説明

亜臨界水処理を用いた生ごみの高効率メタン発酵

【課題】メタン発酵による消化残渣を低減することができ、排水を再利用することによって排水も低減することができ、バイオガス生成量を増加させることが可能となるバイオガス回収方法を提供する。
【解決手段】本回収方法は、(i)生ごみを破砕してスラリー状とし、搾液とケーキに分離する工程、(ii)該搾液をメタン発酵して生成されたガスを回収する第1ガス回収工程、(iii−1)該ケーキに水を混合する工程、(iii−2)該ケーキと水の混合物を該第1亜臨界リアクター内で亜臨界水処理する工程、(iii−3)該第1亜臨界リアクターの内容物をバッファータンクで貯蔵する工程、(iii−4)該内容物をメタン発酵して生成されたガスを回収する第2ガス回収工程、および(iv)該工程(ii)および(iii−4)で生成されたガスを精製してメタンガスを回収する工程からなる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、亜臨界水処理を用いた生ごみの高効率メタン発酵、およびそれによるバイオガス、特にメタンガスの回収方法に関する。
【背景技術】
【0002】
石油や石炭等の化石燃料を含めた多くの資源は、現状の使用方法では、いずれ枯渇していくことは明らかであり、代替エネルギーの開発が急がれている。地球温暖化防止のため炭酸ガス排出量の削減が求められる中、化石燃料の代替となる、バイオマス由来のエネルギーが注目されている。バイオマスとは、生物資源(bio)の量(mass)を表す概念で、一般的には「再生可能な、生物由来の有機性資源で化石資源を除いたもの」を表す。
【0003】
バイオマスを燃焼することなどにより放出されるCOは、生物の成長過程で光合成により大気中から吸収したCOであり、化石資源由来のエネルギーや製品をバイオマスで代替することにより、地球温暖化を引き起こす温室効果ガスのひとつであるCOの排出削減に大きく貢献することができる。そのため、エネルギー源としてのバイオマス資源が注目されており、官民を挙げてその利用率の向上に取り組んでいる。
【0004】
わが国における生ごみ、食品廃棄物の発生量は、年間約2,000万トンと言われており、その処理処分の現状では、9割以上が焼却後に埋め立てられており、再利用されているものは、肥料化、飼料化など1割にも満たない。上記生ごみや食品廃棄物等は、バイオマスとして利用価値があるにもかかわらず、十分に利用されていないのが現状である。
【0005】
バイオマスを利用する方法の1つとして、メタン発酵法がよく知られており、生ごみ、食品廃棄物をメタン発酵法で処理した場合、メタンガスを主成分とするバイオガスの回収および廃棄物の減量化が可能であるため、生ごみ、食品廃棄物の省エネルギー処理技術として注目されつつある。しかしながら、メタン発酵法は、メタン生成細菌の増殖速度が遅いため、好気性処理法に比較して長い汚泥滞留時間を必要とし、消化槽が大型化するという問題点があり、これまでは普及しにくい状況にあった。
【0006】
そこで、有機性廃棄物などを超臨界水および亜臨界水などの高温高圧の熱水で可溶化する水熱処理を行うことによって、メタン発酵における嫌気性消化工程の効率化などにより、製造時間が低減され、製造装置のランニングコストが低減されたメタン発酵法によるバイオマスからのメタンガスなどのバイオガスを回収する方法が提案されている(特許文献1〜2)。
【0007】
特許文献1には、植物由来廃棄物の分解処理方法であって、前記植物由来廃棄物を超臨界水および亜臨界水の少なくとも一方により分解処理する工程を含む処理方法が記載されている。しかしながら、特許文献1では、処理対象物が植物由来廃棄物に限定されており、上記植物由来廃棄物の例としては、例えば、わらや木質の廃棄物等があげられ、前記木質の廃棄物としては、例えば、木材やリグニン等があげられ、前記木材としては、例えば、樹皮、大鋸屑、建築廃材、間伐材、木材粉砕物等の種々の廃木材およびこれらの粉末状粉砕物が挙げられている。従って、本発明とは、処理対象物が異なるものである。
【0008】
特許文献2には、汚泥と、その他の少なくとも1種類の有機性廃棄物とを混合し、この混合された混合汚泥を高温高圧の熱水で可溶化する水熱処理を行い、この水熱処理された混合汚泥を嫌気環境で生物処理する嫌気性消化処理を行うことを特徴とする有機性廃棄物の処理方法が記載されている。しかしながら、特許文献2では、生物由来の有機物であるバイオマス資源が含まれている下水汚泥とその他の有機性廃棄物とを必須成分とするものである。また、特許文献2には、一般的な下水処理方法である標準活性汚泥法による水処理では、好気性生物処理によって汚泥が形成され、その一つは、最初沈殿池にて形成される初沈汚泥であり、この他に、最終沈殿池にて汚泥が形成され、この最終沈殿池で回収される汚泥の一部は、好気性生物処理のために返送汚泥として曝気槽に戻されるが、余剰分は余剰汚泥として、初沈汚泥とともに、好気性生物処理の系外に汚泥として排出されることになることが記載されており、特許文献2における上記汚泥とは、上記初沈汚泥と余剰汚泥であることが記載されている。従って、本発明とは、処理対象物が異なるものである。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0009】
【特許文献1】特開2005‐81332号公報
【特許文献2】特開2008‐290041号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
本発明は、上記のような従来のバイオマス資源を利用し、メタン発酵法により、メタンガスを主成分とするバイオガスを回収する方法の有する問題点を解決し、メタン発酵による消化残渣を低減することができ、排水を再利用することによって排水も低減することができ、バイオガス生成量を増加させることが可能となったバイオガス回収方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明者等は、上記目的を解決すべく鋭意研究を重ねた結果、
亜臨界水処理前に、生ごみを破砕してスラリー状とし、糖を多く含む搾液とタンパク質を多く含むケーキに分離し、上記ケーキのみを亜臨界水処理することによって、亜臨界水処理時のメタン発酵阻害(メイラード反応)を抑制し、メタンガスの回収量を増加することができ、
予め水を亜臨界水状態にしてから上記ケーキを投入することによって、リアクター内の温度を均一にすることが可能となり、メタン発酵が均一に行われてメタンガスの回収量を増加することができ、かつ製造時間を短縮することができ、
メタン発酵消化残渣を再度、亜臨界水処理することによって、上記発酵消化残渣からメタンガスを更に回収でき、かつ廃棄物としてのメタン発酵消化残渣量を低減することができる
ことを見出し、本発明を完成するに至った。
【0012】
即ち、本発明は、
(i)生ごみを破砕してスラリー状とし、搾液とケーキに分離する工程、
(ii)該工程(i)で得られた搾液をメタン発酵槽に投入し、メタン発酵して生成されたガスを回収する第1ガス回収工程、
(iii−1)該工程(i)で得られたケーキに水を混合する工程、
(iii−2)該ケーキと水の混合物を該第1亜臨界リアクター内に投入して亜臨界水処理する第1亜臨界水処理工程、
(iii−3)該第1亜臨界リアクターの内容物をバッファータンクに移動して貯蔵する工程、
(iii−4)該内容物をバッファータンクからメタン発酵槽に投入し、メタン発酵して生成されたガスを回収する第2ガス回収工程、および
(iv)該工程(ii)および(iii−4)で生成されたガスを精製してメタンガスを回収する工程
を含むことを特徴とするメタンガス回収方法である。
【0013】
本発明を更に好適に実施するためには、
前記工程(iii−4)の後に、
(v−1)前記工程(iii−4)のメタン発酵の消化残渣を該第2亜臨界リアクター内に投入して亜臨界水処理する第2亜臨界水処理工程、
(v−2)該第2亜臨界リアクターの内容物をバッファータンクに移動して貯蔵する工程、および
(v−3)該工程(v−2)の第2亜臨界水処理工程の処理物の少なくとも一部を、前記工程(iii−1)の水として再利用する工程
を更に含み;
前記第1亜臨界水処理の条件が120〜220℃で5〜60分間であり、前記第2亜臨界水処理の条件が160〜250℃で5〜60分間であり;
前記工程(i)が、生ごみを破砕してスラリー状とし、水中に浸漬した後に脱水することによって、搾液とケーキに分離する工程であり;
前記工程(i)の前に、水、ごみ袋、弁当箱、空き缶、スプーンやフォークの内の少なくとも1つを、生ごみから除去する予備分別工程を更に含む;
ことが望ましい。
【発明の効果】
【0014】
本発明によれば、
(a)生ごみを破砕してスラリー状とし、タンパク質を多く含むケーキと糖を多く含む搾液を分離し、上記ケーキのみを亜臨界水処理することによって、亜臨界水処理時のメタン発酵を阻害するメイラード反応を抑制し、メタンガスの回収量を増加することができ、
(b)メタン発酵消化残渣を再度、亜臨界水処理することによって、上記発酵消化残渣からメタンガスを更に回収できてメタンガスの回収量を増加することができ、かつメタン発酵消化残渣量などの廃棄物を低減することができる
(c)上記(b)の第2亜臨界水処理工程の処理物を上記(a)のケーキと混合する水として再利用することによって、排水などの廃棄物を低減することができる
バイオガス回収方法を提供することが可能となった。
【図面の簡単な説明】
【0015】
【図1】本発明のメタンガス回収方法の1つの態様を説明する概略図である。
【図2】本発明のメタンガス回収方法の別の態様を説明する概略図である。
【発明を実施するための形態】
【0016】
本発明のメタンガス回収方法を、図1を参照して、以下に詳細に説明する。本発明のメタンガス回収方法は、
(i)生ごみ(1)を破砕してスラリー状とし、搾液(2)とケーキ(3)に分離する工程、
(ii)該工程(i)で得られた搾液(2)をメタン発酵槽(6)に投入し、メタン発酵して生成されたガスを回収する第1ガス回収工程、
(iii−1)該工程(i)で得られたケーキ(3)に水を混合する工程、
(iii−2)該ケーキと水の混合物を該第1亜臨界リアクター(4)内に投入して亜臨界水処理する第1亜臨界水処理工程、
(iii−3)該第1亜臨界リアクターの内容物をバッファータンク(5)に移動して貯蔵する工程、
(iii−4)該内容物をバッファータンクからメタン発酵槽(6)に投入し、メタン発酵して生成されたガスを回収する第2ガス回収工程、および
(iv)該工程(ii)および(iii−4)で生成されたガスを精製してメタンガスを回収する工程
を含むことを特徴とするものである。
【0017】
「生ごみ」とは、一般には、家庭や、料理を提供する宿泊施設などを含む飲食店から排出される野菜屑のような調理かす、食べ残しや残飯などの廃棄物を意味する。本発明のメタンガス回収方法においても、「生ごみ」とは、同様に家庭や飲食店から排出される調理かす、食べ残しや残飯などの廃棄物を意味し、具体的には、ご飯、うどん、そば、野菜、肉、魚介類などを意味し、物質構成としては、タンパク質、糖を含む炭水化物、脂質が主なものである。
【0018】
本発明のメタンガス回収方法においては、前述のように、上記工程(i)において、生ごみを搾液とケーキに分離する工程を行う前に、水;割り箸などの木くずや、ごみ袋や弁当箱などのプラスチックなどのその他の燃やすごみ;空き缶、スプーンやフォークなどの金属などの燃えないごみ;の内の少なくとも1つを受け入れ状態の生ごみから、除去する予備分別工程を行うことが好ましく、このような工程は通常、行われるものである。各家庭から生ごみが出される際には水切りやその他の燃やすごみとの分別が行われている場合もあるが、実際には、そのような分別が行われていない生ごみも混入しており、大量の生ごみから上記のような異物を除去するので、上記異物が生ごみに全く含まれない状態にすることは困難であるが、本発明においては、基本的には、上記のようなメタン発酵不適物などの異物を除去したものを、「生ごみ」とするものである。
【0019】
上記のような予備分別工程は、例えば回転式選別機、選択破砕選別機などの装置を用いて行うことができ、通常、生ごみのほぐし効果や粗粉砕効果を与えながら選別される。
【0020】
上記工程(i)では、生ごみを破砕してスラリー状とし、タンパク質を多く含むケーキと糖を多く含む搾液に分離する。後の工程(iii−2)において、亜臨界水処理を行うが、その際に上記生ごみをそのまま、即ち、糖とタンパク質が含まれた状態で処理すると、メイラード反応が起こり、メタン発酵を阻害して、最終的に回収されるメタンガス量が低下する。そこで、本発明では、生ごみを、タンパク質を多く含むケーキと糖を多く含む搾液に予め分離して、上記ケーキのみを亜臨界水処理することによって、糖とタンパク質の反応であるメイラード反応によるメタン発酵阻害を抑制することができ、最終的なメタンガス回収量が増加することになる。
【0021】
ここで、メイラード反応とは、還元糖とアミノ化合物(アミノ酸、ペプチドおよびタンパク質)を加熱したときに起こる反応である。また、上記還元糖とは、例えばグルコース、フルクトース、グリセルアルデヒドなどの全ての単糖、ラクトース、アラビノース、マルトースなどのマルトース型二糖・オリゴ糖などであり、単糖または二糖類など重合度の小さい水溶性の糖である。従って、本発明においては、生ごみを、タンパク質を多く含むケーキと糖を多く含む搾液に予め分離して、上記ケーキのみを亜臨界水処理することによって、加熱時(亜臨界水処理時)に、生ごみに含まれる糖の内の水溶性の糖を、タンパク質を多く含む水不溶性の固形分から分離することによって、メタン発酵を阻害するメイラード反応を抑制して最終的なメタンガス回収量を増加するものである。
【0022】
上記生ごみをケーキと搾液に分離する工程は、まず生ごみを破砕してスラリー状とし、そのようなスラリ状のものを、フィルタープレスを用いる方法、遠心分離法、スクリュープレスを用いる方法などを用いて、固形分であるケーキと、液状分である搾液とに分離することができる。連続製造の観点から、スクリュープレスを用いる方法が好ましい。更に、生ごみに含まれる糖の内の水溶性の糖を、タンパク質を多く含む水不溶性の固形分から分離する観点から、上記スラリー状の生ごみを水中に1〜24時間浸漬後、上記スクリュープレスを用いて脱水する方法がより好ましい。本発明においては、生ごみを破砕してスラリー状としたものを、上記のような種々の方法により、固形分と液状分とに分離するが、そのような分離方法に関係なく、上記固形分を「ケーキ」、上記液状分を「搾液」と呼ぶものとする。
【0023】
上記工程(ii)においては、生ごみを搾液とケーキに分離する工程(i)において分離した搾液をメタン発酵槽に投入し、メタン発酵して生成されたガスを回収する。上記メタン発酵とは、有機物が酸素のない嫌気状態でメタン生成菌を主体とする微生物の作用によって分解され、メタンを主成分とするバイオガスを発生するプロセスである。
【0024】
上記工程(iii−1)は、上記ケーキに水を混合し、亜臨界水処理に適した含水率に調整する工程であり、上記工程(iii−2)は、上記ケーキと水の混合物を上記第1亜臨界リアクター内に投入して亜臨界水処理する第1亜臨界水処理工程である。本発明のメタンガス回収方法では、前述のように、生ごみを亜臨界水処理して加熱し、更に可溶化してメタン発酵の効率を上げて最終的に得られるバイオガス、更にはメタンガスの回収率を向上させようとするものであるが、前述のように、生ごみそのままのタンパク質および糖を含む状態で亜臨界水処理を行うと、メイラード反応が起こり、メタン発酵を阻害するため、上記工程(i)で、タンパク質を多く含むケーキと糖を多く含む搾液を分離して、上記ケーキのみを亜臨界水処理するものである。
【0025】
上記工程(iii−1)における上記ケーキと水の混合比率としては、TS(全固形分濃度)5〜30%、好ましくは5〜20%、より好ましくは5〜15%であることが望ましい。上記混合比率が、5%未満では固形分濃度が低く、処理量が不十分となり、30%を超えると含水率が低く、亜臨界水処理できなくなる。
【0026】
ここで、水の臨界点は、圧力22.12MPa、温度374.15℃(647.30K)であり、水は臨界点まで蒸気圧曲線に従い、ある温度で、ある圧力以上の加圧により液体の状態を保つものであり、一般に、この状態の水を亜臨界水と呼び、下限は大気圧、100℃である。本発明では、第1亜臨界水処理の条件は、温度が120〜220℃、好ましくは140〜220℃、より好ましくは160〜220℃であり、時間が5〜60分間、好ましくは10〜60分間、より好ましくは10〜30分間であることが望ましい。上記温度が、120℃未満では亜臨界水処理による可溶化が不十分となり、220℃を超えると炭化が起こってしまう。また、上記時間が、5分間未満では亜臨界水処理による可溶化が不十分となり、60分間を超えると炭化が起こってしまう。
【0027】
上記工程(iii−3)は、上記第1亜臨界リアクターの内容物をバッファータンクに移動して貯蔵する工程であり、上記工程(iii−4)は、上記内容物をバッファータンクからメタン発酵槽に投入し、メタン発酵して生成されたガスを回収する第2ガス回収工程である。なお、本発明のメタンガス回収方法においては、上記工程(i)において生ごみを搾液とケーキに分離し、上記工程(ii)において上記搾液をメタン発酵槽に投入し、メタン発酵して生成されたガスを回収する工程を第1ガス回収工程とし、上記ケーキのみを上記第1亜臨界水処理工程を経て、上記工程(iii−4)において、メタン発酵槽に投入し、メタン発酵して生成されたガスを回収する工程を第2ガス回収工程としているが、メタン発光槽からは連続的にガスを回収しており、別々の工程であることを意味するものではなく、上記のように、分離した搾液からのガス回収工程を第1ガス回収工程とし、分離したケーキからのガス回収工程を第2ガス回収工程とし、わかりやすくするため区別しただけである。
【0028】
また、上記バッファータンクとは、一般に、急激な圧力や流量などの変化を避ける為に一時的に貯留するタンクを言うが、本発明においても、上記のように亜臨界水処理は高温高圧で行われる処理であるので、特に急激な圧力変化を避ける為に亜臨界水処理した内容物を一時的に貯蔵するタンクである。
【0029】
本発明のメタンガス回収方法の別の態様では、図2に示すように、
上記工程(iii−4)の第2ガス回収工程の後に、
(v−1)上記工程(iii−4)のメタン発酵の消化残渣を上記第2亜臨界リアクター(8)内に投入して亜臨界水処理する第2亜臨界水処理工程、
(v−2)上記第2亜臨界リアクター(8)の内容物をバッファータンク(9)に移動して貯蔵する工程、および
(v−3)該工程(v−2)の第2亜臨界水処理工程の処理物の少なくとも一部を、前記工程(iii−1)の水として再利用する工程
を更に含むものである。
【0030】
本発明の別の態様では、上記工程(iii−4)の後に、上記工程(v−1)〜(v−3)を行うことによって、上記工程(iii−4)のメタン発酵の消化残渣を更に第2亜臨界水処理することによって、廃棄物としてのメタン発酵消化残渣量を低減しようとするものである。
【0031】
更に、上記工程(v−3)において、上記工程(v−2)の第2亜臨界水処理工程の処理物の少なくとも一部を、上記工程(iii−1)の水として再利用する工程を設けて、更に廃棄物としての排水を低減することができる。同時に、上記第2亜臨界水処理工程の処理物の少なくとも一部を上記工程(iii−1)の水として再利用することによって、後の工程(iii−4)の第2ガス回収工程におけるバイオガス、更にはメタンガスの回収率を向上させるものである。
【0032】
従って、第2亜臨界水処理も上記第1亜臨界水処理と同様の手順で行うことができるが、処理条件については、上記第1亜臨界水処理より高温で行うことが望ましい。即ち、第2亜臨界水処理の条件は、温度が160〜250℃、好ましくは160〜220℃、より好ましくは170〜210℃であり、時間が5〜60分間、好ましくは10〜60分間、より好ましくは10〜30分間であることが望ましい。上記温度が、160℃未満では亜臨界水処理による可溶化が不十分となり、250℃を超えると炭化が起こってしまう。また、上記時間が、5分間未満では亜臨界水処理による可溶化が不十分となり、60分間を超えると炭化が起こってしまう。
【0033】
上記工程(iv)は、上記工程(ii)および(iii−4)、更には上記(v−3)で生成されたガスを精製してメタンガスを回収する工程である。上記のように、メタン発酵により生成されたバイオガスは主にメタンガスと二酸化炭素を含むものであり、上記バイオガスを精製してメタンガスを回収する方法としては、ガス分離膜を用いる方法、ガス吸着剤を用いる方法などを用いて行うことができる。
【実施例】
【0034】
以下、実施例を挙げて本発明を更に詳細に説明するが、本発明はこれらに限定されるものではない。
【0035】
(メイラード反応の抑制)
糖としてグルコース、タンパク質としてポリペプトンを用いて、糖とタンパク質が混在した状態で亜臨界水処理を行うことによって起こるメイラード反応が、どの程度メタン発酵を阻害するのかについて調べた。
(1)試料
(a)グルコース 50g/L水溶液
(b)ポリペプトン 50g/L水溶液
(c)グルコース/ポリペプトン 50g/L水溶液
(2)亜臨界水処理
上記試料を、ステンレス製の亜臨界反応管に入れて密栓し、以下の表1に示す温度に設定したオイルバス中に撹拌しながら10分間浸漬し、10分経過後、オイルバスから上記反応管を引き上げて、亜臨界水処理を行った。
【0036】
(3)メタン発酵
亜臨界水処理後の試料7.5gと、汚泥30gを、ポリエチレンテレフタレート(PET)/アルミニウム(AL)/ポリエチレン(PE)の三層構造フィルム製のチャック付ラミネート袋(株式会社生産日本社から商品名「ラミジップ」で市販)に入れ、空気を抜いてからシールした。その後、試料と汚泥を封入した上記ラミネート袋の体積を測定して、初期体積とした。上記ラミネート袋を55℃のインキュベーター内に静置して7日間発酵を続け、以下の式により、バイオガス発生量を決定した。
(バイオガス発生量)=(発酵後体積)−(初期体積)
7日間発酵後、ガスクロマトグラフィーを用いて、メタンガス(CH)と二酸化炭素(CO)の比率(CH/CO)を測定し、上記バイオガス発生量と上記比率(CH/CO)からメタンガス発生量を決定した。その結果を以下の表1に示す。
【0037】
【表1】

【0038】
表1の結果から明らかなように、生ごみそのものを想定した糖とタンパク質が混在する試料(c)では、亜臨界水処理を行うことによってメタンガス発生量が低減し、特に200℃×10分間の亜臨界水処理によって大きくメタンガス発生量が低減しており、メイラード反応によりメタン発酵が大きく阻害されたと考えられる。これに対して、生ごみを搾液とケーキに分離し、上記ケーキを想定したタンパク質のみの試料(b)では、メイラード反応によるメタン発酵の阻害がなく、亜臨界水処理を行うことによってメタンガス発生量が増加している。同様に、上記搾液を想定した糖のみの試料(a)でも、亜臨界水処理を行うことによってメタンガス発生量が増加している。
【0039】
(再亜臨界水処理)
100L規模で馴養したメタン発酵槽からの消化残渣を、実験的に有機分を増加させるために2倍程度の濃縮を行い、亜臨界水処理(第2亜臨界水処理)してメタン発酵することによって、上記消化残渣から更にメタンガスの回収が可能であり、同時に廃棄物となるメタン発酵の最終残渣量(発酵後の最終固形分濃度)が低減されることについて調べた。
【0040】
再亜臨界水処理は以下の表2に示す温度に設定した以外は、最初の亜臨界水処理と同様にして、上記メタン発酵の消化残渣を再度、亜臨界水処理(第2亜臨界水処理)した。再亜臨界水処理後の試料10gと、汚泥40gを用いた以外は上記の最初のメタン発酵と同様にしてメタン発酵を行い、同様にしてバイオガス発生量およびメタンガス発生量を決定した。その結果を表2に示す。
【0041】
【表2】

【0042】
表2の結果から明らかなように、上記メタン発酵の消化残渣を再度、亜臨界水処理(第2亜臨界水処理)ことによって、更にメタンガスを回収することができ、加えて、廃棄物となるメタン発酵の最終残渣量(発酵後の最終固形分濃度)が低減されることもわかった。
【0043】
(実施例1)
(1)標準生ごみの調製および搾液とケーキへの分離
以下の表3に示す配合を有する「標準生ごみ」276gに蒸留水360gを加え、家庭用ミキサー(ブレンダー)で破砕し、スラリー状にしたものを、目開き1mmの篩を用いて、搾液238.5gとケーキ397.5gに分離した。上記篩上に残ったケーキ397.5gに蒸留水185.5gを加えて、4000rpmで5分間、遠心分離して水相を除去し、これを3回繰り返して上記ケーキを洗浄した。
【0044】
【表3】

【0045】
(2)亜臨界水処理
上記のように洗浄したケーキ397.5gに、上記(1)で生ごみを搾液とケーキに分離した際に除去した搾液と同量の蒸留水238.5gを加え、以下の表4に示した亜臨界水処理温度(120〜220℃)で10分間、亜臨界水処理した。
【0046】
(3)メタン発酵
上記亜臨界水処理物、上記(1)で生ごみを搾液とケーキに分離した際に除去した搾液、洗浄に用いた水を混合し、それを汚泥30gに加え、メタン発酵を行った[(亜臨界水処理物):(搾液):(洗浄水)の混合比率 = 3.75g:2.25g:5.25g)]。メタン発酵容器には、マルエム株式会社製のバイアル瓶(No.8)を用い、ブチルゴム栓、アルミシールで密栓後、インキュベーター(55℃)内に静置した。24時間毎にシリンジでガスを抜いて体積を測定し、7日間の合計量をバイオガス発生量とした。その結果を以下の表4に示す。尚、上記のようなバッチ試験で行ったため、24時間毎のバイオガス発生量の合計量からの最終メタンガス濃度を正確に測定することが困難であったため、バイオガス発生量の合計量により比較した。
【0047】
【表4】

【0048】
上記表4の結果から明らかなように、亜臨界水処理を行わなかったものに比較して、120〜220℃で10分間、亜臨界水処理したものは、バイオガスの発生量が非常に多くなっていることがわかる。
【0049】
(比較例1)
上記表3に示す配合を有する「標準生ごみ」276gに蒸留水360gを加え、家庭用ミキサー(ブレンダー)で破砕し、スラリー状にしたものを試料とした、即ち、「標準生ごみ」を搾液とケーキとに分離しなかった以外は、実施例1と同様にして、亜臨界水処理およびメタン発酵を行った。その結果を以下の表5に示す。
【0050】
【表5】

【0051】
上記表5から明らかなように、亜臨界水処理なしに比較すると、120〜160℃と比較的低温で10分間の亜臨界水処理条件下ではバイオガス発生量が同等または若干低下している程度であるが、特に、180〜220℃と比較的高温で10分間の亜臨界水処理条件下では、バイオガス発生量が低下している。これは、タンパク質と糖を含む生ごみをそのまま亜臨界水処理したため、メイラード反応が起こり、メタン発酵を阻害したためと考えられる。
【0052】
本発明においては、上記実施例1のように、生ごみを、タンパク質を多く含むケーキと糖を多く含む搾液に予め分離して、上記ケーキのみを亜臨界水処理することによって、亜臨界水処理時に、生ごみに含まれる糖の内の水溶性の糖を、タンパク質を多く含む水不溶性の固形分から分離することによって、メタン発酵を阻害するメイラード反応を抑制してバイオガス発生量を増加するものである。
【0053】
(実施例2)
(1)水中浸漬処理および脱水処理
以下の表6に示す配合比率を有する「標準生ごみ−2」100gを、回転ブレード式破袋分別機(株式会社共立製)で破砕し、スラリー状にしたものを、蒸留水100g中に24時間浸漬した。浸漬後、脱水装置としてスクリュープレス(川口精機株式会社製の「DM‐15S」)を用いて脱水し、ケーキを得た。
【0054】
【表6】

(注1)肉類を想定し、ドッグフード:水=1:2の重量比としたもの。
【0055】
(2)亜臨界水処理およびメタン発酵
得られたケーキを、全固形分濃度(TS)が10%になるように水を加え、200℃で10分間のみの亜臨界水処理を行った以外は、実施例1と同様にして、亜臨界水処理およびメタン発酵を行い、バイオガス発生量を測定した。その結果を、亜臨界水処理なしでのバイオガス発生量を100%とした割合で表し、表7に示す。
【0056】
(比較例2)
上記表6に示す配合比率を有する「標準生ごみ−2」100gを、回転ブレード式破袋分別機(株式会社共立製)で破砕し、スラリー状にしたものを水中浸漬処理しなかった以外は、実施例2と同様にして、亜臨界水処理およびメタン発酵を行い、バイオガス発生量を測定した。その結果を、実施例2と同様にして、表7に示す。
【0057】
実施例1および比較例1についても、上記実施例2と同様に、亜臨界水処理(200℃で10分間)なしでのバイオガス発生量を100%とした割合で表し、表7に示した。
【0058】
【表7】

【0059】
表7から明らかなように、水中浸漬処理および脱水処理を行った実施例2は、上記遠心分離処理を用いた実施例1と同等のメイラード反応抑制効果を示すことがわかった。水中浸漬処理を行わなかった以外は実施例2と同様の比較例2は、亜臨界水処理を行うことによってバイオガス発生量が大きく低下した。
【符号の説明】
【0060】
1 … 生ごみ
2 … 搾液
3 … ケーキ
4 … 第1亜臨界リアクター
5、9 … バッファータンク
6 … メタン発酵槽
7 … ガス精製装置
8 … 第2亜臨界リアクター
10 … 排水装置

【特許請求の範囲】
【請求項1】
(i)生ごみを破砕してスラリー状とし、搾液とケーキに分離する工程、
(ii)該工程(i)で得られた搾液をメタン発酵槽に投入し、メタン発酵して生成されたガスを回収する第1ガス回収工程、
(iii−1)該工程(i)で得られたケーキに水を混合する工程、
(iii−2)該ケーキと水の混合物を該第1亜臨界リアクター内に投入して亜臨界水処理する第1亜臨界水処理工程、
(iii−3)該第1亜臨界リアクターの内容物をバッファータンクに移動して貯蔵する工程、
(iii−4)該内容物をバッファータンクからメタン発酵槽に投入し、メタン発酵して生成されたガスを回収する第2ガス回収工程、および
(iv)該工程(ii)および(iii−4)で生成されたガスを精製してメタンガスを回収する工程
を含むことを特徴とするメタンガス回収方法。
【請求項2】
前記工程(iii−4)の後に、
(v−1)前記工程(iii−4)のメタン発酵の消化残渣を該第2亜臨界リアクター内に投入して亜臨界水処理する第2亜臨界水処理工程、
(v−2)該第2亜臨界リアクターの内容物をバッファータンクに移動して貯蔵する工程、および
(v−3)該工程(v−2)の第2亜臨界水処理工程の処理物の少なくとも一部を、前記工程(iii−1)の水として再利用する工程
を更に含む、請求項1記載のメタンガス回収方法。
【請求項3】
前記第1亜臨界水処理の条件が120〜220℃で5〜60分間であり、前記第2亜臨界水処理の条件が160〜250℃で5〜60分間である請求項2記載のメタンガス回収方法。
【請求項4】
前記工程(i)が、生ごみを破砕してスラリー状とし、水中に浸漬した後に脱水することによって、搾液とケーキに分離する工程である請求項1〜3のいずれか1項記載のメタンガス回収方法。
【請求項5】
前記工程(i)の前に、水、ごみ袋、弁当箱、空き缶、スプーンやフォークの内の少なくとも1つを、生ごみから除去する予備分別工程を更に含む請求項1〜4のいずれか1項記載のメタンガス回収方法。

【図1】
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【図2】
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【公開番号】特開2013−34988(P2013−34988A)
【公開日】平成25年2月21日(2013.2.21)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2012−157122(P2012−157122)
【出願日】平成24年7月13日(2012.7.13)
【出願人】(000003148)東洋ゴム工業株式会社 (2,711)
【Fターム(参考)】