説明

二金属錯体およびジアリールカーボネートの製造におけるその使用

本発明は、リガンドが、銅、マンガンまたはコバルトを錯化するサロフェン単位およびパラジウムを錯化するフェナントロリン単位を含有し、両方の系が、共役系により結合する二金属錯体に関する。更に、本発明は、ジアリールカーボネートを形成する芳香族ヒドロキシ化合物の酸化カルボニル化のための触媒としてのこれらの二金属錯体の使用、二金属錯体を触媒として用いるジアリールカーボネートの製造方法ならびに芳香族ヒドロキシ化合物の酸化カルボニル化により本発明の二金属錯体を触媒として用いて製造されたジアリールカーボネートに関する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、リガンドが、銅、マンガンまたはコバルトを錯化するサロフェン単位およびパラジウムを錯化するフェナントロリン単位を含有し、2つの系が、連続共役系により結合する二金属錯体に関する。さらに、本発明は、ジアリールカーボネートを形成する芳香族ヒドロキシ化合物の酸化カルボニル化のための触媒としてのこれらの二金属錯体の使用、二金属錯体を触媒として用いるジアリールカーボネートの製造方法ならびに芳香族ヒドロキシ化合物の酸化カルボニル化により本発明の二金属錯体を触媒として用いて製造されたジアリールカーボネートに関する。
【背景技術】
【0002】
ジアリールカーボネートは、溶融エステル交換法によるポリカーボネートの製造(例えば「Chemistry and Physics of Polycarbonates」、Polymer Reviews、H. Schnell、第9巻、John Wiley and Sons,Inc.、1964年参照)のために、フェニルウレタンの製造のために、または調剤および作物保護分野における活性化合物のための中間体として適している。
【0003】
ジアリールカーボネートは、芳香族ヒドロキシ化合物の相界面ホスゲン化(ショッテン−バウマン反応)により得られることが知られている。しかしながら、該方法は、ホスゲンおよび溶媒、例えば塩化メチレン等の使用のようなかなりの欠点を有する。
【0004】
ジアリールカーボネートは、芳香族ヒドロキシ化合物のCO、Oおよび貴金属触媒(例えばDE−A2738437、US−A4349485、US−A5231210、EP−A667 336、EP−A858991、US−A5760272を参照)の存在下での酸化直接カルボニル化により製造することもできる。好ましいのは、貴金属としてパラジウムを用いることである。さらに、共触媒(例えばマンガンまたはコバルト塩)、塩基、臭化物源、第4級塩、種々のキノンまたはヒドロキノンおよび乾燥剤を用いることができる。反応は、クロロベンゼンのような溶媒中で行うことができる。
【0005】
先行技術、例えばJ.Mol.Cat.A:Chem.2000、第151巻、第37頁〜第45頁では、銅塩、マンガン塩またはコバルト塩を、貴金属触媒に対して過剰に用いるが、その結果、触媒および共触媒を、低効率でしか使用することができない。
【0006】
さらに、既知の方法は、十分な触媒操作寿命を有さない。特に、金属パラジウムの堆積が生じる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】独国公開特許第2738437号明細書
【特許文献2】米国特許第4349485号明細書
【特許文献3】米国特許第5231210号明細書
【特許文献4】欧州特許第667336号明細書
【特許文献5】欧州特許第858991号明細書
【特許文献6】米国特許第5760272号明細書
【非特許文献】
【0008】
【非特許文献1】H.Schnell、「Chemistry and Physics of Polycarbonates」、Polymer Reviews、第9巻、John Wiley and Sons,Inc.、1964年
【非特許文献2】J.Mol.Cat.A:Chem.2000、第151巻、第37頁〜第45頁
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
従って、先行技術を考慮すれば、反応を、更なる量の銅塩、マンガン塩またはコバルト塩を共触媒として用いずに行うことを可能とし、および触媒の向上した効率(例えば回転数(turnover number)、TON)を可能とする触媒についての必要性が存在した。さらに、向上した安定性を有する触媒を提供する必要性が存在した。
【課題を解決するための手段】
【0010】
意外にも、取り組まれた課題は、第2金属が、錯体中でパラジウムに対して化学量論的に組み込まれた二金属錯体により解消した。該化合物は、相乗的に使用することができる共触媒および匹敵する系に対して向上した二金属触媒の操作寿命をもたらす。
【0011】
触媒活性パラジウムおよび酸化還元活性共触媒を、1つの分子内で組み合わせ、これにより、パラジウムの促進された酸化還元を相乗効果をもたらしながら可能とする二金属触媒を見出した。
【図面の簡単な説明】
【0012】
【図1】4,5−ジニトロ−o−フェニレンジアミンを、参考文献Cheeseman G.W.H.、J.Chem.Soc.、1962年、第1170頁の図1に従って調製した。
【発明を実施するための形態】
【0013】
式(1):
【化1】

〔式中、M=Ru、Os、Fe、Re、RhおよびM’=Ni、Co、Zn、Mn、Pt、Pd〕
で示される二金属錯体は、太陽電池のための光線感作物質としてWO2008/054024に記載される。また、フェナントロリン単位に結合した金属は、更なるビピリジン配位子により必然的に錯化される。これらの錯体は、金属中心M上での配位部位をビピリジン単位によりブロックすることが、反応物の結合にもはや利用できない配位部位をもたらすので、酸化カルボニル化、例えばフェノール、一酸化炭素および酸素からのジフェニルカーボネートの製造のための触媒として不適当である。酸化カルボニル化のための触媒活性金属(金属中心M)として、好ましいのは、2個のシス配位子および2個の弱配位配位子から構成される配位圏に位置するパラジウムである(J.Mol.Cat.A:Chem.2000、第151巻、第37〜45頁)。
【0014】
また、このような配位子および錯体の合成は、European Journal of Inorganic Chemistry 2003、第10巻、第1900頁〜第1910頁に記載されている。本明細書では、2個の戦略を用いる:フェナントロリン単位から始まる形成および配位子の完全合成後のみの錯化、および、合成を中心イオン、Ni(II)の存在下で行う鋳型法を選択するサロフェン単位から始まる形成。これは、中間体として、3,4−ジニトロサロフェン−Ni(II)錯体、式(2):
【化2】

を必要とし、その合成は、Dalton Transactions 2009、第10巻、第1792頁〜第1800頁およびそこに記載の参考文献に記載されている。
【0015】
特定の用途のために、特に触媒おいて、フェナントロリン単位における金属イオンを、更なるビピリジン錯体により錯化しない錯体が望ましい。さらに、鋳型ルートを行うのがより簡単であるが、中心原子として銅について記載されていない。
【0016】
更にパラジウムハライド錯体と反応して、パラジウムが更なるビピリジン配位子により安定化されない二金属錯体を形成し得るフェナントロリン単位を更に含有する配位子を、3,4−ジニトロサロフェン−Cu(II)錯体から製造することができることを見出した。
【0017】
パラジウムを、2個のフェナントロリン配位子により配位することは、2個の単座配位子Halがビピリジンキレートより容易に置き換えられるので予想されることであった。しかしながら、パラジウム−ビスフェナントロリン錯体の形成は、起こらなかった。
【0018】
従って、本発明は、一般式(3):
【化3】

〔式中、
Rは、水素、フッ素、塩素、窒素基、C〜C22−アルキル基、好ましくはメチル、イソプロピルまたはtert−ブチル、極めて特に好ましくはtert−ブチル、またはC〜C22−アリール基、好ましくはフェニル、トリル、2−(1,4−ジヒドロキシ)フェニルであり、
Halは、塩化物、臭化物またはヨウ化物、好ましくは塩化物または臭化物、極めて特に好ましくは臭化物、またはアルコキシド、例えばフェノキシドまたはメトキシド、または弱配位性アニオン、例えばトリフラート、トシレート、メシレート、テトラフルオロホウ酸塩、過塩素酸塩およびヘキサフルオロホスフェートであり、および
は、銅、マンガンまたはコバルトである〕
で示される錯体を提供する。
【0019】
本発明は、本発明の二金属錯体の製造における中間体として生じる一般式4aおよび4b:
【化4】

〔式中、RおよびMは、上に定義の通りである〕
で示される錯体を更に提供する。
【0020】
本発明はまた、式3で示される二金属錯体の、ジアリールカーボネートを形成する芳香族ヒドロキシ化合物の酸化カルボニル化のための触媒としての使用、および触媒として式3で示される錯体を用いる芳香族ヒドロキシ化合物の酸化カルボニル化により調製されたジアリールカーボネートを提供する。
【0021】
式3で示される化合物の合成は、式4bで示される化合物を形成する式4aで示される化合物の窒素基の水素化、式6:
【化5】

で示される配位子を形成する式5:
【化6】

で示されるフェンジオンとの引き続きの反応、および式7:
PdHal (7)
〔式中、Halは、上で定義した通りであり、Lは、必要に応じて存在する配位子、例えばアセトニトリル、トリアリールホスフィン、シクロオクタジエンまたはノルボルナンジエンである〕
で示される化合物との錯化により行う。
【0022】
式4aで示される錯体の調製に必要な4,5−ジニトロ−o−フェニレンジアミンは、例えば参考文献Cheeseman G.W.H.、J.Chem.Soc.、1962年、第1170頁に従って調製することができる。式4bで示される化合物を形成する水素化は、式4aで示される化合物の、水素供与性試薬、例えばH、ヒドラジン、シクロヘキサンまたはギ酸等による、担体、例えば炭素または無機物質等上に固定化し得る金属Ni、Co、Pd、Pt、RuまたはRhを含む触媒の存在下での水素化により行う。
【0023】
フェンジオンとの反応は、還流下、式4bで示される化合物の当モル量で、例えばメタノール、エタノールまたはイソプロパノール、クロロホルム、ベンゼン、トルエンまたはこれらの混合物のような溶媒中で一般的加熱(gemeinsames Erhitzen)により行うが、形成された水は、必要に応じて共沸蒸留により除去することができる。
【0024】
式3で示される錯体の形成は、式6で示される配位子と式7で示される化合物との、塩化メチレン、クロロホルム、1,2−ジクロロエタン、ベンゼン、クロロベンゼン、DMF、ジエチルエーテル、メチルtert−ブチルエーテルまたはTHFのような溶媒中での10℃〜溶媒の沸点の温度における大気圧下での反応により行う。
【0025】
式3を有する本発明の二金属錯体は、ジアリールカーボネートを形成する芳香族ヒドロキシ化合物の酸化カルボニル化の触媒に適している。
【0026】
本発明の方法のための芳香族ヒドロキシ化合物は、式8:
Ar−OH (8)
〔式中、Arは、フェニル、ナフチル、アントリル、フェナントリル、インダニル、テトラヒドロナフチルまたはN、OおよびSからなる群からの1個または2個のヘテロ原子を有する5または6員環芳香族ヘテロ環の基であり、これらの同素環式およびヘテロ環式基は、直鎖または分岐状のC〜Cアルキル、直鎖または分岐状のC〜Cアルコキシ、直鎖または分岐状C〜Cアルコキシカルボニルのような1個または2個の置換基によって置換されてよく、それらは、フェニル、シアノおよびハロゲン(例えばF、Cl、Br)によって置換されてよく、ヘテロ環式基は縮合ベンゼン環(ankondensierten Benzolkern)に結合してもよい〕
で示される芳香族ヒドロキシ化合物である。
【0027】
式8で示される芳香族ヒドロキシ化合物の例は、次のものである:フェノール、o−、m−およびp−クレゾール、o−、m−およびp−イソプロピルフェノール、対応するハロフェノールまたはアルコキシフェノール、例えばp−クロロフェノールまたはp−メトキシフェノール、サリチル酸メチル、サリチル酸エチル、およびナフタレン、アントラセンおよびフェナントレンのモノヒドロキシ化合物、および4−ヒドロキシピリジンおよびヒドロキシキノリン。好ましくは、フェノールおよび必要に応じて置換されたフェノール、特に好ましくはフェノールの使用である。
【0028】
酸化カルボニル化によるジアリールカーボネートの製造は、芳香族ヒドロキシ化合物と炭素モノオキシドおよび酸素とを式3を有する本発明の触媒の存在下で反応させることにより行う。
【0029】
式3を有する本発明の触媒による芳香族ヒドロキシ化合物の酸化カルボニル化は、溶媒、例えばクロロベンゼン、ジクロロベンゼン、トルエン、キシレン、DMF、ジメチルアセトアミド、テトラヒドロフラン、NMP、エチレンカーボネートまたはプロピレンカーボネート等の存在下または不存在下で、25〜150℃、好ましくは60〜110℃の温度にて、一酸化炭素/酸素混合物の存在下で、1:1〜99:1、好ましくは98:2〜60:40の分圧比で、必要に応じて更なる不活性ガス、例えば窒素、アルゴンまたは二酸化炭素の存在下で行うが、不活性ガスと活性ガスの分圧比は、98:2〜2:98、好ましくは95:5〜50:50であり、全圧は、1バール〜100バール、好ましくは5バール〜20バールである。
【0030】
更に、他の酸化還元活性物質、例えばキノン、アルカリ金属ヨウ化物またはアルカリ土類金属ヨウ化物、マンガン化合物、コバルト化合物、または銅化合物等を、1:1〜1:100、好ましくは1:2〜1:20のパラジウム化合物と酸化還元活性物質との重量比で存在させることが可能である。
【0031】
キノンの例は、ベンゾキノン、ナフトキノンおよびアントラキノンおよびこれらの置換生成物である。マンガン化合物、コバルト化合物または銅化合物の例は、酸化物、ハライド、アセチルアセトネートまたはこれらのカルボキシレートである。
【0032】
更なる共触媒または補助物質として、オニウム塩、例えばアンモニアホスホニウムまたはスルホニウム塩等、鉛化合物、例えばアルキル鉛または酸化鉛等、ポリマー、例えばポリビニルピロリドン等、アルキルハライド、例えばジブロモエタン等を、1:1〜1:200、好ましくは1:10〜1:50のパラジウム化合物と共触媒または補助物質との重量比で用いることが可能である。特に好ましいのは、アンモニウムまたはホスホニウム化合物の臭化物を、1:1〜1:200、好ましくは1:10〜1:50のパラジウム化合物と補助物質との重量比で用いることである。
【0033】
式3を有する本発明の錯体を触媒として用いて調製されたジアリールカーボネートは、ポリカーボネートまたはイソシアネートを調製するために用いることができる。
【0034】
以下の実施例は、本発明の範囲を制限することなく本発明を説明する。
【実施例】
【0035】
4,5−ジニトロ−o−フェニレンジアミンを、参考文献Cheeseman G.W.H.、J.Chem.Soc.、1962年、第1170頁の図1に従って調製した。
【0036】
実施例1
図2による[DNBuSalCu](式4aで示され、本発明による)の調製
20mLのエタノール中での0.69g(3.48ミリモル)のCu(OAc)・HOの溶液を、80mLのエタノール中での0.68g(3.48ミリモル)の4,5−ジニトロ−o−フェニレンジアミンおよび1.63g(6.96ミリモル)の3.5−ジ−tert−ブチル−サリチルアルデヒドの混合物へ添加した。該混合物を、80分間還流した。次いで該沈殿物をろ過し、n−ヘキサンで洗浄し、および減圧化で乾燥した。
収率:1.27g(50%)。
電界脱離質量分光法(FD−MS、D+トルエン)m/e(%):691(100)(C3644CuN
【0037】
実施例2
図3による[DABuSalCu](式4bで示され、本発明による)の調製
100mLのTHF中での1.27g(1.83ミリモル)の[DNBuSalCu]および0.2gのPd/C(10%)の懸濁液を、40バールの水素圧で250mLオートクレーブ中で処理し、室温で12時間撹拌し、および次いでろ過した。ろ液を、減圧下で蒸発させ、残存物をヘキサンで洗浄し、次いで減圧化で乾燥した。
収率:1.16g(100%)。
FD−MS(D+トルエン)m/e(%):631(100)(C3648CuN
【0038】
実施例3
図4による[PhenpzSalCu](式6で示され、本発明による)の調製
30mLのメタノール中での0.5g(0.79ミリモル)の[DNBuSalCu]の懸濁液を、20mLのメタノール中での0.16g(0.79ミリモル)のフェンジオンの溶液へ液滴状に添加した。次いで該混合物を、2時間還流し、ろ過した赤色沈殿物の形成が生じ、石油エーテルで洗浄し、および減圧化で乾燥した。
収率:0.5g(78%)。
FD−MS(D+トルエン)m/e(%):805(100)(C4850CuN
【0039】
実施例4
図5による[PdPhenpzSalCu](式1で示され、本発明による)の調製
0.01g(0.06ミリモル)の[Pd(CHCN)C1]の溶液を、5mLの塩化メチレン中での0.05g(0.06ミリモル)の[PhenpzSalCu]の溶液へ添加し、該混合物を、室温で16時間還流した。揮発性成分を、減圧下で除去し、残存物をヘキサンと混合した。次いで沈殿生成物をろ過し、減圧下で乾燥した。
収率:0.025g(42%)。
FD−MS(D+トルエン)m/e(%):981(10)(C485012CuNPd)、805(100)(C4850CuN
【0040】
実施例5
ジフェニルカーボネートを製造するための触媒としての[PdPhenpzSalCu]の使用
894mg(9.5ミリモル)のフェノール、8.5mg(0.0086ミリモル)の[PdPhenpzSalCu]、32mg(0.29ミリモル)のベンゾキノン、222mg(0.69ミリモル)のテトラブチルアンモニウム臭化物および110mgのモレキュラーシーブ(3Å)の混合物を、3回、10バールの97%のCOおよび3%のOの混合物でフラッシュし、次いで18バールの該ガス混合物で処理した。次いで該混合物を900rpmにて撹拌しながら90℃に加熱した。3時間の反応時間後のガスクロマトグラフィーによる反応混合物の分析は、2.8のパラジウムに基づく、および2.8の銅に基づく触媒のTONに対応するジフェニルカーボネートの5.1mg(0.024ミリモル)の収率を与えた。
【0041】
実施例6
954mg(10.1ミリモル)のフェノール、9.1mg(0.0093ミリモル)の[PdPhenpzSalCu]、43.8mg(0.39ミリモル)のベンゾキノン、212mg(0.66ミリモル)のテトラブチルアンモニウム臭化物および110mgのモレキュラーシーブ(3Å)の混合物を、3回、10バールの97%のCOおよび3%のOの混合物でフラッシュし、次いで18バールの該ガス混合物で処理した。次いで該混合物を900rpmにて撹拌しながら90℃に加熱した。14時間の反応時間後のガスクロマトグラフィーによる反応混合物の分析は、3.0のパラジウムに基づく、および3.0の銅に基づく触媒のTONに対応するジフェニルカーボネートの5.8mg(0.027ミリモル)の収率を与えた。
【0042】
パラジウムおよび銅に基づくTONは、本発明による化合物を用いた場合に反応時間により増加する。
【0043】
比較例7
参考文献J.Mol.Cat.A:Chem.2000年、第151巻、第37〜45頁における手順の改変
920mg(9.78ミリモル)のフェノール、4.6mg(0.012ミリモル)の[Pd(Phen)Cl]、20mg(0.056ミリモル)の[Co(acac)3]、31.8mg(0.29ミリモル)のベンゾキノン、219mg(0.66ミリモル)のテトラブチルアンモニウム臭化物および110mgのモレキュラーシーブ(3Å)の混合物を、3回、10バールの97%のCOおよび3%のOの混合物でフラッシュし、次いで18バールの該ガス混合物で処理した。次いで該混合物を900rpmにて撹拌しながら90℃に加熱した。3時間の反応時間後のガスクロマトグラフィーによる反応混合物の分析は、3.4のパラジウムに基づく、および0.5のコバルトに基づく触媒のTONに対応するジフェニルカーボネートの5.8mg(0.027ミリモル)の収率を与えた。
【0044】
比較例8
994mg(10.6ミリモル)のフェノール、4.3mg(0.011ミリモル)の[Pd(Phen)Cl]、18.2mg(0.050ミリモル)の[Co(acac)]、36.2mg(0.33ミリモル)のベンゾキノン、203mg(0.60ミリモル)のテトラブチルアンモニウム臭化物および110mgのモレキュラーシーブ(3Å)の混合物を、3回、10バールの97%のCOおよび3%のOの混合物でフラッシュし、次いで18バールの該ガス混合物で処理した。次いで該混合物を900rpmにて撹拌しながら90℃に加熱した。14時間の反応時間後のガスクロマトグラフィーによる反応混合物の分析は、2.7のパラジウムに基づく、および0.4のコバルトに基づく触媒のTONに対応するジフェニルカーボネートの4.7mg(0.022ミリモル)の収率を与えた。
【0045】
比較例では、パラジウム触媒に加えて、共触媒としてのコバルト塩の添加が必要である。パラジウムと共触媒のモル比は、1:6.5であるが、実施例5および6による二金属錯体を用いる場合には該比は、1:1である。
【0046】
【表1】

【0047】
パラジウムおよびコバルトに基づくTONは、比較例において増加した反応時間にて減少する。実施例5による二金属触媒と対応する比較例7および8の比較は、先行技術からの触媒と比べてより高い本発明の二金属触媒の安定性を示す。
【0048】
共触媒に基づくTONは、比較例7および8において、実施例5および6による本発明の二金属触媒を用いる場合より低い。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
式(3):
【化1】

〔式中、
Rは、水素、フッ素、塩素、窒素基またはC〜C22−アルキル基またはC〜C22−アリール基であり、
Halは、塩化物、臭化物またはヨウ化物、アルコキシドまたは弱配位性アニオンであり、および
は、銅、マンガンまたはコバルトである〕
で示される化合物。
【請求項2】
式3で示される化合物の製造方法であって、式4b:
【化2】

で示される化合物を形成する式4aで示される化合物の窒素基の水素化、式6:
【化3】

で示される配位子を形成する式5:
【化4】

で示されるフェンジオンとの引き続きの反応、および式7:
PdHal (7)
〔式中、Halは、上で定義した通りであり、Lは、必要に応じて存在する配位子である〕
で示される化合物を用いる錯化により、式3で示される化合物を製造するための方法。
【請求項3】
一般式4aまたは4b:
【化5】

〔式中、RおよびMは上で定義した通りである〕
で示される化合物。
【請求項4】
触媒としての、請求項1に記載の式3で示される1以上の二金属化合物の使用。
【請求項5】
ジアリールカーボネートを形成する芳香族ヒドロキシ化合物の酸化カルボニル化のための、請求項1に記載の式3で示される1以上の二金属化合物の使用。
【請求項6】
請求項1に記載の式3で示される錯体を用いる、芳香族ヒドロキシ化合物の酸化カルボニル化により得られる、ジアリールカーボネート。
【請求項7】
芳香族ヒドロキシ化合物を、一酸化炭素および酸素と、請求項1に記載の式3で示される触媒の存在下で反応させることを特徴とする、ジアリールカーボネートの製造方法。
【請求項8】
式8:
Ar−OH (8)
〔式中、Arは、フェニル、ナフチル、アントリル、フェナントリル、インダニル、テトラヒドロナフチルまたはN、OおよびSからなる群からの1個または2個のヘテロ原子を有する5または6員環芳香族ヘテロ環の基であり、これらの同素環式およびヘテロ環式基は、直鎖または分岐状のC〜Cアルキル、直鎖または分岐状のC〜Cアルコキシ、直鎖または分岐状C〜Cアルコキシカルボニルのような1個または2個の置換基によって置換されてよく、それらは、フェニル、シアノおよびハロゲン(例えばF、Cl、Br)によって置換されてよく、ヘテロ環式基は縮合ベンゼン環に結合してもよい〕
で示される芳香族ヒドロキシ化合物を用いることを特徴とする、請求項7に記載の方法。
【請求項9】
更なる酸化還元活性物質を用いることを特徴とする、請求項7または8に記載の方法。
【請求項10】
共触媒または補助物質を更に用いることを特徴とする、請求項7〜9のいずれかに記載の方法。
【請求項11】
オニウム塩、鉛化合物、ポリマー、アルキルハライドを用いることを特徴とする、請求項10に記載の方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公表番号】特表2013−513633(P2013−513633A)
【公表日】平成25年4月22日(2013.4.22)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2012−543622(P2012−543622)
【出願日】平成22年12月9日(2010.12.9)
【国際出願番号】PCT/EP2010/069323
【国際公開番号】WO2011/073087
【国際公開日】平成23年6月23日(2011.6.23)
【出願人】(512137348)バイエル・インテレクチュアル・プロパティ・ゲゼルシャフト・ミット・ベシュレンクテル・ハフツング (91)
【氏名又は名称原語表記】Bayer Intellectual Property GmbH
【Fターム(参考)】