説明

二酸/ジアミンの塩の溶液の製造方法

本発明は、ポリアミドを製造するためのジアミンと二酸との塩の溶液の製造方法に関する。より詳細には、本発明は、ポリアミドの製造、より特定的にはPA66の製造用の出発物質として用いられるヘキサメチレンジアンモニウムアジペート塩(ナイロン塩とも称される)の濃厚溶液の製造方法に関する。二酸とジアミンとを混合することによって得られるジアミンと二酸との塩の50〜80重量%の塩濃度の水溶液の製造方法は、第1工程において、1.1超の二酸/ジアミンモル比を有する二酸及びジアミンの水溶液を製造し、第2工程においてアミンを添加することによって二酸/ジアミンモル比を0.9〜1.1の範囲、好ましくは0.99〜1.01の範囲の値に調節し、随意に水を添加することによって塩の重量濃度を定めることから成る。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ポリアミドを製造するためのジアミンと二酸との塩の溶液の製造方法に関する。
【0002】
より詳細には、本発明は、ポリアミドの製造、より特定的にはPA66の製造用の出発物質として用いられるヘキサメチレンジアンモニウムアジペート塩(ナイロン塩とも称される)の濃厚溶液の製造方法に関する。
【背景技術】
【0003】
高分子量の二酸モノマー及びジアミンモノマーを含むポリアミドを得るためには、ジアミン分子と二酸分子との間の反応によって生成させた塩の水溶液を用いるのが一般的である。この溶液は、最初に水を蒸発させるために加熱され、次いで重縮合による重合を開始させてアミド官能基を含むマクロ分子鎖を得るために加熱される。
【0004】
前記塩溶液は一般的に、化学量論的量の二酸及びジアミンを含有する。ナイロン塩の重量濃度は、一般的に50%〜65%の範囲である。この溶液は、場合により輸送され、重合装置中に供給される前に、貯蔵されるのが一般的である。
【0005】
沈殿の問題を防ぐためのナイロン塩の最大許容濃度は、大気圧において70重量%程度である。この濃度以上では、沈殿を防ぐためには、大気圧より高い圧力において110〜160℃の範囲の温度に溶液を加熱することが必要である。これらの温度範囲及び圧力範囲は、貯蔵及び輸送には適し難いものである。
【0006】
ナイロン塩溶液を製造するための方法は、いくつか提唱されている。これらの方法は一般的に、中和反応によって生じる熱を取り除きながらヘキサメチレンジアミン及び水にアジピン酸を添加することから成る。
【0007】
例えば米国特許第4233234号明細書には、混合式反応器を含み、溶液を混合ゾーン中及び次いで二酸とジアミンとの間の反応によって生じる熱を取り除くための冷却器中に循環させることを含むヘキサメチレンジアンモニウムアジペートの製造方法が記載されている。
【0008】
米国特許第4442260号明細書には、水31%〜40%、アジピン酸73.5%〜77.5%及びヘキサメチレンジアミン22.5%〜26.5%を含有する水溶液を作り、次いで89〜96重量%の非化学量論的塩濃度を得るために多量の水を蒸発させ、1に等しい化学量論的な二酸/ジアミン比を得るためにヘキサメチレンジアミンを添加することから成る方法が記載されている。
【0009】
これらの様々な製造方法は、最初に特にアジピン酸を溶解させるために熱を供給し、その次にアミンと酸との間の反応によって生じる熱を取り除くということを必要とし、また、蒸発させるべき水をも必要とする。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0010】
【特許文献1】米国特許第4233234号明細書
【特許文献2】米国特許第4442260号明細書
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0011】
本発明の1つの目的は、最小の外部とのエネルギー交換を用いて、即ち熱の供給及び除去を最小限にして、ナイロン塩又は二酸とジアミンとの塩の濃厚溶液を調製する方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0012】
この目的で、本発明は、二酸とジアミンとを混合することによって得られるジアミンと二酸との塩の、50〜80重量%の塩濃度の水溶液の製造方法を提供するものであり、この方法は、次の工程から成ることを特徴とする:
・第1の反応器中で、二酸/ジアミンのモル比が1.5〜5の範囲であり且つ水中溶解種(水中に溶解している種)濃度が40〜75重量%、好ましくは45〜65重量%であるジアミン及び二酸の水溶液を、次のようにして製造する。まず、第1の反応器中に、1.5〜5の範囲のモル比のジアミン及び二酸の水溶液少なくとも5容量%、又は該反応器中に供給されるべき水の総量の少なくとも10%を占める量の水のいずれかを入れておき、この反応器中に、二酸を含む流れ、ジアミンを含む流れ及び随意としての水の流れを温度T1において供給する。その際に、二酸を含む供給流の流量及びジアミンを含む供給流の流量を、反応器中の溶液の温度が前記反応器の運転圧力における沸点より常に低くなり且つ二酸/ジアミンのモル比が常に1.1超となるように調節し、酸の供給量が所望の量の塩の水溶液を製造するのに必要な酸の総質量の少なくとも90重量%に相当し、水の供給量が所望の量の塩の水溶液を製造するのに必要な水の総質量の少なくとも75重量%を占めるようにする;
・この第1の反応器中で得られた水溶液を、凝縮器を備えた第2の反応器中に移す;
・この第2の反応器中に、0.9〜1.1の範囲、好ましくは1.0〜1.05の範囲の二酸/ジアミンのモル比が得られるように、ジアミンを含む流れを供給し、その際に、少なくともジアミンと二酸との間の反応からの熱を放出させることによって溶液を運転圧力における該溶液の沸点以下の温度にし、且つ、随意に所望の濃度及び所望の二酸/ジアミンの比の塩溶液が得られるように追加量の水及び/又は二酸を供給する。
用語「溶解種」とは、媒体中に遊離の形若しくは塩の形他で存在するすべての二酸及びジアミンを意味するものとする。
用語「沸点」とは、プロセスの作動圧力又は運転圧力における反応器中に入れられた溶液の沸点を意味するものとする。
【図面の簡単な説明】
【0013】
【図1】図1は、本発明の方法をバッチ式態様で実施するための装置の概要図である。
【図2】図2は、本発明の方法を連続式態様で実施するための装置の概要図である。
【発明を実施するための形態】
【0014】
本発明にとって好適なジアミンとしては、ヘキサメチレンジアミン(HMD)が好ましく且つ特によく用いられるモノマーであり、また、ヘプタメチレンジアミン、テトラメチレンジアミン、オクタメチレンジアミン、ノナメチレンジアミン、デカメチレンジアミン、2−メチルペンタメチレンジアミン、ウンデカメチレンジアミン、ドデカメチレンジアミン、キシリレンジアミン及びイソホロンジアミンを挙げることもできる。数種のジアミンモノマーの混合物を用いることもできる。
【0015】
本発明の方法においてジアミンは、純粋な形で、又は好ましくは濃厚水溶液の形で、供給される。HMDについては、ジアミンを少なくとも50重量%、好ましくは少なくとも85重量%、さらにより一層有利にはほぼ90重量%含む溶液を用いるのが好ましい。しかしながら、本発明の範囲から逸脱することなく、ジアミンを含む流れに他の化合物を含有させることもできる。
【0016】
本発明にとって好適な二酸としては、例えばスベリン酸、セバシン酸、ドデカン二酸、イソフタル酸、テレフタル酸、アゼライン酸、ピメリン酸及びナフタレンジカルボン酸を挙げることができる。数種の二酸モノマーの混合物を用いることもできる。アジピン酸が好ましく且つ特によく用いられるモノマーである。これは、粉体の形で用いられるが、水溶液や懸濁液の形で反応器中に供給することもできる。
【0017】
ジアミンを含む流れについてと同様に、二酸を含む流れにも、本発明の範囲から逸脱することなく、他の化合物及び/又は溶剤を含有させることができる。
【0018】
さらに、第1の反応器中に供給される物質の流れは、別々であるのが好ましい。しかしながら、ジアミンを水及び二酸の一部と共に添加することもできる。二酸も同様に粉体の形で供給するのが好ましいが、本発明の範囲から逸脱することなく、水溶液や分散体の形又は例えばジアミン/二酸塩の水溶液中に溶解させた形で供給することもできる。
【0019】
本発明の方法は、様々な反応器(特に下記の第2及び第3の反応器)を酸素フリー雰囲気下、例えば窒素、希ガス、水蒸気又はそれらの混合物から成る雰囲気下に保ちながら実施するのが有利である。
【0020】
好ましい実施態様において、酸素フリー雰囲気は、窒素流を連続供給することによって、又は様々な反応器を窒素圧下に保ち、溶液を沸騰させて水蒸気を発生させることによって、得られる。
【0021】
後者の場合、窒素は、反応器の上に配置させた凝縮器から排出させ又は逃がすのが有利である。これにより、窒素と共に運ばれてきた水は、凝縮して反応器中にリサイクルされる。
【0022】
この実施態様はまた、例えば溶解した形で溶液中に存在する酸素を排出させることもでき、従ってモノマーの酸化、特にジアミンの酸化を防止する。酸素は、特に二酸モノマーによって、特に二酸モノマーの粉体を供給する時に、導入され得る。
【0023】
別の実施形態において、溶解した酸素は、溶液の温度がその沸点と等しい時に第2の反応器中で溶液の沸騰によって発生する水蒸気を用いた水蒸気蒸留によって、排出される。
【0024】
本発明の方法は、バッチ式態様又は連続式態様に従って実施することができる。これら2つの実施態様は、以下に詳しく説明する。
【0025】
本発明の方法は、任意のタイプの反応器中で実施することができる。より特定的には、この反応器は、機械式撹拌手段を有するものであり、特に反応器が稼働していない期間又は製造プログラムが変更される期間中に反応器の温度を保つための手段を備えたものであることができる。
【0026】
バッチ式の実施態様においては、本発明の方法は、複数の反応器を直列の配置で含む装置であって、各反応器が本方法の1つの工程の実施に相当するものである装置を用いて実施するのが好ましい。しかしながら、本発明の範囲から逸脱することなく、本方法の様々な工程を同一の反応器中で連続的に実施することもできる。同様に、本方法の1つの工程を実施するための複数の反応器を並列の配置で含む装置を用いることもできる。
【0027】
本発明の方法に従って得られる濃厚塩溶液は、重合装置中に直接連続的に供給することもでき、輸送及び使用の前に貯蔵することもできる。
【0028】
本発明の方法の2つの実施態様の詳しい説明を、添付した図1及び図2を参照して与える。ここで、図1は、バッチ式の実施態様に従って方法を実施するための装置の概要図であり、図2は、連続式の実施態様に従って方法を実施するための装置の概要図である。
【0029】
また、本方法のバッチ式実施態様に従ったナイロン塩の濃厚溶液の製造実施例によっても、本発明を例示する。
【0030】
以下の説明においては、二酸及びジアミンを示すためにアジピン酸(AA)及びヘキサメチレンジアミン(HMD)という用語を用いるが、本方法は、上に示した他の二酸及び他のジアミンにも適用される。
【0031】
図1を参照すると、この図は、バッチ式態様に従って運転される本発明の方法の第1の実施態様を説明するものである。この装置は、第1の撹拌式反応器を含み、この中にアジピン酸2(一般的に粉体の形)及びヘキサメチレンジアミンの液体流3が添加される。水4もまたこの反応器中に導入される。
【0032】
ヘキサメチレンジアミンは、HMDを90重量%含む濃厚水溶液であるのが有利である。
【0033】
水中のアジピン酸及びヘキサメチレンジアミンの溶液であってアジピン酸に富んだもの(スターター溶液と称される)を少量入れた反応器1に、様々な物質が添加される。この水溶液は、以前の運転において調製された溶液の一部であるのが有利であり、実質的にこの反応器1中で調製される溶液の最終的な組成である組成、即ち約2.4の二酸/ジアミンのモル比及び約57%の溶解種重量濃度を有するのが有利である。
【0034】
この工程の開始時に反応器中に存在させる溶液の量は、工程の最後に反応器1中で製造される溶液の総量の少なくとも約5%、好ましくは5%〜40%の範囲、さらに好ましくは10%〜35%の範囲とする。
【0035】
有利には、本発明の1つの特徴に従えば、反応器と周囲又は外部との間の熱交換は行わず、この反応器は準断熱式態様で運転される。
【0036】
反応器1中の温度は、HMDとアジピン酸との間の中和反応のせいで僅かに上昇する。しかしながら、反応器中の溶液の温度は、プロセスを通じて及び工程終了時において、常に低温、有利には100℃より低い温度、好ましくは75℃より低い温度、より一般的には運転圧力における溶液の沸点より低い温度にある。この低い温度レベルは、媒体中に存在する酸素によるHMDの酸化を抑制するのに有利である。この酸素は、特にアジピン酸粉体によって導入されることがあるものである。
【0037】
アジピン酸、及び二酸とジアミンとの塩を含有し、2.4の全体二酸/ジアミンモル比及び57%の溶解種重量濃度を有する水溶液を得るために必要な量の水、アジピン酸及びHMDが反応器中に供給される。反応器中の液体の容量が有利には反応器1の作動容量の少なくとも80%になった時に、この溶液が第2の反応器5(中和反応器と称される)中にポンプ7によって供給される。この反応器5は、凝縮器8を備えたものであり、溶液循環用外部ループ及び/又は撹拌装置(図示せず)を備えているのが有利である。
【0038】
1.01近辺のAA/HMDモル比を得るために、この第2の反応器5中にヘキサメチレンジアミン9が供給される。第1の反応器1についてと同様に、外部との有意の熱交換が行われないのが有利である。例えば、アミンが酸で中和される反応からの熱は、反応器5中の温度の上昇を引き起こし、この温度は最大で運転圧力における混合物の沸点に達する。蒸発した水は凝縮器8中で凝縮して、水の全還流が得られる。沸騰を得るためのこの温度特徴は、媒体中に特に溶解した形で存在する酸素を水蒸気蒸留によって取り除くことを可能にするので、有利である。この凝縮器中で行われる熱交換は非常に少なく、中和反応によって発生する熱のごく一部を占めるだけである。
【0039】
また、ヘキサメチレンアンモニウムアジペート塩の濃度を50重量%超、好ましくは60〜75重量%の範囲の濃度に調節するために、水を添加することもできる。この水は、有利には、ヘキサメチレンジアミンの流れと混合することができる。
【0040】
本発明の好ましい実施態様である例示した実施態様において、第2の反応器5中で得られる溶液は、撹拌装置又は反応媒体循環外部ループ(図示せず)を備え且つ有利には凝縮器11を備えた第3の反応器10中に供給される。
【0041】
この第3の反応器10(調節用反応器とも称される)は、原理の点で第2の反応器と類似したものであり、AA/HMD比を0.995〜1.005の範囲の値に調節し且つ必要ならば塩の濃度を所望の値に調節するために、HMDの添加手段6及び水の添加手段を含む。
【0042】
こうして得られる溶液は、重合装置中で直接用いることもでき、貯蔵タンク12中又は輸送に適した容器中に貯蔵することもできる。
【0043】
好ましい実施態様に従えば、この装置の反応器は、例えば空の反応器中に窒素を供給し、反応器の充填及び排出の間中この窒素雰囲気を維持することによって、酸素フリー雰囲気下に保たれる。各反応器に対する窒素供給は、添付した図面には示さない。
【0044】
有利には、この反応器には、外部環境との熱交換を抑制して熱損失を抑制するために、断熱手段を備えさせる。
【0045】
この実施態様においては、溶解した酸素が、窒素を充填した際にこの反応器から逃げる窒素に同伴されることによって、排出される。この窒素の排出は、窒素に同伴される水蒸気を凝縮させるために、凝縮器を通して実施するのが好ましい。
【0046】
次に、図2を参照して、本発明の方法の第2の実施態様を説明する。この第2の実施態様は、連続式態様に従うプロセス運転に関する。第1の実施態様におけるように、この方法は、反応器13中でアジピン酸を溶解させる第1工程を含む。アジピン酸は、エンドレススクリューシステム14によって、1.5〜5の範囲、好ましくは2.4近辺の二酸/ジアミンモル比及び40〜75%の範囲、例えば57%の溶解種重量濃度を有する溶液が反応器13中で得られるように、水15及び濃厚ナイロン塩溶液の流れ16と同時に、供給される。別の実施態様においては、濃厚塩溶液の流れとは独立した流れによってジアミンを反応器13に供給する。反応器13中への全ジアミン供給は、ジアミン供給のみによって、濃厚塩溶液の流れによって、又はこれら2つの流れを加えることによって、得ることができる。
【0047】
反応器13中において溶液の均質化を得るために、ポンプ18を含む外部循環ループ17が示されている。このループ中を循環する溶液の一部は、反応器19に供給される。この反応器19もまた外部中和ループ20を備え、この外部中和ループ20はポンプ28並びに2個の静的ミキサー21及び22を含む。各ミキサーの上流には、二酸/ジアミンモル比を0.99〜1.01の範囲の値に調節するためのHMD供給装置23及びモノマー(群)供給装置24が配置される。
【0048】
このモル比は有利には、pH測定装置25により溶液のpHを測定し、このpH測定の下流において追加のジアミン及び/又は二酸を添加することによって、調節制御される。第1の実施態様におけるように、中和によって発生する熱は、最大で運転圧力における溶液の沸点に達するまで、溶液の温度を上昇させる。
【0049】
蒸発した水を凝縮させるために、反応器19に凝縮器26が取り付けられる。
【0050】
例示した実施態様において、反応器19中で製造された溶液の一部は、パイプ16経由で第1の反応器13に送られ、別の一部27は貯蔵タンク(図示せず)に向かう。
【0051】
第1の反応器中に濃厚塩溶液をリサイクルしないことも可能である。この場合、ジアミンは別個の供給装置29によって純粋な形又は水溶液の形で第1の反応器中に導入される。第1の反応器中への2つのジアミン供給16及び29が同時に存在していてもよい。
【実施例】
【0052】
以下、実施例によって本発明の方法並びにその特徴及び利点をよりわかりやすく例示する。
【0053】
例1:バッチ式プロセスに従う62重量%のナイロン塩の水溶液の製造
【0054】
工程1:アジピン酸の溶解
【0055】
AA/HMD=2.4のアジピン酸とヘキサメチレンジアミンとの63℃の温度で且つ56.6%の溶解種重量濃度の水溶液14kgから成るスターターに水(34.4kg、40℃の温度)を添加することによって得られる水溶液を入れた断熱反応器1中に、粉末状アジピン酸(35.0kg)及びヘキサメチレンジアミン(45℃の温度において90重量%の水溶液12.9kg)を添加することによって、アジピン酸及びヘキサメチレンジアミンの水溶液を調製する。
【0056】
このスターター溶液は、以前の製造プロセスにおいて反応器1中で得られた溶液の一部である。アジピン酸及びHMDは、混合物中に過剰の酸(1.1超のAA/HMDモル比)が常に存在するように注意しながら、同時に添加する。機械的撹拌によって溶液の均質性を確保する。第1工程の終わりにおいて、溶解種(56.6重量%)は、アジピン酸75.1重量%及びヘキサメチレンジアミン24.9重量%から成るものだった。溶液の最終温度は63℃だった。
【0057】
工程2:中和
【0058】
工程1で得られた溶液82.3kg(即ち約85.5%)を図1の断熱され且つ凝縮器8を備えた反応器5中に移す。得られた溶液の一部は、次の運転のための反応器1中のスターター溶液として保存する。
【0059】
90重量%HMD含有ヘキサメチレンジアミン水溶液17.5kgを45℃の温度において反応器5中に添加して、二酸/ジアミン比が化学量論付近(AA/HMDモル比=1.017)であるナイロン塩の水溶液を得る。
【0060】
中和反応によって生じるエネルギー又は熱は、媒体の温度を沸点(即ち、記載した実施例では108℃)に上昇させる。生成した蒸気は凝縮器8中で凝縮し、反応器5において全還流を形成する。蒸気の凝縮によって取り除かれるエネルギーは、過剰中和エネルギーに相当する。従って、この方法は、中和反応によって生じる熱を取り除くための手段を用いることを必要とせずに、系を108℃の温度(大気圧における沸騰開始温度)に保つことを可能にする。
【0061】
工程3:仕上げ
【0062】
次いで、前記溶液を第3の反応器中に移した後に、40℃の温度の水0.9kg及び45℃の温度の90重量%HMD水溶液0.43kgを添加することによって、該溶液の濃度及びpHを調節する。この工程の終了時の溶液は、ナイロン塩を62.0重量%含有し、アジピン酸/HMDモル比が1.003であり且つpHが7.21である水溶液である。このpHは、溶液を100g/リットルの溶解種濃度が得られるように水で希釈したサンプルに対して、20℃において測定した。
【0063】
次いで得られた溶液を図1に示したタンク12中に貯蔵する。
【0064】
例2:バッチ式プロセスに従う68%のナイロン塩の製造
【0065】
工程1:アジピン酸の溶解
【0066】
AA/HMDモル比=2.4のアジピン酸とヘキサメチレンジアミンとの68℃の温度で且つ63.5%の溶解種重量濃度の水溶液14kgから成るスターターに40℃の温度の水27.7kgを添加することによって得られる水溶液を入れた反応器1中に、粉末状アジピン酸38.0kg及び90重量%HMD含有ヘキサメチレンジアミン水溶液(45℃の温度)14.0kgを添加することによって、アジピン酸及びヘキサメチレンジアミンの水溶液を調製する。
【0067】
このスターター溶液は、以前の製造操作において反応器1中で得られた溶液の一部である。アジピン酸及びHMDは、混合物中に過剰の酸(1.1超のAA/HMDモル比)が常に存在するように注意しながら、同時に添加する。機械的撹拌によって溶液の均質性を確保する。第1工程の終わりにおいて、溶解種(63.5重量%)は、アジピン酸75.1重量%及びヘキサメチレンジアミン24.9重量%から成るものだった。溶液の最終温度は68℃だった。
【0068】
工程2:中和
【0069】
工程1で得られた溶液79.7kg(即ち85%)を図1の凝縮器8を備えた反応器5中に移す。得られた溶液の一部は、次の運転のための反応器1中のスターター溶液として保存する。
【0070】
90重量%HMD含有ヘキサメチレンジアミン水溶液19.0kgを45℃の温度において反応器5中に添加して、二酸/ジアミン比が化学量論付近(AA/HMDモル比=1.017)であるナイロン塩の水溶液を得る。
【0071】
中和反応によって生じるエネルギー又は熱は、媒体の温度を沸点(即ち、記載した実施例では110℃)まで上昇させる。生成した蒸気は凝縮器8中で凝縮し、反応器5において全還流を形成する。蒸気の凝縮によって取り除かれるエネルギーは、過剰中和エネルギーに相当する。従って、この方法は、系を110℃の温度(大気圧における沸騰開始温度)に保つことを可能にする。
【0072】
工程3:仕上げ
【0073】
次いで、前記溶液を凝縮器11を備えた第3の反応器10中に移した後に、40℃の温度の水1.0kg及び45℃の温度の90重量%HMD水溶液0.47kgを添加することによって、該溶液の濃度及びpHを調節する。この工程の終了時の溶液は、ナイロン塩を68.0重量%含有し、AA/HMDモル比が1.003である水溶液である。
【符号の説明】
【0074】
1、5、10、13、19・・・反応器
2・・・アジピン酸供給
3、6、9、23、29・・・ヘキサメチレンジアミン供給
4、15・・・水供給
7・・・ポンプ
8、11、26・・・凝縮器
12・・・貯蔵タンク
14・・・アジピン酸供給用スクリューシステム
16・・・濃厚ナイロン塩溶液流
17・・・外部循環ループ
18、28・・・ポンプ
20・・・外部中和ループ
21、22・・・静的ミキサー
24・・・モノマー供給
25・・・pH測定装置
27・・・製造された溶液
【図I】

【図II】


【特許請求の範囲】
【請求項1】
二酸とジアミンとを混合することによって得られるジアミンと二酸との塩の、50〜80重量%の塩濃度の水溶液の製造方法であって、
第1の反応器中に、1.5〜5の範囲のモル比のジアミン及び二酸の水溶液少なくとも5容量%、又は該反応器中に供給されるべき水の総量の少なくとも10%を占める量の水のいずれかを入れておき、この反応器中に二酸を含む流れ、ジアミンを含む流れ及び随意としての水の流れを温度T1において供給し、その際に、二酸を含む供給流の流量及びジアミンを含む供給流の流量を、反応器中の溶液の温度が前記反応器の運転圧力における沸点より常に低くなり且つ二酸/ジアミンのモル比が常に1.1超となるように調節し、酸の供給量が所望の量の塩の水溶液を製造するのに必要な酸の総質量の少なくとも90重量%に相当し、水の供給量が所望の量の塩の水溶液を製造するのに必要な水の総質量の少なくとも75重量%を占めるようにすることによって、この第1の反応器中で二酸/ジアミンのモル比が1.5〜5の範囲であり且つ水中溶解種濃度が40〜75重量%であるジアミン及び二酸の水溶液を製造し;
この第1の反応器中で得られた水溶液を、凝縮器を備えた第2の反応器中に移し;
この第2の反応器中に、0.9〜1.1の範囲の二酸/ジアミンのモル比が得られるようにジアミンを含む流れを供給し、その際に、少なくともジアミンと二酸との間の反応からの熱を放出させることによって溶液を運転圧力における該溶液の沸点以下の温度にし、且つ、随意に所望の濃度及び所望の二酸/ジアミンの比の塩溶液が得られるように追加量の水及び/又は二酸を供給する:
ことから成ることを特徴とする、前記方法。
【請求項2】
第1の反応器中の溶解種の濃度が45〜65重量%の範囲であることを特徴とする、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
第2の反応器中の二酸/ジアミンモル比が1.00〜1.05の範囲であることを特徴とする、請求項1又は2に記載の方法。
【請求項4】
第2の反応器において得られた溶液を、凝縮器を備え且つ好ましくは酸素の不在下に保たれた第3の反応器に移し、これにジアミンを含む流れ及び/又は二酸を含む流れ及び随意に水を含む流れを、二酸/ジアミンの比が0.99〜1.01の範囲に調節され且つ塩の重量濃度が調節されるように添加することを特徴とする、請求項1〜3のいずれかに記載の方法。
【請求項5】
少なくとも第2の反応器及び第3の反応器を酸素フリー雰囲気下に保つことを特徴とする、請求項1〜4のいずれかに記載の方法。
【請求項6】
少なくとも第2の反応器及び第3の反応器が窒素、希ガス、水蒸気又はそれらの混合物から成る酸素フリー雰囲気下にあることを特徴とする、請求項1〜5のいずれかに記載の方法。
【請求項7】
バッチ式態様で運転されることを特徴とする、請求項1〜6のいずれかに記載の方法。
【請求項8】
水性スターター溶液を構成する水溶液が第1工程の終了時に反応器中で製造される所望量の溶液の少なくとも5容量%を占めることを特徴とする、請求項7に記載の方法。
【請求項9】
水性スターター溶液を構成する水溶液が第1工程の終了時に反応器中で製造される所望量の溶液の5〜40重量%の範囲、好ましくは10〜35重量%の範囲を占めることを特徴とする、請求項8に記載の方法。
【請求項10】
第2の反応器中の温度が運転圧力における溶液の沸点以下であり、凝縮器が凝縮水の還流を生じさせることを特徴とする、請求項1〜9のいずれかに記載の方法。
【請求項11】
第3の反応器中の温度が運転圧力における溶液の沸点以下であり、凝縮器が凝縮水の還流を生じさせることを特徴とする、請求項4〜10のいずれかに記載の方法。
【請求項12】
第1の反応器中に供給されるジアミンを含む流れがジアミンの水溶液であることを特徴とする、請求項1〜11のいずれかに記載の方法。
【請求項13】
前記水溶液中のジアミンの濃度が少なくとも50重量%、好ましくは少なくとも85重量%であることを特徴とする、請求項12に記載の方法。
【請求項14】
連続式態様で運転されることを特徴とする、請求項1〜6のいずれかに記載の方法。
【請求項15】
第1の反応器中に供給されるジアミンを含む流れの少なくとも一部がこの方法によって製造された濃厚塩溶液から成ることを特徴とする、請求項14に記載の方法。
【請求項16】
第2の反応器が静的ミキサーを少なくとも1個含む外部循環ループを含むことを特徴とする、請求項14又は15に記載の方法。
【請求項17】
第2の反応器中へのジアミンを含む流れの供給が前記静的ミキサーの上流に配置されることを特徴とする、請求項16に記載の方法。
【請求項18】
第1の反応器から得られた塩溶液の流れの供給がジアミン供給の上流に配置されることを特徴とする、請求項17に記載の方法。
【請求項19】
溶液のpHを測定するための装置を前記静的ミキサーの下流に存在させること、並びにpHを測定する地点の下流にこの測定に応じてジアミン及び/又は二酸の流れを供給することによって化学量論を調節することを特徴とする、請求項16〜18のいずれかに記載の方法。
【請求項20】
ジアミンがヘキサメチレンジアミンであり且つ二酸がアジピン酸であることを特徴とする、請求項1〜19のいずれかに記載の方法。

【公表番号】特表2010−529066(P2010−529066A)
【公表日】平成22年8月26日(2010.8.26)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−510728(P2010−510728)
【出願日】平成20年5月22日(2008.5.22)
【国際出願番号】PCT/EP2008/056328
【国際公開番号】WO2008/148647
【国際公開日】平成20年12月11日(2008.12.11)
【出願人】(508076598)ロディア オペレーションズ (98)
【氏名又は名称原語表記】RHODIA OPERATIONS
【住所又は居所原語表記】40 rue de la Haie Coq F−93306 Aubervilliers FRANCE
【Fターム(参考)】