説明

二酸化炭素還元装置

【課題】光触媒素子を用いて効率よく二酸化炭素を一酸化炭素に還元することができる二酸化炭素還元装置を提供する。
【解決手段】二酸化炭素還元装置1a,1bは、二酸化炭素を含む溶液Sを流通させる流路2と、流路2に臨んで設けられた光触媒素子3a,3bとを備える。光触媒素子3aは、青色発光ダイオード4からの光が入射せしめられる基材としてのプリズム5と、銀からなる金属被覆層6と、色素失活防止層7と、fac−[Re(bpy)(CO)(NCS)]からなる光触媒薄膜層8とを備える。溶液Sは、トリエタノールアミン等の電子供与体を含む。光触媒素子3bは、プリズム5の表面と金属被覆層6との間に、色素失活防止層7と同一の屈折率を備える層9を備える。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、二酸化炭素を還元して一酸化炭素を得る二酸化炭素還元装置に関するものであり、より詳しくは光触媒素子を用いて二酸化炭素を還元する二酸化炭素還元装置に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、工業の発達に伴う二酸化炭素排出量の増大は、地球の温暖化をもたらし、生態系の変化や海面の上昇等のように地球規模の環境問題となっている。そこで、前記二酸化炭素を還元して一酸化炭素とする二酸化炭素還元技術が種々検討されている。前記一酸化炭素は、燃料として用いられるばかりでなく、メタノール等の化学品の原料としての用途がある。
【0003】
前記二酸化炭素還元技術の一つとして、二酸化炭素の還元のために、水素原子を供給し自らは酸化される犠牲試薬を用いるものがある。前記犠牲試薬としては、アミン、メタノール等が用いられる。ところが、前記技術では、莫大な量の二酸化炭素を還元するためには、大量の前記犠牲試薬を必要とするので、アミン、メタノール等は、前記犠牲試薬として用いるには高価になるという問題がある。
【0004】
また、前記二酸化炭素還元技術において、二酸化炭素の還元反応は、分子同士の衝突に頼る拡散律速であるため、還元反応自体の収率が低いという問題がある。また、前記還元反応の進行に伴って前記犠牲試薬が減少すると、さらに収率が低下するという問題もある。
【0005】
また、他の前記二酸化炭素還元技術として、レニウム(I)錯体等の光触媒を用いて二酸化炭素を還元する技術が知られている(非特許文献1参照)。
【0006】
前記光触媒を用いる二酸化炭素還元技術は、二酸化炭素を含む溶液中でトリエタノールアミン(TEOA)等の電子供与体の存在下、次式(1)で示されるレニウム(I)錯体、fac−[Re(bpy)(CO)(NCS)]に、光を照射することにより、二酸化炭素を還元するものである。
【0007】
【化1】

【0008】
しかしながら、二酸化炭素の還元反応において、1光子では十分な光エネルギーが得られず2光子を利用しなければならないため、二酸化炭素の還元は、分解効率ηが励起される光強度Iの2乗に比例する(η∝I)2光子過程となり、効率が非常に低いという不都合がある。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0009】
【非特許文献1】Hiroyuki Takeda, et.al, "Development of an Efficiett PhotocatalyticSystem for CO Reduction Using Rhenium(I) Complexes Based on Mechanistic Studies", Journal of the American Chemical Society, 2008, vol.130, pp.2023-2031
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
本発明は、かかる不都合を解消して、光触媒素子を用いて効率よく二酸化炭素を一酸化炭素に還元することができる二酸化炭素還元装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0011】
かかる目的を達成するために、本発明は、二酸化炭素を含む溶液を流通させる流路と、該流路に臨んで設けられた光触媒素子とを備える二酸化炭素還元装置であって、該光触媒素子は、光源からの光が入射せしめられる基材と、該基材の表面に形成され該基材に入射する光を全反射してエバネッセント光を形成する金属被覆層と、該金属被覆層の上に形成された色素失活防止層と、該色素失活防止層の上に形成された光触媒薄膜層とを備えることを特徴とする。
【0012】
本発明の二酸化炭素還元装置では、まず、前記光触媒素子において、前記光源からの光が前記基材に入射し、前記金属被覆層で全反射される。このとき、前記全反射される角度の中で、ある特定の角度で入射した光が、前記金属被覆層に共鳴的に吸収されることによりエバネッセント光が発生し、該エバネッセント光により該金属被覆層表面に表面プラズモン共鳴光が励起される。
【0013】
前記表面プラズモン共鳴光は、電界強度増大効果を備えているので、強度が増大された光が前記光触媒薄膜層に入射することとなり、該光触媒薄膜層を形成する光触媒が、触媒作用を示すことができる。このとき、前記金属被覆層と前記光触媒薄膜層との間には、前記色素失活防止層が形成されているので、該光触媒薄膜層内に生成された電子が該金属被覆層に移動することを該色素失活防止層により防止して、前記光触媒の失活を阻止することができる。
【0014】
従って、本発明の二酸化炭素還元装置によれば、前記光触媒素子が臨む流路中に流通される溶液に含有される二酸化炭素に、前記光触媒薄膜層内に生成された電子を供給することができ、微弱な光によっても効率よく二酸化炭素を一酸化炭素に還元することができる。
【0015】
本発明の二酸化炭素還元装置において、前記光触媒素子は、青色発光ダイオード又は青色レーザダイオードを前記光源とする光が入射せしめられる前記基材と、銀からなる前記金属被覆層と、fac−[Re(bpy)(CO)(NCS)]からなる前記光触媒薄膜層とを備え、前記二酸化炭素を含む溶液は、電子供与体を含むことが好ましい。
【0016】
前記構成を備える二酸化炭素還元装置では、前記青色発光ダイオード又は青色レーザダイオードの発光光が前記銀からなる金属被覆層で全反射されることにより、前述のように、該金属被覆層上に表面に表面プラズモン共鳴光が励起される。そして、前記表面プラズモン共鳴光により強度が増大された光が前記光触媒薄膜層に入射することとなり、該光触媒薄膜層を形成するfac−[Re(bpy)(CO)(NCS)]が励起されると共に、前記電子供与体から電子の供与を受けて、触媒作用を示すことができる。本発明の二酸化炭素還元装置では、前記電子供与体として、例えばトリエタノールアミンを用いることができる。
【0017】
また、本発明の二酸化炭素還元装置において、前記基材はプリズムであることが好ましい。前記基材をプリズムとすることにより、該プリズムに入射した前記光の入射角が前記金属被覆層で共鳴的に吸収を起こす角度となるように、容易に制御することができる。
【0018】
また、本発明の二酸化炭素還元装置において、前記光触媒素子は、前記基材の表面と前記金属被覆層との間に、前記色素失活防止層と同一の屈折率を備える層を備えることが好ましい。
【0019】
このとき、前記金属被覆層は、同一の屈折率を備える2つ層により挟持された構成であり、かかる構成によれば、前記金属被覆層の1か所に励起された表面プラズモン共鳴光が伝搬方向に対して垂直方向の振幅を有する横波となる。表面プラズモン共鳴光はプラズマ波成分と電磁波成分とからなり、その吸収損失はプラズマ波成分の吸収損失により決められる。しかし、前記横波の表面プラズモン共鳴光はプラズマ波成分を殆ど有していないため、吸収損失が極めて小さく、伝搬距離が飛躍的に増大する。
【0020】
従って、前記表面プラズモン共鳴光により電場増強された光の場を、該横波の表面プラズモン共鳴光の伝搬により前記金属被覆層内に一様に数cm以上の長さに亘って導波させることができる。この結果、前記構成によれば、大面積で効率の良い光触媒素子を形成することができ、微弱な光によってもさらに効率よく二酸化炭素を一酸化炭素に還元することができる。
【0021】
また、本発明の二酸化炭素還元装置において、前記青色発光ダイオード又は青色レーザダイオードは、太陽電池を電力供給源とすることができる。
【図面の簡単な説明】
【0022】
【図1】本発明の二酸化炭素還元装置の第1の態様の構成例を示す説明的断面図。
【図2】第1の態様における光源からの光の入射角度と反射光成分との関係を示すグラフ。
【図3】レニウム(I)錯体による二酸化炭素還元の反応機構を示す説明図。
【図4】本発明の二酸化炭素還元装置の第2の態様の構成例を示す説明的断面図。
【図5】第2の態様の一実施形態における光源からの光の入射角度と反射光成分との関係を示すグラフ。
【図6】第2の態様の他の実施形態における光源からの光の入射角度と反射光成分との関係を示すグラフ。
【発明を実施するための形態】
【0023】
次に、添付の図面を参照しながら本発明の実施の形態についてさらに詳しく説明する。
【0024】
まず、図1を参照して本実施形態の第1の態様の二酸化炭素還元装置1aについて説明する。二酸化炭素還元装置1aは、二酸化炭素とトリエタノールアミン(TEOA)とを含む溶液Sを流通させる流路2と、流路2に臨んで設けられた光触媒素子3aとを備えている。
【0025】
流路2に流通される溶液Sは、例えば、ジメチルホルムアミド(DMF)を溶媒とすることができる。このとき、TEOAとDMFとは、例えば、TEOA:DMF=1:5の体積比で混合することが好ましい。
【0026】
光触媒素子3aは、青色発光ダイオード4の発光光が入射せしめられるプリズム5を基材とし、プリズム5の稜部5aに対向する面5bの全面を被覆して形成された金属銀からなる金属被覆層6と、金属被覆層6の上に形成されたSiOからなる色素失活防止層7と、色素失活防止層7上に形成されたレニウム(I)錯体からなる光触媒薄膜層8とを備える。青色発光ダイオード4は、450nm以下の範囲、例えば440nmの波長の光を発光するものを用いることができる。
【0027】
プリズム5は、稜部5aを挟む面5c,5dの稜部5aから対向面5bまでの長さが例えば10mmであり、面5c,5dの成す角が60°のものを用いることができる。ここで、プリズム5は、n=2前後の屈折率を備える高屈折率ガラスからなるものを用いることが好ましい。このようなプリズム5として、株式会社オハラ製S−LAH79(商品名、屈折率n=2.07)等を挙げることができる。
【0028】
金属銀からなる金属被覆層6は、プリズム5の稜部5aに対向する面5b上に、蒸着法等を用いて形成することができる。このとき、プリズム5と金属銀との間で所要の密着性を得るために、プリズム5の面5bをイソプロピルアルコール、紫外線クリーナー等で丁寧に洗浄しておくことが好ましい。また、プリズム5の面5b上に金属クロム等を1nm程度の厚さに蒸着しておいてもよい。
【0029】
前記のようにして形成された金属銀からなる金属被覆層6は、形成条件により屈折率及び消衰係数が大きく変化する。従って、その都度、入射角と反射率との関係を測定し、反射率が低下する部分(表面プラズモンディップ)がゼロに近くなる膜厚を選択することが好ましい。
【0030】
金属被覆層6を形成する金属銀は、表面プラズモン共鳴光を励起させるために、10〜50nmの範囲、特に35nm程度の厚さを備えていることが好ましい。金属銀の厚さは前記範囲にあることにより、前記青色発光ダイオードの440nm程度の波長を有する発光光で励起される前記表面プラズモン共鳴光により光触媒薄膜層8上で大幅な電界強度増大効果を得ることができる。
【0031】
色素失活防止層7は、金属被覆層6上に、蒸着法等を用いて形成することができる。色素失活防止層7は、20nm程度の厚さを備えていることが好ましい。
【0032】
光触媒薄膜層8を形成するレニウム(I)錯体は、以下に再掲する式(1)で示されるfac−[Re(bpy)(CO)(NCS)]であり、色素失活防止層7上に1分子層の厚さで固定される。
【0033】
【化2】

【0034】
上記色素失活防止層7上に式(1)で示されるfac−[Re(bpy)(CO)(NCS)]を固定するには、まず、色素失活防止層7を形成するSiOをシランカップリング剤等を用いて末端アミノ基処理を行う。次に、fac−[Re(bpy)(CO)(NCS)]のピリジン環にカルボキシル基を導入し、fac−[Re(bpy)(CO)(NCS)]をカルボキシル基変性する。そして、1−エチル−3−(3−ジメチルアミノプロプル)−カルボジイミドヒドロクロライド(EDC)等の架橋剤を用いて、前記アミノ基と前記カルボキシル基との間に脱水縮合反応を生じさせることにより、色素失活防止層7を形成するSiOにfac−[Re(bpy)(CO)(NCS)]を固定する。
【0035】
次に、図1に示す二酸化炭素還元装置1aの作用について説明する。
【0036】
二酸化炭素還元装置1aでは、青色発光ダイオード4の発光光を、光触媒素子3aにおけるプリズム5の稜部5aを挟む面5c,5dの一方、例えば面5cの側から、金属被覆層6に対して特定の入射角となるように入射させる。このとき、青色発光ダイオード4の発光光は、偏光がTMモードとなるようにすることが好ましい。
【0037】
このようにすると、青色発光ダイオード4の発光光が、金属被覆層6を形成する金属銀の表面で吸収され、エバネッセント光を発生する。そして、前記エバネッセント光により、前記金属銀の表面に表面プラズモン共鳴光が励起される。
【0038】
ここで、前記表面プラズモン共鳴光は、電界強度増大効果を備えており、電界強度が例えば10倍以上に増大される。入射光強度は電界強度の二乗となるので、電界強度が前記のように増大されると、金属被覆層6で発生した表面プラズモン共鳴光の強度は100倍以上に増大され、このように強度を増大された光が、色素失活防止層7を介して光触媒薄膜層8に入射する。この結果、光触媒薄膜層8を形成するfac−[Re(bpy)(CO)(NCS)]が、青色発光ダイオード4の微弱な発光光によっても励起され、流路2に流通される溶液Sに含まれる二酸化炭素を還元する。
【0039】
青色発光ダイオード4の発光光の金属被覆層6に対する入射角は、該発光光を金属被覆層6に対して角度挿引することにより決定することができる。次に、青色発光ダイオード4の波長440nmの発光光を、光触媒素子3aの金属被覆層6に入射させ、入射角と反射率との関係を測定(角度挿引)した。このとき、光触媒素子3bにおいて、プリズム5は株式会社オハラ製S−LAH79(商品名、屈折率n=2.07)であり、金属被覆層6は厚さ35nmの金属銀からなり、屈折率0.157、消衰係数2.40であり、色素失活防止層7は厚さ20nmのSiOからなり、屈折率1.457、消衰係数0であり、光触媒薄膜層8は厚さ2nmのfac−[Re(bpy)(CO)(NCS)]からなり、屈折率1.67、消衰係数0.09である。結果を図2に示す。
【0040】
図2から、入射角が58.5°付近で反射率が低下する部分(表面プラズモンディップ)がゼロに近づくことを観測することができる。光触媒素子3aは、前記条件下で実際には、入射角を前記表面プラズモンディップを観測することができる入射角(58.5°)よりも低角側の55°付近とすることにより、光触媒薄膜層8と流路2に流通される溶液Sとの界面での電場強度を最大とすることができる。
【0041】
このとき、増大された電場は、青色発光ダイオード4の波長440nmの発光光を、光触媒薄膜層8に直接照射する場合の3.5倍以上の強度とすることができる。従って、二酸化炭素を一酸化炭素に還元する際の分解効率ηを12倍以上とすることができ、効率の良い光触媒効果を得ることができる。
【0042】
次に、図3を参照して、式(1)で示されるfac−[Re(bpy)(CO)(NCS)]による二酸化炭素還元の反応機構について説明する。まず、fac−[Re(bpy)(CO)(NCS)]は、青色発光ダイオード4の440nm程度の光により励起されて、金属−配位子電荷移動状態(MLCT)となる。このとき、光触媒薄膜層8内に生成された電子は、色素失活防止層7により金属被覆層6に移動することが防止されるので、fac−[Re(bpy)(CO)(NCS)]の励起に有効に用いられる。次に、前記MLCTは、溶液S中のトリエタノールアミン(TEOA)から電子の供与を受けて、次式(2)で示される1電子還元錯体となる。
【0043】
【化3】

【0044】
式(2)で示される1電子還元錯体は不安定であり、直ちにNCSが脱離し、次式(3)で示される1電子還元錯体となる。次式(3)で示される1電子還元錯体では、1個の電子がビピリジン環上に局在している。また、NCSは、そのまま溶液S中にとどまっている。
【0045】
【化4】

【0046】
次に、式(3)で示される1電子還元錯体は、二酸化炭素が吸着した二酸化炭素付加物(COadduct)を形成する。前記二酸化炭素付加物は、ラジカル状態であり、式(3)で示される1電子還元錯体から電子の供給を受けて不安定な状態にある。
【0047】
ここで、前記二酸化炭素付加物は、さらに式(2)で示される1電子還元錯体から電子の供給を受ける。この結果、前記二酸化炭素付加物は、合計2個の電子の供給を受けて、二酸化炭素が一酸化炭素に還元される。式(2)で示される1電子還元錯体は、前記二酸化炭素付加物に電子を供給することにより、式(1)で示されるfac−[Re(bpy)(CO)(NCS)]に戻る。
【0048】
一方、前記二酸化炭素付加物は、還元された一酸化炭素が脱離することにより、次式(4)で示される錯体となる。次式(4)で示される錯体は正に荷電しており、前記式(2)で示される1電子還元錯体から脱離したまま溶液S中に存在しているNCSと再結合して、前記式(1)で示されるfac−[Re(bpy)(CO)(NCS)]に戻る。
【0049】
【化5】

【0050】
従って、図3に示す反応機構によれば、レニウム(I)錯体であるfac−[Re(bpy)(CO)(NCS)]の触媒作用により、二酸化炭素が2個の電子の供給を受けて一酸化炭素に還元される。生成した一酸化炭素は、溶液Sから回収することができる。
【0051】
次に、図4を参照して本実施形態の第2の態様の二酸化炭素還元装置1bについて説明する。二酸化炭素還元装置1bは、光触媒素子3bが、図1に示す二酸化炭素還元装置1aの光触媒素子3aにおいて、プリズム5の面5bと金属銀からなる金属被覆層6との間に、色素失活防止層7を形成するSiOと同一の屈折率を備えるSiO層9を備えることを除いて、二酸化炭素還元装置1aと全く同一の構成を備えている。すなわち、二酸化炭素還元装置1bでは、金属銀からなる金属被覆層6が、同一の屈折率を備える色素失活防止層7とSiO層9とに挟持された構成となっている。
【0052】
SiO層9は、図1に示す光触媒素子3aにおける色素失活防止層7と全く同一にして形成することができる。また、金属被覆層6と、色素失活防止層7とは、金属被覆層6がSiO層9上に形成されることを除いて、図1に示す光触媒素子1aの場合と全く同一にして形成することができる。
【0053】
尚、色素失活防止層7とSiO層9とは、SiOの屈折率が同一であればよく、膜厚は互いに同一であってもよく、異なっていてもよい。
【0054】
次に、図4に示す二酸化炭素還元装置1bの作用について説明する。
【0055】
二酸化炭素還元装置1bでは、二酸化炭素還元装置1aの場合と同様に、青色発光ダイオード4の発光光を、光触媒素子3bにおけるプリズム5の稜部5aを挟む面5c,5dの一方、例えば面5cの側から、金属被覆層6に対して特定の入射角となり、偏光がTMモードとなるように入射させる。
【0056】
このようにすると、青色発光ダイオード4の発光光が、金属被覆層6を形成する金属銀の表面で吸収され、エバネッセント光を発生する。そして、前記エバネッセント光により、前記金属銀の表面に表面プラズモン共鳴光が励起される。
【0057】
ここで、前記表面プラズモン共鳴光は、前述のように電界強度増大効果を備えているので、電界強度が例えば10倍以上に増大されときには、金属被覆層6で発生した表面プラズモン共鳴光の強度は100倍以上に増大され、このように強度を増大された光が色素失活防止層7を介して光触媒薄膜層8に入射する。また、このとき、光触媒素子3bでは、前記表面プラズモン共鳴光が伝搬方向に対して垂直方向の振幅を有する横波となり、伝搬距離が飛躍的に増大するので、該表面プラズモン共鳴光により電場増強された光の場を、金属被覆層6内に一様に数cm以上の長さに亘って導波させることができる。
【0058】
従って、光触媒素子3bによれば、青色発光ダイオード4の微弱な発光光によっても、大面積で効率の良い光触媒作用を示すことができ、光触媒薄膜層8を形成するfac−[Re(bpy)(CO)(NCS)]を励起して、流路2に流通される溶液Sに含まれる二酸化炭素を効率よく還元することができる。
【0059】
青色発光ダイオード4の発光光の金属被覆層6に対する入射角は、該発光光を金属被覆層6に対して角度挿引することにより決定することができる。次に、図4に示す光触媒素子3bにおいて、色素失活防止層7とSiO層9とを同一の厚さとしたときに、青色発光ダイオード4の波長440nmの発光光を、光触媒素子3bの金属被覆層6に入射させ、入射角と反射率との関係を測定(角度挿引)した。このとき、光触媒素子3bにおいて、プリズム5は株式会社オハラ製S−LAH79(商品名、屈折率n=2.07)であり、金属被覆層6は厚さ41nmの金属銀からなり、屈折率0.157、消衰係数2.40であり、色素失活防止層7及びSiO層9は厚さ20nmのSiOからなり、屈折率1.457、消衰係数0であり、光触媒薄膜層8は厚さ2nmのfac−[Re(bpy)(CO)(NCS)]からなり、屈折率1.67、消衰係数0.09である。結果を図5に示す。
【0060】
図5から、前記構成の光触媒素子3bでは、入射角が58°付近で反射率が低下する部分(表面プラズモンディップ)がゼロに近づくことが明らかである。光触媒素子3bは、前記条件下で実際には、入射角を前記表面プラズモンディップを観測することができる入射角(58°)よりも低角側の55°付近とすることにより、光触媒薄膜層8と流路2に流通される溶液Sとの界面での電場強度を最大とすることができる。
【0061】
このとき、増大された電場は、青色発光ダイオード4の波長440nmの発光光を、光触媒薄膜層8に直接照射する場合の4倍以上の強度とすることができる。従って、二酸化炭素を一酸化炭素に還元する際の分解効率ηを16倍以上とすることができ、効率の良い光触媒効果を得ることができる。
【0062】
次に、図4に示す光触媒素子3bにおいて、色素失活防止層7とSiO層9とを異なる厚さとしたときに、青色発光ダイオード4の波長440nmの発光光を、光触媒素子3bの金属被覆層6に入射させ、入射角と反射率との関係を測定(角度挿引)した。ここで、光触媒素子3bは、色素失活防止層7を厚さ10nmのSiOからなるものとし、金属被覆層6を厚さ18nmの金属銀からなるものとした以外は、図4の場合と全く同一の構成を備えている。結果を図6に示す。
【0063】
図6から、前記構成の光触媒素子3bでは、入射角が30°付近で反射率が低下する部分(表面プラズモンディップ)がゼロに近づくことが明らかである。光触媒素子3bは、前記条件下で実際には、入射角を前記表面プラズモンディップを観測することができる入射角(30°)よりも低角側の29°付近とすることにより、光触媒薄膜層8と流路2に流通される溶液Sとの界面での電場強度を最大とすることができる。
【0064】
このとき、増大された電場は、青色発光ダイオード4の波長440nmの発光光を、光触媒薄膜層8に直接照射する場合の20倍以上の強度とすることができる。従って、二酸化炭素を一酸化炭素に還元する際の分解効率ηを400倍以上とすることができ、効率の良い光触媒効果を得ることができる。
【0065】
本実施形態では、光源からの光が入射せしめられる基材としてプリズム5を用いるようにしているが、プリズム5に代えて、励起波長以下の孔径を有する2次元金属孔列、多数の1次元溝構造を有する金属グレーティング等を用いるようにしてもよい。
【0066】
また、本実施形態では、色素失活防止層7上に、光触媒薄膜層8を直接形成するようにしているが、色素失活防止層7と光触媒薄膜層8との間に色素増感作用を有する金属錯体を介在させるようにしてもよい。前記色素増感作用を有する金属錯体として、例えば、ルテニウム錯体を挙げることができる。
【0067】
また、本実施形態では、二酸化炭素を還元する光触媒として、レニウム(I)錯体であるfac−[Re(bpy)(CO)(NCS)]を用いるようにしているが、二酸化炭素を還元する他の光触媒を用いるようにしてもよい。このような光触媒として、fac−[Re(bpy)(CO)(NCS)]以外の他のレニウム(I)錯体、ルテニウム錯体等の金属錯体、WO、Fe、SnO、TiO、ZnO等の金属酸化物、GaN、BN、AlN等の金属窒化物、Au、Ag、Co、Pt、Pd等の金属を挙げることができる。
【0068】
また、本実施形態では、溶液Sの溶媒としてジメチルホルムアミドとトリエタノールアミンを用いるようにしているが、水素原子を供給して自らは酸化される犠牲試薬を用いるようにしてもよい。このような犠牲試薬として、メタノール、蟻酸、アミン等を挙げることができる。
【0069】
さらに、本実施形態では、青色発光ダイオード4の発光光を用いるようにしているが、地球規模での二酸化炭素削減を考慮した場合には、太陽光の利用が考えられる。この場合、二酸化炭素を還元する光触媒に、太陽光を直接照射することは反応収率の上で得策ではなく、太陽光エネルギーを太陽電池等により電気エネルギーに変換する方が、効率を向上することができると考えられる。この場合、前記電気エネルギーを発光ダイオード等の光エネルギーに変換し、該光エネルギーを、表面プラズモン効果を利用して、前記光触媒に照射する。
【0070】
前記のように効率を向上することができる理由として、以下のことが考えられる。
【0071】
太陽電池の効率が年々向上し、効率30%以上の発電効率を、安価かつ長寿命の技術で達成することが可能であること。
【0072】
一般的に二酸化炭素を還元する光触媒薄膜はワイドギャップであり、太陽光の直接照射によっては、太陽光エネルギーの20%も利用できないこと。
【0073】
青色系発光ダイオードの効率向上は目覚ましいものがあり、電気エネルギーの80%以上を青色光エネルギーに変換できること。
【0074】
二酸化炭素を還元する光触媒反応は2電子を利用する非線形過程なので、発光ダイオード、レーザダイオード等の強度の強い光照射が桁違いの効果を引き出すこと。
【0075】
太陽光発電または他の再生可能エネルギーや蓄電技術の併用により、夜間での二酸化炭素還元反応の利用が可能であること。
【符号の説明】
【0076】
1a,1b…二酸化炭素還元装置、 2…流路、 3a,3b…光触媒素子、 4…青色発光ダイオード、 5…プリズム、 6…金属被覆層、 7…色素失活防止層、 8…光触媒薄膜層、 9…SiO層。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
二酸化炭素を含む溶液を流通させる流路と、該流路に臨んで設けられた光触媒素子とを備える二酸化炭素還元装置であって、
該光触媒素子は、光源からの光が入射せしめられる基材と、該基材の表面に形成され該基材に入射する光を全反射してエバネッセント光を形成する金属被覆層と、該金属被覆層の上に形成された色素失活防止層と、該色素失活防止層の上に形成された光触媒薄膜層とを備えることを特徴とする二酸化炭素還元装置。
【請求項2】
前記光触媒素子は、青色発光ダイオード又は青色レーザダイオードを前記光源とする光が入射せしめられる前記基材と、銀からなる前記金属被覆層と、fac−[Re(bpy)(CO)(NCS)]からなる前記光触媒薄膜層とを備え、
前記二酸化炭素を含む溶液は、電子供与体を含むことを特徴とする請求項1記載の二酸化炭素還元装置。
【請求項3】
前記電子供与体は、トリエタノールアミンであることを特徴とする請求項2記載の二酸化炭素還元装置。
【請求項4】
前記基材はプリズムであることを特徴とする請求項1乃至請求項3のいずれか1項記載の二酸化炭素還元装置。
【請求項5】
前記光触媒素子は、前記基材の表面と前記金属被覆層との間に、前記色素失活防止層と同一の屈折率を備える層を備えることを特徴とする請求項1乃至請求項4のいずれか1項記載の二酸化炭素還元装置。
【請求項6】
前記青色発光ダイオード又は青色レーザダイオードは、太陽電池を電力供給源とすることを特徴とする請求項2記載の二酸化炭素還元装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【公開番号】特開2010−184195(P2010−184195A)
【公開日】平成22年8月26日(2010.8.26)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−29883(P2009−29883)
【出願日】平成21年2月12日(2009.2.12)
【出願人】(000002303)スタンレー電気株式会社 (2,684)
【出願人】(301021533)独立行政法人産業技術総合研究所 (6,529)
【Fターム(参考)】