説明

二量体又はポリマーの製造方法

【課題】 担体に固定化したマンガンペルオキシダーゼの作用で2価マンガンより得られた3価マンガンを用いて基質の重合反応を行うに際し、反応系からのマンガンペルオキシダーゼ及びマンガンイオンの廃棄、反応系へのマンガンイオンの追加を抑制して、安価に二量体又はポリマーを製造する方法を提供する。
【解決手段】 マンガンペルオキシダーゼを固定化した担体を充填したカラムに、酸化剤と2価マンガンを含む水性溶媒を流して3価マンガンを得る第一工程と、3価マンガンを含む水性溶媒と基質を反応器へ供給する第二工程と、反応器中で3価マンガン存在下に基質を重合させて二量体又はポリマーを得る第三工程と、2価及び3価マンガンを前記二量体又はポリマーから分離及び回収する第四工程と、分離及び回収された2価及び3価マンガンを前記第一工程で用いるカラムに供給する第五工程と、を有することを特徴とする二量体又はポリマーの製造方法。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、担体に固定化したマンガンペルオキシダーゼを用いて2価マンガンを3価マンガンとし、得られた3価マンガンを用いて基質の重合反応を行い、得られた二量体又はポリマーから2価マンガン及び3価マンガンを分離及び回収して、分離及び回収された2価マンガンを、マンガンペルオキシダーゼを用いて3価マンガンとし再利用する二量体又はポリマーの製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
3価マンガンを酸化剤として用いて基質を重合させることにより重合反応生成物を得る方法は、従来、広く用いられている。
そのような方法として、例えば、リグニンと、少なくとも3個の炭素原子並びに少なくとも1個の酸素官能基および/または窒素官能基および/または少なくとも1個の多重結合官能基を含有する有機化合物とが、完全に酸化させる酵素およびそれらの基質を形成する酸化剤の存在下で重合させられることを特徴とする、リグニンおよび有機化合物を含有する重合体を製造する方法が開示されている(特許文献1参照)。
また、水性媒質中で、炭素数1〜4のアルコキシ基を有するジアルコキシフェノールと、マンガンペルオキシダーゼと、酸化剤と、二価のマンガンイオンとを反応させてジアルコキシキノン2量体を含む第一生成物を得る第一工程と、 前記第一工程に引き続いて該第一生成物に還元剤を添加する第二工程とを有することを特徴とするジアルコキシフェノール2量体の製造方法が開示されている(特許文献2参照)。
【特許文献1】特表平8−505780号公報
【特許文献2】特開2005−229944号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0003】
一般的に、化学反応を工業的スケールで行う場合には、低コストで目的物を製造できることが望まれる。しかし、特許文献1や特許文献2に記載の方法は、マンガンペルオキシダーゼ、マンガンイオン及び基質を含む反応溶液中で重合体を製造しているため、重合反応終了後にマンガンペルオキシダーゼ、マンガンイオン及び未反応基質を重合物から分離し廃棄しなければならなかった。このため、再度、重合反応を行うには、反応系に新規にマンガンペルオキダーゼおよびマンガンイオンを供給する必要があり、一方で、廃棄されるマンガンペルオキシダーゼ、マンガンイオンおよび未反応基質の処理にコストがかかるため、低コストで目的物を製造できるものではなかった。
【0004】
本発明は上記事情に鑑みてなされたものであり、担体に固定化したマンガンペルオキシダーゼの作用で2価マンガンより得られた3価マンガンを用いて基質の重合反応を行うにあたり、反応系からマンガンペルオキシダーゼを廃棄せず、かつ、反応系への新たなマンガンイオンの供給と反応系からのマンガンイオンの廃棄とを抑制することにより、低コストで安価に二量体又はポリマーを製造する方法を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本発明者らは上記課題を解決するために鋭意研究した結果、担体に固定化したマンガンペルオキシダーゼの作用で2価マンガンより得られた3価マンガンを用いて基質の重合反応を行うにあたり、
(1)マンガンペルオキシダーゼによる2価マンガンからの3価マンガンへの活性化を基質の反応場と異なる場で行うことによって、マンガンペルオキシダーゼを廃棄もしくは再処理することなく、基質の重合反応を繰返し行うことができ、かつ、
(2)反応系のマンガンイオンをリサイクルすることによって、反応系への新たなマンガンイオンの供給量の削減、および反応系からのマンガンイオンの廃棄量を削減して、低コストで安価に目的物を製造できることを見出し、本発明を完成するに至った。
【0006】
すなわち、本発明は、基質を3価マンガンの存在下で重合する、二量体又はポリマーの製造方法であって、マンガンペルオキシダーゼを固定化した担体を充填したカラムに、酸化剤と2価マンガンとを含む水性溶媒を流すことによって、2価マンガンを3価マンガンに酸化する第一工程と、第一工程で得られた3価マンガンを含む水性溶媒と基質とを反応器へ供給する第二工程と、反応器中で、3価マンガンの存在下に基質を重合させることで二量体又はポリマーを得る第三工程と、第三工程で得られた二量体又はポリマーを含む水性溶媒中の2価マンガン及び3価マンガンを、前記二量体又はポリマーから分離及び回収する第四工程と、第四工程で分離及び回収された2価マンガン及び3価マンガンを、前記第一工程で用いるマンガンペルオキシダーゼを固定化した担体を充填したカラムに供給する第五工程と、を有することを特徴とする二量体又はポリマーの製造方法である。
【発明の効果】
【0007】
本発明により、担体に固定化したマンガンペルオキシダーゼの作用で2価マンガンより得られた3価マンガンを用いて基質の重合反応を行うにあたり、
(1)マンガンペルオキシダーゼによる2価マンガンからの3価マンガンへの活性化を基質の反応場と異なる場で行うことによって、マンガンペルオキシダーゼを廃棄もしくは再処理することなく、繰返し基質の重合反応を行うことができ、
(2)反応系のマンガンイオンをリサイクルすることによって、反応系への新たなマンガンイオンの供給量の削減と、反応系から排出されるマンガンイオンの廃棄量を削減して、低コストで安価に目的物である二量体またはポリマーを製造できる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0008】
以下、本発明について、詳しく説明する。なお、本発明において、「ポリマー」とは三量体以上の重合体を指すものとする。
本発明に係る二量体又はポリマーの製造方法は、マンガンペルオキシダーゼを固定化した担体を充填したカラムに、酸化剤と2価マンガンとを含む水性溶媒を流すことによって、2価マンガンを3価マンガンに酸化する第一工程と、第一工程で得られた3価マンガンを含む水性溶媒と基質とを反応器へ供給する第二工程と、反応器中で、3価マンガンの存在下に基質を重合させることで二量体又はポリマーを得る第三工程と、第三工程で得られた二量体又はポリマーを含む水性溶媒中の2価マンガン及び3価マンガンを、前記二量体又はポリマーから分離及び回収する第四工程と、第四工程で分離及び回収された2価マンガン及び3価マンガンを、前記第一工程で用いるマンガンペルオキシダーゼを固定化した担体を充填したカラムに供給する第五工程と、を有することを特徴とする。
【0009】
本発明においては、まず、マンガンペルオキシダーゼを固定化した担体を充填したカラムに、酸化剤と2価マンガンとを含む水性溶媒を流すことによって、2価マンガンを3価マンガンに酸化する第一工程を行う。
第一工程は具体的には、例えば、マンガンペルオキシダーゼを固定化した担体をカラムに充填し、マンガンの酸化数が+2であるマンガン化合物と酸化剤とを水性溶媒中に溶解あるいは分散させた液を、該カラムの入口から供給することで、カラム内で2価マンガンの酸化反応を行い、カラム出口から3価マンガンを含む水性溶媒を得る工程である。
【0010】
本発明の第一工程で用いるマンガンペルオキシダーゼとしては、例えば、ファネロカエテ・クリソスポリウム(Phanerochaete chrysosporium)、ファネロカエテ・ソルディダ(Phanerochaete sordida)、カイガラタケ(Lenzites betulinus)、ヒラタケ(Pleurotus ostreatus)、シイタケ(Lentinus edodes)等の担子菌類が生産するリグニン分解酵素を挙げることができる。これらのマンガンペルオキシダーゼは、単独で用いても、2種以上を併用してもよい。
【0011】
マンガンペルオキシダーゼを固定化するための担体としては、市販のものや従来公知の方法で製造されたものを用いればよく、例えば、カオリナイト及びガラス等の無機物や、ポリアクリルアミド及びポリスチレン等の有機物を用いることができる。また、単位体積当りのマンガンペルオキシダーゼ固定化量を増やすことによって、2価マンガンの酸化反応の反応性を高めることができることから、担体の形状は、多孔質体であることが好ましい。
【0012】
これら担体へのマンガンペルオキシダーゼの固定化方法としては、従来公知の方法であればよく、例えば、マンガンペルオキシダーゼを含む溶液を担体と接触させ、必要に応じて水性溶媒等で洗浄する方法が挙げられる。担体へのマンガンペルオキシダーゼの固定化は、第一の方法として、担体表面の静電特性や表面形状等がマンガンペルオキシダーゼと親和性があることを利用して、静電引力、ファンデルワールス力及び疎水結合等の非共有結合を介して固定化する方法が挙げられる。また第二の方法としては、担体表面の官能基とマンガンペルオキシダーゼ中の官能基との間で化学反応を行うことにより、共有結合を介して固定化する方法が挙げられる。
【0013】
共有結合を形成させる官能基及びその組み合わせとしては、従来公知のものを用いることが可能であるが、マンガンペルオキシダーゼが生体由来の物質であるため、その機能が失活することのない温度範囲の中で、効率的に反応する官能基およびその組み合わせが好ましい。同様に、マンガンペルオキシダーゼの機能が失活するような溶媒中でしか反応が進行しない官能基及びその組み合わせは好ましくない。マンガンペルオキシダーゼの機能が失活しないということを考慮すると、水中においても活性を有する官能基及びその組み合わせを用いることが好ましい。そのような組み合わせとしては、アミノ基とアミノ基が反応する官能基との組み合わせを挙げることができる。すなわち、マンガンペルオキシダーゼ中のアミノ基と、担体中のアミノ基が反応する官能基との間で供給結合を形成させることが好ましい。
【0014】
アミノ基が反応する官能基としては、エポキシ基、ハロホルミル基、イソシアナト基、カルボキシ基、−CO−O−CO−基、マレイミド基、およびホルミル基が好ましく、これらの中で、アミノ基と反応する官能基の反応性、安定性を考慮すると、ホルミル基とエポキシ基がより好ましく、共有結合形成後に還元工程が不要なことを考慮すると、エポキシ基が特に好ましい。アミノ基が反応する官能基は、担体全体にあってもよいが、少なくとも担体表面にあることが好ましい。
【0015】
エポキシ基を有している担体としては、市販のものや従来公知の方法で製造されたものを用いればよく、例えば、カオリナイト及びガラス等の無機物や、ポリアクリルアミド及びポリスチレン等の有機物にエポキシ基を有しているものを用いることができる。該有機物としてはポリマーが好ましく、さらに該ポリマーは多孔質体であることが好ましい。その様な例としては、例えば、オイパーギット(商品名;デグサジャパン株式会社製)等が挙げられる。
一方、担体がエポキシ基を有していない場合は、エポキシ基を担体に導入しても良い。例えば、ガラス由来の担体に対しては、各種のシランカップリング剤を用いることにより、担体にエポキシ基を導入することが可能である。また、有機物由来の担体であれば、例えば、該有機物に存在する官能基を介してエポキシ基を導入することができる。
【0016】
マンガンペルオキシダーゼを固定化した担体を充填するためのカラムは、入口と出口が共通で一つしかないものであっても、本発明の効果は十分発揮されるが、入口と出口が別々であり、これらの数の合計が2以上であるものの方が好ましい。このようなカラムを用いることで、酸化剤と2価マンガンとを含む水性溶媒をカラムへ送液する工程と、3価マンガンを含む水性溶媒をカラムから取り出す工程とを連続して行うことができる。
また、このようなカラムの出口側には、担体に固定化したマンガンペルオキシダーゼが、3価マンガンを含む水性溶媒と一緒にカラム外へ排出されることを防ぐために、フィルターを設けることが好ましい。
【0017】
一方、マンガンペルオキシダーゼを固定化した担体をカラムに充填する方法としては、2価マンガンを含む水性溶媒中に、マンガンペルオキシダーゼを固定化した担体を均一に分散させ、この分散液をカラムの入口側からカラム内に導入する方法が好ましい。このようにすることで、2価マンガンから3価マンガンへの酸化反応をより確実に進行させることができ、カラム出口より取り出される水性溶媒中の初期の3価マンガン濃度の低下を抑制することができる。
【0018】
前記カラム中を、2価マンガンを含む水性溶媒を通過させて、2価マンガンを3価マンガンへと酸化する際は、固定化したマンガンペルオキシダーゼの活性を最大限引き出すために、カラムの温度を10〜70℃に保つことが好ましく、20〜40℃に保つことがより好ましい。
また、2価マンガンを含む水性溶媒を、カラム中を通過させる時間は、5分以内とすることが好ましい。5分を超えると、得られる3価マンガンの濃度が減少してしまうことがある。
【0019】
本発明の第一工程で用いる酸化剤としては、例えば、過酸化水素、メチル過酸化物、エチル過酸化物等の過酸化物等が挙げられるが、反応性、経済性の観点から過酸化水素が好ましい。
酸化剤は、例えば、2価マンガンを含む水性溶媒と混合してから前記カラムに送液する。また、前記カラムにまず酸化剤のみを送液し、続いて2価マンガンを含む水性溶媒を添加して、前記カラム中で該水性溶媒と酸化剤とを混合することもできる。
また、酸化剤の配合量は適宜調整することができる。例えば、酸化剤として過酸化水素を用いる場合には、マンガンペルオキシダーゼの安定性の観点から、カラム内の前記水性溶媒中の過酸化水素終濃度を1mol/L以下とすることが好ましく、0.1〜100mmol/Lとすることがより好ましい。ここで言う終濃度とは、2価マンガンを含む水性溶媒と該酸化剤とを混合した後の濃度を指す。
【0020】
本発明で用いる水性溶媒としては、例えば、水、緩衝液、水又は緩衝液と有機溶媒との混合液等が用いられる。
緩衝液としては、例えば、マロン酸緩衝液、シュウ酸緩衝液、酒石酸緩衝液、酢酸緩衝液、コハク酸緩衝液、クエン酸緩衝液及びリン酸緩衝液等が挙げられる。
水性溶媒が水と有機溶媒との混合液である場合は、有機溶媒の割合は10体積%以下とすることが好ましく、5体積%以下とすることがより好ましい。有機溶媒の割合が高くなり過ぎると、固定化したマンガンペルオキシダーゼが失活しやすくなる。
また、ここで、用いることのできる有機溶媒としては、例えば、ヘキサン、トリクロロメタン、メチルエチルケトン、酢酸エチル、ブタノール、エタノール、メタノール、ジオキサン、アセトニトリル、テトラヒドロフラン(THF)、ギ酸ジメチルホルムアミドメチル、アセトン、n−プロパノール、イソプロパノール及びt−ブチルアルコール等が挙げられる。
【0021】
本発明においては、2価マンガンの酸化反応に伴って生成する3価マンガンを錯体として安定化させるために、第一工程又は第二工程において水性溶媒中に有機酸を含有させることが好ましい。なかでも、効率よく錯体を形成し、3価マンガンを安定化する効果が大きいことから、用いる有機酸は、マロン酸、シュウ酸及び酒石酸のいずれかであることが好ましい。また、有機酸は1種のみを用いてもよく、2種以上を併用してもよい。
また、用いる有機酸の量は、3価マンガンの2倍以上の量であることが好ましい。
【0022】
水性溶媒中に含まれる2価マンガンとしては、マンガンの酸化数が+2であるマンガン化合物を用いればよく、特に限定されない。このようなものとして、例えば、硫酸マンガンを挙げることができる。
また、2価マンガンの配合量は、用いる基質の種類に応じて適宜調整すればよいが、水性溶媒として前記緩衝液を用いた場合等、水性溶媒中に有機酸を含有する場合には、有機酸の1/2の量よりも少ない方が好ましい。このような量とすることで、2価マンガンの酸化反応に伴って生成する3価マンガンが、これら有機酸と効率的に錯体を形成する。
【0023】
本発明においては、前記第一工程に続き、該第一工程で得られた3価マンガンを含む水性溶媒と基質とを、反応器へ供給する第二工程を行う。
第二工程で、前記第一工程のカラム出口から得られた3価マンガンを含む水性溶媒を反応器へ供給する方法としては、カラム出口を直接反応器と接続する方法や、カラム出口を反応器とは異なるタンクに接続して3価マンガンを含む水性溶媒を該タンクに蓄えた後、該タンクから反応器へ3価マンガンを含む水性溶媒を供給する方法を採用することができる。
【0024】
3価マンガンを含む水性溶媒を、前記タンクから反応器へと供給する方法としては、従来公知の方法を用いることが可能である。例えば、ペリスタルティックポンプやダイヤフラムポンプを用いる方法等が挙げられる。
【0025】
また、本第二工程では、第一工程にてカラム出口から得られる3価マンガンを含む水性溶媒を反応器へ供給する際に、該3価マンガンを含む水性溶媒とは異なる別の成分を含む溶媒を、同時に供給することもできる。例えば、第一工程で得られる3価マンガンを含む水性溶媒のpHを調整することを目的として、塩酸や水酸化ナトリウム等のpH調整剤を反応器へ同時に供給することができる。
【0026】
本発明の第二工程で用いる反応器としては、連続式反応器やバッチ式反応器等の従来公知の装置を用いることができる。連続式反応器は制御が複雑である反面、生産性が高く、一方、バッチ式反応器は生産性が低い反面、制御が容易であるという特徴を有する。用いる基質の種類及び量等、重合反応の条件を考慮して、適宜反応器を選択すればよい。
【0027】
前記反応器として、例えば、連続式反応器を用いる場合は、3価マンガンを含む水性溶媒が供給される位置において基質を供給すればよく、反応器としてバッチ式反応器を用いる場合は、3価マンガンを含む水性溶媒を反応器中に一定量蓄えた後、該反応器へ基質を供給すれば良い。
【0028】
反応器が連続式反応器である場合、基質を供給する方法としては、従来公知の方法を用いることができる。例えば、ペリスタルティックポンプ、ダイヤフラムポンプ及びシリンジポンプ等を用いる方法が挙げられる。
【0029】
反応器がバッチ式反応器である場合、基質を供給する方法としては、基質を一度に入れる方式と分割して入れる方式とがあるが、いずれの方式においても、ペリスタルティックポンプ、ダイヤフラムポンプ及びシリンジポンプ等を用いる従来公知の方法を用いることができる。
【0030】
さらに本発明では、前記第二工程を、前記第一工程で得られた3価マンガンを含む水性溶媒をその3価マンガンの濃度及び反応器への供給量を測定することによって、3価マンガンの供給量を測定しながら反応器へ供給する工程と、該工程で測定された3価マンガンの供給量に基づいて、調整された量の基質を反応器へ供給する工程とを有する工程とすることもできる。このような工程とすることで、反応条件をより精密に制御することができるため、未反応基質を抑制し、かつ、目的とする特定の重合反応の生成物、すなわち、二量体又はポリマーをより効率よく製造することができる。
【0031】
本工程において、3価マンガンの濃度及び該3価マンガンを含む水性溶媒の反応器への供給量の測定は、従来公知の方法であれば特に限定されない。具体的には、例えば、カラム出口と反応器とが直接接続されている場合には、反応器に3価マンガンを含む水性溶媒が供給される前に、3価マンガンの濃度及び該水性溶媒の供給量を測定すればよく、また、カラム出口が反応器とは異なるタンクに接続されている場合には、該タンクから反応器に3価マンガンを含む水性溶媒が供給される前に、3価マンガンの濃度及び該水性溶媒の供給量を測定すればよい。
【0032】
3価マンガンの濃度の測定に際しては、カラム又はタンクと反応器とを連結している配管等に濃度測定器を設けて、反応器に供給される3価マンガンを含む水性溶媒そのものを測定試料として用いる方法や、該3価マンガンを含む水性溶媒を製造装置外に分取して測定試料として用いる方法がある。いずれの場合においても、3価マンガンの濃度の測定法は特に限定されず、例えば、分光光度計を用いて270nmにおける吸光度を測定して、該測定値より算出することができる。また、濃度の測定に際しては、前記測定試料を適宜希釈してもよい。
【0033】
また、反応器へ供給される、3価マンガンを含む水性溶媒の供給量の測定に際しては、従来公知の方法を採用すれば良く、例えば、該水性溶媒の採取量を計測するか、カラム又はタンクと反応器とが配管により連結されている場合には、配管等に流速計を設けて、反応器へ供給中の前記水性溶媒の流速と供給時間とから供給量を算出すれば良い。
【0034】
反応器へ供給された3価マンガンの量に応じて、最適な量の基質を反応器へ供給する方法としては、供給する基質の濃度を変えずに量を変化させる方法、供給する基質の量を変えずに濃度を変化させる方法及び供給する基質の濃度と量をいずれも変化させる方法を挙げることができる。
【0035】
本発明で用いる基質の二量体を効率よく得るためには、反応器へ供給する3価マンガンの量(C)と反応器へ供給する基質の量(S)との割合を、C/S=5〜15(mol/mol)とすることが好ましい。
一方、基質のポリマーを効率よく得るためには、反応器へ供給する3価マンガン(C)の量と反応器へ供給する基質の量(S)との割合を、C/S=1〜5(mol/mol)とすることが好ましい。C/Sが1より小さい場合にもポリマーが得られるが、この場合、未反応の基質が増えてしまう。
【0036】
本発明で用いる基質がジアルキル置換フェノール類である場合には、前記C/Sを5〜15として、ジアルキルフェノール2量体を高い収率で得るためには、第一工程における酵素の濃度を50nmol/L以上、かつ第四工程における基質の濃度を2mmol/L以下とすることが好ましく、酵素の濃度を100nmol/L以上、かつ基質の濃度を1mmol/L以下とすることがより好ましい。
【0037】
本発明においては、第二工程に続き、前記反応器中で3価マンガンの存在下に基質を重合させ、二量体又はポリマーを得る第三工程を行う。
第三工程では、基質と3価マンガンを含む水性溶媒を効率よく混合することで、基質の重合反応が効果的に進行し、高い効率で二量体又はポリマーを得ることができる。前記反応器において、基質と3価マンガンを含む水性溶媒を効率よく混合する方法としては、特に限定されず、従来公知の方法を用いることができる。
【0038】
第三工程で基質の重合反応を行うときの反応温度は、50℃以下であることが好ましく、25℃程度であることがより好ましい。温度が高すぎる場合は、3価マンガンが不安定となり、基質を重合させる前に失活することがあり、温度が低すぎる場合は、3価マンガンと基質との反応が進行しにくくなることがある。
また、反応時間は、3価マンガンの量、及び反応基質により適宜調整すればよく、例えば、3価マンガン濃度が1.0mM、液量が1mlであり、基質が0.5mMの2,6−ジメチルフェノールである場合には、基質を完全に反応させるために必要な時間は1〜10分程度である。
【0039】
本発明で用いる基質としては、3価マンガンによって重合することができるすべての物質が対象となるが、特定の化学物質を効率よく製造するためには、該基質は、種々の物質の混合物ではなく、高純度の特定の化学物質であることが好ましい。このような基質としては、例えば、フェノール類やナフトール類などの芳香族ヒドロキシ化合物を挙げることができる。
【0040】
本発明における基質としてフェノール類を用いる場合、二量体又はポリマーとして特定の化学物質を高い収率で得るためには、該フェノール類は、芳香環の水素原子がアルキル基で置換されたアルキルフェノール類であることが好ましく、置換されたアルキル基の数が複数であるアルキルフェノール類であることがより好ましい。なかでも反応性の観点から、フェノール性水酸基から見て芳香環の2位と6位にアルキル基が置換されたアルキルフェノール類であることが特に好ましい。例えば、2,6−ジアルキル置換フェノールは、その反応特異性が高いことが知られており、本発明で用いる基質として、最も好ましいものとして挙げることができる。
【0041】
前記アルキル基は、直鎖状でも分岐鎖状でもよく、特に限定されないが、炭素数が1〜4のアルキル基であるメチル基、エチル基、n−プロピル基、イソプロピル基、n−ブチル基、イソブチル基、sec−ブチル基及びtert−ブチル基であることが好ましく、メチル基であることがより好ましい。また、前記アルキルフェノール類が、芳香環上に複数のアルキル基が置換されたものである場合には、複数のアルキル基は、同じ種類あるいは異なる種類のいずれもよい。
【0042】
本発明においては、第三工程にて得られた二量体又はポリマーを含む水性溶媒中の2価マンガン及び3価マンガンを、前記二量体又はポリマーから分離及び回収する第四工程を行う。なお、第三工程で3価マンガンが全て2価マンガンに還元された場合、すでに水性溶媒中には3価マンガンは存在しないことから、本工程においていう「2価マンガン及び3価マンガン」とは「2価マンガン」のみを意味する。これは以下、第五工程も同様である。
【0043】
第四工程で2価マンガン及び3価マンガンを、二量体又はポリマーから分離及び回収する方法は従来公知の方法を用いることができ、特に限定されない。例えば、二量体又はポリマーが該水性溶媒に対して不溶となり固体状物質として析出する場合には、ろ過及び遠心等の従来公知の方法により、2価マンガン及び3価マンガンを、二量体又はポリマーから分離及び回収することができる。また、二量体又はポリマーが該水性溶媒に対して可溶である場合には、抽出及び吸着等の従来公知の方法により、2価マンガン及び3価マンガンを、二量体又はポリマーから分離及び回収することができる。この場合、例えば、酢酸エチルで二量体又はポリマーを抽出することによって、二量体又はポリマーが酢酸エチル側に、2価マンガンを含む緩衝液成分が水性溶媒側に分離及び回収される。なお、基質が芳香族ヒドロキシ化合物の場合には、未反応基質は該水性溶媒側に分離及び回収される。このため、未反応基質は2価マンガン及び3価マンガンと共にリサイクルされ、次の重合反応に供されるか、または、未反応基質を吸着フィルターなどで除去し、2価マンガン及び3価マンガンのみをリサイクルしてもよい。
【0044】
さらに本発明においては、第四工程において分離及び回収された2価マンガン及び3価マンガンを、再度、マンガンペルオキシダーゼを固定化した担体を充填したカラムに供給する第五工程を行う。
この時、前記第一工程と同様に、酸化剤を、2価マンガンを含む水性溶媒と混合してから前記カラムに送液してもよいし、水性溶媒とは別に前記カラムに送液し、前記カラム中で該水性溶媒と混合してもよい。
このように、重合反応後の2価マンガン及び3価マンガンを、基質の重合反応に再利用することにより、二量体又はポリマーの製造コストを低減することができる。
【0045】
また、本発明においては、基質が芳香族ヒドロキシ化合物である場合、前記第四工程において分離された二量体又はポリマー中にキノン体が含まれていることがあるため、該二量体又はポリマーを還元する工程を有していても良い。還元剤は特に限定されず、例えば、水素化ホウ素ナトリウム、亜ジチオン酸ナトリウム等が挙げられる。
【0046】
さらに本発明は、前記第三工程で得られた二量体又はポリマーを含む水性溶媒から、二量体又はポリマーおよび未反応の基質の濃度、並びに水性溶媒の量を測定して、これらの測定値から二量体又はポリマーの生成量、未反応の基質量を算出する工程を設けることもできる。この工程により、二量体又はポリマーの収率を把握することができる。さらに、基質が芳香族ヒドロキシ化合物の場合、この未反応の基質は2価マンガン及び3価マンガンと共に、次のサイクルの第一工程に供され、第二工程を経て第三工程における重合反応に供されることになる。そのため、分離された未反応の基質の量の把握は、前記第二工程において反応器への基質の供給量の調整を行う際、さらに精密な制御が可能となり、より効率よく且つ安定した収率で基質の二量体又はポリマー、特に芳香族ヒドロキシ化合物の二量体又はポリマーを製造することができる。
【0047】
なお、二量体又はポリマー及び未反応の基質の濃度の測定方法は従来公知の方法であれば特に限定されず、例えば、高速液体クロマトグラフィー(HPLC)による測定を行い、検出された吸収ピークの強度から、前記第三工程で得られた水性溶媒に含まれる二量体又はポリマー及び未反応の基質の濃度を算出すればよい。
【0048】
本発明の製造方法により得られる二量体又はポリマーは、各種樹脂原料として用いることができる。特に、基質が前記芳香族ヒドロキシ化合物の場合には、エポキシ樹脂やフェノール樹脂などの熱硬化性樹脂の原料、あるいは、これら樹脂に用いられる硬化剤等として有用に用いることができる。
【実施例】
【0049】
以下、本発明を具体的な実施例に基づいてさらに詳しく説明する。ただし、本発明は以下の実施例に何ら限定されるものではない。なお、以下において、単位「M」は「mol/L」を、単位「mM」は「mmol/L」を示す。
【0050】
(実施例1)
本実施例においては、酵素としてマンガンペルオキシダーゼ、マンガンペルオキシダーゼを固定化する担体としてエポキシ基を有する多孔質アクリル樹脂系担体であるオイパーギットC250L(デグサジャパン株式会社製「Eupergit C250L」)を用いた。緩衝液としては、マロン酸二ナトリウム(和光純薬工業株式会社製「マロン酸二ナトリウム」)を用いたマロン酸緩衝液(pH4.5)を使用し、酸化数+2のマンガンを有するマンガン化合物として硫酸マンガン(和光純薬工業株式会社製「硫酸マンガン」)を用いた。基質としては、ジアルキル置換フェノールである2,6−ジメチルフェノール(和光純薬工業株式会社製「2,6−ジメチルフェノール」)をアセトンに溶解したものを用いた。また、以下、還元剤として亜ジチオン酸ナトリウム(和光純薬工業株式会社製「ハイドロサルファイトナトリウム」)を用いた。
【0051】
マンガンペルオキシダーゼとしては、ファネロカエテ・クリソスポリウム(Phanerochaete chrysosporium)の培養菌床から得られたマンガンペルオキシダーゼを用いた。このマンガンペルオキシダーゼの調製方法は以下の通りとした。
すなわち、白色腐朽菌ファネロカエテ・クリソスポリウム(Phanerochaete chrysosporium)ATCC24725を、表1に示す組成のカーク液体培地で37℃にて培養した。なお、表1中のカークトレースエレメンツの組成を表2に示す。
【0052】
【表1】

【0053】
【表2】

【0054】
培養は2L三角フラスコ中で前記培地1Lにて行い、37℃で3日間培養後、100%酸素をパージし、その後毎日一回酸素パージを行った。所定時間培養した後、培養液を吸引濾過して培養濾液を得て、得られた培養濾液を粗酵素溶液とした。pH7.2のリン酸緩衝液にて膨潤させた後にカラムに充填したトヨパールDEAE650M(「TOYOPEARL DEAE650M」、東ソー株式会社製)に、前記粗酵素溶液をpHを7.2に調整後、チャージした。カラム中に充填されたトヨパールDEAE650Mに吸着されたマンガンペルオキシダーゼを、pH6.0のリン酸緩衝液にて流出させて回収し、マンガンペルオキシダーゼを含む溶液とした。
【0055】
得られたマンガンペルオキシダーゼを含む溶液を50mg/Lとなるように調製し、その35mLと、1.25gのオイパーギットC250Lとをチューブに入れ、4℃の冷蔵庫中で一昼夜撹拌した。撹拌後のチューブを10分間4000rpmにて遠心し、オイパーギットC250Lを沈殿させ、上清を取り除いた。沈殿しているオイパーギットC250Lを洗浄するため、35mLの滅菌水を加えて撹拌した後、10分間4000rpmにて遠心し、再度オイパーギットC250Lを沈殿させ、上清を取り除いた。このオイパーギットC250Lの洗浄操作を合計3回行った。3回洗浄後に得られたオイパーギットC250Lを、マンガンペルオキシダーゼを固定化した担体とした。
【0056】
◎第一工程(1)
(マンガンペルオキシダーゼを固定化した担体を充填したカラムの作成)
マンガンペルオキシダーゼを固定化した担体5.0gを、50mMマロン酸を含む緩衝液(pH4.5)に懸濁し、懸濁液を低圧クロマトグラフィー用ガラスカラム(「エコノカラム」(底面積4.91cm)、日本バイオ・ラッドラボラトリーズ株式会社製)に充填し、マロン酸緩衝液を排出することによりマンガンペルオキシダーゼを固定化した担体を充填したカラムを得た。マロン酸緩衝液排出後に、マンガンペルオキシダーゼを固定化した担体のカラム中に占める高さは約1cmとなり、体積にして約4.91cmであった。
【0057】
(水性溶媒の調製)
50mMマロン酸、10mM過酸化水素水、20mM硫酸マンガンを含む緩衝液(pH4.5)を水性溶媒(A)として調製した。
【0058】
(2価マンガンの酸化反応)
調製した前記水性溶媒(A)を、ペリスタルティックポンプを用いて流速1mL/分にて送液し、前記カラムの入口からカラム内に供給した。供給された水性溶媒(A)は、前記カラムに充填されている担体に固定化されたマンガンペルオキシダーゼ部分を通過することにより、硫酸マンガン中の2価マンガンの一部が3価に変換された3価マンガンを含む水性溶媒(A’)へと変化し、前記カラムの出口より排出された。
【0059】
◎第二工程(1)
(3価マンガンを含む水性溶媒の反応器への供給)
前記第一工程(1)にて得られた3価マンガンを含む水性溶媒(A’)のうち、1.98mLをピペットにて分取し、反応器であるガラス製の蓋付試験管に供給した。
【0060】
この時、反応器へ供給する3価マンガンを含む水性溶媒中の3価マンガンの濃度を、270nmにおける吸光度を測定して検出した。吸光度測定は、UV−1650PC(商品名;株式会社島津製作所製)を用いて行った。測定値が分光光度計の測定限界を超える場合には、緩衝液にて3価マンガンを含む水性溶媒を適宜希釈してから、測定を行った。その結果、3価マンガンの濃度は4.0mMであることが判った。
【0061】
前記3価マンガンの濃度から算出された、反応器中における3価マンガン終濃度の8分の1の終濃度となるように、すなわち0.5mMとなるように、アセトンに溶解した50mMの基質である2,6−ジメチルフェノール20μLをピペットを用いて前記反応器へと供給した。この時、反応器中の3価マンガンの量(C)と2,6−ジメチルフェノールの量(S)とで表されるC/S(mol/mol)の値は8であった。
【0062】
◎第三工程(1)
(基質の重合反応)
前記第二工程(1)にて供給された3価マンガンを含む水性溶媒(A’)と基質とを、前記反応器中で室温にて1分間撹拌することにより、3価マンガンによる基質の重合反応を行った。撹拌スピードは120rpmとした。
【0063】
(二量体又はポリマー、未反応基質の測定(1))
前記第三工程(1)終了後の反応器から、反応溶液2.0mlを分取し、これに、0.2gの亜ジチオン酸ナトリウムを加えた後、2mLの酢酸エチルを加え、基質及び2,6−ジメチルフェノール二量体を含む重合反応による生成物を酢酸エチル層に抽出した。この時、2価マンガンは、水性溶媒中に分離された。
【0064】
前記抽出物中における2,6−ジメチルフェノール二量体の濃度について、下記条件でHPLC(高速液体クロマトグラフィー)による測定を行った。
検出装置:SPDM10A(商品名;株式会社島津製作所製)
カラム:イナートシルODS−3(商品名;ジーエルサイエンス株式会社)
溶出条件:水とアセトニトリルによるグラジエント溶出
0−5分:20% 水/80% アセトニトリル
5−21分:グラジエント
21−31分:0% 水/100% アセトニトリル
送液速度:1.0 mL/min
検出波長:270nm
【0065】
前記条件によるHPLC測定において検出された吸収ピークの強度から、抽出物に含まれる2,6−ジメチルフェノール二量体のモル濃度αと、2,6−ジメチルフェノールのモル濃度βを求めた。
前記モル濃度αと、基質として供給した2,6−ジメチルフェノールのモル濃度から算出される2,6−ジメチルフェノール二量体の理論生成濃度との比率によって表される値を、2,6−ジメチルフェノール二量体の収率(以下、二量体収率と略記)とし、下記式により算出した。その結果、本実施例において収率は95%であった。
【0066】
[数1]
(二量体収率)[%]=α/[(1/2)×(基質として供給した2,6−ジメチルフェノールモル濃度)]×100
【0067】
また前記モル濃度βと、基質として供給した2,6−ジメチルフェノールのモル濃度との比率によって表される値を、2,6−ジメチルフェノールの残存率(以下、基質残存率と略記)とし、下記式により算出した。その結果、本実施例において残存率は5%であった。
【0068】
[数2]
(基質残存率)[%]=β/(基質として供給した2,6−ジメチルフェノールモル濃度)×100
【0069】
さらに、基質として供給した2,6−ジメチルフェノールのうちポリフェノールの生成に使用された量と、基質として供給した2,6−ジメチルフェノールのモル濃度との比率によって表される値である2,6−ジメチルフェノールのポリマー率(以下、ポリマー率と略記)を、前記二量体収率及び基質残存率を用いて、下記式により算出した。その結果、本実施例においてポリマー率は0%であった。
【0070】
[数3]
(ポリマー率)[%]=100−(二量体収率)−(基質残存率)
【0071】
◎第四工程(1)
(2価マンガン及び二量体又はポリマーの回収)
前記第三工程(1)終了後の反応溶液を、マイクロ冷却遠心機(モデル3740;クボタ製)を用い、15000rpmにて20分間遠心し二量体又はポリマーを沈殿として回収し、水性溶媒を溶液として回収した。
【0072】
◎第五工程(1)および第一工程(2)
(2価マンガンの再酸化反応)
第五工程(1)として、第四工程(1)にて回収した水性溶媒に、終濃度が10mMとなるように過酸化水素水を加え、再利用するための水性溶媒(B)を調整した。調整した該水性溶媒(B)を、前記第一工程(1)と同様に、ペリスタルティックポンプを用いて流速1mL/分にて送液し、前記カラムの入口からカラム内に供給した。供給された水性溶媒(B)は、前記カラムに充填されている固定化したマンガンペルオキシダーゼ部分を通過することにより、硫酸マンガン中の2価マンガンの一部が3価に変換された3価マンガンを含む水性溶媒(B’)へと変化し、前記カラムの出口より排出された。
【0073】
(水性溶媒(B’)中の3価マンガン濃度の検出)
3価マンガンを含む水性溶媒(B’)中の3価マンガンの濃度を、270nmにおける吸光度を測定して検出した。吸光度測定は、UV−1650PCを用いて行った。測定値が分光光度計の測定限界を超える場合には、緩衝液にて3価マンガンを含む水性溶媒を適宜希釈してから、測定を行った。その結果、3価マンガンの濃度は、水性媒質を用いた場合と同等の値を示した。
【0074】
◎第二工程(2)
(3価マンガンを含む水性溶媒(B’)の反応器への供給)
前記第五工程(1)および第一工程(2)にて得られた3価マンガンを含む水性溶媒のうち、1.98mLをピペットにて分取し、反応器であるガラス製の蓋付試験管に供給した。
【0075】
なお、上記水性溶媒(B’)1.98mL中には1.0×10−6mmolの未反応の基質が残存していたことから、新規に反応器へ投入する基質は、アセトンに溶解した50mMの2,6−ジメチルフェノール19μLとし、これを、ピペットを用いて前記反応器へと供給した。この時、反応器中の3価マンガンの量(C)と2,6−ジメチルフェノールの量(S)とで表されるC/S(mol/mol)の値は8であった。
【0076】
◎第三工程(2)
(基質の重合反応)
前記第二工程(2)にて供給された3価マンガンを含む水性溶媒(B’)と基質とを、前記反応器中で室温にて1分間撹拌することにより、3価マンガンによる基質の重合反応を行った。撹拌スピードは120rpmとした。
【0077】
(二量体又はポリマー、未反応基質の測定(2))
前記第三工程(2)終了後の反応器から、反応溶液2.0mlを分取し、これに、0.2gの亜ジチオン酸ナトリウムを加えた後、2mLの酢酸エチルを加え、基質及び2,6−ジメチルフェノール二量体を含む重合反応の生成物を酢酸エチル層に抽出した。この時、2価マンガンは、水性溶媒中に分離された。
【0078】
前記抽出物中における基質、2量体およびポリマーの濃度について、第三工程(1)と同様の条件でHPLC(高速液体クロマトグラフィー)による測定を行った。前記条件によるHPLC測定において検出された吸収ピークの強度から、抽出物に含まれる2,6−ジメチルフェノール二量体のモル濃度αと、2,6−ジメチルフェノールのモル濃度βを求め、2,6−ジメチルフェノール二量体の収率を算出した。その結果、本実施例において二量体収率は95%であった。また基質の2,6−ジメチルフェノールの基質残存率は5%であった。さらに、2,6−ジメチルフェノールのポリマー率は0%であった。
【0079】
<二量体又はポリマー、未反応基質の測定(1)>と<二量体又はポリマー、未反応基質の測定(2)>とで、前記条件によるHPLC測定において検出された吸収ピークの強度から、抽出物に含まれる2,6−ジメチルフェノール二量体および未反応基質のモル濃度を比較したところ、ほぼ同量であった。
【0080】
これらの結果から、第一工程にて得られた3価マンガンを含む水性溶媒と基質とを用いて重合反応を行うことにより、二量体又はポリマーを得られることが確認された。
また、重合反応終了後に、二量体又はポリマーを有機溶媒にて抽出することで、2価マンガン及び3価マンガンを水性溶媒中に分離することができた。さらに、この2価マンガンを含む水性溶媒に過酸化水素を添加することで、再度、第一工程で用いることが可能であった。
【0081】
また、カラムに充填した固定化マンガンペルオキシダーゼから3価マンガンを含む水性溶媒を反応器へと排出し該反応器中にて基質と反応させる手法は、マンガンペルオキシダーゼが基質によって汚染されることがないため、マンガンペルオキシダーゼの繰り返し利用に有用であることがわかった。
【0082】
以上の結果から明らかなように、本発明の二量体又はポリマーの製造方法によって、担体に固定化したマンガンペルオキシダーゼから得られる3価マンガンを用いて、二量体又はポリマーを安定した収率で効率よく製造することができ、重合反応後、分離及び回収された2価マンガン及び3価マンガンは、再度、第一工程において用いることができた。
【産業上の利用可能性】
【0083】
マンガンペルオキシダーゼを用いて、二量体又はポリマーを安定した収率で効率よく製造することができ、かつ、2価マンガンの分離、回収及び再利用を容易に行うことができるので、二量体又はポリマーを低コストで提供できる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
基質を3価マンガンの存在下で重合する、二量体又はポリマーの製造方法であって、
マンガンペルオキシダーゼを固定化した担体を充填したカラムに、酸化剤と2価マンガンとを含む水性溶媒を流すことによって、2価マンガンを3価マンガンに酸化する第一工程と、
第一工程で得られた3価マンガンを含む水性溶媒と基質とを反応器へ供給する第二工程と、
反応器中で、3価マンガンの存在下に基質を重合させることで二量体又はポリマーを得る第三工程と、
第三工程で得られた二量体又はポリマーを含む水性溶媒中の2価マンガン及び3価マンガンを、前記二量体又はポリマーから分離及び回収する第四工程と、
第四工程で分離及び回収された2価マンガン及び3価マンガンを、前記第一工程で用いるマンガンペルオキシダーゼを固定化した担体を充填したカラムに供給する第五工程と、
を有することを特徴とする二量体又はポリマーの製造方法。
【請求項2】
前記第一工程又は第二工程において、前記水性溶媒中に有機酸を含有させる請求項1に記載の二量体又はポリマーの製造方法。
【請求項3】
前記基質が、芳香族ヒドロキシ化合物である請求項1又は2に記載の二量体又はポリマーの製造方法。
【請求項4】
前記芳香族ヒドロキシ化合物が、フェノール類である請求項3に記載の二量体又はポリマーの製造方法。
【請求項5】
前記フェノール類が、2,6−ジメチルフェノールである請求項4に記載の二量体又はポリマーの製造方法。
【請求項6】
前記マンガンペルオキシダーゼを固定化した担体が、エポキシ基を有する担体にマンガンペルオキシダーゼを固定化したものである請求項1〜5のいずれか一項に記載の二量体又はポリマーの製造方法。


【公開番号】特開2007−68517(P2007−68517A)
【公開日】平成19年3月22日(2007.3.22)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−262594(P2005−262594)
【出願日】平成17年9月9日(2005.9.9)
【出願人】(504145342)国立大学法人九州大学 (960)
【出願人】(000002886)大日本インキ化学工業株式会社 (2,597)
【Fターム(参考)】