説明

二軸配向積層ポリエステルフィルム

【課題】固有粘度の低いポリエチレンナフタレートを含んでいながら高強度な二軸配向積層ポリエステルフィルムを提供する。
【解決手段】ポリエチレンナフタレートを主たる構成成分とする層を3層積層した二軸配向積層ポリエステルフィルムであって、該積層ポリエステルフィルムの中間層または表層いずれか一方は層の固有粘度が0.40〜0.60dl/gの低固有粘度層であり、他方の層は該低固有粘度層の固有粘度より0.1dl/g以上高い固有粘度を有する高固有粘度層であって、該積層ポリエステルフィルムの破断強度が180MPa以上である二軸配向積層ポリエステルフィルムによって得られる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は二軸配向積層ポリエステルフィルムに関し、さらに詳しくは、固有粘度の低いポリエチレンナフタレートを含んでいながら高強度な二軸配向積層ポリエステルフィルムに関する。
【背景技術】
【0002】
ポリエステルフィルムは機械特性に優れているが、ポリエステルフィルムに対してより高い強度が求められており、例えばポリエステルとしてポリエチレンナフタレートを用いたフィルムが検討され、さらに配向を高めるなどの手法により高強度化が進められている。
また高い固有粘度のポリエステルを用いて高強度化させる方法も検討されており、固有粘度が低いポリエステルでは高強度なフィルムが得られにくいことが知られている。
一方で、資源の再利用の観点よりポリエステルフィルムの再利用も検討されているが、これらはフィルム製造工程等で熱履歴を受けていることが多く、一般的にポリエステルの固有粘度が低く、そのまま再利用すると高強度フィルムを得にくい。
【0003】
また、ポリエステルフィルムは種々の目的で積層化させることも検討されており、固有粘度に着目した積層ポリエステルとして、例えば特許文献1には高温多湿度下での耐熱性が塩化ビニール製容器と同等でかつ製膜時の巻取り性、容器等への二次加工性に優れるシートとして、スキン層が極限粘度0.6〜0.9のポリエチレンテレフタレート樹脂45〜80重量部と極限粘度0.4〜0.7のポリエチレンテレフタレート樹脂20〜55重量部から得られる組成物で構成され、コア層が極限粘度0.6〜0.9のポリエチレンテレフタレート樹脂で構成される多層のポリエステルシートが開示されている。しかしながら特許文献1は成形加工性を高めるために固有粘度の異なるポリエチレンテレフタレート樹脂同士を上述の範囲でブレンドした組成物をスキン層に用い、またコア層にもポリエチレンテレフタレート樹脂を用いた技術であり、低い固有粘度のポリエチレンナフタレートフィルムの高強度化に関して何も言及していない。
【0004】
また特許文献2にはポリエチレンナフタレートの層状剥離などを解消する目的で、ポリエチレンテレフタレートからなる中間層の両表面にポリエチレンナフタレート層を積層した電気絶縁用二軸配向積層ポリエステルフィルムが提案されており、中間層はエチレン−2,6−ナフタレンジカルボキシレート成分を0.05〜15重量%未満含有することが記載されているが、低固有粘度のポリエチレンナフタレートを用いた高強度フィルムについては何も検討されていない。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開平9−39183号公報
【特許文献2】特開2002−273844号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明は、かかる従来技術の問題点を解消し、固有粘度の低いポリエチレンナフタレートを含んでいながら高強度な二軸配向積層ポリエステルフィルムを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明者らは、前記課題を解決するために鋭意検討した結果、固有粘度の低いポリエチレンナフタレートだけで面配向を高めて高強度化しようとすると、製膜中に破断するなど高い延伸性が得られず、高強度化が困難であることを鑑みてなされたものであり、ポリエチレンナフタレートを主たる構成成分とする層を3層積層し、中間層または表層いずれか一方が低固有粘度層であり、他方の層に低固有粘度層よりも0.1dl/g以上高い固有粘度を有する高固有粘度層を設け、従来の低固有粘度層だけでは延伸できなかった高延伸処理を施すことにより、180MPa以上の高いフィルム破断強度を有する二軸配向積層ポリエステルフィルムが得られることを見出し、本発明を完成するに至った。
【0008】
すなわち本発明の目的は、ポリエチレンナフタレートを主たる構成成分とする層を3層積層した二軸配向積層ポリエステルフィルムであって、該積層ポリエステルフィルムの中間層または表層いずれか一方は層の固有粘度が0.40〜0.60dl/gの低固有粘度層であり、他方の層は該低固有粘度層の固有粘度より0.1dl/g以上高い固有粘度を有する高固有粘度層であって、該積層ポリエステルフィルムの破断強度が180MPa以上である二軸配向積層ポリエステルフィルムによって達成される。
【0009】
また本発明の二軸配向積層ポリエステルフィルムは、その好ましい態様として、該低固有粘度層を構成するポリエチレンナフタレートがテレフタル酸に由来する成分を0.5〜2.0モル%含有することを包含しており、かかる構成を備えることにより、低固有粘度層を含む積層ポリエステルフィルムでありながら、さらに高延伸処理が可能となり、更なる高強度化が可能となるものである。
【0010】
本発明の二軸配向積層ポリエステルフィルムは、上記以外の好ましい態様として、該積層ポリエステルフィルムの固有粘度が0.50〜0.70dl/gであること、該高固有粘度層の固有粘度が0.55〜0.85dl/gであること、該高固有粘度層が該層の重量を基準として固有粘度0.75〜1.0dl/gのポリエチレンナフタレート樹脂を20〜50重量%含むこと、該積層ポリエステルフィルムの厚みを基準として高固有粘度層の合計厚み比率が5〜60%であること、該低固有粘度層が該層の重量を基準として40〜90重量%の範囲で再生されたポリエチレンナフタレート樹脂を含むこと、該積層ポリエステルフィルムの中間層が低固有粘度層であること、の少なくともいずれか一つを具備するものを包含するものである。
【発明の効果】
【0011】
本発明によれば、固有粘度の低いポリエチレンナフタレートを含んでいながら高強度な二軸配向ポリエステルフィルムを提供することができ、例えば固有粘度の低い再生されたポリエチレンナフタレートを用いながら高強度な二軸配向ポリエステルフィルムを提供することができる。
【発明を実施するための形態】
【0012】
以下、本発明を詳細に説明する。
本発明は、ポリエチレンナフタレートを主たる構成成分とする層を3層積層した二軸配向積層ポリエステルフィルムであって、該積層ポリエステルフィルムの中間層または表層いずれか一方は層の固有粘度が0.40〜0.60dl/gの低固有粘度層であり、他方の層は該低固有粘度層の固有粘度より0.1dl/g以上高い固有粘度を有する高固有粘度層であって、該積層ポリエステルフィルムの破断強度が180MPa以上である二軸配向積層ポリエステルフィルムである。ここで積層フィルムの真ん中の層を中間層と称し、両側の層を表層と称する。
【0013】
[低固有粘度層]
本発明の二軸配向積層ポリエステルフィルムを構成する低固有粘度層はポリエチレンナフタレートを主たる構成成分とする層であり、該層の固有粘度は0.40〜0.60dl/gであり、該固有粘度の好ましい下限値は0.42dl/g、さらに好ましい下限値は0.45dl/g、該固有粘度の好ましい上限値は0.55dl/g、さらに好ましい上限値は0.50dl/gである。
【0014】
本発明は、固有粘度の低いポリエチレンナフタレートを用いながら高強度な二軸配向ポリエステルフィルムを得ることを目的としており、かかる目的との関係で低固有粘度層を含むものである。しかしながら、該層の固有粘度が下限値よりも低くなると十分な溶融粘度を保つことができず、フィルムの製膜時に積層化が困難となり、また強度を高めるために高延伸させる際に該層を起点として破断する可能性がある。一方、該層の固有粘度が高い分には問題はないものの、高すぎると溶融押出が困難になり、重合時間が長くなる。
ここで固有粘度の測定方法として、試料0.6gをオルソクロロフェノール50ml中に加熱溶解した後、一旦冷却させ、遠心分離機により滑剤等の無機物を取り除き、その溶液をオストワルド式粘度管を用いて35℃の温度条件で測定した溶液粘度から算出して測定することができる。
【0015】
かかる低固有粘度層はポリエチレンナフタレートを主たる構成成分とする層であり、ここで「主たる」とは該層の重量を基準として90重量%以上であることが好ましく、より好ましくは95重量%以上である。
本発明におけるポリエチレンナフタレートはエチレングリコールまたはそのエステル形成性誘導体とナフタレンジカルボン酸またはそのエステル形成性誘導体とから合成され、中でもポリエチレン−2,6−ナフタレートが好ましい。
かかるポリエチレンナフタレートは、ポリエチレンナフタレートの全繰り返し単位を基準としてナフタレンジカルボン酸以外の酸成分に由来する成分を0.5〜2.0モル%含有することが好ましく、ナフタレンジカルボン酸以外の酸成分としてテレフタル酸、イソフタル酸などが挙げられ、テレフタル酸が特に好ましい。
低固有粘度層を構成するポリエチレンナフタレートがナフタレンジカルボン酸以外の酸成分に由来する成分を極少量含むことにより、積層ポリエステルフィルムを二軸方向に延伸させる際、固有粘度が低いにも係らずポリエチレンナフタレートの機械特性を損なうことなく延伸性を高めることができ、固有粘度の低いポリエチレンナフタレートだけでは製膜中に破断するような高延伸処理を行うことができる。
ナフタレンジカルボン酸以外の酸成分はポリエチレンナフタレートに共重合されていてもよく、ブレンドされたものでもよい。
【0016】
ポリエチレンナフタレートにおけるナフタレンジカルボン酸以外の酸成分由来の成分が下限値に満たないと、積層フィルムをさらに高強度化しようとした際に目的とする強度が得られるまで延伸性を高めることができず、積層ポリエステルフィルムとしての強度を高めることができない。他方、該成分量が上限値を超えると高強度化に適した延伸倍率まで延伸性を高めることはできるものの、ポリエチレンナフタレートが本来有する強度が損なわれ、積層ポリエステルフィルムとしての強度低下につながる。
【0017】
低固有粘度層を構成するポリエチレンナフタレートには、主たる酸成分であるナフタレンジカルボン酸や、必要に応じて用いるテレフタル酸、イソフタル酸などの従たる酸成分の他に、さらに他の酸成分に由来する成分を第3成分として含んでいてもよく、アジピン酸、セバシン酸、ドデカンジカルボン酸、コハク酸、5−ナトリウムスルホイソフタル酸、2−カリウムスルホテレフタル酸、1,4−シクロヘキサンジカルボン酸、4,4’−ジフェニルジカルボン酸、フェニルインダンジカルボン酸、ジフェニルエーテルジカルボン酸等が挙げられる。かかる場合、第3成分も含めた従たる酸成分の合計量がポリエチレンナフタレートの全繰り返し単位を基準として0.5〜2.0モル%であることが好ましい。
ポリエチレンナフタレートのエステル交換反応、重縮合反応に使用する触媒としては、チタン化合物(Ti化合物)、ゲルマニウム化合物(Ge化合物)などが好ましく挙げられる。
【0018】
本発明の低固有粘度層は、該層の重量を基準として40〜90重量%の範囲で再生されたポリエチレンナフタレート樹脂を含むことが好ましく、さらに好ましくは50〜85重量%である。ここで再生されたポリエチレンナフタレート樹脂とは、フィルムの製膜工程中もしくは製品で発生したポリエステル屑を回収再利用したもののことである。かかる再生ポリエチレンナフタレートとして、回収したポリエチレンナフタレートに固相重合を施して固有粘度を上げた樹脂を使用してもよい。
再生されたポリエチレンナフタレート樹脂の含有量が下限値に満たないと再生品を効率よく利用できないことがある。他方で、再生されたポリエチレンナフタレート樹脂の含有量が上限値を超えると、積層ポリエステルフィルムとしての破断強度特性が得られなことがある。
【0019】
また、本発明の低固有粘度層には、本発明の課題を損なわない範囲内で該層の重量を基準として、好ましくは10重量%以下の範囲内で滑剤、各種安定剤、着色剤などの成分を含んでいてもよい。その含有量はかかる範囲内でより少ない方が好ましく、より好ましくは5重量%以下、特に好ましくは1重量%以下である。
【0020】
本発明の低固有粘度層は3層積層ポリエステルフィルムの中間層または表層のいずれか一方に用いられ、中間層に用いられることが好ましい。固有粘度が相対的に低い層が中間層に用いられ、高固有粘度層が表層に用いられることにより、積層ポリエステルフィルムの表面を高強度にすることができる。
また、本発明の低固有粘度層が表層に用いられる場合は、少なくとも一方の表面のみに用いてもよく、好ましくは両表層に用いられる。
【0021】
[高固有粘度層]
本発明の二軸配向積層ポリエステルフィルムを構成する高固有粘度層はポリエチレンナフタレートを主たる構成成分とする層であり、低固有粘度層の固有粘度より0.1dl/g以上高い固有粘度を有する。本発明の積層ポリエステルフィルムが低固有粘度層だけでなく、かかる高固有粘度層を有していることにより、低固有粘度層だけでは延伸できなかった高延伸処理によって高固有粘度層の配向を効率的に高めることができ、積層ポリエステルフィルムとして180MPa以上の高いフィルム破断強度を有する二軸配向積層ポリエステルフィルムを得ることができる。
【0022】
低固有粘度層と高固有粘度層との固有粘度の差は好ましくは0.15dl/g以上であり、さらに好ましくは0.20dl/g以上である。低固有粘度層と高固有粘度層との固有粘度の差は最大でも0.50dl/g以下にとどめるのが好ましい。かかる固有粘度差がこの範囲より大きくなると製膜時の粘度差が大きくなりすぎ、積層ポリエステルフィルムの製膜性が不安定になることがある。
【0023】
本発明における高固有粘度層の固有粘度は0.50〜0.85dl/gであることが好ましく、さらに0.55〜0.85dl/gであることが好ましく、特に0.60〜0.75dl/gであることが好ましい。高固有粘度層の固有粘度が下限値に満たない場合は、延伸による高固有粘度層の配向が十分でなく、積層ポリエステルフィルムとしての破断強度が低くなることがある。一方、高固有粘度層の固有粘度が上限値を超えて高くなると溶融押出しが困難になり、また重合時間が長くなる。かかる固有粘度の測定方法は低固有粘度層に記載した方法を用いて求められる。
【0024】
かかる高固有粘度層はポリエチレンナフタレートを主たる構成成分とする層であり、ここで「主たる」とは該層の重量を基準として90重量%以上であることが好ましく、より好ましくは95重量%以上である。
高固有粘度層を構成するポリエチレンナフタレートは、エチレングリコールまたはそのエステル形成性誘導体とナフタレンジカルボン酸またはそのエステル形成性誘導体とから合成され、中でもポリエチレン−2,6−ナフタレートが好ましい。
かかるポリエチレンナフタレートは全繰り返し単位を基準としてエチレンナフタレート単位が95モル%以上であることが好ましく、さらに好ましくは97モル%以上である。エチレンナフタレート単位以外の従たる成分の種類は特に限定されず、低固有粘度層に例示した成分のみならず、その他、ポリエステルの共重合成分として一般的に用いられる成分を用いてもよい。
【0025】
ポリエチレンナフタレートのエステル交換反応、重縮合反応に使用する触媒としては、チタン化合物(Ti化合物)、ゲルマニウム化合物(Ge化合物)などが好ましく挙げられる。
【0026】
さらに高固有粘度層には該層の重量を基準として固有粘度0.75〜1.0dl/gのポリエチレンナフタレート樹脂を20〜50重量%含むことができ、さらに25〜40重量%の範囲で含むことが好ましい。高固有粘度層に固有粘度の高いポリエチレンナフタレート樹脂を添加することで高固有粘度層のポリマー絡み合い密度を高め、また配向を効率的に高めることができ、積層ポリエステルフィルムとしての破断強度をさらに高くすることができる。
かかる固有粘度のポリエチレンナフタレート樹脂の含有量が下限値に満たないと積層ポリエステルフィルムの破断強度のさらなる向上が十分発現しないことがあり、他方で上限値を超えると高固有粘度層の全体の固有粘度が高くなりすぎ、低固有粘度層との固有粘度差が大きくなりすぎて積層ポリエステルフィルムの製膜安定性に乏しくなることがある。かかる固有粘度のポリエチレンナフタレート樹脂を得るには、必要に応じて固相状態での重合方法(固相重合)を施してもよい。
【0027】
また、本発明の高固有粘度層には、本発明の課題を損なわない範囲内で該層の重量を基準として、好ましくは10重量%以下の範囲内で滑剤、各種安定剤、着色剤などの成分を含んでいてもよい。その含有量はかかる範囲内でより少ない方が好ましく、より好ましくは5重量%以下、特に好ましくは1重量%以下である。
【0028】
本発明の高固有粘度層は3層積層ポリエステルフィルムの中間層または表層のいずれか一方に用いられ、表層に用いられることが好ましい。固有粘度が相対的に低い層が中間層に用いられ、高固有粘度層が表層に用いられることにより、積層ポリエステルフィルムの表面を高強度にすることができる。また本発明の高固有粘度層を表層に用いるに際し、両表層が同一の組成であってもよいし、上述の範囲内で異なる組成であってもよい。
【0029】
[二軸配向積層ポリエステルフィルム]
本発明の二軸配向積層ポリエステルフィルムはポリエチレンナフタレートを主たる構成成分とする層を3層積層した二軸配向積層ポリエステルフィルムである。
かかる積層ポリエステルフィルムの層構成は、中間層または表層のいずれかが本発明の低固有粘度層であって、他方の層が本発明の高固有粘度層であり、中間層が低固有粘度層であることが好ましい。
【0030】
本発明の積層ポリエステルフィルムの固有粘度は好ましくは0.45〜0.90dl/g、より好ましくは0.50〜0.70dl/g、さらに好ましくは0.50〜0.65dl/gである。積層ポリエステルフィルムの固有粘度が下限値に満たないと、フィルムがデラミネーションを起こしやすくなることがあり、またフィルム自体が脆くなり、フィルム破断強度が本発明の範囲を満たさないことがある。積層ポリエステルフィルムの固有粘度が上限値を超えて高い場合は溶融粘度が高いため溶融押出しが困難になり、また重合時間が長くなる他、フィルムの剛性が高すぎて後加工しにくいことがある。
【0031】
また、二軸配向積層ポリエステルフィルムは、該積層ポリエステルフィルムの厚みを基準として、高固有粘度層の合計厚み比率が5〜60%であることが好ましく、10〜60%であることがさらに好ましい。高固有粘度層の合計厚み比率が下限値に満たないと、積層ポリエステルフィルムとしての破断強度が低下し、本発明の範囲を満たさないことがある。一方で、高固有粘度層の合計厚み比率が上限値を超えると、固有粘度の低いポリエチレンナフタレート使用量が減少し、例えば再生されたポリエチレンナフタレートを効率よく利用できないことがある。
【0032】
積層ポリエステルフィルムの全体厚みは10〜300μmが好ましく、さらに好ましくは25〜250μmである。積層ポリエステルフィルムの全体厚みが下限値に満たない場合は3層積層とすることが難しいことがある。また積層ポリエステルフィルムの全体厚みを上限値を超えて厚くすると、フィルムの生産が困難となることがある。
【0033】
[積層ポリエステルフィルムの製造方法]
本発明の積層ポリエステルフィルムは、例えば十分に乾燥させたポリエチレンナフタレート樹脂組成物を樹脂の融点〜(融点+70℃)の範囲の温度で溶融押し出し、キャスティングドラム上で急冷して未延伸フィルムとし、ついで該未延伸フィルムを縦方向および横方向に逐次二軸延伸又は同時二軸延伸し、熱固定する方法で製造することが好ましい。
【0034】
また積層化させる方法として、各層を構成するポリエチレンナフタレート樹脂組成物をそれぞれ別の押出機に投入し、溶融状態で合流させて製造する方法が挙げられ、中間層を構成する樹脂組成物を積層フィルムの真ん中に配置し、表層を構成する樹脂組成物をその両側に配置する。この積層フィルムには、必要に応じて易接着層や他の樹脂層、機能層などを片側または両側にさらに積層してもよく、それが多層であってもよい。
【0035】
二軸延伸する方法は逐次二軸延伸が好ましく、その際未延伸フィルムを縦方向に110℃〜170℃で2.5倍〜5.8倍延伸し、次いでステンターにて横方向に120℃〜180℃で2.5〜5.8倍延伸し、その後150℃〜250℃の温度で緊張下又は制限収縮下で熱固定するのが好ましい。熱固定時間は10〜30秒が好ましい。また、縦方向及び横方向の延伸条件は得られる二軸配向積層ポリエステルフィルムの物性が縦横の両方向にほぼ等しくなるような条件を選択するのが好ましい。同時二軸延伸の場合も上記逐次二軸延伸の延伸温度、延伸倍率、熱固定温度などを適用することができる。
【0036】
[破断強度]
本発明の二軸配向積層ポリエステルフィルムの破断強度は180MPa以上であり、好ましくは200MPa以上、さらに好ましくは230MPa以上である。本発明の二軸配向積層ポリエステルフィルムは、低固有粘度層を有していながら通常の固有粘度のポリエチレンナフタレートフィルムに匹敵する破断強度を有することが特徴であり、破断強度が下限値に満たないとフィルムとしての強度が不足し、フィルムが脆く扱い難くなる。
【0037】
かかる破断強度を有する二軸配向積層ポリエステルフィルムは、本発明の固有粘度特性を有する低固有粘度層と高固有粘度層とを積層し、かつフィルムの二軸方向それぞれに少なくとも2.5倍の延伸倍率で延伸することで得られ、さらに低固有粘度層を構成するポリエチレンナフタレートがナフタレンジカルボン酸以外の特定の酸成分に由来する成分を極少量含むことにより、低固有粘度層を有するにも係らず延伸性をさらに高めることができ、固有粘度の低いポリエチレンナフタレートだけでは製膜中に破断するような高い延伸倍率での延伸が可能となり、さらに破断強度を高めることができる。
【0038】
[用途]
本発明の二軸配向積層ポリエステルフィルムは、ポリエチレンナフタレートフィルムが用いられる種々の用途に用いることができ、例えばコンデンサー、モータ絶縁などといった電気絶縁用途、太陽電池用途、成形加工用途などに好適に用いることができる。
【実施例】
【0039】
以下、実施例により本発明をさらに詳細に説明するが、本発明は以下の実施例に限定されるものではない。なお、各特性値は以下の方法で測定した。
【0040】
(1)固有粘度
フィルム全体、フィルムの各層それぞれについて0.6gサンプリングし、オルソクロロフェノール50ml中に加熱溶解した後、一旦冷却させ、遠心分離機により滑剤等の無機物を取り除き、その溶液をオストワルド式粘度管を用いて35℃の温度条件で測定した溶液粘度から算出した。
【0041】
(2)ポリエステル組成
H−NMR測定より、ポリエステルの成分を特定した。
【0042】
(3)フィルム厚み
フィルムサンプルをエレクトリックマイクロメーター(アンリツ製 K−402B)にて、10点厚みを測定し、平均値をフィルムの厚みとした。
【0043】
(4)各層の厚みおよび層厚み比
フィルムサンプルを三角形に切り出し、包埋カプセルに固定後、エポキシ樹脂にて包埋する。そして、包埋されたサンプルをミクロトーム(ULTRACUT−S)で縦方向に薄膜切片にした後、透過型光学顕微鏡もしくは透過型電子顕微鏡(加速電圧100kv)を用いて写真から各層の厚みを10点測定し、平均層厚みを求めた。
また、高固有粘度層の合計厚み比率は、(3)で求めたフィルム厚み、および(4)で求めた高固有粘度層の合計厚みより算出した。
【0044】
(5)フィルム破断強度
フィルム破断強度は、引張試験機(東洋ボールドウィン社製、商品名「テンシロン」)を用いて、温度20℃、湿度50%に調節された室内において測定した。サンプルフィルムをフィルム縦方向(MD方向)が測定方向となるよう、幅10mm、長さ150mmに切り出し、チャック間100mmでサンプルを装着し、JIS−C2318 5.3.3に従って引張速度100mm/minの条件で引張試験を行い、破断時の荷伸曲線の荷重を読み取った。破断強度は破断時の荷重を引張前のサンプル断面積で割って算出(MPa)し、以下の基準で評価した。
◎: 200MPa以上
○: 180MPa以上200MPa未満
×: 180MPa未満
【0045】
(6)延伸性(破断延伸倍率)
高温二軸延伸試験装置(株式会社東洋精機製作所製)を用いて、延伸量を測定し、延伸性の評価をした。延伸量の測定は、前記装置に60mm角に切った各未延伸フィルムをセットして135℃の温度で1分加熱した後、1.0m/minの速度で同時二軸延伸を行い、破断時の荷伸曲線の延伸量を読み取った。破断延伸倍率は、かかる延伸量と延伸前のチャック間距離の合計値を延伸前のチャック間45mmで割って算出し、以下の基準で評価した。
◎: 3.5倍以上
○: 2.5倍以上3.5倍未満
×: 2.5倍未満
【0046】
[実施例1]
高固有粘度層用のポリエチレンナフタレートとして、2,6−ナフタレンジカルボン酸ジメチルとエチレングリコールとを原料として用い、エステル交換触煤として酢酸マンガン、重縮合触媒として酸化ゲルマニウム、安定剤として亜燐酸を添加して常法により重合し、固有粘度(オルソクロロフェノール、35℃)0.63dl/gのポリエチレンナフタレート(PEN)を得た。このポリマーを170℃において6時間乾燥させた後、押出機に供給し、溶融温度300℃で溶融後フィルターにて濾過し、3層押出ダイの第1層及び第3層に、すなわち両表層(表1におけるA層)を形成するように押し出した。
【0047】
これとは別に、低固有粘度層用のポリエチレンナフタレートとして、2,6−ナフタレンジカルボン酸ジメチルとエチレングリコールとを原料として用い、エステル交換触煤として酢酸マンガン、重縮合触媒として酸化ゲルマニウム、安定剤として亜燐酸を添加して常法により重合し、固有粘度(オルソクロロフェノール、35℃)0.48dl/gのポリエチレンナフタレート(PEN)を得た。このポリマーを170℃において6時間乾燥させた後、別の押出機に供給し、溶融温度300℃で溶融後フィルターにて濾過し、3層押出ダイの第2層に、すなわち中間層(表1におけるB層)を形成するように押し出した。この3層溶融物を表面温度30℃の回転冷却ドラム上に押し出し、未延伸フィルムを得た。
【0048】
得られた未延伸フィルムを130℃に予熱し、低速ローラーと高速ローラーの間で15mm上方より800℃の表面温度の赤外線ヒーター1本で加熱して縦方向に3.0倍に延伸した。続いてステンターに供給し、140℃にて横方向に2.8倍に延伸した。得られた二軸配向フィルムを230℃の温度で30秒間熱固定し、50μm厚み(A層10μm/B層30μm/A層10μm)の二軸配向積層ポリエステルフィルムを得た。得られたフィルムの特性を上記の方法で評価し、その結果を表1に示した。
【0049】
[実施例2]
実施例1において、中間層(B)の樹脂組成物としてポリエチレンナフタレート(PEN)に0.5モル%のポリエチレンテレフタレート(PET)を添加した樹脂組成物を用いた以外は実施例1と同様にし、二軸配向積層ポリエステルフィルムを得た。得られたフィルムの特性を前述の方法で評価し、その結果を表1に示した。
【0050】
[実施例3]
実施例1において、(B)の樹脂組成物としてポリエチレンナフタレート(PEN)に2.0モル%のポリエチレンテレフタレート(PET)を添加した樹脂組成物を用い、また各層の厚みをA層5μm/B層40μm/A層5μm(合計50μm厚み)に変更した。さらに、表層(高固有粘度層)の樹脂組成物として、実施例1で用いた固有粘度0.63dl/gのポリエチレンナフタレート70重量%、固有粘度0.90dl/gのポリエチレンナフタレート30重量%を用いた以外は実施例1と同様にし、二軸配向積層ポリエステルフィルムを得た。得られたフィルムの特性を前述の方法で評価し、その結果を表1に示した。
【0051】
[実施例4]
実施例1において、中間層(B)の樹脂組成物としてポリエチレンナフタレート(PEN)に5.0モル%のポリエチレンテレフタレート(PET)を添加した樹脂組成物を用い、さらに固有粘度が0.51dl/gのものを用いた以外は実施例1と同様にし、二軸配向積層ポリエステルフィルムを得た。得られたフィルムの特性を前述の方法で評価し、その結果を表1に示した。
【0052】
[実施例5]
実施例1において、表層(A)のポリエチレンナフタレート(PEN)として固有粘度0.45dl/gのものを用い、中間層(B)のポリエチレンナフタレート(PEN)として固有粘度0.60dl/gのものを用い、低固有粘度層を表層に、高固有粘度層を中間層に変更した以外は実施例1と同様にし、厚み50μmの二軸配向積層ポリエステルフィルムを得た。得られたフィルムの特性を前述の方法で評価し、その結果を表1に示した。
【0053】
[実施例6]
実施例1において各層厚みをA層5μm/B層90μm/A層5μmに変更し、フィルム全体厚みを100μmとした以外は実施例1と同様にし、二軸配向積層ポリエステルフィルムを得た。得られたフィルムの特性を前述の方法で評価し、その結果を表1に示した。
【0054】
[実施例7]
実施例1において、表層(A)のポリエチレンナフタレート(PEN)として固有粘度0.69dl/gのものを用い、中間層(B)のポリエチレンナフタレート(PEN)として固有粘度0.58dl/gのものを用いた以外は実施例1と同様にし、厚み50μmの二軸配向積層ポリエステルフィルムを得た。得られたフィルムの特性を前述の方法で評価し、その結果を表1に示した。
【0055】
[実施例8]
実施例3において縦方向の延伸倍率を3.5倍に、また横方向の延伸倍率を3.3倍に変更した以外は実施例3と同様にし、厚み50μmの二軸配向積層ポリエステルフィルムを得た。得られたフィルムの特性を前述の方法で評価し、その結果を表1に示した。
【0056】
[比較例1]
実施例1において、表層(A)をなくし、低固有粘度層にあたる層として固有粘度0.45dl/gのポリエチレンナフタレート(PEN)を用いて単層の未延伸フィルムを得た。得られた未延伸フィルムを130℃に予熱し、低速ローラーと高速ローラーの間で15mm上方より800℃の表面温度の赤外線ヒーター1本にて加熱して縦方向に2.4倍に延伸した。続いてステンターに供給し、140℃にて横方向に2.4倍に延伸した。それ以外は実施例1と同様にして厚み50μmの二軸配向単層ポリエステルフィルムを得た。得られたフィルムの特性を前述の方法で評価し、その結果を表1に示した。
【0057】
[比較例2]
比較例1において縦方向の延伸倍率を3.0倍に、また横方向の延伸倍率を2.8倍に変更した以外は比較例1と同様にして二軸方向に延伸を行ったが、横延伸時にフィルムが破れ、二軸配向フィルムを得ることができなかった。
【0058】
[比較例3]
実施例1において、縦方向の延伸倍率を2.4倍に、また横方向の延伸倍率を2.4倍に変更した以外は実施例1と同様にし、厚み50μmの二軸配向積層ポリエステルフィルムを得た。得られたフィルムの特性を前述の方法で評価し、その結果を表1に示した。本比較例のフィルムは破断強度が140MPaと低かった。
【0059】
【表1】

【0060】
PEN:ポリエチレンナフタレート
PET:ポリエチレンテレフタレート
【産業上の利用可能性】
【0061】
固有粘度の低いポリエチレンナフタレートを含んでいながら高強度な二軸配向ポリエステルフィルムを提供することができ、例えば固有粘度の低い再生されたポリエチレンナフタレートを用いながら高強度な二軸配向ポリエステルフィルムを提供することができる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ポリエチレンナフタレートを主たる構成成分とする層を3層積層した二軸配向積層ポリエステルフィルムであって、該積層ポリエステルフィルムの中間層または表層いずれか一方は層の固有粘度が0.40〜0.60dl/gの低固有粘度層であり、他方の層は該低固有粘度層の固有粘度より0.1dl/g以上高い固有粘度を有する高固有粘度層であって、該積層ポリエステルフィルムの破断強度が180MPa以上であることを特徴とする二軸配向積層ポリエステルフィルム。
【請求項2】
該低固有粘度層を構成するポリエチレンナフタレートがテレフタル酸に由来する成分を0.5〜2.0モル%含有する請求項1記載の二軸配向積層ポリエステルフィルム。
【請求項3】
該積層ポリエステルフィルムの固有粘度が0.50〜0.70dl/gである請求項1または2記載の二軸配向積層ポリエステルフィルム。
【請求項4】
該高固有粘度層の固有粘度が0.55〜0.85dl/gである請求項1〜3のいずれかに記載の二軸配向積層ポリエステルフィルム。
【請求項5】
該高固有粘度層が該層の重量を基準として固有粘度0.75〜1.0dl/gのポリエチレンナフタレート樹脂を20〜50重量%含む請求項1〜4のいずれかに記載の二軸配向積層ポリエステルフィルム。
【請求項6】
該積層ポリエステルフィルムの厚みを基準として、高固有粘度層の合計厚み比率が5〜60%である請求項1〜5のいずれかに記載の二軸配向積層ポリエステルフィルム。
【請求項7】
該低固有粘度層が該層の重量を基準として40〜90重量%の範囲で再生されたポリエチレンナフタレート樹脂を含む請求項1〜6のいずれかに記載の二軸配向積層ポリエステルフィルム。
【請求項8】
該積層ポリエステルフィルムの中間層が低固有粘度層である請求項1〜7のいずれかに記載の二軸配向積層ポリエステルフィルム。

【公開番号】特開2012−171327(P2012−171327A)
【公開日】平成24年9月10日(2012.9.10)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−38397(P2011−38397)
【出願日】平成23年2月24日(2011.2.24)
【出願人】(301020226)帝人デュポンフィルム株式会社 (517)
【Fターム(参考)】