説明

二酸化炭素吸収効果の評価方法および評価装置

【課題】二酸化炭素の削減に適した分析を可能とする二酸化炭素吸収効果の評価方法の提供を目的とする。
【解決手段】植物群1を判別可能な所定波長域により上空から評価対象領域2を観測した観測画像データ3における画素の分布に従って評価対象領域2から植物領域4を抽出するステップと、
観測画像データ3に座標標定された数値地形モデル5および数値表層モデル6に基づいて植物領域4の地表面標高と表層面標高との差分を、植物領域4を所定の面積単位により分割した分割単位7毎に、植物群1の高さとして算出するステップと、
予め設定された森林相当の高さに満たない植物群1に、二酸化炭素吸収量eとの因果関係により設定される所定の単位面積当たりの二酸化炭素吸収量eを割り当て、当該植物群1を有する分割単位7の植物領域4内における面積を乗じて非森林領域における二酸化炭素吸収効果を評価するステップとを有して構成する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は二酸化炭素吸収効果の評価方法および評価装置に関するものである。
【背景技術】
【0002】
地球温暖化の主な要因とされる二酸化炭素の削減に関し、近年、樹木の二酸化炭素吸収能力が着目されている。例えば、近年の国際会議の議定書である京都議定書においては、管理整備された森林を吸収源として二酸化炭素の削減量を捉えることがなされている。
【0003】
特許文献1には、このような森林による二酸化炭素の吸収効果を評価をするための手法が記載されている。この従来例において、評価は、二酸化炭素の森林による吸収量を直接把握してなされる。具体的には、森林の単年の成長量に炭素含有率を乗じて炭素吸収量を算出し、これを二酸化炭素に換算して単年の二酸化炭素吸収量を把握する。上記成長量は、立木幹材積にバイオマス係数を乗じて得られるバイオマス蓄積量を所定の測定期間の前後2時期で取得し、これを年に換算して算出される。また、上記立木幹材積は、林相毎に一定面積の標準地を選定し、この標準地内の樹木の樹高を測定し、この樹高から胸高直径を算出し、これら樹高および胸高直径から単位面積当たりの立木幹材積を算出し、さらに空中写真に基づいて計測した林相面積を乗じて求められる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2008-46837号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、上述した従来例は、そもそも二酸化炭素の吸収源を森林のみに限定するために、都市部などの森林が少なくならざるを得ない地域の場合、二酸化炭素の削減に適した分析ができるとは必ずしも言い難いのが実情である。
【0006】
本発明は以上の欠点を解消すべくなされたものであって、森林が少ない地域における二酸化炭素の削減に適した分析を可能とする二酸化炭素吸収効果の評価方法の提供を目的とする。また、本発明の他の目的は、森林が少ない地域おける二酸化炭素の削減に適した分析を可能とする二酸化炭素吸収効果の評価装置の提供にある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
二酸化炭素の吸収効果は、上述したように森林のみに期待することなく、光合成を考慮するならば植物一般を対象に認めることも有意義といえる。一方、効果を評価する地域、すなわち評価対象地域が広範な場合には、従来同様に空中写真などを用いることが効率的であるが、このように植物一般を対象にしてしまうと、評価材料をどのように把握すべきかが問題となる。この点、上述した京都議定書において森林に対して管理整備されていることを求めるように、評価材料が容易に消失しにくいような安定性に対しても一定の配慮ができることが望ましい。
【0008】
本発明は以上を考慮してなされたもので、
植物群1を判別可能な所定波長域により上空から評価対象領域2を観測した観測画像データ3における画素の分布に従って評価対象領域2から植物領域4を抽出するステップと、
前記観測画像データ3に座標標定された数値地形モデル5および数値表層モデル6に基づいて前記植物領域4の地表面標高htと表層面標高hsとの差分Δhを、該植物領域4を所定の面積単位により分割した分割単位7毎に、植物群1の高さとして算出するステップと、
予め設定された森林相当の高さに満たない植物群1に、二酸化炭素吸収量との因果関係により設定される所定の単位面積当たりの二酸化炭素吸収量eを割り当て、当該植物群1を有する前記分割単位7の植物領域4内における面積を乗じて評価対象領域2内の非森林領域における二酸化炭素吸収効果を評価するステップとを有して二酸化炭素吸収効果の評価方法を構成する。
【0009】
評価材料としての植物一般は、例えば地域環境に適した雑草が群生するように、集団を形成する傾向が認められる。このような傾向に着目すれば、植物一般を評価材料として認めた場合において個体単位ではなく集団、すなわち植生等を単位としてその有無を把握することにより、衛星写真等を用いて把握することが可能となり、広範な地域に対する評価を効率的に進めることができる。また、集団をなしていることで個体に比べれば容易に消失しにくいような安定性があるということもできる。
【0010】
さらに、植物一般としては農作物も一定の割合を占めることになるが、これは経済活動に従うことから集団を形成することが期待できる。
【0011】
以上の植生等の植物群1は、植物群1が判別可能な所定波長域により上空から評価対象領域2を観測した衛星写真や航空写真等の観測画像データ3を用いることにより評価対象領域2から効率的に抽出することができる。植物群1が判別可能な所定波長域としては、例えば植物一般の色である緑色によって植物を判別可能な可視波長域、あるいは植物が非常に強く反射することで植物を判別可能な近赤外波長域などの単一の波長域以外に、複数の波長域として構成することも可能で、例えば近赤外域と可視域(赤)とで構成される代表的な植生指標である正規化植生指標(NDVI:Normalized Difference Vegetation Index)を利用して植物の有無を判別することも可能である。
【0012】
また、このようにして抽出された植物群1には森林が含まれる場合が考えられるが、森林が少ない地域における分析において有用な森林以外の植物群1については、その高さを利用して特定することができる。具体的には、上述した観測画像データ3に対して座標標定された数値地形モデル5(DTM:Didital Terrain Model)および数値表層モデル6(DSM:Digital Surface Model)を用意し、両モデル間の標高差Δhを算出することにより、効率的に植物群1の高さを得ることができる。この高さが森林相当に満たないものに絞り込めば、森林以外の植物群1を特定することができる。高さの判定に際しては、評価対象領域2から複数の植物群1を抽出して得られた植物領域4を所定の面積単位により分割した分割単位7毎に行うことにより、植物群1を良好に特定することができる。
【0013】
すなわち、複数の植物群1が抽出されて植物群1の単位面積よりも大きくなる植物領域4について、例えば上述した観測画像データ3の単一画素が示す面積を単位として分割した分割単位7を設定した場合には、植物群1毎に高さを判定することができる。なお、上記分割単位7の面積は、その高さにより植物群1が森林か否かを判別するに適したものにすることが望ましく、例えば上述した単一画素に対応する地上面積よりも小さく、あるいは大きくすることも可能であるが、上述した数値地形モデル5等における分解能、精度などを考慮することが望ましい。
【0014】
以上のようにして評価材料から除外される森林は、森林以外の植物群1に比べて一般に二酸化炭素吸収効果に優れることから、このように森林以外の植物群1を特定して評価材料とすることにより、誤って森林が含まれてしまうことによる評価の精度低下を防止することができる。なお、森林を含めた二酸化炭素吸収効果を評価したい場合には、以上の評価に加えて森林を対象にした従来のような評価を組み合わせて総合的に判断すれば足りる。
【0015】
上述したように森林以外の植物群1が特定できれば、あとは二酸化炭素吸収量との因果関係に従って評価することができる。評価に際しては、予め現地調査を行うなどして森林以外の植物群1による単位面積当たりの二酸化炭素吸収量eについて決定しておき、これに面積を乗じれば足りる。これによって面積に応じた評価を行うことができる。二酸化炭素吸収量eは、従来例のような二酸化炭素の年間予想吸収量のほか、適宜の指標などとしても構成することが可能である。
【0016】
また、以上のような評価を行うための植物群1の面積は、上述した分割単位7が所定の面積単位で形成されることにより特定することができる。さらに、上述した二酸化炭素吸収量eを現地調査等により決定する単位面積については、二酸化炭素吸収量eの判断に適したものにすることが望ましいが、上述した分割単位7の単位面積と同じにすれば、演算処理の負荷を軽減することができ、この場合においてさらに、上述した観測画像データ3の単一画素が占める面積とも同じにすれば、さらに演算処理の負荷を軽減することができる。すなわち、例えば上述した観測画像データ3、数値地形モデル5、数値表層モデル6を相互に座標標定し、これらのデータが有する情報を、平面位置を基準にして管理、加工して地理情報システム(GIS:Geographic Information System)を構築すれば、このGISのデータに基づいて二酸化炭素吸収効果を評価することができる。
【0017】
また、上述したように植生群の高さを判定する場合において、森林相当に満たない高さの範囲内において複数の高さ範囲区分8を設定し、各高さ範囲区分8に対して二酸化炭素吸収量との因果関係により個別に設定した単位面積当たりの二酸化炭素吸収量eを割り当てれば、二酸化炭素吸収量と密接に関連する植物の高さを活用して評価精度をより高めることができる。この場合、高さ範囲区分8は評価精度の向上を考慮して決定することができるが、草地、農地といったいわゆる土地利用区分に対応した高さ範囲区分8を設定すれば、上述したようにGISを構築した場合に属性データとして土地利用区分が設定されたときには、これをそのまま利用して確認、修正することができる。例えば、属性データとしての土地利用区分を設定するために現地確認調査がなされる場合には、評価の精度を極めて高めることが可能になる。
【0018】
さらに、以上においては植物群1に二酸化炭素吸収量eを割り当てる場合を示したが、これに代えて二酸化炭素吸収量を森林換算する換算率を割り当て、該換算率に対して評価対象領域2内における当該植物群1を有する分割単位7の面積を乗じて得られる森林相当面積により二酸化炭素吸収効果を評価することも可能で、この場合には、評価結果を森林基準の二酸化炭素吸収能力と比較することが容易となり、上述した議定書などの森林基準との整合性を得やすくなる。
【0019】
また、上述したGISを考慮すれば、二酸化炭素吸収効果の評価方法は、
評価対象領域2を設定した後、
地図データ9に座標標定され、植物群1が判別可能な所定波長域により地表を上空から観測した観測画像データ3を格納する観測画像データ格納部10を参照し、評価対象領域2の地図上の対応領域についての観測画像データ3における画素の分布に従って評価対象領域2から植物領域4を地図上の位置を特定して抽出し、
次いで、前記地図データ9に座標標定された数値地形モデル5を格納する数値地形モデル格納部11、および前記地図データ9に座標標定された数値表層モデル6を格納する数値表層モデル格納部12を参照して前記植物領域4の地表面標高htと表層面標高hsとの差分Δhを、該植物領域4を所定の面積単位により分割した分割単位7毎に、植物群1の高さとして算出し、
この後、予め設定された森林相当の高さに満たない植物群1に、二酸化炭素吸収量との因果関係により設定される所定の単位面積当たりの二酸化炭素吸収量eを割り当て、当該植物群1を有する前記分割単位7の植物群1領域内における面積を乗じて評価対象領域2内の非森林領域における二酸化炭素吸収効果を評価して構成することができ、この場合、評価対象領域2の選定の自由度を高めたデータ処理が構築される。
【0020】
また、以上において述べた二酸化炭素吸収効果の評価は、
地図データ9を格納する地図データ格納部13、
前記地図データ9に座標標定され、植物群1が判別可能な所定波長域により上空から地表を観測した観測画像データ3を格納する観測画像データ格納部10、
前記地図データ9に座標標定された評価対象領域2の数値地形モデル5を格納する数値地形モデル格納部11、
前記地図データ9に座標標定された評価対象領域2の数値表層モデル6を格納する数値表層モデル格納部12、
二酸化炭素吸収量との因果関係により設定される植物群1の所定の単位面積当たりの二酸化炭素吸収量eを、予め設定された森林相当の高さに満たない範囲内において植物群1の所定の高さ範囲区分8別に格納する植物・二酸化炭素吸収量テーブル14、
評価対象領域2を設定する対象領域設定手段15、
前記地図データ格納部13と観測画像データ格納部10を参照し、前記評価対象領域2の地図上の対応領域についての観測画像データ3における画素の分布に従って前記評価対象領域2から植物領域4を抽出する植物領域抽出手段16、
前記数値地形モデル格納部11および数値表層モデル格納部12を参照し、前記植物領域4の地表面標高htと表層面標高hsとの差分Δhを、該植物領域4内を所定の面積単位により分割した分割単位7毎に、植物群1の高さとして算出する植物高さ算出手段17、
前記植物・二酸化炭素吸収量テーブル14を参照し、前記植物群1の高さ範囲区分8に応じて割り当てられた単位面積当たりの二酸化炭素吸収量eに、当該高さ範囲区分8の植物群1を有する前記分割単位7の植物領域4内における面積を乗じ、得られた各高さ範囲区分8についての二酸化炭素吸収量を合算して評価対象領域2内の非森林領域における二酸化炭素吸収効果を評価する評価手段18を有して構成された二酸化炭素吸収効果の評価装置を用いることによっても実現することができる。
【発明の効果】
【0021】
以上の説明から明らかなように、本発明によれば、森林が少ない地域における二酸化炭素の削減に適した分析を可能とすることから、地球温暖化対策に貢献することができる。
【図面の簡単な説明】
【0022】
【図1】本発明を示す図で、(a)は全体の処理の流れを示すフローチャート、(b)は植物・二酸化炭素吸収量テーブルの内容説明図である。
【図2】本発明を示すブロック図である。
【図3】本発明に係る地理情報システムの構造を説明する図で、(a)は地理的位置を基準にして複数の情報を重ね合わせたイメージを示す図、(b)は数値地形モデルと数値表層モデルの標高の採用基準の違いなどを説明する図である。
【図4】評価対象領域を示す図で、(a)はより広範な領域内で特定されたイメージを示す図、(b)は地図データ上でのイメージを示す図、(c)は観測画像データ上でのイメージを示す図である。
【図5】評価対象領域を示す図で、(a)はメッシュを設定したイメージを示す図、(b)は数値地形モデル上でのイメージを示す図、(c)は数値表層モデル上でのイメージを示す図、(d)は植物群の高さを算出した状態でのイメージを示す図である。
【図6】評価処理のフローチャートである。
【発明を実施するための最良の形態】
【0023】
この実施の形態は評価対象領域2における森林を除く植物による年間の二酸化炭素吸収量を直接求めた場合を示すもので、図2に示すブロック図で構成されたコンピュータによって図1(a)に示す流れに沿って処理が行われる。図2に示すように、処理に先立ってコンピュータにはGISデータ20が記憶されており、このGISデータ20は二次元の地図データ9上で特定される平面位置を基準にして観測画像データ3、数値地形モデル5、数値表層モデル6を管理して構成される。図3(a)にこれらのデータのGIS20における重ね合わせイメージを示す。
【0024】
上記観測画像データ3は、人工衛星に搭載したマルチスペクトルセンサによる観測画像を正規化植生指標(NDVI)を用いて加工、解析したものである。このNDVIは、所定波長域における植物の反射特性を利用することにより、撮影領域における植物群1の分布を画素単位で把握できるようにしたものである。正規化植生指標は具体的には、NDVI=(NIR-R)/(NIR+R)により算出され、ここでNIRは近赤外の波長域の反射率、Rは可視の赤の波長域の反射率である。この観測画像の解像度は、評価対象領域2の広さや、データ処理効率、植物群1の望ましい大きさを考慮して決定することができる。なお植物群1は、上記正規化植生指標以外の種々の植生指標を用いたり、上記マルチスペクトルセンサに代えてハイパースペクトルセンサを用いたり、さらには衛星撮影画像ではなく空中撮影画像を用いて把握しても足りる。
【0025】
上記数値地形モデル5は、上述した衛星撮影画像のステレオマッチングにより生成されるもので、特に撮影時期を冬期前後にして植物の定着する地域の地表面を得やすいようにされる。また、数値表層モデル6も同様に衛星撮影画像のステレオマッチングにより生成され、この場合植物が成長している夏期前後の撮影時期にされる。さらに、これらのモデル5、6は、複数の撮影時期のものを利用して補完することにより精度を高めて生成される。なお、これらのモデル5、6は、具体的には例えば不正三角網(TIN:Triangulated Irregular Network)やボクセル(voxel、volume cell)モデルなどにより構成され、上述した衛星撮影画像のステレオマッチングではなくレーザ測距装置を用いたり、撮影のプラットフォームに航空機等を用いたりして生成しても足りる。
【0026】
上述した観測画像データ3は、撮影領域の緯度や経度などのアノテーションデータを用い、海岸線等を目視により合わせるなどして幾何補正して上述した地図データ9に位置合わせされる。また、数値地形モデル5および数値表層モデル6は、位置座標が特定された地上基準点を撮影画像中に含めるようにして撮影し、これを利用するなどして幾何補正して地図データ9に位置合わせされる。以上のGISデータ20は、図2に示すように、地図データ9を地図データ格納部13に、観測画像データ3を観測画像データ格納部10に、数値地形モデル5を数値地形モデル格納部11に、数値表層モデル6を数値表層モデル格納部12に格納して構成される。
【0027】
以上のGISデータ20を用いた二酸化炭素吸収量の算出は、先ず、算出対象としての評価対象領域2を設定することにより進められる(ステップS1)。評価対象領域2の設定の様子を図4(a)に示す。評価対象領域2は、この実施の形態においては例えば、図示省略したマウス等を操作して地図データ9上でその領域を指定することにより特定され、この領域指定をマウス等から入力部21を介して受領した対象領域設定手段15により、上記領域指定に従って設定される。なお、図4(a)におい22は上述した地図データ9に含まれる行政区画であり、評価対象領域2の設定は、上述したマウス等による領域指定以外に、例えば行政区画などを指定して行うようにしてもよい。
【0028】
この評価対象領域2は、この実施の形態における例示では、図4(b)に示すように、森林23、灌木地24、草地25、農地26、集落27、道路28、および裸地29を有して構成される。
【0029】
以上のように評価対象領域2が設定されると、次に、植物群1が存在する植物領域4を抽出する(ステップS2)。植物領域4の抽出は、上述した観測画像データ3における植物群1の存在を示す画素の全てに対応する領域の位置座標について、この観測画像データ3に対して位置合わせされた地図データ9上で求めてなされる。植物領域4を抽出する植物領域抽出手段16は、上述したように地図データ9により平面座標を特定される評価対象領域2に対応する領域の観測画像データ3を読み出し、観測画像データ3上で分布する画素の全てが占める領域を植物領域4として、画素の平面座標を用いて特定する。評価対象領域2に関する観測画像データ3について、植物群1の存在を示す画素領域にハッチングを施したものを図4(c)に示す。この図に示すように、森林23、灌木地24、草地25、および農地26に対応する領域が全て植物領域4として抽出される。
【0030】
次いで、植物領域4の植物群1の高さを算出する(ステップS3)。この高さは上述した数値地形モデル5および数値表層モデル6を利用して算出されるが、これに先立ち、高さの算出精度を良好に確保するために、先ずこれらのモデルにメッシュ30が設定される。このメッシュ30は、上述したように観測画像データ3の画素単位での分解能で植物群1が把握されることに対応し、この分解能に従った植物群1の高さの算出を可能にするために、観測画像データ3の画素サイズと同じメッシュサイズにより、メッシュ30のセル7(分割単位)位置を観測画像データ3の画素位置に対応させて設定される。
【0031】
図5(a)に各画素を識別可能なように表記した観測画像データ3を、図5(b)、(c)に数値地形モデル5、数値表層モデル6のそれぞれにメッシュ30を設定したイメージを示す。なお、図5(b)、(c)において同じ標高には同一のハッチングを施して示す。この図に示すように、この実施の形態においてメッシュ30は植物領域4にのみ設定されるが、植物領域4さえ設定されていれば評価対象領域2の全域に対して設定しても足りる。
【0032】
メッシュ30を設定したら、次に、メッシュ30の各セルにおける代表値を設定する。上述したようにTINなどで構成される数値地形モデル5等は、標高測定点間を三角形からなる面などで補完などして構成される。このため代表値の設定は、標高座標を上述したセル7の広さ単位で特定するためのもので、具体的には、例えばセルの中心点の標高座標をセル7の標高座標、すなわち代表値として採用することができる。また、このほかにもセル7内の標高座標の平均値やメディアンなど、標高の精度や演算の量を考慮するなどして適宜代表値を決定することができる。
【0033】
以上のように代表値を設定したら、数値地形モデル5と数値表層モデル6のそれぞれの標高座標値をセル7単位で比較する。図3(b)に示すように、数値地形モデル5が土地被覆31、地物32を除いた地表面の標高htを、数値表層モデル6が土地被覆31、地物32を含めた表層面の標高hsを有することから、求めている植物群1の高さはこれらの差分Δhを算出することにより与えられる。この差分Δhを植物領域4内の全セル7について算出すれば、各セル7を構成する植物群1毎に、その高さを得ることができる。
【0034】
以上の植物群1の高さの算出処理は植物高さ算出手段17によりなされる。この植物高さ算出手段17は、図2に示すように、メッシュ設定部33、代表値設定部34、標高差分演算部35を有する。メッシュ設定部33は、上述したように数値地形モデル5等にメッシュ30を設定するもので、例えば観測画像データ3の解像度や、観測画像データ3と数値地形モデル5等との重ね合わせ位置に基づくなどしてメッシュサイズ、メッシュ30の平面座標上の位置を決定する。また、代表値設定部34は、例えばセル7の中心点の平面座標を求め、数値地形モデル5等においてこの平面座標をとる標高値を取得し、これを数値地形モデル5と数値表層モデル6のそれぞれにおける植物領域4内の全てのセル7において、標高値が取得されるまで繰り返す。標高差分演算部35は、数値地形モデル5と数値表層モデル6において同一地点を示すセル7毎に、数値表層モデル6の標高値から数値地形モデル5の標高値を減算し、これを植物領域4内の全てのセル7において算出されるまで繰り返す。
【0035】
このようにして植物高さを算出したら、最後に、森林を除く植物の二酸化炭素の吸収効果を評価する(ステップS4)。この評価は、図2に示すように評価手段18が植物・二酸化炭素吸収量テーブル14を参照してなされる。このテーブル14は、図1(b)に示すように、植物の高さ範囲区分8と単位面積当たりの年間の二酸化炭素吸収量eとを対応付けて格納する。上記単位面積としてこの実施の形態においては1平方メートルが設定されるが、上述したセル7の地上で対応する面積を単位面積として後述する二酸化炭素吸収量の算出を容易にしても足りる。
【0036】
また、この実施の形態において植物の高さ範囲区分8は、植物の種類によらずそれぞれ二酸化炭素吸収量が近似しやすい傾向が認められる草相当地の高さ範囲、農地相当の高さ範囲、灌木地相当の高さ範囲の3種類が設定され、森林相当の高さ範囲が設定されないことで評価対象から森林23(あるいは林地、樹林地)が除外される。なお、高さ範囲区分8に対応したそれぞれ二酸化炭素吸収量eは、図1(b)においてA、B、Cの代数で示すように所定の数値で不変にしてしまうことも可能であるが、評価対象領域2に生息する植物の種類を予め調査した上で地域性に応じて設定することが望ましい。また、以上のように植物の高さ範囲区分8が土地利用区分に準じて設定されることにより、例えば上述したGISデータ20において土地利用区分の属性データを設定したときには、これを利用して区分を検証することも可能になる。さらに、以上の高さ範囲区分8同士を区分けする図1(b)に示す植物高さの閾値は、実験により決定したものであるが、例えば評価対象領域を現地調査した上で、実際に現地に繁茂している植物の高さを考慮して設定することができる。
【0037】
評価の手順を図6に沿って説明する。評価は、先ず、上述したように植物高さ算出手段17により算出された各セル7の植物高さについて、セル7毎に取得した上で(ステップS4--1)、これが灌木地相当を超えた高さであるかを判定(ステップS4-2)し、該当する場合には評価対象外の森林23であると思われるために、当該セル7に単位面積当たりの二酸化炭素吸収量eについての属性を0として登録、設定する(ステップS4-3)。一方、上記ステップS4-2において該当しなかった場合には、同様に、灌木地相当の高さか(ステップS4-4)、農地相当の高さか(ステップS4-6)を順次判定し、それぞれ該当する場合にはセル7に灌木地24に応じた単位面積当たりの二酸化炭素吸収量eについての属性Cを登録し(ステップS4-5)、または農地26に応じた単位面積当たりの二酸化炭素吸収量eについての属性Bを登録する(ステップS4-7)。いずれにも該当しない場合には、草地25であると判定できるために、これに応じた単位面積当たりの二酸化炭素吸収量eについての属性Aを登録する(ステップS4-8)。以上の処理を植物領域4の全てのセル7が評価されるまで繰り返し(ステップS4-9)、全て評価したらセル7の地上での面積に対して単位面積当たりの二酸化炭素吸収量eを乗算してセル7毎の二酸化炭素吸収量を求めた上で、全てのセル7の二酸化炭素吸収量を合算して得られる植物地域4の二酸化炭素吸収量を評価結果として算出する(ステップS4-10)。
【0038】
この評価結果は図2に示す出力部36を介して図外のモニタに表示できるようにされ、これにより、二酸化炭素吸収効果の評価処理が終了する。
【0039】
図5(d)に植物の高さ範囲区分8毎、言い換えれば単位面積当たりの二酸化炭素吸収量eの違い毎に、セル7に対して異なるハッチングを施して評価対象領域2を示す。二点鎖線は地図データ9を重ねて表示したものである。この図に示すように、以上の処理によれば、植物群1の高さの違い、分布を分析することができ、単位面積当たりの二酸化炭素吸収量eの違い、分布を分析することができる。上述した二酸化炭素吸収量に加えて出力部36にこのような画像を出力し、評価結果において二酸化炭素吸収能力の地域分布を容易に把握できるようにすることも望ましい。
【0040】
なお、以上においては数値地形モデル5と数値表層モデル6を利用して植物高さを決定する場合を示したが、例えば上述した正規化植生指標を利用した既存の土地被覆分類の判定手法や、現地調査などを併用し、数値地形モデル5等を利用して特定した植物高さを確認したり、必要に応じて修正を加えるようにすることで、評価精度をより向上させることも可能である。
【0041】
以下に本発明の変形例を示す。この変形例は以上のように評価対象領域2において森林を除いて求められる二酸化炭素吸収効果について、森林換算して評価しやすくされる。具体的には、上述した灌木地などと同様に、森林についての年間の単位面積当たりの二酸化炭素吸収量eを予め設定しておき、これを上述した灌木地、農地、草地における二酸化炭素吸収量eでそれぞれ除算することにより、灌木地等のそれぞれの単位面積当たりの森林相当における面積を算出する。このようにして算出されたそれぞれの面積を換算率として、上述した植物・二酸化炭素吸収量テーブル14において単位面積当たりの二酸化炭素吸収量eに代えて植物の高さ範囲区分8毎に一対一対応させれば、評価手段18によって評価対象領域2の森林以外の植物における森林相当の面積を得ることができる。
【0042】
したがってこの変形例においては、森林相当の面積を得ることができ、二酸化炭素吸収効果の算定に際して、森林の面積を利用した所定の評価手法が予め確立されている場合に、この評価手法に従った評価を容易に得ることが可能となる。
【0043】
なお、この変形例においては、灌木地等の面積を森林の面積に対して変換する場合を示したが、二酸化炭素の吸収効果の判定要素に従い、例えば上述した従来例に示す幹の体積などのような他の要素を含めて変換するようにしてもよい。この場合には、例えば灌木の幹の体積などについても予め設定しておき、これを考慮して換算率を設定すればよい。
【符号の説明】
【0044】
1 植生群
2 評価対象領域
3 観測画像データ
4 植物領域
5 数値地形モデル
6 数値表層モデル
7 分割単位
8 高さ範囲区分
9 地図データ
10 観測画像データ格納部
11 数値地形モデル格納部
12 数値表層モデル格納部
13 地図データ格納部
14 植物・二酸化炭素吸収量テーブル
15 対象領域設定手段
16 植物領域抽出手段
17 植物高さ算出手段
18 評価手段
ht 地表面標高
hs 表層面標高
Δh 差分
e 単位面積当たりの二酸化炭素吸収量


【特許請求の範囲】
【請求項1】
植物群を判別可能な所定波長域により上空から評価対象領域を観測した観測画像データにおける画素の分布に従って評価対象領域から植物領域を抽出するステップと、
前記観測画像データに座標標定された数値地形モデルおよび数値表層モデルに基づいて前記植物領域の地表面標高と表層面標高との差分を、該植物領域を所定の面積単位により分割した分割単位毎に、植物群の高さとして算出するステップと、
予め設定された森林相当の高さに満たない植物群に、二酸化炭素吸収量との因果関係により設定される所定の単位面積当たりの二酸化炭素吸収量を割り当て、当該植物群を有する前記分割単位の植物領域内における面積を乗じて評価対象領域内の非森林領域における二酸化炭素吸収効果を評価するステップとを有する二酸化炭素吸収効果の評価方法。
【請求項2】
前記植物群の森林相当に満たない高さの範囲内において、複数の高さ範囲区分を設定し、各高さ範囲区分に対して二酸化炭素吸収量との因果関係により個別に設定した単位面積当たりの二酸化炭素吸収量を割り当てる請求項1記載の二酸化炭素吸収効果の評価方法。
【請求項3】
前記植物群に二酸化炭素吸収量を割り当てることに代えて、二酸化炭素吸収量を森林換算する換算率を割り当て、該換算率に対して評価対象領域内における当該植物群を有する分割単位の面積を乗じて得られる森林相当面積により二酸化炭素吸収効果を評価する請求項1または2記載の二酸化炭素吸収効果の評価方法。
【請求項4】
評価対象領域を設定した後、
地図データに座標標定され、植物群が判別可能な所定波長域により地表を上空から観測した観測画像データを格納する観測画像データ格納部を参照し、評価対象領域の地図上の対応領域についての観測画像データにおける画素の分布に従って評価対象領域から植物領域を地図上の位置を特定して抽出し、
次いで、前記地図データに座標標定された数値地形モデルを格納する数値地形モデル格納部、および前記地図データに座標標定された数値表層モデルを格納する数値表層モデル格納部を参照して前記植物領域の地表面標高と表層面標高との差分を、該植物領域を所定の面積単位により分割した分割単位毎に、植物群の高さとして算出し、
この後、予め設定された森林相当の高さに満たない植物群に、二酸化炭素吸収量との因果関係により設定される所定の単位面積当たりの二酸化炭素吸収量を割り当て、当該植物群を有する前記分割単位の植物群領域内における面積を乗じて評価対象領域内の非森林領域における二酸化炭素吸収効果を評価する二酸化炭素吸収効果の評価方法。
【請求項5】
地図データを格納する地図データ格納部、
前記地図データに座標標定され、植物群が判別可能な所定波長域により上空から地表を観測した観測画像データを格納する観測画像データ格納部、
前記地図データに座標標定された評価対象領域の数値地形モデルを格納する数値地形モデル格納部、
前記地図データに座標標定された評価対象領域の数値表層モデルを格納する数値表層モデル格納部、
二酸化炭素吸収量との因果関係により設定される植物群の所定の単位面積当たりの二酸化炭素吸収量を、予め設定された森林相当の高さに満たない範囲内において植物群の所定の高さ範囲区分別に格納する植物・二酸化炭素吸収量テーブル、
評価対象領域を設定する対象領域設定手段、
前記地図データ格納部と観測画像データ格納部を参照し、前記評価対象領域の地図上の対応領域についての観測画像データにおける画素の分布に従って前記評価対象領域から植物領域を抽出する植物領域抽出手段、
前記数値地形モデル格納部および数値表層モデル格納部を参照し、前記植物領域の地表面標高と表層面標高との差分を、該植物領域内を所定の面積単位により分割した分割単位毎に、植物群の高さとして算出する植物高さ算出手段、
前記植物・二酸化炭素吸収量テーブルを参照し、前記植物群の高さ範囲区分に応じて割り当てられた単位面積当たりの二酸化炭素吸収量に、当該高さ範囲区分の植物群を有する前記分割単位の植物領域内における面積を乗じ、得られた各高さ範囲区分についての二酸化炭素吸収量を合算して評価対象領域内の非森林領域における二酸化炭素吸収効果を評価する評価手段を有する二酸化炭素吸収効果の評価装置。




【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【公開番号】特開2012−14371(P2012−14371A)
【公開日】平成24年1月19日(2012.1.19)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−149597(P2010−149597)
【出願日】平成22年6月30日(2010.6.30)
【出願人】(000135771)株式会社パスコ (102)