説明

二重平編部を有する筒状生地及びその編成方法

【課題】筒状生地において、保温性を十分に備えた衣類などを製作するうえで好適に使用できるようにする。
【解決手段】シリンダ13に保持されて上下動するシリンダ針17とシリンダ13上のダイヤル14に保持されて径方向に摺動するダイヤル針19との両方を用いたゴム編を行って編成された筒状のゴム編部5に対しその所定領域に、シリンダ針17だけで編成された平編部6Aとダイヤル針19だけで編成された平編部6Bとが表裏で乖離した状態に保持される二重平編部6が設けられ、当該二重平編部6とゴム編部5との連結部が編み方の切替で形成されることによって無縫製状態に仕上げられている。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、二重平編部を有する筒状生地及びその編成方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
一般に「ダブルの丸編機」と呼称されている丸編機は、シリンダ針を上下動自在に保持したシリンダと、このシリンダの上部に設けられてダイヤル針を径方向外方へ摺動自在に保持したダイヤルとを有したものであり、シリンダ及びダイヤルの一体回転時にシリンダ針とダイヤル針とで形成されるニッティングポイントから「ゴム編」(「リブ編」「フライス」又は「ダブル生地」等とも呼称される)の筒状生地を編み降すことができるようになっている。
「ゴム編」とはループが凸で並ぶ列とループが凹で並ぶ列とがコース方向で交互配置となる編組織を言い、表裏の区別がでない安定した編地である。
【0003】
ところで、ダブルベッドを有する編機(横編機など)やダブルの丸編機などを用いて、コース方向で適度に袋編みが混在したリピート型の編組織を編成させる方法が提案されている(特許文献1参照)。このような袋編み組織を備えた生地で衣類を製作すると、編組織中に空気層が内包されるので保温性を持たせられる、ということになっている。
例えばダブルの丸編機を用いて5口リピートとする場合、第1、第4給糸口ではシリンダ針による天竺編(平編に同じ)をし、第5給糸口ではダイヤル針による天竺編をし、第2給糸口ではシリンダ針でタック編をしながらダイヤル針でニット編をし、第3給糸口ではシリンダ針でニット編をしながらダイヤル針でタック編をする(これら第2、第3給糸口で表裏の結節が生じる)というのが、その編成方法である。
【0004】
この他、丸編機を使った紳士用靴下の編成方法として、ゴム編と平編とを繰り返すようにする編み方が提案されている(例えば特許文献2等参照)。このような編み方は、筒状生地の周方向における緊締力(着用時のフィット性や締め付け性)を、丈方向で適度にバランスさせる(強い部分と弱い部分とを巧く分布させる)ための手法とされている。
但し、この編成方法は、ダブルシリンダーの丸編機(2つのシリンダーが直列的に設けられたもの)を用いるものとされ、装備する編成針(シリンダ針)には両頭針が必要になっている。
【特許文献1】特開平9−176938号公報
【特許文献2】実用新案登録第3018334号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
保温性を十分に備えた衣類を製作するうえで、従来公知の編成方法(特許文献1など)により編成された生地を使用しても、満足できるほどの保温性を得るには至らなかった。その理由は、編組織中に内包させる空気層が、その一つ一つを大きくできない点にあるからではないかと推測される。
保温性を高めるという意味において、ゴム編と平編とを混在させたような生地(特許文献2等で開示されたもの)では殆ど効果が得られないことは言うまでもない。
なお、平編等によって編成した生地を二重(二枚重ね)にすることで、大きな空気層を保有させることはできるが、このような二重の生地を製作するには、生地同士がズレたり分離したりしないように縫製作業が別途、必要になる。そのため、工数の増加に伴う生産性の低下やコストアップ、更には凸条の縫着ラインが発生することに伴う着心感の悪化など、種々の問題が発生するものとなっていた。
【0006】
本発明は、上記事情に鑑みてなされたものであって、保温性を十分に備えた衣類などを製作するうえで好適に使用することができる二重平編部を有する筒状生地を提供することを目的とすると共に、この筒状生地を、丸編機により高能率で編成することができるようにした二重平編部を有する筒状生地の編成方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
前記目的を達成するために、本発明は次の手段を講じた。
即ち、本発明に係る二重平編部を有する筒状生地は、シリンダに保持されて上下動するシリンダ針とシリンダ上のダイヤルに保持されて径方向に摺動するダイヤル針との両方を用いたゴム編を行って編成された筒状のゴム編部に対し、その所定領域に、シリンダ針だけで編成された平編部とダイヤル針だけで編成された平編部とが表裏で乖離した状態に保持される二重平編部が設けられ、当該二重平編部とゴム編部との連結部が編み方の切替で形成されることにより無縫製状態に仕上げられたものである。
【0008】
このように二重平編部(平編部で二枚重ねになった部分)を具備しているため、保温性を十分に備えた衣類などを製作するうえで好適に使用することができる。また、ゴム編により編成された筒状のゴム編部のなかに二重平編部が無縫製で設けられているので、縫着の必要はなく、したがって凸状の縫着ラインが発生することもない。このことから、生産性の低下やコストアップ、着用感の悪化なども未然に防止できるものである。
ゴム編部、表裏の各平編部のうち、少なくとも一つの編部が、他の編部と異なる糸により編成された構成とすることができる。
【0009】
すなわち、ゴム編部と二重平編部との間、或いは二重平編部の表と裏との間で、肌触りや保温性などの機能を異ならせた構成とする。このようにすることで、例えば看者側からの外観性と着用者側からの着心地とを、それぞれ最適な状態として持たせるようにしたり、着用者の部位(胸部と腹部となど)ごとに最適な機能を持たせるようにしたりできるものである。
なお、このように編部によって糸を異ならせるには、ストライパー(給糸切替装置)によりシリンダ側及びダイヤル側へ給糸する糸種(短繊維であるか長繊維であるかに限定されない)を切り替えるようにすればよい。
【0010】
ゴム編部は筒径がボディサイズとすることができる。このようにすることで、筒状生地としてそのまま(裁断や縫製などすることなく)身生地に利用できるので、生産性に優れ、低コストで且つ着心地に優れた衣類を製作することができる。
またゴム編部は18ゲージ以上の丸編機を用いて編成されたものとすることができる。このようにすることで、この筒状生地はアンダーウエアを製作するのに使用することができ、保温性などに優れたアンダーウエアを製作することが可能となる。
一方、本発明に係る二重平編部を有する筒状生地の編成方法は、シリンダまわりに分散配置された複数の給糸口に対応して形成される各ニッティングポイントで、シリンダに保持されて上下動するシリンダ針とシリンダ上のダイヤルに保持されて径方向に摺動するダイヤル針との両方を用いたゴム編を行って筒状のゴム編部を編み降ろしし、しかる後、所定の給糸口に対応するニッティングポイントではシリンダ針を停止させることによりダイヤル針だけによる平編を行わせると共に、上記以外の給糸口に対応するニッティングポイントではダイヤル針を停止させることによりシリンダ針だけによる平編を行わせるようにし、もってゴム編部に対する所定領域に、無縫製状態のまま、シリンダ針だけによる平編部とダイヤル針だけによる平編部とが表裏で乖離した二重平編部を設けるようにする。
【0011】
このように、ゴム編が可能な丸編機を用いて、シリンダ針及びダイヤル針の動作制御をするだけで、ゴム編部分と二重平編部とが無縫製状態のまま混在して成る筒状生地を編成することができる。
シリンダ針だけによる平編とダイヤル針だけによる平編とを行って二重平編部を編成した後、シリンダ針だけで平編を行っている給糸口対応のニッティングポイントでは停止中のダイヤル針に編み動作を開始させてシリンダ針及びダイヤル針の両方を用いたゴム編を行わせる共に、ダイヤル針だけで平編を行っている給糸口対応のニッティングポイントでは停止中のシリンダ針に編み動作を開始させてシリンダ針及びダイヤル針の両方を用いたゴム編を行わせるようにし、もって二重平編部から無縫製状態のままゴム編部を編み降ろすようにするとよい。
【0012】
このようにすることで、ゴム編部分と二重平編部とが無縫製状態のまま混在して成る筒状生地を、連続生地として編成することができる。
シリンダ針だけによる平編とダイヤル針だけによる平編とを行って二重平編部を編成中に、所定の給糸口に対応するニッティングポイントにおいて停止中の針を単発的に編み位置まで動作させると共にすぐに元の停止状態に戻し、もって二重平編部に対して点在的に表裏間を連結した結節部を形成させるようにするとよい。
このような結節部を形成させることで、二重平編部は表側の平編部と裏側の平編部とが必要以上に分離せず、両平編部相互間に形成される空気層は、その容量が極端に拡縮するようなことはない。そのため、空気層による保温効果が一定状態に保たれることになる。また表側の平編部と裏側の平編部とが面方向にズレることもないので、皺などの発生を防止できることになり、着崩れの防止に繋がり、また見栄え上も好適である。
【0013】
結節部により二重平編部の外面に図柄を形成させるようにしてもよい。
このようにすることで、二重平編部の審美性を高めることができる。殊に、二重平編部において表側の平編部と裏側の平編部とで異なる色の糸を用いた場合、表側の糸色を背景としつつ裏側の糸色が結節部による図柄を表現する状態となり、図柄が顕著に浮かび上がるようになる。それだけ装飾性が際だつ(図柄の輪郭が明確になる)ものとなり、また目立った効果(強い印象性)が得られるようになる。
なお、ここにおいて図柄とは、色彩的な組み合わせによって模様、絵、文字などを表現したものの他、結節部による立体性を利用して陰影を伴わせることにより、模様、絵、文字などを表現したものをも含むものとする。
【発明の効果】
【0014】
本発明に係る二重平編部を有する筒状生地は、保温性を十分に備えた衣類などを製作するうえで好適に使用することができる。
また本発明に係る二重平編部を有する筒状生地の編成方法により、保温性を十分に備えた衣類などを製作するのに好適に使用可能な筒状生地を、丸編機により高能率で編成することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0015】
以下、本発明の実施の形態を、図面に基づき説明する。
図1(a)及び(b)は、本発明に係る筒状生地1の第1実施形態を示している。また図2は、この筒状生地1を用いて製作した衣類2の一例を示している。
なお、図2に示した衣類2は肩ひも3を有するスリップ(アンダーウエアの一例)としてある。従って図例の衣類2を製作するために用いた筒状生地1は、筒径がボディサイズ(裁断や縫製を加えずに筒径をそのまま身生地に適用できるサイズ)であり、且つ18ゲージ以上の丸編機を用いて編成されたもの(アンダーウエアに適するように編み目が密となったもの)とした。
【0016】
図1(a)から明かなように、筒状生地1は1着の衣類2を製作するのに必要な長さ(1ピースとする長さ)を繰り返した連続生地(長尺生地)として丸編機によって編成された後、各ピースごとにコース方向(筒形状の周方向に相当)に沿って編み入れられた溶融糸4を溶断することで、1ピースごとに取り出されている。
各筒状生地1は、ゴム編部5に対し、その所定領域に二重平編部6が無縫製で連結されたものとなっている。ゴム編部5は一重(一枚)の生地であるのに対し、二重平編部6は衣類2として表(外)を向く側の平編部6A(以下、必要に応じて「表側平編部6A」と言う)と、衣類2として裏(内)を向く側の平編部6B(以下、必要に応じて「裏側平編部6B」と言う)とを、互いに乖離させたまま二枚重ねにした生地である。
【0017】
ここにおいて、「乖離させた」というのは、二枚の平編部6A,6Bを二層構造に貼り合わせたものではない(全面的に接着させたようなものではない)という意味であり、両平編部6A,6Bの間には面方向に広がった空間7が保持されるようになっている。
また、これらゴム編部5と二重平編部6とは、後述するように、編成途中で編み方の切替を行うことによって設けられている。両者が「無縫製で連結された」というのはこのような編成方法で実現されたものを言う。
すなわち、これらゴム編部5と二重平編部6との連結部分は、衣類2の丈方向で断面的に見るとY字状に繋がった構造になっている。本第1実施形態において、ゴム編部5及び二重平編部6はいずれも筒状に編成されたものとしてあり、そのためゴム編部5と二重平編部6とは筒形の周方向全周で、上記Y字状断面を有して連結されたものとなっている。
【0018】
なお、衣類2のなかにあって、二重平編部6は、着用者の胸部を覆うように上側に配置され、ゴム編部5がその下側に配置されている。
ゴム編部5は、ループが凸で並ぶ列とループが凹で並ぶ列とがコース方向で交互配置となって、表裏の区別がでない安定した編組織(一般に「リブ編」「フライス」「ダブル生地」等と呼称された編組織と同じ)を有したものである。
これに対して二重平編部6を形成している平編部6A,6Bは、いずれも、凸列のループだけで単一構成される面と凹列のループだけで単一構成される面とが表裏に分かれた編組織(一般に「天竺編」や「シングル生地」等と呼称された編組織と同じ)を有したものである。
【0019】
表側平編部6A及び裏側平編部6Bは、空間7を介して対向する面が、共に凹列のループだけで単一構成される面であるものとしてもよいし、反対に凸列のループだけで単一構成される面であるものとしてもよい。
また、表側平編部6A又は裏側平編部6Bのうち一方において、空間7に臨む面が凸列のループだけで単一構成される面であり、他方が凹列のループだけで単一構成される面であるものとしてもよい。
このような二重平編部6では、表側平編部6Aと裏側平編部6Bとの相互間に形成される空間7に空気層を確保させることができる。そのため、衣類2として、この二重平編部6の領域で満足し得る十分な保温性を得ることができるものである。
【0020】
また、ゴム編部5と二重平編部6とが無縫製のまま連結されているので、この連結位置に関しては、衣類2を製作する過程で縫着の必要がなく、従って当然に、凸状の縫着ラインが発生することもない。これらのことから、衣類2の製作に関して高生産性、低コスト、着用感の向上が図れるといった種々の利点がある。
このような筒状生地1を編成するには、図3及び図4に示すような丸編機10を用いる。この丸編機10は、円筒形のシリンダ13と、このシリンダ13の上部に設けられた円盤状のダイヤル14とを有している。これらシリンダ13及びダイヤル14は、それらの中心Pを通る回転軸15のまわりで互いに一体回転可能とされており、この回転軸15に設けられた伝動手段16を介して回転駆動が与えられるようになっている。
【0021】
シリンダ13には、その外周面全周を取り囲む配置で多数本のシリンダ針17が上下動自在に保持されている。シリンダ13のまわりには定置状態でカムホルダー18が設けられており、このカムホルダー18の内周面に、各シリンダ針17に所定タイミングで上下動(編成動作)を起こさせるためのステッチカムが設けられている。
ダイヤル14には、その上面で中心から放射状配置で多数本(シリンダ針17と同数)のダイヤル針19が径方向に沿って摺動自在に保持されている。このダイヤル14の上部には上部カムホルダー20が定置状態で設けられており、この上部カムホルダー20の下面に、ダイヤル針19に横移動(編成動作)を起こさせるためのダイヤルカムが設けられている。
【0022】
従って、シリンダ13及びダイヤル14が一体回転すると、シリンダ針17が上下動すると共にダイヤル針19が横移動するようになり、これらシリンダ針17の針先(フック部)とダイヤル針19の針先(フック部)との交差部で形成されるニッティングポイントへストライパー(給糸切替装置)22を介して給糸されることで、筒状生地1が編み降ろされる。
なお、筒状生地1は、シリンダ13の内方を介して垂れ下げられ、シリンダ13の下方に吊り枠25を介して設けられた巻取装置26によって巻き取られる。
【0023】
シリンダ13及びダイヤル14の外径は、ボディサイズの筒状生地1を編成できるサイズに形成されている。またシリンダ13におけるシリンダ針17のゲージ数、及びダイヤル14におけるダイヤル針19のゲージ数は、いずれも18ゲージ以上とされている。
なお、ゲージ数はシリンダ13やダイヤル14の周方向において1インチあたりに配置される針本数を言う(即ち「18ゲージ」とは18本/インチを指す)が、このゲージ数は、所謂、「呼び数」であって、厳密に実態としての針本数を表したものではない。従って18ゲージには、1インチあたり17本を超え19本未満の針本数とされたものも含まれるものとする。
【0024】
シリンダ13のまわりには、複数の給糸口30が分散配置されており(図4は8口の場合を示している)、各給糸口30に対応して上記ストライパー22が設けられている。
またシリンダ13のカムホルダー18に対しては、各給糸口30に対応する状態で、ステッチカム内のカム経路を変更可能にするスイングカムをはじめ、ニッティングポイントが形成される有効範囲内でシリンダ針17の動作量を可変にするステッチ量調整装置35や、シリンダ針17による編成の可否を選択可能にする選針機36が設けられている。
ステッチ量調整装置35は、サーボモータ又はステッピングモータなどの制御モータにより、シリンダ13の周方向で複数に分割されたステッチカムを上下動させる構造であり、且つ全てのステッチカムに制御モータが割り当てられた構造であるため、各制御モータの制御によってシリンダ針17の上昇位置(高さ)を変化させ、もってコース方向の所望箇所でループの大きさを変更できる。
【0025】
ダイヤル14についてもシリンダ13の場合と略同様であり、各給糸口30に対応する状態でスイングカム、ステッチ量調整装置37、選針機38が設けられている。
次に、上記丸編機10によって筒状生地1を編成する方法を説明する。
まず図6に示すように、全ての給糸口30に対応したニッティングポイントにおいてシリンダ針17とダイヤル針19との両方を用いたゴム編を行って、ゴム編部5を筒状に編み降ろす。
ゴム編部5が所定長さ編成できたところで、図7に示すように、所定の給糸口30(図例では1番給糸口及び3番給糸口に相当)に対応するニッティングポイントでは、シリンダ針17を停止させることによりダイヤル針19だけによる平編を行わせ、これによって裏側平編部6Bを編成させる。
【0026】
またこれ以外の給糸口30(図例では2番給糸口及び4番給糸口に相当)に対応するニッティングポイントでは、ダイヤル針19を停止させることによりシリンダ針17だけによる平編を行わせ、これによって表側平編部6Aを編成させる。
このようにしてシリンダ針17だけを用いた表側平編部6Aと、ダイヤル針19だけを用いた裏側平編部6Bとを並行して編成することにより、表裏で乖離した二重平編部6を形成させる。
なお、この二重平編部6の編成中に、所定の給糸口30に対応するニッティングポイントにおいて停止中の針を単発的に編み位置まで動作させ、その後、すぐに元の停止状態に戻すようにする。これにより、二重平編部6に対して点在的に、表裏間を連結した結節部50を形成させることができる。
【0027】
例えば図7では、2番給糸口に対応するニッティングポイントにおいてダイヤル針19で実施したり、3番給糸口に対応するニッティングポイントにおいてシリンダ針17で実施したりしている。
このような結節部50を形成させることで、二重平編部6は表側平編部6Aと裏側平編部6Bとが必要以上に間隔を広げるような分離状態とならない。すなわち、両平編部6A,6B相互間の空間7で形成される空気層は、その容量が極端に拡縮するようなことはない。そのため、空気層による保温効果が一定状態に保たれることになる。
【0028】
また表側平編部6Aと裏側平編部6Bとが面方向にズレることもないので、皺などの発生を防止できることになり、着崩れの防止に繋がり、また見栄え上も好適である。衣類2の洗濯時などに、表側平編部6Aや裏側平編部6Bが皺などを原因として破れるような不具合も起こらない。
二重平編部6を編成した後は、シリンダ針17だけで平編を行っている給糸口30(図例の2番給糸口及び4番給糸口)対応のニッティングポイントでは、停止中のダイヤル針19に編み動作を開始させて、シリンダ針17及びダイヤル針19の両方を用いたゴム編を行わせる。
【0029】
また同様に、ダイヤル針19だけで平編を行っている給糸口30(図例の1番給糸口及び3番給糸口)対応のニッティングポイントでは、停止中のシリンダ針17に編み動作を開始させてシリンダ針17及びダイヤル針19の両方を用いたゴム編を行わせる。
これらにより、全ての給糸口30に対応したニッティングポイントにおいてシリンダ針17とダイヤル針19との両方を用いたゴム編が行われる状態に戻り、二重平編部6から無縫製状態のまま、ゴム編部5を編み降ろすことができる。
かくして、丸編機10による編成中にシリンダ針17及びダイヤル針19の動作制御をするだけで、ゴム編部5と二重平編部6とが無縫製状態のまま交互に配置された筒状の連続生地を編成することができ、この連続生地のなかから、ゴム編部5と二重平編部6とが無縫製状態のまま連結されて成る筒状生地1を取り出すことができる。
【0030】
この編成方法で編成して得られた筒状生地1は、そのまま(裁断や縫製などすることなく)身生地に利用できるので、生産性に優れ、低コストで且つ着心地に優れた衣類2を製作することができる。
なお、ゴム編部5の編成から表側平編み部6Aの編成へ切り替えるに際してダイヤル針19を停止させるに際し、予め、ダイヤル針19のループをシリンダ針17へ目移しさせてもよい。同様に、ゴム編部5の編成から裏側平編み部6Bの編成へ切り替えるに際してシリンダ針17を停止させるに際し、予め、シリンダ針17のループをダイヤル針19へ目移しさせてもよい。
【0031】
これらの場合、丸編機10において、給糸口30とは一致しない複数の位置に、シリンダ13及びダイヤル14のそれぞれに目移し部40,41を配置しておく(図3及び図4参照)。例えば、シリンダ13側の目移し部40は周方向の4箇所程度に設け、ダイヤル14側の目移し部41は周方向の2箇所程度に設けるようにすればよい。
シリンダ13側の目移し部40についてその構成及び動作を簡単に説明する。図5に示すように、全てのシリンダ針17の下部側面には、下端が固定され上端が弾性屈曲自在な自由端として開放された鉤フック状のポケット部43が設けられている。
【0032】
目移し部40には選針機36と同様な針動作機構が設けられていて、所定タイミングで各シリンダ針17を個別に上下動させることができるようになっており、このときのシリンダ針17の上昇位置を、上記ポケット部43がダイヤル針19の摺動レベルに一致する高さとしている。
すなわち、シリンダ針17を上昇させた後、ダイヤル針19が突出動作すると、このダイヤル針19がシリンダ針17のポケット部43内へ横から挿入されるようになっている。そのため、この状態でシリンダ針17が下降すると、シリンダ針17に引っ掛けられていたループLはダイヤル針19側へ乗り移り、その後のダイヤル針19の退入によってダイヤル針19側へ引き取られることになる。
【0033】
ダイヤル14側の目移し部41にも、上記シリンダ13側の目移し部40と略同じである。すなわち、全てのダイヤル針19には、ダイヤル14の中心寄りとなる端部にポケット部43と略同じものが設けられており、また目移し部41には針動作機構が設けられている。
そのため、所定タイミングでダイヤル針19を摺動させ、このダイヤル針19に引っ掛けられていたループLをシリンダ針17側へ乗り移らせ、引き取らせることができる。
本発明は、上記実施形態に限定されるものではなく、実施の形態に応じて適宜変更可能である。
【0034】
例えば、筒状生地1において、二重平編部6は筒状に編成すること(即ち、周方向に一周する形体)が限定されるものではなく、周方向で部分的な形体とすることも可能である。
図8はその代表例であって、衣類2としての胸元だけを占めるように二重平編部6が設けられている。この場合、二重平編部6を形成している表側平編部6Aや裏側平編部6Bは、度目を粗く編成させることにより、二重平編部6としての通気性を高めるように構成させることも可能である。
【0035】
このように、二重平編部6としての形体や度目、衣類2に対する配置、更には保温性を重視させたり通気性を重視させたり等の機能は、適宜変更可能なものである。
衣類2についても、衣類タイプについては何ら限定されるものではなく、アンダーウエアとして実施するかアウターウエアとして実施するかの選択も限定されるものではない。もとより、本発明に係る筒状生地1は、それ自体を衣類2の身生地として利用することが限定されるものではなく、各種生地パーツとして、或いはタオルなどの別製品として利用することも可能である。
【0036】
二重平編部6の編成過程において、図7では表側平編部6Aと裏側平編部6Bとを交互配置のニッティングポイントで編み分けるように説明したが、必ずしも交互配置とすることが限定されるものではない。
二重平編部6を編成する際に、シリンダ13側のステッチ量調整装置35やダイヤル14側のステッチ量調整装置37を巧みに使用して、二重平編部6としての一部(コース方向及びウエール方向における所定範囲)又は二重平編部6の全体にわたり、他よりループ長を大きくさせ、もって該当箇所を他より立体的に膨出させるように編成することもできる。
【0037】
このように立体的に膨出させた部分は、例えば胸部のカップ部とさせて衣類2にブラジャー機能を持たせる場合などに有益なものとなる。
ゴム編部5、表裏の各平編部6A,6Bのうち、少なくとも一つの編部が、他の編部と異なる糸により編成された構成とすることができる。すなわち、ゴム編部5と二重平編部6との間、或いは二重平編部6の表と裏(6A,6B)との間で、肌触りや保温性などの機能を異ならせた構成とする。
このようにすることで、例えば看者側からの外観性と着用者側からの着心地とを、それぞれ最適な状態として持たせるようにしたり、着用者の部位(胸部と腹部となど)ごとに最適な機能を持たせるようにしたりできるものである。
【0038】
なお、このように編部によって糸を異ならせるには、ストライパー22(給糸切替装置)によりシリンダ13側及びダイヤル14側へ給糸する糸種(短繊維であるか長繊維であるかに限定されない)を切り替えるようにすればよい。
結節部50により二重平編部6の外面に図柄を形成させるようにしてもよい。このようにすることで、二重平編部6の審美性を高めることができる。殊に、二重平編部6において表側の平編部6Aと裏側の平編部6Bとで異なる色の糸を用いた場合、表側の糸色を背景としつつ裏側の糸色が結節部50による図柄を表現する状態となり、図柄が顕著に浮かび上がるようになる。それだけ装飾性が際だつ(図柄の輪郭が明確になる)ものとなり、また目立った効果(強い印象性)が得られるようになる。
【0039】
二重平編部6の一部又は全部にメッシュ編などを採り入れるようなことも可能である。この場合は、シリンダ13及びダイヤル14のそれぞれに目移し部40,41が装備された丸編機10を用いるようにすればよい。
【図面の簡単な説明】
【0040】
【図1】本発明に係る筒状生地の第1実施形態を示したものであって(a)は丸編機によって編成された連続生地の状態を示した斜視図であり(b)は(a)中のA−A線拡大断面図である。
【図2】本発明に係る筒状生地によって製作した衣類の斜視図である。
【図3】本発明に係る筒状生地の編成に使用可能な丸編機を示した側断面図である。
【図4】図3に示した丸編機の平面図である。
【図5】(a)は図3の丸編機が具備する目移し部を示した側面図であり(b)はその一部を示した右側面図である。
【図6】本発明に係る筒状生地においてゴム編部の編成状況を示した編組織図である。
【図7】本発明に係る筒状生地において二重平編部の編成状況を示した編組織図である。
【図8】本発明に係る筒状生地の第2実施形態によって製作した衣類の斜視図である。
【符号の説明】
【0041】
1 筒状生地
5 ゴム編部
6 二重平編部
6A 平編部(シリンダ針だけで編成されたもの)
6B 平編部(ダイヤル針だけで編成されたもの)
13 シリンダ
14 ダイヤル
17 シリンダ針
19 ダイヤル針
30 給糸口
50 結節部

【特許請求の範囲】
【請求項1】
シリンダ(13)に保持されて上下動するシリンダ針(17)とシリンダ(13)上のダイヤル(14)に保持されて径方向に摺動するダイヤル針(19)との両方を用いたゴム編を行って編成された筒状のゴム編部(5)に対しその所定領域に、シリンダ針(17)だけで編成された平編部(6A)とダイヤル針(19)だけで編成された平編部(6B)とが表裏で乖離した状態に保持される二重平編部(6)が設けられ、当該二重平編部(6)とゴム編部(5)との連結部が編み方の切替で形成されることにより無縫製状態に仕上げられていることを特徴とする二重平編部を有する筒状生地。
【請求項2】
前記ゴム編部(5)、表裏の各平編部(6A,6B)のうち、少なくとも一つの編部が他の編部と異なる糸により編成されていることを特徴とする請求項1記載の二重編成部を有する筒状生地。
【請求項3】
前記ゴム編部(5)は筒径がボディサイズであることを特徴とする請求項1又は請求項2記載の二重平編部を有する筒状生地。
【請求項4】
前記ゴム編部(5)は18ゲージ以上の丸編機を用いて編成されていることを特徴とする請求項1乃至請求項3のいずれか1項に記載の二重平編部を有する筒状生地。
【請求項5】
シリンダ(13)まわりに分散配置された複数の給糸口(30)に対応して形成される各ニッティングポイントで、シリンダ(13)に保持されて上下動するシリンダ針(17)とシリンダ(13)上のダイヤル(14)に保持されて径方向に摺動するダイヤル針(19)との両方を用いたゴム編を行って筒状のゴム編部(5)を編み降ろしし、
しかる後、
所定の給糸口(30)に対応するニッティングポイントではシリンダ針(17)を停止させることによりダイヤル針(19)だけによる平編を行わせると共に、上記以外の給糸口(30)に対応するニッティングポイントではダイヤル針(19)を停止させることによりシリンダ針(17)だけによる平編を行わせるようにし、
もって筒状のゴム編部(5)に対する所定領域に、無縫製状態のまま、シリンダ針(17)だけによる平編部(6A)とダイヤル針(19)だけによる平編部(6B)とが表裏で乖離した二重平編部(6)を設ける
ことを特徴とする二重平編部を有する筒状生地の編成方法。
【請求項6】
シリンダ針(17)だけによる平編とダイヤル針(19)だけによる平編とを行って二重平編部(6)を編成した後、
シリンダ針(17)だけで平編を行っている給糸口(30)対応のニッティングポイントでは停止中のダイヤル針(19)に編み動作を開始させてシリンダ針(17)及びダイヤル針(19)の両方を用いたゴム編を行わせる共に、
ダイヤル針(19)だけで平編を行っている給糸口(30)対応のニッティングポイントでは停止中のシリンダ針(17)に編み動作を開始させてシリンダ針(17)及びダイヤル針(19)の両方を用いたゴム編を行わせるようにし、
もって二重平編部(6)から無縫製状態のままゴム編部(5)を編み降ろす
ことを特徴とする請求項5記載の二重平編部を有する筒状生地の編成方法。
【請求項7】
シリンダ針(17)だけによる平編とダイヤル針(19)だけによる平編とを行って二重平編部(6)を編成中に、
所定の給糸口(30)に対応するニッティングポイントにおいて停止中の針を単発的に編み位置まで動作させると共にすぐに元の停止状態に戻し、
もって二重平編部(6)に対して点在的に表裏間を連結した結節部(50)を形成させる
ことを特徴とする請求項5又は請求項6記載の二重平編部を有する筒状生地の編成方法。
【請求項8】
前記結節部(50)により二重平編部(6)の外面に図柄を形成させることを特徴とする請求項7記載の二重平編部を有する筒状生地の編成方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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