説明

二量体化合物および抗ウイルス薬としてのそれらの使用

【課題】抗ウイルス薬として有用な新規化合物の提供。
【解決手段】一般式(I)の化合物(式中、Rはアミノ又はグアニジノであり;Rはアセチル又はトリフルオロアセチルであり;XはCONH、NHCO又はOであり;Yはアルキル、シクロアルキル、アルコキシアルキル、アミノ酸又はジペプチドである)。

【発明の詳細な説明】
【発明の背景】
【0001】
発明の分野
本発明は新規な化学化合物およびそれらの医薬における使用に関する。特に、本発明は新規な二量体化合物、それらの製造方法、それらの医薬製剤、および抗ウイルス薬としてのそれらの使用に関する。
【0002】
背景技術
他の炭水化物から、シアル酸としても知られるN−アセチルノイラミン酸(NANA)を切断する能力を有する酵素が、多くの微生物に存在している。これらとしては、コレラ菌(Vibrio cholera)、ウエルシュ菌(Clostridium perfringens)、肺炎連鎖球菌(Streptococcus pneumoniae)およびアースロバクター・シアロフィルス(Arthrobacter sialophilus)などの細菌、ならびにインフルエンザウイルス、パラインフルエンザウイルス、流行性耳下腺炎ウイルス、ニューカッスル病ウイルスおよびセンダイウイルスなどのウイルスが挙げられる。これらのウイルスのほとんどはオルトミクソウイルスまたはパラミクソウイルス群に属し、ウイルス粒子の表面にノイラミニダーゼ活性を有している。ノイラミニダーゼを有するこれらの生物の多くは、ヒトおよび/または動物の主要な病原体であり、インフルエンザウイルスおよびニューカッスル病ウイルスなどのいくつかのものは、極めて重大な疾病を引き起こす。
【0003】
長い間、ノイラミニダーゼの阻害剤によってノイラミニダーゼを有するウイルスによる感染を予防し得ると考えられてきた。知られているノイラミニダーゼ阻害剤のほとんどが、2−デオキシ−2,3−デヒドロ−N−アセチルノイラミン酸(DANA)およびそのいくつかの誘導体などのノイラミン酸類似体である(Meindl et al, Virology, 1974 58 457)。本発明者らの国際特許公開番号WO91/16320では、ウイルスノイラミニダーゼに有効であるDANAの多くの類似体を記載しており、特に、4−グアニジノ−2−デオキシ−2,3−デヒドロ−N−アセチルノイラミン酸(化合物(A)、コード番号GG167)がA型およびB型インフルエンザの治療に有用であることを示している(N. Engl. J. Med. , 1997 337 874-880)。その他の特許出願では、密接に関連した種々のシアル酸誘導体が記載されており(例えば、PCT公開番号WO95/18800、同WO95/20583および同WO98/06712)、またGG167の抗ウイルス性高分子複合体についても記述されている(国際特許出願番号PCT/AU97/00771)。
【化1】

[Acはアセチルを表す]。
【0004】
国際特許公開WO00/55149では、100原子以下の長さの共通のスペーサーまたは連結基と結合した、化合物(A)などの2つのノイラミニダーゼ結合分子を含んでなる二量体化合物を記載している。
【0005】
本発明者らは今般、本明細書において具体的に開示していないが、国際特許公開WO00/55149の包括範囲に含まれ、肺滞留時間が長く、強力であるといった驚くほど有利な抗インフルエンザ活性プロフィールを示す新規な化合物種を発見した。
【0006】
理論に拘束されるものではないが、肺内での滞留時間が長いことについての根拠は、化合物の大きさおよび分子量が気道上皮内での結合が強いために侵入を阻まれていること、および化合物の極性が細胞膜を極めて非効率的にしか通過しないようなものであることによると考えられている。またもう1つの理論として、化合物自体が細胞膜のリン脂質または気道上皮のその他の成分と相互作用し、肺内での滞留時間を延長するというものがある。
【発明の概要】
【0007】
第1の態様において、本発明は下記一般式(I)の化合物、またはその医薬上許容される誘導体を提供する。
【化2】

(式中、
Rは、アミノまたはグアニジノ基であり;
は、アセチルまたはトリフルオロアセチルであり;
Xは、CONH、NHCOまたはOであり;
nは、2〜6の整数であり;かつ
Yは、C−Cアルキル、C−Cシクロアルキル、C−Cアルコキシアルキル、アミノ酸またはジペプチドである)。
【0008】
好ましくは、Rはグアニジノ基である。
【0009】
好ましくは、Rはアセチル基である。
【0010】
「C−Cアルキル」とは、2〜8個の炭素原子を有する直鎖または分枝鎖炭化水素基をさす。このようなアルキル基の例としては、メチル、エチル、プロピル、イソプロピル、ブチル、イソブチル、sec-ブチル、tert-ブチル、ペンチル、ネオペンチル、ヘキシル、ヘプチルおよびオクチルがある。
【0011】
本明細書において「C−Cシクロアルキル」とは、3〜8個の炭素原子を有する脂環式基をさす。このようなシクロアルキル基の例としては、シクロプロピル、シクロブチル、シクロペンチルおよびシクロヘキシルがある。
【0012】
本明細書において「C−Cアルコキシアルキル」とは、1〜4個の炭素原子を有する直鎖または分枝鎖アルコキシ基をさす。このようなアルコキシ基の例としては、メトキシ、エトキシ、プロポキシ、イソプロポキシ、ブトキシ、イソブトキシ、sec-ブトキシおよびtert-ブトキシがある。
【0013】
「アミノ酸」は本明細書では最も広い意味で用いられ、Albert L. Lehningerによる"Principles of Biochemistry" (Worth Publishers, Inc. 1982)の96頁に挙げられているような20種の標準アミノ酸など、タンパク質の構成ブロックとなるα−アミノ置換カルボン酸をさす。
【0014】
「ジペプチド」は本明細書では最も広い意味で用いられ、ペプチド結合(アミド結合とも呼ばれる)によって連結された2つのアミノ酸をさす。例としては、グルタミン酸−グリシン、グリシン−グリシンまたはアスパラギン酸−グリシンが挙げられる。
【0015】
式(I)の化合物を、式(I)の化合物のいずれかの1以上の官能基において修飾して、その医薬上許容される誘導体とすることができることは、当業者ならば明らかであろう。このような誘導体として特に着目されるものは、カルボキシル官能基、ヒドロキシル官能基において、またはアミノ基において修飾された化合物である。従って、目的の化合物としては、式(I)の化合物の、メチル、エチル、プロピルまたはイソプロピルエステルなどのアルキルエステル、フェニル、ベンゾイルエステルなどのアリールエステル、およびアセチルエステルが挙げられる。
【0016】
「医薬上許容される誘導体」とは、 式(I)の化合物の、医薬上許容される塩、エーテル、エステルもしくはかかるエステルの塩、または受容者へ投与した際に式(I)の化合物または抗ウイルス的に活性な代謝産物もしくはその残渣を提供することができるその他のいずれかの化合物を意味する。誘導体として特に着目されるものは、シアル酸カルボキシもしくはグリセロールヒドロキシ基において修飾された化合物、または、アミノおよびグアニジン基において修飾された化合物である。
【0017】
式(I)の化合物の医薬上許容される塩としては、医薬上許容される無機および有機酸ならびに塩基から誘導されたものが挙げられる。好適な酸の例としては、塩酸、臭化水素酸、硫酸、硝酸、過塩素酸、フマル酸、マレイン酸、リン酸、グリコール酸、乳酸、サリチル酸、コハク酸、トルエン−p−スルホン酸、酒石酸、酢酸、クエン酸、メタンスルホン酸、蟻酸、安息香酸、マロン酸、ナフタレン−2−スルホン酸およびベンゼンスルホン酸が挙げられる。シュウ酸などのその他の酸はそれ自体では医薬上許容されるものではないが、本発明の化合物およびそれらの医薬上許容される酸付加塩を得る際に中間体として有用な塩の製造において有用であり得る。
【0018】
好適な塩基から誘導された塩としては、アルカリ金属(例えば、ナトリウム)、アルカリ土類金属(例えば、マグネシウム)、アンモニウム、およびNR(ここで、RはC1−4アルキルである)塩が挙げられる。
【0019】
本発明の化合物は本明細書に記載の方法によって製造することができる。当業者ならば、単量体をアリールスペーサー基と結合させる工程中にノイラミニダーゼ結合分子の1以上の官能基を保護するために保護基を用いる必要があることは明らかであろう。例えば、T. W. Green and P. G. M. Nutsによる"Protective Groups in Organic Synthesis"(John Wiley & Sons, 1991)を参照。式(I)の化合物の医薬上許容される塩は、公知の手法によって製造することができる。
【0020】
製造および処理を容易にするため、式(I)の化合物は結晶状であることが好ましい。
【0021】
従って、本発明はまた、XがCONHまたはNHCOである場合の上記の式(I)の化合物の製造方法であって、
(a) 下記式(II)の化合物を
【化3】

(式中、Rおよびnは上記で定義された通りであり、Pはカルボン酸保護基であり、XはNHまたはCOHである)
下記式(III)の化合物とカップリングさせて
−Y−X (III)
(式中、Yは請求項1で定義された通りであり、XはXと同じでない場合にはCOHまたはNHである)
下記式(IV)の化合物を形成させ、
【化4】

(b) 式(IV)の化合物を脱保護する
ことを含んでなる方法も提供する。
【0022】
式(I)の化合物は抗ウイルス活性を有する。特に、これらの化合物はオルトミクソウイルスおよびパラミクソウイルスのウイルスノイラミニダーゼ、例えば、A型およびB型インフルエンザ、パラインフルエンザ、流行性耳下腺炎およびニューカッスル病のウイルスノイラミニダーゼの阻害剤である。
【0023】
よって、第2の態様において、本発明は、ウイルス感染症、例えば、オルトミクソウイルス感染症およびパラミクソウイルス感染症の治療に有効な治療薬として用いる式(I)の化合物またはその医薬上許容される誘導体を提供する。
【0024】
第3の態様において、本発明は、ウイルス感染症の予防または治療方法であって、式(I)の化合物またはその医薬上許容される塩もしくは誘導体の有効量を、それを必要とする被験体へ投与することを含んでなる方法を提供する。
【0025】
好ましくは、ウイルス感染症はオルトミクソウイルス感染症またはパラミクソウイルス感染症である。より好ましくは、ウイルス感染症はA型またはB型インフルエンザ感染症である。
【0026】
好ましくは、被験体は哺乳類などの動物であり、より好ましくは、ヒト、またはウマ属に属するもの、例えば、ウマ、ロバまたはラバである。最も好ましくは、哺乳類はヒトである。
【0027】
第4の態様において、本発明はウイルス感染症の治療用の医薬の製造のための、本発明の化合物の使用を提供する。
【0028】
本明細書において「有効量」とは、所望の治療応答を得るための、例えば、ウイルス感染症の影響を克服または軽減するための、ウイルス感染症を予防または治療するのに有効な式(I)の化合物の量を意味する。
【0029】
「治療上有効な量」とは、所望の治療応答を得るための式(I)の化合物の量、例えば、ウイルス感染症を治療または予防するための式(I)の化合物の量を意味する。
【0030】
具体的な「治療上有効な量」は、治療するウイルス感染症、被験体の健康状態、治療する動物の種類、治療期間、(実施する場合には)併用療法の性質、ならびに用いる製剤および化合物またはその誘導体の構造などの因子によって明らかに異なる。
【0031】
一般に、「治療する」、「治療」などは、本明細書においては、所望の薬理学的および/または生理学的効果を得るために被験体、組織または細胞に作用するという意味で用いられる。この効果はウイルス感染症またはその徴候もしくは症状を完全にまたは部分的に防止するという点からは予防的であることができ、かつ/またはウイルス感染症の部分的または完全治癒という点からは治療的であることができる。本明細書おいて「治療する」は、脊椎動物、哺乳類、特にヒトにおけるウイルス感染症の治療または予防のいずれをも含み、さらに(a)そのウイルス感染症にかかりやすいと思われるが、まだウイルス感染症についての診断を行っておらず、まだウイルス感染症とは診断されていない被験体においてウイルス感染症の発生を予防すること;(b)ウイルス感染症を抑止すること、すなわち、その進行を止めること;または(c)その影響を緩和または改善すること、すなわち、ウイルス感染症の症状の緩解をもたらすことを包含する。
【0032】
また、本発明の化合物は診断方法、特にインフルエンザウイルスの検出方法においても用いることができる。かかる方法で使用する場合には、本発明の化合物に放射性標識、蛍光標識または化学発光標識などの標識を付けることが有利であることがある。
【0033】
本発明の化合物が好適である診断方法は、例えば、本発明者らの先行する出願PCT/AU97/00109およびPCT/AU97/00771に記載されている。
【0034】
第5の態様において、本発明は、ウイルス感染症の検出方法であって、本発明の化合物を、ウイルスを含んでいる疑いがあるサンプルと接触させることを含んでなる方法を提供する。
【0035】
さらに、治療用に必要な本発明の化合物の量は選択された化合物だけでなく、投与経路、治療する症状の性質、ならびに患者の年齢および状態によって異なり、最終的には医師または獣医の判断によって行われることが分かるであろう。しかしながら、一般的には好適な用量は1日あたり約0.001〜100mg/体重kgの範囲、好ましくは、0.01〜10mg/kg/日の範囲、最も好ましくは、0.1〜1mg/kg/日の範囲である。
【0036】
処置は、好ましくは、感染前または感染時に開始してウイルスが気道に存在しなくなるまで続ける。しかしながら、本発明の化合物は感染後、例えば、確立された症状の出現後に施与した場合でも有効である。
【0037】
好適には、処置は1回または2回行い、好ましくは、治療だけならば1回だけ、好ましくは、予防には週1回行う。
【0038】
本発明の化合物は便宜には、例えば、単位投与形あたり1〜100mg、より便宜には、1〜20mgの有効成分を含有する単位投与形で投与する。
【0039】
治療に用いる場合には、本発明の化合物を原料化学物質として投与してもよいが、医薬製剤としての有効成物であることが好ましい。
【0040】
よって、第6の態様において、本発明は、式(I)の化合物またはその医薬上許容される塩もしくは誘導体を、1種以上の医薬上許容される担体、および必要に応じて他の治療および/または予防成分とともに含んでなる医薬製剤を提供する。担体は製剤の他の成分と適合し、その受容者に有害ではないという意味において「許容される」ものでなければならない。
【0041】
また、本発明の化合物は、他の治療薬および/または予防薬、例えば、他の抗感染症薬と併用してもよい。特に、本発明の化合物は他の抗ウイルス薬と併用してもよい。よって、本発明は、第7の態様において、式(I)の化合物またはその医薬上許容される塩もしくは誘導体を、別の治療上および/または予防上有効な薬剤、特に、抗ウイルス薬とともに含んでなる組み合わせ物を提供する。
【0042】
上記の組み合わせ物は、便宜には、医薬製剤の形態で用いるために提供され、よって、上記の組み合わせ物をその医薬上許容される担体とともに含んでなるかかる製剤は、本発明のさらなる態様をなす。
【0043】
かかる組み合わせ物に用いるのに好適な治療薬および/または予防薬としては、その他の抗感染症薬、特に、抗菌薬および抗ウイルス薬、例えば、呼吸器感染症の治療に用いられるものが挙げられる。例えば、インフルエンザウイルスに有効である、上記のシアル酸類似体、例えば、ザナミビル(zanamivir)、オセルタミビル(oseltamivir)、アマンタジン(amantadine)、リマンタジン(rimantadine)およびリバビリン(ribavirin)、ならびにFluVaxなどの他の化合物またはワクチンをかかる組み合わせ物に含めてもよい。
【0044】
かかる組み合わせ物の個々の成分は個別に投与してもよいし、逐次投与してもよいし、または個別の医薬製剤もしくは組み合わせ医薬製剤として同時に投与してもよい。
【0045】
本発明の化合物を同じウイルスに有効な第2の治療薬および/または予防薬と併用する場合、各化合物の用量は各化合物を単独で用いる際に使用する用量と同じ場合もあるし、異なる場合もある。当業者であれば、適当な用量が容易に分かるであろう。
【0046】
医薬製剤としては、経口、直腸、経鼻、局所(口内および舌下など)、膣または非経口(筋肉内、皮下および静脈内など)投与に好適なもの、または気道(鼻腔など)への投与、例えば、吸入法または通気法による投与に好適な形態のものが挙げられる。製剤は、必要に応じて、便宜には、個別投与単位で提供してもよく、製薬分野では十分に公知のいずれの方法によって製造してもよい。これらの方法としては、活性化合物を液体担体または微粉固体担体、もしくはその両方と会合させた後、必要に応じて、生成物を所望の製剤に成形する工程が含まれる。
【0047】
経口投与に好適な医薬製剤は、便宜には、各々が所定量の有効成分を含むカプセル剤、カシェ剤もしくは錠剤などの個別単位として;粉末もしくは顆粒剤として;液剤、懸濁剤としてまたは乳剤として提供してもよい。また、有効成分はボーラス、舐剤またはペースト剤として提供してもよい。経口投与用の錠剤およびカプセル剤には、結合剤、増量剤、滑沢剤、崩壊剤、または湿潤剤などの通常の賦形剤を含めてもよい。錠剤は当技術分野では十分に公知の方法に従ってコーティングしてもよい。経口液体製剤は、例えば、水性もしくは油性懸濁剤、液剤、乳剤、シロップ剤またはエリキシル剤の形態であってもよいし、または使用前に水もしくはその他の好適なビヒクルを用いて構成する乾燥製品として提供してもよい。かかる液体製剤には、沈殿防止剤、乳化剤、非水性ビヒクル(食用油を含んでもよい)、または防腐剤などの従来の添加剤を含んでもよい。
【0048】
また、本発明の化合物は、注射、例えば、ボーラス注射、または点滴による非経口投与用に調製してもよく、アンプルに入った単位投与形、充填済みシリンジ、少量注入剤として、または防腐剤を添加した多容量型容器で提供してもよい。組成物は油性もしくは水性ビヒクル中の懸濁剤、液剤、乳剤などの形態をとってもよく、沈殿防止剤、安定剤および/または分粉末などの配合剤を含んでいてもよい。あるいは、有効成分は使用前に好適なビヒクル、例えば、滅菌、パイロジェンフリー水を用いて構成する、滅菌固体の無菌単離によってまたは溶液からの凍結乾燥によって得た粉末形態であってもよい。
【0049】
表皮への局所投与には、本発明の化合物を軟膏、クリーム剤もしくはローション剤として、または経皮パッチとして調剤してもよい。軟膏およびクリーム剤は、例えば、好適な増粘剤および/またはゲル化剤を添加した水性または油性基剤を用いて調剤してもよい。ローション剤は水性または油性基剤を用いて調剤してよく、また一般には1種以上の乳化剤、安定剤、分粉末、沈殿防止剤、増粘剤、または着色剤も含む。
【0050】
口腔内局所投与に好適な製剤としては、香味基剤、通常、スクロースおよびアラビアガムまたはトラガカントガム中に有効成分を含んでなるトローチ剤;ゼラチンまたはスクロースおよびアラビアガムなどの不活性基剤中に有効成分を含んでなる芳香錠;ならびに好適な液体担体中に有効成分を含んでなる口内洗浄剤が挙げられる。
【0051】
直腸投与に好適な、担体が固体である医薬製剤は、単位用量坐剤として提供するのが最も好ましい。好適な担体としては、ココア脂および当技術分野で一般に用いられるその他の材料が挙げられ、坐剤は、便宜には、活性化合物を軟化または融解した担体と混合した後に冷却し、成形することによって作製すればよい。
【0052】
膣投与に好適な製剤は、有効成分の他、当技術分野で好適であることが知られている担体を含む膣坐剤、タンポン、クリーム剤、ゲル剤、ペースト剤、フォーム剤またはスプレー剤とし提供してもよい。
【0053】
経鼻投与をはじめとする気道への投与には、ノイラミニダーゼ阻害剤を、当技術分野において気道への投与に用いられる方法および製剤のいずれによって投与してもよい。
【0054】
従って、一般に、本化合物は液剤もしくは懸濁剤の形態または乾燥粉末として投与してもよい。
【0055】
液剤および懸濁剤は、一般に、例えば、水単独(例えば、滅菌またはパイロジェンフリー水)または水および生理学上許容される補助溶媒(例えば、エタノール、プロピレングリコールまたはPEG400などのポリエチレングリコール)から調製された水性のものである。
【0056】
かかる液剤または懸濁剤は、その他の賦形剤、例えば、防腐剤(塩化ベンザルコニウムなど)、可溶化剤/界面活性剤、例えば、ポリソルベート(例えば、Tween 80、Span 80、塩化ベンザルコニウム)、緩衝剤、等張性調整剤(例えば、塩化ナトリウム)、吸収促進薬および増粘剤をさらに含んでもよい。懸濁剤は、沈殿防止剤(例えば、微晶質セルロース、カルボキシメチルセルロースナトリウム)をさらに含んでもよい。
【0057】
液剤または懸濁剤は、従来の手段により、例えば、ドロッパー、ピペットまたはスプレーを用いて鼻腔に直接適用される。これらの製剤は単回または多回投与形で提供してもよい。後者の場合には計量手段が提供されることが望ましい。ドロッパーまたはピペットの場合には、患者が所定量の適当な液剤または懸濁剤を投与することによってなされる。スプレーの場合には、例えば、定量噴霧式噴霧ポンプによってなされる。
【0058】
また、気道への投与は、化合物がクロロフルオロカーボン(CFC)、例えば、ジクロロジフルオロメタン、トリクロロフルオロメタンまたはジクロロテトラフルオロエタン、二酸化炭素またはその他の好適なガスなどの好適な噴射剤を加えた加圧パックで提供されるエアゾール製剤によって行ってもよい。また、エアゾールは、便宜には、レシチンなどの界面活性剤を含んでもよい。薬剤の量は定量バルブを設けることで制御することができる。
【0059】
また、本化合物は乾燥粉末の形態、例えば、化合物とラクトース、デンプン、デンプン誘導体、例えば、ヒドロキシプロピルメチルセルロースおよびポリビニルピロリジン(PVP)などの好適な粉末基剤との粉末混合物の形態で提供してもよい。便宜には、粉末担体は鼻腔内でゲルを形成する。この粉末組成物は単位投与形、例えば、カプセルもしくはカートリッジ(例えば、ゼラチン)、またはブリスターパック(これから粉末が吸入器によって投与される)として提供してもよい。
【0060】
経鼻投与製剤をはじめとする気道への投与を目的とする製剤では、化合物の粒径は一般に小さく、例えば、5ミクロン以下のオーダーである。かかる粒径は当技術分野では公知の手段によって、例えば、微粉末化によって得られる。
【0061】
所望により、有効成分に徐放性を与えるようにした製剤を用いてもよい。
【0062】
好ましくは、本発明の化合物を吸入法、通気法または経鼻投与、もしくはその組み合わせによって気道に投与する。
【0063】
「リレンザ(Relenza)」は「ディスクへラー(Diskhaler)」(GlaxoSmithKlineグループ社の商品名)を介してフリーフロー粉末として経口吸入によって投与される。類似の製剤が本発明に好適であろう。
【0064】
よって、本発明の第8の態様によれば、上記の製剤を含有する吸入器が提供される。
【0065】
また、吸入器は定量式エアゾール吸入器の形態であってもよいことは明らかであろう。
【0066】
本明細書の目的では、「含んでなる(comprising)」とは、「限定されるものではないが、含む(including but not limited to)」を意味すること、「含んでなる(comprises)」も相当の意味を持つことは明らかであろう。
【0067】
限定されるものではないが、本明細書の中で引用した特許および特許出願をはじめとする刊行物は総て、その個々の刊行物が、参照により、その全内容を示して具体的かつ個々に示されるように本明細書の一部とされる。
【0068】
発明の詳しい説明
以下、本発明を、単に参照として以下の限定されない実施例により詳細に説明する。
【0069】
表1
【化5】

(式中、Rはアセチルであり、Rはグアニジンである)
【表1】

【0070】
装置による方法
グリーン(green)法(LC/MS)
MicromassプラットフォームII質量分析計を、陽イオンエレクトロスプレーモードで使用、質量範囲100〜1000amu(原子質量単位)。
カラム:3.3cm×4.6mm ID、3μm ABZ+PLUS、
流速:3ml/分、
注入量:5μl、
溶媒A:95%アセトニトリル+0.05%蟻酸、
溶媒B:0.1%蟻酸+10mM酢酸アンモニウム、
勾配:0% A/0.7分、0〜100% A/3.5分、100% A/1.1分、100〜0% A/0.2分。
【0071】
パープル(purple)法(マス用自動分取HPLC)
使用した分取カラムはSupelcosil ABZplusであった(10cm×2.12cm)。
UV波長:200〜320nM、
流速:20ml/分、
注入量:1ml、
溶媒A:0.1%蟻酸、
溶媒B:95%アセトニトリル+5%蟻酸、
勾配:100% A/1分、100〜80% A/9分、80〜1% A/3.5分、1% A/1.4分、1〜100% A/0.1分。
【0072】
ターコイズ(turquoise)法(自動分取HPLC)
使用したプレップカラムはSupelcosil ABZplusであった(10cm×2.12cm)。
UV波長:230nm、
流速:4ml/分、
注入量:2ml、
溶媒A:アセトニトリル+0.05%TFA、
溶媒B:水+0.1%TFA。
【0073】
A法(LC/MS)
MicromassプラットフォームII質量分析計を、陽イオンエレクトロスプレーモードで使用、質量範囲100〜1000amu。
カラム:3.3cm×4.6mm ID、3μm ABZ+PLUS、
流速:3ml/分、
注入量:5μl、
溶媒A:95%アセトニトリル+0.05%蟻酸、
溶媒B:0.1%蟻酸+10mM酢酸アンモニウム、
勾配:0% A/0.7分、0〜100% A/3.5分、100% A/1.1分、100〜0%A/0.2分。
【0074】
B法(LC/MS)
Waters ZQ質量分析計を陽イオンエレクトロスプレーモードで使用、質量範囲100〜1000amu。
カラム:3.3cm×4.6mm ID、3μm ABZ+PLUS、
流速:3ml/分、
注入量:5μl、
溶媒A:95%アセトニトリル+0.05%蟻酸、
溶媒B:0.1%蟻酸+10mM酢酸アンモニウム、
勾配:0% A/0.7分、0〜100% A/3.5分、100% A/1.1分、100〜0%A/0.2分。
【0075】
C法(自動分取HPLC)
使用したプレップカラムはSupelcosil ABZplusであった(10cm×2.12cm)。
UV波長:230nm、
流速:4ml/分、
注入量:2ml、
溶媒A:アセトニトリル+0.05%TFA、
溶媒B:水+0.1%TFA、
勾配:0〜40% A/20分、40% A/20分、40〜100% A/0.3分、100% A/15分、100〜0% A/3分。
【0076】
D法(マス用自動分取HPLC)
使用したプレップカラムはSupelcosil ABZplusであった(10cm×2.12cm)。
UV波長:200〜320nM、
流速:20ml/分、
注入量:1ml、
溶媒A:0.1%蟻酸、
溶媒B:95%アセトニトリル+5%蟻酸、
勾配:100% A/1分、100〜80% A/9分、80〜1% A/3.5分、1% A/1.4分、1〜100% A/0.1分。
【0077】
略語
EtOAc 酢酸エチル
MeOH メタノール
HPLC 高圧液体クロマトグラフィー
SPE 固相抽出
LC/MS 液体クロマトグラフィー/質量分析
DMF N,N−ジメチルホルムアミド
WSCDI 1−(3−ジメチルアミノプロピル)−3−エチルカルボジイミドメチオジド
HOBt 1−ヒドロキシベンゾトリアゾール
DIPEA N,N−ジイソプロピルエチルアミン
MeCN アセトニトリル
RT 室温
EtOAc 酢酸エチル
MgSO 硫酸マグネシウム
DMF ジメチルホルムアミド
【実施例】
【0078】
中間体1
【化6】

(4S,5R,6R)−5−アセチルアミノ−4−アジド−6−[(S)−4−ニトロフェノキシカルボニルオキシ)−(2−オキソ−[1,3]ジオキソラン−4R−イル)−メチル]−5,6−ジヒドロ−4H−ピラン−2−カルボン酸メチルエステル(Eur. J. Med. Chem. 1999, 34, 563-574参照)(2.00g,3.8mmol)を、無水トルエンとの共沸を3回行うことによって乾燥させた後、3オングストロームのモレキュラーシーブペレット数個を添加して無水アセトニトリル(20ml)に溶かした。この攪拌溶液をN−t−ブトキシカルボニル1,4−ジアミノブタン(0.72g,3.8mmol)およびトリエチルアミン(0.43g,4.2mmol)で処理した。混合物を窒素雰囲気下にて16時間攪拌した。揮発性物質を真空除去し、黄色の残渣を得た。これをEtOAc(50ml)に再び溶かし、0.5M HCl(30ml)、次ぎにブライン(30ml)で洗浄した。溶液を乾燥させ(NaSO)、溶媒を真空蒸発させ、クリーム色の泡沫物質を得た。さらなる精製はBiotageフラッシュクロマトグラフィーにより、最初にEtOAc:シクロヘキサン(1:1)、次ぎにEtOAcを溶離液として行った。溶媒を真空蒸発させ、白色の固体として中間体1(1.26g,58%収率)を得た。LC/MS(B法)では、MH=571;TRET=2.87分であった。
【0079】
中間体2
【化7】

中間体1(0.76g,1.33mmol)をエタノール(24ml)に溶かし、リンドラー触媒(0.095g)上で16時間、触媒による水素化を行った。触媒を濾去し、溶媒を真空蒸発させ、クリーム色の泡沫物質として中間体2(0.72g,99%収率)を得た。LC/MS(A法)では、MH=545;TRET=2.24分であった。
【0080】
中間体3
【化8】

中間体2(0.72g,1.32mmol)をテトラヒドロフラン(7ml)に溶かし、N,N’−ビス−(t−ブトキシカルボニル)−1−グアニルピラゾール(0.45g,1.45mmol)で処理した。混合物を窒素雰囲気下にて16時間攪拌した。揮発性物質を真空除去して固体残渣を得、これをBiotageフラッシュクロマトグラフィーにより、最初にEtOAc:シクロヘキサン(1:1)、次ぎにEtOAc:シクロヘキサン(5:3)を溶離液として精製した。溶媒を真空蒸発させ、白色の固体として中間体3(0.48g,46%収率)を得た。LC/MS(A法)では、MH=787;TRET=3.64分であった。
【0081】
中間体4
【化9】

中間体3(0.48g,0.61mmol)をジクロロメタン(19ml)に溶かした。溶液を氷浴で冷却し、トリフルオロ酢酸(19ml)を5分かけて少量ずつ加えた。次いで、混合物を窒素雰囲気下にて1時間攪拌した後、周囲温度まで温め、さらに16時間攪拌した。揮発性物質を真空除去し、残渣をトルエンと共沸し、残留するトリフルオロ酢酸を除去した。ジエチルエーテル(20ml)でトリチュレートして白色の固体を得、これを分離し、中間体4(0.50g)を得た。LC/MS(B法)では、(M−H)=485;TRET=0.52分であった。
【0082】
中間体6
【化10】

(4S,5R,6R)−5−アセチルアミノ−4−アジド−6−[(S)−4−ニトロフェノキシカルボニルオキシ)−(2−オキソ−[1,3]ジオキソラン−4R−イル)−メチル]−5,6−ジヒドロ−4H−ピラン−2−カルボン酸メチルエステル(Eur. J. Med. Chem. 1999, 34, 563-574参照)(4.0g)をトルエン(50mL)と共沸し、MeCN(40mL)およびトリエチルアミン(1.12mL)に溶かし、3−アミノプロピオン酸t−ブチルエステルヒドロクロリド(1.396g)を添加した。室温にて3日後、溶媒を除去し、残渣をEtOAc(150mL)で希釈した。これを5%クエン酸溶液(2×50mL)で洗浄し、乾燥させ(MgS0)、濃縮した。1:1シクロヘキサン:EtOAc、次ぎに60:40、続いて65:35シクロヘキサン:EtOAcで溶出するBiotageにより精製し、無色の泡沫物質として中間体6(3.45g)を得た。
1H-NMR (400MHz, CDCl3) δ 6.72 (d, 1H), 5.97 (d, 1H), 5.53 (t, 1H), 5.40 (t, 1H), 5.03-4.95 (m, 2H), 4.92 (dd, 1H), 4.74-4.64 (m, 2H), 3.83 (s, 3H), 3.64-3.54 (m, 1H), 3.38-3.27 (m, 2H), 2.65-2.56 (m, 1H), 2.52-2.43 (m, 1H), 2.06 (s, 3H), 1.70 (s, 1H), 1.48 (s, 9H).
【0083】
中間体7
【化11】

中間体2と同様に、中間体6から製造した。
LC/MS(グリーン法)MH 504,TRET=2.22分
【0084】
中間体8
【化12】

中間体8は中間体3と同様に、中間体7から製造した。
LC/MS(グリーン法)MH 744,TRET=3.66分
【0085】
中間体9
【化13】

中間体8(1.44g)、トリフルオロ酢酸(20mL)、ジクロロメタン(20mL)およびアニソール(2mL)を室温にて3時間攪拌し、その後、揮発性物質を真空除去した。残渣をEtO(2×25mL)でトリチュレートした後、真空乾燥し、白色の固体として中間体9(1.22g)を得た。
LC/MS(グリーン法)MH 488,TRET=1.25分
【0086】
実施例1:中間体5とコハク酸との反応による化合物9の製造
【化14】

アミノプロピル中間体5は、類似のアミノブチル中間体4に関して記載したものと同様の一連の工程に従って製造した。
コハク酸(4.21mg,0.0357ミリモル)、中間体5(50mg,0.071ミリモル)およびヘキサフルオロリン酸ベンゾトリアゾール−1−イルオキシ−トリス(ジメチルアミノ)ホスホニウム(BOP)(37.7mg,0.0852ミリモル)をDMF(2ml)に溶かし、これにジイソプロピルエチルアミン(DIPEA,91.8mg,0.71ミリモル)を添加した。得られた混合物を室温にて5時間攪拌した。反応混合物をWaters Symmetry C18カラム(5ミクロン 19×100mm)、および下表に示す勾配溶出を用いた逆相HPLCにより精製し、保護された二量体(12.8mg,35%)を得た、MS 1027.4(M+H)
【0087】
【表2】

A=0.1%トリフルオロ酢酸を含有する水
B=0.06%トリフルオロ酢酸を含有するアセトニトリル
【0088】
保護された二量体化合物(12.5mg,0.0121ミリモル)を水/メタノール/トリエチルアミンの4:4:1比混合物(1.5ml)に溶かし、室温にて1時間攪拌した後、減圧下にて蒸発乾固させた。残留するトリエチルアミンを、水を添加し、減圧下にて蒸発させることを繰り返して除去した。残渣をWaters Symmetry C18カラム(5ミクロン 19×100mm)、および下表に示す勾配溶出を用いた逆相HPLCにより精製し、凍結乾燥後、白色の固体として二量体9(7.5mg,65%)を得た。
【0089】
【表3】

A=0.1%トリフルオロ酢酸を含有する水
B=0.06%トリフルオロ酢酸を含有するアセトニトリル
MS 474.4(M+2H)2+,946.8(M+H)
1H-nmr (D2O) δ (ppm): 1.64 (br, 4H); 1.94 (s, 6H); 3.06 (br, 4H); 3.17 (m, 6H); 3.48 (dd, 2H); 3.63 (m, 2H); 4.05 (m, 2H); 4.10 (dd, 2H); 4.39 (dd, 2H); 4.49 (dd, 2H); 4.91 (dd, 2H); 5.82 (d, 2H).
【0090】
実施例2:
表1の化合物番号1〜8、10〜14および21〜25は各々、実施例1に記載のものと同様の条件に従い、適切なアミノアルキル化合物(例えば中間体4および5)と適当なジカルボン酸をカップリングさせることにより製造した。
【0091】
実施例3:
表1の化合物番号15〜18は、カルボキシ中間体9から、実施例1に示されたものと同様の条件に従い、適当なジアミンとカップリングさせた後、脱保護することにより製造した。表1の化合物19および20は、中間体9のグリシンカルボキシ類似体と適当なジアミンをカップリングさせることにより製造した。
【0092】
実施例4:式(I)の化合物の評価−インフルエンザウイルス複製の阻害
細胞変性作用(CPE)アッセイを、基本的にはWatanabe et al.(J. Virological Methods, 1994 48 257)によって記載されたように行った。MDCK細胞を本発明の化合物の連続希釈物の存在下で所定の接種量のウイルス(試験によって、72時間以内に十分なCPEを引き起こすに足る最少量であり、公開された標準と一致すると考えられる濃度で対照化合物に感受性を示すと判断されたもの)に感染させた。培養物を5%CO雰囲気下、37℃にて最大72時間インキュベートした。公開された方法(例えば、Watanabe et al. , 1994参照)に従って、ウイルス染色剤、臭化3−(4,5−ジメチルチアゾール−2−イル)−2,5−ジフェニルテトラゾリウム(MTT)の代謝を介して、CPEの程度、さらにはウイルス複製を調べた。CPEを50%阻害した化合物濃度(ID50)を曲線の当てはめに関するコンピュータープログラムを用いて算出した。インフルエンザA/シドニー/5/97およびB/ハルビン/7/95ウイルスをアッセイし、その結果を表1に示している。また、WO00/55149にて明示された化合物および化合物Aとの比較データも表1に示す。
【0093】
【表4】

WO00/55149から引用
【0094】
実施例5:式(I)の化合物の評価−インフルエンザウイルス複製の阻害
細胞変性作用(CPE)アッセイを、基本的にはWatanabe et al.(J. Virological Methods, 1994 48 257)によって記載されたように行った。MDCK細胞を本発明の化合物の連続希釈物の存在下で所定の接種量のウイルス(試験によって、72時間以内に十分なCPEを引き起こすに足る最少量であり、公開された標準と一致すると考えられる濃度で対照化合物に感受性を示すと判断されたもの)に感染させた。培養物を5%CO雰囲気下、37℃にて最大72時間インキュベートした。公開された方法(例えば、Watanabe et al. , 1994参照)に従って、ウイルス染色剤、臭化3−(4,5−ジメチルチアゾール−2−イル)−2,5−ジフェニルテトラゾリウム(MTT)の代謝を介して、CPEの程度、さらにはウイルス複製を調べた。CPEを50%阻害した化合物濃度(ID50)を曲線の当てはめに関するコンピュータープログラムを用いて算出した。インフルエンザA/シドニー/5/97およびB/ハルビン/7/95ウイルスをアッセイし、その結果を表2に示している。また、WO00/55149にて明示された化合物および化合物Aとの比較データも表2に示す。
【0095】
【表5】

WO00/55149から引用
【0096】
WO00/55149に記載のデータはウイルスA型H3N2単離株A/シドニー/5/97ではなく、H3N2単離株A/ビクトリア/3/75に関するものである。このようなデータを比較することで、in vitroにおいて数種類の異なるウイルスに対して分析する際、当業者ならば、ある化合物の抗ウイルス力価が異なることが珍しくないことが分かるであろう。例えば、Woods et al(Antimicrob Agents Chemother 1993 37: 1473-9)は、最近の臨床単離株に関するin vitroアッセイにおいて化合物Aが広範なEC50値(0.02〜0.16μM)を示すことを報告している。よって、化合物8がこれまでのH3N2単離株A/ビクトリア/3/75よりも最近のインフルエンザA型H3N2単離株A/シドニー/5/97に関するCPEアッセイにおいて有効であることが分かった。
【0097】
表2に示したデータは、化合物E1〜E5が、極めて有効な化合物Aよりも実質的に有効であることに加え、WO00/55149の化合物8および10よりもA/シドニー/5/97に対していっそう有効であり、かつ最近のインフルエンザB単離株B/ハルビン/7/95に対しても実質的に有効であることを示している。
【0098】
実施例6:プラーク減少アッセイ
Mardin Darbyイヌ腎臓(MDCK)細胞を6ウェル組織培養プレートに播種し、常法によって密集するまで増殖させる。インフルエンザウイルスを最少量の0.2%ウシ血清アルブミンを添加したリン酸緩衝生理食塩水で希釈し、各ウェル当たり推定力価50〜100プラーク形成単位(pfu)とした。5%CO雰囲気下、37℃にて1時間、MDCK細胞に吸着させた後、ウイルス接種材料を吸引し、プラークが形成されるまで(一般に2〜4日)5%CO雰囲気下、37℃にて、室温で培地を固化するのに十分な寒天またはアガロース(一般に1〜2%)を含有するウイルス増殖培地(至適濃度のBSA、トリプシンおよびインスリン/トランスフェリン/セレンを添加した最少イーグル培地)で置き換える。プラークは計数前に好適な染色剤(例えば、ホルマリン加生理食塩水中0.4%クリスタルバイオレット)を用いて可視化することができる。抗ウイルス力価はプラーク数を未処理の対照値を50%減少させる被験物質の濃度として表される(EC50)。
【0099】
【表6】

A/WSN/33 BVLV09(H1N1)
A/ビクトリア/3/75 BVLV017(H3N2)
A/シドニー/5/97 BVLV015(H3N2)
A/ニューカレドニア/20/99 BVLV008(H1N1)
A/パナマ/2007/99 BVLV008(H3N2)
A/バイエルン/7/95 BVL006(H1N1)
【0100】
【表7】

B/ビクトリア/1/67
B/ホンコン/5/72 BVLV012
B/ハルビン/7/95 BVLV008
B/山梨/166/98 BVLV007
【0101】
実施例7:長時間作用性の評価
齧歯類を麻酔し、目的化合物を気管内経路によって0.8ml/kgの用量で投与する。次いで、完全に回復するまで齧歯類を垂直位に保つ。投与後、種々の時点、例えば、2、8、24および48時間の時点で肺組織における化合物のレベルを分析法によって評価する。この種の化合物の検出に好適なものであればいずれの分析法を用いてもよい。化合物のレベルが特定の分析法の感度の範囲を下回った時間によって肺組織における化合物の滞留時間を決定する。
【0102】
選択された化合物のラット肺滞留データを以下に示す。全ての試験では、比較のため、同時投与した内部標準、すなわち、国際特許公開WO02/20514の化合物3が含まれることに留意のこと。データは以下に示す構造を持つこの化合物に対する比率として表される。
【化15】

【0103】
比較のため、化合物Aのデータも示している。標準濃度に対する化合物濃度の比率として表した場合、本発明の化合物は7日時点での滞留が化合物Aよりも有意に高い。
【0104】
【表8】

【0105】
実施例8:長時間作用性および効果の別の評価
マウス感染プロトコールについてはこれまでに記載した(1〜4)。軽く麻酔したマウスの外鼻孔にインフルエンザウイルスを接種する。
処置法および管理 一用量の化合物を所定の時点で、感染最大10日前、好ましくは、感染4〜7日前、または感染後、好ましくは、感染直後および感染後最大48時間の時点で投与する。ほとんどの試験では、効果は、非致死株のインフルエンザを用い、肺におけるウイルス力価の低下によって評価する。感染前に化合物を投与したマウスでは、感染後1日で、または感染後数日で、好ましくは、感染1〜4日後に肺を摘出する。ホモジナイズした肺サンプルを確立された方法によりウイルスについて評価し、ウイルス量の力価を推定し、未処置マウスの肺のウイルス力価と比較する。
【0106】
マウス馴化致死株のインフルエンザを用いる試験では、効果は、未処置のマウスと比べた場合の生存率および/または生存数の増加によって評価する。
【0107】
参照文献
【表9】



【特許請求の範囲】
【請求項1】
下記一般式(I)の化合物、またはその医薬上許容される誘導体:
【化1】

(式中、
Rは、アミノまたはグアニジノ基であり;
は、アセチルまたはトリフルオロアセチルであり;
Xは、CONH、NHCOまたはOであり;
nは、2〜6の整数であり;かつ
Yは、C−Cアルキル、C−Cシクロアルキル、C−Cアルコキシアルキル、アミノ酸またはジペプチドである)。
【請求項2】
Rがグアニジノ基である、請求項1に記載の化合物。
【請求項3】
がアセチル基である、請求項1または2に記載の化合物。
【請求項4】
カルボキシル官能基、ヒドロキシル官能基、アミノ基またはグアニジン基の1以上において修飾された誘導体である、請求項1〜3のいずれか一項に記載の化合物。
【請求項5】
誘導体がアルキルエステル、アリールエステルまたはアセチルエステルである、請求項1〜4のいずれか一項に記載の化合物。
【請求項6】
XがCONHまたはNHCOである、請求項1〜5のいずれか一項に記載の式(I)の化合物の製造方法であって、
(a) 下記式(II)の化合物を
【化2】

(式中、Rおよびnは請求項1で定義された通りであり、Pはカルボン酸保護基であり、XはNHまたはCOHである)
下記式(III)の化合物とカップリングさせて
−Y−X (III)
(式中、Yは請求項1で定義された通りであり、XはXと同じでない場合にはCOHまたはNHである)
下記式(IV)の化合物を形成させ、
【化3】

(b) 式(IV)の化合物を脱保護する
ことを含んでなる、方法。
【請求項7】
請求項1〜5のいずれか一項に記載の式(I)の化合物またはその医薬上許容される塩もしくは誘導体を、1種以上の医薬上許容される担体とともに含んでなる、医薬製剤。
【請求項8】
1種以上の他の治療および/または予防成分をさらに含んでなる、請求項7に記載の医薬製剤。
【請求項9】
他の治療および/または予防成分が抗感染症薬である、請求項8に記載の医薬製剤。
【請求項10】
抗感染症薬が、抗ウイルス薬または抗菌薬である、請求項9に記載の医薬製剤。
【請求項11】
抗菌薬または抗ウイルス薬が、呼吸器感染症の治療に用いられるものである、請求項10に記載の医薬製剤。
【請求項12】
前記薬剤が、ザナミビル、オセルタミビル、アマンタジン、リマンタジン、リバビリンおよび/またはFluVaxである、請求項11に記載の医薬製剤。
【請求項13】
請求項1〜5のいずれか一項に記載の化合物、または請求項7〜12いずれか一項に記載の製剤を含んでなる、吸入器。
【請求項14】
フリーフロー粉末としての経口投与に適している、請求項13に記載の吸入器。
【請求項15】
定量式エアゾール吸入器である、請求項13に記載の吸入器。
【請求項16】
請求項1〜5のいずれか一項に記載の式(I)の化合物の有効量を、それを必要とする被験体へ投与することを含んでなる、ウイルス感染症の予防または治療方法。
【請求項17】
ウイルス感染症が、オルトミクソウイルス感染症またはパラミクソウイルス感染症である、請求項16に記載の方法。
【請求項18】
ウイルス感染症が、A型もしくはB型インフルエンザ感染症、パラインフルエンザ、流行性耳下腺炎またはニューカッスル病である、請求項16または請求項17に記載の方法。
【請求項19】
投与が、吸入法、通気法もしくは経鼻投与、またはその組み合わせによる気道へのものである、請求項16〜18のいずれか一項に記載の方法。
【請求項20】
ウイルス感染症の予防または治療用の医薬の製造のための、請求項1〜5のいずれか一項に記載の式(I)の化合物の使用。
【請求項21】
ウイルス感染症の予防または治療における、請求項1〜5のいずれか一項に記載の式(I)の化合物の使用。
【請求項22】
抗ウイルス薬としての、請求項1〜5のいずれか一項に記載の式(I)の化合物の使用。
【請求項23】
請求項1〜5のいずれか一項に記載の式(I)の化合物を、ウイルスを含んでいる疑いがあるサンプルと接触させることを含んでなる、ウイルス感染症の検出方法。

【公開番号】特開2011−16804(P2011−16804A)
【公開日】平成23年1月27日(2011.1.27)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−161620(P2010−161620)
【出願日】平成22年7月16日(2010.7.16)
【分割の表示】特願2003−542183(P2003−542183)の分割
【原出願日】平成14年11月8日(2002.11.8)
【出願人】(501359733)バイオタ、サイアンティフィック、マネージメント、プロプライエタリ、リミテッド (4)
【氏名又は名称原語表記】BIOTA SCIENTIFIC MANAGEMENT PTY LTD
【Fターム(参考)】