説明

二酸化炭素固定化装置

【課題】通常の環境下で、容易に、二酸化炭素を有機酸や炭水化物として固定化することが可能な二酸化炭素固定化装置を提供する。
【解決手段】表面に酸化還元酵素が存在する陽極1と陰極2とを、プロトン伝導体3を介して対向配置する。そして、外部から電力を入力することにより、陽極1では水を分解してプロトンを発生させ、陰極2では陽極1で発生したプロトンと二酸化炭素とから有機酸や炭水化物を生成する。その際、二酸化炭素供給部5から陰極2に高濃度の二酸化炭素を供給すると共に、陽極1で生成した酸素及び陰極2で生成した有機酸又は炭化水素を、それぞれ酸素除去部4及び生成物回収部6を介して、反応系から取り除く。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、酸化還元酵素を用いた二酸化炭素固定化装置に関する。より詳しくは、二酸化炭素から有機酸や炭水化物を生成する二酸化炭素固定化装置に関する。
【背景技術】
【0002】
反応触媒に酸化還元酵素を用いたバイオ燃料電池は、通常の工業触媒を使用した燃料電池では利用できないグルコースやエタノールなどから効率よく電子を取り出すことができるため、高容量でかつ安全性が高い次世代の燃料電池として注目されている。
【0003】
図5は酵素を使用したバイオ燃料電池の発電原理を模式的に示す図である。例えば、図5に示すようなグルコースを燃料とするバイオ燃料電池の場合、負極101では表面に固定化された酵素によりグルコース(Glucose)を分解して、電子(e)を取り出すと共にプロトン(H)を発生する。一方、正極102においては、負極101からプロトン伝導体103を介して輸送されたプロトン(H)と、外部回路を通って送られた電子(e)と、例えば空気中の酸素(O)とにより水(HO)を生成する。
【0004】
図6はメタノール型バイオ燃料電池の発電原理を模式的に示す図である。また、図6に示すように、従来、メタノールを燃料として、発電するバイオ燃料電池も提案されている(例えば、特許文献1参照)。このバイオ燃料電池では、負極101の表面にアルコールデヒドロゲナーゼ(ADH)、ホルムアルデヒドゲナーゼ(FalDH)及び蟻酸デヒドロゲナーゼ(FateDH)が固定化されている。
【0005】
そして、負極101では、これらの酵素により、メタノール(CHOH)を分解して、電子(e)を取り出すと共にプロトン(H)を発生し、二酸化炭素(CO)を生成する。一方、正極102においては、負極101からプロトン伝導体103を介して輸送されたプロトン(H)と、外部回路を通って送られた電子(e)と、例えば空気中の酸素(O)とにより水(HO)を生成する。
【0006】
一方、従来、蟻酸分解部と蟻酸製造部とを備えた装置を使用して、水素の貯蔵及び発生を行う方法が提案されている(特許文献2,3参照)。この蟻酸製造及び分解用装置では、蟻酸製造部において、蟻酸製造用触媒により水素と二酸化炭素とを反応させて蟻酸を製造し、蟻酸の形で水素を貯蔵している。
【0007】
また、蟻酸分解部では、蟻酸製造部で製造された蟻酸を、蟻酸分解用触媒により水素と二酸化炭素に分解する。この分解反応により生成した水素は、燃料電池などの任意の用途に利用される。一方、副生成物である二酸化炭素は、蟻酸製造部に送られ、蟻酸の製造に利用される。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【特許文献1】特開2004−71559号公報
【特許文献2】特開2009−78200号公報
【特許文献3】特開2010−83730号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
しかしながら、前述した特許文献2,3に記載された技術には、二酸化炭素から蟻酸を製造する際の還元剤として用いる水素が、通常の環境下では安定に存在していないため、原料となる水素を得るために別途エネルギーが必要となるという問題点がある。このように、未だ、誰もが容易に、二酸化炭素を蟻酸や炭水化物などの炭素化合物として固定化する技術は確立されていない。
【0010】
そこで、本発明は、通常の環境下で、容易に、二酸化炭素を有機酸や炭水化物として固定化することが可能な二酸化炭素固定化装置を提供することを主目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明に係る二酸化炭素固定化装置は、水を分解してプロトンと発生させる第1電極と、前記第1電極で発生したプロトンと二酸化炭素とから有機酸又は炭水化物を生成する第2電極と、前記第1電極で発生したプロトンを前記第2電極に伝達するプロトン伝導体と、を少なくとも備え、前記第1電極及び/又は前記第2電極の表面には酸化還元酵素が存在しているものである。
ここで、電極の表面とは、電極の外面と電極内部の空隙の内面との全体を含み、以下の記載においても同様とする。
この二酸化炭素固定化装置は、第2電極に二酸化炭素を供給する二酸化炭素供給部を備えていてもよい。その場合、この二酸化炭素供給部から、例えば二酸化炭素濃度が0.028〜100体積%の気体を供給することができる。
また、前記第1電極で生成した酸素を除去する酸素除去部と、前記第2電極で生成した有機酸又は炭水化物を取り出す生成物回収部と、を設けてもよい。
更に、前記第1電極を、直接又はセパレータを介して液相に接触している浸水系電極とし、かつ、前記第2電極を、直接又はセパレータを介して液相に接触すると共に、気液分離膜を介して気相とも接触している半浸水系電極とすることもできる。
更にまた、前記第1電極及び/又は前記第2電極は、例えば導電性多孔質材料により形成することができる。
【発明の効果】
【0012】
本発明によれば、酸化還元酵素を利用しているため、原料に水素を使用しなくても、電力を入力するだけで、容易に、二酸化炭素を有機酸や炭水化物として固定化することができる。
【図面の簡単な説明】
【0013】
【図1】本発明の第1の実施形態に係る二酸化炭素固定化装置の原理を模式的に示す図である。
【図2】図1に示す陽極1を浸水系としたときの電極構成を模式的に示す図である。
【図3】図1に示す陰極2を半浸水系としたときの電極構成を模式的に示す図である。
【図4】本発明の第1の実施形態の変形例に係る二酸化炭素固定化装置の原理を模式的に示す図である。
【図5】酵素を使用したバイオ燃料電池の発電原理を模式的に示す図である。
【図6】メタノール型バイオ燃料電池の発電原理を模式的に示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0014】
以下、本発明を実施するための形態について、添付の図面を参照して詳細に説明する。なお、本発明は、以下に示す各実施形態に限定されるものではない。また、説明は、以下の順序で行う。

1.第1の実施の形態
(二酸化炭素から蟻酸を生成する二酸化炭素固定化装置の例)
2.第1の実施の形態の変形例
(二酸化炭素からメタノールを生成する二酸化炭素固定化装置の例)

【0015】
<1.第1の実施の形態>
[電池の全体構成]
図1は本発明の第1の実施形態に係る二酸化炭素固定化装置の原理を模式的に示す図である。また、図2はその陽極1を浸水系としたときの電極構成を模式的に示す図であり、図3は陰極2を半浸水系としたときの電極構成を模式的に示す図である。図1に示すように、本実施形態の二酸化炭素固定化装置は、陽極1と陰極2とが、プロトン伝導体3を介して対向配置されている。
【0016】
この二酸化炭素固定化装置では、陽極1及び陰極2の少なくとも一方の表面に、酸化還元酵素が存在しており、従来のバイオ燃料電池とは逆の反応により、二酸化炭素(CO)から蟻酸などの有機酸又はグルコースなどの炭水化物を生成する。ここで、電極の表面とは、電極の外面と電極内部の空隙の内面との全体を含み、以下の記載においても同様とする。
【0017】
[陽極1]
陽極1では、水(HO)を酸化分解して、酸素(O)を生成すると共に、プロトン(H)と電子(e)を取り出す。このため、陽極1は、直接又は図2に示すように不織布などからなるセパレータ14を介して、緩衝物質を含む電解液13などの液相に接触する浸水系の電極構成を採用している。なお、図2に示す電極構成においては、電解液13がプロトン伝導体3となる。
【0018】
この陽極1を構成する電極は、特に限定されるものではないが、例えば導電性多孔質材料からなる電極11の表面に、酸化還元酵素などが固定化された酵素固定化層12が形成されているものを使用することができる。その際使用する導電性多孔質材料には、公知の材料を使用することができるが、特に、多孔質カーボン、カーボンペレット、カーボンフェルト、カーボンペーパー、炭素繊維又は炭素微粒子の積層体などのカーボン系材料が好適である。
【0019】
また、陽極1の表面に固定化される酸化還元酵素としては、例えば、ビリルビンオキシダーゼ(BOD)、ラッカーゼ及びアスコルビン酸オキシダーゼなどが挙げられる。更に、陽極1の表面に、前述した酵素と共に電子メディエーターを固定化し、酵素電子メディエーター反応により、水の分解を行うこともできる。その場合、電子メディエーターとしては、キノン骨格を有する化合物を使用することが好ましく、特に、ナフトキノン骨格を有する化合物が好適である。具体的には、2−アミノ−1,4−ナフトキノン(ANQ)、2−アミノ−3−メチル−1,4−ナフトキノン(AMNQ)、2−メチル−1,4−ナフトキノン(VK3)、2−アミノ−3−カルボキシ−1,4−ナフトキノン(ACNQ)などを用いることができる。
【0020】
なお、キノン骨格を有する化合物としては、ナフトキノン骨格を有する化合物以外に、例えば、アントラキノンやその誘導体を用いることもできる。また、必要に応じて、キノン骨格を有する化合物と共に、電子メディエーターとして作用する1種又は2種以上の他の化合物を固定化してもよい。更に、陽極1は、表面に酸化還元酵素が固定化されているものに限定されるものではなく、電極表面に酸化還元酵素が存在しているものであれば、例えば、酸化還元酵素を有し反応触媒として作用する微生物が付着した電極などを使用することも可能である。
【0021】
[陰極2]
一方、陰極2では、二酸化炭素(CO)と、陽極1で発生したプロトン(H)及び電子(e)により、蟻酸などの有機酸又はグルコースなどの炭水化物を生成する。このため、陰極2は、二酸化炭素を十分に供給できるように、直接気相に接触している大気暴露系、又は図3に示すような気液分離膜25を介して気相と接触している半浸水系の電極構成を採用している。この半浸水系電極の場合、陰極2は、直接又は図3に示すように不織布などのセパレータ24を介して、緩衝物質を含む電解液13などの液相にも接触する。
【0022】
また、陰極2についても、例えば導電性多孔質材料からなる電極21の表面に、酵素固定化層22が形成された電極を使用することができる。そして、この陰極2を形成する導電性多孔質材料も、公知の材料を使用することができ、特に、多孔質カーボン、カーボンペレット、カーボンフェルト、カーボンペーパー、炭素繊維又は炭素微粒子の積層体などのカーボン系材料が好適である。
【0023】
一方、陰極2の表面に固定化される酵素としては、生成物に応じて適宜選択することができるが、例えば蟻酸を生成する場合は、蟻酸デヒドロゲナーゼ(FDH)を使用することができる。また、グルコースを製造する場合には、グルコースデヒドロゲナーゼ(GDH)を使用することができる。
【0024】
その他、電子伝達系の一連の酵素、ATP合成酵素、糖代謝に関与する酵素、例えばヘキソキナーゼ、グルコースリン酸イソメラーゼ、ホスホフルクトキナーゼ、フルクトース二リン酸アルドラーゼ、トリオースリン酸イソメラーゼ、グリセルアルデヒドリン酸デヒドロゲナーゼ、ホスホグリセロムターゼ、ホスホピルビン酸ヒドラターゼ、ピルビン酸キナーゼ、L−乳酸デヒドロゲナーゼ、D−乳酸デヒドロゲナーゼ、ピルビン酸デヒドロゲナーゼ、クエン酸シンターゼ、アコニターゼ、イソクエン酸デヒドロゲナーゼ、2−オキソグルタル酸デヒドロゲナーゼ、スクシニル−CoAシンテターゼ、コハク酸デヒドロゲナーゼ、フマラーゼ、マロン酸デヒドロゲナーゼなどの公知の酵素を使用することができる。
【0025】
更に、陰極2の表面には、FDHなどの酵素と共に、補酵素酸化酵素や電子メディエーターが固定化されていることが望ましい。その際使用する補酵素としては、例えば、NADH及びNADPHなどと、これらの酸化体(NAD,NADPなど)を還元するジアホラーゼなどが挙げられる。また、これらの酵素と共に固定化される電子メディエーターとしては、例えば、ヘキサシアノ鉄酸カリウム、フェリシアン化カリウム及びオクタシアノタングステン酸カリウムなどが挙げられる。
【0026】
なお、陰極2も、表面に酸化還元酵素が固定化されているものに限定されるものではなく、電極表面に酸化還元酵素が存在しているものであれば、例えば、酸化還元酵素を有し反応触媒として作用する微生物が付着した電極などを使用することも可能である。また、図3に示すように、陰極2を構成する電極21には、酵素などが固定化されている酵素固定化層22の外側に、更に、気相と液相が共存する気液共存層23が形成されていてもよい。
【0027】
[プロトン伝導体3]
プロトン伝導体3は、電子導電性がなくかつプロトン(H)を輸送することが可能な材料であればよく、一般には、緩衝物質を含む電解液が使用される。この場合、例えば、電解液を含浸させたセパレータ(例えば、セロハン及び不織布など。)を各電極で挟持する構成とすれば、プロトンを伝導しつつ、短絡を防止することができる。また、プロトン伝導体3として、フッ素カーボンスルホン酸基を有するイオン交換樹脂膜などのように、プロトン伝導性を有するセパレータを使用することもできる。
【0028】
一方、本実施形態の二酸化炭素固定化装置は、陰極2に二酸化炭素又は二酸化炭素を含む気体を供給する二酸化炭素供給部5を備えていることが望ましい。更に、この二酸化炭素固定化装置には、陽極1で生成した酸素を除去する酸素除去部4と、陰極2で生成した有機酸又は炭水化物を取り出す生成物回収部6とが設けられていることがより望ましい。
【0029】
[酸素除去部4]
前述した陽極反応を促進するためには、陽極1の周囲に存在する酸素(O)を除去することが望ましい。その方法、即ち、酸素除去部4の構成は、特に限定されるものではないが、例えば、陽極1の周囲の溶液を通流可能とし、脱酸素した水を供給して、酸素を含む溶液を排出する構成とすることができる。これにより、陽極1の周囲の溶液中の酸素濃度を低下させることができるため、陽極反応の低下を防止することができる。
【0030】
[二酸化炭素供給部5]
陰極反応を促進するためには、陰極2に、十分な二酸化炭素(CO)を供給することが望ましい。そこで、本実施形態の二酸化炭素固定化装置においては、二酸化炭素供給5により、陰極2又はその周囲に、二酸化炭素又は二酸化炭素を含む気体を供給する。この二酸化炭素供給部5から供給される気体は、大気と同等以上の二酸化炭素を含むものであればよく、例えば大気中の二酸化炭素濃度が0.028体積%の場合は、二酸化炭素濃度が0.028〜100体積%の気体を供給すればよい。これにより、陰極2の周囲の二酸化炭素濃度を高く保つことができるため、反応効率を高めることができる。
【0031】
二酸化炭素供給部5により陰極2に供給される気体としては、例えば、火力発電所や自動車などからの排気、更にはドライアイスや呼気などを利用することも可能である。このような気体を使用することにより、高濃度で二酸化炭素を含む気体を容易に得ることができ、効率的に有機酸や炭水化物を得ることが可能となる。
【0032】
[生成物回収部6]
前述した陰極反応を促進するためには、陰極2の周囲に存在する生成物(有機酸又は炭水化物)を除去することが望ましい。その方法、即ち、生成物回収部6の構成は、特に限定されるものではないが、例えば、陰極2の周囲の溶液を通流可能とし、その中に含まれる生成物を塩にして沈殿させて回収する方法や、活性炭などの吸着剤に吸着させて回収する方法などを適用することができる。
【0033】
これにより、陰極2の周囲の溶液中の生成物濃度を低下させることができるため、陰極反応の低下を防止することができる。なお、このような生成物回収部6を設ける場合は、陰極2を、半浸水系電極とすることが望ましい。これにより、陰極2の周囲に溶液を通流させることが可能となるため、生成物を陰極2から速やかに除去し、回収することができる。
【0034】
[動作]
次に、本実施形態の二酸化炭素固定化装置の動作について説明する。図1に示すように、本実施形態の二酸化炭素固定化装置では、外部から入力電力が与えられることにより、以下の反応が進行する。
【0035】
即ち、陽極1においては、表面に設けられた酵素固定化層12の酸化還元酵素により水(HO)が酸化され、プロトン(H)と電子(e)が取り出される。この反応により生じた酸素(O)は、例えば酸素除去部4により系外に排出される。一方、プロトン(H)はプロトン伝導体3を介して陰極2に移送され、電子(e)は外部回路を介して陰極2に送られる。
【0036】
また、陰極2においては、陽極1で発生したプロトン(H)及び電子(e)と、例えば二酸化炭素供給部5により供給され、陰極2に接する気相又は液相中の二酸化炭素(CO)とにより有機酸又は炭水化物を生成する。なお、この反応により生じた有機酸又は炭水化物は、例えば生成物回収部6によって系外に排出される。
【0037】
このように、本実施形態の二酸化炭素固定化装置では、酸化還元酵素を利用しているため、水素を使用しなくても、電力を入力するだけで、容易に、二酸化炭素から有機酸や炭水化物を生成することが可能となる。また、この二酸化炭素固定化装置は、二酸化炭素が排出される分野で、より効率的に二酸化炭素を固定化することができると共に、有用な炭素化合物を得ることができる。
【0038】
例えば、従来、二酸化炭素を固定化する場合は、地中深く閉じこめる方法などが検討されていたが、莫大なエネルギーが必要であり、小型化することも困難であった。これに対して、本実施形態の二酸化炭素固定化装置は、エネルギー(電力)を使いながらも、有用な化合物として二酸化炭素を固定化することができ、更に、装置も小型で簡便なものであるため、幅広い分野への適用が可能である。
【0039】
<2.第1の実施の形態の変形例>
[電池の全体構成]
前述した第1の実施形態においては、二酸化炭素から蟻酸を生成する二酸化炭素固定化装置について説明したが、本発明はこれに限定されるものではなく、蟻酸などの有機酸以外にも、メタノールやグルコースなどの炭水化物を生成することもできる。
【0040】
図4は本発明の第1の実施形態の変形例に係る二酸化炭素固定化装置の原理を模式的に示す図である。なお、図4においては、図1に示す第1の実施形態の二酸化炭素固定化装置の構成要素と同じものには同じ符号を付し、その詳細な説明は省略する。図4に示すように、本変形例の二酸化炭素固定化装置も、陽極31と陰極32とが、プロトン伝導体3を介して対向配置されている。
【0041】
[陰極32]
本変形例の二酸化炭素固定化装置では、陰極32に、脱水素酵素群として3種類のNAD依存型デヒドロゲナーゼが固定されており、複数の段階を経てCOからメタノール(CHOH)を生成する。具体的には、蟻酸デヒドロゲナーゼ(FateDH)により、二酸化炭素から蟻酸が生成される。そして、この蟻酸は、ホルムアルデヒドゲナーゼ(FalDH)により、ホルムアルデヒドとなり、更に、アルコールデヒドロゲナーゼ(ADH)により、メタノールが生成される。
【0042】
[動作]
本変形例の二酸化炭素固定化装置は、外部から入力電力が与えられることにより、以下の反応が進行する。即ち、陽極31においては、表面の酵素固定化層12に存在する酸化還元酵素により水(HO)が酸化され、プロトン(H)と電子(e)が取り出される。この反応により生じた酸素(O)は、例えば酸素除去部4により系外に排出される。一方、プロトン(H)はプロトン伝導体3を介して陰極32に移送され、電子(e)は外部回路を介して陰極2に送られる。
【0043】
また、陰極32においては、陽極31で発生したプロトン(H)及び電子(e)と、例えば二酸化炭素供給部5により供給され、陰極32に接する気相又は液相中の二酸化炭素(CO)とにより、蟻酸、ホルムアルデヒド及びメタノールを生成する。そして、これにより生じた蟻酸、ホルムアルデヒド及びメタノールは、それぞれ必要に応じて、生成物回収部36a〜36cによって系外に排出される。
【0044】
本変形例の二酸化炭素固定化装置は、多段階の反応によって、二酸化炭素を還元することができるため、蟻酸よりも商業的に有益で、かつ、従来の二酸化炭素固定化装置では提案されていなかったメタノールの生成も実現することができる。更に、本変形例の二酸化炭素固定化装置では、蟻酸を含め、3種類の中間生成物を必要に応じて回収することもできる。なお、本変形例の二酸化炭素固定装置における上記以外の構成及び効果は、前述した第1の実施形態と同様である。
【符号の説明】
【0045】
1、31 陽極
2、32 陰極
3、103 プロトン伝導体
4 酸素除去部
5 二酸化炭素供給部
6、36a〜36c 生成物回収部
11、21 電極
12、22 酵素固定化層
13 電解質
14、24 セパレータ
23 気液共存層
25 気液分離膜
101 負極
102 正極

【特許請求の範囲】
【請求項1】
水を分解してプロトンと発生させる第1電極と、
前記第1電極で発生したプロトンと二酸化炭素とから有機酸又は炭水化物を生成する第2電極と、
前記第1電極で発生したプロトンを前記第2電極に伝達するプロトン伝導体と、
を少なくとも備え、
前記第1電極及び/又は前記第2電極の表面には酸化還元酵素が存在している二酸化炭素固定化装置。
【請求項2】
更に、第2電極に二酸化炭素を供給する二酸化炭素供給部を備える請求項1に記載の二酸化炭素固定化装置。
【請求項3】
前記二酸化炭素供給部は、二酸化炭素濃度が0.028〜100体積%の気体を供給する請求項2に記載の二酸化炭素固定化装置。
【請求項4】
前記第1電極で生成した酸素を除去する酸素除去部と、
前記第2電極で生成した有機酸又は炭水化物を取り出す生成物回収部と、
を備える請求項3に記載の二酸化炭素固定化装置。
【請求項5】
前記第1電極は、直接又はセパレータを介して液相に接触している浸水系電極であり、かつ、前記第2電極は、直接又はセパレータを介して液相に接触すると共に、気液分離膜を介して気相とも接触している半浸水系電極である請求項1乃至4のいずれか1項に記載の二酸化炭素固定化装置。
【請求項6】
前記第1電極及び/又は前記第2電極は、導電性多孔質材料で形成されている請求項1乃至5のいずれか1項に記載の二酸化炭素固定化装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【公開番号】特開2012−21216(P2012−21216A)
【公開日】平成24年2月2日(2012.2.2)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−162130(P2010−162130)
【出願日】平成22年7月16日(2010.7.16)
【出願人】(000002185)ソニー株式会社 (34,172)
【Fターム(参考)】