説明

亜臨界処理ローヤルゼリーを含有する抗酸化剤及びその製造方法

【課題】物性の低下を抑制し、飲食品・医薬品等の様々な用途に利用することができる抗酸化剤及びその製造方法を提供する。
【解決手段】本発明の抗酸化剤は、ローヤルゼリーを抽出原料として亜臨界流体を用いて抽出処理して得られる抽出物を有効成分として含有することを特徴とする。好ましくは、実質的に発現されない程度にアレルギー性が低下されている。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ローヤルゼリーを抽出原料とし、亜臨界流体を用いて得られる抽出物を有効成分として含有する抗酸化剤及びその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
一般に、ローヤルゼリーは、羽化後3〜15日の雌のミツバチが下咽頭腺及び大腮腺から分泌する分泌物を混合して作るゼリー状の物質で、特有のタンパク質、脂肪酸及びミネラル等が含有されていることが知られている。ローヤルゼリーは、血圧降下作用、抗腫瘍作用、創傷治癒促進、抗菌作用等の種々の生理作用を有していることが知られている。よって従来より、ローヤルゼリーは、栄養価の高い健康食品のみならず、医薬品、化粧品等の用途にも用いられてきた。
【0003】
従来より、ローヤルゼリーの機能をより優れたものとするために様々な処理が行われている。例えば、特許文献1,2に開示される方法が知られている。特許文献1は、生ローヤルゼリー等に抽出溶媒、例えば含水エタノールを添加して混合液を調製し、可溶性成分を含水エタノール中に溶解させた後、これを濾過して得られるローヤルゼリーエキスの製造方法について開示する。ローヤルゼリーエキスはデセン酸類、例えば10−ヒドロキシデセン酸をはじめとするローヤルゼリーに特有な脂肪酸、そのエステルからなる脂質、ローヤルゼリーにのみ含有される特殊な水溶性タンパク質、アミノ酸、糖質、ミネラル等を含有している。特許文献2は、ローヤルゼリーをプロテアーゼ処理することにより得られる抗酸化剤について開示する。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2000−60455号公報
【特許文献2】特開2005−263782号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
ところが、特許文献2に開示される抗酸化剤は、ローヤルゼリーをプロテアーゼ処理すると、吸湿性が上がり、物性、例えば粉末流動性、外観及び保存安定性が低下する場合があるという問題があった。
【0006】
本発明は、ローヤルゼリーを亜臨界流体を用いて抽出処理することにより、物性の低下が抑制されるとともに、優れた抗酸化作用を発揮することを見出したことによりなされたものである。
【0007】
本発明の目的とするところは、物性の低下を抑制し、飲食品・医薬品等の様々な用途に利用することができる抗酸化剤及びその製造方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記目的を達成するために、請求項1に記載の抗酸化剤は、ローヤルゼリーを抽出原料として亜臨界流体を用いて抽出処理して得られる抽出物を有効成分として含有することを特徴とする。
【0009】
請求項2に記載の発明は、請求項1に記載の抗酸化剤において、実質的に発現されない程度にアレルギー性が低下されていることを特徴とする。
請求項3に記載の発明は、請求項1又は請求項2に記載の抗酸化剤の製造方法において、抽出原料としてのローヤルゼリーに亜臨界流体を作用させて抽出物を得る工程からなることを特徴とする。
【発明の効果】
【0010】
本発明によれば、物性の低下を抑制し、飲食品・医薬品等の様々な用途に利用することができる抗酸化剤及びその製造方法を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
【図1】試験例1のタンパク質(ペプチド成分)の分解確認試験における電気泳動後のゲル写真を示す。
【発明を実施するための形態】
【0012】
以下、本発明の抗酸化剤を具体化した実施形態を説明する。
本実施形態の抗酸化剤は、抽出原料としてローヤルゼリーを用い、亜臨界流体を用いて抽出することにより得られる抽出物を有効成分として含有する。原料のローヤルゼリーとしては、生ローヤルゼリー及び生ローヤルゼリーを凍結乾燥処理等により乾燥させて粉末化したローヤルゼリー粉末(FD−RJ)のいずれも使用することができる。本実施形態において使用される生ローヤルゼリー及び乾燥ローヤルゼリーの産地は、特に限定されないが、例えば中国、台湾、日本等のアジア諸国、ヨーロッパ諸国、北アメリカ諸国、ブラジル等の南アメリカ諸国、オセアニア諸国のいずれでもよい。
【0013】
亜臨界流体を用いた抽出法は、公知の亜臨界流体抽出装置を用いることにより実施することができる。所定温度及び圧力の条件下で亜臨界状態にした亜臨界流体と抽出原料とを接触させることにより、抽出原料から所定の成分を抽出するものである。例えば、水は、圧力22.12MPa、温度374.15℃まで上げると液体でも気体でもない状態を示す。この点を水の臨界点といい、臨界点より低い温度・圧力の熱水を亜臨界水という。亜臨界水は、優れた成分抽出作用と加水分解作用を有する。亜臨界流体として用いる抽出剤は、水以外に、例えばエチレン、エタン、プロパン、二酸化炭素、メタノール、エタノール、及びそれらの混合物が挙げられる。これらの中で、安全性の観点から水を用いるのが最も好ましい。
【0014】
水を用いる場合の操作温度は、好ましくは60〜374℃、より好ましくは100〜170℃である。操作温度が60℃未満であると、成分抽出効率及び加水分解作用が低下するおそれがある。一方、操作温度が374℃を超えると褐変の発生及び臭気成分が生ずる場合があり、また、デセン酸が分解されるおそれがある。また、その操作圧力は、好ましくは1〜22MPa、より好ましくは5〜10MPaである。抽出処理時間は、ローヤルゼリー原料の量や状態、処理温度・圧力により異なるが、予備試験等を行うことにより適宜設定される。抽出処理時間は、好ましくは0.5〜30分、より好ましくは1〜10分である。原料(ローヤルゼリー)の固形物と抽出剤との比率は特に限定されないが、ローヤルゼリー1質量部に対して抽出剤0.1〜1000質量部、好ましくは1〜30質量部である。
【0015】
本実施形態の抗酸化剤は、優れた抗酸化作用を有するとともに、実質的に発現されない程度にアレルギー性が低下されている。具体的な配合形態としては、それらの作用効果を得ることを目的とした飲食品、医薬品及び化粧品等として適用することができる。
【0016】
本実施形態の抗酸化剤を飲食品に適用する場合、抗酸化剤を飲食品そのものとして、又は種々の食品素材又は飲料品素材に配合して使用することができる。飲食品の形態としては、特に限定されず、液状、粉末状、ゲル状、固形状のいずれであってもよく、また剤形としては、錠剤、カプセル剤、顆粒剤、ドリンク剤のいずれであってもよい。その中でも、吸湿性が抑えられることから、カプセル剤であることが好ましい。前記飲食品としては、その他の成分としてゲル化剤含有食品、糖類、香料、甘味料、油脂、基材、賦形剤、食品添加剤、副素材、増量剤等を適宜配合してもよい。
【0017】
本実施形態の抗酸化剤を医薬品として使用する場合は、服用(経口摂取)により投与する場合の他、血管内投与、経皮投与等のあらゆる投与方法を採用することが可能である。本実施形態の抗酸化剤は経口摂取により投与されることが望ましい。剤形としては、特に限定されないが、例えば、散剤、粉剤、顆粒剤、錠剤、カプセル剤、丸剤、坐剤、液剤、注射剤等が挙げられる。また、添加剤として賦形剤、基剤、乳化剤、溶剤、安定剤等を配合してもよい。
【0018】
本実施形態の抗酸化剤を化粧品に適用する場合、化粧品基材に配合することにより製造することができる。化粧品の形態は、乳液状、クリーム状、粉末状などのいずれであってもよい。このような化粧品を肌に適用することにより、アレルギー性を発現することなく、抗酸化作用を得ることができる。化粧品基剤は、一般に化粧品に共通して配合されるものであって、例えば、油分、精製水及びアルコールを主要成分として、界面活性剤、保湿剤、酸化防止剤、増粘剤、抗脂漏剤、血行促進剤、美白剤、pH調整剤、色素顔料、防腐剤及び香料から選択される少なくとも一種が適宜配合される。
【0019】
本実施形態によって発揮される効果について、以下に記載する。
(1)本実施形態の抗酸化剤は、ローヤルゼリーを抽出原料として亜臨界流体を用いて抽出処理して得られる抽出物を有効成分として含有する。したがって、生ローヤルゼリー、凍結乾燥ローヤルゼリー粉末、又はプロテアーゼ等によって処理された酵素処理ローヤルゼリーに比べて優れた抗酸化作用を発揮する。よって、抗酸化作用を目的とした飲食品、医薬品及び化粧品等の各種分野に好ましく適用することができる。
【0020】
(2)また、吸湿性の上昇を抑制することにより、粉末流動性、外観及び保存安定性等の物性の低下を抑制することができる。
(3)本実施形態の抗酸化剤の有効成分である抽出物は、ローヤルゼリーを抽出原料として亜臨界流体を用いて抽出処理して得られる。したがって、ローヤルゼリーの機能をより優れたものとするための処理を短時間で完了することができ、処理に伴うデセン酸類等のローヤルゼリー特有の成分の減少を抑制することができる。
【0021】
(4)本実施形態の抗酸化剤は、実質的に発現されない程度にアレルギー性が低下されている。したがって、生ローヤルゼリー又は凍結乾燥ローヤルゼリー粉末と比べて、より一層摂取しやすく、生体適用性を向上させることができる。
【0022】
(5)本実施形態の抗酸化剤は、天然由来の原料としてローヤルゼリーが用いられる。したがって、安全に飲食品、医薬品、又は化粧品の各種用途に適用することができる。
(6)本実施形態の抗酸化剤の有効成分である抽出物は、ローヤルゼリーを抽出原料として亜臨界流体を用いて抽出処理して得られる。これにより、味の低下を抑制することができる。
【0023】
なお、上記実施形態は以下のように変更してもよい。
・上記実施形態における抗酸化剤は、ヒトが摂取する飲食品及び医薬品等に対して適用することができるのみならず、家畜の飼料にサプリメント、栄養補助食品、医薬品等として配合してもよい。
【実施例】
【0024】
以下に実施例を挙げ、前記実施形態をさらに具体的に説明するが、本発明はこれらに限定されるものではない。
<試験例1:亜臨界抽出の条件検討>
(亜臨界抽出処理)
本試験例で使用する亜臨界抽出処理を行うための装置は直径6.5cm×長さ21cmのステンレス管からなる反応容器、該反応容器内の温度を所定温度に設定可能なヒーター装置、及び反応容器内の圧力を所定圧力に設定可能な圧力調整装置を備えてなる。反応処理操作は、まず反応容器内に原料と窒素ガスを封入後、ヒーター及び圧力調整装置により、所定の温度及び圧力を設定し、攪拌しながら処理が開始される。次に、反応容器内を一定温度に保ち亜臨界処理が実施される。最後に、水冷により直ちに反応容器内が冷却され、試料を反応容器から取り出すことにより完了する。
【0025】
下記表1に示される処理条件に従って抽出処理を行った。具体的には、まず中国産の凍結乾燥ローヤルゼリー粉末20gに純水180mLを攪拌混合することにより溶解液を調製した。かかる溶解液を原料として亜臨界抽出装置の反応容器内に投入し、表1に示される各抽出条件になるよう加圧及び加熱した。表1に示される抽出条件で所定時間経過後、冷却し、40℃になったところで、抽出物を反応容器から取り出した。各抽出物を試験試料として、下記に示される方法に従い、デセン酸類の含有量、SDS−PAGEを用いたタンパク質の分解度について評価した。
【0026】
(デセン酸類の測定方法)
各試験試料のローヤルゼリーの有効成分であるデセン酸類の含有量について測定した。コントロールとして、亜臨界抽出前の凍結乾燥ローヤルゼリー粉末についても併せて測定した。
【0027】
高速液体クロマトグラフィー(HPLC:島津製作所製)で分析することによって、ローヤルゼリーの有効成分であるデセン酸類として、10−ハイドロキシデセン酸の含量を測定した。まず、10−ハイドロキシデセン酸標品10mgをメタノールで50mLに溶解し、これを純水で適宜希釈して、標準溶液として使用した。安息香酸25mgをメタノールで50mLに溶解し、この1mLを分取して、1N NaOHを1滴加え、純水で50mLにメスアップしたものを内部標準液とした。各試料を凍結乾燥してパウダーとし、その0.5gにエタノール10mLと1N NaOH1mLを添加した後、純水で50mLにメスアップした。この2mLを分取し、内部標準液を1mL加えて純水で50mLにメスアップしたものをサンプルとした。無水リン酸20.18g及びリン酸二水素二ナトリウム二水和物27.3gを純水1960mLに溶解し、メタノール1540mLを加えてよく混合し、メンブレンフィルターで濾過した後、移動相として使用した。
【0028】
HPLCの条件:カラム:YMC−Pack ODS(オクタデシル)−AM302、カラム温度:50℃、検出器:UV210nm、移動相:10mMリン酸緩衝液(上述のもの)、流量:1mL/min、サンプル量:10μL。
【0029】
HPLCによるクロマトグラムから定量した10−ハイドロキシデセン酸含量(重量%)を表1に示す。
(SDS−PAGEによるタンパク質の分解確認試験)
ローヤルゼリー中に含まれる主要なアレルゲンである分子量55kDaタンパク質と、アレルゲンであると疑われる分子量4kDa以上55kDa未満のタンパク質について、亜臨界抽出処理による変化をSDS−PAGEを用いて確認した。
【0030】
各試験試料は、30mMトリス塩酸(pH8.0−8.5、7M尿素、2Mチオ尿素及び4%(w/v)チャップスを含むタンパク質抽出溶液を加え、撹拌し、遠心分離を行い得られた上清に、1/2量の100mMトリス塩酸(pH6.8)、20%(v/v)グリセロール、4%(w/v)ドデシル硫酸ナトリウム、12%(v/v)2−メルカプトエタノール及び適量のブロモフェノールブルーを含む2×SDS−サンプルバッファーを加えて95℃で1分間加熱した。その後、0.3μLについて、厚さ0.45mmの8−25%グラジエントポリアクリルアミドゲルを用い、全自動電気泳動システムPhastSystemTM(GEヘルスケア・ジャパン社製)を使用してSDS−PAGEを行った。なお、分子量マーカーとして、Precision Plus Protein Standards(バイオ・ラッドラボラトリーズ社製)を用いた。電気泳動後のゲルは、クマシーブリリアントブルーR−250でクマシー染色し、25%メタノール及び7%酢酸を含む溶液で脱色した。染色及び脱色されたゲルの写真を図1に示す。
【0031】
また、分子量55kDaの蛋白質バンド及び分子量4kDa以上55kDa未満のタンパク質バンドをそれぞれ目視にて確認し、下記の基準によりタンパク質の分解度を評価した。結果を表1に示す。
4:バンドは消失し、目視にて確認することができない。
3:バンドはほとんど消失している。
2:バンドの残存が、僅かに確認される。
1:バンドの残存が、明瞭に確認される。
【0032】
【表1】

表1に示されるように、抽出物中の成分分析の結果、ローヤルゼリーを亜臨界抽出してもデセン酸の減少は認められなかった。
【0033】
また、ローヤルゼリーを亜臨界抽出処理することにより、ローヤルゼリー中のタンパク質は分解、低分子化し、アレルゲン蛋白とされる分子量4kDa以上55kDa付近のタンパク質のバンドの消失も進むことが確認された。尚、風味は、150℃で処理を行った試験試料2が最も優れていた。
【0034】
以上の結果より、ローヤルゼリーを亜臨界抽出処理することにより、有効成分を維持しながら、生体適用性を向上させることができることが示唆された。
<試験例2:亜臨界抽出物の物性試験>
(比較例1)
中国産生ローヤルゼリー50gに純水150mlを加えて均一になるまで攪拌した。pHを7.5に調整し、これに蛋白質分解酵素のプロテアーゼN(天野エンザイム社製)0.175gを添加し、50℃で4時間反応させた。反応終了後、80℃で30分間加熱処理して酵素を失活させるとともに殺菌処理した。これを凍結乾燥処理することにより得られる粉末を使用した。
【0035】
(物性の測定方法)
亜臨界抽出処理することにより得られた上記試験試料1〜6及び比較例1の各粉末500mgを秤量し、シャーレに移し均質にして室温(25℃±3℃)、相対湿度60±5%の雰囲気中に所定時間放置した。放置後、所定時間毎に各試料の外観・物性を観察し、以下の基準により、吸湿性の評価を行った。コントロールとして、凍結乾燥ローヤルゼリー粉末についても同様に評価を行った。結果を表2に示す。
+++++ 完全に固結、飴状
++++ 完全に固結
+++ 一部固結、一部粉末状
++ 一部ダマになるも、大半は粉末状
+ 若干のベタツキ
【0036】
【表2】

表2に示されるように、各試験試料の亜臨界抽出ローヤルゼリーは、比較例1の酵素処理ローヤルゼリーに比べ吸湿性及び保存安定性に優れていることが確認された。
【0037】
<試験例3:抗酸化活性としてのβカロチン退色試験>
(実施例1)
試験例1における5MPa、150℃、10分の条件で抽出した亜臨界抽出ローヤルゼリーの凍結乾燥した粉末を使用した。
【0038】
亜臨界抽出ローヤルゼリーの生理活性作用である抗酸化作用をβカロチン退色試験によって比較した。主として植物の黄色色素として知られるβカロチンは、水溶液中では、自然酸化により退色が進行する。一方、この退色は、抗酸化物質を共存させることにより、進行を抑制することができる。本試験で用いる試料として、実施例1の亜臨界抽出ローヤルゼリー粉末、未処理の凍結乾燥ローヤルゼリー粉末、及び比較例1の酵素処理ローヤルゼリー粉末をそれぞれ水で希釈することにより、固形分濃度0.5mg/mLの試料溶液を調製した。コントロールとして蒸留水を使用した。
【0039】
まず、褐色フラスコ内にてβカロチン0.5mg、リノール酸20mg、tween40;200mgをクロロホルム10mLに溶解した。溶解後、蒸発乾固によりクロロホルムを除き、蒸留水100mLを加えた。この溶液45mLに0.2Mリン酸緩衝液(pH6.8)4mLを加え、キャップ付試験管に4.9mL分注した。分注後、下記表3に示される各試料を100μL添加し、吸光度(OD470nm)を測定した。その時の吸光度の値を0時間反応値とした。0時間反応値を測定した後、試験液は40℃で保管し、所定時間経過後にOD470nmを測定した(n=3)。本試験系の抗酸化能の評価として、0時間の吸光度値を100%とし、5時間後に測定される値を下記の式に当てはめることによりβカロチン残存率を算出した。結果を表3に示す。また、試料溶液自体の吸光度分を差し引くために、ブランク溶液を調製し、同様に測定した。
βカロチン残存率(%)={(5時間後の吸光度の値−ブランク値)×100}÷(0時間反応値−ブランク値)
【0040】
【表3】

表3に示されるように、亜臨界抽出ローヤルゼリーは、酵素処理ローヤルゼリー及び凍結乾燥ローヤルゼリー粉末よりも高い抗酸化能が確認された。亜臨界抽出ローヤルゼリーは、凍結乾燥ローヤルゼリー粉末と比較して値が約2倍、酵素処理ローヤルゼリーと比較して値が約1.5倍に上昇していることが確認された。従って、ローヤルゼリーを亜臨界流体により抽出処理することによって得られる亜臨界抽出ローヤルゼリーは、高い抗酸化活性を有することが確認された。
【0041】
<試験例4:抗酸化活性としてのラジカル捕捉能試験>
亜臨界抽出ローヤルゼリーの生理活性作用の一つである抗酸化作用をラジカル捕捉能試験によって比較した。本試験では、ラジカル状態で517nmの極大吸収を持つDPPH(1,1-Diphenyl-2-picrylhydrazyl)が抗酸化物質により還元されて退色することを利用するものである。本試験で用いる試料として、実施例1の亜臨界抽出ローヤルゼリー粉末、未処理の凍結乾燥ローヤルゼリー粉末、及び比較例1の酵素処理ローヤルゼリー粉末をそれぞれ水で希釈することにより、固形分濃度2.5mg/mLの試料溶液を調製した。コントロールとして蒸留水を使用した。
【0042】
まず、各試料溶液を50μLずつエッペンチューブに分注した。次に、DPPHを13.4mgにエタノール200mLを加えて調製したDPPH溶液を950μLずつ加えた。その後、ボルテックスにて3秒ほど攪拌し、反応を開始させた。10分間反応後、遠心分離(KUBOTA3200:10000rpm、30秒)を行い、上清を測定に用いた。反応開始から15分後に反応液の吸光度を測定した。測定にはプレートリーダー(μQuant:BIO-TEK INSTRUMENTS, Inc)を用いて520nmの波長を測定した(n=3)。コントロールは、DPPH溶液950μLに蒸留水50μLを混合したものを調製し、同様に測定した。試料調製液自体の吸光度を除くため、ブランクとして、DPPHを含まない反応液としてエタノール950μLと各試料溶液50μLを混合したものを調製し、同様に測定した。DPPHラジカル捕捉率は以下の式より求めた。その結果を表4に示す。
DPPHラジカル捕捉率(%)={(Ac−As)/Ac}×100
Ac:コントロールの吸光度−ブランク値
As:DPPH溶液添加時の吸光度−ブランク値
【0043】
【表4】

表4に示されるように、亜臨界抽出ローヤルゼリーは、酵素処理ローヤルゼリー及び凍結乾燥ローヤルゼリー粉末よりもDPPHラジカル捕捉率が大幅に向上した。従って、ローヤルゼリーを亜臨界流体により抽出処理することによって得られる亜臨界抽出ローヤルゼリーは、高い抗酸化活性を有することが確認された。
【0044】
<試験例5:抗酸化活性としての過酸化脂質形成抑制試験>
亜臨界抽出ローヤルゼリーの生理活性作用の一つである抗酸化作用を過酸化脂質の形成抑制試験によって比較した。この試験は、脂質(リノール酸)とラジカル促進剤であるAAPH(2,2’−アゾビス(2−アミジノプロパン)ジヒドロクロライド)を混合して40℃で反応させ、発生した過酸化脂質をロダン鉄法により呈色し、その吸光度から脂質の酸化の程度を評価するものである。本試験で用いる試料として、実施例1の亜臨界抽出ローヤルゼリー粉末、未処理の凍結乾燥ローヤルゼリー粉末、及び比較例1の酵素処理ローヤルゼリー粉末をそれぞれ水で希釈することにより、固形分濃度4、2、1、0.5mg/mLの各試料溶液を調製した。コントロールとして蒸留水を使用した。
【0045】
まず、褐色バイアル瓶に各濃度の試料溶液0.25mL、試液A(リン酸緩衝液(pH7.0)とラジカル促進剤であるAAPHの混合溶液)3.5mL、1.3%リノール酸溶液2.5mLを添加、混合した。その後40℃にて反応させ、ロダン鉄法により吸光度(500nm)を測定した(n=2)。ロダン鉄法による測定は、反応開始前(以下0時間とする)と反応開始14時間後(以下14時間とする)に実施した。各濃度における脂質酸化の阻害率から、50%阻害濃度(IC50)(mg/mL)を求めた。阻害率の計算式を下記に記す。結果を表5に示す。
【0046】
阻害率(%)={(Ac−As)/Ac}×100
Ac:Ac(14時間)−Ac(0時間)
As:As(14時間)−As(0時間)
As(xh):x時間後における試料溶液の吸光度
Ac(xh):x時間後におけるコントロールの吸光度
【0047】
【表5】

表5に示されるように、亜臨界抽出ローヤルゼリーは、酵素処理ローヤルゼリー及び凍結乾燥ローヤルゼリー粉末よりも過酸化脂質の形成抑制作用が向上することが確認された。従って、ローヤルゼリーを亜臨界流体により抽出処理することによって得られる亜臨界抽出ローヤルゼリーは、高い抗酸化活性を有することが確認された。
【0048】
フリーラジカルは悪性腫瘍、心疾患、脳血管疾患等の種々の疾患の原因因子と考えられている。フリーラジカルを除去する作用を有する亜臨界抽出ローヤルゼリーはそれらの疾患の予防及び治療のための有効な成分になり得る。したがって、フリーラジカル除去能の発揮を目的とする健康食品、化粧品及び医薬品等の有効成分として好適に配合することができる。
【0049】
<試験例6:抗原性試験>
亜臨界抽出ローヤルゼリーの抗原性を評価する目的から、亜臨界抽出ローヤルゼリー及び凍結乾燥ローヤルゼリーを水酸化アルミニウムゲルとともにマウスの腹腔内に免疫し、その抗体産生応答に関し、PCA反応を用いて比較した。
【0050】
(使用動物)
本試験には、感作動物として5週齢の雌性BALB/cマウスを日本SLC社より入手して使用した。また、PCA反応には6週齢の雄性ICRマウスを日本SLC社より入手して使用した。動物は室温23±1℃、相対湿度55±10%、照明時間12時間/日(8:00〜20:00)の条件で、日本クレア社製の固形飼料CE−2を与えて飼育し、飲料水は水道水を自由に摂取させた。入荷後、1週間の予備飼育を行い、健康状態に異常を認めない動物を試験に用いた。
【0051】
(試験試料)
試験試料として、実施例1の亜臨界抽出ローヤルゼリー、及び未処理の凍結乾燥ローヤルゼリーを使用した。陽性対象として卵白アルブミン(OVA)(Sigma社製:GradeV)を使用した。
【0052】
(免疫スケジュール)
実施例1の亜臨界抽出ローヤルゼリー、及び未処理の凍結乾燥ローヤルゼリーの場合はそれぞれ0.3mg、陽性対象のOVAの場合は10μgと、水酸化アルミニウムゲル2mgをBALB/cマウス(1群5〜6匹)の腹腔内(0.3mL/マウス)に1週間隔で2回免疫し、最終感作の1週間後に採血して血清を分離し、測定まで−30℃に保存した。
【0053】
(PCA反応による力価測定)
雄性ICRマウスの背中の毛を刈った後、各希釈抗血清を皮内注射した(約30μL/site)。1時間後に抗原(亜臨界抽出ローヤルゼリー及び未処理の凍結乾燥ローヤルゼリーの場合はそれぞれ1.5mg、OVAの場合は0.45mg)とエバンスブルー色素1.5mg(5%溶液)の混合液(生理食塩液に溶解)を静脈内投与した(0.3ml/マウス,i.v.)。30分後に背部皮膚を剥離し、皮膚裏側より皮内注射した部位の青染斑の有無を観察した。本試験では、各抗血清につき2匹のICRマウスを用いて反応を観察し、いずれかの最大陽性反応を示した抗血清の希釈倍率をその抗体力価とした。試験は(1)各群の等量ずつプールした抗血清を用いた測定、(2)各個体別に抗血清を用いて測定(亜臨界抽出ローヤルゼリー及び凍結乾燥ローヤルゼリーの各群のみ)の2回実施した。各群の等量ずつプールした抗血清を用いたPCA反応の結果を表6に、各個体別に抗血清を用いたPCA反応の結果を表7に示す。
【0054】
【表6】

【0055】
【表7】

表6に示されるように、OVA群は80倍まで陽性反応を示した。実施しなかったが、その抗体力価は160倍以上であると推測され、本試験の感作条件でもIgG抗体の検出には十分であると考えられた。亜臨界抽出ローヤルゼリーと凍結乾燥ローヤルゼリーの比較では、凍結乾燥ローヤルゼリーが16倍まで陽性反応がみられたのに対して、亜臨界抽出ローヤルゼリーは2倍希釈でも陽性反応はなく、抗原性の弱いことが示唆された。
【0056】
表7に示されるように、凍結乾燥ローヤルゼリーは3/5例が反応した。1例の最大希釈倍率は64倍であり、平均するとプールした抗血清の16倍とほぼ一致すると考えられる。これに対して亜臨界抽出ローヤルゼリーは5例全例が4倍希釈では反応しなかった。以上のことから亜臨界抽出ローヤルゼリーは凍結乾燥ローヤルゼリーに比べ、極めて抗原性の弱いことが考えられた。
【0057】
以上により、亜臨界抽出ローヤルゼリーを有効成分とする抗酸化剤は、生体に適用される飲食品、医薬品、及び化粧品等の各分野において、より一層適用しやすいものであることが直接確認された。
【0058】
次に、上記実施形態及び別例から把握できる技術的思想について、以下に追記する。(a)ローヤルゼリーを亜臨界流体により抽出して得られる抽出物を有効成分として含有することを特徴とする低アレルゲン化ローヤルゼリー。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ローヤルゼリーを抽出原料として亜臨界流体を用いて抽出処理して得られる抽出物を有効成分として含有することを特徴とする抗酸化剤。
【請求項2】
実質的に発現されない程度にアレルギー性が低下されていることを特徴とする請求項1に記載の抗酸化剤。
【請求項3】
請求項1又は請求項2に記載の抗酸化剤の製造方法において、抽出原料としてのローヤルゼリーに亜臨界流体を作用させて抽出物を得る工程からなることを特徴とする抗酸化剤の製造方法。

【図1】
image rotate


【公開番号】特開2012−36296(P2012−36296A)
【公開日】平成24年2月23日(2012.2.23)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−177889(P2010−177889)
【出願日】平成22年8月6日(2010.8.6)
【出願人】(591045471)アピ株式会社 (59)
【出願人】(507219686)静岡県公立大学法人 (63)
【出願人】(310019590)
【Fターム(参考)】