説明

二酸化チタンナノ粒子を含む二酸化チタン組成物およびその製造と使用

本発明は、二酸化チタンナノ粒子を含む二酸化チタン組成物と、その製造および使用とに関する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、二酸化チタンナノ粒子を含む二酸化チタン組成物と、その製造および使用とに関する。
【0002】
過去数十年間にわたり、二酸化チタンナノ材料(TiO2ナノ材料)に関する徹底した研究が行なわれている。その結果、光触媒およびセンサリックスの分野における数々の有望な応用がもたらされた。二酸化チタンナノ材料は、ここでは例えば、ナノ粒子、ナノシリンダー、ナノチューブ、およびナノワイヤーの形態で使用されている。この種のTiO2ナノ材料は、高い化学安定性と低い毒性とに加え、一般に、光触媒活性、または光電装置に使用できる能力など、さらなる特異的性質を有する。また、TiO2を用いた光触媒作用は、例えば空気質を維持する目的で、有機成分を破壊および除去するため、また微生物を不活性化するための潜在的に有望な方法であると考えられている。したがって、TiO2ナノ材料、および前述の使用分野または未だ明らかにされていない使用分野のうちの1つまたは複数にとって好ましい特性のプロファイルを有する新規のTiO2ナノ材料の効果的な合成方法が求められている。
【0003】
TiO2ナノ材料の合成には、いくつかの方法が知られている。これらの方法には、熱水法、気相からの化学析出、液相からの析出、およびチタニウムアルコキシドの加水分解によるゾルゲル法が含まれる。しかしながら、このように製造されたナノ結晶は、しばしば形状が不均一であり、粒度分布が広い。例えば、ゾルゲル法によって、粒径が100nmから数マイクロメートルのTiO2の球状コロイド粒子が得られる。
【0004】
国際出願第2005/100459号には、粒径10μm未満および/または表面粗さ10μmの粒子を有する、バインダーおよび充填剤を含むコーティング材料、ならびに建造物のファサードおよびその他の部分をコーティングするためのそのようなコーティング材料の使用が記載されている。このバインダーは、好ましくは光触媒活性金属酸化物、例えば二酸化チタンを含む。
【0005】
ドイツ特許公開公報第10 2005 057 747号には、壁、建物の屋根、ファサード、幹線道路、歩道、公共の場所、屋根スラブ、屋根仕上げ材などをコーティングするための組成物が記載されている。この組成物は、380〜500nmの範囲の吸収波長で著しい光吸収性を有する光触媒活性物質を含むバインダーを有する。光触媒活性物質としてTiO2半導体を有する、ケイ酸塩ナノコンポジットに基づくバインダーが好ましい。非晶質、部分結晶性、または結晶性の酸化チタンまたは含水酸化チタン、またはチタン水和物もしくはチタンオキシ水和物を使用して、光触媒活性化合物を製造することができる。さらに、熱分解性炭素化合物で改質することもできる。光触媒活性物質の製造は、一般に、最終焼成を必要とする。
【0006】
欧州特許公開公報第1 512 728号には、光触媒コーティング組成物、複合材料、およびそれらの製造方法が記載されている。この光触媒コーティング組成物は、(a)光触媒活性酸化物粒子と、(b)疎水性樹脂の乳剤と、(c)水とを含む。これらは、自浄性外装用塗料の製造に役立つ。二酸化チタン粒子は、とりわけ光触媒として使用される。
【0007】
国際出願第2006/048167号には、a)ポリマーと微粉化無機固体とから構成される、平均粒径が>10nmかつ<500nmの粒子(複合粒子)と、b)酸化亜鉛、硫化亜鉛、酸化鉄(III)、二酸化スズ、およびルチル、アナターゼ、またはブルカイトの変態の二酸化チタンから選択される、少なくとも1種の粉末顔料とを含む、水性コーティング剤が記載されている。
【0008】
X. Guo, A. WeissおよびM. Ballauffは、Macromolecules 1999, 32, pp. 6043−6046に、疎水性コアとそれに結合した高分子電解質の側鎖とを含むポリマー粒子、いわゆる球状高分子電解質ブラシ(SPB)の合成を記載している。X. GuoおよびM. Ballauffは、Langmuir 2000, 16, pp. 8719−8726に、動的光散乱法によって測定したSPBの空間的広がりを記載している。Prog. Polym. Sci. 32 (2007), pp. 1135−1151には、M. Ballauffが、SPBの概要、その製造方法、およびその固有の特性を記載している。
【0009】
Y. Lu, Y. Mei, M. Shrinner、M. Ballauff, M. W. Moeller、およびJ. Breuは、J. Phys. Chem C 2007, 111, pp. 7676−7681において、鋳型としての球状ポリアクリル酸ブラシにおける、Agナノ粒子の紫外線照射によるin−situ形成を記載している。
【0010】
依然として、コロイド安定性二酸化チタンナノ粒子、具体的には粒径が最大20nmであり、および/または粒度分布が狭いものを合成するための方法が求められている。さらに、光触媒活性に関して最適化された一定の結晶化度と結晶変態とを有する二酸化チタンナノ粒子を合成するための方法も、依然として求められている。これに関連して、特に、表面積が可能な限り大きいメソポーラスTiO2ネットワークは特に興味深い。高結晶性メソポーラスTiO2を含む二酸化チタン含有材料、および可能な限り完全なメソ構造の保持を可能にするそのような材料の合成は、特に求められている。
【0011】
驚くべきことに、構造が明確な結晶性TiO2ナノ粒子は、球状高分子電解質ブラシの存在下、室温でも合成されることがわかった。得られた二酸化チタンナノ粒子、およびこれらを含む材料は、高い光触媒活性を示す。さらに、驚くべきことに、このような粒子を既定の条件下で焼成する(Kalzinierung)ことによって、安定なメソポーラス二酸化チタン含有材料を得ることができることもわかった。
【0012】
したがって本発明は、まず、二酸化チタンナノ粒子を含む二酸化チタン組成物を製造するための方法を提供する。この方法では、疎水性コアとそれに結合した高分子電解質の側鎖とを含むポリマー粒子の存在下、加水分解性チタン化合物を加水分解する。
【0013】
本発明は、このようなSPBポリマー粒子と会合したTiO2ナノ粒子を含む、二酸化チタン複合組成物をさらに提供する。
【0014】
本発明は、メソポーラスおよびマクロポーラス構造体を有する二酸化チタン組成物をさらに提供する。
【0015】
本出願に関して、ナノ粒子(ナノスケール粒子)とは、体積平均粒径が最大100nmの粒子を意味するものと理解される。好適な粒径範囲は3〜50nm、とりわけ4〜30nm、特に好ましくは4〜15nmである。
【0016】
本発明に関して、複合組成物という用語は、ポリマー粒子と会合したTiO2粒子を指す。疎水性コアとそれに結合した高分子電解質の側鎖とを含む適切なポリマー粒子は、より詳細に後述する。これに関連して、複合組成物は、まず、連続相としての液体媒体中の分散相として複合粒子の分散液の状態で存在しうる。複合組成物は、さらに、固体状態、例えば粉末状態で存在してもよい。固体複合組成物は、当業者に既知の常用の方法に従って、複合粒子の分散液を乾燥させることによって得ることができる。焼成していない固体複合組成物は、一般に再分散が可能である。したがって、コーティング組成物の製造についての適切な実施形態において、二酸化チタン複合組成物は、水性媒体中の分散液の状態で使用することができる。
【0017】
液体二酸化チタン複合組成物は、安定な分散液(特別な懸濁液)の状態で得ることができる。懸濁液中で、ポリマー粒子は、それに会合したTiO2ナノ粒子とともに分散相を形成する。会合したTiO2ナノ粒子とは、それらが高分子電解質の側鎖の範囲内に固定されていることを意味するものと理解される。この範囲外には、本発明による液体二酸化チタン複合組成物は、本質的に遊離TiO2を有さない。
【0018】
適切な加水分解性チタン化合物は、テトラアルキルオルトチタネートおよびテトラアルキルオルトシリケートである。このとき、アルキルは、好ましくはC1−C6−アルキルである。メチル、エチル、n−プロピル、またはn−ブチルから選択されたアルキルは、特に好適である。使用する加水分解性チタン化合物は、好ましくはテトラアルキルオルトチタネートである。特に適切な化合物は、テトラエチルオルトチタネート(TEOT)である。
【0019】
本発明によって使用するポリマー粒子は、疎水性コアとそれに結合した高分子電解質の側鎖とを有する。本発明による方法での使用に適した、疎水性コアとそれに結合した高分子電解質の側鎖とを有するポリマー粒子は、その内容全体が参考として本明細書で援用される、M. Ballauffによる、Prog. Polym. Sci. 32 (2007), pp. 1135−1151に記載されている。
【0020】
このようなポリマー粒子は、例えば、第1段階において、少なくとも1種の疎水性α,β−エチレン性不飽和モノマー(M1)をラジカル重合させて、コアを形成するポリマー粒子を得たあと、引き続き、第2段階において、そのコアを形成するポリマー粒子上に高分子電解質の側鎖をグラフトすることによって得ることができる。
【0021】
好ましくは、モノマー(M1)は、ビニル芳香族化合物、α,β−エチレン性不飽和モノカルボン酸およびジカルボン酸とC1−C20−アルカノールとのエステル、エチレン性不飽和ニトリル、ビニルアルコールとC1−C30−モノカルボン酸とのエステル、ハロゲン化ビニル、ハロゲン化ビニリデン、C2−C8−モノオレフィン、少なくとも2つの共役二重結合を含む非芳香族炭化水素、およびそれらの混合物から選択される。
【0022】
好適なビニル芳香族化合物(M1)は、スチレン、2−メチルスチレン、4−メチルスチレン、2−(n−ブチル)スチレン、4−(n−ブチル)スチレン、4−(n−デシル)スチレンであり、特に好ましくはスチレンである。
【0023】
モノマー(M1)として適切なα,β−エチレン性不飽和モノカルボン酸およびジカルボン酸とC120−アルカノールとのエステルは、メチル(メタ)アクリレート、メチルエタクリレート、エチル(メタ)アクリレート、エチルエタクリレート、n−プロピル(メタ)アクリレート、イソプロピル(メタ)アクリレート、n−ブチル(メタ)アクリレート、sec−ブチル(メタ)アクリレート、tert−ブチル(メタ)アクリレート、tert−ブチルエタクリレート、n−ヘキシル(メタ)アクリレート、n−ヘプチル(メタ)アクリレート、n−オクチル(メタ)アクリレート、1,1,3,3−テトラメチルブチル(メタ)アクリレート、エチルヘキシル(メタ)アクリレート、n−ノニル(メタ)アクリレート、n−デシル(メタ)アクリレート、n−ウンデシル(メタ)アクリレート、トリデシル(メタ)アクリレート、ミリスチル(メタ)アクリレート、ペンタデシル(メタ)アクリレート、パルミチル(メタ)アクリレート、ヘプタデシル(メタ)アクリレート、ノナデシル(メタ)アクリレート、アラキニル(メタ)アクリレート、ベヘニル(メタ)アクリレート、リグノセリル(メタ)アクリレート、セロチニル(メタ)アクリレート、メリシニル(メタ)アクリレート、パルミトレイニル(メタ)アクリレート、オレイル(メタ)アクリレート、リノリル(メタ)アクリレート、リノレニル(メタ)アクリレート、ステアリル(メタ)アクリレート、ラウリル(メタ)アクリレート、およびそれらの混合物である。
【0024】
適切なビニルアルコールとC1−C30−モノカルボン酸とのエステルは、例えば、ギ酸ビニル、酢酸ビニル、プロピオン酸ビニル、酪酸ビニル、ラウリン酸ビニル、ステアリン酸ビニル、プロピオン酸ビニル、バーサチック酸ビニルエステル、およびそれらの混合物である。
【0025】
適切なエチレン性不飽和ニトリルは、アクリロニトリル、メタクリロニトリル、およびそれらの混合物である。
【0026】
適切なハロゲン化ビニルおよびハロゲン化ビニリデンは、塩化ビニル、塩化ビニリデン、フッ化ビニル、フッ化ビニリデン、およびそれらの混合物である。
【0027】
適切なC2−C8−モノオレフィンおよび少なくとも2の共役二重結合を含む非芳香族炭化水素は、例えば、エチレン、プロピレン、イソブチレン、イソプレン、ブタジエンなどである。
【0028】
スチレンまたはスチレン含有モノマー混合物は、モノマー(M1)として特に好ましく使用される。とりわけ、スチレンは、コアを形成するポリマー粒子を製造するために、唯一のモノマーとして使用される(このときさらに、下記に記載するように、コアを形成するスチレン粒子の表面改質を行なって、高分子電解質の側鎖を連結させてもよい)。
【0029】
コアを形成するポリマー粒子の製造において、前述のモノマー(M1)に加えて、少なくとも1つの架橋剤も使用することができる。架橋作用を有する適切なモノマーは、分子内に少なくとも2つの重合可能なエチレン性不飽和非共役二重結合を有する化合物である。
【0030】
適切な架橋剤は、例えば、少なくとも二価のアルコールのアクリル酸エステル、メタクリル酸エステル、アリルエーテル、またはビニルエーテルである。このとき、親アルコールのOH基は、完全にまたは部分的にエーテル化またはエステル化されていてもよいが、架橋剤は少なくとも2つのエチレン性不飽和基を含む。親アルコールの例には、二価アルコール、例えば1,2−エタンジオール、1,2−プロパンジオール、1,3−プロパンジオール、1,2−ブタンジオール、1,3−ブタンジオール、2,3−ブタンジオール、1,4−ブタンジオール、ブタ−2−エン−1,4−ジオール、1,2−ペンタンジオール、1,5−ペンタンジオール、1,2−ヘキサンジオール、1,6−ヘキサンジオール、1,10−デカンジオール、1,2−ドデカンジオール、1,12−ドデカンジオール、ネオペンチルグリコール、ジエチレングリコール、トリエチレングリコール、テトラエチレングリコール、ジプロピレングリコール、トリプロピレングリコール、テトラプロピレングリコールなどがある。
【0031】
さらなる適切な架橋剤は、一価不飽和アルコールと、エチレン性不飽和C3−C6−カルボン酸、例えばアクリル酸、メタクリル酸、イタコン酸、マレイン酸、またはフマル酸とのビニルエステルまたはエステルである。このようなアルコールの例には、アリルアルコール、1−ブテン−3−オール、5−ヘキセン−1−オール、1−オクテン−3−オール、9−デセン−1−オール、ジシクロペンテニルアルコール、10−ウンデセン−1−オール、シンナミルアルコール、シトロネロール、クロチルアルコール、またはシス−9−オクタデセン−1−オールがある。一価不飽和アルコールは、多塩基性カルボン酸、例えばマロン酸、酒石酸、トリメリット酸、フタル酸、テレフタル酸、クエン酸、またはコハク酸でエステル化することもできる。
【0032】
さらなる適切な架橋剤は、例えばオレイン酸、クロトン酸、桂皮酸、または10−ウンデセン酸などの不飽和カルボン酸と上述の多価アルコールとのエステルである。
【0033】
適切な架橋剤は、さらに直鎖状または分岐状、線状または環状、脂肪族または芳香族の少なくとも2つの二重結合を有する炭化水素であるが、この二重結合は、脂肪族炭化水素の場合には共役であってはならない。ここでは例えば、ジビニルベンゼン、ジビニルトルエン、1,7−オクタジエン、1,9−デカジエン、4−ビニル−1−シクロヘキセン、トリビニルシクロヘキサンなどである。
【0034】
また、少なくとも二官能性のアミンのアクリルアミド、メタクリルアミド、およびN−アリルアミンも架橋剤として適している。このようなアミンは、例えば、1,2−ジアミノエタン、1,3−ジアミノプロパン、1,4−ジアミノブタン、1,6−ジアミノヘキサン、1,12−ドデカンジアミン、ピペラジン、ジエチレントリアミン、またはイソホロンジアミンである。同様に、アリルアミン、および不飽和カルボン酸、例えばアクリル酸、メタクリル酸、イタコン酸、マレイン酸、または上記に記載したような少なくとも二塩基性のカルボン酸のアミドも適している。
【0035】
さらに、トリアリルアミンおよびトリアリルモノアルキルアンモニウム塩、例えばトリアリルメチルアンモニウムクロリド、または硫酸メチルも架橋剤として適している。
【0036】
また、適切な架橋剤には、尿素誘導体、少なくとも二官能性のアミド、シアヌレート、ウレタン、例えば尿素、エチレン尿素、プロピレン尿素、または酒石酸ジアミドのN−ビニル化合物、例えばN,N’−ジビニルエチレン尿素またはN,N’−ジビニルプロピレン尿素もある。
【0037】
さらなる適切な架橋剤は、ジビニルジオキサン、テトラアリルシラン、またはテトラビニルシランである。また、当然、上述の化合物の混合物を使用することもできる。好ましくは、水溶性の架橋剤を用いる。
【0038】
架橋剤(存在する場合)は、重合に使用するコアを形成するモノマーの総質量に対して、0.0005〜5質量%、好ましくは0.001〜2.5質量%、とりわけ0.01〜1.5質量%の量で使用することが好ましい。
【0039】
特定の実施形態では、コアを形成するポリマー粒子を製造するために、架橋剤は使用しない。
【0040】
好ましくは、重合は、第1段階において水性乳化重合の形態で実施する。
【0041】
コアを形成するポリマー粒子を製造するために、ラジカルを形成する開始剤を用いて、モノマーを重合することができる。
【0042】
ラジカル重合に使用することができる開始剤は、この目的で常用されているペルオキソ化合物および/またはアゾ化合物、例えばアルカリ金属ペルオキシジスルフェートまたはアンモニウムペルオキシジスルフェート、ジアセチルペルオキシド、ジベンゾイルペルオキシド、スクシニルペルオキシド、ジ−tert−ブチルペルオキシド、tert−ブチルペルベンゾエート、tert−ブチルペルピバレート、tert−ブチルペルオキシ−2−エチルヘキサノアート、tert−ブチルペルマレエート、クメンヒドロペルオキシド、ジイソプロピルペルオキシジカルバメート、ビス(o−トルオイル)ペルオキシド、ジデカノイルペルオキシド、ジオクタノイルペルオキシド、ジラウロイルペルオキシド、tert−ブチルペルイソブチレート、tert−ブチルペルアセテート、ジ−tert−アミルペルオキシド、tert−ブチルヒドロペルオキシド、アゾビスイソブチロニトリル、2,2’−アゾビス(2−アミジノプロパン)ジヒドロクロリド、または2,2’−アゾビス(2−メチルブチロニトリル)である。また、これらの開始剤の混合物も適している。また、使用することができる開始剤には、常用の還元/酸化(=レドックス)開始剤系もある。好適な開始剤は、アルカリ金属ペルオキシジスルフェート、特にペルオキソ二硫酸カリウムである。
【0043】
開始剤の量は、重合されるモノマー全量に対して、一般に0.1〜10質量%、好ましくは0.1〜5質量%である。また、乳化重合に2種以上の異なる開始剤を使用してもよい。
【0044】
コアを形成するポリマー粒子の製造は、通常は、少なくとも1種の界面活性化合物の存在下で実施する。適切な保護コロイドについての詳細な説明は、Houben−Weyl, Methoden der organischen Chemie[有機化学の方法], volume XIV/1, Makromolekulare Stoffe[高分子物質], Georg Thieme Veriag, Stuttgart, 1961, pp. 411−420に記載されている。また、適切な乳化剤もHouben−Weyl, Methoden der organischen Chemie[有機化学の方法], volume 14/1, Makromolekulare Stoffe[高分子物質], Georg Thieme Veriag, Stuttgart, 1961, pp. 192−208に記載されている。適切な乳化剤は、アニオン性、カチオン性、または非イオン性の乳化剤である。好ましくは、使用する界面活性物質は、通常は相対分子量が保護コロイドのものを下回る乳化剤である。
【0045】
適切なアニオン性乳化剤は、例えば、アルキルスルフェート(アルキル基:C8−C22)、エトキシル化アルカノール(EO度:2〜50、アルキル基:C12−C18)およびエトキシル化アルキルフェノール(EO度:3〜50、アルキル基:C4−C9)の硫酸半エステル、アルキルスルホン酸(アルキル基:C12−C18)、およびアルキルアリールスルホン酸(アルキル基:C9−C18)のアルカリ金属塩およびアンモニウム塩である。好適なアニオン性乳化剤は、ドデシル硫酸ナトリウムである。使用することができる非イオン性乳化剤は、芳香脂肪族または脂肪族の非イオン性乳化剤、例えばエトキシル化モノ−、ジ−、およびトリアルキルフェノール(EO度:3〜50、アルキル基:C4−C10)、長鎖アルコールのエトキシレート(EO度:3〜100、アルキル基:C8−C36)、およびポリエチレンオキシド/ポリプロピレンオキシドホモポリマーおよびコポリマーである。適切なカチオン性乳化剤は、ハロゲン化第4級アンモニウム、例えばトリメチルセチルアンモニウムクロリド、メチルトリオクチルアンモニウムクロリド、ベンジルトリエチルアンモニウムクロリド、またはN−C6−C20−アルキルピリジン、−モルホリン、または−イミダゾールの第4級化合物である。さらなる適切な乳化剤は、Houben−Weyl, Methoden der organischen Chemie[有機化学の方法], volume XIV/1, Makromolekulare Stoffe[高分子物質], Georg−Thieme Verlag, Stuttgart, 1961, pp. 192−208に記載されている。
【0046】
乳化剤の量は、重合されるモノマーの量に対して、一般に約0.01〜10質量%、好ましくは0.1〜5質量%である。
【0047】
所望であれば、コアを形成するポリマー粒子の重合に、シードラテックスを使用することもできる。
【0048】
コアを形成するポリマー粒子は、好ましくは、平均粒径が10〜500nmの範囲である。これらの粒子は、狭い粒度分布と低い多分散度を特徴とする。これらは本質的に単分散である。
【0049】
高分子電解質の側鎖とコアを形成するポリマー粒子との連結を促進するために、第2段階におけるグラフト反応の前に、コアを形成するポリマー粒子の表面を官能化してもよい。このために、特定の一実施形態では、コアを形成するポリマー粒子をα,β−エチレン性不飽和光開始剤と共重合させることができる。適切な共重合可能な光開始剤は、例えば、本明細書で参照する、欧州特許第0 217 205号に記載されている。
【0050】
特に適切なα,β−エチレン性不飽和光開始剤は、メタクリル酸2−[4−(2−ヒドロキシ−2−メチルプロピオニル)フェノキシ]エチルエステル(HMEM)である。HMEMは、Macromolecules, 1999, 32, pp. 6043−6046おけるGuo, X,, Weiss, A.およびBallauf, M.による方法従って、メタクリロイルクロリドをIrgacure(登録商標) 2959(4−(2−ヒドロキシエトキシ)フェニル(2−ヒドロキシ−2−プロピル)ケトン、Ciba Spezialitaetenchemie(スイス)から入手可能)と反応させることによって製造することができる。
【0051】
コアを形成するポリマー粒子とα,β−エチレン性不飽和光開始剤との共重合は、好ましくは、第1重合段階の終盤に、コア粒子の重合に光開始剤を添加することによって実施する。具体的には、そのあと乳化重合として共重合が起こり、このときすでに形成されているコア粒子がシードラテックスのように反応し、このときコアは光開始剤の薄いシェルで改質される。好ましくは、光開始剤の添加は、第1重合段階で使用するモノマーの総質量に対して、第1重合段階におけるモノマー変換率が99.5質量%未満、特に99質量%未満のときに行なう。有利な形態を有するコア−シェル粒子を得るためには、α,β−エチレン性不飽和光開始剤の添加は、好ましくは、「欠乏状態」下で実施する。このためには遅い添加速度を選択するが、これは好ましくは0.5ml/分未満、特に好ましくは0.1ml/分未満である。
【0052】
次に、第2段階において、光開始剤で改質したコア粒子を光乳化重合させことにより、高分子電解質の側鎖をコアを形成するポリマー粒子上にグラフトする。
【0053】
好ましくは、第2段階において、ラジカル重合可能なα,β−エチレン性不飽和二重結合と1分子当たり少なくとも1つのイオン形成性基および/またはイオン性基とを有する、少なくとも1種のα,β−エチレン性不飽和モノマー(M2)を使用する。
【0054】
イオン形成性基および/またはイオン性基は、好ましくはアニオン形成性基および/またはアニオン性基である。
【0055】
ラジカル重合可能なα,β−エチレン性不飽和二重結と1分子当たり少なくとも1つのアニオン形成性基および/またはアニオン性基とを有する適切なモノマー(M2)は、エチレン性不飽和カルボン酸およびスルホン酸、またはそれらの塩である。モノマー(M2)は、好ましくは、アクリル酸、メタクリル酸、エタクリル酸、α−クロロアクリル酸、クロトン酸、マレイン酸、マレイン酸無水物、イタコン酸、シトラコン酸、メサコン酸、グルタコン酸、アコニット酸、フマル酸、4〜10個、好ましくは4〜6個の炭素原子を有するモノエチレン性不飽和ジカルボン酸の半エステル、例えばモノメチルマレエート、ビニルスルホン酸、アリルスルホン酸、スルホエチルアクリレート、スルホエチルメタクリレート、スルホプロピルアクリレート、スルホプロピルメタクリレート、2−ヒドロキシ−3−アクリルオキシプロピルスルホン酸、2−ヒドロキシ−3−メタクリルオキシプロピルスルホン酸、スチレンスルホン酸、および2−アクリルアミド−2−メチルプロパンスルホン酸から選択される。
【0056】
好適なモノマー(M2)は、アクリル酸、メタクリル酸、スチレンスルホン酸、例えばスチレン−4−スルホン酸およびスチレン−3−スルホン酸、およびそれらのアルカリ土類金属塩またはアルカリ金属塩、例えばアクリル酸ナトリウム、メタクリル酸ナトリウム、ナトリウム−スチレン−3−スルホナート、およびナトリウム−スチレン−4−スルホナートである。さらに、これらのモノマーの混合物も適している。ナトリウム−スチレン−4−スルホナートが特に好ましい。
【0057】
疎水性コアとそれに結合した高分子電解質の側鎖とを有する、本発明によって使用するポリマー粒子を製造するために、成分(M2)は、第2段階で使用するモノマーの総質量に対して、好ましくは50〜100質量%、特に好ましくは80〜100質量%、特に95〜100質量%の量で使用する。
【0058】
疎水性コアとそれに結合した高分子電解質の側鎖とを有する、本発明によって使用するポリマー粒子を製造するために、第2段階において、成分(M2)とは異なり、成分(M2)と共重合可能な少なくとも1種のモノマー(M3)を使用してもよい。20℃での水への溶解性が少なくとも1g/lのモノマー(M3)が好ましい。
【0059】
モノマー(M3)は、α,β−エチレン性不飽和モノカルボン酸の第1級アミド、飽和モノカルボン酸のN−ビニルアミド、N−ビニルラクタム、α,β−エチレン性不飽和モノカルボン酸のN−アルキルアミドおよびN,N−ジアルキルアミド、α,β−エチレン性不飽和モノカルボン酸およびジカルボン酸とC2−C30−アルカンジオールとのエステル、α,β−エチレン性不飽和モノカルボン酸およびジカルボン酸と第1級または第2級アミノ基を有するC2−C30−アミノアルコールとのアミド、ビニルエーテル、およびそれらの混合物から選択されるのが好ましい。
【0060】
存在するのであれば、成分(M3)は、第2段階で使用するモノマーの総質量に対して、好ましくは0.1〜50質量%、特に好ましくは0.5〜20質量%、特に1〜5質量%の量で用いる。好ましくは、モノマー(M3)は使用しない。
【0061】
高分子電解質の側鎖を製造するために第2段階で使用するモノマー(M2、および存在する場合はM3)の量は、第1段階で使用するモノマー(M1)の総量に対して、好ましくは5〜200mol%、特に好ましくは10〜100mol%である。
【0062】
第2段階における重合は、好ましくは、例えば、Guo, X., Weiss, A.およびBallauf, M.により、Macromolecules, 1999. 32, pp 6043 − 6046に記載されているように、UV光の照射によって実施する。
【0063】
特定の実施形態では、第1段階において、スチレンをラジカル水性乳化重合させてポリスチレンラテックスを得、そのポリスチレンラテックスにメタクリル酸2−[4−(2−ヒドロキシ−2−メチルプロピオニル)フェノキシ]エチルエステルを添加し、それをさらに重合させて表面を改質したポリスチレンラテックス得たあと、引き続き、第2段階において、この表面を改質したポリスチレンラテックス上に、光乳化重合によってスチレン−4−スルホン酸ナトリウムをグラフトして、ポリ(スチレン−4−スルホン酸ナトリウム)側鎖を与えることによって得ることができる、疎水性コアとそれに結合した高分子電解質の側鎖とを有するポリマー粒子を使用する。
【0064】
二酸化チタン組成物を製造するための特定の実施形態は、
a)水と少なくとも1種の水混和性有機溶媒との混合物中の、疎水性コアとそれに結合した高分子電解質の側鎖とを有するポリマー粒子の分散液を調製するステップと、
b)その分散液に加水分解性チタン化合物を添加して、分散されたポリマー粒子と会合したTiO2ナノ粒子を含む二酸化チタン複合組成物を得るステップと、
を含む方法である。
【0065】
本発明による方法、具体的にはステップa)およびb)によって、安定な懸濁液の状態で、液体二酸化チタン複合組成物を得ることが可能である。例えば、本発明による液体二酸化チタン複合組成物は、数ヶ月の保存後においても沈殿がない。懸濁液中に、会合したTiO2ナノ粒子を有するポリマー粒子は、一般にコロイド状に懸濁した状態で存在する。
【0066】
本発明による方法で得られたTiO2ナノ粒子は、アナターゼ変態でのみ存在する。このとき変態は、二酸化チタン複合粒子のX線回折(XRD)によって判定することができる。このとき全ての回折ピークは、TiO2のアナターゼ変態に割り当てることができる(ICDDデータベースのPowder Diffraction File Number(PDF No.):00−021−1272に記載されているとおり)。別の結晶変態の形跡は認められない。
【0067】
好適であり、ステップa)における使用に適した、疎水性コアとそれに結合した高分子電解質の側鎖とを有するポリマー粒子に関しては、上記に列挙したもの全体を参照する。
【0068】
ステップa)で得られる分散液は、分散媒体(連続相)として、水と少なくとも1種の水混和性有機溶媒との混合物を含む。適切な有機溶媒は、非プロトン性極性溶媒、例えばアミド類、例えばジメチルホルムアミド、ジメチルアセトアミド、またはN−メチルピロリドン、尿素類、例えば1,3−ジメチル−2−イミダゾリジノン(DMEU)、または1,4−ジメチルヘキサヒドロ−2−ピリミジノン(DMPU)、エーテル類、例えばテトラヒドロフラン(THF)、および1,4−ジオキサン、スルホラン、ジメチルスルホキシド(DMSO)、あるいはニトリル類、例えばアセトニトリルまたはプロピオニトリル、およびこれらの溶媒の混合物である。好適な実施形態において、使用する有機溶媒は、加水分解に使用するテトラアルキルオルトチタネートまたはテトラアルキルオルトシリケートのアルキル基と一致するアルキル基を有するアルカノールである。具体的には、テトラエチルオルトチタネート(TEOT)が加水分解チタン化合物として、エタノールが有機溶媒として使用される。
【0069】
ステップa)において供給する水と少なくとも1種の水混和性有機溶媒との混合物の水含有量は、好ましくは、水と加水分解性チタン化合物とのモル比の範囲が2:1〜50:1、特に好ましくは2.1:1〜25:1となるように選定する。
【0070】
驚くべきことに、得られる二酸化チタンナノ粒子の粒径は、水と加水分解性チタン化合物とのモル比によって制御できることがわかった。例えば、加水分解性チタン化合物としてTEOTを使用する場合に、水とTEOTとのモル比が約2.3:1である場合、透過電子顕微鏡法によって測定した平均粒径が約4nmの二酸化チタンナノ粒子が得られる。加水分解性チタン化合物としてTEOTを使用する場合に、水とTEOTとのモル比が約11.5:1である場合、透過電子顕微鏡法によって測定した平均粒径が約12nmの二酸化チタンナノ粒子が得られる。
定量的な水混和性有機溶媒の水に対する質量比は、好ましくは少なくとも10:1、特に好ましくは少なくとも100:1、とりわけ少なくとも200:1である。
【0071】
好適であり、ステップb)における使用に適した加水分解性チタン化合物に関しては、上記に列挙したもの全体を参照する。テトラエチルオルトチタネート(TEOT)の使用が特に好ましい。
【0072】
好ましくは、ステップb)における温度は、最高60℃、特に好ましくは最高40℃である。特定の実施形態において、ステップb)における分散液への加水分解性チタン化合物の添加は、周囲温度程度で実施する。そのような低温で本発明による方法で製造したTiO2粒子が、熱処理を必ずしも必要とせずに結晶性であることは注目に値する。
【0073】
驚くべきことに、ステップb)における計量供給時間にわたって、分散剤中の加水分解すべきチタン化合物の最大濃度を超過しないことが有利であることがわかった。これを超過した場合、球状高分子電解質ブラシ(SPB)の高分子電解質の側鎖に均一に組み込まれていない、不規則な多分散二酸化チタン粒子の形成を生じうる。したがって、好ましくは、SPBに均一に組み込まれた本質的に単分散の球状二酸化チタンナノ粒子が形成されるように、加水分解性チタン化合物の計量添加を計量供給時間にわたって制御する。
【0074】
好ましくは、加水分解性チタン化合物を、本質的に一定の体積流で、疎水性コアとそれに結合した高分子電解質の側鎖とを有するポリマー粒子の分散液に計量供給する。
【0075】
好ましくは、ステップb)において、加水分解性チタン化合物の添加は、1分間当たり加水分解性チタン化合物の総量の最大5%、特に好ましくは最大2%の添加速度で実施する。
【0076】
本発明の方法、具体的にはステップa)およびb)によって得られる液体状態の二酸化チタン複合組成物には、追加的にさらなるワークアップを行なってもよい。これには例えば、精製および/または乾燥および/または溶媒交換がある。したがって、前述のステップa)およびb)を含み、追加的に、
c)ステップb)で得た二酸化チタン複合組成物に精製および/または乾燥および/または溶媒交換を行なうステップ、
を含む方法が好ましい。
【0077】
精製は、当業者に既知の常用の方法で実施することができる。最も単純な例では、精製するために、不純物を含有する液相を二酸化チタン複合粒子から分離する。この分離は、例えば沈降または膜濾過によって実施する。この目的で常用されており、二酸化チタン複合粒子を保持するのに適した分離限界を有する遠心分離機または膜をこの目的で使用することができる。所望であれば、分離した二酸化チタン複合粒子を液体洗浄媒体で洗浄してもよい。適切な洗浄媒体は、その媒体中で二酸化チタン複合粒子が溶解しない、あるいは会合した二酸化チタンを放出しないものである。好適な洗浄媒体は、上記に記載した水混和性有機溶媒、およびそれらと水との混合物である。水、および水/アルカノール混合物から選択された洗浄媒体は、特に好ましい。とりわけ、水/エタノール混合物が洗浄媒体として使用される。洗浄媒体は、その後沈降または膜濾過によって分離される。
【0078】
同様に、二酸化チタン複合組成物の乾燥も当業者に既知の常用の方法に従って実施することができる。所望であれば、乾燥前に、例えば沈降または膜濾過によって、分散媒体の大部分を除去してもよい。適切な乾燥方法は、例えば、噴霧乾燥法、流動噴霧乾燥法、ドラム乾燥法、または凍結乾燥法である。好ましくは、乾燥は、最高100℃、特に好ましくは最高80℃、とりわけ最高60℃の温度で実施する。
【0079】
上記に記載の条件下で乾燥させた二酸化チタン複合組成物、とりわけ過度に高くない温度で乾燥させたものは、一般に再分散させることができる。これに関連して、一般に、非分散性の固体は全く残留しないか、あるいはわずかしか残留しない。これは好ましく、再分散させる固体の総質量に対して1質量%以下である。適切な分散媒体は、水、上記に記載した水混和性有機溶媒、および水と少なくとも1種のこれらの水混和性有機溶媒との混合物から選択される。水の使用が好ましい。
【0080】
また本発明は、上記に記載した方法によって得られる二酸化チタン複合組成物も提供する。特定の実施形態において、この方法は、上述のステップa)、b)、および場合によってはc)を含む。第1の実施形態は、液体状態(懸濁液)の二酸化チタン複合組成物である。第2の実施形態は、固体状態の二酸化チタン複合組成物である。
【0081】
疎水性コアとそれに結合した高分子電解質の側鎖とを有するポリマー粒子として、本発明による二酸化チタン複合組成物は、具体的には、2−[4−(2−ヒドロキシ−2−メチルプロピオニル)フェノキシ]エチルメタクリレートとの共重合によって表面が改質されたポリスチレンのコアを含み、重合された形でそのコア上にグラフトされたスチレン−4−スルホン酸ナトリウムを含む側鎖を有するポリマーを有する。
【0082】
驚くべきことに、本発明による懸濁液は、優れた物理的および化学的安定性を有する。例えば、この懸濁液は、室温での数ヶ月の保存時に沈殿または凝固しない。保存後に、適用性は変化しない。
【0083】
本発明による懸濁液の固形分は、好ましくは0.5〜10質量%、特に好ましくは1〜5質量%である。
【0084】
本発明による二酸化チタン複合組成物は、固体二酸化チタン複合組成物の場合には総質量に対して、または液体二酸化チタン複合組成物の場合には総固形分に対して、少なくとも10質量%、特に好ましくは少なくとも15質量%、特に少なくとも18質量%の二酸化チタン含有量を有する。TiO2ナノコンポジットのTiO2含有量は、熱重量分析(TGA)によって測定することができる。
【0085】
本発明による二酸化チタン複合組成物中に含まれる二酸化チタンナノ粒子の平均粒径(透過電子顕微鏡法によって測定)は、好ましくは3〜50nm、特に好ましくは3.5〜40nm、とりわけ4〜25nmである。粒度分布は、好ましくは本質的に単峰性である。
【0086】
本発明による二酸化チタン複合組成物中に含まれる二酸化チタンナノ粒子は、結晶性である。XRDによると、これらの粒子はアナターゼ変態でのみ存在する。
【0087】
本発明による方法、具体的にはステップa)およびb)によって得られた二酸化チタン複合組成物は、場合によっては精製後に、追加的に焼成することもできる。ここでの焼成という用語は、好ましくは制御された雰囲気下での熱処理を指す。
【0088】
したがって、前述のステップa)およびb)を含み、追加的に、
c)ステップb)で得た二酸化チタン複合組成物を、場合によっては精製後に、乾燥させるステップと、
d)ステップc)で得た乾燥した二酸化チタン複合組成物を焼成するステップと、
を含む方法が好ましい。
【0089】
精製および乾燥に関しては、ステップc)に関する上記の記述を参照する。
【0090】
ステップd)における焼成の典型的な温度領域は、200〜800℃、好ましくは250〜700℃、特に好ましくは300〜600℃の範囲である。
【0091】
焼成は、不活性雰囲気(例えば窒素、または希ガス、例えばアルゴンもしくはヘリウム)下、酸化性雰囲気(例えば、酸素または空気)下、あるいは変動する雰囲気(最初は不活性雰囲気、その後酸化性雰囲気)下で実施することができる。当業者は、前記のガスの混合物も使用できることを承知している。熱処理は、固定雰囲気下または流動雰囲気下で実施することができる。好ましくは、流動ガス流下で処理を行なう。新鮮ガスの連続導入は、ガス再循環よりも好適である。この雰囲気の組成は、焼成の温度と時間に応じて変更してもよい。攪拌熱処理も可能であるが、これは例えば、焼成ドラムを回転させることによって、あるいは振盪または流動化によって実施する。焼成時間は、通常は1分〜24時間、好ましくは5分〜12時間の範囲である。
【0092】
第1の実施形態において、ステップd)の焼成は、不活性雰囲気で実施する。
【0093】
第2の実施形態において、ステップd)の焼成は、酸化性雰囲気で実施する。
【0094】
第3の実施形態において、ステップd)の焼成は、第1段階では不活性雰囲気で、第2段階では酸化性雰囲気で実施する。
【0095】
本発明は、焼成後に得られる二酸化チタン組成物も提供する。
【0096】
不活性雰囲気での焼成後に得られる二酸化チタン組成物は、好ましくは少なくとも90質量%、特に好ましくは少なくとも95質量%、とりわけ少なくとも99質量%の二酸化チタンと、炭素とからなる。
【0097】
酸化性雰囲気での焼成後に得られる二酸化チタン組成物、ならびに第1段階における不活性雰囲気での焼成と第2段階における酸化性雰囲気での焼成とのあとに得られる二酸化チタン組成物は、好ましくは少なくとも90質量%、特に好ましくは少なくとも95質量%、とりわけ少なくとも99質量%の二酸化チタンからなる。
【0098】
本発明による二酸化チタン組成物は、特に、シリコン原子およびシリコン原子を含有する化合物を本質的に含まない(すなわち、総質量に対して0.5質量%未満、好ましくは0.1質量%未満である)。
【0099】
焼成後に得られる二酸化チタン組成物は、その多孔質構造を特徴とする。例えば、加水分解時に鋳型(SPB鋳型)として機能するポリマー粒子は、焼成によって除去することができ、これにより多孔質構造体が生じる。
【0100】
不活性雰囲気(例えば、アルゴン雰囲気下)で焼成を行なう場合、ポリマーは炭素に分解される。このようにして、孔壁が炭素で被覆された、高度に多孔質のTiO2骨格が得られる。また、本発明は、炭素で改質され、上記に記載の方法によって得られる多孔質構造体を有する二酸化チタン組成物の形態の二酸化チタン組成物も提供する。炭素で被覆された広い表面積を有することから、これらは例えば水素化反応のための触媒として、潜在的に興味深い。これらはさらに、続いて酸化性雰囲気で焼成することによって、多孔質構造体を有する二酸化チタン組成物の製造(下記に記載する)のための重要な中間体としても機能する。
【0101】
事前に不活性雰囲気での焼成を行なわずに、酸化性雰囲気(例えば、空気の存在下)で焼成を行なう場合、鋳型として機能するポリマー粒子は、本質的に完全に除去される。このようにして、不活性雰囲気での焼成の場合と同様に、高度に多孔質のTiO2骨格が得られるが、孔壁は炭素で被覆されていない。EDX測定(エネルギー分散X線)は、有機ポリマーが焼成の結果完全に分解されており、TiO2のみが残っていることを示している。不活性雰囲気のみでの焼成の場合にも、類似する多孔質の表面形態が得られる。しかしながら、FE−SEM(電界放出走査電子顕微鏡)の顕微鏡写真は、酸化性雰囲気での焼成時に、細孔の部分崩壊が生じることを示している。しかしながら、これは、例えばコーティング組成物中に、あるいは光触媒用途で使用することができるという、得られた二酸化チタン組成物の能力への悪影響を及ぼすものではない。また、本発明は、上記に記載の方法によって得ることができる多孔質構造体を有する二酸化チタン組成物も提供する。
【0102】
第1段階において不活性雰囲気(例えば、アルゴン雰囲気下)で、第2段階において酸化性雰囲気(例えば、空気の存在下)で焼成を行なう場合、鋳型として機能するポリマー粒子は、同様に本質的に完全に除去される。この手順では、酸化性雰囲気のみでの焼成で生じるような細孔の部分崩壊は、有利に回避することができる。
【0103】
TiO2ナノコンポジット粒子の異なる熱処理でのFE−SEM顕微鏡写真を比較することで、同様に多孔質の表面形態が得られることが明らかに示される。本発明による二酸化チタン組成物は、メソポーラスおよびマクロポーラス構造体を有する二酸化チタンナノ粒子のネットワークを特徴とする。この二酸化チタンナノ粒子は、結晶性であり、アナターゼ変態で存在する。
【0104】
IUPACによると、多孔質材料は、その細孔の大きさによって以下のように定義されている。マイクロポーラスは、孔径<2nmであり、メソポーラスは、孔径2〜50nmであり、マクロポーラスは、孔径>50nmである。
【0105】
本発明による二酸化チタン組成物のマクロ孔は、平均孔径(FE−SEM(電界放出走査電子顕微鏡法)分析により測定)が、好ましくは50nmを上回り200nm以下、特に好ましくは75〜150nmの範囲である。マクロ孔の大きさは、鋳型として使用するポリマー粒子のコアの大きさによって制御することができる。
【0106】
本発明による二酸化チタン組成物のメソ孔は、平均孔径(BET分析により測定)が、好ましくは2〜30nm、特に好ましくは5〜20nmの範囲である。メソ孔の大きさは、鋳型として使用するポリマー粒子の高分子電解質の側鎖の長さおよびグラフト密度によって制御することができる。
【0107】
本発明による二酸化チタン組成物の表面積(BET分析により測定)は、好ましくは少なくとも50m2/g、特に好ましくは少なくとも60m2/gである。
【0108】
焼成の結果、本発明による二酸化チタン組成物の表面積は、通常は著しく増加するが、これは好ましくは少なくとも50%、特に好ましくは少なくとも75%の増加である。
【0109】
本発明による二酸化チタン組成物は、非常に良好な光触媒活性を特徴とする。したがって、TiO2は、UV光での照射時に、光子を吸収して、H2O基、O2基、およびOH基と直接反応することにより反応性酸素種を生成する。複合物の形態の、あるいは焼成後の本発明による二酸化チタン組成物の光触媒活性は、例えば、二酸化チタン組成物の存在下での有機染料のローダミンB(RhB)の分解を測定することによって明らかにすることができる。このために、例えば、UV/VIS分光法を用いて、反応速度を観測することができる。TiO2ナノコンポジット粒子の添加後、552nmのRhBの吸収帯がUV照射時に急速に減少し、著しいブルーシフトが観察された。これは、RhBの光触媒分解時に、N−ジエチル化中間体が形成されたことを示している。
【0110】
本発明による二酸化チタン組成物は、光触媒活性を有する触媒としての使用、またはそのような触媒中での使用、また太陽電池を製造するための使用に適している。これらは、コーティング組成物を製造するための成分として、特に適している。
【0111】
アナターゼ変態の二酸化チタンは、非常に親水性が高くかつ酸化力が強い表面を有するため防汚性が非常に高いことから、コーティング組成物中での使用に有利に適している。このことに関与しているのは、とりわけ、UV光、大気中の酸素および水の作用によりラジカルを生成するアナターゼの光触媒作用である。アナターゼを含むコーティング組成物の表面は、親水性に加えて、しばしば抗菌性も有する。
【0112】
驚くべきことに、本発明による二酸化チタン組成物に基づく水性コーティング組成物は、有利な特性を有する表面コーティング剤もたらすことがわかった。これらは特に、親水性および/または抗菌性および/または防汚性を有し、および/または軽減されたチョーキングおよび黄変の傾向を示す。
【0113】
したがって、本発明は、
−少なくとも1種のα,β−エチレン性不飽和モノマーMo)のエマルジョンポリマーと、
−上記に定義したとおりの少なくとも1種の二酸化チタン組成物と、
からなる、あるいはこららを含むバインダー組成物をさらに提供する。
【0114】
二酸化チタン組成物を、所望であれば、例えば粉末状態などの固体状態、または例えば水性媒体中の液体状態で使用して、本発明よるバインダー組成物を製造することができる。疎水性コアとそれに結合した高分子電解質の側鎖とを有するポリマー粒子と会合した二酸化チタンナノ粒子を含む、複合組成物の形態の二酸化チタン組成物は、好ましくは、懸濁液としてまたは粉末状態で使用する。焼成二酸化チタン組成物は、好ましくは粉末状態で使用する。炭素を含有する焼成二酸化チタン組成物の使用は、好適ではない。
【0115】
エマルジョンポリマーは、当業者に既知の常用の方法によって、ラジカル水性乳化重合により製造することができる。
【0116】
適切な実施形態において、乳化重合の前および/または最中に二酸化チタン組成物を添加して、エマルジョンポリマーを製造してもよい。好ましくは、二酸化チタン組成物は、完成したエマルジョンポリマーに添加する。
【0117】
このとき、乳化重合後の添加には、少なくとも1種のα,β−エチレン性不飽和モノマーM)に基づくエマルジョンポリマーを含む生成物の形成過程での添加も含まれる。このために、上記に定義したとおりの少なくとも1種の二酸化チタン組成物を、例えばコーティング剤(Anstreichmittel)または紙用塗工材(Papierstreichmasse)に、添加剤として添加することができる。
【0118】
エマルジョンポリマーを製造するために、好ましくは、α,β−エチレン性不飽和モノカルボン酸およびジカルボン酸とC1−C20−アルカノールとのエステル、ビニル芳香族化合物、ビニルアルコールとC1−C30−モノカルボン酸とのエステル、エチレン性不飽和ニトリル、ハロゲン化ビニル、ハロゲン化ビニリデン、モノエチレン性不飽和カルボン酸およびスルホン酸、リン含有モノマー、α,β−エチレン性不飽和モノカルボン酸およびジカルボン酸とC2−C30−アルカンジオールとのエステル、α,β−エチレン性不飽和モノカルボン酸およびジカルボン酸と第1級または第2級アミノ基を有するC2−C30−アミノアルコールとのアミド、α,β−エチレン性不飽和モノカルボン酸の第1級アミドならびにそのN−アルキル誘導体およびN,N−ジアルキル誘導体、N−ビニルラクタム、開鎖N−ビニルアミド化合物、アリルアルコールとC1−C30−モノカルボン酸とのエステル、α,β−エチレン性不飽和モノカルボン酸およびジカルボン酸とアミノアルコールとのエステル、α,β−エチレン性不飽和モノカルボン酸およびジカルボン酸と少なくとも1つの第1級または第2級アミノ基を含むジアミンとのアミド、N,N−ジアリルアミン、N,N−ジアリル−N−アルキルアミン、ビニル置換窒素複素環化合物およびアリル置換窒素複素環化合物、ビニルエーテル、C2−C8−モノオレフィン、少なくとも2つの共役二重結合を含む非芳香族炭化水素、ポリエーテル(メタ)アクリレート、尿素基を有するモノマー、およびそれらの混合物から選択される、少なくとも1種のα,β−エチレン性不飽和モノマーMo)を使用する。
【0119】
適切なα,β−エチレン性不飽和モノカルボン酸およびジカルボン酸とC1−C20−アルカノールとのエステルは、メチル(メタ)アクリレート、メチルエタクリレート、エチル(メタ)アクリレート、エチルエタクリレート、n−プロピル(メタ)アクリレート、イソプロピル(メタ)アクリレート、n−ブチル(メタ)アクリレート、sec−ブチル(メタ)アクリレート、tert−ブチル(メタ)アクリレート、tert−ブチルエタクリレート、n−ヘキシル(メタ)アクリレート、n−ヘプチル(メタ)アクリレート、n−オクチル(メタ)アクリレート、1,1,3,3−テトラ−メチルブチル(メタ)アクリレート、エチルヘキシル(メタ)アクリレート、n−ノニル(メタ)アクリレート、n−デシル(メタ)アクリレート、n−ウンデシル(メタ)アクリレート、トリデシル(メタ)アクリレート、ミリスチル(メタ)アクリレート、ペンタデシル(メタ)アクリレート、パルミチル(メタ)アクリレート、ヘプタデシル(メタ)アクリレート、ノナデシル(メタ)アクリレート、アラキニル(メタ)アクリレート、ベヘニル(メタ)アクリレート、リグノセリル(メタ)アクリレート、セロチニル(メタ)アクリレート、メリシニル(メタ)アクリレート、パルミトレイニル(メタ)アクリレート、オレイル(メタ)アクリレート、リノリル(メタ)アクリレート、リノレニル(メタ)アクリレート、ステアリル(メタ)アクリレート、ラウリル(メタ)アクリレート、およびそれらの混合物である。
【0120】
好適なビニル芳香族化合物は、スチレン、2−メチルスチレン、4−メチルスチレン、2−(n−ブチル)スチレン、4−(n−ブチル)スチレン、4−(n−デシル)スチレンであり、特に好ましくはスチレンである。
【0121】
適切なビニルアルコールとC1−C30−モノカルボン酸とのエステルは、例えば、ギ酸ビニル、酢酸ビニル、プロピオン酸ビニル、酪酸ビニル、ラウリン酸ビニル、ステアリン酸ビニル、プロピオン酸ビニル、バーサチック酸ビニルエステル、およびそれらの混合物である。
【0122】
適切なエチレン性不飽和ニトリルは、アクリロニトリル、メタクリロニトリル、およびそれらの混合物である。
【0123】
適切なハロゲン化ビニルおよびハロゲン化ビニリデンは、塩化ビニル、塩化ビニリデン、フッ化ビニル、フッ化ビニリデン、およびそれらの混合物である。
【0124】
適切なエチレン性不飽和カルボン酸およびスルホン酸、またはそれらの誘導体は、アクリル酸、メタクリル酸、エタクリル酸、α−クロロアクリル酸、クロトン酸、マレイン酸、マレイン酸無水物、イタコン酸、シトラコン酸、メサコン酸、グルタコン酸、アコニット酸、フマル酸、4〜10個、好ましくは4〜6個の炭素原子を有するモノエチレン性不飽和ジカルボン酸の半エステル、例えばモノメチルマレエート、ビニルスルホン酸、アリルスルホン酸、スルホエチルアクリレート、スルホエチルメタクリレート、スルホプロピルアクリレート、スルホプロピルメタクリレート、2−ヒドロキシ−3−アクリルオキシプロピルスルホン酸、2−ヒドロキシ−3−メタクリルオキシプロピルスルホン酸、スチレンスルホン酸、および2−アクリルアミド−2−メチルプロパンスルホン酸である。例えば、スチレンスルホン酸、例えばスチレン−4−スルホン酸およびスチレン−3−スルホン酸、およびそれらのアルカリ土類金属塩またはアルカリ金属塩、例えばスチレン−3−スルホン酸ナトリウムおよびスチレン−4−スルホン酸ナトリウムは好適である。アクリル酸、メタクリル酸、およびそれらの混合物は特に好ましい。
【0125】
リン含有モノマーの例は、例えば、ビニルホスホン酸およびアリルホスホン酸である。ホスホン酸およびリン酸とヒドロキシアルキル(メタ)アクリレートとのモノエステルおよびジエステル、特にモノエステルもさらに適している。また、ヒドロキシアルキル(メタ)アクリレートでモノエステル化され、さらにそれとは異なるアルコール、例えばアルカノールでモノエステル化された、ホスホン酸およびリン酸のジエステルも適している。これらのエステルに適したヒドロキシアルキル(メタ)アクリレートは、個々のモノマーとして下記に明記するもの、とりわけ2−ヒドロキシエチル(メタ)アクリレート、3−ヒドロキシプロピル(メタ)アクリレート、4−ヒドロキシブチル(メタ)アクリレートなどである。相当するリン酸二水素エステルモノマーには、ホスホアルキル(メタ)アクリレート、例えば2−ホスホエチル(メタ)アクリレート、2−ホスホプロピル(メタ)アクリレート、3−ホスホプロピル(メタ)アクリレート、ホスホブチル(メタ)アクリレート、および3−ホスホ−2−ヒドロキシプロピル(メタ)アクリレートが含まれる。また、ホスホン酸およびリン酸とアルコキシル化ヒドロキシアルキル(メタ)アクリレートとのエステル、例えば(メタ)アクリレートのエチレンオキシド縮合物、例えばH2C=C(CH3)COO(CH2CH2O)nP(OH)2およびH2C=C(CH3)COO(CH2CH2O)nP(=O)(OH)2(式中、nは1〜50である)も適している。ホスホアルキルクロトネート、ホスホアルキルマレエート、ホスホアルキルフマレート、ホスホジアルキル(メタ)アクリレート、ホスホジアルキルクロトネート、およびアリルホスフェートもさらに適している。リン基を含有するさらなる適切なモノマーは、本明細書で参照する、国際出願第99/25780号および米国特許第4,733,005号に記載されている。
【0126】
適切なα,β−エチレン性不飽和モノカルボン酸およびジカルボン酸とC2−C30−アルカンジオールとのエステルは、例えば、2−ヒドロキシエチルアクリレート、2−ヒドロキシエチルメタクリレート、2−ヒドロキシエチルエタクリレート、2−ヒドロキシプロピルアクリレート、2−ヒドロキシプロピルメタクリレート、3−ヒドロキシプロピルアクリレート、3−ヒドロキシプロピルメタクリレート、3−ヒドロキシブチルアクリレート、3−ヒドロキシブチルメタクリレート、4−ヒドロキシブチルアクリレート、4−ヒドロキシブチルメタクリレート、6−ヒドロキシヘキシルアクリレート、6−ヒドロキシヘキシルメタクリレート、3−ヒドロキシ−2−エチルヘキシルアクリレート、3−ヒドロキシ−2−エチルヘキシルメタクリレートなどである。
【0127】
適切なα,β−エチレン性不飽和モノカルボン酸の第1級アミド、ならびにそのN−アルキル誘導体およびN,N−ジアルキル誘導体は、アクリルアミド、メタクリルアミド、N−メチル(メタ)アクリルアミド、N−エチル(メタ)アクリルアミド、n−プロピル(メタ)アクリルアミド、N−(n−ブチル)(メタ)アクリルアミド、N−(tert−ブチル)(メタ)アクリルアミド、N−(n−オクチル)−(メタ)アクリルアミド、N−(1,1,3,3−テトラメチルブチル)(メタ)アクリルアミド、N−エチルヘキシル−(メタ)アクリルアミド、N−(n−ノニル)(メタ)アクリルアミド、N−(n−デシル)(メタ)アクリルアミド、N−(n−ウンデシル)(メタ)アクリルアミド、N−トリデシル(メタ)アクリルアミド、N−ミリスチル−(メタ)アクリルアミド、N−ペンタデシル(メタ)アクリルアミド、N−パルミチル(メタ)アクリルアミド、N−ヘプタデシル(メタ)アクリルアミド、N−ノナデシル(メタ)アクリルアミド、N−アラキニル−(メタ)アクリルアミド、N−ベヘニル(メタ)アクリルアミド、N−リグノセリル(メタ)アクリルアミド、N−セロチニル(メタ)アクリルアミド、N−メリシニル(メタ)アクリルアミド、N−パルミトレイニル−(メタ)アクリルアミド、N−オレイル(メタ)アクリルアミド、N−リノリル(メタ)アクリルアミド、N−リノレニル(メタ)アクリルアミド、N−ステアリル(メタ)アクリルアミド、N−ラウリル(メタ)アクリルアミド、N,N−ジメチル(メタ)アクリルアミド、N,N−ジエチル(メタ)アクリルアミド、モルホリニル(メタ)アクリルアミドである。
【0128】
適切なN−ビニルラクタムおよびその誘導体は、例えば、N−ビニルピロリドン、N−ビニルピペリドン、N−ビニルカプロラクタム、N−ビニル−5−メチル−2−ピロリドン、N−ビニル−5−エチル−2−ピロリドン、N−ビニル−6−メチル−2−ピペリドン、N−ビニル−6−エチル−2−ピペリドン、N−ビニル−7−メチル−2−カプロラクタム、N−ビニル−7−エチル−2−カプロラクタムなどである。
【0129】
適切な開鎖N−ビニルアミド化合物は、例えば、N−ビニルホルムアミド、N−ビニル−N−メチルホルムアミド、N−ビニルアセトアミド、N−ビニル−N−メチルアセトアミド、N−ビニル−N−エチルアセトアミド、N−ビニルプロピオンアミド、N−ビニル−N−メチルプロピオンアミド、およびN−ビニルブチルアミドである。
【0130】
適切なα,β−エチレン性不飽和モノカルボン酸およびジカルボン酸とアミノアルコールとのエステルは、N,N−ジメチルアミノメチル(メタ)アクリレート、N,N−ジメチルアミノエチル(メタ)アクリレート、N,N−ジエチルアミノエチルアクリレート、N,N−ジメチルアミノプロピル(メタ)アクリレート、N,N−ジエチルアミノプロピル(メタ)アクリレート、およびN,N−ジメチルアミノシクロヘキシル(メタ)アクリレートである。
【0131】
適切なα,β−エチレン性不飽和モノカルボン酸およびジカルボン酸と少なくとも1つの第1級または第2級アミノ基を有するジアミンとのアミドは、N−[2−(ジメチルアミノ)エチル]アクリルアミド、N−[2−(ジメチルアミノ)エチル]メタクリルアミド、N−[3−(ジメチルアミノ)プロピル]アクリルアミド、N−[3−(ジメチルアミノ)プロピル]メタクリルアミド、N−[4−(ジメチルアミノ)ブチル]アクリルアミド、N−[4−(ジメチルアミノ)ブチル]メタクリルアミド、N−[2−(ジエチルアミノ)エチル]アクリルアミド、N−[4−(ジメチルアミノ)シクロヘキシル]アクリルアミド、N−[4−(ジメチルアミノ)シクロヘキシル]メタクリルアミドなどである。
【0132】
適切なモノマーMo)は、さらに、N,N−ジアリルアミンおよびN,N−ジアリル−N−アルキルアミン、ならびにそれらの酸付加塩および4級化生成物である。このときアルキルは、好ましくはC1−C24−アルキルである。N,N−ジアリル−N−メチルアミン化合物およびN,N−ジアリル−N,N−ジメチルアンモニウム化合物、例えば塩化物および臭化物が好ましい。
【0133】
適切なモノマーMo)は、さらに、ビニル置換窒素複素環化合物およびアリル置換窒素複素環化合物、例えばN−ビニルイミダゾール、N−ビニル−2−メチルイミダゾール、ビニル置換複素芳香族化合物およびアリル置換複素芳香族化合物、例えば2−ビニルピリジンおよび4−ビニルピリジン、2−アリルピリジンおよび4−アリルピリジン、ならびにそれらの塩である。
【0134】
適切なC2−C8−モノオレフィンおよび少なくとも2つの共役二重結合を含む非芳香族炭化水素は、例えば、エチレン、プロピレン、イソブチレン、イソプレン、ブタジエンなどである。
【0135】
適切なポリエーテル(メタ)アクリレートは、一般式(A)
【化1】

[式中、
アルキレンオキシド単位の順序は任意であり、
kおよびlは、互いに独立して、0〜100の整数であり、このときkとlとの和は少なくとも3であり、
aは、水素、C1−C30−アルキル、C5−C8−シクロアルキル、またはC6−C14−アリールであり、
bは、水素またはC1−C8−アルキルであり、
Yは、OまたはNRCであり、このときRCは、水素、C1−C30−アルキル、またはC5−C8−シクロアルキルである]
の化合物である。
【0136】
好ましくは、kは、3〜50、とりわけ4〜25の整数である。好ましくは、lは、3〜50、とりわけ4〜25の整数である。
【0137】
好ましくは、式(A)中のRaは、水素、メチル、エチル、n−プロピル、イソプロピル、n−ブチル、sec−ブチル、n−ペンチル、n−ヘキシル、オクチル、2−エチルヘキシル、デシル、ラウリル、パルミチル、またはステアリルである。
【0138】
好ましくは、Rbは、水素、メチル、エチル、n−プロピル、イソプロピル、n−ブチル、sec−ブチル、tert−ブチル、n−ペンチル、またはn−ヘキシル、とりわけ水素、メチル、またはエチルである。Rbは、特に好ましくは、水素またはメチルである。
【0139】
好ましくは、式(A)中のYはOである。
【0140】
特別な実施形態において、ラジカル乳化重合において、少なくとも1種のポリエーテル(メタ)アクリレートを使用する。これは、好ましくは、モノマーMo)の総質量に対して、最大25質量%、好ましくは最大20質量%の量で使用する。特に好ましくは、0.1〜20質量%、好ましくは1〜15質量%の少なくとも1種のポリエーテル(メタ)アクリレートが、乳化重合に使用される。適切なポリエーテル(メタ)アクリレートは、例えば、前述のα,β−エチレン性不飽和モノカルボン酸および/またはジカルボン酸、ならびにそれらの酸塩化物、アミド、および無水物と、ポリエーテロールとの重縮合生成物である。適切なポリエーテロールは、エチレンオキシド、1,2−プロピレンオキシド、および/またはエピクロロヒドリンと、出発分子、例えば水または短鎖アルコールRa−OHとを反応させることによって、容易に製造することができる。アルキレンオキシドは、個々に使用しても、あるいは順々に使用しても、または混合物として使用してもよい。ポリエーテルアクリレートを単独で使用して、あるいは混合物として使用して、本発明により使用するエマルジョンポリマーを製造するたことができる。
【0141】
エマルジョンポリマーは、好ましくは、一般式IもしくはIIの化合物、またはそれらの混合物
【化2】

【化3】

[式中、
nは、3〜15、好ましくは4〜12の整数であり、
aは、水素、C1−C20−アルキル、C5−C8−シクロアルキル、またはC6−C14−アリールであり、
bは、水素またはメチルである]から選択される、少なくとも1種の共重合ポリエーテル(メタ)アクリレートを含む。
【0142】
適切なポリエーテル(メタ)アクリレートは、例えば、Bisomer(登録商標)の名称の種々な製品の形態で、Laporte Performance Chemicals(英国)から市販されている。これらには、例えば、Bisomer(登録商標) MPEG 350 MAとしてのメトキシポリエチレングリコールモノメタクリレートがある。
【0143】
さらなる好適な実施形態によると、エマルジョンポリマーを製造するためのラジカル乳化重合に、ポリエーテル(メタ)アクリレートを使用しない。
【0144】
さらなる特定の実施形態において、エマルジョンポリマーを製造するためのラジカル乳化重合に、尿素基を有する少なくとも1種のモノマーを使用する。前記モノマーは、好ましくは、モノマーMo)の総質量に対して、最大25質量%、好ましくは最大20質量%の量で使用する。特に好ましくは、0.1〜20質量%、とりわけ1〜15質量%の尿素基を有する少なくとも1種のモノマーを乳化重合に使用する。適切な尿素基を有するモノマーは、例えば、N−ビニル尿素またはN−アリル尿素、あるいはイミダゾリジン−2−オンの誘導体である。これらには、N−ビニルイミダゾリジン−2−オンおよびN−アリルイミダゾリジン−2−オン、N−ビニルオキシエチル−イミダゾリジン−2−オン、N−(2−(メタ)アクリルアミドエチル)イミダゾリジン−2−オン、N−(2−(メタ)−アクリルオキシエチル)イミダゾリジン−2−オン(=2−ウレイド(メタ)アクリレート)、N−[2−((メタ)アクリルオキシアセトアミド)エチル]イミダゾリジン−2−オンなどが含まれる。
【0145】
好適な尿素基を有するモノマーは、N−(2−アクリルオキシエチル)イミダゾリジン−2−オン、およびN−(2−メタクリルオキシエチル)イミダゾリジン−2−オンである。N−(2−メタクリルオキシエチル)イミダゾリジン−2−オン(2−ウレイドメタクリレート、UMA)が特に好ましい。
【0146】
さらなる好適な実施形態によると、エマルジョンポリマーを製造するためのラジカル乳化重合に、尿素基を有するモノマーを使用しない。
【0147】
前述のモノマーMo)は、個々に使用しても、1つのモノマー群内での混合物の形態で使用しても、または異なるモノマー群からの混合物の形態で使用してもよい。
【0148】
好ましくは、乳化重合に、モノマーMo)の総質量に対して、少なくとも40質量%、特に好ましくは少なくとも60質量%、とりわけ少なくとも80質量%の少なくとも1種のモノマーMo1)を使用する。前記モノマーは、α,β−エチレン性不飽和モノカルボン酸およびジカルボン酸とC1−C20−アルカノールとのエステル、ビニル芳香族化合物、ビニルアルコールとC1−C30−モノカルボン酸とのエステル、エチレン性不飽和ニトリル、ハロゲン化ビニル、ハロゲン化ビニリデン、およびそれらの混合物から選択する(主モノマー)。好ましくは、モノマーMo1)は、乳化重合に、モノマーMo)の総質量に対して最大99.9質量%、特に好ましくは最大99.5質量%、とりわけ最大99質量%の量で使用する。
【0149】
主モノマーMo1)は、好ましくは、メチル(メタ)アクリレート、エチル(メタ)アクリレート、n−プロピル(メタ)アクリレート、イソプロピル(メタ)アクリレート、n−ブチル(メタ)アクリレート、sec−ブチル(メタ)アクリレート、tert−ブチル(メタ)アクリレート、n−ペンチル(メタ)アクリレート、n−ヘキシル(メタ)アクリレート、n−ヘプチル(メタ)アクリレート、n−オクチル(メタ)アクリレート、エチルヘキシル(メタ)アクリレート、スチレン、2−メチルスチレン、酢酸ビニル、アクリロニトリル、メタクリロニトリル、ブタジエン、およびそれらの混合物から選択する。
【0150】
少なくとも1種の主モノマーMo1)に加え、エマルジョンポリマーを製造するためのラジカル乳化重合に、一般により少ない割合で含まれる少なくとも1種のさらなるモノマーMo2)(副モノマー)を使用してもよい。好ましくは、乳化重合に、モノマーMo)の総質量に対して60質量%までの、特に好ましくは40質量%までの、とりわけ20質量%までの少なくとも1種のモノマーMo2)を使用する。前記モノマーは、エチレン性不飽和モノカルボン酸およびジカルボン酸、ならびにエチレン性不飽和ジカルボン酸の無水物および半エステル、(メタ)アクリルアミド、C1−C10−ヒドロキシアルキル(メタ)アクリレート、C1−C10−ヒドロキシアルキル(メタ)アクリルアミド、およびそれらの混合物から選択する。好ましくは、モノマーMo2)は、存在するのであれば、モノマーM)の総質量に対して、少なくとも0.1質量%、特に好ましくは少なくとも0.5質量%、とりわけ少なくとも1質量%の量で乳化重合に使用する。
【0151】
乳化重合には、0.1〜60質量%、好ましくは0.5〜40質量%、とりわけ0.1〜20質量%の少なくとも1種のモノマーMo2)を使用することが特に好ましい。モノマーM2)は、特に、アクリル酸、メタクリル酸、イタコン酸、マレイン酸、フマル酸、マレイン酸無水物、アクリルアミド、メタクリルアミド、2−ヒドロキシエチルアクリレート、2−ヒドロキシエチルメタクリレート、2−ヒドロキシエチルアクリルアミド、2−ヒドロキシエチルメタクリルアミド、およびそれらの混合物から選択する。
【0152】
本発明による方法に特に適したモノマーの組み合わせは、下記に示すとおりである。
1−C10−アルキル(メタ)アクリレートおよびそれらの混合物、特に、
エチルヘキシルアクリレート、メチルメタクリレート;
n−ブチルアクリレート、メチルメタクリレート;
n−ブチルアクリレート、エチルヘキシルアクリレート;
少なくとも1種のC1−C10−アルキル(メタ)アクリレートと少なくとも1種のビニル芳香族化合物との混合物、特に、
n−ブチルアクリレート、メチルメタクリレート、スチレン;
n−ブチルアクリレート、スチレン;
n−ブチルアクリレート、エチルヘキシルアクリレート、スチレン;
エチルヘキシルアクリレート、スチレン;
エチルヘキシルアクリレート、メチルメタクリレート、スチレン;
少なくとも1種のビニル芳香族化合物と、C2−C8−モノオレフィンおよび少なくとも2つの共役二重結合を有する非芳香族炭化水素から選択される少なくとも1種のオレフィンとの混合物、特に、
スチレン、ブタジエン。
【0153】
さらに、前述の特に適切なモノマーの組み合わせには、少量のさらなるモノマーMo2)を含んでもよい。これらは好ましくは、アクリル酸、メタクリル酸、アクリルアミド、メタクリルアミド、およびそれらの混合物から選択される。
【0154】
本発明によるエマルジョンポリマーの製造において、前述のモノマーMo)に加え、少なくとも1種の架橋剤も使用することができる。架橋作用を有するモノマーは、分子内に少なくとも2つの重合可能なエチレン性不飽和非共役二重結合を有する化合物である。また架橋は、例えば、その相補的な官能基と化学架橋反応を生じうる官能基によって行なうこともできる。このとき、これらの相補的基は、両者ともエマルジョンポリマーに結合していてよく、架橋のために、エマルジョンポリマーの官能基との化学架橋反応を生じることが可能な架橋剤を使用してもよい。
【0155】
適切な架橋剤は、まず、疎水性コアとそれに結合した高分子電解質の側鎖とを有するポリマー粒子の製造について冒頭に明記したものである。
【0156】
さらに、架橋性モノマーには、エチレン性不飽和二重結合に加えて、添加された架橋剤と反応しうる反応性官能基、例えばアルデヒド基、ケト基、またはオキシラン基を有するものも含まれる。この官能基は、好ましくはケト基またはアルデヒド基である。ケト基またはアルデヒド基は、好ましくは、ケト基またはアルデヒド基を有する共重合可能なエチレン性不飽和化合物の共重合によって、ポリマーに結合される。適切なこの種の化合物は、アクロレイン、メタクロレイン、アルキル基中に1〜20個、好ましくは1〜10個の炭素原子を有するビニルアルキルケトン、ホルミルスチレン、アルキル基中に1個または2個のケト基またはアルデヒド基、あるいは1個のアルデヒド基と1個のケト基を有し、アルキル基が好ましくは合計3〜10個の炭素原子を含む(メタ)アクリル酸アルキルエステル、例えば(メタ)アクリルオキシアルキルプロパナールであるが、これらはドイツ特許公開公報第2722097号に記載されている。さらに、例えば米国特許第4,226,007号、ドイツ特許公開公報第2061213号、またはドイツ特許公開公報第2207209号から既知であるようなN−オキソアルキル(メタ)アクリルアミドも適している。アセトアセチル(メタ)アクリレート、アセトアセトキシエチル(メタ)アクリレート、とりわけジアセトンアクリルアミドが特に好ましい。架橋剤は、好ましくは、ポリマーの官能基、具体的にはケト基またはアルデヒド基との架橋反応を生じうる少なくとも2個の官能基、とりわけ2〜5個の官能基を有する化合物である。これには例えば、ヒドラジド基、ヒドロキシルアミン基、またはオキシムエーテル基、またはケト基またはアルデヒド基の架橋のための官能基としてのアミノ基が含まれる。適切なヒドラジド基を有する化合物は、例えば、分子量が最大500g/molのポリカルボン酸ヒドラジドである。特に好適なヒドラジド化合物は、好ましくは2〜10個の炭素原子を有するジカルボン酸ジヒドラジドである。これには、例えば、シュウ酸ジヒドラジド、マロン酸ジヒドラジド、コハク酸ジヒドラジド、グルタル酸ジヒドラジド、アジピン酸ジヒドラジド、セバシン酸ジヒドラジド、マレイン酸ジヒドラジド、フマル酸ジヒドラジド、イタコン酸ジヒドラジド、および/またはイソフタル酸ジヒドラジドがある。特に興味深いものは、アジピン酸ジヒドラジド、セバシン酸ジヒドラジドおよびイソフタル酸ジヒドラジドである。適切なヒドロキシルアミン基またはオキシムエーテル基を有する化合物は、例えば、国際出願第93/25588号に明記されている。
【0157】
さらに、表面架橋は、エマルジョンポリマーを含む水性ポリマー分散液の相当する添加によっても生じうる。これには、例えば、光開始剤または乾燥剤(Sikkativierung)の添加が含まれる。適切な光開始剤は、太陽光によって励起されるもの、例えばベンゾフェノンまたはベンゾフェノン誘導体である。乾燥剤に適したものは、水性アルキド樹脂に推奨される金属化合物、例えばCoまたはMnに基づくものである(U. Poth, Polyester und Alkydharze[ポリエステルおよびアルキド樹脂], Vincentz Network 2005, p. 183 fに概説が記載されている)。
【0158】
架橋性成分は、好ましくは、重合に使用するモノマーの総質量(架橋剤を含む)に対して、0.0005〜5質量%、好ましくは0.001〜2.5質量%、とりわけ0.01〜1.5質量%の量で使用する。
【0159】
特定の実施形態は、共重合した状態の架橋剤を含まないエマルジョンポリマーに関する。
【0160】
モノマー混合物M)のラジカル重合は、少なくとも1種の調節剤の存在下で実施することができる。調節剤は、重合に使用するモノマーの総質量に対して、好ましくは0.0005〜5質量%、特に好ましくは0.001〜2.5質量%、とりわけ0.01〜1.5質量%の量で使用する。
【0161】
調節剤(重合調節剤)とは、一般に、高い移動定数を有する化合物を指して使用される用語である。調節剤は、連鎖移動反応の速度を上昇させ、それによって全体の反応速度に影響を与えずに、得られるポリマーの重合度の低下をもたらす。調節剤については、1つ以上の連鎖移動反応をもたらしうる分子内の官能基の数によって、単官能性、二官能性、または多官能性の調節剤を区別することができる。適切な調節剤は、例えば、K. C. BergerおよびG. Brandrupによって、J. Brandrup, E. H. Immergut, Polymer Handbook, 3rd edition, John Wiley & Sons, New York, 1989, p. II/81 −II/141に詳細に記載されている。
【0162】
適切な調節剤は、例えば、アルデヒド、例えばホルムアルデヒド、アセトアルデヒド、プロピオンアルデヒド、n−ブチルアルデヒド、イソブチルアルデヒドである。
【0163】
さらに、ギ酸、その塩およびエステル、例えばギ酸アンモニウム、2,5−ジフェニル−1−ヘキセン、硫酸ヒドロキシルアンモニウム、およびリン酸ヒドロキシルアンモニウムも調節剤として使用することができる。
【0164】
さらなる適切な調節剤は、ハロゲン化合物、例えばハロゲン化アルキル、例えばテトラクロロメタン、クロロホルム、ブロモトリクロロメタン、トリブロモメタン、アリルブロミド、およびベンジル化合物、例えば塩化ベンジルまたは臭化ベンジルである。
【0165】
さらなる適切な調節剤は、アリル化合物、例えば、アリルアルコール、官能化アルキルエーテル、例えばアリルエトキシレート、アルキルアリルエーテル、またはグリセロールモノアリルエーテルなどである。
【0166】
使用する調節剤は、好ましくは、結合した状態で硫黄を含む化合物である。
【0167】
この種の化合物は、例えば、無機亜硫酸水素塩、二硫酸塩、および亜二チオン酸塩、または有機硫化物、二硫化物、多硫化物、スルホキシド、およびスルホンである。これらには、ジ−n−ブチルスルフィド、ジ−n−オクチルスルフィド、ジフェニルスルフィド、チオジグリコール、エチルチオエタノール、ジイソプロピルジスルフィド、ジ−n−ブチルジスルフィド、ジ−n−ヘキシルジスルフィド、ジアセチルジスルフィド、ジエタノールスルフィド、ジ−t−ブチルトリスルフィド、ジメチルスルホキシド、ジアルキルスルフィド、ジアルキルジスルフィド、および/またはジアリールスルフィドが含まれる。
【0168】
適切な重合調節剤には、さらにチオール(SH基の形態で硫黄を含む化合物であり、メルカプタンとも称される)がある。好適な調節剤は、単官能性、二官能性、または多官能性のメルカプタン、メルカプトアルコール、および/またはメルカプトカルボン酸である。これらの化合物の例は、アリルチオグリコレート、エチルチオグリコレート、システイン、2−メルカプトエタノール、1,3−メルカプトプロパノール、3−メルカプトプロパン−1,2−ジオール、1,4−メルカプトブタノール、メルカプト酢酸、3−メルカプトプロピオン酸、メルカプトコハク酸、チオグリセロール、チオ酢酸、チオ尿素、およびアルキルメルカプタン、例えばn−ブチルメルカプタン、n−ヘキシルメルカプタン、またはn−ドデシルメルカプタンである。
【0169】
結合された状態で2個の硫黄原子を含む二官能性調節剤の例は、二官能性チオール、例えば、ジメルカプトプロパンスルホン酸(ナトリウム塩)、ジメルカプトコハク酸、ジメルカプト−1−プロパノール、ジメルカプトエタン、ジメルカプトプロパン、ジメルカプトブタン、ジメルカプトペンタン、ジメルカプトヘキサン、エチレングリコールビスチオグリコレート、およびブタンジオールビスチオグリコレートなどである。多官能性調節剤に例は、結合された状態で2個を上回る硫黄原子を含む化合物である。これらの例は、三官能性および/または四官能性メルカプタンである。
【0170】
明記した全ての調節剤は、個々に使用しても、または互いと組み合わせて使用してもよい。特定の実施形態は、調節剤を添加せずにラジカル乳化重合によって製造されたポリマー分散液Pd)に関する。
【0171】
ポリマーを製造するために、ラジカルを形成する開始剤を用いてモノマーを重合してもよい。
【0172】
ラジカル重合に使用することができる開始剤は、この目的で常用のペルオキソ化合物および/またはアゾ化合物である。これらは疎水性コアとそれに結合した高分子電解質の側鎖とを有するポリマー粒子の製造について明記したとおりであり、上記記載をここで参照する。
【0173】
使用することができる開始剤には、還元/酸化(=レドックス)開始剤系もある。レドックス開始剤系は、少なくとも1種の主に無機の還元剤と、1種の無機もしくは有機酸化剤とからなる。酸化成分は、例えば、乳化重合に関してすでに上記に明記した開始剤である。還元成分は例えば、亜硫酸のアルカリ金属塩、例えば亜硫酸ナトリウム、亜硫酸水素ナトリウムなど、二亜硫酸のアルカリ金属塩、例えば二亜硫酸ナトリウム、脂肪族のアルデヒドおよびケトンの重亜硫酸付加化合物、例えば重亜硫酸アセトン、あるいはヒドロキシメタンスルフィン酸およびその塩、またはアスコルビン酸などの還元剤である。レドックス開始剤系は、その金属成分が複数の原子価状態で存在しうる可溶性金属化合物と併用して使用してもよい。常用のレドックス開始剤系は、例えば、アスコルビン酸/硫酸鉄(II)/ペルオキシ二硫酸ナトリウム、tert−ブチルヒドロペルオキシド/二亜硫酸ナトリウム、tert−ブチルヒドロペルオキシド/Na−ヒドロキシメタンスルフィン酸である。個々の成分、例えば還元成分は、混合物であってもよく、例えばヒドロキシメタンスルフィン酸のナトリウム塩と二亜硫酸ナトリウムとの混合物などでよい。
【0174】
開始剤の量は、重合する全てのモノマーに対して、一般に0.1〜10質量%、好ましくは0.1〜5質量%である。また、2種以上の異なる開始剤を乳化重合に使用することも可能である。
【0175】
エマルジョンポリマーは、通常は少なくとも1種の界面活性化合物の存在下で製造する。適切な保護コロイドの詳細な説明は、Houben−Weyl, Methoden der organischen Chemie[有機化学の方法], volume XIV/1, Makromolekulare Stoffe[高分子物質], Georg Thieme Verlag, Stuttgart, 1961, pp. 411 − 420に記載されている。また、Houben−Weyl, Methoden der organischen Chemie[有機化学の方法], volume 14/1, Makromolekulare Stoffe[高分子物質], Georg Thieme Verlag, Stuttgart, 1961, pp. 192 − 208にも適切な乳化剤が記載されている。
【0176】
適切な乳化剤は、アニオン性、カチオン性、または非イオン性の乳化剤である。使用する界面活性物質は、好ましくは、相対分子量が通常は保護コロイドのものを下回る乳化剤である。
【0177】
使用することができる非イオン性乳化剤は、芳香脂肪族または脂肪族の非イオン性乳化剤、例えばエトキシル化モノアルキルフェノール、ジアルキルフェノール、およびトリアルキルフェノール(EO度:3〜50、アルキル基:C4−C10)、長鎖アルコールのエトキシレート(EO度:3〜100、アルキル基:C8−C36)、およびポリエチレンオキシド/ポリプロピレンオキシドホモポリマーおよびコポリマーである。これらは、ランダム分布またはブロックの状態で共重合したアルキレンオキシド単位を含みうる。例えば、EO/POブロックコポリマーは安定性が高い。長鎖アルカノールのエトキシレート(アルキル基:C1−C30、平均エトキシル化度:5〜100)の使用が好ましく、その中でも線状C12−C20アルキル基を含み、平均エトキシル化度が10〜50のもの、ならびにエトキシル化モノアルキルフェノールの使用が特に好ましい。
【0178】
適切なアニオン性乳化剤は、例えば、アルキルスルフェート(アルキル基:C8−C22)、エトキシル化アルカノール(EO度:2〜50、アルキル基:C12−C18)およびエトキシル化アルキルフェノール(EO度:3〜50、アルキル基:C4−C9)の硫酸半エステル、アルキルスルホン酸(アルキル基:C12−C18)、およびアルキルアリールスルホン酸(アルキル基:C9−C18)のアルカリ金属塩およびアンモニウム塩である。さらなる適切な乳化剤は、Houben−Weyl, Methoden der organischen Chemie[有機化学の方法], Volume XIV/1, Makromolekulare Stoffe[高分子物質], Georg−Thieme−Verlag, Stuttgart, 1961, pp. 192 − 208)に記載されている。また、一方または両方の芳香環にC4−C24−アルキル基を担持する、これらのビス(フェニルスルホン酸)エーテルまたはアルカリ金属塩またはアンモニウム塩も同様に適切なアニオン性の乳化剤である。これらの化合物は、一般に米国特許第4,269,749号から既知であり、また例えばDowfax(登録商標) 2A1(Dow Chemical Company)として市販されている。
【0179】
適切なカチオン性乳化剤は、好ましくはハロゲン化第4級アンモニウム、例えばトリメチルセチルアンモニウムクロリド、メチルトリオクチルアンモニウムクロリド、ベンジルトリエチルアンモニウムクロリド、またはN−C6−C20−アルキルピリジン、−モルホリン、もしくは−イミダゾールの第4級化合物、例えばN−ラウリルピリジニウムクロリドである。
【0180】
乳化剤の量は、重合するモノマーの量に対して、一般に約0.01〜10質量%、好ましくは0.1〜5質量%である。
【0181】
エマルジョンポリマーを、通常は水性ポリマー分散液Pd)の形態で使用して、本発明によるバインダー組成物を製造する。しかしながら、これは、常用の方法によって水性ポリマー分散液Pd)を乾燥させることによって得られるような固体形態で使用してもよい。
【0182】
さらに、常用の助剤および添加剤をエマルジョンポリマーまたはポリマー分散液Pd)に添加してもよい。これらには、例えば、pH調節物質、還元剤、および漂白剤、例えばヒドロキシメタンスルフィン酸のアルカリ金属塩(例えば、BASF AktiengesellschaftのRongalit(登録商標) C)、錯化剤、脱臭剤、香料、着臭剤、および粘度調整剤、例えばアルコール、例えばグリセロール、メタノール、エタノール、tert−ブタノール、グリコールなどが含まれる。これらの助剤および添加剤は、初期装填時に、供給のうちの1つの際に、または重合完了後、ポリマー分散液に添加することができる。
【0183】
重合は、一般に0〜150℃、好ましくは20〜100℃、特に好ましくは30〜95℃の範囲の温度で実施する。重合は、好ましくは大気圧で実施するが、上昇させた圧力下、例えば重合に使用する成分の自己発生圧力下での重合も可能である。適切な一実施形態において、重合は、少なくとも1種の不活性ガス、例えば、窒素またはアルゴンなどの存在下で実施する。
【0184】
重合媒体は、水のみからなっても、あるいは水と水混和性液体、例えばメタノールとの混合物からなってもよい。水のみを使用することが好ましい。乳化重合は、バッチ式工程として、あるいは段階法と勾配法とを含むフィード式工程の形態で実施することができる。重合混合物の一部あるいはポリマーシードを重合ゾーンに初期に導入し、重合温度まで加熱し、部分的に重合してから、通常は複数の空間的に分離したフィードであって、そのうちの1つまたは複数が純粋な状態または乳化された状態のモノマーを含むフィードによって、残りの重合混合物を、連続的に、段階的に、または濃度勾配を重ねて重合を維持しながら、重合ゾーンにフィードするフィード式工程が好ましい。
【0185】
ラジカル水性乳化重合の過程において開始剤を重合容器に添加する方法は、平均的な当業者には既知である。開始剤は、重合容器内に初期に全て導入してもよく、あるいはラジカル水性乳化重合の過程におけるその消費量に応じて、連続的または段階的に使用してもよい。具体的には、これは、平均的当業者に自体公知のように、開始剤系の化学的性質と重合温度との双方に依存する。好ましくは、一部を初期に導入し、残りを消費量に応じて重合ゾーンに導入する。
【0186】
重合工程のあと、重合において形成した分散液に物理的または化学的後処理を行なってもよい。このような方法は、例えば残留モノマーを減少させるための既知の方法、例えば、重合開始剤または2種以上の重合開始剤の混合物を適切な温度で添加することによる後処理、水蒸気もしくはアンモニア蒸気による、または不活性ガスでのストリッピングによる、または反応混合物の酸化試薬もしくは還元試薬での処理によるポリマー溶液の後処理、吸着法、例えば選択した媒体、例えば活性炭への不純物の吸着など、あるいは限外濾過などである。
【0187】
得られる水性ポリマー分散液Pd)は、ポリマー分散液に対して、通常は20〜70質量%、好ましくは40〜70質量%、特に好ましくは45〜70質量%、とりわけ好ましくは45〜65質量%の固形分を有する。
【0188】
本発明によって使用する二酸化チタン組成物は、多数の異なる分散液との良好な相溶性を特徴とする。
【0189】
本発明によるバインダー組成物は、水性コーティング組成物、例えば塗料混合物またはワニス混合物中に使用することができる。適切なさらなるポリマーは、例えば膜形成性ポリマーである。これらには例えばアルキド樹脂がある。適切なアルキド樹脂は、例えば、好ましくは質量平均分子量が5000〜40,000の水溶性アルキド樹脂である。また、質量平均分子量が40,000を上回る、特に100,000を上回るアルキド樹脂も適している。アルキド樹脂は、乾性油や脂肪酸などでエステル化されたポリエステルを意味するものとして理解される(U. Poth, Polyester und Alkydharze[ポリエステルおよびアルキド樹脂], Vincentz Network 2005)。
【0190】
適切な水溶性アルキド樹脂は、好ましくは30〜65mg KOH/gの範囲の十分に高い酸価を有するアルキド樹脂である。場合によっては、これらは部分的にまたは完全に中和された状態で存在してもよい。質量平均分子量は、好ましくは8000〜35,000、特に好ましくは10,000〜35,000である。
【0191】
コーティング組成物のVOC含有量を増加させる、このようなさらなる膜形成性ポリマー、特にアルキド樹脂の使用は、特定の状況においては好適でない。したがって、特定の実施形態は、エマルジョンポリマーと異なる膜形成性ポリマーを有さないコーティング組成物である。
【0192】
本発明によるバインダー組成物は、好ましくは水性コーティング剤中に使用する。TiO2を含有するため、これらのコーティング剤は顔料系である。これらは、TiO2とは異なるさらなる顔料を有してもよい。顔料の比率は、顔料体積濃度(PVC)によって示すことができる。PVCは、顔料の体積(VP)および充填剤の体積(VF)と、乾燥したコーティング膜のバインダーの体積(VB)と顔料の体積と充填剤との体積とからなる総体積との比をパーセントで示す:PVC−(VP+VF)×100/(VP+VF+VB)。コーティング剤は、例えば、PVCを参照することによって下記のように分類することができる:
高充填型内装用塗料、耐洗浄性、白色/マット 約85%
内装用塗料、耐摩擦性、白色/マット 約80%
半光沢塗料、サテン 約35%
半光沢塗料、シルク 約25%
外装用メーソンリー塗料、白色 約45〜55%
したがって本発明は、
−上記に定義したとおりのバインダー組成物と、
−場合によっては、二酸化チタンとは異なる少なくとも1種の顔料と、
−場合によっては、少なくとも1種の充填剤と、
−場合によっては、顔料および充填剤とは異なるさらなる助剤と、
−水と、
を含む、水性組成物の形態のコーティング剤をさらに提供する。
【0193】
好適な実施形態は、分散塗料の形態のコーティング剤である。
【0194】
好ましいものは、
−固形分に対して10〜60質量%の少なくとも1種の上記に定義したとおりのバインダー組成物と、
−10〜70質量%の無機充填剤および/または無機顔料と、
−0.1〜20質量%の常用の助剤と、
−合計100質量%にするための水と、
を含むコーティング剤である。
【0195】
常用の分散塗料の組成は、下記に記載する。分散塗料は、一般に30〜75質量%、好ましくは40〜65質量%の不揮発成分を含む。これらは水以外の全ての製造成分であり、少なくともバインダー、充填剤、顔料、低揮発性溶媒(沸点が220℃を上回る)、例えば可塑剤、およびポリマー助剤の総量を意味するものと理解される。このうち、およそ
a)3〜90質量%、とりわけ10〜60質量%は、バインダー組成物であり、
b)0〜85質量%、好ましくは5〜60質量%、とりわけ10〜50質量%は、少なくとも1種のさらなる無機顔料であり、
c)0〜85質量%、とりわけ5〜60質量%は、無機充填剤であり、
d)0.1〜40質量%、とりわけ0.5〜20質量%は、常用の助剤である。
【0196】
本発明に関して、顔料という用語は、全ての顔料および充填剤、例えば有色顔料、白色顔料、および無機充填剤を要約するために用いる。これらには、無機白色顔料、例えば硫酸バリウム、酸化亜鉛、硫化亜鉛、塩基性炭酸鉛、三酸化アンチモン、リトポン(硫化亜鉛+硫酸バリウム)、または有色顔料、例えば酸化鉄、カーボンブラック、グラファイト、亜鉛黄、亜鉛緑、ウルトラマリン、マンガンブラック、アンチモンブラック、マンガンバイオレット、パリスブルー、またはシュヴァインフルトグリーンが含まれる。本発明による分散塗料は、無機顔料に加え、有機有色顔料、例えばセピア、ガンボージ、カッセルブラウン、トルイジンレッド、パラレッド、ハンザイエロー、インジゴ、アゾ染料、アントラキノン染料、およびインジゴイド染料、さらにジオキサジン、キナクリドン、フタロシアニン、イソインドリノン、および金属錯体顔料を含んでもよい。同様に適切なものには、光散乱を向上させるための空気を含有する合成白色顔料、例えばRhopaque(登録商標)分散液がある。
【0197】
適切な充填剤は、例えば、アルモシリケート、例えば長石、ケイ酸塩、例えばカオリン、タルク、マイカ、マグネサイト、炭酸アルカリ土類金属、例えば方解石または白亜の形態の炭酸カルシウム、炭酸マグネシウム、ドロマイト、硫酸アルカリ土類金属、例えば硫酸カルシウム、二酸化ケイ素などである。コーティング剤において、微粉化した充填剤は、当然好適である。充填剤は、個々の成分として使用してもよい。しかしながら実用では、例えば炭酸カルシウム/カオリン、炭酸カルシウム/タルクなど、充填剤混合物が特に有用であることがわかっている。光沢のあるコーティング剤は、一般に、極めて微粉化した充填剤を少量しか有さない。
【0198】
また、微粉化した充填剤は、適用範囲を増加させるため、および/または白色顔料を節約するために使用することもできる。色調および色深度の適用範囲を調節するために、好ましくは有色顔料と充填剤との混合物を使用する。
【0199】
本発明によるコーティング剤は、さらなる助剤を含んでもよい。
【0200】
重合に使用する乳化剤のほかに、常用の助剤は、湿潤剤または分散剤、例えばポリリン酸ナトリウム、ポリリン酸カリウム、ポリリン酸アンモニウム、アクリル酸もしくはマレイン酸無水物コポリマーのアルカリ金属塩およびアンモニウム塩、ポリホスホネート、例えば1−ヒドロキシエタン−1,1−ジホスホン酸ナトリウム、ならびにナフタリンスルホン酸塩、とりわけそのナトリウム塩を含む。
【0201】
さらなる適切な助剤は、流動化剤、消泡剤、殺生物剤、および増粘剤である。適切な増粘剤は、例えば、会合性増粘剤、例えばポリウレタン増粘剤である。増粘剤の量は、コーティング剤の固形分に対して、好ましくは1質量%未満、特に好ましくは0.6質量%未満の増粘剤である。
【0202】
本発明によるコーティング剤は、既知の方法で、この目的で常用の混合装置内で成分を混合することによって製造する。顔料、水、および場合によっては、助剤から、水性のペーストまたは分散液を製造し、そのあとはじめてポリマーバインダー、すなわち一般にポリマーの水性分散液と顔料ペーストまたは顔料分散液とを混合することが有用であることがわかっている。
【0203】
本発明によるコーティング剤は、一般に30〜75質量%、好ましくは40〜65質量%の不揮発成分を含む。これらは水以外の全ての製造成分であり、コーティング剤の固形分に対する、少なくともバインダー、顔料、および助剤の総量を意味するものと理解される。揮発成分は主に水である。
【0204】
また、適切なコーティング剤には、光沢コーティング剤もある。コーティングの光沢は、DIN 67530に従って測定することができる。このために、コーティング剤をガラスプレートに間隔幅240μmで塗布し、室温で72時間乾燥させる。この試験片を較正した反射率計に挿入し、規定の入射角で、戻り光がどの程度反射または散乱したかを確定する。確認した反射率計の値が、光沢の尺度である(この値が大きいほど、光沢度が高い)。
【0205】
本発明によるコーティング剤は、常用の方法で、例えば塗装、噴霧、浸漬、ロール、ナイフコーティングなどによって基材に塗布することができる。
【0206】
これは好ましくは、建物用コーティング剤として、すなわち建物または建物の部分をコーティングするために使用する。これに関連して、建物または建物の部分は、鉱物基材、例えば下塗り、石膏または石膏ボード、メーソンリーまたはコンクリート、木材、木質材料、金属または紙、例えば壁装材、あるいはプラスチック、例えばPVCなどでよい。
【0207】
コーティング剤は、好ましくは建物の内装部分、例えば内壁、屋内ドア、パネル用材、手すり、家具などに使用する。
【0208】
本発明によるコーティング剤は、簡単な取扱い、良好な加工性、および高い被覆力を特徴とする。これらのコーティング剤は、有害物質の含有量が少ない。これらは良好な適用性、例えば良好な耐水性、良好な湿潤密着性を有し、とりわけアルキド塗料上で良好な耐ブロッキング性、良好な上塗り適合性を有し、これらは塗布時に良好な流動性を示す。使用した道具は、水を用いて容易に洗浄できる。
【0209】
さらに、本発明によるバインダー組成物は、紙用塗工剤中のバインダーとしての使用にも特に適している。
【0210】
紙用塗工材中に使用するための本発明によるエマルジョンポリマーには、好ましくは、
−C1−C10−アルキル(メタ)アクリレート、およびそれらの混合物、
−少なくとも1種のC1−C10−アルキル(メタ)アクリレートと、少なくとも1種のビニル芳香族化合物、とりわけスチレンとの混合物、
−少なくとも1種のビニル芳香族化合物(とりわけスチレン)と、C2−C8−モノオレフィンおよび少なくとも2つの共役二重結合を有する非芳香族炭化水素から選択される少なくとも1種のオレフィン(とりわけブタジエン)との混合物、
から選択される、少なくとも1種のモノマーMo)またはモノマーの組み合わせを共重合した状態で含むエマルジョンポリマーが含まれる。
【0211】
エマルジョンポリマーの特定の実施形態は、共重合した状態で、ブタジエンとビニル芳香族化合物、とりわけスチレンと、また場合によっては少なくとも1種のさらなるモノマーとを含むポリブタジエンバインダーである。ブタジエンとビニル芳香族化合物との質量比は、例えば10:90〜90:10、好ましくは20:80〜80:20である。
【0212】
エマルジョンポリマーの少なくとも40質量%まで、好ましくは少なくとも60質量%まで、特に好ましくは少なくとも80質量%まで、とりわけ少なくとも90質量%までが、2つの二重結合を有する炭化水素、とりわけブタジエン、またはそのような炭化水素とビニル芳香族化合物、とりわけスチレンとの混合物からなるポリブタジエンバインダーが特に好ましい。
【0213】
エマルジョンポリマーのさらなる特定の実施形態は、共重合した状態で、少なくとも1種のC1−C10−アルキル(メタ)アクリレート、または少なくとも1種のC1−C10−アルキル(メタ)アクリレートと少なくとも1種のビニル芳香族化合物(とりわけスチレン)との混合物を含むポリアクリレートバインダーである。
【0214】
ポリブタジエンバインダーおよびポリアクリレートバインダー中に含まれるエマルジョンポリマーは、主モノマーに加えて、さらなるモノマー、例えばカルボン酸基、スルホン酸基、またはホスホン酸基を有するモノマーを含んでもよい。カルボン酸基を有するモノマー、例えばアクリル酸、メタクリル酸、イタコン酸、マレイン酸、またはフマル酸、およびアコニット酸が好ましい。好適な実施形態において、エマルジョンポリマーは、使用するモノマーの総質量に対して、0.05質量%〜5質量%の量で、少なくとも1種のエチレン性不飽和酸を共重合した状態で含む。
【0215】
また、さらなるモノマーは、例えば、ヒドロキシル基を含むモノマー、とりわけC1−C10−ヒドロキシアルキル(メタ)アクリレート、またはアミド、例えば(メタ)アクリルアミドである。
【0216】
紙用塗工材は、成分として、とりわけ、
a)バインダーと、
b)場合によっては、増粘剤と、
c)場合によっては、とりわけ蛍光増白剤としての、蛍光染料またはリン光染料と、
d)TiO2とは異なる顔料と、
e)さらなる助剤、例えば流動化助剤、またはその他の染料と、
を含む。
【0217】
同様に併用することができるさらなるバインダーは、例えば、天然ポリマー、例えばデンプンである。本発明によるバインダーの比率は、バインダーの総量に対して、好ましくは少なくとも50質量%、特に好ましくは少なくとも70質量%または100質量%である。
【0218】
紙用塗工材は、顔料100重量部に対して、バインダー1〜50重量部、特に好ましくは5〜20重量部の量でバインダーを含む。
【0219】
合成ポリマーに加え、適切な増粘剤b)は、とりわけセルロース、好ましくはカルボキシメチルセルロースである。
【0220】
顔料d)という用語は、ここでは無機固体を意味するものと理解される。顔料であるこのような固体は、紙用塗工材の色(とりわけ白色)に関与し、および/または単に不活性充填剤の機能を有する。顔料は、一般に、白色顔料、例えば硫酸バリウム、炭酸カルシウム、スルホアルミン酸カルシウム、カオリン、タルク、酸化亜鉛、白亜、またはコーティングクレー、あるいはケイ酸塩である。
【0221】
紙用塗工材は、常用の方法で製造することができる。
【0222】
本発明による紙用塗工材は、例えば未加工の紙または厚紙のコーティングに極めて適している。コーティングおよびその後の乾燥は、常用の方法に従って実施することができる。コーティングした紙または厚紙は、良好な適用性を有する。とりわけこれらは、既知の印刷法、例えばフレキソ印刷、凸版印刷、グラビア印刷、またはオフセット印刷において、容易に印刷することができる。特にオフセット法の場合、これらは高い耐ピッキング性と、迅速かつ良好な色および水の吸収とをもたらす。この紙用塗工材でコーティングした紙は、全ての印刷法、とりわけオフセット法において容易に使用することができる。
【0223】
以下の非制限的な実施例を参照して、本発明をさらに詳細に説明する。
【図面の簡単な説明】
【0224】
【図1】図1は、TiO2ナノ粒子のFE−SEM顕微鏡写真(a、b)、試料AのTiO2ナノ粒子TEM顕微鏡写真(c)、試料BのTiO2ナノ粒子TEM顕微鏡写真(d)、試料BのTiO2複合粒子のcryo−TEM顕微鏡写真(e)を示す図である。
【図2】図2は、試料BのTiO2複合粒子の結晶化度をX線回折(XRD)により示す図である。
【図3】図3は、TiO2ナノコンポジットのHRTEM画像を示す図である。
【図4】図4は、焼成工程後の試料BのEDX測定値を示す図である。
【図5】図5は、直接空気中で焼成したあと(a)、あるいはまずアルゴン中で、次に空気中で焼成したあと(b)の高分子電解質の側鎖を有するポリスチレンのコアの薄層、Siウエハ上のTiO2複合粒子のFE−SEM顕微鏡写真を、空気中で焼成したTiO2ナノ材料(c)のN2吸脱着等温線(c)を、アルゴン雰囲気下での焼成後(d、e)、続いて空気中での焼成後(f)のバルク試料のFE−SEM顕微鏡写真である示す図である。
【図6】図6は、試料Bの存在下(a)および不在下(b)で、UV光照射時のRhBの光触媒分解についてさまざまな時点で記録したUV/VISスペクトルを示す図である。
【図7】図7は、系の単位体積に対して正規化した試料Bの表面積Sの関数として、速度定数kappを示す図である。
【0225】
実施例
1.使用する出発物質および機器
スチレンをAl23カラムで濾過して不安定化し、冷蔵庫で保管した。Guo, X., Weiss, A.およびBallauff, M., Macromolecules, 1999, 32, pp. 6043 − 6046による方法に従って、メタクリロイルクロリドとIrgacure(登録商標) 2959(4−(2−ヒドロキシエトキシ)フェニル(2−ヒドロキシ−2−プロピル)ケトン、Ciba Spezialitaetenchemie社(スイス)から入手可能)とを反応させて、2−[4−(2−ヒドロキシ−2−メチルプロピオニル)フェノキシ]エチルメタクリレート(HMEM)を製造した。4−スチレンスルホン酸ナトリウムは、例えば、Aldrichから販売されている。
【0226】
光乳化重合は、UV反応器(Heraeus TQ 150 Z3、波長範囲200〜600nm)内で実施した。Li, Z., Kesselman, E., Talmon, Y., Hillmyer, M. A., Lodge, T. P., Science 306, pp. 98−101, (2004)に記載されているように、低温透過電子顕微鏡法(cryo−TEM)を実施した。電界放出陰極を装備したLEO−Gemini顕微鏡を用いて、FE−SEM(電界放出走査電子顕微鏡法)を実施した。Lambda 25分光計(Perkin Elmer)を用いて、UVスペクトルを記録した。Cu Kα放射を使用し、反射モードでPanalytical XPERT−PRO回折計を用いて、25℃でX線回折実験(XRD)を実施した。
【0227】
II.複合粒子の製造
実施例1:TiO2ナノコンポジット粒子
1.1 ポリスチレンのコアと高分子電解質の側鎖とを有するコポリマーの水性分散液の製造
1.1.1 ポリスチレンとHMEMとのコポリマー
文献(Ballauff, M., Spherical polyelectrolyte brushes, Prog. Polym, Sci. 32, pp. 1135 −1151 (2007))から既知の方法に従って、ポリスチレンとHMEMとのコポリマーを製造した。
【0228】
還流冷却器、内部温度計、およびアンカー型撹拌機を取り付けた装置に、2.07gのドデシル硫酸ナトリウムを加えた820mlの水と208gのスチレンとを攪拌しながら添加した。次にこの系を数回脱気し、窒素で曝気した。次に0.44gのペルオキソ二硫酸カリウムを加えた20mlの水を添加し、この混合物を80℃で60分間加熱した。反応混合物を放置して70℃まで冷却し、10.64gのHMEM(スチレンに対して2mol%)を溶解した9mlのアセトンを滴加した。得られた分散液を遮光下で限外濾過によって精製した。
【0229】
1.1.2 ポリスチレンのコア上の高分子電解質の側鎖の製造
UV反応器内で、1.1.1で得た分散液を固形分2.5%まで水で希釈した。次に、4−スチレンスルホン酸ナトリウム(スチレンに対して30mol%)を攪拌しながら添加した。密閉した反応器を数回脱気し、窒素でフラッシュした。反応器にUV光を照射して、光乳化重合を開始した。照射は室温(25℃)で60分間実施した。精製水に対する透析によって反応混合物を精製した(膜:孔径100nmの硝酸セルロース、Schleicher & Schuell)。次に、透析によって、水をエタノールに置換した(膜:孔幅200nmの再生セルロース、Schleicher & Schuell)。
【0230】
1.2 TiO2ナノコンポジット粒子の製造
32mlのエタノールを、1.1.2で得た高分子電解質の側鎖を有するポリスチレンのコア1.09gを加えたエタノール(固形分4.62質量%)に添加した。第1表に示す量の水を攪拌しながら添加したあと、0.15mlのテトラエチルオルトチタネート(TEOT)を8mlのエタノールに加えた溶液を、0.08ml/分の速度で滴下添加した。反応が完了してから、反応混合物をさらに2時間激しく攪拌した。次に、遠心分離を繰り返して、エタノールと水でTiO2アルコゾルを3回精製し、その後水に再分散させた。
【0231】
第1表
【0232】
【表1】

1)PS−NaSS:1.1.2で得た高分子電解質の側鎖を有するポリスチレンのコア(固形分は4.62質量%)
TiO2複合粒子のFE−SEM顕微鏡写真が示すように、TEOTをゆっくりと制御しながら添加することにより、高分子電解質の側鎖を有するポリスチレンのコア内に均一に組み込まれた実質的に単分散の球体TiO2ナノ粒子がもたらされることを示した(図1a、1b参照)。合成時の水とTEOTとの体積比が1:5の場合(試料A)、均一な大きさの小さいTiO2ナノ粒子が形成される(TEM顕微鏡写真;図1c)。さらに、水の比率を増加させると(試料B)、比較的大きいTiO2ナノ粒子が生じる(TEM顕微鏡写真;図1d)。図1eは、試料BのTiO2複合粒子のcryo−TEM顕微鏡写真である。
【0233】
TiO2ナノコンポジット粒子のキャラクタリゼーション
直径:
試料A(水の比率が比較的低い混合物)のTiO2ナノコンポジット粒子は、直径が4±1.5nmである。試料B(水の比率が比較的高い混合物)のTiO2ナノコンポジット粒子は、直径が12±2nmである(TEM顕微鏡写真から判定、図1cおよび1d)。
【0234】
二酸化チタン含有量:
TiO2ナノコンポジットのTiO2含有量は、Mettler−Toledo−STARe機を使用した熱重量分析(TGA)によって測定した。減圧下、30℃で一晩試料を乾燥させたあと、アルゴンまたは空気中で、TiO2複合粒子を加熱速度10℃/分で800℃まで加熱した。熱重量分析により、TiO2の質量比19.8%が示された。
【0235】
結晶化度:
試料BのTiO2複合粒子の結晶化度をX線回折(XRD)によって調べた(図2)。全ての回折ピークは、TiO2のアナターゼ変態に割り当てることができる(Powder Diffraction File No.:00−021−1272)。他の結晶変態は認められなかった。2θ=42°におけるピークは、ポリスチレン(スチレンスルホン酸ナトリウム担体粒子)に由来した。反射(101)におけるピーク幅を分析して、シェラー式を用い、およそ3nmの微結晶サイズを算出した。
【0236】
高分解能TEM(HRTEM)およびSAEDを用いた粒子の分析により、高分子電解質の側鎖を有するポリスチレンのコア中に結晶性アナターゼ−TiO2が形成されていることを確認した。図3は、TiO2ナノコンポジットのHRTEM画像を示している。この画像では、ポリスチレンのコア上に結晶格子が認められる。格子間間隔およそ0.35nmの格子リングは、アナターゼ−TiO2の(101)面に帰属する。さらに、回折像(SAED、図3の挿入図)は、アナターゼ−TiO2ナノコンポジットの結晶構造を明確に示している。全ての回折リングは、XRD実験(図2と参照)と完全に一致して、アナターゼ変態のものとすることができる。
【0237】
III.高度に多孔質のTiO2の製造
1.2で得たTiO2ナノコンポジット試料を熱分解管に入れ、空気中、500℃で2時間加熱して、高分子電解質の側鎖を有するポリスチレンのコアを分解した。高度に多孔質のTiO2を得た。
【0238】
代替的に、1.2で得たTiO2ナノコンポジット試料を熱分解管に入れ、まず、アルゴン雰囲気下、500℃で2時間加熱して、ポリマーを炭素に分解した。次に、この物質を空気中、500℃で2時間にわたって加熱することにより、炭素骨格を除去した。このようにして、高度に多孔質のTiO2骨格を得た。
【0239】
図4は、焼成工程後の試料BのEDX測定値である。EDX測定値(エネルギー分散X線)は、有機ポリマーが焼成の結果完全に分解されており、TiO2のみが残っていることを示している。
【0240】
図5aおよび5bは、直接空気中で焼成したあと(a)、あるいはまずアルゴン中で、次に空気中で焼成したあと(b)の高分子電解質の側鎖を有するポリスチレンのコアの薄層、Siウエハ上のTiO2複合粒子のFE−SEM顕微鏡写真である。図5cは、ここで製造し、空気中で焼成したTiO2ナノ材料(c)のN2吸脱着等温線を示している。
【0241】
図5aでは、熱処理後のメソポーラスTiO2のマクロ孔が認められる。マクロ孔はポリスチレンのコアに帰属し、メソ孔は高分子電解質の側鎖に帰属する。メソ孔は、直径12.3nmを有する(BET分析により算出;図5c参照)。これは表面積が34.61m2/g(焼成前)から64.25m2/g(焼成後)に増加したことに関連している。
【0242】
図5d、5e、および5fは、アルゴン雰囲気下での焼成後(5d、5e)、続いて空気中での焼成後(5f)のバルク試料のFE−SEM顕微鏡写真である。図5dおよび5eは、炭素が孔壁を形成し、その中にTiO2ナノ粒子が均一に組み込まれた、メソポーラス構造体の形成を示している。空気の存在下での加熱後、高度に多孔質の構造体を有する白色TiO2ナノ材料を得た(図5f)。さらにこの画像上には、直径約12nmのTiO2ナノ粒子が認められる。
【0243】
III.TiO2複合粒子の光触媒活性
ローダミンB(RhB)溶液の脱色を参照することにより、TiO2複合粒子の光触媒活性を分析した。
【0244】
0.5mlの試料BのTiO2複合粒子溶液(固形分0.2質量%)と、20mlの水性ローダミンB(RhB)溶液(c=2×10-5mol/l)とを石英ガラス製キュベット内で攪拌しながら混合した。この反応溶液を磁気攪拌機を用いて暗所で30分間攪拌したあと、照射することによって触媒表面上の染料の吸脱着平衡を生じた。試料のUV/VISスペクトルを400〜650nmの範囲で記録した。反応の速度定数を552nmにおけるピークの信号強度を経時的に測定することによって判定した。対照として、TiO2ナノコンポジット粒子を含まないローダミンB溶液を同一条件下で照射した。図6aおよび6bは、試料Bの存在下(図6a)および不在下(図6b)で、UV光照射時のRhBの光触媒分解についてさまざまな時点で記録したUV/VISスペクトルを示している。
【0245】
RhB濃度に関する一次反応速度を用いて、光触媒反応速度を測定した。見掛けの速度定数kappは、系中のTiO2ナノ粒子の総表面積Sに比例する。
【数1】

【0246】
式中、ctは、時間tにおけるRhBの濃度であり、k1は、S(系の単位体積に対して正規化したTiO2ナノ粒子の表面積)に対して正規化した速度定数である。系中の単位体積当たりの表面積に対して正規化した速度定数kappを算出するために、アナターゼ−TiO2に使用した密度はp=3,90×103kg/m3の値であった。見掛けの速度定数kappの値は、TiO2ナノコンポジット粒子の比表面積の増加に伴って線形増加する。図7は、系の単位体積に対して正規化した試料Bの表面積Sの関数として、速度定数kappを示している。RhBの濃度は、T=20℃で[RhB]=0.02mmol/lであった。
【0247】
第2表は、RhBの分解に対するTiO2ナノ粒子の光触媒活性を示している。
【0248】
第1表
【0249】
【表2】

【0250】
V1 対照試料、Li, J., Ma, W., Chen, C, Zhao, J., Zhu, H., Gao, X., Photodegradation of dye pollutants on one−dimensional TiO2 nanoparticles under UV and visible irradiation, J. Mol. Catal. A 261, 131−138 (2007)。
1)1:系中のTiO2ナノ粒子の表面積に対して正規化した速度定数(式1)。
【図1a】

【図1b】

【図1c】

【図1d】

【図1e】


【特許請求の範囲】
【請求項1】
二酸化チタンナノ粒子を含む二酸化チタン組成物を製造するための方法であって、疎水性コアとそれに結合した高分子電解質の側鎖とを有するポリマー粒子の存在下で、加水分解性チタン化合物を加水分解する方法。
【請求項2】
前記加水分解性チタン化合物が、テトラアルキルオルトチタネートおよびテトラアルキルオルトシリケートから選択される、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
使用される前記加水分解性チタン化合物がテトラエチルオルトチタネートである、請求項2に記載の方法。
【請求項4】
前記疎水性コアとそれに結合した高分子電解質の側鎖とを有するポリマー粒子が、第1段階において、少なくとも1種の疎水性α,β−エチレン性不飽和モノマー(M1)をラジカル重合させて、前記コアを形成するポリマー粒子を得たあと、引き続き、第2段階において、前記高分子電解質の側鎖を前記コアを形成するポリマー粒子にグラフトすることによって得ることができる、請求項1〜3のいずれか1項に記載の方法。
【請求項5】
前記モノマー(M1)が、ビニル芳香族化合物、α,β−エチレン性不飽和モノカルボン酸およびジカルボン酸とC1−C20−アルカノールとのエステル、エチレン性不飽和ニトリル、ビニルアルコールとC1−C30−モノカルボン酸とのエステル、ハロゲン化ビニル、ハロゲン化ビニリデン、C2−C8モノオレフィン、少なくとも2つの共役二重結合を含む非芳香族炭化水素、およびそれらの混合物から選択される、請求項4に記載の方法。
【請求項6】
スチレンまたはスチレン含有モノマー混合物がモノマー(M1)として使用される、請求項5に記載の方法。
【請求項7】
前記第2段階におけるグラフト反応の前に、前記コアを形成するポリマー粒子の表面が官能化される、請求項4〜6のいずれか1項に記載の方法。
【請求項8】
前記コアを形成するポリマー粒子が、α,β−エチレン性不飽和光開始剤と共重合される、請求項7に記載の方法。
【請求項9】
使用する前記α,β−エチレン性不飽和光開始剤が、メタクリル酸2−[4−(2−ヒドロキシ−2−メチルプロピオニル)フェノキシ]エチルエステルである、請求項8に記載の方法。
【請求項10】
前記第2段階において、ラジカル重合可能なα,β−エチレン性不飽和二重結合と1分子当たり少なくとも1つのイオン形成性基および/またはイオン性基を有する、少なくとも1種のα,β−エチレン性不飽和モノマー(M2)が使用される、請求項4〜9のいずれか1項に記載の方法。
【請求項11】
使用する前記モノマー(M2)が、ナトリウム−スチレン−4−スルホナートである、請求項10に記載の方法。
【請求項12】
a)水と少なくとも1種の水混和性有機溶媒との混合物中の疎水性コアとそれに結合した高分子電解質の側鎖とを有するポリマー粒子の分散液を製造するステップと、
b)前記分散液に加水分解性チタン化合物を添加して、前記分散ポリマー粒子と会合したTiO2ナノ粒子を含む二酸化チタン複合組成物を得るステップと、
を含む、請求項1〜11のいずれか1項に記載の方法。
【請求項13】
前記加水分解性チタン化合物が、テトラアルキルオルトチタネートおよびテトラアルキルオルトシリケートから選択され、ステップa)において使用する前記有機溶媒が、そのアルキル基が前記加水分解に使用するテトラアルキルオルトチタネートまたはテトラアルキルオルトシリケートのアルキル基と一致するアルカノールである、請求項12に記載の方法。
【請求項14】
ステップa)において製造した水と少なくとも1種の水混和性有機溶媒との前記混合物の水含有量が、水と加水分解性チタン化合物とのモル比が2:1〜50:1、好ましくは2.1:1〜25:1の範囲になるように選定される、請求項12および13のいずれか1項に記載の方法。
【請求項15】
ステップb)における温度が、最高60℃、好ましくは最高40℃である、請求項12〜14のいずれか1項に記載の方法。
【請求項16】
ステップb)において、前記加水分解性チタン化合物の添加が、1分当たり前記加水分解性チタン化合物の総量の最大5%、好ましくは最大2%の添加速度で実施される、請求項12〜15のいずれか1項に記載の方法。
【請求項17】
c)ステップb)で得た前記二酸化チタン複合組成物に、精製および/または乾燥および/または溶媒交換を行なうステップ、
を含む、請求項12〜16のいずれか1項に記載の方法。
【請求項18】
c)ステップb)で得た前記二酸化チタン複合組成物を、場合によっては精製後に、乾燥させるステップと、
d)ステップc)で得た前記乾燥二酸化チタン複合組成物を焼成するステップと、
を含む、請求項12〜17のいずれか1項に記載の方法。
【請求項19】
ステップd)における前記焼成が、200〜800℃、好ましくは250〜700℃、特に好ましくは300〜600℃の温度で実施される、請求項18に記載の方法。
【請求項20】
ステップd)における前記焼成が、不活性雰囲気で行なわれる、請求項18および19のいずれか1項に記載の方法。
【請求項21】
ステップd)における前記焼成が、酸化性雰囲気で行なわれる、請求項18および19のいずれか1項に記載の方法。
【請求項22】
ステップd)における前記焼成が、第1段階においては不活性雰囲気で、第2段階においては酸化性雰囲気で行なわれる、請求項18および19のいずれか1項に記載の方法。
【請求項23】
請求項1〜22のいずれか1項に定義したとおりの方法によって得ることができる、二酸化チタン組成物。
【請求項24】
請求項12〜17のいずれか1項に定義したとおりの方法によって得ることができる、疎水性コアとそれに結合した高分子電解質の側鎖とを有するポリマー粒子と会合した二酸化チタンナノ粒子を含む二酸化チタン複合組成物の形態の、請求項23に記載の二酸化チタン組成物。
【請求項25】
請求項18〜20のいずれか1項に定義したとおりの方法によって得ることができる、多孔質構造体を有する炭素で改質された二酸化チタン組成物の形態の、請求項23に記載の二酸化チタン組成物。
【請求項26】
請求項21および22のいずれか1項に定義したとおりの方法によって得ることができる、多孔質構造体を有する、請求項23に記載の二酸化チタン組成物。
【請求項27】
メソポーラスおよびマクロポーラス構造体を有する二酸化チタンナノ粒子のネットワークを含む、または前記ネットワークからなる、請求項23〜26のいずれか1項に記載の二酸化チタン組成物。
【請求項28】
アナターゼ変態の結晶性二酸化チタンナノ粒子を含む、請求項27に記載の二酸化チタン組成物。
【請求項29】
平均孔径(FE−SEM分析によって判定)が、50を上回り200nm以下、好ましくは75〜150nmの範囲のマクロ孔を含む、請求項23〜28のいずれか1項に記載の二酸化チタン組成物。
【請求項30】
平均孔径(BET分析によって判定)が、2〜30nm、好ましくは5〜20nmの範囲のメソ孔を含む、請求項23〜29のいずれか1項に記載の二酸化チタン組成物。
【請求項31】
前記二酸化チタン組成物の表面積(BET分析によって判定)が、少なくとも50m2/g、好ましくは少なくとも60m2/gである、請求項23〜30のいずれか1項に記載の二酸化チタン組成物。
【請求項32】
−少なくとも1種のα,β−エチレン性不飽和モノマーMo)のエマルジョンポリマーと、
−請求項23〜31のいずれか1項に定義したとおりの少なくとも1種の二酸化チタン組成物と、
からなる、またはこれらを含む、バインダー組成物。
【請求項33】
前記エマルジョンポリマーが、α,β−エチレン性不飽和モノカルボン酸およびジカルボン酸とC1−C20−アルカノールとのエステル、ビニル芳香族化合物、ビニルアルコールとC1−C30−モノカルボン酸とのエステル、エチレン性不飽和ニトリル、ハロゲン化ビニル、ハロゲン化ビニリデン、モノエチレン性不飽和カルボン酸およびスルホン酸、リン含有モノマー、α,β−エチレン性不飽和モノカルボン酸およびジカルボン酸とC2−C30−アルカンジオールとのエステル、α,β−エチレン性不飽和モノカルボン酸およびジカルボン酸と第1級または第2級アミノ基を有するC2−C30−アミノアルコールとのアミド、α,β−エチレン性不飽和モノカルボン酸の第1級アミドならびにそのN−アルキル誘導体およびN,N−ジアルキル誘導体、N−ビニルラクタム、開鎖N−ビニルアミド化合物、アリルアルコールとC1−C30−モノカルボン酸とのエステル、α,β−エチレン性不飽和モノカルボン酸およびジカルボン酸とアミノアルコールとのエステル、α,β−エチレン性不飽和モノカルボン酸およびジカルボン酸と少なくとも1つの第1級または第2級アミノ基を含むジアミンとのアミド、N,N−ジアリルアミン、N,N−ジアリル−N−アルキルアミン、ビニル置換窒素複素環化合物およびアリル置換窒素複素環化合物、ビニルエーテル、C2−C8−モノオレフィン、少なくとも2つの共役二重結合を含む非芳香族炭化水素、ポリエーテル(メタ)アクリレート、尿素基を有するモノマー、およびそれらの混合物から選択される、少なくとも1種のα,β−エチレン性不飽和モノマーMo)のラジカル乳化重合によって得ることができる、請求項32に記載のバインダー組成物。
【請求項34】
前記乳化重合に、少なくとも40質量%、好ましくは少なくとも60質量%、特に好ましくは少なくとも80質量%の少なくとも1種のモノマーMo1)が使用され、前記モノマーは、α,β−エチレン性不飽和モノカルボン酸およびジカルボン酸とC1−C20−アルカノールとのエステル、ビニル芳香族化合物、ビニルアルコールとC1−C30−モノカルボン酸とのエステル、エチレン性不飽和ニトリル、ハロゲン化ビニル、ハロゲン化ビニリデン、およびそれらの混合物から選択される、請求項32および33のいずれか1項に記載のバインダー組成物。
【請求項35】
前記乳化重合に、60質量%までの、好ましくは40質量%までの、特に好ましくは20質量%までの少なくとも1種のモノマーMo2)が追加的に使用され、前記モノマーは、エチレン性不飽和モノカルボン酸およびジカルボン酸、ならびにエチレン性不飽和ジカルボン酸の無水物および半エステル、(メタ)アクリルアミド、C1−C10−ヒドロキシアルキル(メタ)アクリレート、C1−C10−ヒドロキシアルキル(メタ)アクリルアミド、およびそれらの混合物から選択される、請求項34に記載のバインダー組成物。
【請求項36】
コーティング剤であって、
−請求項32〜35のいずれか1項に定義したとおりのバインダー組成物と、
−場合によっては、二酸化チタンとは異なる少なくとも1種の顔料と、
−場合によっては、少なくとも1種の充填剤と、
−場合によっては、さらなる助剤と、
−水と、
を含むコーティング剤。
【請求項37】
分散塗料の形態の、請求項36に記載のコーティング剤。
【請求項38】
基材をコーティングするための、請求項36および37のいずれか1項に記載のコーティング剤の使用。
【請求項39】
コーティングされた基材を製造する方法であって、請求項36および37のいずれか1項に記載のコーティング剤が基材に塗布され、前記ポリマーが膜を形成する条件下で乾燥される方法。
【請求項40】
使用する前記基材が、プラスチック、金属、木材、紙、または鉱物基材である、請求項39に記載の方法。
【請求項41】
請求項40に記載の方法によって得ることができる、コーティングされた基材。
【請求項42】
紙用塗工材中のバインダーとしての、請求項32〜35のいずれか1項に定義したとおりのバインダー組成物の使用。
【請求項43】
光触媒活性を有する触媒として、または光触媒活性を有する触媒中での、請求項23〜31のいずれか1項に定義したとおりの二酸化チタン組成物の使用。
【請求項44】
太陽電池を製造するための、請求項23〜31のいずれか1項に定義したとおりの二酸化チタン組成物の使用。

【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【公表番号】特表2011−524920(P2011−524920A)
【公表日】平成23年9月8日(2011.9.8)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−512092(P2011−512092)
【出願日】平成21年6月2日(2009.6.2)
【国際出願番号】PCT/EP2009/056724
【国際公開番号】WO2009/147126
【国際公開日】平成21年12月10日(2009.12.10)
【出願人】(508020155)ビーエーエスエフ ソシエタス・ヨーロピア (2,842)
【氏名又は名称原語表記】BASF SE
【住所又は居所原語表記】D−67056 Ludwigshafen, Germany
【Fターム(参考)】