二輪車、二輪車用姿勢安定化装置及び二輪車用姿勢安定化方法
【課題】 運転者に違和感を与えることを抑制しつつ、二輪車のふらつきを抑制する。
【解決手段】 目標ロール角度θroを決定し、この目標ロール角度θroと実ロール角度θrとの差の絶対値が小さくなるように前輪に発生させるトルクを制御することにより、ロールモーメントの総和を0に近づけて自転車のふらつきを抑制する。このとき、目標ロール角度θroは、少なくとも操舵角度θsに基づいて決定されたロール角度であるので、ライダーの意図が反映されたロール角度となるので、ライダーに違和感を与えることを抑制しつつ、自転車3のふらつきを抑制することができる。
【解決手段】 目標ロール角度θroを決定し、この目標ロール角度θroと実ロール角度θrとの差の絶対値が小さくなるように前輪に発生させるトルクを制御することにより、ロールモーメントの総和を0に近づけて自転車のふらつきを抑制する。このとき、目標ロール角度θroは、少なくとも操舵角度θsに基づいて決定されたロール角度であるので、ライダーの意図が反映されたロール角度となるので、ライダーに違和感を与えることを抑制しつつ、自転車3のふらつきを抑制することができる。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、二輪車のふらつきを抑制して二輪車の姿勢を安定化させるための発明である。
【背景技術】
【0002】
二輪車のふらつきを抑制する機構として、例えば、特許文献1に記載の発明では、車体の傾斜角(ロール角度)を検出し、その検出した傾斜角に応じて操舵輪を自動的に操舵することにより、二輪車のふらつきを抑制している。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開平7−215258号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかし、特許文献1に記載の発明では、操舵輪を自動的に操舵するので、運転者(ライダー)の意図に反する操舵操作がされた場合には、運転者は大きな違和感を覚える可能性が高い。
【0005】
また、車体の傾斜が検出されると、その傾斜を打ち消すように自動的に操舵輪が操舵されるので、定常円旋回等の一定の傾斜角を維持した状態で旋回走行する必要がある場合には、その傾斜角を維持することができず、非常に大きな違和感を運転者に与える可能性が高い。
【0006】
本発明は、上記点に鑑み、運転者に違和感を与えることを抑制しつつ、二輪車のふらつきを抑制することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明は、上記目的を達成するために、請求項1に記載の発明では、進行方向に沿って2つの車輪(3A、3B)が配置され、旋回時に車体を旋回中心側に傾斜させて旋回する二輪車であって、運転者による車体への操作量を検出する操作量検出手段(7)と、少なくとも操作量検出手段(7)により検出された操作量に基づいて目標とするロール角度を決定する目標ロール角度決定手段(S5、S7)と、現実のロール角度を検出する実ロール角度検出手段(S1)と、2つの車輪のうち少なくとも一方の車輪にトルクを発生させるトルク発生手段(15)と、目標ロール角度決定手段(S5、S7)が決定した目標ロール角度(θro)と実ロール角度検出手段(S1)が検出した実ロール角度(θr)との差の絶対値が小さくなる向きのトルクをトルク発生手段(15)で発生させるようにトルク発生手段(15)を制御する制御手段(S15)とを備えることを特徴とする。
【0008】
ところで、二輪車を操作する運転者は、ハンドル等の操舵装置に加えて、シート(サドル)やステップ(ペダル)等(以下、これらをハンドル等という。)を介して車体に操作力を作用させて車体のバランスを取りながら二輪車を運転する。なお、ハンドル等の操作には、運転者の着座位置等を移動させることによる、いわゆる「重心移動」も含まれる。
【0009】
そして、車体を旋回させるべく、車体を鉛直方向に対して傾斜(ロール)させる場合、又は外乱や運転者が不用意にハンドル等を操作したことにより車体がふらついた場合には、運転者は車体のバランスを保つべく、ハンドル等を操作する。
【0010】
ここで、「車体がふらつく」場合とは、車体のロール角度によらず、車体に作用する車体をロール(傾斜)させるモーメントベクトル(以下、ロールモーメントという。)の総和が変動する場合又は0でない場合である。
【0011】
つまり、ロールモーメントの総和が周期的に変動すると、これに応じて車体のロール角度も周期的に変動する。また、ロールモーメントの総和が0でないときには、そのロールモーメントの向きに車体がロールし続けるため、車両が転倒してしまう可能性がある。
【0012】
また、ロールモーメントの総和が0であるとき、つまり、全てのロールモーメントが釣り合っている場合とは、具体的には、車体に作用する重力(運転者に作用する重力も含む。)によるロールモーメントと、いわゆる遠心力(向心力に対する慣性力)によるロールモーメントとが釣り合っている場合である。
【0013】
そして、遠心力によるロールモーメントは、車体がふらつく等してロールしているときに発生する力であり、かつ、その大きさは、ロール状態の車体の速さを主たる要因として決定される。
【0014】
そこで、請求項1に記載の発明では、目標ロール角度を決定し、この目標ロール角度(θro)と実ロール角度(θr)との差の絶対値が小さくなるように車輪のトルクを制御することにより、ロールモーメントの総和を0に近づけて車体のふらつきを抑制している。
【0015】
このとき、目標ロール角度は、少なくとも操作量検出手段(7)により検出された操作量に基づいて決定されたロール角度であるので、運転者の意図が反映されたロール角度となる。つまり、請求項1に記載の発明では、運転者の意図が反映された目標ロール角度と実ロール角度(θr)との差に基づいて車輪で発生するトルクを制御するので、運転者に違和感を与えることを抑制しつつ、二輪車のふらつきを抑制することができる。
【0016】
請求項2に記載の発明では、車体の速さを検出する車速検出手段(S1)を備え、操作量検出手段(7)は、2つの車輪(3A、3B)のうち操舵用の車輪(3A)の操舵角度を操作量として検出し、さらに、目標ロール角度決定手段は、操舵角度(θs)と車体の速さ(V)とヨー角速度(ω)との関係が記憶された記憶部(ROM)、記憶部(ROM)に記憶された関係に従ってヨー角速度を決定する目標ヨー角速度決定手段(S5)、並びに車体に作用する重力による第1ロールモーメント(M1)と、目標ヨー角速度決定手段(S5)により決定されたヨー角速度及び車体の速さ(V)から算出される第2ロールモーメント(M2)との釣り合い条件に基づいて目標ロール角度(θro)を算出するロール角度算出手段(S7)を有することを特徴とする。
【0017】
これにより、請求項2に記載の発明では、操舵角に基づいて目標ロール角度(θro)が算出され、かつ、操舵角は、運転者の意図が最も大きく反映されたパラメータであるので、運転者に違和感を与えることを確実に抑制できる。
【0018】
なお、二輪車においては、操舵輪の操舵角は、運転者がハンドルを操作(操舵)した場合は勿論、体重移動や運転者による駆動力制御等によっても変化するので、操舵角を検出すると、運転者による車体への操作量を適切に検出することができる。
【0019】
請求項3に記載の発明では、トルク発生手段(15)は、操舵用の車輪(3A)に制御手段(S15)により指令されたトルクを作用させることを特徴とする。
これにより、請求項3に記載の発明では、トルク発生手段(15)よるトルクを効率よく、車体のロール角度を変化させるロールモーメントに変換させることができる。
【0020】
すなわち、操舵輪以外の車輪に発生するトルクを制御する方式では、遠心力によるロールモーメントの大きさを制御することとなるので、車体のロール角度を増大させる向きのロールモーメントは重力によるロールモーメントのみである。
【0021】
これに対して、例えば車体が既にロールしている場合には、操舵輪(3A)の操舵角は0より大きくなっており、この状態で操舵輪(3A)のトルクを変動させると、遠心力によるロールモーメントとは別に、そのトルク変動が直接的に新たなロールモーメントを発生させる。
【0022】
したがって、操舵用の車輪(3A)に制御手段(S15)により指令されたトルクを作用させれば、トルク発生手段(15)よるトルクを効率よく、車体のロール角度を変化させるロールモーメントに変換させることができる。
【0023】
請求項4に記載の発明では、トルク発生手段(15)は、制御手段(S15)からの指令に基づくトルクに加えて、走行用の駆動力も車輪に供給することを特徴とする。
これにより、請求項4に記載の発明では、簡便な構成で運転者に違和感を与えることを抑制しつつ、二輪車のふらつきを抑制することができる。
【0024】
請求項5に記載の発明では、トルク発生手段(15)は、電動モータであることを特徴とする。
これにより、請求項5に記載の発明では、トルク発生手段(15)を内燃機関で構成する場合に比べて、容易に制御することができる。
【0025】
請求項6に記載の発明では、進行方向に沿って2つの車輪(3A、3B)が配置され、かつ、旋回時に車体を旋回中心側に傾斜させて旋回する二輪車に適用され、二輪車の姿勢を安定化させるための二輪車用姿勢安定化装置であって、運転者による車体への操作量を検出する操作量検出手段(7)と、少なくとも操作量検出手段(7)により検出された操作量に基づいて目標とするロール角度を決定する目標ロール角度決定手段(S5、S7)と、現実のロール角度を検出する実ロール角度検出手段(S1)と、2つの車輪のうち少なくとも一方の車輪にトルクを発生させるトルク発生手段(15)と、目標ロール角度決定手段(S5、S7)が決定した目標ロール角度(θro)と実ロール角度検出手段(S1)が検出した実ロール角度(θr)との差の絶対値が小さくなる向きのトルクをトルク発生手段(15)で発生させるようにトルク発生手段(15)を制御する制御手段(S15)とを備えることを特徴とする。
【0026】
これにより、請求項6に記載の発明では、請求項1に記載の発明と同様に、運転者に違和感を与えることを抑制しつつ、二輪車のふらつきを抑制することができる。
請求項7に記載の発明では、進行方向に沿って2つの車輪(3A、3B)が配置され、かつ、旋回時に車体を旋回中心側に傾斜させて旋回する二輪車に適用され、二輪車の姿勢を安定化させるための二輪車用姿勢安定化制御方法であって、運転者による車体への操作量を検出し、少なくとも検出された操作量に基づいて目標とするロール角度(以下、目標ロール角度という。)を決定し、現実のロール角度(以下、実ロール角度という。)を検出し、目標ロール角度(θro)と実ロール角度(θr)との差の絶対値が小さくなる向きのトルクを、2つの車輪のうち少なくとも一方の車輪で発生させることを特徴とする。
【0027】
これにより、請求項7に記載の発明では、請求項1に記載の発明と同様に、運転者に違和感を与えることを抑制しつつ、二輪車のふらつきを抑制することができる。
因みに、上記各手段等の括弧内の符号は、後述する実施形態に記載の具体的手段等との対応関係を示す一例であり、本発明は上記各手段等の括弧内の符号に示された具体的手段等に限定されるものではない。
【図面の簡単な説明】
【0028】
【図1】本発明の実施形態に係る二輪車用姿勢安定化装置のブロック図である。
【図2】本発明の実施形態に係る二輪車用姿勢安定化装置を搭載した自転車3の模式図である。
【図3】自転車3に作用する力及びモーメント等の説明図である。
【図4】自転車3に作用する力及びモーメント等の説明図である。
【図5】目標ヨーレイト算出マップを示す図である。
【図6】電動モータ15の制御を示す概念図である。
【図7】本発明の第1実施形態に係る二輪車用姿勢安定化装置の作動を示すフローチャートである。
【図8】(a)〜(c)は収束時間設定スイッチ21の具体例を示す図である。
【図9】本発明の第2実施形態に係る二輪車用姿勢安定化装置の作動を示すフローチャートである。
【図10】目標トルク変更スイッチ23の具体例を示す図である。
【図11】本発明の第3実施形態に係る二輪車用姿勢安定化装置の作動を示すフローチャートである。
【図12】(a)及び(b)は目標トルク変更スイッチ23の具体例を示す図である。
【図13】本発明の第4実施形態に係る二輪車用姿勢安定化装置の作動を示すフローチャートである。
【図14】本発明の第5実施形態に係る二輪車用姿勢安定化装置の作動を示すフローチャートである。
【発明を実施するための形態】
【0029】
本実施形態は、本発明に係る二輪車、二輪車用姿勢安定化装置及び二輪車用姿勢安定化制御方法を、原動機等の駆動源を有していない自転車に適用したものである。以下に本発明の実施形態を図面と共に説明する。
【0030】
(第1実施形態)
1.二輪車用姿勢安定化装置及びこれを搭載した自転車の構成
自転車3は、図2に示すように、前輪3Aが操舵用の車輪であり、後輪3Bが走行用の駆動力を路面に与える駆動輪である。そして、前輪3Aは、ハンドル3Cを介して運転者(ライダー)により直接的に操舵(操作)される。一方、後輪3Bには、ライダーにより脚踏み操作されるクランクペダル(図示せず。)で発生した駆動力がチェーンやシャフト等の動力伝達手段(図示せず。)を介して伝達される。
【0031】
<二輪車用姿勢安定化装置(図1参照)>
電子制御ユニット(以下、ECUと記す。)5には、図1に示すように、ライダーによるハンドル3Cの操作量、つまり前輪3Aの操舵角度θsを検出する操舵角度センサ7、自転車3の速さVを検出する車速センサ9、及び自転車3のロール角度θrの変化率(ロール角速度dθr)を検出する車体ロール角速度センサ11からの検出信号が入力されている。
【0032】
また、ECU5は、CPU、RAM及びROM等を有する周知のマイクロコンピュータにて構成されたものであり、このECU40は、目標ヨーレイト(目標ヨー角度)ωを算出する目標ヨーレイト算出部5A、目標ロール角度θroを算出する目標ロール角度算出部5B、現在の自転車3のロール角度θrを算出する実ロール角度算出部5C、及び目標ロール角速度dθroを算出する目標ロール角速度算出部5Dを有している。
【0033】
因みに、本実施形態では、これらの算出部5A〜5Dは、ROM等の不揮発性記憶手段に予め記憶されているソフトウェア(プログラム)にて実現しているが、専用のLSI等のハードウェアにて構成してもよい。
【0034】
そして、実ロール角度算出部5Cは、車体ロール角速度センサ11からの検出信号(ロール角速度dθr)を、逐次、積分することにより現在の自転車3のロール角度θr(以下、実ロール角度θrという。)を算出する。
【0035】
なお、ロール角度θrは、鉛直方向に対する自転車3の傾き角をいい、具体的には、図3に示すように、後輪3Bと路面との接地部を通る鉛直仮想線L1と、その接地部と自転車3の重心Gとを通るロール仮想線L2とのなす角をいう。
【0036】
また、目標ヨーレイト算出部5Aは、操舵角度センサ7が検出した操舵角度θs、車速センサ9が検出した速さV、及びROMに記憶されている操舵角度θsと車体の速さVと目標ヨーレイトωとの関係を示す目標ヨーレイト算出マップ(図5参照)に基づいて目標ヨーレイトωを算出決定する。
【0037】
因みに、上記目標ヨーレイト算出マップの内容は、予め行った試験・検討に基づいて決定されるものであって、この目標ヨーレイト算出マップは、操舵角度θs及び速さVについての関数(ω=f(θs,V))を示すものである。
【0038】
また、目標ロール角度算出部5Bは、車体に作用する重力による第1ロールモーメントM1と、目標ヨーレイトω及び自転車3の速さVから算出される第2ロールモーメントM2との釣り合い条件に基づいて目標ロール角度θroを算出する。
【0039】
M1=M・g・L・sin(θr) M2=M・V・ω・L・cos(θr)となる。
そして、後述するように、自転車3が安定するには、M1=M2となる必要があるので、tanθr=V・ω/gとなるので、目標ロール角度算出部5Bは、左記の式を満たすロール角度θr(=atan(V・ω/g))を目標ロール角度θroとして算出する。
【0040】
また、目標ロール角速度算出部5Dは、現在の実ロール角度θrから目標ロール角度θroを減じた値Δθr(=θr−θro)を収束時間Trで除した値(=Δθr/Tr)を目標ロール角速度dθroとして算出する。
【0041】
このため、本実施形態では、目標ロール角速度dθroが正の場合には、ロール角度θrが増大する向きを意味し、目標ロール角速度dθroが負の場合には、ロール角度θrが縮小する向き(自転車3が中立状態に近づくこと)を意味し、目標ロール角速度dθroが0の場合には、現在のロール角度θrが維持されることを意味する。
【0042】
また、自転車3が前進している場合おいて、目標ロール角速度dθroが正のとき(ロール角度θrを増大させるとき)には後進向きのトルクを電動モータ15(図1参照)に発生させる必要がある。
【0043】
一方、自転車3が前進している場合おいて、目標ロール角速度dθroが負のとき(ロール角度θrを減少大させるとき)には前進向きのトルクを電動モータ15に発生させる必要がある。そして、そのトルクの絶対値を大きくすれば、短時間で実ロール角度θrを目標ロール角度θroに近づけることができる。
【0044】
なお、収束時間Trは、自転車3を現在のロール角度θrの状態から目標ロール角度θroの状態まで姿勢変化させるための目標時間であり、収束時間Trが短くなるほど、自転車3は短時間で姿勢が変化する。因みに、本実施形態では、収束時間Trを予め設定された固定時間としている。
【0045】
また、図1中、駆動制御ユニット(以下、PCUと記す。)13は、前輪3Aのハブに内蔵された電動モータ15で発生させるトルクを制御するものであり、このPCU13は、電動モータ15で発生させるべきトルクを算出する目標駆動トルク算出部13A、及び目標駆動トルク算出部13Aで算出された目標トルクTrとなるように電動モータ15への印加電圧及び通電電流を調整するモータ駆動回路13B等から構成されている。
【0046】
因みに、PCU13(目標駆動トルク算出部13A)は、図6に示すように、実ロール角速度dθrが目標ロール角速度dθroとなるように、目標ロール角速度dθroと車体ロール角速度センサ11にて検出された実ロール角速度dθrとの差分に基づいてPID制御法にて目標トルクTrを算出して電動モータ15を制御する。
【0047】
なお、ECU5及びPCU13は、図2に示すように、筐体内に格納されてコントロールボックス17として自転車3のハンドル3C近傍の安定した箇所に組み付けられ、ECU5及びPCU13等に電力を供給するバッテリ19は、サドル3Dの下部等の重心Gの近傍に組み付けられている。
【0048】
2.二輪車用姿勢安定化装置の作動(図7参照)
二輪車用姿勢安定化装置1は、起動スイッチ(図示せず。)がライダーにより投入されたときに起動し、起動スイッチが遮断されたときに停止する。なお、二輪車用姿勢安定化装置1の作動制御用プログラム、つまり図7に示す制御フローを実行するためのプログラムは、ROM等の不揮発性記憶手段に記憶されている。
【0049】
そして、起動スイッチが投入されると、先ず、操舵角度θs、自転車3の速さ(車速)V、実ロール角度θr、及び実ロール角速度dθrが検出又は算出された後(S1)、車速Vが0km/hより大きく、かつ、右向き操舵角度θs又は左向き操舵角度θs(以下、単に操舵角度θsという。)が0degより大きいか否かが判定される(S3)。
【0050】
このとき、車速Vが0km/h以下、又は操舵角度θsが0であると判定された場合には(S3:NO)、再び、S1が実行され、一方、車速Vが0km/hより大きく、かつ、操舵角度θsが0degより大きいと判定された場合には(S3:YES)、目標ヨーレイトω、目標ロール角度θro及び目標ロール角速度dθroが算出された後(S5〜S9)、目標トルクTrが算出される(S11)。
【0051】
次に、S11にて算出された目標トルクTrが電動モータ15にて発生可能な指示トルク(以下、上限トルクという。)以下であるか否かが判定され(S13)、目標トルクTrが上限トルクより大きいと判定された場合には(S13:NO)、再び、S1が実行され、目標トルクTrが上限トルク以下であると判定された場合には(S13:YES)、その目標トルクTrが電動モータ15にて発生するように電動モータ15が制御される(S15)。
【0052】
3.本実施形態に係る二輪車用姿勢安定化装置の特徴
自転車3は、上述したように、自転車3に作用する重力(ライダーに作用する重力も含む。)によるロールモーメントと、いわゆる遠心力(向心力に対する慣性力)によるロールモーメントとが釣り合っている場合に、その姿勢が安定する。
【0053】
そして、遠心力によるロールモーメントは、自転車3がふらつく等してロールしているときに発生する力であり、かつ、その大きさは、ロール状態の自転車3の速さを主たる要因として決定される。
【0054】
そこで、本実施形態では、目標ロール角度θroを決定し、この目標ロール角度θroと実ロール角度θrとの差の絶対値が小さくなるように前輪3Aに発生させるトルクを制御することにより、ロールモーメントの総和を0に近づけて自転車3のふらつきを抑制している。
【0055】
このとき、目標ロール角度θroは、少なくとも操舵角度θsに基づいて決定されたロール角度であるので、ライダーの意図が反映されたロール角度となる。つまり、本実施形態では、ライダーの意図が反映された目標ロール角度θroと実ロール角度θrとの差に基づいて前輪3Aで発生するトルクを制御するので、ライダーに違和感を与えることを抑制しつつ、自転車3のふらつきを抑制することができる。
【0056】
また、本実施形態では、操舵角度θsに基づいて目標ロール角度θroが算出され、かつ、操舵角度θsは、ライダーの意図が最も大きく反映されたパラメータであるので、ライダーに違和感を与えることを確実に抑制できる。
【0057】
ところで、本実施形態では、前輪3Aに発生するトルクを制御することよりロール角度θrを変化させて自転車3の姿勢を安定化しているが、後輪3Bに発生するトルクを制御してもロール角度θrを変化させることができる。
【0058】
このとき、後輪3Bに発生するトルクを制御する方式では、車速Vを増減させることにより、遠心力を増減させてロールモーメントM2の大きさを変化させるので、自転車3の質量が大きい場合には、後輪3Bに発生するトルクを変化させてもロールモーメントM2は即座に変化しない。
【0059】
このため、後輪3Bに発生するトルクを制御する方式では、トルクを変化すべき旨の指令がECU5から発せられた時にから収束時間Tr内に実ロール角度θrを目標ロール角度θroにすることができない、つまり応答性が低いという問題が発生する可能性がある。
【0060】
これに対して、例えば自転車3が既にロールしている場合には、前輪3Aの操舵角は0より大きくなっており、この状態で前輪3Aのトルクを変動させると、遠心力によるロールモーメントとは別に、その変動が直接的に新たなロールモーメントを発生させることとなる。
【0061】
つまり、例えば、前進向きの目標トルクTrが前輪3Aに発生すると、前輪3Aが路面を後退向きに押すので、前輪3Aは、図3に示すように、その反作用として路面から前進向きの力F1を受ける。
【0062】
このとき、前輪3Aは操舵されて進行方向に対して旋回中側に傾いているので、前輪3Aには、力F1のうち旋回中側に向かう成分の力F2(=F1・sin(θs))が作用し、フロントフォークの操縦管(ヘッドパイプ)3E付近を中心とするモーメントM3が発生する。
【0063】
したがって、前輪3Aに姿勢制御を実行するためのトルク(以下、姿勢制御トルクという。)を発生させれば、電動モータ15よるトルクを効率よく、自転車3のロール角度θrを変化させるロールモーメントに変換させることができるので、二輪車用姿勢安定化装置1の応答性を向上させることができる。
【0064】
また、本実施形態では、電動モータ15にて姿勢制御トルクを発生させるので、容易に姿勢制御トルクを制御することができる。
(第2実施形態)
上述の実施形態では、収束時間Trを予め設定された固定時間としたが、本実施形態は、収束時間Trを変更可能な構成としたものである。つまり、収束時間Trは、ライダーの意志(希望)やライダーの性状等によって異なる時間を取り得るので、収束時間Trを変更可能な構成としたものである。
【0065】
以下、第1実施形態との相違点を中心に本実施形態に係る自転車3(二輪車用姿勢安定化装置1)について説明する。
すなわち、本実形態では、ライダーにより操作可能な収束時間設定手段として、図8(a)〜図8(c)のうちいずれかに示す収束時間設定スイッチ21をハンドル3C等に設けたものである。
【0066】
そして、図8(a)は、収束時間Trを、「Slow(例えば、5秒)」、「Normal(例えば、3秒)」及び「Fast(例えば、1秒)」の3段階のモードで設定することができる収束時間設定スイッチ21である。なお、「AUTO」は、車速に応じていずれかの収束時間Trを自動選択するモードである。
【0067】
また、図8(b)は、収束時間Trをライダーの性状(体格等)に基づいて自動的に決定する収束時間設定スイッチ21である。具体的には、この収束時間設定スイッチ21は、ライダーにより入力・選択された「年齢」、「性別」「身長」及び「体重」等のパラメータに基づいて、予めROM等に記憶されている上記パラメータと収束時間Trと関係から収束時間Trを自動選択する。
【0068】
また、図8(c)は、収束時間Trを、「Slow(例えば、5秒)」から「Fast(例えば、1秒)」までの間で無段階的に設定することができる収束時間設定スイッチ21である。
【0069】
そして、本実施形態では、図9に示すように、目標ロール角速度dθroが算出される前に、目標ロール角速度dθroの算出(S9)に用いる収束時間Trが収束時間設定スイッチ21の設定に基づいて決定される(S8)。なお、S8以外の制御ステップは、第1実施形態(図7)と同じ作動であるので、本実施形態においては、それらの説明は省略する。
【0070】
これにより、本実施形態では、ライダーの意志(希望)等に応じて自転車3の姿勢が制御され得るので、ライダーに大きな違和感を与えることを抑制しつつ、自転車3のふらつきを抑制することができる。
【0071】
(第3実施形態)
第2実施形態では、収束時間Trを変更することにより、現実の収束時間Trを直接的に変化させるものであったが、本実施形態は、収束時間Trを固定時間としたまま、目標トルクTrを変更することにより、現実の収束時間Trを間接的に変化させるものである。
【0072】
すなわち、目標トルクTrは、上述したように、目標ロール角速度dθroが大きくなると大きくなり、目標ロール角速度dθroが小さくなると小さくなる。そして、目標ロール角速度dθroは、収束時間Trが大きくなると小さくなり、収束時間Trが小さくなると大きくなる。したがって、収束時間Trを固定時間としたまま、目標トルクTrを変更しても現実の収束時間Trを変化させることができる。
【0073】
そこで、本実施形態では、ライダーにより操作可能な収束時間設定手段として、図10に示すように、予め設定された収束時間Trに基づいて決定された目標トルクTrを変更する目標トルク変更スイッチ23をハンドル3C等に設けたものである。
【0074】
そして、本実施形態では、図11に示すように、目標ロール角速度dθroに基づいて算出された目標トルクTrに対して、目標トルク変更スイッチ23にて設定された倍率(ゲイン)が乗算され(S12)、その乗算後の値を目標トルクTrとして電動モータ15がPID制御される。なお、S12以外の制御ステップは、第1実施形態(図7)と同じ作動であるので、本実施形態においては、それらの説明は省略する。
【0075】
これにより、本実施形態においても、ライダーの意志(希望)等に応じて自転車3の姿勢が制御され得るので、ライダーに大きな違和感を与えることを抑制しつつ、自転車3のふらつきを抑制することができる。
【0076】
因みに、目標トルク変更スイッチ23(図10参照)の「OFF」とは、倍率(ゲイン)を0とする設定であり、目標トルク変更スイッチ23を「OFF」とすると、実質的に二輪車用姿勢安定化装置1が停止した状態となる。また、本実施形態に係る目標トルク変更スイッチ23は、倍率を「Lo(例えば、0.1)」から「Hi(例えば、2.0)」までの間で無段階的に設定することができる。
【0077】
(第4実施形態)
第3実施形態では、目標トルクTrを変更することにより、現実の収束時間Trを変化させるものであったが、本実施形態は、目標ヨーレイトωの算出に用いる目標ヨーレイト算出マップ(図5参照)を車速に応じて変更することにより、現実の収束時間Trを変化させるものである。
【0078】
つまり、目標トルクTrを決定するには、上述したように、目標ヨーレイトωを算出する必要があるので、目標ヨーレイトωを変更することにより、目標トルクTrを間接的に変更し、最終的には現実の収束時間Trを変化させるものである。
【0079】
そこで、本実施形態では、ライダーにより操作可能な収束時間設定手段として、図12(a)及び図12(a)に示す目標トルクTrを変更するための目標トルク変更スイッチ23A及び目標トルク変更スイッチ23Bをハンドル3C等に設けたものである。
【0080】
なお、目標トルク変更スイッチ23Aの「OFF」とは、二輪車用姿勢安定化制御を停止又は実行しないことを意味し、「Lo Speed」とは低速領域(例えば、5km/h以下)のみ二輪車用姿勢安定化制御し、高速領域(例えば、5km/h超)は二輪車用姿勢安定化制御を停止又は実行しないことを意味し、「Hi Speed」とは高速領域のみ二輪車用姿勢安定化制御し、低速領域は二輪車用姿勢安定化制御を停止又は実行しないことを意味し、「AUTO」とは、いずれの速度領域も二輪車用姿勢安定化制御を実行することを意味する。
【0081】
また、目標トルク変更スイッチ23Bは、第3実施形態と同様に、倍率(ゲイン)を設定ためのスイッチである。具体的には、目標トルク変更スイッチ23Aの「AUTO」が選択されている場合には、ライダーにより入力・選択された「年齢」、「性別」「身長」及び「体重」等のパラメータに基づいて、予めROM等に記憶されているパラメータと倍率と関係から使用すべき倍率が自動選択される。また、目標トルク変更スイッチ23Aの「Lo Speed」又は「Hi Speed」が選択されている場合には、倍率は1.0となる。
【0082】
そして、本実施形態では、図13に示すように、車速Vが0km/hより大きく、かつ、操舵角度θsが0degより大きいと判定された場合には(S3:YES)、目標トルク変更スイッチ23Aの設定に基づいて目標ヨーレイトωの算出に用いる目標ヨーレイト算出マップが選択された後(S4)、その選択された目標ヨーレイト算出マップに従って目標ヨーレイトωが算出される(S5)。なお、S4以外の制御ステップは、第3実施形態(図11)と同じ作動であるので、本実施形態においては、それらの説明は省略する。
【0083】
これにより、本実施形態においても、ライダーの意志(希望)等に応じて自転車3の姿勢が制御され得るので、ライダーに大きな違和感を与えることを抑制しつつ、自転車3のふらつきを抑制することができる。
【0084】
(第5実施形態)
本実施形態は、姿勢制御トルクに加えて、走行用の駆動力も電動モータ15に発生させるものである。つまり、本実施形態は、本発明に係る二輪車、二輪車用姿勢安定化装置及び二輪車用姿勢安定化制御方法を、いわゆる電動アシスト自転車にて適用したものである。以下、第1実施形態に係る二輪車用姿勢安定化装置1を例に本実施形態に係る自転車3について説明する。
【0085】
すなわち、本実施形態では、図14に示すように、目標トルクTrが算出されると(S11)、ペダルに作用する踏力に基づいて電動モータ15にて補助すべき目標アシストトルクが算出される(S17)。因みに、目標アシストトルクの算出方法は、どのような手法であってもよいが、本実施形態では、例えば特開平7−309283号公報に記載の手法と同じである。
【0086】
次に、その算出された目標アシストトルクと目標トルクTrとの和(以下、目標トルク和という。)が算出された後(S19)、目標トルク和が上限トルク以下であるか否かが判定される(S21)。
【0087】
そして、目標トルク和が上限トルクより大きいと判定された場合には(S21:NO)、再び、S1が実行され、目標トルク和が上限トルク以下であると判定された場合には(S21:YES)、その目標トルク和が電動モータ15にて発生するように電動モータ15が制御される(S23)。
【0088】
これにより、本実施形態では、簡便な構成でライダーに違和感を与えることを抑制しつつ、自転車3のふらつきを抑制することができる。
(その他の実施形態)
上述の実施形態では、操舵輪である前輪3Aに姿勢制御のためのトルクを付与したが、本発明はこれに限定されるものではなく、駆動輪である後輪3Bに姿勢制御のためのトルクを付与してもよい。
【0089】
また、上述の実施形態では、自転車3に本発明を適用したが、本発明はこれに限定されるものではなく、自動二輪や原動機付き自転車等にも適用できる。
また、上述の実施形態では、電動モータ15のみにて姿勢制御のためのトルクを発生させたが、本発明はこれに限定されるものではなく、例えば姿勢制御のためのトルクがマイナス値となる場合には、ブレーキを利用してマイナスのトルクを車輪に付与してもよい。
【0090】
また、上述の実施形態では、操舵角度θsを検出することにより、ライダーによる車体への操作量を検出したが、本発明はこれに限定されるものではなく、例えばライダーの体重移動に伴うライダー及び車両の合成重心の変化やハンドル3Cに作用するライダーからの力等を操作量として検出してもよい。
【0091】
また、本発明は、特許請求の範囲に記載された発明の趣旨に合致するものであればよく、上述の実施形態に限定されるものではない。
【符号の説明】
【0092】
1…二輪車用姿勢安定化装置、3…自転車、3A…前輪、3B…後輪、
3C…ハンドル、3D…サドル、5A…算出部、5A…目標ヨーレイト算出部、
5B…目標ロール角度算出部、5C…実ロール角度算出部、
5D…目標ロール角速度算出部、7…操舵角度センサ、9…車速センサ、
11…車体ロール角速度センサ、13A…目標駆動トルク算出部、
15…電動モータ、17…コントロールボックス、19…バッテリ、
21…収束時間設定スイッチ、23…目標トルク変更スイッチ、
23A…目標トルク変更スイッチ、23B…目標トルク変更スイッチ。
【技術分野】
【0001】
本発明は、二輪車のふらつきを抑制して二輪車の姿勢を安定化させるための発明である。
【背景技術】
【0002】
二輪車のふらつきを抑制する機構として、例えば、特許文献1に記載の発明では、車体の傾斜角(ロール角度)を検出し、その検出した傾斜角に応じて操舵輪を自動的に操舵することにより、二輪車のふらつきを抑制している。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開平7−215258号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかし、特許文献1に記載の発明では、操舵輪を自動的に操舵するので、運転者(ライダー)の意図に反する操舵操作がされた場合には、運転者は大きな違和感を覚える可能性が高い。
【0005】
また、車体の傾斜が検出されると、その傾斜を打ち消すように自動的に操舵輪が操舵されるので、定常円旋回等の一定の傾斜角を維持した状態で旋回走行する必要がある場合には、その傾斜角を維持することができず、非常に大きな違和感を運転者に与える可能性が高い。
【0006】
本発明は、上記点に鑑み、運転者に違和感を与えることを抑制しつつ、二輪車のふらつきを抑制することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明は、上記目的を達成するために、請求項1に記載の発明では、進行方向に沿って2つの車輪(3A、3B)が配置され、旋回時に車体を旋回中心側に傾斜させて旋回する二輪車であって、運転者による車体への操作量を検出する操作量検出手段(7)と、少なくとも操作量検出手段(7)により検出された操作量に基づいて目標とするロール角度を決定する目標ロール角度決定手段(S5、S7)と、現実のロール角度を検出する実ロール角度検出手段(S1)と、2つの車輪のうち少なくとも一方の車輪にトルクを発生させるトルク発生手段(15)と、目標ロール角度決定手段(S5、S7)が決定した目標ロール角度(θro)と実ロール角度検出手段(S1)が検出した実ロール角度(θr)との差の絶対値が小さくなる向きのトルクをトルク発生手段(15)で発生させるようにトルク発生手段(15)を制御する制御手段(S15)とを備えることを特徴とする。
【0008】
ところで、二輪車を操作する運転者は、ハンドル等の操舵装置に加えて、シート(サドル)やステップ(ペダル)等(以下、これらをハンドル等という。)を介して車体に操作力を作用させて車体のバランスを取りながら二輪車を運転する。なお、ハンドル等の操作には、運転者の着座位置等を移動させることによる、いわゆる「重心移動」も含まれる。
【0009】
そして、車体を旋回させるべく、車体を鉛直方向に対して傾斜(ロール)させる場合、又は外乱や運転者が不用意にハンドル等を操作したことにより車体がふらついた場合には、運転者は車体のバランスを保つべく、ハンドル等を操作する。
【0010】
ここで、「車体がふらつく」場合とは、車体のロール角度によらず、車体に作用する車体をロール(傾斜)させるモーメントベクトル(以下、ロールモーメントという。)の総和が変動する場合又は0でない場合である。
【0011】
つまり、ロールモーメントの総和が周期的に変動すると、これに応じて車体のロール角度も周期的に変動する。また、ロールモーメントの総和が0でないときには、そのロールモーメントの向きに車体がロールし続けるため、車両が転倒してしまう可能性がある。
【0012】
また、ロールモーメントの総和が0であるとき、つまり、全てのロールモーメントが釣り合っている場合とは、具体的には、車体に作用する重力(運転者に作用する重力も含む。)によるロールモーメントと、いわゆる遠心力(向心力に対する慣性力)によるロールモーメントとが釣り合っている場合である。
【0013】
そして、遠心力によるロールモーメントは、車体がふらつく等してロールしているときに発生する力であり、かつ、その大きさは、ロール状態の車体の速さを主たる要因として決定される。
【0014】
そこで、請求項1に記載の発明では、目標ロール角度を決定し、この目標ロール角度(θro)と実ロール角度(θr)との差の絶対値が小さくなるように車輪のトルクを制御することにより、ロールモーメントの総和を0に近づけて車体のふらつきを抑制している。
【0015】
このとき、目標ロール角度は、少なくとも操作量検出手段(7)により検出された操作量に基づいて決定されたロール角度であるので、運転者の意図が反映されたロール角度となる。つまり、請求項1に記載の発明では、運転者の意図が反映された目標ロール角度と実ロール角度(θr)との差に基づいて車輪で発生するトルクを制御するので、運転者に違和感を与えることを抑制しつつ、二輪車のふらつきを抑制することができる。
【0016】
請求項2に記載の発明では、車体の速さを検出する車速検出手段(S1)を備え、操作量検出手段(7)は、2つの車輪(3A、3B)のうち操舵用の車輪(3A)の操舵角度を操作量として検出し、さらに、目標ロール角度決定手段は、操舵角度(θs)と車体の速さ(V)とヨー角速度(ω)との関係が記憶された記憶部(ROM)、記憶部(ROM)に記憶された関係に従ってヨー角速度を決定する目標ヨー角速度決定手段(S5)、並びに車体に作用する重力による第1ロールモーメント(M1)と、目標ヨー角速度決定手段(S5)により決定されたヨー角速度及び車体の速さ(V)から算出される第2ロールモーメント(M2)との釣り合い条件に基づいて目標ロール角度(θro)を算出するロール角度算出手段(S7)を有することを特徴とする。
【0017】
これにより、請求項2に記載の発明では、操舵角に基づいて目標ロール角度(θro)が算出され、かつ、操舵角は、運転者の意図が最も大きく反映されたパラメータであるので、運転者に違和感を与えることを確実に抑制できる。
【0018】
なお、二輪車においては、操舵輪の操舵角は、運転者がハンドルを操作(操舵)した場合は勿論、体重移動や運転者による駆動力制御等によっても変化するので、操舵角を検出すると、運転者による車体への操作量を適切に検出することができる。
【0019】
請求項3に記載の発明では、トルク発生手段(15)は、操舵用の車輪(3A)に制御手段(S15)により指令されたトルクを作用させることを特徴とする。
これにより、請求項3に記載の発明では、トルク発生手段(15)よるトルクを効率よく、車体のロール角度を変化させるロールモーメントに変換させることができる。
【0020】
すなわち、操舵輪以外の車輪に発生するトルクを制御する方式では、遠心力によるロールモーメントの大きさを制御することとなるので、車体のロール角度を増大させる向きのロールモーメントは重力によるロールモーメントのみである。
【0021】
これに対して、例えば車体が既にロールしている場合には、操舵輪(3A)の操舵角は0より大きくなっており、この状態で操舵輪(3A)のトルクを変動させると、遠心力によるロールモーメントとは別に、そのトルク変動が直接的に新たなロールモーメントを発生させる。
【0022】
したがって、操舵用の車輪(3A)に制御手段(S15)により指令されたトルクを作用させれば、トルク発生手段(15)よるトルクを効率よく、車体のロール角度を変化させるロールモーメントに変換させることができる。
【0023】
請求項4に記載の発明では、トルク発生手段(15)は、制御手段(S15)からの指令に基づくトルクに加えて、走行用の駆動力も車輪に供給することを特徴とする。
これにより、請求項4に記載の発明では、簡便な構成で運転者に違和感を与えることを抑制しつつ、二輪車のふらつきを抑制することができる。
【0024】
請求項5に記載の発明では、トルク発生手段(15)は、電動モータであることを特徴とする。
これにより、請求項5に記載の発明では、トルク発生手段(15)を内燃機関で構成する場合に比べて、容易に制御することができる。
【0025】
請求項6に記載の発明では、進行方向に沿って2つの車輪(3A、3B)が配置され、かつ、旋回時に車体を旋回中心側に傾斜させて旋回する二輪車に適用され、二輪車の姿勢を安定化させるための二輪車用姿勢安定化装置であって、運転者による車体への操作量を検出する操作量検出手段(7)と、少なくとも操作量検出手段(7)により検出された操作量に基づいて目標とするロール角度を決定する目標ロール角度決定手段(S5、S7)と、現実のロール角度を検出する実ロール角度検出手段(S1)と、2つの車輪のうち少なくとも一方の車輪にトルクを発生させるトルク発生手段(15)と、目標ロール角度決定手段(S5、S7)が決定した目標ロール角度(θro)と実ロール角度検出手段(S1)が検出した実ロール角度(θr)との差の絶対値が小さくなる向きのトルクをトルク発生手段(15)で発生させるようにトルク発生手段(15)を制御する制御手段(S15)とを備えることを特徴とする。
【0026】
これにより、請求項6に記載の発明では、請求項1に記載の発明と同様に、運転者に違和感を与えることを抑制しつつ、二輪車のふらつきを抑制することができる。
請求項7に記載の発明では、進行方向に沿って2つの車輪(3A、3B)が配置され、かつ、旋回時に車体を旋回中心側に傾斜させて旋回する二輪車に適用され、二輪車の姿勢を安定化させるための二輪車用姿勢安定化制御方法であって、運転者による車体への操作量を検出し、少なくとも検出された操作量に基づいて目標とするロール角度(以下、目標ロール角度という。)を決定し、現実のロール角度(以下、実ロール角度という。)を検出し、目標ロール角度(θro)と実ロール角度(θr)との差の絶対値が小さくなる向きのトルクを、2つの車輪のうち少なくとも一方の車輪で発生させることを特徴とする。
【0027】
これにより、請求項7に記載の発明では、請求項1に記載の発明と同様に、運転者に違和感を与えることを抑制しつつ、二輪車のふらつきを抑制することができる。
因みに、上記各手段等の括弧内の符号は、後述する実施形態に記載の具体的手段等との対応関係を示す一例であり、本発明は上記各手段等の括弧内の符号に示された具体的手段等に限定されるものではない。
【図面の簡単な説明】
【0028】
【図1】本発明の実施形態に係る二輪車用姿勢安定化装置のブロック図である。
【図2】本発明の実施形態に係る二輪車用姿勢安定化装置を搭載した自転車3の模式図である。
【図3】自転車3に作用する力及びモーメント等の説明図である。
【図4】自転車3に作用する力及びモーメント等の説明図である。
【図5】目標ヨーレイト算出マップを示す図である。
【図6】電動モータ15の制御を示す概念図である。
【図7】本発明の第1実施形態に係る二輪車用姿勢安定化装置の作動を示すフローチャートである。
【図8】(a)〜(c)は収束時間設定スイッチ21の具体例を示す図である。
【図9】本発明の第2実施形態に係る二輪車用姿勢安定化装置の作動を示すフローチャートである。
【図10】目標トルク変更スイッチ23の具体例を示す図である。
【図11】本発明の第3実施形態に係る二輪車用姿勢安定化装置の作動を示すフローチャートである。
【図12】(a)及び(b)は目標トルク変更スイッチ23の具体例を示す図である。
【図13】本発明の第4実施形態に係る二輪車用姿勢安定化装置の作動を示すフローチャートである。
【図14】本発明の第5実施形態に係る二輪車用姿勢安定化装置の作動を示すフローチャートである。
【発明を実施するための形態】
【0029】
本実施形態は、本発明に係る二輪車、二輪車用姿勢安定化装置及び二輪車用姿勢安定化制御方法を、原動機等の駆動源を有していない自転車に適用したものである。以下に本発明の実施形態を図面と共に説明する。
【0030】
(第1実施形態)
1.二輪車用姿勢安定化装置及びこれを搭載した自転車の構成
自転車3は、図2に示すように、前輪3Aが操舵用の車輪であり、後輪3Bが走行用の駆動力を路面に与える駆動輪である。そして、前輪3Aは、ハンドル3Cを介して運転者(ライダー)により直接的に操舵(操作)される。一方、後輪3Bには、ライダーにより脚踏み操作されるクランクペダル(図示せず。)で発生した駆動力がチェーンやシャフト等の動力伝達手段(図示せず。)を介して伝達される。
【0031】
<二輪車用姿勢安定化装置(図1参照)>
電子制御ユニット(以下、ECUと記す。)5には、図1に示すように、ライダーによるハンドル3Cの操作量、つまり前輪3Aの操舵角度θsを検出する操舵角度センサ7、自転車3の速さVを検出する車速センサ9、及び自転車3のロール角度θrの変化率(ロール角速度dθr)を検出する車体ロール角速度センサ11からの検出信号が入力されている。
【0032】
また、ECU5は、CPU、RAM及びROM等を有する周知のマイクロコンピュータにて構成されたものであり、このECU40は、目標ヨーレイト(目標ヨー角度)ωを算出する目標ヨーレイト算出部5A、目標ロール角度θroを算出する目標ロール角度算出部5B、現在の自転車3のロール角度θrを算出する実ロール角度算出部5C、及び目標ロール角速度dθroを算出する目標ロール角速度算出部5Dを有している。
【0033】
因みに、本実施形態では、これらの算出部5A〜5Dは、ROM等の不揮発性記憶手段に予め記憶されているソフトウェア(プログラム)にて実現しているが、専用のLSI等のハードウェアにて構成してもよい。
【0034】
そして、実ロール角度算出部5Cは、車体ロール角速度センサ11からの検出信号(ロール角速度dθr)を、逐次、積分することにより現在の自転車3のロール角度θr(以下、実ロール角度θrという。)を算出する。
【0035】
なお、ロール角度θrは、鉛直方向に対する自転車3の傾き角をいい、具体的には、図3に示すように、後輪3Bと路面との接地部を通る鉛直仮想線L1と、その接地部と自転車3の重心Gとを通るロール仮想線L2とのなす角をいう。
【0036】
また、目標ヨーレイト算出部5Aは、操舵角度センサ7が検出した操舵角度θs、車速センサ9が検出した速さV、及びROMに記憶されている操舵角度θsと車体の速さVと目標ヨーレイトωとの関係を示す目標ヨーレイト算出マップ(図5参照)に基づいて目標ヨーレイトωを算出決定する。
【0037】
因みに、上記目標ヨーレイト算出マップの内容は、予め行った試験・検討に基づいて決定されるものであって、この目標ヨーレイト算出マップは、操舵角度θs及び速さVについての関数(ω=f(θs,V))を示すものである。
【0038】
また、目標ロール角度算出部5Bは、車体に作用する重力による第1ロールモーメントM1と、目標ヨーレイトω及び自転車3の速さVから算出される第2ロールモーメントM2との釣り合い条件に基づいて目標ロール角度θroを算出する。
【0039】
M1=M・g・L・sin(θr) M2=M・V・ω・L・cos(θr)となる。
そして、後述するように、自転車3が安定するには、M1=M2となる必要があるので、tanθr=V・ω/gとなるので、目標ロール角度算出部5Bは、左記の式を満たすロール角度θr(=atan(V・ω/g))を目標ロール角度θroとして算出する。
【0040】
また、目標ロール角速度算出部5Dは、現在の実ロール角度θrから目標ロール角度θroを減じた値Δθr(=θr−θro)を収束時間Trで除した値(=Δθr/Tr)を目標ロール角速度dθroとして算出する。
【0041】
このため、本実施形態では、目標ロール角速度dθroが正の場合には、ロール角度θrが増大する向きを意味し、目標ロール角速度dθroが負の場合には、ロール角度θrが縮小する向き(自転車3が中立状態に近づくこと)を意味し、目標ロール角速度dθroが0の場合には、現在のロール角度θrが維持されることを意味する。
【0042】
また、自転車3が前進している場合おいて、目標ロール角速度dθroが正のとき(ロール角度θrを増大させるとき)には後進向きのトルクを電動モータ15(図1参照)に発生させる必要がある。
【0043】
一方、自転車3が前進している場合おいて、目標ロール角速度dθroが負のとき(ロール角度θrを減少大させるとき)には前進向きのトルクを電動モータ15に発生させる必要がある。そして、そのトルクの絶対値を大きくすれば、短時間で実ロール角度θrを目標ロール角度θroに近づけることができる。
【0044】
なお、収束時間Trは、自転車3を現在のロール角度θrの状態から目標ロール角度θroの状態まで姿勢変化させるための目標時間であり、収束時間Trが短くなるほど、自転車3は短時間で姿勢が変化する。因みに、本実施形態では、収束時間Trを予め設定された固定時間としている。
【0045】
また、図1中、駆動制御ユニット(以下、PCUと記す。)13は、前輪3Aのハブに内蔵された電動モータ15で発生させるトルクを制御するものであり、このPCU13は、電動モータ15で発生させるべきトルクを算出する目標駆動トルク算出部13A、及び目標駆動トルク算出部13Aで算出された目標トルクTrとなるように電動モータ15への印加電圧及び通電電流を調整するモータ駆動回路13B等から構成されている。
【0046】
因みに、PCU13(目標駆動トルク算出部13A)は、図6に示すように、実ロール角速度dθrが目標ロール角速度dθroとなるように、目標ロール角速度dθroと車体ロール角速度センサ11にて検出された実ロール角速度dθrとの差分に基づいてPID制御法にて目標トルクTrを算出して電動モータ15を制御する。
【0047】
なお、ECU5及びPCU13は、図2に示すように、筐体内に格納されてコントロールボックス17として自転車3のハンドル3C近傍の安定した箇所に組み付けられ、ECU5及びPCU13等に電力を供給するバッテリ19は、サドル3Dの下部等の重心Gの近傍に組み付けられている。
【0048】
2.二輪車用姿勢安定化装置の作動(図7参照)
二輪車用姿勢安定化装置1は、起動スイッチ(図示せず。)がライダーにより投入されたときに起動し、起動スイッチが遮断されたときに停止する。なお、二輪車用姿勢安定化装置1の作動制御用プログラム、つまり図7に示す制御フローを実行するためのプログラムは、ROM等の不揮発性記憶手段に記憶されている。
【0049】
そして、起動スイッチが投入されると、先ず、操舵角度θs、自転車3の速さ(車速)V、実ロール角度θr、及び実ロール角速度dθrが検出又は算出された後(S1)、車速Vが0km/hより大きく、かつ、右向き操舵角度θs又は左向き操舵角度θs(以下、単に操舵角度θsという。)が0degより大きいか否かが判定される(S3)。
【0050】
このとき、車速Vが0km/h以下、又は操舵角度θsが0であると判定された場合には(S3:NO)、再び、S1が実行され、一方、車速Vが0km/hより大きく、かつ、操舵角度θsが0degより大きいと判定された場合には(S3:YES)、目標ヨーレイトω、目標ロール角度θro及び目標ロール角速度dθroが算出された後(S5〜S9)、目標トルクTrが算出される(S11)。
【0051】
次に、S11にて算出された目標トルクTrが電動モータ15にて発生可能な指示トルク(以下、上限トルクという。)以下であるか否かが判定され(S13)、目標トルクTrが上限トルクより大きいと判定された場合には(S13:NO)、再び、S1が実行され、目標トルクTrが上限トルク以下であると判定された場合には(S13:YES)、その目標トルクTrが電動モータ15にて発生するように電動モータ15が制御される(S15)。
【0052】
3.本実施形態に係る二輪車用姿勢安定化装置の特徴
自転車3は、上述したように、自転車3に作用する重力(ライダーに作用する重力も含む。)によるロールモーメントと、いわゆる遠心力(向心力に対する慣性力)によるロールモーメントとが釣り合っている場合に、その姿勢が安定する。
【0053】
そして、遠心力によるロールモーメントは、自転車3がふらつく等してロールしているときに発生する力であり、かつ、その大きさは、ロール状態の自転車3の速さを主たる要因として決定される。
【0054】
そこで、本実施形態では、目標ロール角度θroを決定し、この目標ロール角度θroと実ロール角度θrとの差の絶対値が小さくなるように前輪3Aに発生させるトルクを制御することにより、ロールモーメントの総和を0に近づけて自転車3のふらつきを抑制している。
【0055】
このとき、目標ロール角度θroは、少なくとも操舵角度θsに基づいて決定されたロール角度であるので、ライダーの意図が反映されたロール角度となる。つまり、本実施形態では、ライダーの意図が反映された目標ロール角度θroと実ロール角度θrとの差に基づいて前輪3Aで発生するトルクを制御するので、ライダーに違和感を与えることを抑制しつつ、自転車3のふらつきを抑制することができる。
【0056】
また、本実施形態では、操舵角度θsに基づいて目標ロール角度θroが算出され、かつ、操舵角度θsは、ライダーの意図が最も大きく反映されたパラメータであるので、ライダーに違和感を与えることを確実に抑制できる。
【0057】
ところで、本実施形態では、前輪3Aに発生するトルクを制御することよりロール角度θrを変化させて自転車3の姿勢を安定化しているが、後輪3Bに発生するトルクを制御してもロール角度θrを変化させることができる。
【0058】
このとき、後輪3Bに発生するトルクを制御する方式では、車速Vを増減させることにより、遠心力を増減させてロールモーメントM2の大きさを変化させるので、自転車3の質量が大きい場合には、後輪3Bに発生するトルクを変化させてもロールモーメントM2は即座に変化しない。
【0059】
このため、後輪3Bに発生するトルクを制御する方式では、トルクを変化すべき旨の指令がECU5から発せられた時にから収束時間Tr内に実ロール角度θrを目標ロール角度θroにすることができない、つまり応答性が低いという問題が発生する可能性がある。
【0060】
これに対して、例えば自転車3が既にロールしている場合には、前輪3Aの操舵角は0より大きくなっており、この状態で前輪3Aのトルクを変動させると、遠心力によるロールモーメントとは別に、その変動が直接的に新たなロールモーメントを発生させることとなる。
【0061】
つまり、例えば、前進向きの目標トルクTrが前輪3Aに発生すると、前輪3Aが路面を後退向きに押すので、前輪3Aは、図3に示すように、その反作用として路面から前進向きの力F1を受ける。
【0062】
このとき、前輪3Aは操舵されて進行方向に対して旋回中側に傾いているので、前輪3Aには、力F1のうち旋回中側に向かう成分の力F2(=F1・sin(θs))が作用し、フロントフォークの操縦管(ヘッドパイプ)3E付近を中心とするモーメントM3が発生する。
【0063】
したがって、前輪3Aに姿勢制御を実行するためのトルク(以下、姿勢制御トルクという。)を発生させれば、電動モータ15よるトルクを効率よく、自転車3のロール角度θrを変化させるロールモーメントに変換させることができるので、二輪車用姿勢安定化装置1の応答性を向上させることができる。
【0064】
また、本実施形態では、電動モータ15にて姿勢制御トルクを発生させるので、容易に姿勢制御トルクを制御することができる。
(第2実施形態)
上述の実施形態では、収束時間Trを予め設定された固定時間としたが、本実施形態は、収束時間Trを変更可能な構成としたものである。つまり、収束時間Trは、ライダーの意志(希望)やライダーの性状等によって異なる時間を取り得るので、収束時間Trを変更可能な構成としたものである。
【0065】
以下、第1実施形態との相違点を中心に本実施形態に係る自転車3(二輪車用姿勢安定化装置1)について説明する。
すなわち、本実形態では、ライダーにより操作可能な収束時間設定手段として、図8(a)〜図8(c)のうちいずれかに示す収束時間設定スイッチ21をハンドル3C等に設けたものである。
【0066】
そして、図8(a)は、収束時間Trを、「Slow(例えば、5秒)」、「Normal(例えば、3秒)」及び「Fast(例えば、1秒)」の3段階のモードで設定することができる収束時間設定スイッチ21である。なお、「AUTO」は、車速に応じていずれかの収束時間Trを自動選択するモードである。
【0067】
また、図8(b)は、収束時間Trをライダーの性状(体格等)に基づいて自動的に決定する収束時間設定スイッチ21である。具体的には、この収束時間設定スイッチ21は、ライダーにより入力・選択された「年齢」、「性別」「身長」及び「体重」等のパラメータに基づいて、予めROM等に記憶されている上記パラメータと収束時間Trと関係から収束時間Trを自動選択する。
【0068】
また、図8(c)は、収束時間Trを、「Slow(例えば、5秒)」から「Fast(例えば、1秒)」までの間で無段階的に設定することができる収束時間設定スイッチ21である。
【0069】
そして、本実施形態では、図9に示すように、目標ロール角速度dθroが算出される前に、目標ロール角速度dθroの算出(S9)に用いる収束時間Trが収束時間設定スイッチ21の設定に基づいて決定される(S8)。なお、S8以外の制御ステップは、第1実施形態(図7)と同じ作動であるので、本実施形態においては、それらの説明は省略する。
【0070】
これにより、本実施形態では、ライダーの意志(希望)等に応じて自転車3の姿勢が制御され得るので、ライダーに大きな違和感を与えることを抑制しつつ、自転車3のふらつきを抑制することができる。
【0071】
(第3実施形態)
第2実施形態では、収束時間Trを変更することにより、現実の収束時間Trを直接的に変化させるものであったが、本実施形態は、収束時間Trを固定時間としたまま、目標トルクTrを変更することにより、現実の収束時間Trを間接的に変化させるものである。
【0072】
すなわち、目標トルクTrは、上述したように、目標ロール角速度dθroが大きくなると大きくなり、目標ロール角速度dθroが小さくなると小さくなる。そして、目標ロール角速度dθroは、収束時間Trが大きくなると小さくなり、収束時間Trが小さくなると大きくなる。したがって、収束時間Trを固定時間としたまま、目標トルクTrを変更しても現実の収束時間Trを変化させることができる。
【0073】
そこで、本実施形態では、ライダーにより操作可能な収束時間設定手段として、図10に示すように、予め設定された収束時間Trに基づいて決定された目標トルクTrを変更する目標トルク変更スイッチ23をハンドル3C等に設けたものである。
【0074】
そして、本実施形態では、図11に示すように、目標ロール角速度dθroに基づいて算出された目標トルクTrに対して、目標トルク変更スイッチ23にて設定された倍率(ゲイン)が乗算され(S12)、その乗算後の値を目標トルクTrとして電動モータ15がPID制御される。なお、S12以外の制御ステップは、第1実施形態(図7)と同じ作動であるので、本実施形態においては、それらの説明は省略する。
【0075】
これにより、本実施形態においても、ライダーの意志(希望)等に応じて自転車3の姿勢が制御され得るので、ライダーに大きな違和感を与えることを抑制しつつ、自転車3のふらつきを抑制することができる。
【0076】
因みに、目標トルク変更スイッチ23(図10参照)の「OFF」とは、倍率(ゲイン)を0とする設定であり、目標トルク変更スイッチ23を「OFF」とすると、実質的に二輪車用姿勢安定化装置1が停止した状態となる。また、本実施形態に係る目標トルク変更スイッチ23は、倍率を「Lo(例えば、0.1)」から「Hi(例えば、2.0)」までの間で無段階的に設定することができる。
【0077】
(第4実施形態)
第3実施形態では、目標トルクTrを変更することにより、現実の収束時間Trを変化させるものであったが、本実施形態は、目標ヨーレイトωの算出に用いる目標ヨーレイト算出マップ(図5参照)を車速に応じて変更することにより、現実の収束時間Trを変化させるものである。
【0078】
つまり、目標トルクTrを決定するには、上述したように、目標ヨーレイトωを算出する必要があるので、目標ヨーレイトωを変更することにより、目標トルクTrを間接的に変更し、最終的には現実の収束時間Trを変化させるものである。
【0079】
そこで、本実施形態では、ライダーにより操作可能な収束時間設定手段として、図12(a)及び図12(a)に示す目標トルクTrを変更するための目標トルク変更スイッチ23A及び目標トルク変更スイッチ23Bをハンドル3C等に設けたものである。
【0080】
なお、目標トルク変更スイッチ23Aの「OFF」とは、二輪車用姿勢安定化制御を停止又は実行しないことを意味し、「Lo Speed」とは低速領域(例えば、5km/h以下)のみ二輪車用姿勢安定化制御し、高速領域(例えば、5km/h超)は二輪車用姿勢安定化制御を停止又は実行しないことを意味し、「Hi Speed」とは高速領域のみ二輪車用姿勢安定化制御し、低速領域は二輪車用姿勢安定化制御を停止又は実行しないことを意味し、「AUTO」とは、いずれの速度領域も二輪車用姿勢安定化制御を実行することを意味する。
【0081】
また、目標トルク変更スイッチ23Bは、第3実施形態と同様に、倍率(ゲイン)を設定ためのスイッチである。具体的には、目標トルク変更スイッチ23Aの「AUTO」が選択されている場合には、ライダーにより入力・選択された「年齢」、「性別」「身長」及び「体重」等のパラメータに基づいて、予めROM等に記憶されているパラメータと倍率と関係から使用すべき倍率が自動選択される。また、目標トルク変更スイッチ23Aの「Lo Speed」又は「Hi Speed」が選択されている場合には、倍率は1.0となる。
【0082】
そして、本実施形態では、図13に示すように、車速Vが0km/hより大きく、かつ、操舵角度θsが0degより大きいと判定された場合には(S3:YES)、目標トルク変更スイッチ23Aの設定に基づいて目標ヨーレイトωの算出に用いる目標ヨーレイト算出マップが選択された後(S4)、その選択された目標ヨーレイト算出マップに従って目標ヨーレイトωが算出される(S5)。なお、S4以外の制御ステップは、第3実施形態(図11)と同じ作動であるので、本実施形態においては、それらの説明は省略する。
【0083】
これにより、本実施形態においても、ライダーの意志(希望)等に応じて自転車3の姿勢が制御され得るので、ライダーに大きな違和感を与えることを抑制しつつ、自転車3のふらつきを抑制することができる。
【0084】
(第5実施形態)
本実施形態は、姿勢制御トルクに加えて、走行用の駆動力も電動モータ15に発生させるものである。つまり、本実施形態は、本発明に係る二輪車、二輪車用姿勢安定化装置及び二輪車用姿勢安定化制御方法を、いわゆる電動アシスト自転車にて適用したものである。以下、第1実施形態に係る二輪車用姿勢安定化装置1を例に本実施形態に係る自転車3について説明する。
【0085】
すなわち、本実施形態では、図14に示すように、目標トルクTrが算出されると(S11)、ペダルに作用する踏力に基づいて電動モータ15にて補助すべき目標アシストトルクが算出される(S17)。因みに、目標アシストトルクの算出方法は、どのような手法であってもよいが、本実施形態では、例えば特開平7−309283号公報に記載の手法と同じである。
【0086】
次に、その算出された目標アシストトルクと目標トルクTrとの和(以下、目標トルク和という。)が算出された後(S19)、目標トルク和が上限トルク以下であるか否かが判定される(S21)。
【0087】
そして、目標トルク和が上限トルクより大きいと判定された場合には(S21:NO)、再び、S1が実行され、目標トルク和が上限トルク以下であると判定された場合には(S21:YES)、その目標トルク和が電動モータ15にて発生するように電動モータ15が制御される(S23)。
【0088】
これにより、本実施形態では、簡便な構成でライダーに違和感を与えることを抑制しつつ、自転車3のふらつきを抑制することができる。
(その他の実施形態)
上述の実施形態では、操舵輪である前輪3Aに姿勢制御のためのトルクを付与したが、本発明はこれに限定されるものではなく、駆動輪である後輪3Bに姿勢制御のためのトルクを付与してもよい。
【0089】
また、上述の実施形態では、自転車3に本発明を適用したが、本発明はこれに限定されるものではなく、自動二輪や原動機付き自転車等にも適用できる。
また、上述の実施形態では、電動モータ15のみにて姿勢制御のためのトルクを発生させたが、本発明はこれに限定されるものではなく、例えば姿勢制御のためのトルクがマイナス値となる場合には、ブレーキを利用してマイナスのトルクを車輪に付与してもよい。
【0090】
また、上述の実施形態では、操舵角度θsを検出することにより、ライダーによる車体への操作量を検出したが、本発明はこれに限定されるものではなく、例えばライダーの体重移動に伴うライダー及び車両の合成重心の変化やハンドル3Cに作用するライダーからの力等を操作量として検出してもよい。
【0091】
また、本発明は、特許請求の範囲に記載された発明の趣旨に合致するものであればよく、上述の実施形態に限定されるものではない。
【符号の説明】
【0092】
1…二輪車用姿勢安定化装置、3…自転車、3A…前輪、3B…後輪、
3C…ハンドル、3D…サドル、5A…算出部、5A…目標ヨーレイト算出部、
5B…目標ロール角度算出部、5C…実ロール角度算出部、
5D…目標ロール角速度算出部、7…操舵角度センサ、9…車速センサ、
11…車体ロール角速度センサ、13A…目標駆動トルク算出部、
15…電動モータ、17…コントロールボックス、19…バッテリ、
21…収束時間設定スイッチ、23…目標トルク変更スイッチ、
23A…目標トルク変更スイッチ、23B…目標トルク変更スイッチ。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
進行方向に沿って2つの車輪が配置され、旋回時に車体を旋回中心側に傾斜させて旋回する二輪車であって、
運転者による車体への操作量を検出する操作量検出手段と、
少なくとも前記操作量検出手段により検出された操作量に基づいて目標とするロール角度を決定する目標ロール角度決定手段と、
現実のロール角度を検出する実ロール角度検出手段と、
前記2つの車輪のうち少なくとも一方の車輪にトルクを発生させるトルク発生手段と、
前記目標ロール角度決定手段が決定した目標ロール角度と前記実ロール角度検出手段が検出した実ロール角度との差の絶対値が小さくなる向きのトルクを前記トルク発生手段で発生させるように前記トルク発生手段を制御する制御手段と
を備えることを特徴とする二輪車。
【請求項2】
車体の速さを検出する車速検出手段を備え、
前記操作量検出手段は、前記2つの車輪のうち操舵用の車輪の操舵角度を前記操作量として検出し、
さらに、前記目標ロール角度決定手段は、
操舵角度と車体の速さとヨー角速度との関係が記憶された記憶部、
前記記憶部に記憶された前記関係に従ってヨー角速度を決定する目標ヨー角速度決定手段、並びに
車体に作用する重力による第1ロールモーメントと、前記目標ヨー角速度決定手段により決定されたヨー角速度及び車体の速さから算出される第2ロールモーメントとの釣り合い条件に基づいて前記目標ロール角度を算出するロール角度算出手段を有することを特徴とする請求項1に記載の二輪車。
【請求項3】
前記トルク発生手段は、前記操舵用の車輪に前記制御手段により指令されたトルクを作用させることを特徴とする請求項1又は2に記載の二輪車。
【請求項4】
前記トルク発生手段は、前記制御手段からの指令に基づくトルクに加えて、走行用の駆動力も車輪に供給することを特徴とする請求項3に記載の二輪車。
【請求項5】
前記トルク発生手段は、電動モータであることを特徴とする請求項4に記載の二輪車。
【請求項6】
進行方向に沿って2つの車輪が配置され、かつ、旋回時に車体を旋回中心側に傾斜させて旋回する二輪車に適用され、前記二輪車の姿勢を安定化させるための二輪車用姿勢安定化装置であって、
運転者による車体への操作量を検出する操作量検出手段と、
少なくとも前記操作量検出手段により検出された操作量に基づいて目標とするロール角度を決定する目標ロール角度決定手段と、
現実のロール角度を検出する実ロール角度検出手段と、
前記2つの車輪のうち少なくとも一方の車輪にトルクを発生させるトルク発生手段と、
前記目標ロール角度決定手段が決定した目標ロール角度と前記実ロール角度検出手段が検出した実ロール角度との差の絶対値が小さくなる向きのトルクを前記トルク発生手段で発生させるように前記トルク発生手段を制御する制御手段と
を備えることを特徴とする二輪車用姿勢安定化装置。
【請求項7】
進行方向に沿って2つの車輪が配置され、かつ、旋回時に車体を旋回中心側に傾斜させて旋回する二輪車に適用され、前記二輪車の姿勢を安定化させるための二輪車用姿勢安定化制御方法であって、
運転者による車体への操作量を検出し、
少なくとも前記検出された操作量に基づいて目標とするロール角度(以下、目標ロール角度という。)を決定し、
現実のロール角度(以下、実ロール角度という。)を検出し、
前記目標ロール角度と前記実ロール角度との差の絶対値が小さくなる向きのトルクを、前記2つの車輪のうち少なくとも一方の車輪で発生させる
ことを特徴とする二輪車用姿勢安定化制御方法。
【請求項1】
進行方向に沿って2つの車輪が配置され、旋回時に車体を旋回中心側に傾斜させて旋回する二輪車であって、
運転者による車体への操作量を検出する操作量検出手段と、
少なくとも前記操作量検出手段により検出された操作量に基づいて目標とするロール角度を決定する目標ロール角度決定手段と、
現実のロール角度を検出する実ロール角度検出手段と、
前記2つの車輪のうち少なくとも一方の車輪にトルクを発生させるトルク発生手段と、
前記目標ロール角度決定手段が決定した目標ロール角度と前記実ロール角度検出手段が検出した実ロール角度との差の絶対値が小さくなる向きのトルクを前記トルク発生手段で発生させるように前記トルク発生手段を制御する制御手段と
を備えることを特徴とする二輪車。
【請求項2】
車体の速さを検出する車速検出手段を備え、
前記操作量検出手段は、前記2つの車輪のうち操舵用の車輪の操舵角度を前記操作量として検出し、
さらに、前記目標ロール角度決定手段は、
操舵角度と車体の速さとヨー角速度との関係が記憶された記憶部、
前記記憶部に記憶された前記関係に従ってヨー角速度を決定する目標ヨー角速度決定手段、並びに
車体に作用する重力による第1ロールモーメントと、前記目標ヨー角速度決定手段により決定されたヨー角速度及び車体の速さから算出される第2ロールモーメントとの釣り合い条件に基づいて前記目標ロール角度を算出するロール角度算出手段を有することを特徴とする請求項1に記載の二輪車。
【請求項3】
前記トルク発生手段は、前記操舵用の車輪に前記制御手段により指令されたトルクを作用させることを特徴とする請求項1又は2に記載の二輪車。
【請求項4】
前記トルク発生手段は、前記制御手段からの指令に基づくトルクに加えて、走行用の駆動力も車輪に供給することを特徴とする請求項3に記載の二輪車。
【請求項5】
前記トルク発生手段は、電動モータであることを特徴とする請求項4に記載の二輪車。
【請求項6】
進行方向に沿って2つの車輪が配置され、かつ、旋回時に車体を旋回中心側に傾斜させて旋回する二輪車に適用され、前記二輪車の姿勢を安定化させるための二輪車用姿勢安定化装置であって、
運転者による車体への操作量を検出する操作量検出手段と、
少なくとも前記操作量検出手段により検出された操作量に基づいて目標とするロール角度を決定する目標ロール角度決定手段と、
現実のロール角度を検出する実ロール角度検出手段と、
前記2つの車輪のうち少なくとも一方の車輪にトルクを発生させるトルク発生手段と、
前記目標ロール角度決定手段が決定した目標ロール角度と前記実ロール角度検出手段が検出した実ロール角度との差の絶対値が小さくなる向きのトルクを前記トルク発生手段で発生させるように前記トルク発生手段を制御する制御手段と
を備えることを特徴とする二輪車用姿勢安定化装置。
【請求項7】
進行方向に沿って2つの車輪が配置され、かつ、旋回時に車体を旋回中心側に傾斜させて旋回する二輪車に適用され、前記二輪車の姿勢を安定化させるための二輪車用姿勢安定化制御方法であって、
運転者による車体への操作量を検出し、
少なくとも前記検出された操作量に基づいて目標とするロール角度(以下、目標ロール角度という。)を決定し、
現実のロール角度(以下、実ロール角度という。)を検出し、
前記目標ロール角度と前記実ロール角度との差の絶対値が小さくなる向きのトルクを、前記2つの車輪のうち少なくとも一方の車輪で発生させる
ことを特徴とする二輪車用姿勢安定化制御方法。
【図1】
【図5】
【図6】
【図7】
【図9】
【図11】
【図13】
【図14】
【図2】
【図3】
【図4】
【図8】
【図10】
【図12】
【図5】
【図6】
【図7】
【図9】
【図11】
【図13】
【図14】
【図2】
【図3】
【図4】
【図8】
【図10】
【図12】
【公開番号】特開2012−148656(P2012−148656A)
【公開日】平成24年8月9日(2012.8.9)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−8154(P2011−8154)
【出願日】平成23年1月18日(2011.1.18)
【出願人】(000004260)株式会社デンソー (27,639)
【Fターム(参考)】
【公開日】平成24年8月9日(2012.8.9)
【国際特許分類】
【出願日】平成23年1月18日(2011.1.18)
【出願人】(000004260)株式会社デンソー (27,639)
【Fターム(参考)】
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