説明

二酸化ケイ素とN−ビニル−2−ピロリドン重合物の分離方法

【課題】本発明は、二酸化ケイ素含有化合物及びポリビニルピロリドンを含有する組成物中の二酸化ケイ素とN−ビニル−2−ピロリドン重合物の簡便な分離方法、及び二酸化ケイ素含有化合物とN−ビニル−2−ピロリドン重合物を含有する組成物中に含まれる二酸化ケイ素の、N−ビニル−2−ピロリドン重合物の妨害を受けることのない定量方法を提供する。
【解決手段】本発明は、二酸化ケイ素含有化合物及びN−ビニル−2−ピロリドン重合物を含有する組成物をメタノール及び/又はメタノール・水混合溶媒で洗浄する、二酸化ケイ素とN−ビニル−2−ピロリドン重合物の分離方法、及び当該分離方法により二酸化ケイ素とN−ビニル−2−ピロリドン重合物を分離した後、二酸化ケイ素含有化合物を含有する試料中の二酸化ケイ素含有化合物を、分析試料として溶解した二酸化ケイ素を使用する分析手段を用いて定量化する方法に関する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、二酸化ケイ素含有化合物及びN−ビニル−2−ピロリドン重合物を含有する組成物の二酸化ケイ素含有化合物とN−ビニル−2−ピロリドン重合物の分離方法、及び当該組成物中の二酸化ケイ素含有化合物の定量方法に関する。
【背景技術】
【0002】
ケイ酸アルミン酸マグネシウム、メタケイ酸アルミン酸マグネシウムは、賦形剤等として使用される他、制酸剤や胃粘膜保護剤を目的とした処方として胃腸薬及び感冒薬等に薬効成分としても配合される等、幅広い用途で使用される公知の化合物である。同様にN−ビニル−2−ピロリドン重合物もインクジェット用インクから医薬品に至るまで、溶解補助剤、分散剤、結合剤、崩壊剤及び賦形剤等の目的で、工業的に幅広く用いられる公知の化合物である。また、薬効成分としてケイ酸アルミン酸マグネシウムやメタケイ酸アルミン酸マグネシウムを配合し、懸濁化剤、結合剤、崩壊剤、賦形剤等の目的でN−ビニル−2−ピロリドン重合物が添加された医薬品も既に市販されている。
医薬品の場合、その品質を保証するために有効成分として配合された成分については、基本的に、公定書等で規定された試験方法により含量を測定し、規格に適合していることを確認する必要がある。しかしながら、規定された試験方法が煩雑である場合は、規定された試験方法と同等の結果が得られることを立証することで、別の原理を利用した試験方法を設定し、品質の確認を行うことも可能である。
日本薬局方外医薬品規格に収載されたケイ酸アルミン酸マグネシウム及びメタケイ酸アルミン酸マグネシウムについては、それらに含まれている二酸化ケイ素の定量法として、酸処理及び灰化等の工程を経た後の固形分の重量として測定する重量法(非特許文献1)が規定されている。しかしながら、重量法は酸処理及び灰化の工程の他、定量対象が液剤の場合は、更に溶媒を蒸発させなければならず、長時間を要し、且つ非常に煩雑であった。
【0003】
【非特許文献1】財団法人日本公定書協会監修、「日本薬局方外医薬品規格2002」株式会社じほう出版、2002年9月30日発行、p.283〜284、560〜561
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
斯かる実状に鑑み、本発明者は重量法より簡便、且つ迅速な定量方法である高周波誘導結合プラズマ発光分光分析法又は原子吸光光度法等の分析試料として溶解した二酸化ケイ素を使用する分析手段を用いて、ケイ酸アルミン酸マグネシウム、メタケイ酸アルミン酸マグネシウム等の二酸化ケイ素含有化合物中の二酸化ケイ素を定量すべく、分析試料中の二酸化ケイ素の酸による溶解を試みた。その結果、全く意外なことに、溶解補助剤、分散剤、賦形剤等としてN−ビニル−2−ピロリドン重合物を含有した組成物においては、二酸化ケイ素の酸による溶解が阻害されるため、分析試料として溶解した二酸化ケイ素を使用する分析手段において、二酸化ケイ素の正確な定量が妨害されることを見出した。
従って、本発明は、ケイ酸アルミン酸マグネシウム、メタケイ酸アルミン酸マグネシウム等の二酸化ケイ素含有化合物及びN−ビニル−2−ピロリドン重合物を含有する組成物中の二酸化ケイ素とN−ビニル−2−ピロリドン重合物の簡便な分離方法に関する。
更に、本発明は、二酸化ケイ素含有化合物とN−ビニル−2−ピロリドン重合物を含有する組成物中に含まれる二酸化ケイ素の、N−ビニル−2−ピロリドン重合物の妨害を受けることのない定量方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0005】
メタケイ酸アルミン酸マグネシウムは二酸化ケイ素(SiO)、酸化アルミニウム(Al)、及び酸化マグネシウム(MgO)を含む制酸剤であり、胃腸薬製剤の原料として広く使用されている。本発明者らは、これらのメタケイ酸アルミン酸マグネシウムを含有する製剤中におけるケイ酸アルミン酸マグネシウム、メタケイ酸アルミン酸マグネシウム等の二酸化ケイ素含有化合物の定量化を行ってきたところ、ある種の製剤においては正確な定量化ができないことを見いだした。そして、その原因について化学干渉、物理干渉、及び抽出不良の3つの観点から検討を行い、製剤中の各成分について二酸化ケイ素の定量化に及ぼす影響を検討してきた。その結果、驚くべきことに、溶解補助剤、分散剤、結合剤、崩壊剤及び賦形剤等の目的で製剤中に配合されているN−ビニル−2−ピロリドン重合物が、二酸化ケイ素の定量化を妨害していることを見いだした。そして、本発明者らは、N−ビニル−2−ピロリドン重合物を含有する試料における、ケイ酸アルミン酸マグネシウム、メタケイ酸アルミン酸マグネシウム等の二酸化ケイ素含有化合物を二酸化ケイ素として正確に定量することができる新規な方法を開発した。
即ち、本発明は、二酸化ケイ素含有化合物及びN−ビニル−2−ピロリドン重合物を含有する組成物をメタノール及び/又はメタノール・水混合溶媒(含水メタノール)で洗浄する、二酸化ケイ素含有化合物とN−ビニル−2−ピロリドン重合物の分離方法に関する。
また、本発明は、ケイ酸アルミン酸マグネシウム、メタケイ酸アルミン酸マグネシウム等の二酸化ケイ素含有化合物及びN−ビニル−2−ピロリドン重合物を含有する試料を、メタノール及び/又は含水メタノールで洗浄して、N−ビニル−2−ピロリドン重合物を除去し、次いで試料中の二酸化ケイ素含有化合物を定量することからなる試料中の二酸化ケイ素含有化合物を定量する方法に関する。
更に、本発明は、前記した分離方法により二酸化ケイ素とN−ビニル−2−ピロリドン重合物を分離した後、二酸化ケイ素含有化合物を含有する試料中の二酸化ケイ素含有化合物を、分析試料として溶解した二酸化ケイ素を使用する分析手段を用いて定量化する方法に関する。
【0006】
本発明を、より詳細に説明すれば以下のとおりとなる。
(1)二酸化ケイ素含有化合物及びN−ビニル−2−ピロリドン重合物を含有する組成物をメタノール及び/又はメタノール・水混合溶媒(含水メタノール)で洗浄して、組成物中の二酸化ケイ素含有化合物とN−ビニル−2−ピロリドン重合物を分離する方法。
(2)二酸化ケイ素含有化合物が、ケイ酸アルミン酸マグネシウム又はメタケイ酸アルミン酸マグネシウムである前記(1)に記載の方法。
(3)メタノール・水混合溶媒(含水メタノール)のメタノールと水の容量比が9:1〜6:4である前記(1)又は(2)に記載の方法。
(4)前記(1)〜(3)のいずれかに記載の分離方法により二酸化ケイ素含有化合物とN−ビニル−2−ピロリドン重合物を分離した後、二酸化ケイ素含有化合物を含有する試料を分析試料として、当該試料中の二酸化ケイ素含有化合物を二酸化ケイ素として分析する手段を用いて、試料中の二酸化ケイ素含有化合物を定量する方法。
(5)前記(1)〜(3)のいずれかに記載の分離方法により、二酸化ケイ素とN−ビニル−2−ピロリドン重合物を分離した後、分析試料として溶解した二酸化ケイ素を使用する分析手段を用いる、二酸化ケイ素の定量方法。
(6)分析試料として溶解した二酸化ケイ素を使用する分析手段が高周波誘導結合プラズマ発光分光分析法又は原子吸光光度法である前記(5)に記載の方法。
(7)前記(5)又は(6)に記載の定量方法により、組成物中の二酸化ケイ素含有化合物の定量化を行い、組成物の品質確認を行う工程を有する、二酸化ケイ素含有化合物及びN−ビニル−2−ピロリドン重合物を含有する組成物の製造方法。
【発明の効果】
【0007】
本発明の分離方法は、二酸化ケイ素含有化合物及びN−ビニル−2−ピロリドン重合物を含有する組成物(試料)中の二酸化ケイ素とN−ビニル−2−ピロリドン重合物を簡便に分離するのに有用である。
また、本発明の分離方法を利用した二酸化ケイ素の定量方法は、N−ビニル−2−ピロリドン重合物の妨害を受けることなく、分析試料として溶解した二酸化ケイ素を使用する分析手段を用いた二酸化ケイ素の定量に有用である。本発明の定量化方法は、従来の二酸化ケイ素を分析定量化する方法をそのまま使用することができ簡便であるだけでなく、試料中のN−ビニル−2−ピロリドン重合物による妨害を受けることなく、正確に二酸化ケイ素含有化合物を二酸化ケイ素として分析し、定量化することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0008】
本発明において、二酸化ケイ素含有化合物としては、酸処理などにより二酸化ケイ素を遊離するものであれば特に制限は無く、例えば、ケイ酸アルミン酸マグネシウム、メタケイ酸アルミン酸マグネシウム、ケイ酸マグネシウム又は軽質無水ケイ酸等が挙げられ、特にケイ酸アルミン酸マグネシウム、メタケイ酸アルミン酸マグネシウムが好ましい。
本発明において、N−ビニル−2−ピロリドン重合物とは、N−ビニル−2−ピロリドンの直鎖状重合物または架橋重合物であり、一般にポリビニルピロリドン又はクロスポビドンと呼ばれ、市販品としては、例えばコリドン25、コリドン30、コリドン90F、コリドンCL(ビーエーエスエフジャパン(株))、プラスドンK−29/32、プラスドンK−90D、プラスドンK−90M、ポリプラスドンXL、ポリプラスドンXL−10、ポリプラスドンINF−10(アイエスピー・ジャパン(株))等が挙げられる。
本発明において、メタノール・水混合溶媒(含水メタノール)とは、市販のメタノールにさらに水を加えたメタノールと水の混液であり、メタノールと添加する水の容量比が9:1〜6:4、特に7:3であるのが好ましい。また、本発明のメタノールとしては、無水メタノールだけでなく試薬用又は溶媒用として市販されている一部水を含有しているメタノールであってもよい。
【0009】
本発明における、メタノール及び/又はメタノール・水混合溶媒による洗浄は、二酸化ケイ素含有化合物及びN−ビニル−2−ピロリドン重合物を含有する組成物(試料)とメタノール又はメタノール・水混合溶媒を撹拌、振盪、超音波等で処理した後、遠心分離により、二酸化ケイ素が含まれる固形成分(沈殿物)とN−ビニル−2−ピロリドン重合物が含まれる上澄みに分けることにより行う。この際、二酸化ケイ素含有化合物及びN−ビニル−2−ピロリドン重合物を含有する組成物(試料)とメタノール又はメタノール・水混合溶媒の混合比率は、質量比で組成物:メタノール又はメタノール・水混合溶媒が2:1〜1:100、好ましくは1:1〜1:10、特に好ましくは1:2〜1:5である。また、洗浄回数はその回数が増えるほど分離の精度が上昇する為、特に制限はないが、操作の便宜上、1〜10回、好ましくは3〜8回、特に4〜6回が好ましい。また、メタノールによる洗浄とメタノール・水混合溶媒による洗浄とは、組成物(試料)の種類に応じて、任意に組み合わせことができ、その順序も任意の順序で行うことができるが、二酸化ケイ素含有化合物及びN−ビニル−2−ピロリドン重合物を含有する組成物が水溶液である場合は、最初にメタノール洗浄を行った後、メタノール・水混合溶媒による洗浄を行うことが好ましい。また、撹拌、振盪、超音波等での処理時間は、十分に二酸化ケイ素含有化合物及びN−ビニル−2−ピロリドン重合物を含有する組成物とメタノール又はメタノール・水混合溶媒が混合されるのであれば、特に制限はないが、操作の便宜上、2〜120分、好ましくは5〜60分、特に10〜30分が好ましい。洗浄処理温度も、洗浄中に溶液が凍結又は蒸発することがなければ、特に制限されることはないが、0〜60℃、好ましくは10〜40℃、特に20〜30℃が好ましい。
【0010】
本発明における、二酸化ケイ素含有化合物とN−ビニル−2−ピロリドン重合物の分離方法としては、組成物(試料)中の二酸化ケイ素含有化合物の定量化が可能となる程度に両者を分離させることができればよく、必ずしも両者を純粋な状態で単離できる状態に分離することを意図するものではない。本発明の分離方法により、組成物(試料)中から二酸化ケイ素含有化合物の定量化を妨害しているN−ビニル−2−ピロリドン重合物を分離し、除去することができ、N−ビニル−2−ピロリドン重合物が除去された試料を、次の分析のための試料(分析試料)として使用することができる。このようにして精製された本発明の分析試料は、塩酸などの酸処理により二酸化ケイ素を遊離させて分析することができる。
本発明において、分析試料として溶解した二酸化ケイ素を使用する分析手段としては、通常の二酸化ケイ素の分析・定量化手段を使用することができ、このような分析・定量化手段としては、例えば、高周波誘導結合プラズマ発光分光分析法、原子吸光光度法、モリブデンブルー吸光度法、又はモリブデンイエロー吸光度法等が挙げられ、特に高周波誘導結合プラズマ発光分光分析法、原子吸光光度法が好ましい。分析試料としての溶解した二酸化ケイ素は、メタノール及び/又はメタノール・水混合溶媒で洗浄により分離された二酸化ケイ素が含まれる沈殿物に酸性溶液を加えて、ろ過することにより、得ることができる。この際使用する酸性溶液としては、二酸化ケイ素を十分に溶解することができれば、特に制限されないが、塩酸溶液、硝酸溶液及び硫酸溶液等が挙げられ、特に塩酸溶液が好ましい。また、分析手法による定量は一般的な方法で行えばよく、特に制限されることはないが、高周波誘導結合プラズマ発光分光分析法の定量条件としては,測定波長は251.612nm、212.415nm及び288.160nm、特に251.612nmが好ましい。高周波出力は0.5〜1.5kW、特に0.8〜1.2kWが好ましい。クーラントガスは5.0〜15.0L/min、特に7.0〜12.0L/minが好ましい。補助ガスは0.2〜1.0L/min、特に0.4〜0.8L/minが好ましい。キャリアガスは0.2〜1.0L/min、特に0.4〜0.8L/minが好ましい。原子吸光光度法の定量条件としては、測定波長は251.6nmが好ましい。モリブデンブルー吸光度法の定量条件としては、測定波長は600〜850nm、特に720〜820nmが好ましい。モリブデンイエロー吸光度法の定量条件としては、測定波長は300〜450nm、特に350〜400nmが好ましい。
【0011】
本発明において、二酸化ケイ素含有化合物及びN−ビニル−2−ピロリドン重合物を含有する組成物としては、特に限定されるものではないが、例えば、医薬品等が挙げられる。医薬品においては、通常これらの製剤に使用される成分を適宜その使用目的により配合されていてもよく、例えば、賦形剤、結合剤、崩壊剤、着色剤、矯味剤等を例示することができる。賦形剤としては、乳糖、デンプン類、蔗糖、マンニトール、リン酸水素カルシウム等が挙げられる。結合剤としては、ヒドロキシプロピルメチルセルロース、ゼラチン、アルファー化デンプン、プルラン等が挙げられる。崩壊剤としては、クロスカルメロースナトリウム、カルボキシメチルスターチナトリウム等が挙げられる。着色剤としては、タール色素、三二酸化鉄等が挙げられる。矯味剤としてはステビア、アスパルテーム、クエン酸、香料等が挙げられる。また、剤型としては、散剤、顆粒剤、錠剤、チュアブル剤、フィルムコーティング錠、糖衣錠、ゼリー剤、ドリンク剤等の各剤型が挙げられる。
本発明の二酸化ケイ素含有化合物の定量化方法は、組成物(試料)中にその定量化を妨害するN−ビニル−2−ピロリドン重合物が含有されていても、簡便で正確な定量化を行うことができるので、二酸化ケイ素含有化合物及びN−ビニル−2−ピロリドン重合物を含有する組成物を製造する際の品質管理に適用することができる。二酸化ケイ素含有化合物及びN−ビニル−2−ピロリドン重合物を含有する組成物の製造工程から製品としての組成物をサンプリングし、当該組成物における二酸化ケイ素含有化合物を定量化することにより、二酸化ケイ素含有化合物の含有量が一定した組成物(製品)を安定して製造することができる。したがって、本発明は、本発明の定量化方法により品質確認を行う工程を有する、二酸化ケイ素含有化合物及びN−ビニル−2−ピロリドン重合物を含有する組成物の製造方法を提供するものでもある。
【0012】
以下に実施例により本発明を具体的に詳述するが、本発明はこれらに制限されるものではない。
【実施例1】
【0013】
N−ビニル−2−ピロリドン重合物による酸性溶液への二酸化ケイ素含有化合物の溶解に対する影響
実験例1
メタケイ酸アルミン酸マグネシウム30mgに0.5mol/L塩酸溶液100mLを加え、よく振り混ぜた後、液状を観察した。
実験例2
ポリビニルピロリドン(コリドンK−90)60mgに0.5mol/L塩酸溶液100mLを加え、よく振り混ぜた後、液状を観察した。
実験例3
メタケイ酸アルミン酸マグネシウム30mg、ポリビニルピロリドン(コリドンK−90)60mgを混合した後、0.5mol/L塩酸溶液100mLを加えた。よく振り混ぜた後、液状を観察した。
実験例4
ポリビニルピロリドン(コリドンK−90)60mgに0.5mol/L塩酸溶液100mLを加えた後、メタケイ酸アルミン酸マグネシウム30mgを加えた。よく振り混ぜた後、液状を観察した。
実験例1〜4の結果を表1に示す。
【0014】
【表1】

【0015】
メタケイ酸アルミン酸マグネシウムとポリビニルピロリドン(コリドンK−90)を混合した後、0.5mol/L塩酸溶液を加えると不溶物が認められた(実験例3)。更に、不溶物がどの成分であるか確認するために、ポリビニルピロリドン(コリドンK−90)を0.5mol/L塩酸溶液に溶解させた後、メタケイ酸アルミン酸マグネシウムを加えたところ、メタケイ酸アルミン酸マグネシウムは一部溶解しなかった(実験例4)
以上より、メタケイ酸アルミン酸マグネシウムはポリビニルピロリドン(コリドンK−90)共存下で、溶解が一部阻害されることが判明した。
【実施例2】
【0016】
N−ビニル−2−ピロリドン重合物による、二酸化ケイ素含有化合物中の原子吸光光度法における二酸化ケイ素の定量に与える影響
実験例5
メタケイ酸アルミン酸マグネシウムの濃度が0.3mg/mL、ポリビニルピロリドン(コリドンK−90)の濃度が0、0.006、0.12、0.3及び0.6mg/mLとなるように、それぞれ0.5mol/L塩酸溶液にて試料を調製し、不溶物を濾過してろ液を得た。20mLのろ過した後のろ液を原子吸光光度法での測定検体溶液とした。
実験例6
ポリビニルピロリドン(コリドンK−90)に代えて、クロスポビドン(ポリプラスドンXL−10)を用いて実施例5と同様にして測定検体溶液とした。
実験例7
ポリビニルピロリドン(コリドンK−90)に代えて、クロスポビドン(ポリプラスドンINF−10)を用いて実施例5と同様にして測定検体溶液とした。
標準溶液の作成
原子吸光光度用ケイ素標準液(ケイ素濃度1mg/mL・和光純薬製)1,2,3,4及び5mLをそれぞれ正確に量り、0.5mol/L塩酸溶液20mLを正確に加えた後,水を加えて正確に50mLとし、標準溶液とする.
測定検体溶液及び標準溶液を、次の条件で原子吸光光度法にて測定を行い、標準溶液の吸光度から得られる検量線を用いて、試料溶液中のケイ素濃度を求め、二酸化ケイ素の含量を算出した。
測定条件
検出器 :原子吸光光度計(ジャーレル・アッシュ製 AA−11)
可燃性ガス :アセチレン
支燃性ガス :亜酸化窒素
ランプ :ケイ素中空陰極ランプ
波長 :251.6nm
電流値 :17mA
【0017】
結果を図1に示す。図1の横軸はN−ビニル−2−ピロリドン重合物の濃度(mg/mL)を示し、縦軸は二酸化ケイ素の理論的な含有量に対する測定された二酸化ケイ素の含量の比(%)を示し、グラフの黒四角印は実験例5の結果を示し、黒三角印は実験例6の結果を示し、黒丸印は実験例7の結果を、それぞれ示している。
この結果、二酸化ケイ素の定量に対するポリビニルピロリドン(コリドンK−90)の濃度依存的な妨害が認められた(実験例5)。ポリビニルピロリドン(コリドンK−90)の代わりにクロスポビドン((ポリプラスドンXL−10(実験例6)及びポリプラスドンINF−10(実験例7))を用いた場合も同様な結果であった。
【実施例3】
【0018】
メタノール及び/又はメタノール・水混合溶媒の洗浄によるN−ビニル−2−ピロリドン重合物及び二酸化ケイ素含有化合物の分離能の検討
製剤例1
精製水15mLに精製白糖2g、ポリビニルピロリドン(コリドンK-90・ビーエーエスエフジャパン(株)製)0.3gを加え、約60℃に加温して攪拌する。この液を約40℃に冷却し、チンピエキス0.1gを加え、加工ダイサン末0.045g、ニンジン乾燥エキス0.135g、カンゾウエキス末0.086g、オウレン流エキス0.3mL、ショウキョウ流エキス0.3mL、ウコン流エキス0.33mLを加え、さらに精製水を加えて全量25mLとして生薬分散液を得た。別に精製水7.5mLに合成ヒドロタルサイト0.7g、メタケイ酸アルミン酸マグネシウム0.15g、精製白糖1.5gを加え、約60℃に加温して攪拌した後、生薬分散液25mLを加え、さらに精製水を加えて全量50mLとして内服液剤を得た。
【0019】
実験例8
製造例1で製造した内服液剤10mLにメタノール20mLを加え、10分間振とうした後、毎分2500回転で5分間遠心分離し、固形分に0.5mol/L塩酸溶液を加えて正確に100mLとしろ液を得た。20mLろ過した後のろ液を原子吸光光度法での測定検体溶液とした。
実験例9
製造例1で製造した内服液剤10mLにメタノール20mLを加え、10分間振とうした後、毎分2500回転で5分間遠心分離し、固形分にメタノール・水混液(7:3)20mLを加え、10分間振とうした後、毎分2500回転で5分間遠心分離し、固形分に0.5mol/L塩酸溶液を加えて正確に100mLとしろ液を得た。20mLろ過した後のろ液を原子吸光光度法での測定検体溶液とした。
実験例10
製造例1で製造した内服液剤10mLにメタノール20mLを加え、10分間振とうした後、毎分2500回転で5分間遠心分離し、固形分にメタノール20mLを加え、10分間振とうした後、毎分2500回転で5分間遠心分離し、さらに、固形分にメタノール・水混液(7:3)20mLを加え、10分間振とうした後、毎分2500回転で5分間遠心分離し、固形分に0.5mol/L塩酸溶液を加えて正確に100mLとしろ液を得た。20mLろ過した後のろ液を原子吸光光度法での測定検体溶液とした。
【0020】
比較例1
メタノールに代えて、エタノールを用いて実施例8と同様にして測定検体溶液とした。
比較例2
メタノールに代えて、酢酸エチルを用いて実施例8と同様にして測定検体溶液とした。
比較例3
メタノールに代えて、2−プロパノールを用いて実施例8と同様にして測定検体溶液とした。
【0021】
測定検体溶液及び標準溶液を、上記の条件で原子吸光光度法にて測定を行い、二酸化ケイ素の回収率を算出した。結果を表2に示す。
【0022】
【表2】

【0023】
メタケイ酸アルミン酸マグネシウム等の二酸化ケイ素含有化合物とポリビニルピロリドンが配合された製剤において、エタノール(比較例1)、酢酸エチル(比較例2)、2−プロパノール(比較例3)で洗浄を行うと、いずれもポリビニルピロリドンによる定量妨害が生じ、二酸化ケイ素の回収率が低いが、メタノールで洗浄すると回収率が向上することがわかった。さらにメタノールで洗浄を行った後、メタノール・水の混液で洗浄すると、更に二酸化ケイ素の回収率が向上した。
【実施例4】
【0024】
メタノール・水混合溶媒の洗浄によるN−ビニル−2−ピロリドン重合物及び二酸化ケイ素含有化合物の分離能の高周波誘導結合プラズマ発光分光分析法による検討
製造例2
ケイ酸アルミン酸マグネシウム100重量部、結晶セルロース100重量部、トウモロコシデンプン32重量部、ヒドロキシプロピセルロース10重量部、クロスポピドン6重量部からなる混合物に精製水20重量部とエタノール20重量部の混液を加え、練合物を製した。この練合物を16メッシュ篩(口径1.0mm)で整粒し、整粒末を得た。この整粒末248重量部とステアリン酸マグネシウム2重量部を混合して、打錠用顆粒とした後、直径8mm、曲率半径12mmの杵を用いて、1錠250mgの錠剤を得た。
得られた錠剤を粉砕し、その粉砕試料62.5mgにメタノール・水混液(7:3)20mLを加え、10分間振とうした後、毎分2500回転で5分間遠心分離し、さらに、固形分にメタノール・水混液(7:3)20mLを加え、10分間振とうした後、毎分2500回転で10分間遠心分離し、固形分に0.5mol/L塩酸溶液を加えて正確に100mLとしろ液を得た。20mLろ過した後のろ液を高周波誘導結合プラズマ発光分光分析法での測定検体溶液として測定したが、良好な回収率が得られた。
【0025】
測定条件
装置 : 高周波誘導結合プラズマ発光分光分析装置
(島津製作所製、ICPS−7000)
使用ガス : アルゴン
高周波出力 : 1.0kW
クーラントガス : 8.0L/min
補助ガス : 0.6L/min
キャリアガス : 0.6L/min
観測方向 : 横方向
波長 : 251.612nm
【産業上の利用可能性】
【0026】
本発明は、従来正確な定量化が困難であった二酸化ケイ素含有化合物及びN−ビニル−2−ピロリドン重合物を含有する組成物における二酸化ケイ素含有化合物の簡便、かつ正確な定量化方法を提供するものであり、二酸化ケイ素含有化合物及びN−ビニル−2−ピロリドン重合物を含有する組成物の製造工程における品質管理や成分の分析・定量化の手段として産業上有用である。
【図面の簡単な説明】
【0027】
【図1】図1は、二酸化ケイ素の定量に対するポリビニルピロリドン(コリドンK−90)及びクロスポビドン(ポリプラスドンXL−10、ポリプラスドンINF−10)の濃度依存的な妨害を示す図である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
二酸化ケイ素含有化合物及びN−ビニル−2−ピロリドン重合物を含有する組成物をメタノール及び/又はメタノール・水混合溶媒で洗浄する、二酸化ケイ素含有化合物とN−ビニル−2−ピロリドン重合物の分離方法。
【請求項2】
二酸化ケイ素含有化合物が、ケイ酸アルミン酸マグネシウム又はメタケイ酸アルミン酸マグネシウムである請求項1に記載の分離方法。
【請求項3】
メタノール・水混合溶媒のメタノールと水の容量比が9:1〜6:4である請求項1又は2に記載の分離方法。
【請求項4】
請求項1〜3のいずれかに記載の分離方法により二酸化ケイ素含有化合物とN−ビニル−2−ピロリドン重合物を分離した後、二酸化ケイ素含有化合物を含有する試料中の二酸化ケイ素含有化合物を、分析試料として溶解した二酸化ケイ素を使用する分析手段を用いて定量する方法。
【請求項5】
分析試料として溶解した二酸化ケイ素を使用する分析手段が高周波誘導結合プラズマ発光分光分析法又は原子吸光光度法である請求項4に記載の方法。
【請求項6】
請求項4又は5に記載の定量方法により品質確認を行う工程を有する、二酸化ケイ素含有化合物及びN−ビニル−2−ピロリドン重合物を含有する組成物の製造方法。

【図1】
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【公開番号】特開2007−205720(P2007−205720A)
【公開日】平成19年8月16日(2007.8.16)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−21419(P2006−21419)
【出願日】平成18年1月30日(2006.1.30)
【出願人】(000163006)興和株式会社 (618)
【Fターム(参考)】