説明

二重反転プロペラ式舶用推進装置

【課題】二重反転プロペラ式舶用推進装置において、船体変位による外軸の軸心への影響を無くす。
【解決手段】外軸11のスラスト荷重は、前プロペラ13のボス13aの内部に設けられた二重反転スラスト軸受40で受けて内軸12に伝達される。外軸11と内軸12を合わせたスラスト荷重は、動力伝達装置20Aの船首側に設けられた内軸用スラスト軸受41で受けて船体2に伝達される。外軸用出力軸24の回転力は、たわみ軸継手19(ギヤカップリング19A)を介して外軸11に伝達される。これにより、外軸11のスラスト荷重が船体2に対して直接的に伝達されず内軸12を介してのみ船体2に伝達され、ギヤカップリング19によって軸方向変位及び角度変位が許容されることで、船体変位による外軸11の軸心への影響を無くすことができる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、二重反転プロペラ式舶用推進装置に関する。
【背景技術】
【0002】
二重反転プロペラは、前プロペラから流出する回転エネルギーを、前プロペラとは逆方向に回転する後プロペラで回収し推進力に変えることで、高いプロペラ効率が得られるようにしたプロペラシステムである。以下、二重反転プロペラを搭載した舶用推進装置を「二重反転プロペラ式舶用推進装置」と呼ぶ。二重反転プロペラ式舶用推進装置は、例えば、下記特許文献1,2に開示されている。
【0003】
二重反転プロペラ式舶用推進装置の従来例のひとつとして、特許文献1において開示された「船舶の推進装置」を図5に示す。図5において、船舶の推進装置100は、内軸102と外軸101とを同芯状に配設し、内軸102に後部プロペラ104を取り付け、外軸101に前部プロペラ103を取り付け、内軸102を第一の駆動装置としてのディーゼルエンジンやガスタービン等の主機関105によって回転駆動し、外軸101を第二の駆動装置としてのディーゼルエンジンやガスタービン等の主機関106によって回転駆動するように構成したものである。なお、符号107は主機関106の駆動軸、符号108は歯車伝達装置である。
【0004】
【特許文献1】特開2005−67436号公報
【特許文献2】特開平7−33084号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
二重反転プロペラにおいて、内軸は外軸に比べて細く長いため、船体変位による軸心への影響を十分に吸収することが可能であるが、内軸に比べて太い外軸は、それ自身では船体変位による軸心への影響を十分に吸収することは困難である。上述した従来の二重反転プロペラ式舶用推進装置では、船体変位による外軸の軸心への影響が考慮されていない。したがって、このような問題を解決することが望まれる。
【0006】
本発明は上記の問題に鑑みてなされたものであり、船体変位による外軸の軸心への影響を無くすことができる二重反転プロペラ式舶用推進装置を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記の課題を解決するため、本発明の二重反転プロペラ式舶用推進装置は、以下の技術的手段を採用する。
(1)本発明は、後端部に前プロペラが取り付けられ船体に回転可能に支持された中空状の外軸と、後端部に後プロペラが取り付けられ前記外軸の内部に回転可能に支持された内軸と、前記外軸と前記内軸の回転駆動源である駆動装置と、該駆動装置の回転駆動力を前記外軸と前記内軸に伝達する動力伝達装置とを備え、前記前プロペラと前記後プロペラとを互いに逆方向に回転させる二重反転プロペラ式舶用推進装置において、前記外軸からのスラスト荷重を受けて前記内軸に伝達する二重反転スラスト軸受と、前記内軸からのスラスト荷重を受けて船体に伝達する内軸用スラスト軸受と、を備え、前記動力伝達装置は、前記外軸と同軸上に配置され前記外軸に回転駆動力を伝達する外軸用出力軸を有し、該外軸用出力軸と前記外軸は、中空状のたわみ軸継手を介して連結されている、ことを特徴とする。
【0008】
本発明の構成によれば、二重反転スラスト軸受によって外軸のスラスト荷重を内軸で受け、内軸用スラスト軸受によって外軸と内軸を合わせたスラスト荷重を船体で受け、外軸用出力軸の回転力は、たわみ軸継手を介して外軸に伝達される。これにより、外軸のスラスト荷重が船体に対して直接的に伝達されず内軸を介してのみ船体に伝達されて、たわみ軸継手によって軸心の狂いが許容されることで、船体変位による外軸の軸心への影響を無くすことができる。なお、駆動装置は、一基でも複数基でもよい。
【0009】
(2)上記(1)の二重反転プロペラ式舶用推進装置において、好ましくは、前記たわみ軸継手はギヤカップリングである。
【0010】
ギヤカップリングは、許容伝達トルクが高く、角度変位のみならず軸方向変位をも許容するので、外軸用出力軸と外軸とを連結する軸継手として極めて好適である。
【0011】
(3)上記(2)の二重反転プロペラ式舶用推進装置において、好ましくは、前記動力伝達装置の船尾側には前記ギヤカップリングを覆うフードが設けられ、前記ギヤカップリングには潤滑油が供給され、前記フードに、前記ギヤカップリングが挿入された中央開口を有し前記ギヤカップリング側から機関室側への潤滑油の漏れを阻止又は抑制する円盤状の油切り板が少なくとも一つ設けられている。
【0012】
上記の構成によれば、ギヤカップリングを効果的に潤滑でき、しかも機関室側への潤滑油の漏れを阻止又は抑制できる。
【0013】
(4)上記(3)の二重反転プロペラ式舶用推進装置において、好ましくは、前記ギヤカップリングの外周には、径方向外側に突出し周方向に全周に渡って延びる環状凸部が軸方向に離れて少なくとも二つ設けられており、前記油切り板は、前記中央開口の内周端が二つの前記環状凸部の間に挿入されるように配置されている。
【0014】
上記構成によれば、油切り板と環状凸部によりラビリンス構造が形成されるので、機関室側への潤滑油の漏れをより効果的に阻止できる。
【0015】
(5)上記(1)の二重反転プロペラ式舶用推進装置において、好ましくは、互いに別部品で構成された前記前プロペラのボスと前記外軸とが軸方向に連結固定され、前記前プロペラのボスと前記外軸の間に環状凹部が形成され、前記二重反転スラスト軸受は、前記環状凹部に設けられている。
【0016】
上記の構成によれば、前プロペラのボスの内部に二重反転スラスト軸受が配置されるので、製造時において、あらかじめ、前プロペラが取り付けられた外軸と後プロペラが取り付けられた内軸とを、二重反転スラスト軸受を組み込んで同芯状に組み立てて、二重反転プロペラユニットを構成することができる。このため、二重反転スラスト軸受の組み込み工程を、二重反転プロペラユニットを船体に搭載する前に行うことで、船体の機関室における組み立て工程を少なくすることができる。
【0017】
(6)上記(1)の二重反転プロペラ式舶用推進装置において、好ましくは、前記駆動装置は、前記外軸の回転駆動源である第1駆動装置と、前記内軸の回転駆動源である第2駆動装置とからなり、前記動力伝達装置は、前記第1駆動装置と前記第2駆動装置の回転駆動力をそれぞれ独立に前記外軸と前記内軸に伝達する。
【0018】
上記の構成によれば、外軸と内軸とが、それぞれ独立の駆動源によって駆動されるので、万が一どちらかの駆動源が故障しても、他方の駆動源によって前プロペラ又は後プロペラを駆動することで、船舶の航行を継続することができる。
【発明の効果】
【0019】
本発明の二重反転プロペラ式舶用推進装置によれば、船体変位による外軸の軸心への影響を無くすことができるという優れた効果が得られる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0020】
以下、本発明の好ましい実施形態を添付図面に基づいて詳細に説明する。なお、各図において共通する部分には同一の符号を付し、重複した説明を省略する。
【0021】
図1は、本発明の第1実施形態にかかる二重反転プロペラ式船舶用推進装置10Aの模式平面図である。図1において、二重反転プロペラ式舶用推進装置10A(以下、単に「推進装置」と呼ぶことがある)は、前プロペラ13が取り付けられた外軸11と、後プロペラ15が取り付けられた内軸12と、外軸11と内軸12の回転駆動源である駆動装置30と、駆動装置30の回転駆動力を外軸11と内軸12に伝達する動力伝達装置20Aとを備える。
【0022】
外軸11は、中空状の部品であり、船体2に設けられた船尾管3を貫通して設置されている。船尾管3と外軸11との間には、前側ブッシュ5と後側ブッシュ6が設けられており、これにより、外軸11が船体2に回転可能に支持されている。船尾管3内の潤滑油の機関室側への漏れを防ぐために、船尾管3の船首側の端面には、船首側船尾管シール装置7が設けられている。船尾管3内の潤滑油の海水側への漏れを防ぐために、船尾管3の船尾側の端面には、船尾側船尾管シール装置8が設けられている。
【0023】
外軸11の後端部に前プロペラ13が取り付けられている。前プロペラ13は中心部にボス13aを有し、このボス13aの船首側端面と外軸11の船尾側端面とが、ボルトなどの連結手段によって連結固定されている。外軸11の船首側端部には外軸用スリーブ軸継手16が連結固定されている。
【0024】
外軸用スリーブ軸継手16の船首側端部には中空状の外軸中間軸17が連結固定されている。外軸中間軸17は、内軸12の付帯部品(二重反転前部シール装置37など)のメンテナンスができるように、半径方向に複数(2つ又はそれ以上)に分割可能な構成を備える。
【0025】
内軸12は、後端部に後プロペラ15が取り付けられ外軸11の内部に回転可能に支持されている。後プロペラ15は、中心部にボス15aを有しており、15aボスにおいて内軸12の後端部に嵌合し、プロペラナット39によって内軸12に固定されている。
【0026】
推進装置10Aにおいて、内軸12を外軸11で回転可能に支持するため、前側ラジアル軸受35と、後側ラジアル軸受36とが設置されている。図1の構成例において、前側ラジアル軸受35は、外軸用スリーブ軸継手16と内軸12との間に配置されており、後側ラジアル軸受36は、前プロペラ13ボスと内軸12との間に配置されている。なお、前側ラジアル軸受35と後側ラジアル軸受36の配置位置は、上述した位置に限られず、例えば、外軸11の先端部及び後端部と内軸12との間であってもよい。
【0027】
推進装置10Aにおいて、外軸11のスラスト荷重を受けて内軸12に伝達する二重反転スラスト軸受40が配置されている。図1の構成例において、二重反転スラスト軸受40は、前プロペラ13のボスの内部に設けられている。より具体的には、前プロペラ13のボスと外軸11の間に環状凹部14が形成されており、この環状凹部14に二重反転スラスト軸受40が設けられている。二重反転スラスト軸受40は、例えばティルティングパッド式スラスト軸受であるのがよい。
【0028】
前側ラジアル軸受35、後側ラジアル軸受36及び二重反転スラスト軸受40を潤滑するため、外軸11及び前プロペラ13のボス13aと、内軸12と間には、二重反転用潤滑油が図示しない二重反転用潤滑油供給装置から供給される。二重反転用潤滑油が漏れ出るのを防止するため、外軸用スリーブ軸継手16の船首側端面に二重反転前部シール装置37が配置され、前プロペラ13のボス13aの船尾側端面に二重反転後部シール装置38が配置されている。
【0029】
二重反転用潤滑油は、後側ラジアル軸受36を潤滑した後、二重反転後部シール装置38のシールライナーと内軸12との隙間を通り、後プロペラ15のボス15aの内部に設けた通油穴50を通り、ボス15aの後端部に取り付けられたプロペラキャップ51の内側を通って内軸12の中空部へ入り、内軸用出力主歯車29の軸の船首側端部に設けられたシール装置47を通り、機関室に設置された図示しない潤滑油タンクに戻されるようになっている。なお、内軸用出力主歯車29の軸の先端の開口は止めフランジ52によって閉じられている。
【0030】
図1の構成例において採用している駆動装置30は、外軸11の回転駆動源である第1駆動装置31と、内軸12の回転駆動源である第2駆動装置32とからなる。第1駆動装置31と第2駆動装置32は、ガスタービンエンジンやディーゼルエンジンなどの主機関であっても、電動機であってもよい。電動モータの場合、例えば、機関室に一つ又は複数のガスタービン発電機やディーゼル発電機などを搭載し、これを電源とすることができる。
【0031】
図1の構成例において採用している動力伝達装置20Aは、第1駆動装置31と第2駆動装置32の回転駆動力をそれぞれ独立に外軸11と内軸12に伝達するように構成された二重反転歯車伝達装置である。より具体的には、動力伝達装置20Aは、ハウジング21を有しており、ハウジング21の内部に外軸用伝達機構18Aと内軸用伝達機構18Bとを備える。図1の構成において、外軸用伝達機構18Aと内軸用伝達機構18Bはともに歯車伝達機構で構成されている。
【0032】
外軸用伝達機構18Aは、第1駆動装置31の出力軸31aと同軸上に配置され第1駆動装置31からの駆動力が入力される外軸用入力歯車22と、外軸11と同軸上に配置され外軸11に回転駆動力を伝達する外軸用出力軸としての中空状の外軸用出力主歯車24と、外軸用入力歯車22と外軸用出力主歯車24との間に配置された外軸用中間小歯車23とを有する。第1駆動装置31の出力軸31aと外軸用入力歯車22は、据付時の誤差及び船体変位による軸心変化を吸収できるように、ギヤカップリング33aを介して連結されている。図1において外軸用中間小歯車23は一つであるが、複数あってもよい。
【0033】
内軸用伝達機構18Bは、第2駆動装置32の出力軸32aと同軸上に配置され第2駆動装置32からの駆動力が入力される内軸用入力軸27と、外軸用出力軸24の中空部を貫通して挿入されており内軸12と同軸上に配置され内軸12に回転駆動力を伝達する内軸用出力主歯車29と、内軸用入力歯車27と内軸用出力主歯車29との間に配置された内軸用中間小歯車28とを有する。第2駆動装置32の出力軸32aと内軸用入力歯車27は、据付時の誤差及び船体変位による軸心変化を吸収できるように、ギヤカップリング33bを介して連結されている。図1において内軸用中間小歯車28は一つであるが、複数あってもよい。内軸用出力主歯車29と内軸12は、内軸用スリーブ軸継手26によって連結固定されている。
【0034】
推進装置10Aにおいて、内軸12からのスラスト荷重(内軸12のみのスラスト荷重と外軸11のみのスラスト荷重を合成した荷重)を受けて船体2に伝達する内軸用スラスト軸受41が配置されている。図1の構成例において、内軸用スラスト軸受41は、動力伝達装置20のハウジング21の船首側部分に設けられている。このため、内軸12からのスラスト荷重はハウジング21を介して船体2で支持されている。
【0035】
なお、内軸用スラスト軸受41の配置位置は、内軸12からのスラスト荷重を船体2に伝達できれば上述した位置に限定されない。したがって、外軸用出力軸24よりも船首側であれば、ハウジング21内でもよいし、ハウジング21の外部であってもよい。
【0036】
図1の構成例において、外軸用伝達機構18Aと内軸用伝達機構18Bはともに歯車伝達機構であるが、一方又は両方がその他の伝達機構(ベルト伝達機構、チェーン伝達機構など)であってもよい。
【0037】
また、図1の構成例において、外軸用伝達機構18Aと内軸用伝達機構18Bは、単一のハウジング21内に収容されているが、別々のハウジング21に収容されてもよい。
【0038】
外軸用出力主歯車24と外軸11は、中空状のたわみ軸継手19を介して連結されている。図1の構成例において、たわみ軸継手19はギヤカップリング19Aであり、外軸用出力主歯車24がギヤカップリング19Aの船首側と連結固定されており、外軸中間軸17がギヤカップリング19Aの船尾側と連結固定されている。したがって、外軸用出力主歯車24の回転駆動力は、ギヤカップリング19A、外軸中間軸17及び外軸用スリーブ軸継手16を経由して外軸11に伝達される。なお、たわみ軸継手19としては、フランジ形たわみ軸継手やローラチェーン軸継手などであってもよいが、許容伝達トルクが高く角度変位のみならず軸方向変位をも許容できるギヤカップリング19Aが好適である。
【0039】
外軸11と船体2との間の電位差による軸受のスパークエロージョンを防止するために、外軸中間軸17に外軸用短絡装置49が設けられている。
内軸12と船体2との間の電位差による軸受のスパークエロージョンを防止するために、内軸用出力主歯車29の軸をハウジング21の船首端から突出させ、この部分に内軸用短絡装置48が設けられている。
【0040】
図2及び図3は、図1におけるギヤカップリング19A周辺の拡大図であり、図2は模式平面図、図3は模式側面図である。この構成例において採用しているギヤカップリング19Aは、船首側に設けられた第1内筒19aと、船尾側に設けられた第2内筒19bと、第1内筒19aと第2内筒19bを囲む外筒19cとを備えており、外軸用出力主歯車24の回転駆動力を、軸心の軸方向変位、角度変位及び平行変位を吸収して、外軸11側に伝達する。
【0041】
図2の構成例では、2つの内筒19a,19bと一つの外筒19cで構成されるギヤカップリング19Aを採用しているが、一つの内筒と一つの外筒で構成されるギヤカップリングを採用してもよい。この形態のギヤカップリングによっても、軸心の軸方向変位及び角度変位を吸収することができる。
【0042】
上述した構成により、第1駆動装置31を回転駆動すると、その駆動力が外軸用伝達機構18A、ギヤカップリング19A等を経由して外軸11に伝達され、外軸11に取り付けられた前プロペラ13が回転する。また、第2駆動装置32を回転駆動すると、その駆動力が内軸用伝達機構18B及び内軸用スリーブ軸継手26を経由して内軸12に伝達され、内軸12に取り付けられた後プロペラ15が回転する。
【0043】
このとき、外軸11と内軸12を互いに逆方向に回転させることで、前プロペラ13と後プロペラ15を互いに逆方向に回転させる。前プロペラ13と後プロペラ15を互いに逆方向に回転させるための第1駆動装置31と第2駆動装置32の駆同軸の回転方向は、動力伝達装置20の構成に依るが、図1の構成例の場合、第1駆動装置31と第2駆動装置32の出力軸の回転方向を互いに逆方向とすれば、前プロペラ13と後プロペラ15が互いに逆方向に回転する。
【0044】
図3に示すように、外軸用伝達機構18A、内軸用伝達機構18B及びギヤカップリング19Aを潤滑するため、ハウジング21内には潤滑油45が供給される。
【0045】
図2及び図3において、ハウジング21の船尾側には、ギヤカップリング19Aを覆うフード21aが設けられている。ハウジング21とフード21aとは連通しており、潤滑油はハウジング21側からフード21a内のギヤカップリング19Aに供給される。フード21aは、ハウジング21と一体成形されたものであっても、ハウジング21とは別部品として構成されたものであってもよい。また、潤滑油の機関室側への漏れを阻止するため、ギヤカップリング19Aの第1内筒19bの外周に近接して、円形中央開口を有する油切り板42がフード21aに設けられている。
【0046】
第2内筒19bの外周には、径方向外側に突出し周方向に全周に渡って延びる環状凸部43が、軸方向に離れて二つ設けられている。油切り板42は、円形中央開口の内周端が2つの環状凸部43の間に挿入されるように配置されている。この構成により、ギヤカップリング19A側から機関室側に潤滑油45が漏れ出るのを防止するようになっている。なお、環状凸部43を軸方向に離して3つ以上設けるとともに、2枚以上の油切り板42を設け、各油切り板42の円形中央開口の内周縁が環状凸部43の間にそれぞれ挿入されるように構成することで、油漏れ防止機能をさらに高めてもよい。
【0047】
図3において、ギヤカップリング19Aを潤滑する際、潤滑油45は外筒19cと第1内筒19aの間(図3中の符号Aの位置)から浸入し、ギヤカップリング19Aと内軸12との間を通って外軸中間軸17の内部に入って溜まる。外軸中間軸17の内部に溜まった潤滑油45は、外軸中間軸17とともに回転し、その際の遠心力によって外軸中間軸17の内面に張り付くが、外軸中間軸17の貯留容量を超える分の潤滑油45は外軸中間軸17の船首側に設けられた円形開口からオーバーフローするので、図中の符号Hで示す位置を液面とする内周面を有する中空円筒のような状態となる。外軸中間軸17からオーバーフローした潤滑油45は、ギヤカップリング19A側へ戻り、外筒19cと第1内筒19a及び第2内筒19bの間を通って排出口46から排出され、図示しない潤滑油タンクへ戻される。
【0048】
上述した潤滑油45の液面位置Hは、二重反転前部シール装置37を潤滑できる位置であり、このような位置まで潤滑油45が溜まるように外軸中間軸17の前側に設けられた円形開口の開口径の大きさが設定されている。このような構成により、二重反転前部シール装置37の前側(船首側)をウエット状態とすることで、二重反転前部シール装置37の発熱を軽減し、寿命を延ばすことができる。
【0049】
上述した本発明の第1実施形態によれば、以下の効果が得られる。
(1)二重反転スラスト軸受40によって外軸11のスラスト荷重を内軸12で受け、内軸用スラスト軸受41によって外軸11と内軸12を合わせたスラスト荷重を船体2で受け、外軸用出力軸24の回転力は、たわみ軸継手19であるギヤカップリング19Aを介して外軸11に伝達される。これにより、外軸11のスラスト荷重が船体2に対して直接的に伝達されず内軸12を介してのみ船体2に伝達され、たわみ軸継手19によって軸心の狂いが許容されることで、船体変位による外軸11の軸心への影響を無くすことができる。特に本実施形態では、たわみ軸継手19として、角度変位のみならず軸方向変位をも許容できるギヤカップリング19Aを採用しているため、船体変位による外軸11の軸心への影響を効果的に無くすことができる。
【0050】
(2)前プロペラ13のボスの内部に二重反転スラスト軸受40が配置されるので、製造時において、あらかじめ、前プロペラ13が取り付けられた外軸11と後プロペラ15が取り付けられた内軸12とを、二重反転スラスト軸受40を組み込んで同芯状に組み立てて、二重反転プロペラユニットを構成することができる。このため、二重反転スラスト軸受40の組み込み工程を、二重反転プロペラユニットを船体2に搭載する前に行うことで、機関室における組み立て工程を少なくすることができる。
【0051】
(3)ギヤカップリング19Aを囲むフード21aを設け、ギヤカップリング19Aに潤滑油45を供給するので、ギヤカップリング19Aを効果的に潤滑できる。また、油切り板42と環状凸部43によりラビリンス構造が形成されるので、ギヤカップリング19A側から機関室側への潤滑油45の漏れをより効果的に阻止できる。
【0052】
(4)外軸11と内軸12とが、それぞれ独立の駆動源(第1駆動装置31、第2駆動装置32)によって駆動されるので、万が一どちらかの駆動源(例えば第1駆動装置31)が故障しても、他方の駆動源(例えば第2駆動装置32)によって前プロペラ13又は後プロペラ15を駆動することで、船舶の航行を継続することができる。
【0053】
図4は、本発明の第2実施形態にかかる二重反転プロペラ式船舶用推進装置10Bの模式平面図である。本実施形態は、駆動装置30及び動力伝達装置20Bに関して、第1実施形態と異なる。本実施形態を示す図2は、第1実施形態を示す図1に対して簡略化しているが、駆動装置30及び動力伝達装置20B以外の部分については、第1実施形態と同じである。
【0054】
図4に示すように、本実施形態にかかる推進装置10Bにおいて、駆動装置10は一基のみ設置され、動力伝達装置20Bは、一軸の回転入力に対して互いに反対方向に回転する二軸の回転を出力する二重反転伝達装置である。すなわち、動力伝達装置20Bは、駆動装置の回転駆動力を、互いに反対方向の回転方向の駆動力に変換して外軸11と内軸12にそれぞれ伝達する。動力伝達装置20Bの外軸用出力軸は、第1実施形態と同様にギヤカップリング19Aを介して外軸11に伝達される。
【0055】
上述した本発明の第2実施形態によれば、第1実施形態における上記(1)〜(3)の効果が得られる。
【0056】
なお、上記において、本発明の実施形態について説明を行ったが、上記に開示された本発明の実施の形態は、あくまで例示であって、本発明の範囲はこれら発明の実施の形態に限定されない。本発明の範囲は、特許請求の範囲の記載によって示され、さらに特許請求の範囲の記載と均等の意味および範囲内でのすべての変更を含むものである。
【図面の簡単な説明】
【0057】
【図1】本発明の第1実施形態にかかる二重反転プロペラ式船舶用推進装置の模式平面図である。
【図2】図1におけるギヤカップリング周辺の拡大平面図である。
【図3】図1におけるギヤカップリング周辺の拡大側面図である。
【図4】本発明の第2実施形態にかかる二重反転プロペラ式船舶用推進装置の模式平面図である。
【図5】従来技術を示す図である。
【符号の説明】
【0058】
2 船体
3 船尾管
5 前側ブッシュ
6 後側ブッシュ
7 船首側船尾管シール装置
8 船尾側船尾管シール装置
10 二重反転プロペラ式舶用推進装置
11 外軸
12 内軸
13 前プロペラ
13a ボス
14 環状凹部
15 後プロペラ
15a ボス
16 外軸用スリーブ軸継手
17 外軸中間軸
18A 外軸用伝達機構
18B 内軸用伝達機構
19 たわみ軸継手
19A ギヤカップリング
20A,20B 動力伝達装置
21 ハウジング
21a フード
22 外軸用入力歯車
23 外軸用中間小歯車
24 外軸用出力主歯車
26 内軸用スリーブ軸継手
27 内軸用入力歯車
28 内軸用中間小歯車
29 内軸用出力主歯車
30 駆動装置
31 第1駆動装置
32 第2駆動装置
33a,33b ギヤカップリング
35 前側ラジアル軸受
36 後側ラジアル軸受
37 二重反転前部シール装置
38 二重反転後部シール装置
39 プロペラナット
40 二重反転スラスト軸受
41 内軸用スラスト軸受
42 油切り板
43 環状凸部
45 潤滑油
46 排出口
47 二重反転軸受潤滑出口用シール装置
48 内軸用短絡装置
49 外軸用短絡装置
50 通油穴
51 プロペラキャップ
52 止めフランジ

【特許請求の範囲】
【請求項1】
後端部に前プロペラが取り付けられ船体に回転可能に支持された中空状の外軸と、後端部に後プロペラが取り付けられ前記外軸の内部に回転可能に支持された内軸と、前記外軸と前記内軸の回転駆動源である駆動装置と、該駆動装置の回転駆動力を前記外軸と前記内軸に伝達する動力伝達装置とを備え、前記前プロペラと前記後プロペラとを互いに逆方向に回転させる二重反転プロペラ式舶用推進装置において、
前記外軸からのスラスト荷重を受けて前記内軸に伝達する二重反転スラスト軸受と、
前記内軸からのスラスト荷重を受けて船体に伝達する内軸用スラスト軸受と、を備え、
前記動力伝達装置は、前記外軸と同軸上に配置され前記外軸に回転駆動力を伝達する外軸用出力軸を有し、
該外軸用出力軸と前記外軸は、中空状のたわみ軸継手を介して連結されている、ことを特徴とする二重反転プロペラ式舶用推進装置。
【請求項2】
前記たわみ軸継手はギヤカップリングである請求項1記載の二重反転プロペラ式舶用推進装置。
【請求項3】
前記動力伝達装置の船尾側には前記ギヤカップリングを覆うフードが設けられ、前記ギヤカップリングには潤滑油が供給され、
前記フードに、前記ギヤカップリングが挿入された円形中央開口を有し前記ギヤカップリング側から機関室側への潤滑油の漏れを阻止又は抑制する油切り板が少なくとも一つ設けられている、請求項2記載の二重反転プロペラ式舶用推進装置。
【請求項4】
前記ギヤカップリングの外周には、径方向外側に突出し周方向に全周に渡って延びる環状凸部が軸方向に離れて少なくとも二つ設けられており、
前記油切り板は、前記中央開口の内周端が二つの前記環状凸部の間に挿入されるように配置されている、請求項3記載の二重反転プロペラ式舶用推進装置。
【請求項5】
互いに別部品で構成された前記前プロペラのボスと前記外軸とが軸方向に連結固定され、前記前プロペラのボスと前記外軸の間に環状凹部が形成され、
前記二重反転スラスト軸受は、前記環状凹部に設けられている請求項1記載の二重反転プロペラ式舶用推進装置。
【請求項6】
前記駆動装置は、前記外軸の回転駆動源である第1駆動装置と、前記内軸の回転駆動源である第2駆動装置とからなり、
前記動力伝達装置は、前記第1駆動装置と前記第2駆動装置の回転駆動力をそれぞれ独立に前記外軸と前記内軸に伝達する、請求項1に記載の二重反転プロペラ式舶用推進装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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