説明

二酸化チタン被覆アパタイト

【課題】 二酸化チタン被覆アパタイト及びその製造方法を提供する。
【解決手段】 チタン含有リン酸カルシウムを加水分解するか、又はチタン存在下でリン酸カルシウムを加水分解して合成した合成物であって、表面に二酸化チタンがコーティングされた二酸化チタン被覆アパタイト、及び前記の二酸化チタン被覆アパタイトを合成する方法であって、チタン含有リン酸カルシウムを加水分解するか、又はチタン存在下でリン酸カルシウムを加水分解することにより、表面に二酸化チタンがコーティングされたアパタイトを合成することを特徴とする二酸化チタン被覆アパタイトの製造方法。
【効果】 二酸化チタン被覆アパタイトを効率良く製造することができる、また、得られた二酸化チタン被覆アパタイトは、有害物質の吸着、分解のための光触媒として長期間好適に利用し得る、等の効果が得られる。

【発明の詳細な説明】
【0001】
【発明の属する技術分野】本発明は、二酸化チタン被覆アパタイト及びその製造方法に関するものであり、更に詳しくは、アパタイトに二酸化チタンを複合してなる、表面に二酸化チタンがコーティングされた二酸化チタン−アパタイト複合体及びその合成方法に関するものである。本発明の二酸化チタン被覆アパタイトは、水処理や脱臭、大気汚染浄化など、環境浄化の様々な分野で利用し得るだけでなく、カラム充填材などとして好適に利用し得るものである。
【0002】
【従来の技術】二酸化チタンは、光を照射すると強い酸化還元力(光触媒反応)を生じるため、水中や大気中の有害物質の分解、無害化への応用が期待されている。この光触媒反応は、二酸化チタンの表面反応であるため、対象物を反応が完了するまで二酸化チタンに接触させておく必要がある。そこで、この二酸化チタンと、有機物の吸着特性に優れるアパタイトとの複合化が望まれており、従来より、二酸化チタンとアパタイトとの複合化が種々試みられている。しかし、従来の二酸化チタン−アパタイト複合体は、個々の成分を粉末で混合した物が一般的であった。
【0003】アパタイト−二酸化チタン複合体においては、分解対象物がアパタイトに吸着されると同時に、二酸化チタンに接触することが分解効率の観点から望ましい。しかし、粉末での混合ではアパタイトと二酸化チタンを粒子レベルで均一に混合することが不可能であった。また、粉末の状態では取り扱いが難しいという欠点があった。そこで、粉末を有機物バインダーで固定化して取り扱いの向上を図る試みもあったが、この方法は、固定化による分解能力の低下や有機物バインダーの劣化のため、余り実用化がなされていなかった。
【0004】
【発明が解決しようとする課題】このような状況の中で、本発明者らは、上記従来技術に鑑みて、上記問題を解決することが可能な新しい二酸化チタン−アパタイト複合体及びその複合化方法を開発することを目標として鋭意研究を積み重ねた結果、チタン及びアパタイトを水熱処理することにより所期の目的を達成し得ることを見出し、本発明を完成するに至った。すなわち、本発明は、前述した背景に鑑みて、アパタイトに二酸化チタンを複合化した二酸化チタン−アパタイト複合体、及び該複合体を効率良く合成する方法を提供すること目的としてなされたものである。
【0005】
【課題を解決するための手段】上記の目的を達成するための本発明は、以下の技術的手段から構成される。
(1)チタン含有リン酸カルシウムを加水分解するか、又はチタン存在下でリン酸カルシウムを加水分解して製造した合成物であって、表面に二酸化チタンがコーティングされた二酸化チタン被覆アパタイト。
(2)アパタイトが、水酸アパタイト、炭酸アパタイト、フッ素アパタイト、及び塩素アパタイトから選択される1種又はその混合物である、前記(1)に記載の二酸化チタン被覆アパタイト。
(3)二酸化チタンが、アナターゼ、ルチル、及びアモルファスから選択される1種又はその混合物である、前記(1)に記載のアパタイト。
(4)前記(1)に記載の二酸化チタン被覆アパタイトを製造する方法であって、チタン含有リン酸カルシウムを加水分解するか、又はチタン存在下でリン酸カルシウムを加水分解することにより表面に二酸化チタンがコーティングされたアパタイトを合成することを特徴とする二酸化チタン被覆アパタイトの製造方法。
(5)リン酸カルシウムが、リン酸水素カルシウム、リン酸水素カルシウム二水和物、リン酸三カルシウム、リン酸四カルシウム、及びリン酸八カルシウムから選択される1種又はその混合物である、前記(4)記載の製造方法。
【0006】
【発明の実施の形態】次に、本発明について更に詳細に説明する。本発明は、チタン含有リン酸カルシウムを加水分解することにより、又はチタン存在下でリン酸カルシウムを加水分解することにより、表面に二酸化チタンがコーティングされた二酸化チタン被覆アパタイトを合成することを特徴とするものである。すなわち、本発明は、チタン含有リン酸カルシウムを合成し、これを加水分解することにより、あるいは、チタンとリン酸カルシウム含有溶液を加熱し、加水分解することにより、二酸化チタン被覆アパタイトを合成するものである。本発明において、チタン含有リン酸カルシウムは、好適には、例えば、チタンを含有するリン酸溶液に、炭酸カルシウムを所望のリン酸カルシウムが飽和するまで添加したものを40〜100℃まで昇温することによって得られる。この場合、リン酸溶液としては、0.1〜30mol/lの溶液が適当である。また、炭酸カルシウムとしては、純度が50%以上の炭酸カルシウムが適当であり、また、炭酸カルシウムの代わりに、例えば、塩化カルシウム、フッ化カルシウム、リン酸カルシウムを使用することができる。
【0007】チタンを含有するリン酸溶液のチタン濃度及びリン酸濃度は、それぞれ0.01〜5mol/l、及び0.1〜30mol/lであることが望ましい。また、昇温速度は0.01〜30℃/minであることが望ましい。チタンとしては、純度が50%以上で粒径10〜1000μmの粉末もしくは塩化チタンを用いるのが適当である。また、リン酸カルシウムとしては、リン酸水素カルシウム(dicalcium phosphate )、リン酸水素カルシウム二水和物(dicalcium phosphate dihydrate )、リン酸三カルシウム(tricalcium phosphate)、リン酸四カルシウム(tetracalcium phosphate)、リン酸八カルシウム(octacalcium phosphate )、及びその混合物を用いることができる。
【0008】上記のように、本発明の二酸化チタン被覆アパタイトは、チタン含有リン酸カルシウムを加水分解することにより合成するか、又はチタンとリン酸カルシウム含有溶液を加熱し、加水分解することにより合成する。この二酸化チタン−アパタイト複合体の合成プロセスにおいて、加水分解は、例えば、チタン含有リン酸カルシウムを水と共にモーレー型ボンベ等の耐圧密閉容器に封入し、100〜280℃で3時間以上加熱することによって行う。得られる二酸化チタン被覆アパタイトのサイズは、加水分解の時間に比例する。加水分解中、耐圧密閉容器は静置したままでもよいし、回転させてもよい。
【0009】本発明により得られる二酸化チタン被覆アパタイトは、適宜、合成条件を選択することにより、c 軸方向の長さ0.05〜2000μm、直径0.01〜200μmを持ち得る。アパタイトを被覆する二酸化チタンの結晶形は、アナターゼもしくはアモルファスであるが、これを600〜1300℃で熱処理することによって、ルチルとすることもできる。このような方法により、アパタイトに二酸化チタンをコーティングした二酸化チタン−アパタイト複合体を合成することができる。
【0010】
【実施例】次に、本発明を実施例に基づいて具体的に説明するが、以下の実施例は本発明の好適な例を示すものであり、本発明はこれらの実施例によって何ら限定されるものではない。
実施例11.7gのチタン粉末を5mol/lのリン酸水溶液1000mlに添加し、1週間ウォーターバスで40℃に加熱しながら溶解し、チタン含有リン酸を調製した。このチタン含有リン酸のチタン濃度は0.035mol/lであった。このチタン含有リン酸中に、超高純度炭酸カルシウム85gを0.5g/minで添加し、チタン含有リン酸水素カルシウム飽和溶液を調製し、100℃まで1.5℃/minで昇温することにより、チタン含有リン酸水素カルシウムを析出させた。析出したチタン含有リン酸水素カルシウムは、吸引濾過により素早く濾別し、110℃で一昼夜乾燥させた後、回収した。この方法で合成されたチタン含有リン酸水素カルシウムは、板状結晶で、チタン含有量は1.6wt%であった。合成したチタン含有リン酸水素カルシウム1gと超純水60mlを容量100mlのテフロン(登録商標)製内容器付きステンレス製分解容器に封入し、回転式電気炉により250℃で3週間加熱した(図1)。加水分解終了後、分解容器を100℃程度まで急冷し、内容物を吸引濾過により手早く炉別、洗浄した。このような手法により、二酸化チタン被覆アパタイト針状結晶を合成した。
【0011】実施例2リン酸水素カルシウム1gとチタン標準溶液(100ppm)3mlを超純水60mlと共に、容量100mlのテフロン製内容器付きステンレス製分解容器に封入し、回転式電気炉により250℃で3週間加熱した(図1R>1)。加水分解終了後、分解容器を100℃程度まで急冷し、内容物を吸引濾過により手早く炉別、洗浄した。 このような手法により、二酸化チタン被覆アパタイト針状結晶を合成した。
【0012】
【発明の効果】以上詳述したように、本発明は、二酸化チタン被覆アパタイト及びその製造方法に係るものであり、本発明により、1)個々のアパタイト粒子は必ず二酸化チタンに被覆される、2)本発明の方法で得られた二酸化チタン被覆アパタイトは、有機物の吸着剤として用いた場合、アパタイトによって吸着された有機物が効率良く二酸化チタンによって分解されるため、半永久的に吸着能を失うことがない、3)また、有機系汚染物質の無害化に用いた場合、アパタイトが効率良く汚染物質を二酸化チタンに接するように固定するために、汚染物質を効率良く分解することができる、4)本発明の二酸化チタン被覆アパタイトは、水処理や脱臭、大気汚染浄化など環境浄化の様々な分野で利用し得るだけでなく、カラム充填材に好適に利用し得る、等の効果が奏される。
【図面の簡単な説明】
【図1】本発明の実施例1で、チタン含有リン酸カルシウム(リン酸水素カルシウム)を加水分解するために用いた回転式電気炉及びテフロン製内容器付きステンレス製分解容器を示す説明図である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】 チタン含有リン酸カルシウムを加水分解するか、又はチタン存在下でリン酸カルシウムを加水分解して製造した合成物であって、表面に二酸化チタンがコーティングされた二酸化チタン被覆アパタイト。
【請求項2】 アパタイトが、水酸アパタイト、炭酸アパタイト、フッ素アパタイト、及び塩素アパタイトから選択される1種又はその混合物である、請求項1に記載の二酸化チタン被覆アパタイト。
【請求項3】 二酸化チタンが、アナターゼ、ルチル、及びアモルファスから選択される1種又はその混合物である、請求項1に記載のアパタイト。
【請求項4】 請求項1に記載の二酸化チタン被覆アパタイトを製造する方法であって、チタン含有リン酸カルシウムを加水分解するか、又はチタン存在下でリン酸カルシウムを加水分解することにより表面に二酸化チタンがコーティングされたアパタイトを合成することを特徴とする二酸化チタン被覆アパタイトの製造方法。
【請求項5】 リン酸カルシウムが、リン酸水素カルシウム、リン酸水素カルシウム二水和物、リン酸三カルシウム、リン酸四カルシウム、及びリン酸八カルシウムから選択される1種又はその混合物である、請求項4に記載の製造方法。

【図1】
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