説明

二重反転プロペラ式船舶推進装置

【課題】環境対策、省エネルギ対策に寄与し、操船性、安全性、信頼性を向上させた、中小型船舶に適した二重反転プロペラ式船舶推進装置を提供する。
【解決手段】一基のディーゼル機関DEと、弾性継手21を介して接続された動力伝達装置Tと、前プロペラ16を有する中空の外軸14と、後プロペラ17を有する内軸15とから成っている。動力伝達装置は、ディーゼル機関からの駆動力を、外軸と内軸が互いに反対方向に回転するように伝達すると共に、減速して内、外軸に伝達するための減速歯車装置と、前進クラッチC1および後進クラッチC2と、外軸に伝達される動力を遮断するための前プロペラ入切用クラッチC3とから構成され、制御装置により、前進および後進クラッチを入切することにより前プロペラと後プロペラの回転方向を逆転させると共に、前プロペラ入切用クラッチC3を入切することにより、後プロペラのみで運航することもできる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、二重反転プロペラ式船舶推進装置、特に、中小型船舶に適した、後端部に前プロペラを有する中空の外軸が船体に回転可能に支持され、この外軸の内部に、後端部に後プロペラを有する内軸と回転可能に支持されている、いわゆるインライン型の二重反転プロペラ式船舶推進装置に関するものである。
【背景技術】
【0002】
近年、船舶の分野においても、環境問題や省エネルギ対策について様々な取組みが行なわれ、その一つが推進効率の高い二重反転プロペラ式船舶推進装置の開発である。すなわち、二重反転プロペラの一方をディーゼル機関から直接駆動し、他方を遊星歯車式反転装置を介して駆動するように配設し、超大型タンカーに搭載した例が非特許文献1に開示され、通常のプロペラ式船舶推進装置を搭載した船舶に比して、約15%の省エネルギ効果が確認されている。また、駆動装置を二基装備することが要求される船舶推進装置において、内軸と外軸とを同軸芯上に配設し、内軸に後プロペラ、外軸に前プロペラを取り付け、内軸を第一駆動装置で駆動し、外軸を第二駆動装置で駆動するようにした船舶推進装置が特許文献1に開示されている。
【0003】
ところで、このような二重反転プロペラは、2個の独立したプロペラを同軸芯上に前後して配設し、前プロペラから流出する回転エネルギを前プロペラとは逆方向に回転する後プロペラで回収し、推進力に変えることで高い推進効率が得られるようにしたものである。そして、二重反転プロペラでは前プロペラと後プロペラとがそれぞれ独立して駆動されるため、万一、一方の推進軸系が不可動に陥るような不都合が発生しても、他方の推進軸系で運航を続けることができるという利益がある。
【0004】
中小型船舶にあっては、運航の大半を一定速度、一定負荷で進む外航大型船と異なり、沿岸や湾内を進むため、船速の変化、前進、後進の切り換えが必要であり、一基の機関では機関燃費効率の良い速度や負荷状態での連続運転は出来ず、燃費が悪化することになる。従来方式の一基の主機関に代えて複数基のディーゼル発電機を備え、変化する運航状態に対して、発電機の運転台数を調節して一基当たりの負荷率を高くし、駆動装置として電動機を使用する、いわゆる電気推進船舶の開発が行われている(特許文献2および非特許文献2)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2009−161050号公報
【特許文献2】特開2007−174799号公報
【非特許文献】
【0006】
【非特許文献1】三菱重工技報 Vol.31、No.3(1994−5)
【非特許文献2】石川島播磨技報 Vol.46、No.4(2006−12)
【0007】
電気推進船舶においては、主機関で直接プロペラを駆動する従来船に比べ、発電機、コンバータ・インバータ等による電気的ロスが大きく、燃費の悪化することを、推進効率の高い二重反転プロペラの採用や船型の改良等によって補っているが、省エネルギの観点からは大きな効果は得られていない。また、電気推進船舶は速度制御や正逆転切換えの容易な駆動装置として電動機を使用し、二重反転プロペラの前プロペラは前プロペラ駆動用電動機、後プロペラは後プロペラ駆動用電動機という2系列の駆動装置により別々に制御して駆動される等、操作性、安全性、信頼性において大きな優位性を期待できるが、船舶に配電盤や交換器などの高価な機器を設置する必要があり、船舶の建造に高額な建造費を要し、その普及促進の妨げとなっている。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
本発明は、二重反転プロペラの特徴を利用して、環境対策、省エネルギ対策を実現すると共に、操船性、安全性、信頼性を向上させた、中小型船舶への採用に適した二重反転プロペラ式船舶推進装置を提供しようとするものである。
【0009】
また、本発明は、駆動装置として一基のディーゼル機関を備え、前、後進の切換クラッチ(正転クラッチと逆転クラッチ)と減速歯車装置とからなる動力伝達装置を介し、ディーゼルエンジンからの回転動力により固定ピッチプロペラを回転して推進する従来の中小型船舶に対し、固定ピッチプロペラを二重反転プロペラに交換すると共にその動力伝達装置の構成・機能を新しく構築することにより極めて容易に適用できる二重反転プロペラ式推進装置を提供しようとするものである。
【課題を解決するための手段】
【0010】
上記目的を達成するために、本発明は、船体に回転可能に支持され、後端部に前プロペラを有する中空の外軸と、この外軸の内部に回転可能に支持され、後端部に後プロペラを有する内軸と、これら両軸を回転するための駆動装置と、この駆動装置の駆動力を、前記外軸と内軸が互いに反対方向に回転されるように各軸に伝達する動力伝達装置とからなる二重反転プロペラ式船舶推進装置において、駆動装置を一基のディーゼル機関とすると共に、動力伝達装置を、前進クラッチおよび後進クラッチと、ディーゼル機関からの出力を減速して内、外軸に伝達するための減速歯車装置と、この減速歯車装置内に配設された外軸に伝達される動力を遮断するための前プロペラ入切用クラッチとから構成し、制御装置により、前進および後進クラッチを入切することにより前プロペラと後プロペラの回転方向を逆転させると共に、前プロペラ入切用クラッチを入切することにより、前プロペラへの回転動力が後プロペラの回転状態においても自在に投入、遮断されることを特徴とするものである。
【0011】
また、船体に回転可能に支持され、後端部に前プロペラを有する中空の外軸と、この外軸の内部に回転可能に支持され、後端部に後プロペラを有する内軸と、これら両軸を回転するための駆動装置と、この駆動装置の駆動力を、前記外軸と内軸が互いに反対方向に回転されるように各軸に伝達する動力伝達装置とからなる二重反転プロペラ式船舶推進装置において、駆動装置を一基のディーゼル機関とすると共に、動力伝達装置を、前進クラッチおよび後進クラッチと、ディーゼル機関からの出力を減速して内、外軸に伝達するための減速歯車装置と、この減速歯車装置内に配設された内軸に伝達される動力を遮断するための後プロペラ入切用クラッチとから構成し、制御装置により、前記前進および後進クラッチを入切することにより前プロペラと後プロペラの回転方向を逆転させると共に、前記後プロペラ入切用クラッチを入切することにより、後プロペラへの回転動力が前プロペラの回転状態においても自在に投入、遮断されることを特徴とするものである。
【0012】
なお、減速歯車装置には、第1中間軸と第2中間軸を設け、これらの軸端に上記制御装置により制御されるブレーキを設けることが好ましい。また、第2中間軸の一端を延長した延長部に緊急用歯車を設けると共に、この第2中間軸上に、上記制御装置により制御される緊急クラッチを設けることが好ましく、さらに、第2中間軸には、制御装置により制御される、補助電源により回転駆動される電動機の回転軸との接続装置を設けることが好ましい。
【発明の効果】
【0013】
本発明の二重反転プロペラ式船舶推進装置によれば、駆動装置を一基のディーゼル機関とすると共に、動力伝達装置を、前進クラッチおよび後進クラッチと、ディーゼル機関からの出力を各々の速度比に設定し減速して内、外軸に伝達するための減速歯車装置と、この減速歯車装置内に配設された内軸(または外軸)に動力を伝達するための前プロペラ入切用クラッチ(または後プロペラ入切用クラッチ)とから構成されており、制御装置により前記前進クラッチおよび後進クラッチを操作することにより、船舶の前進・後進の切換を行う。また、前記前プロペラ入切用クラッチ(または後プロペラ入切用クラッチ)を操作することで、二重反転プロペラの前、後プロペラを同時に回転させた運航や前または後の一方のプロペラのみを回転させた運航、両プロペラによる運航状態と一方プロペラによる運航状態の移行切換も船舶運航中に自在に操作できる。したがって、操船性が従来の中小型船舶より格段に向上すると共に、安全性や信頼性を向上させることができる。しかも高い推進効率の二重反転プロペラを採用したことにより、環境対策、省エネルギ対策を充分に実現できる。
【図面の簡単な説明】
【0014】
【図1】図1は本発明の第1実施例である二重反転プロペラ式船舶推進装置の模式平面図である。
【図2】図2は本発明の第2実施例である二重反転プロペラ式船舶推進装置の模式平面図である。
【図3】図3は本発明の第3実施例である二重反転プロペラ式船舶推進装置の模式平面図である。
【図4】図4は本発明の第4実施例である二重反転プロペラ式船舶推進装置の模式平面図である。
【発明を実施するための形態】
【0015】
以下、各図に示される二重反転プロペラ式船舶推進装置について本発明の実施の形態を説明する。尚、図中、同一の符号および数字は、同一または相当する部分を表すものである。
【0016】
先ず、図1を参照するに、本発明の二重反転プロペラ式船舶推進装置は、図示しない船体に搭載された一基のディーゼルエンジンDEと、このディーゼルエンジンDEと弾性継手21を介して接続された動力伝達装置Tと、船体に回転可能に支持された中空の外軸14およびその後端部に取り付けられた前プロペラ16と、この外軸14の内部に回転可能に支持された内軸15およびこの内軸15の後端部に取り付けられた後プロペラ17とから成っている。そして、動力伝達装置Tは、入力軸1からの回転動力を切り換えるための前進クラッチC1と後進クラッチC2と、これらのクラッチC1とC2からの回転動力を減速して出力軸である外軸14と内軸15に伝達するための減速歯車装置と、この減速歯車装置内に配設された外軸14に伝達される動力を結合、遮断するための前プロペラ入切用クラッチC3と、さらに、これらのクラッチC1、C2およびC3の制御を行うための図示しない制御装置とからなっている。
【0017】
なお、弾性継手21はネジリ振動を調整、回避するために設けられた、減衰要素を持った軸継手であって、減衰要素がゴムからなるゴム継手やばねと油を組合せたオイルダンパ継手等である。また、動力伝達装置Tの各クラッチC1〜C3としては、メカニカルクラッチも使用できるが、湿式多板式クラッチが最も適している。その理由は、湿式多板式クラッチは、発進、前進・後進切換えの際にクラッチ板のスリップを利用して同期操作を行うことができるためである。
【0018】
図1に示される二重反転プロペラ式船舶推進装置についてさらに説明するに、前進時、ディーゼルエンジンDEからなる駆動装置の回転動力は、ゴムからなる弾性継手21を介して動力伝達装置Tに伝達され、その入力軸1から、前進クラッチC1の入(後進クラッチC2の切)により前進出力歯車3から、この前進出力歯車3と噛み合う内軸歯車4を回動させ、この内軸歯車4と一体である内軸15を回転させる。また、内軸歯車4には外軸駆動用歯車5が一体に設けられ、この外軸駆動用歯車5から、第1中間軸7に設けられた第1中間歯車6、第2中間軸9に設けられた第2中間歯車8、第2中間軸9に設けられた入切用クラッチC3、第3中間歯車10を経て、外軸歯車11が回動され、この外軸歯車11と一体である中空の外軸14が回動される。中空の外軸14には、継手12を介して前プロペラ16をその後端部に有する後部外軸13が接続され、前プロペラ16を回転させることができる。すなわち、前進時、後プロペラ17を有する内軸15は、DE→入力軸1→前進クラッチC1→前進出力歯車3→内軸歯車4→内軸15と動力が伝達されて回動され、また、前プロペラ16を有する外軸14は、DE→入力軸1→前進クラッチC1→前進出力歯車3→内軸歯車4→外軸駆動用歯車5→第1中間歯車6→第2中間歯車8→前プロペラ入切用クラッチC3→第3中間歯車10→外軸歯車11→外軸14と動力が伝達されて回動される。
【0019】
なお、前進出力歯車3の回転数は、減速歯車である内軸歯車4により所定の減速比で減速されて、前プロペラ16および後プロペラ17に伝達される。なお、通常、前プロペラ16に対して後プロペラ17の減速比がより大きく設定されている。図中、22はプロペラ推力を受けるスラスト軸受である。
【0020】
後進時、ディーゼルエンジンDEからなる駆動装置の回転動力は、弾性継手21を介して動力伝達装置Tに伝達され、その入力軸1から、(前進クラッチC1の切)後進クラッチC2の入により入力軸1に設けられ後進歯車2、その歯車2と噛み合う後進入力軸18に設けられた後進入力歯車19、後進クラッチC2を経て後進出力歯車20に伝達され、この後進出力歯車20と噛み合う内軸歯車4を回動させ、この内軸歯車4と一体である内軸15を前進時と逆方向に回転させる。なお、内軸歯車4には外軸駆動用歯車5が一体に設けられているので、前進時と同様の経路を経て外軸14を前進時と逆方向に回転させる。すなわち、後進時、後プロペラ17を有する内軸15は、DE→入力軸1→後進歯車2→後進クラッチC2→後進出力歯車20→内軸歯車4と動力が伝達されて回動される。また、前プロペラ16を有する外軸14は、DE→入力軸1→後進歯車2→後進クラッチC2→後進出力歯車20→内軸歯車4→外軸駆動用歯車5→第1中間歯車6→第2中間歯車8→前プロペラ入切用クラッチC3→第3中間歯車10→外軸歯車11→外軸14と動力が伝達されて回動される。
【0021】
なお、図1に示される二重反転プロペラ式船舶推進装置においては、減速歯車装置の外軸14への伝達経路である第2中間軸9に前プロペラ入切用クラッチC3が配設されているので、発進・加速時に、DE起動→前進クラッチC1入→後プロペラ17回転→前プロペラ入切用クラッチC3入→前プロペラ16回転の順で操船することができる。前進クラッチC1入段階においては、後プロペラ17の負荷(全負荷の略半分)のみが掛かるため、DE容量には充分余裕があり、DEの大幅な回転落ちやエンスト等の回避が可能となる。次の前プロペラ入切用クラッチC3入段階においては、DEは既に後プロペラの負荷を背負い安定運転状態が確保されているため、前プロペラの投入による負荷増加に対しても同様にDEの大幅な回転落ちやエンスト等の回避が可能となり、迅速な発進・加速操作が実現される。
また、低速での運航では、前プロペラ入切用クラッチC3切とし、後プロペラ17のみを使用して行うことができ、全負荷の略半分のプロペラ負荷で行うため、低速操船性が向上する。さらに、DEや前進クラッチC1、後進クラッチC2の容量には充分余裕があることから、急速な速度変更や短時間での前進、後進切換え操作等にも耐えることができ、安全性、信頼性が向上する。
このように、前プロペラ入切用クラッチC3を組込んだ動力伝達装置を配置した二重反転プロペラ式船舶推進装置は、一基の機関で駆動しているにもかかわらず、2系統の推進電動機で構成した電気式推進装置と類似した操船を可能としており、発進・加速や低速での運航において、従来式と比較して操船性、安全性、信頼性を大きく向上することができる。
【0022】
図2に示される二重反転プロペラ式船舶推進装置は、図1に示される二重反転プロペラ式船舶推進装置の減速歯車装置の配列を変更した例である。すなわち、前進時、前プロペラ16への動力伝達は、DE→入力軸1→前進クラッチC1→前進出力歯車3→外軸歯車4’→外軸14→前プロペラ16の順に行われる。また、後プロペラ17への動力伝達は、DE→入力軸1→前進クラッチC1→前進出力歯車3→外軸歯車4’(内軸駆動用歯車5)→第1中間歯車6→第2中間歯車8→後プロペラ入切用クラッチC3’→第3中間歯車10→内軸歯車11’→内軸15→後プロペラ17の順に行われる。なお、前進出力歯車3からの回転動力の伝達は、それぞれ所定の減速比で前プロペラ16および後プロペラ17に伝達され、前プロペラ16に対して後プロペラ17の減速比がより大きく設定されている点は図1の例と同じである。
【0023】
また、後進時、前プロペラ16への動力伝達は、DE→入力軸1→後進歯車2→後進用駆動歯車19→後進クラッチC2→後進出力歯車20→外軸歯車4’→外軸14→前プロペラ16の順に行われる。また、後プロペラ17への動力伝達は、DE→入力軸1→後進歯車2→後進用駆動歯車19→後進クラッチC2→後進出力歯車20→外軸歯車4’→内軸駆動用歯車5’→第1中間歯車6→第2中間歯車8→後プロペラ入切用クラッチC3’→第3中間歯車10→内軸歯車11’→内軸15→後プロペラ17の順に行われる。
【0024】
図2に示される二重反転プロペラ式船舶推進装置においては、減速歯車装置の内軸15への伝達経路である第2中間軸9に後プロペラ入切用クラッチC3’が配設されているので、発進・加速時には、DE起動→前進クラッチC1入→前プロペラ16回転→後プロペラ入切用クラッチC3’入→後プロペラ17回転の順で操船することができる。後進時に、内軸15すなわち後プロペラ17への動力伝達を、後プロペラ入切用クラッチC3’を入切操作することで、前プロペラで運航している状態で後プロペラを投入、遮断することができ、発進・加速時や低速での運航において前述の図1と同様の効果を奏する。
【0025】
図3に示される二重反転プロペラ式船舶推進装置は、図1に示される船舶推進装置の動力伝達装置Tにおいて、その一端を延長した延長部24を有する第2中間軸9を配設し、この延長部24に後進歯車2と噛み合う緊急用歯車23を設けると共に、第2中間軸9上に、緊急用クラッチC4およびC5を配設したもので、緊急時すなわち通常の動力伝達経路に障害、例えば軸受の損傷等が発生した場合に、前および後プロペラを回転させるための緊急用動力伝達経路を形成したものである。後プロペラ17の通常の動力伝達経路、すなわち、DE→入力軸1→前進クラッチC1→前進出力歯車3→内軸駆動歯車4→内軸15→後プロペラ17に故障が発生した場合に、この緊急伝達経路を用いて後プロペラ17に回転動力を伝達するものである。すなわち、DE→入力軸1(前進クラッチC1と後進クラッチC2は切る)→後進歯車2→緊急用歯車23→第1緊急クラッチC4→第2緊急クラッチC5(前プロペラ入切用クラッチC3は切る)→第2中間歯車8→第1中間歯車6→外軸駆動用歯車5→内軸駆動歯車4→内軸15→後プロペラ17の緊急伝達経路が形成される。前プロペラ16の通常の伝達経路に故障が発生した場合には、DE→入力軸1(前進クラッチC1と後進クラッチC2は切る)→後進歯車2→緊急用歯車23→第1緊急クラッチC4(第2緊急クラッチC5は切る)→前プロペラ入切用クラッチC3→第3中間歯車10→外軸駆動歯車11→前プロペラ16の緊急伝達経路が形成される。したがって、運航の安全性を増大させることができる。
なお、図2に示される二重反転プロペラ式船舶推進装置においても、このような緊急用動力伝達経路を形成することができる。
【0026】
なお、図3に示される二重反転プロペラ式船舶推進装置の第1中間軸7の軸端には、内軸固縛ブレーキB1が配設されて内軸15の固定が行なわれ、第2中間軸9の軸端に設けられた第2中間歯車10の外側には、外軸固縛ブレーキB2が配設されて外軸14の固定が行われる。これらの固縛ブレーキB1およびB2は、船舶が一方のプロペラのみで推進されているときに、他方のプロペラが遊転状態となるのを防止するために設けたものである。このようにプロペラの遊転を防止することによって、その動力伝達経路での故障箇所における損傷の拡大を防止する。また、固縛作業は動力伝達装置Tで固縛ブレーキB1およびB2を入切するだけの簡単な操作となる。なお、固縛用ブレーキB1、B2は、機械的強度があればその種類は問われない。
【0027】
図4に示される二重反転プロペラ式船舶推進装置は、図1に示される船舶推進装置において、第2中間軸9の一端に、接続装置25を介して電動機Mの回動軸が接続されたものである。電動機Mは、補機用電源26から電力を供給され、その回転はインバータ制御されている。電動機Mからの回転動力は、接続装置25から前プロペラ入切用クラッチC3を切とした第2中間軸9を回動し、その軸に設けられた第2中間歯車8から第1中間歯車6、外軸駆動用歯車5、内軸駆動歯車4により内軸15を回動し、後プロペラ17を回転させる。なお、前進用クラッチC1および後進用クラッチC2はいずれも切で、前プロペラ入切用クラッチC3も切であるので、前プロペラ16には動力が伝達されず、前プロペラ16は遊転状態である。
【0028】
かくして、図4に示される二重反転プロペラ式船舶推進装置を採用した船舶は、ディーゼルエンジンDEを停止して電動機Mで駆動されることにより、排ガス規制の厳しい湾内等の海域でも微速または低速で運航することができ、同時に、ディーゼルエンジンDEの急な故障にも対応することができる。すなわち、電動機Mは、補助電源26である例えば補機用電源からの電力により駆動され、接続装置25を介して第2中間軸9を駆動し、第2中間歯車8および第1中間歯車6を介して、内軸歯車4を回動することができる。すなわち、電動機Mの回転動力は、前進クラッチC1、後進クラッチC2および前プロペラ入切用クラッチC3を切った状態で、接続装置25→第2中間軸9→第2中間歯車8→第1中間歯車6→外軸駆動用歯車5→内軸歯車4→内軸15→後プロペラの経路で伝達される。
【0029】
なお、電動機Mの回転動力による駆動は、船舶の微速または低速の運航を想定してのもので、二重反転プロペラの後プロペラ17のみで運航し、かつ、プロペラの回転数を下げて運転される。回転数を下げた場合の後プロペラの負荷動力は、プロペラの負荷動力∝(回転数)の関係が成立し、回転数の3乗に比例して小さくなる。例えば、後プロペラのみを運転し、プロペラ回転数の50%とした場合には、主機関定格容量の10%以下のプロペラ負荷容量となり、小容量の電動機の設置で駆動、運航が可能となる。したがって、補助電源の大幅な容量変更等の必要は無く、従来の補機用電源26を利用することが充分可能となる。
【0030】
以上のとおり、図3および図4に示される二重反転プロペラ式船舶推進装置によれば、
より充分な環境対策を実現できると共に、より安全性や信頼性を向上させることができる。
【符号の説明】
【0031】
DE ディーゼルエンジン、T 動力伝達装置、 M 電動機、C1 前進クラッチ、C2 後進クラッチ、C3 前プロペラ入切用クラッチ、C3’後プロペラ入切用クラッチ、C4 第1緊急クラッチ、C5 第2緊急クラッチ、B1 内軸固縛ブレーキ、B2 外軸固縛ブレーキ
1 入力軸、2 後進歯車、3 前進出力歯車、4 内軸歯車、4’外軸歯車、5 外軸駆動用歯車、5’内軸駆動用歯車、6 第1中間歯車、7 第1中間軸、8 第2中間歯車、9 第2中間軸、10 第3中間歯車、11 外軸歯車、11’内軸歯車、12 接続装置、13 後部外軸、14 外軸、15 内軸、16 前プロペラ、17 後プロペラ、18 後進入力軸、19 後進入力歯車、20 後進出力歯車、21 弾性継手、 22 スラスト軸受、23 緊急用歯車、24 延長部、25 接続装置、26 補助電源

【特許請求の範囲】
【請求項1】
船体に回転可能に支持され、後端部に前プロペラを有する中空の外軸と、この外軸の内部に回転可能に支持され、後端部に後プロペラを有する内軸と、これら両軸を回転するための駆動装置と、この駆動装置の駆動力を、前記外軸と内軸が互いに反対方向に回転されるように各軸に伝達する動力伝達装置とからなる二重反転プロペラ式船舶推進装置において、前記駆動装置を一基のディーゼル機関とすると共に、前記動力伝達装置を、前進クラッチおよび後進クラッチと、前記ディーゼル機関からの出力を減速して内、外軸に伝達するための減速歯車装置と、この減速歯車装置内に配設された外軸に伝達される動力を遮断するための前プロペラ入切用クラッチとから構成し、制御装置により、前記前進および後進クラッチを入切することにより前プロペラと後プロペラの回転方向を逆転させると共に、前記前プロペラ入切用クラッチを入切することにより、前プロペラへの回転動力が後プロペラの回転状態においても自在に投入、遮断されることを特徴とする二重反転プロペラ式船舶推進装置。
【請求項2】
船体に回転可能に支持され、後端部に前プロペラを有する中空の外軸と、この外軸の内部に回転可能に支持され、後端部に後プロペラを有する内軸と、これら両軸を回転するための駆動装置と、この駆動装置の駆動力を、前記外軸と内軸が互いに反対方向に回転されるように各軸に伝達する動力伝達装置とからなる二重反転プロペラ式船舶推進装置において、前記駆動装置を一基のディーゼル機関とすると共に、前記動力伝達装置を、前進クラッチおよび後進クラッチと、前記ディーゼル機関からの出力を減速して内、外軸に伝達するための減速歯車装置と、この減速歯車装置内に配設された内軸に伝達される動力を遮断するための後プロペラ入切用クラッチとから構成し、制御装置により、前記前進および後進クラッチを入切することにより前プロペラと後プロペラの回転方向を逆転させると共に、前記後プロペラ入切用クラッチを入切することにより、後プロペラへの回転動力が前プロペラの回転状態においても自在に投入、遮断されることを特徴とする二重反転プロペラ式船舶推進装置。
【請求項3】
上記減速歯車装置には、第1中間軸と第2中間軸を設け、これらの軸の軸端に上記制御装置により制御されるブレーキを設けることを特徴とする請求項1または2記載の二重反転プロペラ式船舶推進装置。
【請求項4】
上記第2中間軸の一端を延長した延長部に緊急用歯車を設けると共に、この第2中間軸上に、上記制御装置により制御される緊急クラッチを設けることを特徴とする請求項3記載の二重反転プロペラ式船舶推進装置。
【請求項5】
上記第2中間軸には、上記制御装置により制御される、補助電源により回転駆動される電動機の回転軸との接続装置を設けることを特徴とする請求項3記載の二重反転プロペラ式船舶推進装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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