6481に準じ、作成した銅張積層板の25mm×25mmの試験片を作成し、前処理(105℃、75分)を行い、銅箔面を下にして溶融はんだ浴上に浮かせ、246℃×10秒間処理を行い、その外観を下記の基準で評価した。同様の手順で、260℃×20秒間で処理を行った場合についても、その外観を下記の基準で評価した。
○: 銅張積層板に変形が見られず、外観に変化なし
△: フィルム基材と銅箔の間にふくれが見られるが、試験前の形態は保持している。
×: フィルム基材が部分融解し、試験前の形態は保持していない。
【0046】
[実施例1〜6、比較例1〜9]
ポリエチレン−2,6−ナフタレンジカルボキシレートに、平均粒径0.3μmのシリカ粒子をフィルム重量を基準として0.2重量%添加し、ダイスリットより溶融押出してキャスティングドラム上で冷却固化させ、未延伸フィルムを作成した。
この未延伸フィルムを表1に示す条件で縦方向(MD方向)、横方向(TD方向)の順で逐次二軸延伸し、240℃で2秒間熱固定処理を施し、二軸配向ポリエステルフィルムを得た。続いて得られた二軸配向ポリエステルフィルムを表1に示す条件で金枠で固定して熱処理を施し、厚みが50μmの二軸配向ポリエステルフィルムを作成した。
さらに、このフィルムの片面に接着剤を塗布し、1/2oz銅箔(18μm厚)を貼りつけ、フレキシブル回路基板用銅張積層板を作成した。
二軸配向ポリエステルフィルムの物性、およびフレキシブル回路基板用銅張積層板のハンダ耐熱性の評価結果を表1に示す。
【0047】
【表1】

【産業上の利用可能性】
【0048】
本発明の二軸配向ポリエステルフィルムは、従来のポリエチレンナフタレンジカルボキシレートフィルムに較べて結晶化度が大幅に向上し、粘弾性測定における260℃の貯蔵弾性率が500MPa以上と高強度であり、かつ260℃での熱収縮率が0.5%以下であるという従来にない高温寸法安定性および強度特性を有しているため、従来ポリイミドフィルムでなければ対応できなかった耐熱性が必要とされる用途に好適に用いることができる。例えば260℃での十分なハンダ加工耐性を有することから、フレキシブル回路基板用に用いることで、回路部品実装後の回路の平面性が従来のポリイミドフィルムと比べて同等のフィルムをより安価に提供できる。また太陽電池用基板フィルムとしても有用である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ポリエチレンナフタレンジカルボキシレートを主たる成分とする二軸配向ポリエステルフィルムであって、該フィルムの粘弾性測定における260℃の貯蔵弾性率がフィルム長手方向および幅方向においていずれも500MPa以上であり、かつ260℃、10分間熱処理したときのフィルム長手方向および幅方向の熱収縮率がともに0.5%以下であることを特徴する二軸配向ポリエステルフィルム。
【請求項2】
フィルムの密度が1.362cm以上1.370g/cm以下である請求項1に記載の二軸配向ポリエステルフィルム。
【請求項3】
20℃/minの昇温条件でのDSC測定における融点(Tm)が280℃以上である請求項1または2に記載の二軸配向ポリエステルフィルム。
【請求項4】
20℃/minの昇温条件でのDSC測定における融解開始温度(Tms)が270℃以上である請求項1〜3のいずれかに記載の二軸配向ポリエステルフィルム。
【請求項5】
DSC測定における融点(Tm)と融解開始温度(Tms)の差が4℃以内である請求項1〜4のいずれかに記載の二軸配向ポリエステルフィルム。
【請求項6】
X線回折から求められる27°〜28°の範囲にピークの最大値があり、かつ該ピークの半値幅が1.0°以下である請求項1〜5のいずれかに記載の二軸配向ポリエステルフィルム。
【請求項7】
フレキシブル回路基板または太陽電池のベースフィルムとして用いる請求項1〜6のいずれかに記載の二軸配向ポリエステルフィルム。
【請求項8】
ポリエチレンナフタレンジカルボキシレートを主たる成分とする二軸配向ポリエステルフィルムの製造方法であって、フィルム長手方向および幅方向それぞれに2倍以上5倍以下で二軸延伸する工程、1秒以上100秒以下の熱固定処理を行う工程を含み、これらの工程の後に二軸配向ポリエステルフィルムの両端を固定した状態で255℃以上275℃以下の温度雰囲気下において180分以上2000分以下の長時間熱処理を行う工程を含むことを特徴とする二軸配向ポリエステルフィルムの製造方法。

【公開番号】特開2011−94059(P2011−94059A)
【公開日】平成23年5月12日(2011.5.12)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−250547(P2009−250547)
【出願日】平成21年10月30日(2009.10.30)
【出願人】(301020226)帝人デュポンフィルム株式会社 (517)
【Fターム(参考)】