説明

二酸化炭素吸収材料

【課題】 吸収速度、吸収量ともに優れた二酸化炭素吸収材料を提供すること。
【解決手段】 リチウムと鉄を含む酸化物を室温〜400℃の温度で合成する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本願発明は、二酸化炭素吸収材料に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、地球の温暖化問題が懸念されるようになり、温室効果ガスとしての二酸化炭素の排出量削減が求められる中、二酸化炭素を吸収する材料が注目を集めている。たとえば、リチウムの複酸化物から形成される二酸化炭素吸収材料が提案されている(たとえば、特許文献1、2参照)。
【0003】
特許文献1には、複酸化物として、アルミニウム、チタン、鉄およびニッケルから選ばれる少なくとも1種を含むことが記載されている。特許文献2には、鉄、ニッケル、ジルコニウム、珪素等を含むことが記載されている。
【0004】
また、特許文献1には、平均粒径0.1〜5.0μmの粒子からなる多孔質体が例示され、特許文献2には、リチウム含有複酸化物としてリチウムシリケートに限定した上で、平均粒径が0.1〜2.0μmの範囲内であることが記載され、粒径を小さくすることで吸収速度を速める効果があると記載されている。
【特許文献1】特開平11−90219号公報
【特許文献2】特開2001−232184号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
一方、本願の発明者らは、低コストで入手しやすい鉄を含むリチウム複酸化物、すなわち、リチウムフェライトに着目し、性能を調べてきた。
【0006】
しかしながら、特許文献1、2に記載されているような粒径0.1μmまで粉砕した粉末試料を用いても、二酸化炭素の吸収量は理論値よりはるかに低い値しか示さないという問題に行き当たった。二酸化炭素と完全に反応してすべて炭酸リチウムと酸化鉄に変化した場合の二酸化炭素吸収量を100%としたとき、実際の吸収量は数%にしか到達しないのであった。
【0007】
本願発明は、このような事情に鑑みてなされたものであり、吸収速度、吸収量ともに優れた二酸化炭素吸収材料を提供することを課題としている。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本願発明は、上記の課題を解決するものとして、第1には、リチウムと鉄を含む酸化物を室温〜400℃の温度で合成することによって得られることを特徴としている。
【0009】
本願発明は、第2には、上記第1の二酸化炭素吸収材料において、水酸化リチウムとオキシ水酸化鉄とを室温〜400℃の温度で反応させて得られることを特徴としている。
【0010】
本願発明は、第3には、上記第1または第2の二酸化炭素吸収材料において、リチウムと鉄を含む酸化物がスピネル型の結晶構造をとることを特徴としている。
【0011】
本願発明は、第4には、上記第1または第2の二酸化炭素吸収材料において、リチウムと鉄を含む酸化物がホランダイト型の結晶構造をとることを特徴としている。
【0012】
本願発明は、第5には、上記第1の二酸化炭素吸収材料において、リチウムと鉄を含む酸化物がα−NaFeO2型の結晶構造をとることを特徴としている。
【発明の効果】
【0013】
本願発明の第1〜第5の二酸化炭素吸収材料によれば、高温で合成した酸化物と比較して、二酸化炭素の吸収速度、吸収量がともに格段に優れる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0014】
本願の発明者らは、リチウムフェライトを低温で合成することができれば、生成物の結晶粒が小さくなり、反応表面積が増えて二酸化炭素吸収速度が速くなるのではないかと考えた。そして、低温での合成に成功し、二酸化炭素曝露試験を行った結果、吸収速度に優れることを確認し、さらに総吸収量にも優れることを見出した。
【0015】
リチウムフェライトは、室温〜400℃の比較的低温で合成することができる。
【0016】
たとえば、水酸化リチウムとオキシ水酸化鉄(α−FeO(OH)またはスピネル型FeO(OH)のどちらでもよい)との混合物を固相反応させたり、アルコール中で反応させたりすると、イオン交換・脱水の後に、リチウムフェライトが形成される。X線回折パターンを調べると、生成物にはα型のLiFeO2相(α−LiFeO2)が確認され、X線回折ラインの幅はブロードであり、結晶粒の小さな生成物となっている。ラインの幅から見積もられる結晶粒径(結晶子サイズ)は、数nm〜数十nmの範囲である。
【0017】
また、固相反応による合成をスピネル型FeO(OH)を原料とし、400℃において行ったり、2−フェノキシエタノールのようなアルコール中で200℃において合成したりして、α−LiFeO2がほぼ単相として得られる。
【0018】
室温〜400℃で合成される生成物を二酸化炭素に曝露すると、高温で処理し粉砕して粒径0.1μmオーダー以下の粉末状にしたものに比べて短時間で多くの二酸化炭素を吸収することができる。低温で合成したものは、高温を経たもののような結晶粒の粗大化が起こらないため、合成された時点で結晶粒はサイズの小さいものであり、二酸化炭素は結晶粒の表面より反応・吸収されると考えられるので、表面積の増加により反応面積が増え、反応速度(吸収速度)が増加すると考えられる。
【0019】
また、吸収速度が速いだけでなく、一定時間経過後の総吸収量を比較しても室温〜400℃で合成されたものは高温で処理したものより優れる。この理由としては、低温で合成したものは、結晶粒が小さいことにより内部まで完全に反応しやすく、一方、高温で処理したものは結晶粒が大きく、そのため、表面から進む反応は結晶粒の内部まで進行しにくく、表面付近で反応が完了してしまうためと考えられる。
【0020】
低温で合成することにより性能の向上するその他の理由は、微粒子・ナノ粒子であるためのバルク状態とは異なる性質の現れ、すなわち、体積当たりの表面積が非常に大きくなり表面の効果が顕著に現れること等が考えられる。
【0021】
さらに、水酸化リチウムとオキシ水酸化鉄との混合物を室温〜400℃において固相反応させると、α−LiFeO2の他にスピネル型構造のリチウムフェライト(LiFe58、Li1-xFe5+x8などと表される)も得られる。
【0022】
また、オキシ水酸化鉄としてβ型結晶構造のもの(β−FeO(OH))を用い、アルコール中において110℃前後の低温でイオン交換によりリチウムを導入すると、ホランダイト型構造のリチウムフェライト(LiFeO2またはLi1-yFe1+y2などと表され
る)が得られる。
【0023】
また、α型ナトリウムフェライト(α−NaFeO2)を原料とし、270℃前後の低
温でイオン交換することによって、α−NaFeO2型構造のリチウムフェライト(Li
FeO2)が得られる。
【0024】
これらの生成物を二酸化炭素に曝露すると、いずれも、高温で処理したα−LiFeO2相の生成物と比べて短時間で多くの二酸化炭素を吸収することができる。通常リチウム
フェライトと呼ばれるのは最安定相であるα−LiFeO2相であるが、上記構造型のも
のは準安定相として利用可能であることが明らかにされる。
【0025】
本願発明の二酸化炭素吸収材料は、典型的には数nm〜数十nmの範囲のサイズであり、合成温度は室温〜400℃と低温である。したがって、高温合成を行う必要がなく、高温に加熱するための装置が不要であり、結晶粒を微細化する手間はなく、低温で取り扱えるという利点を有する。
【実施例1】
【0026】
LiOH・H2Oとスピネル型FeO(OH)粉末をLi:Fe=1:1のモル比で混
合し、100℃において2時間乾燥させた後、再度混合し、錠剤型にプレス成型し、次いで窒素雰囲気内で400℃において10時間加熱した。この試料とは別に、通常のセラミック法によっても試料を作製した。α−FeO(OH)と炭酸リチウムLi2CO3の混合粉末を錠剤型にプレス成型した後、電気炉を用いて800℃において5時間加熱した。いずれの試料も、合成後、直ちに真空デシケータに移すなど、空気中の二酸化炭素と反応しないように注意を払った。
【0027】
粉末X線回折パターンを調べると、いずれの試料も、ほぼα−LiFeO2からのみ構
成される単相であり、800℃において合成した試料の回折ラインは、幅の狭いシャープなものであった。これに対し、400℃において合成した試料では、幅の広いブロードなラインが観察され、ライン幅より結晶粒径を見積もると、数nm〜数十nmの範囲であった。
【0028】
二酸化炭素の吸収性能を調べるために、それぞれの錠剤型試料を粉砕して0.1μmオーダー以下の粉末状にし、二酸化炭素フロー下において熱重量分析を行った。表1に、400℃に試料を温め、二酸化炭素フローを開始してから10分後までと、150分後までにおける重量の増加量を初期重量に対する百分率で示した。
【0029】
なお、二酸化炭素曝露後の試料においては、炭酸リチウムと酸化鉄の生成が確認されており、重量増加は二酸化炭素の吸収によるものであることが確かめられている。
【0030】
【表1】

【0031】
10分後の重量増加をみると、400℃で合成した試料の方が、短時間で急速に二酸化炭素を吸収していることが分かる。また、十分に長時間経過した150分後における重量増加をみても、400℃で合成した試料の方が格段に吸収量が多いことが分かる。400℃において合成した試料は、吸収速度、総吸収量のいずれにおいても優れていることが明
らかとなった。
【実施例2】
【0032】
LiOH・H2Oとスピネル型FeO(OH)粉末を混合し、100℃において2時間
乾燥させた後、再度混合し、錠剤型にプレス成型し、次いで窒素雰囲気内で200℃において10時間加熱した。粉末X線回折パターンを調べると、スピネル型リチウムフェライト相の存在が確認された(試料a)。
【0033】
LiOH・H2Oとβ−FeO(OH)粉末とをエトキシエタノール中で110℃にお
いて12時間加熱し反応させた。粉末X線回折パターンより、イオン交換してホランダイト型リチウムフェライト相が形成されていることが確認された(試料b)。
【0034】
α−NaFeO2をLiCl:LiNO3=3:22の溶融塩中で270℃において15時間加熱し、イオン交換した。X線回折パターンにより、α−NaFeO2型リチウムフ
ェライト相の形成が確認された(試料c)。
【0035】
それぞれの試料中に残存するリチウム塩を洗浄除去し、二酸化炭素フロー下で熱重量分析を行った。10℃/minの昇温速度で室温から加熱し、500℃まで到達した時点での重量増を初期重量に対する百分率で表2に示した。比較として、実施例1において800℃で合成した試料について同様の分析を行った。その結果も表2に示した。
【0036】
【表2】

【0037】
高温で合成したα−LiFeO2試料よりも、低温で合成した他の結晶構造をとるリチ
ウムフェライトの方が吸収性能が優れていることが分かる。
【産業上の利用可能性】
【0038】
以上詳しく説明したとおり、本願発明によって、吸収速度、吸収量ともに優れた二酸化炭素吸収材料が提供される。


【特許請求の範囲】
【請求項1】
リチウムと鉄を含む酸化物を室温〜400℃の温度で合成することによって得られることを特徴とする二酸化炭素吸収材料。
【請求項2】
水酸化リチウムとオキシ水酸化鉄とを室温〜400℃の温度で反応させて得られる請求項1記載の二酸化炭素吸収材料。
【請求項3】
リチウムと鉄を含む酸化物がスピネル型の結晶構造をとる請求項1または2記載の二酸化炭素吸収材料。
【請求項4】
リチウムと鉄を含む酸化物がホランダイト型の結晶構造をとる請求項1または2記載の二酸化炭素吸収材料。
【請求項5】
リチウムと鉄を含む酸化物がα−NaFeO2型の結晶構造をとる請求項1記載の二酸
化炭素吸収材料。


【公開番号】特開2006−198550(P2006−198550A)
【公開日】平成18年8月3日(2006.8.3)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−14357(P2005−14357)
【出願日】平成17年1月21日(2005.1.21)
【出願人】(301023238)独立行政法人物質・材料研究機構 (1,333)
【Fターム(参考)】