説明

二軸配向ポリフェニレンスルフィドフィルム

【課題】 成形加工性や歩留まりに優れたPPSフィルムを提供する。
【解決手段】 ポリフェニレンスルフィド樹脂100重量部に対し、一般式(1)で表される環状ポリフェニレンスルフィド混合物1〜20重量部含有したポリフェニレンスルフィド樹脂組成物からなるフィルムであって、ポリフェニレンスルフィド樹脂組成物の溶融結晶化温度(Tmc)(℃)と、環状ポリフェニレンスルフィド混合物を配合する前のポリフェニレンスルフィド樹脂の溶融結晶化温度(Tmc’)(℃)が(Tmc−Tmc’)≦−1の関係にある。
【化1】


(ここで、mは、4〜20の整数)

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、モーター、トランス、絶縁ケーブルなどの電気絶縁材料や成形材料、回路基板材料、回路・光学部材などの工程・離型フィルムや保護フィルム、リチウムイオン電池材料、燃料電池材料、スピーカー振動板などに好ましく使用することができるポリフェニレンスルフィドフィルムに関する。
【背景技術】
【0002】
ポリフェニレンスルフィド(以下、PPSと略す)は、耐熱性、耐加水分解性、難燃性、耐薬品性、電気絶縁性などに優れる熱可塑性のエンジニアリングプラスチックである。良好な成形加工性、寸法安定性を有することからフィルムに成形されて、高い信頼性、耐久性が求められる電気・電子機器部品、機械部品、自動車部品などへと好適に使用されている。
【0003】
しかし、一部の電気絶縁材や音響機器振動板の用途においては、PPSフィルムの成形加工性が不十分な場合があり、伸度の不足による成形時の破れや割れが生じたり、配向や弾性率が高いことにより角部や湾曲部の賦形性が悪化したりするという問題があった。更に、主として電気絶縁材の用途ではフィルムに一定以上の厚さが必要とされる場合が多く、そのような場合、フィルムの厚膜化に伴って製膜時の厚さ方向の冷却斑が悪化し、延伸製膜時の破れが多発することが問題となる場合があった。
【0004】
これに対し、成形加工性の改善を目的として、二軸延伸の延伸条件を最適化する手法(特許文献1参照)や、PPS以外の熱可塑性樹脂をブレンドする手法(特許文献2参照)などが提案されている。それぞれ成形加工性の向上に効果がみられるものの、特許文献1に記載の方法で得られるフィルムの成形加工性は不十分な場合があり、一方、特許文献2に記載の方法は、ブレンドした樹脂の製膜時の熱安定性が不十分な場合があり、安定な製膜の継続が行えない場合があった。
【0005】
また、特許文献3ではPPS樹脂に対して、特定構造を有する環状ポリフェニレンスルフィド(以下、環状PPSと略す)を添加することで、PPS樹脂の溶融流動性を改良し、溶融成形時の成形性を改善させる手法が提案されている。当該手法では環状PPSの添加により溶融結晶化温度(Tmc)を上昇せしめて、冷却過程での結晶化を促進することを特徴としており、主に射出成形用途においてバリの発生に顕著な抑制効果があると述べられている。しかし、本技術をフィルムに適用した場合、Tmcが高いことにより、押出後のキャスト冷却時において冷却斑が発生し、その後の延伸においてフィルム破れの多発や平面性が悪化する場合があった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】国際公開2008/139989号パンフレット
【特許文献2】国際公開2007/129695号パンフレット
【特許文献3】特開2008−179775号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明の目的は、成形加工性に優れたPPSフィルムを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記課題を達成するため、本発明は以下の構成を有することを本旨とする。
【0009】
すなわち、ポリフェニレンスルフィド樹脂100重量部に対し、一般式(1)で表される環状ポリフェニレンスルフィド混合物1〜20重量部を配合したポリフェニレンスルフィド樹脂組成物からなる二軸配向ポリフェニレンスルフィドフィルムであって、ポリフェニレンスルフィド樹脂組成物の溶融結晶化温度(Tmc)と、環状ポリフェニレンスルフィド混合物を配合する前のポリフェニレンスルフィド樹脂の溶融結晶化温度(Tmc’)が(Tmc−Tmc’)≦−1の関係にあることを特徴とする二軸配向ポリフェニレンスルフィドフィルムである。
【0010】
【化1】

【0011】
(ここで、mは、4〜20の整数)
【発明の効果】
【0012】
本発明により、製膜時の溶融安定性、製膜安定性が良好で、かつ熱成形時の加工性・賦形性に優れたPPSフィルムを提供することができる。
【発明を実施するための形態】
【0013】
以下、本発明の二軸配向ポリフェニレンスルフィドフィルムについて説明する。
【0014】
ポリフェニレンスルフィド樹脂
本発明で使用するPPS樹脂は、化学式1で示される繰り返し単位を80モル%以上、より好ましくは90モル%以上含む高分子によって構成される。同繰り返し単位が80%未満の場合には、PPSの特徴である耐熱性や寸法安定性、機械特性および誘電特性などを損なう場合があるため、好ましくない。
【0015】
【化2】

【0016】
上記PPS樹脂において、繰り返し単位の20モル%未満、好ましくは10モル%未満であれば、共重合可能な他のスルフィド結合を含有する単位が含まれていても差し支えない。共重合可能な繰り返し単位としては、例えば、3官能単位、エーテル単位、スルホン単位、ケトン単位、メタ結合単位、アルキル基、などの置換基を有するアリール単位、ビフェニル単位、ターフェニレン単位、ビニレン単位およびカーボネート単位などが例として挙げられ、具体例として、下記の構造単位を挙げることができる。この場合、該構成単位は、ランダム型、またはブロック型のいずれの共重合方法によって導入されてもよい。後に環状ポリフェニレンスルフィド混合物(以下、環状PPS混合物と称することもある)を配合した際に、配合前と比べて溶融結晶化温度を低下させ、押出後のキャスト冷却時に発生する冷却斑を軽減させる観点から、好ましくは、3官能成分を与えるトリクロロベンゼン単位が1モル%未満の範囲で共重合されることが望ましい。
【0017】
【化3】

【0018】
PPS樹脂の溶融粘度は、溶融混練が可能であれば特に限定されないが、温度310℃で剪断速度1,000(1/sec)のもとで、100〜1,000Pa・sの範囲であることが望ましく、より好ましくは200〜1,000Pa・sの範囲である。
【0019】
本発明に用いるPPS樹脂は種々の方法、例えば、特公昭45−3368号公報に記載される比較的分子量の小さな重合体を得る方法、あるいは特公昭52−12240号公報や特開昭61−7332号公報に記載される比較的分子量の大きい重合体を得る方法などによって製造することができる。
【0020】
次に、PPS樹脂の製造法を例示するが、本発明ではこれに限定して解釈されない。
【0021】
硫化ナトリウムとp−ジクロロベンゼンをN-メチル-2-ピロリドン(NMP)などのアミド系極性溶媒中で、高温高圧下で反応させる。必要に応じて、トリハロベンゼンなどの共重合成分を含ませることも可能である。重合度調整剤として苛性カリやカルボン酸アルカリ金属塩などを添加し230〜280℃で重合反応させる。重合後にポリマを冷却し、ポリマを水スラリーとしてフィルターで濾過後、粒状ポリマを得る。これを酢酸塩などの水溶液中で30〜100℃、10〜60分攪拌処理し、イオン交換水にて30〜80℃で数回洗浄、乾燥してPPS粉末を得る。この粉末ポリマを酸素分圧10トール以下、好ましくは5トール以下でNMPにて洗浄後、30〜80℃のイオン交換水で数回洗浄し、5トール以下の減圧下で乾燥する。かくして得られたポリマは、実質的に線状のPPSポリマであるので、安定した延伸製膜が可能になる。
【0022】
本発明に用いるPPS樹脂としては、後に環状PPS混合物を配合した際に、配合前と比べて溶融結晶化温度を低下させ、製膜時のキャスト冷却過程で発生する冷却斑を軽減させる観点から酢酸カルシウム水溶液などのカルシウム塩水溶液で洗浄処理を施したPPS樹脂を用いることが好ましい。カルシウム塩水溶液によるPPS樹脂の洗浄処理の具体的方法としては、以下の方法を例示することができる。すなわち、カルシウム塩水溶液にPPS樹脂を浸漬せしめるなどの方法があり、必要に応じて適宜攪拌または加熱することも可能である。用いられるカルシウム塩水溶液は、PPS樹脂を分解する作用を有しないものであれば特に制限はなく、酢酸カルシウム水溶液、ギ酸カルシウム水溶液、プロピオン酸カルシウム水溶液、酪酸カルシウム水溶液などの脂肪族飽和モノカルボン酸カルシウム水溶液、クロロ酢酸カルシウム水溶液やジクロロ酢酸カルシウム水溶液などのハロゲン置換脂肪族飽和カルボン酸カルシウム水溶液、アクリル酸カルシウム水溶液やクロトン酸カルシウム水溶液などの脂肪族不飽和モノカルボン酸カルシウム水溶液、安息香酸カルシウム水溶液やサリチル酸カルシウム水溶液などの芳香族カルボン酸カルシウム水溶液、シュウ酸カルシウム水溶液、マロン酸カルシウム水溶液、コハク酸カルシウム水溶液、フタル酸カルシウム水溶液およびフマル酸カルシウム水溶液などのジカルボン酸カルシウム水溶液、硫化カルシウム水溶液、リン化カルシウム水溶液、塩化カルシウム水溶液、炭酸カルシウム水溶液および珪酸カルシウム水溶液などの無機酸カルシウム水溶液などが挙げられる。中でも酢酸カルシウム水溶液と塩化カルシウム水溶液が好ましく用いられる。
【0023】
酢酸カルシウム水溶液などのカルシウム塩水溶液で洗浄処理を施したカルシウム末端ポリフェニレンスルフィド樹脂は、末端成分の大部分(約80%)がカルシウム末端成分に置換しているとされる(以下、カルシウム末端PPS樹脂と称する)。カルシウム末端PPS樹脂は、後述する酸末端PPS樹脂と比べ、溶融結晶化温度が低いだけでなく、環状PPS混合物を配合した際に、配合前と比べて溶融結晶化温度を低下する場合があるため好ましい。溶融結晶化温度が低下すると、結晶化速度が遅くなるため、押出後のキャスト冷却時にポリマの結晶化を抑制できる、その結果、冷却斑の発生が抑制され、安定した製膜を行うことができる。冷却斑はフィルム厚さが厚くなるほど増大するため、フィルムが厚くなるほど、カルシウム末端PPS樹脂がより好ましく用いられる。
【0024】
一方、酸または酸の水溶液にPPS樹脂を浸漬せしめるなどの方法により、酸水溶液洗浄処理を施したPPS樹脂(以下、酸末端PPS樹脂と称する)は、溶融結晶化温度が高いばかりでなく、後に環状PPS混合物を配合した際に、配合前と比べて溶融結晶化温度が上昇することがわかっている。溶融結晶化温度が高いと、押出後のキャスト冷却時に結晶化が進行しやすくなるため、伸度の低下によりその後の延伸工程でフィルム破れを発生し、製膜安定性が悪化する場合がある。
環状ポリフェニレンスルフィド混合物
本発明に用いる環状PPS混合物は、下記一般式(1)で表されるp−ポリフェニレンスルフィド骨格を有した環状PPSが複数種含まれた環状PPSの混合物である。
【0025】
【化4】

【0026】
(ここで、mは4〜20の整数)
上記の環状PPS混合物を得る方法は特に限定されないが、公知のPPSの製造方法によってPPSと環状PPSを含むPPS混合物を得た後、該PPS混合物から環状PPS混合物を抽出することにより環状PPS混合物を得る抽出法や、直接合成によりmの範囲が比較的狭い高選択率な環状PPS混合物を得る合成法などが挙げられるが、好ましくは抽出法により得られた環状PPS混合物が用いられる。抽出法の具体的方法としては、以下の方法を例示することができる。すなわち、少なくともp−ジクロロベンゼンに代表されるポリハロゲン化芳香族化合物、硫化ナトリウムに代表されるアルカリ金属硫化物及びN−メチル−2−ピロリドンに代表される有機極性溶媒を含有する混合物を加熱し重合した後、220℃以下に冷却して得られた、少なくとも顆粒状のPPSと顆粒状PPS以外のPPS混合物、有機極性溶媒、水、およびハロゲン化アルカリ金属塩を含む反応液から顆粒状のPPSを取り除いた際に得られる回収スラリーを得た後、その回収スラリーから少なくとも50重量%以上の有機極性溶媒を除去し、残留物を得て、これに水を添加した後、所望に応じて酸を加えて、少なくとも残存有機極性溶媒およびハロゲン化アルカリ金属塩を除去してPPS混合物を分離回収して得る方法が例示できる。なお、ここで顆粒状PPSとは平均目開き0.175mmの標準ふるい(80meshふるい)で回収できるPPS成分を指す。
【0027】
このようにして得られた環状PPS混合物は、好ましくはm=4〜12の環状PPSを主要成分とする混合物であり、一部が直鎖状PPSオリゴマーとm=13以上の環状PPSの混合物である。環状PPS混合物全体に占めるm=4〜12の環状PPSの重量分率は80%以上であることが望ましい。環状PPS混合物全体に占めるm=4〜12の環状PPSの重量分率が80%未満である場合、環状PPS混合物の配合により溶融結晶化温度を低下させ、得られたフィルムの成形加工性を高めるという本発明の効果が得られない場合がある。
【0028】
ポリフェニレンスルフィド樹脂組成物
本発明に用いるPPS樹脂組成物はPPS樹脂100重量部に対し、前記一般式(1)で表される環状PPS混合物1〜20重量部を含有したPPS樹脂組成物である。環状PPS混合物の含有量がPPS樹脂100重量部に対し1重量部未満では十分な成形性向上効果が得られない場合がある。一方、環状PPS混合物の配合量がPPS樹脂100重量部に対し20重量部を超えると、粘度低下が激しく、安定な製膜を行えない場合がある。そのため環状PPS混合物の添加は、通常PPS樹脂100重量部に対し1〜20重量部の範囲で行われ、環状PPS混合物の添加量は好ましくは3〜15重量部、さらに好ましくは5〜10重量部である。なおPPSは、その重合時に副生成物として環状PPS混合物が生成することが知られている。したがってPPSそのものに、すでに環状PPS混合物が含有されているが、この量は1重量%未満のわずかな量であり、この1重量%未満のPPS混合物が含有されるだけでは本発明の効果は得られない。
【0029】
【化5】

【0030】
本発明に用いるPPS樹脂組成物には本発明の効果を損なわない範囲において繊維状および/または非繊維状の無機充填材を添加することができる。例えば、ガラス繊維、炭素繊維、チタン酸カリウィスカ、酸化亜鉛ウィスカ、アルミナ繊維、炭化珪素繊維、セラミック繊維、アスベスト繊維、石コウ繊維、金属繊維などの繊維状充填剤、ワラステナイト、セリサイト、カオリン、マイカ、クレー、ベントナイト、アスベスト、タルク、アルミナシリケートなどの珪酸塩、アルミナ、酸化珪素、酸化マグネシウム、酸化ジルコニウム、酸化チタン、酸化鉄などの金属化合物、炭酸カルシウム、炭酸マグネシウム、ドロマイトなどの炭酸塩、硫酸カルシウム、硫酸バリウムなどの硫酸塩、ガラス・ビーズ、セラミックビ−ズ、窒化ホウ素、炭化珪素、燐酸カルシウムおよびシリカなどの非繊維状充填剤が挙げられ、これらは中空であってもよく、さらにはこれら充填剤を2種類以上併用することも可能である。
【0031】
本発明において、環状PPS混合物をPPS樹脂に混合する時期は特に限定されないが、溶融押出前に、PPS樹脂と環状PPS混合物を予備溶融混練(ペレタイズ)してマスターチップ化する方法や、溶融押出時に混合して溶融混練させる方法などがある。中でも、二軸押出機などのせん断応力のかかる高せん断混合機を用いて予備混練してマスターチップ化する方法などが好ましく例示される。その場合、PPS樹脂と環状PPS混合物の重量分率が99/1〜75/25のブレンド原料を作製することが好ましい。二軸押出機で混合する場合、分散不良物を低減させる観点から、3条二軸タイプまたは2条二軸タイプのスクリューを装備したものが好ましく、混練部ではPPS樹脂の融解温度をTmとした場合、Tm+5〜Tm+100(℃)の樹脂温度範囲が好ましい。さらに好ましい温度範囲はTm+10〜Tm+70(℃)であり、より好ましい温度範囲はTm+10〜Tm+50(℃)である。混練部の温度範囲を好ましい範囲にすることは、環状PPSの添加により低下する剪断応力を高めやすく、分散不良物も低減できる効果が高くなり、混練時の分散性を高めることができる。また、原料の混合順序にも特に制限はなく、PPS樹脂、環状PPS混合物および必要に応じてその他添加剤を一括してドライブレンドした後、上述の方法などで溶融混練する方法、あるいはPPS樹脂、環状PPS混合物および必要に応じてその他添加剤のうちの2者または3者をドライブレンドして溶融混練した後、これと残る1者または2者を溶融混練する方法などが挙げられる。
【0032】
また、本発明のポリフェニレンスルフィド樹脂組成物は前述のポリフェニレンスルフィド樹脂以外の熱可塑性樹脂の含有量が0.5重量%未満であることが好ましい。その他の熱可塑性樹脂が0.5重量%以上含まれる場合、製膜安定性が悪化する場合がある。
【0033】
本発明においては、上記の方法で得られたPPS樹脂組成物の溶融結晶化温度(Tmc)(℃)が、環状PPS混合物を配合する前のPPS樹脂の溶融結晶化温度(Tmc’) (℃)よりも1℃以上低いことが重要である。すなわち、PPS樹脂組成物の溶融結晶化温度(Tmc)(℃)と環状PPS混合物を配合する前のPPS樹脂の溶融結晶化温度(Tmc’)(℃)が、(Tmc−Tmc’)≦−1(℃)の関係にあることが好ましい。より好ましくは(Tmc−Tmc’)≦−5(℃)である。(Tmc−Tmc’)>−1(℃)となる場合、環状PPS混合物の添加による成形加工性の向上の効果が得られない場合や、溶融結晶化温度が高いことにより押出後のキャスト冷却時にキャスト接触面と非接触面の冷却速度の差に起因する冷却斑が発生しやすくなり、延伸工程でフィルム破れが発生する場合がある。特にフィルムの厚さが厚い場合には冷却斑が発生しやすく、製膜時の破れが頻発する場合がある。
【0034】
特許文献3に記載のPPS樹脂組成物は、前述の酸末端PPS樹脂に環状PPS混合物を配合しているために(Tmc−Tmc’)の値が正になる。この場合、押出後のキャスト冷却時に冷却斑が発生しやすくなり、製膜時の破れや破断伸度の低下を招くことが分かった。結果的に、環状PPSの添加による破断伸度の向上や破断応力の低下などの効果が十分に発揮されないため、当該手法はフィルムの成形性向上の観点から好ましくない。
【0035】
二軸配向ポリフェニレンスルフィドフィルムの製造方法
次いで、本発明の二軸配向ポリフェニレンスルフィドフィルムを製造する方法について、一例を説明するが、本発明は、下記の記載によって限定して解釈されるものではない。
【0036】
上述の方法でマスターチップ化して得られたPPS樹脂組成物のペレットに対し、必要に応じてPPS樹脂を一定の割合で適宜混合して、180℃で3時間以上真空乾燥した後、溶融部の温度が280〜330℃、好ましくは290〜310℃に加熱された押出機に投入する。その後、押出機を経た溶融ポリマをフィルター内に通過させ、その溶融ポリマをTダイの口金を用いてシート状に吐出する。このフィルター部分や口金の設定温度は、押出機の溶融部の温度より3〜20℃高い温度にすることが好ましく、より好ましくは5〜15℃高い温度にする。このシート状物を表面温度20〜70℃の冷却ドラム上に密着させて冷却固化し、実質的に無配向状態の未延伸フィルムを得る。
【0037】
次に、この未延伸フィルムを二軸延伸し、二軸配向させる。延伸方法としては、逐次二軸延伸法(長手方向に延伸した後に幅方向に延伸を行う方法などの一方向ずつの延伸を組み合わせた延伸法)、同時二軸延伸法(長手方向と幅方向を同時に延伸する方法)、又はそれらを組み合わせた方法を用いることができる。ここでは、最初に長手方向、次に幅方向の延伸を行う逐次二軸延伸法を用いる場合を説明する。
【0038】
未延伸ポリフェニレンスルフィドフィルムを加熱ロール群で加熱し、延伸倍率はフィルムの熱成形性を向上させる観点から長手方向(MD方向)に2.7〜3.5倍、好ましくは2.9〜3.3倍、さらに好ましくは、3.0〜3.2倍に1段もしくは2段以上の多段で延伸する。延伸温度は、Tg(ポリフェニレンスルフィドのガラス転移温度)〜(Tg+30)℃、好ましくは(Tg+5)〜(Tg+20)℃の範囲である。その後20〜50℃の冷却ロール群で冷却する。MD延伸に続く幅方向(TD方向)の延伸方法としては、例えば、テンターを用いる方法が一般的である。MD延伸後のフィルムの両端部をクリップで把持して、テンターに導き、幅方向の延伸を行う(TD延伸)。延伸温度はTg(ポリフェニレンスルフィドのガラス転移温度)〜(Tg+30)℃が好ましく、より好ましくは(Tg+5)〜(Tg+20)℃の範囲である。延伸倍率は破断伸度を向上させる観点から3〜4倍、好ましくは3.1〜3.5倍、さらに好ましくは3.2〜3.3倍の範囲である。また、面積倍率(MD方向の倍率とTD方向の倍率の積)9倍以上、13倍以下が好ましく、9.5倍以上、12倍以下がより好ましい。面積倍率が13倍を越えるような延伸の場合は、破断伸度が低下し、熱成形性が不十分となるなど好ましくない場合がある。また、面積延伸倍率が9倍未満の場合、平面性が悪化する場合がある。
【0039】
次に、この延伸フィルムを緊張下で熱固定する。1段熱固定の場合の好ましい熱固定温度は250〜280℃であり、熱固定工程と緩和処理工程の合計時間は、フィルムの厚みが50μm未満の場合、1〜10秒、好ましくは3〜8秒である。また、フィルムの厚みが50μmを超える場合、熱固定工程と緩和処理工程の合計時間は、5〜60秒、好ましくは10〜30秒である。より好ましい熱処理は多段熱固定である。この場合、1段目の熱固定温度は160〜220℃、好ましくは180〜220℃であり、フィルムの厚みが50μm未満の場合、処理時間は1〜15秒が好ましく、より好ましくは1〜8秒である。また、フィルムの厚みが50μm以上の場合においても、1段目の熱固定の処理時間は、1〜15秒が好ましく、より好ましくは1〜8秒である。続いて行う後段の熱固定の最高温度は250〜280℃、好ましくは、260〜280℃である。さらにこのフィルムを250〜280℃、より好ましく260〜280℃で幅方向に弛緩処理する。弛緩率は、0.1〜8%であることが好ましく、より好ましくは2〜5%の範囲である。250℃以上の後段の熱固定工程および弛緩処理工程の合計時間は、フィルムの厚みが50μm未満の場合、1〜15秒が好ましく、さらに好ましくは2〜10秒である。また、フィルムの厚みが50μm以上の場合、250℃以上の後段の熱固定工程および弛緩処理工程の合計時間は、1〜30秒が好ましく、より好ましくは5〜20秒である。さらに、フィルムを室温まで、必要ならば、長手および幅方向に弛緩処理を施しながら、冷やして巻き取り、目的とする二軸配向ポリフェニレンスルフィドフィルムを得ることができる。
【0040】
本発明の二軸配向ポリフェニレンスルフィドフィルムは、200℃におけるフィルムの長手方向あるいは幅方向のどちらか一方の破断伸度が150%以上であることが重要である。より好ましくは、200℃におけるフィルムの長手方向あるいは幅方向のどちらか一方の破断伸度が160%以上であり、さらに好ましくは170%以上である。破断伸度が150%未満の場合、加工時や使用時に破れや割れが生じ、実用上使用に耐えない場合がある。フィルムの長手方向あるいは幅方向のもう一方の破断伸度は、特に限定されないが、130%以上、より好ましくは140%以上であることが好ましい。
【0041】
さらに、本発明においては、成形加工性向上の観点からフィルムの長手方向および幅方向の破断伸度の差の絶対値が20%以内であることがより好ましい態様であり、より好ましくは15%以内であり、さらに好ましくは10%以内である。フィルムの長手方向の破断伸度と幅方向の破断伸度の差の絶対値が20%をこえる場合、長手方向の成形性と幅方向の成形性の差により均一な加工ができなくなる場合がある。
【0042】
また、本発明の二軸配向ポリアリーレンスルフィドフィルムは、200℃におけるフィルムの長手方向あるいは幅方向のどちらか一方の破断応力が60MPa以下であることが重要である。より好ましくは、50MPa以下であり、さらに好ましくは40MPa以下である。200℃の破断応力が60MPaを超えると、フィルムの成形時に角部や湾曲部の賦形性が悪化する場合がある。フィルムの長手方向あるいは幅方向のもう一方の破断応力は、特に限定されないが、100MPa以下であることが好ましく、より好ましくは、80MPa以下であることが好ましい。また、本発明においては、成形加工性向上の観点からフィルムの長手方向および幅方向の平均破断応力がいずれも60MPa以下であることが好ましい態様であり、より好ましくは50MPa以下であり、さらに好ましくは40MPa以下である。
【0043】
また、本発明の二軸配向ポリアリーレンスルフィドフィルムは、200℃におけるフィルムの長手方向あるいは幅方向のどちらか一方の破断伸度が150%以上であり、かつ、200℃におけるフィルムの長手方向あるいは幅方向のどちらか一方の破断応力が60MPa以下であることが好ましい。破断伸度および破断応力のいずれか一方が上記の条件を満たさない場合、破れの少ない安定した成形加工が困難となる場合がある。
【0044】
なお、破断伸度、および破断応力は、インストロンタイプの引張試験機を用いて、測定方向を引張方向に切り出したサンプルを上下のチャック部分ではさんで引張試験を行い、フィルムサンプルが破断したときの伸度、応力をそれぞれ破断伸度、破断応力として測定する。つまり、ASTM−D882に規定された方法に従って、試料サイズが幅10mm×長さ150mm、試長間100mmのフィルムに対して引張り速度を300mm/分として、200℃でインストロンタイプの引張試験機を用いて測定した。試料数10にて、それぞれについてその測定をして、その平均値を破断伸度、破断応力とする。
【0045】
本発明の二軸配向ポリフェニレンスルフィドフィルムの厚さは特に限定されないが、熱成形加工時の成形追従性の観点からフィルムの厚さが100μm以上であることがより好ましく、さらに好ましくは150μm以上である。
【実施例】
【0046】
各物性値・特性の測定方法、評価方法は次の通りである。
(1)破断強度、破断伸度
ASTM−D882に規定された方法に従って、インストロンタイプの引張試験機を用いて測定した。測定は下記の条件で行い、試料数10にて、それぞれについて平均値をとった。
【0047】
測定装置:オリエンテック(株)製フィルム強伸度自動測定装置“テンシロンAMF/RTA−100”
試料サイズ:幅10mm×長さ150mm
試長間:100mm
引張り速度:300mm/分
測定環境:23℃
(2)樹脂のガラス転移温度
JIS K7121−1987に準じて測定した。示差走査熱量計セイコーインスツルメンツ社製DSC(RDC220)、データ解析装置として同社製ディスクステーション(SSC/5200)を用いて、試料5mgをアルミニウム製受皿上350℃で5分間溶融保持し、急冷固化した後、室温から昇温速度20℃/分で昇温した。なお、ガラス転移温度(Tg)は下記式により算出した。
ガラス転移温度=(補外ガラス転移開始温度+補外ガラス転移終了温度)/2
(3)樹脂の融解温度
上記(2)と同様にしてJIS K7121―1987に準じて示差走査熱量計セイコーインスツルメンツ社製DSC(RDC220)、データ解析装置として同社製ディスクステーション(SSC/5200)を用いて、試料5mgをアルミニウム製受皿上で室温から340℃まで昇温速度20℃/分で昇温し、340℃で5分間溶融保持し、急冷固化して5分間保持した後、室温から昇温速度20℃/分で昇温した。そのとき、観測される融解の吸熱ピークのピーク温度を融解温度(Tm)とした。
(4)PPS樹脂およびPPS樹脂組成物の溶融結晶化温度
上記(3)と同様にしてJIS K7121―1987に準じて示差走査熱量計セイコーインスツルメンツ社製DSC(RDC220)、データ解析装置として同社製ディスクステーション(SSC/5200)を用いて、試料5mgをアルミニウム製受皿上で室温から340℃まで昇温速度20℃/分で昇温し、340℃で5分間溶融保持し、急冷固化して5分間保持した後、再度室温から昇温速度20℃/分で昇温し340℃で5分間溶融保持した。その後、340℃から室温まで20℃/分で冷却した際に観測される結晶化の発熱ピークのピーク温度を溶融結晶化温度とした。本手法により環状PPS混合物を配合する前のPPS樹脂の溶融結晶化温度(Tmc’)、環状PPS混合物配合後のPPS樹脂組成物の溶融結晶化温度を(Tmc)をそれぞれ測定した。
【0048】
また、PPS樹脂に対して環状PPS混合物を配合することによる溶融結晶化温度の変化をTmc−Tmc’の値で表し、その値の符号が正の場合は環状PPS混合物の配合によりTmcが上昇することを示し、符号が負の場合は環状PPS混合物の配合によりTmcが低下することを示す。
(5)溶融粘度
フローテスターCFT−500(島津製作所製)を用いて、口金長さを10mm、口金径を1.0mmとして、予熱時間を5分に設定して、310℃で測定した。 剪断速度1000/sでの溶融粘度は、剪断速度500〜1000/sおよび1000〜2000/sでの溶融粘度をそれぞれn=2で測定し、両対数プロット上で直線近似して得られる相関線の剪断速度1000/sでの値とした。
(6)製膜時フィルム破れ
製膜時のフィルム破れは、合計時間24時間にわたり連続製膜を行った際、フィルム破れが5回以上起きた場合を「あり」、フィルム破れが1回も発生しなかった場合を「なし」とした。
(7)成形性
200℃におけるフィルムの長手方向あるいは幅方向のどちらか一方の破断伸度が150%以上であり、かつ、200℃におけるフィルムの長手方向あるいは幅方向のどちらか一方の破断応力が60MPa以下である場合に限り、成形性を「○」とし、それ以外の場合を成形性「×」とした。

(参考例1)PPS樹脂(PPS1)の重合
オートクレーブに、47%水硫化ナトリウム9.44kg(80モル)、96%水酸化ナトリウム3.43kg(82.4モル)、N−メチル−2−ピロリドン(NMP)13.0kg(131モル)、酢酸ナトリウム2.86kg(34.9モル)、及びイオン交換水12kgを仕込み、常圧で窒素を通じながら235℃まで約3時間かけて徐々に加熱し、水17.0kgおよびNMP0.3kg(3.23モル)を留出したのち、反応容器を160℃に冷却した。硫化水素の飛散量は2モルであった。
【0049】
次に、p−ジクロロベンゼン(p−DCB)11.5kg(78.4モル)、1,2,4−トリ
クロロベンゼン 0.007kg(0.04モル)、NMP22.2kg(223モル)を追添加し、反応容器を窒素ガス下に密封し、400rpmで撹拌しながら、200℃から270℃まで0.6℃/分の速度で昇温した。
【0050】
270℃で30分経過後、水1.11kg(61.6モル)を10分かけて系内に注入し、270℃で更に反応を100分間継続した。その後、水1.60kg(88.8モル)を系内に再度注入し、240℃まで冷却した後、210℃まで 0.4℃/分の速度で冷却し、その後室温近傍まで急冷した。NMPの使用量は、スルフィド化剤1モルに対し、4.5モルであった。
【0051】
内容物を取り出し、32リットルのNMPで希釈後、溶剤と固形物をふるい(80mesh)で濾別した。得られた粒子を再度NMP38リットルで85℃で洗浄した。その後67リットルの温水で5回洗浄、濾別し、0.05重量%酢酸カルシウム水溶液70,000gで5回洗浄、濾別し、PPSポリマー粒子を得た。これを、60℃で熱風乾燥し、120℃で減圧乾燥した。得られたPPSの得られたPPS樹脂は、溶融粘度が200Pa・s(310℃、剪断速度1,000/s)であり、ガラス転移温度が90℃、融点が280℃、溶融結晶化温度が192℃であった。
【0052】
(参考例2)酸末端PPS樹脂(PPS2)の重合
参考例1と同じ手法でオートクレーブ内でPPSを重合した後、内容物を取り出し、NMPで希釈後、溶剤と固形物をふるいで濾別して得られた粒子を再度NMP洗浄した。その後温水で5回洗浄、濾別し、次いで、酢酸水溶液で5回洗浄、濾別し、PPSポリマー粒子を得た。得られたPPS樹脂は溶融結晶化温度が215℃であった。
【0053】
(参考例3)環状PPS混合物の調整
まず、本文記載の環状PPSの原料となるPPS混合物の製造例について下記に説明する。
【0054】
撹拌機付きの1000Lのオートクレーブに、47.5%水硫化ナトリウム82.7kg(700モル)、96%水酸化ナトリウム29.6kg(710モル)、N−メチル−2−ピロリドン(以下NMPと略する場合もある)を114.4kg(116モル)、酢酸ナトリウム17.2kg(210モル)、及びイオン交換水100kgを仕込み、常圧で窒素を通じながら約240℃まで約3時間かけて徐々に加熱し、精留塔を介して水143kgおよびNMP2.8kgを留出した後、反応容器を160℃に冷却した。なお、この脱液操作の間に仕込んだイオウ成分1モル当たり0.02モルの硫化水素が系外に飛散した。
【0055】
次に、p−ジクロロベンゼン103kg(703モル)、NMP90kg(910モル)を加え、反応容器を窒素ガス下に密封した。240rpmで撹拌しながら、0.6℃/分の速度で270℃まで昇温し、この温度で140分保持した。水12.6kg(700モル)を15分かけて圧入しながら250℃まで1.3℃/分の速度で冷却した。その後220℃まで0.4℃/分の速度で冷却してから、室温近傍まで急冷し、スラリー(A)を得た。このスラリー(A)を200kgのNMPで希釈しスラリー(B)を得た。
【0056】
80℃に加熱したスラリー(B)100kgを25kg/1バッチスケールで、ふるい(80mesh、目開き0.175mm)で濾別し、メッシュオン成分としてスラリーを含んだ顆粒状PPS樹脂を、濾液成分としてスラリー(C)を約75kg得た。
【0057】
得られたスラリー(C)のうち、75kgを25kg/1バッチで脱揮装置に仕込み、窒素で置換してから、減圧下100〜150℃で1.5時間処理した後に、真空乾燥機で150℃、1時間処理して固形物を得た。この固形物にイオン交換水100kg(スラリー(C)の1.2倍量)を加えた後、70℃で30分撹拌して再スラリー化した。このスラリーを目開き10〜16μmのフィルターで減圧吸引濾過した。得られた白色ケークにイオン交換水100kgを加えて70℃で30分撹拌して再スラリー化し、同様に吸引濾過後、70℃で5時間真空乾燥してPPS混合物を0.9kg得た。
【0058】
こうして得られたPPS混合物を500g分取し、溶剤としてクロロホルム12kgを用いて、浴温約80℃でソックスレー抽出法により3時間PPS混合物と溶剤を接触させ、抽出液を得た。得られた抽出液は室温で一部固形状成分を含むスラリー状であった。この抽出液スラリーからエバポレーターを用いてクロロホルムを留去した後、真空乾燥機70℃で3時間処理して固形物210g(PPS混合物に対し、収率42%)を得た。
【0059】
このようにして得られた固形物は、赤外分光分析(装置;島津社製FTIR−8100A)における吸収スペクトルよりフェニレンスルフィド骨格を有する化合物であることを確認した。また、高速液体クロマトグラフィー(装置;島津社製LC−10,カラム;C18,検出器;フォトダイオードアレイ)より成分分割した成分のマススペクトル分析(装置;日立製M−1200H)、更にMALDI−TOF−MSおよびGPCによる分子量情報より、この固形物は繰り返し単位数4〜12の環状PPSを主要成分とする混合物であり、繰り返し単位数4〜12の環状PPSの重量分率は87%、13%は直鎖状PPSオリゴマーと繰り返し単位数13以上の環状PPS(Mw=2000)であることがわかった。
【0060】
(実施例1)
参考例1で作製したPPS樹脂100重量部、参考例3で作成した環状PPS混合物5重量部、平均粒径1.2μmの炭酸カルシウム粉末0.3重量部を配合し、180℃で3時間減圧乾燥した後、溶融部が320℃に加熱されたフルフライトの単軸押出機に供給した。押出機で溶融したポリマを温度330℃に設定したフィルターで濾過した後、温度310℃に設定したTダイの口金から溶融押出して表面温度25℃のキャストドラムに静電荷を印加させながら密着冷却固化し、未延伸フィルムを作製した。
【0061】
この未延伸フィルムを、加熱された複数のロール群からなる縦延伸機を用い、予熱後、ロールの周速差を利用して、101℃のフィルム温度でフィルムの縦方向に3.2倍の倍率で延伸した。その後、このフィルムの両端部をクリップで把持して、テンターに導き、延伸温度101℃、延伸倍率3.3倍でフィルムの幅方向に延伸を行い、引き続いて温度200℃で4秒間熱処理(1段目熱処理)を行い、続いて260℃で4秒間熱処理(2段目熱処理)を行った。引き続き、260℃の弛緩処理ゾーンで4秒間横方向に5%弛緩処理を行った後、室温まで冷却した後、フィルムエッジを除去し、厚さ100μmの二軸配向PPSフィルムを作製した。
【0062】
得られた二軸配向PPSフィルムの構成や特性についての測定、評価結果は、表1に示したとおりであり、この二軸配向PPSフィルムは、200℃における破断伸度が高く、製膜時のフィルム破れはほとんど無かった。
【0063】
(実施例2)
実施例1で、フィルム厚さを150μmとする以外は、実施例1と同様にして二軸配向PPSフィルムを作製した。得られた二軸配向PPSフィルムの構成や特性についての測定、評価結果は、表1に示したとおりであり、この二軸配向PPSフィルムは、厚さが増加し、キャスト冷却時の冷却斑が発生しやすい条件であるにもかかわらず、破断伸度が高く、製膜安定性に優れたものであった。
【0064】
(実施例3)
実施例1で、環状PPS混合物の配合量をPPS樹脂100重量部に対して1重量部とする以外は、実施例1と同様にして二軸配向PPSフィルムを作製した。得られた二軸配向PPSフィルムの構成や特性についての測定、評価結果は、表1に示したとおりであった。
【0065】
(実施例4)
実施例1で、環状PPS混合物の配合量をPPS樹脂100重量部に対して10重量部とする以外は、実施例1と同様にして二軸配向PPSフィルムを作製した。得られた二軸配向PPSフィルムの構成や特性についての測定、評価結果は、表1に示したとおりであり、破断伸度が高く、破断応力の低いフィルムであった。
【0066】
(比較例1)
実施例1で、PPS樹脂として参考例2で作成した酸末端PPSを使用した以外は、実施例1と同様にして二軸配向PPSフィルムを作製した。得られた二軸配向PPSフィルムの構成や特性についての測定、評価結果は、表1に示したとおりであり、この二軸配向PPSフィルムは、破断伸度が不十分であるだけでなく、製膜時の破れが多発し、製膜安定性が悪かった。
【0067】
(比較例2)
実施例1で、環状PPS混合物の配合量をPPS樹脂100重量部に対して0.5重量部とする以外は、実施例1と同様にして二軸配向PPSフィルムを作製した。得られた二軸配向PPSフィルムの構成や特性についての測定、評価結果は、表1に示したとおりであり、この二軸配向PPSフィルムは、破断伸度が低く、破断応力が高かった。
【0068】
(比較例3)
実施例1で、環状PPS混合物の配合量をPPS樹脂100重量部に対して30重量部とする以外は、実施例1と同様にして二軸配向PPSフィルムを作製した。得られた二軸配向PPSフィルムの構成や特性についての測定、評価結果は、表1に示したとおりであり、この二軸配向PPSフィルムは、製膜時の破れが多発し、製膜安定性が悪かった。また、得られたフィルムは200℃における破断伸度が低く成形性が不十分であった。
【0069】
【表1】

【産業上の利用可能性】
【0070】
本発明の二軸配向ポリアリーレンスルフィドフィルムは破断伸度が大きく向上したものであり、モーター、トランス、絶縁ケーブルなどの電気絶縁材料、成形材料、回路基板材料、回路・光学部材などの工程・離型材料、リチウムイオン電池材料、燃料電池材料、スピーカー振動板などの各種工業材料用途において、好適に使用することができる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ポリフェニレンスルフィド樹脂100重量部に対し、一般式(1)で表される環状ポリフェニレンスルフィド混合物1〜20重量部を含有したポリフェニレンスルフィド樹脂組成物からなる二軸配向ポリフェニレンスルフィドフィルムであって、ポリフェニレンスルフィド樹脂組成物の溶融結晶化温度(Tmc)(℃)と、環状ポリフェニレンスルフィド混合物を配合する前のポリフェニレンスルフィド樹脂の溶融結晶化温度(Tmc’)(℃)が(Tmc−Tmc’)≦−1(℃)の関係にあることを特徴とする二軸配向ポリフェニレンスルフィドフィルム。
【化1】

(ここで、mは、4〜20の整数)
【請求項2】
前記ポリフェニレンスルフィド樹脂組成物の溶融結晶化温度(Tmc)(℃)と、環状ポリフェニレンスルフィド混合物を配合する前のポリフェニレンスルフィド樹脂の溶融結晶化温度(Tmc’)(℃)が、(Tmc−Tmc’)≦−5(℃)の関係にあることを特徴とする請求項1に記載の二軸配向ポリフェニレンスルフィドフィルム。
【請求項3】
ポリフェニレンスルフィド樹脂組成物に含まれるポリフェニレンスルフィドがカルシウム末端ポリフェニレンスルフィドであることを特徴とする請求項1または2に記載の二軸配向ポリフェニレンスルフィドフィルム。
【請求項4】
フィルム厚さが100μm以上であることを特徴とする請求項1〜3のいずれか1項に記載の二軸配向ポリフェニレンスルフィドフィルム。

【公開番号】特開2012−233032(P2012−233032A)
【公開日】平成24年11月29日(2012.11.29)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−100816(P2011−100816)
【出願日】平成23年4月28日(2011.4.28)
【出願人】(000003159)東レ株式会社 (7,677)
【Fターム(参考)】