説明

二重壁構造を有する金属製遮音パネル

【課題】道路や鉄道を走行する車両が発する騒音、或いは工場内で発生する機械音や打撃音などの騒音を遮断する遮音壁を構成する金属製遮音パネルを提供する。
【解決手段】背面板の上下に縦断面が略コ字形となるように上面板部と下面板部を形成し、前記上面板部と下面板部の前面側に、多数の孔を設けた多孔前面板を接合して外殻ケーシングが形成され、この外殻ケーシングの両側面の開口部は側面板で塞がれており、前記外殻ケーシングの内部に、無孔の金属板を屏風型又は山形状に屈曲させて成る中仕切り板を備え、この中仕切り板の上部は前記上面板部と、前記中仕切り板の下部は前記下面板部と接合されており、前記多孔前面板と中仕切り板との間に吸音材が配置されて第一の壁構造が形成され、前記中仕切り板と背面板の間にも吸音材が隙間なく充填されて第二の壁構造が形成されていることを特徴とする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、例えば道路や鉄道を走行する車両が発する騒音、或いは工場内で発生する機械音や打撃音などの騒音を遮断する遮音壁を構成する金属製遮音パネルの技術分野に属し、更に言えば、内部に遮音性能を発揮する無孔の中仕切り板を備え、この中仕切り板の前後の両側に吸音材を配置し、前面を多孔の前面板で形成し、背面には無孔の背面板を配置して二重壁構造に構成した、吸音性能と遮音性能に優れる遮音パネルに関する。
【背景技術】
【0002】
道路や鉄道を走行する車両が発する騒音、或いは工場の機械音や打撃音など、特定の方向ないし場所を音源とする騒音を遮断する遮音壁に用いる遮音パネルとしては、従来、コンクリート板等の重量が大きい遮音パネル、又は軽量な金属製の遮音パネルが知られ使用されている。
金属製の遮音パネルは、製造が容易で大量生産に適し、軽量であるから道路輸送や保管等の取り扱いが容易であるし、現地での遮音壁の構築作業が容易な特長を有している。そのため高い遮音性能と吸音性能を併せ持つ金属製遮音パネルの更なる改良、開発に期待が寄せられている。
【0003】
下記の特許文献1に開示された「遮音パネル」は、前面側及び背面側に配置する二つのパネル部材がそれぞれ、無孔の表面板とその内側面に設けた吸音材とで構成されている。前記吸音材は保護シートで覆われたグラスウール等の不定形吸音材から成り、ー方のパネル部材は前記吸音材の内側面に鉄板等の金属板を備え、二つのパネル部材は前記金属板を挟んで間隔を開けた配置とされ、前記の間隔部分が空気層に形成されている。この遮音パネルは、前記二つのパネル部材の表面板が無孔板であり、二重壁構造といえるが、吸音性能に関しては考慮されていない。
次に、金属製吸音パネルに関する従来技術としては、例えば下記の特許文献2に開示された「防音板の構造」が公知、周知である。これは音源に向かう前面側に多孔板を配置し、その背後に、石綿やグラスウールなど繊維質フェルト状物による多孔質材(いわゆる吸音材)を配置し、更にその背後側に、薄い金属板に多数の孔を開けた多孔板を円弧波形状に成形した波形多孔板を配置して前記多孔質材(吸音材)を支持させると共に空気層を形成している。そして、前記波形多孔板の背後に無機質又は有機質のスレート板や生子板の如き遮音性に優れた重質板を波形多孔板と接するように配置した構成である。従って、遮音性能を考えると、単壁構造であるから遮音性能が低いという欠点を否めない。
因みに、下記の特許文献3に開示された「防音板の構造」は、いわば「吸音パネル」の従来例として公知、周知である。これは無機質又は有機質のスレート板や生子板の如き遮音性に優れた重質板(遮音板)を円弧波形状に成形した無孔の波形重質板(中仕切り板)の両側面を、薄い金属板に多数の孔を開けた2枚の多孔板で挟んだ配置として空気層を形成し、前記2枚の多孔板の外側面に、石綿やガラスウールなどの繊維質フェルト状物による多孔質材(いわゆる吸音材)を配置し、同多孔質材の外面をそれぞれクロスカバーや合成樹脂板、金属板等の多孔板で被覆した構成とされている。この吸音パネルは、前面および背面の双方が音源からの騒音を吸収する構成であり、遮音性能については考慮されていない。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2008ー291557号公報
【特許文献2】実公昭52ー34015号公報
【特許文献3】実公昭52ー34016号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
単一の材料で構成される板(鉄板、コンクリート板、合成樹脂板など)の遮音性能(音響透過損失R)は、下記の[数1]で表わす質量則により求められる。
[数1]
R=R0−10Log(0.23×R0) (dB)
R0=20Log(f・m)−42.5 (dB)
但し、上式における R:ランダム入射の音響透過損失
R0:垂直入射の音響透過損失
f:周波数(Hz)
m:材料の面密度(Kg/m
上記の[数1]およびその計算値を示す図7によれば、板の質量が2倍になる毎に、遮音性能(音響透過損失dB)は約5dBずつ向上することがわかる。例えばm当たり重量が10Kgの板の遮音性能(音響透過損失)は約23dBであり、m当たり重量が20Kgの板の遮音性能(音響透過損失)は約28dB、m当たり重量が40Kgの板の遮音性能(音響透過損失)は約32dBという具合に、遮音性能の向上は鈍いのに、板の重量ばかり倍々数で大きくなる。そのため単一の材質で構成される板の場合は、ある程度以上の重量になると、その板厚を増し重量を大きくしても、遮音性能(音響透過損失)は殆ど向上しない傾向が明らかである(図7を参照)。そのため所望の遮音性能(音響透過損失)を得ようとすると、板の重量が非常に大きくなってしまう。
【0006】
そこで重量にのみ依存しないで遮音性能を向上させる手段として、2枚の板材料を二重に用いる二重壁構造の技術的思想が開発されている(例えば、上記特許文献1の図6〜図10およびその説明を参照)。二重壁構造の遮音性能は、簡単に考えると、各板材の音響透過損失の和になりそうである。しかし、実際には2枚の板材料の共鳴現象や、構造上は2枚の板材料の一部を下地材により結合することが原因で、音響透過損失は質量則で計算した値よりも低くなる場合があることも知られている。
【0007】
上記の観点で、上記した特許文献2に開示された「防音板の構造」について検証を試みると、音源に向かう前面の多孔板へ接する多孔質材(吸音材)の背後に、薄い金属板に多数の孔を開けた波形多孔板を配置して、いわゆる空気層を形成した構成であるから、前面の多孔板を通過して、続く多孔質材(吸音材)へ到達した騒音は、吸音質材の吸音性能によりそれなりに吸収・減衰される。しかし、多孔質材(吸音材)で吸音しきれなかった騒音は、波形多孔板が形成する空気層へ到達して更に減衰されるが、残余の音は波形多孔板を通過して背面側の1枚の重質板へ到達するから、この重質板で遮音する性能に頼るほかないのである。しかし、1枚の重質板に高い遮音性能を期待できないことは、上述した理由から明らかである。しかも波形多孔板と背面側の重質板とが共振、共鳴して背面側へ放音する現象を遮断するための構成を認められないのである。
【0008】
その点、上記した特許文献1に開示された「遮音パネル」の場合は、前後二つのパネル部材を構成する無孔の表面板の組み合わせが、いわゆる二重壁構造を構成しているから、上記特許文献2に開示された「防音板の構造」に比して遮音性能は高いと考えられる。しかし、この「遮音パネル」の場合は、前面および背面共に無孔の表面板で構成されているが故に、いわゆる吸音性能をほとんで期待できない欠点がある。即ち、この「遮音パネル」を使用して遮音壁を構築した場合、無孔の表面板でランダムに反射された騒音は、いわゆる反響音となって周辺へ散乱、波及するであろうことが予測される。
また、中仕切り板を設けて二重壁構造とした場合は、空気層の共鳴によって上記特許文献1の図7に説明されたように、特定の音域での急激な性能の低下が考えられるので、共鳴を防止する構造が求められる。
そして、上記特許文献3に開示された「防音板」の場合は、吸音性能は発揮しても、二重壁構造ではないから、質量則を超えた遮音性能は期待できず、吸音しきれなかった騒音が通過する懸念を拭えない。
【0009】
したがって、本発明の目的は、より合理的な二重壁構造で、高い遮音性能と吸音性能を併せ持つ構成の金属製遮音パネルを提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0010】
上記の課題を解決する手段として、請求項1に記載した発明に係る二重壁構造を有する金属製遮音パネル1は、
背面板8の上下に縦断面が略コ字形となるように上面板部9と下面板部10を形成し、前記上面板部9と下面板部10の前面側に、多数の孔を設けた多孔前面板5を接合して外殻ケーシングが形成され、この外殻ケーシングの両側面の開口部は側面板12で塞がれており、
前記外殻ケーシングの内部に、無孔の金属板を屏風型又は山形状に屈曲させて成る中仕切り板6を備え、この中仕切り板6の上部は前記上面板部9と、前記中仕切り板6の下部は前記下面板部10と接合されており、
前記多孔前面板5と中仕切り板6との間に吸音材71が配置されて第一の壁構造が形成され、前記中仕切り板6と背面板8の間にも吸音材72が隙間なく充填されて第二の壁構造が形成されていることを特徴とする。
【0011】
請求項2に記載した発明は、請求項1に記載した二重壁構造を有する金属製遮音パネルにおいて、
多孔前面板5と中仕切り板6との間に配置された吸音材71は高密度の構成であり、中仕切り板6と背面板8の間に隙間なく充填された吸音材72は低密度の構成であることを特徴とする。
請求項3に記載した発明は、請求項1又は2に記載した二重壁構造を有する金属製遮音パネルにおいて、
多孔前面板5と中仕切り板6との間に配置された吸音材71は25kg/m以上50kg/m以下の高密度な構成であり、中仕切り板6と背面板8の間に隙間なく充填された吸音材72は5kg/m以上25kg/m未満の低密度な構成であることを特徴とする。
【0012】
請求項4に記載した発明は、請求項1〜3のいずれか一に記載した二重壁構造を有する金属製遮音パネルにおいて、
中仕切り板6の板厚は、背面板8の板厚よりも厚い重量板の構成であることを特徴とする。
請求項5に記載した発明は、請求項1〜4のいずれか一に記載した二重壁構造を有する金属製遮音パネルにおいて、
無孔の金属板を屏風型又は山形状に屈曲させて成る中仕切り板6は、一山のV字形状又は二山のM字形状に形成されていることを特徴とする。
【0013】
請求項6に記載した発明は、請求項1〜5に記載した二重壁構造を有する金属製遮音パネルにおいて、
中仕切り板6は、その屈曲方向の両端に形成した折り曲げ辺6a、6bが、これと相対峙する外殻ケーシングとシール材13を挟んで接合され、また、同中仕切り板6において屈曲方向と直交する両サイドの端縁は、これと相対峙する側面板12との間にシール材14を挟んで接合されていることを特徴とする。
請求項7に記載した発明は、請求項6に記載した二重壁構造を有する金属製遮音パネルにおいて、
シール材13および14は発泡性のゴム又は粘弾性のゴムであることを特徴とする。
【発明の効果】
【0014】
請求項1〜7に記載した発明に係る二重壁構造を有する金属製遮音パネルは、軽量であるという特性を保持しつつ、音源に向かう前面を多孔前面板5で形成し、この多孔前面板5と、無孔の金属板を屏風型又は山形状に屈曲させた中仕切り板6との間に吸音材71を配置して第一の壁構造を形成したから、多孔前面板5を通じて進入した騒音は吸音材71で吸収する吸音性能を期待できる。
一方、前記中仕切り板6と背面板8との間にも、吸音材72を隙間なく充填して第二の壁構造を形成したから、中仕切り板6の共振を抑え、共鳴透過による遮音性能の低下を防止できるので、高い遮音性能を期待できる。
特に、多孔前面板5の内側に配置した吸音材71は、屏風型又は山形状に屈曲させた中仕切り板6により動かないように効果的に支持されるが、同吸音材71は高密度で定形性の高い構成、具体的には25kg/m以上50kg/m以下の高密度な構成としたので、中仕切り板6の屈曲形状にしたがって吸音材71の背後に空気層15が確実に形成される。そのため多孔前面板5から進入し吸音材71を通過して中仕切り板6へ到達する騒音は、屏風型又は山形状に屈曲された中仕切り板6により反射を散乱させて、中、低音域での吸音性能および遮音性能を高める効果が奏される(図6の実測値=■印の線図を参照)。図6中の■線は、パネル面密度の透過損失(質量則による計算値)を100%としたときの、本発明の実施例における実測値の百分率であり、中、低音域での性能が特に向上していることを確認できる。
【0015】
一方、中仕切り板6と背面板8との間に充填した吸音材72は低密度の構成、具体的には5kg/m以上25kg/m未満で非定形性の構成なので、屏風型又は山形状に屈曲させた中仕切り板6の背面に沿って充填する場合に、中仕切り板6と背面板8の間へ隙間なく密接する状態に充填する作業が容易である。しかも中仕切り板6と背面板8に密着して支持するので、中仕切り板6の共振が抑制され、共鳴透過による遮音性能の低下を防止できる。
その上、中仕切り板6の折り曲げ辺6a、6bと、外殻ケーシング又は側面板12とは、両者間にシール材13を挟んで接合し、また、同中仕切り板6の屈曲方向と直交する両サイドの端縁は、側面板12又は外殻ケーシングとの間にシール材14を挟んで接合しているので、中仕切り板6から背面板8へ伝わる騒音や振動の伝搬が遮断され、やはり遮音性能の低下を防いでいる。
更に、請求項4に記載した発明のように、中仕切り板6の板厚を、背面板8の板厚よりも厚い重量板で構成すると、両板の面密度を異ならせ、共鳴による遮音性能の低下を防止できる上に、中仕切り板6の板材料面積が、背面板8およびその上下に一体的に連なる上面板部9および下面板部10を合計した板材料面積よりも小さい構成なので、逆に背面板8等の板厚を厚くする場合に比して、同様な遮音性能と吸音性能を発揮しつつ、金属製遮音パネルの重量を軽減化する効果が得られる。
以上のような、二重壁構造を有する金属性遮音パネルを構成し実施することで、中低音域で特に高い遮音性能を得ることができる。
【図面の簡単な説明】
【0016】
【図1】本発明による金属製遮音パネルを使用して構築した遮音壁の一例を示した斜視図である。
【図2】本発明による金属製遮音パネルの前面を示した正面図である。
【図3】図2中に指示したC−C線矢視の拡大した断面図である。
【図4】図4aは図3中に指示したA部の拡大図、図4bは同じ図3中に指示したB部の拡大図である。
【図5】図2中に指示したD−D線矢視の拡大した断面図である。
【図6】本発明による金属製遮音パネルの遮音性能の実測値を示した性能線図である。
【図7】音響透過損失の計算例を示したグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0017】
本発明の二重壁構造を有する金属製遮音パネルは、背面板8の上下に縦断面が略コ字形となるように上面板部9と下面板部10を形成し、前記上面板部9と下面板部10の前面側に、多数の孔を設けた多孔前面板5を接合して外殻ケーシングを形成し、この外殻ケーシングの両側面の開口部を側面板12で塞いで成る外殻ケーシングの内部に、無孔の金属板を屏風型又は山形状に屈曲させて成る中仕切り板6を設置し、この中仕切り板6の上部は前記上面板部9と、下部は前記下面板部10と接合している。
前記多孔前面板5と中仕切り板6との間に吸音材71を配置して第一の壁構造が形成され、前記中仕切り板6と背面板8の間にも吸音材72を隙間なく充填して第二の壁構造が形成されている。
多孔前面板5と中仕切り板6との間に配置した吸音材71は高密度の構成、具体的には25kg/m以上50kg/m以下の高密度な構成とし、中仕切り板6と背面板8の間へ隙間なく充填された吸音材72は低密度の構成、具体的には5kg/m以上25kg/m未満の低密度な構成とする。
【0018】
上記中仕切り板6の板厚は、背面板8の板厚よりも厚い重量板の構成である。
無孔の金属板を屏風型又は山形状に屈曲させて成る中仕切り板6は、一山のV字形状又は二山のM字形状に形成されている。
中仕切り板6の屈曲方向の両端に形成した折り曲げ辺6a、6bは、これと相対峙する外殻ケーシング又は側面板12とシール材13を挟んで接合し、また、同中仕切り板6において屈曲方向と直交する両サイドの端縁は、これと相対峙する側面板12又は外殻ケーシングとの間にシール材14を挟んで接合されている。
前記シール材13および14は発泡性のゴム又は粘弾性のゴムである。
【実施例1】
【0019】
以下に、本発明を、図示した実施例に基づいて説明する。
図1は、本発明による二重壁構造を有する金属製遮音パネル1を使用して構築した遮音壁の一例を示している。この遮音壁は、道路や鉄道の長手方向に沿って、又は工場の敷地外周の地面上に、コンクリート等でほぼ水平な突起状に構築したコンクリート基礎2の上に、金属製遮音パネル1の横方向の長さとほぼ等しい間隔でH形鋼等による支柱3、3を垂直に建て、隣り合う二つの支柱3、3の縦溝を利用してその間へ、複数の金属製遮音パネル1を多段に建て込み積み重ねることで所要高さの遮音壁が構築されている。図1中の符号4は遮音壁の上端の仕上げとして設置された笠木である。
【0020】
図2は、上記二重壁構造を有する金属製遮音パネル1の前面(音源に向かう側)を示している。因みに、この金属製遮音パネル1の大きさの一例を示すと、図2の左右方向の長さ寸法は約2000mm、上下方向の高さ寸法は約500mm、図3の方向に見たパネル厚さ寸法は140mm程度である。
図2のC−C線矢視断面を示した図3の左側が騒音源に向かうパネル前面である。この前面は例えば高耐候性めっき鋼板のほぼ全面に、図示例の場合は幅が15mm、長さが40mm程度の水平方向に長い長孔5aを、上下・左右方向に規則正しい行列で多数設けた多孔板(パンチングメタル)で製作した多孔前面板5で遮蔽されている。ただし、多孔前面板5の孔5aの形状は、前記の長孔にかぎらず、丸孔あるいは四角孔、三角孔などの別を問わない。
【0021】
図3の右側に位置する背面板8の上下に、図3の方向に見た縦断面が略コ字形となるように上面板部9と下面板部10が形成されており、前記上面板部9と下面板部10の前面側(図3の左側)に、上記多数の孔を設けた多孔前面板5を接合して外殻ケーシングが形成されている。この外殻ケーシングは、両側面の開口部、即ち、図5の左右方向の開口部が側面板12で塞がれて全面を遮蔽した構造の外殻ケーシングが形成されている。
上記構成の外殻ケーシングの内部には、図3に見るとおり、無孔の金属板を屏風型又は山形状に屈曲させた中仕切り板6がほぼ中央位置に配置され、この中仕切り板6の上部は前記上面板部9と、下部は前記下面板部10と接合して固定されている。
そして、前記多孔前面板5と中仕切り板6との間に吸音材71を配置して第一の壁構造が形成され、また、中仕切り板6と背面板8の間にも吸音材72を隙間なく充填して第二の壁構造が形成されている。
【0022】
上記した多孔前面板5と中仕切り板6との間に配置した吸音材71は高密度の構成、具体的にいうと、吸音材71は25kg/m以上50kg/m以下の高密度な構成として第一の壁構造の吸音性能が高められている。即ち、騒音が最短距離で多孔前面板5および高密度な吸音材71を透過した場合、中仕切り板6が屏風型又は山形状に屈曲されているので、騒音は入射方向とは異なる方向へ反射される。この場合、高密度な吸音材71の透過距離が入射時点よりも長くなるので、吸音性能が向上する。もっとも、中仕切り板6を伝わって第二の壁構造側へ侵入する騒音はあり得る。
一方、中仕切り板6と背面板8の間に隙間なく充填された吸音材72は低密度の構成、具体的にいうと、吸音材72は5kg/m以上25kg/m未満の低密度な構成として第二の壁構造の遮音性能が高められている。即ち、第二の壁構造は、中仕切り板6と背面板8の間に低密度の吸音材72を隙間なく充填しているので、共鳴透過による遮音性能の低下を防ぐことが出来る。この場合、中仕切り板6は屏風型又は山形状に屈曲されて、吸音材72を充填し難い構成であるが、吸音材72を5kg/m以上25kg/m未満の低密度な構成としたことで、吸音材72は中仕切り板6と背面板8との間へ隙間なく充填する作業に適し、且つ中仕切り板6および背面板8のそれぞれへ密着して支持するので、中仕切り板6の共振を抑制し、共鳴透過による遮音性能の低下を防止できる。
【0023】
図3に示したように多孔前面板5と中仕切り板6との間へ配置された吸音材71は、ポリエステル繊維等により構成した厚さ50mm程度の高密度な構成である。
中仕切り板6は、一例として亜鉛メッキ鋼板の如き無孔の金属板を、空気層として必要な振幅(一例として30mm)で緩やかな屏風型又は山形状に屈曲されている。そのため高密度で固い吸音材71と中仕切り板6との間には隙間が生じ、これが空気層15として形成されている。
図3の中仕切り板6は、板厚が2.3mmとやや厚め(重量板)の亜鉛メッキ鋼板を、金属製遮音パネル1の上下方向に、山頂角が約160°と緩やかな実質二山のM字形状に屈曲した構成とされているが、この屈曲形状には限らない。図示することは省略したが、場合によっては実質一山の更に緩やかなV字形状に屈曲した形状、又は逆に山数が三山以上に屈曲した波形状の中仕切り板で実施することもできる。
場合によっては、図2に示した金属製遮音パネル1の左右方向(長辺方向)へ緩やかな屏風型又は山形状に屈曲させた構成の中仕切り板で同様に実施することもできる。要は上記前面側の吸音材71の内側面を支持して、吸音材71の背面(内側面)とこれを支持した中仕切り板との隙間に空気層15を形成する構成であれば足りる。
【0024】
次に、上記した背面板8は、例えばフッ素ラミネート鋼板の如き無孔の金属板で構成されている。因みにこの背面板8は、板厚が例えば1.6mmと、上記中仕切り板6よりも薄い軽量板で構成されている。このように背面板8の板厚を、中仕切り板6の板厚よりも薄い軽量板で構成することにより、両板の面密度を異ならせ、共鳴による遮音性能の低下を防止することができる。
【0025】
一方、上記第二の壁構造材を構成する吸音材72も、例えばポリエステル繊維等により、その厚さを60mm程度で低密度な構成とされている。この吸音材72を上記した5kg/m以上25kg/m未満の低密度で定形性が低い構成としているから、図3の右半分に示したように、中仕切り板6の屈曲状態に倣ってその背面に隙間なく密接して中仕切り板6と背面板8を支持するする構成となる。その上、屏風型又は山形状に屈曲された中仕切り板6と背面板8との間隔が一定でないため、中仕切り板6と背面板8との共鳴による遮音性能の低下を防ぐ効果を発揮する合理的な構成となる。
【0026】
上記した無孔の背面板8の上下に一連に形成された無孔の上面板部9と下面板部10は、前面の多孔前面板5と、図4a、bに示したように、一例としてブラインドリベット11により接合して、上記中仕切り板6とその前後二つの吸音材71、72の外周を覆う外殻ケーシングが形成されている。また、外殻ケーシングの両側面の開口部は、図5に示したように、同開口部とほぼ同形に形成された側面板12で塞がれ、この側面板12も外殻ケーシングと例えばブラインドリベット11により一体的に接合して、密閉構造の金属製遮音パネル1が構成されている。
背面板8は、その上下に一連の上面板部9および下面板部10と一体的に構成されており、合計した板材料面積が中仕切り板6よりも大きい構成なので、上記の段落[0024]で説明したように両板の面密度を異ならせて、共鳴による遮音性能の低下を防止する効果を得る手段として、中仕切り板6の板厚を大きくし、逆に背面板8等の板厚が小さい構成としている。その結果、背面板8の板厚を大きく構成する場合に比して、同様な遮音性能を発揮しつつ、金属製遮音パネルの重量を軽減化できる効果が得られる。
【0027】
なお、背面板8の上下に一連に形成された無孔の上面板部9と下面板部10には、図3及び図4a、bに示したとおり、上面板部9にはその中央部の長手方向にほぼ全長に及ぶ長さで、台形状に約20mm程度の高さ隆起する凸条部9aが形成されている。下面板部10には逆に、その中央部のほぼ全長に及ぶ長さで、前記凸条部9aがほぼ密接に嵌る同形、同大の凹溝部10aが形成されている。従って、図1に示した遮音壁の構築に際しては、コンクリート基礎2の上に建てられた隣り合う二つの支柱3、3の縦溝を利用してその間へ金属製遮音パネル1を多段に建て込み積み重ねる際に、下位の金属製遮音パネル1の上面板部9に隆起する凸条部9aの上に、上位の金属製遮音パネル1の下面板部10に形成された凹溝部10aを嵌め合わせることにより、面外方向への剪断抵抗が大きく安定した積み重ね構造が得られるのである。
もっとも、上面板部9と下面板部10に上記の凸条部9aおよび凹溝部10aを設けることなく、平坦形状の上面板部9と下面板部10による金属製遮音パネル1を構成して、多段に建て込み積み重ねて遮音壁の構築を進めることも可能である。
【0028】
次に、上記した中仕切り板6と外殻ケーシングとの関係は、図3及び図4a、bに示した実施例の場合、中仕切り板6の上下の端部をほぼL字形に屈曲して形成した折り曲げ辺6a、6bが、外殻ケーシングの上記した上面板部9および下面板部10との間に、一例として厚さ2mm程度のクロロプレンゴムによるシール材13を挟んで突き合わされ、図示例の場合はブラインドリベット11により一体的に接合されている。また、同じ中仕切り板6の両サイドの端縁は、図5に例示したとおり、外殻ケーシングの両側面部を塞いだ上記側面板12の内面に、一例として発泡成形したシール材14を貼り付けて、このシール材14を間に挟んで突き合わせた構成とされている。
もっとも図示した実施例は、中仕切り板6が図3に示したように上下方向へ屏風型又は山形状に屈曲された構成を前提としている。しかし、中仕切り板6の屏風型又は山形状の屈曲が、図2の左右方向に行われている場合には、中仕切り板6の左右の両端部に、ほぼL字形に屈曲した折り曲げ辺6a、6bが形成され、外殻ケーシングの両側面部を塞いだ上記側面板12の内面との間にシール材13を挟んで接合される。また、同中仕切り板6の上下の端縁は、外殻ケーシングの上面板部9及び下面板部10の内面にシール材14を貼り付けて、同シール材14を挟んで突き合せた構成で実施されることになる。
上記の構成によれば、中仕切り板6から背面板8へ伝わる騒音や振動の伝搬がシール材13、14により遮断され、やはり遮音性能の低下を防ぐことができる。
【0029】
以上に本発明を図示した実施例に基づいて説明したが、もとより本発明は図示した実施例に限定されるものではない。所謂当業者が必要に応じて行う設計変更その他の変形・応用の範囲などを含む発明であることを念のため言及する次第である。
【符号の説明】
【0030】
1 金属製遮音パネル
5 多孔前面板
5a 孔
71、72 吸音材
6 中仕切り板
8 背面板
9 上面板部
10 下面板部
12 側面板
6a、6b折り曲げ辺
13 シール材
14 シール材
9a 凸条部
10a 凹溝部

【特許請求の範囲】
【請求項1】
背面板の上下に縦断面が略コ字形となるように上面板部と下面板部を形成し、前記上面板部と下面板部の前面側に、多数の孔を設けた多孔前面板を接合して外殻ケーシングが形成され、この外殻ケーシングの両側面の開口部は側面板で塞がれており、
前記外殻ケーシングの内部に、無孔の金属板を屏風型又は山形状に屈曲させた中仕切り板を備え、この中仕切り板の上部は前記上面板部と、前記中仕切り板の下部は前記下面板部と接合されており、
前記多孔前面板と中仕切り板との間に吸音材が配置されて第一の壁構造が形成され、前記中仕切り板と背面板の間にも吸音材が隙間なく充填されて第二の壁構造が形成されていることを特徴とする、二重壁構造を有する金属製遮音パネル。
【請求項2】
多孔前面板と中仕切り板との間に配置された吸音材は高密度の構成であり、中仕切り板と背面板の間に隙間なく充填された吸音材は低密度の構成であることを特徴とする、請求項1に記載した二重壁構造を有する金属製遮音パネル。
【請求項3】
多孔前面板と中仕切り板との間に配置された吸音材は25kg/m以上50kg/m以下の高密度な構成であり、中仕切り板と背面板の間に隙間なく充填された吸音材は5kg/m以上25kg/m未満の低密度な構成であることを特徴とする、請求項1又は2に記載した二重壁構造を有する金属製遮音パネル。
【請求項4】
中仕切り板の板厚は、背面板の板厚よりも厚い重量板の構成であることを特徴とする、請求項1〜3のいずれか一に記載した二重壁構造を有する金属製遮音パネル。
【請求項5】
無孔の金属板を屏風型又は山形状に屈曲させた中仕切り板は、一山のV字形状又は二山のM字形状に形成されていることを特徴とする、請求項1〜4のいずれか一に記載した二重壁構造を有する金属製遮音パネル。
【請求項6】
中仕切り板の屈曲方向の両端に形成した折り曲げ辺は、これと相対峙する外殻ケーシングとシール材を挟んで接合され、また、中仕切り板において屈曲方向と直交する両サイドの端縁は、これと相対峙する側面板との間にシール材を挟んで接合されていることを特徴とする、請求項1〜5に記載した二重壁構造を有する金属製遮音パネル。
【請求項7】
シール材は発泡性のゴム又は粘弾性のゴムであることを特徴とする、請求項6に記載した二重壁構造を有する金属製遮音パネル。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【公開番号】特開2011−94400(P2011−94400A)
【公開日】平成23年5月12日(2011.5.12)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−249831(P2009−249831)
【出願日】平成21年10月30日(2009.10.30)
【出願人】(000006839)日鐵住金建材株式会社 (371)
【Fターム(参考)】