説明

二酸化炭素分離膜、二酸化炭素分離膜用支持体、及びこれらの製造方法

【課題】二酸化炭素の分離性能に優れ且つ寿命の長い二酸化炭素分離膜、及び該二酸化炭素分離膜に適した二酸化炭素分離膜用支持体、並びにこれらの製造方法を提供する。
【解決手段】水溶性ポリマー及び二酸化炭素キャリアを含む二酸化炭素分離層と、疎水性の多孔質基材及び、前記多孔質基材の少なくとも一方の面に設けられた親水性基を有する高分子被膜を備え、前記高分子被膜を介して前記二酸化炭素分離層と接し、前記二酸化炭素分離層を支持する多孔質支持体と、を備えた二酸化炭素分離膜。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、二酸化炭素分離膜、二酸化炭素分離膜用支持体、及びこれらの製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
複数の成分が混合したガスから二酸化炭素を選択的に分離する膜技術(以下「膜分離法」と言う。)が開発されている。膜分離法は、膜で区画された2つの領域の二酸化炭素分圧により分離を行う方法で、エネルギー消費が少なく、且つ設置面積がコンパクトな利点を有する。また、システムの能力の拡縮にフィルターユニットの増減で対応できるため、スケーラビリティーに優れる。
【0003】
膜分離法に用いられる二酸化炭素分離膜は、溶解拡散膜と促進輸送膜とに大別される。溶解拡散膜を用いた膜分離法は、二酸化炭素と他のガスとの、膜に対する溶解性及び膜中の拡散性の差を利用して分離を行う。促進輸送膜を用いた膜分離法は、膜中に含有された二酸化炭素キャリア(二酸化炭素と親和性を有する物質)によって、二酸化炭素を膜のガス供給側から反対側に輸送し、分離を行う。
溶解拡散膜は、二酸化炭素と他のガスとの膜に対する溶解度と拡散速度の差により分離を行うため、膜の材質・物性が決まればガスの分離度合いは一義的に決定される。また、膜厚が薄いほど二酸化炭素の透過速度が大きくなるため、一般的に層分離法や界面重合法などを適用して1μm以下の薄膜として製造される。
これに対して促進輸送膜は、二酸化炭素キャリアを膜中に含有することにより、二酸化炭素の溶解度を飛躍的に増大させ高濃度で輸送を行う。したがって、一般的に溶解拡散膜よりも分離度合いが高く、また二酸化炭素の透過速度が速い。また、膜中の二酸化炭素濃度が高濃度であることから、膜中の二酸化炭素の拡散が律速になることは稀であり、分離度合いを上げる点からは1μm以上の厚膜とすることが好ましい。
【0004】
これまで、促進輸送膜の性能を向上させるために、膜の安定性や二酸化炭素キャリアの保持性を高める技術が開発され、下記のような二酸化炭素分離膜が提案されている。
例えば、多孔質高分子膜をプラズマ処理した後、親水性ビニルモノマー蒸気をそのプラズマ処理された多孔質高分子膜に接触させてグラフト重合させ、次いでこのようにして得られた親水性重合体表面層を有する多孔質高分子膜に二酸化炭素キャリア液を含浸保持させて得た二酸化炭素分離膜が開示されている(例えば、特許文献1参照)。
また、未架橋のビニルアルコール−アクリル酸塩共重合体水溶液を、二酸化炭素透過性支持体上へ膜状に塗布した後、加熱し、架橋させて水不溶化し、この水不溶化物に、二酸化炭素キャリアを含む水溶液を吸収させてゲル化して得た二酸化炭素分離膜が開示されている(例えば、特許文献2参照)。
ほかに、ポリビニルアルコール−ポリアクリル酸共重合体ゲル膜に炭酸セシウム等を添加したゲル層を親水性の多孔膜に担持させた二酸化炭素分離膜が開示されている(例えば、特許文献3参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開平7−60078号公報
【特許文献2】特公平7−102310号公報
【特許文献3】特開2009−195900号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、特許文献1〜3に開示された二酸化炭素分離膜は、使用にともない分離性能の低下がみられる。市場においては、より寿命の長い二酸化炭素分離膜が望まれている。
【0007】
また、従来、二酸化炭素分離膜は、二酸化炭素の溶解反応に着目して、二酸化炭素キャリアの種類が検討されてきた。例えば、炭酸セシウムは優れた分離性能を示す二酸化炭素キャリアであるが、いくらその量を増やしても分離性能はある量で飽和してしまう。さらに、湿熱経時した後、炭酸セシウムは二酸化炭素キャリアを含む層から支持体へ染み出して分離性能が悪化する現象が観察され、これは炭酸セシウム量が多いほど顕著であった。
したがって、二酸化炭素分離膜の分離性能を更に高めるためには、二酸化炭素の脱離反応を向上させる必要があると考えられた。
【0008】
上記事情に鑑み、本発明は、二酸化炭素の分離性能に優れ且つ寿命の長い二酸化炭素分離膜、及び該二酸化炭素分離膜に適した二酸化炭素分離膜用支持体、並びにこれらの製造方法を提供することを目的とし、これを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
前記目的を達成するため、以下の発明が提供される。
【0010】
<1> 水溶性ポリマー及び二酸化炭素キャリアを含む二酸化炭素分離層と、疎水性の多孔質基材及び、前記多孔質基材の少なくとも一方の面に設けられた親水性基を有する高分子被膜を備え、前記高分子被膜を介して前記二酸化炭素分離層と接し、前記二酸化炭素分離層を支持する多孔質支持体と、を備えた二酸化炭素分離膜。
<2> 前記高分子被膜が、イオン交換基及びキレート基の少なくともいずれかを有する、前記<1>に記載の二酸化炭素分離膜。
<3> 前記高分子被膜は、膜厚が1μm以下である、前記<1>又は<2>に記載の二酸化炭素分離膜。
<4> 前記高分子被膜は、親水性基として、カルボキシ基、スルホン酸基、リン酸基、ヒドロキシ基、アミノ基、エポキシ基、アクリルアミド基、イソシアネート基及び酸クロライド基の少なくとも1種を有する、前記<1>〜<3>のいずれか1項に記載の二酸化炭素分離膜。
<5> 前記多孔質基材は、ポリテトラフルオロエチレン、ポリエーテルスルホン、ポリフェニレンサルファイド、ポリスルホン、ポリプロピレン、ポリエーテルイミド、ポリエーテルエーテルケトン及びポリフッ化ビニリデンの少なくとも1種を含む、前記<1>〜<4>のいずれか1項に記載の二酸化炭素分離膜。
<6> 疎水性の多孔質基材と、前記多孔質基材の少なくとも一方の面に最表層として在る、親水性基を有する高分子被膜と、を備えた二酸化炭素分離膜用支持体。
<7> 前記高分子被膜の表面と水との接触角が120度未満である、前記<6>に記載の二酸化炭素分離膜用支持体。
<8> 前記高分子被膜が、イオン交換基及びキレート基の少なくともいずれかを有する、前記<6>又は<7>に記載の二酸化炭素分離膜用支持体。
<9> 疎水性の多孔質基材の少なくとも一方の面に、ラジカル重合性モノマーを含む重合性組成物を塗布する塗布工程と、塗布された前記重合性組成物に活性エネルギー線を照射して高分子被膜を形成する重合工程と、を有する二酸化炭素分離膜用支持体の製造方法。
<10> 前記高分子被膜に、イオン交換基及びキレート基の少なくともいずれかを付加する付加処理工程を更に有する、前記<9>に記載の二酸化炭素分離膜用支持体の製造方法。
<11> 前記ラジカル重合性モノマーは、アクリレート、メタクリレート、アクリルアミド、アクリル酸及びこれらの誘導体の少なくとも1種を含む、前記<9>又は<10>に記載の二酸化炭素分離膜用支持体の製造方法。
<12> 前記<6>〜<8>のいずれか1項に記載の二酸化炭素分離膜用支持体、又は前記<9>〜<11>のいずれか1項に記載の二酸化炭素分離膜用支持体の製造方法により製造された二酸化炭素分離膜用支持体を用いると共に、水溶性ポリマー及び二酸化炭素キャリアを含む組成物を前記支持体の前記高分子被膜を有する面に塗布して塗布膜を得る塗布工程と、前記塗布膜を冷却してゲル膜を得る冷却工程と、前記ゲル膜を乾燥させて乾燥膜とする乾燥工程と、を有する二酸化炭素分離膜の製造方法。
<13> 前記乾燥膜を架橋させる架橋工程を更に有する、前記<12>に記載の二酸化炭素分離膜の製造方法。
【発明の効果】
【0011】
本発明によれば、二酸化炭素の分離性能に優れ且つ寿命の長い二酸化炭素分離膜、及び該二酸化炭素分離膜に適した二酸化炭素分離膜用支持体、並びにこれらの製造方法が提供される。
【発明を実施するための形態】
【0012】
以下に、本発明の実施の形態について順次説明する。なお、これらの説明および実施例は本発明を例示するものであり、本発明の範囲を制限するものではない。
本明細書において「工程」との語は、独立した工程だけでなく、他の工程と明確に区別できない場合であってもその工程の所期の作用が達成されれば、本用語に含まれる。
本明細書において「〜」を用いて示された数値範囲は、「〜」の前後に記載される数値をそれぞれ最小値及び最大値として含む範囲を示す。
【0013】
<二酸化炭素分離膜>
本発明の二酸化炭素分離膜は、
水溶性ポリマー及び二酸化炭素キャリアを含む二酸化炭素分離層と、
疎水性の多孔質基材及び、前記多孔質基材の少なくとも一方の面に設けられた親水性基を有する高分子被膜を備え、前記高分子被膜を介して前記二酸化炭素分離層と接し、前記二酸化炭素分離層を支持する多孔質支持体と、
を備える。
係る構成の二酸化炭素分離膜は、疎水性の多孔質基材の少なくとも一方の面に親水性基を有する高分子被膜が設けられ、該高分子被膜を介して多孔質支持体と二酸化炭素分離層とが接していることにより、二酸化炭素の分離性能に優れ且つ寿命が長い。
【0014】
本発明者らが検討した結果、促進輸送膜のCO放出側においては、下記式(1)で示される反応が起こって、二酸化炭素の脱離反応が進行していることが確認された。

HCO + H → CO + HO ……(1)

本発明の二酸化炭素分離膜は、多孔質支持体と二酸化炭素分離層とが接する界面、即ち、二酸化炭素分離層のCO放出側の面において、親水性基を有する高分子被膜がH(プロトン)を供給するように作用することで、上記式(1)の反応を促進し、その結果、二酸化炭素の分離性能を向上させるものと考えられる。
また、本発明の二酸化炭素分離膜は、親水性基を有する高分子被膜を介して多孔質支持体と二酸化炭素分離層とが接していることにより、多孔質支持体と二酸化炭素分離層との密着性がよく、その結果、使用を継続しても分離性能が高く維持され、寿命が長いものと考えられる。
なお、上述したメカニズムは推測されるメカニズムであり、本発明は特定の理論に拘束されるものではない。
【0015】
(二酸化炭素分離層)
本発明の二酸化炭素分離膜は、二酸化炭素分離層を備える。前記二酸化炭素分離層は、水溶性ポリマー及び二酸化炭素キャリアを少なくとも含み、必要に応じてその他の成分を含んでいてもよい。前記二酸化炭素分離層は、二酸化炭素キャリアの作用により、CO供給側からその反対側へ二酸化炭素を輸送する。
【0016】
[水溶性ポリマー]
前記水溶性ポリマーは、バインダーとして機能するものであり、二酸化炭素分離層に水分を保持して、二酸化炭素キャリアによる二酸化炭素の分離機能を発揮させる。前記水溶性ポリマーは、水系の溶媒に溶けて塗布液を形成することができるとともに、二酸化炭素分離層が高い吸水性(保湿性)を有する観点から、吸水性が高いものが好ましい。また、二酸化炭素キャリアの保持力が高いものが好ましい。
【0017】
前記水溶性ポリマーとして、ポリマー種は特に制限されない。吸水性、製膜性、強度などの観点からは、例えば、ポリビニルアルコール−ポリアクリル酸共重合体、ポリエチレンオキサイド、ポリアクリル酸金属塩、ポリカルボキシメチルセルロース金属塩、デンプンポリアクリル酸金属塩−ポリビニルアルコール共重合体(ランダム又はブロック重合体)、ポリビニルピロリドン、ポリNビニルアセトアミド、ポリNビニルアセトアミド−ポリアクリル酸金属塩共重合体(ランダム又はブロック重合体)、ポリ2−ヒドロキシエチルメタクリレート等が好適である。
前記水溶性ポリマーとしては、ポリビニルアルコール−ポリアクリル酸塩共重合が特に好ましい。ポリビニルアルコール−ポリアクリル酸塩共重合体は、吸水能が高い上に、高吸水時においてもハイドロゲルの強度が大きい。ポリビニルアルコール−ポリアクリル酸塩共重合体におけるポリアクリル酸塩の含有率は、例えば5モル%〜95モル%、好ましくは5モル%〜70モル%、より好ましくは5モル%〜60モル%、更に好ましくは5モル%〜50モル%である。ポリアクリル酸塩としては、ナトリウム塩、カリウム塩等のアルカリ金属塩のほか、アンモニウム塩や有機アンモニウム塩等が挙げられる。
市販されているポリビニルアルコール−ポリアクリル酸塩共重合体(ナトリウム塩)として、例えば、スミカゲルL−5H(住友化学工業社製)や、クラストマーAP20(クラレ社製)が挙げられる。
前記水溶性ポリマーは、2種以上を混合して使用してもよい。
【0018】
前記水溶性ポリマーが、単一種の架橋可能基を有する水溶性ポリマーの場合、水との親和性を有し、且つ、分子量が11万以上であるものがよい。架橋可能基としては、例えば、ヒドロキシ基、カルボキシ基、ビニル基、アルデヒド基、アミノ基、シアノ基等が挙げられるが、これらの官能基に限定される必要性はない。これらの中でも、二酸化炭素キャリアとの親和性及びキャリア担持効果を考慮すると、ヒドロキシ基を持つポリビニルアルコールが好ましい。ポリビニルアルコールは、分子量が13万以上のものがより好ましい。
【0019】
[二酸化炭素キャリア]
前記二酸化炭素キャリアは、二酸化炭素と親和性を有し、且つ、水溶性を示すものであればよく、公知のものを用いることができる。この場合の二酸化炭素キャリアは、二酸化炭素と親和性を有する物質であり、塩基性を示す各種の水溶性の無機及び有機物質が用いられる。例えば、アルカリ金属炭酸塩及び/又はアルカリ金属重炭酸塩及び/又はアルカリ金属水酸化物、アルカリ金属炭酸塩及び/又はアルカリ金属重炭酸塩及び/又はアルカリ金属水酸化物を含む水溶液にアルカリ金属イオンと錯体を形成する多座配位子を添加した水溶液、アンモニア、アンモニウム塩、各種直鎖状、及び環状のアミン、アミン塩、アンモニウム塩等が挙げられる。また、これらの水溶性誘導体も好ましく用いることができる。二酸化炭素キャリアは、2種以上を混合して使用してもかまわない。
【0020】
アルカリ金属炭酸塩としては、例えば、炭酸リチウム、炭酸ナトリウム、炭酸カリウム、炭酸ルビジウム、炭酸セシウムが挙げられる。
アルカリ金属重炭酸塩としては、例えば、炭酸水素リチウム、炭酸水素ナトリウム、炭酸水素カリウム、炭酸水素ルビジウム、炭酸水素セシウムが挙げられる。
アルカリ金属水酸化物としては、例えば、水酸化リチウム、水酸化ナトリウム、水酸化カリウム、水酸化ルビジウム、水酸化セシウムが挙げられる。
これらの中でも、二酸化炭素との親和性がよいという観点から、カリウム、ルビジウム、セシウムを含む化合物が好ましい。
二酸化炭素キャリアは分離層中に長期間保持されると有利であるから、アルカリ金属炭酸塩及び/又はアルカリ金属重炭酸塩及び/又はアルカリ金属水酸化物と、アミノ酸やベタインなどの蒸発しにくいアミン含有化合物とを併用することも好ましい。
【0021】
アルカノールアミンとしては、モノエタノールアミン、ジエタノールアミン、トリエタノールアミン、モノプロパノールアミン、ジプロパノールアミン、トリプロパノールアミン等の水溶性を有する各種のものを挙げることができる。二酸化炭素キャリアは、前記したものに限られるものではなく、二酸化炭素と親和性を有し、且つ、水溶性を示すものであればよく、有機酸のアルカリ金属塩等各種のものを用いることができる。
アルカリ金属イオンと錯体を形成する多座配位子としては、従来公知のもの、例えば;12−クラウン−4、15−クラウン−5、18−クラウン−6、ベンゾ−12−クラウン−4、ベンゾ−15−クラウン−5、ベンゾ−18−クラウン−6、ジベンゾ−12−クラウン−4、ジベンゾ−15−クラウン−5、ジベンゾ−18−クラウン−6、ジシクロヘキシル−12−クラウン−4、ジシクロヘキシル−15−クラウン−5、ジシクロヘキシル−18−クラウン−6、n−オクチル−12−クラウン−4、n−オクチル−15−クラウン−5、n−オクチル−18−クラウン−6等の環状ポリエーテル;クリプタンド〔2.1〕、クリプタンド〔2.2〕等の環状ポリエーテルアミン;クリプタンド〔2.2.1〕、クリプタンド〔2.2.2〕、等の双環式ポリエーテルアミンの他、ポルフィリン、フタロシアニン、ポリエチレングリコール、エチレンジアミン四酢酸等を用いることができる。
【0022】
[その他の成分]
前記二酸化炭素分離層は、製膜性(塗布性、セット性)やガス分離特性に悪影響しない範囲で、親水性ポリマー及び二酸化炭素キャリア以外の他の成分(添加剤)を含むことができる。例えば、架橋剤、界面活性剤、触媒、保湿(吸水)剤、補助溶剤、膜強度調整剤、欠陥検出剤が挙げられる。架橋剤は、後述する二酸化炭素分離膜の製造方法におけるものと同義であり、好ましい態様も同様である。
【0023】
前記二酸化炭素分離層は、二酸化炭素と二酸化炭素キャリアとの反応を促進させる、窒素含有化合物や硫黄酸化物を含んでいてもよい。
前記窒素含有化合物としては、例えば、グリシン、アラニン、セリン、プロリン、ヒスチジン、タウリン、ジアミノプロピオン酸などのアミノ酸類、ピリジン、ヒスチジン、ピペラジン、イミダゾール、トリアジンなどのヘテロ化合物類、モノエタノールアミン、ジエタノールアミン、トリエタノールアミン、モノプロパノールアミン、ジプロパノールアミン、トリプロパノールアミンなどのアルカノールアミン類や、クリプタンド〔2.1〕、クリプタンド〔2.2〕などの環状ポリエーテルアミン類、クリプタンド〔2.2.1〕、クリプタンド〔2.2.2〕などの双環式ポリエーテルアミン類やポルフィリン、フタロシアニン、エチレンジアミン四酢酸などを用いることができる。
前記硫黄化合物としては、例えば、シスチン、システインなどのアミノ酸類、ポリチオフェン、ドデシルチオールなどを用いることができる。
【0024】
前記二酸化炭素分離層は、強度、ガス透過性、及び分離性能を兼ね備える観点から、厚さが1μm〜200μmの範囲であることが好ましい。さらには、5μm〜150μmがより好ましく、10μm〜100μmが更に好ましい。
【0025】
前記二酸化炭素分離層において、乾燥状態での各成分の含有量は、以下の範囲であることが好ましい。
親水性ポリマーは、層の全質量に対して、5〜60質量%が好ましく、10〜50質量%がより好ましく、15〜40質量%が更に好ましい。
二酸化炭素キャリアは、層の全質量に対して、20〜90質量%が好ましく、30〜80質量%がより好ましく、40〜80質量%がさらに好ましい。例えば二酸化炭素キャリアとしてセシウムを含む化合物を用いる場合は、二酸化炭素の分離性能を向上させる観点から、層の全質量に対して、50質量%以上であることが好ましく、55質量%以上であることがより好ましく、60質量%以上であることが特に好ましい。
【0026】
前記二酸化炭素分離層の、多孔質支持体と接する側と反対側の面上には、必要に応じて、二酸化炭素キャリアの溶出を防ぐためにキャリア溶出防止層を設けてもよい。キャリア溶出防止層は二酸化炭素、水蒸気などの気体は透過するが水など液体は透過しない性質を持つことが好ましく、疎水性の多孔質性の膜であることが好ましい。この様な性質の膜を膜面上に塗布してもよく、別に作製した膜をラミネートしてもよい。
【0027】
(多孔質支持体)
本発明の二酸化炭素分離膜は、疎水性の多孔質基材と、親水性基を有する高分子被膜とを備えた、多孔質支持体を備える。前記多孔質支持体において、前記高分子被膜は、前記多孔質基材の少なくとも一方の面上に設けられていればよい。前記多孔質支持体は、前記高分子被膜を有する面上に二酸化炭素分離層が形成され、該二酸化炭素分離層を支持する。前記多孔質支持体は、後述する本発明の二酸化炭素分離膜用支持体と同義であり、好ましい態様も同様である。
【0028】
<二酸化炭素分離膜用支持体>
本発明の二酸化炭素分離膜用支持体は、
疎水性の多孔質基材と、
前記多孔質基材の少なくとも一方の面に設けられ、最表層として存在する、親水性基を有する高分子被膜と、を備える。
係る構成の二酸化炭素分離膜用支持体の前記高分子被膜を有する面上に二酸化炭素分離層を形成して二酸化炭素分離膜としたとき、該二酸化炭素分離膜は、二酸化炭素の分離性能に優れ且つ寿命が長い。
【0029】
[疎水性の多孔質基材]
前記多孔質基材は、二酸化炭素透過性を有し、一方の面に二酸化炭素分離層を形成することができ、さらにこの膜を支持することができるものであれば特に限定されない。
前記多孔質基材の材質としては、紙、上質紙、コート紙、キャストコート紙、合成紙、セルロース、ポリエステル、ポリオレフィン、ポリアミド、ポリイミド、ポリスルホン、アラミド、ポリカーボネート、金属、ガラス、セラミックスなどが好適に使用できる。より具体的には、ポリエチレン、ポリスチレン、ポリエチレンテレフタレート、ポリテトラフルオロエチレン、ポリエーテルスルホン、ポリフェニレンサルファイド、ポリスルホン、ポリプロピレン、ポリエーテルイミド、ポリエーテルエーテルケトン及びポリフッ化ビニリデン等の樹脂材料が好適に使用できる。これらの中でも、耐久性の観点から、ポリテトラフルオロエチレン、ポリエーテルスルホン、ポリフェニレンサルファイド、ポリスルホン、ポリプロピレン、ポリエーテルイミド、ポリエーテルエーテルケトン及びポリフッ化ビニリデンの少なくとも1種が好ましく、ポリテトラフルオロエチレンが、経時安定性の観点から特に好ましく使用できる。
【0030】
前記多孔質基材の形態としては、織布、不織布、多孔質膜等を採用することができる。一般的には、自己支持性が高く、空隙率が高い支持体が好適に使用できる。ポリフェニレンサルファイド、ポリスルホン、セルロースのメンブレンフィルター膜、ポリテトラフルオロエチレン、ポリフッ化ビニリデン、高分子量ポリエチレンの延伸多孔膜等は空隙率が高く、二酸化炭素の拡散阻害が小さく、強度や製造適性の観点から好ましい。この中でも特にポリテトラフルオロエチレンの延伸膜が好ましい。
これらの多孔質基材を単独で用いることもできるが、補強用の膜と一体化した複合膜も好適に使用できる。
【0031】
前記多孔質基材は、ガス透過性と強度を兼ね備える観点から、厚さが30μm〜500μmの範囲であることが好ましい。厚さが500μm以下であるとガス透過性が良好であり、30μm以上であると強度が良好である。さらには、50μm〜300μmがより好ましく、50μm〜200μmが更に好ましい。
【0032】
[親水性基を有する高分子被膜]
前記多孔質基材は、少なくとも一方の面に、親水性基を有する高分子被膜を有する。前記高分子被膜は、前記二酸化炭素分離膜用支持体の少なくとも一方の面において、最表層として存在する。
前記高分子被膜としては、微多孔膜状、不織布状、織布状、その他三次元ネットワーク状の多孔質構造を有した層を挙げることができる。前記高分子被膜としては、微多孔膜であることが好ましい。ここで微多孔膜とは、内部に多数の微細孔を有し、これら微細孔が連結された構造となっており、一方の面から他方の面へと気体あるいは液体が通過可能となった膜である。
前記高分子被膜は、前記多孔質基材の少なくとも一方の面にあればよく、両方の面にあってもよい。製造コストや塗布適性の観点からは、一方の面にあるほうが好ましく、実際の使用形態であるモジュール形態の観点からは、両方の面にあることが好ましい。
前記高分子被膜は、前記多孔質基材の少なくとも一方の面において、その全面を被覆していることが好ましい。
【0033】
前記高分子被膜は、前記二酸化炭素分離膜用支持体の少なくとも一方の面の表面部において、最表層として存在する。
前記表面部とは、例えば、支持体の露出表面から深さ1μm以下の範囲である。
前記高分子被膜が最表層として在るとは、前記高分子被膜が支持体の露出表面をなしていることを意味する。
【0034】
−親水性基−
前記高分子被膜は、親水性基を有することから、前記多孔質基材の表面に親水性を付与することができる。前記親水性基としては、特に制限されないが、カルボキシ基、スルホン酸基、リン酸基、ヒドロキシ基、アミノ基、エポキシ基、アクリルアミド基、イソシアネート基、酸クロライド基、ニトロ基、チオ基、イミノ基、S−オキシド基等が挙げられる。中でも、耐久性、ガス透過性能の観点から、カルボキシ基、スルホン酸基、リン酸基、ヒドロキシ基、アミノ基、エポキシ基、アクリルアミド基、イソシアネート基及び酸クロライド基の少なくとも1種が好ましく、カルボキシ基、スルホン酸基の少なくとも1種が最も好ましい。
【0035】
前記親水性基の量について、その量に特に制限はなく、二酸化炭素の分離性能と長寿命の観点から、前記高分子被膜は、多くの親水性基を有することが好ましい。
【0036】
−イオン交換基及びキレート基−
前記高分子被膜は、イオン交換基及びキレート基の少なくともいずれかを有することが好ましい。なお、本発明において、イオン交換基及びキレート基は、前記親水性基と明確に区別できなくてもよい。
前記高分子被膜がイオン交換基及びキレート基の少なくともいずれかを有すると、二酸化炭素分離層から支持体への二酸化炭素キャリアの染み出しが起きにくい。これは、二酸化炭素分離層から支持体の内部へと拡散しようとする二酸化炭素キャリアを、イオン交換基及びキレート基が捕捉できることによるものと考えられる。
また、イオン交換基は、親水性基でもあるので、前記高分子被膜がイオン交換基を有すると、二酸化炭素分離膜の分離性能を向上させ、また、使用を継続しても分離性能が高く維持される。
【0037】
イオン交換基は、金属イオン等をイオン結合により捕捉する官能基である。前記イオン交換基としては、金属イオン等とイオン結合する官能基である限り、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができる。例えば、スルホン酸基、リン酸基、カルボキシ基等のカチオン交換基、1級アミノ基、2級アミノ基、3級アミノ基、4級アミノ基、4級アンモニウム塩基等のアニオン交換基などが挙げられる。
【0038】
キレート基は、金属イオン等をキレート(配位)結合により捕捉する官能基である。前記キレート基としては、金属イオン等とキレート(配位)結合する官能基である限り、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができる。例えば、ニトリロトリ酢酸誘導体(NTA)基、イミノジ酢酸基、イミノジエタノール基、アミノポリカルボン酸、アミノポリホスホン酸、アミノトリメチレンホスホン酸、ポルフィリン骨格、フタロシアニン骨格、環状エーテル、環状アミン、フェノール及びリジン誘導体、フェナンスロリン基、テルピリジン基、ビピリジン基、トリエチレンテトラアミン基、ジエチレントリアミン基、トリス(カルボキシメチル)エチレンジアミン基、ジエチレントリアミンペンタ酢酸基、ポリピラゾリルホウ酸基、1,4,7−トリアゾシクロノナン基、ジメチルグリオキシム基、ジフェニルグリオキシム基等の多座配位子などが挙げられる。
【0039】
前記イオン交換基としては、二酸化炭素分離層に含まれる二酸化炭素キャリがアルカリ金属炭酸塩である場合、スルホン酸基が好ましい。前記キレート基としては、二酸化炭素分離層に含まれる二酸化炭素キャリがアルカリ金属炭酸塩である場合、アミノトリメチレンホスホン酸が好ましい。上記のイオン交換基及びキレート基を用いると、アルカリ金属炭酸塩の支持体への染み出しをよく抑制できる。
【0040】
前記イオン交換基及びキレート基の量としては、特に制限はない。二酸化炭素キャリアの支持体への染み出しをよく抑制できる観点からは、支持体の最表面の全官能基に対してモル比で0.001%以上であることが好ましく、0.01%以上であることがより好ましい。他方、二酸化炭素の分離性能の観点からは、支持体の最表面の全官能基に対してモル比で90%以下であることが好ましく、80%以下であることがより好ましい。
【0041】
前記高分子被膜は、膜厚が1μm以下であることが好ましい。膜厚が1μm以下であると、前記二酸化炭素分離膜用支持体の二酸化炭素の分離性能がよい。より好ましくは、膜厚100nm以下であり、更に好ましくは、膜厚10nm以下である。前記高分子被膜の膜厚の下限は、使用を継続したときの分離性能の維持の観点から、1nm以上が好ましく、3nm以上がより好ましい。
前記高分子被膜の膜厚(最表面から疎水性多孔質基材までの距離)は、二次イオン質量分析法により測定することができる。
【0042】
前記二酸化炭素分離膜用支持体は、高分子被膜の表面と水との接触角が120度未満であることが好ましい。前記接触角が120度未満であると、当該面上に水系組成物を塗布して二酸化炭素分離層を形成するに際して該組成物の濡れ性がよく、二酸化炭素分離層との密着性に優れる。前記接触角は、上記の観点から、90度未満であることがより好ましい。
【0043】
前記高分子被膜は、多孔質構造を有した膜を別に作製し前記多孔質基材と貼り合わせてもよいが、本発明においては、前記多孔質基材の面上に、ラジカル重合性モノマーを重合させて形成した被膜であることが好ましい。以下、二酸化炭素分離膜用支持体の製造方法を説明して、前記高分子被膜について詳述する。
【0044】
<二酸化炭素分離膜用支持体の製造方法>
本発明の二酸化炭素分離膜用支持体の製造方法は、
疎水性の多孔質基材の少なくとも一方の面に、ラジカル重合性モノマーを含む重合性組成物を塗布する塗布工程と、
塗布された前記重合性組成物に活性エネルギー線を照射して高分子被膜を形成する重合工程と、を有する。
前記製造方法は、更に、前記高分子被膜に、イオン交換基及びキレート基の少なくともいずれかを付加する付加処理工程を有してもよい。
【0045】
(塗布工程)
前記塗布工程は、疎水性の多孔質基材の少なくとも一方の面に、ラジカル重合性モノマーを含む重合性組成物を塗布する工程である。前記重合性組成物は、ラジカル重合性モノマーの少なくとも1種と、必要に応じて溶媒、ラジカル重合開始剤、光増感剤、酸化防止剤などのその他の成分を含んでよい。
【0046】
[ラジカル重合性モノマー]
前記ラジカル重合性モノマーとしては、アクリレート、メタクリレート、アクリルアミド、アクリル酸及びこれらの誘導体の少なくとも1種が好ましく、目的に応じて適宜選択することができる。例えば、1−ヒドロキシ−2−プロピルアクリレート、2−ヒドロキシ−1−プロピルアクリレート、ヒドロキシプロピルメタクリレート、2,3−ジヒドロキシプロピルアクリレート、ヒドロキシエチルアクリレート、ヒドロキシエチルメタクリレート、ヒドロキシエチルメタクリレート等のアルキル(メタ)アクリレート類;4−ヒドロキシブチルアクリレートグリシジルエーテル、アクリル酸グリシジル等のグリシジル(メタ)アクリレート類;アミノエチルメタクリレート、ジメチルアミノエチルメタクリレート、ジエチルアミノエチルメタクリレート等の第一アミン(メタ)アクリレート類;ウレタン(メタ)アクリレート類;アクリルアミド、メタクリルアミド、エタクリルアミド、N,N−ジメチルアクリルアミド等のアクリルアミド類;アクリル酸、メタクリル酸等のアクリル酸類;アクリル酸クロライド、メタクリル酸クロライド等の(メタ)アクリル酸クロライド類等が挙げられる。これらは、1種単独で使用してもよく、2種以上を併用してもよい。
これらの中でも、後述する官能性化合物との反応性が良好である点で、グリシジル(メタ)アクリレート類、アクリル酸類が好ましい。
【0047】
前記ラジカル重合性モノマーは、カルボキシ基、スルホン酸基、リン酸基、ヒドロキシ基、アミノ基、エポキシ基、アクリルアミド基、イソシアネート基、酸クロライド基、ニトロ基、チオ基、イミノ基、S−オキシド基等の親水性基を含むことが好ましい。親水性基を含むラジカル重合性モノマーを重合させて高分子被膜を形成することにより、高分子被膜はその表面全体に多量の親水性基を有することができる。そのため、前記二酸化炭素分離膜用支持体を用いた二酸化炭素分離膜は、二酸化炭素の分離性能に優れ且つ寿命が長い。
前記親水性基としては、中でも、耐久性、ガス透過性能の観点から、カルボキシ基、スルホン酸基、リン酸基、ヒドロキシ基、アミノ基、エポキシ基、アクリルアミド基、イソシアネート基及び酸クロライド基の少なくとも1種が好ましく、カルボキシ基、スルホン酸基の少なくとも1種が最も好ましい。
【0048】
前記カルボキシ基を含むラジカル重合性モノマーとしては、例えば、アクリル酸、メタクリル酸、カルボキシエチルアクリレート等が挙げられる。前記アミノ基を含むラジカル重合性モノマーとしては、例えば、ジメチルアミノエチルメタクリレート、ジエチルアミノエチルメタクリレート等が挙げられる。前記ヒドロキシ基を含むラジカル重合性モノマーとしては、例えば、4−ヒドロキシブチルアクリレート、ヒドロキシエチルメタクリレート等が挙げられる。前記エポキシ基を含むラジカル重合性モノマーとしては、例えば、4−ヒドロキシブチルアクリレートグリシジルエーテル、アクリル酸グリシジル等が挙げられる。前記アクリルアミド基を含むラジカル重合性モノマーとしては、例えば、アクリルアミド、N,N−ジメチルアクリルアミド等が挙げられる。前記イソシアネート基を含むラジカル重合性モノマーとしては、例えば、ウレタン(メタ)アクリレート類等が挙げられる。前記酸クロライド基を含むラジカル重合性モノマーとしては、例えば、アクリル酸クロライド等が挙げられる。
前記ウレタン(メタ)アクリレート類としては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができ、市販品を用いることができる。該市販品としては、例えば、Desmodur HL(Bayer AG, Leverkusen製)、Roskydal UA VP LS 2265(Bayer AG, Leverkusen製)等が挙げられる。
【0049】
前記ラジカル重合性モノマーの重合性組成物における含有量としては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができるが、0.1質量%〜30質量%が好ましく、0.2質量%〜25質量%がより好ましく、0.3質量%〜20質量%が特に好ましい。前記含有量が、0.1質量%以上であると、塗布した面の全面を親水化することができ、30質量%以下であると、多孔質基材の孔部を塞ぐおそれがない。
【0050】
[ラジカル重合開始剤]
前記ラジカル重合開始剤としては、光ラジカル重合開始剤及び熱ラジカル重合開始剤のいずれも好適に用いることができる。
【0051】
前記光ラジカル重合開始剤としては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができ、例えば、チバ・スペシャルティー・ケミカルズ社から市販されているイルガキュア(Irgacure)シリーズ(例えば、イルガキュア651、イルガキュア754、イルガキュア184、イルガキュア2959、イルガキュア907、イルガキュア369、イルガキュア379、イルガキュア819等)、ダロキュア(Darocure)シリーズ(例えば、ダロキュアTPO、ダロキュア1173等)、クオンタキュア(Quantacure)PDO、サートマー(Sartomer)社から市販されているエザキュア(Ezacure)シリーズ(例えば、エザキュアTZM、エザキュアTZT等)等が挙げられる。
【0052】
前記熱ラジカル重合開始剤としては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができ、例えば、α,α’−アゾビスイソブチロニトリル、三新化学社から市販されているSIシリーズ(例えば、SI−100等)等が挙げられる。
【0053】
前記ラジカル重合開始剤の添加量としては、特に制限はないが、前記ラジカル重合性モノマー100質量部に対して、0.1質量部〜20質量部が好ましく、0.5質量部〜15質量部がより好ましく、1.0質量部〜10質量部が特に好ましい。前記添加量が、0.1質量部以上であると、重合反応が速やかに進行し、20質量部以下であると、十分な膜強度が得られる。
【0054】
[溶媒]
前記溶媒としては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができ、例えば、水;メタノール、エタノール、イソプロパノール、エチレングリコール等のアルコール類;アセトン、メチルエチルケトン(MEK)等のケトン類;テトラヒドロフラン、ジオキサン、プロピレングリコールモノメチルエーテルアセテート等のエーテル類;ジメチルホルムアミド、ジメチルスルホキシド等が挙げられる。
【0055】
[光増感剤]
前記重合性組成物には、必要に応じて光増感剤を併用することができる。前記光増感剤を使用することにより、反応性が向上し、硬化物の機械強度や接着強度を向上させることができる。
前記光増感剤としては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができ、例えばカルボニル化合物、有機硫黄化合物、過硫化物、レドックス系化合物、アゾ及びジアゾ化合物、ハロゲン化合物、光還元性色素などが挙げられ、具体的には、ベンゾインメチルエーテル、ベンゾインイソプロピルエーテル、α,α−ジメトキシ−α−フェニルアセトフェノン等のベンゾイン誘導体;ベンゾフェノン、2,4−ジクロロベンゾフェノン、o−ベンゾイル安息香酸メチル、4,4’−ビス(ジエチルアミノ)ベンゾフェノン等のベンゾフェノン誘導体;2−クロロチオキサントン、2−イソプロピルチオキサントン等のチオキサントン誘導体;2−クロロアントラキノン、2−メチルアントラキノン等のアントラキノン誘導体;N−メチルアクリドン、N−ブチルアクリドン等のアクリドン誘導体;その他、α,α−ジエトキシアセトフェノン、ベンジル、フルオレノン、キサントン、ウラニル化合物、等が挙げられる。これらは、1種単独で使用してもよく、2種以上を併用してもよい。
前記光増感剤の市販品としては、例えば、Anthracure(登録商標)UVS−1331(川崎化成工業株式会社製)、カヤキュアDETX−S(日本化薬株式会社製)等が挙げられる。
【0056】
[酸化防止剤]
前記重合性組成物には、本発明の効果を損なわない限り、酸化防止剤等のその他の添加剤などを含有することできる。前記酸化防止剤の市販品としては、例えば、ジブチルヒドロキシトルエン(BHT)、イルガノックス1010、イルガノックス1035FF、イルガノックス565等が挙げられる。
【0057】
前記重合性組成物の塗布方法としては、従来公知の方法を採用することができる。例えば、カーテンフローコーター、エクストルージョンダイコーター、エアードクターコーター、ブレードコーター、ロッドコーター、ナイフコーター、スクイズコーター、リバースロールコーター、バーコーター等が挙げられる。また、多孔質基材を前記重合性組成物の液中に浸漬して塗布してもよい。膜厚均一性、塗布量などの観点から、エクストルージョンダイコーター、または浸漬による塗布が好ましい。
【0058】
(重合工程)
前記重合工程は、多孔質基材に塗布された前記重合性組成物に活性エネルギー線を照射して高分子被膜を形成する工程である。本工程により、多孔質基材に塗布された重合性組成物に含まれるラジカル重合性モノマーが重合し、高分子被膜が形成される。
前記高分子被膜は、多孔質基材の表面部に形成される。即ち、多孔質基材の露出表面上、及びその表面から内部(例えば1μmまでの深さ)の基材内の孔内表面にも高分子被膜が形成され得る。
【0059】
[活性エネルギー線]
前記重合工程で使用される活性エネルギー線は、α線、γ線、電子線、X線、紫外線、可視光、赤外光などが挙げられる。
活性エネルギー線を照射する工程は、多孔質基材に塗布された前記重合性組成物に、例えば、紫外線照射ランプから紫外線を照射する工程である。これにより、前記重合性組成物中の重合性モノマー成分を確実に重合硬化させることができる。なお、活性エネルギー線を照射する光源は、紫外線照射ランプに限らず、ハロゲンランプ、高圧水銀灯、レーザー、LED、電子線照射装置などを採用することもできる。
活性エネルギー線の照射条件としては、重合性化合物が重合硬化可能であれば特に制限されない。活性エネルギー線の波長としては、例えば、200nm〜600nmであることが好ましく、300nm〜450nmであることがより好ましく、350nm〜420nmであることがさらに好ましい。活性エネルギー線の出力としては、5000mJ/cm以下であることが好ましく、10mJ/cm〜4000mJ/cmであることがより好ましく、20mJ/cm〜3000mJ/cmであることがさらに好ましい。
【0060】
(付加処理工程)
前記付加処理工程は、前記高分子被膜に、イオン交換基及びキレート基の少なくともいずれかを付加する工程である。本工程により、二酸化炭素分離膜用支持体の表面に、イオン交換基及び/又はキレート基を付加することができる。本工程におけるイオン交換基及びキレート基は、既述の二酸化炭素分離膜用支持体におけるイオン交換基及びキレート基と同義であり、好ましい態様も同様である。
【0061】
前記付加処理工程は、前記重合工程と独立した工程であってもよく、前記重合工程と同時に行う工程であってもよい。
前記付加処理工程が前記重合工程と独立した工程である場合とは、例えば、イオン交換基及びキレート基の少なくともいずれかを有する官能性化合物を含む組成物を、前記重合工程で形成した高分子被膜の上に塗布し、加熱処理やエネルギー線の照射等により、高分子被膜をなす重合体と前記官能性化合物とを反応させる場合である。
前記付加処理工程が前記重合工程と同時に行う工程である場合とは、例えば、前記官能性化合物を前記重合工程で用いる重合性組成物中に添加して、高分子被膜の形成と同時に、加熱処理やエネルギー線の照射等により、高分子被膜をなす重合体と前記官能性化合物とを反応させる場合である。
【0062】
前記官能性化合物を含む組成物を前記重合工程で形成した高分子被膜の上に塗布する場合、当該組成物の溶媒としては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができ、例えば、水;メタノール、エタノール、イソプロパノール、エチレングリコール等のアルコール類;アセトン、メチルエチルケトン(MEK)等のケトン類;テトラヒドロフラン、ジオキサン、プロピレングリコールモノメチルエーテルアセテート等のエーテル類;ジメチルホルムアミド、ジメチルスルホキシド、トルエン等が挙げられる。
【0063】
[官能性化合物]
前記官能性化合物としては、イオン交換基及びキレート基の少なくともいずれかを含む限り、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができ、前記高分子被膜をなす重合体との反応性基、さらに必要に応じてその他の成分を含有してなる。
また、キレート基を含む官能性化合物は、複数種の化合物を前記付加処理工程において反応させて、キレート基を含む官能性化合物としてもよい。
【0064】
−重合体との反応性基−
前記高分子被膜を形成している重合体との反応性基としては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができる。例えば、アミノ基、ヒドロキシ基、エポキシ基;これらの誘導体基などが挙げられる。これらの中でも、アミノ基、ヒドロキシ基が好ましい。
【0065】
前記反応性基を有する官能性化合物の具体例としては、反応性基がアミノ基である、ペンタエチレンヘキサミン、アミノエタンスルホン酸、ホスホリルエタノールアミン等;反応性基がヒドロキシ基である、ヒドロキシエチレンジアミン三酢酸、コリン、ヒドロキシプロパンスルホン酸、グリセロ燐酸二ナトリウム五水和物等;その他として、エチレンスルフィド、オキセタン系化合物等環状化合物などが挙げられる。
【0066】
前記官能性化合物は、前記高分子被膜を形成している重合体の側鎖に存在する反応基と反応させて、前記高分子被膜に付加することができる。これにより前記官能性化合物は、二酸化炭素分離膜用支持体の表面に固定される。
前記官能性化合物と前記重合体の側鎖に存在する反応基とを反応させる方法としては、従来公知の方法でよく、例えば、加熱処理やエネルギー線の照射等により反応させることができる。
【0067】
前記官能性化合物が二酸化炭素分離膜用支持体の表面に固定されたことは、例えば、特開2005−131482号公報に記載の逆滴定法などにより、確認することができる。
【0068】
前記重合工程及び前記付加処理工程の後、アニール処理を行ってもよい。アニール処理により、前記高分子被膜の硬化度を高めたり、塗布用組成物中の溶剤を除去したり、前記高分子被膜と多孔質基材との密着性を向上させることができる。アニール温度は、好ましくは80〜200℃である。アニール時間は、例えば1分間〜180分間とする。
【0069】
<二酸化炭素分離膜の製造方法>
本発明の二酸化炭素分離膜の製造方法は、
本発明の二酸化炭素分離膜用支持体、又は本発明の二酸化炭素分離膜用支持体の製造方法により製造された二酸化炭素分離膜用支持体を用いると共に、
水溶性ポリマー及び二酸化炭素キャリアを含む組成物を前記支持体の前記高分子被膜を有する面に塗布して塗布膜を得る塗布工程と、
前記塗布膜を冷却してゲル膜を得る冷却工程と、
前記ゲル膜を乾燥させて乾燥膜とする乾燥工程と、を有する。
本発明の二酸化炭素分離膜の製造方法は、更に、前記乾燥膜を架橋させる架橋工程を有してもよい。
【0070】
(塗布工程)
塗布工程は、水溶性ポリマー及び二酸化炭素キャリアを含む組成物を準備した後、当該組成物を支持体の高分子被膜を有する面上に塗布して塗布膜を設ける工程である。
前記組成物は、水溶性ポリマー及び二酸化炭素キャリアのほかに、架橋剤、界面活性剤、触媒、保湿(吸水)剤、補助溶剤、膜強度調整剤、欠陥検出剤、製膜適性付与剤などを含んでもよい。本発明の製造方法における水溶性ポリマー及び二酸化炭素キャリアは、既述の二酸化炭素分離膜における水溶性ポリマー及び二酸化炭素キャリアと同義であり、好ましい態様も同様である。
【0071】
[架橋剤]
前記水溶性ポリマーが架橋可能基を有するとき、ポリマー間を熱架橋、紫外線架橋、電子線架橋、放射線架橋、光架橋等、従来公知の手法で架橋することができる。この場合、前記組成物は、架橋剤を含むことが好ましい。架橋剤としては、例えばエポキシ化合物、多価グリシジルエーテル、多価アルコール、多価イソシアネート、多価アジリジン、ハロエポキシ化合物、多価アルデヒド、多価アミン等が挙げられる。
【0072】
前記エポキシ化合物の市販品としては、例えば共栄社化学株式会社製エポライト100MF(トリメチロールプロパントリグリシジルエーテル)、ナガセケムテックス社製EX−411、EX−313、EX−614B、EX−810、EX−811、EX−821、EX−830、日油株式会社製エピオールE400等が挙げられる。
前記多価グリシジルエーテルとしては、例えば、エチレングリコールジグリシジルエーテル、ポリエチレングリコールジグリシジルエーテル、グリセロールポリグリシジルエーテル、ジグリセロールポリグリシジルエーテル、ポリグリセロールポリグリシジルエーテル、ソルビトールポリグリシジルエーテル、ペンタエリスリトールポリグリシジルエーテル、プロピレングリコールグリシジルエーテル、ポリプロピレングリコールジグリシジルエーテル等が挙げられる。
前記多価アルコールとしては、例えば、エチレングリコール、ジエチレングリコール、トリエチレングリコール、テトラエチレングリコール、ポリエチレングリコール、グリセリン、ポリグリセリン、プロピレングリコール、ジエタノールアミン、トリエタノールアミン、ポリオキシプロピル、オキシエチエンオキシプロピレンブロック共重合体、ペンタエリスリトール、ソビトール等が挙げられる。
前記多価イソシアネートとしては、例えば、2,4−トルイレンジイソシアネート、ヘキサメチレンジイソシアネート等が挙げられる。また、上記多価アジリジンとしては、例えば、2,2−ビスヒドロキシメチルブタノール−トリス〔3−(1−アシリジニル)プロピオネート〕、1,6−ヘキサメチレンジエチレンウレア、ジフェニルメタン−ビス−4,4’−N,N’−ジエチレンウレア等が挙げられる。
前記ハロエポキシ化合物としては、例えば、エピクロルヒドリン、α−メチルクロルヒドリン等が挙げられる。
前記多価アルデヒドとしては、例えば、グルタルアルデヒド、グリオキサール等が挙げられる。
前記多価アミンとしては、例えば、エチレンジアミン、ジエチレントリアミン、トリエチレンテトラミン、テトラエチレンペンタミン、ペンタエチレンヘキサミン、ポリエチレンイミン等が挙げられる。
【0073】
上記架橋剤のうち、高分子量体ポリビニルアルコール等と反応性が良好で、加水分解耐性も優れている結合が可能である点から、エポキシ化合物やグルタルアルデヒドが特に好ましい。
【0074】
前記組成物中の水溶性ポリマーの含有量としては、その種類にもよるが、バインダーとして膜を形成し、二酸化炭素分離膜が水分を十分保持できるようにする観点から、0.5質量%〜50質量%であることが好ましく、1質量%〜30質量%であることがより好ましく、2質量%〜15質量%であることが特に好ましい。
【0075】
前記二酸化炭素キャリアの前記組成物における含有量は、前記官能性モノマー量との比率にもよるが、0.1質量%〜30質量%であることが好ましく、さらに0.2質量%〜20質量%であることがより好ましく、さらに0.3質量%〜15質量%であることが特に好ましい。前記含有量が、0.1質量%未満であると、十分な二酸化炭素キャリア能を得られない可能製があり、30質量%を超えると、組成物中で、二酸化炭素キャリアが塩析する可能性がある。
【0076】
[製膜適性付与剤]
前記組成物は、塗布時の製膜安定性を付与するために、セット剤や粘度調整剤、チキソトロピー性調整剤などを含有してもよい。
セット剤としては多糖類が好ましい。製膜性、入手容易性、コスト、膜強度などの観点から、寒天が最も好ましく、市販品として、伊那寒天UP−37、UM−11S、SY−8、ZY−4、ZY−6(以上、伊那食品社製)、Agarose H、Agarose S(以上、ニッポンジーン社製)などが挙げられる。
粘度調整剤としては、水溶性増粘剤が好ましく、人工合成系が最も好ましい。水溶性人工合成増粘剤としては、ビニル系化合物、ビニリデン化合物、ポリビニルアルコール系化合物、ポリエーテル系化合物などが挙げられる。
チキソトロピー性調整剤としては、水溶性であるものが好ましく、より好ましくは水溶性の天然合成増粘剤であり、例えば合成雲母やカルボキシビニルポリマーが挙げられる。
これらの製膜適性付与剤は、単独で用いても複数を混合して用いてもよい。これらの中には、混合することでゲル化能の上がるものが知られており、ゲル化速度やゲル化能力、ゲル化温度の調整のために混合して用いることができる。
【0077】
塗布工程における前記組成物の温度は、組成や濃度に応じてゲル化や塩析が生じないように決めればよいが、温度が高すぎると組成物から溶剤が多量に蒸発して組成濃度が変化したり、局所的にゲル化が進行したり、塗布膜に蒸発痕が残る恐れがあるので、室温〜溶剤沸点の10℃以下程度が好ましく、さらには室温〜溶剤沸点の15℃以下がより好ましく、さらには室温〜溶剤沸点の20℃以下が最も好ましい。
【0078】
前記組成物の塗布方法としては、従来公知の方法を採用することができる。例えば、カーテンフローコーター、エクストルージョンダイコーター、エアードクターコーター、ブレードコーター、ロッドコーター、ナイフコーター、スクイズコーター、リバースロールコーター、バーコーター等が挙げられる。特に、膜厚均一性、塗布量などの観点から、エクストルージョンダイコーターが好ましい。
【0079】
前記組成物の塗布量は、組成物の組成、濃度などにもよるが、単位面積あたりの塗布量が少なく過ぎると冷却工程又は乾燥工程で膜に孔が形成されたり、二酸化炭素分離膜としての強度が不十分となるおそれがある。一方、上記塗布量が多過ぎると、膜厚のバラツキが大きくなったり、得られる二酸化炭素分離膜の膜厚が大きくなり過ぎて二酸化炭素の透過性が低下するおそれがある。
これらの観点から、冷却工程で得られるゲル膜の厚さが10μm以上、より好ましくは50μm以上、特に好ましくは100μm以上であり、架橋工程で得られる二酸化炭素分離膜の厚さが5μm以上、より好ましくは10μm以上、特に好ましくは15μm以上になるように塗布量を調整することが好ましい。
【0080】
(冷却工程)
冷却工程は、支持体上に得られた塗布膜を冷却してゲル膜を得る工程である。塗布膜が形成された支持体が冷却されることで、塗布膜がゲル化(固定化)し、安定したゲル膜が得られる。
【0081】
冷却工程における冷却温度は、高過ぎると固定化に時間がかかって膜厚均一性が低下するおそれがあり、低すぎるとゲル膜が凍結し膜質が変化してしまうおそれがある。塗布膜の厚みをほぼ保たったゲル膜が得られるように、塗布膜の成分、濃度に応じて決めればよいが、冷却工程における冷却温度は、支持体上の塗布膜を迅速にゲル化してゲル膜を形成する観点から湿球温度で1〜35℃が好ましく、2〜20℃がより好ましく、5〜15℃が特に好ましい。
【0082】
(乾燥工程)
冷却工程の後、ゲル膜を乾燥させて乾燥膜とする。当該乾燥膜が、二酸化炭素分離層として機能する。
乾燥方法に特に限定はないが、例えば、支持体上のゲル膜に温風を当てて乾燥させる。冷却工程後の膜はゲル状に固定化されているため、乾燥用の風が当たっても崩れずに乾燥する。
風速は、ゲル膜を迅速に乾燥させることができるともにゲル膜が崩れない速度、例えば1m/分〜80m/分が好ましく、2m/分〜70m/分がより好ましく、3m/分〜40m/分が特に好ましい。
風の温度は、支持体の変形などが生じず、かつ、ゲル膜を迅速に乾燥させることができるように膜面温度1〜80℃が好ましく、2〜70℃がより好ましく、3〜60℃が特に好ましい。
【0083】
(架橋工程)
架橋工程は乾燥工程と同時に行ってもよいし、独立して行ってもよい。また、架橋手法は公知の架橋手法を用いることができる。例えば、ゲル膜に温風を当てて乾燥させた後、赤外線ヒータなどの加熱手段によって架橋させてもよいし、温風によって乾燥とともに架橋させてもよい。熱架橋は例えば100〜150℃程度に加熱することによって行うことができる。塗布後ゲル膜にUVあるいは電子線架橋を施し、その後乾燥させてもかまわない。
【0084】
<二酸化炭素分離装置>
二酸化炭素分離装置は、本発明の二酸化炭素分離膜を備える。前記二酸化炭素分離膜は、平膜として設置されていてもよいし、逆浸透膜モジュールとして知られるスパイラル型やプリーツ型などに加工して利用することもできる。
【実施例】
【0085】
以下、本発明の実施例を説明するが、本発明は、これらの実施例に何ら限定されるものではない。
【0086】
<実施例1>二酸化炭素分離膜(1)の作製
[ゲル膜形成用組成物の作製]
5質量%ポリビニルアルコール−ポリアクリル酸塩共重合体(ナトリウム塩)水溶液(クラレ社製、クラストマーAP20)50gとエポキシ架橋剤(EX−810、日油株式会社製)0.7gと寒天0.5gを混合し、85g水溶液になるように純水で調節し、95℃で60分攪拌した。その後、40質量%炭酸セシウム水溶液を15g滴下することでゲル膜形成用組成物(1)を作製した。
【0087】
[支持体の作製]
5質量%アクリル酸(TCI社製)と、光ラジカル重合開始剤として0.1質量%Irgacure907(BASF社製)とを含むメタノール・MEK混合溶液100mlに、10cm×10cmの疎水性ポリテトラフルオロエチレン膜(サポーテッドPTFEである、中尾フィルター社製テトラテックス7008)(以下「疎水性s−PTFE膜」)を浸漬した。引き上げた当該膜にUV照射を行い、次いで、大気圧下で150℃、10分間アニール処理を行って、支持体(1)を作製した。
支持体(1)において高分子被膜は、親水性基として少なくとも、アクリル酸由来のカルボキシ基を有する。
【0088】
[ゲル膜形成用組成物の支持体への塗布]
ゲル膜形成用組成物(1)を支持体(1)の片面(UV照射及びアニール処理の時に上にした面。実施例2〜11においても同じ。)の上へ塗布し、冷却後、乾燥させることで、二酸化炭素分離膜(1)を作製した。
【0089】
<実施例2>二酸化炭素分離膜(2)の作製
[ゲル膜形成用組成物の作製]
実施例1における5質量%ポリビニルアルコール−ポリアクリル酸塩共重合体(ナトリウム塩)水溶液に代えて、5質量%ポリビニルアルコール(分子量18万、けん化率99%、アルドリッチ社製)水溶液を用いた以外は実施例1と同様にしてゲル膜形成用組成物(2)を作製した。
【0090】
[支持体の作製]
実施例1と同様にして支持体(2)を作製した。
支持体(2)において高分子被膜は、親水性基として少なくとも、アクリル酸由来のカルボキシ基を有する。
【0091】
[ゲル膜形成用組成物の支持体への塗布]
ゲル膜形成用組成物(2)を支持体(2)の片面上へ塗布し、冷却後、乾燥させることで、二酸化炭素分離膜(2)を作製した。
【0092】
<実施例3>二酸化炭素分離膜(3)の作製
[ゲル膜形成用組成物の作製]
実施例1における40質量%炭酸セシウム水溶液に代えて、40質量%炭酸カリウム水溶液3gとグリシン1.2gを用いた以外は実施例1と同様にしてゲル膜形成用組成物(3)を作製した。
【0093】
[支持体の作製]
実施例1と同様にして支持体(3)を作製した。
支持体(3)において高分子被膜は、親水性基として少なくとも、アクリル酸由来のカルボキシ基を有する。
【0094】
[ゲル膜形成用組成物の支持体への塗布]
ゲル膜形成用組成物(3)を支持体(3)の片面上へ塗布し、冷却後、乾燥させることで、二酸化炭素分離膜(3)を作製した。
【0095】
<実施例4>二酸化炭素分離膜(4)の作製
[ゲル膜形成用組成物の作製]
実施例1と同様にしてゲル膜形成用組成物(4)を作製した。
【0096】
[支持体の作製]
2−アクリルアミド−2−メチルプロパンスルホン酸(東京化成社製)90質量部と、N,N’−メチレンビスアクリルアミド(東京化成社製)10質量部と、紫外線重合開始剤(チバスペシャルティーケミカル社製、ダロキュア1173)2質量部との混合物2gを、水100mlに溶解させて溶液を調製し、10cm×10cmの疎水性s−PTFE膜を浸漬した。引き上げた当該膜にUV照射を行い、次いで、大気圧下で150℃、10分間アニール処理を行って、支持体(4)を作製した。
支持体(4)において高分子被膜は、親水性基として少なくとも、2−アクリルアミド−2−メチルプロパンスルホン酸由来のスルホン酸基を有する。
【0097】
[ゲル膜形成用組成物の支持体への塗布]
ゲル膜形成用組成物(4)を支持体(4)の片面上へ塗布し、冷却後、乾燥させることで、二酸化炭素分離膜(4)を作製した。
【0098】
<実施例5>二酸化炭素分離膜(5)の作製
[ゲル膜形成用組成物の作製]
実施例1と同様にしてゲル膜形成用組成物(5)を作製した。
【0099】
[支持体の作製]
実施例1における5質量%アクリル酸に代えて、5質量%2−ヒドロキシエチルメタクリレートリン酸エステル(ユニケミカル株式会社製、PhosmerM)を用いた以外は実施例1と同様にして支持体(5)を作製した。
支持体(5)において高分子被膜は、親水性基として少なくとも、2−ヒドロキシエチルメタクリレートリン酸エステル由来のリン酸基を有する。
【0100】
[ゲル膜形成用組成物の支持体への塗布]
ゲル膜形成用組成物(5)を支持体(5)の片面上へ塗布し、冷却後、乾燥させることで、二酸化炭素分離膜(5)を作製した。
【0101】
<実施例6>二酸化炭素分離膜(6)の作製
[ゲル膜形成用組成物の作製]
実施例1と同様にしてゲル膜形成用組成物(6)を作製した。
【0102】
[支持体の作製]
実施例1における5質量%アクリル酸に代えて、5質量%2−ヒドロキシエチルアクリレート(大阪有機化学工業社製)を用いた以外は実施例1と同様にして支持体(6)を作製した。
支持体(6)において高分子被膜は、親水性基として少なくとも、2−ヒドロキシエチルアクリレート由来のヒドロキシ基を有する。
【0103】
[ゲル膜形成用組成物の支持体への塗布]
ゲル膜形成用組成物(6)を支持体(6)の片面上へ塗布し、冷却後、乾燥させることで、二酸化炭素分離膜(6)を作製した。
【0104】
<実施例7>二酸化炭素分離膜(7)の作製
[ゲル膜形成用組成物の作製]
実施例1と同様にしてゲル膜形成用組成物(7)を作製した。
【0105】
[支持体の作製]
グリシジルアクリレート類として5質量%4−ヒドロキシブチルアクリレートグリシジルエーテル(日本化成社製)と、キレート基を有する官能性化合物として5質量%N−(2−ヒドロキシエチル)エチレンジアミン三酢酸(同仁化学社製)と、光ラジカル重合開始剤として0.1質量%Irgacure907(BASF社製)とを含むメタノール・MEK混合溶液100mlに、10cm×10cmの疎水性s−PTFEを浸漬した。引き上げた当該膜にUV照射を行い、次いで、大気圧下で150℃、10分間アニール処理を行った。その後、メタノールに30分間浸漬して洗浄を行い、乾燥させることで、支持体(7)を作製した。
支持体(7)において高分子被膜は、親水性基として少なくとも、4−ヒドロキシブチルアクリレートグリシジルエーテル由来のヒドロキシ基を有する。
【0106】
[ゲル膜形成用組成物の支持体への塗布]
ゲル膜形成用組成物(7)を支持体(7)の片面上へ塗布し、冷却後、乾燥させることで、二酸化炭素分離膜(7)を作製した。
【0107】
<実施例8>二酸化炭素分離膜(8)の作製
[ゲル膜形成用組成物の作製]
実施例1と同様にしてゲル膜形成用組成物(8)を作製した。
【0108】
[支持体の作製]
5質量%アクリル酸(TCI社製)と、光ラジカル重合開始剤として0.1質量%Irgacure907(BASF社製)とを含むメタノール・MEK混合溶液100mlに、10cm×10cmの疎水性s−PTFEを浸漬し、引き上げた当該膜にUV照射を行った。続いて、当該膜を塩化チオニルに浸漬した後、5質量%ペンタエチレンヘキサミンのメタノール液に浸漬し、引き上げた当該膜に、大気圧下で150℃、10分間アニール処理を行った。続いて、10質量%アミノトリメチレンホスホン酸(ナガセケムテックス社製)・トルエン溶液に浸漬し、引き上げた当該膜に、大気圧下で100℃、10分間アニール処理を行った。その後、メタノールに30分間浸漬して洗浄を行い、乾燥させることで、支持体(8)を作製した。
なお、前記アミノトリメチレンホスホン酸と前記ペンタエチレンヘキサミンとの反応化合物が、キレート基を有する官能性化合物である。
支持体(8)において高分子被膜は、親水性基として少なくとも、アクリル酸由来のカルボキシ基を有する。
【0109】
[ゲル膜形成用組成物の支持体への塗布]
ゲル膜形成用組成物(8)を支持体(8)の片面上へ塗布し、冷却後、乾燥させることで、二酸化炭素分離膜(8)を作製した。
【0110】
<実施例9>二酸化炭素分離膜(9)の作製
[ゲル膜形成用組成物の作製]
実施例1と同様にしてゲル膜形成用組成物(9)を作製した。
【0111】
[支持体の作製]
実施例8おける10質量%アミトノリメチレンホスホン酸に代えて、5質量%3−ヒドロキシプロパンスルホン酸(TCI社製)を用いた以外は実施例8と同様にして支持体(9)を作製した。
なお、前記3−ヒドロキシプロパンスルホン酸が、イオン交換基としてヒドロキシ基を有する官能性化合物である。
支持体(9)において高分子被膜は、親水性基として少なくとも、アクリル酸由来のカルボキシ基と、3−ヒドロキシプロパンスルホン酸由来のヒドロキシ基を有する。
【0112】
[ゲル膜形成用組成物の支持体への塗布]
ゲル膜形成用組成物(9)を支持体(9)の片面上へ塗布し、冷却後、乾燥させることで、二酸化炭素分離膜(9)を作製した。
【0113】
<実施例10>二酸化炭素分離膜(10)の作製
[ゲル膜形成用組成物の作製]
実施例1と同様にしてゲル膜形成用組成物(10)を作製した。
【0114】
[支持体の作製]
実施例1おける5質量%アクリル酸に代えて、1質量%アクリル酸(TCI社製)を用いた以外は実施例1と同様にして支持体(10)を作製した。
支持体(10)において高分子被膜は、親水性基として少なくとも、アクリル酸由来のカルボキシ基を有する。
【0115】
[ゲル膜形成用組成物の支持体への塗布]
ゲル膜形成用組成物(10)を支持体(10)の片面上へ塗布し、冷却後、乾燥させることで、二酸化炭素分離膜(10)を作製した。
【0116】
<実施例11>二酸化炭素分離膜(11)の作製
[ゲル膜形成用組成物の作製]
実施例1と同様にしてゲル膜形成用組成物(11)を作製した。
【0117】
[支持体の作製]
実施例1おける5質量%アクリル酸に代えて、20質量%アクリル酸(TCI社製)を用いた以外は実施例1と同様にして支持体(11)を作製した。
支持体(11)において高分子被膜は、親水性基として少なくとも、アクリル酸由来のカルボキシ基を有する。
【0118】
[ゲル膜形成用組成物の支持体への塗布]
ゲル膜形成用組成物(11)を支持体(11)の片面上へ塗布し、冷却後、乾燥させることで、二酸化炭素分離膜(11)を作製した。
【0119】
<比較例1>二酸化炭素分離膜(12)の作製
[ゲル膜形成用組成物の作製]
実施例1と同様にしてゲル膜形成用組成物(12)を作製した。
【0120】
[ゲル膜形成用組成物の支持体への塗布]
ゲル膜形成用組成物(12)を、10cm×10cmの未処理の疎水性s-PTFEの片面上へ塗布し、冷却後、乾燥させることで、二酸化炭素分離膜(12)を作製した。
【0121】
<比較例2>二酸化炭素分離膜(13)の作製
[ゲル膜形成用組成物の作製]
実施例1と同様にしてゲル膜形成用組成物(13)を作製した。
【0122】
[ゲル膜形成用組成物の支持体への塗布]
ゲル膜形成用組成物(13)を、10cm×10cmの未処理の親水性s-PTFE(中尾フィルター社製)の片面上へ塗布し、冷却後、乾燥させることで、二酸化炭素分離膜(13)を作製した。
【0123】
<比較例3>二酸化炭素分離膜(14)の作製
[ゲル膜形成用組成物の作製]
実施例1と同様にしてゲル膜形成用組成物(14)を作製した。
【0124】
[支持体の作製]
10cm×10cmの疎水性s−PTFEを5質量%ペンタエチレンヘキサミンのメタノール液に浸漬し、引き上げた当該膜に、大気圧下で150℃、10分間アニール処理を行った。続いて、当該膜を10質量%アミノトリメチレンホスホン酸(ナガセケムテックス社製)・トルエン溶液に浸漬し、引き上げた当該膜に、大気圧下で100℃、10分間アニール処理を行った。その後、メタノールに30分間浸漬して洗浄を行い、乾燥させることで、支持体(14)を作製した。
なお、前記アミノトリメチレンホスホン酸と前記ペンタエチレンヘキサミンとの反応化合物が、キレート基を有する官能性化合物である。
【0125】
[ゲル膜形成用組成物の支持体への塗布]
ゲル膜形成用組成物(14)を支持体(14)の片面上(アニール処理の時に上にした面。比較例4においても同じ。)へ塗布し、冷却後、乾燥させることで、二酸化炭素分離膜(14)を作製した。
【0126】
<比較例4>二酸化炭素分離膜(15)の作製
[ゲル膜形成用組成物の作製]
実施例1と同様にしてゲル膜形成用組成物(15)を作製した。
【0127】
[支持体の作製]
比較例3おける10質量%アミトノリメチレンホスホン酸に代えて、5質量%3−ヒドロキシプロパンスルホン酸(TCI社製)を用いた以外は比較例3と同様にして支持体(15)を作製した。
なお、前記3−ヒドロキシプロパンスルホン酸が、イオン交換基としてヒドロキシ基を有する官能性化合物である。
【0128】
[ゲル膜形成用組成物の支持体への塗布]
ゲル膜形成用組成物(15)を支持体(15)の片面上へ塗布し、冷却後、乾燥させることで、二酸化炭素分離膜(15)を作製した。
【0129】
<比較例5>二酸化炭素分離膜(16)の作製
[ゲル膜形成用組成物の作製]
実施例1と同様にしてゲル膜形成用組成物(16)を作製した。
【0130】
[支持体の作製]
10cm×10cmの疎水性s−PTFE膜に、コロナ放電処理装置(春日電機社製、形式「HFSS−103」)を用いて30kVの電圧を印加して15秒間、コロナ放電処理を行い、支持体(16)を作製した。
【0131】
[ゲル膜形成用組成物の支持体への塗布]
ゲル膜形成用組成物(16)を支持体(16)の片面(コロナ放電処理をした面)の上へ塗布し、冷却後、乾燥させることで、二酸化炭素分離膜(16)を作製した。
【0132】
<比較例6>二酸化炭素分離膜(17)の作製
[ゲル膜形成用組成物の作製]
実施例1と同様にしてゲル膜形成用組成物(17)を作製した。
【0133】
[支持体の作製]
10cm×10cmの疎水性s−PTFE膜に、大気圧プラズマ発生装置(パール工業社製)を用いて、出力電圧24kV、パルス周波数60Hz、Arガス流量100L/min、照射距離10mmの条件でプラズマ処理を行い、支持体(17)を作製した。
【0134】
[ゲル膜形成用組成物の支持体への塗布]
ゲル膜形成用組成物(17)を支持体(17)の片面(プラズマ処理をした面)の上へ塗布し、冷却後、乾燥させることで、二酸化炭素分離膜(17)を作製した。
【0135】
<比較例7>二酸化炭素分離膜(18)の作製
[ゲル膜形成用組成物の作製]
実施例1における5質量%ポリビニルアルコール−ポリアクリル酸塩共重合体(ナトリウム塩)水溶液に代えて、5質量%ポリアクリル酸水溶液を用い、40質量%炭酸セシウム水溶液に代えて、50質量%トリエタノールアミン水溶液を用いた以外は実施例1と同様にしてゲル膜形成用組成物(18)を作製した。
【0136】
[支持体の作製]
比較例6おける疎水性s−PTFE膜に代えて、ポリプロピレン製多孔膜(ダイセル化学工業(株)製、セルガード2500)を用いた以外は比較例6と同様にしてプラズマ処理を行い、支持体(18)を作製した。
【0137】
[ゲル膜形成用組成物の支持体への塗布]
ゲル膜形成用組成物(18)を支持体(18)の片面(プラズマ処理をした面)の上へ塗布し、冷却後、乾燥させることで、二酸化炭素分離膜(18)を作製した。
【0138】
<評価>
下記の7項目の評価を行った。その結果を表1に示す。
表1中、PVA/PAAは、ポリビニルアルコール−ポリアクリル酸塩共重合体を意味し、PVAは、ポリビニルアルコールを意味し、PAAは、ポリアクリル酸を意味し、PTFEは、ポリテトラフルオロエチレンを意味し、PPは、ポリプロピレンを意味する。
【0139】
(高分子被膜の膜厚)
実施例1〜11において、疎水性s−PTFE膜の表面に形成した高分子被膜の膜厚(最表面から疎水性多孔質基材までの距離)を、二次イオン質量分析法により測定し、下記の3段階に分類した。
♯1:膜厚が1μm以下
♯2:膜厚が100nm以下
♯3:膜厚が1μm超
【0140】
(支持体の膜面pH)
実施例1〜11及び比較例3〜7で作製した支持体、及び比較例1及び2で使用したPTFE膜について、膜面pHを以下のようにして評価した。
25℃の条件下、表面処理をした側(ゲル膜形成用組成物を塗布する側)の表面に少量の純水を滴下し、その箇所に平面pH電極を当てて膜面pHを測定した。ここで使用する純水は、それ自体のpHが5〜8であり、且つ、25℃における電気伝導度が1μs/cm以下のイオン交換水または蒸留水である。測定した膜面pHを、下記の3段階に分類した。
A:膜面pHが酸性(膜面pHが6.5未満)
B:膜面pHが中性(膜面pHが6.5以上7.5未満)
C:膜面pHが塩基性(膜面pHが7.5以上)
【0141】
(支持体の接触角)
実施例1〜11及び比較例3〜7で作製した支持体、及び比較例1及び2で使用したPTFE膜について、水との接触角を以下のようにして評価した。
25℃、50%RHの条件下、表面処理をした側(ゲル膜形成用組成物を塗布する側)の表面と水との接触角を、全自動接触角計(協和界面化学株式会社製、DM−701)を用いて測定した。同じ試験を3回行って平均を算出し、下記3段階の基準で評価した。
◎:接触角が90度未満
○:接触角が90度以上120度未満
×:接触角が120度以上
◎及び○の場合、支持体表面の親水性が良好と判断し、×の場合、支持体表面の親水性が不良と判断した。
【0142】
(密着性)
実施例1〜11及び比較例1〜7で作製した二酸化炭素分離膜を25℃、60%RHの条件で2時間調湿した。各膜の表面に、カッターナイフで碁盤目状に縦11本、横11本の切り込みを入れて、合計100個の正方形の升目を刻み、その面に日東電工(株)製のポリエステル粘着テープ(No.31B)を貼りつけた。30分経時した後に、垂直方向にテープを素早く引き剥がし、剥がれた升目の数を数えた。同じ試験を3回行って平均を算出し、下記3段階の基準で評価した。
◎:100升において剥がれが全く認められなかった。
○:100升において1〜10升の剥がれが認められた。(許容範囲)
×:100升において11升以上の剥がれが認められた。
◎及び○の場合、支持体と二酸化炭素分離層との密着性が良好と判断し、×の場合、支持体と二酸化炭素分離層との密着性が不良と判断した。
【0143】
(ガス透過性)
実施例1〜11及び比較例1〜7で作製した二酸化炭素分離膜について、二酸化炭素ガスの透過性を以下のようにして評価した。
二酸化炭素分離膜を直径47mmに切り取り、PTFEメンブレンフィルターで挟み、ガス透過試験サンプルを作製した。テストガスとしてCO/H:10/90(容積比)の混合ガスを相対湿度70%、流量100ml/分、温度130℃、全圧3atmで、各サンプル(有効面積2.40cm)に供給し、透過側にArガス(流量90ml/分)をフローさせた。透過したガスをガスクロマトグラフで分析し、CO透過速度と分離係数を算出した。COの透過係数〔Q(CO)〕を求め、下記4段階の基準で評価した。ここで、透過流速単位(GPU)は、1×10−5cm(STP)/(s・cm・cmHg)である。
◎:初期のQ(CO)が250超
○:初期のQ(CO)がGPUで200超
△:初期のQ(CO)がGPUで150以上200未満
×:初期のQ(CO)がGPUで150未満
△以上が実用的に許容されるレベルである。
なお、支持体として親水性s-PTFEを用いた比較例2は、高温・高圧のテストガス供給中に二酸化炭素分離層が支持体中へ浸透してしまうため、測定すること自体不可能であった。
【0144】
(耐久性)
上記のガス透過試験で、500時間連続使用した後の透過係数を求めた。そして、下記の式により、透過係数の変動率を求め、下記3段階の基準で、耐久性(使用を継続したときの分離性能の維持)を評価した。
透過係数の変動率(%)={(初期の透過係数)−(500時間後の透過係数)}/(初期の透過係数)×100
◎:透過係数の変動率が5%以下
○:透過係数の変動率が5%超10%以下
×:透過係数の変動率が10%超
◎及び○の場合、耐久性が良好と判断し、×の場合、耐久性が不良と判断した。
なお、支持体として親水性s-PTFEを用いた比較例2は、前述のとおり、測定すること自体不可能であった。
【0145】
(支持体への二酸化炭素キャリアの染み出し抑制)
実施例1〜11及び比較例1〜7で作製した二酸化炭素分離膜に対し、130℃、85%RHの条件で500時間湿熱試験を行った。湿熱試験後のサンプル片を凍結し、ウルトラミクロトームで作製した超薄切片を、透過型電子顕微及びエネルギー分散X線分光法により観察した。その際、支持体からのキャリアイオンの信号の有無により評価を行った。なお、この評価は如何に染み出し抑制効果があるかの観点で評価を行った。
◎:支持体中からキャリアイオン由来の信号を全く検出しなかった。(抑制効果有)
○:支持体中から僅かにキャリアイオン由来の信号を検出した。(抑制効果有)
×:支持体上にはキャリアイオンが殆ど存在しておらず、支持体中からだけキャリアイオン由来の信号を検出した。(抑制効果無)
○以上が実用的に好ましいレベルである。
【0146】
【表1】



【0147】
表1に示すとおり、本発明である実施例1〜11の二酸化炭素分離膜は、二酸化炭素ガスの透過性に優れ、使用を継続しても分離性能が高く維持されていた。したがって、本発明の二酸化炭素分離膜は、二酸化炭素の分離性能に優れ且つ寿命が長いことが確認された。
【0148】
<実施例12>
[モジュール化]
実施例1で作製した二酸化炭素分離膜を用いて、特開平5−168869を参考に、スパイラル型モジュールを作製した。作製した二酸化炭素分離モジュールが、搭載する二酸化炭素分離膜の性能のとおり、長寿命であることを確認した。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
水溶性ポリマー及び二酸化炭素キャリアを含む二酸化炭素分離層と、
疎水性の多孔質基材及び、前記多孔質基材の少なくとも一方の面に設けられた親水性基を有する高分子被膜を備え、前記高分子被膜を介して前記二酸化炭素分離層と接し、前記二酸化炭素分離層を支持する多孔質支持体と、
を備えた二酸化炭素分離膜。
【請求項2】
前記高分子被膜が、イオン交換基及びキレート基の少なくともいずれかを有する、請求項1に記載の二酸化炭素分離膜。
【請求項3】
前記高分子被膜は、膜厚が1μm以下である、請求項1又は請求項2に記載の二酸化炭素分離膜。
【請求項4】
前記高分子被膜は、親水性基として、カルボキシ基、スルホン酸基、リン酸基、ヒドロキシ基、アミノ基、エポキシ基、アクリルアミド基、イソシアネート基及び酸クロライド基の少なくとも1種を有する、請求項1〜請求項3のいずれか1項に記載の二酸化炭素分離膜。
【請求項5】
前記多孔質基材は、ポリテトラフルオロエチレン、ポリエーテルスルホン、ポリフェニレンサルファイド、ポリスルホン、ポリプロピレン、ポリエーテルイミド、ポリエーテルエーテルケトン及びポリフッ化ビニリデンの少なくとも1種を含む、請求項1〜請求項4のいずれか1項に記載の二酸化炭素分離膜。
【請求項6】
疎水性の多孔質基材と、
前記多孔質基材の少なくとも一方の面に最表層として在る、親水性基を有する高分子被膜と、
を備えた二酸化炭素分離膜用支持体。
【請求項7】
前記高分子被膜の表面と水との接触角が120度未満である、請求項6に記載の二酸化炭素分離膜用支持体。
【請求項8】
前記高分子被膜が、イオン交換基及びキレート基の少なくともいずれかを有する、請求項6又は請求項7に記載の二酸化炭素分離膜用支持体。
【請求項9】
疎水性の多孔質基材の少なくとも一方の面に、ラジカル重合性モノマーを含む重合性組成物を塗布する塗布工程と、
塗布された前記重合性組成物に活性エネルギー線を照射して高分子被膜を形成する重合工程と、
を有する二酸化炭素分離膜用支持体の製造方法。
【請求項10】
前記高分子被膜に、イオン交換基及びキレート基の少なくともいずれかを付加する付加処理工程を更に有する、請求項9に記載の二酸化炭素分離膜用支持体の製造方法。
【請求項11】
前記ラジカル重合性モノマーは、アクリレート、メタクリレート、アクリルアミド、アクリル酸及びこれらの誘導体の少なくとも1種を含む、請求項9又は請求項10に記載の二酸化炭素分離膜用支持体の製造方法。
【請求項12】
請求項6〜請求項8のいずれか1項に記載の二酸化炭素分離膜用支持体、又は請求項9〜請求項11のいずれか1項に記載の二酸化炭素分離膜用支持体の製造方法により製造された二酸化炭素分離膜用支持体を用いると共に、
水溶性ポリマー及び二酸化炭素キャリアを含む組成物を前記支持体の前記高分子被膜を有する面に塗布して塗布膜を得る塗布工程と、
前記塗布膜を冷却してゲル膜を得る冷却工程と、
前記ゲル膜を乾燥させて乾燥膜とする乾燥工程と、
を有する二酸化炭素分離膜の製造方法。
【請求項13】
前記乾燥膜を架橋させる架橋工程を更に有する、請求項12に記載の二酸化炭素分離膜の製造方法。

【公開番号】特開2013−27806(P2013−27806A)
【公開日】平成25年2月7日(2013.2.7)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−164622(P2011−164622)
【出願日】平成23年7月27日(2011.7.27)
【出願人】(306037311)富士フイルム株式会社 (25,513)
【Fターム(参考)】