説明

二酸化塩素濃度測定用タンパク質、及びそれを用いた二酸化塩素濃度測定方法

【課題】二酸化塩素の濃度を簡便かつ、精度良く計測できる技術を提供すること。
【解決手段】自身が保有する発色団の分子内にチロシン残基あるいはそれに類似した構造を持ち、二酸化塩素によって酸化的に修飾されることにより発色団が壊れて蛍光が弱くなる蛍光タンパク質からなる二酸化塩素濃度測定用タンパク質であり、オワンクラゲ(Aequorea victoria)から単離された緑色蛍光タンパク(GFP)からなる二酸化塩素濃度測定用タンパク質。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、二酸化塩素濃度測定用タンパク質(以下「測定用タンパク質」ともいう)、及びそれを用いた二酸化塩素濃度測定方法(以下「濃度測定方法」ともいう)に関し、詳しくは、二酸化塩素の水溶液(溶存二酸化塩素ガスを含有する溶液)における二酸化塩素の濃度を測定するための測定用タンパク質、及びそれを用いた濃度測定方法に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、二酸化塩素はトリハロメタンのような有害な副産物を発生しないという理由で、殺菌消毒剤として従来主流であった塩素の代替品として注目されている。二酸化塩素が低公害の殺菌消毒剤であるとはいえ、環境に悪影響を与えないようにするためには、上下水道、温泉水あるいは消毒液中における二酸化塩素の濃度を適切に測定し、厳密に管理する必要があるが、現在まで簡便かつ、高精度の測定方法はないというのが実情である。
【0003】
従来、例えば、回転式ポーラログラフ法を用いて二酸化塩素の測定を行うという技術が提案された(例えば、特許文献1参照)。この方法により、確かに二酸化塩素の濃度測定の精度が高まったと考えられるが、操作が煩雑で満足のいくものではなく、やはり二酸化塩素の濃度を簡便かつ、精度良く計測できる方法の開発が望まれていた。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2008−82853号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
[発明の目的]
本発明者は、二酸化塩素の研究を進めていく中で、二酸化塩素のある特性に着目し、蛍光タンパクを使えば二酸化塩素の濃度測定が可能になるかも知れないとの考えから鋭意検討を重ねた結果、オワンクラゲの緑色蛍光タンパク(以下「GFP」ともいう)を二酸化塩素で処理すると緑色蛍光は出なくなるという現象に気が付き、この現象を利用して二酸化塩素の濃度を測定できることを見出し、そして本発明に至った。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明に係る二酸化塩素濃度測定用タンパク質の特徴構成は、自身が保有する発色団の少なくとも一部が、二酸化塩素によって酸化されることにより蛍光強度が弱くなる蛍光タンパク質からなる点にある。
【0007】
本構成の二酸化塩素濃度測定用タンパク質は、二酸化塩素によって発色団の少なくとも一部が酸化的に修飾される。そして、その修飾度、すなわち二酸化塩素による影響の度合いによって蛍光強度が変化するので、その現象を利用して二酸化塩素の濃度を測定することができる。すでに電池式の手にひらに乗るような小さな蛍光光度計が市販されていることを考慮すると、本測定法で手軽に野外でも水中の二酸化塩素濃度が測定できる。なお、蛍光の励起波長は十分な蛍光の得られる波長であればよく、必ずしも398nmに限定されるものではない。また蛍光の測定波長511nmに限定されるものでなく、蛍光信号を検知できる波長であれば良い。
【0008】
本発明に係る二酸化塩素濃度測定用タンパク質の別の特徴構成は、分子内に、チロシン残基あるいはそれに類似した構造を持つ蛍光タンパク質からなり、二酸化塩素によって酸化されることにより蛍光強度が弱くなる点にある。
【0009】
本構成の二酸化塩素濃度測定用タンパク質は、分子内に、チロシン残基あるいはそれに類似した構造を持つ蛍光タンパク質からなり、二酸化塩素が当該構造(チロシン残基あるいはそれに類似した構造)を酸化的に修飾する。その結果、当該構造を持つ発色団が破壊され、蛍光強度は弱くなる。この蛍光強度は二酸化塩素濃度との間に負の相関関係があるため、蛍光の強さから二酸化塩素の濃度を測定することができる。
【0010】
本発明に係る二酸化塩素濃度測定用タンパク質は、前記蛍光タンパク質が、ウミホタル(Vargula hilgendorfii)、ヒオドシエビ(Oplophorus gracilirostris)、ヒカリウミエラ(Pennatula phosphorea)、オワンクラゲ(Aequorea victoria、Aequorea coerulescens)、ウミシイタケ(Renilla reniformis、Renilla koellikeri、Renilla muellerei)から単離されたものであることが好ましい。
【0011】
本構成の二酸化塩素濃度測定用タンパク質によれば、蛍光タンパク質を手軽に、また比較的安価に手に入れることができる。
【0012】
本発明に係る二酸化塩素濃度測定方法の特徴構成は、下記(1)〜(3)の工程を含む点にある。
(1)前記二酸化塩素濃度測定用タンパク質の所定量を、二酸化塩素の濃度が既知の試料溶液に配合し、蛍光強度を測定する工程
(2)異なる二酸化塩素濃度で以て上記(1)と同じ操作を行い、当該濃度における蛍光強度を測定する工程(濃度を変えてこの工程を、好ましくは複数回2回、3回、4回、あるいはそれ以上の回数繰り返す)
(3)上記(1)および(2)によって作成された検量線を用い、濃度未知の溶液の蛍光強度から二酸化塩素の濃度を求める工程
【0013】
本構成の二酸化塩素濃度測定方法にあっては、前記二酸化塩素濃度測定用タンパク質の所定量を、二酸化塩素の濃度が既知の試料溶液(二酸化塩素の標準溶液など)に配合して蛍光強度を測定する工程を複数回行う。そして、この測定によって従来公知の方法で作成された検量線を用い、濃度未知の溶液の蛍光強度から二酸化塩素の濃度を求める、といった簡便な、かつ精確な測定方法といえる。検量線は、従来公知の方法により作成できる。しかも、二酸化塩素が、濃度依存的に蛍光タンパク質における発色団の一部を酸化する(発色団におけるチロシン残基あるいはそれに類似した構造を酸化的に修飾する)ことを利用しているので、誤差が生じにくく、より一層精度良く計測できる方法といえる。
【発明を実施するための形態】
【0014】
蛍光タンパク質
本発明の測定用タンパク質における蛍光タンパク質としては、
1)自身が持つ発色団の少なくとも一部が酸化されることによって蛍光強度が弱くなるタンパク質、あるいは
2)分子内に、チロシン残基あるいはそれに類似した構造を持つ蛍光タンパク質からなり、二酸化塩素によって酸化されることにより蛍光強度が弱くなるタンパク質であれば使用可能である。
具体的には、たとえばウミホタル(Vargula hilgendorfii)、ヒオドシエビ(Oplophorus gracilirostris)、ヒカリウミエラ(Pennatula phosphorea)、オワンクラゲ(Aequorea victoria、Aequorea coerulescens)、ウミシイタケ(Renilla reniformis、Renilla koellikeri、Renilla muellerei)から単離された蛍光タンパク質(GFPなど)が挙げられる。
【0015】
蛍光タンパク質の配合割合としては特に限定されるものではないが、おおよそのところ、二酸化塩素の溶液(試料)100部(重量部、以下同様)に対し、10〜0.01重量部であることが好ましい。蛍光タンパク質の配合割合が10重量部を超えると、蛍光強度の変化が測定器で検出しにくいという問題が生じる可能性があり、また0.01重量部未満の場合、十分な蛍光を検出できないという問題が生じる可能性がある。なお、さらに好ましい範囲は、1〜0.1重量部である。
【0016】
波長
蛍光の測定波長や励起波長は、用いる蛍光タンパク質により変わるので一概には言えないが、蛍光信号を十分に検知できる波長であればよく、また十分な蛍光の得られる波長であれば特に限定はない。具体例を以下に示す。すなわち、GFP(蛍光波長:511nm、励起波長:398nm)、EGFP(蛍光波長:508nm、励起波長:489nm)、DsRed(蛍光波長:583nm、励起波長:558nm)、FSB(蛍光波長:511nm、励起波長:390nm)などである。
【実施例】
【0017】
実施例1(濃度測定の可能性)
反応最終濃度としてGFP(5ng/ml)、燐酸ナトリウム緩衝液(20mM,pH7.0)、NaCl(130mM)を混ぜる。この中に二酸化塩素を含む検体(検体の体積は、例えば0.1ml程度が好ましい。)を入れ、最終反応体積を3mlとして蛍光光度計にてGFPの蛍光を波長511nmにて測定する。励起波長は398nmとする。その結果、反応液中の最終濃度が67nMまで二酸化塩素を測定することができた。二酸化塩素の濃度を67nMから1000nMまで変えてGFPの蛍光強度を見た結果、下記[表1]に示すように、蛍光強度は二酸化塩素の濃度に依存して低下した。このことから、GFPの蛍光強度を計測することにより、水に溶けた二酸化塩素の濃度を測れることが分かった。なお、空気中などに存在する気体状の二酸化塩素は一旦、これを水の中に誘導し、水に二酸化塩素ガスを溶解させ、同様に測定すればよい。
【0018】
【表1】

【0019】
[表1]のデータから、検量線を最小二乗法による近似直線として求めた。その結果、Y=−0.082X+121の検量線を得た(相関係数は−0.9894)。
【0020】
実施例2(濃度既知の溶液における濃度測定)
次に、濃度が既知(15μM)の二酸化塩素水溶液0.1mlを反応溶液に添加し、その反応溶液中の最終濃度が500nMとなるようにし、その溶液について蛍光強度を4回測定した(蛍光波長:511nm、励起波長:398nm)。そして、上記した検量線により溶液中の二酸化塩素の濃度を求めた。結果を下記[表2]に示す。
【表2】

【0021】
上記[表2]から分かるように、GFPの蛍光強度を計測することにより、水溶液中の二酸化塩素の濃度が測定できることが分かった。
【0022】
実施例3(濃度未知の溶液における濃度測定)
次に、検体(二酸化塩素水溶液)を4つ作製し、4つの検体における二酸化塩素の濃度を測定者には知らせずに、上記実施例と同様の測定を行って二酸化塩素の濃度を求めた。結果を[表3]に示す。なお、実際の二酸化塩素の濃度を併記する。
【0023】
【表3】

【0024】
[表3]から分かるように、GFPの蛍光強度を計測し、検量線を用いることによって二酸化塩素濃度が測定できる。
蛍光の励起波長は十分な蛍光の得られる波長であればよく、必ずしも398nmに限定されるものではない。また蛍光の測定波長511nmに限定されるものでなく、蛍光信号を検知できる波長であれば良い。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
自身が保有する発色団の少なくとも一部が、二酸化塩素によって酸化されることにより蛍光強度が弱くなる蛍光タンパク質からなることを特徴とする二酸化塩素濃度測定用タンパク質。
【請求項2】
分子内に、チロシン残基あるいはそれに類似した構造を持つ蛍光タンパク質からなり、二酸化塩素によって酸化されることにより蛍光強度が弱くなることを特徴とする二酸化塩素濃度測定用タンパク質。
【請求項3】
前記蛍光タンパク質が、ウミホタル(Vargula hilgendorfii)、ヒオドシエビ(Oplophorus gracilirostris)、ヒカリウミエラ(Pennatula phosphorea)、オワンクラゲ(Aequorea victoria、Aequorea coerulescens)、ウミシイタケ(Renilla reniformis、Renilla koellikeri、Renilla muellerei)から単離されたものであることを特徴とする請求項1または2に記載の二酸化塩素濃度測定用タンパク質。
【請求項4】
下記(1)〜(3)の工程を含むことを特徴とする二酸化塩素濃度測定方法。
(1)請求項1〜3のいずれか一項に記載の二酸化塩素濃度測定用タンパク質の所定量を、二酸化塩素の濃度が既知の試料溶液に配合し、蛍光強度を測定する工程
(2)異なる二酸化塩素濃度で以て上記(1)と同じ操作を行い、当該濃度における蛍光強度を測定する工程
(3)上記(1)および(2)によって作成された検量線を用い、濃度未知の溶液の蛍光強度から二酸化塩素の濃度を求める工程

【公開番号】特開2012−188404(P2012−188404A)
【公開日】平成24年10月4日(2012.10.4)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−54654(P2011−54654)
【出願日】平成23年3月11日(2011.3.11)
【出願人】(391003392)大幸薬品株式会社 (20)
【Fターム(参考)】