説明

亜塩素酸塩を含有する水性製剤

【課題】本発明の目的は、水性製剤に含まれる亜塩素酸塩の光安定性を向上させる技術を提供することである。
【解決手段】水性製剤において、亜塩素酸塩と、ブロムフェナク、ジクロフェナク、ケトロラック、フルルビプロフェン、それらの薬学的に許容される塩、及びネパフェナクよりなる群から選択される少なくとも1種の非ステロイド性抗炎症剤とを併用することにより亜塩素酸塩の光安定性を向上させることができる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、亜塩素酸塩の光安定性を向上させた水性製剤に関する。また、本発明は、水性製剤に含まれる亜塩素酸塩の光安定化方法、水性製剤に含まれる亜塩素酸塩に対する光安定化剤に関する。
【背景技術】
【0002】
一般に、点眼剤や点鼻剤等の水性製剤には、微生物侵入や増殖を抑制して製剤腐敗を防止するために、防腐剤が使用されている。従来、眼科分野の製剤には、防腐剤としてベンザルコニウム塩化物が汎用されている。ベンザルコニウム塩化物は、細菌のタンパク質を変性させることにより優れた防腐作用を示すが、その反面、角膜上皮に障害を誘発する要因にもなり得ることが知られている。このようなベンザルコニウム塩化物の悪影響については、健常人であれば殆ど影響はないが、高齢者、糖尿病、ドライアイ患者等の角膜が弱い人は、ベンザルコニウム塩化物の悪影響を受け易く、角膜上皮や結膜が障害を受けるリスクが高くなっている。そこで近年では、ベンザルコニウム塩化物の悪影響を極力避けるために、水性製剤中のベンザルコニウム塩化物の濃度を極力低く設定する傾向があるが、その一方で、防腐作用の低下が不可避となっている。
【0003】
一方、亜塩素酸塩は、水性製剤中で亜塩素酸イオン(ClO2-イオン)として存在して優れた防腐作用を示し、安全性も高いことから、ベンザルコニウム塩化物に代わる安全な防腐剤として注目されている。しかしながら、亜塩素酸塩は光曝露によって分解される性質があり、亜塩素酸塩を含む水性製剤には、光曝露に対する安定性を備えさせる手段を講じることが求められている。
【0004】
従来、亜塩素酸塩を含む水性製剤の光安定性を確保するために、亜塩素酸塩の光分解を招く光線を遮断する容器を使用することが提案されている。
【0005】
例えば、特許文献1には、波長420nm未満、及び500nm超の光線を遮断する容器を使用することによって、水性製剤に含まれる亜塩素酸塩の光安定性を確保できることが報告されている。しかしながら、特許文献1の技術では、使用される容器が可視光領域の光線を殆ど遮断するため、内部視認性を確保できず、製造工程や品質管理で不都合が生じ、使用者の利便性も低減するという欠点がある。
【0006】
また、特許文献2には、波長200nm〜500nmの光の透過率が10%以下であり、且つ波長540nm〜800nmの光の透過率が80%以上である有色透明な色材含有熱可塑性樹脂からなる眼科用剤用容器を用いることによっても、水性製剤に含まれる亜塩素酸塩の光安定性を確保できることが報告されている。しかしながら、特許文献2の技術では、波長200nm〜500nmの光の透過率を10%以下にするには、色材を配合する必要があり、容器の色調を制限し、容器の外観デザインの制約をもたらすという欠点がある。更に、上記色材の配合は、容器の有色化を招き、内部視認性を低下させる一因にもなっている。
【0007】
一方、製剤技術によって、水性製剤中の亜塩素酸塩に対する光安定性を付与する技術については未だ十分な検討がなされておらず、収容する容器の色調を制限することなく、亜塩素酸塩の光安定性を確保できる水性製剤の処方については開発されていないのが現状である。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【特許文献1】特開2003−327279号公報
【特許文献2】特開2007−61192号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
本発明は、製剤処方の観点から、水性製剤に含まれる亜塩素酸塩の光安定性を向上させる技術を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明者は、前記課題を解決すべく、鋭意検討を行ったところ、ブロムフェナク、ジクロフェナク、ケトロラック、フルルビプロフェン、それらの塩、及びネパフェナクには、水性製剤中の亜塩素酸塩の光安定性を向上させる作用があることを見出した。本発明は、このような知見に基づいて更に検討を重ねることにより完成したものである。
【0011】
即ち、本発明は、下記に掲げる態様の水性製剤、光安定化方法、及び光安定化剤を提供する。
項1. 亜塩素酸塩と、ブロムフェナク、ジクロフェナク、ケトロラック、フルルビプロフェン、それらの薬学的に許容される塩、及びネパフェナクよりなる群から選択される少なくとも1種の非ステロイド性抗炎症剤とを含有する、水性製剤。
項2. 前記非ステロイド性抗炎症剤が、ブロムフェナク、ジクロフェナク、及びそれらの薬学的に許容される塩よりなる群から選択される少なくとも1種である、項1に記載の水性製剤。
項3. 前記非ステロイド性抗炎症剤が総量で0.001〜0.5w/v%の濃度で含まれる、項1又は2に記載の水性製剤。
項4. 亜塩素酸塩が亜塩素酸ナトリウムである、項1〜3のいずれかに記載の水性製剤。
項5. 水性製剤が、点眼剤、点鼻剤、又は点耳剤である、項1〜4のいずれかに記載の水性製剤。
項6. 水性製剤において、ブロムフェナク、ジクロフェナク、ケトロラック、フルルビプロフェン、それらの薬学的に許容される塩、及びネパフェナクよりなる群から選択される少なくとも1種の非ステロイド性抗炎症剤とを共存させる、水性製剤に含まれる亜塩素酸塩の光安定化方法。
項7. ブロムフェナク、ジクロフェナク、ケトロラック、フルルビプロフェン、それらの薬学的に許容される塩、及びネパフェナクよりなる群から選択される少なくとも1種の非ステロイド性抗炎症剤を有効成分とする、水性製剤に含まれる亜塩素酸塩に対する光安定化剤。
【発明の効果】
【0012】
本発明の水性製剤によれば、水性製剤中の亜塩素酸塩の光安定性が向上しており、水性製剤の保存安定性を高めることができる。更に、本発明の水性製剤は、亜塩素酸塩の分解を招く波長の光線の曝露を受けても、亜塩素酸塩を安定に保持できるので、収容する容器については設計上の制約を受けず、無色透明の容器のように内部視認性を高度に確保されている容器に収容することも可能である。
【発明を実施するための形態】
【0013】
本明細書において、亜塩素酸塩の光安定性又は光安定化とは、水性製剤中に存在する亜塩素酸イオン(亜塩素酸塩の遊離イオン)が光曝露を受けた際に分解が抑制される特性又は当該特性を付与することを意味する。
【0014】
1.水性製剤
本発明の水性製剤は、亜塩素酸塩と、ブロムフェナク、ジクロフェナク、ケトロラック、フルルビプロフェン、それらの薬学的に許容される塩、及びネパフェナクよりなる群から選択される少なくとも1種の非ステロイド性抗炎症剤とを含有することを特徴とする。以下に、本発明の水性製剤について詳述する。
【0015】
本発明において、水性製剤とは、水を含む製剤、好ましくは水を基剤として含み液状を呈する製剤である。
【0016】
本発明の水性製剤は、亜塩素酸塩を含む。本発明で使用される亜塩素酸塩は、水性製剤中で亜塩素酸イオン(ClO2-イオン)を生成し得るものであれば特に制限されないが、亜塩素酸ナトリウム、亜塩素酸カリウム等の亜塩素酸アルカリ金属塩;亜塩素酸カルシウム、亜塩素酸マグネシウム等の亜塩素酸アルカリ土類金属塩;亜塩素酸銅、亜塩素酸鉛、亜塩素酸アンモニウム等が挙げられる。これらの亜塩素酸塩は、1種単独で使用してもよく、また2種以上を組み合わせて使用してもよい。
【0017】
これらの亜塩素酸塩の中でも、好ましくは亜塩素酸アルカリ金属塩、更に好ましくは亜塩素酸ナトリウムが挙げられる。
【0018】
本発明の水性製剤における亜塩素酸塩の濃度については、防腐作用を発揮できることを限度として特に制限されず、該水性製剤の用途等に応じて適宜設定されるが、例えば、0.0001〜0.5w/v%、好ましくは0.0005〜0.1w/v%が挙げられる。
【0019】
更に、本発明の水性製剤は、ブロムフェナク、ブロムフェナクの薬学的に許容される塩、ジクロフェナク、ジクロフェナクの薬学的に許容される塩、ケトロラック、ケトロラックの薬学的に許容される塩、フルルビプロフェン、フルルビプロフェンの薬学的に許容される塩、及びネパフェナクよりなる群から選択される少なくとも1種の非ステロイド性抗炎症剤を含む。このように亜塩素酸塩と共に特定の非ステロイド性抗炎症剤を併用することにより、水性製剤中での亜塩素酸塩の光安定性を向上させることが可能になる。
【0020】
ブロムフェナクは、2−アミノ−3−(4−ブロモベンゾイル)フェニル酢酸とも称される公知化合物である。ブロムフェナクの薬学的に許容される塩としては、例えば、ナトリウム塩、カリウム塩等のアルカリ金属塩;カルシウム塩、マグネシウム塩等のアルカリ土類金属塩等が挙げられる。これらの塩の中でも、好ましくはアルカリ金属塩、更に好ましくはナトリウム塩が挙げられる。また、ブロムフェナク及び/又はその塩は、合成条件や再結晶条件等により水和物として得られることがあるが、本発明に使用されるブロムフェナク及び/又はその塩は、このような水和物であってもよい。水和物としては、例えば3/2水和物が例示される。
【0021】
ジクロフェナクは、o−(2,6−ジクロロアニリノ)フェニル酢酸とも称される公知の化合物である。ジクロフェナクの薬学的に許容される塩としては、例えば、ナトリウム塩、カリウム塩等のアルカリ金属塩;カルシウム塩、マグネシウム塩等のアルカリ土類金属塩等が挙げられる。これらの塩の中でも、好ましくはアルカリ金属塩、更に好ましくはナトリウム塩が挙げられる。
【0022】
ケトロラックは、5−ベンゾイル−2,3−ジヒドロ−1H−ピロリジン−1−カルボン酸とも称される公知の化合物である。ケトロラックの薬学的に許容される塩としては、例えば、ナトリウム塩、カリウム塩、カルシウム塩、マグネシウム塩、アルミニウム等の金属塩;アンモニウム塩;イソプロピルアミン塩、ジエチルアミン塩等のアルキルアミン塩;エタノールアミン塩、トロメタミン塩等のアルカノールアミン塩等が挙げられる。これらの塩の中でも、好ましくはアルカノールアミン塩、更に好ましくはトロメタミン塩が挙げられる。
【0023】
フルルビプロフェンは、2−(2−フルオロ−1,1‘−ビフェニル−4−イル)プロピオン酸とも称される公知の化合物である。フルルビプロフェンの薬学的に許容される塩としては、例えば、ナトリウム塩、カリウム塩等のアルカリ金属塩等が挙げられる。これらの塩の中でも、好ましくはナトリウム塩が挙げられる。
【0024】
ネパフェナクは、2−(2−アミノ−3−ベンゾイルフェニル)アセトアミドとも称される公知の化合物である。
【0025】
本発明の水性製剤において、ブロムフェナク、ブロムフェナクの薬学的に許容される塩、ケトロラック、ケトロラックの薬学的に許容される塩、ジクロフェナク、ジクロフェナクの薬学的に許容される塩、フルルビプロフェン、フルルビプロフェンの薬学的に許容される塩、及びネパフェナクの中から、1種を単独で使用してもよく、また2種以上を組み合わせて使用してもよい。
【0026】
これらの非ステロイド性抗炎症剤の中でも、亜塩素酸塩の光安定性を一層効果的に向上させるという観点から、好ましくはブロムフェナク及びその薬学的に許容される塩、ジクロフェナク及びその薬学的に許容される塩、ケトロラック及びその薬学的に許容される塩;更に好ましくはブロムフェナク及びその薬学的に許容される塩、ジクロフェナク及びその薬学的に許容される塩;特に好ましくはブロムフェナクアルカリ金属塩、ジクロフェナクアルカリ金属塩;最も好ましくはブロムフェナクナトリウム、ジクロフェナクナトリウムが挙げられる。
【0027】
本発明の水性製剤における前記非ステロイド性抗炎症剤の濃度としては、例えば、0.00001〜0.5w/v%が挙げられる。特に、前記非ステロイド性抗炎症剤の濃度を、好ましくは0.001〜0.5w/v%、更に好ましくは0.005〜0.5w/v%に設定することにより、亜塩素酸塩の光安定性を格段に向上させることが可能になる。
【0028】
また、本発明の水性製剤において、亜塩素酸塩と前記非ステロイド性抗炎症剤との比率については、特に制限されず、採用する両者の濃度等に応じて定まるが、例えば、亜塩素酸塩100重量部当たり、前記非ステロイド性抗炎症剤が、0.5〜10000重量部が挙げられる。特に、亜塩素酸塩100重量部当たりの前記非ステロイド性抗炎症剤の比率として、好ましくは15〜10000重量部、更に好ましくは70〜8000重量部を充足させることにより、亜塩素酸塩の光安定性を格段に向上させることが可能になる。
【0029】
本発明の水性製剤は、上記成分の他に、薬理成分を含有することができる。配合可能な薬理成分としては、例えば、プラノプロフェン、グリチルリチン酸二カリウム、アラントイン、イプシロンアミノカプロン酸等の消炎剤;アスコルビン酸、フラビンアデニンジヌクレオチドナトリウム、シアノコバラミン、塩酸ピリドキシン、酢酸トコフェロール等のビタミン類;アスパラギン酸、アミノエチルスルホン酸等のアミノ酸類、メチル硫酸ネオスチグミン等の抗コリンエステラーゼ剤;塩酸ナファゾリン、塩酸テトラヒドロゾリン等の血管収縮剤が挙げられる。
【0030】
更に、本発明の水性製剤は、必要に応じて、緩衝剤、等張化剤、溶解補助剤、粘性基剤、キレート剤、清涼化剤、pH調整剤、防腐剤、安定化剤、界面活性剤等の添加剤を含有してもよい。
【0031】
緩衝剤としては、例えば、リン酸緩衝剤、ホウ酸緩衝剤、クエン酸緩衝剤、酒石酸緩衝剤、酢酸緩衝剤、Tris緩衝剤、アミノ酸などが挙げられる。
【0032】
等張化剤としては、ソルビトール、グルコース、マンニトール等の糖類;グリセリン、プロピレングリコール等の多価アルコール類;塩化ナトリウム等の塩類;ホウ酸等が挙げられる。
【0033】
溶解補助剤としては、例えば、ポリオキシエチレンソルビタンモノオレエート、ポリオキシエチレン硬化ヒマシ油、チロキサポール、プルロニック等の非イオン性界面活性剤;グリセリン、マクロゴール等の多価アルコール等が挙げられる。
【0034】
粘性基剤としては、例えば、ポリビニルピロリドン、ポリエチレングリコール、ポリビニルアルコール、カルボキシビニルポリマー等の水溶性高分子;ヒドロキシエチルセルロース、メチルセルロース、ヒドロキシプロピルセルロース、ヒドロキシプロピルメチルセルロース、カルボキシメチルセルロースナトリウム等のセルロース類等が挙げられる。
【0035】
キレート剤としては、例えば、エデト酸ナトリウム、クエン酸等が挙げられる。
【0036】
清涼化剤としては、例えば、l−メントール、ボルネオール、カンフル、ユーカリ油等が挙げられる。
【0037】
pH調整剤としては、例えば、水酸化ナトリウム、水酸化カリウム等のアルカリ;酢酸、クエン酸、塩酸、リン酸、酒石酸等の酸が挙げられる。
【0038】
防腐剤としては、例えば、ソルビン酸、ソルビン酸カリウム、安息香酸ナトリウム、パラオキシ安息香酸メチル、パラオキシ安息香酸エチル、パラオキシ安息香酸プロピル、クロロブタノール、クロロヘキシジングルコン酸塩、ホウ酸、デヒドロ酢酸、デヒドロ酢酸ナトリウム、塩化ベンゼトニウム、ベンジルアルコール、塩化亜鉛、パラクロルメタキシレノール、クロルクレゾール、フェネチルアルコール、塩化ポリドロニウム、チメロサール等が挙げられる。
【0039】
安定化剤としては、例えば、ポリビニルピロリドン、亜硫酸ナトリウム、モノエタノールアミン、グリセリン、プロピレングリコール、シクロデキストリン、デキストラン、アスコルビン酸、エデト酸ナトリウム、タウリン、トコフェロール等が挙げられる。
【0040】
界面活性剤としては、例えば、チロキサポール、ポリオキシエチレン硬化ヒマシ油、ポリオキシエチレンポリオキシプロピレンブロックコポリマー、ポリオキシエチレンソルビタン脂肪酸エステル、オクトキシノール等の非イオン性界面活性剤;アルキルジアミノエチルグリシン、ラウリルジメチルアミノ酢酸ベタイン等の両性界面活性剤;アルキル硫酸塩、N−アシルタウリン塩、ポリオキシエチレンアルキルエーテルリン酸塩、ポリオキシエチレンアルキルエーテル硫酸塩等の陰イオン界面活性剤;アルキルピリジニウム塩、アルキルアミン塩等の陽イオン界面活性剤等が挙げられる。
【0041】
本発明の水性製剤のpHについては、特に制限されないが、例えば、7〜9、好ましくは7.5〜8.6が挙げられる。
【0042】
本発明の水性製剤の製剤形態については、特に制限されず、水溶液状、懸濁液状、乳液状等のいずれであってもよい。
【0043】
本発明の水性製剤は、その用途に応じて、自体公知の調製法に従って製造すればよく、例えば、第16改正日本薬局方 製剤総則に記載された方法を用いて製造することができる。
【0044】
本発明の水性製剤は、亜塩素酸塩の光安定性が向上しており、光曝露を受けても安定に維持されるという特性がある。このような本発明の水性製剤の特性として、具体的には、20万Lux・hrの光曝露後の亜塩素酸塩(二酸化塩素として)の残存率が、例えば、50%以上、好ましくは60%以上、更に好ましくは80%以上、特に好ましくは90%以上が挙げられる。当該光曝露条件及び亜塩素酸塩(二酸化塩素として)の残存率の算出方法は、以下の通りである。
光曝露条件
水性製剤5mLを無色透明の5mL容ガラス製容器に充填して密封する。当該ガラス製容器の約35cm上に白色蛍光ランプを設置し、この白色蛍光ランプを光源として3000Luxの照度の光を20万Lux・hr曝露する。ここで、無色透明の5mL容ガラス製容器としては、光吸収剤等が配合又はコーティングされていないものを使用する。
亜塩素酸塩(二酸化塩素として)の残存率の算出
光曝露前後での水性製剤中の亜塩素酸イオンの濃度を滴定法により測定して、光曝露後の亜塩素酸ナトリウム(二酸化塩素として)の残存率(%)を算出する。
【0045】
本発明の水性製剤は、保存安定性が向上しており、あらゆる波長の光線に曝露されても、亜塩素酸塩を安定に保持することができるので、本発明の水性製剤を収容する容器の素材については、特に制限されず、任意に設計することができる。
【0046】
本発明の水性製剤を収容する容器の素材としては、例えば、ポリエチレンテレフタレート、ポリエチレンナフタレート、ポリアリレート、ポリカーボネート、ポリエチレン、ポリプロピレン等のプラスチック;ガラス等が挙げられる。本発明の水性製剤において、亜塩素酸塩の安定性は収容する容器の光透過特性に影響されないため、本発明の水性製剤を収容する容器の光透過性についても、任意に設定することができ、例えば、亜塩素酸塩の光不安定化をもたらす200nm〜500nmの光を10%以上、好ましくは30%以上、更に好ましくは50%以上透過するものであってもよい。
【0047】
本発明の水性製剤は、点眼剤(ソフトコンタクトレンズ用点眼剤を含む)、洗眼剤、点鼻剤、点耳剤、注射剤等の医薬製剤として使用される。ここで、ソフトコンタクトレンズ用点眼剤とは、ソフトコンタクトレンズ装用中でも点眼可能な点眼剤である。また、本発明の水性製剤は、コンタクトレンズ装着液、コンタクトレンズ用マルチパーパスソリューション等のコンタクトレンズケア用品であってもよい。これらの中でも、好ましくは点眼剤、点鼻剤及び点耳剤、更に好ましくは点眼剤が挙げられる。
【0048】
また、本発明の水性製剤は、特定の非ステロイド性抗炎症剤を含んでおり、かかる成分に基づいて消炎作用を発揮できるので、例えば、眼瞼炎、結膜炎、強膜炎、術後炎症等の眼粘膜の炎症疾患の予防治療又は治療剤として使用することができる。更に、本発明の水性製剤は、含有する特定の非ステロイド性抗炎症剤の作用に基づいて、ドライアイの予防治療又は治療剤として使用することもできる。
【0049】
2.光安定化方法及び光安定化剤
本発明は、水性製剤において、亜塩素酸塩と、ブロムフェナク、ジクロフェナク、ケトロラック、フルルビプロフェン、それらの薬学的に許容される塩、及びネパフェナクよりなる群から選択される少なくとも1種の非ステロイド性抗炎症剤とを共存させる、水性製剤に含まれる亜塩素酸塩の光安定化方法をも提供する。本光安定化方法において、亜塩素酸塩の種類、非ステロイド性抗炎症剤の種類、亜塩素酸塩と非ステロイド性抗炎症剤の濃度や比率、水性製剤の種類等については、前記の通りである。
【0050】
また、本発明は、更に、ブロムフェナク、ジクロフェナク、ケトロラック、フルルビプロフェン、それらの薬学的に許容される塩、及びネパフェナクよりなる群から選択される少なくとも1種の非ステロイド性抗炎症剤を有効成分とする、水性製剤に含まれる亜塩素酸塩に対する光安定化剤をも提供する。本光安定化剤は、亜塩素酸塩を含有する水性製剤において亜塩素酸塩の光安定性を向上させる目的で配合される添加剤として使用される。本光安定化剤の有効成分である非ステロイド性抗炎症剤の種類や使用量については、前記の通りである。また、本光安定化剤において、適用対象となる亜塩素酸塩の種類や濃度、水性製剤の種類等についても、前記の通りである。
【実施例】
【0051】
以下に、実施例を挙げて、本発明を具体的に説明するが、本発明はこれらによって何ら限定されるものではない。なお、以下の実施例及び比較例において、亜塩素酸ナトリウムは和光純薬工業株式会社製、ブロムフェナクナトリウム水和物はレジス テクノロジーズ社製、ケトロラックトロメタミンはシグマ アルドリッチ社製、ネパフェナクはセレック ケミカルズ社製、フルルビプロフェンはケイマン ケミカル カンパニー社製、ジクロフェナクナトリウムはサンタクルーズ バイオテクノロジー インコーポレイテッド社製、インドメタシンは和光純薬工業株式会社製を使用した。
【0052】
実験例1:亜塩素酸ナトリウムの光安定性の評価(1)
表1及び2に示す処方の水性製剤を常法により調製した。各水性製剤5mLを無色透明の5mL容ガラス製容器に充填して密封した。次いで、各水性製剤の約35cm上に白色蛍光ランプを設置し、この白色蛍光ランプを光源として3000Luxの照度の光を20万Lux・hr曝露した。光曝露前後での水性製剤中の亜塩素酸イオンの濃度を滴定法により測定して、光曝露後の亜塩素酸ナトリウム(二酸化塩素として)の残存率(%)を求めた。
【0053】
得られた結果を表1及び2に併せて示す。この結果から、ブロムフェナクナトリウムを含まない場合には、亜塩素酸ナトリウムは光曝露により分解されるが(比較例1参照)、亜塩素酸ナトリウムとブロムフェナクナトリウムを併用することによって、亜塩素酸ナトリウムは光曝露を受けても安定に維持されることが確認された(実施例1−9参照)。とりわけ、ブロムフェナクナトリウムの濃度が0.001w/v%以上、或いは亜塩素酸ナトリウム100重量部当たりブロムフェナクナトリウムが14.9重量部以上の比率を充足する場合に、亜塩素酸ナトリウムの光安定化効果が顕著になることが確認された(実施例3−9参照)。
【0054】
【表1】

【0055】
【表2】

【0056】
実験例2:亜塩素酸ナトリウムの光安定性の評価(2)
表1に示す実施例6及び比較例1の水性製剤を用いて、上記実験例1とは光曝露条件を変えて、亜塩素酸ナトリウムの光安定性の評価を行った。具体的には、実施例6及び比較例1の各水性製剤5mLを無色透明の5mL容ガラス製容器又は無色透明の5mL容ポリエチレン製点眼容器に充填して密封した。次いで、各水性製剤の約35cm上に白色蛍光ランプを設置し、この白色蛍光ランプを光源として3000Luxの照度の光で総照度120万Lux・hrの曝光を行った(以下、曝光処理1)。その後、白色蛍光ランプに代えて近紫外蛍光ランプを各水性製剤の約35cm上に設置し、この近紫外蛍光ランプを光源として総近紫外放射エネルギーとして200W・h/m2の曝光を行った(以下、曝光処理2)。水性製剤中の亜塩素酸イオンの濃度について、曝光処理1の前と曝光処理2の後に滴定法により測定して、曝光処理2後の亜塩素酸ナトリウム(二酸化塩素として)の残存率(%)を求めた。
【0057】
得られた結果を表3に示す。表3から明らかなように、白色蛍光ランプで総照光度120万Lux・hr及び近紫外蛍光ランプで総近紫外放射エネルギー200W・h/m2の光を照射しても、亜塩素酸ナトリウムとブロムフェナクナトリウムを含む水性製剤では、亜塩素酸ナトリウムが安定に維持されることが確認された。
【0058】
【表3】

【0059】
実験例3:亜塩素酸ナトリウムの光安定性の評価(3)
表4に示す処方の水性製剤を常法により調製し、上記実験例1と同様の方法で亜塩素酸ナトリウムの光安定性の評価を行った。
【0060】
得られた結果を表4に示す。この結果から、亜塩素酸ナトリウムと共に、ケトロラックトロメタミン、ネパフェナク、ジクロフェナクナトリウム、又はフルルビプロフェンを併用した場合にも、ブロムフェナクナトリウムの場合と同様に、光曝露によっても亜塩素酸ナトリウムが安定に維持されることが確認された(実施例10〜16参照)。
【0061】
一方、インドメタシンは、ブロムフェナク、ジクロフェナク、ケトロラック、ネパフェナク、及びフルルビプロフェンと同様に、酸性非ステロイド系抗炎症剤として分類され、とりわけブロムフェナク、ジクロフェナク、及びネパフェナクとは酢酸系の非ステロイド系抗炎症剤として分類される点でも共通している。それにも拘わらず、インドメタシンは、亜塩素酸ナトリウムとインドメタシンを併用しても、亜塩素酸ナトリウムに対して光安定性を備えさせることはできなかった(比較例2参照)。即ち、本実験例1〜3において確認された亜塩素酸ナトリウムの光安定化効果は、特定の非ステロイド系抗炎症剤を選択し、これを亜塩素酸ナトリウムと組み合わせることによって初めて獲得される特有の効果であることが確認された。
【0062】
【表4】


【特許請求の範囲】
【請求項1】
亜塩素酸塩と、ブロムフェナク、ジクロフェナク、ケトロラック、フルルビプロフェン、それらの薬学的に許容される塩、及びネパフェナクよりなる群から選択される少なくとも1種の非ステロイド性抗炎症剤とを含有する、水性製剤。
【請求項2】
前記非ステロイド性抗炎症剤が、ブロムフェナク、ジクロフェナク、及びそれらの薬学的に許容される塩よりなる群から選択される少なくとも1種である、請求項1に記載の水性製剤。
【請求項3】
前記非ステロイド性抗炎症剤が総量で0.001〜0.5w/v%の濃度で含まれる、請求項1又は2に記載の水性製剤。
【請求項4】
亜塩素酸塩が亜塩素酸ナトリウムである、請求項1〜3のいずれかに記載の水性製剤。
【請求項5】
水性製剤が、点眼剤、点鼻剤、又は点耳剤である、請求項1〜4のいずれかに記載の水性製剤。
【請求項6】
水性製剤において、ブロムフェナク、ジクロフェナク、ケトロラック、フルルビプロフェン、それらの薬学的に許容される塩、及びネパフェナクよりなる群から選択される少なくとも1種の非ステロイド性抗炎症剤とを共存させる、水性製剤に含まれる亜塩素酸塩の光安定化方法。
【請求項7】
ブロムフェナク、ジクロフェナク、ケトロラック、フルルビプロフェン、それらの薬学的に許容される塩、及びネパフェナクよりなる群から選択される少なくとも1種の非ステロイド性抗炎症剤を有効成分とする、水性製剤に含まれる亜塩素酸塩に対する光安定化剤。

【公開番号】特開2013−82682(P2013−82682A)
【公開日】平成25年5月9日(2013.5.9)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2012−173438(P2012−173438)
【出願日】平成24年8月3日(2012.8.3)
【出願人】(000199175)千寿製薬株式会社 (46)
【Fターム(参考)】