説明

二重壁構造体

【課題】 自動車に用いられる部品としてのドアやフード、トランクリッドなどの二重壁構造体において、音響の透過を低減して遮音性を向上できる構成を得る。
【解決手段】 相対する板状体2,3の間に内部空間4が形成されるとともに当該内部空間4が閉鎖されている二重壁構造体において、内部空間4における空気の粒子速度が最大である位置又はその近傍位置に、1又は複数の、空気の粒子速度を低減する吸音材6を設ける。吸音材6としては、多孔質体や、板状体や、箔状体や、フィルム状体(多数の貫通孔を有している場合も含む)を採用できる。吸音材6は、前記相対する板状体2,3のうち、少なくとも加振側の放射側一方の板状体2に接触している。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は二重壁構造体に係り、より詳細には、遮音性に優れる二重壁構造体の構成に関する。
【背景技術】
【0002】
自動車に用いられる部品としてのドアやフード、トランクリッドなどに二重壁構造体を使用することが従来から提案されている(例えば、特許文献1及び2参照)。この従来例の構成を模式的に図26に示す。この従来例の二重壁構造体1’は、所定の距離を隔てて相対する板状体2,3の間に内部空間4が形成されるとともに、当該内部空間4が側板5によって閉鎖された、中空箱状の構成とされている。
【特許文献1】特開2002−96636号公報
【特許文献2】特開2003−118364号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0003】
しかし、上記特許文献1に示すような二重壁構造体1’において、(a)下側から騒音の音波が放射され、当該騒音が特定の周波数の音成分を含んでいると、その音成分に対し内部空間4での共鳴(主に板状体2,3に平行な方向の共鳴)が発生することによって、放射面たる上側の板状体3の振幅が増大してしまい、放射音の増大により遮音性能が低下してしまっていた。(b)あるいは、前記二重壁構造体1’は、板状体2−内部空間4の空気(バネとして作用)−板状体3の三者で振動系を構成するが、特定の周波数の騒音に対してはその振動系で共振が生じることがあり、これが遮音性能を低下させてしまっていた。
【0004】
本発明は以上の点に鑑みてされたものであり、その目的は、特定の周波数の音に対する音響透過量増大を抑制し、様々な周波数の音について安定して遮音性能を発揮し得る二重壁構造体を提供することにある。
【課題を解決するための手段及び効果】
【0005】
本発明の解決しようとする課題は以上の如くであり、次にこの課題を解決するための手段とその効果を説明する。
【0006】
◆本発明の第1の観点は、遮音性能の向上のために前記(a)の内部空間の空気層の共鳴の問題を解消するアプローチを採るものであって、以下の構成としたものである。即ち、相対する板状体の間に内部空間が形成されるとともに当該内部空間が閉鎖されている二重壁構造体において、その内部空間における空気の粒子速度が最大である位置又はその近傍位置に、空気の粒子速度を低減する吸音材を設けた。
【0007】
なお、「閉鎖」とは、厳密な密閉のみを意味するものではなく、一部隙間や開口部がある場合も含む。これは以下においても同様である。
【0008】
これにより、共鳴の抑制によって内部空間の音圧が低下し、放射面側の加振力が低下することにより、放射面の振動が減少し、音響透過損失の落込みを抑制できる。この結果、遮音性に優れる構造体を得ることができる。
【0009】
◆前記の二重壁構造体においては、前記吸音材は、多孔質体、板状体、箔状体、フィルム状体、からなる群から選ばれた一又は複数の組み合わせよりなる構成とすることができる。
【0010】
この構成では、簡単な構造で共鳴を抑え、音響透過損失の落込みを抑制できる。
【0011】
◆前記の二重壁構造体においては、前記吸音材は多数の貫通孔を有する構成とすることができる。
【0012】
この構成では、吸音材の貫通孔を空気が通過することで粒子速度が減じられるので、上記の共鳴の問題を良好に解消できる。
【0013】
◆前記の二重壁構造体においては、前記吸音材が、前記相対する板状体のうち少なくとも加振側又は放射側一方の板状体に接触している構成とすることができる。
【0014】
これにより、加振側の放射側一方の板状体の剛性が向上するので、加振側の板状体の振幅が低減する結果、遮音性が一層優れる構造体を提供できる。
【0015】
◆前記の二重壁構造体においては、前記吸音材が、前記相対する板状体と垂直に設置されている構成とすることができる。
【0016】
なお、「垂直」とは、厳密に垂直である場合に限られず、ほぼ垂直に設置されている場合も含まれる。
【0017】
これにより、内部空間の空気層の板状体に平行な方向での共鳴を吸音材によって効果的に低減することができ、遮音効果が一層向上する。
【0018】
◆前記の二重壁構造体においては、前記吸音材が、前記相対する板状体と平行に設置されている構成とすることができる。
【0019】
なお、「平行」とは、厳密に平行である場合に限られず、ほぼ平行に設置されている場合も含まれる。
【0020】
即ち、内部空間の空気層の共鳴は、板状体と平行な方向のほか、垂直な方向にも存在する。この点、上記構成とすれば、そのような板状体と垂直な方向の共鳴を吸音材によって効果的に低減でき、遮音性に優れる二重壁構造体を提供できる。
【0021】
◆前記の二重壁構造体においては、前記吸音材が、前記相対する板状体の長手方向に対し斜め方向に設置されている構成とすることができる。
【0022】
これにより、内部空間の空気層の前記長手方向での共鳴を、幅広い周波数帯域において低減でき、遮音性に優れる二重壁構造体を提供できる。
【0023】
◆前記の二重壁構造体においては、前記吸音材は、当該吸音材の厚み方向に貫通するスリット状の隙間を一又は複数有している構成とすることができる。
【0024】
これにより、吸音材の前記隙間を空気が通過することで粒子速度が減じられるので、上記の共鳴の問題を良好に解消できる。
【0025】
◆本発明の第2の観点は、遮音性能の向上のために前記(b)の板状体−内部空間−板状体の振動系の共振の問題を解決するアプローチを採るものであって、以下の構成としたものである。即ち、相対する板状体の間に内部空間が形成されるとともに当該内部空間が閉鎖されている二重壁構造体において、その内部空間に吸音材を、前記相対する板状体と平行に設置した。
【0026】
なお、「平行」とは、厳密に平行である場合に限られず、ほぼ平行に設置した場合も含まれる。
【0027】
この構成では、板状体−内部空間−板状体の振動系での共振が前記吸音材の減衰作用によって抑制されるので、その周波数での音響透過損失を低減できる。この結果、遮音性に優れる構造体を提供できる。
【0028】
◆前記の二重壁構造体においては、前記吸音材は、多孔質体、板状体、箔状体、フィルム状体、からなる群から選ばれた一又は複数の組み合わせよりなる構成とすることができる。
【0029】
これにより、簡単な構造で上記の共振に減衰を付与でき、遮音性能を向上できる。
【0030】
◆前記の二重壁構造体においては、前記吸音材は多数の貫通孔を有する構成とすることができる。
【0031】
この構成では、空気層内の空気の流れを妨げることなく、上記振動系の共振を効果的に低減できる。
【0032】
◆本発明の第3の観点は、前記第2の観点と同様に、遮音性能の向上のために前記(b)の板状体−内部空間−板状体の振動系の共振の問題を解決するアプローチを採るものであって、以下の構成としている。即ち、相対する板状体の間に内部空間が形成されるとともに当該内部空間が閉鎖されている二重壁構造体において、その内部空間に質量体を、前記相対する板状体と平行に設置した、二重壁構造体が提供される。
【0033】
なお、「平行」とは、厳密に平行である場合に限られず、ほぼ平行に設置した場合も含まれる。
【0034】
この構成では、内部空間の空気層が質量体によって板状体の厚み方向に分断され、新たな振動系が構築される。例えば質量体を1つ設置した場合には、板状体−空気層−質量体−空気層−板状体という振動系が構成される。このように振動系が変容されて質量体が動吸振器としての作用を営む結果、共振の問題を低減でき、遮音性能を向上できる。
【0035】
◆前記の二重壁構造体においては、前記質量体は、多孔質体、板状体、箔状体、フィルム状体、からなる群から選ばれた一又は複数の組み合わせよりなる構成とすることができる。
【0036】
この構成では、簡単な構造で共振を低減でき、音響透過損失の落込みを抑制できる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0037】
次に、発明の実施の形態を説明する。図1から図25には二重壁構造体の実施例がそれぞれ示されており、以下、順を追って説明する。
【0038】
図1に模式図を示す実施例1−1の二重壁構造体は、乗用車の部品としてのドアを想定したものである。この二重壁構造体1は、平行に配置されるとともに互いに所定の距離をおいて相対する板状体2,3を備えている。板状体2,3は一方向に若干長い長方形状に構成されており、2枚の対向する板状体2,3の間には、内部空間4が形成される。板状体2,3同士を繋ぐように側板5が設けられており、これによって内部空間4はほぼ閉鎖される。言い換えれば本実施形態の二重壁構造体1は、二重壁たる板状体2,3と、前記側板5とで、前記内部空間4を囲む箱状に構成されている。
【0039】
そして本実施形態では、前記内部空間4における空気の粒子速度が最大となる位置に矩形板状の多孔質体(吸音材)6を設けている。この多孔質体6の素材としては、例えば、グラスウールやフェルトなどの繊維系のものを用いることができる。なお、多孔質体6の設置位置の決定にあたっては、内部空間での共鳴によって発生する空気の動きによる粒子速度が最大となる位置を有限要素法や境界要素法による数値計算によって求め、あるいは実際の構造体を製作してその吸音性能を測定することによって求めて、その位置に配置するものとしている。ただし、計算で理論的に求めた位置と実際に吸音効果が最も高い位置とは厳密には一致せずズレが生じることも多いので、実際に多孔質体6を配置する位置は、空気の粒子速度の最大となる位置に厳密に限定されず、その近傍位置であってもよい。
【0040】
図1では板状体2,3の長手方向を2等分する位置に、その長手方向に直交する方向の板状の多孔質体6を設けている。この多孔質体6の端面は、上記相対する板状体2,3のうち、加振側(下側)の板状体2と接触している。
【0041】
上記構成において下側から板状体2側が音圧加振されると、板状体2が振動することにより内部空間の長手方向で共鳴が起こる。このとき、前記多孔質体6によって内部空間4において空気の粒子運動が減衰し、放射面たる上側の板状体3の加振力が低下するので、放射面の振幅が低減される。この結果、音響透過損失の落込みを低減できる。
【0042】
なお、本実施例においては、この多孔質体6の下端部が、上記相対する板状体2,3のうち、加振側の板状体2に接触している。具体的には、多孔質体6と板状体2とが、接着剤等で接着することにより接合されている。これにより、下側の板状体2の剛性が向上するので、板状体2の振幅が低減する結果、遮音性の一層の向上が得られている。
【0043】
図2には実施例1−2が示され、この構成において多孔質体6は、板状体2,3の長手方向に直交する方向のほか、幅方向(短手方向)に直交する方向にも設けている。即ち、多孔質体6は十字状に配置され、内部空間4を縦横に区画している。この場合は、板状体2,3の長手方向のみでなく幅方向の共鳴も抑制できる。言い換えれば、二つの音圧モード方向における共鳴を抑制し得る構成となっている。
【0044】
図3には実施例1−3が示され、この構成において多孔質体6は、板状体2,3の長手方向を四等分するように、3枚設けられている。この構成は、音圧モードの腹の箇所が複数ある場合に有効である。即ち、多孔質体6を幾つ設けるかについては、想定される騒音による二重壁構造体1の共鳴モードを考慮して、最適な個数を決定すれば良い。
【0045】
図4には実施例1−4が示されるが、この実施例1−4は前記の実施例1−2と1−3を組み合わせたものに相当する。即ち、多孔質体6は、板状体2,3の長手方向に直交するように3枚、幅方向(短手方向)に直交する方向に1枚、それぞれ設けられている。
【0046】
図5〜図8は実施例2−1〜2−4を示し、これらの実施例は前述の実施例1−1〜1−4において、多孔質体6の代わりに多孔板7を設けたものである。この多孔板7は、貫通孔8,8・・・を多数並べて穿孔した構成とされている。多孔板7の素材としては、鉄、アルミ、樹脂、繊維強化複合材料、紙など、様々なものを採用できる。この構成によっても、前記実施例1−1〜1−4と同様の効果が得られる。特に、空気の粒子が貫通孔8,8・・・を通過する際にその速度が効果的に減じられるので、上記の共鳴抑制効果は大である。
【0047】
また、上記実施例2−1〜2−4において、多孔板7の代わりに箔状体、フィルム状体を用いても良い。箔状体としては例えば鉄、アルミ等からなる金属箔、樹脂箔、紙、木質系素材からなる箔等が考えられ、フィルム状体としては例えば樹脂フィルム等が考えられる。箔状体あるいはフィルム状体には、貫通孔が設けられていても良いし、設けられていなくても良い。また、フィルム状体や箔状体には通常は自律性がないが、自律性を持たせるために箔状体やフィルム状体にリブなどの補強部材を取り付けたり、あるいは箔状体やフィルム状体自体を折り曲げたり凹凸を設けたりしても良い。
【0048】
更には、上記実施例2−1〜2−4において、2枚以上の箔状体やフィルム状体が互いに接触するように重ねられた構造を、吸音材として採用しても良い。この場合の箔状体やフィルム状体には、貫通孔が設けられていても良いし、貫通孔なしの構成でも良い。なお、上に述べた実施例においては、吸音材の端部と板状体との間に隙間はない方が好ましいが、隙間が設けられていても良い。
【0049】
図9は実施例3−1を示す。この実施例は、吸音材としてスリット板10を採用したものである。板状体としてのスリット板10には、当該スリット板10の長手方向に平行な細長いスリット状の隙間11,11・・・を、板状体2,3の厚み方向に適宜の間隔をあけて複数並べて形成している。これら隙間11は、それぞれスリット板10を厚み方向に貫通するように形成されている。スリット板10の素材としては、例えば、鉄、アルミ、樹脂、繊維強化複合材料、紙などを適用できる。この構成によっても、上記の実施例1−1〜1−4と同様の効果が得られる。特に、空気の粒子がスリット状の隙間11,11・・・を通過する際にその速度が効果的に減じられるので、上記の共鳴抑制効果は大である。
【0050】
図10の実施例3−2は、スリット板10に形成される隙間11,11・・・の方向を上下方向(板状体2,3の厚み方向)に変更したものである。このように、スリット状の隙間11,11・・・の方向は、水平、上下の何れでも構わないし、また斜めでも構わない。隙間11,11・・・の本数も実施例に限定されるものではなく、何本でも構わない。また、図11の実施例3−3、図12の実施例3−4に示すように、スリット状の隙間11,11・・・の長手方向端部を開口させない構成としても良い。
【0051】
図13は実施例4−1を示す。この実施例では、多孔質体6が、相対する板状体2,3と平行に配置されたものである。多孔質体6は板状体2,3とほぼ同じ形状とされており、前記内部空間4を厚み方向に二等分するように設けられている。
【0052】
前記多孔質体6は、前記内部空間4において板状体2,3の厚み方向で見たときに、空気の粒子速度が最大である位置に設けられている。従って、板状体2,3の厚み方向における共鳴を効果的に低減できる。
【0053】
図14の実施例4−2は、多孔質体6を2枚、前記内部空間4を厚み方向に三等分するように設けたものである。共鳴モードによっては、このように多孔質体6を複数設けることが有効である。
【0054】
図15の実施例4−3、図16の実施例4−4は、それぞれ実施例4−1,4−2において多孔質体6の代わりに多孔板7を使用したものである。この構成でも前記実施例4−1,4−2と同様の共鳴低減効果が得られる。なお、実施例4−1,4−2では多孔板7が、板状体2−内部空間4の空気層−板状体3で構成される振動系の共振を減衰する役割をも果たすので、二重の意味で遮音性能を向上できる。なお多孔質体6は、相対する板状体2,3と厳密に平行に設置される必要は必ずしもなく、ほぼ平行に設置した構成であっても良い。また、多孔板7に代えて実施例3−1〜3−4と同様のスリット板10としても良い。
【0055】
図17の実施例5−1は、箔状体9を2枚、互いに接触し合うように厚み方向に重ねられた構造としたものを、吸音材として採用している。なお、箔状体9は3枚以上重ねられていても良い。重ねられた箔状体の設置位置、設置方向、設置枚数(組)についても限定されず、例えば図18の実施例5−2のように3組(計6枚)設置することもできる。更には、図19の実施例5−3、図20の実施例5−4のように、箔状体9に多数の貫通孔8,8・・・が穿孔されていても良い。箔状体9の代わりにフィルム状体を採用しても良い。
【0056】
図21の実施例6−1に示すように、吸音材としての多孔質体6を、板状体2,3の長手方向に対して斜め方向に設けても良い。このように斜めに設置することで、幅広い周波数帯域に対して内部空間での共鳴を的確に低減できる。なお、図22の実施例6−2に示すように貫通孔8,8・・・を形成した箔状体9を斜めに設置しても良いし、図23の実施例6−3に示すように、2枚の箔状体9を互いに間隔をあけて平行となるように斜めに設置しても良い。どの程度斜めに傾けて設置するか、及び設置枚数については限定されない。また、この実施例6−1,6−2の構成は、実施例1−1〜2−4(図1〜図8)の構成と組み合わせることも可能である。また、実施例5−3,5−4,6−2,6−3の箔状体の貫通孔を、実施例3−1〜3−4に示すようなスリット状の貫通孔としても良い。
【0057】
図24の実施例7−1は、箔状体9が、前記の実施例4−1(図13)と同様に、相対する板状体2,3と平行に配置されたものである。この箔状体9は、内部空間4の空気層を板状体2,3の厚み方向に分断して新たな振動系を構成するための質量体としての役割を果たす。即ち、箔状体9が設置されることによって、板状体2−内部空間4−箔状体9−内部空間4−板状体3の新しい振動系が構成される。そして、新しい振動系の固有振動数を旧来の振動系(板状体2−内部空間4の空気層−板状体3)の固有振動数と一致するように箔状体9の質量等を定めることにより、内部の箔状体9を積極的に共振させて板状体2,3の振動を吸収している(いわゆる動吸振器の原理)。即ち実施例7−1では、新たな振動系の構築による共振の低減という方法によって、遮音性能を向上させている。なお、この実施例7−1においては、箔状体9の代わりにフィルム状体を用いても良いし、板状体を用いても良い。
【0058】
図25の実施例8−1は、前記の実施例1−2(図2)の多孔質体6を、二重壁構造体の内部空間に固定される何らかの機器の固定部材12と一体であるように設けたものである。図25に例示するように、吸音材としての多孔質体6や多孔板7、箔状体9等は、機器の固定部材12と一体であるように設けたり、機器の固定部材12を兼ねるようにして設けたりすることができる。また、内部空間に固定される機器の本体の一部を兼ねるように、多孔質体6や多孔板7、箔状体9等を設けても良い。内部空間に固定される機器としては、二重壁構造体1を自動車に用いられる部品としてのドアに適用する場合は、例えば、ドアガラス昇降用機器、サイドインパクトドアビーム、インナー若しくはその一部などを挙げることができる。
【0059】
上記の実施形態の有効性を確かめるために、以下のような実験を行った。即ち、実施例1−1〜1−4、2−1〜2−4、4−1〜4−2、6−1〜6−3のそれぞれの構造の二重壁構造体1を、音源室、受音室からなる残響室における両室の間の位置に設置し、JIS A1416に基づいて二重壁構造体1の片側から適宜の騒音を発生させ、二重壁構造体1を挟んだ両側で騒音計を用いて音圧を計測して、音響透過損失を求めた。
【0060】
この結果を図27〜図30に示す。なお図27〜図30のグラフのそれぞれには、従来例の構造(図26)について同様の実験を行った結果も併せて示してある。各図のグラフに示すように、従来例においては315Hz付近の周波数領域において音響透過損失に落ち込みがみられ、この部分で共鳴ないし共振が生じていると推測される。一方、本発明の各実施例の構成においては、空気の粒子速度が最大となる位置で多孔質体6又は多孔板7によって空気の粒子速度が低減されている結果、または振動系の共振が低減されている結果、315Hz付近の領域においても音響透過損失の落込みが全くみられず、遮音性能を向上できていることが判る。
【0061】
以上に本発明の好適な実施形態を示したが、本発明の技術的範囲は以上の実施形態に限定されるものではなく、様々に変形して実施することができる。
【0062】
例えば本発明の二重壁構造体は、乗用車のドアのみならず、例えばフード、トランクリッドに適用することができる。また、板状体2,3の形状については、上記のような長方形とすることに限らず、必要とされる部品の形状に応じて種々変更され得ることは言うまでもない。
【0063】
また、多孔質体6(又は多孔板7)と加振側の板状体2を接合することに代えて、多孔質体6(又は多孔板7)と放射面側の板状体3とを接合する構成としても良い。
【0064】
また、音圧モードの方向(言い換えれば、多孔質体6又は多孔板7の向き)については、騒音源との位置関係などの様々な事情を考慮して、任意に定めて良い。
【0065】
更には、前記多孔質体6としては、前述のグラスウールやフェルト等のほか、例えばポリウレタン、連続気泡の発泡材を用いることができる。また、多孔板7の貫通孔については、孔を通過する空気の粘性作用が期待できるような微細なものであるのが好ましい。
【図面の簡単な説明】
【0066】
【図1】本発明の二重壁構造体の実施例1−1の斜視図。
【図2】実施例1−2の斜視図。
【図3】実施例1−3の斜視図。
【図4】実施例1−4の斜視図。
【図5】実施例2−1の斜視図。
【図6】実施例2−2の斜視図。
【図7】実施例2−3の斜視図。
【図8】実施例2−4の斜視図。
【図9】実施例3−1の斜視図。
【図10】実施例3−2の斜視図。
【図11】実施例3−3の斜視図。
【図12】実施例3−4の斜視図。
【図13】実施例4−1の斜視図。
【図14】実施例4−2の斜視図。
【図15】実施例4−3の斜視図。
【図16】実施例4−4の斜視図。
【図17】実施例5−1の斜視図。
【図18】実施例5−2の斜視図。
【図19】実施例5−3の斜視図。
【図20】実施例5−4の斜視図。
【図21】実施例6−1の斜視図。
【図22】実施例6−2の斜視図。
【図23】実施例6−3の斜視図。
【図24】実施例7−1の斜視図。
【図25】実施例8−1の斜視図。
【図26】従来例の二重壁構造体の構成を示す斜視図。
【図27】実施例1−1〜1−3の音響透過抑制効果を従来例と比較して示すグラフ図。
【図28】実施例2−1〜2−3の音響透過抑制効果を従来例と比較して示すグラフ図。
【図29】実施例4−1〜4−2の音響透過抑制効果を従来例と比較して示すグラフ図。
【図30】実施例6−1〜6−3の音響透過抑制効果を従来例と比較して示すグラフ図。
【符号の説明】
【0067】
1 二重壁構造体
2 加振側の板状体
3 板状体
4 内部空間
6 多孔質体(吸音材)
7 多孔板(吸音材、貫通孔を多数有する板状体)
8 貫通孔
9 箔状体(吸音材、質量体)
10 スリット板(吸音材、板状体)
11 スリット状の隙間

【特許請求の範囲】
【請求項1】
相対する板状体の間に内部空間が形成されるとともに当該内部空間が閉鎖されている二重壁構造体において、その内部空間における空気の粒子速度が最大である位置又はその近傍位置に、空気の粒子速度を低減する吸音材を設けたことを特徴とする二重壁構造体。
【請求項2】
請求項1に記載の二重壁構造体であって、前記吸音材は、多孔質体、板状体、箔状体、フィルム状体、からなる群から選ばれた一又は複数の組み合わせよりなることを特徴とする二重壁構造体。
【請求項3】
請求項2に記載の二重壁構造体であって、前記吸音材は多数の貫通孔を有することを特徴とする二重壁構造体。
【請求項4】
請求項1から請求項3までの何れか一項に記載の二重壁構造体であって、前記吸音材が、前記相対する板状体のうち少なくとも加振側又は放射側一方の板状体に接触していることを特徴とする二重壁構造体。
【請求項5】
請求項1から請求項4までの何れか一項に記載の二重壁構造体であって、前記吸音材が、前記相対する板状体と垂直に設置されていることを特徴とする二重壁構造体。
【請求項6】
請求項1から請求項4までの何れか一項に記載の二重壁構造体であって、前記吸音材が、前記相対する板状体と平行に設置されていることを特徴とする二重壁構造体。
【請求項7】
請求項1から請求項5までの何れか一項に記載の二重壁構造体であって、前記吸音材が、前記相対する板状体の長手方向に対し斜め方向に設置されていることを特徴とする二重壁構造体。
【請求項8】
請求項1又は請求項2に記載の二重壁構造体であって、前記吸音材は、当該吸音材の厚み方向に貫通するスリット状の隙間を一又は複数有していることを特徴とする二重壁構造体。
【請求項9】
相対する板状体の間に内部空間が形成されるとともに当該内部空間が閉鎖されている二重壁構造体において、その内部空間に吸音材を、前記相対する板状体と平行に設置したことを特徴とする二重壁構造体。
【請求項10】
請求項9に記載の二重壁構造体であって、前記吸音材は、多孔質体、板状体、箔状体、フィルム状体、からなる群から選ばれた一又は複数の組み合わせよりなることを特徴とする二重壁構造体。
【請求項11】
請求項10に記載の二重壁構造体であって、前記吸音材は多数の貫通孔を有することを特徴とする二重壁構造体。
【請求項12】
相対する板状体の間に内部空間が形成されるとともに当該内部空間が閉鎖されている二重壁構造体において、その内部空間に質量体を、前記相対する板状体と平行に設置したことを特徴とする二重壁構造体。
【請求項13】
請求項12に記載の二重壁構造体であって、前記質量体は、多孔質体、板状体、箔状体、フィルム状体、からなる群から選ばれた一又は複数の組み合わせよりなることを特徴とする二重壁構造体。


【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【図14】
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【図15】
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【図16】
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【図17】
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【図18】
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【図19】
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【図20】
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【図21】
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【図22】
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【図23】
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【図24】
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【図25】
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【図26】
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【図27】
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【図28】
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【図29】
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【図30】
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【公開番号】特開2006−99025(P2006−99025A)
【公開日】平成18年4月13日(2006.4.13)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2004−300306(P2004−300306)
【出願日】平成16年10月14日(2004.10.14)
【出願人】(000001199)株式会社神戸製鋼所 (5,860)
【Fターム(参考)】