説明

二軸配向ポリエステルフィルム

【課題】セラミックスシート部材、電気絶縁部材(電気絶縁樹脂シート)、位相差板用シート部材、光学補償板用シート部材などの各種成形部材を成形するためのセパレータフィルムが帯電し、成型部材原料などの各種塗剤に対するはじきや斑が生じない様な、二軸配向ポリエステルセパレータフィルムを提供する。
【解決手段】上記課題は、フィルム表面の帯電転写痕の面積が、100cm当たり5cm以上30cm以下である二軸配向ポリエステルフィルムによって解決することができる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、成形部材原料など各種塗剤との適切な密着性および剥離特性を有する二軸配向ポリエステルフィルムに関する。
【背景技術】
【0002】
従来から、ポリエステルフィルムは優れた耐溶剤性、寸法安定性、剛性を有していることから、離型フィルムとして好適に使用されている。
【0003】
離型フィルムとは、セパレータフィルムとも呼ばれ、セラミックスシート部材、電気絶縁部材(電気絶縁樹脂シート)、位相差板用シート部材、光学補償板用シート部材などの各種成形部材を成形するための基材フィルムとして使用されるフィルムである。成形部材は、離型フィルム上に成形部材を構成するセラミックススラリー(チタン酸バリウムなどのスラリー)、エポキシ樹脂、ポリウレタン樹脂、ポリカーボネード樹脂、液晶ポリマーなど(以下、「成形部材原料」と総称することがある。)を塗布して成形層を形成し、これを固化させ、その後、当該成形層から離型フィルムを剥離することによって得られるものである。
【0004】
ここで、離型フィルムとしては従来から二軸配向ポリエステルフィルムが好適に用いられ、離型用二軸配向ポリエステルフィルムとしては、表面粗さや熱収縮率を規定したり(特許文献1)や、結晶サイズを規定したり(特許文献2)することによって離型フィルムとしての実用特性を高めたフィルムが提案されている。
【0005】
しかし、ポリエステルフィルムは電気絶縁性を有するため、フィルム製造工程や加工工程でスリッター搬送ロールとの接触、剥離などにより帯電し、離型フィルムの品質に関わる問題を生ずることがある。例えば静電気放電に起因するスタティックマークと呼ばれる、局所的に強い帯電痕や放電痕が存在すると、成形部材原料の塗布に際して成形部材原料のはじきや斑が生じる。また、フィルムの走行性を高めるために、コロナ処理などにより、意図的にフィルムの表面に電荷を与えることもあるが(特許文献4)、強い放電によってフィルム表面にダメージを受けたフィルムは、帯電バランスが適切でないために、放電痕と同じく、成形部材原料の塗布に際して成形部材原料のはじきや斑が生じるという問題がある。このような問題を改善する方法としては、除電電極を用いて、フィルムの帯電痕や放電痕を解消する手段が特許文献3に開示されているが、スリッター搬送系でのスペースの制約により、現実的ではないことがある。また、除電電極により、電荷をコントロールしたとしても、その後の搬送系において搬送ロール等との摩擦によって、フィルムは再度帯電してしまう。かかる帯電フィルム上に、成形部材原料を塗布すると、やはり成形部材原料のはじきや斑が生じてしまう。
【0006】
このようにフィルム表面の電荷が制御されていないフィルムを用いると、成形層の形成において成形部材原料のはじきや斑が生じやすく、成形部材としたときの欠陥の原因となったり、成形部材の表面の外観を損ねることとなる。
【特許文献1】特開平7−227903号公報
【特許文献2】特開平6−254959公報
【特許文献3】特開2007−119605号公報
【特許文献4】特開2001−59033号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
成型部材原料などの各種塗剤に対するはじきや斑の少ない二軸配向ポリエステルフィルムを提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明者は、上記実状に鑑み、鋭意検討した結果フィルム表面の帯電転写痕の面積が、100cm当たり5cm以上30cm以下である二軸配向ポリエステルフィルムに要旨を有する。
【発明の効果】
【0009】
本発明により、成形部材原料など各種塗剤との適切な密着性および剥離特性を有する二軸配向ポリエステルフィルムを提供する。
【発明を実施するための最良の形態】
【0010】
本発明の二軸配向ポリエステルフィルムは、離型フィルムとして好ましく使用される。離型フィルムの中には、基材となるポリエステルフィルムの上に離型層が設けられたフィルムもあるが、本発明のフィルムは、離型層を含まない離型フィルムとして好ましく使用することができる。
【0011】
これは、離型層を設けると、フィルムが帯電しやすくなるためである。離型層は一般に易滑性を有するため、巻き取り工程、巻き出し工程、成形部材原料の塗布工程などにおいて、フィルムとロール間などで摩擦帯電が発生しやすくなる。かかる帯電が発生すると、フィルムにごみなどの異物が付着しやすくなり、成形部材の欠陥の原因となる。
【0012】
すなわち、異物が成形部材へ直接転写して成形部材の欠陥の原因となるほか、離型層に異物が付着することによって、離型層の離型性が低下し、離型層の一部が成形部材に転写してしまうことがあるのである。このため、本発明の二軸配向ポリエステルフィルムは、離型層を設けないことが好ましい。なお、本発明において、離型層とは、成形層との剥離を容易に行うために付与される層であり、シリコーン樹脂および/またはフッ素系樹脂を用いてなる層を指す。
【0013】
本発明の二軸配向ポリエステルフィルムを離型フィルムとして使用する際、対象となる成形部材の種類は特に限定されないが、電気絶縁シート(電気絶縁樹脂シート)など電気絶縁用途に特に好適に用いることができる。
【0014】
これは、電気絶縁シートは、これを成形するための離型フィルムに異物が付着していると、重大な欠陥の原因となることから、離型フィルムの異物の管理レベルが非常に厳しいためである。すなわち、離型フィルムに異物が付着すると、絶縁機能が悪化(回路の短絡など)したり、回路を腐食させる原因になることがあるためである。また、電気絶縁シートの表面状態が悪化し、該シートを回路基板にラミネートした際、隙間が生じることで、回路の保護機能を担うことが出来なくなることもある。このため、異物の付着の少ない本発明のフィルムは、当該用途に特に好適に用いることができるものである。 なお、電気絶縁用離型フィルムとは、半導体パッケージ基板用ビルドアップ基板へ、電気絶縁樹脂を積層する際に使用されるフィルムである。電気絶縁シート部材の原料たる電気絶縁樹脂は、本発明の二軸配向ポリエステルフィルムに塗布され、固化された後、巻き取られ、次いで、真空ラミネーションする際に回路基板などの基材に転写される((株)加工技術研究会編集企画「コンバーティング・テクノロジー便覧」(株)加工技術研究会、2006年12月16日、p.314〜318)。
【0015】
ここで、電気絶縁樹脂とは、回路の絶縁に使用される樹脂であれば特に限定されるものではないが、エポキシ樹脂、ポリウレタン樹脂、シリコーン樹脂などが好適に用いられる。特に、本発明の二軸配向ポリエステルフィルムは、電気絶縁樹脂(成形部材原料)としてエポキシ樹脂が用いられる電気絶縁用離型フィルムとして使用されることが好ましい。
【0016】
本発明にて、帯電転写痕とは、フィルム表面に電荷を帯びたトナーを塗布した際に、トナーの付着により形成される帯電転写パターン(痕)である。かかる帯電転写痕の面積がフィルム100cm当たり5cm未満であると、成型層と離型フィルムとの密着性が良くなり過ぎ、剥離工程において剥離不良を起こし、成型部材を損傷させるため、100cm当たり5cm以上であること必要である。また、帯電転写痕の面積が100cm当たり30cmを超えると、成形部材原料を塗布する際の濡れ性が悪化し、成形部材原料のはじきや斑が生じ、フィルム剥離後の成形部材の表面形状を損傷させるため、30cm以下であることが必要である。
【0017】
本発明のポリエステルフィルムは、二軸配向ポリエステルフィルムであることが必要であるが、未延伸(未配向)フィルムを、常法により、逐次二軸配向または同時二軸配向することにより、二軸配向ポリエステルフィルムとすることができる。
【0018】
本発明の二軸配向ポリエステルフィルムを構成するポリエステル系樹脂には、酸成分として、テレフタル酸、イソフタル酸、フタル酸、ナフタレンジカルボン酸等の芳香族ジカルボン酸、アジピン酸、アゼライン酸、セバシン酸、デカンジカルボン酸等の脂肪族ジカルボン酸、シクロヘキサンジカルボン酸等の脂環族ジカルボン酸、さらにはトリメット酸などのトリカルボン酸等を用いることができ、アルコール成分として、エチレングリコール、ジエチレングリコール、ポリエチレングリコール、1,4−ブタンジオール、ネオペンチルグリコール、シクロヘキサンジメタノール、ポリテトラメチレングリコールなどを用いることができる。
【0019】
ポリエチレンテレフタレートの製造は、テレフタル酸など上記酸成分とエチレングリコールなど上記アルコール成分を原料とする直接重合法(直重法)、またはテレフタル酸ジメチル(DMT)など上記の酸成分とメタノールなどの低分子アルコールとのカルボン酸エステルと、エチレングリコールなど上記アルコールなどを原料とするDMT法のいずれであっても良い。DMT法の場合のエステル交換触媒としては、Ca、Li、Mn、Zn、Ti等を用いることができる。また、DMT法または直重法の場合の重合触媒としては、3酸化アンチモン等のAb化合物、非晶質ゲルマニウム等のGe化合物、テトラブチルチタネートなどのTi化合物を用いることが出来る。エステル交換触媒や重合触媒は上記化合物に限定されるものでなく、既知の触媒系を用いて、本発明のポリエステルフィルムを得ることが出来る。 本発明の二軸配向ポリエステルフィルムは、上記手法で得られたポリエステル系樹脂を固相重合によって固有粘度を上げた樹脂を用いたり、加熱処理を行った樹脂を用いることが、フィルムを製膜した後のオリゴマー析出を抑制することができる点で好ましい。
【0020】
以下、本発明のフィルムの製造方法を図1〜3を用いて説明する。
まず、ポリエステル系樹脂のチップを、必要に応じて適宜混合した後、図1の真空乾燥機1により、チップ中の水分を除去する。その後原料ホッパー2に貯蔵して、押出機3で溶融して押し出す。その後フィルター4で濾過を行う。
本発明の二軸配向ポリエステルフィルムでは、成型層の表面欠落を抑制するために、フィルム内部異物は、100μm以上の物が100cm当たり2個以内であることが好しく、更には、実質的に含まないことが好ましい。
このようなフィルムを得るには、濾過精度1〜20μmのフィルターを用いる必要があり、濾過寿命や、粗大突起、内部異物の発生を抑制するためには、絶対濾過精度3〜10μmのフィルターを用いることが更に好ましい。
【0021】
本発明の二軸配向ポリエステルフィルム表面の中心線粗さSRaは10nm以上40nm以下であることが好ましく、より好ましくは、5〜35nmである。中心線粗さをかかる範囲とすることにより、フィルムの搬送特性(ロールとの摩擦特性)をコントロールし、帯電転写痕の面積を100cm当たり5cm以上30cm以下により容易に制御することができる。
【0022】
フィルム表面の中心線粗さを上記範囲とするためには、フィルムに滑剤を添加することが好ましく、該滑剤には平均粒径が0.01μm以上8μm以下の粒子を用いることが好ましい。また、フィルム中の滑剤粒子の含有量は、フィルム全体に対して0.001重量%以上5重量%以下が好ましい。5重量%を超えると、SRaは40nmを越え、0.001重量%未満ではSRaは10nm未満となるため好ましくない。 濾過後の溶融状態の樹脂を、図1のスリット状のダイ5から出してシート状に成形する。このシート状物を、表面温度20〜50℃のキャスティングドラム6に巻き付けて冷却固化し未延伸(未配向)フィルムとする。
【0023】
この未延伸フィルムを、図1の縦延伸機7にて、70〜130℃に加熱し、ロール間の周速差により倍率が2.5〜5倍になるように1段階もしくは多段階で長手方向に延伸し、一軸延伸(一軸配向)フィルムを得る。
【0024】
かかる長手方向に延伸された一軸延伸フィルムを、図1の横延伸機(ステンタ)8にて、80℃〜120℃で3〜6倍に幅方向に延伸し、二軸延伸(二軸配向)フィルムとする。延伸後、180℃〜250℃にて1〜20秒間熱処理を行った後、熱処理温度より0℃〜150℃低い温度で幅方向に0〜10%収縮させる。
【0025】
本発明の二軸配向ポリエステルフィルムを離型フィルムとして使用する場合には、二軸配向ポリエステルフィルム上に成形部材原料が塗布され、その後、オーブンにて乾燥され、成型層が形成されることになるが、該オーブン内で本発明のフィルムに熱シワが発生して成形層を変形させない目的のため、150℃で30分加熱処理した後の本発明のフィルムの収縮率(JIS C−2151あるいは、ASTM D−1204に準拠)は、フィルム搬送方向に対しての長手方向(MD:Machine Direction)で1.2〜1.7%でかつ、幅方向(TD:Transverse Direction)で0.0〜0.7%で有ることが好ましい。
【0026】
上記範囲の熱収縮率とするためには、80〜100℃に加熱し、ロール間の周速差により倍率が3〜4倍になるように1段階で長手方向に延伸し、長手方向に延伸されたフィルムを、図1の横延伸機8にて、90℃〜110℃で3〜4.5倍に幅方向に延伸した後、210℃〜240℃にて5〜20秒間熱処理を行った後、熱処理温度より10℃〜100℃低い温度で幅方向に3〜8%収縮させることが好ましい。 更には、本発明の二軸配向ポリエステルフィルムを、電気絶縁用離型フィルムとして使用する場合は、ビルドアッププロセスにて加熱されることになるが、この際、本発明のフィルムと成形層(電気絶縁樹脂)との伸縮差が大きいと、ビルドアッププロセスにおいてシワ、タルミが発生する。かかるシワ、弛みを発生させないためには、150度で30分加熱した処理した後のフィルムの収縮率は、MDで1.2〜1.5%、TDで0.1〜0.5%が好ましい。
【0027】
上記範囲の熱収縮率とするためには、80〜100℃に加熱し、ロール間の周速差により倍率が3〜4倍になるように1段階で長手方向に延伸し、長手方向に延伸されたフィルムを、図1の横延伸機8にて、90℃〜110℃で3〜4.5倍に幅方向に延伸した後、220℃〜240℃にて5〜20秒間熱処理を行った後、熱処理温度より10℃〜100℃低い温度で幅方向に4〜7%収縮させることが好ましい。
【0028】
幅方向に延伸をしたフィルムは、図1の渡り搬送装置9で冷却させたのち巻き取り、中間製品10を得る。
【0029】
中間製品10は、図2、3に示すスリット工程にて適切な幅にスリットして巻き取り、本発明の二軸配向ポリエステルフィルムが得られる。
【0030】
スリット工程では、搬送中のフィルムとスリッター搬送ロール(図2の11a、11b、11c、11d、11e、11f、11g、図3の11h、11i、11j、11k)とのドロー差によって擦過し、ロール表面のパターン形状に沿った傷や、帯電パターンを形成する。
【0031】
また、本発明では、上記スリッター搬送に用いられる複数のスリッター搬送ロールのうち、半数以上のロールがゴムロールであることが好ましい。より好ましくはスリット工程における全てのスリッター搬送ロールがゴムロールでることである。ここで、ゴムロールとは、少なくともロールの表面がゴムで被覆されているロールをいう(ロール全体がゴムであるロールも勿論含まれる)。かかるゴムロールを用いることにより、フィルムの帯電転写痕の面積を100cm当たり5cm以上30cm以下とすることが可能となる。また、スリット中のフィルムの蛇行を抑制することにも効果がある。ゴムロールに用いられるゴムの種類は、ニトリルゴム(アクリルニトリルとブタジエンの共重合体)、クロロプレンゴム(ポリクロルプレン)、エチレン・プロピレン・ジエンゴム、およびクロロスルホン化ポリエチレンゴムから選択された少なくとも1つのゴムであることが好ましい。より好ましくはクロロプレンゴムを用いることである。クロロプレンゴムは適度なグリップ力を得ることができる点、フィルムの帯電特性を制御できる点、後述する滑り処理を効果的に施すことができる点で好ましい。
【0032】
また、スリッター搬送ロールとフィルムとの間で発生する摩擦帯電を適度にコントロールするために、スリッター搬送ロールに用いられるゴムの中にカーボンを含有させ、導電性を付与し、スリッター搬送ロール表面の導電抵抗を1×103
〜1×10Ωに調整することが好ましい。 ゴムロールの表面には、搬送中にフィルムとロールの間に入った空気を排除するために、斜めに溝を掘ったもの(この加工を以下「網目加工」と称する。また、「網目加工」を施したゴムロールを「ダイヤカットロール」と称する)を使用することが好ましい。この網目加工の溝は、幅1〜2mm、深さ1〜1.5mmで、角度がロール幅方向に対して20〜45°の角度で図4に示すようにX字状に付与することが好ましい。溝17を付与した際に残る、ロール表面の部分16は、菱形、あるいは正方形になる。このロールにて搬送を行った際、ゴムロール表面が、フィルムと接触する面は、菱形あるいは正方形の集合体となる(図4)。
【0033】
この網目加工を施したダイヤカットロールは、菱形、あるいは正方形の面にて集中的にフィルムを把持することができ、ロール円周方向に対して、均一なグリップ力をもつことができる。また、スリッター搬送ロールとフィルムとの接触―剥離プロセス、あるいは擦過による帯電により、ロールの表面形状(例えば菱形)にそって一定パターンの帯電痕を生成する。この帯電パターンは、後述するように、巻き取り前の除電器13a、13bにて除去することができるが、完全に除去せず、帯電転写痕の面積が100cm当たり30cm以下となるよう帯電状態を保持することが好ましい。 また、スリッター搬送ロールとフィルムとの間で微小なドロー差が生じると、擦過傷が発生するときがある。該プロセスでの擦過傷は、成形部材の表面性状を損なわない程度の変形を伴うが、その後の加工プロセスで、傷の発生箇所からオリゴマーが析出されやすく、剥離特性に影響を及ぼし、かつ析出されたオリゴマーが成形部材に転写して欠点となる。
【0034】
このため、スリッター搬送ロールとフィルムの間で発生するフィルム表面の擦過傷は、1mm以上の長さを有するものが、100cmあたり、100個以内であることが好ましく、実質含まないことがさらに好ましい。
【0035】
スリッター搬送ロールに用いられるゴムロールには滑り処理を施すことが好ましい。かかる滑り処理によって搬送工程でのフィルムの帯電状態を適切に調整することができるからである。滑り処理は、(1)UV(紫外光)照射によるゴム表面を劣化させる処理、(2)薬液を使用してゴム表面を化学的に粗面化、劣化させる処理、(3)易滑材(例えば、テフロン(登録商標))をコーティングする処理、などが挙げられるが、(3)の処理の場合、処理後にゴム組成がブリードアウトしやすかったり、易滑剤が削れることによって製品へ異物が混入することがある。そのため、滑り処理は(1)のUV照射処理が望ましい。しかし、滑り処理を行いすぎると、ロールのグリップ力が低下して、ロールとフィルムの周速差が生じやすくなり、帯電しやすくなるため、ロール表面の静摩擦係数μsは、0.5以上1.0以下が好ましい。
【0036】
スリッター搬送ロールの駆動方式は、プーリー駆動方式、個別駆動モーター方式が挙げられるが、個別駆動モーター方式が、ロール間の周速差を微調整できるため、より擦過傷の発生を抑えつつ、帯電をコントロールする事ができるため好ましい。ロールの回転速度は、100m/min〜400m/minが好ましく、帯電特性を制御するためには150m/min〜300m/minがさらに好ましい。
【0037】
中間製品10の巻き出しから製品ロール15a、15bの巻き取りまでの、各スリッター搬送ロールの速度比は、カッティング装置12によるフィルムスリット前に存在するスリッター搬送ロール(11a〜11g)においては、スリット切断の直前のロールを基準(基準ロールと称する。図2のスリッターでは11gのロールに該当する)として、−0.02±0.02%の速度で制御されていることが好ましい。また、フィルムスリット後に存在するスリッター搬送ロール(11h、11i、11j)においては、スリット直後のロール(11h)を基準ロール(11g)比+0.15±0.02%で速度を制御し、次のスリッター搬送ロールからは直前のスリッター搬送ロールから0.03%ずつ速度を増加させるのが好ましい。スリッター搬送ロールの速度比をかかる範囲とすることにより、良好な搬送性を保ちつつ、所望の帯電特性をフィルムに与える事が出来る。
中間製品10をカッティング装置12にて、所望の幅にスリットして、巻き取りを行うことにより、本発明の二軸配向ポリエステルフィルムの製品ロール15a、15bを採取することができるが、巻き取り時には、コンタクトロール14a、14bにて空気を排除しながら巻き取りを行うのが好ましい。
【0038】
コンタクトロールの表面は、ゴムで有ることが好ましい。ゴムの材質は、ニトリルゴム(アクリルニトリルとブタジエンの共重合体)、クロロプレン(ポリクロルプレン)、エチレン・プロピレン・ジエンゴム、クロロスルホン化ポリエチレンゴムより選択することができる。
【0039】
コンタクトロール表面には、エアー排除のための溝は、無きことが好ましい。
コンタクトロールに、エアー排除のための溝を有していると、周速差が生じた際に、擦過傷が入るためである。
【0040】
コンタクトロールは、独自の駆動機構を持たず、その回転速度は、本発明の二軸配向ポリエステルフィルムの、製品ロールの外周速度に依存するため、製品ロールに偏芯があったり、コンタクトロールが製品ロールに均一に接していないと、コンタクトロールと製品ロールに周速差が生じやすくなる。
【0041】
また、コンタクトロールの静摩擦係数は、剥離帯電の防止、把持力の両立を図るため、0.3〜1.5であることが好ましい。コンタクトロールの静摩擦係数が0.3未満であると、把持力が無くなり滑ることにより、摩擦帯電が大きくあり、1.5を越えると、グリップ力が大きくなり、剥離帯電が起こりやすくなる。
コンタクトロールの滑り処理は、(1)UV照射によるゴム表面を劣化させる処理、(2)薬液を使用してゴム表面を化学的に粗面化、劣化させる処理、(3)薬液を使用してゴム表面を化学的に劣化させた後、ゴム表面を研磨して表面を均質化する方法が挙げられる。
【0042】
コンタクトロールの径は、剛性やエアー排除性との兼ね合いで50mm以上180mm以下の範囲が好ましいが、90mm以上150mm以下がさらに好ましい。
【0043】
巻き取り後のロール電位は、フィルム表面の帯電状態との相関があるため、±5kV以下で有ることが好ましい。
【0044】
ロール電位をかかる範囲とするためには、除電気13a、13bで除電を行うことが好ましい。除電は、正および負のイオン電流を片方のイオンあるいは交互にイオンをフィルム表面に当てて、フィルム表面の電荷状態を中和する方法が一般的である。ポリエステルフィルムは負に帯電することが多いが、スリット工程の外乱を加味すると、交流式で正負のイオンをフィルム表面に当てることが好ましい。この際、フィルムと除電電極間の距離は100〜150mm、出力は9kV以下の条件が好ましい。本発明の二軸配向ポリエステルフィルムは、単層、共押出し2層積層フィルムや3層積層フィルムなどの積層フィルムであっても良いが、工程での傷や、滑り性等を重視し、突起形成のために、フィルム表層にのみ粒子を添加する際には、粒子混率の自由度が高い、2層積層フィルム、3層積層フィルムが好ましい。本発明の二軸配向ポリエステルフィルムを離型用途として使用する際、厚みは、成形部材の厚みや、加工温度、加工張力への抗張力などの機械的な適性や、コスト、廃棄時の環境負荷を低減するための要素によって選択されるが、15μm以上188μm以下が好ましく、より好ましくは25μm以上50μm以下である。
【実施例】
【0045】
次に実施例に基づき、本発明の実施態様を説明する。
なお、本発明で規定する特性値の測定方法と評価方法を以下に述べる。
【0046】
(1)フィルム表面の帯電転写痕面積
A剤としてエクソンモービル社製の炭化水素系溶剤「アイソパーH」を、B剤としてサビン社製のサビントナー(Savin Corporation, Savin Black Dispersant: For Savin V-35, 7300, 7350, 7450 copiers)を用いて、A剤18リットル中にB剤を0.5リットルの割合で溶解させたものを霧吹きで10cm×10cmのフィルム表面に吹き付けて10分間放置し、フィルム表面に浮かび上がる帯電パターン(トナーが付着した部分)の面積を計測して、100cmあたりの帯電転写痕の面積を算出する。
【0047】
(2)フィルム表面の擦過傷
本発明の二軸配向ポリエステルフィルムを10cm×10cmに切り出したものを真空蒸着機で、アルミニウムを厚さ50nmとなるように蒸着した後、三洋電機(株)製カドニカライト「NL S-1」で、フィルム面に対して10〜50度の角度で照らしながら傷をマーキングした。その後実体顕微鏡で観察して、長さが1mm以上の傷の個数を数えて傷の個数とした。
【0048】
(3)エポキシ剥離特性
本発明のフィルムに電気絶縁シートを形成する際に用いるエポキシ樹脂(成形部材原料)をダイコーターで乾燥後の厚みが40μmとなるように塗布を行い、120℃で5分乾燥させ成形層を形成した。その後、本発明のフィルムにエポキシ樹脂の成型物を支持した状態で成型層(エポキシ層)をプリント配線板に転写させるため、板厚0.3mmのプリント配線板に合わせ、真空ラミネーターにて120℃、圧力0.5MPaの条件でラミネートした。ラミネート後にフィルムを剥離して電気絶縁用成型部材を得た。剥離後のフィルム表面の状態および、成型部材(エポキシ成型物)の表面状態を観察した。
a.剥離後のフィルムの表面状態
観察の結果、フィルム表面にエポキシ樹脂が残留していないものを○(良好)、残留しているものを×(不良)とした。
b.剥離後のエポキシ成型物の表面状態
観察の結果、エポキシ成型物の表面がなめらかで、欠陥がないものを○(良好)、コーティングはじきによる凹み、異物の付着や、フィルム面へエポキシが付着したことによる陥没があるものなど、表面に欠陥がある状態を×(不良)とした。
なお、上記特性が良好なフィルムであるほど、電気絶縁用離型フィルムとして特に好適に用いることができる。 (4)フィルム表面の中心線粗さ(SRa)
三次元微細表面形状測定器(小坂製作所製ET−30HR)を用いて測定し、得られたフィルム表面のプロファイル曲線により、JIS B0601−1994に準じ、算術平均粗さSRa値を求めた。なお、測定条件は下記の通り。
X方向測定長さ:0.5mm、X方向送り速度:0.1mm/秒
Y方向送りピッチ:5μm、Y方向ライン数:40本。
カットオフ:0.25mm。
触針圧:0.02N。 (5)スリッター搬送ロールの導電抵抗
絶縁抵抗計(日置電機(株)製ディジタルメグオームハイテスタ 3454-11)で測定した。測定位置は、搬送ロール表面の中央部で、幅方向に対し、100mm間隔で端子を配置し、測定条件は、電流1mA、電圧250Vとして測定した。
【0049】
(5)製品ロールの電位
中間製品からを巻き長さ7500mで巻き取った製品ロールを、サンプルロールとし、デジタル静電電位測定器MODEL KSD-0103(春日電機(株)製)で、サンプルロールから50mmの距離で、サンプルロール幅方向中央部で5秒間測定し、最も表示頻度の多かった値を採用して求める。 (7)スリッター搬送ロールの静摩擦係数
スリッター搬送ロール上に摩擦係数測定用短冊19(“ルミラー”125S10にて作成)を図7に示すように抱きつかせる。次いで図6、7に示すように短冊の片端に重り21を取り付ける。重りに依る荷重は2Nである。短冊の穴20に、デジタル式バネ秤(IMADA製 Digital Force Gauge DDPRS2T)22を、フックを用いて接続する。重りの振れが静止するのを待った後、デジタル式バネ秤を水平に引き、短冊が動き出した時の力F’を測定した。力F’は、スリッター搬送ロールの両端部、中央部の計3点で、3回ずつ測定して、全測定の平均値をFとした。
静摩擦係数は、次式にて求めた。
静摩擦係数=2/π×(Logn(F/F0))
π:円周率
Logn:自然対数
F:デジタル式バネ秤を水平に引いた後、短冊が動き出した際の力(N)
F0:重りによる荷重(N)
実施例1〜3、比較例1、比較例2、比較例3
常法により重合した実質的に粒子を含まないポリエチレンテレフタレート(極限粘度0.65)のチップを用い、平均粒径2μmの酸化珪素を0.5重量%となるように添加混合した原料チップを、180℃で7時間真空乾燥(5Torr)したあと、押出機に供給して280℃で溶融した。
【0050】
溶融ポリマーを絶対濾過精度5μmのフィルターで濾過した後、スリット幅が5.0μmの口金からシート状に押出し、静電印可キャスト法を用いて表面温度25℃のキャスティングドラムに巻き付けて冷却固化し、未延伸フィルムを作った。この未延伸フィルムを85℃で長手方向に3.0倍に延伸した。次にステンタを用いて105℃で幅方向に4.0倍延伸し、230℃で熱固定処理を行い、150℃で幅方向に6.9%弛緩処理したのち巻き取りを行い、厚さ38μmの二軸配向ポリエステルフィルム中間製品を得た。
【0051】
得られた中間製品を、図2、図3に記載のスリット工程に導き、スリットを行なった。スリット工程にて用いたスリッター搬送ロールの材質等を表1に、除電機(交流式)の除電電圧を表2に示す。また、スリット工程を経て得られた二軸配向ポリエステルフィルムやロールの各種特性を表2に示す。
【0052】
表1より、実施例1〜3の二軸配向ポリエステルフィルムは優れた特性を示す。
【0053】
一方、比較例1は、エポキシ剥離特性試験においてエポキシ樹脂の塗布斑が生じ、局所的な抜けが生じた。また、エポキシ剥離後のフィルム上にはエポキシ残留物が有り、エポキシ樹脂の表面状態が悪化していた。
【0054】
比較例2は、エポキシ剥離特性試験のフィルム剥離時に強い抵抗があり、フィルムにエポキシ樹脂が横縞状に付着した。
【0055】
比較例3は、エポキシ樹脂特性試験において塗布斑が生じ、局所的な抜けが生じた。また、エポキシ樹脂特性試験のフィルム剥離時に、フィルムにエポキシ樹脂が、スリッターのロール表面の模様が転写するような形で、残留物として付着し、かつ、エポキシ樹脂の表面状態が悪化していた。
【0056】
【表1】

【0057】
表1における網目加工とは、幅1.5mm、深さ0.8mmで、角度がロール幅方向に対して20°の角度でX字状となるよう溝を設けた加工である。
【0058】
【表2】

【図面の簡単な説明】
【0059】
【図1】フィルム製造装置の全体構成を例示した図
【図2】スリット工程の構成の概略を例示した図
【図3】図2のA部の拡大図。
【図4】ダイヤカットロールの表面形状を例示した鳥瞰図
【図5】図4のB1−B2直線における断面図
【図6】静摩擦係数測定用短冊の説明図
【図7】静摩擦係数測定方法の説明図(断面図)
【符号の説明】
【0060】
1 真空乾燥機
2 原料ホッパー
3 押出機
4 フィルター
5 ダイ
6 キャスティングドラム
7 縦延伸機
8 横延伸機
9 渡り搬送装置
10 中間製品
11a〜11k スリッター搬送ロール
12 カッティング装置
13a、13b 除電器
14a、14b コンタクトロール
15a、15b 本発明二軸配向ポリエステルフィルムの製品ロール
16 スリッター搬送ロールのロール表面
17 スリッター搬送ロールのロール溝部
18 フィルム
19 静摩擦係数測定用短冊
20 デジタル式バネ秤のフックを取り付けるための穴
21 重り
22 デジタル式バネ秤
23 スリッター搬送ロール
【産業上の利用可能性】
【0061】
成形部材原料など各種塗剤との適切な密着性および剥離特性を有する二軸配向ポリエステルフィルムなので、それら用途に有用に用いられる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
フィルム表面の帯電転写痕の面積が、100cm当たり5cm以上30cm以下である二軸配向ポリエステルフィルム。
【請求項2】
離型フィルムとして用いられる請求項1に記載の二軸配向ポリエステルフィルム。
【請求項3】
電気絶縁用離型フィルムとして用いられる請求項2に記載の二軸配向ポリエステルフィルム。
【請求項4】
スリッター搬送に用いられる複数のスリッター搬送ロールのうち、半数以上のロールがゴムロールであり、かつ該ゴムロールに用いられるゴムがニトリルゴム、クロロプレンゴム、エチレン・プロピレン・ジエンゴムおよびクロロスルホン化ポリエチレンゴムから選択された少なくとも1つのゴムであり、かつ該スリッター搬送ロールの表面に網目加工が施されており、かつ該スリッター搬送ロール表面の静摩擦係数μsが0.5以上1.0以下であるスリッター搬送ロールを有するスリッター工程を経る請求項1〜3に記載の二軸配向ポリエステルフィルムの製造方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【公開番号】特開2009−203357(P2009−203357A)
【公開日】平成21年9月10日(2009.9.10)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−47356(P2008−47356)
【出願日】平成20年2月28日(2008.2.28)
【出願人】(000003159)東レ株式会社 (7,677)
【Fターム(参考)】