説明

二酸化炭素共存下でのエチルベンゼン脱水素反応用触媒およびこれを用いたスチレンの製造方法

【課題】エチルベンゼンを二酸化炭素共存下で脱水素反応させることによりスチレンモノマーを製造する方法において、状来より更に高性能な触媒を提供する。
【解決手段】酸化鉄および酸化アルミニウムを主成分とする触媒に、カリウムを含有する、二酸化炭素共存下でのエチルベンゼン脱水素反応用触媒。触媒全体を100重量%とするとき、カリウム含有量を好ましくは1〜15重量%とする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、エチルベンゼンを二酸化炭素共存下で脱水素反応させることによりスチレンモノマーを製造するために使用する触媒およびこの触媒を用いたスチレンの製造方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来、スチレンモノマーを工業的に製造するには、エチルベンゼンを、大量の水蒸気共存下に、酸化鉄とカリウムを主成分とする触媒上に600℃程度の温度で接触させる方法が採用されている(非特許文献1)。
【0003】
しかしながら、この方法は、(i)大量の水蒸気を共存させるために、エネルギー消費量が大きいこと、(ii)スチレンモノマーの単通収率を高くするために、反応を減圧下で行う必要があること、(iii)反応中に触媒中のカリウムの揮散がおこることなど、改善すべき点も指摘されている。
【0004】
これらの問題点を解決するために、本発明者らは、先に水蒸気の代わりに、二酸化炭素を共存ガスに用いることにより、(イ)従来のプロセスよりエネルギー消費量が低くなる、(ロ)スチレンモノマーの単通収率が高くなる可能性を報告している(非特許文献2)。
【0005】
しかしながら、この二酸化炭素を用いる新しい方法においても、優れた触媒が必要とされており、本発明者らは、既に、酸化鉄、酸化カルシウムおよび酸化アルミニウムからなる触媒(特許文献1)、酸化鉄、酸化アルミニウムおよび酸化セリウムを必須成分とする触媒(特許文献2)および酸化鉄、酸化アルミニウムおよび酸化イットリウムを必須成分とする触媒(特許文献3)を開発した。
【0006】
【非特許文献1】触媒、38巻、7号、572〜579(1996)
【非特許文献2】Catalysis Today, 55(2000)173-178
【特許文献1】特許第3032816号公報
【特許文献2】特開2003−117394号公報
【特許文献3】特開2004−50111号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明は、かかる特許発明を更に発展・飛躍させたものであり、エチルベンゼンを二酸化炭素共存下で脱水素反応させることによりスチレンモノマーを製造する方法において、更に高性能な触媒を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明者は、酸化鉄および酸化アルミニウムを主成分とする触媒の性能に及ぼす種々の添加物の影響を検討した結果、意外にもカリウムを添加することにより、触媒の活性を向上できることを見い出した。
【0009】
即ち、本発明によれば、第一に、酸化鉄および酸化アルミニウムを主成分とし更にカリウムを含有することを特徴とする二酸化炭素共存下でのエチルベンゼン脱水素反応用触媒が提供される。
第二に、酸化鉄および酸化アルミニウムを主成分とする触媒全体を100重量%とするとき、含有されるカリウムが1〜15重量%であることを特徴とする上記第一に記載のエチルベンゼンベンゼン脱水素反応用触媒が提供される。
第三に、エチルベンゼンを二酸化炭素共存下で脱水素反応させることによりスチレンを製造する方法において、触媒として上記第一又は第二に記載の触媒を用いることを特徴とするスチレンの製造方法が提供される。
【発明の効果】
【0010】
本発明の触媒は、酸化鉄および酸化アルミニウムを主成分とし、更にカリウムを含有することから、二酸化炭素共存下でのエチルベンゼン脱水素反応を著しく高めることができる。従って、エチルベンゼンからスチレンモノマーを工業的有利に製造することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0011】
本発明の触媒は、酸化鉄および酸化アルミニウムを主成分とする触媒に、更にカリウムが含有されていることを特徴とする。
【0012】
補助成分として含有させたカリウムの作用の内容は現時点では完全には明らかになっているわけではないが、カリウムが塩基性を示すことにより、反応中の触媒表面に二酸化炭素を吸着し、脱水素反応により生成する水素と二酸化炭素との反応を促進するものと推察している。
【0013】
カリウムの添加量は、特に限定されないが、酸化鉄および酸化アルミニウムを主成分とする触媒全体を100重量%とするとき、1〜15重量%とされる。このような量的範囲において、組成を反応条件に応じて適切に定めることにより、その反応条件に適した触媒性能を得ることができる。
【0014】
添加するカリウムの原料としては、水酸化物、炭酸塩、炭酸水素塩、硝酸塩、有機酸塩等を用いることができる。触媒へのカリウムの添加は、含浸法などの公知の方法により行なうことができる。カリウムを含有する触媒前駆体を調製し、次いで、触媒前駆体を空気中で焼成することによりカリウム添加触媒が製造できる。触媒前駆体の焼成温度は、特に限定しないが、300〜1000℃の範囲が好ましく、400〜800℃が特に好ましい。
【0015】
このようにして製造されたカリウム添加触媒は、そのままで、あるいは適当な方法により造粒または打錠成型して用いる。触媒の粒子径や形状は、反応方式、反応器の形状によって任意に選択できる。すなわち、本発明による触媒は、固定床、流動床等いずれの反応方式においても用いることができる。
【0016】
また、本発明の触媒は、主成分として酸化鉄および酸化アルミニウムを補助成分としてカリウムが含有するものであるが、他の添加成分として発明者らが、既に開発した酸化カルシウム、酸化セリウム、酸化イットリウムを含むことができる。また、本発明の反応を損なわない範囲で、他の物質を含有させてもよい。このような物質としては、たとえば、酸化マグネシウム、酸化マンガン、酸化珪素、酸化ランタンなどが挙げられる。
【0017】
本発明によるカリウム添加触媒を用いて、エチルベンゼンの脱水素反応によりスチレンを製造する際の反応条件は、特許第3032816号公報あるいは特開2003−117394号公報に記載された反応条件と同様であるが、二酸化炭素のエチルベンゼンに対する割合は、エチルベンゼン1モルあたり、0.1〜100モル、好ましくは1〜50モル、反応温度は500〜650℃の範囲、好ましくは、530〜630℃、反応圧力は、加圧、常圧、減圧のいずれでも良く、好ましくは0.2〜1.5気圧(絶対圧力)である。また、本発明の触媒は、一定時間使用後に活性が低下した場合には、空気中で再度焼成することによりその性能を回復させることができる。
【実施例】
【0018】
以下、実施例をあげて本発明の特徴とするところをより一層明確にする。
【0019】
実施例1
硝酸鉄九水和物8.0g、硝酸アルミニウム九水和物105.1gを蒸留水に溶解し、300mlの水溶液を調製し、A液とした。一方、無水炭酸ナトリウム52.5gを蒸留水に溶解し、300mlの水溶液を調製し、B液とした。A液およびB液を、それぞれ、8ml/分の速度で良く攪拌した800mlの室温の蒸留水に、同時に滴下して沈殿物を得た。この沈殿物を室温にて1日間熟成させた後、ろ過、洗浄を行い、沈殿物中のナトリウムを除去した。その後、沈殿物を110℃で乾燥し、空気中、750℃で2時間焼成した。この焼成後の酸化物の組成は、酸化鉄10重量%、酸化アルミニウム90重量%であった。次に、焼成後の酸化物2.5gに、0.845重量%の水酸化カリウム水溶液15.6gを添加し、110℃で乾燥し、250〜600μmに粒度調製して、触媒とした。この触媒の組成は、酸化鉄9.5重量%、酸化アルミニウム85.5重量%、水酸化カリウム5重量%であった。
【0020】
得られた触媒2gを反応管に充填し、二酸化炭素中で反応温度に昇温した後、20容量%のエチルベンゼン蒸気および80容量%の二酸化炭素からなる混合ガスを触媒層に通して、圧力0.1MPa、混合ガス流量28ml/分、温度580℃の条件下に上記混合ガスを反応させた。反応生成ガスを−1℃で冷却して得られた液体成分をガスクロマトグラフで分析した。その結果、反応経過時間5時間後において、スチレン収率62%、スチレン選択率94%であった(表1参照)。
【0021】
実施例2
硝酸鉄九水和物3.9g、硝酸アルミニウム九水和物108.9gを蒸留水に溶解し、300mlの水溶液を調製し、A液とした。一方、無水炭酸ナトリウム52.5gを蒸留水に溶解し、300mlの水溶液を調製し、B液とした。A液およびB液を、それぞれ、8ml/分の速度で良く攪拌した800mlの室温の蒸留水に、同時に滴下して沈殿物を得た。この沈殿物を室温にて1日間熟成させた後、ろ過、洗浄を行い、沈殿物中のナトリウムを除去した。その後、沈殿物を110℃で乾燥し、空気中、750℃で2時間焼成した。この焼成後の酸化物の組成は、酸化鉄5重量%、酸化アルミニウム95重量%であった。次に、焼成後の酸化物2.5gに、0.845重量%の水酸化カリウム水溶液15.6gを添加し、110℃で乾燥し、250〜600μmに粒度調製して、触媒とした。この触媒の組成は、酸化鉄4.8重量%、酸化アルミニウム90.2重量%、水酸化カリウム5重量%であった。
【0022】
得られた触媒2gを反応管に充填し、実施例1と同様にエチルベンゼンの脱水素反応を行った。その結果、反応経過時間5時間後において、スチレン収率51%、スチレン選択率94%であった(表1参照)。
【0023】
実施例3
実施例2で調製した焼成後の酸化物2.5gに、0.845重量%の水酸化カリウム水溶液32.9gを添加し、110℃で乾燥し、250〜600μmに粒度調製して、触媒とした。この触媒の組成は、酸化鉄4.5重量%、酸化アルミニウム85.5重量%、水酸化カリウム10重量%であった。
【0024】
得られた触媒2gを反応管に充填し、実施例1と同様にエチルベンゼンの脱水素反応を行った。その結果、反応経過時間5時間後において、スチレン収率66%、スチレン選択率94%であった(表1参照)。
【0025】
実施例4
硝酸鉄九水和物2.3g、硝酸アルミニウム九水和物110.4gを蒸留水に溶解し、300mlの水溶液を調製し、A液とした。一方、無水炭酸ナトリウム52.5gを蒸留水に溶解し、300mlの水溶液を調製し、B液とした。A液およびB液を、それぞれ、8ml/分の速度で良く攪拌した800mlの室温の蒸留水に、同時に滴下して沈殿物を得た。この沈殿物を室温にて1日間熟成させた後、ろ過、洗浄を行い、沈殿物中のナトリウムを除去した。その後、沈殿物を110℃で乾燥し、空気中、750℃で2時間焼成した。この焼成後の酸化物の組成は、酸化鉄3重量%、酸化アルミニウム97重量%であった。次に、焼成後の酸化物2.5gに、0.845重量%の水酸化カリウム水溶液15.6gを添加し、110℃で乾燥し、250〜600μmに粒度調製して、触媒とした。この触媒の組成は、酸化鉄2.9重量%、酸化アルミニウム92.1重量%、水酸化カリウム5重量%であった。
【0026】
得られた触媒2gを反応管に充填し、実施例1と同様にエチルベンゼンの脱水素反応を行った。その結果、反応経過時間5時間後において、スチレン収率35%、スチレン選択率94%であった(表1参照)。
【0027】
実施例5
硝酸鉄九水和物8.1g、硝酸アルミニウム九水和物94.3g、硝酸カルシウム6.7gを蒸留水に溶解し、300mlの水溶液を調製し、A液とした。一方、無水炭酸ナトリウム50.8gを蒸留水に溶解し、300mlの水溶液を調製し、B液とした。A液およびB液を、それぞれ、8ml/分の速度で良く攪拌した800mlの室温の蒸留水に、同時に滴下して沈殿物を得た。この沈殿物を室温にて1日間熟成させた後、ろ過、洗浄を行い、沈殿物中のナトリウムを除去した。その後、沈殿物を110℃で乾燥し、空気中、750℃で2時間焼成した。この焼成後の酸化物の組成は、酸化鉄10重量%、酸化アルミニウム80重量%、酸化カルシウム10重量%であった。次に、焼成後の酸化物2.5gに、0.845重量%の水酸化カリウム水溶液15.6gを添加し、110℃で乾燥し、250〜600μmに粒度調製して、触媒とした。この触媒の組成は、酸化鉄9.5重量%、酸化アルミニウム76重量%、酸化カルシウム9.5重量%、水酸化カリウム5重量%であった。
【0028】
得られた触媒2gを反応管に充填し、実施例1と同様にエチルベンゼンの脱水素反応を行った。その結果、反応経過時間10時間後において、スチレン収率59%、スチレン選択率94%であった(表1参照)。
【0029】
比較例1
実施例4で調製した水酸化カリウムを添加する以前の焼成後の酸化物を触媒として(この触媒の組成は、実施例4に記載したように、酸化鉄3重量%、酸化アルミニウム97重量%であった)、この触媒2gを反応管に充填し、実施例1と同様にエチルベンゼンの脱水素反応を行った。その結果、反応経過時間5時間後において、スチレン収率12%、スチレン選択率90%であった(表1参照)。
【0030】
【表1】


【特許請求の範囲】
【請求項1】
酸化鉄および酸化アルミニウムを主成分とし更にカリウムを含有することを特徴とする二酸化炭素共存下でのエチルベンゼン脱水素反応用触媒。
【請求項2】
酸化鉄および酸化アルミニウムを主成分とする触媒全体を100重量%とするとき、含有されるカリウムが1〜15重量%であることを特徴とする請求項1に記載のエチルベンゼンベンゼン脱水素反応用触媒。
【請求項3】
エチルベンゼンを二酸化炭素共存下で脱水素反応させることによりスチレンを製造する方法において、触媒として請求項1又は2に記載の触媒を用いることを特徴とするスチレンの製造方法。

【公開番号】特開2006−116438(P2006−116438A)
【公開日】平成18年5月11日(2006.5.11)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2004−307368(P2004−307368)
【出願日】平成16年10月21日(2004.10.21)
【出願人】(301021533)独立行政法人産業技術総合研究所 (6,529)
【Fターム(参考)】