説明

亜硫酸水素塩により媒介されるDNAの変換を監視する方法

本発明は、DNAメチル化解析の間、亜硫酸水素塩により媒介されるDNAの変換の進行を監視する方法に関する。方法は、酵素ウラシル−DNA−グリコシラーゼ(UNG)の、少なくとも1つの標識化されたDNAレポータ分子との反応に基づく。このレポータ分子は、その配列内に少なくとも1つの非メチル化シトシン残基を含む。非メチル化シトシン残基の、亜硫酸水素塩により媒介されるウリジン残基への変換の後、UNGは、ウラシル塩基をDNAバックボーンから除去して、それを熱誘導の加水分解に敏感なものにする。最後に、この断片化プロセスの間にDNAレポータ分子から解放される標識が検出される。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、DNAメチル化解析の間、亜硫酸水素塩により媒介されるDNAの変換の進行を監視する方法に関する。方法は、酵素ウラシル−DNA−グリコシラーゼ(UNG)の、少なくとも1つの標識化されたDNAレポータ分子との反応に基づき、レポータ分子は、その配列に少なくとも1つの非メチル化シトシン残基を含む。非メチル化シトシン残基からウリジン残基への亜硫酸水素塩により媒介される変換の後、UNGは、DNAバックボーンからウラシル塩基を除去し、ゆえに、DNAバックボーンを、熱誘導の加水分解に敏感なものにする。最後に、この断片化プロセスの間にDNAレポータ分子から解放される標識が検出される。
【0002】
UNG又はUDGと略記されることがあるウラシル−DNA−グリコシラーゼ及びウラシル−N−グリコシラーゼは、同様の又は同義のものとして理解されるべきである。いずれの場合も、これらの語は、本明細書において、DNAバックボーンを熱誘導の加水分解に敏感なものにする酵素を示すために使用される。
【背景技術】
【0003】
DNAメチル化は、原核生物及び真核細胞の双方を含む様々な生体のゲノムに見つけられる。原核生物において、DNAメチル化は、シトシン塩基及びアデニン塩基の両方に生じ、ホスト制限システムの一部を含む。しかしながら、多細胞真核生物において、メチル化は、シトシン塩基に限られるようであり、遺伝子発現の抑制された染色質状態及び抑制に関連する(例えばWilson, G.G. and Murray, N.E. (1991) Annu. Rev. Genet. 25, 585-627において研究されている)。
【0004】
哺乳動物細胞において、DNAメチル化は、主に、ゲノムにおいて不規則に分散され過少に示されるCpGジヌクレオチドに生じる。通常は非メチル化のCpGs(CpGアイランドと呼ばれる)のクラスタは、多くのプロモータ領域に見つけられる(例えばLi, E. (2002) Nat. Rev. Genet. 3, 662-673において研究されている)。異所性遺伝子サイレンシングにつながるDNAメチル化の変化が、いくつかのヒト癌において実際に示された(例えばRobertson, K.D. and Wolffe, A.P. (2000) Nat. Rev. Genet. 1, 11-19において研究されている)。プロモータの過剰メチル化は、癌抑制遺伝子の不活性化につながるよくあるメカニズムであることが実際に示された(Bird, A.P. (2002) Genes Dev. 16, 6-21)。
【0005】
個別の遺伝子の差動メチル化を実験的に測定するための様々な方法が存在する(例えばRein, T. et al. (1998) Nucleic Acids Res. 26, 2255-2264において研究されている)。これらの技法は、とりわけ亜硫酸水素塩シークエンシング、メチル化特異的PCR(MSP)、Methylight(メチライト)及びパイロシークエンシングを含む。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
上述の技法を実施するための1つの共通の前提条件は、解析されるべきDNAの亜硫酸水素塩により媒介される変換(亜硫酸水素塩修飾とも呼ばれる)である。具体的には、非メチル化シトシン残基が、ウリジン残基に変換される。シトシンからウラシルへの亜硫酸水素塩により媒介される変換のための3ステップ反応スキームが、図1に概略的に示されている。要するに、シトシンは、弱酸性条件下で、シトシン−亜硫酸水素塩にスルホン化される。ウラシル−亜硫酸水素塩への加水分解脱アミノ化は、自発的に生じる。ウラシル−亜硫酸水素塩は、塩基性条件下で、ウラシルに脱スルホン化される。
【0007】
亜硫酸水素塩処理の間、メチル化シトシン残基がウリジン残基に変換されないので、非メチル化CpGアイランドのDNA配列は、(CからUへ)効果的に変更され、メチル化DNAはその元の配列を維持する。
【0008】
しかしながら、DNAメチル化ステータスの解析に基づく有効な診断結果のために、DNAが最大効率で変換されることが望ましく、すなわち、理想的には、所与のDNA配列に存在する非メチル化シトシン残基の100%がウリジン残基に変換されることが望ましい。
【0009】
亜硫酸水素塩により媒介されるDNA変換は、一般に、市販されている反応キットを使用して実施される。これらのテストシステムにおいて、DNAは、しばしば比較的高い反応温度(例えば、60℃)で、長時間(多くの場合、一晩)インキューベートされる。DNAを変性させるために、このインキュベーション時間の間、95℃までの繰り返される加熱ステップが必要である。多くの場合、インキュベーション時間は、DNA品質の特定のレベルを維持しつつ十分とみられる及び/又は許容可能とされるだけの長い時間単に反応をランさせることによって、最大のDNA変換効率に達すると考えられる。他方、長時間の加熱期間は、最終的に、DNAの劣化を生じさせ、DNA収率及び完全性の低下をもたらすことも明らかである。これは、例えばサンプル中のDNA濃度が低い場合、任意の下流の解析にとって破滅的である。
【0010】
しかしながら、解析されるべき異なるサンプルDNA又は異なるアプリケーションは、最大効率を達成するために、互いに異なる実験セットアップを必要とする可能性がある。例えば、精製されていないDNAを有する粗溶解物の使用は、精製されたサンプルDNAより多くの不確実さをもつ。粗溶解物には、亜硫酸水素塩と相互作用し、ゆえにDNA転換反応と干渉する可能性のある他の物質が存在する。
【0011】
上述の検討において、変換するのが容易であるDNAサンプル(例えば精製されたDNA分子)が解析される場合、「1回のインキュベーション時間がすべてに適合する」という一般的なアプローチは、それが長時間の熱への暴露のためDNA品質の不必要な低下につながるので、合理的でないことが明らかである。逆もまた同じであり、複雑なサンプル(例えば粗溶解物、体液、凍結生体組織)中のDNAは、仮にあったとしても、かなり少ない程度しか変換されることができない。
【0012】
現在、亜硫酸水素塩により媒介されるDNA変換のパフォーマンス及び進行を能動的に監視する方法は利用可能でない。しかしながら、このような方法の提供は、各個別の反応のエンドポイント(すなわち100%の完了)を正確に決定することを助け、それにより、汎用プロトコルからサンプル特化の反応条件に切り替えることを可能にし、不必要な及び過剰な加熱インキュベーション時間が回避されることができ、ゆえにDNA品質を改善することができる。
【0013】
それゆえ、亜硫酸水素塩により媒介されるDNA変換の正確な監視を可能にし、上述の制限を克服する方法の継続するニーズがなお存在する。具体的には、解析される各々のサンプルDNAの個別化された反応条件のセットアップを可能にし、ゆえに、差動DNAメチル化解析の結果を改善する対応する方法のニーズがある。
【0014】
本発明の目的は、DNAメチル化解析の間、亜硫酸水素塩により媒介されるDNAの変換の進行を監視するための新しいアプローチを提供することである。
【0015】
より具体的には、本発明の目的は、変換のエンドポイントの精確な判定を可能にする方法を提供することである。
【0016】
更に、本発明の目的は、用いられるサンプルDNAの特定の要求に適用される反応条件の正確な制御及び整合を可能にし、得られるDNA品質の全体的な改善をもたらす方法を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0017】
これらの目的及び以下の記述から明らかになる他の目的は、独立請求項に記載の発明の主題によって達成される。本発明の好適な実施形態のいくつかは、従属請求項の発明の主題によって規定される。
【0018】
1つの見地において、本発明は、DNAメチル化解析の間、亜硫酸水素塩により媒介されるDNAの変換を監視する方法であって、
(a)解析されるべきサンプルDNA及び少なくとも1つのDNAレポータ分子を提供するステップであって、少なくとも1つのDNAレポータ分子が、(i)そのヌクレオチド配列中の少なくとも1つの非メチル化シトシン残基と、(ii)少なくとも1つの標識と、を含み、サンプルDNA及び少なくとも1つのDNAレポータ分子が、互いに流体接続される空間的に分離された反応コンパートメントに提供される、ステップと、
(b)亜硫酸水素塩を空間的に分離された反応コンパートメントに加えて、サンプルDNAのヌクレオチド配列に含まれる非メチル化シトシン残基及び少なくとも1つのDNAレポータ分子の、ウリジン残基への変換を媒介するステップと、
(c)ウラシル−DNA−グリコシラーゼを少なくとも1つのDNAレポータ分子に加えて、DNAバックボーンからの、ステップ(b)で得られたウラシル塩基の除去を媒介するステップと、
(d)ステップ(c)で得られたDNAを、熱処理によって断片化するステップと、
(e)ステップ(d)の間、少なくとも1つの合成DNAレポータ分子から解放される少なくとも1つの標識を検出するステップと、
を含む。
【0019】
一実施形態において、方法は更に、
(f)ステップ(e)で得られた結果を基準値と比較するステップ、
を含む。
【0020】
別の実施形態において、検出ステップは、所与の時間期間中に少なくとも一回繰り返される。
【0021】
好適には、ステップ(e)で得られた結果は、ステップ(b)による反応の進行を制御するために使用される。
【0022】
好適な実施形態において、少なくとも1つのDNAレポータ分子は、合成オリゴヌクレオチドである。特定の好適な実施形態において、少なくとも1つの合成DNAレポータ分子は、サポートに不動化される。
【0023】
別の好適な実施形態において、ウラシル−DNA−グリコシラーゼは熱安定性である。
【0024】
1つの特定の実施形態において、ステップ(c)、(d)及び(e)は、少なくとも1つのDNAレポータ分子を提供するために用いられたのと同じ反応コンパートメント内で実施される。代替の実施形態において、任意の1又は複数のステップ(c)、(d)及び(e)は、少なくとも1つのDNAレポータ分子を提供するために用いられる反応コンパートメントと流体接続される少なくとも1つの他の空間的に分離された反応コンパートメント内で実施される。
【0025】
他の特定の実施形態において、少なくとも1つの、好適には全ての反応コンパートメントは、反応コンパートメント内の温度を制御し、調節するための1又は複数の温度制御ユニットを備える。
【0026】
好適な実施形態において、反応コンパートメントの間の空間的な分離は、半透膜、好適にはサイズ排除メンブレン又はマイクロダイアリシスメンブレンによって達成される。
【0027】
他の好適な実施形態において、互いに流体接続される少なくとも2つの空間的に分離された反応コンパートメントは、センサ装置、好適には連続センサ装置に組み込まれる。
【0028】
別の見地において、本発明は、サンプルDNAのメチル化ステータスを解析するための、本明細書に記述される方法の使用に関する。好適には、DNAメチル化ステータスの解析は、癌を診断するために実施される。
【図面の簡単な説明】
【0029】
【図1】シトシン(左)からウラシル(右)への亜硫酸水素塩により媒介される変換の一般的な3ステップ反応スキームを概略的に示す図。
【図2】DNA延伸のウリジン残基に対するウラシル−DNA−グリコシラーゼ(UNG)の反応を概略的に示す図。
【図3】本発明による方法の原理を概略的に示す図。
【図4】互いに流体接続される少なくとも5つの空間的に分離された反応コンパートメントを有する例示のセンサ装置において実施される本発明による方法の一実施形態を示す概略図。
【図5】互いに流体接続される少なくとも2つの空間的に分離された反応コンパートメントを有する例示のセンサ装置の固体サポート(すなわちビーズの表面)に不動化されるDNAレポータ分子のフラクションを使用することによる、離散的なデータポイントの収集を概略的に示す図。
【図6】互いに流体接続される少なくとも2つの分離された反応コンパートメントを有する例示のセンサ装置において実施される本発明による方法の別の実施形態を示す概略図。
【図7】互いに流体接続される少なくとも2つの分離された反応コンパートメントを有する例示のセンサ装置において実施される本発明による方法の別の実施形態を示す概略図。
【発明を実施するための形態】
【0030】
図1は、シトシン(左)からウラシル(右)への亜硫酸水素塩により媒介される変換の一般的な3ステップ反応スキームを概略的に示す。シトシンは、弱酸性条件下で、シトシン−亜硫酸水素塩にスルホン化される。ウラシル−亜硫酸水素塩への加水分解脱アミノ化は、自発的に生じる。ウラシル−亜硫酸水素塩は、塩基性条件下で、ウラシルに脱スルホン化される。
【0031】
図2は、DNA延伸のウリジン残基に対するウラシル−DNA−グリコシラーゼ(UNG)の反応を概略的に示す。ウリジン残基は、シトシンがウラシルに脱アミノ化される場合にのみDNAに見られることができ、これは、DNAの変異につながる。UNGは、DNAの糖−リン酸塩バックボーンから、ウラシル塩基を除去する。DNAバックボーンは損われていないままであるが、結果的に得られた脱塩基部位は、高温で加水分解に敏感である。
【0032】
図3は、本発明による方法の原理を概略的に示す。非メチル化シトシン残基をそのヌクレオチド配列に含む少なくとも1つの標識化されたDNAレポータ分子が提供され、非メチル化シトシン残基は、重硫酸塩を加えることによってウリジン残基に変換される(1.)。UNGによるDNAの処理は、DNAバックボーンからのウラシル塩基の除去をもたらし(2.)、それにより、脱塩基部位においてこれらを熱誘導の断片化に敏感なものにする(3.)。少なくとも1つのDNAレポータ分子から解放される標識は、任意に分離され(4.)、適当な解析方法によって検出される。
【0033】
図4は、互いに流体接続される少なくとも5つの空間的に分離された反応コンパートメントを有する例示のセンサ装置において実施される本発明による方法の一実施形態の概略図を示す。この実施形態の詳細な説明は、実施例1に与えられる。
【0034】
図5は、互いに流体接続される少なくとも2つの空間的に分離された反応コンパートメントを有する例示のセンサ装置の固体サポート(すなわちビーズの表面)に不動化されるDNAレポータ分子のフラクションを使用することによる、離散的なデータポイントの収集を概略的に示す。パネルA−Cは、時間連続のフラクション解放を概略的に示す。パネルDは、DNA変換効率を決定するための適当なプロットを示す。詳細は、実施例3に与えられる。
【0035】
図6は、互いに流体接続される少なくとも2つの分離された反応コンパートメントを有する例示のセンサ装置において実施される本発明による方法の別の実施形態の概略図を示す。用いられる1つのDNAレポータ分子は、反応コンパートメントのうち1つの表面に不動化される。パネルAは、亜硫酸水素塩により媒介される、サンプルDNA及びDNAリポータ分子の変換を示す。パネルBは、適切な温度及び緩衝条件下のリザーバからのUNGの添加を示す。パネルCは、「変換された」DNAレポータ分子の熱誘導された断片化を示す。この実施形態の詳細な説明は、実施例4に与えられる。
【0036】
図7は、互いに流体接続される少なくとも2つの分離された反応コンパートメントを有する例示のセンサ装置において実施される本発明による方法の他の実施形態の概略図を示す。使用されるUNG酵素は、熱安定性であり、従って、反応コンパートメントのうち1つの表面に不動化される少なくとも1つのDNAレポータ分子と共に提供されることができる。この実施形態の詳細な説明は、実施例5に与えられる。
【0037】
本発明は、少なくとも1つの非メチル化シトシン残基をその配列に含む少なくとも1つの標識化されたDNAレポータ分子と、酵素ウラシル−DNA−グリコシラーゼ(UNG)との反応を組み入れることによって、DNAメチル化解析の間、亜硫酸水素塩により媒介されるDNAの変換の進行を監視するための汎用的で、正確で且つ効率的な方法が確立されることができるという、予期しない発見に基づく。
【0038】
以下に説明的に記述される本発明は、ここに特に開示されない1又は複数の構成要素、1又は複数の制限がない場合にも、適切に実施されることができる。
【0039】
本発明は、特定の実施形態に関して及び特定の図面を参照して記述されるが、本発明は、それらに制限されず、請求項によってのみ制限される。記述される図面は、概略的なものにすぎず、非制限的なものであると考えられるべきである。
【0040】
「含む、有する(comprising)」という語は、本記述及び請求項において使用される場合、他の構成要素又はステップを除外しない。本発明の目的において、「からなる(consisting of)」という語は、「含む、有する(comprising of)」という語の好適な実施形態であると考えられる。以下、少なくとも特定の数の実施形態を含むグループが規定される場合、これは、好適にはこれらの実施形態のみからなるグループを開示するものとしても理解されることができる。
【0041】
単数名詞に言及する際に例えば「a」又は「an」、「the」のような不定冠詞又は定冠詞が使用される場合、これは、特記されない限り、当該名詞の複数を含む。
【0042】
本発明のコンテクストにおいて「約(about)」という語は、当業者がなお当該特徴の技術的効果を確実にすると理解する正確さの幅を示す。この語は、一般に、示された数値からの10%の偏りを示し、好適には5%である。
【0043】
更に、説明及び請求項における第1、第2、第3、(a)、(b)、(c)等の語は、同様の構成要素を区別するために使用されており、必ずしも逐次の又は経時的な順序を記述するためではない。こうして使用される語は、適当な状況下で入れ替え可能であり、ここに記述される本発明の実施形態は、本明細書に記述され又は図示されるものとは別の順序での処理が可能であることが理解されるべきである。
【0044】
語の他の規定は、それらの語が使用されるコンテクストにおいて後述される。
【0045】
以下の語又は規定は、本発明の理解を助けるためにのみ提供される。これらの規定は、当業者によって理解されるものより狭い範囲をもつものとして解釈されるべきでない。
【0046】
1つの見地において、本発明は、DNAメチル化解析の間、亜硫酸水素塩により媒介されるDNAの変換を監視する方法であって、
(a)解析されるべきサンプルDNA及び少なくとも1つのDNAレポータ分子を提供するステップであって、少なくとも1つのDNAレポータ分子が、(i)そのヌクレオチド配列中の、少なくとも1つの非メチル化シトシン残基と、(ii)少なくとも1つの標識と、を含み、サンプルDNA及び少なくとも1つのDNAレポータ分子が、互いに流体接続される空間的に分離された反応コンパートメントに提供される、ステップと、
(b)亜硫酸水素塩を空間的に分離された反応コンパートメントに加えて、サンプルDNAのヌクレオチド配列に含まれる非メチル化シトシン残基及び少なくとも1つのDNAレポータ分子の、ウリジン残基への変換を媒介するステップと、
(c)ウラシル−DNA−グリコシラーゼを少なくとも1つのDNAレポータ分子に加えて、ステップ(b)で得られたウラシル塩基の、DNAバックボーンからの除去を媒介するステップと、
(d)ステップ(c)で得られたDNAを熱処理によって断片化するステップと、
(e)ステップ(d)の間、少なくとも1つの合成DNAレポータ分子から解放される少なくとも1つの標識を検出するステップと、
を含む方法に関する。
【0047】
本明細書において用いられる「サンプルDNA」という語は、それらのヌクレオチド配列に含まれる非メチル化シトシン残基がウリジン残基に変換されるときにその差動メチル化ステータスが解析される、1又は複数のDNA分子を含むサンプルを示す。DNA分子は、自然発生化合物又は(例えば組み換えDNA技術によって又は化学合成によって生成される)合成化合物でありえ、一本鎖又は二本鎖でありうる。DNA分子は、任意の長さを有することができる。好適には、長さは、10bp乃至100000bp、好適には100bp乃至10000bp、特に好適には500bp乃至5000bpである。
【0048】
サンプルDNAに含まれるDNA分子は、精製された形で存在することができ(例えば当分野において知られているTE又はPBSのような適切なバッファ溶液に提供される)、又は精製されていない、部分的に精製された、若しくは高濃度のサンプル溶液に含まれることができる。このような精製されていないサンプルの例は、粗細胞溶解物、体液(例えば血液、血清、唾液及び尿)、可溶化組織及びその他を含む。
【0049】
ある実施形態において、本発明による方法は、このような精製されていないサンプルに存在するDNAの精製を含む。精製は、一般には、亜硫酸水素塩により媒介されるDNA変換の完了後に達成される。DNAを精製する方法及び対応する装置(任意には、自動化システム又はワーキングプラットホームの一体部分としての装置)は、当分野において良く知られており、多くのサブライヤから市販されている。
【0050】
本明細書で用いられる「DNAレポータ分子」という語は、そのヌクレオチド配列に少なくとも1つの非メチル化シトシン残基と、少なくとも1つの標識とを含むDNA分子をさし、少なくとも1つの標識は、検出可能な標識の解放を生じさせる亜硫酸水素塩媒介されるDNA変換を監視するための実際の基体として使用される。本発明の方法は、少なくとも1つのDNAレポータ分子によって、すなわち1又は複数のDNAレポータ分子によって、実施される。2以上のDNAレポータ分子が用いられる場合、これらは一般に同じタイプである(すなわち、同じ核酸配列及び/又は標識を有する)。しかしながら、異なるタイプの(すなわち異なる核酸構造及び/又は標識を有する)DNAリポータ分子を使用することも可能でありうる。
【0051】
概して、本発明において使用されるDNAレポータ分子は、10乃至150ヌクレオチド、例えば15乃至80ヌクレオチド、15乃至60ヌクレオチド、又は15乃至40ヌクレオチドの長さを有する核酸分子である。DNAレポータ分子は、自然発生分子又は好適には合成分子(例えば組み換えDNA技術又は化学合成によって生成される)でありうる。好適には、本発明において使用されるレポータ分子は、一本鎖の核酸分子である。しかしながら、二本鎖の分子が用いられてもよい。
【0052】
好適な実施形態において、少なくとも1つのDNAレポータ分子は、合成オリゴヌクレオチド(すなわち一本鎖)である。
【0053】
検出反応を実施するために、DNAレポータ分子は、1又は複数の検出可能な標識を含む。本明細書で用いられる「標識」という語は、1又は複数の適当な化学物質又は酵素を含む任意の化合物又はモイエティをさし、それらは、化学、物理又は酵素反応において、検出可能な化合物又は信号を直接的又は間接的に生成する。本明細書で使用される場合、この語は、検出可能な標識と、1又は複数のそのような検出可能なマーカに結合される任意の化合物との両方を含むことが理解されるべきである。更に、本発明の範囲内で、標識によって検出可能な信号の生成と干渉するモイエティ(例えば、クエンチャ及び蛍光体が互いに近くにある限り、蛍光体の励起から生じた放出を「乗っ取る」クエンチャ)が更に標識に属する。標識は、例えば、修飾された及び/又は標識化されたリボヌクレオチド、デオキシヌクレオチド又はジデオキシヌクレオチドの形で、レポータ分子に組み込まれ又はアタッチされることができる。標識は、DNAレポータ分子の配列の中で、5'−終端及び/又は3'−終端及び/又は任意の内部ヌクレオチドにアタッチされることができる。
【0054】
本発明により使用されることができる検出可能な標識は、化学、物理又は酵素反応において、検出可能な化合物又は信号を直接的又は間接的に生成する任意の化合物を含む。標識化は、当分野において良く知られている方法によって達成されることができる(Sambrook, J. et al. (1989) Molecular, Cloning: A Laboratory Manual, 2nd ed., Cold Spring Harbor Laboratory Press, Cold Spring Harbor, NY;、及びLottspeich, F., and Zorbas H. (1998) Bioanalytik, Spektrum Akademischer Verlag, Heidelberg / Berlin, Germanyを参照)。標識は、蛍光標識、酵素標識、着色標識、色素標識、発光標識、放射性標識、ハプテン、ビオチン、金属錯体、金属及びコロイド金から選択されることができる。すべてのこれらのタイプの標識は、当分野において良好に確立されている。このような標識によって媒介される物理的反応の例は、照射又は励起の際の蛍光又は燐光の放出であり、又は放射性標識を使用する際のX線の放出である。アルカリホスファターゼ、西洋わさびペルオキシダーゼ、β−ガラクトシダーゼ及びβ−ラクタマーゼは、酵素標識の例であり、これらは、色素反応生成物の形成をもたらし、本発明において使用されることができる。本発明の特定の好適な実施形態において、検出可能な標識は蛍光標識である。多数の蛍光標識は、当分野において良好に確立されており、異なるサブライヤから市販されている(例えばThe Handbook - A Guide to Fluorescent Probes and Labeling Technologies, 10th ed. (2006), Molecular Probes, Invitrogen Corporation, Carlsbad, CA, USAを参照)。
【0055】
このような標識を検出するために、本発明の方法を実施するために使用される装置は、標識の存在及び/又は量を示す値を決定するのに適した検出システムを有することができる。適切な検出システムの選択は、例えば実施される検出又はそのような種類の解析のために使用されるタイプの標識のような幾つかパラメータに依存する。様々な光学及び非光学検出システムが、当分野において良好に確立されている。例えば、本発明において使用されうる蛍光検出方法は、とりわけ蛍光共鳴エネルギー移動(FRET)、生物発光共鳴エネルギー移動(BRET)及び蛍光相関分光法を含む。
【0056】
特定の実施形態において、検出は、蛍光又は生物発光クエンチャペアの個々の形成に基づくFRET又はBRETを使用して実施される。FRETの使用は、例えばLiu, B. et al. (2005) Proc. Natl. Acad. Sci. USA 102, 589-593にも記述されている。BRETの使用は、例えば、Xu, Y. et al. (1999) Proc. Natl. Acad. Sci. USA 96, 151-156に詳述されている。
【0057】
少なくとも1つのDNAレポータ分子は、結合されない形態(すなわち溶液中の自由分子)で提供されることができる。特定の実施形態において、DNAレポータ分子は、サポートに不動化される(すなわち基質にアタッチされる)。一般に、サポートは、例えば固体の表面のような固体の部材である。サポートに対するDNAレポータ分子のアタッチメントは、DNAレポータ分子と所与のサポート部材との直接的(例えばレポータ分子に含まれるアンカー基を通じて)な又は間接的(結合を媒介する捕捉分子を通じて)な相互作用によって、達成されることができる。この相互作用は、共有結合又は非共有結合でありえ、概して可逆的である。例えば、カルボジイミド化学は、DNAレポータ分子を活性化表面に共有結合させるために使用されることができる。DNAレポータ分子の5'―又は、3'−終端―の適切なアミンリンカーが、この目的のために提供される。DNAレポータ分子の不動化を達成するための様々な他の確立した化学作用が、当分野において知られている。
【0058】
DNAレポータ分子は、好適には磁性ビーズ、ポリスチレンビーズ及びラテックスビーズのようなビーズでありうる可動サポートに不動化されることができる。このような可動サポート部材は、本発明の方法を実施するために使用されるセンサ装置の流体フローの中で移動されることができる。
【0059】
他方、DNAレポータ分子を、反応コンパートメントの内側表面上に、又は例えば反応コンパートメント内に配置されるが自由に移動されることができない顕微鏡スライド、ウエハ又はセラミック材料上に、直接的に不動化することも可能である。
【0060】
ある実施形態において、検出反応の結果は、(例えば内部制御として提供される)例えば固定量の標識によって得られる値又は文献からのデータのような、基準値と比較される。
【0061】
好適には、検出ステップは、例えば30分、60分、120分、6時間、12時間、24時間、48時間、その他の所与の時間期間内に、少なくとも1回繰り返される。複数回の繰り返しが可能であり、例えば2、5、8、10、15、20、30回及びそれ以上の繰り返しが可能である。繰り返しは、所与の時間期間にわたる固定の時間間隔中に実施されることができる。しかしながら、繰り返しの間の時間間隔は変化しても良く、例えば亜硫酸水素塩により媒介されるDNA変換が完了に達するにつれて、反応のエンドポイントを正確に決定するために、より短くされうる。言い換えると、検出の間に得られる結果は、DNA変換の進行を制御するために使用される。少なくとも1つのDNAレポータ分子の、亜硫酸水素塩により媒介される変換が完了する場合、同じことがサンプルDNAにも当てはまると考えられる。
【0062】
本発明の中で、サンプルDNA及び少なくとも1つのDNAレポータ分子は、互いに流体接続される空間的に分離された反応コンパートメントに提供される。すなわち、サンプルDNAは、第1の反応コンパートメントに提供され、少なくとも1つのDNAレポータ分子は、第2の反応コンパートメントに提供され、2つのコンパートメントは、別個のエンティティを表す。本明細書において用いられる「反応コンパートメント」(「反応チャンバ」とも呼ばれる)という語は、液体サンプルを収容するための任意の構造を示す。(例えば直方体又は円筒状3次元形状を有する)このような構造の様々な形状が、当分野において良く知られている。
【0063】
しかしながら、反応コンパートメントは、完全独立ではなく、互いに流体連絡されており、すなわち、コンポーネントの少なくとも一部が、コンパートメント間の流体フローの中で移動されることができる。これは、例えば、マイクロフルイディックチャネルを通じて反応コンパートメントを接続することによって、達成されることができる。好適な実施形態において、反応コンパートメントの間の空間的な分離は、半透膜によって、好適にはサイズ排除メンブレン又はマイクロダイアリシスメンブレンによって、達成される。このような半透膜は、より大きいもの(すなわちメンブレンの特性に依存する所与のサイズ制限を越える)が保持されたまま、小分子が障壁を通過することを可能にする。
【0064】
サンプルDNAのヌクレオチド配列に含まれる非メチル化シトシン残基及び少なくとも1つのDNAレポータ分子の、ウリジン残基への変換を媒介するために、空間的に分離された反応コンパートメントへの亜硫酸水素塩(例えば重硫酸ナトリウムであるが、任意の他の塩類も同様に適切である)の添加が、当分野において知られている標準プロトコルに従って実施される。試薬は、異なるサブライヤから市販されている。一般的な反応スキームが、図1に概略的に示されている。DNA変換は、概して、40−70℃の間、好適には55−65℃の間、特に好適には60℃の反応温度で実施される。インキュベーション期間は、数分乃至数時間(例えば一晩)又はより長い時間まで、(とりわけ解析されるべきサンプルに依存して)様々でありうる。
【0065】
サンプルDNA及び少なくとも1つのDNAレポータ分子のDNA変換は、空間的に分離された反応コンパートメント内で並行に(すなわち同じ実験条件下で)生じる。必要とされる個々の試薬が、特定のリザーバから、個々のDNA分子が提供されている反応コンパートメントのいずれか1つ及び/又は両方に加えられることができる。
【0066】
特定の反応温度を調整するために、本発明を実施するのに用いられる少なくとも1つの、好適にはすべての反応コンパートメントは、反応コンパートメント内の温度を制御し、調節するための1又は複数の温度制御ユニットを備える。このような温度制御ユニットは、使用される装置の1又は複数の反応コンパートメントと直接的に接触しうる1又は複数の別個の加熱及び/又は冷却素子を含むことができる。様々な熱制御システムが、当分野において知られており、異なるサブライヤから市販されている。
【0067】
酵素ウラシル−DNA−グリコシラーゼ(UNG)が、一般に、以前の反応からのPCR生成物を汚染する可能性のある「キャリーオーバー」を防ぐために、PCR反応において一般に使用される。UNGは、多くのサプライヤーから市販されており、一本鎖及び二本鎖DNAに対して作用する。UNGは、ウリジン残基を除去する作業を伴うセルのDNA修復装置の一部である。ウリジンは、シトシンがウラシルに脱アミノ化される場合にのみDNAに見つけられることができ、これは、DNAの変異につながる。酵素は、DNAの糖−リン酸塩バックボーンからウラシル塩基を除去し、その反応は、図2に概略的に示されている。この反応は、いわゆる塩基切除修復メカニズムの一部であり、それにより、このケースではDNAのシトシン脱アミノ化変異を防ぐ。
【0068】
知られている任意のウラシル−DNA−グリコシラーゼが、本発明において用いられることができる。酵素は、サンプルDNAにでなく、少なくとも1つのDNAレポータ分子に加えられる。DNAバックボーンからの酵素反応(すなわち、亜硫酸水素塩により媒介される変換の間に得られたウラシル塩基の除去)が、用いられる特定の酵素に依存して確立された標準反応条件下で生じる。
【0069】
好適な実施形態において、熱安定性のUNG酵素が使用される、特に好熱性生体から得られるUNG酵素が使用される。このような熱安定性のUNG酵素は、当分野において知られている(例えば、Sartori, A.A. et al (2001) J. Biol. Chem. 276, 29979-29986; Sartori, A.A. et al (2002) EMBO J. 21, 3182-3191)。それらは、90℃より高い温度であっても、高い活動性を維持する。
【0070】
UNGにより媒介される酵素反応は、少なくとも1つのDNAレポータ分子が提供されるのと同じ反応コンパートメントにおいて、又は、空間的に分離されているが、少なくとも1つのDNAレポータ分子が提供される1つの反応コンパートメントと流体連絡する他の(すなわち第3の)反応コンパートメントにおいて、実施されることができる。必要な試薬は、個々の反応コンパートメントと流体連絡する特定のリザーバから提供されることができる。
【0071】
UNG処理の後に得られるDNAレポータ分子は、損われていないDNAバックボーンをなお有するが、ウラシル塩基が除去された1又は複数の脱塩基部位をもつ。これらの脱塩基部位は、例えば90℃乃至95℃の間の温度のような高温で、加水分解に敏感である。
【0072】
本発明において、熱誘導の断片化は、DNAのタイプ及び量に依存して、例えば10秒、30秒、1分、2分、5分のような様々な時間期間の中で実施されることができる。当業者であれば、インキュベーション時間を如何にして選択するかが分かる。
【0073】
熱誘導の断片化ステップは、少なくとも1つのDNAレポータ分子が提供される(及び任意にはUNGにより媒介される反応が行われた)のと同じ反応コンパートメント内で、又は別の空間的に分離された反応コンパートメント内で、実施されることができる。後者は、UNGにより媒介される反応が行われたのと同じ反応コンパートメント(すなわち第3)、又は空間的に分離されているが第2の及び/又は第3の反応コンパートメントと流体連絡する他の(すなわち第4の)反応コンパートメントでありうる。
【0074】
最後に、検出ステップは、少なくとも1つのDNAレポータ分子が提供される(及びUNGにより媒介される反応及び熱誘導された断片化が行われた)のと同じ反応コンパートメント内で、又は空間的に分離された別の反応コンパートメント内で、実施されることができる。後者は、すでに上述した第3の又は第4の反応コンパートメントでありえ、又は空間的に分離されているが第2及び/又は第3及び/又は第4の反応コンパートメントと流体連絡する他の(すなわち第5の)コンパートメントでありうる。
【0075】
本発明による方法の原理は、図3に概略的にまとめられている。
【0076】
ある実施形態において、互いに流体接続される少なくとも2つの空間的に分離される反応コンパートメントが、好適には連続センサ装置であるセンサ装置に組み込まれる。センサ装置は更に、例えばDNAサンプル精製のための及び/又は差動メチル化の次の解析のための手段のような、自動化プラットホーム又はワーキングステーションの一体部分(例えばPCR反応を実施するためのサーマルサイクラ)でありえる。このようなプラットホームは、当分野において知られており、市販されている。
【0077】
別の見地において、本発明は、サンプルDNAのメチル化ステータスを解析するための、本明細書に規定される方法の使用に関する。言い換えると、亜硫酸水素塩により媒介されるDNA変換の進行を監視するこの方法は、高品質の(すなわち十分に変換された)DNAを提供することによって、下流のアプリケーションの正確さ及び信頼性を確実にするために不可欠である。このような下流のアプリケーションは、亜硫酸水素塩−シークエンシング、メチル化感受性一本鎖コンフォメーション解析(MS−SSCA)、メチル化感受性単一ヌクレオチドプライマー拡張(MS−SnuPE)、メチル化感受性マイクロアレイアプリケーション、組み合わされた亜硫酸水素塩制限解析(COBRA)、メチル化感受性リアルタイムPCRアプリケーション及びその他を含む。
【0078】
好適な実施形態において、DNAメチル化ステータスの解析は、癌を診断するために使用される。
【0079】
本発明は、図面及び以下の例によって詳しく記述されるが、それらの図面及び例は、単に、本発明の特定の実施形態を説明するためだけにあり、いかなる形であれ本発明の範囲を制限するものとして解釈されるべきでない。
【0080】
実施例
実施例1:連続センサ装置における亜硫酸水素塩により媒介されるDNA変換の監視
本実施例において、本発明による方法は、図4に概略的に示される例示の連続センサにおいて実施される。
【0081】
このような状況において、方法のそれぞれ異なるステップが、空間的に分離されたそれぞれ異なる反応コンパートメントにおいて行われることが望ましい。センサ装置のこの構成は、異なる方法ステップの間の干渉及び反応成分の間の不適合を防ぐ。例えば、ウラシル―DNA―グリコシラーゼ(UNG)の酵素活性は、熱断片化ステップの間、著しく減少しうる。
【0082】
図4に示されるセンサ装置は、少なくとも5つの空間的に分離された反応コンパートメントを有する。第1の反応コンパートメントには、サンプルDNAが提供される。サンプルDNAは、メチル化ステータスの次の解析のために、このコンパートメントから除去されうる(図示せず)。第1コンパートメントは、DNAの準備及び変換のために必要な成分(例えば重硫酸塩溶液)を含む適切な量のリザーバに接続される。
【0083】
第1の反応コンパートメントは、第2の反応コンパートメントのすぐ隣りに位置し、第2の反応コンパートメントには、少なくとも1つのDNAレポータ分子(すなわち標識化された合成DNAオリゴヌクレオチド)が提供される。
【0084】
2つの反応コンパートメントの間の空間的な分離は、変換試薬が通過することができるが、サンプルDNAが第1チャンバに保持されるようなやり方で、すなわち、半透過性バリアを通じて、例えばサイズ排除(フィルタ)メンブレンによって、達成される。言い換えると、2つの反応コンパートメントは、互いに流体連絡されている。
【0085】
第1及び第2の反応コンパートメント内の温度は、1又は複数の加熱(及び/又は冷却)素子を用いることによって、適切な反応条件(例えば60℃)の調整を可能にするように制御されることができる。
【0086】
第3の反応コンパートには、UNG酵素が提供され、「変換された」少なくとも1つのDNAレポータ分子からのウラシル塩基の除去が行われる。第2及び第3の反応コンパートメントの間の空間的な分離は、UNG酵素のための最適反応条件を生成するために、バッファ成分が、例えばマイクロダイアリシス膜によって、置換され又は除去されることができるようなやり方で、達成される。
【0087】
第3の反応コンパートメントに隣接して位置する第4の反応コンパートメントでは、DNAリポータ分子の脱塩基部位において熱誘導の加水分解が行われる。第3及び第4の反応コンパートメントの間の空間的な分離は、例えば(半透過性の)サイズ排除(フィルタ)膜によって、UNG酵素分子は保持されるがDNAレポータ分子は保持されないようなやり方で、構成される。
【0088】
第4の反応コンパートメントに隣接して位置する第5の反応コンパートメントでは、以前の断片化ステップの間に解放された標識(例えば蛍光染料)の検出が行われる。第4及び第5の反応コンパートメントの間の空間的な分離は、例えば(半透過性の)サイズ排除(フィルタ)膜によって、標識及び断片化されたDNAレポータ分子は第5の反応コンパートに通過することができるが、損なわれていないDNAレポータ分子は第4の反応コンパートに保持されるようなやり方で、構成される。
【0089】
反応スキームの開始時に第2の反応コンパートメントに提供される少なくとも1つのDNAレポータ分子の量は、好適には、後続の反応経路に入るフラクション(割合)がアッセイの時間を通じて一定であると考えられることができるものである。検出される標識の量は、DNAの変換の尺度である。
【0090】
標識によって生成される信号は、例えば核酸コンテントのUV測定によって決定される、第3の反応コンパートメントに入るDNAレポータ分子のフラクションに正規化される。
【0091】
UNG及び熱の総合作用によって変換されない、ゆえに断片化されないDNAレポータ分子のフラクションは、第2の反応コンパートメントにへ再び向けられる。これらのDNAレポータ分子は、再び変換反応に入る。これは、例えば第4及び第2の反応コンパートメント(閉ループ構造、図4に示さず)の間の接続によって達成されることができる。
【0092】
通常のマイクロフルイディクスが、液体及び試薬の量を制限し、システムを作動させるために使用されることができる。
【0093】
実施例2:2重に標識化されたDNAレポータ分子の使用
本発明による方法の他の実施形態において、少なくとも1つのDNAレポータ分子(すなわち合成オリゴヌクレオチド)は、第1及び第2の標識を含む。
【0094】
第1の標識は、様々な市販の染料から選択されることができる蛍光染料である。第2の標識は、この染料に適切したクエンチャである。代替として、第2の分子は、第1の染料と共に、蛍光共鳴エネルギー移動(FRET)のためのドナーアクセプタ対を形成する他の蛍光染料である。
【0095】
DNAレポータ分子の熱誘導の断片化が生じるとき、第1の蛍光染料は、クェンチャ分子から分離される。代替として、FRETドナーアクセプタ対は、互いから分離される。蛍光信号は、熱誘導の断片化ステップにおいて既に検出可能である。
【0096】
それゆえ、断片化及び検出ステップを組み合わせることによって、図4に示されるセンサ装置の少なくとも5つの反応コンパートメントのうちの1つが不要になり、その結果、装置の簡略化された構成を与える。
【0097】
実施例3:ビーズに不動化されるDNAレポータ分子の使用
あるアプリケーションの場合、例えば試薬の量、エネルギー消費等を制限するために、ほんの少数のデータポイントのみを生成することが好ましいことがある。このような状況では、少なくとも1つのDNAレポータ分子(すなわち合成オリゴヌクレオチド)は、例えば3'−末端のような一方の終端にアタッチされる適切な標識を有し、好適には例えばポリスチレンビーズ又は磁気ビーズのようなビーズである移動表面上に、例えば5'−末端である他方の終端を通じて不動化される。
【0098】
1つの特定の実施形態において、ビーズは例示のセンサ装置の第2の反応コンパートメントに保持され、特定の時点に、ビーズのフラクションが、他の(複数の)コンパートメントに入るために解放されることができる。
【0099】
空間的に分離された2つの反応コンパートメントを有する例示のセンサ装置の固体サポート(すなわちビーズの表面)に不動化されるDNAレポータ分子のフラクションを使用することによる、離散的なデータポイントの収集が、図5に概略的に示される。パネルA―Cは、時間連続の部分的な解放を概略的に示す。パネルDは、DNA変換効率を決定するために使用可能なプロットを表す。
【0100】
更に、第2の反応コンパートメント内のビーズに不動化されるDNAレポータ分子の使用は、DNAレポータ分子が保持されたままで、このコンパートメント内の溶液の交換を可能にする。図5に示されるセンサ装置の第2及び第3の反応コンパートメントの間の緩衝平衡の要求は不要であり、省略されることができる。
【0101】
更に、(ビーズ当たりのDNAレポータ分子の数及び解放当たりのビーズ数が分かっているので、)第2の反応コンパートメントからのDNAレポータ分子の部分的な解放は、他の(複数の)反応コンパートメントへ移動されるDNAレポータ分子の絶対数のより正確な制御を可能にする。これは、変換されない/変換されたDNAレポータ分子の比率の計算を容易にする。
【0102】
第2の反応コンパートメント内のビーズを制限することは、例えば磁界の印加に関連して磁性ビーズを使用することによって、又は交流磁界及び誘電泳動力に関連してポリスチレンビーズを使用することによって、達成されることができる。
【0103】
実施例4:反応コンパートメントの内部表面に不動化されるDNAレポータ分子の使用
他の実施形態において、第1及び第2の反応コンパートメントを有するセンサ装置が、本発明の方法を実行するために用いられる。センサ装置は、図6に概略的に示される。
【0104】
第1の反応コンパートメント(サンプルDNAが提供される)は、亜硫酸水素塩変換のために必要とされる試薬を含むリザーバに接続される。
【0105】
第2の反応コンパートメントは、適切なバッファ中にUNG酵素を含む少なくとも1つのリザーバに接続される。少なくとも1つのDNAレポータ分子(すなわち標識化された合成オリゴヌクレオチド)が、例えばDNAレポータ分子の一方の終端においてアミノリンカー及びカルボジイミド化学を使用することによって、第2の反応コンパートメントの内部表面に不動化される。DNAレポータ分子の他方の終端は、例えば蛍光染料である適切な標識によって修飾される。
【0106】
第1及び第2の反応コンパートメントは、空間的に分離されているが、例えば半透過性のサイズ排除フィルタ膜によって、バッファ及び/又は変換試薬の交換は許容されるがサンプルDNA及び酵素は通過することができないように、互いに流体連絡される。
【0107】
両方の反応コンパートメント内の温度は、効果的な亜硫酸水素塩により媒介されるDNA変換を可能にするレベルに調整されることができる。しかしながら、第2の反応コンパートメント内の温度は、例えば第2の加熱(及び/又は冷却)素子を使用することにより、第1の反応コンパートメント内の温度と独立して調節されることができる。
【0108】
第1の方法ステップにおいて、両方の反応コンパートメントの 緩衝条件及び温度は、サンプルDNA及び不動化DNAレポータ分子を変換するのに適している(図6A)。
【0109】
第2ステップにおいて、第2の反応コンパートメントの温度は、UNG反応が行われることを可能にするように、例えば37℃に低下される。リザーバからのUNG酵素が、第2のコンパートメントに与えられる(図6B)。
【0110】
第3のステップにおいて、第2の反応コンパートメント内の温度は、脱塩基部位でDNAレポータ分子を断片化するために、例えば95℃に上昇される(図6C)。断片化されたDNAレポータ分子から解放される標識は、適当な検出器を通じて測定される。代替として、表面におけるなお損なわれていないDNAレポータ分子の標識が、例えばTIRFと関連して蛍光標識を使用することによって、又は共焦点スキャナ等によって、測定されることができる。
【0111】
第2の反応コンパートメントにおける熱処理の後、温度は、変換反応を続けるために、第1の反応コンパートメントの温度にまで再び低下される。特定の時間ポイントに、プロトコルが繰り返され、その結果、離散的なプロットは、(図5Dと同様の)経時的な変換効率を示す。
【0112】
第2のコンパートメントにおけるUNG処理、熱誘導の断片化、及び標識検出の間、第1のコンパートメント内の温度は、一般に、サンプルDNAの変換を止めるために低下される。これは、2つのコンパートメントにおいて得られる変換反応のより良好な相関関係を与える。このように、本実施形態では、不連続な測定値が取得され、より洗練された温度制御が必要であるが、複雑さ及び必要なコンパートメントの数は低減される。
【0113】
実施例5:熱安定性のウラシル―DNA―グリコシラーゼ(UNG)の使用
本発明による方法の別の実施形態において、熱断片化の間、活性のままである熱安定性のUNG酵素が使用される。しかしながら、好適には、好熱性生物から導き出されたUNG酵素が使用される。このような熱安定性のUNG酵素は、当分野において知られている(例えばSartori, A.A. et al (2001) J. Biol. Chem. 276, 29979-29986; Sartori, A.A. et al (2002) EMBO J. 21, 3182-3191)。熱安定性のUNG酵素は、90℃以上の温度でも高い活性を維持する。センサ装置における断片化ステップは、90℃乃至95℃の間の温度で実施される。このように、熱安定性のUNG酵素は、熱誘導の断片化の最中及び後にも活性のままである。
【0114】
本実施形態において、UNG酵素は、コンパートメントの内部表面に不動化されるDNAレポータ分子(すなわち標識化された合成オリゴヌクレオチド)と共に、第2の反応コンパートメントに提供される。酵素リザーバをもたない2コンパートメントセンサ装置が、第2の反応コンパートメントの2ステップ温度プロトコルと協力して、充分である。両方のコンパートメントは、反応コンパートメントの間の酵素及びサンプルDNAの交換を防ぐために、ここでも半透過性のサイズ排除フィルタ膜によって接続される。使用されたセンサ装置の説明は、図7に与えられている。検出は、上記の実施例1―5にて説明したように、実行されることができる。
【0115】
実施例6:サンプルDNA精製
例えばメチル化特異的PCR又は他の適切な技法によって、亜硫酸水素塩により媒介される変換の後にサンプルDNAを更に解析するために、サンプルDNAは、精製された形で提供されなければならない。
【0116】
こうして、例えば、適切な結合バッファ(例えば高含有量のカオトロピック塩を有する)によってDNAをシリカ膜に結合し、適切なバッファ(例えば高含有量のエタノール)により結合されたDNAを洗浄し、適切なバッファ(例えば水又はそのバッファ溶液)によりDNAを溶離するための手段及び試薬が、本発明による方法に含められることができる。これは、前記シリカ膜を含み、第1の反応コンパートメントにアタッチされる出口と、それぞれの試薬液のためのリザーバと、を提供することによって達成されることができる。
【0117】
本明細書に説明的に記述される本発明は、本明細書に特に開示されないが、1又は複数の構成要素、1又は複数の限定が存在しない場合にも適切に実施されることができる。こうして、例えば、「有する、含む(comprising)」、「含む(including)」、「含む(containing)」という語は、制限なく、拡張的に理解されるべきである。加えて、本明細書において使用される語及び表現は、説明の語として使用されており、制限するものではなく、そのような語及び表現の使用において、図示され記述される特徴と等価なもの又はその一部を排除することを意図せず、様々な変形例が、請求項に記載の本発明の範囲内で可能であることが理解される。
【0118】
従って、本発明は、実施形態によって具体的に開示されているが、その中に具体化される本発明の任意の特徴、変形及び変更は、当業者によって再分類されることができ、そのような変形及び変更は、本発明の範囲内にあると考えられることが理解されるべきである。
【0119】
本発明は、本明細書に広く及び一般的に記述されている。一般的な開示の中に入るよりも狭い種類及び下位の一般的なグループの各々は、本発明の一部を形成する。これは、除去される材料が本明細書に具体的に列挙されているか否かに関係なく、概念から任意の発明の主題を除去する但し書き又は否定的な制限を有する本発明の一般的な記述を含む。
【0120】
他の実施形態は、添付の請求項の範囲内にある。更に、本発明の特徴又は見地は、マーカッシュ群に関して記述されているが、当業者であれば、本発明が更にマーカッシュ群の個別のメンバ又はメンバのサブグループに関しても記述されるていることが分かるであろう。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
DNAメチル化解析の間、亜硫酸水素塩により媒介されるDNAの変換を監視する方法であって、
(a)解析されるべきサンプルDNA及び少なくとも1つのDNAレポータ分子を提供するステップであって、前記少なくとも1つのDNAレポータ分子が、(i)そのヌクレオチド配列内の少なくとも1つの非メチル化シトシン残基と、(ii)少なくとも1つの標識と、を含み、前記サンプルDNA及び前記少なくとも1つのDNAレポータ分子が、互いに流体接続される空間的に分離された反応コンパートメントに提供される、ステップと、
(b)亜硫酸水素塩を前記空間的に分離された反応コンパートメントに加えて、前記サンプルDNAの前記ヌクレオチド配列に含まれる前記非メチル化シトシン残基及び前記少なくとも1つのDNAレポータ分子の、ウリジン残基への変換を媒介するステップと、
(c)ウラシル−DNA−グリコシラーゼを前記少なくとも1つのDNAレポータ分子に加えて、前記ステップ(b)で得られた前記ウラシル塩基の、DNAバックボーンからの除去を媒介するステップと、
(d)前記ステップ(c)で得られたDNAを熱処理によって断片化するステップと、
(e)前記ステップ(d)の間、前記少なくとも1つの合成DNAレポータ分子から解放される少なくとも1つの標識を検出するステップと、
を含む方法。
【請求項2】
(f)前記ステップ(e)で得られた結果を基準値と比較するステップを更に含む、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
前記検出するステップが、所与の時間期間内に少なくとも1回繰り返される、請求項1又は2に記載の方法。
【請求項4】
前記ステップ(e)で得られた結果が、前記ステップ(b)による反応の進行を制御するために使用される、請求項1乃至3のいずれか1項に記載の方法。
【請求項5】
前記少なくとも1つのDNAレポータ分子が合成オリゴヌクレオチドである、請求項1乃至4のいずれか1項に記載の方法。
【請求項6】
前記少なくとも1つの合成DNAレポータ分子がサポートに不動化される、請求項1乃至5のいずれか1項に記載の方法。
【請求項7】
前記ウラシル−DNA−グリコシラーゼが熱安定性である、請求項1乃至6のいずれか1項に記載の方法。
【請求項8】
前記ステップ(c)、(d)及び(e)が、前記少なくとも1つのDNAレポータ分子を提供するために用いられるのと同じ反応コンパートメントにおいて実施される、請求項1乃至7のいずれか1項に記載の方法。
【請求項9】
前記ステップ(c)、(d)及び(e)の1つ又は複数が、前記少なくとも1つのDNAレポータ分子を提供するために用いられる反応コンパートメントと流体接続される少なくとも1つの空間的に分離された他の反応コンパートメントにおいて実施される、請求項1乃至7のいずれか1項に記載の方法。
【請求項10】
少なくとも1つの及び好適にはすべての反応コンパートメントが、前記反応コンパートメント内の温度を制御し、調節するための1又は複数の温度制御ユニットを備える、請求項1乃至9のいずれか1項に記載の方法。
【請求項11】
前記反応コンパートメントの間の空間的な分離は、半透膜によって達成され、好適にはサイズ排除メンブレン又はマイクロダイアリシスメンブレンによって達成される、請求項1乃至10のいずれか1項に記載の方法。
【請求項12】
互いに流体接続される前記少なくとも2つの空間的に分離された反応コンパートメントは、センサ装置に組み込まれ、好適には連続センサ装置に組み込まれる、請求項1乃至11のいずれか1項に記載の方法。
【請求項13】
サンプルDNAのメチル化ステータスを解析するための又は解析する際の請求項1乃至12のいずれか1項に記載の方法の使用。
【請求項14】
前記DNAメチル化ステータスの解析が癌診断のために実施される、請求項13に記載の使用。
【請求項15】
DNAメチル化ステータスを解析する過程における請求項1に記載のレポータ分子の使用。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5A】
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【図5B】
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【図5C】
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【図5D】
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【図6A】
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【図6B】
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【図6C】
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【図7A】
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【図7B】
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【公表番号】特表2013−505031(P2013−505031A)
【公表日】平成25年2月14日(2013.2.14)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2012−530388(P2012−530388)
【出願日】平成22年9月15日(2010.9.15)
【国際出願番号】PCT/IB2010/054163
【国際公開番号】WO2011/036609
【国際公開日】平成23年3月31日(2011.3.31)
【出願人】(590000248)コーニンクレッカ フィリップス エレクトロニクス エヌ ヴィ (12,071)
【Fターム(参考)】