説明

亜硝酸性窒素測定方法及びその装置

【課題】亜硝酸性窒素を連続的に精度よく安全に自動測定する。
【解決手段】フローインジェクション分析法と電気化学検出法とを組合せ、試料水中の亜硝酸性窒素濃度を測定する。フローインジェクション分析法で使用する試薬溶液は酸性溶液を使用する。試料水に含まれる亜硝酸性窒素は細管41を介して注入された試薬溶液と反応する。この反応液は細管42を介してフローセル5に到達すると、試料水中の亜硝酸性窒素濃度に応じた電流がフローセル5で測定される。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、フローセルを用い電気化学測定法を検出系としてフローインジェクション分析法により溶液中の亜硝酸性窒素を測定する方法及び測定する装置に関する。
【背景技術】
【0002】
水質総量規制制度は産業の集中、人口の増加等の影響で汚濁の著しい東京湾等の広域な閉鎖性水域を対象に、環境基準の確保を図るため、当該水域に流入する上流県等の内陸部からの負荷、生活排水等を含めた汚濁源について、汚濁負荷量の総量を統一的かつ効果的に削減することを目的として制定された。この制度は、昭和53年の水質汚濁防止法の改正により導入され、昭和55年から化学的酸素要求量(Chemical Oxygen Demand:COD)を対象項目とし、実施されてきた。
【0003】
その結果、東京湾に係る汚濁負荷量は着実に削減されてきたが、CODの環境基準の達成率は満足できる状況にはなく、また、赤潮等の窒素、リンに起因する富栄養化に伴う問題も発生していることから、従来のCODに加えて新たに窒素含有量及びリン含有量も対象とした総量規制が実施されている。
【0004】
そのため、窒素含有量及びリン含有量を連続的にモニタリングする必要があり、特にリンに関して、特許文献1には、溶解性リンを精度良く、連続的に測定できる装置が提案されている。
【0005】
窒素は広く存在し、自然水中にも含まれているが、水中に窒素が増加するのは、食品、し尿、肥料等に多量に含まれているため、生活排水、工場排水、農業排水等の混入に由来する場合が多い。
【0006】
窒素は生物の増殖活動に重要な役割を果たしており、排水の生物処理に関わる微生物にとって必須の元素である。しかし、窒素は湖沼、海域等の富栄養化を促進する一因とされており、水中の窒素化合物の増加は好ましくない。
【0007】
上記のような排水中の窒素除去方法として、非特許文献1に示される生物学的硝化脱窒法がある。
【0008】
生物学的硝化脱窒法について説明する。まず好気条件下において硝化細菌の働きにより水中のアンモニアを亜硝酸や硝酸とする。生じた硝酸、亜硝酸は脱窒細菌の働きにより、NO3-→NO2-→NO→N2O→N2の順で還元されて窒素ガスとして除去される。
【0009】
この生物学的硝化脱窒プロセスの制御については、非特許文献1に次のように記載されている。「窒素除去プロセスについては、硝化や脱窒反応をセンサを用いてモニタリングする技術がある程度確立されており、それを応用した技術開発が活発である。アンモニアの測定法としてイオン電極法、硝酸・亜硝酸の測定として紫外線吸光度法が主に用いられる。」
この記載にあるようなアンモニア性窒素のモニタリング用計測装置としては、HACH社アンモニア分析装置AMTAXsc等がある。硝酸・亜硝酸性窒素のモニタリング用計測装置としては、HACH社UV式硝酸計NITRATAX等がある。これは硝酸+亜硝酸イオン濃度を測定するものである。また、アンモニア性窒素と硝酸性窒素のイオン電極式モニタリング用計測装置として、WTW社VARiONシステムがある。このように水処理プロセス監視制御用で、アンモニア性窒素及び硝酸性窒素をモニタリングできる計測装置はあるが、亜硝酸性窒素単独をモニタリングするものはない。
【0010】
生物学的硝化脱窒プロセスの制御は、上記のモニタリング技術を用いて、硝化反応、脱窒反応の終点を検出し酸素供給をオン・オフするという制御法が多く用いられている。
【0011】
硝化工程ではアンモニア性窒素を、亜硝酸性窒素を経由して硝酸性窒素まで好気条件下で酸化するのが一般的である。しかし、脱窒するためには、硝酸性窒素まで酸化する必要はなく、亜硝酸性窒素まで酸化すればよい。そのほうが亜硝酸性窒素を硝酸性窒素に酸化するために必要な酸素供給を行う必要がなくなり、省エネルギーにつながる。
【0012】
しかし、水処理プロセスで亜硝酸性窒素をモニタリングできる技術がないため、必要酸素供給量は増えるものの、アンモニア性窒素を硝酸性窒素まで酸化するのが一般的である。
【0013】
水中の亜硝酸性窒素をモニタリングできる計測装置があれば、上記のような生物学的硝化脱窒法において、アンモニア性窒素が亜硝酸性窒素に酸化された段階を検出できるため、現状より省エネルギー運転が可能となる。
【0014】
また、近年新しい生物学的窒素除去法として、非特許文献2に示すような嫌気性アンモニア酸化による窒素除去法が提案されている。
【0015】
嫌気性アンモニア酸化の反応は、NO2-がNH2OHに還元され、還元されたNH2OHとNH4+とからN24が生成し、最終的にN2ガスに脱窒される。化学量論的には次式で表される。
NH4++1.32NO2-+0.066HCO3-+0.13H+
→1.02N2+0.26NO3-+0.066CH20.50.15+2.03H2
嫌気性アンモニア酸化法では、嫌気性アンモニア酸化菌が独立栄養性の脱窒素反応を行うので水素供与体としての有機炭素源を不要とし、排水中のNH4+の半量をNO2-に酸化すればよいので酸素供給量を削減でき、余剰汚泥発生量も低減できる。嫌気性アンモニア酸化プロセスの適用は窒素濃度が高い排水に適している。
【0016】
また、嫌気性アンモニア酸化法は、従来の生物学的硝化脱窒法に比べて窒素除去速度が非常に速い。非特許文献3の記載に、従来型の生物学的硝化脱窒法と嫌気性アンモニア酸化処理の設計負荷条件を比較しているが、硝化プロセス、脱窒プロセスともに嫌気性アンモニア酸化処理の設計負荷のほうが1オーダー大きな値となっていることが示されている。また、非特許文献4の記載にあるように、嫌気性アンモニア酸化細菌は、その基質である亜硝酸性窒素の濃度によっては活性を阻害されることがある。
【0017】
上記のような嫌気性アンモニア酸化処理プロセスではアンモニア性窒素と亜硝酸性窒素から脱窒するため、アンモニア性窒素と亜硝酸性窒素のモニタリングがプロセス監視制御において重要になる。このプロセスの処理対象となる水の亜硝酸性窒素は高濃度であり、プロセスの結果である処理水の亜硝酸性窒素は低濃度になる。したがって、本プロセスでの亜硝酸性窒素モニタリングは広い濃度範囲で可能なほうが有利となる。しかも、迅速に測定できることが望まれている。
【0018】
水中の亜硝酸性窒素の測定法としては、ナフチルエチレンジアミン吸光光度法、イオンクロマトグラフ法がある(非特許文献5)。ナフチルエチレンジアミン吸光光度法は、試料にスルファニルアミドを加え、これを亜硝酸イオンによってジアゾ化し、N−1−ナフチルエチレンジアミンを加えて生じる赤い色のアゾ化合物の吸光度を測定して亜硝酸イオンを定量するものである。この方法による定量範囲は亜硝酸イオンとして0.6〜6μg、繰返し分析精度は変動係数で3〜10%である。イオンクロマトグラフ法の定量範囲は亜硝酸イオンとして0.5〜40mg/L、繰返し分析精度は変動係数で2〜10%である。
【0019】
その他、公定法ではないが、ラボ用測定方法として、株式会社東興化学研究所の亜硝酸イオンメータTiN−9003がある(非特許文献6)。
【0020】
非特許文献6によると、このイオンメータは、隔膜電極方式の亜硝酸イオン測定専用メータである。サンプルのpHが1.5以下になると亜硝酸イオンは亜硝酸に変化する。亜硝酸は隔膜を通過して電極内部に入り、亜硝酸の濃度に応じて電解液のpHを変化させる。隔膜式亜硝酸イオン電極は、このpH変化を測定して亜硝酸イオン濃度を検出する。サンプルにpH調整剤を滴下するだけの簡単な操作で、より速く、安定した亜硝酸イオンの測定が可能と記載されている。なお、亜硝酸イオンメータTiN−9003の測定範囲は0.2〜460mg/Lである。
【0021】
この亜硝酸イオンメータは、測定範囲はナフチルエチレンジアミン法やイオンクロマトグラフ法に比べて広い。しかし、試料水を容器に採水し、これにpH調整剤を添加後、電極を浸してスターラーで攪拌しながら測定しなければならないため、有人での測定が基本となり、時間も要する。
【0022】
一方、フローインジェクション分析法は、液体が連続して流れる中へ液体サンプルを注入することに基づく方法である。
【0023】
試薬溶液と測定に影響を与えない蒸留水等のキャリアー液の2本の流路を設け、試料水をキャリアー液の流れに導入する方式が一般的な構成である。
【0024】
これに対して、試薬溶液の代わりに試料水とキャリアー液を一定流速で流し、試薬溶液をキャリアー液の流れに導入する逆フローインジェクション分析法と呼ばれる方法や、高価な試薬を使用する場合には、試薬溶液をキャリアー液の流れに導入した後、検出器のところで一端、流れを停止するストップトフロー方式や単一の試料水流路に対して複数のキャリアー液、試薬溶液の流路を設けて多成分の分析を行う方法等さまざまな方法が提案されている(非特許文献7)。
【0025】
フローインジェクション分析法は可動部分が少なく、細管中を溶液側が移動することで測定を行えることが特徴であるため装置化が容易である。
【0026】
また、電気化学測定法は、高速、高感度な測定法であることから食品分野・医療分野等の各分野で広く用いられている。電気化学測定法は、化学反応を用いる方法と比較して、操作が簡便である点で優れた測定方式である。電気化学測定で用いられている方法には、ボルタンメトリのように測定用電極に一定の電位を印加して保持し、流れる電流の変化を検出する測定方法、ポーラログラフィのように測定用電極の電位変化を検出する測定方法等、各種の測定法が用いられ、いずれも測定用電極に流れる電流や測定用電極の電位変化を検出して測定を行っている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0027】
【特許文献1】特開2008−196873号公報
【非特許文献】
【0028】
【非特許文献1】水環境ハンドブック、(社)日本水環境学会編、朝倉書店、2006年10月、p.241
【非特許文献2】造水技術ハンドブック.2004、(財)造水促進センター、造水技術ハンドブック編集企画委員会編、2004年11月、p.75
【非特許文献3】NEDO開発機構、平成18年度成果報告書、副産物を活用した排水中の窒素除去技術に関する調査研究、p.1−6
【非特許文献4】嫌気性アンモニア酸化(ANAMMOX)細菌の生理・生態学的特性評価、第42回日本水環境学会年会講演集、p.285
【非特許文献5】JIS K0102:2008「工業排水試験方法」
【非特許文献6】“亜硝酸イオンメータTiN−9003”、[online]、東興化学研究所株式会社、[平成21年1月18日検索]、インターネット<URL:http://www.kagaku.com/TOKO/tin9003.html>
【非特許文献7】黒田六郎、小熊幸一、中村洋著、「フローインジェクション分析法」、共立出版株式会社、1990年9月、pp.50−117
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0029】
しかしながら、現在の亜硝酸性窒素の測定法では、水処理プロセスからの採水から亜硝酸性窒素の検出まで時間を要するため迅速さに欠ける。また、イオンクロマトグラフ法では、亜硝酸性窒素の定量範囲の上限が40mg/L程度と低いので、亜硝酸性窒素が高濃度の場合には、試料水を希釈して測定しなければならない。
【0030】
特に、嫌気性アンモニア酸化処理プロセスは、窒素除去速度が従来の生物学的硝化脱窒法に比べて非常に速く、処理時間が短い。また、正常な処理プロセスが亜硝酸性窒素の濃度によっては阻害されるおそれもある。したがって、より迅速に亜硝酸性窒素濃度測定し、処理プロセスを制御することが求められている。
【0031】
上記課題を解決するため、本発明では、測定可能な亜硝酸性窒素濃度範囲が広く、迅速かつ高精度に測定できる亜硝酸性窒素測定方法及びその装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0032】
上記目的を達成する本発明の亜硝酸性窒素測定方法は、試料水と試薬溶液を混合させた反応溶液を所定の速度でフローセルに供給し、このフローセルに配置された電極間に電圧を印加して検出される電流または電荷に基づいて前記試料水中の亜硝酸性窒素濃度を測定することを特徴としている。
【0033】
また、上記亜硝酸性窒素測定方法において、前記試薬溶液を、前記フローセルに前記試料水を導入するためのキャリアー液として用いる様態が挙げられる。
【0034】
また、上記亜硝酸性窒素測定方法において、前記試料水及び前記試薬溶液に対して不活性なものを、前記フローセルに前記試料水を導入するためのキャリアー液として用いる様態が挙げられる。
【0035】
また、上記亜硝酸性窒素測定方法において、前記試薬溶液は、硫酸溶液、塩酸溶液、クエン酸溶液、酢酸溶液、硝酸溶液のいずれかであるとよい。
【0036】
また、上記目的を達成する本発明の亜硝酸性窒素測定装置は、試料水に試薬溶液を混合させた反応溶液が所定の速度で導入されるフローセルと、該フローセルに配置される電極間に電圧を印加して検出される電流または電荷に基づいて、前記試料水中の亜硝酸性窒素濃度を測定する測定手段と、を備えたことを特徴としている。
【発明の効果】
【0037】
したがって、以上の発明によれば、迅速かつ高精度に溶液中の亜硝酸性窒素の濃度を測定することができる。
【図面の簡単な説明】
【0038】
【図1】本発明の実施形態1に係る亜硝酸性窒素測定装置を示した概略構成図。
【図2】フローインジェクション分析法で測定された電流のパターンを示した特性図。
【図3】試薬溶液中の硫酸濃度とその硫酸濃度で計測される最大電流の関係(亜硝酸性窒素標準液濃度200mg−N/Lの場合)を示した特性図。
【図4】試薬溶液中の硫酸濃度が0.6mL/Lである場合の亜硝酸性窒素標準液濃度と測定した電流値から算出した電気量の関係を示した特性図。
【図5】試薬溶液中の硫酸濃度が3mL/Lである場合の亜硝酸性窒素標準液濃度と測定した電流値から算出した電気量の関係を示した特性図。
【図6】試薬溶液中の硫酸濃度が6mL/Lである場合の亜硝酸性窒素標準液濃度と測定した電流値から算出した電気量の関係を示した特性図。
【図7】試薬溶液中の硫酸濃度が15mL/Lである場合の亜硝酸性窒素標準液濃度と測定した電流値から算出した電気量の関係を示した特性図。
【図8】試薬溶液中の硫酸濃度が30mL/Lである場合の亜硝酸性窒素標準液濃度と測定した電流値から算出した電気量の関係を示した特性図。
【図9】試薬溶液中の硫酸濃度が60mL/Lである場合の亜硝酸性窒素標準液濃度と測定した電流値から算出した電気量の関係を示した特性図。
【図10】印加電圧と測定した電流値から算出した電気量の関係(亜硝酸性窒素標準液濃度100mg−N/Lの場合)を示す特性図。
【図11】印加電圧が270mVである場合の亜硝酸性窒素標準液濃度と測定した電流値から算出した電気量の関係を示した特性図。
【図12】印加電圧が300mVである場合の亜硝酸性窒素標準液濃度と測定した電流値から算出した電気量の関係を示した特性図。
【図13】印加電圧が315mVである場合の亜硝酸性窒素標準液濃度と測定した電流値から算出した電気量の関係を示した特性図。
【図14】印加電圧が330mVである場合の亜硝酸性窒素標準液濃度と測定した電流値から算出した電気量の関係を示した特性図。
【図15】印加電圧が360mVである場合の亜硝酸性窒素標準液濃度と測定した電流値から算出した電気量の関係を示した特性図。
【図16】印加電圧が400mVである場合の亜硝酸性窒素標準液濃度と測定した電流値から算出した電気量の関係を示した特性図。
【図17】印加電圧が450mVである場合の亜硝酸性窒素標準液濃度と測定した電流値から算出した電気量の関係を示した特性図。
【図18】印加電圧が480mVである場合の亜硝酸性窒素標準液と測定した電流値から算出した電気量の関係を示した特性図。
【図19】試薬溶液及びキャリアー液の流速とその流速の条件で検出される電流値から算出した電気量の関係(亜硝酸性窒素標準液濃度100mg−N/Lの場合)を示した特性図。
【図20】試薬溶液及びキャリアー液の流速が0.3mL/分である場合の亜硝酸性窒素標準液濃度と測定した電流値から算出した電気量の関係を示した特性図。
【図21】試薬溶液及びキャリアー液の流速が0.45mL/分である場合の亜硝酸性窒素標準液濃度と測定した電流値から算出した電気量の関係を示した特性図。
【図22】試薬溶液及びキャリアー液の流速が0.6mL/分である場合の亜硝酸性窒素標準液濃度と測定した電流値から算出した電気量の関係を示した特性図。
【図23】試薬溶液及びキャリアー液の流速が0.9mL/分である場合の亜硝酸性窒素標準液濃度と測定した電流値から算出した電気量の関係を示した特性図。
【図24】試薬溶液及びキャリアー液の流速が1.2mL/分である場合の亜硝酸性窒素標準液濃度と測定した電流値から算出した電気量の関係を示した特性図。
【図25】試薬溶液及びキャリアー液の流速が0.45mL/分、及び1.2mL/分である場合に測定された電流パターンを示す特性図。
【図26】試料量(μL)とその試料量で測定した場合に、検出される電流値から算出した電気量(mC)の関係を示した特性図。
【図27】試料量100μL、600μLの場合に、検出される電流パターンを示す特性図。
【図28】亜硝酸性窒素標準液の濃度(0〜20mg−N/L)と測定した電流値から算出した電気量(μC)との関係を示した特性図。
【図29】測定精度を示した特性図。
【図30】本発明に係る亜硝酸性窒素測定方法の選択性試験結果。
【図31】本発明に係る亜硝酸性窒素測定方法と公定法との比較結果。
【図32】本発明の実施形態2に係る亜硝酸性窒素測定装置を示した概略構成図。
【発明を実施するための形態】
【0039】
本発明は、連続的に、迅速かつ高精度に自動測定できる亜硝酸性窒素測定方法とその装置に関するものである。以下、本発明の実施形態に係る亜硝酸性窒素測定装置を例示して本発明の亜硝酸性窒素測定方法、及び亜硝酸性窒素測定装置について詳細に説明するが、本発明の亜硝酸性窒素測定方法、及び亜硝酸性窒素測定装置は、実施形態に限定されるものではなく、本発明の効果を損なわない範囲で適宜設計変更可能である。
【0040】
(実施形態1)
図1に示された、本発明の実施形態1に係る亜硝酸性窒素測定装置1は、フローインジェクション分析によって亜硝酸性窒素濃度を測定する。フローインジェクション分析は、試薬溶液とキャリアー液を一定流量で流し、この流れの中に測定対象の試料水を導入して測定する方法である。試料水としては例えば下水処理場や食品製造業、繊維工業、化学工業等の製造業から排出された廃水等が挙げられる。
【0041】
亜硝酸性窒素測定装置1は、試薬溶液として硫酸溶液が供される。フローインジェクション分析手段2は、インジェクションバルブ3と混合器4とフローセル5とを備える。フローインジェクション分析手段2によって試料水中の亜硝酸性窒素濃度を電気化学的に測定する。
【0042】
亜硝酸性窒素測定装置1へ供する試薬溶液として、硫酸溶液を例示したが、酸性溶液なら問題なく、塩酸溶液、クエン酸溶液、酢酸溶液、硝酸溶液等が利用できる。
【0043】
インジェクションバルブ3はキャリアー液と試薬溶液又は試料水とを注入するための注入手段である。図示されたインジェクションバルブ3は六方ロータリーバルブタイプである。インジェクションバルブ3には流路として細管31〜35が接続されている。細管31はポンプP2によって供給されたキャリアー液を注入するための流路を構成する管である。細管32はポンプP3によって供給された試料水を注入するための流路を構成する管である。細管33はサンプルループを構成した管である。細管34は試料水を含んだキャリアー液を混合器4に供給するための流路を構成した管である。細管35はサンプルループ(細管33)からオーバーフローした試料水をドレイン部であるドレイン瓶7に移送するための管である。
【0044】
インジェクションバルブ3は、キャリアー液と試料水とを注入する形態となっているが、キャリアー液と試薬溶液とを注入するような形態にしてもよい。また、前記注入手段の形態は、インジェクションバルブ3のような六方ロータリーバルブタイプに限定されず、例えば注射器タイプや比例インジェクタータイプ等が挙げられる。
【0045】
混合器4は前記キャリアー液と前記試薬溶液と前記試料水とを混合する。混合器4としては電気化学検出を用いたフローインジェクション分析に供されている既知の混合器を用いればよい。混合器4には細管34と細管41、42が接続されている。細管41はポンプP1によって供給された試薬溶液を注入するための流路を構成する管である。細管42は混合器4から供給された試料水及び試薬を含んだキャリアー液をフローセル5に注入するための流路を構成する管である。これら、化学反応にかかわる細管部等は、適宜加温装置(図示省略)で加温することにより反応速度を高めることができる。その結果、さらなる測定の迅速化を図ることができる。
【0046】
フローセル5には細管42を介して供されたキャリアー液等をドレイン瓶7に移送するための細管51が接続されている。
【0047】
また、フローセル5の内部は、作用電極と参照電極と対極及び電解液から構成される。本発明の実施形態である亜硝酸性窒素測定装置1のフローセル5の内部の作用電極はグラッシーカーボン、参照電極はAg/AgCl、対極はSUS316等からなる。この作用電極、参照電極、対極等の各電極の種類は、上記各電極等の組合せに限定されるものではなく、測定に支障がない種類・組合せを適宜選択する。
【0048】
フローセル5は、ポテンショスタット8によって参照電極に対する作用電極の電圧を一定に保ちながら、混合器4から供給されたキャリアー液に含まれた試料水と試薬溶液との反応に基づき生ずる作用電極と対極間の電流変化を検出する。
【0049】
参照電極に対する作用電極の印加電圧は、270〜480mVとした。ただし、印加電圧の範囲はこの範囲に限定されるものではなく、測定に支障がない値に適宜設定される。電気化学測定法としては、クーロメトリー、クロノアンペロメトリー等を用いる。
【0050】
また、フローセル5や亜硝酸性窒素測定装置1内部や設置環境等の温度が図示省略の計測装置により計測され、計測された計測信号がコンピュータ9へ送信される。
【0051】
本発明の亜硝酸性窒素測定装置1の試薬溶液として、硫酸濃度が0.6〜60mL/Lの硫酸溶液を調製した。ただし、硫酸溶液の硫酸濃度はこの範囲に限定されるものではなく、測定に支障がない値に適宜設定される。
【0052】
また、キャリアー液は純水を使用する。ただし、該キャリアー液は、試料水及び試薬溶液に対して不活性であれば、純水でなくとも超純水やフッ素系不活性液体等を使用すればよい。
【0053】
亜硝酸性窒素測定装置1の動作例について図1を参照しながら説明する。試薬溶液、キャリアー液及び試料水はそれぞれポンプP1、P2及びP3により、一定速度で各ポンプに接続された細管へと送液される。試料水は、ポンプP3によりドレイン部(ドレイン瓶7)まで送液される。サンプル瓶6内の試料水はポンプP3によって細管32を介してインジェクションバルブ3に供給される。インジェクションバルブ3とサンプルループの細管33とで計量された試料水はインジェクションバルブ3の経路切替により細管31を介して供されたキャリアー液の流れに乗って細管33、34を介して混合器4に供給される。このとき、試料水に含まれる亜硝酸性窒素は細管41を介して注入された試薬溶液と反応する。この反応液は細管42を介してフローセル5に到達すると、試料水中の亜硝酸性窒素濃度に応じた電流がフローセル5で測定される。フローセル5で測定される電流は、反応温度等の影響を受け変化する。そのため、ポテンショスタット8による電極間電圧制御下において、フローセル5で亜硝酸性窒素濃度に対して計測される電流は、コンピュータ9に入力され積分処理されるとともに、温度計測値による補正等の演算処理の後に、亜硝酸性窒素濃度計測値として表示される。そして、この亜硝酸性窒素濃度計測値は、生物処理プロセス制御用の伝送出力等として外部出力される。
【0054】
フローセル5を経由した試薬溶液及び試料水を含んだキャリアー液は細管51を介して廃液としてドレイン瓶7に導かれる。
【0055】
図2はフローインジェクション分析法で測定された電流のパターンを示した特性図である。図2は試料水として亜硝酸性窒素標準液を用い、同一濃度の亜硝酸性窒素標準液を6分間隔で繰返し3回ずつ測定した結果である。
【0056】
図3〜図9を参照して、測定条件の試薬溶液中の硫酸濃度について検討した結果を示す。
【0057】
図1の亜硝酸性窒素測定装置1において、表1に示した条件で硫酸濃度が0.6〜60mL/Lとなるように試薬を調製し、試料水の測定を行った。試料水としては0、100、200、300mg−N/Lの亜硝酸性窒素標準液を用い、インジェクションバルブ3から注入して測定した。
【0058】
【表1】

【0059】
図3は、試薬溶液中の硫酸濃度と最大電流の関係(亜硝酸性窒素標準液200mg−N/Lの場合)を示したものである。図3のように試薬溶液中の硫酸濃度が高いほど最大電流は高くなった。
【0060】
図4〜図9は、図1の亜硝酸性窒素測定装置1において、表1の条件で試薬溶液として硫酸溶液の濃度が0.6〜60mL/Lである場合に、0〜300mg−N/Lの亜硝酸性窒素標準液濃度に対してフローセル5で測定した電流値から算出した電気量(mC)を示す。なお、図4〜図9に表記された図の縦軸はフローセル5で測定された電流値に基づいて算出される電気量(mC)、図の横軸は試料水の亜硝酸性窒素濃度(mg−N/L)である。
【0061】
図4〜図9から明らかなように、試薬溶液中の硫酸濃度が0.6〜60mL/Lの場合、0〜300mg−N/Lの濃度範囲の亜硝酸性窒素が測定できた。
【0062】
試薬の使用量は少ないほうがランニングコストが安くなり好ましい。また、本装置での測定廃液はpHが低く、処分の際に中和が必要になるが、その場合を考えても測定に用いる硫酸濃度は低いほうが、ランニングコストが安くなり、さらに好ましい。試薬溶液中の硫酸濃度は測定精度の許容できる範囲で低い濃度を設定する。
【0063】
図10〜図18に、測定条件のうち印加電圧について検討した結果を示す。
【0064】
図1の亜硝酸性窒素測定装置1において、表2の条件で硫酸溶液を試薬溶液とし、インジェクションバルブ3から試料水として0、100、200、300、400、500mg−N/Lの亜硝酸性窒素標準液を注入し、印加電圧は270mV〜480mVまで変化させ、フローセル5で電流値を測定し、電流値から電気量を算出した。
【0065】
【表2】

【0066】
図10は、印加電圧と測定した電流値から算出した電気量の関係(亜硝酸性窒素標準液濃度100mg−N/Lの場合)を示す特性図である。この印加電圧の範囲では、印加電圧が増加するに伴って、電流値から算出した電気量は減少した。
【0067】
図11〜図18は、図1の亜硝酸性窒素測定装置1において、表2の条件で印加電圧を270〜480mVとし、0〜500mg−N/Lの亜硝酸性窒素標準液濃度に対してフローセル5で測定した電流値から算出した電気量(mC)を示す。
【0068】
図11〜図18に示された決定係数(R2)がいずれもR2>0.9であるので、表2の条件において、印加電圧270〜480mVの範囲で精度よく測定できることを示している。印加電圧は感度等に影響するので、測定に支障のない範囲内で適宜設定される。
【0069】
図19〜図25に、試薬溶液及びキャリアー液の流速について検討した結果を示す。
【0070】
図1の亜硝酸性窒素測定装置1において、表3の条件で、インジェクションバルブ3から試料水として0〜500mg−N/Lの亜硝酸性窒素標準液を注入し、フローセル5で測定した電流値から電気量を算出した。試薬溶液及びキャリアー液の流速は、0.3〜1.2mL/分の範囲で変化させた。
【0071】
図19〜図24は、硫酸溶液を試薬溶液とし、インジェクションバルブから試料水として0〜500mg−N/Lの亜硝酸性窒素標準液を注入し、試薬溶液及びキャリアー液の流速を0.3〜1.2mL/分に変化させ、フローセル5で測定した電流値から電気量(mC)を算出した結果である。
【0072】
【表3】

【0073】
図19に、試薬溶液及びキャリアー液の流速と測定した電流値から算出した電気量の関係(亜硝酸性窒素標準液濃度100mg−N/Lの場合)を示す。表3に示す試薬及びキャリアー液の流速範囲では、流速が遅いほど電気量が増加した。
【0074】
図20〜図24は、図1の亜硝酸性窒素測定装置1において、表3の条件で試薬溶液及びキャリアー液の流速を0.3〜1.2mL/分の範囲で変化させ、0〜500mg−N/Lの亜硝酸性窒素標準液において、フローセル5で測定した電流値から電気量(mC)を算出した結果である。
【0075】
図20〜24に示された決定係数(R2)がいずれもR2>0.9であるので、表3の条件において、キャリアー液の流速が0.3〜1.2mL/分の範囲で亜硝酸性窒素濃度が測定できることを示している。
【0076】
また、図25は、試薬溶液及びキャリアー液の流速が0.45mL/分及び1.2mL/分における測定電流のパターンを示す特性図である。図25のように流速が遅いほど、電流変化パターンがブロードになる。また、流速が遅いほうが、電流が検出される時間が長くなる。反応液の流速が速くなると測定電流の時間変化パターンはシャープになり、前記流速が遅くなるとブロードになる。フローインジェクション分析法では一般に流速は測定の感度等に影響するので、流速は、測定に支障のない範囲内で適宜設定される。
【0077】
前記流速は混合器内において硫酸を含む試薬溶液と試料水との化学反応に影響するとともにフローセル5内の作用電極上での酸化還元反応に影響する。
【0078】
試薬溶液及びキャリアー液の使用量は少ないほうがランニングコストを抑えることができるため、流速が遅いほうが好ましい。一方、流速を遅くすることにより電流が計測される時間が長くなるため、1回の計測に要する測定間隔が長くなる。流速は、測定精度、測定間隔の許容できる範囲内でできるだけ遅く設定するほうがよい。
【0079】
図26、27に、試料量について検討した結果を示す。
【0080】
図1の亜硝酸性窒素測定装置1において、表4の条件で試料水として100mg−N/Lの亜硝酸性窒素標準液をインジェクションバルブ3から50、100、200、400、600μLの試料量で注入し、フローセル5で電流値を測定し、電気量を算出した。
【0081】
【表4】

【0082】
図26は、試料量(μL)と測定した電流値から算出した電気量(mC)の関係を示した特性図である。なお、図26には試料量200μLでの電気量とゼロ点(0、0)を結んだ線を直線で記してある。
【0083】
図26に示すように、試料量が大きいほど電気量が大きくなるが、表4の条件では電気量は試料量に比例しているわけではない。試料量50、100、200μLの電気量は前述の直線に沿っている。一方、試料量400、600μLの電気量はこの直線より下方に位置しているが、硫酸濃度、試料量、試薬とキャリアー液の流速等の測定条件を最適化すれば直線上に乗ってくると考えられる。
【0084】
図27に、試料量100μL、600μLでの電流測定パターンを示す。試料量が大きいほど最大電流が大きくなり、電流が測定される時間が長くなる。
【0085】
この結果から、電気量が試料量に比較的比例している範囲で、かつ電気量ができるだけ大きい試料量として、200μLを選定して試験を行った。ただし、試料量は、この値に限定されるものではなく、測定に支障がない範囲で適宜選定される。
【0086】
図28に、測定範囲について検討した結果を示す。
【0087】
図1の亜硝酸性窒素測定装置1において、表5の条件で0〜20mg−N/Lの亜硝酸性窒素標準液を試料水として、インジェクションバルブ3から200μLの試料量を注入し、フローセル5で電流値を測定し、電気量を算出した。
【0088】
図28は、亜硝酸性窒素標準液の濃度(0〜20mg−N/L)と電流値から算出した電気量との関係を示す特性図である。
【0089】
【表5】

【0090】
図28の決定係数(R2)が0.996と高く、表5の条件において亜硝酸性窒素濃度が20mg−N/L以下の範囲でも測定できることを示している。
【0091】
図29に、亜硝酸性窒素測定装置1による測定値の再現性について示す。図29は、図1の亜硝酸性窒素測定装置1において、表6の条件で亜硝酸性窒素標準液100mg−N/Lを6分間隔で測定した結果である。
【0092】
【表6】

【0093】
図29から、53回の測定値の変動係数は0.7%となり良好な再現性で測定できることが示された。
【0094】
本発明に係る亜硝酸性窒素測定方法による、各種窒素形態の選択性について検討した結果を説明する。
【0095】
図1の亜硝酸性窒素測定装置1において、表7の条件で、硝酸性窒素、アンモニア性窒素、亜硝酸性窒素及び3種類の窒素形態の混合液の4種類の試料水を調製し測定した。その測定結果を図30に示す。
【0096】
【表7】

【0097】
硝酸性窒素、アンモニア性窒素、亜硝酸性窒素及び3種類の窒素形態の混合液に対して、亜硝酸性窒素のみ測定された。
【0098】
したがって、各種窒素形態に対して、本発明に係る測定方法は、亜硝酸性窒素を選択的に測定できることが確認できた。
【0099】
次に、本発明に係る亜硝酸性窒素測定法と公定法(ナフチルエチレンジアミン吸光光度法)との比較試験結果について説明する。
【0100】
図1の亜硝酸性窒素測定装置1において、表8の条件で、活性汚泥脱水ろ液の亜硝酸化処理水及び無機合成廃水の亜硝酸化処理水を適宜希釈して試料水として測定した。また、公定法でも同一試料水を測定した。その結果を図31に示す。
【0101】
【表8】

【0102】
本発明の測定結果と公定法による測定結果との相関が高く、かつ、回帰直線の傾きが1.00となり、両測定法による測定値に誤差はほとんど無く高精度に測定できることが示された。
【0103】
(実施形態2)
図32に示された、本発明の実施形態2に係る亜硝酸性窒素測定装置10は、フローインジェクション分析によって亜硝酸性窒素濃度を測定する。本発明の実施形態2に係る亜硝酸性窒素測定装置10は、フローインジェクション分析において、試薬溶液を一定流量で流し、この流れの中に測定対象の試料水を導入して測定すること以外は、本発明の実施形態1に係る亜硝酸性窒素測定装置1と同様方法により分析を行うものである。したがって、測定条件や使用する試薬の種類等は実施形態1で説明した亜硝酸性窒素測定装置1と同様であり、亜硝酸性窒素測定装置10において亜硝酸性窒素測定装置1と同様のものについては同様の符合を付し、詳細な説明は省略する。
【0104】
亜硝酸性窒素測定装置10は、試薬溶液として硫酸溶液が供される。フローインジェクション分析手段11は、インジェクションバルブ3とフローセル5とを備える。フローインジェクション分析手段11によって試料水中の亜硝酸性窒素濃度を電気化学的に測定する。
【0105】
インジェクションバルブ3は試薬溶液に試料水を注入するための注入手段である。図示されたインジェクションバルブ3は六方ロータリーバルブタイプである。インジェクションバルブ3には流路として細管32、33、35、43、44が接続されている。細管43はポンプP4によって供給された試薬溶液を注入するための流路を構成する管である。細管32はポンプP3によって供給された試料水を注入するための流路を構成する管である。細管33はサンプルループを構成した管である。細管44は試料水を含んだ試薬溶液をフローセル5に供給するための流路を構成した管である。細管35はサンプルループ(細管33)からオーバーフローした試料水をドレイン部であるドレイン瓶7に移送するための管である。
【0106】
前記注入手段の形態は、インジェクションバルブ3のような六方ロータリーバルブタイプに限定されず、例えば注射器タイプや比例インジェクタータイプ等を用いればよい。
【0107】
化学反応にかかわる細管部(例えば、細管44)等は、適宜加温装置(図示省略)で加温することにより反応速度を高めることができる。その結果、さらなる測定の迅速化を図ることができる。
【0108】
フローセル5には細管44を介して供された試薬溶液や試料水をドレイン瓶7に移送するための細管51が接続されている。
【0109】
また、フローセル5の内部は、作用電極と参照電極と対極及び電解液から構成される。本発明の実施形態である亜硝酸性窒素測定装置10のフローセル5の内部の作用電極はグラッシーカーボン、参照電極はAg/AgCl、対極はSUS316等からなる。この作用電極、参照電極、対極等の各電極の種類は、上記各電極等の組合せに限定されるものではなく、測定に支障がない種類・組合せを適宜選択する。
【0110】
フローセル5は、ポテンショスタット8によって参照電極に対する作用電極の電圧を一定に保ちながら、細管44から供給された試料水と試薬溶液との反応に基づき生ずる作用電極と対極間の電流変化を検出する。
【0111】
参照電極に対する作用電極の印加電圧は、270〜480mVとした。ただし、印加電圧の範囲はこの範囲に限定されるものではなく、測定に支障がない値に適宜設定される。電気化学測定法としては、クーロメトリー、クロノアンペロメトリー等を用いる。
【0112】
また、フローセル5や亜硝酸性窒素測定装置10内部や設置環境等の温度は図示省略の計測器により計測され、計測された計測信号がコンピュータ9へ送信される。
【0113】
本発明の亜硝酸性窒素測定装置10の試薬溶液として、硫酸濃度が0.3〜30mL/Lの硫酸溶液を調製した。ただし、硫酸溶液の硫酸濃度はこの範囲に限定されるものではなく、測定に支障がない値に適宜設定される。
【0114】
亜硝酸性窒素測定装置10の動作例について図32を参照しながら説明する。試薬溶液はポンプP4により、一定速度で細管44へ送液される。サンプル瓶6内の試料水はポンプP3によって細管32を介してインジェクションバルブ3に供給され、ドレイン部(ドレイン瓶7)まで送液される。インジェクションバルブ3とサンプルループの細管33とで計量された試料水は、インジェクションバルブ3の経路切替により細管43を介して供された試薬溶液の流れに乗って細管33、44を介してフローセル5に供給される。このとき、試料水に含まれる亜硝酸性窒素は試薬溶液と反応する。この反応液は細管44を通過してフローセル5に到達すると、試料水中の亜硝酸性窒素濃度に応じた電流がフローセル5で測定される。フローセル5で測定される電流は、反応温度等の影響を受け変化する。そのため、ポテンショスタット8による電極間電圧制御下において、フローセル5で亜硝酸性窒素濃度に対して計測される電流は、コンピュータ9に入力され積分処理されるとともに、温度計測値による補正等の演算処理の後に、亜硝酸性窒素濃度計測値として表示される。そして、この亜硝酸性窒素濃度計測値は、生物処理プロセス制御用の伝送出力等として外部出力される。
【0115】
フローセル5を経由した試薬溶液及び試料水を含んだキャリアー液は細管51を介して廃液としてドレイン瓶7に導かれる。
【0116】
実施形態1に係る亜硝酸性窒素測定装置1と同様に、実施形態2に係る亜硝酸性窒素測定装置10によれば、水中の0〜500mg−N/Lの亜硝酸性窒素を希釈することなく測定できることが実験で確認された。
【0117】
実施形態2に係る亜硝酸性窒素測定装置10によれば、キャリアー液を流通させるための配管とポンプが不要であるため、装置部品点数を削減でき、亜硝酸性窒素測定装置10を簡略化することができる。また、ポンプの数を削減することで、削減したポンプの流量変動による測定精度の低下が起こらないので、亜硝酸性窒素測定装置10の測定精度が向上する。さらに、測定に必要な溶液(試薬溶液、試料水)の数が2つとなるため、溶液を格納するための容器の数を減らすことができ、溶液の補充等の作業が軽減される。
【0118】
以上、実施形態1、2で示したように、本発明の亜硝酸性窒素測定方法及び亜硝酸性窒素測定装置によれば、水処理プロセスで亜硝酸性窒素をモニタリングできるとともに、亜硝酸性窒素濃度の計測信号を用いたプロセス制御により、生物学的硝化脱窒法による廃水処理の省エネルギー運転が可能となる。
【0119】
また、本発明の亜硝酸性窒素測定装置は、水中の0〜500mg−N/Lの亜硝酸性窒素を希釈することなく測定することが可能である。さらに、迅速に精度よく、無人で連続的に測定することができる。
【0120】
したがって、本発明の亜硝酸性窒素測定装置を、高い亜硝酸性窒素含有水を処理する嫌気性アンモニア酸化処理プロセスの監視制御に用いることが可能となる。
【符号の説明】
【0121】
1、10…亜硝酸性窒素測定装置
2、11…フローインジェクション分析手段
3…インジェクションバルブ
4…混合器
5…フローセル
6…サンプル瓶
7…ドレイン瓶
8…ポテンショスタット
9…コンピュータ(測定手段)
31〜35、41〜44、51…細管

【特許請求の範囲】
【請求項1】
試料水と試薬溶液を混合させた反応溶液を所定の速度でフローセルに供給し、このフローセルに配置された電極間に電圧を印加して検出される電流または電荷に基づいて前記試料水中の亜硝酸性窒素濃度を測定すること
を特徴とする亜硝酸性窒素測定方法。
【請求項2】
前記試薬溶液を、前記フローセルに前記試料水を導入するためのキャリアー液として用いること
を特徴とする請求項1に記載の亜硝酸性窒素測定方法。
【請求項3】
前記試料水及び前記試薬溶液に対して不活性なものを、前記フローセルに前記試料水を導入するためのキャリアー液として用いること
を特徴とする請求項1に記載の亜硝酸性窒素測定方法。
【請求項4】
前記試薬溶液は、硫酸溶液、塩酸溶液、クエン酸溶液、酢酸溶液、硝酸溶液のいずれかであること
を特徴とする請求項1から請求項3のいずれか1項に記載の亜硝酸性窒素測定方法。
【請求項5】
試料水に試薬溶液を混合させた反応溶液が所定の速度で導入されるフローセルと、
該フローセルに配置される電極間に電圧を印加して検出される電流または電荷に基づいて、前記試料水中の亜硝酸性窒素濃度を測定する測定手段と、を備えたこと
を特徴とする亜硝酸性窒素測定装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【図14】
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【図15】
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【図16】
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【図17】
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【図18】
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【図19】
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【図20】
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【図21】
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【図22】
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【図23】
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【図24】
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【図25】
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【図26】
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【図27】
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【図28】
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【図29】
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【図30】
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【図31】
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【図32】
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