説明

二酸化バナジウム粒子の製造方法

【課題】適度な粒子径を有し、高純度の二酸化バナジウム粒子を作製することが可能な二酸化バナジウム粒子の製造方法を提供する。
【解決手段】バナジウムアルコキシド及びアルコールを含有するバナジウムアルコキシド溶液と、塩基性水溶液とを反応させ、酸化バナジウム前駆体を含有する溶液を作製する反応工程、前記酸化バナジウム前駆体を焼成する焼成工程、及び、前記焼成した酸化バナジウム前駆体を水素雰囲気中で還元する還元工程を有し、前記反応工程において、pH10.9〜12.5の範囲内で反応を行い、かつ、前記還元工程において、600〜650℃で10〜30分間、又は、500〜550℃で1〜2時間の条件で還元を行う二酸化バナジウム粒子の製造方法。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、適度な粒子径を有し、高純度の二酸化バナジウム粒子を作製することが可能な二酸化バナジウム粒子の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
二酸化バナジウムは、温度変化によって透過率や反射率等の光学的特性が可逆的に変化するサーモクロミック現象を示す材料として注目されている。ルチル型二酸化バナジウムの結晶は、相転移温度以下では半導体相を示すが、相転移温度以上では金属相へ転移する。相転移は約68℃で可逆的に起こり、近赤外線及び赤外線透過率が大幅に変化する。
このような性質を利用して、相転移温度以下では、可視光線、赤外線ともに透過するが、相転移温度を超えると可視光線のみを透過して、赤外線を遮断するという特性を発現する赤外線遮断材として用いることが提案されている。
【0003】
特許文献1には、バナジウムアルコキシドと、モリブデン又はタングステンアルコキシドとをイソプロパノールに溶解した後、イオン交換水を添加して加水分解反応させ、焼成することで金属ドープ二酸化バナジウムを作製する方法が提案されている。
しかしながら、特許文献1の方法では、加水分解反応条件が促進されず、収率が低くなるという問題があった。
【0004】
更に、特許文献2には、バナジウム化合物含有溶液に、一部がルチル型結晶相からなる二酸化チタンの粒子を添加し、水熱反応させることにより、R相の二酸化バナジウムを製造する方法が開示されている。
しかしながら、この方法では、二酸化チタン粒子上に二酸化バナジウムが成長するため、二酸化バナジウムのみを単離、利用することは困難であるという問題点があった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2004−346260号公報
【特許文献2】特開2010−031235号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明は、適度な粒子径を有し、高純度の二酸化バナジウム粒子を作製することが可能な二酸化バナジウム粒子の製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明は、バナジウムアルコキシド及びアルコールを含有するバナジウムアルコキシド溶液と、塩基性水溶液とを反応させ、酸化バナジウム前駆体を含有する溶液を作製する反応工程、前記酸化バナジウム前駆体を焼成する焼成工程、及び、前記焼成した酸化バナジウム前駆体を水素雰囲気中で還元する還元工程を有し、前記反応工程において、pH10.9〜12.5の範囲内で反応を行い、かつ、前記還元工程において、600〜650℃で10〜30分間、又は、500〜550℃で1〜2時間の条件で還元を行う二酸化バナジウム粒子の製造方法である。
以下、本発明を詳述する。
【0008】
本発明者は、鋭意検討した結果、バナジウムアルコキシド溶液と、塩基性水溶液とを反応させる際のpHを所定の範囲内とし、かつ、還元工程での温度、時間を調整することで、二酸化バナジウムの比率が高く高純度であり、かつ、適度な粒子径を有する二酸化バナジウム粒子が得られることを見出し、本発明を完成させるに至った。
【0009】
本発明の二酸化バナジウム粒子の製造方法では、バナジウムアルコキシド及びアルコールを含有するバナジウムアルコキシド溶液と、塩基性水溶液とを反応させ、酸化バナジウム前駆体を含有する溶液を作製する反応工程を有する。
なお、酸化バナジウム前駆体とは、五価のバナジウムの酸化物が主に含まれる酸化バナジウムをいう。
【0010】
本発明では、上記反応工程において、pH10.9〜12.5の範囲内で反応を行う。
これにより、加水分解反応が促進かつ安定し、酸化バナジウム前駆体の生成も改善され、生成する二酸化バナジウム粒子の収率も向上する。上記pHが10.9未満であると、加水分解反応が促進せず、酸化バナジウム前駆体の収率が低くなる。一方、pHが12.5を超えると、加水分解反応が安定せず、酸化バナジウム前駆体の収率が低くなる。好ましくは10.9〜12.0、より好ましくは10.9〜11.7である。
【0011】
上記反応工程において、pH10.9〜12.5の範囲内に調整する方法としては、アルカリ性材料を任意に添加し、反応系をアルカリ性pH環境とする方法等が挙げられる。
【0012】
上記バナジウムアルコキシドとしては、例えば、バナジウムトリイソプロポキシドオキシド、バナジウムトリノルマルプロポキシドオキシド、バナジウムトリメトキシドオキシド、バナジウムトリエトキシドオキシド等が挙げられる。
【0013】
上記アルコールとしては特に限定されないが、例えば、イソプロパノール、エタノール、メタノール、ブタノール等が挙げられる。
【0014】
上記バナジウムアルコキシド溶液における上記バナジウムアルコキシドの含有量は、1〜10重量%であることが好ましい。上記範囲内とすることで、加水分解反応も制御しやすく、生成する二酸化バナジウム粒子の収率も向上する。
【0015】
上記塩基性水溶液としては、アンモニア、水酸化ナトリウム等の水溶液が好ましい。
なかでも、乾燥又は焼成中に脱離しやすく粒子に残存しないという理由から、アンモニアが好ましい。
【0016】
上記反応工程における上記アンモニアの添加量は、バナジウムアルコキシドに対して2〜40重量%であることが好ましい。2重量%未満であると、pH10.9以上に調整するのが困難となり、40重量%を超えると、pH12.5以下に調整するのが困難となる。
【0017】
上記反応工程における反応温度は10〜80℃が好ましい。
また、上記反応工程における反応時間は、1〜120時間が好ましい。
【0018】
本発明では、次いで、上記酸化バナジウム前駆体を焼成する焼成工程を行う。
上記焼成工程における、焼成温度としては、400℃以上であることが好ましく、400〜500℃がより好ましい。また、上記焼成工程においては、例えば、水素雰囲気下又は水素気流中で焼成を行ってもよい。また、上記焼成工程における焼成時間は、1〜5時間とすることが好ましい。
【0019】
本発明では、その後、上記焼成した酸化バナジウム前駆体を水素雰囲気中で還元する還元工程を行う。
上記還元工程を行うことで、上記五価のバナジウムの酸化物(V)が含まれる酸化バナジウム前駆体が、還元され、四価の二酸化バナジウム(VO)とすることができる。
【0020】
上記還元工程は、還元が進みすぎず効率的に二酸化バナジウムを得るという観点から、
(1)水素雰囲気中、600〜650℃で10〜30分間の条件、又は、
(2)水素雰囲気中、500〜550℃で1〜2時間の条件、で行う。
【0021】
上記条件(1)で還元工程を行うことで、結晶性の高い二酸化バナジウムが得られる。
上記条件(1)では、600〜630℃が好ましく、15〜30分間の条件で還元工程を行うことが好ましい。
【0022】
上記条件(2)で還元工程を行うことで、還元が進みすぎず純度の高い二酸化バナジウムが得られる。
上記条件(2)では、520〜550℃が好ましく、60〜120分間の条件で還元工程を行うことが好ましい。
【0023】
上記還元工程は、上述した水素雰囲気中で行うことが好ましいが、メタン、アンモニア、ブタジエン等の還元ガス雰囲気下で行ってもよい。
【0024】
本発明の製造方法を用いることで、粒子中の二酸化バナジウムの比率が高く、サーモクロミック性に優れるものとすることができる。
このことは、例えば、粉末X線回折(XRD)を用いて測定することで評価することができる。
また、本発明の製造方法で得られた二酸化バナジウム粒子は、平均粒子径が0.1〜5μmであることから、これをサーモクロミックフィルム等に用いた場合、薄膜化、大型化が容易で、かつ、高い可視光透過性を有するサーモクロミックフィルムを作製することができる。
【発明の効果】
【0025】
本発明の二酸化バナジウム粒子の製造方法によれば、適度な粒子径を有し、高純度の二酸化バナジウム粒子を作製することが可能となる。
【発明を実施するための形態】
【0026】
以下に実施例を掲げて本発明の態様を更に詳しく説明するが、本発明はこれら実施例のみに限定されない。
【0027】
(実施例1)
[酸化バナジウム溶液の調製]
バナジウム(V)トリ−i−プロポキシドオキシド(高純度化学研究所社製)2.50gとイソプロパノール(和光純薬工業社製)71.20gとを混合し、バナジウムアルコキシド含有溶液を調製した。
また、純水2.56gと25%アンモニア水溶液(和光純薬工業社製)0.25gを混合し、塩基性水溶液を調製した。得られた塩基性水溶液をバナジウムアルコキシド含有溶液に添加した。
この時の混合液のpHは10.90であった。その後、室温で24時間反応させ、酸化バナジウム溶液を得た。
【0028】
[酸化バナジウム粒子の作製]
得られた酸化バナジウム溶液をエバポレーターによって脱溶媒し、得られた固形物を乾燥させ酸化バナジウム前駆体を得た。得られた酸化バナジウム前駆体を大気中400℃で2時間焼成した。
その後、窒素/水素(3%)混合ガス気流中、600℃で30分間還元することで酸化バナジウム粒子を得た。
【0029】
(実施例2)
[酸化バナジウム溶液の調製]
純水2.38gと25%アンモニア水溶液0.5gとを混合して塩基性水溶液を調製した以外は実施例1と同様にして、酸化バナジウム溶液を得た。なお、混合液のpHは11.7であった。
【0030】
[酸化バナジウム粒子の作製]
得られた酸化バナジウム溶液をエバポレーターによって脱溶媒し、得られた固形物を乾燥させ酸化バナジウム前駆体を得た。得られた酸化バナジウム前駆体を大気中400℃で2時間焼成した。
その後、窒素/水素(3%)混合ガス気流中、600℃で30分間還元することで酸化バナジウム粒子を得た。
【0031】
(実施例3)
実施例2の[酸化バナジウム粒子の作製]において、600℃で15分間還元した以外は実施例2と同様にして酸化バナジウム溶液及び酸化バナジウム粒子を得た。
【0032】
(実施例4)
実施例2の[酸化バナジウム粒子の作製]において、525℃で2時間還元した以外は実施例2と同様にして酸化バナジウム溶液及び酸化バナジウム粒子を得た。
【0033】
(実施例5)
実施例1の[酸化バナジウム溶液の調製]において、純水1.63gと25%アンモニア水溶液1.5gとを混合して塩基性水溶液を調製した以外は実施例1と同様にして、酸化バナジウム溶液及び酸化バナジウム粒子を得た。なお、混合液のpHは12.17であった。
【0034】
(実施例6)
実施例1の[酸化バナジウム溶液の調製]において、純水0.01gと25%アンモニア水溶液3.65gとを混合して塩基性水溶液を調製した以外は実施例1と同様にして、酸化バナジウム溶液及び酸化バナジウム粒子を得た。なお、混合液のpHは12.49であった。
【0035】
(比較例1)
実施例1の[酸化バナジウム溶液の調製]において、純水2.74gと25%アンモニア水溶液0.01gとを混合して塩基性水溶液を調製した以外は実施例1と同様にして、酸化バナジウム溶液及び酸化バナジウム粒子を得た。なお、混合液のpHは9.80であった。
【0036】
(比較例2)
実施例1の[酸化バナジウム溶液の調製]において、アンモニア水溶液を加えず、塩基性水溶液に代えて純水2.75gを用いた以外は実施例1と同様にして、酸化バナジウム溶液及び酸化バナジウム粒子を得た。なお、混合液のpHは6.50であった。
【0037】
(比較例3)
実施例1の[酸化バナジウム溶液の調製]において、純水2.75gと酢酸1.5gとを混合して酸性水溶液を調製した以外は実施例1と同様にして、酸化バナジウム溶液及び酸化バナジウム粒子を得た。なお、混合液のpHは3.93であった。
【0038】
(比較例4)
実施例1の[酸化バナジウム溶液の調製]において、純水2.75gと塩酸1.5gとを混合して酸性水溶液を調製した以外は実施例1と同様にして、酸化バナジウム溶液及び酸化バナジウム粒子を得た。なお、混合液のpHは1.92であった。
【0039】
(比較例5)
実施例1の[酸化バナジウム粒子の作製]において、600℃で1時間還元した以外は実施例1と同様にして、酸化バナジウム溶液及び酸化バナジウム粒子を得た。
【0040】
(比較例6)
実施例1の[酸化バナジウム粒子の作製]において、550℃で3時間還元した以外は実施例1と同様にして、酸化バナジウム溶液及び酸化バナジウム粒子を得た。
【0041】
(比較例7)
実施例1の[酸化バナジウム粒子の作製]において、500℃で0.5時間還元した以外は実施例1と同様にして、酸化バナジウム溶液及び酸化バナジウム粒子を得た。
【0042】
(評価方法)
【0043】
(1)反応後溶液の安定性
実施例及び比較例で得られた酸化バナジウム溶液5.0gに、1.0gの水を滴下した後の変色を目視にて確認した。なお、変色がない場合を「安定」、変色があった場合を「不安定」とした。
【0044】
(2)二酸化バナジウム生成
実施例及び比較例で得られた酸化バナジウム粒子をXRD(Rigaku社製、RINT1000)を用い、X線回折法で結晶構造の特定を行った。なお、測定条件は、電圧50KV、電流100mA、スキャン速度4°/min、回折角2θ=10〜70°とした。
VOのピーク[(011)面、2θ=27.8°]が確認された場合を「○」、確認されない場合を「×」とした。
【0045】
(3)二酸化バナジウム粒子の粒子径
粒度分布計(日機装社製、マイクロトラックUAM−1)を用いて、反応液後の二酸化バナジウム粒子の分散径(体積平均粒子径)を測定した。
【0046】
(4)サーモクロミック性
得られた二酸化バナジウム粒子の相転移時の熱量ΔH(mJ/mg)を、示差走査熱量計DSC(エスアイアイ・ナノテクノロジー社製「DSC6220」)を用い0℃〜100℃までの温度範囲、昇温速度5℃/min、窒素雰囲気下にて測定した。
【0047】
【表1】

【産業上の利用可能性】
【0048】
本発明によれば、適度な粒子径を有し、高純度の二酸化バナジウム粒子を作製することが可能な二酸化バナジウム粒子の製造方法を提供することができる。
なお、本発明で得られた二酸化バナジウム粒子は、サーモクロミック性フィルム、合わせガラス用中間膜、合わせガラス及び貼り付け用フィルム等に使用することができる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
バナジウムアルコキシド及びアルコールを含有するバナジウムアルコキシド溶液と、塩基性水溶液とを反応させ、酸化バナジウム前駆体を含有する溶液を作製する反応工程、
前記酸化バナジウム前駆体を焼成する焼成工程、及び、
前記焼成した酸化バナジウム前駆体を水素雰囲気中で還元する還元工程を有し、
前記反応工程において、pH10.9〜12.5の範囲内で反応を行い、かつ、
前記還元工程において、600〜650℃で10〜30分間、又は、500〜550℃で1〜2時間の条件で還元を行う
ことを特徴とする二酸化バナジウム粒子の製造方法。
【請求項2】
塩基性水溶液はアンモニアを含有することを特徴とする請求項1記載の二酸化バナジウム粒子の製造方法。
【請求項3】
焼成工程において、酸化バナジウム前駆体を400℃以上で焼成することを特徴とする請求項1又は2記載の二酸化バナジウム粒子の製造方法。