説明

亜硝酸イオンの定量方法

【課題】検査水に含まれる亜硝酸イオンを簡単な操作で高濃度の領域まで定量できるようにする。
【解決手段】検査水に含まれる亜硝酸イオンの定量方法は、検査水に対し、亜硝酸イオンとの反応によりジアゾニウム塩を生成可能なジアゾ化試薬を添加し、塩酸等を添加した酸性下において反応させる工程1と、工程1を経た検査水について、ジアゾ化試薬による着色の吸光度または生成したジアゾニウム塩による着色の吸光度を測定する工程2とを含んでいる。ジアゾ化試薬としては、1−アミノアントラキノン、p−ニトロアニリンおよび3’−アミノアセトフェノン等のケトン基若しくはニトロ基を有する芳香族第一級アミン化合物群と3−アミノ−2−シクロヘキセン−1−オン等の3−アミノ−2−シクロヘキセン−1−オン骨格含有化合物群とからなる群から選ばれた化合物を用いる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、亜硝酸イオンの定量方法、特に、検査水に含まれる亜硝酸イオンを吸光度の測定により定量する方法に関する。
【背景技術】
【0002】
窒素は海洋水、湖沼水、河川水および地下水等の富栄養化に関わる原因物質の一つであることから、工場排水等での排出規制が設けられており、工場排水等は、環境への排出前に生態系の栄養源となるイオン状態の窒素(例えば、硝酸イオンや亜硝酸イオン)の定量が求められる。しかし、工場排水等は、イオン状態で窒素を含むだけではなく、各種の窒素化合物として窒素を含むのが一般的であり、この窒素化合物は環境への排出後に自然分解されることでイオン状態の窒素を発生する。このため、工場排水等は、窒素化合物から生成し得るイオン状態の窒素を含めた窒素の総量、いわゆる全窒素の定量が求められることが多い。
【0003】
工場排水等の検査水に含まれる全窒素の定量の一形態では、検査水に含まれる窒素化合物を酸化分解により硝酸イオンへ変換した後にさらに還元して亜硝酸イオンへ変換する前処理をし、この前処理後の検査水に含まれる亜硝酸イオンを定量する。
【0004】
検査水に含まれる亜硝酸イオンの公的な定量方法として、日本工業規格(JIS)において規定されたナフチルエチレンジアミン吸光光度法が知られている(非特許文献1)。この定量方法(以下、JIS法という。)は、検査水に含まれる亜硝酸イオンが酸性下でスルファニルアミドと反応して生成するジアゾニウム塩をナフチルエチレンジアミンとカップリング反応させ、それにより生成するアゾ化合物による検査水の着色(発色)を吸光光度法により測定することで亜硝酸イオンを定量するものである。
【0005】
しかし、JIS法は、生成するアゾ化合物による検査水の着色が非常に鋭敏であって着色強度(モル吸光係数)が高まり過ぎることから、検査水における高濃度の亜硝酸イオンの正確な定量が困難であり、亜硝酸イオン濃度の測定可能範囲が0.06〜0.6mg[NO]/Lに制限されている。この範囲の亜硝酸イオン濃度は全窒素に換算すると0.02〜0.2mg[N]/L程度の微量範囲であることから、JIS法は、全窒素の定量に適用するのが困難である。
【0006】
特許文献1には、JIS法に替わる亜硝酸イオンの定量方法として、ポルフィン核にアミノ基を有するポルフィリン化合物を検査水へ添加し、当該ポルフィリン化合物と亜硝酸イオンとの反応により生成するジアゾ基を有するポルフィリン化合物の吸光度または励起時の蛍光強度を測定する方法が記載されている。この方法は、ポルフィリン化合物のソーレ吸収帯がジアゾ基の生成により減少することを利用したもので、必要な反応はポルフィリン化合物と亜硝酸イオンとの反応だけであるから、ジアゾニウム塩の生成反応とカップリング反応との二段階の反応が必要なJIS法に比べて簡単な操作で亜硝酸イオンを定量可能である。しかし、この定量方法は、特許文献1の記載(特に、段落0023)によると亜硝酸イオン濃度の測定可能範囲が0〜0.018mg[NO]/L程度であり、この範囲の亜硝酸イオン濃度は全窒素に換算すると0〜0.006mg[N]/L程度の微量範囲でしかないことから、JIS法と同じく全窒素の定量に適用するのが困難である。しかも、この定量方法は、特許文献1の記載(特に、段落0023および図4)によると、ジアゾ基を有するポルフィリン化合物を生成させるために、検査水に含まれる亜硝酸イオンの2倍モル当量以上の多量のポルフィリン化合物を用いる必要があるため、不経済であり、定量の自動化装置を実現する上で装置の小型化を図るのが困難である。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0007】
【非特許文献1】日本工業規格 JIS K 0102、工場排水試験方法(2008) 43.1.1
【特許文献】
【0008】
【特許文献1】特開平9−89781号公報(特許請求の範囲、段落0012、0016および0023並びに図4等)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
本発明の目的は、検査水に含まれる亜硝酸イオンを簡単な操作で高濃度の領域まで定量できるようにすることにある。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明は、検査水に含まれる亜硝酸イオンの定量方法に関するものである。この定量方法は、検査水に対し、亜硝酸イオンとの反応によりジアゾニウム塩を生成可能なジアゾ化試薬を添加し、酸性下において反応させる工程1と、工程1を経た検査水について、ジアゾ化試薬による着色の吸光度および生成したジアゾニウム塩による着色の吸光度のうちの少なくとも一つの吸光度を測定する工程2とを含んでいる。この定量方法は、ジアゾ化試薬として、ケトン基若しくはニトロ基を有する芳香族第一級アミン化合物群および3−アミノ−2−シクロヘキセン−1−オン骨格含有化合物群からなる群から選ばれた化合物を用いる。
【0011】
ここで用いられる芳香族第一級アミン化合物群は、通常、オルト位若しくはパラ位にケトン基若しくはニトロ基を有する芳香族第一級アミン化合物からなる第1群と、メタ位にケトン基若しくはニトロ基を有する芳香族第一級アミン化合物からなる第2群とからなる。第1群は、例えば、1−アミノアントラキノン、2−ニトロアニリン、4−ニトロアニリン−2−スルホン酸ナトリウム、p−ニトロアニリンおよび2−アミノ−3−ヒドロキシアントラキノンからなり、第2群は、例えば、3’−アミノアセトフェノンおよび3−アミノベンゾフェノンからなる。
【0012】
一方、3−アミノ−2−シクロヘキセン−1−オン骨格含有化合物群は、例えば、3−アミノ−2−シクロヘキセン−1−オンおよび2−アミノ−3−クロロ−1,4−ナフトキノンからなる。
【発明の効果】
【0013】
本発明に係る亜硝酸イオンの定量方法は、特定のジアゾ化試薬を用いているため、複数の反応工程を必要としない簡単な操作で高濃度の領域まで亜硝酸イオンを定量することができる。
【図面の簡単な説明】
【0014】
【図1】実施例1で測定した吸光スペクトルの結果を示す図。
【図2】実施例1で作成した検量線を示す図。
【図3】実施例2で測定した吸光スペクトルの結果を示す図。
【図4】実施例2で作成した検量線を示す図。
【図5】実施例3で測定した吸光スペクトルの結果を示す図。
【図6】実施例3で作成した検量線を示す図。
【図7】実施例4で測定した吸光スペクトルの結果を示す図。
【図8】実施例4で作成した検量線を示す図。
【図9】実施例5で作成した検量線を示す図。
【図10】実施例6で作成した検量線を示す図。
【図11】実施例7で作成した検量線を示す図。
【図12】実施例8で作成した検量線を示す図。
【図13】実施例9で作成した検量線を示す図。
【図14】実施例10で作成した検量線を示す図。
【図15】実施例11で作成した検量線を示す図。
【図16】実施例12で作成した検量線を示す図。
【図17】実施例13で測定した吸光スペクトルの結果を示す図。
【図18】実施例13で作成した検量線を示す図。
【図19】実施例14で測定した吸光スペクトルの結果を示す図。
【図20】実施例14で作成した検量線を示す図。
【図21】実施例15で作成した検量線を示す図。
【図22】実施例16で作成した検量線を示す図。
【図23】実施例17で作成した検量線を示す図。
【図24】実施例18で作成した検量線を示す図。
【図25】比較例1で作成した検量線を示す図。
【図26】実験例の実験1で測定した吸光スペクトルの結果を示す図。
【図27】実験例の実験2で測定した吸光スペクトルの結果を示す図。
【図28】実験例の実験3で測定した吸光スペクトルの結果を示す図。
【発明を実施するための形態】
【0015】
本発明の方法により亜硝酸イオンを定量可能な検査水は、特に限定されるものではないが、通常は工場排水や生活排水等の窒素の排出規制が設けられている排水の他、海洋水、湖沼水、河川水および地下水等の天然水である。
【0016】
検査水の亜硝酸イオンを定量する際には、先ず、所定量の検査水を採取し、この検査水に対してジアゾ化試薬を添加して反応させる(工程1)。ここで、検査水の全窒素を測定する場合は、ジアゾ化試薬を添加する前に検査水に含まれる窒素化合物を分解し、窒素元素を亜硝酸イオンへ変換する前処理を実施する。例えば、検査水にペルオキソ二硫酸カリウム等の酸化剤を添加して加熱することで窒素化合物を酸化分解し、それにより生成する硝酸イオンをさらに還元して亜硝酸イオンへ変換する。このような前処理方法としては、例えば、日本工業規格 JIS K0102 「工場排水試験方法(2008)」の45.4に挙げられた銅・カドミウムカラム還元−ナフチルエチレンジアミン吸光光度法を採用することができるが、その他の還元法や紫外線を照射する方法を採用することもできる。
【0017】
この工程で用いられるジアゾ化試薬は、亜硝酸イオンとの反応によりジアゾニウム塩を生成可能なもの、特に、検査水への添加によりそれ自体で検査水を着色させ、同時に、生成したジアゾニウム塩により検査水を着色させることができるものである。このようなジアゾ化試薬としては、通常、ケトン基若しくはニトロ基を有する芳香族第一級アミン化合物の群および3−アミノ−2−シクロヘキセン−1−オン骨格含有化合物の群からなる群から選ばれた化合物を用いることができる。
【0018】
芳香族第一級アミン化合物の群は、オルト位若しくはパラ位にケトン基若しくはニトロ基を有する芳香族第一級アミン化合物からなる第1群と、メタ位にケトン基若しくはニトロ基を有する芳香族第一級アミン化合物からなる第2群とからなる。
【0019】
第1群は、例えば、1−アミノアントラキノン、2−ニトロアニリン、4−ニトロアニリン−2−スルホン酸ナトリウム、p−ニトロアニリン、2−アミノ−3−ヒドロキシアントラキノン、2−アミノ−2’−フルオロ−5−ブロモベンゾフェノン、4−アミノベンゾフェノン、4−フルオロ−2−ニトロアニリン、5−アミノ−2−ニトロベンゾトリフルオリド、4−アミノ−3−ニトロベンゾフェノン、2−アミノ−5−ニトロベンゾフェノン、1−アミノ−4−ブロモアントラキノン−2−スルホン酸ナトリウムおよび4,6−ジニトロ−o−トルイジンなどを含むが、1−アミノアントラキノン、2−ニトロアニリン、4−ニトロアニリン−2−スルホン酸ナトリウム、p−ニトロアニリンおよび2−アミノ−3−ヒドロキシアントラキノンからなるものが好ましい。
【0020】
一方、第2群は、例えば、3’−アミノアセトフェノン、3−アミノベンゾフェノン、2−アミノ−9−フルオレノン、m−ニトロアニリンおよび2−クロロ−5−ニトロアニリンなどを含むが、3’−アミノアセトフェノンおよび3−アミノベンゾフェノンからなるものが好ましい。
【0021】
3−アミノ−2−シクロヘキセン−1−オン骨格含有化合物の群は、例えば、3−アミノ−2−シクロヘキセン−1−オン、2−アミノ−3−クロロ−1,4−ナフトキノンおよび3−アミノ−5,5−ジメチル−2−シクロヘキセン−1−オンなどを含むが、3−アミノ−2−シクロヘキセン−1−オンおよび2−アミノ−3−クロロ−1,4−ナフトキノンからなるものが好ましい。
【0022】
ジアゾ化試薬は、通常、溶媒に溶解した溶液として検査水に添加するのが好ましい。ジアゾ化試薬を溶解するために用いられる溶媒としては、例えば、逆浸透膜等により膜処理することで得られる純水、蒸留水およびイオン交換水等の精製水、ジメチルスルホキシド、N,N−ジメチルホルムアミド、エタノールやメタノール等のアルコール類並びにアセトンなどが挙げられる。
【0023】
検査水へのジアゾ化試薬の添加量は、検査水に含まれる亜硝酸イオンの全量がジアゾニウム塩の生成に関与するのに十分な量に設定する必要があり、検査水に含まれるものと想定される亜硝酸イオンと少なくとも等モルに設定する必要がある。この点に関し、検査水中に含まれる窒素化合物から硝酸イオンを経て誘導される亜硝酸イオンを考慮すると、検査水に含まれる亜硝酸イオン濃度は一般的に0〜35mg[NO]/L程度の範囲と想定されることから、例えば、検査水の量を2.0mLとした場合のジアゾ化試薬の添加量は、通常、1.5μmol以上になるよう設定するのが好ましい。但し、検査水の亜硝酸イオン濃度が35mg[NO]/Lよりも大幅に低いことが判明している、または、想定されるような場合、ジアゾ化試薬の添加量は1.5μmol未満であってもよい。
【0024】
この工程において、ジアゾ化試薬と亜硝酸イオンとの反応、すなわちジアゾニウム塩の生成反応は、酸性下で進行させる。具体的には、定量結果に影響する可能性がある窒素元素を含まずかつジアゾ化試薬と亜硝酸イオンとの反応を阻害しない酸を検査水に添加することで検査水を酸性に調整し、その環境下で反応を進行させる。酸としては、例えば、塩酸および硫酸などの無機酸、酢酸、ベンゼンスルホン酸、クエン酸およびコハク酸などの有機酸並びにこれらの水溶液を用いることができるが、通常は塩酸水溶液を用いるのが好ましい。検査水に対する酸の添加時期は、ジアゾ化試薬を添加する前であってもよいし、ジアゾ化試薬の添加後であってもよい。
【0025】
検査水に対する酸の添加量は、検査水に含まれる亜硝酸イオンとジアゾ化試薬との反応が安定に進行するように検査水を酸性に調整可能なように設定する必要があり、通常、検査水のpHが6.0以下になるように設定するのが好ましく、0〜4.0になるよう設定するのが特に好ましい。
【0026】
この工程での反応は、通常、5〜40℃程度の室温で進行させることができる。反応に要する時間は、温度により変動するが、通常、1〜10分程度である。なお、反応時間を短縮するために、検査水を適宜加熱することもできる。この場合、加熱温度は、40〜95℃に設定するのが好ましい。
【0027】
この工程において、検査水に含まれる亜硝酸イオンは、酸により調整された酸性下においてジアゾ化試薬と反応し、ジアゾニウム塩を生成する。これにより、ジアゾ化試薬の添加により着色した検査水は、ジアゾ化試薬が亜硝酸イオンとの反応により消化されることでジアゾ化試薬自体による着色が退色し、同時に、生成したジアゾニウム塩による着色を呈するようになる。
【0028】
次に、ジアゾ化試薬の反応後の検査水の吸光度を測定する(工程2)。ここで測定する吸光度は、検査水に残留しているジアゾ化試薬が検査水に付与している着色の吸光度(以下、「吸光度A」と称することがある。)、または、ジアゾ化試薬の反応により生成するジアゾニウム塩が検査水に付与している着色の吸光度(以下、「吸光度B」と称することがある。)である。
【0029】
吸光度Aは、ジアゾ化試薬そのものが検査水に付与する着色についてのものであり、この着色はジアゾ化試薬が検査水中の亜硝酸イオンとの反応で消化されるに従って着色強度が低下する。このため、吸光度Aと検査水におけるジアゾ化試薬濃度および亜硝酸イオン濃度とは相関性を有する。吸光度Aの測定波長は、ジアゾ化試薬が検査水に付与する着色の極大吸収波長またはその付近の波長であり、使用するジアゾ化試薬の種類により異なるため特定されるものではないが、通常は250〜600nmの範囲にある。
【0030】
一方、吸光度Bは、反応により生成したジアゾニウム塩が検査水に付与する着色についてのものであり、この着色は反応の進行によりジアゾニウム塩濃度が高まるに従って着色強度が高まる。このため、吸光度Bと検査水におけるジアゾニウム塩濃度とは相関性を有する。吸光度Bの測定波長は、生成するジアゾニウム塩が検査水に付与する着色の極大吸収波長またはその付近の波長であり、生成するジアゾニウム塩の種類(すなわち使用するジアゾ化試薬の種類)により異なるため特定されるものではないが、通常は250〜600nmの範囲にある。
【0031】
この工程では、吸光度Aまたは吸光度Bと亜硝酸イオン濃度との関係を予め調べて作成しておいた検量線に基づいて、吸光度Aまたは吸光度Bの測定値から検査水の亜硝酸イオン量を判定する。ここで作成する検量線は、亜硝酸イオン濃度と吸光度Aまたは吸光度Bとの間の直線関係が比較的高濃度の亜硝酸イオン濃度の範囲まで良好に成立することから、検査水に含まれる亜硝酸イオンの定量可能範囲がJIS法等の従来法で可能な範囲よりも広い0〜53mg[NO]/L(全窒素換算で0〜16mg[N]/L)の範囲になる。このため、この定量方法は、亜硝酸イオンの含有量が多い検査水、例えば、全窒素の定量のために窒素化合物を既述の前処理により亜硝酸イオンへ変換したような検査水について適用する場合に特に有用である。
【0032】
なお、工程2では、亜硝酸イオンの定量結果の信頼性を高めるために、吸光度Aと吸光度Bとの両方を測定し、各吸光度に基づいて検査水の亜硝酸イオン量を別々に判定することもできる。この場合、吸光度Aによる判定結果と吸光度Bによる判定結果とが実質的に一致していれば、定量結果の信頼性が高いものと判断することができる。
【0033】
本発明の定量方法は、工程2において吸光度Aを測定する場合、工程2の前に、工程1を経た検査水のpHが7より大きくなるよう調整するのが好ましい。吸光度Aは、検査水のpHが7以下のとき、pH値により数値が異なる場合があることから亜硝酸イオンの定量結果に多少の誤差を生じさせる可能性があるが、このような調整をすると、吸光度AはpHの影響による測定誤差が小さくなるため、亜硝酸イオン濃度の定量精度をより高めることができる。
【0034】
検査水のpHは、通常、工程1の終了後の検査水へアルカリ金属の水酸化物、炭酸塩若しくは炭酸水素塩などのアルカリ化合物またはその水溶液を添加することで調整することができるが、通常は水酸化ナトリウム水溶液を添加することで調整するのが好ましい。
【0035】
本発明の定量方法の好ましい一形態では、工程1においてオルト位若しくはパラ位にケトン基若しくはニトロ基を有する芳香族第一級アミン化合物からなる第1群からジアゾ化試薬を選択し、工程2において吸光度Aを測定する。また、他の好ましい一形態では、工程1において3−アミノ−2−シクロヘキセン−1−オン骨格含有化合物の群からジアゾ化試薬を選択し、工程2において吸光度Aを測定する。これらの場合、ジアゾ化試薬が検査水中の亜硝酸イオンとの反応で消化されやすく、ジアゾ化試薬による着色強度が低下しやすいため、亜硝酸イオン濃度の定量精度を高めやすい。
【0036】
さらに他の好ましい一形態では、工程1においてメタ位にケトン基若しくはニトロ基を有する芳香族第一級アミン化合物からなる第2群からジアゾ化試薬を選択し、工程2において吸光度Bを測定する。この場合、第2群のジアゾ化試薬と検査水中の亜硝酸イオンとの反応が進行しやすく、生成するジアゾニウム塩による着色強度が高まりやすいため、亜硝酸イオン濃度の定量精度を高めやすい。
【0037】
さらに他の好ましい一形態では、工程1においてメタ位にケトン基若しくはニトロ基を有する芳香族第一級アミン化合物からなる第2群からジアゾ化試薬を選択し、かつ、工程2において吸光度Aを測定するとともに、工程2の前に、工程1を経た検査水のpHが7より大きくなるよう調整する。この場合、吸光度AはpHの影響による測定誤差が小さくなり、また、第2群のジアゾ化試薬は検査水中の亜硝酸イオンとの反応で消化されやすいことから検査水での着色強度が低下しやすいため、亜硝酸イオン濃度の定量精度を高めやすい。
【実施例】
【0038】
試薬および分光光度計
以下の実施例等で用いた試薬および分光光度計は次のものである。
亜硝酸性窒素標準液(イオンクロマトグラフ用):和光純薬工業株式会社 コード147−06341
10重量%塩酸:和光純薬工業株式会社 コード085−07535
1mol/L塩酸:和光純薬工業株式会社 コード083−01095
10w/v%水酸化ナトリウム溶液:和光純薬工業株式会社 コード191−11555
1mol/L水酸化ナトリウム溶液:和光純薬工業株式会社 コード192−02175
1−プロパノール:和光純薬工業株式会社 コード162−04816
ジメチルスルホキシド(試薬特級):和光純薬工業株式会社 コード043−07216
1−アミノアントラキノン:東京化成工業株式会社 コードA0590
2−ニトロアニリン:東京化成工業株式会社 コードN0118
4−ニトロアニリン−2−スルホン酸ナトリウム:東京化成工業株式会社 コードA0375
p−ニトロアニリン:東京化成工業株式会社 コードN0119
2−アミノ−3−ヒドロキシアントラキノン:東京化成工業株式会社 コードA0315
3’−アミノアセトフェノン:東京化成工業株式会社 コードA0249
3−アミノベンゾフェノン:東京化成工業株式会社 コードA1899
3−アミノ−2−シクロヘキセン−1−オン:東京化成工業株式会社 コードA1936
2−アミノ−3−クロロ−1,4−ナフトキノン:東京化成工業株式会社 コードA1288
スルファニルアミド(試薬特級):和光純薬工業株式会社 コード191−04502
ナフチルエチレンジアミン(窒素酸化物測定用):和光純薬工業株式会社 コード147−04141
分光光度計:株式会社島津製作所の商品名「UV−1600PC」
【0039】
実施例1
(亜硝酸イオン溶液の調製)
亜硝酸イオン濃度が0.0、2.0、4.0、6.0、8.0、10.0および12.0mg[N]/Lの7種類の亜硝酸イオン溶液を用意した。亜硝酸イオン濃度が0mg[N]/Lの亜硝酸イオン溶液は蒸留水をそのまま用い、また、他の亜硝酸イオン溶液は亜硝酸性窒素標準液を蒸留水で希釈することで亜硝酸イオン濃度を調整した。
【0040】
(検量線の作成)
用意した7種類の亜硝酸イオン溶液のそれぞれ2.0mLに対して1−アミノアントラキノンの1−プロパノール溶液(濃度0.2g/L)2.0mLを添加し、さらに10重量%塩酸0.5mLを添加してpHを0.6に設定した。この亜硝酸イオン溶液を25℃で15分間放置して反応させた後、反応液の282〜600nmの吸光スペクトルを測定した。結果を図1に示す。
【0041】
次に、測定した吸光スペクトルから1−アミノアントラキノンによる発色波長である480nmの吸光度(吸光度A)を抽出し、この吸光度から亜硝酸イオン濃度を判定するための検量線を作成した。また、測定した吸光スペクトルから反応により生成したジアゾニウム塩による発色波長である330nmの吸光度(吸光度B)を抽出し、この吸光度から亜硝酸イオン濃度を判定するための検量線を作成した。これらの結果を図2に示す。図2によると、作成した2種類の検量線は、いずれも、少なくとも亜硝酸イオン濃度が0〜12.0mg[N]/Lの範囲で高い直線性を示している。
【0042】
実施例2
pHを0.6に調整した亜硝酸イオン溶液を25℃で15分間放置して反応させた後、反応液に10w/v%水酸化ナトリウム溶液0.6mLをさらに加えてpHを12.4に調整してから吸光スペクトルを測定した点を除いて実施例1と同様に操作し、2種類の検量線を作成した。吸光スペクトルの測定結果を図3に示し、検量線を図4に示す。図4によると、作成した2種類の検量線は、いずれも、少なくとも亜硝酸イオン濃度が0〜12.0mg[N]/Lの範囲で高い直線性を示している。
【0043】
実施例3
(亜硝酸イオン溶液の調製)
亜硝酸イオン濃度が0.0、2.0、4.0および6.0mg[N]/Lの4種類の亜硝酸イオン溶液を実施例1と同様の方法で用意した。
【0044】
(検量線の作成)
用意した4種類の亜硝酸イオン溶液のそれぞれ2.0mLに対して2−ニトロアニリンのジメチルスルホキシド溶液(濃度0.3g/L)0.5mLを添加し、さらに1mol/L塩酸0.2mLを添加してpHを1.2に設定した。この亜硝酸イオン溶液を25℃で10分間放置して反応させた後、反応液の240〜500nmの吸光スペクトルを測定した。結果を図5に示す。
【0045】
次に、測定した吸光スペクトルから2−ニトロアニリンによる発色波長である410nmの吸光度(吸光度A)を抽出し、この吸光度から亜硝酸イオン濃度を判定するための検量線を作成した。また、測定した吸光スペクトルから反応により生成したジアゾニウム塩による発色波長である280nmの吸光度(吸光度B)を抽出し、この吸光度から亜硝酸イオン濃度を判定するための検量線を作成した。これらの結果を図6に示す。図6によると、作成した2種類の検量線は、いずれも、少なくとも亜硝酸イオン濃度が0〜6.0mg[N]/Lの範囲で高い直線性を示している。
【0046】
実施例4
pHを1.2に調整した亜硝酸イオン溶液を25℃で10分間放置して反応させた後、反応液に1mol/L水酸化ナトリウム溶液0.4mLをさらに加えてpHを12.7に調整してから吸光スペクトルを測定した点を除いて実施例3と同様に操作し、2種類の検量線を作成した。吸光スペクトルの測定結果を図7に示し、検量線を図8に示す。図8によると、作成した2種類の検量線は、いずれも、少なくとも亜硝酸イオン濃度が0〜6.0mg[N]/Lの範囲で高い直線性を示している。
【0047】
実施例5
(亜硝酸イオン溶液の調製)
亜硝酸イオン濃度が0.0、0.5、1.0、1.5および2.0mg[N]/Lの5種類の亜硝酸イオン溶液を実施例1と同様の方法で用意した。
【0048】
(検量線の作成)
用意した5種類の亜硝酸イオン溶液のそれぞれ2.0mLに対して4−ニトロアニリン−2−スルホン酸ナトリウムの水溶液(濃度0.6g/L)0.2mLを添加し、さらに1mol/L塩酸0.2mLを添加してpHを1.1に設定した。この亜硝酸イオン溶液を25℃で10分間放置して反応させた後、この反応液について4−ニトロアニリン−2−スルホン酸ナトリウムによる発色波長である370nmの吸光度(吸光度A)を測定し、この吸光度から亜硝酸イオン濃度を判定するための検量線を作成した。また、反応液について、生成したジアゾニウム塩による発色波長である260nmの吸光度(吸光度B)を測定し、この吸光度から亜硝酸イオン濃度を判定するための検量線を作成した。これらの結果を図9に示す。図9によると、作成した2種類の検量線は、いずれも、少なくとも亜硝酸イオン濃度が0〜2.0mg[N]/Lの範囲で高い直線性を示している。
【0049】
実施例6
pHを1.1に調整した亜硝酸イオン溶液を25℃で10分間放置して反応させた後、反応液に1mol/L水酸化ナトリウム溶液0.4mLをさらに加えてpHを12.9に調整してから4−ニトロアニリン−2−スルホン酸ナトリウムによる発色波長である370nmの吸光度(吸光度A)および生成したジアゾニウム塩による発色波長である260nmの吸光度(吸光度B)を測定した点を除いて実施例5と同様に操作し、2種類の検量線を作成した。結果を図10に示す。図10によると、作成した2種類の検量線は、いずれも、少なくとも亜硝酸イオン濃度が0〜2.0mg[N]/Lの範囲で高い直線性を示している。
【0050】
実施例7
(亜硝酸イオン溶液の調製)
亜硝酸イオン濃度が0.0、1.0、2.0、3.0、4.0および5.0mg[N]/Lの6種類の亜硝酸イオン溶液を実施例1と同様の方法で用意した。
【0051】
(検量線の作成)
用意した6種類の亜硝酸イオン溶液のそれぞれ2.0mLに対してp−ニトロアニリンのジメチルスルホキシド溶液(濃度0.33g/L)0.3mLを添加し、さらに1mol/L塩酸0.5mLを添加してpHを0.7に設定した。この亜硝酸イオン溶液を25℃で5分間放置して反応させた後、この反応液についてp−ニトロアニリンによる発色波長である380nmの吸光度(吸光度A)を測定し、この吸光度から亜硝酸イオン濃度を判定するための検量線を作成した。また、反応液について、生成したジアゾニウム塩による発色波長である310nmの吸光度(吸光度B)を測定し、この吸光度から亜硝酸イオン濃度を判定するための検量線を作成した。これらの結果を図11に示す。図11によると、作成した2種類の検量線は、いずれも、少なくとも亜硝酸イオン濃度が0〜5.0mg[N]/Lの範囲で高い直線性を示している。
【0052】
実施例8
pHを0.7に調整した亜硝酸イオン溶液を25℃で5分間放置して反応させた後、反応液に1mol/L水酸化ナトリウム溶液0.7mLをさらに加えてpHを12.8に調整してからp−ニトロアニリンによる発色波長である380nmの吸光度(吸光度A)を測定した点を除いて実施例7と同様に操作し、検量線を作成した。結果を図12に示す。図12によると、この検量線は、少なくとも亜硝酸イオン濃度が0〜5.0mg[N]/Lの範囲で高い直線性を示している。
【0053】
実施例9
(亜硝酸イオン溶液の調製)
亜硝酸イオン濃度が0.0、4.0、8.0、12.0および16.0mg[N]/Lの5種類の亜硝酸イオン溶液を実施例1と同様の方法で用意した。
【0054】
(検量線の作成)
用意した5種類の亜硝酸イオン溶液のそれぞれ2.5mLに対して2−アミノ−3−ヒドロキシアントラキノンのジメチルスルホキシド溶液(濃度0.5g/L)1.5mLを添加し、さらに1mol/L塩酸0.2mLを添加してpHを1.3に設定した。この亜硝酸イオン溶液を25℃で5分間放置して反応させた後、この反応液について2−アミノ−3−ヒドロキシアントラキノンによる発色波長である520nmの吸光度(吸光度A)を測定し、この吸光度から亜硝酸イオン濃度を判定するための検量線を作成した。また、反応液について、生成したジアゾニウム塩による発色波長である460nmの吸光度(吸光度B)を測定し、この吸光度から亜硝酸イオン濃度を判定するための検量線を作成した。これらの結果を図13に示す。図13によると、作成した2種類の検量線は、いずれも、少なくとも亜硝酸イオン濃度が0〜16.0mg[N]/Lの範囲で高い直線性を示している。
【0055】
実施例10
pHを1.3に調整した亜硝酸イオン溶液を25℃で5分間放置して反応させた後、反応液に1mol/L水酸化ナトリウム溶液0.5mLをさらに加えてpHを12.8に調整してから2−アミノ−3−ヒドロキシアントラキノンによる発色波長である560nmの吸光度(吸光度A)および生成したジアゾニウム塩による発色波長である520nmの吸光度(吸光度B)を測定した点を除いて実施例9と同様に操作し、2種類の検量線を作成した。結果を図14に示す。図14によると、作成した2種類の検量線は、いずれも、少なくとも亜硝酸イオン濃度が0〜16.0mg[N]/Lの範囲で高い直線性を示している。
【0056】
実施例11
(亜硝酸イオン溶液の調製)
亜硝酸イオン濃度が0.0、0.5、1.0、1.5および2.0mg[N]/Lの5種類の亜硝酸イオン溶液を実施例1と同様の方法で用意した。
【0057】
(検量線の作成)
用意した5種類の亜硝酸イオン溶液のそれぞれ2.0mLに対して3−アミノ−2−シクロヘキセン−1−オンのジメチルスルホキシド溶液(濃度0.33g/L)0.1mLを添加し、さらに1mol/L塩酸0.2mLを添加してpHを1.1に設定した。この亜硝酸イオン溶液を25℃で10分間放置して反応させた後、この反応液について3−アミノ−2−シクロヘキセン−1−オンによる発色波長である280nmの吸光度(吸光度A)を測定し、この吸光度から亜硝酸イオン濃度を判定するための検量線を作成した。結果を図15に示す。図15によると、この検量線は、少なくとも亜硝酸イオン濃度が0〜2.0mg[N]/Lの範囲で高い直線性を示している。
【0058】
実施例12
pHを1.1に調整した亜硝酸イオン溶液を25℃で10分間放置して反応させた後、反応液に1mol/L水酸化ナトリウム溶液0.4mLをさらに加えてpHを12.9に調整してから3−アミノ−2−シクロヘキセン−1−オンによる発色波長である270nmの吸光度(吸光度A)を測定した点を除いて実施例11と同様に操作し、検量線を作成した。また、反応液について、生成したジアゾニウム塩による発色波長である320nmの吸光度(吸光度B)を測定し、この吸光度から亜硝酸イオン濃度を判定するための検量線を作成した。これらの結果を図16に示す。図16によると、作成した2種類の検量線は、いずれも、少なくとも亜硝酸イオン濃度が0〜2.0mg[N]/Lの範囲で高い直線性を示している。
【0059】
実施例13
(亜硝酸イオン溶液の調製)
亜硝酸イオン濃度が0.0、4.0、8.0および12.0mg[N]/Lの4種類の亜硝酸イオン溶液を実施例1と同様の方法で用意した。
【0060】
(検量線の作成)
用意した4種類の亜硝酸イオン溶液のそれぞれ2.0mLに対して2−アミノ−3−クロロ−1,4−ナフトキノンのジメチルスルホキシド溶液(濃度0.5g/L)1.0mLを添加し、さらに1mol/L塩酸0.2mLを添加してpHを1.3に設定した。この亜硝酸イオン溶液を95℃で30分間放置して反応させた後、300〜600nmの吸光スペクトルを測定した。結果を図17に示す。
【0061】
次に、測定した吸光スペクトルから2−アミノ−3−クロロ−1,4−ナフトキノンによる発色波長である460nmの吸光度(吸光度A)を抽出し、この吸光度から亜硝酸イオン濃度を判定するための検量線を作成した。結果を図18に示す。図18によると、この検量線は、少なくとも亜硝酸イオン濃度が0〜12.0mg[N]/Lの範囲で高い直線性を示している。
【0062】
実施例14
pHを1.3に調整した亜硝酸イオン溶液を95℃で30分間放置して反応させた後、反応液に1mol/L水酸化ナトリウム溶液0.5mLをさらに加えてpHを12.9に調整してから吸光スペクトルを測定した点を除いて実施例13と同様に操作し、検量線を作成した。検量線は、吸光スペクトルから2−アミノ−3−クロロ−1,4−ナフトキノンによる発色波長である480nmの吸光度(吸光度A)と、生成したジアゾニウム塩による発色波長である330nmの吸光度(吸光度B)とを抽出し、それぞれの吸光度による2種類のものを作成した。吸光スペクトルの測定結果を図19に示し、検量線を図20に示す。図20によると、作成した2種類の検量線は、いずれも、少なくとも亜硝酸イオン濃度が0〜12.0mg[N]/Lの範囲で高い直線性を示している。
【0063】
実施例15
(亜硝酸イオン溶液の調製)
亜硝酸イオン濃度が0.0、2.0、4.0、6.0および8.0mg[N]/Lの5種類の亜硝酸イオン溶液を実施例1と同様の方法で用意した。
【0064】
(検量線の作成)
用意した5種類の亜硝酸イオン溶液のそれぞれ2.0mLに対して3’−アミノアセトフェノンのジメチルスルホキシド溶液(濃度0.3g/L)1.0mLを添加し、さらに1mol/L塩酸0.2mLを添加してpHを1.2に設定した。この亜硝酸イオン溶液を25℃で10分間放置して反応させた後、この反応液について3’−アミノアセトフェノンと亜硝酸イオンとの反応により生成したジアゾニウム塩による発色波長である330nmの吸光度(吸光度B)を測定し、この吸光度から亜硝酸イオン濃度を判定するための検量線を作成した。結果を図21に示す。図21によると、この検量線は、少なくとも亜硝酸イオン濃度が0〜8.0mg[N]/Lの範囲で高い直線性を示している。
【0065】
実施例16
pHを1.2に調整した亜硝酸イオン溶液を25℃で10分間放置して反応させた後、反応液に1mol/L水酸化ナトリウム溶液0.4mLをさらに加えてpHを12.7に調整してから3’−アミノアセトフェノン自体による発色波長である330nmの吸光度(吸光度A)を測定した点を除いて実施例15と同様に操作し、検量線を作成した。また、反応液について、3’−アミノアセトフェノンと亜硝酸イオンとの反応により生成したジアゾニウム塩による発色波長である310nmの吸光度(吸光度B)を測定し、この吸光度から亜硝酸イオン濃度を判定するための検量線を作成した。これらの結果を図22に示す。図22によると、作成した2種類の検量線は、いずれも、少なくとも亜硝酸イオン濃度が0〜8.0mg[N]/Lの範囲で高い直線性を示している。
【0066】
実施例17
(亜硝酸イオン溶液の調製)
亜硝酸イオン濃度が0.0、2.0、4.0、6.0および8.0mg[N]/Lの5種類の亜硝酸イオン溶液を実施例1と同様の方法で用意した。
【0067】
(検量線の作成)
用意した5種類の亜硝酸イオン溶液のそれぞれ2.0mLに対して3−アミノベンゾフェノンのジメチルスルホキシド溶液(濃度0.5g/L)1.0mLを添加し、さらに1mol/L塩酸0.2mLを添加してpHを1.2に設定した。この亜硝酸イオン溶液を25℃で10分間放置した後、3−アミノベンゾフェノンと亜硝酸イオンとの反応により生成したジアゾニウム塩による発色波長である330nmの吸光度(吸光度B)を測定し、この吸光度から亜硝酸イオン濃度を判定するための検量線を作成した。結果を図23に示す。図23によると、この検量線は、少なくとも亜硝酸イオン濃度が0〜8.0mg[N]/Lの範囲で高い直線性を示している。
【0068】
実施例18
pHを1.2に調整した亜硝酸イオン溶液を25℃で10分間放置して反応させた後、反応液に1mol/L水酸化ナトリウム溶液0.4mLをさらに加えてpHを12.7に調整してから3−アミノベンゾフェノン自体による発色波長である330nmの吸光度(吸光度A)を測定した点を除いて実施例17と同様に操作し、検量線を作成した。結果を図24に示す。図24によると、この検量線は、少なくとも亜硝酸イオン濃度が0〜8.0mg[N]/Lの範囲で高い直線性を示している。
【0069】
比較例1
亜硝酸イオン濃度が0.0、0.1、0.2、0.3、0.4、0.5、0.6、0.7、0.8、0.9および1.0mg[N]/Lの11種類の亜硝酸イオン溶液を用意した。そして、各亜硝酸イオン溶液に対して日本工業規格 JIS K 0102、工場排水試験方法(2008)43.1.1(非特許文献1)に規定されたナフチルエチレンジアミン吸光光度法を適用し、540nmの吸光度と亜硝酸イオン濃度との関係を調べた。結果を図25に示す。
【0070】
図25によると、亜硝酸イオン濃度の定量可能範囲は0〜0.3mg[N]/Lの範囲に止まり、本法で高濃度の亜硝酸イオンを定量することはできないことがわかる。
【0071】
実験例
(実験1)
蒸留水2.5mL対してジアゾ化試薬であるp−ニトロアニリンのジメチルスルホキシド溶液(濃度0.3g/L)0.15mLを添加したジアゾ化試薬水溶液を4つ用意し、このうちの3つのそれぞれに1mol/L塩酸を0.03mL、0.06mLおよび0.09mL添加することで水素イオン濃度を0.011mol/L、0.022mol/Lおよび0.033mol/Lに調整した3種類の溶液を調製した。これらの溶液を25℃で5分間放置した後、290〜480nmの吸光スペクトルを測定した。結果を図26に示す。図26には、1mol/L塩酸を添加していないジアゾ化試薬水溶液のみについて同様の吸光スペクトルを測定した結果を併せて示している。
【0072】
(実験2)
実験1で用意したものと同様のジアゾ化試薬水溶液を4つ用意し、このうちの3つのそれぞれに1mol/L塩酸に替えて1mol/L水酸化ナトリウム溶液を0.03mL、0.06mLおよび0.09mL添加することでpHを7以上に調整した3種類の溶液を調整した。これらの溶液について、実験1と同様の条件で放置した後に吸光スペクトルを測定した。結果を図27に示す。図27には、1mol/L水酸化ナトリウム溶液を添加していないジアゾ化試薬水溶液のみについて同様の吸光スペクトルを測定した結果を併せて示している。
【0073】
(実験3)
実験1と同様にして水素イオン濃度を調整した3種類の溶液を調製し、これらの溶液を25℃で5分間放置した。その後、それぞれの溶液に1mol/L水酸化ナトリウム溶液0.15mLを添加し、pHをそれぞれ12.6、12.5および12.3に調整した3種類の溶液を調製した。これらの溶液について、実験1と同様に吸光スペクトルを測定した結果を図28に示す。図28には、実験1で用意したものと同じジアゾ化試薬水溶液に1mol/L水酸化ナトリウム溶液0.15mLのみを添加することでpHを12.7に調整した溶液について、同様の吸光スペクトルを測定した結果を併せて示している。
【0074】
(実験1〜3の説明)
実験1に関する図26は、吸光スペクトルを測定した溶液の水素イオン濃度が異なることで、ジアゾ化試薬であるp−ニトロアニリンの濃度が同じであっても極大吸収波長の吸光度が異なることを示している。より具体的には、溶液の水素イオン濃度が0.011mol/L増加する毎に、極大吸収波長の吸光度は約5%低下することを示している。これに対し、実験2に関する図27は、ジアゾ化試薬水溶液に1mol/L水酸化ナトリウム溶液を添加してpHを7以上に設定すれば、p−ニトロアニリンの濃度が同じ溶液において極大吸収波長の吸光度に大きな変化が生じないことを示している。そして、実験3に関する図28は、1mol/L塩酸を添加することで水素イオン濃度を高めた溶液は、1mol/L水酸化ナトリウム溶液の添加によりpHを7以上に調整してから吸収スペクトルを測定すると、極大吸収波長の吸光度に殆ど変化が生じないことを示している。
【0075】
以上の結果より、検査水の亜硝酸イオンを吸光度Aの測定により定量するときは、ジアゾ化試薬の反応後の検査水のpHを7以上に調整してから吸光度Aを測定するのが好ましいものと考えられる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
検査水に含まれる亜硝酸イオンの定量方法であって、
前記検査水に対し、前記亜硝酸イオンとの反応によりジアゾニウム塩を生成可能なジアゾ化試薬を添加し、酸性下において反応させる工程1と、
工程1を経た前記検査水について、前記ジアゾ化試薬による着色の吸光度および生成した前記ジアゾニウム塩による着色の吸光度のうちの少なくとも一つの吸光度を測定する工程2とを含み、
前記ジアゾ化試薬として、ケトン基若しくはニトロ基を有する芳香族第一級アミン化合物群および3−アミノ−2−シクロヘキセン−1−オン骨格含有化合物群からなる群から選ばれた化合物を用いる、
亜硝酸イオンの定量方法。
【請求項2】
前記芳香族第一級アミン化合物群は、オルト位若しくはパラ位にケトン基若しくはニトロ基を有する芳香族第一級アミン化合物からなる第1群と、メタ位にケトン基若しくはニトロ基を有する芳香族第一級アミン化合物からなる第2群とからなる、請求項1に記載の亜硝酸イオンの定量方法。
【請求項3】
前記第1群が1−アミノアントラキノン、2−ニトロアニリン、4−ニトロアニリン−2−スルホン酸ナトリウム、p−ニトロアニリンおよび2−アミノ−3−ヒドロキシアントラキノンからなり、前記第2群が3’−アミノアセトフェノンおよび3−アミノベンゾフェノンからなる、請求項2に記載の亜硝酸イオンの定量方法。
【請求項4】
前記3−アミノ−2−シクロヘキセン−1−オン骨格含有化合物群が3−アミノ−2−シクロヘキセン−1−オンおよび2−アミノ−3−クロロ−1,4−ナフトキノンからなる、請求項1から3のいずれかに記載の亜硝酸イオンの定量方法。
【請求項5】
工程1において前記ジアゾ化試薬を前記第1群から選択し、かつ、工程2において前記ジアゾ化試薬による着色の吸光度を測定する、請求項2または3に記載の亜硝酸イオンの定量方法。
【請求項6】
工程1において前記ジアゾ化試薬を前記3−アミノ−2−シクロヘキセン−1−オン骨格含有化合物群から選択し、かつ、工程2において前記ジアゾ化試薬による着色の吸光度を測定する、請求項1または4に記載の亜硝酸イオンの定量方法。
【請求項7】
工程2の前に、工程1を経た前記検査水のpHが7より大きくなるよう調整する、請求項1から6のいずれかに記載の亜硝酸イオンの定量方法。
【請求項8】
工程1において前記ジアゾ化試薬を前記第2群から選択し、かつ、工程2において前記ジアゾニウム塩による着色の吸光度を測定する、請求項2または3に記載の亜硝酸イオンの定量方法。
【請求項9】
工程2の前に、工程1を経た前記検査水のpHが7よりも大きくなるよう調整する工程をさらに含み、工程1において前記ジアゾ化試薬を前記第2群から選択し、かつ、工程2において前記ジアゾ化試薬による着色の吸光度を測定する、請求項2または3に記載の亜硝酸イオンの定量方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【図14】
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【図15】
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【図16】
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【図17】
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【図18】
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【図19】
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【図20】
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【図21】
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【図22】
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【図23】
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【図24】
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【図25】
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【図26】
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【図27】
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【図28】
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【公開番号】特開2012−185147(P2012−185147A)
【公開日】平成24年9月27日(2012.9.27)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−202619(P2011−202619)
【出願日】平成23年9月16日(2011.9.16)
【出願人】(000175272)三浦工業株式会社 (1,055)
【Fターム(参考)】