説明

二酸化炭素の有機生成物への変換

本発明は、二酸化炭素を削減するための環境上有益な方法の様々な態様に関する。本発明による方法は、1つのセルコンパートメント中のアノード、例えば不活性金属の対電極と、電解質の水溶液及び1以上の置換又は非置換芳香族アミンの触媒も含有するもう1つのセルコンパートメント中の金属又はp型半導体のカソード電極とを含む分割電気化学セルで、二酸化炭素を電気化学的又は光電気化学的に還元して、その中で還元有機生成物を製造することを含む。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
関連出願の相互参照
本願は、2009年1月29日出願の米国仮出願第61/206,286号に基づく優先権を主張し、前記出願は引用によって本明細書に援用する。
【0002】
政府支援の陳述
本発明は、Natural Science Foundation認可番号CHE−0606475により、米国政府の支援を受けてなされた。米国政府は本発明に一定の権利を有する。
【背景技術】
【0003】
近年、産業、化石燃料燃焼、及び公益事業などから排出される高レベルの大気中二酸化炭素(CO)は、地球規模の気候変動と関連付けられている。二酸化炭素に起因する温室効果は地球温暖化現象の一因と指摘されている。多くの責任ある関係筋は、地球大気の状態は、地球温暖化効果の予測される悲惨な結末を回避するために、新規のみならず既存の二酸化炭素量の一部を大気から除去することが必要とされるような状態であると強く主張している。
【0004】
二酸化炭素削減のための様々な選択肢が提案されている。省エネルギーのほかに、炭素の回収と貯留(carbon capture and storage)、すなわちCOを排出源から分離し、それを長期(無期限)隔離のための貯蔵場所に輸送するプロセス、及び炭素隔離(carbon sequestration)、すなわちCOを地下に永久的に貯蔵するプロセスがこれまで最も注目を集めている。しかしながら、これらの技術は重大な課題に直面している上に、現在のところ費用効果的であるとはとても言えない。さらに、隔離は、COを地下に永久的に貯蔵することの未知の悪影響のために、深刻な環境懸念、法律問題及び規制問題を提起している。
【0005】
大気からの二酸化炭素除去に関する重要な問題は、拡散ガスの隔離及び濃縮に付随するエントロピーエネルギーに打ち勝つために非常に大きいエネルギーが投入されることである。前述のように、大気から二酸化炭素を除去するための現在の方策は、非効率的であるか、法外な費用がかかるか、又は塩素などの有毒副産物を生成するかのいずれかである。地球の二酸化炭素レベルを低下させ、新規二酸化炭素排出を削減するために、大気又はガスストリームから膨大な量の二酸化炭素を除去するための経済的に実行可能なプロセスの開発が依然として重要である。
【発明の概要】
【0006】
本発明の態様に従って、二酸化炭素を非常にわずかな過電圧で水溶液中で高度に還元された種に変換することを可能にする電極触媒システムを提供する。言い換えると、炭素−炭素及び/又は炭素−水素結合が水溶液中で非常に温和な条件下で最小限のエネルギーを利用して形成される。一部の態様において、必要なエネルギー入力は、システムの実施法に応じて代替エネルギー源又は可視光の直接使用によって生み出すことができる。
【0007】
本発明の態様において、二酸化炭素の還元は、芳香族へテロサイクリックアミン、例えばピリジニウム、イミダゾール及びそれらの置換誘導体によって適切に触媒される。これらの単純な有機化合物は、二酸化炭素から、ギ酸、ホルムアルデヒド、及びメタノールなどの有機生成物への水性多電子、多プロトン還元のための効果的で安定な均一電極触媒及び光電極触媒であることが見出されている。メタノールが製造される場合、二酸化炭素の還元は6e移動経路に沿って進行する。還元生成物の高いファラデー収率は、低い反応過電圧で電気化学システムでも光電気化学システムでも見出されている。
【0008】
従来、メタノールのような高還元生成物に達するには金属由来の多電子移動が必要と考えられていた。驚くべきことに、本発明の態様による単純な芳香族ヘテロサイクリックアミン分子は、金属ベースの多電子移動に代わる多電子移動によって、メタノールに至る途上で多数の異なる化学種を製造することができる。
【0009】
そこで、本発明は、二酸化炭素を削減するための環境上有益な方法の様々な態様に関する。本発明による方法は、二酸化炭素を、水性の電解質支持型分割電気化学セル、すなわち1つのセルコンパートメント中のアノード、例えば不活性金属の対電極と、1以上の置換又は非置換芳香族ヘテロサイクリックアミンの触媒を含有するもう1つのセルコンパートメント中の金属又はp型半導体の作用カソード電極とを含むセルで電気化学的又は光電気化学的に還元し、還元有機生成物を製造することを含む。COは、溶液を飽和するためにカソード電解質溶液中に連続的に通気される。
【0010】
電気化学的還元の場合、電極は、Au、Ag、Zn、Pd、Ga、Hg、In、Cd、Ti及びPtなどの任意の適切な金属電極から選ぶことができる。Pt及び水素化Pdが特に適切であることが見出されている。光電気化学的還元の場合、電極は、p−GaAs、p−GaP、p−InN、p−InP、p−CdTe、p−GaInP及びp−Siなどのp型半導体から適切に選ぶことができる。
【0011】
二酸化炭素を電気化学的又は光電気化学的に変換するための触媒は、任意の置換又は非置換芳香族ヘテロサイクリックアミンから選ぶことができる。適切なアミンは、少なくとも1個の環窒素を有する5又は6員環のヘテロ環である。例えば、ピリジン、イミダゾール及びそれらの置換誘導体は、電気化学的還元又は光電気化学的還元のいずれかのための触媒として特に適切であることが見出されている。また、他の芳香族アミン、例えばキノリンも有効な電極触媒であると想定されている。
【0012】
本発明は、添付の図面と共に本明細書中に提供された特定の態様の詳細な説明を参照することによって、より良く理解及び評価されるであろう。
【図面の簡単な説明】
【0013】
【図1】図1は、本発明の態様によるCOの電気化学的還元のフローチャートを示す。
【図2】図2は、本発明の態様によるCOの光電気化学的還元のフローチャートを示す。
【発明を実施するための形態】
【0014】
本発明の態様は、二酸化炭素からメタノール、ギ酸及びホルムアルデヒドなどの還元有機生成物への単純、効率的、及び経済的な変換に関する。
従来、二酸化炭素は光化学的又は電気化学的にギ酸に還元でき、その際ホルムアルデヒドとメタノールがごく少量形成されることは知られている。不均一触媒を用いる二酸化炭素の接触水素化も、メタノールを水のほかギ酸及びホルムアルデヒドと共にもたらす。同じく知られているのは、水素化アルミニウムリチウムなどの複合金属水素化物による二酸化炭素のメタノールへの還元であるが、これは極めて高価であるがゆえにメタノールのバルク製造には向かないプロセスである。このような公知の現行プロセスは高度にエネルギー消費的であり、二酸化炭素からメタノールなどの有機生成物への高収率で経済的な変換のための効率的な方法ではない。
【0015】
他方、本発明の態様による二酸化炭素の還元有機生成物への変換プロセスの使用は、大気中の主要温室ガスである二酸化炭素の顕著な削減、ひいては地球温暖化の緩和をもたらす可能性を有している。さらに、本発明は、好都合なことに、水素源などの余分な反応物を加える必要なしに、メタノール及び関連生成物を製造する。得られた生成物混合物は、更なる処理に関してほとんど必要ない。例えば、得られた1Mのメタノール溶液は燃料電池にそのまま使用できる。他の用途の場合、電解質塩及び水の単純な除去は容易に達成される。
【0016】
本発明の何らかの態様を詳細に説明するに先立ち、本発明は、当然のことながら、その適用が以下の説明に示された又は添付の図面に図示された本発明の構造又は機能の詳細に限定されないことは理解されよう。本発明は他の態様も可能であり、様々な様式で実施又は実行することができる。同じく当然のことながら、本明細書中で使用されている表現及び用語は、説明を目的としたものであって、制限と見なされるべきではないことも理解されよう。“including(含む)”、“comprising(含む)”、又は“having(有する)”及びそれらの変形などの用語の使用は、本明細書においては、その後にリストされている事項及びそれらの等価物のみならず追加の事項も包含することを意味する。さらに、別途記載のない限り、技術用語は従来的使用法に従って使用される。
【0017】
さらに、別途記載のない限り、技術用語は従来的使用法に従って使用される。標準的な化学用語の定義は、Carey及びSundbergの“ADVANCED ORGANIC CHEMISTRY 第4版”、Vols.A(2000)及びB(2001)、Plenum Press(ニューヨーク)のような参考文献に見つけることができる。別途示されない限り、当分野の技能範囲内の従来的な質量分析、NMR、分光測光、及びガスクロマトグラフィーの方法が採用される。本明細書中に記載の電気化学、分析化学、及び合成有機化学に関連して使用されている命名法(用語体系)、並びにそれらの実験室手順及び技術は、一般的に当該技術分野で公知のものである。しかしながら、本明細書で使用されている下記の定義は、技能を持つ実践者が本発明を理解するための一助として有用であろう。
【0018】
“アルキル”基は脂肪族炭化水素基のことである。アルキル部分は、“飽和アルキル”基(すなわちアルケンもアルキン部分もない)でも、少なくとも1つのアルケン又はアルキン部分を含有することを意味する“不飽和アルキル”部分でもよい。アルキル部分は、飽和であれ不飽和であれ、分枝でも、直鎖でも、又は環状でもよい。構造に応じて、アルキル基はモノラジカルのことも又はジラジカル(すなわちアルキレン基)のこともある。本明細書において、C〜Cという表示は、C〜C、C〜C、C〜C...C〜C10...C〜Cを含む。
【0019】
“アルキル”部分は、1〜30個の炭素原子を有しうる(本明細書中にそれが現れるときはいつでも、“1〜30”のような数値範囲はその所定範囲内の各整数を意味する;例えば“1〜30個の炭素原子”とは、アルキル基が1個の炭素原子、2個の炭素原子、3個の炭素原子など、30個までの(30を含む)炭素原子を有しうることを意味するが、本定義は、数値範囲が指定されていない用語“アルキル”の出現もカバーする)。“低級アルキル”部分は、1〜10個の炭素原子を有しうる。例えば、本明細書中に記載の化合物の低級アルキル基は、“C〜C10アルキル”又は同様の指定として表すことができる。ほんの一例を挙げると、“C〜C10アルキル”は、C〜Cアルキル、C〜Cアルキル、C〜C...C〜C10アルキルを含む。典型的な低級アルキル基は、メチル、エチル、プロピル、イソプロピル、ブチル、イソブチル、ターシャリーブチル、ペンチル、ヘキシル、エテニル、プロペニル、ブテニル、シクロプロピル、シクロブチル、シクロペンチル、シクロヘキシル、ヘプチル、オクチル、ノニル、及びデシルなどであるが、決してこれらに限定されない。低級アルキル基は置換されていても置換されていなくてもよい。
【0020】
“芳香族”という用語は、4n+2個(nは整数)のπ電子を含有する非局在π電子系を有する平面環のことを言う。芳香環は、5、6、7、8、9個、又は10個以上の原子によって形成されうる。芳香族化合物は置換されていてもよい。“芳香族”という用語は、炭素環式アリール(例えばフェニル)及びヘテロ環式アリール(又は“ヘテロアリール”もしくは“ヘテロ芳香族”)基(例えばピリジン)の両方を含む。該用語は、単環式又は縮合環多環式(すなわち隣接する炭素原子対を共有する環)基も含む。
【0021】
本明細書において“アリール”という用語は、環を形成している各原子が炭素原子である芳香環のことを言う。アリール環は、5、6、7、8、9個、又は10個以上の炭素原子によって形成されうる。アリール基は置換されていてもよい。アリール基の例は、フェニル、ナフタレニル、フェナントレニル、アントラセニル、フルオレニル、及びインデニルなどであるが、これらに限定されない。構造に応じて、アリール基はモノラジカルのことも又はジラジカル(すなわちアリーレン基)のこともある。
【0022】
本明細書において“環”という用語は、任意の共有結合的閉構造のことを言う。環は、例えば、炭素環(例えばアリール及びシクロアルキル)、ヘテロ環(例えばヘテロアリール及び非芳香族ヘテロ環)、芳香族(例えばアリール及びヘテロアリール)、及び非芳香族(例えばシクロアルキル及び非芳香族ヘテロ環)などを含む。環は置換されていてもよい。環は、環システムの一部を形成することもある。
【0023】
本明細書において“環システム”という用語は、2個以上の環であって、その環の2個以上が縮合されていることを言う。“縮合”という用語は、2個以上の環が1以上の結合を共有している構造のことを言う。
【0024】
“ヘテロアリール”、“ヘテロ芳香族”又は“芳香族ヘテロサイクリック”という用語は、窒素、酸素及び硫黄から選ばれる1以上の環ヘテロ原子を含むアリール基のことを言う。N含有“ヘテロ芳香族”又は“ヘテロアリール”部分は、環の骨格原子の少なくとも1つが窒素原子である芳香族基のことを言う。多環式ヘテロアリール基は縮合でも非縮合でもよい。N含有芳香族ヘテロサイクリック基の例示的実例は下記部分:
【0025】
【化1】

【0026】
などを含む。構造に応じて、ヘテロアリール基はモノラジカルのことも又はジラジカル(すなわちヘテロアリーレン基)のこともある。
“員環”という用語はあらゆる環状構造を包囲しうる。“員”という用語は、環を構成する骨格原子の数を示すことを意味する。従って、例えば、シクロヘキシル、ピリジン、及びピランは6員環で、シクロペンチル及びピロールは5員環である。
【0027】
“部分(moiety)”という用語は、分子の特定セグメント又は官能基のことを言う。化学部分は、多くの場合、分子中に埋め込まれた又は分子に付属した(ぶら下がった)化学的実体と認識されている。
【0028】
本明細書において、単独で数指定なしに出てくる置換基“R”は、本明細書中のある式において定義されている任意の置換基のことを言う。
本発明の態様による方法の下記説明においては、別途記載のない限り、プロセスステップは10℃〜50℃の温度及び1〜10気圧の圧力で実施される。また、本明細書中に引用されている何らかの数値範囲は、低値から高値までのすべての値を含む、例えば列挙された最低値と最高値の間の数値のすべての可能な組合せも本願においては明示されていると見なされる、ということも特に理解されるものとする。例えば、濃度範囲又は有益効果範囲が1%〜50%と記述されている場合、2%〜40%、10%〜30%、又は1%〜3%などの値も本明細書においては明示的に列挙されているものとする。これらは、具体的に意図されていることのほんの例である。
【0029】
さらに、本明細書中で引用したいずれかの特許又は特許文献を含むいずれかの参考文献が先行技術を構成していると認めているのでもない。特に、別途記載のない限り、本明細書中でのいずれかの文献への言及は、これらの文献のいずれかが米国又はいずれかその他の国において当該技術分野における共通の一般的知識の一部を形成していることの承認を構成するのでもないことは当然理解されるはずである。参考文献に関する何らかの論議はそれらの著者が主張していることを記述しているのであって、出願人は、本明細書中で引用されたあらゆる文献の正確さ及び適切性に異議を申し立てる権利を留保する。
【0030】
今回、ある種の電極触媒を用いて適応された二酸化炭素(CO)の電気化学的又は光電気化学的還元を使用すると、メタノール及び関連生成物が、COの量を基にして約60〜約100%、適切には約75〜90%、さらに適切には約85〜95%の高収率で製造されることが分かった。標準カロメル電極(SCE)に対して約−0.09〜−0.5Vの電位で、メタノールをカソードで良好なファラデー効率で製造することができる。
【0031】
COの還元の総体的反応は、
CO+ 2HO → CHOH + 3/2O
と表される。6e還元の場合、カソード及びアノードにおける反応は、
CO+ 6H6e→ CHOH + HO(カソード)
3HO → 3/2O+ 6H+ 6e(アノード)
である。
【0032】
図1及び2に、COから還元有機生成物への触媒電気化学的及び光電気化学的変換のための本発明の態様による一般的方法を示す。COの還元は分割された電気化学又は光電気化学セルで効率的な様式で適切に達成される。前記セルにおいて、第一のコンパートメントは不活性対電極であるアノードを含有し、第二のコンパートメントは作用カソード電極と1以上の置換又は非置換芳香族ヘテロサイクリックアミンとを含有する。コンパートメントは多孔性のガラスフリット又はその他のイオン伝導性ブリッジによって分離されている。どちらのコンパートメントもKClのような電解質の水溶液を含有する。COは、溶液を飽和するためにカソードの電解質溶液中に連続的に通気される。
【0033】
作用電極コンパートメントでは二酸化炭素が溶液中に連続的に通気される。一態様において、作用電極が金属の場合、作用電極の電位が一定、例えばSCEに対して−0.5V〜−0.9Vに保たれるように、セルに外部バイアスを印加する。別の態様において、作用電極がp型半導体の場合、電極は、電解中半導体のバンドギャップに等しいかそれより大きいエネルギーの光で適切に照射され、外部電気エネルギー源は必要ないか又は約500mVのわずかなバイアスが印加される。作用電極電位は一定、例えばSCEに対して−0.5〜+0.2Vに保持される。二酸化炭素の電気化学的還元のための電気エネルギーは、原子力及び代替(水力発電、風力、太陽光発電、地熱など)を含む従来のエネルギー源、太陽電池又はその他の非化石燃料源の電気から、その電源がセルに対して少なくとも1.6Vを供給するならば得ることができるが、この最小値は使用されるセルの内部抵抗に応じて調整されうる。
【0034】
好都合なことに、本発明の態様で使用される二酸化炭素は、化石燃料燃焼発電所又は工場からの排ストリーム、地熱又は天然ガス井又は大気自体など、あらゆる供給源から得ることができる。しかしながら、二酸化炭素は、それが大気中に放出される前にその濃縮発生点源から得るのが最も適切である。例えば、高濃度の二酸化炭素源は、天然ガスに5〜50%の量で高頻度に随伴しているもの、化石燃料(石炭、天然ガス、石油など)燃焼発電所の煙道ガス由来のもの、セメント工場のほぼ純粋なCO排気、及びエタノールの工業発酵に使用される発酵槽由来のものである。ある種の地熱蒸気も相当量のCOを含有している。言い換えれば、地熱井を含む様々な産業からのCO排出は現場で回収することができる。そのような排気からのCOの分離はよく開発されている。そこで、本発明の態様による既存の大気中COの回収及び使用は、COを再生可能な無限の炭素源にすることを可能にする。
【0035】
電気化学的変換の場合、COはPt及び水素化Pd電極などの金属電極を用いて水性媒体中で容易に還元されるが、Au、Ag、Zn、Ga、Hg、In、Cd及びTiなどの他の金属電極も有効でありうる。ファラデー効率は約100%に届くほど高いことが見出されている。
【0036】
光電気化学的変換の場合、COは、p−GaP、p−GaAs、p−InP、p−InN、p−WSe、p−CdTe、p−GaInP及びp−Siなどのp型半導体電極を用いて容易に還元される。
【0037】
本発明の態様において、COの電気化学的/光電気化学的還元は、水溶液中の均一触媒として、1以上の置換又は非置換芳香族ヘテロサイクリックアミンを利用する。芳香族ヘテロサイクリックアミンは、例えば、非置換及び置換ピリジン、ピロール、イミダゾール及びベンズイミダゾールなどである。置換ピリジン及びイミダゾールは、モノ及びジ置換ピリジン及びイミダゾールを含みうる。例えば、適切な触媒は、直鎖又は分枝鎖低級アルキル(例えばC〜C10)モノ及びジ置換化合物、例えば2−メチルピリジン、4−tertブチルピリジン、2,6−ジメチルピリジン(2,6−ルチジン);ビピリジン、例えば4,4’−ビピリジン;アミノ置換ピリジン、例えば4−ジメチルアミノピリジン;及びヒドロキシル置換ピリジン、例えば4−ヒドロキシ−ピリジン、並びに置換又は非置換キノリン又はイソキノリンなどでありうる。触媒は、ピラジン、ピリダジン及びピリミジンのような置換又は非置換二窒素ヘテロサイクリックアミンも適切に含みうる。
【0038】
一部の態様において、芳香族ヘテロサイクリックアミン触媒は、式1:
【0039】
【化2】

【0040】
[式中、環構造Wは、少なくとも1個の環窒素を有する芳香族5−又は6−員複素環で、窒素以外の1以上の環位でRによって置換されていてもよく;
そして、LはC又はNであり;RはHであり;LがNの場合、RはHであるか、又はLがCの場合、RはRであり;Rは任意の環炭素上の任意の置換基で、H、直鎖又は分枝鎖低級アルキル、ヒドロキシル、アミノ、ピリジルから独立して選ばれるか、又は2個のRはそれらが結合している環炭素と一緒になって縮合6員アリール環となり、そしてn=0〜4である]によって表すことができる。
【0041】
一部の態様において、置換又は非置換芳香族5−又は6−員ヘテロサイクリックアミンは、下記式(2)、(3)又は(4)によって表すことができる。例えば、本発明の態様による、環内に1個の窒素を有する6員複素環である触媒は、式(2):
【0042】
【化3】

【0043】
[式中、RはHであり;R、R、R及びRは、独立して、H、直鎖又は分枝鎖低級アルキル、ヒドロキシル、アミノであるか、又はそれらが結合している環炭素と一緒になって縮合6員アリール環となり;そしてRは、H、直鎖又は分枝鎖低級アルキル、ヒドロキシル、アミノ又はピリジルである]によって表される。
【0044】
本発明の態様による、環内に2個の窒素を有する6員ヘテロサイクリックアミンである触媒は、式(3):
【0045】
【化4】

【0046】
[式中、L、L及びLの1つはNであるが、他のLはCであり;RはHであり;LがNの場合、R10はHであり;LがNの場合、R11はHであり;及びLがNの場合、R12はHであり;そしてL、L又はLがCの場合、R10、R11、R12、R13及びR14は、直鎖又は分枝鎖低級アルキル、ヒドロキシル、アミノ又はピリジルから独立して選ばれる]によって表される。
【0047】
本発明の態様による、環内に1又は2個の窒素を有する5員ヘテロサイクリックアミンである触媒は、式(4):
【0048】
【化5】

【0049】
[式中、LはN又はCであり;R15はHであり;LがNの場合、R16はHであり、又はLがCの場合、R16、R17、R18、及びR19は、直鎖又は分枝鎖低級アルキル、ヒドロキシル、アミノ、又はピリジルから独立して選ばれるか、又はR17及びR18は、それらが結合している環炭素と一緒になって縮合6員アリール環となる]によって表される。
【0050】
適切には、芳香族ヘテロサイクリックアミン触媒の濃度は約1mM〜1Mである。電解質は、適切には、約0.5Mの濃度のKCl又はNaNOなどの塩である。溶液のpHは約pH3〜6、適切には約4.7〜5.6に維持される。
【0051】
金属電極において、ギ酸及びホルムアルデヒドは、6e還元生成物のメタノールへの経路中の中間生成物であり、芳香族アミンラジカル、例えばピリジニウムラジカルが両中間生成物の還元に役割を果たしていることが見出された。しかしながら、これらの中間生成物は、使用された特定の触媒に応じて、金属又はp型半導体電極におけるCO還元の最終生成物になることもできることが分かった。その他のC−C結合生成物も可能である。例えば、COの還元は、触媒として使用される特定の芳香族ヘテロサイクリックアミンに応じて、ホルムアルデヒド、ギ酸、グリオキサール、メタノール、イソプロパノール、又はエタノールを適切にもたらすことができる。言い換えると、本発明によれば、COの還元生成物は置換感受性である。従って生成物を選択的に製造することができる。例えば、4,4’−ビピリジンを触媒として使用するとメタノール及び/又は2−プロパノールを製造でき;ルチジン及びアミノ置換ピリジンは2−プロパノールを製造でき;ヒドロキシ−ピリジンはギ酸を製造でき;イミダゾールは条件に応じてメタノール又はギ酸を製造することができる。
【0052】
本明細書中に開示された二酸化炭素の効果的な電気化学的/光電気化学的還元は、改良された、効率的な、そして環境上有益な方法でメタノール及びその他の関連生成物を製造しながら、COによる気候変動(例えば地球温暖化)を緩和する新規方法を提供する。
【0053】
さらに、二酸化炭素還元のメタノール生成物は、有益にも、(1)便利及び安全な貯蔵及び取扱いを可能にする便利なエネルギー貯蔵媒体として;(2)メタノール燃料電池用など、輸送及び分配の容易な燃料として;及び(3)現在石油及びガス資源から得られている合成炭化水素及びそれらの生成物、例えばポリマー、バイオポリマー及びさらには動物飼料又はヒト食用に使用できるタンパク質などのための原料として使用することができる。重要なことは、エネルギーの貯蔵及び輸送材料としてのメタノールの使用は、そのような目的のために水素を使用することの多くの困難を取り除く。メタノールの安全性と汎用性は、開示された二酸化炭素の還元をさらに望ましいものにしている。
【実施例】
【0054】
本発明の態様を以下の実施例によってさらに説明するが、これらの実施例を本発明の範囲を制限するものと見なすべきではない。
実施例1:一般的な電気化学的方法
化学薬品及び材料:使用されたすべての化学薬品は純度>98%で、販売者(例えばAldrich)から受け取ったまま、さらに精製することなく使用した。脱イオン水又は高純度水(Nanopure、Barnstead)のいずれかを使用して電解質水溶液を調製した。
【0055】
電気化学システム:電気化学システムを、アノード及びカソード反応を分離するために標準的な2コンパートメント電解セルで構成した。コンパートメントを、多孔性のガラスフリット又はその他のイオン伝導性ブリッジによって分離した。0.5MのKCl(EMD>99%)を支持電解質として使用した。ピリジン、ピリジン誘導体、イミダゾール、イミダゾール誘導体などの所望の芳香族ヘテロサイクリックアミンを、約1mM〜1Mの濃度で使用した。
【0056】
作用電極は、Ptワイヤに接続された既知面積のPt箔(いずれもAldrich)又はPd箔(Johnson Matthey)からなるものであった。Pd電極は、1MのHSO中、15mAcm−2の電流密度で、約73Cが流れるまで水素化した。全ての電位は飽和カロメル参照電極(SCE)(Accumet)に対して測定した。三電極アセンブリは、同じくPtワイヤに接続されたPtメッシュ電極を配して完成させた。電解の前及び最中、CO(Airgas)を電解質に連続通気して溶液を飽和した。溶液の得られたpHは、使用される芳香族ヘテロサイクリックアミンに応じて、約pH3〜pH6、適切にはpH4.7〜pH5.6に維持された。例えば、一定のCO通気下で、4−ヒドロキシピリジン、ピリジン、及び4−tertブチルピリジンの10mM溶液のpHは、それぞれ4.7、5.28及び5.55であった。NMR実験用に、同位体濃縮15Nピリジン(>98%)及び13C NaHCO(99%)をCambridge Isotope Laboratories,Inc.から入手した。
【0057】
実施例2:一般的な光電気化学的方法
化学薬品及び材料:この作業に使用されたすべての化学薬品は分析グレード以上であった。脱イオン水又は高純度水(Nanopure、Barnstead)のいずれかを使用して電解質水溶液を調製した。
【0058】
光電気化学システム:光電気化学システムは、支持電解質として0.5MのKCl及び1mM〜1Mの触媒、例えば10mMのピリジン又はピリジン誘導体の入ったパイレックス製三つ口フラスコで構成した。光カソードは単結晶p型半導体で、使用前に2:1v/vの濃HNO:HCl浴中で約1〜2分間エッチングした。エッチングされたばかりの結晶の裏面にインジウム/亜鉛(2wt% Zn)はんだを用いてオーミックコンタクト(ohmic contact)を作った。次にこれを導電性銀エポキシ(Epoxy Technology H31)を用いて外部リードに接続し、これをガラス管で覆い、エポキシセメント(Loctite 0151 Hysol)を用いて絶縁して、半導体の前面のみが溶液に暴露されるようにした。全ての電位は飽和カロメル電極(Accumet)に対して参照された。三電極アセンブリは、還元CO生成物の再酸化を最小限にするために炭素棒の対電極を配して完成させた。すべての電解の間、CO(Airgas)を電解質に連続通気して溶液を飽和した。溶液の得られたpHは、約pH3〜pH6、例えばpH5.2に維持された。
【0059】
光源:4種類の異なる光源をp型半導体電極の照射に使用した。最初の電解実験では、Hg−Xeアークランプ(USHIO UXM 200H)をランプハウジング(PTI Model A−1010)に入れて使用し、PTI LTS−200電源装置によって電力供給した。同様に、Xeアークランプ(USHIO UXL 151H)も同じハウジングに入れて使用した。この場合、電極を様々な特定波長で照射するためにPTIモノクロメーターも併せて使用した。光ファイバー分光器(Ocean Optics S2000)又はシリコンフォトディテクタ(Newport 818−SL シリコンディテクタ)を用いてモノクロメーターを通って放射される相対結果出力(relative resulting power)を測定した。フラットバンド電位は、200W Hg−Xeランプを用いた様々な照射強度(3W/cm〜23W/cm)時の開回路光電圧(open circuit photovoltage)の測定によって得た。光電圧は、約6W/cmを超える強度で飽和することが観察された。量子収率測定のために、2種類の異なる発光ダイオード(LED)による照射下で電解を実施した。465nmで500mW±50mWの発光出力と20nmのfwhmを有する青色LED(Luxeon V Dental Blue,Future Electronics)を、Xitanium Driver(Advance Transformer Company)を用い、その最大定格電流700mAで駆動した。Fraenコリメートレンズ(Future Electronics)を用いて出力光を方向付けした。光電気化学セルのウィンドウに到達した得られた出力密度は、Scientech 364 サーモパイルパワーメーター及びシリコンフォトディテクタを用いた測定で、42mW/cmと測定された。測定された出力密度は、光電気化学セルの壁と電極との間の溶液層を通過するうちに光強度のロスがあるため、半導体面で観察された実際の出力密度より大きいと推定された。
【0060】
実施例3:電解生成物の分析
電気化学実験は、PAR 173ポテンシオスタット−ガルバノスタットと、他にPAR 379デジタルクーロメーター、PAR 273ポテンシオスタット−ガルバノスタット、又はDLK−60電気化学分析装置も共に用いて実施した。電解は、定電圧条件下で、各実験ごとに比較的類似量の電荷が流れるまで約6〜30時間行われた。
【0061】
ガスクロマトグラフィー:電解サンプルを、FID検出器を備えたガスクロマトグラフ(HP 5890 GC)を用いて分析した。最初に、支持電解質塩の除去をAmberlite IRN−150イオン交換樹脂を用いて達成した(使用前に有機人工物の不在を確保するためにTriton X−100の0.1%v/v水溶液中で撹拌することによるクリーニング、還元(Aldrich)、ろ過及び大量の水による濯ぎ、そして樹脂の最大温度(約60℃)未満での真空乾燥を行った後、サンプルを、DB−Waxカラム(Agilent Technologies,60m,1μmフィルム厚)を格納したGCに直接注入)。1mLのサンプルから塩を除去するのに約1gの樹脂を使用した。インジェクタ温度は200℃、オーブン温度は120℃、そして検出器温度は200℃に保持した。典型的な運転中、メタノール及びピリジンの溶出に関連するピークのみが観察された。
【0062】
分光測光:ホルムアルデヒド及びギ酸の存在についても、クロモトロプ酸アッセイによって測定した。手短に言うと、0.3gの4,5−ジヒドロキシナフタレン−2,7−ジスルホン酸二ナトリウム塩二水和物(Aldrich)の溶液を10mLの脱イオン水に溶解した後、濃硫酸で100mLに希釈した。次いで、ホルムアルデヒドの場合、1.5mLの分量を0.5mLのサンプルに加えた。ホルムアルデヒドの存在(577nmにおける吸光度)は、HP 8453 UV可視スペクトロメーターを用い、標準曲線に対して検出された。ギ酸の場合、0.5mL分量のサンプルを最初に約100mg片のMgワイヤと0.5mLの濃塩酸(10分間かけて少しずつ添加)で還元し、ホルムアルデヒドに変換してから上記クロモトロプ酸アッセイに従った。
【0063】
質量分析。全有機物を同定するために質量スペクトルデータも収集した。典型的な実験では、サンプルを超高真空チャンバに直接漏出させ、付属のSRS Residual Gas Analyzer(70eV及びエミッション電流1mAで運転するイオン化装置付き)によって分析した。サンプルは、比較可能なフラグメンテーションパターンを確保するために、同じ設定で得られた標準メタノールスペクトルに対して分析した。質量スペクトルデータにより、メタノールの存在が確認され、また、電解前の初期溶液に還元CO種が含有されていなかったことも証明された。照射下で24時間以上経過後も、水抑制のための励起スカルプティングパルス技術(excitation sculpting pulse technique)を備えた自動Bruker Ultrashield(登録商標)500 Plusスペクトロメーターを用いて照射が得られた後、電極の裏面を絶縁するのに使用されたエポキシが、電解質ボリュームのCO17NMRスペクトルの還元に虚偽の結果をもたらすような何らかの有機物質を浸出しなかったことも対照実験から示された。データ処理は、MestReNovaソフトウェアを用いて達成した。メタノール標準及び電解質サンプルの場合、メタノールの代表的シグナルは3.18〜3.30ppmの間で観察された。
【0064】
NMR:バルク電解後の電解質ボリュームのNMRスペクトルも、水抑制のための励起スカルプティングパルス技術を備えた自動Bruker Ultrashield(登録商標)500 Plusスペクトロメーターを用いて得た。データ処理は、MestReNovaソフトウェアを用いて達成した。バルク電解後に存在するホルメート及びメタノールの濃度は、アセトンを内部標準として用いて測定した。15N−13Cカップリング実験に関しては、最大13C感度に調整された自動Bruker Ultrashield(登録商標)500 Plusスペクトロメーターを用いて13C NMRスペクトルを得た。典型的実験では、10%酸化ジュウテリウム(Cambridge Isotope Laboratories,Inc.,>99.9%)、0.5MのKCl、50mMの15Nピリジン、及び33mMの13C NaHCOを含有する水溶液を、セプタムで封止されたNMR管内でまずArでパージした;次にpHを1MのHSOを用いてpH5.2に調整した。このpHで炭酸水素塩は完全に溶解13CO形であることが観察された。H13COに関連するピークは見られなかった。実験の温度は295°Kに維持されたが、機器の温度も、15N−13Cカップリングへの温度依存性にアクセスするように調整された。サンプル管は、温度平衡を確保するため、スペクトルを得る前に所定温度に少なくとも10分間保持された。275°K〜306°Kの温度範囲について試験した。
【0065】
実施例4:モノ置換ピリジンを用いた電解
様々なモノ置換ピリジンについて電解を実施した。これらの電極触媒を、50mLの水及び0.5MのKCl(支持電解質として)中に10mMの濃度で存在させた。カソードはPt又は水素化Pdのいずれかで、定電流的に50μAcm−2に保持され、COで飽和されていた。電解生成物は上記実施例3に記載の通りに分析した。結果は少なくとも3つの実験の平均であり、これを以下の表1に示す。
【0066】
【表1】

【0067】
実施例5:ジアルキル置換ピリジン(ルチジン)の電解
様々なジ置換ピリジン又はルチジンについて電解を実施した。これらの電極触媒を、50mLの水及び0.5MのKCl(支持電解質として)中に10mMの濃度で存在させた。カソードはPt又は水素化Pdのいずれかで、定電流的に50μAcm−2に保持され、COで飽和されていた。電解生成物は上記実施例3に記載の通りに分析した。結果は少なくとも3つの実験の平均であり、これを以下の表2に示す。
【0068】
【表2】

【0069】
実施例6:4,4’−ビピリジンの電解
10mMの4,4’−ビピリジンと支持電解質として0.5MのKClを含有する水溶液中で電解を実施した。pHは、CO飽和下で一定の5.22に維持された。結果は少なくとも3個の独立した実験の平均を表しており、これを以下の表3に示す。
【0070】
【表3】

【0071】
実施例7:ルチジン及びビピリジンの光電解
支持電解質として0.5MのKClを含む50mLの水中に10mMのルチジン又はビピリジン電極触媒を含有する水溶液中で光電解を実施した。pHは、CO飽和下で一定の4.7に維持された。光電気化学セルは、p−GaP、p−GaInP、又はp−Si光電極であった。p−GaPシステムの場合、最低エネルギー直接バンドギャップ2.8eVに対応するために365nmの波長が選ばれた。2.24eVの間接バンドギャップを有するp−GaPは約17%の太陽放射しか吸収できない。そこで、1.81eVの直接バンドギャップを有するp−GaInP光電極、及び1.12eVの間接バンドギャップを有するp−Siの両方を、貯蔵化学エネルギーに変換できる太陽放射のパーセンテージを増大できる可能性のある光電極として試験した。市販されている465nm及び530nmの波長をそれぞれp−GaInPセル及びp−Siセルの照射用として試験した。しかしながら、p−GaInP及びp−Siを励起するのには、それぞれ約685nm及び約1100nmまでの長さの波長が使用できる。
【0072】
4,4’−ビピリジンシステムの場合pH5.22でCOからメタノールへの還元のための熱力学的電位はSCEに対して約−0.52Vである。ルチジンをベースにしたシステムの場合pH5.55でこの電位はSCEに対して−0.54Vである。同様に、pH5.22及び5.55におけるCOから2−プロパノールへの熱力学的還元電位は、それぞれSCEに対して−0.52V及びSCEに対して−0.54Vである。ファラデー効率として与えられたバルク電解の結果を以下の表4に示す。
【0073】
【表4】

【0074】
ルチジン触媒については増強された収率が、4,4’−ビピリジニウムについては高収率が観察された。場合によっては、ほぼ100%のファラデー収率がCO誘導生成物に関して観察された。2−プロパノールの収率は、2,6−ルチジンを用いたp−GaP光電気化学システムに関して発明者らが知っている最高報告値の2−プロパノール収率を示し、63%もの高さの2−プロパノールのファラデー効率となった。メタノールと2−プロパノールに関して表4で報告されたデータは、SCEに対して−0.5V及びそれより高い電位であるが、本質的にゼロ過電圧、すなわちiR補償セルの短絡電位に近づいた電位で観察された。このことは、光エネルギーが高度に還元されたCO生成物の形態で貯蔵可能な化学エネルギーに変換されたことに対応する。発明者らが知る限り、これはエネルギーだけを使用したCOから2−プロパノールへの還元の最初の報告である。
【0075】
実施例9:イミダゾールの電解/光電解
ベンズイミダゾールを含む様々なイミダゾールについて電解を実施した。これらの電極触媒を、50mLの水及び0.5MのKCl(支持電解質として)中に10mMの濃度で存在させる。カソードはPt又は照射されたp−GaPで、定電流的に50μAcm−2に保持され、COで飽和されている。電解生成物は上記実施例3に記載の通りに分析される。
【0076】
実施例10:様々な温度及び圧力での電解/光電解
電解を様々な温度及び圧力で実施し、生成物及び収率に及ぼすそれらの影響を究明する。電解を10℃〜50℃の温度で実施する。結果は、電解反応の動力学(速度論)は温度の上昇に伴って増大し、ピーク電流は観察された活性化障壁10〜15kJ/moleを持つアレニウス速度則に従うことを示しているが、COの溶解度は温度の上昇に伴って減少する。
【0077】
電解を1気圧〜10気圧の圧力で実施する。結果は、生成物収率は高圧でCOの溶解度が増大するために圧力の増大に伴って増大しうることを示している。例えば、5atmにおける圧力データは、1atmと比べて電流の3.5倍の増加を示す。
【0078】
温度及び圧力は、効率的かつ高い生成物収率を得るために最適化することができる。
要約すると、本発明の態様は、最低限の電気(代替エネルギー源から発生させることができる)を使用するか又は可視光を直接使用して、二酸化炭素を効率的に付加価値生成物に変換できるということを提供する。本発明の態様のプロセスは、化石ベースでない高エネルギー密度燃料を生み出す。しかもそれは化石ベースでも生物ベースでもない化学原料にもなる。さらに、これらのプロセスのための触媒は置換基感受性であるので、付加価値生成物の選択性も提供する。
【0079】
上記の記述は、本発明の態様において明示された原理の例示にすぎないと見なされる。当業者には多くの修正及び変更が容易に思い浮かぶであろうから、示し記載したとおりの厳密な構成及び操作に本発明を限定することは望まない。従って、すべての適切な修正及び等価物は本発明の範囲内に含まれると見なされる。本発明の様々な特徴及び利点は添付の特許請求の範囲及びそれらの等価物に示される。本発明の範囲は、添付の特許請求の範囲と合法的に一致しうる最も広い解釈によってのみ制限されるものとする。
【0080】
本明細書に引用されたすべての出版物、特許及び特許出願は、本発明の関連する技術分野における通常の技能レベルを示している。すべての出版物、特許及び特許出願は、あたかも各個別の出版物又は特許出願が具体的及び個別的に引用によって示されたかのごとくと同じ程度に、引用によって本明細書に明示的に取り込まれる。本開示と、取り込まれた特許、出版物及び参考文献との間に不一致がある場合、本開示がコントロールすべきである。
【0081】
【表5−1】

【0082】
【表5−2】

【0083】
【表5−3】

【0084】
【表5−4】


【特許請求の範囲】
【請求項1】
二酸化炭素を変換して少なくとも1つの生成物を提供するための方法であって、
1つのセルコンパートメント中のアノードと、もう1つのセルコンパートメント中のカソード電極と、1以上の置換又は非置換芳香族ヘテロサイクリックアミンとを含む分割電気化学セルにおいて、二酸化炭素を還元することを含み、
ただし前記アミンは非置換ピリジンでなく、各コンパートメントは電解質の水溶液を含有する、上記方法。
【請求項2】
前記還元が、電気化学的又は光電気化学的である、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
前記還元が電気化学的であり、前記カソードが金属である、請求項2に記載の方法。
【請求項4】
前記金属が、Au、Ag、Zn、Ga、Hg、In、Cd、Ti、Pd又はPtである、請求項3に記載の方法。
【請求項5】
前記カソードが、Pt又は水素化Pdである、請求項4に記載の方法。
【請求項6】
前記還元が光電気化学的であり、前記カソードが照射に応答性のp型半導体である、請求項2に記載の方法。
【請求項7】
前記半導体が、p−GaP、p−GaAs、p−InP、p−InN、p−WSe、p−CdTe、p−GaInP又はp−Siである、請求項6に記載の方法。
【請求項8】
エネルギーが、カソードを光エネルギーで照射することによってセルに供給される、請求項6に記載の方法。
【請求項9】
前記芳香族ヘテロサイクリックアミン触媒が、式1:
【化1】

[式中、環構造Wは、少なくとも1個の環窒素を有する芳香族5−又は6−員複素環で、窒素以外の1以上の環位でRによって置換されていてもよく;そして、
LはC又はNであり;RはHであり;LがNの場合、RはHであるか又はLがCの場合、RはRであり、Rは任意の環炭素上の任意の置換基であってH、直鎖又は分枝鎖低級アルキル、ヒドロキシル、アミノ、ピリジルから独立して選ばれるか、又は2個のRはそれらが結合している環炭素と一緒になって縮合6員アリール環となり;そしてn=0〜4である]によって表され、ただし式1の触媒は非置換ピリジンでない、請求項1に記載の方法。
【請求項10】
前記芳香族ヘテロサイクリックアミン触媒が、式2:
【化2】

[式中、RはHであり;R、R、R及びRは、独立して、H、直鎖又は分枝鎖低級アルキル、ヒドロキシル、アミノであるか、又は一緒になって縮合6員アリール環となり;そしてRは、H、直鎖又は分枝鎖低級アルキル、ヒドロキシル、アミノ又はピリジルであり;ただしR、R、R、R、及びRはすべてがHではない]によって表される、請求項9に記載の方法。
【請求項11】
式1の前記アミンが、低級アルキル置換ピリジン、低級アルキルアミノ置換ピリジン、非置換ビピリジン、低級アルキル置換ビピリジン、ヒドロキシ−ピリジン、ヒドロキシ−ビピリジン、又は低級アルキルアミノ置換ビピリジンである、請求項5に記載の方法。
【請求項12】
前記アミンが、tertブチル−ピリジン、ジメチル−ピリジン、2,6−ルチジン、2−メチルピリジン、4−メチルピリジン、ジメチルアミノ−ピリジン、4−ヒドロキシピリジン、又は4,4’−ビピリジンである、請求項7に記載の方法。
【請求項13】
前記芳香族ヘテロサイクリックアミンが、式3:
【化3】

[式中、L、L又はLの1つはNで、他のLはCであり;RはHであり;LがNの場合、R10はHであり;LがNの場合、R11はHであり;及びLがNの場合、R12はHであり;そしてL、L又はLがCの場合、R10、R11、R12、R13及びR14は、直鎖又は分枝鎖低級アルキル、ヒドロキシル、アミノ又はピリジルから独立して選ばれる]によって表される、請求項9に記載の方法。
【請求項14】
前記芳香族ヘテロサイクリックアミンが、ピラジン、ピリダジン又はピリミジンである、請求項13に記載の方法。
【請求項15】
前記芳香族ヘテロサイクリックアミンが、式4:
【化4】

[式中、LはN又はCであり;R15はHであり;LがNの場合、R16はHであり;又はLがCの場合、R16、R17、R18、及びR19は、直鎖又は分枝鎖低級アルキル、ヒドロキシル、アミノ、又はピリジルから独立して選ばれるか、又はR17及びR18は、それらが結合している環炭素と一緒になって縮合6員アリール環となる]によって表される、請求項9に記載の方法。
【請求項16】
前記芳香族ヘテロサイクリックアミンが、イミダゾール又はピロールである、請求項15に記載の方法。
【請求項17】
二酸化炭素を電気化学的又は光電気化学的に還元して少なくとも1つの生成物を製造するためのシステムであって、
アノードを含有する第一のコンパートメントと、金属又はp型半導体であるカソードを有する第二のコンパートメントと、置換又は非置換芳香族ヘテロサイクリックアミンである触媒とを含み、両コンパートメントとも水性電解質を含有する電気化学セルと;
二酸化炭素をカソードに供給するための供給源と;そして
二酸化炭素を還元するためにセルに供給されるエネルギー源と;
を含む、上記システム。
【請求項18】
前記金属が、Au、Ag、Zn、Ga、Hg、In、Cd、Ti、Pd又はPtである、請求項17に記載のシステム。
【請求項19】
前記カソードが、Pt又は水素化Pdである、請求項18に記載のシステム。
【請求項20】
前記還元が光電気化学的であり、前記カソードが照射に応答性のp型半導体である、請求項17に記載のシステム。
【請求項21】
前記半導体が、p−GaP、p−GaAs、p−InP、p−InN、p−WSe、p−CdTe、p−GaInP又はp−Siである、請求項20に記載のシステム。
【請求項22】
前記エネルギーが、カソードを光エネルギーで照射することによってセルに供給される、請求項17に記載のシステム。
【請求項23】
前記光エネルギーが、電気エネルギーに変換される、請求項17に記載のシステム。
【請求項24】
前記置換又は非置換芳香族ヘテロサイクリックアミンが、式1:
【化5】

[式中、環構造Wは、少なくとも1個の環窒素を有する芳香族5−又は6−員複素環で、窒素以外の1以上の環位でRによって置換されていてもよく;そして、
LはC又はNであり;RはHであり;LがNの場合、RはHであるか又はLがCの場合、RはRであり、Rは任意の環炭素上の任意の置換基で、H、直鎖又は分枝鎖低級アルキル、ヒドロキシル、アミノ、ピリジルから独立して選ばれるか、又は2個のRはそれらが結合している環炭素と一緒になって縮合6員アリール環となり;そしてn=0〜4である]によって表される、請求項1に記載のシステム。
【請求項25】
式1の前記アミンが、低級アルキル置換ピリジン、低級アルキルアミノ置換ピリジン、非置換ビピリジン、低級アルキル置換ビピリジン、ヒドロキシ−ピリジン、ヒドロキシ−ビピリジン、低級アルキルアミノ置換ビピリジン、非置換又は置換キノリン又はイソキノリン、非置換又は置換イミダゾール、又はベンズイミダゾール、又は置換又は非置換ピロールである、請求項17に記載のシステム。
【請求項26】
前記少なくとも1つの生成物が、メタノール、イソプロパノール、ギ酸、ホルムアルデヒド、グリオキサール又はエタノールである、請求項17に記載のシステム。
【請求項27】
二酸化炭素を、化石燃料燃焼発電所又は工場からの排ストリーム、天然ガスに随伴する供給源、又は地熱井から得ることをさらに含む、請求項1に記載の方法。
【請求項28】
二酸化炭素を電気化学的に還元するための前記電気エネルギーが、原子力、水力発電、風力、地熱又は太陽光発電に基づいた従来エネルギー源から供給される、請求項1に記載の方法。
【請求項29】
任意の利用可能な供給源の二酸化炭素を電気化学的又は光電気化学的に還元することによってメタノールを製造する環境上有益な方法であって、
第一のセルコンパートメント中のアノードと、1以上の置換又は非置換芳香族ヘテロサイクリックアミンである触媒も含有する第二のセルコンパートメント中のカソード電極とを含み、両コンパートメントは電解質の水溶液を含有する分割電気化学セルを用意し;
二酸化炭素を既存の供給源から第二のセルコンパートメントに供給し;
第二のセルコンパートメント中の二酸化炭素を電気化学的又は光電気化学的に還元してメタノールを製造し、大気中二酸化炭素を削減する;
ことを含む、上記方法。

【図1】
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【図2】
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【公表番号】特表2012−516392(P2012−516392A)
【公表日】平成24年7月19日(2012.7.19)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−548341(P2011−548341)
【出願日】平成22年1月29日(2010.1.29)
【国際出願番号】PCT/US2010/022594
【国際公開番号】WO2010/088524
【国際公開日】平成22年8月5日(2010.8.5)
【出願人】(510109154)プリンストン ユニバーシティー (2)
【Fターム(参考)】