説明

亜リン酸塩含有廃液の処理方法

【目的】 亜リン酸塩含有廃液より亜リン酸成分を亜リン酸カルシウムとして高収率で、しかも効率良く工業的に有利に回収する方法を提供する。
【構成】 亜リン酸塩含有廃液より亜リン酸成分を亜リン酸カルシウムとして沈澱生成させて分離回収する亜リン酸塩含有廃液の処理方法において、該廃液中に含有する亜リン酸量に対して反応量論よりも少量過剰の消石灰および等モル以上の鉱酸を添加し、加温しながら反応系が中性乃至アルカリ域で反応させる亜リン酸塩含有廃液の処理方法。

【発明の詳細な説明】
【0001】
【発明の属する技術分野】本発明は、亜リン酸塩含有廃液中に残留溶存する亜リン酸塩成分を効率良く分離除去して廃棄可能な状態に無害化させる亜リン酸塩含有廃液の処理方法に関する。
【0002】
【従来の技術】従来、次亜リン酸塩を製造する際に副生する亜リン酸塩、無電解ニッケルめっきの使用済み老化液から回収される亜リン酸塩等は、有効な用途が無く、その殆どが海洋投棄や管理型の最終処分場で埋め立て処分されている。しかし、海洋投棄は地球環境保全の点から好ましくないとされ、ロンドンダンピング条約により1996年から禁止されることになっており、また陸上での埋め立て処分にしても予め環境破壊を伴うことのない安全な形態に加工しなければならず、年々産業廃棄物の処分場の確保が困難になっているのが現状である。
【0003】そこで、それら亜リン酸塩含有廃液中に含まれる亜リン酸塩を効率良く、工業的に有利に処理する方法が望まれ、従来より様々提案されている。例えば、■過酸化水素や次亜塩素酸ナトリウム等の酸化剤を加えて亜リン酸をオルトリン酸に酸化し、これにカルシウム塩を添加して酸化により生成したオルトリン酸をリン酸カルシウムとして沈澱除去する方法がある。
【0004】また、■次亜リン酸及び亜リン酸を含む化学めっき廃液を電極として二酸化鉛電極を使用して亜リン酸をオルト燐酸に電解酸化して沈澱除去する方法がある(特開平6−99178号公報)。他に、■化学めっき廃液中の亜リン酸を拡散透析で分離除去し、次いでその透析液中の亜リン酸を電解透析により分離除去する方法がある(特開平6−145995号公報)。
【0005】また、本発明者らは、■無電解めっき老化液中に溶存するめっき金属イオンを粉体面にめっき被覆し分離除去した後、母液残存する亜リン塩等を亜鉛化合物で亜リン酸亜鉛として回収する方法を提案している。(特開平6−73550号公報)
【0006】
【発明が解決しようとする課題】しかしながら、上記■の酸化剤を使用する方法は、過酸化水素等の酸化剤の酸化率が低く過剰量の酸化剤を加えたり、酸化率の高い領域にpHを調整したりする必要がある等の問題点がある。
【0007】また、■の電解酸化する方法は、電解槽の設備投資を必要とするために安価に処理できない。のみならず生成するリン酸アルカリは有機酸が多く含まれているため、有効利用が困難で、さらに処理するための工程が必要である。■の電解透析法は、亜リン酸分の濃度が低い場合は、比較的亜リン酸の分離除去は容易であるが、濃度が高い場合は除去率が極端に低くなる欠点を有している。
【0008】また、■の方法は、亜リン酸塩と亜鉛化合物との反応率はpH依存性が大きいため、酸性側での反応では分離後の残液に未反応の亜鉛イオンや亜リン酸イオンが残ってしまい、廃水基準を越えたり、亜リン酸亜鉛の用途がないと極端に適用が制限されるといった欠点を有する。
【0009】本発明は、上記問題点に鋭意に鑑みた結果、亜リン酸塩含有廃液中に含有する亜リン酸量に対して反応量論よりも少量過剰の消石灰および等モル以上の鉱酸を順次添加し、加温しながら反応系が中性乃至アルカリ域で反応させることにより、亜リン酸塩を亜リン酸カルシウムとして高収率で、しかも効率良く工業的に有利に回収できることを知見し本発明を完成させた。
【0010】
【課題を解決するための手段】すなわち、本発明は、亜リン酸塩含有廃液より亜リン酸成分を亜リン酸カルシウムとして沈澱生成させて分離回収する亜リン酸塩含有廃液の処理方法において、該廃液中に含有する亜リン酸量に対して反応量論よりも少量過剰の消石灰および等モル以上の鉱酸を添加し、加温しながら反応系が中性乃至アルカリ域で反応させることを特徴とする亜リン酸塩含有廃液の処理方法である。
【0011】本発明に用いられる亜リン酸塩含有廃液は、亜リン酸ナトリウム含有廃液で、該亜リン酸ナトリウム含有廃液は無電解ニッケルめっき廃液が好適である。
【0012】
【発明の実施の形態】本発明の亜リン酸塩含有廃液の処理方法は、亜リン酸塩含有廃液より亜リン酸成分を亜リン酸カルシウムとして沈澱生成させて分離回収する亜リン酸塩含有廃液の処理方法において、該廃液中に含有する亜リン酸量に対して反応量論よりも少量過剰の消石灰および等モル以上の鉱酸を順次添加し、加温しながら反応系が中性乃至アルカリ域で反応させることを特徴とする。
【0013】本発明が処理対象とする亜リン酸塩含有廃液は、特に制限されないが、特に亜リン酸ナトリウム含有廃液が好ましい。亜リン酸ナトリウム含有廃液の種類は、代表的には次亜リン酸ナトリウムを製造する際に副生する廃液、無電解ニッケルめっき工程で還元剤として用いられ、使用済みとなった老化液、あるいは三塩化燐を塩素剤又は反応剤として使用した際に副生する廃液を挙げることができる。また、本発明の方法は、比較的に高濃度の亜リン酸塩や次亜リン酸塩、有機酸塩及び重金属を含む無電解ニッケルめっき廃液にも有効に適用できる。
【0014】なお、無電解ニッケルめっき廃液などの如く、廃液中にNi2+、Co2+のような金属イオンを含有しているものにあっては、廃液に消石灰および鉱酸を添加して反応を行なう処理に当たり、予め、これらの金属イオンを分離除去しておくことが望ましい。
【0015】本発明の特徴は、上記の処理方法において、カルシウム塩として消石灰を使用することにあるが、消石灰は微粉末状又は石灰乳としていずれであってもよい。この処理方法は、消石灰が順次溶解して亜リン酸イオンと反応して、亜リン酸カルシウムとして沈澱するものであるが、この時消石灰は反応性の関係から微細な粒子ほど好ましく、その平均粒子径は1〜50μm、好ましくは10〜30μm、さらに好ましくは約20μm程度である。粒子径が50μmを越えると反応性が悪くなり、また処理時間が長くなり、1μm未満のものは工業的入手が困難な理由による。
【0016】消石灰の使用量は、廃液中に含有する亜リン酸量に対して反応量論よりも少量過剰であり、具体的には亜リン酸量に対して1.2〜1.5倍モル、好ましくは1.3〜1.4倍モル程度である。
【0017】また、かかる処理で使用する鉱酸は、硫酸、塩酸等が好ましい。鉱酸の使用量は、廃液中に含有する亜リン酸量に対して等モル以上、好ましくは等モル付近、即ち1.0〜1.1モルが好ましい。反応系におけるpHは7〜12の中性乃至アルカリ性、好ましくは8〜10である。
【0018】反応温度は、40〜60℃、好ましくは45〜55℃である。反応時間は、0.5時間以上であればよいが、通常0.5〜10時間、好ましくは1〜3時間で有る。鉱酸と消石灰の添加順序は、特に問題はなく、同時でもまたはどちらを先に添加してもよい。
【0019】本発明においては、亜リン酸塩の濃度は特に制限することはないが、通常30重量%以下、好ましくは25重量%以下が望ましい。本発明によれば、このように30重量%程度の高濃度であっても高い回収率で亜リン酸塩を亜リン酸カルシウムとして回収することができる。
【0020】本発明に係る亜リン酸塩含有廃液の処理方法は、廃液中に含有する亜リン酸量に対して反応量論よりも少量過剰の消石灰および等モル以上の鉱酸を順次添加し、加温しながら反応系が中性乃至アルカリ域で反応させるものである。
【0021】かかる本発明の特徴は、カルシウム塩として消石灰をそのまま又はスラリーとして使用することである。消石灰を使用する場合、従来使用されているカルシウム源としての塩化カルシウムと比べると値段が安く、処理費用が極端に安くなる。
【0022】その亜リン酸ナトリウム含有廃液の処理における反応式は以下の通りと考えられる。
【0023】
【化1】
Na2 HPO3 +H2 SO4 +Ca(OH)2 →CaHPO3 +Na2 SO4 +2H2 O (I)
上記反応において、消石灰が順次溶解して亜リン酸イオンと反応し、亜リン酸カルシウムとして沈澱する。この場合、消石灰は比較的微粒子の方が好ましい。なお、亜リン酸ナトリウムと消石灰を直接反応させる場合、反応系が強アルカリとなって複分解反応は進行せず、上記の反応式のように硫酸の如き鉱酸の存在下で本反応は速やかに進行する。
【0024】
【実施例】以下、本発明を実施例に基づいて具体的に説明する。
【0025】実施例1亜リン酸イオン(167g/l)を含有する亜リン酸塩含有廃液250mlに、25wt%硫酸207g(亜リン酸イオンに対し等モル)を添加した後、消石灰51g(亜リン酸イオンに対し1.3倍モル)を添加した。この時、廃液のpHは9であった。廃液を50℃に昇温させ、2時間反応をおこなった。反応終了後、遠心分離機を用いて濾過をおこない、遠心分離機内の濾過ケーキを500mlの水で2回洗浄した。濾過ケーキは、白色で濾過性の良いものであった。回収された濾過液の量は380mlであり、該液中に残る未反応亜リン酸イオンは2.2g/lであった。これより、亜リン酸イオンの除去率は98%であった。
【0026】実施例2亜リン酸イオン(167g/l)を含有する亜リン酸塩含有廃液250mlに、消石灰47g(亜リン酸イオンに対し1.2倍モル)を40wt%スラリー溶液として添加した後、50wt%硫酸104g(亜リン酸イオンに対し等モル)を添加した。この時、廃液のpHは7.5であった。廃液を60℃に昇温させ、3時間反応をおこなった。反応終了後、遠心分離機を用いて濾過をおこない、遠心分離機内の濾過ケーキを500mlの水で2回洗浄した。濾過ケーキは、白色で濾過性の良いものであった。回収された濾過液の量は350mlであり、該液中に残る未反応亜リン酸イオンは6.0g/lであった。これより、亜リン酸イオンの除去率は95%であった。
【0027】実施例3亜リン酸イオン(151g/l)を含有する亜リン酸塩含有廃液250mlに、25wt%硫酸206g(亜リン酸イオンに対し1.1倍モル)を添加した後、消石灰53g(亜リン酸イオンに対し1.5倍モル)を添加した。この時、廃液のpHは11であった。廃液を50℃に昇温させ、1時間反応をおこなった。反応終了後、遠心分離機を用いて濾過をおこない、遠心分離機内の濾過ケーキを500mlの水で2回洗浄した。濾過ケーキは、白色で濾過性の良いものであった。回収された濾過液の量は400mlであり、該液中に残る未反応亜リン酸イオンは3.8g/lであった。これより、亜リン酸イオンの除去率は96%であった。
【0028】実施例4脱ニッケル除去処理後の無電解ニッケルめっき廃液(ニッケルイオン:0.02g/l、リンゴ酸イオン:15g/l、コハク酸イオン:11g/l、亜リン酸イオン:167g/l)250mlに25wt%硫酸207g(亜リン酸イオンに対し等モル)を添加した後、消石灰51g(亜リン酸イオンに対し1.3倍モル)を添加した。この時、廃液のpHは10であった。廃液を50℃に昇温させ、2時間反応をおこなった。反応終了後、遠心分離機を用いて濾過をおこない、遠心分離機内の濾過ケーキを500mlの水で2回洗浄した。濾過ケーキは、白色で濾過性の良いものであった。回収された濾過液の量は370mlであり、該液中に残る未反応亜リン酸イオンは3.4g/lであった。これより、亜リン酸イオンの除去率は97%であった。
【0029】実施例5亜リン酸イオン(167g/l)を含有する亜リン酸塩含有廃液250mlに、消石灰47g(亜リン酸イオンに対し1.2倍モル)を添加した後、25wt%塩酸77g(亜リン酸イオンに対し等モル)を添加した。この時、廃液のpHは8であった。廃液を50℃に昇温させ、3時間反応をおこなった。反応終了後、遠心分離機を用いて濾過をおこない、遠心分離機内の濾過ケーキを500mlの水で2回洗浄した。濾過ケーキは、白色で濾過性の良いものであった。回収された濾過液の量は260mlであり、該液中に残る未反応亜リン酸イオンは4.8g/lであった。これより、亜リン酸イオンの除去率は97%であった。
【0030】比較例1亜リン酸イオン(167g/l)を含有する亜リン酸塩含有廃液250mlに、25wt%硫酸207g(亜リン酸イオンに対し等モル)を添加した後、消石灰39g(亜リン酸イオンに対し等モル)を添加した。この時、廃液のpHは5.5であった。廃液を50℃に昇温させ、4時間反応をおこなった。反応終了後、遠心分離機を用いて濾過をおこない、遠心分離機内の濾過ケーキを500mlの水で2回洗浄した。濾過ケーキは、濾過性が悪く多量の水分を含んでいた。回収された濾過液は、320mlであり、該液中に残る未反応亜リン酸イオンは43g/lであった。これより、亜リン酸イオンの除去率は67%であった。
【0031】比較例2亜リン酸イオン(151g/l)を含有する亜リン酸塩含有廃液250mlに、消石灰42.4g(亜リン酸イオンに対し1.2倍モル)を添加した。この時、廃液のpHは14であった。廃液を50℃に昇温させ、2時間反応をおこなった。反応終了後、遠心分離機を用いて濾過をおこない、遠心分離機内の濾過ケーキを500mlの水で2回洗浄した。濾過ケーキは、濾過性が悪く多量の水分を含んでいた。回収された濾過液は、140mlであり、該液中に残る未反応亜リン酸イオンは76g/lであった。これより、亜リン酸イオンの除去率は28%であった。
【0032】
【発明の効果】以上のとおり、本発明の処理方法に従えば亜リン酸塩含有廃液に残留溶存する亜リン酸イオンを高濃度であっても効率良く、しかも経済的に分離除去し、亜リン酸カルシウムとして回収することができる。そのうえ、分離回収された亜リン酸カルシウムは、新たな防錆顔料等の用途として再利用することができることから、今後増大する亜リン酸ナトリウム含有廃液の集中的な処理技術として大きな有用性が期待できる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】 亜リン酸塩含有廃液より亜リン酸成分を亜リン酸カルシウムとして沈澱生成させて分離回収する亜リン酸塩含有廃液の処理方法において、該廃液中に含有する亜リン酸量に対して反応量論よりも少量過剰の消石灰および等モル以上の鉱酸を添加し、加温しながら反応系が中性乃至アルカリ域で反応させることを特徴とする亜リン酸塩含有廃液の処理方法。
【請求項2】 亜リン酸塩含有廃液が亜リン酸ナトリウム含有廃液である請求項1記載の亜リン酸塩含有廃液の処理方法。
【請求項3】 亜リン酸ナトリウム含有廃液は無電解ニッケルめっき廃液である請求項2記載の亜リン酸塩含有廃液の処理方法。