説明

亜硝酸濃度の測定装置及び測定方法

【課題】液体中の亜硝酸濃度を迅速、且つ、正確に測定する装置及び方法を提供する。
【解決手段】亜硝酸濃度の測定装置は、336nm、347nm、359nm、372nm、386nmの波長のうち、少なくとも一つの波長について、亜硝酸による紫外線吸光度のピーク高さ又はピーク面積と亜硝酸濃度との関係を示す検量線を記憶する記憶部と、測定対象の液体の紫外線吸光度スペクトルを測定する紫外線吸光度測定装置と、測定した紫外線吸光度スペクトルから、前記記憶部に記憶されている検量線の対象となる前記波長についてのピーク高さ又はピーク面積を算出し、算出した前記ピーク高さ又はピーク面積と前記検量線とによって、前記測定対象の液体中の亜硝酸濃度を算出する演算部と、を備える。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、液体中の亜硝酸を検出する方法、亜硝酸の濃度を測定する測定装置及び測定方法、亜硝酸濃度を制御する制御装置及び制御方法に関する。特に、シリコン結晶ウエハの化学エッチングにおいて使用する硝酸(HNO)とフッ酸(HF)の混酸を含むエッチング溶液中の亜硝酸濃度を測定する測定装置及び測定方法、亜硝酸濃度を制御する制御装置及び制御方法に関する。
【背景技術】
【0002】
半導体素子及び半導体装置に用いられるシリコン結晶ウエハは、単結晶シリコンインゴット又は多結晶シリコンインゴットを機械加工することにより得られる。このため、得られたシリコン結晶ウエハには機械加工に起因するダメージ層を有している。ダメージ層としては、例えば、非晶質層、多結晶層、モザイク層、クラック層、歪み層等が含まれると考えられる。また、機械加工時に使用された砥粒、潤滑剤等が残存している場合がある。これらのダメージ層及び残存物は、シリコン結晶ウエハを用いた半導体素子の製造工程において悪影響を及ぼす可能性が大きい。そこで、通常、半導体素子の製造工程の前に、上記ダメージ層及び残存物を除去するために、シリコン結晶ウエハを化学エッチングする工程が行われる(例えば、特許文献1参照。)。
【0003】
シリコン結晶ウエハの化学エッチングは、様々な条件に応じて酸性又はアルカリ性で行われる。例えば、等方的なエッチングを行う場合には、硝酸(HNO)とフッ酸(HF)の混酸を含むエッチング溶液を用いることが知られている。硝酸(HNO)とフッ酸(HF)の混酸を含むエッチング溶液を用いた化学エッチングの反応は、例えば、以下の化学反応式(1)及び(2)に示す通りである。
a)硝酸によるシリコンの酸化
Si+4HNO→SiO+4NO+2HO (1)
b)フッ酸によるSiOの溶解除去
SiO+6HF→HSiF+2HO (2)
【0004】
しかし、同じエッチング溶液を用いて複数枚のシリコン結晶ウエハの化学エッチング処理を続けて行っていると、上記化学反応式(1)及び(2)に示されるように、硝酸及びフッ酸が消耗されていくためエッチング速度が低下する。
【0005】
一方、上記化学反応式(1)で生成される二酸化窒素NOは、さらに水と反応して低温の場合、下記の反応式(3)のように硝酸と亜硝酸を生じる。
2NO+HO→HNO+HNO (3)
そこで、エッチング溶液中の亜硝酸濃度を測定することによってエッチング溶液の消耗の程度を測定することができる。
【0006】
亜硝酸の測定方法としては、例えば、日本工業規格JIS K0102 43.1(亜硝酸イオンNO)の43.1.1ナフチルエチレンジアミン吸光光度法の項では、試料としてスルファニルアミド(4−アミノベンゼンスルホンアミド)を加えて亜硝酸イオンによって試料をジアゾ化させて、生じる赤い色のアゾ化合物の吸光度を測定して亜硝酸イオンの量を見積もる方法がある。また、JIS K0102 43.1.2イオンクロマトグラフ法の項に示されるように、イオンクロマトグラフ法による亜硝酸イオンの測定方法も知られている(例えば、非特許文献1参照。)。
【0007】
さらに、海水中の硝酸イオン及び亜硝酸イオンの濃度測定方法が知られている(例えば、特許文献2参照。)。この方法では、波長215〜240nmの範囲で吸光光度法による紫外吸光スペクトルを計測して硝酸イオン及び亜硝酸イオンを計測している。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【特許文献1】特開2006−151779号公報
【特許文献2】特開2008−145297号公報
【非特許文献】
【0009】
【非特許文献1】日本工業規格JIS K0102 43.1亜硝酸イオン(NO2−)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
しかし、上記イオンクロマトグラフ法では、準備及び測定等に非常に手間がかかるため、エッチング溶液のモニタリングには適していないものと思われる。また、上記ナフチルエチレンジアミン吸光光度法では、亜硝酸イオンを直接に測定するのではなく、試料を亜硝酸イオンによってジアゾ化させて得られたアゾ化合物の量を間接的に測定している。そのため、測定対象の溶液中に亜硝酸イオン以外の酸化性物質が多く含まれている場合には測定方法として適切ではない。
【0011】
また、特許文献2による測定方法では、波長215〜240nmの範囲のうち亜硝酸イオンに起因する吸光度スペクトルのいずれの波長のピークが亜硝酸イオンに由来するか不明なまま測定を行っている。したがって、どのように実施すれば亜硝酸イオンを測定できるか特許文献2には十分な記載がなく、実施不可能なものであって有効な測定方法とはいえない。
【0012】
そこで、本発明の目的は、液体中の亜硝酸濃度を迅速、且つ、正確に測定する装置及び方法を提供することである。
【0013】
また、シリコン結晶ウエハなどを化学エッチングする工程では、上述のように、フッ酸と硝酸の混酸を主成分とするエッチング溶液が使用される。このエッチング溶液中の亜硝酸濃度は、シリコン結晶ウエハのエッチング速度、エッチング良否を左右する重要なパラメータである。しかし、これまで亜硝酸濃度を迅速に、且つ、正確に測定する手段がなかった。そのため、シリコン結晶ウエハの化学エッチング工程でフッ酸と硝酸を主成分とする混酸を含むエッチング溶液中の亜硝酸濃度を一定にするように制御することができなかった。
【0014】
そこで、本発明のもう一つの目的は、フッ酸と硝酸の混酸を主成分とするエッチング溶液中の亜硝酸濃度を一定に制御する装置及び方法を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0015】
本発明に係る亜硝酸検出方法は、測定対象の液体の紫外線吸光度スペクトルを測定し、得られた紫外線吸光度スペクトルにおいて、336nm、347nm、359nm、372nm、386nmの波長のうち、少なくとも一つの波長においてピークの存在を検出することによって、測定対象の前記液体中の亜硝酸の存在を検出することを特徴とする。
【0016】
本発明に係る亜硝酸濃度の測定方法は、336nm、347nm、359nm、372nm、386nmの波長のうち、少なくとも一つの波長を選択して、選択した波長について、既知の濃度の亜硝酸による紫外線吸光度のピーク高さに基づいて、亜硝酸による紫外線吸光度のピーク高さ又はピーク面積と亜硝酸濃度との関係を示す検量線を作成するステップと、
測定対象の液体の紫外線吸光度スペクトルを測定して、前記選択した波長についてのピーク高さ又はピーク面積を算出するステップと、
前記測定対象の液体の前記選択した波長について算出した前記ピーク高さ又はピーク面積と、前記検量線とによって、前記測定対象の液体中の亜硝酸濃度を算出するステップと、
を含むことを特徴とする。
【0017】
本発明に係る亜硝酸濃度の測定装置は、336nm、347nm、359nm、372nm、386nmの波長のうち、少なくとも一つの波長について、亜硝酸による紫外線吸光度のピーク高さ又はピーク面積と亜硝酸濃度との関係を示す検量線を記憶する記憶部と、
測定対象の液体の紫外線吸光度スペクトルを測定する紫外線吸光度測定装置と、
測定した紫外線吸光度スペクトルから、前記記憶部に記憶されている検量線の対象となる前記波長についてのピーク高さ又はピーク面積を算出し、算出した前記ピーク高さ又はピーク面積と前記検量線とによって、前記測定対象の液体中の亜硝酸濃度を算出する演算部と、
を備えた特徴とする。
【0018】
本発明に係る亜硝酸濃度の制御装置は、336nm、347nm、359nm、372nm、386nmの波長のうち、少なくとも一つの波長について、亜硝酸による紫外線吸光度のピーク高さ又はピーク面積と亜硝酸濃度との関係を示す検量線を記憶する記憶部と、
測定対象の液体の紫外線吸光度スペクトルを測定する紫外線吸光度測定装置と、
測定した紫外線吸光度スペクトルから、前記記憶部に記憶されている検量線の対象となる前記波長についてのピーク高さ又はピーク面積を算出し、算出した前記ピーク高さ又はピーク面積と前記検量線とによって、前記測定対象の液体中の亜硝酸濃度を算出する演算部と、
前記液体に、前記液体を構成する亜硝酸を含む複数の成分のうち、少なくとも一つの成分を添加する液体成分添加部と、
前記演算部で算出した前記液体の亜硝酸濃度とあらかじめ設定した所定濃度とを対比してその結果に基づいて、前記液体成分添加部から前記液体に添加する成分を制御する制御部と、
を備えたことを特徴とする。
【0019】
また、前記制御部は、前記液体の亜硝酸濃度が所定濃度以下の場合には、前記液体成分添加部から前記液体に亜硝酸を添加し、前記液体の亜硝酸濃度が所定濃度を超える場合には、前記液体成分添加部から前記液体に、前記液体を構成する成分のうち、水及び亜硝酸を除く他の成分を添加するように制御してもよい。
【発明の効果】
【0020】
本発明に係る亜硝酸検出方法によれば、液体の紫外線吸光度スペクトルにおいて、亜硝酸に由来する特徴的な336nm、347nm、359nm、372nm、386nmのピーク波長のうち、少なくとも一つの波長について、ピークの存在を検出することで亜硝酸の存在を判定できる。また、本発明に係る亜硝酸濃度測定装置及び測定方法によれば、上記亜硝酸に由来する特徴的な5つのピークの波長のうち、選択した一つの波長におけるピーク高さ又はピーク面積と亜硝酸濃度との関係を示す検量線をあらかじめ作成しておき、測定対象の液体の紫外線吸光度スペクトルの上記選択した波長におけるピーク高さ又はピーク面積を算出し、測定したピーク高さ又はピーク面積と上記検量線とによって測定対象の液体の亜硝酸濃度を算出することができる。さらに、本発明に係る亜硝酸濃度制御装置及び制御方法によれば、上記亜硝酸濃度測定方法によって得られた亜硝酸濃度に基づいて、液体成分添加部から液体を構成する複数の成分のうち所望の成分を液体中に添加することによって液体中の亜硝酸濃度を制御できる。
【図面の簡単な説明】
【0021】
【図1】亜硝酸バリウムと硫酸との化学反応で得られた上澄み液を紫外線分光器で測定した300nm〜800nmの波長範囲の紫外線吸光度スペクトルである。
【図2】図1の波長300nm〜400nmについての拡大図である。
【図3】作成した亜硝酸を含む上澄み液のサンプルについて、0日後(作成日)、1日後、2日後、3日後の4回にわたって、波長300nm〜450nmの範囲について測定した紫外線吸光度スペクトルを重ねて表示したグラフである。
【図4】図3の波長350nm〜400nmの範囲の拡大図である。
【図5】0日後(作成日)の紫外線吸光度スペクトルにおいて、波長386nmの吸光度の正しいピークの高さについて、バックグラウンド補正を行うためのベースライン法を示す概略図である。
【図6】紫外線吸光度スペクトルの波長386nmのピーク高さと経過日数との関係を示すグラフである。
【図7】図6で測定した時間とほぼ同時に、イオンクロマトグラフ法によって亜硝酸を測定した結果を示すグラフである。
【図8】図7と同時に、作成した亜硝酸を含む上澄み液のサンプルについて、イオンクロマトグラフ法によって硝酸の濃度を測定した結果を示すグラフである。
【図9】図7の亜硝酸濃度と図8の硝酸濃度とを加算した値(単位:ppm)と、経過日数との関係を示すグラフである。
【図10】フッ酸2.15重量%、硝酸32.10重量%の混合液にシリコン(Si)を500ppm溶解させた場合の波長320nm〜480nmの範囲の紫外線吸光度スペクトルであって、シリコン溶解前(新液)と、シリコン溶解直後(0分後)、15分後、30分後、45分後、1時間後、19時間後の各場合の紫外線吸光度スペクトルを重ねて表示したグラフである。
【図11】液体中の亜硝酸濃度を一定にして、フッ酸濃度を変化させた場合の、紫外線吸光度スペクトルの波長386nmにおけるピーク高さの変化を示すグラフである。
【図12】液体中の亜硝酸濃度を一定にして、硝酸濃度を変化させた場合の、紫外線吸光度スペクトルの波長386nmにおけるピーク高さの変化を示すグラフである。
【図13】本発明に係る亜硝酸濃度測定装置の構成を示すブロック図である。
【図14】本発明に係る亜硝酸濃度制御装置の構成を示すブロック図である。
【発明を実施するための形態】
【0022】
本発明の実施の形態に係る亜硝酸検出方法、亜硝酸濃度測定装置及び測定方法、亜硝酸濃度制御装置及び方法について、添付図面を用いて説明する。
【0023】
実施の形態1
本発明の実施の形態1に係る亜硝酸検出方法は、測定対象の液体の紫外線吸光度スペクトルを測定し、得られた紫外線吸光度スペクトルにおいて、336nm、347nm、359nm、372nm、386nmの波長のうち、少なくとも一つの波長においてピークの存在を検出することによって、測定対象の液体中の亜硝酸の存在を検出することを特徴とする。本発明者は、液体の紫外線吸光度スペクトルにおいて、336nm、347nm、359nm、372nm、386nmの波長における5つのピークが亜硝酸に由来するものであることを見出し、本発明に至ったものである。すなわち、液体の紫外線吸光度スペクトルにおいて、336nm、347nm、359nm、372nm、386nmの波長のうち、少なくとも一つの波長においてピークの存在を検出することによって液体中の亜硝酸の存在を判断することができる。なお、この場合に上記5つのピーク全ての存在を検出することは必ずしも必要ではない。他の物質の存在によって生じるピーク又はバックグラウンドが、上記5つのピークのうちのいくつかと重なる場合があるため、上記5つのピークのうちの少なくとも一つのピークの存在を検出できればよい。
【0024】
また、本発明の実施の形態1に係る亜硝酸濃度の測定方法は、
(a)336nm、347nm、359nm、372nm、386nmの波長のうち、少なくとも一つの波長を選択して、選択した波長について、複数の既知の濃度の亜硝酸による紫外線吸光度のピーク高さ又はピーク面積についての検量線を作成するステップと、
(b)測定対象の液体の紫外線吸光度スペクトルを測定して、選択した波長についてのピーク高さ又はピーク面積を算出するステップと、
(c)測定対象の液体の選択した波長について算出したピーク高さ又はピーク面積と、検量線とによって、測定対象の液体中の亜硝酸濃度を算出するステップと、
を含むことを特徴とする。
【0025】
上記検量線を作成ステップでは、336nm、347nm、359nm、372nm、386nmの波長のうち、一つの波長を選択して、その選択した波長について検量線を作成する。少なくとも一つの既知の濃度の亜硝酸と、ブランクセルとを用いることによって、検量線を作成できる。具体的には、既知の濃度の亜硝酸と、ブランクセルとによる紫外線吸光度スペクトルにおけるそれぞれのピーク高さ又はピーク面積を得ることによって、亜硝酸濃度とピーク高さ又はピーク面積との間の関係を示す検量線を得ることができる。なお、亜硝酸濃度とピーク高さ又はピーク面積との間の関係としては、例えば、ランベルト・ベールの法則を用いることができる。さらに、2以上の異なる既知の濃度の亜硝酸を用いることによって検量線の精度を向上させることができる。既知の亜硝酸の濃度としては、例えば、亜硝酸を生成する化学反応式で見積もってもよい。あるいは、生成した亜硝酸について日本工業規格JIS K0102 43.1.2イオンクロマトグラフ法によってあらかじめ求めた濃度を使用してもよい。なお、検量線は、測定対象の液体の紫外線吸光度スペクトルの測定に先だって、あらかじめ作成しておくことが好ましい。
【0026】
また、紫外線吸光度スペクトルのピーク高さは、紫外線吸光度スペクトルにおいて選択した波長を挟む2つの谷を結ぶ直線をベースラインとして引いて、そのベースラインからピークまでの高さを算出する(例えば、図5参照。)ことによって得られる。また、紫外線吸光度スペクトルのピーク面積は、上記ベースラインとピークとの間のピーク面積を算出することによって得られる。ピーク高さとピーク面積のいずれを用いるかは適宜選択すればよい。なお、ここではベースラインは直線として考えたが、ベースラインは直線に限られず、曲線として見積もってもよい。なお、測定対象の液体についてのピーク高さ又はピーク面積の算出も同様に行うことができる。
【0027】
測定対象の液体の紫外線吸光度スペクトルについて、選択した波長について算出したピーク高さ又はピーク面積と、選択した波長についての検量線とによって、測定対象の液体中の亜硝酸濃度を算出することができる。具体的には、亜硝酸濃度とピーク高さ又はピーク面積との関係を示す検量線を用いて、測定対象の液体の算出したピーク高さ又はピーク面積に対応する亜硝酸濃度を導くことができる。
【0028】
<液体の紫外線吸光度スペクトルにおける、亜硝酸によるピークの発見及び同定>
上述のように、本発明者は、液体の紫外線吸光度スペクトルにおいて亜硝酸に由来すると思われる特徴的な336nm、347nm、359nm、372nm、386nmの波長の5つのピークを発見し、これらのピークが亜硝酸によるものであると同定した。
以下に、これらの5つのピークの発見の過程と、これらの5つのピークが亜硝酸によるものであることを同定した過程について説明する。
【0029】
<亜硝酸に由来すると思われるピークの発見>
亜硝酸バリウムと硫酸との間の以下の化学反応式(4)で示される化学反応によって準安定な亜硝酸溶液が得られる。
Ba(NO+HSO→BaSO↓+2HNO (4)
上記化学反応では、不溶性の硫酸バリウムが沈殿し、上澄み液に亜硝酸が含まれる。
なお、亜硝酸HNOは、以下の化学反応式(5)で徐々に硝酸に変化する。
3HNO→HNO+HO+2NO (5)
【0030】
図1は、上記(4)式の化学反応で得られた上澄み液を紫外線分光器で測定した紫外線吸光度スペクトルである。2つの紫外線吸光度スペクトルのうち、相対的に吸光度が高いものが生成直後に測定したものであり、もう一方が作成後13日後に測定したものである。図2は、図1の波長300nm〜400nmについての拡大図である。図1及び図2の紫外線吸光度スペクトルから、図2に矢印で示したように、波長386nm、372nm、359nm、347nm、336nmの5つのピークを有するという特徴を有することがわかる。また、作成後13日後には各ピークの高さが低くなっていることがわかる。そこで、これらの特徴的な5つのピークが亜硝酸によるものであるか否かを同定するための検証実験を行った。
【0031】
<検証実験>
上記化学反応式(4)で作成した亜硝酸を含む上澄み液のサンプルについて、ほぼ密閉状態で、一定時間毎に紫外線吸光度スペクトルを測定すると同時に、同一サンプルについて、イオンクロマトグラフ測定によって亜硝酸濃度と硝酸濃度の測定を行った。なお、測定手順等は、日本工業規格JIS K0102 43.1.2及び43.2.5に基づく。図3は、作成した亜硝酸を含む上澄み液のサンプルについて、0日後(作成日)、1日後、2日後、3日後の4回にわたって、波長300nm〜450nmの範囲について測定した紫外線吸光度スペクトルを重ねて表示したグラフである。図4は、図3の波長350nm〜400nmの範囲の拡大図である。
【0032】
図5は、0日後(作成日)の紫外線吸光度スペクトルにおいて、波長386nmの吸光度の正しいピークの高さについて、バックグラウンド補正を行うためのベースライン法を示す概略図である。この場合、ピーク波長386nmの吸光度の実測値のままではバックグラウンドノイズを含んでいる。そこで、図5に示すように、ピーク波長386nmを挟む波長範囲で2つの谷を結ぶベースラインを引く。この場合は、スペクトルの380nmと395nmとの2つのボトムを用いてベースラインを引く。このベースラインがバックグラウンドノイズである。つまり、ピーク波長386nmにおけるバックグラウンドノイズを除いた正しい吸光度のピーク高さは、ベースラインからピークまでの高さに相当する。なお、特徴的な5つのピークが亜硝酸に由来するか否かの検証について、上記波長386nmのピークの吸光度値を用いる。5つのピークのうち最も長波長のピークを使用するのは、一般的に分光計測器では、紫外線側より可視光線側のほうが分光器のセンサー感度が高く、測定が容易だからである。
【0033】
図6は、紫外線吸光度スペクトルの波長386nmのピーク高さと経過日数との関係を示すグラフである。図6から作成後、日数を経過するとピーク高さが減少することがわかる。
【0034】
図7は、図6で測定した時間とほぼ同時に、イオンクロマトグラフ法によって亜硝酸を測定した結果を示すグラフである。縦軸は亜硝酸濃度値であって、単位はppmである。図7から、図6とほぼ同様に、亜硝酸濃度は日数を経過するにつれて減少することがわかる。このことから、図1及び図2に示す紫外線吸光度スペクトルの特徴的な5つのピークは亜硝酸に由来するものと判断できる。また、図6及び図7の結果から、紫外線吸光度スペクトルの特徴的な5つのピークのピーク高さ又はピーク面積を用いて亜硝酸濃度を測定可能であることがわかる。
【0035】
図8は、図7と同時に、イオンクロマトグラフ法によって硝酸の濃度を測定した結果を示すグラフである。縦軸は硝酸濃度であって、単位はppmである。
【0036】
図9は、図7の亜硝酸濃度と図8の硝酸濃度とを加算した値(単位:ppm)と、経過日数との関係を示すグラフである。図9に示すように、亜硝酸濃度と硝酸濃度とを加算した値は経過日数によらずほぼ一定であることがわかる。これは、亜硝酸が時間の経過と共に硝酸に置き換わっていくことを示している。
【0037】
上記結果について検討すると、亜硝酸HNOは、上記化学反応式(5)と同様の化学反応式(6)で徐々に硝酸に変化する。
3HNO→HNO+HO+2NO (6)
この生成した一酸化窒素NOは空気中で酸化して二酸化窒素NOになる。
2NO+O→2NO (7)
NOは二量体化してNになる。なお、この反応は双方向に進むため実際には左右の間で両矢印を持つ。
2NO←→N (8)
さらに、Nは水と反応して硝酸と亜硝酸となる。
+HO→HNO+HNO (9)
以上の反応式(6)から(9)をまとめると、以下の反応式(10)に示すように、亜硝酸は、周囲の酸素を消費して硝酸に変わっていくことがわかる。
2HNO+O→2HNO (10)
ほぼ密閉状態で亜硝酸が周囲の酸素を使って硝酸へと変化し、亜硝酸濃度が減少した分、硝酸濃度が増加する。そのため、図9に示すように、亜硝酸濃度と硝酸濃度とを加算した値は一定となる。
【0038】
<シリコン結晶ウエハの化学エッチングにおける亜硝酸の生成>
図10は、フッ酸2.15重量%、硝酸32.10重量%の混合液にシリコン(Si)を500ppm溶解させた場合の波長320nm〜480nmの範囲の紫外線吸光度スペクトルである。図10には、フッ酸2.15重量%、硝酸32.10重量%の混合液について、シリコン溶解前(新液)と、シリコン溶解直後(0分後)、15分後、30分後、45分後、1時間後、19時間後の各場合の紫外線吸光度スペクトルを重ねて表示している。図10を参照すると、シリコン溶解前(新液)には、図1で示した亜硝酸に由来する特徴的な5つのピークは全く存在しないが、シリコン溶解直後(0分後)には、亜硝酸に由来する特徴的な5つのピークのうち、347nm、359nm、372nm、386nmの4つのピークが観測される。なお、図10では、他の成分による大きなピークの存在によって、亜硝酸による336nmのピークの存在が不明となっているが、亜硝酸に由来する特徴的な5つのピークのうち4つのピークを鮮明に観測できるので、亜硝酸の検出だけでなく、亜硝酸濃度も十分な精度で測定できる。
【0039】
このシリコン結晶ウエハのフッ酸と硝酸との混酸を主成分とするエッチング溶液による化学エッチングにおける反応は、上記反応式(1)と同様の反応式(11)に示す通りである。また、この反応で発生する2酸化窒素NOが二量体化(12)し、水に溶解することで以下の反応式(13)によって亜硝酸が生成する。
Si+4HNO→SiO+4NO+2HO (11)
2NO←→N (12)
+HO→HNO+HNO (13)
つまり、反応式(11)は、整理すると、反応式(14)となる。
Si+2HNO→SiO+2HNO (14)
そこで、シリコン結晶ウエハのフッ酸と硝酸との混酸を主成分とするエッチング溶液による化学エッチングによって亜硝酸が生成することがわかる。
【0040】
また、図10から、シリコン溶解直後(0分後)から、15分後、30分後、45分後、1時間後と時間の経過と共に各ピークのピーク高さ又はピーク面積は減少していくことがわかる。これは、上記のように生成した亜硝酸が酸化されて徐々に硝酸に変化するためである。19時間後には亜硝酸に由来する特徴的な5つのピークは見られなくなり、シリコン溶解前(新液)とほぼ同様のスペクトルとなる。
【0041】
<他の成分による影響の除去>
図11は、液体中の亜硝酸濃度を一定にして、フッ酸濃度を変化させた場合の、紫外線吸光度スペクトルの波長386nmにおけるピーク高さの変化である。
図12は、液体中の亜硝酸濃度を一定にして、硝酸濃度を変化させた場合の、紫外線吸光度スペクトルの波長386nmにおけるピーク高さの変化である。
図11及び図12の結果から、液体中に含まれる他の成分であるフッ酸濃度又は硝酸濃度によって、亜硝酸濃度が同じであるにもかかわらず、亜硝酸に由来するピークのピーク高さが変化することがわかる。
そこで、液体中のフッ酸濃度及び硝酸濃度を測定して、図11及び図12を用いて亜硝酸の紫外線吸光度スペクトルの波長386nmにおけるピーク高さを補正することによって、より正確な亜硝酸濃度を得ることができる。なお、フッ酸濃度及び硝酸濃度の測定には、例えば、特許第3578470号に記載した測定方法を用いてもよい。
【0042】
<亜硝酸濃度測定装置>
図13は、本発明に係る亜硝酸濃度測定装置10の構成を示すブロック図である。この
亜硝酸濃度測定装置10は、測定対象の液体の紫外線吸光度スペクトルを測定する紫外線吸光度測定装置12と、演算部14と、記憶部16とを備える。記憶部16は、亜硝酸の特徴的な336nm、347nm、359nm、372nm、386nmの波長のうち、少なくとも一つの波長について、亜硝酸による紫外線吸光度のピーク高さ又はピーク面積と亜硝酸濃度との関係を示す検量線を記憶する。演算部14は、測定した紫外線吸光度スペクトルから、記憶部16に記憶されている検量線の対象となる波長についてのピーク高さ又はピーク面積を算出し、算出した前記ピーク高さ又はピーク面積と検量線とによって、測定対象の液体中の亜硝酸濃度を算出する。
【0043】
<亜硝酸濃度制御装置>
図14は、本発明に係る亜硝酸濃度制御装置20の構成を示すブロック図である。この亜硝酸濃度制御装置20は、図13に示す亜硝酸濃度測定装置10と、制御部22と、液体成分添加部24とを備える。液体成分添加部24は、液体に、液体を構成する亜硝酸を含む複数の成分のうち、少なくとも一つの成分を添加する。制御部22は、亜硝酸濃度測定装置10の演算部14で算出した液体の亜硝酸濃度と、あらかじめ設定した所定濃度とを対比してその結果に基づいて、液体成分添加部24から液体に添加する成分を制御する。なお、制御部22は、液体の亜硝酸濃度が所定濃度以下の場合には、液体成分添加部24から液体に亜硝酸を添加し、液体の亜硝酸濃度が所定濃度を超える場合には、液体成分添加部24から液体に、液体を構成する成分のうち、水及び亜硝酸を除く他の成分を添加するように制御してもよい。
【産業上の利用可能性】
【0044】
本発明に係る亜硝酸検出方法、亜硝酸濃度測定装置及び測定方法、亜硝酸濃度制御装置及び制御方法では、亜硝酸に由来する336nm、347nm、359nm、372nm、386nmの5つの波長のうち、少なくとも一つの波長のピークの存在を検出することで亜硝酸の存在を判定できると共に、ピーク高さ又はピーク面積を算出して、亜硝酸濃度を算出することができる。そのため、多くの液体における亜硝酸の検出、亜硝酸濃度の測定、亜硝酸濃度の制御に有用である。特に、フッ酸と硝酸の混酸を主成分とするエッチング溶液中においても上記5つの波長のうち、347nm、359nm、372nm、386nmの4つの波長についてピークを観測できるので、シリコン結晶ウエハなどの化学エッチング工程における亜硝酸濃度の測定及び制御に有用である。
【符号の説明】
【0045】
10 亜硝酸濃度測定装置
12 紫外線吸光度測定装置
14 演算部
16 記憶部
20 亜硝酸濃度制御装置
22 制御部
24 液体成分添加部

【特許請求の範囲】
【請求項1】
測定対象の液体の紫外線吸光度スペクトルを測定し、得られた紫外線吸光度スペクトルにおいて、336nm、347nm、359nm、372nm、386nmの波長のうち、少なくとも一つの波長においてピークの存在を検出することによって、測定対象の前記液体中の亜硝酸の存在を検出する亜硝酸検出方法。
【請求項2】
336nm、347nm、359nm、372nm、386nmの波長のうち、少なくとも一つの波長を選択して、選択した波長について、既知の濃度の亜硝酸による紫外線吸光度のピーク高さに基づいて、亜硝酸による紫外線吸光度のピーク高さ又はピーク面積と亜硝酸濃度との関係を示す検量線を作成するステップと、
測定対象の液体の紫外線吸光度スペクトルを測定して、前記選択した波長についてのピーク高さ又はピーク面積を算出するステップと、
前記測定対象の液体の前記選択した波長について算出した前記ピーク高さ又はピーク面積と、前記検量線とによって、前記測定対象の液体中の亜硝酸濃度を算出するステップと、
を含む亜硝酸濃度の測定方法。
【請求項3】
336nm、347nm、359nm、372nm、386nmの波長のうち、少なくとも一つの波長について、亜硝酸による紫外線吸光度のピーク高さ又はピーク面積と亜硝酸濃度との関係を示す検量線を記憶する記憶部と、
測定対象の液体の紫外線吸光度スペクトルを測定する紫外線吸光度測定装置と、
測定した紫外線吸光度スペクトルから、前記記憶部に記憶されている検量線の対象となる前記波長についてのピーク高さ又はピーク面積を算出し、算出した前記ピーク高さ又はピーク面積と前記検量線とによって、前記測定対象の液体中の亜硝酸濃度を算出する演算部と、
を備えた、亜硝酸濃度の測定装置。
【請求項4】
336nm、347nm、359nm、372nm、386nmの波長のうち、少なくとも一つの波長について、亜硝酸による紫外線吸光度のピーク高さ又はピーク面積と亜硝酸濃度との関係を示す検量線を記憶する記憶部と、
測定対象の液体の紫外線吸光度スペクトルを測定する紫外線吸光度測定装置と、
測定した紫外線吸光度スペクトルから、前記記憶部に記憶されている検量線の対象となる前記波長についてのピーク高さ又はピーク面積を算出し、算出した前記ピーク高さ又はピーク面積と前記検量線とによって、前記測定対象の液体中の亜硝酸濃度を算出する演算部と、
前記液体に、前記液体を構成する亜硝酸を含む複数の成分のうち、少なくとも一つの成分を添加する液体成分添加部と、
前記演算部で算出した前記液体の亜硝酸濃度とあらかじめ設定した所定濃度とを対比してその結果に基づいて、前記液体成分添加部から前記液体に添加する成分を制御する制御部と、
を備えた、亜硝酸濃度の制御装置。
【請求項5】
前記制御部は、前記液体の亜硝酸濃度が所定濃度以下の場合には、前記液体成分添加部から前記液体に亜硝酸を添加し、前記液体の亜硝酸濃度が所定濃度を超える場合には、前記液体成分添加部から前記液体に、前記液体を構成する成分のうち、水及び亜硝酸を除く他の成分を添加するように制御する、請求項4に記載の亜硝酸濃度の制御装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【図14】
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【公開番号】特開2011−257341(P2011−257341A)
【公開日】平成23年12月22日(2011.12.22)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−133760(P2010−133760)
【出願日】平成22年6月11日(2010.6.11)
【出願人】(000001096)倉敷紡績株式会社 (296)
【Fターム(参考)】