説明

亜硝酸塩によって特定の心臓血管状態を処置する方法

【課題】亜硝酸塩の投与による、対象の血圧および血流を調整するのに有用な処置の提供。
【解決手段】対象への亜硝酸イオンの投与が血圧の低下および組織への血流の増大を生じることが見出された。この効果は、たとえば低酸素圧領域の組織にとって特に有益である。たとえば亜硝酸塩の投与によって、対象の血圧および血流を調整するのに有用な処置であり、以下のものから選択される状態を処置、予防、または改善するための、薬学的に許容される亜硝酸塩を対象に投与する方法である:(a)虚血-再かん流傷害(たとえば肝臓または心臓または脳の虚血-再かん流傷害)、(b)肺高血圧症(たとえば新生児肺高血圧症)、または(c)脳動脈痙攣。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
関連出願の相互参照
本出願は、いずれも全体として参照により本明細書に組み入れられる、2003年7月9日出願の米国特許仮出願第60/485,959号、および2003年10月14日出願の米国特許仮出願第60/511,244号の利益を主張する。
【0002】
政府関与の声明
本発明の局面は、いずれも米国国立衛生研究所によって付与された助成金第HL58091号(D.B.K.-S)および第HL70146号(R.P.P.)の下で政府援助により開発された。政府は、本発明の局面に一定の権利を保有する。政府はまた、少なくとも一人の発明者が国立衛生研究所によって雇用されていることにより、本発明に一定の権利を有しうる。
【背景技術】
【0003】
開示の背景
過去10年間に、血流および心臓血管ホメオスタシスの調整に寄与する血管拡張薬としての一酸化窒素の重要な役割についての理解の深まりが見られた。一酸化窒素は血液中で酸化されると、そのような一酸化窒素酸化の不活性代謝最終産物であると考えられるアニオン、すなわち亜硝酸イオン(NO2-)になりうる。亜硝酸塩のインビボ血漿レベルは150〜1000nMの範囲であると報告されており、大動脈環組織中の亜硝酸塩濃度は10,000nMを超えると報告されている(Rodriguez et al., Proc Natl Acad Sci USA, 100, 336-41, 2003; Gladwin et al., Proc Natl Acad Sci USA, 97, 9943-8, 2000; and Rassaf et al., Nat Med, 9, 481-3, 2003)。この潜在的なNOプールは、ヒト血漿中では10nM未満であると報告されている血漿S-ニトロソチオールを超えている(Rassaf et al., Nat Med, 9, 481-3, 2003; Rassaf et al., Free Radic Biol Med, 33, 1590-6, 2002; Rassaf et al., J Clin Invest, 109, 1241-8, 2002; and Schechter et al., J Clin Invest, 109, 1149-51, 2002)。たとえば、キサンチンオキシドレダクターゼによる酵素的還元または非酵素的不均化/酸性還元による亜硝酸塩からNOへのインビボ転換の機序が提案されている(Millar et al., Biochem Soc Trans, 25, 528S, 1997; Millar et al., FEBS Lett, 427, 225-8, 1998; Godber et al., J Biol Chem, 275, 7757-63, 2000; Zhang et al., Biochem Biophys Res Commun, 249, 767-72, 1998[Biochem Biophys Res Commun, 251, 667, 1998には誤植が見られる]; Li et al., J Biol Chem, 276, 24482-9, 2001; Li et al., Biochemistry, 42, 1150-9, 2003; Zweier et al., Nat Med, 1, 804-9, 1995; Zweier et al., Biochim Biophys Acta, 1411, 250-62, 1999; and Samouilov et al., Arch Biochem Biophys, 357:1-7, 1998)。
【0004】
安静時および局所的にNO合成酵素を阻害中のヒト前腕にかけての亜硝酸塩の動脈-静脈間勾配が、運動によって生じる亜硝酸塩の消費の増大とともに観察されている(Gladwin et al., Proc Natl Acad Sci USA, 97, 9943-8, 2000; Gladwin et al., Proc Natl Acad Sci USA, 97, 11482-11487, 2000; and Cicinelli et al., Clin Physiol, 19: 440-2, 1999)。Kelmらは、NO合成酵素阻害中に亜硝酸塩の大きな動脈-静脈間勾配がヒト前腕にかけて形成されることを報告している(Lauer et al., Proc Natl Acad Sci USA, 98, 12814-9, 2001)。血管床にかけての酸素抽出のより簡単なケースとは違い、亜硝酸塩は、NO合成酵素阻害および運動中の動脈-静脈間勾配によって示されるように消費されることもできるし、また、酸素との内皮一酸化窒素合成酵素誘導NO反応によって血管床で生成されることもできる。
【0005】
亜硝酸塩は高濃度では、インビトロで血管拡張剤であると報告されている(Ignarro et al., Biochim Biophys Acta, 631, 221-31, 1980; Ignarro et al., J Pharmacol Exp Ther, 218, 739-49, 1981; Moulds et al., Br J Clin Pharmacol, 11, 57-61, 1981; Gruetter et al., J Pharmacol Exp Ther, 219, 181-6, 1981; Matsunaga et al., J Pharmacol Exp Ther, 248, 687-95, 1989; and Laustiola et al., Pharmacol Toxicol, 68, 60-3, 1991)。インビトロで血管を拡張させることが示された亜硝酸塩のレベルは、常に100,000nM(100μM)を超え、通常ミリモル濃度である。
【0006】
インビトロで血管を拡張するのに必要な高い亜硝酸塩濃度とつじつまが合うように、Lauerらは、ヒト対象の前腕循環中に亜硝酸塩を注入した場合、前腕中200μMの濃度でさえ、血管拡張効果が得られないということを報告した(Lauer et al., Proc Natl Acad Sci USA, 98, 12814-9, 2001)。Lauerらは、「亜硝酸塩の動脈内注入の血管拡張活性の完全な欠如は、明らかにNO送達におけるこの代謝産物のいかなる役割をも排除する」と報告し、「亜硝酸塩の生理学的レベルは血管拡張不活性である」と結論づけた。さらには、Rassafらも、亜硝酸塩の注入後のヒトにおける血管拡張効果を見いだせなかった(Rassaf et al., J Clin Invest, 109, 1241-8, 2002)。したがって、インビボ研究は、生理学的レベルの亜硝酸塩はNO供給源として作用せず、生理学的レベルの亜硝酸塩は血圧の調整に役割を持たないと結論づけた。
【0007】
歴史的に、亜硝酸塩はシアン化物中毒の処置に使用されてきた。シアン化物中毒に病む対象に高い濃度で注入してヘモグロビンをメトヘモグロビンに酸化させると、それがシアン化物と結合する。このような高濃度の亜硝酸塩は、臨床的に有意なメトヘモグロビン血症を生じさせ、酸素送達を潜在的に低下させる。このような高濃度の亜硝酸塩は、ヒトの血圧を下げることが示されているが、形成されるメトヘモグロビンの量が、他の医学的状態の処置における亜硝酸塩の使用を排除している。
【0008】
したがって、これまでの技術水準は、亜硝酸塩はインビトロで100μM未満の濃度では有意な血管拡張剤ではなく、前腕に200μMの濃度でヒトに注入された場合でさえ有意な血管拡張剤ではないということであった。ヒト血流中では亜硝酸塩は一酸化窒素に転換されないということもまた、これまでの技術水準であった。
【発明の概要】
【0009】
開示の概要
驚くべきことに、薬学的に許容される亜硝酸塩の投与が心臓血管系の調整に有用であるということが見出された。また、驚くべきことに、亜硝酸塩がインビボで一酸化窒素に還元され、それによって生成される一酸化窒素が有効な血管拡張剤であるということが見出された。これらの効果は、驚くべきことに、臨床的に有意なメトヘモグロビン血症を生じさせない用量で発揮される。これらの発見により、心臓血管系に関連する状態、たとえば高血圧、肺高血圧症、脳血管痙攣および組織虚血-再かん流傷害を予防し、処置する方法がここで可能となる。またこれらの発見により、組織、たとえば低酸素圧領域の組織への血流を増大させる方法が提供される。亜硝酸塩が心臓血管系を調整する効果を示すために、より具体的にはインビボで血管拡張剤として作用するために、酸性化状態で適用されなくてもよいということは、特に驚くべきことである。
【0010】
本発明者らにより、驚くべきことに、亜硝酸塩が、ヒトにおいてシアン化物中毒のために過去に使用されてきた濃度よりもはるかに低い濃度(0.9μMの低さ)で血管拡張剤として作用することができるということが、ここで発見された。その機序は、亜硝酸塩と脱酸素化ヘモグロビンおよび赤血球とが反応して血管拡張性一酸化窒素ガスを生成することを含むと考えられる。この強力な生物学的作用は、臨床的に有意なメトヘモグロビン血症を生じさせない(たとえば、対象中、メトヘモグロビン20%未満、より好ましくは5%未満)亜硝酸塩用量で認められる。
【0011】
亜硝酸塩がインビボで一酸化窒素に転換され、それによって生成される一酸化窒素が有効な血管拡張剤であることが見いだされた。驚くべきことに、亜硝酸塩、たとえば薬学的に許容される亜硝酸塩の対象への投与が、血圧の低下、および組織、たとえば低酸素圧領域の組織への血流の増大を生じさせるということがさらに見いだされた。これらの発見により、心臓血管系を調整して、たとえば心臓血管系に関連する異常、たとえば高血圧を予防し処置する、あるいは、血流を欠く、または血流が不十分である器官、組織、または系を調整する有用な方法がここで可能となる。考えられる異常の非限定的な例は、脳卒中、心臓病、腎臓病および腎不全、高血圧性網膜症をはじめとする眼の損傷、糖尿病、ならびに片頭痛を含む。
【0012】
一つの例示的な態様において、本開示は、対象の血圧を下げる、または血流を高める方法であって、特定の態様では、対象に対し、毎分約36μmolの亜硝酸ナトリウムを前腕上腕動脈に投与することを含む方法を提供する。
【0013】
本開示はさらに、対象の組織への血流を高める方法であって、薬学的に許容される亜硝酸イオン、たとえばその塩の有効量を対象に投与して、対象の組織への血流を高めることを含む方法を提供する。血流は、低酸素圧領域の組織で特異的に高めることができる。本開示はまた、対象の血圧を下げる方法であって、薬学的に許容される亜硝酸塩の有効量を対象に投与して、対象の血圧を下げることを含む方法を提供する。
【0014】
本開示はさらに、高血圧に関連する状態を有する対象を処置する方法であって、薬学的に許容される亜硝酸塩の有効量を対象に投与して、高血圧に関連する少なくとも一つの血管性合併症を処置することを含む方法を提供する。
【0015】
また、溶血性状態を有する対象を処置する方法であって、薬学的に許容される亜硝酸塩の有効量を対象に投与して、溶血性状態に関連する少なくとも一つの血管性合併症を処置することを含む方法も提供する。
【0016】
本開示はさらに、肺における高血圧に関連する状態、たとえば肺高血圧症を有する対象を処置する方法であって、薬学的に許容される亜硝酸塩の有効量を対象に投与することを含む方法を提供する。一部の態様では、これは、新生児肺高血圧症を有する対象を処置することを含む。一部の態様では、これは、原発性および/または続発性肺高血圧症を有する対象を処置することを含む。肺における高血圧に関連する状態を有する対象を処理するための一部の態様では、亜硝酸塩は噴霧される。
【0017】
血流の他の状態または血流に関連する他の状態、たとえば血管痙攣、脳卒中、狭心症、冠状動脈および他の動脈(末梢血管疾患)の血管再生、移植(たとえば腎臓、心臓、肺、または肝臓の)、重要な器官への再かん流傷害を防ぐための低血圧の処置(たとえばショックまたは外傷、手術および心肺停止で見られるような)、皮膚潰瘍(たとえば局所的非酸性化亜硝酸塩を用いる)、レイノー現象を処置、改善、または予防する方法、ならびに溶血性状態(たとえば鎌状赤血球、マラリア、TTP、およびHUS)、出生前および後に免疫不和合により引き起こされる溶血、ならびに本明細書で挙げる他の状態の処置も、本明細書において想定される。
【0018】
同じく本明細書で提供するものは、(a) 虚血-再かん流傷害(たとえば肝臓または心臓または脳の虚血-再かん流傷害)、(b) 肺高血圧症(たとえば新生児肺高血圧症)または (c) 脳動脈痙攣、から選択される状態を処置、予防、または改善するための、薬学的に許容される亜硝酸塩を対象に投与する方法である。同じく考慮されるものは、妊娠性または胎児性心臓血管状態不全を処置、予防、および/または改善する方法である。
【0019】
添付図面を参照しながら進める以下のいくつかの態様の詳細な説明から、前記および他の特徴および利点が理解されるであろう。
【図面の簡単な説明】
【0020】
【図1】対象18名におけるベースラインおよび運動中の血行動態および代謝の計測値を示すグラフである。図1Aは、NO合成の阻害なしでの表示値それぞれに対する効果を示す。図1Bは、NO合成を阻害した場合の効果を示す。記号:MAP−平均動脈圧、mmHg;FBF−前腕血流、mL/min/100 mL;O2飽和度、%;pO2−静脈オキシヘモグロビン飽和度、酸素分圧、mmHg;pH、単位;*=p<0.05対ベースラインそれぞれ1または2;**=p<0.01対ベースラインそれぞれ1または2;†=p<0.05対ベースライン1;††=p<0.01対初期運動。
【図2】健常な対象18名の上腕動脈への重炭酸緩衝生理食塩水中の亜硝酸ナトリウムの注入の効果を示すグラフである。図2Aは、NO合成の阻害なしでの指示値それぞれに対する効果を示す。図2Bは、NO合成を阻害した場合の効果を示す。図1と同じ記号に加えて、亜硝酸塩−静脈亜硝酸塩、μM;NO-ヘム−静脈鉄-ニトロシル-ヘモグロビン、μM;およびMetHb−静脈メトヘモグロビン、%;+=p<0.01対初期運動。
【図3】NO合成を阻害しない場合と阻害する場合とでの、健常な対象10名におけるベースラインおよび運動中の上腕動脈への低用量亜硝酸ナトリウムの注入の効果を示す一連のグラフである。図3Aは、ベースラインおよび5分間のNaNO2注入後での前腕血流を示す。図3Bは、低用量亜硝酸塩注入を実施した場合と実施しない場合とでの、ベースラインおよびL-NMMA注入中の、運動ストレスを加えた場合と加えない場合とでの前腕血流を示す。図3Cは、血流計測時における前腕循環からの亜硝酸塩の静脈レベルを示す。図3Dは、ベースラインおよび運動ストレス下の亜硝酸塩注入後のS-ニトロソ-ヘモグロビン(S-NO)および鉄-ニトロシル-ヘモグロビン(Hb-NO)の静脈レベルを示す。
【図4】NO-ヘモグロビンアダクトの形成を示す1対のグラフである。図4Aは、鉄-ニトロシル-ヘモグロビンおよびS-ニトロソ-ヘモグロビンの形成を、亜硝酸塩注入した場合および運動とともに亜硝酸塩注入した場合とベースラインを比較して示す。図4Bは、亜硝酸塩注入中のNO-ヘモグロビンアダクトの形成をヒト循環中のヘモグロビン酸素飽和度と比較する。
【図5】図5Aは、PBS(「PBS」)、脱酸素化赤血球(「デオキシRBC」)および酸素化赤血球(「オキシRBC」)の溶液への亜硝酸塩注入後のNO放出を示す。図5Bは、PBSと混合した亜硝酸塩(各セット中の第一のバー)ならびに酸素化および脱酸素化赤血球(各セット中それぞれ第二および第三のバー)からのNO形成の速度を示す。
【図6】肝臓虚血-再かん流傷害における亜硝酸塩療法を示すマルチパネル図である。図6Aは、肝臓虚血-再かん流傷害のマウスモデルに使用する実験プロトコルを示す。図6Bは、肝臓虚血-再かん流後のマウスにおける血清ASTレベルを示すグラフである。*p<0.05対溶媒(0μM)および**p<0.01対溶媒(0μM)。図6Cは、肝臓虚血-再かん流後のマウスにおける血清ALTレベルを示すグラフである。*p<0.05対溶媒(0μM)および**p<0.01対溶媒(0μM)。図6Dは、45分間の虚血および24時間の再かん流後の肝臓組織病理を表す代表的な顕微鏡写真である。図6Eは、45分間の虚血および24時間の再かん流後の肝臓組織サンプルの病理学的スコア付けを示す棒グラフである。図6Fは、45分間の虚血および24時間の再かん流後のTUNEL染色によって計測した肝細胞アポトーシスを示す棒グラフである。**p<0.001対I/Rのみのグループ。
【図7】心筋虚血-再かん流傷害の亜硝酸塩療法を示すマルチパネル図である。図7Aは、マウスにおける心筋虚血-再かん流実験で使用する実験プロトコルを示す。図7Bは、30分間の心筋虚血および再かん流後のマウス心臓を表す代表的な顕微鏡写真である。図7Cは、硝酸塩または亜硝酸塩で処置したマウスにおける、左心室(LV)当たりの危険心筋区域(AAR)、AAR当たりの梗塞サイズ(INF)、および左心室当たりの梗塞を比較する棒グラフである。図7Dは、心筋駆出率をベースラインと45分間の心筋虚血および48時間の再かん流後とで比較する棒グラフである。図7Eは、左心室分画短縮率をベースラインと45分間の心筋虚血および48時間の再かん流後とで比較する棒グラフである。
【図8】亜硝酸塩、RSNO、およびRxNOの血中および肝組織レベルを示す一連のグラフである。図8Aは、擬似肝臓虚血-再かん流(I/R)または肝臓虚血および1もしくは30分の再かん流に供した動物(n=グループあたり3〜5)における血中亜硝酸塩、RSNO、およびRxNOレベル(μmol/L)を示す。**p<0.001対擬似。図8Bは、肝臓虚血-再かん流(I/R)傷害に供したマウス(n=グループあたり3〜5)における肝組織亜硝酸塩レベルを示す。図8Cは、肝臓虚血および異なる期間の再かん流に供したマウス(n=グループあたり3〜5)における肝組織RSNOレベル(μmol/L)を示す。図8Dは、マウス(n=グループあたり3〜5)における肝臓虚血および再かん流後の肝組織RxNOレベル(μmol/L)を示す
【図9】亜硝酸塩媒介肝臓保護ならびに一酸化窒素およびヘムオキシゲナーゼ-1シグナル伝達経路を示すマルチパネル図である。図9Aは、食塩水溶媒、亜硝酸塩(24μM)、一酸化窒素(NO)掃去剤PTIO、または亜硝酸塩(24μM)+PTIOを投与されたマウスにおける血清アスパラギン酸アミノトランスフェラーゼ(AST)レベルを比較するグラフである。**p<0.01対溶媒グループ。図9Bは、食塩水溶媒または亜硝酸ナトリウム(24μM)を投与されたeNOS欠乏(-/-)マウスにおける血清ASTレベルを比較するグラフである。図9Cは、擬似操作動物ならびに肝臓虚血(45分)および再かん流(5時間)に供した動物におけるウエスタンブロット分析を使用して測定したヘムオキシゲナーゼ-1(HO-1)の肝臓タンパク質レベルを示すイメージである。図9Dは、肝臓虚血-再かん流傷害の状況で亜硝酸塩(24μM)またはHO-1阻害薬亜鉛重水素化ポルフィリンビスグリコール(ZnDPBG)で処置したマウスにおける血清ASTレベルを比較するグラフである。
【図10】血行動態および代謝計測値に対する低酸素症新生仔ヒツジ(n=7)(図10A)における亜硝酸アニオン吸入の効果を示す一連のパネルである。低酸素ガス混合物(FiO2=0.12)を時間0で開始したのち、エアロゾルによる亜硝酸塩が肺動脈圧(PAP)を低酸素レベルから63±3%低下させたが(P<0.01対低酸素状態ベースライン)、平均動脈圧(MAP)、心拍出量、またはメトヘモグロビンレベルはほとんど変化せず、呼気NOが顕著に増加した(ベースラインと比較してP<0.01)。図10Bは、低酸素ヒツジ(n=7)における肺動脈圧に対する食塩水吸入の効果を示す。図10Cは、PAP、MAP、および呼気NO(eNO)に対する亜硝酸塩噴霧の最大効果を食塩水噴霧と比較して示すマルチパネルグラフである。データは平均±SEMである。
【図11】トロンボキサンのエンドペルオキシド類似体(U46619)の注入によって誘発された安定な酸素正常(SaO2約99%)肺高血圧症中の新生仔ヒツジ(n=6)における亜硝酸アニオン吸入の効果を示す。U46619の注入を時間0で開始したのち、エアロゾルによる亜硝酸塩が肺動脈圧(PAP)を注入ベースラインレベルから23±6%低下させたが(注入ベースラインと比較してP<0.05)、平均動脈圧(MAP)に計測しうる変化はなく、呼気NOが中程度に増加した(ベースラインと比較してP<0.01)。
【図12】図12Aは、低酸素またはトロンボキサン類似体U46199の注入によって誘発された肺高血圧症の動物への亜硝酸塩吸入ののち、化学発光および電子常磁性共鳴(EPR)によって計測した肺動脈圧(PAP)、呼気NO、および鉄-ニトロシル-ヘモグロビンの変化を比較する。亜硝酸塩吸入を開始して20分後に計測した、三ヨウ化物ベースの還元化学発光後の出力ピークの面積(図12B)および電子常磁性共鳴(EPR)で3350ガウスでのピークの深さ(図12C、赤線:薬物誘発、青線:低酸素)によって計測した鉄-ニトロシル-ヘモグロビンのデータ。図12Dは、噴霧亜硝酸ナトリウムの吸入ののち低酸素状態での平均肺動脈圧の変化が血液pHと関連し、血管拡張の増大がpHの低下と対応したことを示す(r=0.57 P=0.055)。データは平均±SEMである。
【図13】低酸素誘発肺高血圧症における血行動態および代謝計測値に対するNOガス吸入(n=7)(図13A)または亜硝酸塩噴霧(n=7)(図13B)の効果の持続を示すマルチパネル図である。亜硝酸塩エアロゾルによる処置は、低酸素誘発肺血管狭窄の急速な持続性軽減および呼気NOガス濃度の段階的増大を生じさせたが、平均動脈血圧には変化がなかった。これらの結果は、吸入NOガスの停止後の肺動脈圧の低酸素ベースラインへの速やかな復帰とは対照的である(図13A)。メトヘモグロビン(MetHb)濃度は、ベースライン中の2.1±0.1%から亜硝酸塩噴霧後の2.8±0.2%まで上昇した(P<0.05)。吸入一酸化窒素(20ppm)の投与中に図13Aの呼気一酸化窒素濃度が検出限界に達していることに注目されたい。図13Cは、噴霧亜硝酸塩のエアロゾル化後および亜硝酸塩噴霧停止後の低酸素状態の残り時間中の肺動脈圧(PAP)の変化を示す。図13Dは、実験の過程での動脈血漿亜硝酸塩濃度を示す。図13Eは、低酸素中の亜硝酸塩噴霧ののちの肺動脈圧と呼気NOとの関係を示す。データは平均±SEMである。
【図14】脳動脈の血管痙攣の発症および結果的に起こる虚血に対する亜硝酸塩の効果を試験するために静脈内亜硝酸塩を投与された一連の非ヒト霊長類における実験設計、生化学的および臨床結果を示すマルチカラム(パネル)図である。三つのカラムそれぞれは別個の実験グループ(対照、低亜硝酸塩、および高亜硝酸塩)を表す。この図は、実験設計(上の列:下向き矢印は事象をしるし、中間カラムの上向きの小さな矢印は亜硝酸塩の毎日のボーラスを表す)、生化学的結果(線グラフ:赤、血中亜硝酸塩レベル;青、CSF中亜硝酸塩レベル;緑、CSF中ニトロシル化タンパク質/アルブミンのレベル;茶色の棒グラフは血中メトヘモグロビンレベルを表す)、および実験中に採集したサンプルにおける平均血圧(最後の灰色の棒グラフ)を詳細に説明する。
【図15】2匹の動物:1匹は食塩水2μl/minの静脈内注入で14日間処置した対照(図15A、15B)および1匹は静脈内亜硝酸塩870μmol/minで14日間処置したもの(図15C、15D)における、SAH前(0日目(注入前);図15A、15C)およびSAH後7日目(図15B、15D)の特徴的な脳動脈造影を示す。図15Bにおいて、矢印は、痙攣中の右中大脳動脈(RMCA)を指す。RICA、右内頸動脈、RACA、右前大脳動脈。
【図16】すべての実験グループ(対照8、亜硝酸塩低用量3、亜硝酸塩高用量3)からの各動物における右中大脳動脈(RMCA)血管痙攣の程度を示す。RMCA血管痙攣は、コンピュータ化画像解析システム(NIH Image 6.21)を使用して、3名の盲審査者により、右MCAの近位14 mmセグメントの面積として評価した。各動物のベースライン動脈造影図に対して動脈造影血管痙攣を定量した。食塩水グループ対亜硝酸塩グループの平均値を円によって表し、バーは標準偏差を表す。統計的有意性p<0.001。
【発明を実施するための形態】
【0021】
開示の詳細な説明
I.略号
ANOVA 分散分析
カルボキシPTIO 2-(4-カルボキシフェニル)-4,4,5,5-
テトラメチルイミダゾリン-1-オキシル-3-オキシドカリウム塩
DCV 遅延性脳血管痙攣
デオキシRBC 脱酸素化赤血球
eNOS 内皮NO合成酵素
FiO2 吸気酸素の分画濃度
FBF 前腕血流
iNO 吸入一酸化窒素
I/R 虚血-再かん流
LCA 主冠状動脈
L-NMMA L-NG-モノメチル-アルギニン
LV 左心室
NO 一酸化窒素
NOS 一酸化窒素合成酵素
MAP 平均動脈圧
MetHb メトヘモグロビン
オキシRBC 酸素化赤血球
PBS リン酸緩衝食塩水
pO2(またはPo2) 酸素分圧
SAH クモ膜下出血
S-NO S-ニトロソ-ヘモグロビン
【0022】
II. 用語
特に断りがない限り、本明細書で使用する用語は、その標準的な定義および一般的な用法に準じる。たとえば、当業者は、本明細書で使用される用語の定義を辞書ならびに参考書、たとえばStedman's Medical Dictionary (26th Ed., Williams and Wilkins, Editor M. Spraycar, 1995); The New Oxford American Dictionary (Oxford University Press, Eds E. Jewell and F. Abate 2001); Molecular Cloning: A Laboratory Manual (Sambrook et al., 3rd Ed., Cold Spring Harbor Laboratory Press, 2001); and Hawley's Condensed Chemical Dictionary, 11th Ed. (Eds. N. I. Sax and R. J. Lewis, Sr., Van Nostrand Reinhold, New York, New York, 1987); Molecular Biology and Biotechnology: a Comprehensive Desk Reference (VCH Publishers, Inc., 1995 (ISBN 1-56081-569-8))で得ることができる。
【0023】
様々な態様の検討を容易にするため、以下に特定の用語の説明を提供する。
【0024】
動物:生きた多細胞脊椎生物、すなわち、たとえば哺乳動物およびトリを含むカテゴリー。哺乳動物とは、ヒトおよび非ヒト哺乳動物の両方を含む。
【0025】
脳虚血または虚血性脳卒中:脳への動脈または脳内の動脈が部分的または完全に閉塞されて、組織の酸素要求量が酸素供給量を超える場合に起こる状態。脳は、虚血性脳卒中ののち酸素および他の栄養素を奪われると、脳卒中の結果として損傷を受ける。
【0026】
虚血性脳卒中は、いくつかの異なる種類の疾病によって生じる。もっとも一般的な問題は、頚部または頭部の動脈の狭小化である。これは、非常に多くの場合、アテローム性硬化症または徐々に起こるコレステロール付着によって生じる。動脈が狭くなりすぎると、血液細胞がその中で凝集し、血餅(血栓)を形成する。これらの血餅が、それが形成したところで動脈を閉塞することもあるし(血栓症)、遊離して脳により近い動脈中に捕らえられることもある(塞栓症)。
【0027】
脳卒中のもう一つの原因は心臓内の血餅であり、これは不規則な心拍(たとえば心房細動)、心臓発作、または心臓弁の異常の結果として生じうる。これらが虚血性脳卒中のもっとも一般的な原因であるが、他にも多くの原因がある。例としては、麻薬の使用、頚部の血管への外傷、または血液凝固の異常がある。
【0028】
虚血性脳卒中は、すべての脳卒中の約80%を占め、断然もっとも一般的な種類の脳卒中である。脳卒中は、子供を含む全年齢の人に影響するおそれがある。虚血性脳卒中を起こす多くの人は高齢者(60歳以上)であり、脳卒中の危険は加齢とともに増大する。各年齢で、脳卒中は女性よりも男性に一般的であり、白人アメリカ人よりもアフリカ系アメリカ人に一般的である。脳卒中を起こす多くの人は、脳卒中の危険を高める他の問題または状態、たとえば高血圧(高血圧症)、心臓病、喫煙、または糖尿病をかかえている。
【0029】
胎児性:器官系が機能的であり、心臓、脳、および肺などの重要な中心的器官への血流パターンが確立されている妊娠後期の時期を意味する語。
【0030】
低酸素症:体の組織に達する酸素量の欠乏。
【0031】
注射用組成物:少なくとも一つの有効成分、たとえば亜硝酸塩を含む薬学的に許容される流体組成物。有効成分は通常、生理学的に許容される担体に溶解または懸濁され、組成物は、少量の一つまたは複数の非毒性補助物質、たとえば乳化剤、保存料、pH緩衝剤などをさらに含むことができる。本開示の組成物と共に使用するのに有用なそのような注射用組成物は従来のものであり、適切な処方は当技術分野において周知である。
【0032】
虚血:たとえば一つまたは複数の血管の狭窄または閉塞によって体の器官、組織、または部位への血液供給の低下が生じる血管の現象。虚血は、ときには、血管狭窄または血栓症または塞栓症から生じる。虚血は、直接的な虚血性損傷、すなわち酸素供給の低下によって生じる細胞死による組織損傷を招くことがある。
【0033】
虚血/再かん流傷害:虚血/再かん流傷害は、血流の欠乏の際に起こる直接的な傷害に加えて、血流が回復した後に起こる組織傷害をも含む。現在この傷害の多くは、虚血性組織中に放出される化学的産物およびフリーラジカルによって生じると理解されている。
【0034】
組織が虚血を受けると、最終的に細胞機能不全および壊死を招くおそれのある一連の化学的事象が始まる。血流の回復によって虚血が終了したとしても、第二の一連の傷害性事象が続発してさらなる傷害を生じさせる。したがって、対象の血流に一過性の低下または中断がある場合は常に、結果的な傷害は、二つの成分、すなわち、虚血期間中に起こる直接的な傷害およびそれに続く間接的または再かん流傷害を伴う。長期間の虚血がある場合、低酸素症から生じる直接的な虚血性損傷が支配的である。比較的短時間の虚血の場合、間接的または再かん流媒介損傷がますます重大になる。場合によっては、再かん流によって生じる傷害が、虚血そのものによって誘発される傷害よりも重篤になることがある。この直接的機序からの傷害と間接的機序からの傷害との相対的寄与のパターンは、すべての器官で起こることが示されている。
【0035】
メトヘモグロビン:ヘム成分中の鉄が二価鉄(+2)状態から三価鉄(+3)状態に酸化されているヘモグロビンの酸化形態。これは、ヘモグロビン分子が効果的に酸素を輸送し、組織に放出することを不可能にする。通常、総ヘモグロビン中の約1%がメトヘモグロビン形態である。
【0036】
メトヘモグロビン血症:対象の血液中のヘモグロビンの実質的部分がメトヘモグロビン形態にあり、酸素を効果的に組織に運ぶことができなくなった状態。メトヘモグロビン血症は遺伝性障害であるが、硝酸塩(硝酸塩汚染水)、アニリン染料、および塩素酸カリウムのような化学物質への暴露によって後天的に獲得されることもある。臨床状況で重大なのは、メトヘモグロビンの存在ではなく、その量である。以下、血液中の様々なレベルのメトへモグロビンに関連する症候のおおよその指標を提供する。<1.7%、正常;10〜20%、軽いチアノーゼ(実質的に無症候性であるが、「チョコレート色」の血液を生じることがある);30〜40%、頭痛、疲労、頻脈、脱力感、めまい;>35%、低酸素症の症候、たとえば呼吸困難および眠気;50〜60%、アシドーシス、不整脈、昏睡、痙攣、徐脈、重篤な低酸素症、発作;>70%、通常は死に至る。
【0037】
新生児:出生後であって、胎児から新生児の生活への調整が完了するまでの時期のヒトまたは動物を意味する語。
【0038】
亜硝酸塩:無機アニオン-NO2または亜硝酸の塩(NO2-)。亜硝酸塩は多くの場合、可溶性が高く、酸化されて硝酸塩を形成することもできるし、還元されて一酸化窒素またはアンモニアを形成することもできる。亜硝酸塩は、アルカリ金属、たとえばナトリウム(NaNO2、亜硝酸ナトリウム塩としても知られる)、カリウムおよびリチウム、アルカリ土類金属、たとえばカルシウム、マグネシウムおよびバリウム、有機塩基、たとえばアミン塩基、たとえばジシクロヘキシルアミン、ピリジン、アルギニン、リシンなどと塩を形成することもできる。多様な有機および無機塩基から他の亜硝酸塩を形成することもできる。特定の態様では、亜硝酸塩は、ナトリウム、カリウム、およびアルギニンから選択されるカチオンと送達される亜硝酸アニオンの塩である。多くの亜硝酸塩が市販されており、従来の技術を使用して容易に製造することもできる。
【0039】
非経口的:腸管外で投与される、たとえば、消化管を介さずに投与されること。一般に、非経口製剤は、経口摂取以外の任意の可能な形態を介して投与される製剤である。この語は特に、静脈、鞘内、筋肉、腹腔内、または皮下を問わない注射、およびたとえば鼻腔内、皮内、および外用局所塗布をはじめとする様々な表面塗布に関していう。
【0040】
薬学的に許容される担体:本開示で有用な薬学的に許容される担体は従来のものである。E. W. MartinによるRemington's Pharmaceutical Sciences, Mack Publishing Co., Easton, PA, 15th Edition (1975)に、本明細書で開示する化合物の薬学的送達に適した組成物および製剤が記載されている。
【0041】
一般に担体の性質は、使用される特定の投与形態に依存する。たとえば、非経口製剤は通常、薬学的かつ生理学的に許容される流体、たとえば水、生理食塩水、平衡塩類溶液、水性デキストロース、グリセロールなどを溶媒として含む注射用流体を含む。固形組成物(たとえば粉末、ピル、錠剤、またはカプセル形)の場合、従来的な非毒性固形担体として、たとえば、医薬品等級のマンニトール、ラクトース、デンプン、またはステアリン酸マグネシウムがある。投与される薬学的組成物は、生物学的に中性の担体に加えて、少量の非毒性補助物質、たとえば湿潤剤または乳化剤、保存料、およびpH緩衝剤など、たとえば酢酸ナトリウムまたはソルビタンモノラウレートを含有することができる。
【0042】
末梢血管疾患(PVD):腕または脚に血液を運ぶ動脈が狭小化または閉塞する状態。これは正常な血流を妨害し、ときには痛みを生じさせるが、多くの場合、容易に検知可能な症候をまったく生じない。
【0043】
もっとも一般的なPVDの原因は、アテローム硬化症、すなわち、コレステロールおよび瘢痕組織が蓄積して、血管を閉塞させるプラークを形成する緩やかな過程である。場合によってはPVDは、動脈中にとどまり、血流を制限する血餅によって生じることもある。PVDは、50歳を超える20人に約1人、または合衆国内で800万人に影響を及ぼしている。PVDをもつ人の半数超が脚の痛み、しびれ感または他の症候を経験するが、多くの人はこれらの徴候を「正常な加齢の一部」として片づけ、医学的支援を求めようとしない。PVDのもっとも一般的な症候は、特に歩行時の、脚または股関節の痛みを伴う痙攣である。「跛行」とも知られるこの症候は、運動中に十分な血液が脚部筋肉中を流れず、結果として虚血が起こる場合に発生する。通常、筋肉を休息させると痛みは消える。
【0044】
他の症候として、脚のしびれ感、刺痛または脱力感がある。重篤な場合には、PVDをもつ人は、休息中に末端、たとえば足または足指に灼熱痛またはうずく痛みを感じたり、癒えることのない脚または足の痛みを発したりすることもある。また、PVDをもつ人は、脚もしく足の皮膚の冷えもしくは変色または脚の毛の抜けを経験することもある。極端な場合には、未処置のPVDは、壊疽、すなわち、脚、足または足指の切断を免れない深刻な状態につながるおそれもある。PVDをもつ人はまた、心臓病および脳卒中の危険が高い。
【0045】
「薬剤」または「薬物」とは、対象に正しく投与されると所望の治療または予防効果を誘発することができる化合物または他の組成物をいう。
【0046】
胎盤:哺乳動物において母体と胎児との間の代謝交換を提供するための血管器官。母体の血液から酸素、水、および栄養素を胎児に送達し、正常な妊娠に必要なホルモンを分泌する。加えて、胎児から不要物を運び出し、これは母体内で処理される。
【0047】
子癇前症:妊娠中の女性における原因不明の疾病であって、高血圧、胎盤中の異常血管、およびタンパク尿を特徴とする疾病。常にではないが、妊娠糖尿病および糖尿病患者に起こることが多い。さらなる症候としては、顔、手足のむくみを招く水分貯留および体重増がある。妊娠中毒症とも呼ばれる。子癇前症は放置されると、子癇につながるおそれがある。子癇前症の唯一知られている治癒法は、子を分娩してしまうことである。
【0048】
疾病の予防または治療:疾病の「予防」とは、疾病の完全な発症を阻止することをいう。「処置」とは、疾病または病的状態が発症し始めた後に、その徴候または症候を改善する治療的介入をいう。
【0049】
精製された:この語は絶対的な純度を要求するものではない。むしろ、相対的な語として解釈される。したがって、たとえば、精製された亜硝酸塩調製物とは、特定の亜硝酸塩がその生成環境、たとえば生化学的反応チャンバー内よりも濃縮されている調製物である。好ましくは、特定の亜硝酸塩の調製物は、その亜硝酸塩が調製物中の総亜硝酸塩含量の少なくとも50%を占めるように精製されている。一部の態様では、精製された調製物は、特定の化合物、たとえば特定の亜硝酸塩を少なくとも60%、少なくとも70%、少なくとも80%、少なくとも85%、少なくとも90%、少なくとも95%またはそれを超える濃度で含有する。
【0050】
再かん流:血液供給が低下して虚血を起こした組織への血液供給の回復。再かん流は、生存可能な虚血性組織を回復させ、それによってさらなる壊死を抑制することによって梗塞または他の虚血を処置するための手法である。しかし、再かん流そのものが虚血性組織をさらに損傷し、再かん流傷害を生じさせるおそれもあると考えられている。
【0051】
対象:脊椎生物、すなわち、ヒトおよび非ヒト哺乳動物の両方を含むカテゴリーを含む、生きた多細胞生物。
【0052】
治療:診断および処置の両方を含む総称。
【0053】
[血管拡張剤]の治療有効量:処置される対象において所望の効果を達成するのに十分な化合物、たとえば亜硝酸塩の量。たとえば、対象において比較的高い血圧を処置もしくは改善する、またはある期間にわたって血圧を計測可能な程度に低下させる、または血圧の上昇を計測可能な程度に抑止するのに必要な量でありうる。
【0054】
血管拡張剤の有効量は、単一用量で投与することもできるし、いくつかの用量で、たとえば処置の過程で日毎に投与することもできる。しかし、有効量は、適用される化合物、処置を受ける対象、病気の重篤度およびタイプ、ならびに化合物の投与法に依存する。たとえば、有効成分の治療有効量は、効果を生じさせる、血液中(インビボ)または緩衝剤中(インビトロ)の有効成分(たとえば薬学的に許容される亜硝酸塩)の濃度(1リットルあたりのモル数またはモル濃度M)で計測されうる。
【0055】
例として、本明細書に記載するように、ここで、薬学的に許容される亜硝酸塩(たとえば亜硝酸ナトリウム)が、対象の循環血中で約0.6〜約200μMの最終濃度の計算用量で血管拡張剤として有効であることが示されており、このレベルは経験的または計算によって測定することができる。特定のレベルには、たとえば、単一用量またはある期間にわたって提供される用量で約200mg以下の亜硝酸塩を提供することによって(たとえば注入または吸入によって)達することができる。たとえば、他の用量は、150 mg、100 mg、75 mg、50 mgまたはそれ未満であることもできる。本明細書では亜硝酸塩の用量の具体例が提供されるが、これらの例は限定的であることを意図しない。正確な用量は、処置される対象のサイズ、処置の期間、投与形態などによって異なる。
【0056】
血管拡張剤、たとえば薬学的に許容される亜硝酸塩(たとえば亜硝酸ナトリウム)の特に有益な治療有効量は、血管拡張または血流の増大に有効な量であるが、血管拡張剤が投与される対象中で有意なレベルまたは毒性レベルのメトヘモグロビンが生成されるほど高くはない。具体的な態様では、たとえば、対象中で約25%以下のメトヘモグロビンしか生成されない。より好ましくは、血管拡張剤での処置に応答して、20%以下、15%以下、10%以下、8%以下またはそれ未満のメトヘモグロビン、たとえば5%または3%またはそれ未満のメトヘモグロビンしか生成されない。
【0057】
本明細書で論じる化合物は、医学および獣医学の状況で等しく適用される。したがって、総称「処置される対象」とは、血圧の異常、たとえば高血圧症に病んでいる、または病んでいるおそれのあるすべての動物(たとえばヒト、類人猿、実験動物、愛玩動物など)を含むものと理解される。
【0058】
血管狭窄:血管の口径または断面積の減少、たとえば身体部分への血流の低下につながる細動脈の狭窄。これは、特定の血管狭窄剤、すなわち血管の狭窄を直接的または間接的に生じさせる薬剤(たとえば化学物質または生化学的化合物)によって生じることがある。このような薬剤はまた、血管緊張剤と呼ばれることもあり、血管狭窄活性を有するといわれる。血管狭窄剤の代表的なカテゴリーは、毛細血管および動脈の筋組織の収縮を刺激する薬剤をさして一般に使用される、昇圧剤(「昇圧」という語から、血圧を高める傾向を有する)である。
【0059】
血管狭窄はまた、血管痙攣、不十分な血管拡張、血管壁の肥厚化、または内壁面もしくは壁そのものの中の流れを制限する物質の蓄積によって起こりうる。血管狭窄は、加齢、ならびにとりわけ進行性全身性アテローム発生、心筋梗塞、脳卒中、高血圧症、緑内障、黄斑変性症、片頭痛、高血圧症および糖尿病をはじめとする様々な臨床状態における、主要な推定要因または立証済みの要因である。
【0060】
血管拡張:血管の口径が増大した状態または血管を拡張する行為、たとえば身体部分への血流の増大につながる細動脈の拡張。これは、特定の血管拡張剤、すなわち血管の拡張を直接的または間接的に生じさせる薬剤(たとえば化学物質または生化学的化合物)によって生じうる。このような薬剤はまた、血管弛緩剤とも呼ばれることがあり、血管拡張活性を有するといわれる。
【0061】
血管痙攣:脳卒中のもう一つの原因は、脳に供給する血管の痙攣に続発して起こる。このタイプの脳卒中は通常、くも膜下動脈瘤出血に続いて起こり、出血事象から2〜3週以内に血管痙攣の遅延発症を伴う。類似したタイプの脳卒中は、鎌状赤血球病を併発するおそれがある。
【0062】
特に断りがない限り、本明細書で使用するすべての技術用語および科学用語は、本発明が属する技術分野の当業者によって一般に理解されるものと同じ意味を有する。単数形の語は、文脈により明らかに示されていない限り、複数の指示対象も包含する。同様に、「または」という語は、文脈により明らかに示されていない限り、「および」も含むと解釈される。したがって、「AまたはBを含む」とは、AもしくはB、またはAおよびBを含むことを意味する。さらには、核酸またはポリペプチドに関して記す、すべての塩基サイズまたはアミノ酸サイズ、およびすべての分子量または分子質量の値は概算値であり、説明のために提供されていることが理解されるべきである。本明細書に記載されたものと類似の、または同等な方法および材料を本発明の実施または試験に使用することができるが、適当な方法および材料を以下に記す。本明細書で言及するすべての刊行物、特許出願、特許、および他の参考文献は、全体が参照として本明細書に組み入れられる。矛盾がある場合、用語の説明を含めて本明細書が優先する。加えて、材料、方法、および例は例示目的に過ぎず、限定的であることを意図しない。
【0063】
III.いくつかの態様の概説
驚くべきことに、薬学的に許容される亜硝酸塩の投与が心臓血管系の調整に有用であるということが見出された。また、驚くべきことに、亜硝酸塩がインビボで一酸化窒素に還元され、それによって生成される一酸化窒素が有効な血管拡張剤であるということが見出された。これらの効果は、驚くべきことに、臨床的に有意なメトヘモグロビン血症を生じさせない用量で発揮される。これらの発見により、心臓血管系に関連する状態、たとえば高血圧、肺高血圧症、脳血管痙攣および組織虚血-再かん流傷害を予防し、処置する方法がここで可能となる。これらの発見はまた、組織、たとえば低酸素圧領域の組織への血流を増大させる方法を提供する。亜硝酸塩が、心臓血管系を調整する効果を示すために、より具体的にはインビボで血管拡張剤として作用するために、酸性化状態で適用されなくてもよいということは特に驚くべきことである。
【0064】
したがって、本開示は、一つの態様において、対象の血圧を下げる方法であって、対象に対し、毎分約36μmol以下の亜硝酸ナトリウムを前腕上腕動脈または静脈内に投与することを含む方法を提供する。
【0065】
本開示はまた、対象の血圧を下げる方法であって、薬学的に許容される亜硝酸塩の有効量を対象に投与して、対象の血圧を下げる(または低くする、または減少させる)ことを含む方法を提供する。もう一つの態様は、高血圧に関連する状態を有する対象を処置する方法であって、薬学的に許容される亜硝酸塩の有効量を対象に投与して、高血圧に関連する少なくとも一つの血管性合併症を処置することを含む方法である。同じく提供されるものは、溶血性状態を有する対象を処置する方法であって、薬学的に許容される亜硝酸塩の有効量を対象に投与して、溶血性状態に関連する少なくとも一つの血管性合併症を処置することを含む方法である。
【0066】
本開示はさらに、対象の組織への血流を増大させる方法であって、薬学的に許容される亜硝酸塩の有効量を対象に投与して、対象の組織への血流を増大させることを含む方法を提供する。同じく提供されるものは、対象の血圧を下げるのに有効な量のNOを対象中で生成する方法であって、薬学的に許容される亜硝酸塩を対象に投与することを含む方法である。
【0067】
本開示はさらに、薬学的に許容される亜硝酸塩の有効量および担体を含む薬学的組成物を提供する。
【0068】
一部の態様では、血管性合併症は、肺高血圧症(新生児肺高血圧症、原発性肺高血圧症、および続発性肺高血圧症を含む)、全身性高血圧症、皮膚潰瘍、急性腎不全、慢性腎不全、血管内血栓、虚血性中枢神経系事象、および死からなる群より選択される一つまたは複数である。
【0069】
一部の態様では、亜硝酸塩は、肺高血圧症を処置するために新生児に投与される。
【0070】
一部の態様では、溶血性状態は、鎌状赤血球貧血、サラセミア、ヘモグロビンC症、ヘモグロビンSC症、鎌状赤血球サラセミア、遺伝性球状赤血球症、遺伝性楕円赤血球症、遺伝性オーバルサイトーシス、グルコース-6-リン酸欠乏症および他の赤血球酵素欠乏症、発作性夜間ヘモグロビン尿症(PNH)、発作性寒冷ヘモグロビン尿症(PCH)、血栓性血小板減少性紫斑病/溶血性尿毒性症候群(TTP/HUS)、特発性自己免疫性溶血性貧血、薬物誘発免疫溶血性貧血、続発性免疫溶血性貧血、化学的または物理的因子によって生じる非免疫溶血性貧血、マラリア、熱帯熱マラリア、バルトネラ症、バベシア病、クロストリジウム感染症、重度ヘモフィルスインフルエンザタイプb感染症、広範な熱傷、輸血副作用、横紋筋融解症(ミオグロブリン血症)、高齢血(aged blood)の輸血、心肺バイパス、および血液透析から選択される一つまたは複数を含む。
【0071】
一部の態様では、組織への血流の低下は、以下の状態の少なくとも一つによって直接的または間接的に生じる。鎌状赤血球貧血、サラセミア、ヘモグロビンC症、ヘモグロビンSC症、鎌状赤血球サラセミア、遺伝性球状赤血球症、遺伝性楕円赤血球症、遺伝性オーバルサイトーシス、グルコース-6-リン酸欠乏症および他の赤血球酵素欠乏症、発作性夜間ヘモグロビン尿症(PNH)、発作性寒冷ヘモグロビン尿症(PCH)、血栓性血小板減少性紫斑病/溶血性尿毒性症候群(TTP/HUS)、特発性自己免疫性溶血性貧血、薬物誘発免疫溶血性貧血、続発性免疫溶血性貧血、化学的または物理的因子によって生じる非免疫溶血性貧血、マラリア、熱帯熱マラリア、バルトネラ症、バベシア病、クロストリジウム感染症、重度ヘモフィルスインフルエンザタイプb感染症、広範な熱傷、輸血副作用、横紋筋融解症(ミオグロブリン血症)、高齢血の輸血、ヘモグロビンの輸血、赤血球の輸血、心肺バイパス、冠状動脈疾患、心臓虚血症候群、狭心症、医原性溶血、血管形成、心筋虚血、組織虚血、血管内装置によって生じる溶血、血液透析、肺高血圧症、全身性高血圧症、皮膚潰瘍、急性腎不全、慢性腎不全、血管内血栓、および虚血性中枢神経系事象。
【0072】
一部の態様では、組織は虚血性組織である。一部の態様では、投与は、非経口、経口、口腔、直腸、エクスビボ、または眼内投与である。一部の態様では、投与は、腹膜内、静脈内、動脈内、皮下、吸入、または筋内投与である。一部の態様では、亜硝酸塩は、低酸素圧の環境で対象に投与されるか、比較的低い酸素圧を示す対象の身体区域で作用する。一部の態様では、亜硝酸塩は、薬学的に許容される亜硝酸塩、たとえば亜硝酸ナトリウム、亜硝酸カリウム、または亜硝酸アルギニンとして投与される。一部の態様では、亜硝酸塩は、少なくとも一つのさらなる有効薬剤と組み合わせて投与される。特定の態様では、具体的には、対象は哺乳動物、たとえばヒトであることが想定される。
【0073】
本開示はさらに、肺における高血圧に関連する状態、たとえば肺高血圧症を有する対象を処置する方法であって、薬学的に許容される亜硝酸塩の有効量を対象に投与することを含む方法を提供する。一部の態様では、新生児肺高血圧症を有する対象を処置することを含む。一部の態様では、原発性および/または続発性肺高血圧症を有する対象を処置することを含む。肺における高血圧に関連する状態を有する対象を処理するための一部の態様では、亜硝酸塩は噴霧される。
【0074】
本開示はまた、妊娠中の女性における高血圧症および/または子癇前症を処置する手段の示唆を提供する。このような療法は、胎盤内の痙攣性および患部血管に対する亜硝酸塩の作用を含むであろう。
【0075】
本開示はまた、心臓血管異常、高血圧症、および/または異常な方向への血流のある胎児を子宮内で処置するための示唆を提供する。このような手法では、亜硝酸塩は、直接的または浸透圧性ミニポンプを用いての羊膜腔への導入によって投与することができ、浸透圧性ミニポンプは、妊娠中の何日間か、および何週間かにわたって徐放を達成するために用いられる。
【0076】
このように本明細書では、対象において血管拡張を誘発および/または血流を増大させる方法であって、対象において血管拡張を誘発および/または血流を増大させるのに十分な期間、薬学的に許容される亜硝酸塩の有効量を対象に投与することを含む方法が提供される。薬学的に許容される亜硝酸塩の非限定的な例として、亜硝酸ナトリウム、亜硝酸カリウム、および亜硝酸アルギニンが挙げられる。提供される方法の例として、薬学的に許容される亜硝酸塩は、対象中のヘモグロビンの存在下で反応し、一酸化窒素を放出する。
【0077】
本明細書で提供する方法の具体的な利点は、対象に投与される薬学的に許容される亜硝酸塩の有効量が毒性レベルのメトヘモグロビンを誘発せず、多くの態様で、対象において臨床的に有意な量のメトヘモグロビンの形成を誘発しないということである。したがって、本明細書で考慮するものは、薬学的に許容される亜硝酸塩の有効量が対象に投与されると、対象において約25%以下のメトヘモグロビン、約20%以下のメトヘモグロビン、約10%以下のメトヘモグロビン、約8%以下のメトヘモグロビン、または約5%以下のメトヘモグロビンの生成を誘発する方法である。有利には、提供される方法の例は、5%未満のメトヘモグロビン、たとえば約3%以下のメトヘモグロビン、3%未満のメトヘモグロビン、2%未満のメトヘモグロビン、または1%未満のメトヘモグロビンの生成しか誘発しない。
【0078】
対象において血管拡張を誘発および/または血流を増大させる方法の一つの具体例では、亜硝酸ナトリウムを注射によって毎分約36μmolで少なくとも5分間、対象の前腕上腕動脈に投与する。
【0079】
薬学的に許容される亜硝酸塩の有効量は、様々な態様において、投与部位で局所的または対象内で全体的に計測して、対象中で約0.6〜240μMの循環濃度まで投与される。なお、亜硝酸塩の局所レベルは、特に短期送達計画では一般的な循環レベルよりも高いと予想される。長期送達計画では、たとえばポンプもしくはインジェクタを使用する送達または吸入による送達では、全システム的または全体的な亜硝酸塩レベルは、投与部位の近くで計測されるレベルに近いと予想される。
【0080】
薬学的に許容される亜硝酸塩の投与は、特定の態様では、たとえば、非経口、経口、口腔、直腸、エクスビボ、または眼内投与であることができる。様々な態様では、亜硝酸塩の投与は、腹膜内、静脈内、動脈内、皮下、吸入、筋内、または心肺バイパス回路への投与でありうることが想定される。また、二つ以上の投与経路の組み合わせも考えられる。
【0081】
対象において血管拡張を誘発および/または血流を増大させる方法の様々な態様では、対象は哺乳動物である。特に、対象はヒトでありうることが想定される。
【0082】
亜硝酸塩を少なくとも一つのさらなる薬剤と組み合わせて投与する組み合わせ療法が考えられる。非限定的な例として、さらなる薬剤は、ペニシリン、ヒドロキシ尿素、酪酸塩、クロトリマゾール、アルギニン、またはホスホジエステラーゼ阻害薬(たとえばシルデナフィル)からなるリストより選択される一つまたは複数である。
【0083】
対象において血管拡張を誘発および/または血流を増大させる方法のもう一つの態様において、対象は高血圧を有し、方法は、高血圧に関連する少なくとも一つの血管性合併症を処置する方法であり、あるいは、対象は溶血性状態を有し、方法は、溶血性状態に関連する少なくとも一つの血管性合併症を処置する方法である。場合によっては、対象は高血圧および溶血性状態の両方を有することもある。
【0084】
本明細書で提供する方法の例では、少なくとも一つの血管性合併症は、肺高血圧症、全身性高血圧症、末梢血管疾患、外傷、心停止、一般的な手術、臓器移植、皮膚潰瘍、急性腎不全、慢性腎不全、血管内血栓、狭心症、虚血-再かん流事象、虚血性中枢神経系事象、および死からなる群より選択される一つまたは複数である。
【0085】
対象が溶血性状態を有する場合の方法の例では、溶血性状態は、鎌状赤血球貧血、サラセミア、ヘモグロビンC症、ヘモグロビンSC症、鎌状赤血球サラセミア、遺伝性球状赤血球症、遺伝性楕円赤血球症、遺伝性オーバルサイトーシス、グルコース-6-リン酸欠乏症および他の赤血球酵素欠乏症、発作性夜間ヘモグロビン尿症(PNH)、発作性寒冷ヘモグロビン尿症(PCH)、血栓性血小板減少性紫斑病/溶血性尿毒性症候群(TTP/HUS)、特発性自己免疫性溶血性貧血、薬物誘発免疫溶血性貧血、続発性免疫溶血性貧血、化学的または物理的因子によって生じる非免疫溶血性貧血、マラリア、熱帯熱マラリア、バルトネラ症、バベシア病、クロストリジウム感染症、重度ヘモフィルスインフルエンザタイプb感染症、広範な熱傷、輸血副作用、横紋筋融解症(ミオグロブリン血症)、高齢血の輸血、ヘモグロビンの輸血、赤血球の輸血、心肺バイパス、冠状動脈疾患、心臓虚血症候群、狭心症、医原性溶血、血管形成、心筋虚血、組織虚血、血管内装置によって生じる溶血、および血液透析からなる群より選択される一つまたは複数である。
【0086】
対象において血管拡張を誘発および/または血流を増大させる方法のさらに別の態様では、対象は、組織への血流の低下に関連する状態を有し、方法は、対象の組織への血流を増大させる方法である。たとえば、この方法の例では、組織への血流の低下は、鎌状赤血球貧血、サラセミア、ヘモグロビンC症、ヘモグロビンSC症、鎌状赤血球サラセミア、遺伝性球状赤血球症、遺伝性楕円赤血球症、遺伝性オーバルサイトーシス、グルコース-6-リン酸欠乏症および他の赤血球酵素欠乏症、発作性夜間ヘモグロビン尿症(PNH)、発作性寒冷ヘモグロビン尿症(PCH)、血栓性血小板減少性紫斑病/溶血性尿毒性症候群(TTP/HUS)、特発性自己免疫性溶血性貧血、薬物誘発免疫溶血性貧血、続発性免疫溶血性貧血、化学的または物理的因子によって生じる非免疫溶血性貧血、マラリア、熱帯熱マラリア、バルトネラ症、バベシア病、クロストリジウム感染症、重度ヘモフィルスインフルエンザタイプb感染症、広範な熱傷、輸血副作用、横紋筋融解症(ミオグロブリン血症)、高齢血の輸血、ヘモグロビンの輸血、赤血球の輸血、心肺バイパス、冠状動脈疾患、心臓虚血症候群、狭心症、医原性溶血、血管形成、心筋虚血、組織虚血、血管内装置によって生じる溶血、血液透析、肺高血圧症、全身性高血圧症、皮膚潰瘍、急性腎不全、慢性腎不全、血管内血栓、および虚血性中枢神経系事象からなる群より選択される少なくとも一つの状態によって直接的または間接的に生じる。
【0087】
この方法の例では、具体的には、組織は、虚血性組織、たとえば神経細胞組織、腸組織、腸管組織、四肢組織、肺組織、中枢神経組織、または心組織からなる群より選択される一つまたは複数の組織であることが想定される。
【0088】
同じく提供されるものは、高血圧を有する対象において血管拡張を誘発および/または血流を増大させる方法であって、高血圧が肺における高血圧を含む方法である。例として、このような対象は場合によっては、新生児肺高血圧症、または原発性および/もしくは続発性肺高血圧症を有することが想定される。
【0089】
対象における高血圧または血流を増大させる必要性が、肺における高血圧または血流を増大させる必要性を含む態様の例では、薬学的に許容される亜硝酸塩は噴霧される。
【0090】
例として、様々な態様において、薬学的に許容される亜硝酸塩は、対象中で約100μM以下、約50μM以下、約20μM以下、約16μM以下、または約16μM未満の循環濃度まで投与される。
【0091】
もう一つの態様は、対象において血圧を低下および/または血管拡張を増大させることによって、対象における (a) 肝臓または心臓または脳の虚血-再かん流傷害、(b) 肺高血圧症、または (c) 脳動脈痙攣、から選択される状態を処置または改善する方法であって、亜硝酸ナトリウムを対象に投与して対象において血圧を低下および/または血管拡張を増大させ、それによって状態を処置または改善することを含む方法である。
【0092】
この態様の具体例では、方法は、肝臓または心臓または脳の虚血-再かん流傷害を処置または改善する方法である。場合によっては、亜硝酸ナトリウムは、注射、たとえば静脈注射によって対象に投与される。特定の例では、亜硝酸ナトリウムは、約0.6〜240μMの循環濃度まで投与される。
【0093】
この態様の他の具体例では、方法は、肺高血圧症、たとえば新生児肺高血圧症を処置または改善する方法である。有利には、このような方法において、亜硝酸ナトリウムは、吸入によって対象に投与することができ、たとえば噴霧することができる。場合によっては、これらの方法のうち任意のものにおいて、亜硝酸ナトリウムは270μmol/minの速度で投与されるが、他の速度および循環レベルが考慮される。
【0094】
この態様の他の例で同じく提供されるものは、脳動脈痙攣を処置または改善する方法である。場合によっては、亜硝酸ナトリウムは、注射、たとえば静脈注射によって対象に投与される。このような方法の例では、亜硝酸ナトリウムは、約45〜60 mg/kgの割合で投与される。
【0095】
前記方法の例では、場合によっては、亜硝酸ナトリウムは、少なくとも一つのさらなる薬剤と組み合わせて投与されうる。
【0096】
前記方法のいずれにおいても、対象は哺乳動物であってよく、たとえばヒトでありうることが考慮される。
【0097】
IV.インビボ血管拡張剤としての亜硝酸ナトリウム
亜硝酸アニオンは、血漿中で約150〜1000 nMの濃度、大動脈組織中で約10μMの濃度で存在する。亜硝酸塩をNOに還元するための生理学的機序が存在するとすると、これは一酸化窒素(NO)の最大血管プールに相当する。ヒト前腕における亜硝酸塩の血管拡張特性およびその生体活性化のために現存する機序が調査され、結果が本明細書で報告されている。亜硝酸ナトリウムを毎分約36μmolで健常なボランティア18名の前腕上腕動脈に注入すると、安静時の前腕血流中に約222μMの局所亜硝酸塩濃度および約175%の即座の増大が得られた。血流の増大は、安静時、NO合成酵素阻害中および運動時に認められ、静脈ヘモグロビン酸素飽和度、酸素分圧、およびpHの増大によって実証されるように、組織かん流の増大を生じさせた。亜硝酸塩の全身濃度は約16μMに増大し、平均動脈血圧を有意に低下させた。さらに6名の対象で、亜硝酸塩用量を約2対数減らし、毎分360 nmolで注入すると、約2μMの前腕亜硝酸塩濃度および約22%の血流増が生じた。
【0098】
亜硝酸塩注入は、前腕血管系にかけて、赤血球鉄-ニトロシル-ヘモグロビンの形成と関連し、程度は低めであるが、S-ニトロソ-ヘモグロビンの形成とも関連していた。NO修飾ヘモグロビンの形成は、デオキシヘモグロビンの亜硝酸塩還元酵素活性から生じるようであり、組織低酸素症と亜硝酸塩生体活性化とをリンクさせる。
【0099】
これらの結果は、血液および組織亜硝酸塩の生理学的レベルが血管調節に寄与し、血管亜硝酸塩と脱酸素化ヘムタンパク質との反応を介して低酸素血管拡張の機序を提供する生物学的に利用可能な主要なNOプールに相当するということを示す。健常なヒト対象の上腕動脈への亜硝酸塩注入の実質的な血流効果は、約0.9μMという低い前腕亜硝酸塩濃度から生じる。
【0100】
例として、本明細書に記載するように、薬学的に許容される亜硝酸塩(たとえば亜硝酸ナトリウム)が、対象の循環血中で約0.6〜約200μMの最終亜硝酸塩濃度の計算用量で、血管拡張剤として有効であることがここで示される。たとえば、単一用量またはある期間にわたって提供される用量(たとえば注入または吸入によって)で約200mg以下の亜硝酸塩を提供することにより、特定の循環レベル(対象中で局所的または全身的)を実現することができる。たとえば、他の用量は、150 mg、100 mg、75 mg、50 mgまたはそれ未満であってもよい。亜硝酸塩の具体的な用量の例が本明細書で提供されるが、それらの例は限定的であることを意図しない。正確な用量は、処置される対象のサイズ、処置の期間、投与形態などによって異なる。
【0101】
所与の目標循環濃度が望まれる場合の注入速度は、以下の式を使用することによって計算することができる。
注入速度(μM/min)=目標濃度(μmol/L、すなわちμM)×除去率(L/min)
ただし、除去率(L/min)=0.015922087×対象の体重(kg)↑0.8354
【0102】
除去率は、本明細書で報告するものを含め、経験的結果に基づいて計算したものである。
【0103】
たとえば、亜硝酸ナトリウムが毎分36マイクロモル(μMol)でヒト前腕に注入される場合、15分間の注入ののち、前腕から得られる計測濃度は約222μMであり、全身では約16μMである。哺乳動物中で循環する亜硝酸塩のバックグラウンドレベルは低く、約150〜500ナノMである。
【0104】
薬学的に許容される亜硝酸塩(たとえば亜硝酸ナトリウム)のような血管拡張剤の特に有利な治療有効量は、血管拡張または血流の増大に有効な量であるが、血管拡張剤が投与される対象中で有意なレベルまたは毒性レベルのメトヘモグロビンが生成されるほど高くはない。具体的な態様では、たとえば、対象中で約25%以下のメトヘモグロビンしか生成されない。より好ましくは、血管拡張剤での処置に応答して、20%以下、15%以下、10%以下、8%以下またはそれ未満のメトヘモグロビン、たとえば5%または3%またはそれ未満のメトヘモグロビンしか生成されない。
【0105】
具体例として、亜硝酸塩は、毎分40μMol未満の濃度で静脈内または動脈内に注入することもできるし、経口的に与えることもできる。重要なことに、用量は、臨床的に有意なメトヘモグロビン血症を誘発するように設計されているシアン化物中毒の処置に使用される量よりも少ない。驚くべきことに、心臓血管状態の処置/予防のために本明細書で記載される用量は、臨床的に有意なメトヘモグロビン生成なしで、有意で有益な臨床効果を発揮する。
【0106】
狭心症をはじめとする障害を処置するために、比較的複雑な無機/有機亜硝酸化合物および硝酸化合物が臨床的に使用されてきた。これらの薬物(たとえばグリセリルトリニトレート)は耐性の問題をかかえる(同じ効果を維持するためには用量を増やさなければならない)が、亜硝酸塩とは明らかに異なる血管拡張剤である。たとえば、前者は、代謝のための細胞チオールを要するが、本明細書で論じる亜硝酸イオンまたは亜硝酸塩(たとえば亜硝酸ナトリウム)は要しない。
【0107】
V.鉄-ニトロシルおよびS-ニトロソ-ヘモグロビンのインビボ形成の機序
この実験でインビボで形成される鉄-ニトロシル-およびS-ニトロソ-ヘモグロビンのレベルは特筆すべきである。注入された亜硝酸塩(局所濃度200μM)は、運動時に前腕を循環する10秒未満の通過時間中、約750nMの鉄-ニトロシル-ヘモグロビンおよび200nMのSNO-Hbを生成した。両NO-ヘモグロビンアダクトの形成は、ヘモグロビン酸素飽和度と逆相関していた。ヘモグロビン酸素飽和度は、コオキシメトリー(co-oxymetry)による肘窩静脈からの計測によると、運動ストレス下で低下していた(鉄-ニトロシル-ヘモグロビンの場合、r=-0.7、P<0.0001、S-ニトロソ-ヘモグロビンの場合、r=-0.45、P=0.04、図4B)。異なる酸素圧(0〜100%)での全血への200μM亜硝酸塩の添加がインビボデータを再現し、低めの酸素圧で増大する濃度の鉄-ニトロシルヘモグロビンが形成され(鉄-ニトロシル-ヘモグロビンの場合、r=-0.968、P<0.0001、S-ニトロソ-ヘモグロビンの場合、r=-0.45、P=0.07)、NOおよびSNO形成が亜硝酸塩とデオキシヘモグロビンとの反応に依存するということを強く示唆した。
【0108】
これらのデータは、NOおよび鉄-ニトロシル-ヘモグロビンを形成する亜硝酸塩とデオキシヘモグロビンとの反応と一貫している(Doyle et al., J Biol Chem, 256, 12393-12398, 1981)。まず、亜硝酸塩が還元されて、2.9M-1sec-1の速度定数(25℃、pH7.0で計測)でNOおよびメトヘモグロビンを形成する。この反応は、赤血球内ヘモグロビンの量(20mM)によって支配され、赤血球膜による亜硝酸塩取り込みの速度によって制限される擬一次反応(pseudo-first order)である。次に、NOがデオキシヘモグロビンと結合して鉄-ニトロシル-ヘモグロビンを形成して赤血球から脱出し、または他の高級酸化物、たとえばNO2と反応してN2O3およびS-ニトロソ-ヘモグロビンを形成する。
【0109】
式列1
NO2-(亜硝酸塩)+HbFeII(デオキシヘモグロビン)+H+→HbFeIII(メトヘモグロビン)+NO+OH-
NO+HbFeII(デオキシヘモグロビン)→HbFeIINO(鉄-ニトロシル-ヘモグロビン)
【0110】
また、亜硝酸塩注入中にインビボで有意量のS-ニトロソ-ヘモグロビンの形成が認められた。Luschingerら(Proc Natl Acad Sci USA, 100, 461-6, 2003)は最近、亜硝酸塩がデオキシヘモグロビンと反応して鉄-ニトロシル-ヘモグロビンを形成し、続いてNOがシステイン93に「移行」して、ヘモグロビンの再酸素化および第四級T型-R型転位によって媒介されてS-ニトロソ-ヘモグロビンを形成すると提唱した。しかし、ヘムからチオールへのNOの直接移行はNO+へのNO酸化を要し、そのような「循環」は他の研究グループによって再現されていない。Fernandezらは最近、亜硝酸塩が、NOによるメトヘモグロビンの還元ニトロシル化、すなわち、中間体ニトロソ化種、三酸化二窒素(N2O3)を生成する過程を触媒することを示唆した(Inorg Chem, 42, 2-4, 2003)。しかし、ヘモグロビンとの亜硝酸塩の反応は、亜硝酸塩がデオキシヘモグロビンと反応してNOを形成し、オキシヘモグロビンと反応して二酸化窒素(NO2)ラジカルを形成するので、酸素勾配に沿ってNOおよびS-ニトロソチオールを生成するための理想的な条件を提供する。NO2は、NOとのラジカル-ラジカル反応(k=109M-1sec-1)に関与してN2O3およびS-ニトロソチオールを形成する。亜硝酸塩とヘモグロビンとのさらなる化学反応は、反応性酸素代謝産物を生成する(たとえばスーパーオキシドおよび過酸化水素;Watanabe et al., Acta Med Okayama 35, 173-8, 1981; Kosaka et al., Biochim Biophys Acta 702, 237-41, 1982; and Kosaka et al., Environ Health Perspect 73, 147-51, 1987)。このようなNOラジカル-酸素ラジカル反応に関与する化学作用は、ヘモグロビンのような高親和性NOシンクの存在下におけるS-ニトロソチオール形成の競争力の高い経路を提供する。
【0111】
VI. 生理学的考察
過去10年に、一酸化窒素(NO)が血管ホメオスタシスにおいて演じる決定的な役割について理解の深まりが見られた。NOの生成とNOの掃去との間のバランスがNOの生物学的利用能を決定し、このバランスは、正常な生理状態では注意深く維持されている。恒常性血管調整系は、局所強直性血管拡張に必要な十分な局所NOを考慮しながらも過剰なNOを掃去して総エンドクリン作用を制限するように微調整されていることは明白である。しかし、無細胞ヘモグロビンによる急速なNO掃去がこのバランスを乱す(Reiter et al., Nat Med 8, 1383-1389, 2002)。正常な生理学的状態では、ヘモグロビンは、ヘモグロビン掃去系によって速やかかつ効果的に除去される。しかし、鎌状赤血球病のような慢性的な溶血性状態は、結果的に、実質的な量のヘモグロビンを日々血管系中に放出させ、無細胞ヘモグロビンがNOの生物学的利用能に対して重大な全身性の影響を及ぼしうることが示唆される。現在の研究の焦点は、多くの慢性溶血性状態、たとえば肺高血圧症、皮膚潰瘍ならびに急性および慢性の腎不全に共通の血管性合併症を説明し、処置することを試みている。同様に、多数の臨床的疾患および治療、たとえば急性溶血発作、心肺バイパス処置中の溶血、高齢血の輸血、および筋梗塞後のミオグロビン尿症は、多くの場合、急性の肺および全身性高血圧症、急性腎不全、血管内血栓、虚血性中枢神経事象および/または死を併発する。
【0112】
亜硝酸塩が、デオキシヘモグロビンによる亜硝酸塩のNOへの還元に伴って、ヒトにおいて血管拡張を生じさせることが本明細書で実証される。注目すべきことに、16μMの全身レベルが全身性血管拡張および血圧低下を生じさせ、わずか1〜2μMの局所前腕レベルが安静時および運動ストレス下で血流を有意に増大させた。さらに、NOおよびS-ニトロソチオールへの亜硝酸塩の転換は、デオキシヘモグロビンとの反応によって媒介され、赤血球または内皮/組織ヘムタンパク質による低酸素症調整触媒NO生成の機序を提供した。赤血球中の高濃度ヘモグロビンが、NOとヘモグロビンとの近拡散制限反応速度(〜107M-1s-1)と合わせて、NOが赤血球から排出されるのを抑制するようであるが、本明細書で提示するデータはこれに反論する。限定的であることを意図しないが、おそらくは赤血球膜の独自の特性が、膜直下タンパク質およびメトヘモグロビンに富む微小環境ならびにNOの相対的な親油性とともに、赤血球膜での区画化NO生成を可能にする。これが、血管拡張に必要なNOの産量が少ないことと合わせて、これらの動態学的制約にもかかわらずNOの排出を説明づけることができる。さらには、デオキシヘモグロビンおよびメトヘモグロビンとの反応によって亜硝酸塩をNOおよびS-ニトロソチオールに転換するためのインビボ化学が、赤血球または内皮組織ヘムタンパク質による低酸素症調整触媒NO生成の機序を提供することが提唱される。
【0113】
三つの要因が、S-ニトロソチオールではなく亜硝酸塩をNOの主要な血管プールとして独自に位置づける。1)亜硝酸塩は、血漿、赤血球および組織中に実質的な濃度で存在する(Rodriguez et al., Proc Natl Acad Sci USA 100: 336-341, 2003)。2)亜硝酸塩は、S-ニトロソチオールのように細胞内還元剤によって容易に還元されないため、比較的安定であり(Gladwin et al., J Biol Chem 21:21, 2002)、ヘムタンパク質との反応速度は、真のNOの10,000倍低い。3)亜硝酸塩は、デオキシヘモグロビン(またはおそらくはデオキシ-ミオグロビン、-サイトグロビン、および-ニューログロビン)との反応によってのみNOに転換され、その「脱離基」は、NOを掃去せず、不活性化しないメト(三価鉄)ヘムタンパク質である(Doyle et al., J Biol Chem 256, 12393-12398, 1981)。したがってこのプールは、低酸素症の際にNO生成の理想的な基質を提供し、低酸素血管拡張のための新規な機序を提供する。
【0114】
デオキシヘモグロビン-亜硝酸塩還元酵素系は脱酸素血中でNO形成を生じさせ、このような系はヘモグロビン酸素化状態をNO生成とリンクさせる。これは、以前にはS-ニトロソ-ヘモグロビンに起因するとされていた原理である(Jia et al., Nature 380: 221-226, 1996)。ヘモグロビンは、亜硝酸塩を保持するアニオン性結合キャビティを有し(Gladwin et al., J Biol Chem 21: 21, 2002)、亜硝酸塩は、アニオン交換タンパク質(AE1またはBand 3)を介して、または亜硝酸として膜を介して、赤血球に取り込まれる(組織低酸素症の際に亜硝酸塩取り込みを促進するpH依存性過程(Shingles et al., J Bioenerg Biomembr 29: 611-616, 1997; May et al., Am I Physiol Cell Physiol 279: C1946-1954, 2000)。このような亜硝酸塩は、低酸素血管領域で優先的に起こるであろうNO、NO2およびS-ニトロソチオール生成の定常的な供給源を提供するであろう。AE1タンパク質はデオキシヘモグロビンおよびメトヘモグロビンの両方に結合し、亜硝酸塩をチャネリングすることができるため、触媒NOおよびS-ニトロソチオール生成を赤血球膜に限局化するように作用することができ、その赤血球膜で、比較的親油性のNO、NO2およびN2O3が、隣接する脂質二分子層で反応することができる(図5)。赤血球膜は、乱れのない外側拡散バリヤおよび内側のメトヘモグロビンに富むタンパク質マトリックスによって裏打ちされており、それがそのようなNOおよびNO2化学反応をさらに促進する可能性がある(Coin et al., J Biol Chem 254: 1178-1190, 1979; Liu et al., J Biol Chem 273: 18709-18713, 1998; Han et al., Proc Natl Acad Sci USA 99: 7763-7768, 2002)。
【0115】
このモデルは、脱酸素化赤血球をNO溶液(有意量、つまり50μMを超える混入亜硝酸塩を含有する。Fernandez, et al. Inorg Chem 42: 2-4, 2003)で処置したのちに、ヘモグロビンおよびAE1のS-ニトロソ化が赤血球膜中で起こることを示すPawloskiらのインビトロ観察(Pawloski et al., Nature 409: 622-626, 2001)と合致している。さらに、膜で生成されたN2O3は、豊富な赤血球内グルタチオンを直接ニトロソ化して、S-ニトロソ-ヘモグロビンとのトランスニトロソ化反応の必要性を除き、それによって、赤血球膜を透過する単純な拡散によって低分子量S-ニトロソチオールの急速な排出を促進することができる(図5)。亜硝酸塩-ヘモグロビン化学反応は、酸素依存性NOホメオスタシスにおける赤血球の役割を支え、溶液中の高濃度のNOまたはNOガスもしくはドナー(高濃度の亜硝酸塩と平衡している)への暴露によってNOを「添加」されている赤血球および血漿がNOを排出し、インビトロおよびインビボで血管拡張を誘発することができるという多数の研究グループの観察の機序を提供する(Rassaf et al., J Clin Invest 109: 1241-1248, 2002: Fox-Robichaud et al., J Glitz Invest 101:2497-2505, 1998; McMahon et al., Nat Med 3:3, 2002; Cannon et al., J Clin Invest 108:279-287, 2001; Gladwin et al., J Biol Chem 21:21, 2002; Gladwin et al., Circulation 107:271-278, 2003; Schechter et al., N Engl J Med 348:1483-1485, 2003)。
【0116】
亜硝酸塩とデオキシヘモグロビンとの反応に加えて、デオキシ-ミオグロビン、-サイトグロビン、および-ニューログロビン、または他の内皮細胞ヘムタンパク質との反応もまた重要である可能性がある。このような化学反応は、血管および骨格筋中、組織亜硝酸塩とデオキシ-ミオグロビンとの間で起こり、それにより、NOドナーの低酸素血管拡張および低酸素増強作用に寄与する。これらのグロビンモノマーのP50は約3〜5mmHgであり、運動のような代謝ストレス下、その平衡脱酸素化点を組織pO2の範囲(0〜10mmHg)内に配する。このような低い酸素圧は、NO合成のための基質としての酸素利用能を減らすが、組織貯留亜硝酸塩をNOおよび5-ニトロソチオールに還元して、臨界血管拡張を維持することもできうる。
【0117】
VII.使用方法
亜硝酸塩の治療用途は今や、対象に、特に対象における低酸素血性および虚血性組織に対して選択的血管拡張を提供するために使用することができ、溶血中に放出される遊離ヘモグロビンがNOを掃去し、NO依存性血管機能を乱す鎌状赤血球病のような溶血性状態を処置するのに有用であろう。亜硝酸塩は、遊離ヘモグロビンをメトヘモグロビンに酸化させることによってNOを掃去する遊離ヘモグロビンの能力を阻害することだけでなく、低酸素圧の組織床中でNOを生成することも予想される。したがって、適用された亜硝酸塩は、低酸素圧区域で優先的に一酸化窒素を放出し、局所的血管拡張および/または血流増大を提供する。
【0118】
亜硝酸塩は、対象に投与されると、対象の組織への血流を増大させ、たとえば組織、たとえば低酸素圧組織への血流を増大させ;血管拡張を生じさせ;対象の血圧を下げ;高血圧に関連する状態を有する対象を処置し;溶血性状態を処置し;溶血を生じさせる処置または状態に関連する血管性合併症を処置し;肺高血圧症、脳血管痙攣、または器官への低い血流(たとえば脳、心臓、腎臓、胎盤、および肝臓をはじめとする器官への虚血-再かん流傷害)を処置したり;および/または移植の前後の器官を処置することができる。
【0119】
亜硝酸塩はインビボで血管拡張性を有する
亜硝酸塩の血管拡張性およびその生体活性化の機序を、本明細書に記載するように調査した。亜硝酸ナトリウムを毎分36μmolで健常なボランティア18名の前腕上腕動脈に注入すると、222μMの局所亜硝酸塩濃度、驚くことに安静中の前腕血流の175%の増大が生じた。血流の増大は、安静時、NO合成酵素阻害中および運動中で認められた。亜硝酸塩注入はまた驚くことに、静脈ヘモグロビン酸素飽和度、酸素分圧、およびpHの増大によって実証されるように、組織かん流の増大を生じさせた。亜硝酸塩の増大した全身濃度(16μM)は、平均動脈血圧を有意に低下させた。
【0120】
さらに10名の対象で亜硝酸塩の用量を2対数減らすと、安静時で2μMおよび運動中で0.9μMの前腕亜硝酸塩濃度が得られた(図3)。これらの亜硝酸塩濃度は驚くことに、運動時および運動なしで、安静時およびNO合成酵素阻害中で血流を有意に増大させた。
【0121】
亜硝酸塩注入は、前腕血管系にかけて、赤血球鉄-ニトロシル-ヘモグロビンの速やかな形成に関連し、より低い程度であるが、S-ニトロソ-ヘモグロビンの速やかな形成にも関連していた。これらのNO-Hbアダクトの形成は、オキシヘモグロビン飽和度と反比例していた。さらに、ラット大動脈環の血管拡張ならびにデオキシヘモグロビンおよび脱酸素赤血球の亜硝酸塩還元酵素活性からのNOガスおよびNO修飾ヘモグロビンの形成が観察され、これは、組織低酸素症、ヘモグロビンアロステリズム、および亜硝酸塩生体活性化をリンクさせる結果である。これらの結果は、血液および組織亜硝酸塩の生理学的レベルが、血管調整に寄与するNOの主要な生物学的に利用可能なプールであることを示し、組織および/または赤血球中の血管亜硝酸塩と脱酸素ヘムタンパク質との反応による低酸素血管拡張の機序を提供する。
【0122】
これまでに公表されている報告は、亜硝酸塩の薬理学的濃度(約100〜200μM未満)は対象に投与された場合、本来の血管拡張性を欠くと当業者に教示しているため(Lauer et al., Proc Natl Acad Sci USA, 98:12814-9, 2001)、亜硝酸塩の投与が血圧を下げ、血流を増大させるという本明細書で記載する発見は予想外かつ驚くべきことである。
【0123】
また、薬学的に許容される亜硝酸塩は、鎌状赤血球病のような溶血性疾患の患者に注入されると、血流を改善し、虚血-再かん流組織傷害を制限し、無細胞血漿Hbを酸化させることができると考えられる。これらの効果は、鎌状赤血球血管閉塞性疼痛発作、脳卒中(脳虚血)および急性胸部症候群の処置に有用であるはずである。
【0124】
心臓および肝臓の虚血-再かん流中の亜硝酸塩の細胞保護効果
亜硝酸アニオン(NO2-)は一酸化窒素(NO)酸化の結果として形成し、血漿中で0.3〜1.0μMの濃度、組織中で1〜20μMの濃度で存在する(Gladwin et al., Proc Natl Acad Sci USA 97: 11482-11487, 2000; Rodriguez et al., Proc Natl Acad Sci USA 100: 336-341, 2003; Rassaf et al., Nat Med 9:481-483, 2003; Bryan et al., Proc Natl Acad Sci USA., 2004; Gladwin et al., J Clin Invest 113:19-21, 2004)。亜硝酸塩は、歴史的に、固有の生物学的活性が限られた不活性代謝最終産物であると考えられてきた(Lauer et al., Proc Natl Acad Sci USA 98:12814-12819, 2001; McMahon, N Engl J Med 349:402-405; 著者返答402-405, 2003; Pawloski, N Engl J Med 349:402-405; 著者返答402-405, 2003)。我々および他のグループからの最近のデータにより、低酸素症およびアシドーシス中に亜硝酸塩がNOに還元されうるということが示唆される(Gladwin et al., Proc Natl Acad Sci USA 97:11482-11487, 2000; Bryan et al., Proc Natl Acad Sci USA., 2004; Cosby et al., Nat Med 9:1498-1505, 2003; Nagababu et al., J Biol Chem 278:46349-46356, 2003; Tiravanti et al., J Biol Chem 279:11065-11073, 2004)。きわめて低い組織pHおよびPO2で、亜硝酸塩は、不均化によって(酸性還元、Zweier et al., Nat Med 1:804-809, 1995)、またはキサンチンオキシドレダクターゼの酵素的作用によって(Millar et al., FEBS Lett 427:225-228, 1998; Zhang et al., Biochem Soc Trans 25:524S, 1997; Godber et al., J Biol Chem 275:7757-7763, 2000; Li et al., J Biol Chem 276:24482-24489, 2001)、NOに還元されうる。
【0125】
亜硝酸塩は、デオキシヘモグロビンの亜硝酸還元酵素活性によって生体活性化が媒介される一酸化窒素(NO)の循環および組織貯蔵形態である。亜硝酸塩からのNO生成の速度は酸素およびpHの低下に直線的に依存するため、亜硝酸塩は、虚血組織中ではNOに還元され、NO依存性保護効果を発揮するであろうと仮説を立てた。亜硝酸ナトリウムの溶液を、マウスにおける肝臓および心臓の虚血-再かん流(I/R)傷害の設定で投与した。肝臓I/Rでは、亜硝酸塩は、細胞壊死およびアポトーシスに対して大きな用量依存性保護効果を発揮し、近生理学的亜硝酸塩濃度(0.6μM)で非常に有意な保護効果が認められた。心筋I/R傷害では、亜硝酸塩は、心筋梗塞のサイズを67%減少させ、虚血後の左心室駆出率を有意に改善した。低酸素症依存性亜硝酸塩生体活性化と合致して、亜硝酸塩は、再かん流の1〜30分以内にNO、S-ニトロソチオール、N-ニトロソアミンおよび鉄-ニトロシル化ヘムタンパク質に還元された。亜硝酸塩媒介保護は、NO生成に依存し、eNOSおよびHO-1から独立していた。これらの結果は、亜硝酸塩がNOの生物学的貯留所であり、虚血性傷害からの組織保護における決定的な機能を補助していることを示唆している。これらの研究は、心筋梗塞、臓器保存および移植、ならびにショック状態のような疾病のための予想外で新規な療法を明らかに示す。
【0126】
虚血組織の再かん流は、可逆的に損傷した細胞の回復および生存に必要な酸素および代謝基質を提供するが、再かん流そのものは実際には細胞壊死を加速させる結果を招く(Braunwald et al., J. Clin. Invest. 76: 1713-1719, 1985)。虚血-再かん流は、虚血組織に分子酸素が再導入される際に酸素ラジカルが形成して、結果的に細胞タンパク質の広範な脂質・タンパク質酸化改変、ミトコンドリア傷害、ならびに組織アポトーシスおよび壊死が生じることを特徴とする(McCord et al., Adv Myocardiol 5:183-189, 1985)。加えて、虚血組織の再かん流ののち、血流が虚血組織のすべての部分に均一には戻らない、すなわち、「非再還流(no-reflow)」現象と呼ばれる現象が起こるおそれがある(Kloner et al., J Clin Invest 54:1496-1508, 1974)。再かん流後の血流の減少が細胞傷害および壊死に寄与すると考えられている(Kloner et al., J Clin Invest 54:1496-1508, 1974)。虚血組織への突然の血流の再導入はまた、以前に虚血性であった組織へのカルシウム送達の劇的な増加(すなわち「カルシウムパラドックス」)を生じさせて、結果的に大量の組織破壊、酵素放出、高エネルギーリン酸貯蔵量の減少、ミトコンドリア傷害、および壊死を生じさせる(Nayler, Amer. J. Path. 102:262, 1981; Shen et al., Amer. J. Path 67:417-440, 1972)。また最近の研究により、虚血-再かん流傷害が、白血球および内皮細胞接着分子の両方のアップレギュレーションによって媒介される白血球-内皮細胞相互作用を生じさせる、微小循環における不適切な炎症反応をも特徴とすることが示されている(Lefer et al., Cardiovasc Res 32:743-751, 1996; Entman et al., Faseb J 5: 2529-2537, 1991)。虚血-再かん流傷害の様々な病態生理学的成分を改善して組織傷害および壊死の程度を抑制することに集中的な研究努力が払われてきた。
【0127】
NO、NOドナー、およびNO合成酵素活性化または遺伝子導入過剰発現が、多数のモデルにおいてこの過程に保護作用を発揮することが示されたが(Lefer et al., New Horiz 3:105-112, 1995; Lefer et al., Circulation 88:2337-2350, 1993; Nakanishi et al., Am J Physiol 263:H1650-1658, 1992; Jones et al., Am J Physiol Heart Circ Physiol 286:H276-282, 2004; Jones et al., Proc Natl Acad Sci USA 100:4891-4896. 2003; Kanno et al., Circulation 101:2742-2748, 2000)、他のモデルでは有害であるようである(Flogel et al., J Mol Cell Cardiol 31:827-836. 1999; Menezes et al., Am J Physiol 277:G144-151, 1999; Woolfson et al., Circulation 91:1545-1551, 1995; Schulz, R. et al., Cardiovasc Res 30:432-439, 1995)。これらの研究の評価は、虚血-再かん流病態生理学におけるNOの狭い治療安全範囲を生じさせるNO暴露の量および期間の決定的な影響を示唆する(Bolli, J. Mol. Cell. Cardio. 33:1897-1918, 2001; Wink et al., Am J Physiol Heart Circ Physiol 285:H2264-2276, 2003)。さらなる制約は、NO合成酵素からのNO形成が、基質として、虚血中に利用可能性が限られる分子である酸素を要するということである。
【0128】
したがって、我々は、以下の理由から、これに関して亜硝酸塩の使用を考慮した。(1) 毒性の可能性のある「脱離基」を有しない天然に存在する物質であり、(2) 低い酸素圧および低いpHの組織中で選択的にNOに還元され(Bryan et al., Proc Natl Acad Sci USA., 2004; Cosby et al., Nat Med 9:1498-1505, 2003; Nagababu et al., J Biol Chem 278:46349-46356, 2003; Tiravanti et al., J Biol Chem 279:11065-11073, 2004; Doyle et al., J Biol Chem 256:12393-12398, 1981; Luchsinger et al., Proc Natl Acad Sci USA 100:461-466, 2003)、(3) その活性化は分子酸素を必要とせず(Cosby et al., Nat Med 9:1498-1505, 2003)、および (4) NOは、ヘムタンパク質を還元かつ配位状態に維持し(Herold et al., Free Radic Biol Med 34:531-545, 2003; Herold et al., J Biol Inorg Chem 6:543-555, 2001; Fernandez et al., Inorg Chem 42:2-4, 2003)、遊離鉄およびヘム媒介酸化化学反応を制限し(Kanner et al., Arch Biochem Biophys 237:314-321, 1985; Kanner et al., Lipids 20:625-628, 1985; Kanner et al., Lipids 27:46-49, 1992)、チトクロームcオキシダーゼおよびミトコンドリア呼吸を一過的に阻害し(Torres et al., FEBS Lett 475:263-266, 2000; Brown et al., FEBS Lett 356:295-298, 1994; Cleeter et al., FEBS Lett 345:50-54, 1994; Rakhit et al., Circulation 103:2617-2623, 2001)、アポトーシスエフェクタを変調する(Mannick et al., Science 284:651-654, 1999)(これらはすべて、重篤な虚血後に細胞毒性に関与する可能性のある機序である)ことが知られる。
【0129】
一酸化窒素は、一過性虚血および再かん流傷害動物モデルにおいて酸素フリーラジカルをクエンチして(Mason et al., J Neurosurg 93:99-107, 2000)、脳卒中の量を有意に抑制することが示された(Pluta et al., Neurosurgery, 48:884-892, 2001)。したがって、亜硝酸塩はまた、再かん流の区域でNOを放出することにより、再かん流後に存在する酸素フリーラジカルを抑制することによって脳卒中に対して同じ有益な効果を及ぼしうる。
【0130】
さらに、NOによる血液-腫瘍バリヤの選択的開放が脳腫瘍への化学療法剤の浸透を促進し(Weyerbrock et al., J. Neurosurgery, 99:728-737, 2003)、これはまた、他の薬剤、特に放射線治療のような治療剤の脳腫瘍への浸透を促進すると考えられる。したがって、脳腫瘍内の低酸素状態のせいで、亜硝酸塩は、血液-腫瘍バリヤを選択的に開放して、化学療法と組み合わせた有益な効果を提供することもできる。
【0131】
噴霧吸入される亜硝酸塩は肺血管拡張剤である
新生児の持続性肺高血圧症は、出生児1,000人中0.43〜6.8人の発症率で起こり、死亡率は10〜20%である(Walsh-Sukys et al., Pediatrics 105, 14-20, 2000)。生存児は、神経発生および聴覚機能障害(46%)、認知遅延(30%)、聴力損失(19%)および高い率の再入院(22%)を発するおそれがある(Lipkin et al., J Pediatr 140, 306-10, 2002)。
【0132】
肺高血圧症は、原発性疾患または特発性疾患としても起こるし(Runo & Loyd, Lancet 361:1533-44, 2003; Trembath & Harrison, Pediatr Res 53:883-8, 2003)、多数の全身性および肺疾患に続発的にも起こる(Rubin, N Engl J Med 336:111-7, 1997)。病因は何であれ、肺高血圧症は、実質的な罹患率および死亡率を伴う。肺疾患をもつ新生児および成人は多くの場合、全身性低酸素血症、オキシヘモグロビン飽和度の低下および肺血管抵抗の増大を発する(Rubin, N Engl J Med 336:111-7, 1997; Haworth, Heart 88:658-64, 2002)。治療的に投与された吸入一酸化窒素(NO)は、新生児および成人における肺血管抵抗を下げ、換気かん流比の整合および酸素供給を改善し、新生児では、吸入NOが慢性的肺損傷を減らし、体外膜型酸素供給の必要性を軽減する。重篤な低酸素性呼吸不全をもつ満期および近満期新生児の吸入NO療法の無作為プラセボ対照試験が、低酸素血症の改善および体外膜型酸素供給の必要性の軽減を実証した(Clark et al., N Engl J Med 342, 469-74, 2000; Roberts et al., N Engl J Med 336, 605-10, 1997; The Neonatal Inhaled Nitric Oxide Study Group. N Engl J Med 336, 597-604, 1997)。呼吸困難症候群をもつ未熟児における最近の無作為プラセボ対照試験が、吸入NOによる処置が、死と慢性肺疾患との合わせた終点を減少させることを示した(Schreiber et al., N Engl J Med 349, 2099-107, 2003)。
【0133】
吸入NOによる新生児の持続性肺高血圧症の処置に関する有望な結果にもかかわらず、この療法にはいくつかの有意な制約(Martin, N Engl J Med 349, 2157-9, 2003)、すなわち、相当な費用(Jacobs et al., Crit Care Med 30, 2330-4, 2002; Pierce et al., Bmj 325, 336, 2002; Subhedar et al., Lancet 359, 1781-2, 2002; Angus et al., Pediatrics 112, 1351-60, 2003)、NO送達システムを新生児輸送に適合させるのに伴う技術的困難(Kinsella et al., Pediatrics 109, 158-61, 2002)、ならびに小さな地方病院および途上国における利用可能性の欠如がある。加えて、NOは酸素と反応して有毒な二酸化窒素を形成するため、窒素中に貯蔵し、高い流速で送達しなければならない。ガスおよび送達システムは費用を要し、必要な送達技術は広く一般に利用可能なわけではない。したがって、肺高血圧症の処置のための代替NOベースの療法が非常に望ましい。
【0134】
亜硝酸塩と一酸化窒素との関係は一世紀近くにわたって認識されており、Haldaneおよびその後にHoaglandが、亜硝酸塩ベースの肉硬化中に鉄-ニトロシル化ミオグロビン(ヘムに結合したNO)が最終生成物として形成されることを確認した(Gladwin, J Clin Invest 113, 19-21, 2004)。50年以上前、FurchgottおよびBhadrakomが、亜硝酸塩がインビトロで大動脈環試料を血管拡張すると報告した(Furchgott & Bhadrakom, J Pharmacol Exp Ther 108, 129-43, 1953)。この観察は、のちに、Ignarroのグループにより、内皮依存血管拡張における可溶性グアニリルシクラーゼの役割を評価する実験で探求された(Ignarro et al., J Pharmacol Exp Ther 218, 739-49, 1981)。しかし、インビトロバイオアッセイで大動脈環の血管拡張を誘発するために必要な亜硝酸塩の、通常はミリモル範囲の高い濃度が、亜硝酸塩を生理学的血管拡張剤とみなすことを妨げた(Lauer et al., Proc Natl Acad Sci USA 98: 12814-9, 2001; Pawloski, N Engl J Med 349, 402-5; 著者返答402-5, 2003; McMahon, N Engl J Med 349, 402-5; 著者返答402-5, 2003)。
【0135】
20年後、ヒトの生理学的研究において、我々は、NO吸入およびNO合成酵素阻害と同時に運動ストレスを与えた際に起こる抽出の増大を伴うヒト前腕にかけての亜硝酸塩の動脈-静脈差を観察した(Gladwin et al., Proc Natl Acad Sci USA, 97, 11482-7, 2000)。この発見は、亜硝酸塩は前腕で代謝され、運動時には消費が増大することを示唆した。これらの観察結果、ならびに亜硝酸塩のNOへの非酵素的還元(亜硝酸塩不均化)(Zweier et al., Nat Med 1: 804-9, 1995)および酵素的還元(キサンチンオキシドレダクターゼ)(Zweier et al., Nat Med 1: 804-9, 1995; Millar et al., FEBS Lett 427, 225-8, 1998; Tiravanti et al., J Biol Chem 279:11065-11073, 2004; Li et al., J Biol Chem 279 (17): 16939-16946, 2004)の機序を特定した多数の研究者からのデータに基づき、我々は、亜硝酸塩が、組織中、低いPo2またはpHでインビボでNOに還元されるという仮説を立てた。我々は、前腕への亜硝酸塩注入が生理学的亜硝酸塩濃度に近いベース条件下でさえ顕著な血管拡張を生じさせた健常なヒトボランティアでの実験で、この仮説の裏付けを見いだした(実施例1、Cosby et al., Nat Med 9, 1498-505, 2003)。この血管拡張の機序は、亜硝酸塩が脱酸素化ヘモグロビンと反応して、NO、メトヘモグロビン(Cosby et al., Nat Med 9, 1498-505, 2003; Nagababu et al., J Biol Chem 278, 46349-56, 2003)および他のNOアダクトを形成する反応と合致していた。
【0136】
デオキシヘモグロビンのこの亜硝酸還元酵素活性は、Doyleらによって1981年に幅広く特性決定された(Doyle et al., J Biol Chem 256, 12393-8, 1981)。亜硝酸塩は、デオキシヘモグロビンおよびプロトンと反応して、NOおよびメトヘモグロビンを形成するようである。このような化学作用は、亜硝酸塩からのNOの低酸素生成に理想的である。理由は、反応はヘモグロビン脱酸素化および酸によって増強されて、酸素およびpH/CO2における生理学的変化にリンクした、亜硝酸塩からのNOの段階的生成を提供するからである。吸入された亜硝酸塩が鉄-ニトロシル-ヘモグロビン、呼気NOガスを生成し、酸素供給およびpHのレベルの低下に比例して血管拡張を生じさせるというこの例における観察は、さらに、亜硝酸塩が生物学的に利用可能なNOのプールであり、ヘモグロビンが亜硝酸還元酵素としての生理学的機能を有して、低酸素血管拡張に寄与しうる可能性を示す(実施例1を参照)。これらの機序的考察に加えて、この例は、シアン化物中毒の処置におけるその十分に確立された役割を超える、亜硝酸塩のもう一つの治療的用途を支える。
【0137】
本明細書(実施例3)では、この生化学的反応を、新生児肺高血圧症、すなわち、肺血管狭窄、左右短絡病態生理(right-to-left shunt pathophysiology)、換気/かん流不均質および全身性低酸素血症を特徴とするNO欠乏状態の処置に活用することができることを示す。我々は、吸入亜硝酸ナトリウムをエアロゾルによって低酸素性肺高血圧症および酸素正常肺高血圧症の新生仔ヒツジに送達した。吸入亜硝酸塩は、低酸素症誘発肺高血圧症において速やかで持続性の軽減(約60%)を誘発し、これは、20ppmのNOガス吸入の効果に近い大きさであり、呼気中のNOレベルの増大の速やかな出現を伴った。エアロゾル化亜硝酸塩によって誘発される肺血管拡張は、デオキシヘモグロビンおよびpH依存性であり、ヘモグロビン鉄ニトロシル化の血中レベルの増大を伴った。治療的観点から重要なことに、食塩水に溶解した亜硝酸塩の噴霧による短期送達は、血中メトヘモグロビンレベルを認めうるほど増大させることなく、選択的かつ持続性の肺血管拡張を生じさせた。これらのデータは、亜硝酸塩が、NOへの転換、すなわち、ヘモグロビン脱酸素化およびプロトン化と連結する過程を介して作用する血管拡張剤であるというパラダイムを支持し、さらに、新生児肺高血圧症の新規で簡単で廉価な療法となる可能性を示す。
【0138】
エアロゾル化亜硝酸塩は、前記新生仔ヒツジモデルで効果的な血管拡張剤である(実施例3)。これは、噴霧によって容易に投与することができ、全身性血行動態変化およびメトヘモグロビン生成が制限された、幅広い治療-安全性マージンを示すようである。これは、吸入NOに対する魅力的な治療オプションを提示する。亜硝酸塩は、1) 血液、肺胞を覆う液、および組織中で天然に存在する化合物であり、2) ヒト疾患に転用する前には広範な毒性研究を要する親化合物脱離基、たとえばジアゼニウムジオレートを有しないという点において、理想的な「NO生成」剤である。
【0139】
吸入亜硝酸塩は、新生仔ヒツジの肺循環の強力で選択的な血管拡張剤である。これはさらに、その生体活性化がヘモグロビン脱酸素化およびプロトン化と連結している亜硝酸塩がNO依存性血管拡張剤であるというパラダイムを支持する。これは、肺高血圧症およびNO欠乏を伴うと認められる他の肺症候群をはじめとする、獣医学および医学の状況で臨床用途を有する。本明細書で提示するデータに基づくと、吸入亜硝酸塩は、吸入NOのすべての公知および試験済み用途において効能を有すると考えられる。
【0140】
クモ膜下出血後の脳動脈痙攣の予防
さらに、亜硝酸塩注入を使用して動脈瘤出血後の脳動脈痙攣を予防できることがわかった(実施例4)。脳内動脈瘤の破裂によるクモ膜下出血(SAH)は毎年28,000人のアメリカ人に影響を与えている。動脈瘤性SAHの患者のほぼ70%は、SAH後7日目に脳動脈の重篤な痙攣を起こす。積極的な医学的治療にもかかわらず、血管痙攣の結果として生じる神経性欠損は、罹患率および死亡率の主要な原因であり続けている。脳血管痙攣の病因はほとんど解明されていないが、脳脊髄液中の赤血球溶血、および強力な血管拡張物質である一酸化窒素(NO)の利用能の低下が重要な役割を演じているという証拠が増大している。NOまたはNOプロドラッグによる血管痙攣の好転がいくつかの動物モデルで報告されている。
【0141】
遅延性脳血管痙攣(DCV)は、破裂した脳内動脈瘤の血管内または外科的処置が成功した患者の少なくとも15%における、永久的な神経性欠損または死の唯一の原因である。一酸化窒素(NO)の生物学的利用能の低下がDCVの発症と機序的に関連している。脳動脈痙攣の霊長類モデル系を使用して、亜硝酸イオン、すなわちデオキシヘモグロビンと反応してNOおよびS-ニトロソチオールを形成する天然のアニオンの注入が、血管周囲ヘモグロビンとの反応によってDCVを予防するかどうかを判定した。
【0142】
実施例4に記載するように、臨床的に有意なメトヘモグロビンの形成なし(<5%)で10〜60マイクロMの範囲の亜硝酸塩血中レベルを生じさせた亜硝酸塩注入(1日あたり45 mg/kgおよび60 mg/kg)が、全身性低血圧症なしで血漿脳脊髄液亜硝酸塩の増大および血中メトヘモグロビン濃度の多少の増大(2%以下)を伴い、血管痙攣の重篤度を有意に低下させた(図15および16)。亜硝酸ナトリウムを注入された動物のうち、有意な血管痙攣を発症したものはなかった。SAH後7日目におけるRMCA面積における平均減少率は、8±9%対45±5%、P<0.001)であった。亜硝酸塩注入の薬理学的効果は、脳脊髄液亜硝酸塩のS-ニトロソチオール、すなわち亜硝酸塩の生体活性化の強力な血管拡張性NOドナー中間体への生体転換と関連していた。亜硝酸塩毒性の臨床的または病理学的証拠はなかった。
【0143】
亜急性亜硝酸ナトリウム注入がSAHの霊長類モデルでDCVを予防し、これは毒性なしで予防する。これらのデータは、現在予防的療法が存在しない疾病であるDCVのための新規で安全で廉価で合理的に設計された療法を示す。
【0144】
本明細書で提示する結果は、亜硝酸ナトリウム療法が、ヘモグロビンの代謝産物により、血管痙攣またはこれら代謝産物の他の組織傷害機序によって生じる組織傷害を予防しうることを示唆する。
【0145】
妊娠性または胎児性心臓血管異常の処置または改善
本明細書で提示する結果に基づき、亜硝酸イオン、特に本明細書で記載する薬学的に許容される亜硝酸塩を使用して、妊娠中の高血圧および子癇前症を処置できると考えられる。このような療法は、胎盤内の痙攣性および患部血管に対する亜硝酸塩の作用を含むであろう。
【0146】
同じく提案されるものは、胎児、特に心臓血管異常、高血圧、および異常な方向への血流のある胎児を子宮内で処置する方法である。亜硝酸塩を羊膜液に加える、つまり間接的に胎児に加えて、出産前に血管拡張および血流の再分散を達成できる可能性があると考えられる。この手段により、たとえば脳および心臓への血流の促進により、胎児の心臓血管系の発育および機能を改変することができる。より長期間効果を発揮するためには、このような胎児療法の態様は、亜硝酸塩(たとえば亜硝酸ナトリウム)を含有する一つまたは複数の浸透圧性ミニポンプを羊膜腔へ導入して、持続性の徐放を達成することを含むことが予想される。たとえば、このようなミニポンプは、妊娠中の何日間かおよび何週間かにわたって徐放を達成するために使用することもできる。
【0147】
同じく提案されるものは、免疫不和合性および関連する溶血性貧血によって血漿亜硝酸塩レベルが低下しているおそれのある胎児を処置する方法である。このような胎児の処置は、新生児期間中まで延長することもできる。胎児期間中に適用されるものとしては、羊膜腔への亜硝酸塩充填浸透圧性ミニポンプの埋め込みが含まれ、また、出生後のエアロゾル吸入も含まれる。
【0148】
VIII. 処方および投与
亜硝酸イオンは、その塩を含め、対象において血圧を下げたり、血管拡張を増したりするために、本明細書で提供する方法にしたがって対象に投与される。本開示による亜硝酸塩の投与は、たとえばレシピエントの生理学的状態、投与の目的が治療であるのか予防であるのか、および実務者に公知の他の要因に依存して、単一用量、多用量、および/または連続的もしくは断続的であってよい。亜硝酸塩の投与は本質的には、事前に選択された期間にわたって連続的であってもよいし、間隔を置いた一連の用量であってもよい。投与量は、処置される状態ならびに対象の体重、身体状態、健康状態、および年齢を含むがこれらに限定されない様々な要因に依存して異なる。このような要因は、臨床医により、動物モデルまたは当技術分野において利用可能な他の試験系を使用して決定することができる。
【0149】
亜硝酸塩を調製するためには、亜硝酸塩を合成または他の方法で得て、必要または所望によって精製する。本開示の一部の態様では、亜硝酸塩は、薬学的に許容される亜硝酸塩、たとえば亜硝酸ナトリウムである。本開示の一部の態様では、亜硝酸塩は亜硝酸エチルではない。本開示の一部の態様では、亜硝酸ナトリウムは、医療装置、たとえばステント上には存在しない。本開示の一部の態様では、亜硝酸塩はゲルの形態にはない。亜硝酸塩は、適切な濃度に調節し、任意に他の薬剤と組み合わせることができる。単位用量に含められる所与の亜硝酸塩の絶対重量は異なりうる。本開示の一部の態様では、亜硝酸塩は、亜硝酸アニオンとカチオン、たとえばナトリウム、カリウム、またはアルギニンとの塩として投与される。
【0150】
亜硝酸塩を含む一つまたは複数の適当な単位用量剤形は、外用局所、経口(たとえば腸溶性製剤として)、非経口(皮下、静脈内、筋内、および腹腔内を含む)、直腸、羊水内、皮膚、経皮、胸腔内、肺内、および鼻腔内(呼吸)経路を含む多様な経路によって投与することができる。
【0151】
製剤は、適切な場合には、別個の単位用量剤形で好都合に提供することもできるし、薬学技術の公知の方法のいずれかによって調製することもできる。そのような方法は、亜硝酸塩を液状担体、固形マトリックス、半固形担体、微分散固形担体またはそれらの組み合わせと混合したのち、必要であれば生成物を所望の送達系に導入または成形する工程を含む。「薬学的に許容される」とは、担体、希釈剤、賦形剤、および/または塩が、製剤の他の成分と適合性であり、そのレシピエントに対して有毒性または不適切に有害ではないことをいう。治療化合物はまた、たとえばマイクロカプセル封入を使用して徐放用に処方することもできる(WO94/07529および米国特許第4,962,091号を参照)。
【0152】
亜硝酸塩は、非経口投与(たとえば注射、たとえばボーラス注射または連続注入)のために処方することもできるし、単位用量剤形で、アンプル、充填済み注射器、少量注入容器または多用量容器として提供することもできる。保存料を添加して用量剤形の貯蔵寿命の維持を助けることもできる。亜硝酸塩および他の成分は、油性または水性溶媒中で、懸濁液、溶液、または乳濁液を形成させてもよく、処方用剤、たとえば懸濁剤、安定剤および/または分散剤を含ませてもよい。または、亜硝酸塩および他の成分は、無菌固体の無菌単離によって得られる、または溶液から凍結乾燥させて、使用前に適当な溶媒、たとえば無菌パイロジェンフリー水で構成することによって得られる、粉末形態であってもよい。
【0153】
これらの製剤は、当技術分野で利用可能な薬学的に許容される担体および溶媒を含有することができる。たとえば、水の他に、溶媒、たとえばアセトン、エタノール、イソプロピルアルコール、グリコールエーテル、たとえば商品名「Dowanol」として販売されている製品、ポリグリコールおよびポリエチレングリコール、短鎖酸のC1〜C4アルキルエステル、乳酸エチルもしくはイソプロピル、脂肪酸トリグリセリド、たとえば商品名「Miglyol」として市販されている製品、ミリスチン酸イソプロピル、動物性、鉱物性および植物性の油ならびにポリシロキサンから選択される、生理学的観点から許容される一つまたは複数の有機溶媒を使用して溶液を調製することが可能である。
【0154】
他の成分、たとえば酸化防止剤、界面活性剤、保存料、膜形成剤、角質溶解剤またはにきび溶解剤、芳香剤、着香料および着色剤を加えることも可能である。酸化防止剤、たとえばt-ブチルヒドロキノン、ブチル化ヒドロキシアニソール、ブチル化ヒドロキシトルエンおよびα-トコフェロールならびにその誘導体を加えることもできる。
【0155】
本開示の薬学的製剤は、選択的な成分として、薬学的に許容される担体、希釈剤、可溶化剤もしくは乳化剤、および当技術分野において利用可能なタイプの塩を含むことができる。このような物質の例としては、生理食塩溶液、たとえば生理学的に緩衝された食塩溶液および水が挙げられる。本開示の薬学的製剤に有用な担体および/または希釈剤の非限定的な具体例としては、水および生理学的に許容される緩衝食塩溶液、たとえばリン酸緩衝食塩溶液が挙げられる。単に例として、緩衝溶液は、約6.0〜8.5、たとえば約6.5〜8.5、約7〜8のpHでありうる。
【0156】
亜硝酸塩はまた、気道を介して投与することができる。したがって、本開示はまた、本開示の方法で使用するためのエアロゾル薬学的製剤および剤形を提供する。このような剤形は概して、特定の状態の臨床症候を処置または予防するのに有効な量の亜硝酸塩を含む。本開示の方法にしたがって処置された状態の一つまたは複数の症候の減衰、たとえば統計的に有意な減衰が、そのような状態の処置であるとみなされ、本開示の範囲内である。
【0157】
吸入による投与の場合、組成物は、乾燥粉末の形態、たとえば亜硝酸塩と適当な粉末ベース、たとえばラクトースまたはデンプンとの粉末混合物の形態をとることができる。粉末組成物は、単位剤形、たとえばカプセルまたはカートリッジとして提供されてもよいし、吸入器、ガス注入器、または計量吸入器(たとえば、Newman, S. P. in Aerosols and the Lung, Clarke, S. W. and Davia, D. eds., pp. 197-224, Butterworths, London, England, 1984で開示されている加圧計量吸入器(MDI)および乾燥粉末吸入器を参照)を用いて粉末を投与することができ、たとえばゼラチンまたはブリスタパックとして提供されうる。
【0158】
亜硝酸塩はまた、たとえばエアロゾルまたは吸入形態で投与される場合、水溶液として投与することもできる。したがって、他のエアロゾル薬学的製剤としては、たとえば生理学的に許容される緩衝食塩溶液が含まれる。液体中に溶解または懸濁されていない微分散固形化合物の形態の乾燥エアロゾルもまた、本開示の実施に有用である。
【0159】
吸入による気道、たとえば上(鼻)気道または下気道への投与の場合、亜硝酸塩は、噴霧器もしくは加圧パック、またはエアロゾルスプレーを送達するのに好都合な他の手段から好都合に送達することができる。加圧パックは、適当な推進剤、たとえばジクロロジフルオロメタン、トリクロロフルオロメタン、ジクロロテトラフルオロエタン、二酸化炭素または他の適当なガスを含むことができる。加圧エアロゾルの場合、用量単位は、弁を設けて計量供給量を送達することによって決定することができる。噴霧器としては、米国特許第4,624,251号、第3,703,173号、第3,561,444号、および第4,635,627号に記載されている噴霧器が含まれるが、これらに限定されない。本明細書に開示されるタイプのエアロゾル送達システムは、Fisons Corporation (Bedford, Mass.), Schering Corp. (Kenilworth, NJ) および American Pharmoseal Co. (Valencia, CA) をはじめとする多数の販売元から市販されている。鼻腔内投与の場合、治療剤は、点鼻薬、液体スプレー、たとえばプラスチックボトル噴霧器または計量吸入器によって投与することもできる。典型的な噴霧器は、Mistometer(Wintrop)およびMedihaler(Riker)である。亜硝酸塩はまた、超音波送達システムによって送達することもできる。本開示の一部の態様では、亜硝酸塩は、気管内チューブを介して送達することもできる。本開示の一部の態様では、亜硝酸塩は、マスクを介して送達することもできる。
【0160】
本開示はさらに、パッケージ化された薬学的組成物、たとえばキットまたは他の容器に関する。キットまたは容器は、治療有効量の亜硝酸塩の薬学的組成物および状態を処置するために薬学的組成物を使用するための取り扱い説明書を含む。
【0161】
IX.併用療法
さらに亜硝酸塩はまた、記載の状態または他の状態に対し、他の治療剤、たとえば鎮痛剤、抗炎症剤、抗ヒスタミン剤などと組み合わせて使用することもできる。例として、さらなる薬剤は、ペニシリン、ヒドロキシ尿素、酪酸塩、クロトリマゾール、アルギニン、またはホスホジエステラーゼ阻害薬(たとえばシルデナフィル)からなるリストから選択される一つまたは複数である。
【0162】
一般に、NO療法と併用された場合に効果的であることが示唆または実証されている療法は、亜硝酸塩投与と併用された場合にも効果的でありうると考えられる。NO療法(吸入または他の方法)で研究されてきたすべての併用療法は、亜硝酸塩療法との併用に関しても研究する価値がある可能性が高い。NOと共に使用される併用療法の検討に関しては、たとえば、Uga et al., Pediatr. Int. 46 (1): 10-14, 2004; Gianetti et al., J Thorac. Cardiov. Sur. 127 (1): 44-50, 2004; Stubbe et al., Intens. Care Med. 29 (10): 1790-1797, 2003; Wagner et al., Eur. Heart J 23: 326-326 Suppl. 2002; Park et al., Yonesi Med J 44 (2): 219-226, 2003; Kohele, Israel Med. Assoc. J. 5:19-23, 2003を参照されたい。
【0163】
さらに、薬学的に許容される亜硝酸塩(たとえば亜硝酸ナトリウム)は、投与される亜硝酸塩の排出速度を制限する薬物および薬剤と組み合わせて使用することもできる。この組み合わせは、亜硝酸塩の作用期間を延長するように作用し、亜硝酸塩の排出またはそのNOへの転換に影響する酵素の拮抗剤および阻害薬を含むであろう。
【0164】
または、亜硝酸塩は、亜硝酸塩の作用を増強する薬物および薬剤と組み合わせて使用することもできる。この組み合わせは、投与された亜硝酸塩に対する反応の強さを増大させるように作用することができる。
【0165】
組換え組織プラスミノーゲン活性化因子(rt-PA)およびウロキナーゼだけが、虚血性脳卒中において閉塞した脳動脈を開かせることが証明されている薬物である。亜硝酸塩の使用が、再かん流に反応して生成される酸素フリーラジカルをクエンチすることにより、さらなる有益な効果を提供することができると考えられる。
【0166】
以下の実施例は、特定の特徴および/または態様を例示するために提供する。これら実施例は、記載する特定の特徴または態様に本発明を限定するとみなすべきものではない。
【実施例】
【0167】
実施例1
亜硝酸塩はインビボで血管拡張性を有する
この実施例は、亜硝酸塩が、注入によってヒト対象の前腕に投与された場合、有効な血管拡張剤であることを実証する。
【0168】
方法
ヒト対象プロトコル
このプロトコルは米国国立心臓・肺・血液研究所の施設内倫理委員会(the Institutional Review Board of the National Heart, Lung and Blood Institute)によって認可され、すべてのボランティア対象からインフォームドコンセントを得た。平均年齢33歳(21〜50歳)の男性9人および女性9人が実験に参加した。さらに10名の対象が、3〜6ヶ月後、低用量亜硝酸塩注入での第二の一連の実験のために戻ってきた。ボランティアは正常なヘモグロビン濃度を有し、全員、内皮機能不全の危険因子(空腹時血糖 >120 mg/dL、LDLコレステロール >130mg/dL、血圧 >145/95 mmHg、過去2年間の喫煙、心臓血管疾患、末梢血管疾患、凝固障害、または血管炎もしくはレイノー現象の素因となる他の疾患)をもたない優秀な健康状態であった。G6PD欠乏症、既知のチトクロームB5欠乏症またはベースラインメトヘモグロビンレベル >1%の対象は除外した(スクリーニングした対象のうち、これらの除外規準に該当したものはいなかった)。授乳中および妊娠中の女性は除外した(HCGレベル陽性の対象1名を除外した)。ボランティア対象には、実験前の少なくとも1ヶ月間、いかなる薬物(経口避妊薬は許可)、ビタミンサプリメント、生薬、栄養補助食品または他の「代替療法」をも摂取させず、実験前の1週間はアスピリンの摂取も許可しなかった。
【0169】
前腕血流計測
上腕動脈および肘窩静脈カテーテルを腕に挿入し、動脈内カテーテルを血圧計測のための圧力変換器および生理食塩水を1mL/minで送達する注入ポンプに接続した。20分間の安静ののち、ベースライン動脈血および静脈血サンプルを採取し、以前に報告されているひずみゲージ静脈閉塞プレチスモグラフィー(Panza et al., Circulation, 87, 1468-74, 1993)によって前腕血流計測を実施した。血流測定ごとに7回の血流計測値を平均した。亜硝酸塩注入の間の前腕血流応答に対する時間の影響を最小限にするため、パートIおよびIIと呼ぶ一連の計測を無作為な順序で実施した。
【0170】
NO遮断および反復運動中の血流および前腕亜硝酸塩抽出の計測
パートI
0.9%NaCl(食塩水)溶液を1mL/minで20分間、上腕動脈に注入したのち、以下に記すアッセイのために動脈血および静脈血のサンプルを採取し、前腕血流を計測した。握力計(Technical Products社)を使用して、予め定めた最大握力の3分の1の力での反復把握動により、運動を実施した(Gladwin et al., Proc Natl Acad Sci USA, 97, 9943-8, 2000; Gladwin et al., Proc Natl Acad Sci USA, 97, 11482-11487, 2000; Cannon et al., J Clin Invest, 108, 279-87, 2001)。各収縮を10秒間継続させたのち、5秒間弛緩させた。5分間の運動ののち、運動の弛緩段階中に前腕血流計測値を得、動脈および静脈のサンプルを採取した。食塩水を上腕動脈に連続的に注入しながら20分の安静期間ののち、反復ベースライン血液サンプルおよび前腕血流計測値を得た。次に、L-NMMAを1mL/min(8μmol/min)の速度で上腕動脈に注入した。5分間のL-NMMA注入ののち、前腕血流を計測し、動脈血および静脈血のサンプルを得た。そしてその腕でL-NMMA注入を続けながら、前腕の運動を開始した。L-NMMA注入を続けながら5分間の運動ののち、前腕血流を計測し、血液サンプルを得た(図1)。
【0171】
パートII
食塩水を注入しながら30分間の安静ののち、ベースライン計測値を得、そこで食塩水注入を止め、亜硝酸塩(NaNO2、0.9%食塩水中36μmol/ml)の注入を1 ml/minで開始した。ヒト用の亜硝酸ナトリウムは、Hope Pharmaceuticalsから得たものであり(水10ml中300 mg)、286 mgを、Pharmaceutical Development Serviceの0.9%食塩水100 ml中で最終濃度36μmol/mlまで希釈した。実験した最後の9名の対象の場合、0.01〜0.03 mM重炭酸ナトリウムを生理食塩水に加えてpHを7.0〜7.4に滴定した。亜硝酸塩溶液は遮光し、すべての実験ののち、溶液中の亜硝酸塩レベルおよび遊離NOガスを還元的化学発光によって計測した(Gladwin et al., J Biol Chem, 21, 21, 2002)。亜硝酸塩溶液中には50.5±40.5nMのNOしか存在せず、重炭酸緩衝による影響を受けていなかった。亜硝酸塩溶液中のNOレベルと亜硝酸塩の血流効果との間に相関関係は見られなかった(r=-0.23、P=0.55)。5分間の亜硝酸塩注入ののち、前腕血流計測値および血液サンプルを得るとともに、亜硝酸塩注入を短く中断して動脈サンプルを得た。亜硝酸塩注入を続けるとともに、前記のように運動を実施し、上記のように前腕血流計測値および血液サンプルを得た。亜硝酸塩注入を止め、その後30分の安静期間中、食塩水注入を再開した。2回目のベースライン計測ののち、L-NMMAを8μmol/minで注入しながら亜硝酸塩注入を再開した。5分後、前腕血流計測を実施し、血液サンプルを得たのち、亜硝酸塩およびL-NMMAの注入を続けながら5分間の運動を実施した。最終的な前腕血流計測値および血液サンプルを得た。パートII中のすべての時点で、メトヘモグロビンおよびNO修飾ヘモグロビンの全身レベルの測定のために、反対の腕の肘窩静脈から血液サンプルを得た(図2、3、および4)。亜硝酸ナトリウムの合計注入量は、36μmol/min×15分×注入2回 = 1.08 mmol = 75 mg(MW NaNO2 = 69)であった。
【0172】
さらなる実験において、対象10名に、パートIおよびIIのプロトコルの同じ段階を踏襲したが、低用量の亜硝酸塩を注入した(0.9%食塩水中0.36μmol/mlのNaNO2を1 ml/minで注入)。
【0173】
i-STATシステム(i-STAT Corporation, East Windsor, NJ)を使用して、動脈および静脈pH、pO2、およびpCO2をベッドサイドで計測し、メトヘモグロビン濃度およびヘモグロビン酸素飽和度をコオキシメトリーによって計測した。
【0174】
赤血球S-ニトロソ-ヘモグロビンおよび鉄-ニトロシル-ヘモグロビンの計測
S-ニトロソ-ヘモグロビンは還元性赤血球環境では不安定であり、酸素圧には依存せずに温度および酸化還元依存的に急速に崩壊する(Gladwin et al., J Biol Chem, 21:21, 2002)。計測に備えてS-ニトロソ-ヘモグロビンを安定化するためには、赤血球をフェリシアン化物で速やかに酸化させなければならない。亜硝酸塩注入の前および最中、上腕動脈および肘窩静脈から血液を抜き取り、全血をただちに(処理時間を省くためにベッドサイドで)1%NP-40(膜を可溶化するため)、8 mM NEM(遊離チオールと結合し、人為的S-ニトロソ化を防ぐため)、0.1 mM DTPA(極微量の銅をキレート化するため)、ならびに4mMフェリシアン化物およびシアン化物(S-ニトロソヘモグロビンを安定化し、処理中の人為的なエクスビボ鉄-ニトロシル化を防ぐため)を含有するPBSのNO-ヘモグロビン「安定化溶液」中で1:10に溶解した。サンプルを総容積9.5 mLのSephadex G25カラムに通して脱塩して、亜硝酸塩および過剰な試薬を除去し、ヘモグロビンを部分的に精製した(99%ヘモグロビン調製物)。Drabkinの方法によってヘモグロビン画分を定量し、ヘモグロビン画分を、塩化第二水銀を用いた場合と用いない場合で反応させ(1:5のHgCl2:ヘム比、水銀不安定なS-ニトロソチオールと水銀安定な鉄-ニトロシルとを区別するために使用)、さらに0.1M HCL/0.5%スルファニルアミド中で反応させた(残留亜硝酸塩を除去するため。Marley et al., Free Radic Res, 32, 1-9, 2000)。そしてサンプルを、化学発光一酸化窒素分析装置(Sievers、モデル280 NO分析装置、Boulder, CO)と直列に配した三ヨウ化物(I3-)の溶液に注入した。水銀安定なピークが鉄-ニトロシル-ヘモグロビンを表す。このアッセイは、全血中5nM(ヘムあたりS-NO 0.00005%)までのS-ニトロソ-ヘモグロビンおよび鉄-ニトロシル-ヘモグロビンの両方に対して感度および特異性を示す(Gladwin et al., J Biol Chem 21, 21, 2002)。
【0175】
分析は、まず赤血球ペレットを使用して実施したが、サンプルを氷に入れ、ただちに赤血球ペレットから血漿を分離したにもかかわらず、NOが静脈血中エクスビボで形成した。真のインビボレベルを計測するため、全血をベッドサイドで「NO-ヘモグロビン安定化溶液」中1:10に混合した。亜硝酸塩注入中、血漿S-ニトロソ-アルブミン形成は無視しうる程度であったため、このベッドサイド全血アッセイを使用して処理時間を制限し、インビボ化学作用をより正確に特徴づけた。一連の立証実験で、S-ニトロソ-ヘモグロビンおよび鉄-ニトロシル-ヘモグロビンは両方とも、室温で20分間「NO-ヘモグロビン安定化溶液」中で安定であり、NO修飾種の人為的形成または崩壊はなかった(n=6)。
【0176】
亜硝酸塩添加ののちデオキシヘモグロビンおよび脱酸素化赤血球から放出されるNOガスの化学発光検出
亜硝酸塩とデオキシヘモグロビンとの反応からフリーNOラジカルが形成しうるかどうかを判定するため、化学発光NO分析装置(Seivers, Boulder, CO)と直列に配した、ヘリウムまたは酸素(いずれも21%および100%)でパージした遮光反応容器中、100および200μM亜硝酸塩を660および1000μM脱酸素化赤血球5mLと混合した。5分間平衡させたのち亜硝酸塩を注入し、NO生成の速度を計測した。亜硝酸塩を、対照としてのPBSおよび100μMヘモグロビンに注入して、660および1000μM脱酸素化赤血球溶液中の溶血を制御した。すべての実験の最後に、上澄みおよび赤血球反応混合物の可視吸収スペクトルを解析し、最小二乗アルゴリズムを使用してヘモグロビン組成を逆重畳積分した。系中には100μM未満の溶血しかなく、ヘモグロビンの変性はなく、鉄-ニトロシル-ヘモグロビンの有意な形成があった。赤血球懸濁液からのNO生成は、溶血産物対照から生成されるものを超え、赤血球からのNO排出と合致していた。
【0177】
統計解析
前腕NO合成がL-NMMAによって阻害される場合、生理食塩水注入対照値と比較して亜硝酸塩注入中の前腕血流の25%改善を検出するための実験には18名の対象が必要であろうことが先験的サンプルサイズ計算により決定された(アルファ=0.05、パワー=0.80)。実験の比較しうる時点でのベースライン値とL-NMMA注入値との間、ベースライン値と運動値との間、および亜硝酸塩値と食塩水対照値との間の対単位の比較のために、対応t検定によって両側P値を計算した。ベース、L-NMMA注入、および運動条件の間のNO種の動脈から静脈への勾配に関して反復測定ANOVAを実施した。示す計測値は平均±標準誤差である。
【0178】
結果および考察
亜硝酸塩が血管拡張剤であるかどうかを判定し、亜硝酸塩のインビボ化学作用を試験するため、健常な対象18名(男性9名、女性9名、年齢21〜50歳)を生理学的実験に参加させた。プロトコルのパートIは、運動およびNO合成阻害に対する前腕内での正常な血行動態的および代謝的応答を計測するために、亜硝酸塩注入中にこれらの介入を実施したプロトコルのパートIIの対照として設計されたものであった。初期ベースライン計測値は、85.6±3.7mmHgの平均血圧および組織100 mLあたり4.0±0.3 ml/minの前腕血流を含んだ(図1A)。反復把握前腕運動が血流を安静時の値に対して約600%増大させ、同側の静脈ヘモグロビン酸素飽和度、pO2、およびpHを有意に低下させ、これは酸素消費およびCO2生成の増大と合致するものであった。20分の安静期間ののち、初期ベースライン値と比較して、反復血行動態的計測は約10%高い前腕血流を示したが、全身血圧または前腕静脈ヘモグロビン酸素飽和度、pO2およびpH値に変化は見られなかった(図1B)。次に、NO合成酵素阻害薬L-NMMAを8μmol/minで5分間、上腕動脈に注入すると、前腕血流が有意に約30%低下し、静脈ヘモグロビン酸素飽和度、pO2およびpH値が有意に低下した。L-NMMA注入を継続しながらの反復前腕運動が血流を増大させたが、運動のみの場合に比べると有意に低いピーク値であった(P<0.001)。加えて、L-NMMAを注入しながらの運動中、ヘモグロビン酸素飽和度、pO2およびpHは、局所NO合成酵素阻害なしで運動した場合によりも有意に低かった(それぞれP<0.001、P<0.005およびP=0.027)。プロトコルのパートIのすべての構成部で平均動脈血圧に変化はなかった。
【0179】
図1は、対象18名におけるベースラインおよび運動中の血行動態および代謝の計測値を、NO合成の阻害なしの場合(図1A)およびNO合成を阻害した場合(図1B)で示す。すべての実験条件に関して、平均動脈圧(MAP)、前腕血流(FBF)、および静脈オキシヘモグロビン飽和度、酸素分圧(pO2)、およびpHを示す。これらの介入および計測(プロトコルのパートI)を、亜硝酸塩注入中にこれらの介入を実施したプロトコルのパートIIの対照とした。
【0180】
亜硝酸塩がヒトにおいて血管作動性を有するかどうかを判定するため、プロトコルのパートIIで、重炭酸緩衝生理食塩水中の亜硝酸ナトリウム(最終濃度36μmol/ml)をこれら18名の対象の上腕動脈に注入して、約200μMの推定静脈濃度を達成した(Lauer et al., Proc Natl Acad Sci USA, 98, 12814-9, 2001)。反復ベースライン計測および1 mL/minで5分間の亜硝酸ナトリウム注入ののち、同側肘窩静脈中の亜硝酸塩レベルは3.32±0.32μMから221.82±57.59μMまで増大した(図2A)。前腕血流は安静時の値に対して175%増大し、静脈ヘモグロビン酸素飽和度、pO2およびpHのレベルは注入前の値に対して有意に増大して、前腕のかん流の増大と合致するものであった。
【0181】
亜硝酸塩の全身レベルは、反対側の腕で計測して16μMであり、約7 mmHgの低下した平均血圧の全身性効果と対応していた。動脈から静脈へ移動する亜硝酸塩からの直接的なNO生成と合致して、亜硝酸塩注入中、同側肘窩静脈中の鉄-ニトロシル化ヘモグロビンは、55.7±11.4 nMから693.4±216.9 nMまで増大した。亜硝酸塩の注入を継続しながらの前腕運動中、血流はさらに増大し、前腕静脈ヘモグロビン酸素飽和度、pO2およびpHレベルがベースライン値より低下することにより、代謝ストレスが証明された。静脈亜硝酸塩レベルは低下し、注入された亜硝酸塩の濃度を希釈する前腕への血流の増大と合致するものであった。運動中の前腕亜硝酸塩濃度の低下にもかかわらず、鉄-ニトロシル-ヘモグロビンレベルは増大した(図2A)。
【0182】
亜硝酸塩注入を中止し、動脈内注入物を食塩水に交換して30分間注入したのちの反復ベースライン計測により、ほぼ1時間前の亜硝酸塩注入の前に得られた値に対して亜硝酸塩、鉄-ニトロシル-ヘモグロビンおよびメトヘモグロビンの全身レベルが持続的に上昇したことが示された(図2B)。加えて、亜硝酸塩注入前の初期値よりも前腕血流が有意に高く(組織100 mLあたり4.79±0.37対3.94±0.38 mL/min、P=0.003)、全身血圧が有意に低かったため(82.1±3.7対89.2±3.5 mmHg、P=0.002)、血管拡張剤効果の持続性が明らかであった。NOの局所合成を再び阻害するために、亜硝酸ナトリウム36μmol/mlをL-NMMA 8μmol/minと合わせて上腕動脈へ再注入する間、L-NMMAなしで亜硝酸塩を注入する場合と同様に、安静中および運動中の前腕血流に対する亜硝酸塩の同様な血管拡張効果が見られた(図2B)。これは、プロトコルのパートIで観察されたL-NMMAによるNO合成酵素阻害の血管狭窄剤効果(図1B)とは対照的である。静脈亜硝酸塩および鉄-ニトロシル-ヘモグロビンレベルは、NO阻害中、初期亜硝酸塩注入中と類似したパターンをたどった。
【0183】
図2は、健常な対象18名の上腕動脈への重炭酸緩衝生理食塩水中の亜硝酸ナトリウム(NaNO2)(0.9%、最終濃度36μmol/ml)を1 mL/minで5分間注入した効果をベースラインおよび運動を継続した状態で示す。図2Aは、NO合成の阻害なしでの効果を示す。図2Bは、NO合成を阻害した場合の効果を示す。すべての実験介入に関して、平均動脈血圧(MAP)、前腕血流(FBF)、静脈オキシヘモグロビン飽和度、酸素分圧(pO2)およびpH、静脈亜硝酸塩、静脈鉄-ニトロシル-ヘモグロビンおよび静脈メトヘモグロビンの値を示す。
【0184】
血管拡張剤としての血管亜硝酸塩の生理学的関連性の試験として、亜硝酸塩濃度を400 nmol/mLまで2対数低下させた。対象10名への1 mL/minで5分間の注入は、対象10名すべてにおいて、前腕血流を、組織100 mLあたり3.49±0.24 ml/minから4.51±0.33 ml/minまで有意に増大させた(図3A、P=0.0006)。血流は、安静時およびNO合成酵素阻害中、運動した場合でも運動しなかった場合でも有意に増大した(図3B、すべての条件でP<0.05)。平均静脈亜硝酸塩レベルは、5分間の注入ののち176±17 nMから2564±462 nMまで増大し、運動静脈亜硝酸塩レベルは909±113 nMまで低下した(運動中の血流増大の希釈効果に続発、図3C)。ここでもまた、亜硝酸塩の血管拡張剤効果は、前腕循環中の鉄-ニトロシル-ヘモグロビンおよびS-ニトロソ-ヘモグロビンの観察された形成と並行するものであった(図3D、以下に記す)。これらのデータは、血漿中の150〜1000 nMから血管組織中の10,000 nMまでの亜硝酸塩のベースレベルが安静時血管緊張および低酸素血管拡張に寄与することを示す。
【0185】
図3は、NO合成を阻害しない場合と阻害する場合とでの、健常な対象10名におけるベースラインおよび運動中の上腕動脈への重炭酸緩衝生理食塩水中の低用量亜硝酸ナトリウムの注入の効果を示す。図3Aは、ベースラインおよび5分間のNaNO2注入(0.9%食塩水中0.36μmol/ml、1 ml/minで注入)後での前腕血流を示す。図3Bは、低用量亜硝酸塩注入を実施した場合と実施しない場合とでの、ベースラインおよびL-NMMA注入中の、運動ストレスを加えた場合と加えない場合とでの前腕血流を示す。図3Cは、血流計測時における前腕循環からの亜硝酸塩の静脈レベルを示す。図3Dは、ベースラインおよび運動ストレス下の亜硝酸塩注入後のS-ニトロソ-ヘモグロビン(S-NO)および鉄-ニトロシル-ヘモグロビン(Hb-NO)の静脈レベルを示す。
【0186】
組織pO2およびpHが低すぎない場合の、ベース血流条件中の亜硝酸塩の血管拡張性は予想外であった。これらの結果は、亜硝酸塩還元に関して以前に仮定されていた機序、すなわち、いずれも正常な生理状態では通常は遭遇されないきわめて低いpO2およびpH値を要する亜硝酸塩不均化およびキサンチンオキシドレダクターゼ活性が、亜硝酸塩還元を触媒するように働くさらなる要因によってインビボで補足されるということを示す。血液中に豊富に存在するアスコルビン酸および他の還元剤が、亜硝酸還元に必要な電子を提供することができ、そのため、反応は生理学的に達成可能なpHレベルで起こるかもしれないが、本明細書では、デオキシヘモグロビンが循環時間の半分以内で亜硝酸塩をNOへと効果的に還元することを報告する。この機序は、ヘモグロビン酸素不飽和化によって厳密に規制される、生理学的酸素勾配に沿った段階的なNO生成を提供する。
【0187】
亜硝酸塩と赤血球内デオキシヘモグロビンとの反応によるNOおよびS-ニトロソチオールの静脈内生成
亜硝酸塩注入の前および最中、上腕動脈および肘窩静脈から血液を抜き取り、全血をただちに(処理時間を省くためにベッドサイドで)NO-ヘモグロビン「安定化溶液」中で1:10に溶解し、鉄-ニトロシル-ヘモグロビンおよびS-ニトロソ-ヘモグロビン含量を、方法の項で述べた三ヨウ化物ベースの還元的化学発光および電子常磁性共鳴分光法によって測定した。S-ニトロソ-ヘモグロビンおよび鉄-ニトロシル-ヘモグロビンのベースラインレベルは検出限界(<50 nMまたはヘムあたり0.0005% NO)にあり、動脈-静脈間の勾配はなかった。プロトコルのパートIIでの亜硝酸塩注入ののち、鉄-ニトロシル-ヘモグロビンおよびS-ニトロソ-ヘモグロビンの静脈レベルは両方とも著しく上昇した(図4A)。両NO-ヘモグロビンアダクトの形成は、血管床にかけて、10秒未満の半循環時間で起こった。鉄-ニトロシルおよびS-ニトロソ-ヘモグロビンとして計測され、静脈レベルから動脈レベルを差し引き、その差を血流で乗じることによって定量化したNO形成の速度は、局所亜硝酸塩濃度を希釈する血流の増大に続発して起こる亜硝酸塩の静脈濃度の有意な低下にもかかわらず、運動中に大幅に増大した(図4A;反復測定ANOVAによる。鉄-ニトロシル-ヘモグロビンの場合、P=0.006、およびS-ニトロソ-ヘモグロビンの場合、P=0.02)。
【0188】
図4Aは、ベースラインでの亜硝酸塩注入中、亜硝酸塩注入中および亜硝酸塩注入とともに運動した場合の、静脈レベルから動脈レベルを差し引いた結果を血流で乗じることによって定量化した鉄-ニトロシル-ヘモグロビン(黒い四角)およびS-ニトロソ-ヘモグロビン(赤い円)の形成を示す。亜硝酸塩注入中、両NO-ヘモグロビンアダクトの形成はヒト循環中のヘモグロビン酸素飽和度と逆相関していた(鉄-ニトロシル-ヘモグロビンの場合、r=-0.7、p<0.0001、S-ニトロソ-ヘモグロビンの場合、r=-0.45、p=0.04)(図4B)。ヘモグロビン酸素飽和度は、肘窩静脈からコオキシメトリーによって計測した。すべての数値の星印は、対応t検定または反復測定分散分析によるP<0.05を意味する。
【0189】
亜硝酸塩とデオキシヘモグロビンとの反応からフリーNOラジカルが形成しうるかどうかを判定するため、化学発光NO分析装置(Seivers, Boulder, CO)と直列に配した、ヘリウムでパージした遮光反応容器中、100および200μM亜硝酸塩を脱酸素化赤血球(ヘム中で合計660および1000μMを含有する容量5mL)と反応させた。図5Aおよび5Bに示すように、脱酸素化赤血球の溶液への亜硝酸塩の注入は、気相へのNO解放を生じさせた。同じ条件下で緩衝剤対照中での亜硝酸塩からの放出はなく、亜硝酸塩を酸素化赤血球(酸素21%および100%)に添加しても、有意に少ないNOしか放出されなかった。5mL反応量中でのNO生成の観察された速度(120秒で計算した、亜硝酸塩注入ののち増大した定常状態NO生成の曲線下面積の評価によって決定)は、毎秒47 pMのNO生成(全血中、毎秒300〜500 pMの推定NO生成量に相当)と合致していた。この実験系におけるNO形成速度をインビボでのNO形成速度として考えることはできないが、実験は、二つの重要な概念と合致していた。1)遊離NO画分は、残留ヘム基による自動捕捉を逃れることができる。これは、亜硝酸塩がデオキシヘモグロビンとの反応によってのみNOに転換され、その「脱離基」が、NOの掃去および不活性化を抑制するメト(三価鉄)ヘムタンパク質であるという理由でのみ可能である可能性が高い(Doyle et al., J Biol Chem 256, 12393-12398, 1981)、2)NO生成の速度は嫌気性条件下で増大し、亜硝酸塩-デオキシヘモグロビン反応と合致するものである。
【0190】
実施例2
心臓および肝臓の虚血-再かん流中の亜硝酸塩の細胞保護効果
実施例1で実証したように、亜硝酸塩は、生理学的酸素勾配に沿ったデオキシヘモグロビンとの反応、すなわち、速度が酸素およびpH依存性であり、低酸素血管拡張に寄与する可能性のある化学作用によって、NOに還元される。この予想外の発見に基づき、我々は、虚血組織における亜硝酸塩からの低酸素症依存性NO生成が虚血-再かん流傷害を抑制する可能性を提唱した。この実施例は、亜硝酸ナトリウムの注入が心臓および肝臓の虚血-再かん流中に細胞保護を提供するのに効果的であることを示す。
【0191】
虚血組織の再かん流は、可逆的に損傷した細胞の回復および生存に必要な酸素および代謝基質を提供するが、再かん流そのものが実際には細胞壊死を加速させる結果を招く(Braunwald et al., J. Clin. Invest. 76: 1713-1719, 1985)。虚血-再かん流は、虚血組織に分子酸素を再導入した際に酸素ラジカルが形成して、結果的に細胞タンパク質の広範な脂質・タンパク質酸化改変、ミトコンドリア傷害、ならびに組織アポトーシスおよび壊死が生じることを特徴とする(McCord et al., Adv Myocardiol 5:183-189, 1985)。加えて、虚血組織の再かん流ののち、血流が虚血組織のすべての部分に均一には戻らない、すなわち「非再還流」現象と呼ばれる現象が起こるおそれがある(Kloner et al., J Clin Invest 54:1496-1508, 1974)。再かん流後の血流の減少が細胞傷害および壊死に寄与すると考えられている(Kloner et al., J Clin Invest 54:1496-1508, 1974)。虚血組織への突然の血流の再導入はまた、以前に虚血性であった組織へのカルシウム送達の劇的な増加(すなわち「カルシウムパラドックス」)を生じ、結果的に大量の組織破壊、酵素放出、高エネルギーリン酸貯蔵量の減少、ミトコンドリア傷害、および壊死を生じさせる(Nayler, Amer. J. Path. 102:262, 1981; Shen et al., Amer. J. Path 67:417-440, 1972)。最近の研究はまた、虚血-再かん流傷害が、白血球および内皮細胞接着分子の両方のアップレギュレーションによって媒介される白血球-内皮細胞相互作用を生じさせる、微小循環における不適切な炎症反応をも特徴とすることを示した(Lefer et al., Cardiovasc Res 32:743-751, 1996; Entman et al., Faseb J 5: 2529-2537, 1991)。虚血-再かん流傷害の様々な病態生理学的成分を改善して組織傷害および壊死の程度を抑制することに集中的な研究努力が払われてきた。
【0192】
NO、NOドナー、およびNO合成酵素活性化または遺伝子導入過剰発現が、多数のモデルにおいてこの過程に保護作用を及ぼすということが示されたが(Lefer et al., New Horiz 3:105-112, 1995; Lefer et al., Circulation 88:2337-2350, 1993; Nakanishi et al., Am J Physiol 263:H1650-1658, 1992; Jones et al., Am J Physiol Heart Circ Physiol 286:H276-282, 2004; Jones et al., Proc Natl Acad Sci USA 100: 4891-4896. 2003; Kanno et al., Circulation 101:2742-2748, 2000)、他のモデルでは有害のようである(Flogel et al., J Mol Cell Cardiol 31:827-836. 1999; Menezes et al., Am J Physiol 277:G144-151, 1999; Woolfson et al., Circulation 91:1545-1551, 1995; Schulz, R. et al., Cardiovasc Res 30:432-439, 1995)。これらの研究の評価は、虚血-再かん流病態生理学におけるNOの狭い治療安全範囲を生じさせるNO暴露の量および期間の決定的な影響を示唆する(Bolli, J. Mol. Cell. Cardio. 33: 1897-1918, 2001; Wink et al., Am J Physiol Heart Circ Physiol 285:H2264-2276, 2003)。さらなる制約は、NO合成酵素からのNO形成が、基質として、虚血中に利用可能性が限られる分子である酸素を要するということである。
【0193】
したがって、我々は、これに関して以下の理由から、亜硝酸塩の使用を考慮した。
(1) 毒性である可能性のある「脱離基」を有しない天然に存在する物質であり、
(2) 低い酸素圧および低いpHの組織中で選択的にNOに還元され(Bryan et al., Proc Natl Acad Sci USA., 2004; Cosby et al., Nat Med 9:1498-1505, 2003; Nagababu et al., J Biol Chem 278:46349-46356, 2003; Tiravanti et al., J Biol Chem 279:11065-11073, 2004; Doyle et al., J Biol Chem 256:12393-12398, 1981; Luchsinger et al., Proc Natl Acad Sci USA 100:461-466, 2003)、
(3) その活性化は分子酸素を必要とせず(Cosby et al., Nat Med 9:1498-1505, 2003)、
(4) NOは、ヘムタンパク質を還元かつ配位状態に維持し(Herold et al., Free Radic Biol Med 34:531-545, 2003; Herold et al., J Biol Inorg Chem 6:543-555, 2001; Fernandez et al., Inorg Chem 42:2-4, 2003)、遊離鉄およびヘム媒介酸化化学反応を制限し(Kanner et al., Arch Biochem Biophys 237:314-321, 1985; Kanner et al., Lipids 20:625-628, 1985; Kanner et al., Lipids 27:46-49, 1992)、チトクロームcオキシダーゼおよびミトコンドリア呼吸を一過的に阻害し(Torres et al., FEBS Lett 475:263-266, 2000; Brown et al., FEBS Lett 356:295-298, 1994; Cleeter et al., FEBS Lett 345:50-54, 1994; Rakhit et al., Circulation 103:2617-2623, 2001)、アポトーシスエフェクタを変調する(Mannick et al., Science 284:651-654, 1999)ことが知られ、これらはすべて、重篤な虚血後に細胞毒性に関与する可能性のある機序である。
【0194】
我々は、十分に特性決定された肝臓および心筋の虚血-再かん流傷害のマウスモデルにおいて、亜硝酸塩療法の効果を溶媒および硝酸塩対照とで比較して評価した。以下の記載は、亜硝酸塩のNOおよびニトロソ化(ニトロシル化)タンパク質への低酸素依存性生体転換によって媒介されると考えられる、細胞壊死およびアポトーシスに対する亜硝酸塩の重要な保護効果の強力な証拠を提供する。
【0195】
材料および方法
薬品および試薬
亜硝酸ナトリウム(S-2252)および硝酸ナトリウム(S-8170)は、Sigma Chemical Co.(St. Louis, MO)から得た。亜硝酸ナトリウムおよび硝酸ナトリウムはリン酸緩衝食塩水に溶解し、pHを7.4に調節した。すべての実験において、最終量50μLの亜硝酸ナトリウムまたは硝酸ナトリウムをマウスに投与し、総循環血流量を2mLと仮定して0.6〜240μMの亜硝酸塩最終循環濃度を達成した。直接血管内NO掃去剤カルボキシ-PTIO[2-(4-カルボキシフェニル)-4,4,5,5-テトラメチルイミダゾリン-1-オキシル-3-オキシドカリウム塩]を使用して、肝I/R傷害後のNO依存効果を阻害した。カルボキシ-PTIO(Alexis Biochemicals)をリン酸緩衝食塩水に溶解し、肝臓虚血の30分前に50μL容量中1 mg/kgの用量で静脈内投与した。ヘムオキシゲナーゼ-1阻害薬である亜鉛(II)重水素化ポルフィリンIX-2,4-ビスエチレングリコール(Zinc(II) Deuteroporphyrin IX-2,4-bisethyleneglycol; ZnDBG)(Alexis Biochemicals)を肝臓虚血誘発の30分前に50μL容量中10mg/kgの用量で腹腔内投与した。
【0196】
動物
本研究で使用したすべてのマウスは、Jackson Laboratories(Bar Harbor, ME)から得た8〜10週齢のC57BL6/Jであった。肝I/R傷害のさらなる実験では、内皮一酸化窒素合成酵素(eNOS)を完全に欠損する(-/-)マウスを使用した。eNOS-/-マウスはもともと、Dr. Paul Huang(Mass. General Hospital)から寛大にも提供されたものであり、LSU-Health Sciences Centerにある我々の繁殖コロニーで繁殖させた。eNOS-/-マウスは、8〜10週齢のものを使用した。
【0197】
肝虚血-再かん流(I/R)プロトコル
肝I/Rプロトコルは、図6Aで示されており、以前に記載されている(Hines et al., Biochem Biophys Res Commun 284: 972-976, 2001; Hines et al., Am J Physiol Gastrointest Liver Physiol 284:G536-545, 2001)。マウスをケタミン(100 mg/kg)とザイラジン(8 mg/kg)との組み合わせで麻酔し、正中開腹術を実施して肝臓を露出させた。次に、血液凝固を防止するため、マウスにヘパリン(100μg/kg, i.p.)を注射した。マイクロ動脈瘤鉗子を使用して肝動脈および門脈を完全に締め付けることにより、肝臓の左葉および中葉を虚血状態にした。この実験モデルの結果、区域的(70%)肝虚血症が生じた。この部分虚血症モデルは、肝臓の右葉および尾状葉の門脈除圧を許すことにより、腸間膜静脈うっ血を防止する。次に、肝臓を腹腔内に戻して元の場所で45分間配置した。0.9%生理食塩水に浸漬したガーゼを使用して肝臓を湿らせておいた。加えて、加熱灯を使用し、直腸温度プローブで体温を監視することによって体温を37℃に維持した。擬似手術は、マイクロ動脈瘤鉗子によって肝臓血流を減らさなかったこと以外は同じであった。すべての実験で肝虚血の期間は45分であり、その後、マイクロ動脈瘤鉗子を取り外した。肝臓再かん流の期間は、血清肝トランスアミナーゼレベル(すなわちASTまたはALT)の実験では5時間であり、肝組織病理学(たとえば肝細胞梗塞)の実験では24時間であった。
【0198】
肝酵素測定
アスパラギン酸アミノトランスフェラーゼ(AST)およびアラニンアミノトランスフェラーゼ(ALT)に関して、分光光度分析法を使用して血清サンプルを分析した(Sigma Chemical Co., St. Louis, MO)(Harada et al., Proc Natl Acad Sci USA 100:739-744, 2003)。これらの酵素は肝臓特異的であり、傷害時に肝臓から放出される(Hines et al., Biochem Biophys Res Commun 284:972-976, 2001; Hines et al., Am J Physiol Gastrointest Liver Physiol 284:G536-545, 2001)。
【0199】
肝組織病理学実験
以前に報告されているようにして肝組織の組織病理学実験を実施した(Hines et al., Biochem Biophys Res Commun 284:972-976, 2001)。肝組織を10%緩衝ホルマリン中で24時間固定し、パラフィンに包埋し、10μM切片をヘマトキシリンおよびエオシンで染色した。以下の規準を使用して、無作為な高倍率視野で組織病理学的スコア付けを二重盲検的に実施した。
0―肝細胞損傷なし
1―細胞質液胞化および限局性核濃縮を特徴とする軽度の損傷
2―洞様毛細血管拡張、サイトゾル液胞化、および細胞内境界の不明瞭化を示す中程度の損傷
3―凝固性壊死、豊富な洞様毛細血管拡張、肝細胞索中へのRBC溢出、ならびに過好酸球増加および好中球の辺縁趨向を示す中程度ないし重度の損傷
4―肝臓構造の損失、肝細胞索の崩壊、出血、および好中球浸潤を示す重篤な壊死
【0200】
肝細胞アポトーシスは、RocheのTUNEL染色キットを使用して、製造元が推奨するやり方にしたがって判定した。簡潔に述べると、様々な処置からの肝臓組織を緩衝ホルマリン中に固定し、10μm切片を調製した。切片を氷の上で2分間透過化処理し、50μL TUNEL溶液で30分間37℃でインキュベートした。次に切片を50μL基質溶液で10分間処理し、ガラスカバースリップの下に取り付けた。サンプルごとに5個の無作為な40倍視野でアポトーシス核の数を測定した。処置グループごとに合計6個のサンプル(グループあたりスライド16枚)を分析し、一方向分散分析をボンフェローニの事後試験とともに使用して比較した。
【0201】
心筋虚血-再かん流(I/R)プロトコル
以前に記載されている方法(Jones et al., Am J Physiol Heart Circ Physiol 286:H276-282, 2004)と同様にして、左主冠状動脈(LCA)の外科的結紮を実施した。簡潔にいうと、マウスをケタミン(50 mg/kg)およびペントバルビタールナトリウム(50 mg/kg)の腹腔内注射によって麻酔した。次に、マウスを手術台に腹側を上にして取り付けた。PE-240管に接続したPE-90ポリエチレン管をマウスに口から挿入したのち、モデル683齧歯類用人工呼吸器(Harvard Apparatus, Natick, MA)に接続した。一回換気量を2.2ミリリットルにセットし、呼吸速度を毎分122回にセットした。人工呼吸器サイドポートを介してマウスに100%酸素を与えた。電気メスを使用して正中胸骨切開術を実施し、近位左主冠状動脈を見えるようにし、先細り針に取り付けた7-0絹縫合糸(BV-1 ethicon)で完全に結紮した。心筋梗塞サイズの初期実験では、冠状動脈閉塞を30分間維持したのち、縫合糸を抜糸し、24時間再かん流した。心臓機能のさらなる実験では、近位LCAを45分間完全に閉塞したのち、縫合糸を抜糸し、48時間再かん流した。これらの実験では、二次元超音波心臓診断をベースラインおよび再度48時間の再かん流で実施した。
【0202】
心筋梗塞サイズ測定
24時間の再かん流で、マウスを前記のように麻酔し、挿管し、齧歯類用人工呼吸器に接続した。カテーテル(PE-10管)をエバンスブルー染料注入に備えて総頸動脈に配置した。正中胸骨切開術を実施し、左主冠状動脈を前と同じ場所で再結紮した。エバンスブルー染料(2.0%溶液1.2 mL、Sigma Chemical Co.)を頸動脈カテーテルに通して心臓に注入して、虚血区域を非虚血区域から画定した。心臓を速やかに切除し、長軸に沿って厚さ1 mmの5枚の切片に連続的に切断したのち、それらの切片を1.0% 2,3,5-トリフェニルテトラゾリウムクロリド(Sigma Chemical Co.)中、37℃で5分間インキュベートして、危険区域内の生存可能心筋と非生存可能心筋とを区別した。5枚の厚さ1 mmの心筋スライスそれぞれを計量し、梗塞、危険、および非虚血性の左心室面積を、盲観察者がコンピュータ援用面積測定によって評価した(NIH Image 1.57)。危険左心室面積および梗塞サイズ測定のすべての手法は以前に記載されている(Jones et al., Am J Physiol Heart Circ Physiol 286: H276-282, 2004)。
【0203】
左心室機能の超音波心臓診断
Sequoia C256(Acuson)とインターフェスさせた15MHz線形アレイ変換器(15L8)を使用する左心室の経胸郭超音波心臓診断を、45分の心筋虚血および48時間の再かん流に供したさらなるマウスグループ(n=9溶媒、n=10亜硝酸塩)で実施した。以前に記載されているように(Jones et al., Am J Physiol Heart Circ Physiol 286:H276-282, 2004; Jones et al., Proc Natl Acad Sci USA 100:4891-4896. 2003)、二次元超音波心臓診断をベースラインおよび48時間の再かん流で実施した。最新の技術を使用して心室パラメータを計測した。中乳頭レベルで左心室(LV)の胸骨傍短軸および長軸2D図からM-モード(掃引速度=200 mm/sec)心エコー図を捕捉した。以下の式にしたがってLV部分短縮率(FS)を計算した。LV%FS=((LVEDD-LVESD)/LVEDD)×100。すべてのデータは、実験あたり10回の心周期から計算した。
【0204】
マウス抗HO-1モノクロナール抗体(Stressgen, Victoria, BC)を1:3,000の希釈で使用し、ヤギ抗マウス二次抗体(Amersham Biosciences, Piscataway, NJ)を1:3,000の希釈で使用して、ホモジナイズした肝組織サンプル(総タンパク質50μg)のHO-1ウエスタンブロット分析を実施した。
【0205】
血液および組織亜硝酸塩測定
血中亜硝酸塩測定のために、全血160μLを、80 mMフェリシアン化物、20 mM N-エチルマレイミド(NEM)、200μLジエチレントリアミン五酢酸(DTPA)、および0.2% NP-40を含有する亜硝酸塩安定化溶液40μLと混合した(前記濃度は全血と混合した後の濃度)。次に、全血中の亜硝酸塩を、以前に記載されている三ヨウ化物ベースの還元化学発光によって測定し(Gladwin et al., J Biol Chem, 21:21, 2002; Yang et al., Free Radic Res 37:1-10, 2003)、立証した。
【0206】
肝組織を、Bryanらによって公表された修正プロトコル(Bryan et al., Proc Natl Acad Sci USA., 2004)を使用してホモジナイズした。収穫した肝組織をろ紙上で乾燥状態にブロットし、計量し、ただちに氷冷NEM(10 mmol/L)/DTPA(2 mmol/L)含有緩衝剤(希釈度3:1-w/v)中でホモジナイズした。そして、Wheatonガラス-ガラスホモジナイザを使用して緩衝剤/組織混合物をホモジナイズした。組織ホモジネートを氷上で維持し、5分以内に分析した。続いて、ホモジネートを三ヨウ化物に直接注入して、亜硝酸塩、水銀安定(Rx-NO)および水銀不安定(RS-NO)NOアダクトの合計を計測した。特定のNOアダクト(Rx-NOおよびRS-NO)のレベルを測定するため、サンプルを5 mM塩化水銀と反応させた場合と反応させない場合(塩化水銀の存在下ではRS-NOは亜硝酸塩になり、Rx-NOは安定である)とで、両方を酸スルファニルアミド(0.5%)で処理して亜硝酸塩を除去した。
【0207】
統計的解析
データを、StatViewソフトウェアバージョン5.0(SAS Institute, Carey, North Carolina)を使用する事後(post hoc)ボンフェローニ解析により、二方向分散分析(ANOVA)によって解析した。データを平均値±平均値の標準誤差(SEM)として報告し、p<0.05の場合、差を有意とみなす。
【0208】
結果
腹腔内亜硝酸塩が肝虚血-再かん流(I/R)傷害を抑制する
肝虚血中の1.2〜480 nmolの亜硝酸ナトリウム(マウスの総血量2mL中0.6μM〜240μMの推定最終濃度)の腹腔内送達が、肝トランスアミナーゼ、アスパラギン酸アミノトランスフェラーゼ(AST)およびアラニンアミノトランスフェラーゼ(ALT)の血清中上昇を用量依存的に抑制し(図6Bおよび6C)、ピーク効果が24μM(添加亜硝酸塩48 nmol)の計算全身濃度で起こった。全く対照的に、食塩水または硝酸ナトリウム(48 nmol)での処置は、肝I/R傷害の状況で何ら保護効果を及ぼさなかった。インビボ肝臓虚血(45分間)およびより長い再かん流(24時間、図6D、6E、および6F)ののちのマウスにおける肝細胞傷害に対する亜硝酸塩処置の効果を評価するため、さらなる実験を実施した。最終血中濃度24μM(48 nmol)の亜硝酸塩の投与が、食塩水および硝酸塩で処置した動物と比較して、24時間の再かん流での肝細胞傷害を有意に減らした。加えて、亜硝酸塩治療はまた、45分間の肝臓虚血および24時間の再かん流ののち、肝細胞アポトーシスの程度を有意に(p<0.001)減衰した(図6F)。I/Rに供された亜硝酸塩処置動物における肝細胞アポトーシスの程度は、擬似処置された対照動物で観察された程度と同様であった(p=NS)。
【0209】
心室内亜硝酸塩は心筋虚血-再かん流傷害を抑制する
次に、肝臓虚血-再かん流傷害に対する亜硝酸塩の強力な細胞保護効果が他の器官系にも一般化することができるかどうかを判定するため、冠動脈閉塞および再かん流の状況での急性亜硝酸塩療法の潜在的心臓保護効果を評価するための実験を次に実施した。心筋I/R研究の実験プロトコルが図7Aに示されている。再かん流5分前での左心室腔への亜硝酸塩(48 nmol)の投与が、48 nmol硝酸塩処置に比べて、心筋梗塞サイズを有意に(p<0.001)制限した(図7Bおよび7C)。同様な心筋危険区域(グループ間のp=NS)にもかかわらず、危険区域あたりおよび左心室あたりの心筋梗塞サイズはいずれも、硝酸塩の場合に比べて亜硝酸塩療法で67%減少した。
【0210】
さらなる実験で、マウスを45分間心筋虚血に、そして48時間再かん流に供して、左心室の能力に対する亜硝酸塩治療の効果を評価した(図7Dおよび7E)。これらの実験では、二次元超音波心臓診断をベースラインならびに心筋梗塞および再かん流後で使用して、心筋駆出率(図7D)および心筋部分短縮率(図7E)を計測した。心筋駆出率は、ベースラインでは、溶媒実験グループと亜硝酸塩処置実験グループとの間で類似していた。心筋梗塞および再かん流ののち、駆出率は、食塩水溶媒グループで有意に低下した(p<0.001対ベースライン値)が、亜硝酸塩処置動物では本質的に変化はなかった(p=NS対ベースライン)。さらには、駆出率は、溶媒グループに比較して亜硝酸塩グループ中で有意に高かった(p<0.02)。同様な観察を部分短縮率にも行い、ベースラインでは有意なグループ差はなかった。しかし、心筋梗塞および再かん流後、左心室部分短縮率は、溶媒グループでは有意に低下した(p<0.001対ベースライン)が、亜硝酸塩グループでは低下せず(p=NS対ベースライン)、溶媒グループに比較して亜硝酸塩グループ中で有意に高かった(p<0.02)。
【0211】
亜硝酸塩媒介細胞保護は、肝臓における亜硝酸塩からNOならびにS-およびN-ニトロソ化タンパク質への急性虚血還元に関連する
デオキシヘモグロビンおよび脱酸素化ヘムタンパク質との反応における亜硝酸塩からNOおよびS-ニトロソチオールへの以前に記された還元と合致して(Bryan et al., Proc Natl Acad Sci USA., 2004; Cosby et al., Nat Med 9:1498-1505, 2003; Nagababu et al., J Biol Chem 278:46349-46356, 2003; Doyle et al., J Biol Chem 256:12393-12398, 1981)、再かん流の1分後、虚血に供された食塩水(対照)処置マウスの肝臓中の亜硝酸塩のレベルは、1.75μMから検出不能なまでに低下し(p<0.001対擬似グループ)、水銀安定なNO修飾タンパク質(N-ニトロソアミンおよび鉄-ニトロシルタンパク質、RxNOと同様)のレベルは約750 nMまで増加した(図8A、p<0.001)。興味深いことに、亜硝酸塩処置により、亜硝酸処置マウスにおける亜硝酸塩(図8B)、S-ニトロソチオール(図8C)およびN-ニトロソアミン(図8D)の再かん流後の肝臓レベルの有意な増大があった(p<0.01対食塩水処置対照)。これらのデータは、低酸素ストレス中に亜硝酸塩が生体活性化されるという提唱と一致し、全身性無酸素傷害後の組織亜硝酸塩からRSNOおよびRxNOへの急性転換を実証するBryanらの最近の研究(Proc Natl Acad Sci USA., 2004)とも一致する。細胞保護性である亜硝酸塩の低いレベル(最低用量で1.2 nmol、図6Bおよび6C)および食塩水処置対照動物中の「生来の」肝臓亜硝酸塩の還元的分解(図8A)は、これが、低酸素NO生成および細胞保護の自然な機序である可能性を示唆する。与えられた亜硝酸塩の近生理学的量と合致して、最大有効量である48 nmolの亜硝酸塩で処置されたマウスにおける血中亜硝酸塩レベルは有意には上昇しなかった(594±83nMから727±40nM、n=3、p=0.16)。
【0212】
亜硝酸塩の細胞保護効果はNO依存性、NO合成酵素非依存性かつヘムオキシゲナーゼ非依存性である
亜硝酸塩からNOへの低酸素還元を含む機序をさらに裏付けるものとして、全要因設計実験でNO阻害薬PTIOが亜硝酸塩の保護効果を完全に阻害した(図9A)。対照的に、内皮NO合成酵素(eNOS)欠乏マウスでは有意な亜硝酸塩細胞保護が認められ(図9B、p<0.001)、虚血-再かん流中の亜硝酸塩からのNO生成がeNOS非依存性であることを示唆している。このモデルでは、虚血-再かん流後にヘムオキシゲナーゼ1タンパク質発現が有意に誘発され、保護を提供するようである(図9Cおよび9D)が、ZnDPBG(特異的かつ強力なヘムオキシゲナーゼ1阻害薬)で前処置されたマウスでは、亜硝酸塩は組織損傷を有意に抑制し、ヘムオキシゲナーゼ非依存性効果が示唆された(図9C、p<0.05)。
【0213】
考察
この実施例では、亜硝酸処置が、食塩水および硝酸塩処置対照に比較して、肝臓亜硝酸塩レベルおよびニトロソ化(ニトロシル化)種(RSNOおよびRXNO)を有意に増大させ、劇的な用量依存性細胞保護効果を提供して、壊死、アポトーシスを抑制し、器官機能を保存した。注目すべきことには、加えられた亜硝酸塩のレベルは生理学的レベルに近く、1.2 nmolの亜硝酸塩添加量でさえ保護効果が認められ(計算血中レベル600 nM)、これが、重度の代謝または病態生理学的ストレスを緩衝する内因性保護機序を表している可能性を示唆した。
【0214】
最近のデータは、亜硝酸塩濃度が血液と様々な器官との間で異なり、通常は、高ナノモルないし低マイクロモル範囲であることを示唆する。しかし、最近まで、大動脈環試料を血管拡張するために必要な高い濃度が、重要な生物学的活性分子としてのそれを除外するに至らしめていた。実際、Furchgottら(J. Pharmaco. Exper. Thera. 108:129-143, 1953)は、1953年、100μMの亜硝酸塩が大動脈環試料の血管拡張を刺激することを実証した。これは、可溶性グアニル酸シクラーゼの活性化によって媒介されることがのちに示された過程である(Kimura et al., J Biol Chem 250:8016-8022, 1975; Mittal et al., J Biol Chem 253:1266-1271, 1978; Ignarro et al., Biochim Biophys Acta 631:221-231, 1980; Ignarro et al., J Pharmacol Exp Ther 218:739-749, 1981)。生理学的観点から、亜硝酸塩からNOへのインビボ転換は、胃および重度に虚血性の心臓に限られ、その場合、非常に低いpHでの酸性還元または不均化が胃粘膜血管拡張(Gladwin et al., J Clin Invest 113:19-21, 2004; Bjorne et al., J Clin Invest 113:106-114, 2004)ならびに明らかな心組織傷害およびヘム鉄-ニトロシル化(虚血性エクスビボ心臓サンプル中、高濃度亜硝酸塩で;Tiravanti et al., J Biol Chem 279:11065-11073, 2004)をそれぞれ生じさせると考えられていた。キサンチンオキシドレダクターゼ依存性亜硝酸塩還元は非常に低い酸素圧で起こりうるが、この系からのNO生成は、高濃度のスーパーオキシドジスムターゼの存在下でのみ検出可能である(Li et al., J Biol Chem 279:16939-16946, 2004; Li et al., Biochemistry 42:1150-1159, 2001)。
【0215】
図6およびCosbyら(Nat Med 9:1498-1505, 2003)に説明されているように、ヒト循環血への亜硝酸ナトリウムの注入は、薬理学的濃度および近生理学的濃度の両方で有意な血管拡張を生じさせた。亜硝酸塩の生体活性化が脱酸素化ヘモグロビンの亜硝酸還元酵素活性によって媒介されて、最終的にNOおよび鉄-ニトロシル化ヘモグロビンならびに、程度は低めであるが、S-ニトロソ化タンパク質種を形成するようであった。これらのデータに基づき、低酸素血管拡張を媒介する際の循環亜硝酸塩の役割が提案され、この場合、酸素センサはヘモグロビンであった(Cosby et al., Nat Med 9:1498-1505, 2003)。こうして、デオキシヘモグロビン、デオキシミオグロビンおよび/または他の脱酸素化ヘムタンパク質の同様な亜硝酸還元酵素活性が、本実施例における肝臓および心臓虚血中に認められたニトロソ化(ニトロシル化)タンパク質の形成および明らかなNO依存性細胞保護を説明づけることが提唱される。
【0216】
亜硝酸塩が組織保護を提供する正確な機序は不明であるが、NOの決定的な役割が図3および図9Aに示すデータから示唆される。NOおよび虚血-再かん流の以前の研究は、I/R傷害の重篤度に対するNOの効果に関して矛盾する報告を出しており、一部の研究は、NOが実際には再かん流傷害に寄与すると示唆している(Woolfson et al., Circulation 91:1545-1551, 1995; Wink et al., Am J Physiol Heart Circ Physiol 285:H2264-2276, 2003)。我々の研究室は、以前、NOドナー、およびNO前駆体であるL-アルギニンが心筋I/R傷害から保護するということを実証した(Lefer et al., New Horiz 3:105-112, 1995; Nakanishi et al., Am J Physiol 263:H1650-1658, 1992; Pabla et al., Am J Physiol 269:H1113-1121, 1995)。さらに最近、我々は、心筋I/R傷害の重篤度がeNOS-/-マウスで顕著に増す(Jones et al., Am J Physiol 276:H1567-1573, 1999)が、eNOS過剰発現を有するマウスは心筋梗塞およびその後の鬱血性心不全に対して保護されるということを実証した(Jones et al., Am J Physiol Heart Circ Physiol 286:H276-282, 2004; Jones et al., Proc Natl Acad Sci USA 100:4891-4896. 2003; Jones et al., Am J Physiol 276:H1567-1573, 1999)。
【0217】
虚血-再かん流傷害に対するNOの効果に関する矛盾するデータは、NOの用量、ならびに虚血および再かん流中の状態に関連するかもしれない(Bolli, J. Mol. Cell. Cardio. 33: 1897-1918, 2001)。また、非常に高い非生理学的レベル(すなわち高マイクロモルおよびミリモル濃度)のNOが実際には細胞壊死およびアポトーシスを促進する(Dimmeler et al., Nitric Oxide 4:275-281, 1997)が、実証されたNOの細胞保護効果は通常、ナノモルまたは低マイクロモル濃度のNOを伴うということが今や十分に理解されている(Lefer et al., New Horiz 3:105-112, 1995; Lefer et al., Circulation 88:2337-2350, 1993; Bolli, J. Mol. Cell. Cardio. 33:1897-1918, 2001)。さらには、NO療法の有益な効果を報告したI/Rのインビボ研究(Lefer et al., New Horiz 3:105-112, 1995; Lefer et al., Circulation 88:2337-2350, 1993)とは対照的に、I/Rのインビトロ条件下でのNOおよびNO放出剤を調査した研究は一貫してNOの有害作用を報告している(Bolli, J. Mol. Cell. Cardio. 33:1897-1918, 2001)。NOがどのように保護を媒介しているのかもまた不明であり、sGC活性化、チトクロームCオキシダーゼの阻害および有害なミトコンドリアカルシウム取り込みの阻害をはじめとする多数の機序が報告されている(Torres et al., FEBS Lett 475:263-266, 2000; Brown et al., FEBS Lett 356:295-298, 1994; Cleeter et al., FEBS Lett 345:50-54, 1994; Rakhit et al., Circulation 103:2617-2623, 2001)。これらのデータは、亜硝酸塩の効果がNO形成から二次的に起こることを示唆するが、亜硝酸塩依存性細胞保護の究極的な機序は現在でも知られていない(Luchsinger et al., Proc Natl Acad Sci USA 100:461-466, 2003; Fernandez et al., Inorg Chem 42:2-4, 2003; Han et al., Proc Natl Acad Sci USA 99:7763-7768, 2002; Crawford et al., Blood 101:4408-4415, 2003)。
【0218】
興味深い可能性は、亜硝酸塩とデオキシヘモグロビンおよびおそらくは組織ヘムタンパク質との反応を介して形成することが知られているS-ニトロソチオールの中間的な形成である(Bryan et al., Proc Natl Acad Sci USA., 2004; Cosby et al., Nat Med 9:1498-1505, 2003; Nagababu et al., J Biol Chem 278:46349-46356, 2003)。亜硝酸塩からの赤血球および組織中のS-ニトロソチオールの低酸素依存性形成と合致して、これらの種の肝臓レベルは、虚血および亜硝酸塩に暴露された肝臓における再かん流(1〜30分)の後で有意に高かった。細胞内の相対的に還元性の環境では、亜硝酸塩を介して容易に形成されるS-ニトロソチオールは、NOに還元され、sGCを活性化する。または、I/R誘発傷害およびアポトーシス細胞死で重要な決定的なタンパク質の活性に対するS-ニトロソ化およびその後の効果が保護につながるのかもしれない(Mannick et al., Science 284:651-654, 1999)。
【0219】
加えて、ここで報告するデータは、虚血-再かん流中の、肝臓RxNO、すなわち、N-ニトロソアミンおよび鉄-ニトロシルを含む水銀安定性NO修飾タンパク質のプールの動的調整を明らかにする(Bryan et al., Proc Natl Acad Sci USA., 2004; Gladwin et al., J Biol Chem, 21:21, 2002; Rassaf et al., Free Radic Biol Med 33:1590-1596, 2002)。食塩水処置グループでは、RxNOレベルは、再かん流1分では増大し、次いで30分の再かん流ののち低下したが、亜硝酸塩処置マウスではRxNOレベルの持続的な増大が観察され、RxNOの維持がI/R傷害から組織を保護するのに重要である可能性を示唆する。
【0220】
結論として、この実施例で提示したデータは、マウスモデル系で示したように、肝臓および心臓の虚血-再かん流傷害および梗塞の強力な阻害薬としての比較的単純な無機アニオンである亜硝酸イオンの顕著な機能を実証する。亜硝酸塩の効果はNO依存性のようであり、再かん流後、亜硝酸塩はNOおよびニトロソ化(ニトロシル化)タンパク質へと速やかに転換される。天然に存在するアニオンとして、およびシアン化物中毒のFDA認可療法としての亜硝酸塩の公知の安全性を考慮すると、これらのデータは、虚血-再かん流傷害の新規で安全で廉価な療法を明示する。このような療法は、たとえば冠状動脈および末梢血管系の再かん流、危険性の高い腹部手術(たとえば急性尿細管壊死につながる大動脈瘤修復)、心肺蘇生、そしておそらくもっとも重要なことには固形臓器移植ののちの、臓器不全を予防または変調するために使用することができるであろう。
【0221】
実施例3
噴霧吸入亜硝酸塩は低酸素感応性NO依存性選択的肺血管拡張剤である
この実施例は、新生児肺高血圧症を処置するための噴霧吸入される亜硝酸塩(特に亜硝酸ナトリウム)の使用の詳細な説明を提供する。
【0222】
先に提示した結果に基づき、血中アニオン亜硝酸イオンが、デオキシヘモグロビンと、およびおそらくは他のヘムタンパク質との、ヘムベースの一酸化窒素(NO)生成反応を介して低酸素血管拡張に寄与するということがわかった。この生化学的反応は、新生児肺高血圧症、すなわち、肺血管狭窄、左右短絡病態生理、換気/かん流不均質および全身性低酸素血症を特徴とするNO欠乏状態の処置に活用することができる。この実施例で示すように、吸入亜硝酸ナトリウムをエアロゾルによって低酸素性肺高血圧症および酸素正常肺高血圧症の新生仔ヒツジに送達した。吸入亜硝酸塩は、低酸素症誘発肺高血圧症において速やかで持続性の軽減(約60%)を誘発し、これは20ppmのNOガス吸入の効果に近い大きさであり、呼気中のNOレベルの増大の速やかな出現を伴った。エアロゾル化亜硝酸塩によって誘発される肺血管拡張は、デオキシヘモグロビンおよびpH依存性であり、ヘモグロビン鉄-ニトロシル化の血液レベルの増大を伴った。治療的観点から重要なことには、食塩水に溶解した亜硝酸塩の噴霧による短期送達は、血中メトヘモグロビンレベルを認めうるほど増大させることなく、選択的かつ持続性の肺血管拡張を生じさせた。これらのデータは、亜硝酸塩が、NOへの転換、すなわち、ヘモグロビン脱酸素化およびプロトン化と連結する過程を介して作用する血管拡張剤であるというパラダイムを支持し、さらに、新生児肺高血圧症の新規で簡単で廉価な療法を明示する。
【0223】
低酸素誘発および薬物誘発肺高血圧症に対する噴霧亜硝酸ナトリウムの効果を、食塩水または吸入NOに対し、新生仔ヒツジで比較した。この実施例で記載するように、吸入亜硝酸塩は、呼気NOガスおよび循環鉄-ニトロシル-ヘモグロビンを形成し、肺循環を選択的に血管拡張する。この血管活性は、ヘモグロビン不飽和および生理学的範囲の血液pHのレベルと関連し、脱酸素化連結亜硝酸還元酵素としてのヘモグロビンの生理学的および治療的パラダイムを支持している。
【0224】
方法
動物プロトコルは、Loma Linda UniversityのInstitutional Animal Research Committeeによって認可され、実験動物の使用に関する米国国立衛生研究所(National Institutes of Health)ガイドラインに準ずるものであった。
【0225】
動物の準備
静脈内チオペンタールナトリウム(20mg/kg)で麻酔を誘導したのち、新生仔ヒツジに経口気管内挿管を実施し、カテーテルを外科的に配置するまで1%ハロタンで麻酔状態を維持した。その後、ハロタンを中止し、モルヒネ(0.1 mg/kg/hr)で麻酔状態を維持した。ベクロニウム(0.1 mg/kg/hr)で麻痺させたのち、肺を、圧力:22/6 cm H2O、頻度:毎分25呼吸、FiO2:0.21、および吸気時間:0.6秒の初期設定で機械的に呼吸させた(Sechristモデル100、Sechrist Industries, Anaheim, CA, USA)。初期、および酸素正常状態での実験全体を通じて、頻度、ピーク吸気圧、およびFiO2の人工呼吸器設定を調節して、SaO2>95%、PaO2 90〜150Torr、およびPaCO2 35〜45Torrを維持した。
【0226】
カテーテルを右上腕動脈に配置して、ガスおよび化学分析のための管前血をサンプリングした。小児用温度希釈カテーテルを大腿静脈に通して肺動脈まで到達させて、心拍出量、肺動脈および肺毛細管楔入圧を計測した(5.0 Pediatric Swan-Ganz(登録商標)温度希釈カテーテル、Baxter Healthcare Corporation, Irvine, CA, USA)。
【0227】
血圧、心拍数をモニタし、流体および薬物を投与するために、カテーテルを大腿動脈および静脈に配置した。熱電対を大腿静脈に配置して、実験を通じて加温ブランケットおよび加熱灯を使用して39℃に維持した中心体温をモニタした。
【0228】
実験の完了後、専売安楽死溶液(Euthasol, Western Medical Supply, Arcadia, CA, USA)でヒツジを安楽死させた。選択した実験で、検死解剖を実施してカテーテルの位置を確認し(全ケースで正しい位置にあった)、動脈管が閉じていることを判定した(全ケースで閉じていた)。
【0229】
血行動態計測
胸郭中央レベルでゼロに合わせて較正した圧力変換器(COBE Laboratories, Lakewood, CO)を使用して、平均動脈圧、平均肺動脈圧、および中心静脈圧を連続的に計測し、肺毛細管楔入圧を断続的に計測した。Com-2温度希釈モジュール(Baxter Medical, Irvine, CA, USA)を使用する温度希釈により、実験を通じて心拍出量を15分間隔で計測した。氷冷食塩水の5 ml注入を使用した。測定は三重反復で実施し、サンプリング時点ごとに結果を平均した。標準式を使用して肺血管抵抗および全身血管抵抗を計算した。
【0230】
血液ガスおよびメトヘモグロビン分析
実験中に間隔をおいて収集した血液サンプル(0.3 ml)中で動脈および混合静脈pH、PCO2、およびPO2を計測した。血液ガスを計測し(ABL3, Radiometer, Copenhagen, Denmark)、ヘモオキシメータ(OSM2 Hemoximeter, Radiometer, Copenhagen, Denmark)を使用してオキシヘモグロビン飽和度およびヘモグロビン濃度を計測した。OSM2ヘモオキシメータを用いる光覚計測により、血液ガス測定の場合と同じ動脈サンプルを使用して、動脈および混合静脈メトヘモグロビン濃度を分析した。
【0231】
エアロゾル化亜硝酸塩、食塩水、またはNOガスの送達
すべての実験で、亜硝酸ナトリウム水溶液(1 mM溶液)または食塩水のいずれか5ミリリットルをジェット噴霧器(Hudson RCI Micro Mist Nebulizer(Hudson Respiratory Care, Temucula, CA)に入れ、8 L/minの定流量で駆動した。亜硝酸ナトリウム溶液は270μmol/minの速度で噴霧した。エアロゾルを人工呼吸器の吸気ループに送達した。ジェット噴霧器を使用すると、噴霧した薬物の<10%しか肺の中に付着しないと一般に考えられている(Coates et al., Chest 119, 1123-30, 2001)。これは、噴霧器の無駄な容積および呼気段階中の薬物の損失の結果である。肺付着は、気流、充填容量、薬物溶液、および周囲温度の影響を受ける粒度分布に依存する(Flavin et al., Pediatr Pulmonol 2, 35-9, 1986; Suarez & Hickey, Respir Care 45, 652-66, 2000; Clay et al., Thorax 38, 755-9, 1983; Clay et al., Lancet 2, 592-4, 1983)。これは簡単で廉価で広く利用可能な臨床噴霧システムであるが、他のシステムを使用してもよい。
【0232】
NOガスを呼吸回路の吸気縁に導入した。NOの吸入濃度は、人工呼吸器ループの吸気縁中で化学発光(CLD 700 AL, Eco Physics Inc., Ann Arbor, MI)によって連続的に計測した。
【0233】
低酸素誘発肺血管狭窄における亜硝酸塩または食塩水エアロゾルの吸入
噴霧亜硝酸塩が低酸素新生仔ヒツジにおいて選択的肺血管拡張剤であることを実証するため、7頭のヒツジで実験した。麻酔および器具処置ののち、ヒツジを30〜90分間回復させ、その間に適切な血行動態パラメータをモニタした。ベースライン計測値を得たのち、吸気のFiO2を30分間0.12まで減らすことにより、30分間の肺高血圧症を誘発した。低酸素状態の開始から10分後、低酸素期間の残りの期間、食塩水または亜硝酸ナトリウムのエアロゾルを投与した。1時間の回復期間ののち、再び30分間の低酸素状態を誘導し、その最後の20分間に食塩水または亜硝酸ナトリウムのエアロゾルを投与した。血液ガスおよび分析アッセイのための動脈血サンプルを採取し、規則的な間隔で心拍出量計測を実施した。
【0234】
酸素正常状態におけるU46619誘発肺高血圧症中の亜硝酸塩の吸入
酸素正常状態肺高血圧症に対する亜硝酸塩噴霧の効果を評価するため、さらに6頭のヒツジで実験した。トロンボキサンの安定なエンドペルオキシド類似体(U46619−9,11-ジデオキシ-11α-エポキシメタノ-プロスタグランジンF、Cayman Chemicals, Ann Arbor, MI)の注入により、安定な酸素正常状態肺高血圧症を誘発した。この薬物は食塩水に溶解し、2μg/kg/minの速度で30分間、大腿静脈カテーテル中に投与した。注入の最後の20分間、亜硝酸塩を噴霧して吸入させた(図11)。
【0235】
低酸素誘発肺血管狭窄における吸入亜硝酸塩とNOガスとの比較:効能および効果の持続期間
このプロトコルは、亜硝酸塩の効能を臨床標準、すなわち20 ppm吸入NOガスと比較するために設計されたものである。このNOガス濃度は、原発性肺高血圧症の小児に与えられる治療量の上限であり(Kinsella & Abman, Semin Perinatol 24, 387-95, 2000; Kinsella et al., Lancet 340, 819-20, 1992)、また、新生仔ヒツジの低酸素血管狭窄を好転させるのに効果的であることが示されている(Frostell et al., Circulation 83, 2038-47, 1991)。第二の目的は、長期低酸素誘発肺血管狭窄における血行動態的および生理学的計測において短い亜硝酸塩噴霧の効果の持続期間をNOガス吸入に対して決定することであった。ベースライン計測を実施したのち、上記のようにして35分間ヒツジを低酸素状態にした。低酸素状態の発生から10分後、20分間のNOガス吸入(20 ppm)を開始し、NOガス送達を止めた後も5分間、低酸素状態を継続した。その後1時間ヒツジを回復させた。再び、ベースライン計測を実施し、2回目の90分間の低酸素状態を開始した。低酸素状態の発生から10分後、亜硝酸ナトリウムエアロゾルを20分間投与し、亜硝酸塩エアロゾル化を止めた後も60分間、低酸素状態を継続した(図13)。
【0236】
呼気NOの計測
化学発光NO分析装置(NOA 280, Sievers Instruments, Inc., Boulder, CO)を用いて呼気NO濃度を計測した。化学発光分析装置は、NOを含まない空気およびNOガス(45 ppm)を使用して、製造元が推奨するやり方にしたがって較正した。NOは、250 ml/minの流れが分析装置まで通過する気管内チューブの近位端でサンプリングポートに取り付けたTeflonサイドアームを通してサンプリングした。
【0237】
選択した早期の実験において、亜硝酸塩を、ヒツジに接続していない人工呼吸器回路中に噴霧し、その間、化学発光NO分析装置でNOを計測した。どの実験でも、非接続回路中への亜硝酸塩噴霧は、換気中のNO濃度の上昇を生じさせなかった。
【0238】
血漿亜硝酸塩および鉄-ニトロシル-ヘモグロビンの計測
上腕動脈および中心静脈カテーテルから血液を抜き取り、速やかに処理した。遠心分離後に血漿を分離し、すぐにドライアイスで凍結させたのち、以前に記載されたように(Cosby et al., Nat Med 9, 1498-505, 2003; Gladwin et al., J Biol Chem 277, 27818-28, 2002; Yang et al., Free Radic Res 37, 1-10, 2003)化学発光法(Sieversモデル280 NO分析装置)を使用して亜硝酸塩をアッセイするまで-70℃で貯蔵した。凍結した赤血球ペレットを解凍し、8 mM NEM、100μM DTPA、および4 mMフェリシアン化物中で反応させ、5分間インキュベートし、Sephadex G25カラムに通した(Yang et al., Free Radic Res 37, 1-10, 2003; Xu et al., Proc Natl Acad Sci USA 100, 11303-8, 2003)。G25カラムからのヘモグロビン画分をDrabkinの方法(J. Biol. Chem. 112, 51-65, 1935)によって定量し、0.1M HCl/0.5%スルファニルアミド中で反応させて残留亜硝酸塩を除去した。そして、サンプルを化学発光一酸化窒素分析装置(Sievers、モデル280 NO分析装置、Boulder, CO)と直列に配した三ヨウ化物(I3-)の溶液に注入した。三ヨウ化物溶液中で鉄-ニトロシル-ヘモグロビンからNOガスを化学量論的に除いた(Yang et al., Free Radic Res 37:1-10, 2003)。
【0239】
全血の電子常磁性共鳴分光法
これは、9.4 GHz、10 mW、5G変調、0.08s時定数および600Gで84sの走査時間にセットしたEMX10/12EPR分光システム上、Bruker 4131VT温度制御装置を使用して110Kで実施した。各曲線が一つの84秒走査を表す。ピーク間高さを標準サンプルと比較することによって鉄-ニトロシル-ヘモグロビン濃度を計算した。
【0240】
データ取得および解析
平均動脈圧、肺動脈圧、中心静脈圧、心拍数、呼気NO濃度、および中心体温を連続的に計測した。アナログ信号を100Hzでデジタル化し、アナログ・デジタル変換器(PowerLab SP, ADInstruments, Colorado Springs, CO)およびデータ取得ソフトウェア(Chart v 5.02 for Macintosh, ADInstruments, Colorado Springs, CO)を使用して記録した。実験ののち、動脈血圧、中心静脈圧、心拍数、および呼気NO計測値を60秒ブロックに平均化した。
【0241】
統計的解析
生理学的変数の連続計測値を、反復測定をグループおよび時間とともに因数として用いる二方向ANOVAによって比較した。差の有意性をダネット事後試験で評価した。ベースライン期間からの有意差は、反復測定を個々の動物および時間とともに因数として用いる一方向ANOVAを使用して評価した。差の有意性をさらにNewman-Keulの事後試験で評価した。計算は、GraphPad Prism(GraphPad Software Inc., San Diego, CA, USA)を使用して実施した。統計的有意性をP<0.05で仮定した。データは平均±SEMとして提示する。
【0242】
結果
低酸素誘発肺血管狭窄におけるエアロゾル化亜硝酸塩の肺血管拡張性
低酸素肺高血圧症に対する噴霧亜硝酸塩の効果を判定するため、7頭の新生仔ヒツジ(2〜10日齢)を全身麻酔下で器具処置し、人工呼吸器およびモルヒネ注入で維持した。ベースライン安定化ののち、FiO2を0.12に減らすことによってヒツジを30分間の低酸素状態に供した。低酸素期間の最後の20分間、噴霧亜硝酸塩または食塩水を投与した。低酸素状態(動脈HbO2約55%)の開始は、平均肺動脈圧の急速な増大(21±1から34±2 mmHgへ、P<0.01)(図10A、10B)および肺血管抵抗の急速な増大(20% (P<0.01))、ならびに全身血管抵抗の低下(約20% (P<0.01))と関連していた。食塩水とは違って(図10A、10B)、噴霧亜硝酸塩の吸入は肺動脈圧を選択的に約60%低下させ(P<0.01)(図10A、10C)、肺動脈抵抗を約70%低下させたが(P<0.05)、対照動物と比較した場合、平均動脈血圧(図10A、10C)または全身血管抵抗に対する計測しうる効果はなかった。亜硝酸塩噴霧による肺動脈圧の低下は、呼気NOの3±1ppbから15±4ppbへの漸増を伴った(図10A、10C)。心拍出量、動脈オキシヘモグロビン飽和度、およびメトヘモグロビンレベルは、亜硝酸塩吸入ののち、直前の10分間の低酸素状態中の値と比較して、計測しうる変化はなかった(図10A)。動脈Po2は、実験的に鉗子で締め付けたため、我々のシステムでは認めうるほどの変化はなかった。
【0243】
酸素正常薬物誘発肺血管狭窄におけるエアロゾル化亜硝酸塩の肺血管拡張性
正常なデオキシヘモグロビンの存在下における肺動脈圧に対する噴霧亜硝酸塩の効果を、低下した酸素化ヘモグロビンの存在下における効果と対比させるため、酸素正常条件下で肺高血圧症に供したヒツジ6頭の別々のグループで噴霧亜硝酸塩の効果を実験した。トロンボキサンのエンドペルオキシド類似体(U46619)の注入により、安定な酸素正常(SaO2約98%)肺高血圧症を誘発した。2μg/kg/minで30分間のU46619の静脈内注入は、肺動脈圧の24±1 mmHgから51±4 mmHgへの急増を伴った(P<0.001)(図11)。注入を開始してから10分後、噴霧亜硝酸塩の吸入添加の結果、肺動脈圧の23±6%の選択的低下(注入ベースラインに比較してP<0.05)が生じたが、平均動脈血圧または全身血管抵抗に対する効果はなかった(図11)。亜硝酸塩噴霧による肺動脈圧の低下は、呼気NOの4.8±1.2 ppbから10.1±2.0 ppbへの漸増と関連していた(ベースラインに比較してP<0.05、図11)。図2は、低酸素誘発肺血管狭窄および薬物誘発酸素正常肺血管狭窄に対する20分後の亜硝酸塩吸入の効果の比較を示す。平均肺動脈圧および呼気NOの変化は、低酸素状態における亜硝酸塩処置の場合で有意に大きかった。総じて、酸素正常(トロンボキサン誘発)肺高血圧症に対する亜硝酸塩吸入の効果は、低酸素肺高血圧症で観察された効果よりも低く(図10、11、12A)、亜硝酸塩の血管活性の低酸素血、およびおそらくは酸血の増強作用のモデルと合致していた。
【0244】
デオキシヘモグロビンの亜硝酸還元酵素活性のpHおよび酸素依存性
我々は、亜硝酸塩からNOへの生化学的転換がデオキシヘモグロビンおよびプロトン化の両方を要すると仮説を立てた。そして、酸素正常状態実験および低酸素状態実験の両方からのデータを使用して、亜硝酸塩からのNO生成に対するヘモグロビン飽和度およびpHの影響を研究した。呼気NOガスおよびNO修飾ヘモグロビン(鉄-ニトロシル-ヘモグロビン)の計測値を、NO生成の用量計として、また、NOを生成する亜硝酸塩とヘモグロビンとの亜硝酸還元酵素反応の直接的副生成物の尺度として使用した。図12は、三ヨウ化物ベースの還元化学発光(図12B)および電子常磁性共鳴(図12C)による計測で、鉄-ニトロシル-ヘモグロビンが、低酸素状態では亜硝酸塩吸入によって顕著に増大したが、薬物誘発酸素正常肺血管狭窄ではそうはならなかったことを示す。図12Dに示すように、噴霧亜硝酸ナトリウムの吸入後の低酸素状態における平均肺動脈圧の変化は血液pHと相関し、血管拡張の増大はpHの低下を伴った(r=0.57 P=0.055)。
【0245】
吸入NOおよび効果の持続期間との比較
次に、亜硝酸塩の効能を、現在の治療標準、すなわち吸入NOガスと比較した。低酸素状態の開始ののち、ヒツジを(20 ppm)吸入NOガスまたは噴霧亜硝酸塩に20分間供した。図13のデータは、低酸素状態における血行動態および代謝計測値に対するNOガス吸入(図13A)または亜硝酸塩噴霧(図13B、13C)の効果の持続期間および大きさを示す。両処置とも低酸素肺高血圧症の顕著な軽減を生じさせたが、吸入NOに対する反応のほうがわずかに速く、肺圧は、亜硝酸塩によって誘発された60〜70%の圧力修正と対比すると、ベースラインにより近くなった。全身的には、平均動脈血圧および抵抗は、低酸素状態における両方の処置で同程度に低下した。しかし、NOガスと比較した場合の亜硝酸アニオンの相対的な化学的安定性により、亜硝酸塩吸入を停止した後でも60分(低酸素負荷の期間)を超える持続的な血管拡張が得られたが、NOガス送達の停止は、数秒のうちに血管拡張効果を消滅させた(図13A、13B)。亜硝酸塩噴霧の相対的に持続性の効果は、βアドレナリン作用薬を計量吸入器によって用いるぜん息の治療に類似した断続的な治療を可能にすることにより、治療的に有利である可能性がある。亜硝酸塩吸入誘発肺血管拡張の時間経過および血漿亜硝酸塩レベルを示す(図13C、13D)。図10の場合よりも長い期間で生化学的変化を追跡したこの実験では、メトヘモグロビン(MetHb)濃度は、ベースライン時の2.1±0.1%から亜硝酸塩噴霧後の2.8±0.2%まで上昇した(P<0.05)。
【0246】
考察
この実施例の主要な発見は、噴霧亜硝酸ナトリウム溶液の短期間の吸入が、新生仔ヒツジにおける低酸素誘発肺高血圧症において急速かつ選択的な肺血管拡張を生じさせるということである。亜硝酸塩噴霧後の肺動脈圧の有意な低下は、亜硝酸塩噴霧の停止ののち低酸素状態が1時間を超えて続いた場合でも持続した。いずれの実験でも、亜硝酸塩吸入が全身性低血圧症を生じさせることはなく、メトヘモグロビン上昇は最小限に抑えられた。機序的観点から、亜硝酸塩投与は、呼気NOガスおよびNO修飾ヘモグロビンによって計測されるNO生成と関連し、応答は、ヘモグロビン酸素不飽和化のレベルおよび血液pHの低下と比例していた。これらのデータは、亜硝酸塩が、その生体活性化がヘモグロビン脱酸素化およびプロトン化と連結するNO依存性血管拡張剤であるというパラダイムを支持する。
【0247】
吸入NOガスは、肺高血圧症の処置のための現在の標準である。図13は、20 ppmのNOガスの効果とエアロゾル化亜硝酸塩の効果との比較を提供する。約5分で、NOガスは低酸素誘発肺高血圧症の約80%を効果的に軽減し、これは、短期的ではあるが、20分後に再び投与されたときに再現することができる効果である。エアロゾル化亜硝酸ナトリウムは、低酸素誘発肺高血圧症の約60%を除いた。この応答は、実験したヒツジそれぞれで一貫して認められ、亜硝酸塩エアロゾルを中止した後も維持した1時間の低酸素期間を通じて持続した。肺血流の変化は、肺中の血流に対する計算上の抵抗の対応する変化を伴い、変化が、かん流圧を変化させたかもしれない心拍出量または全身性効果の変化に二次的なものではなく、肺血管系におけるものであることを示した。
【0248】
我々は、本明細書で、エアロゾル化亜硝酸塩が、新生仔ヒツジにおいて、噴霧によって容易に投与することができ、幅広い治療-安全性マージンを示し、全身の血行動態変化およびメトヘモグロビン生成が抑えられたNO生成剤であることを実証する。これは、吸入NOに対して魅力的な治療オプションを提示する。亜硝酸塩は、1) 血液、肺胞を覆う液、および組織中で天然に存在する化合物であり、2) ヒト疾患に転用する前には広範な毒物学的研究を要する親化合物脱離基、たとえばジアゼニウムジオレートを有さず、3) シアン化物解毒キットにおいてヒトへの使用がすでに認可されている、という点において理想的な「NO生成」剤である。これらの利点は、より長期の送達によって起こりうる問題、たとえば肺胞亜硝酸塩蓄積、全身性血管拡張、およびメトヘモグロビン血症の発症に関して、バランスをとるようにすべきものである。
【0249】
結論として、この実施例で提示するデータは、吸入亜硝酸塩が新生仔ヒツジの肺循環における強力かつ選択的な血管拡張剤であることを示唆し、さらに、亜硝酸イオン、特に亜硝酸ナトリウムのような塩が、その生体活性化がヘモグロビン脱酸素化およびプロトン化と連結するNO依存性血管拡張剤であるというパラダイムを支持する。我々の実験のいずれでも、亜硝酸塩の吸入が全身性低血圧症を生じさせたり、メトヘモグロビンレベルを上昇させたりすることはなかった。
【0250】
実施例4
クモ膜下出血後の脳動脈痙攣の予防のための亜硝酸塩注入の使用
この実施例は、脳内出血後の脳動脈痙攣を予防するために亜硝酸塩注入を使用する方法を詳細に説明する。
【0251】
脳内動脈瘤の破裂によるクモ膜下出血(SAH)は毎年28,000人のアメリカ人に影響している。動脈瘤性SAHの患者の約70%は、SAH後7日目に脳動脈の重篤な痙攣を起こす。積極的な医学的治療にもかかわらず、血管痙攣の結果として生じる神経性欠損は、罹患率および死亡率の主要な原因であり続けている。脳血管痙攣の病因はほとんど解明されていないが、脳脊髄液中の赤血球溶血および一酸化窒素(NO)、すなわち強力な血管拡張物質の利用能の低下が重要な役割を演じているという証拠が増大している。NOまたはNOプロドラッグによる血管痙攣の好転がいくつかの動物モデルで報告されている。
【0252】
半世紀もの研究および臨床試験にもかかわらず、遅延性脳血管痙攣(DCV)が、破裂した脳内動脈瘤の血管内または外科的処置が成功した患者の少なくとも15%における、永久的な神経性欠損または死の唯一の原因であり続けている。一酸化窒素(NO)の生物学的利用能の低下がDCVの発症と機序的に関連している。この実験は、亜硝酸塩、すなわちデオキシヘモグロビンと反応してNOおよびS-ニトロソチオールを形成する天然のアニオンの注入が、血管周囲ヘモグロビンとの反応によってDCVを予防するかどうかを判定するために実施した。
【0253】
方法
0日目に、麻酔を施した14匹のカニクイザルの右中大脳動脈(RMCA)の周囲に自己由来動脈血餅を配置した。亜硝酸ナトリウムの0.9%食塩水溶液(NaNO2、1日135 mgおよび1日180 mg、およそ1日あたり45 mg/kgおよび60 mg/kgに相当)(n=6)または食塩水のみ(n=8)を、着装携行式MiniMed注入ポンプを介して、覚醒中の動物に14日間2μl/minで静脈内注入した。DCVの評価のため、血餅配置前ならびに7日目および14日目に脳動脈造影を実施した。脳動脈造影のAP投影で計測した場合のRMCA面積の近位14 mmでの25%以上の減少を動脈造影血管痙攣と定義した(盲評価)。0日目から毎日、平均動脈血圧を計測し、血液サンプルを採集した。脳脊髄液サンプルを0日目、7日目、および14日目に採集した。
【0254】
結果
対照動物では、脳脊髄液亜硝酸塩レベルは、3.1±1.5μMから、7日目に0.4±0.1μMまで減少し、14日目に0.4±0.4μMまで減少し(図14)、8匹の動物すべてがRMCAで有意な血管痙攣を発症し(図15および16)、1匹は脳卒中を併発し、死に至った。
【0255】
亜硝酸塩注入は、全身性低血圧症なしで血漿脳脊髄液亜硝酸塩および血中メトヘモグロビン濃度の増大を伴い(図14)、血管痙攣の重篤度を有意に低下させた(図15および16、有意な血管痙攣を発した動物はなかった。SAH後7日目のRMCA面積の平均減少率は、8±9%対45±5%であった。P<0.001)。亜硝酸塩注入の薬理学的効果は、脳脊髄液亜硝酸塩のS-ニトロソチオール、すなわち、亜硝酸塩生体活性化の強力な血管拡張性NOドナー中間体への生体転換と関連していた。亜硝酸塩毒性の臨床的または病理学的証拠は見られなかった。
【0256】
結論
亜急性亜硝酸ナトリウム注入は、SAHの霊長類モデルでDCVを予防し、毒性なしで予防する。これらのデータは、現在予防的療法が存在しない疾病であるDCVのための新規で安全で廉価で合理的に設計された療法を明示する。
【0257】
前記明細書では、本発明をその特定の好ましい態様に関して記載し、例示のために多くの詳細を述べたが、当業者には、本発明がさらなる態様をとることができ、本発明の基本原理を逸することなく本明細書に記載した特定の詳細を大幅に変更できることが自明であろう。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
対象において血圧を低下および/または血管拡張を増大させることによって、該対象における
(a) 肝臓または心臓または脳の虚血-再かん流傷害、
(b) 肺高血圧症、または
(c) 脳動脈痙攣
から選択される状態を処置または改善する方法であって、亜硝酸ナトリウムを該対象に投与して該対象において血圧を低下および/または血管拡張を増大させ、それによって該状態を処置または改善することを含む方法。
【請求項2】
肝臓または心臓または脳の虚血-再かん流傷害を処置または改善する、請求項1記載の方法。
【請求項3】
対象への亜硝酸ナトリウムの投与が静脈内投与である、請求項2記載の方法。
【請求項4】
亜硝酸ナトリウムを約0.6〜240μMの循環濃度まで投与する、請求項2または3記載の方法。
【請求項5】
肺高血圧症を処置または改善する、請求項1記載の方法。
【請求項6】
肺高血圧症が新生児肺高血圧症である、請求項5記載の方法。
【請求項7】
対象への亜硝酸ナトリウムの投与が吸入による投与である、請求項5または6記載の方法。
【請求項8】
亜硝酸ナトリウムを噴霧する、請求項7記載の方法。
【請求項9】
亜硝酸ナトリウムを270μmol/minの速度で投与する、請求項5〜8のいずれか一項記載の方法。
【請求項10】
脳動脈痙攣を処置または改善する、請求項1記載の方法。
【請求項11】
対象への亜硝酸ナトリウムの投与が静脈内投与である、請求項10記載の方法。
【請求項12】
亜硝酸ナトリウムを約45〜60 mg/kgの割合で投与する、請求項10または11記載の方法。
【請求項13】
亜硝酸ナトリウムを少なくとも一つのさらなる薬剤と組み合わせて投与する、請求項1〜12のいずれか一項記載の方法。
【請求項14】
対象が哺乳動物である、請求項1〜13のいずれか一項記載の方法。
【請求項15】
対象がヒトである、請求項14記載の方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【図14】
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【図15】
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【図16】
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【公開番号】特開2012−92129(P2012−92129A)
【公開日】平成24年5月17日(2012.5.17)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−280763(P2011−280763)
【出願日】平成23年12月22日(2011.12.22)
【分割の表示】特願2006−518959(P2006−518959)の分割
【原出願日】平成16年7月9日(2004.7.9)
【公序良俗違反の表示】
(特許庁注:以下のものは登録商標)
1.TEFLON
【出願人】(303020761)ザ ガバメント オブ ザ ユナイテッド ステイツ オブ アメリカ アズ リプレゼンテッド バイ ザ セクレタリー オブ ザ デパートメント オブ ヘルス アンド ヒューマン サービシーズ (11)
【出願人】(506009866)ザ ボード オブ スーパーバイザーズ オブ ルイジアナ ステイト ユニバーシティー アンド アグリカルチュラル アンド メカニカル カレッジ アクティング スルー ルイジアナ ステイト ユニバーシティ (2)
【出願人】(506009707)ユニバーシティー オブ アラバマ リサーチ ファウンデーション (2)
【出願人】(506009899)ロマ リンダ ユニバーシティー (2)
【出願人】(506009925)ウェイク フォレスト ユニバーシティー (2)
【Fターム(参考)】