説明

二酸化炭素固定化による尿素化合物の製造法

【課題】二酸化炭素固定化による尿素化合物の製造法を提供する。
【解決手段】少なくとも二酸化炭素を含む媒体を反応媒体とする反応系により、二酸化炭素原料とアミン化合物原料とを反応させ、当該アミン化合物に二酸化炭素を化学的に固定化し、上記アミン化合物原料に対応する尿素化合物を合成することからなる尿素化合物の製造方法、及び、二酸化炭素を溶解させた水、又は水を含有する二酸化炭素を反応媒体として、アミン化合物に対応する尿素化合物を合成する、前記の尿素化合物の製造方法。
【効果】二酸化炭素固定化プロセスによりアミン化合物から対応する尿素化合物を高選択率で合成することができる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、二酸化炭素固定化による尿素化合物の製造法に関するものであり、更に詳しくは、二酸化炭素を含有する水を媒体として、当該二酸化炭素と原料のアミン化合物とを反応させることにより、二酸化炭素を化学的に固定化し、上記原料に対する尿素化合物を合成する当該尿素化合物の製造方法に関するものである。本発明は、原料アミン化合物と二酸化炭素とから、原料アミン化合物に対応する尿素化合物を二酸化炭素の固定化により合成することを可能とする二酸化炭素固定化による尿素化合物の合成に関する新技術を提供するものである。
【背景技術】
【0002】
尿素化合物には、尿素と同様に、多種多様な用途があり、例えば、病害虫防除のための植物保護剤、医農薬品や色素、プラスチックの可塑剤や安定剤、ガソリンなどの燃料に添加する抗酸化剤などがある。特に、脳癌や、HIVプロテアーゼ酵素に効果があるなどの例もあり、様々な分野に利用できる可能性がある。
【0003】
従来、尿素合成の例として、アンモニア合成法が知られており、例えば、原料ガス(H,N,CH,Ar)と二酸化炭素との反応では、100−600℃の温度条件で、気相を媒体として、101.3MPaの圧力条件で、収率は、80−90%である。
【0004】
また、アンモニアと二酸化炭素との反応では、温度160−250℃、圧力40MPaで、収率は50−60%、また、温度150−215℃、圧力13.2MPaで、収率は50%、更に、温度150−200℃、圧力8.2−12.4MPaで、収率は20−34%である。
【0005】
アミン化合物と二酸化炭素から尿素化合物を合成する方法としては、アミン化合物を、イソシアネート、ホルムアミド、カルバメートなどと反応させる方法や、アミンと一酸化炭素による酸化的反応、そして、アミンと二酸化炭素からの直接合成方法などが知られている。このように、尿素自体は、過剰のアンモニアと二酸化炭素から尿素を合成する方法が既に駆動しており、経済的にも、直接合成法には、利点がある。
【0006】
一方、アミン化合物を二酸化炭素と反応させる方法においては、直接合成方法は、しばしば200℃以上で10MPa以上の反応条件を必要とし(非特許文献1)、また、トリエチルアミン(非特許文献2)や、ジアザビシクロウンデセン(非特許文献3)などの当量のアミンを必要とし、更に、脱水剤として、ジシクロヘキシルカルボジイミド(非特許文献2)や、ジフェニルリン酸(非特許文献4)を必要とする。
【0007】
また、触媒として、ルテニウム化合物などを用いた例もあるが(非特許文献5)、収率が低いことが挙げられる。しかも、これらの方法は、N−メチルピロリドンや、アセトニトリル、ジメチルホルムアミド、ジメチルスルホキシド、テトラヒドロフランなどの有機溶媒を用いており、近年の環境問題や、石油枯渇問題から鑑みると、これらは、極力用いることは好ましくない。
【0008】
また、先行技術では、カーボネートを、二酸化炭素の代替原料として用いる方法で、また、更に、他の先行技術では、これに、触媒として、炭酸化合物を用いる方法として、カーボネートと、アルカノールアミンとを原料とし、炭酸カリウムを触媒として、尿素化合物を合成する方法が提案されている(特許文献1、特許文献2)。しかし、この種の方法は、二酸化炭素からの直接合成法とは異なるものである。
【0009】
そして、アンモニア合成法では、高圧条件と、加熱による水分除去が必須であり、収率を上げようとすると、反応圧力を高くする必要があり、また、反応圧力が低いと、収率が低くなるという問題点があり、当該合成法では、モノマーでの収率向上と、より低温条件の探索が課題となっている。そこで、当技術分野においては、従来法と比べて、低圧条件で、短時間に、より環境に優しい方法で、尿素化合物を合成することが可能な新しい低環境負荷型の尿素化合物合成プロセスの開発が強く要請されていた。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0010】
【特許文献1】特開昭59−59657号公報
【特許文献2】特許第3324191号公報
【非特許文献】
【0011】
【非特許文献1】R.Nomura,Y.Hasegawa,M.Ishimoto,T.Toyosaki,H.Matsuda,J.Org.Chem.,1992,57,7339.
【非特許文献2】H.Ogura,K.Takeda,R.Tokure,T.Kobayashi,Synthesis,1987,394.
【非特許文献3】C.F.Cooper, S.J.Falcone, Synth.Communm.,1995,25,2467.
【非特許文献4】N.Yamazaki,F.Higashi,T.Iguchi,Tetrahedron Lett.,1974,13,1191.
【非特許文献5】J.Fournier,C.Bruneau,P.H.Dixneuf,S.Lecolier,J.Org.Chem.1991,56,4456.
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0012】
このような状況の中で、本発明者らは、上記従来技術に鑑みて、上記従来技術の諸問題を解決し得るとともに、従来法に比べて、低圧で、かつ短時間で製造でき、エネルギー的に有利な、新しい低環境負荷型の尿素化合物の合成プロセスを開発することを目標として鋭意研究を積み重ねる中で、各種アルカリ水溶媒、水溶媒、無溶媒による反応系について検討した結果、低圧ながら、水を使うという従来の常識を打破する手法で所期の目的を達成できることを見出し、更に、研究を重ねて、本発明を完成するに至った。
【0013】
本発明は、二酸化炭素固定化プロセスにより、アミン原料に二酸化炭素を化学的に固定化することで当該アミン原料に対応した尿素化合物を合成する方法を提供することを目的とするものである。また、本発明は、媒体中に含有される二酸化炭素の固定化により、原料のアミン化合物から、当該原料に対応する尿素化合物を合成することを可能とするこれらの化合物の新規合成技術を提供することを目的とするものである。また、本発明は、原料のアミン化合物に媒体中の二酸化炭素を固定化して当該アミン化合物に対応する尿素化合物を合成することを可能とする新規二酸化炭素固定化プロセス技術を提供することを目的とするものである。
【課題を解決するための手段】
【0014】
上記課題を解決するための本発明は、以下の技術的手段から構成される。
(1)少なくとも二酸化炭素を含む媒体を反応媒体とする反応系により、二酸化炭素原料とアミン化合物原料とを反応させ、当該アミン化合物に二酸化炭素を化学的に固定化し、上記アミン化合物原料に対応する尿素化合物を合成することを特徴とする尿素化合物の製造方法。
(2)二酸化炭素を溶解させた水、又は水を含有する二酸化炭素を反応媒体として、アミン化合物に対応する尿素化合物を合成する、前記(1)に記載の尿素化合物の製造方法。
(3)pHが、7以上14以下の水を媒体とする前記(1)又は(2)に記載の尿素化合物の製造方法。
(4)pHを調整する上で、塩基として、アルカリ金属又はアルカリ土類金属からなる水酸化物、又は炭酸塩を溶解又は分散させて調製した水を用いる、前記(3)に記載の尿素化合物の製造方法。
(5)アルカリ金属又はアルカリ土類金属からなる水酸化物、又は炭酸塩又は炭酸水素塩として、水酸化リチウム、炭酸リチウム、炭酸水素リチウム、水酸化カリウム、炭酸カリウム、炭酸水素カリウム、水酸化ナトリウム、炭酸ナトリウム、炭酸水素ナトリウム、水酸化ルビジウム、炭酸ルビジウム、炭酸水素ルビジウム、水酸化セシウム、炭酸水素セシウム、炭酸セシウム、水酸化マグネシウム、炭酸マグネシウム、水酸化カルシウム、炭酸カルシウム、水酸化ストロンチウム、炭酸ストロンチウム、水酸化バリウム、炭酸バリウムの中から選ばれる少なくとも1種類以上を含む水を用いる、前記(1)から(4)のいずれかに記載の尿素化合物の製造方法。
(6)二酸化炭素の分圧が、常圧以上20MPa以下、温度が40℃以上300℃以下である、前記(1)から(5)のいずれかに記載の尿素化合物の製造方法。
【0015】
(7)アミン化合物として、下記に示す化1で表される1級及び2級アミンからなる少なくとも1種類以上を含むアミン化合物、又はR1とR2が連結した環状アミン化合物を用いる、前記(1)から(6)のいずれかに記載の尿素化合物の製造方法。
【0016】
【化1】

【0017】
(式中、R1、R2は、同じでも異なってもよく、水素又は置換基を有する炭素数1〜20のアルキル基又は置換基を有する炭素数1〜10のアリール基で、R1とR2とで閉環していてもよく、置換基として、アルキニル基、ビニル基、水酸基、チオール、エーテル、ケトン、アルデヒド、カルボン酸、エステル、カルボン酸無水物、ニトリル、イミノ基、ハロゲン、スルホニル基、エポキシ、アミド、イソシアネート、シリルの中から選ばれる少なくとも1つ以上から構成される置換基を表す。)
【0018】
(8)アミン化合物として、上記化1において、R1及びR2が、メチル、エチル、プロピル、イソプロピル、ブチル、ペンチル、ヘキシル、ヘプチル、オクチル、ノニル、デカン、ウンデカン、ドデカン、トリデカン、テトラデカン、ヘプタデカン、ヘキサデカン、ヘプタデカン、オクタデカン、ノナデカン、エイコサン、及びこれらの異性体、シクロペンチル、シクロヘキシル、シクロヘプチル、シクロオクチル、シクロノニル、シクロデカン、エテン、プロペン、ブテン、ペンテン、ヘキセン、ヘプテン、オクテン、ノネン、デケン、ウンデケン、ドデケン、トリデケン、テトラデケン、ヘプタデケン、ヘキサデケン、ヘプタデケン、オクタデケン、ノナデケン、エイコセン、フェニル、ナフチルの中から選ばれる同じ又は異なる置換基であるアミノ化合物、又はR1とR2とで閉環したエチレンイミン、アゼチジン、ピロリジン、ピペリジン、ヘキサメチレンイミン、モルホリンの中から選ばれる1種類以上のアミン化合物を用いる、前記(1)から(7)のいずれかに記載の尿素化合物の製造方法。
(9)二酸化炭素の純度が、50%以上100%以下で、窒素、酸素、水素から選ばれる少なくとも1種類以上の気体からなる混合ガスを用いる、前記(1)から(8)のいずれかに記載の尿素化合物の製造方法。
【0019】
次に、本発明について更に詳細に説明する。
本発明は、圧力20MPaまでの高圧炭酸ガスとアミン化合物から尿素化合物を合成する新しい尿素化合物の合成法に係るものである。本発明では、触媒として、安価な水溶性の塩を用いるため、洗浄などで容易に触媒を除去することが可能であり、また、10MPa〜50MPa程度の高圧で、加熱による水の除去を必須とする従来法に比べて、媒体として水媒体を用いるため、環境に優しい低環境負荷型のプロセス技術を構築できるという利点がある。
【0020】
本発明は、尿素化合物の製造方法であって、二酸化炭素を含有する媒体、すなわち二酸化炭素を溶解させた水、又は水を含有する二酸化炭素を媒体として、原料のアミン化合物と二酸化炭素との反応を行うことにより、水に含まれる二酸化炭素を化学的に固定化し、上記原料に対応する尿素化合物を合成することを可能とするものである。
【0021】
本発明により、原料のアミン化合物から、空気清浄剤、脱臭除去剤、難燃剤、難燃助剤、医薬品、医薬中間体などに有用な尿素化合物を、有機溶媒を使わず、水を媒体として、環境に優しく、効率的に合成することが可能である。
【0022】
本発明において、出発原料として用いる二酸化炭素は、水に溶解していることが好ましく、また、二酸化炭素に水が溶解していてもよく、二酸化炭素を溶解させた水、又は水を含有する二酸化炭素が媒体として用いられる。その際に用いられる水は、より多くの二酸化炭素を吸収して、高濃度の二酸化炭素雰囲気下で、アミン化合物から尿素化合物を得るための媒体であり、また、触媒でもあり、二酸化炭素を多く吸収すべく、中性から塩基性、すなわちpH=7以上14以下である水であることが好ましい。
【0023】
通常、水は、二酸化炭素を吸収すると、pHは6の酸性になることから、pHを調整すべく、加えるアミンの他に、塩基を加えて調整する必要がある。加える塩基は、無機塩基でも有機塩基でもその種類に制限無く使用することができるが、水に溶解あるいは分散させることで、pHを調整することができる塩基である必要があり、アルカリ金属又はアルカリ土類金属からなる水酸化物又は炭酸水素塩、炭酸塩が好ましい。
【0024】
具体的には、水酸化物、炭酸塩又は炭酸水素塩として、水酸化リチウム、炭酸リチウム、炭酸水素リチウム、水酸化カリウム、炭酸カリウム、炭酸水素カリウム、水酸化ナトリウム、炭酸ナトリウム、炭酸水素ナトリウム、水酸化ルビジウム、炭酸ルビジウム、炭酸水素ルビジウム、水酸化セシウム、炭酸水素セシウム、炭酸セシウム、水酸化マグネシウム、炭酸マグネシウム、水酸化カルシウム、炭酸カルシウム、水酸化ストロンチウム、炭酸ストロンチウム、水酸化バリウム、炭酸バリウムが用いられる。
【0025】
これらの中から、少なくとも1種類以上を含む塩を水に溶解あるいは分散させて、アミン化合物と二酸化炭素との反応からなる尿素化合物の製造に用いることができる。塩基の濃度は、pHが中性以上であれば制限無く調整して使用することができるが、二酸化炭素を加えた際に、酸性側に水が偏らないように、1mM以上、5M以下の濃度の範囲であることが好ましく、更に好ましくは、10mM以上、5M以下、最も好ましくは、10mM以上、3M以下の濃度で塩基を加えて使用することができる。
【0026】
尿素化合物を製造するときの二酸化炭素は、水に効率的に溶解させて用いるか、あるいは液化二酸化炭素や、超臨界二酸化炭素などに水を分散させて用いることが好ましく、反応系の圧力条件は、温度40℃以上300℃以下の環境下で、常圧以上20MPa以下の二酸化炭素の分圧を有していることが好ましく、更に好ましくは、より安全な常圧以上10MPa以下、更に最も好ましくは、常圧以上で、二酸化炭素の臨界圧力である7.3MPa以下である。
【0027】
その際の温度条件は、40℃以上300℃以下が好ましいが、反応が著しく遅くなるため、100℃以上300℃以下、更に好ましくは、150℃以上300℃以下、最も好ましくは、150℃以上200℃以下である。
【0028】
アミン化合物との反応に使用する際の二酸化炭素は、純粋な二酸化炭素でも、窒素、酸素、水素などの他のガスが混合している二酸化炭素であっても使用することができるが、その場合、余り二酸化炭素の純度が少ないと、反応が著しく遅くなるため、好ましくは50%以上100%以下の純度、より好ましくは、80%以上100%以下の純度、最も好ましくは95%以上100%以下の純度の二酸化炭素を用いることが望ましい。
【0029】
本発明で用いられるアミン化合物としては、前記化1において、R1及びR2が、メチル、エチル、プロピル、イソプロピル、ブチル、ペンチル、ヘキシル、ヘプチル、オクチル、ノニル、デカン、ウンデカン、ドデカン、トリデカン、テトラデカン、ヘプタデカン、ヘキサデカン、ヘプタデカン、オクタデカン、ノナデカン、エイコサン、及びこれらの異性体、シクロペンチル、シクロヘキシル、シクロヘプチル、シクロオクチル、シクロノニル、シクロデカン、エテン、プロペン、ブテン、ペンテン、ヘキセン、ヘプテン、オクテン、ノネン、デケン、ウンデケン、ドデケン、トリデケン、テトラデケン、ヘプタデケン、ヘキサデケン、ヘプタデケン、オクタデケン、ノナデケン、エイコセン、フェニル、ナフチル、アントリル、エチニル、エチリデン、ビニリデン、エチリジン、ビニレン、エチニレン、プロピニル、ヒドロキシメチル、ヒドロキシエチル、ヒドロキシプロピル、ヒドロキシブチル、ヒドロキシペンチル、ヒドロキシヘキシル、ヒドロキシヘプチル、ヒドロキシオクチル、ヒドロキシノニル、ヒドロキシデシル、ヒドロキシオクタデシル、ホルミル、アセチル、プロピオニル、ブチリル、ペンタノイル、ヘキサノイル、ヘプタノイル、オクタノイル、ノナノイル、デカノイル、オクタデカノイル、エタナール、プロパナール、ブタナール、ペンタナール、ヘキサナール、ヘプタナール、オクタナール、ノナナール、デカナール、オクタデカナールメトキシ、エトキシ、プロポキシ、ブトキシ、ペントキシ、ヘキソキシ、フェノキシ、アセトキシ、ベンゾイル、プロピオキシ、ナフチルオキシ、カルボキシル、メチルカルボキシル、エチルカルボキシル、プロピルカルボキシル、ブチルカルボキシル、ペンチルカルボキシル、ヘキシルカルボキシル、デシルカルボキシル、オクタデシルカルボキシル、メトキシカルボニル、エトキシカルボニル、プロポキシカルボニル、ブトキシカルボニル、ペントキシカルボニル、ヘキソキシカルボニル、ホルムアミド、アセトアミド、プロピオンアミド、シアノ、エチルニトリル、プロピルニトリル、ブチルニトリル、フルオロ、クロロ、ブロモ、ヨード、イソシアナト、チオシアナト、ベンゼンスルホニル、ベンゼンスルホニルアミド、パラトルエンスルホニル、スルファニルなどの中から選ばれる同じ又は異なる置換基であるアミノ化合物、又はR1とR2とで閉環したエチレンイミン、アゼチジン、ピロリジン、ピペリジン、ヘキサメチレンイミン、モルホリンの中から選ばれる1種類以上のアミン化合物、が挙げられる。
【0030】
本発明において、尿素化合物の合成反応は、5MPa以下の低圧条件では、収率は比較的低いが、その場合、収率は、水を媒体にすると改善され、また、炭酸塩などのアルカリ塩類を添加してpHをアルカリ性にすると、収率は、更に改善される。目的物の選択率における各種アルカリ水溶媒、水溶媒、無溶媒による効果について検討した結果、例えば、デシルアミンを用いて、180℃、5MPaの低圧下、3時間の反応で、1MのNaCO、3MのCsCOでは、80%以上の選択率で尿素化合物が合成できることが確認された。
【0031】
更に、デシルアミンを用いて、180℃、5MPaで、5時間の反応では、炭酸塩、水溶媒、又は無溶媒の場合に、転化率98%、選択率93%、収率90%以上の結果が得られることが確認された。また、得られた尿素化合物を、炭酸塩水溶液中で、180℃、5又は10MPaの圧力下、3又は5時間撹拌して、その安定性について検討した結果、尿素化合物は、上記反応条件下で化学的に安定であり、以下の化2の反応式において、平衡は右に傾いていることが確認された(図4参照)。
【0032】
【化2】

【発明の効果】
【0033】
本発明により、次のような効果が奏される。
1)二酸化炭素固定化プロセスにより、原料のアミン化合物から当該アミン化合物に対応する尿素化合物を合成することを可能とする尿素化合物の新しい工業的生産技術を提供することができる。
2)出発原料として、二酸化炭素と、アミン化合物を使用した反応系により、300℃以下、例えば、150℃以上200℃以下の温度条件で、環境に優しいプロセスで、尿素化合物を合成することを可能とする低環境負荷型の尿素化合物の合成技術を提供することができる。
3)反応系に、炭酸化物、炭酸水素塩、又は炭酸塩からなる塩基を添加することにより、80%を上回る高選択率で目的物の尿素化合物を合成することができる。
4)無溶媒条件や、水溶媒のみに比べて、炭酸塩を加えた水溶媒を用いることで、従来に比べて、短時間で、低い圧力で、より温和な反応温度条件で尿素化合物を合成することができる技術を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0034】
【図1】デシルアミンの転化率を示す。
【図2】生成物(N,N‘−ジデシルウレア)の選択率を示す。
【図3】各種アルカリ水溶媒、水溶媒、無溶媒による目的化合物の選択率を示す。
【図4】各種アルカリ水溶媒条件下での尿素化合物の安定性を示す。
【発明を実施するための形態】
【0035】
次に、本発明を実施例に基づいて具体的に説明するが、本発明は、以下の実施例によって何ら限定されるものではない。
【実施例1】
【0036】
本実施例では、炭酸ナトリウム水溶液を溶媒として、二酸化炭素と原料のデシルアミンから、これらを反応させ、ジデシルウレアの合成を行った。容積50mLの耐圧容器に、デシルアミン0.5g(3.17mmol)、1M 炭酸ナトリウム水溶液5mlを加え、常圧下、二酸化炭素で、上記容器内を置換し、180℃で、90分間、予熱した。
【0037】
その後、容器内が5MPaの圧力になるまで、二酸化炭素を充填し、マグネティックスターラで撹拌しながら、180℃の温度条件下で、5時間反応させた。反応終了後、容器を、氷水で、4℃付近になるまで冷却した後、徐々に、容器内の二酸化炭素を抜いて、常圧に戻した。容器内に析出した固形物を、吸引濾過により濾別し、反応生成物として、微褐色結晶0.63g(wet 粗収率>100%)を得た。
【0038】
生成物の分析を行うために、上記反応における原料デシルアミンの転化率、及び目的物ジデシルウレアの選択率は、島津製HPLCを用いて分析した。分析条件は、Imtakt製ODSカラム Cadenza CD−C18(250mm×4.6mm、粒子径3μm)、カラムオーブン40℃、クロロホルム:メタノール=80:20の溶離液、を用いて、生成物を流速0.35ml/minで分離し、検出は、検出器:SofTA製 ELSD 300Sを使用して行った。分析の結果、生成物中の目的物の選択率は、89.0%、原料の転化率は、94.0%であった。
【実施例2】
【0039】
本実施例では、炭酸ナトリウム水溶液を溶媒として、二酸化炭素とペンチルアミンから、これらを反応させ、ジペンチルウレアの合成を行った。容積50mLの耐圧容器に、ペンチルアミン0.87g(10mmol)、1M 炭酸ナトリウム水溶液1.1gを加え、常圧下、COガスで、容器内を置換し、180℃で、90分間、予熱した。
【0040】
その後、容器内が10MPaの圧力になるまで、COガスを充填し、マグネティックスターラで撹拌しながら、180℃で、16時間反応させた。反応後、容器を氷水で、4℃付近になるまで冷却した後、徐々に、容器内のCOを抜いて、常圧に戻した。容器内に析出した固形物を濾別し、反応生成物として、微黄色結晶1.02g(wet 粗収率 51.0%)を得た。
【0041】
生成物の分析を行うために、反応における原料ペンチルアミンの転化率、及び目的物ジペンチルウレアの選択率は、VARIAN製GCを用いて、カラムオーブン300℃、昇温毎分20℃の条件で、分析した。分析の結果、生成物中の目的物の選択率は、90.4%、原料の転化率は、38.3%であった。
【実施例3】
【0042】
本実施例では、水を溶媒として、二酸化炭素とデシルアミンから、これらを反応させ、ジデシルウレアの合成を行った。容積50mLの耐圧容器に、デシルアミン0.5g(3.17mmol)、水5ml(27.8mmol)を加え、常圧下、二酸化炭素で、容器内を置換し、180℃で、90分間、予熱した。
【0043】
その後、容器内が10MPaの圧力になるまで、二酸化炭素を充填し、マグネティックスターラで撹拌しながら、180℃で、3時間反応させた。反応終了後、容器を、氷水で、4℃付近になるまで冷却した後、徐々に、容器内の二酸化炭素を抜いて、常圧に戻した。容器内に析出した固形物を、吸引濾過により濾別し、反応生成物として、無色結晶0.66g(wet 粗収率>100%)を得た。
【0044】
生成物の分析を行うために、反応における原料デシルアミンの転化率、及び目的物ジデシルウレアの選択率は、島津製HPLCを用いて分析した。分析条件は、Imtakt製ODSカラム Cadenza CD−C18(250mm×4.6mm、粒子径3μm)、カラムオーブン40℃、クロロホルム:メタノール=80:20の溶離液、を用いて、生成物を流速0.35ml/minで分離し、検出は、検出器:SofTA製 ELSD 300Sを使用して行った。分析の結果、生成物中の目的物の選択率は、91.1%、原料の転化率は、98.7%であった。
【実施例4】
【0045】
本実施例では、水を溶媒として、二酸化炭素とペンチルアミンから、これらを反応させ、ジペンチルウレアの合成を行った。容積50mLの耐圧容器に、ペンチルアミン2.50g(28.6mmol)、HO 2.59g(143mmol)を加え、常圧下、COガスで、容器内を置換し、180℃で、90分間、予熱した。
【0046】
その後、容器内が、10MPaの圧力になるまで、二酸化炭素を充填し、マグネティックスターラで撹拌しながら、180℃で、16時間反応させた。反応後、容器を、氷水で、4℃付近になるまで冷却した後、徐々に、容器内の二酸化炭素を抜いて、常圧に戻した。容器内に析出した固形物を濾別し、反応生成物として、微褐色結晶3.66g(wet 粗収率>100%)を得た。
【0047】
生成物の分析を行うために、反応における原料ペンチルアミンの転化率、及び目的物ジペンチルウレアの選択率は、VARIAN製GCを用いて、カラムオーブン300℃、昇温毎分20℃の条件で、分析した。分析の結果、生成物中の目的物の選択率は、87.6%、原料の転化率は、31.5%であった。
【実施例5】
【0048】
本実施例では、塩基を加える効果について検討した。実施例1と同様の条件(反応温度180℃、反応時間5時間)で、各種炭酸塩を用いて実験を行った。反応圧力は、5MPaと10MPaの2種類とした。実施例1、比較例1、中性の水を加えた例、そして、水を加えない例を含めて、デシルアミンの転化率を図1に、また、生成物のN,N‘−ジデシルウレアの選択率を、それぞれまとめて、図2に示す。その結果、転化率は、10MPaと5MPaで、圧力による差は少ないが、得られる生成物の選択率は、低圧の5MPaの条件において、著しい差が見られ、塩基を加える効果が見られた。すなわち、10MPaでは、水のみの添加系が、目的物生成の選択率において最も優れていた。また、5MPaでは、無溶媒系に比べ、選択率における水、炭酸塩の添加効果が顕著に認められた。
【実施例6】
【0049】
本実施例では、水、塩基の効果について検討した。デシルアミンを用いて、反応温度180℃、反応圧力5MPa、反応時間3時間に固定して、水を用いない場合、水を用いた場合、炭酸塩、そしてフッ化セシウムの水溶液を用いたときの検討を行った。得られたN,N‘−ジデシルウレアの選択率を図3に示す。これより、炭酸ナトリウム、炭酸セシウムを用いた場合が、最も尿素化合物の選択率が高いことが分かった。
【実施例7】
【0050】
実施例1と同様の条件で、それぞれ、水媒体の有無と、炭酸塩の有無で比較した例も含めて、各種アミンを用いた検討を行った。表1に、各種アミンを用いた検討の結果を示す。これより、より長鎖アルキル鎖を有するアミンを原料として用いた場合が、より良い収率が得られた。
【0051】
【表1】

【産業上の利用可能性】
【0052】
以上詳述したように、本発明は、二酸化炭素固定化による尿素製造法に係るものであり、本発明により、二酸化炭素固定化プロセスにより、原料のアミン化合物から当該アミン化合物に対応する尿素化合物を合成することを可能とする尿素化合物の新しい工業的生産技術を提供することができる。出発原料として、二酸化炭素と、アミン化合物を使用した反応系により、300℃以下、例えば、150℃以上200℃以下の温度条件で、環境に優しいプロセスで、尿素化合物を合成することを可能とする低環境負荷型の尿素化合物の合成技術を提供することができる。反応系に、炭酸化物、炭酸水素塩、又は炭酸塩からなる塩基を添加することにより、80%を上回る高選択率で目的物の尿素化合物を合成することができる。本発明は、原料アミン化合物と二酸化炭素とから、原料アミン化合物に対応する尿素化合物を二酸化炭素の固定化により合成することを可能とする二酸化炭素固定化による尿素化合物の合成に関する新技術を提供するものとして有用である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
少なくとも二酸化炭素を含む媒体を反応媒体とする反応系により、二酸化炭素原料とアミン化合物原料とを反応させ、当該アミン化合物に二酸化炭素を化学的に固定化し、上記アミン化合物原料に対応する尿素化合物を合成することを特徴とする尿素化合物の製造方法。
【請求項2】
二酸化炭素を溶解させた水、又は水を含有する二酸化炭素を反応媒体として、アミン化合物に対応する尿素化合物を合成する、請求項1に記載の尿素化合物の製造方法。
【請求項3】
pHが、7以上14以下の水を媒体とする、請求項1又は2に記載の尿素化合物の製造方法。
【請求項4】
pHを調整する上で、塩基として、アルカリ金属又はアルカリ土類金属からなる水酸化物、又は炭酸塩を溶解又は分散させて調製した水を用いる、請求項3に記載の尿素化合物の製造方法。
【請求項5】
アルカリ金属又はアルカリ土類金属からなる水酸化物、又は炭酸塩又は炭酸水素塩として、水酸化リチウム、炭酸リチウム、炭酸水素リチウム、水酸化カリウム、炭酸カリウム、炭酸水素カリウム、水酸化ナトリウム、炭酸ナトリウム、炭酸水素ナトリウム、水酸化ルビジウム、炭酸ルビジウム、炭酸水素ルビジウム、水酸化セシウム、炭酸水素セシウム、炭酸セシウム、水酸化マグネシウム、炭酸マグネシウム、水酸化カルシウム、炭酸カルシウム、水酸化ストロンチウム、炭酸ストロンチウム、水酸化バリウム、炭酸バリウムの中から選ばれる少なくとも1種類以上を含む水を用いる、請求項1から4のいずれかに記載の尿素化合物の製造方法。
【請求項6】
二酸化炭素の分圧が、常圧以上20MPa以下、温度が40℃以上300℃以下である、請求項1から5のいずれかに記載の尿素化合物の製造方法。
【請求項7】
アミン化合物として、下記に示す化1で表される1級及び2級アミンからなる少なくとも1種類以上を含むアミン化合物、又はR1とR2が連結した環状アミン化合物を用いる、請求項1から6のいずれかに記載の尿素化合物の製造方法。
【化1】

(式中、R1、R2は、同じでも異なってもよく、水素又は置換基を有する炭素数1〜20のアルキル基又は置換基を有する炭素数1〜10のアリール基で、R1とR2とで閉環していてもよく、置換基として、アルキニル基、ビニル基、水酸基、チオール、エーテル、ケトン、アルデヒド、カルボン酸、エステル、カルボン酸無水物、ニトリル、イミノ基、ハロゲン、スルホニル基、エポキシ、アミド、イソシアネート、シリルの中から選ばれる少なくとも1つ以上から構成される置換基を表す。)
【請求項8】
アミン化合物として、上記化1において、R1及びR2が、メチル、エチル、プロピル、イソプロピル、ブチル、ペンチル、ヘキシル、ヘプチル、オクチル、ノニル、デカン、ウンデカン、ドデカン、トリデカン、テトラデカン、ヘプタデカン、ヘキサデカン、ヘプタデカン、オクタデカン、ノナデカン、エイコサン、及びこれらの異性体、シクロペンチル、シクロヘキシル、シクロヘプチル、シクロオクチル、シクロノニル、シクロデカン、エテン、プロペン、ブテン、ペンテン、ヘキセン、ヘプテン、オクテン、ノネン、デケン、ウンデケン、ドデケン、トリデケン、テトラデケン、ヘプタデケン、ヘキサデケン、ヘプタデケン、オクタデケン、ノナデケン、エイコセン、フェニル、ナフチルの中から選ばれる同じ又は異なる置換基であるアミノ化合物、又はR1とR2とで閉環したエチレンイミン、アゼチジン、ピロリジン、ピペリジン、ヘキサメチレンイミン、モルホリンの中から選ばれる1種類以上のアミン化合物を用いる、請求項1から7のいずれかに記載の尿素化合物の製造方法。
【請求項9】
二酸化炭素の純度が、50%以上100%以下で、窒素、酸素、水素から選ばれる少なくとも1種類以上の気体からなる混合ガスを用いる、請求項1から8のいずれかに記載の尿素化合物の製造方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公開番号】特開2012−111711(P2012−111711A)
【公開日】平成24年6月14日(2012.6.14)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−261860(P2010−261860)
【出願日】平成22年11月24日(2010.11.24)
【国等の委託研究の成果に係る記載事項】(出願人による申告)平成22年度 独立行政法人新エネルギー・産業技術総合開発機構「グリーン・サステイナブルケミカルプロセス基盤技術開発うち研究開発項目4 化学品原料の転換・多様化を可能とする革新グリーン技術の開発」「高効率熱化学変換によるバイオマス由来の脂肪族、芳香族化合物からのモノマー原料及び樹脂原料製造技術の開発」委託研究、産業技術力強化法第19条の適用を受ける特許出願
【出願人】(301021533)独立行政法人産業技術総合研究所 (6,529)
【出願人】(000004503)ユニチカ株式会社 (1,214)
【Fターム(参考)】