説明

亜酸化窒素分解装置

【課題】亜酸化窒素を常温で省エネルギー的に分解する方法を提供する。
【解決手段】亜酸化窒素還元酵素1を有する酵素電極からなるカソード11と、該カソード11に接続されたアノード12とを備える亜酸化窒素分解装置であって、カソード11において亜酸化窒素還元酵素1の働きにより、アノード12で生成した電子を用いて、常温で亜酸化窒素を分解することができる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、亜酸化窒素分解装置に関する。
【背景技術】
【0002】
亜酸化窒素(NO)は二酸化炭素の約300倍もの高い温室効果を示し、京都議定書においては排出規制の対象となっている。このため、地球温暖化防止の観点から、工場や農耕地等から排出される亜酸化窒素を効率的に除去/分解することが求められている。
【0003】
亜酸化窒素を分解する方法として、これまでに金属触媒を利用する方法が開示されている(例えば、特許文献1)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2007−152263号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
金属触媒を利用する方法は、亜酸化窒素を分解するために高温での反応が必要であり、高温にするための多量のエネルギーが必要となる。例えば、特許文献1に開示された方法では、亜酸化窒素を分解する際の処理温度は450℃である。
【0006】
そこで本発明は、亜酸化窒素を常温で省エネルギー的に分解することのできる亜酸化窒素分解装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明は、亜酸化窒素還元酵素を有する酵素電極からなるカソードと、該カソードに接続されたアノードとを備える亜酸化窒素分解装置を提供する。
【0008】
本発明の亜酸化窒素分解装置は、カソードにおいて亜酸化窒素還元酵素の働きにより、アノードで生成した電子を用い、亜酸化窒素を分解することができる。本発明の亜酸化窒素分解装置は、このような作用に基づいているため、常温で亜酸化窒素を分解することができる。これによって、従来必要とされていた高温加熱が不要となり、エネルギー的に有利である。また、亜酸化窒素還元酵素を利用しているため、基質特異性が高く、亜酸化窒素のみを特異的に分解することができる。加えて、本発明の亜酸化窒素分解装置は自立型であり、電圧をかけるための外部電源が不要である。
【0009】
上記アノードは、有機物から電子を生成することのできる生物由来触媒を含むものであることが好ましい。アノードがこのような生物由来触媒を含むものであることによって、有機物を電子源とすることができるため、より低コストで亜酸化窒素を分解することができる。
【0010】
上記生物由来触媒は、酵素、微生物及びバイオフィルムからなる群より選ばれる少なくとも1種とすることができる。
【0011】
上記亜酸化窒素還元酵素は、チトクロームCと複合体を形成しているものであることが好ましい。亜酸化窒素還元酵素がチトクロームCと複合体を形成しているものであることにより、カソードからチトクロームCを介して直接亜酸化窒素還元酵素へ電子を受け渡すことができるため、酸素等が存在する場合にも酸素等に電子を奪われることなく、より効率よく亜酸化窒素を分解することができる。
【0012】
上記亜酸化窒素還元酵素は、チトクロームCをドメインに有するものであることがより好ましく、また、上記亜酸化窒素還元酵素は、Wolinella succinogenes由来のものとすることができる。
【0013】
本発明はまた、上記亜酸化窒素分解装置を用いた亜酸化窒素分解方法であって、上記カソードと亜酸化窒素を含む試料とを接触させ、上記アノードにおいて生成される電子を利用して、上記亜酸化窒素還元酵素の作用により上記亜酸化窒素を分解する亜酸化窒素分解方法を提供する。
【0014】
本発明の亜酸化窒素分解方法は、常温で亜酸化窒素を分解することができるため、従来必要とされていた高温加熱が不要となり、エネルギー的に有利である。また、亜酸化窒素還元酵素を利用しているため、基質特異性が高く、亜酸化窒素のみを特異的に分解することができる。
【発明の効果】
【0015】
本発明により、亜酸化窒素を常温で省エネルギー的に分解することのできる亜酸化窒素分解装置が提供される。本発明の亜酸化窒素分解装置によれば、常温で亜酸化窒素を分解することができる。これによって、従来必要とされていた高温加熱が不要となり、エネルギー的に有利であり、かつ、二酸化炭素の発生量が少ないという利点がある。また、亜酸化窒素還元酵素を利用しているため、基質特異性が高く、亜酸化窒素のみを特異的に分解することができる。加えて、電子をカソードに移動させるための外部電源が不要である。
【0016】
また、亜酸化窒素分解に必要な還元力(エネルギー)を有機物から得ることができるため、有機性廃棄物等を還元力として利用することができる。そのため、農耕地等を発生源とする亜酸化窒素を効率よく低下させることができ、地球温暖化対策技術として有用である。
【図面の簡単な説明】
【0017】
【図1】本発明の亜酸化窒素分解装置の一実施形態に係る反応槽の模式図である。
【図2】本発明の亜酸化窒素分解装置の他の実施形態に係る反応槽の模式図である。
【図3】実施例2の亜酸化窒素分解を示すグラフである。
【図4】実施例3の亜酸化窒素分解を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0018】
以下、本発明の好適な実施形態について説明する。
【0019】
本発明の亜酸化窒素分解装置は、少なくとも亜酸化窒素還元酵素を有する酵素電極からなるカソードと、該カソードに接続されたアノードから構成される。
【0020】
本発明の亜酸化窒素(NO)分解装置の一実施形態に係る反応槽100を図1に示した。図1に示した反応槽100は、亜酸化窒素還元酵素1を固定化した酵素電極(NOR電極)をカソード11として有し、有機物から電子を生成することのできる生物由来触媒(有機物分解手段)2を備える電極をアノード12として有している。また、カソード11側の試料液51とアノード12側の試料液52は、イオン交換膜31で仕切られ、塩橋32で連結されている。
【0021】
アノード12において、試料液52中に含まれる有機物が有機物分解手段2によって分解される際に生成する電子が、リード21を通じてカソード11の亜酸化窒素還元酵素1へと供給され、この供給された電子を利用して、亜酸化窒素還元酵素1によって試料液51中に含まれる亜酸化窒素が選択的に分解される。なお、本発明の亜酸化窒素分解装置においては、外部電源からの電圧供給を要することなく、リード21を通じた電子の移動が生じ得る。
【0022】
亜酸化窒素還元酵素1は、下記式(1)で表される反応を触媒する酵素である。
O+2H+2e→N+HO (1)
亜酸化窒素還元酵素1による亜酸化窒素の分解には、上記式(1)から明らかなように電子(還元力)が必要である。したがって、単に亜酸化窒素還元酵素1と亜酸化窒素を接触させても亜酸化窒素の分解は生じない。本実施形態に係る亜酸化窒素分解装置においては、この分解に必要な電子を、有機物分解手段2による有機物の分解に伴って生成する電子として供給することにより、亜酸化窒素を常温で省エネルギー的に分解することが可能となる。
【0023】
亜酸化窒素還元酵素1としては、上記式(1)で表される反応を触媒できる酵素であれば、特に制限されるものではない。また、カソード11における亜酸化窒素分解反応を効率よく行う観点から、亜酸化窒素還元酵素1は、チトクロームCと複合体を形成しているものであることが好ましい。これにより、カソード11からチトクロームCを介して直接亜酸化窒素還元酵素1へ電子が供給される。したがって、試料液51中に溶存酸素等の電子受容体が存在する場合でも、これらの電子受容体に電子を奪われることなく、亜酸化窒素還元酵素1へと電子を供給することが可能となり、より効率よく亜酸化窒素を分解することができる。
【0024】
亜酸化窒素還元酵素1は、チトクロームCをドメインに有するものであることがより好ましい。「ドメインに有する」とは、亜酸化窒素還元酵素1と水素結合や共有結合を介して結合している状態を意味する。このような亜酸化窒素還元酵素1の例として、具体的には、ウォリネラ(Wolinella succinogenes)菌種由来の亜酸化窒素還元酵素を好ましく利用することができる。
【0025】
亜酸化窒素還元酵素1には、精製されて市販されている亜酸化窒素還元酵素を用いることもできるし、亜酸化窒素還元酵素を発現する微生物から抽出/精製したものを用いることもできる。亜酸化窒素還元酵素を発現する微生物から亜酸化窒素還元酵素を抽出/精製する方法は、当業者であれば公知である常法のタンパク質の精製方法に従って行うことができる。以下、その一例として、W. succinogenes菌種由来の亜酸化窒素還元酵素を抽出/精製する方法を記載する。
【0026】
W. succinogenesは、ルーメン細菌の一種であり、複数の公的機関から入手することができる。例えば、ドイツのDSMZ(Deutsche Sammlung von Mikroorganismen und Zellkulturen GmbH)や米国のATCC(American Type Culture Collection)から容易に入手できる。
【0027】
W. succinogenes由来の亜酸化窒素還元酵素は、例えば、液体培地にW. succinogenesを植菌し、培養中は常に亜酸化窒素を通気しながら、嫌気的条件下、37℃で培養し、増殖したW. succinogenes菌体又は培養液中から、酵素活性を指標に精製できる。
【0028】
W. succinogenesの培養に用いる液体培地としては、例えば、酵母抽出物、ギ酸ナトリウム、クエン酸ナトリウム、硫酸銅、チオグリコール酸を含み、pHを中性付近に調整した培地が挙げられる。また、上記液体培地に、ニュートリエント培地成分、トリプチカーゼペプトン、ビタミンK1、ヘミンなどを加えた栄養培地にW. succinogenesを植菌し、嫌気的条件下、37℃で培養してもよい。
【0029】
W. succinogenes由来の亜酸化窒素還元酵素の具体的な精製方法としては、例えば、培養したW. succinogenesの菌体をフレンチプレス又は超音波破砕器などで破砕し、遠心分離して得られた上清(亜酸化窒素還元酵素を含む粗酵素溶液)を、イオン交換クロマトグラフィーやハイドロキシアパタイトクロマトグラフィーなどの精製手段で分画することにより、単一酵素として精製することができる。
【0030】
カソード11として用いる亜酸化窒素還元酵素1を固定化した酵素電極(NOR電極)は、亜酸化窒素還元酵素1をカーボン(カーボンペースト)等の電極材料と混合して製造することができる。電極材料としては、カーボン以外にも白金や金を用いることもできる。また、白金担持カーボンを用いてもよい。
【0031】
亜酸化窒素還元酵素1を電極材料に固定化する方法としては、例えば、架橋試薬を用いる方法、高分子マトリックス中に封入する方法、透析膜で被膜する方法、光架橋ポリマーや酸化還元ポリマーを用いて固定する方法が例示でき、これらを組み合わせて用いてもよい。より詳細には、グルタルアルデヒドを用いて上記の亜酸化窒素還元酵素1をカーボン電極上に固定化し、その後、アミン基を有する試薬で処理することにより、グルタルアルデヒドをブロッキングする方法が挙げられる。
【0032】
具体的には、例えば、ライオンペーストW−311N(ライオン株式会社):5% ナフィオン(デュポン株式会社):5mM リン酸カリウム緩衝液(pH6.8):46mU/μl亜酸化窒素還元酵素溶液を1:1:2:6の体積比で混合したものを、研磨したグラッシーカーボン(GC)電極(φ3mm)に5μlを滴下し、4℃で2時間乾燥させた後、25% グルタルアルデヒド溶液の蒸気を用いて30分間架橋処理し、1mM Tris−HCl(pH7.0)に20分間、さらに100mM リン酸カリウム緩衝液(pH7.0)に30分間浸漬することによってNOR電極を得ることができる。
【0033】
アノード12は、有機物から電子を生成することのできる生物由来触媒からなる有機物分解手段2を備えるものであり、有機物分解手段2の触媒活性により有機物を分解し、分解に伴って生成する電子をリード21を通じて上記カソード11に供給するものであればよい。
【0034】
有機物分解手段2としては、酵素、微生物及びバイオフィルムからなる群より選ばれる少なくとも1種であることが好ましい。このような酵素の具体例として、有機物の酸化還元反応を触媒する酵素が挙げられる。また、このような微生物としては、有機物の酸化還元反応を触媒する酵素を有するものであればよく、さらには有機物の酸化還元反応を触媒する酵素を微生物表面に有するものであることが好ましい。例えば、微生物燃料電池のアノードに用いることのできる微生物とすることができる。また、このような微生物により形成されるバイオフィルムであってもよい。
【0035】
有機物としては、酵素、微生物等により分解されて電子を生成するものであれば特に制限はなく、酵素、微生物等の種類に応じて適宜設定することができる。また、利用可能な上記有機物の種類に応じて、酵素、微生物等の種類を適宜設定してもよい。
【0036】
具体的な有機物の例としては、例えば、グルコース等の糖類、低級脂肪酸、有機酸、アルコール、アミノ酸等が挙げられる。これらの有機物は複数種類の組み合わせでもよい。また、廃棄物処分場、下水処理場、農地等の環境中に存在する有機性廃棄物等を、有機物として利用することもできる。
【0037】
本実施形態において、反応槽100は、上記試料液51中に電子メディエーターを含むものであってもよい。電子メディエーターは、電子の授受が可能なものである。電子メディエーターにより、カソード11から亜酸化窒素還元酵素1への電子の移動が促進されるため、亜酸化窒素をより効率的に分解することができる。なお、電子メディエーターは、NOR電極に含まれていてもよい。
【0038】
電子メディエーターとしては、例えば、ベンジルビオロゲン、メチルビオロゲン、フェリシアン化カリウム、フェナジンメトサルフェート(PMS)、1−メトキシフェナジンメトサルフェート(mPMS)、フェロセン誘導体、オスミウム誘導体等を用いることができる。
【0039】
試料液51は、亜酸化窒素還元酵素1の酵素活性を阻害しないものであればよく、特に制限はない。同様に、試料液52は、有機物分解手段2に含まれる生物由来触媒活性を阻害しないものであればよく、特に制限はない。例えば、試料液51、52として、有機性廃棄物等を含有する廃水等を用いることもできる。
【0040】
本発明の亜酸化窒素分解装置を実施するための他の実施形態に係る反応槽110を図2に示した。図2に示した反応槽110は、亜酸化窒素還元酵素1を固定化した酵素電極(NOR電極)をカソード11として有し、有機物分解手段2を備える電極をアノード12として有している。カソード11とアノード12は試料液50に浸されている。
【0041】
アノード12において、試料液50中に含まれる有機物が有機物分解手段2によって分解される際に生成する電子が、リード21を通じてカソード11の亜酸化窒素還元酵素1へと供給され、この供給された電子を利用して、亜酸化窒素還元酵素1によって試料液50中に含まれる亜酸化窒素が選択的に分解される。
【0042】
試料液50は、亜酸化窒素還元酵素1の酵素活性、有機物分解手段2の触媒活性を阻害しないものであればよく、特に制限はない。例えば、試料液50として、有機性廃棄物等を含有する廃水等を用いることもできる。
【0043】
本発明の亜酸化窒素分解装置は、常温で亜酸化窒素を分解することができるうえ、有機物さえ存在すれば亜酸化窒素の分解が可能であるため外部から熱等のエネルギーを加える必要がなく、コスト的に有利である。
【0044】
本発明の亜酸化窒素分解装置は、外部電源を必要としないため、環境中(例えば、農耕地、処分場、廃棄物処分場、下水処理場等)での亜酸化窒素分解に好適に用いることができる。
【0045】
例えば、農耕地等の土壌に亜酸化窒素還元酵素を有する酵素電極からなるカソード及びアノードを突き刺すことにより、アノードの触媒活性により土壌中の有機物から電子を生成し、その電子を用いてカソードにおいて亜酸化窒素を分解できる。また、下水処理場等において曝気ガスに含まれる亜酸化窒素を分解するにあたり、カソードを気相におき、アノードを下水中に浸すことにより、下水中の有機物から生成させた電子を用いて曝気ガス中の亜酸化窒素を分解することもできる。
【実施例】
【0046】
以下、本発明を実施例により更に詳細に説明する。
【0047】
(実施例1)亜酸化窒素還元酵素を固定化した電極(NOR電極)の作製
亜酸化窒素還元酵素は、国際公開WO2009/031652パンフレットに記載の方法により、Wolinella succinogenes ATCC29543株から得た。また、国際公開WO2009/031652パンフレットに記載の方法により、亜酸化窒素還元酵素を固定化した電極(NOR電極)を得た。
【0048】
(実施例2)NOR電極を用いた亜酸化窒素の分解(メディエーター添加)
OR電極をカソードとして用いた。一方、アノードには、亜酸化窒素還元酵素に変えてグルコース脱水素酵素(FADGDH)を用いた以外はNOR電極と同様にして作製したグルコース脱水素酵素を固定化した電極(GDH電極)を用いた。これらの電極を100mMリン酸緩衝液(pH7.0)が満たされた反応槽に設置し、イオン交換膜でカソード側の試料液とアノード側の試料液を仕切った。アノード側の試料液に10mMとなるようグルコースを添加し、カソード側の試料液に2mMとなるようmPMSを電子メディエーターとして添加した。また、カソードとアノードはポテンショスタットに接続した(構成は図1を参照)。カソード側の試料液に、アルゴンガス又は亜酸化窒素ガスをバブリングし、その際の電流値をポテンショスタットにより計測した。
【0049】
その結果を図3に示した。カソード側の試料液にアルゴンガスをバブリングした際に発生する電力と亜酸化窒素をバブリングした際に発生する電力には明らかに差が認められた(図3)。この結果から、アノードにおけるグルコースの酸化により生じた電子を用いてカソードにおいて亜酸化窒素還元酵素の作用により、亜酸化窒素が還元、すなわち分解されることが確認された。
【0050】
(実施例3)NOR電極を用いた亜酸化窒素の分解(メディエーター非添加)
OR電極をカソードとして、GDH電極をアノードとして用いた。これらの電極を100mMリン酸緩衝液(pH7.0)が満たされた反応槽に設置した。実施例2とは異なり、カソード側の試料液とアノード側の試料液はイオン交換膜で仕切らずに一槽式の反応槽とした。また、電子メディエーターは添加しなかった。試料液に10mMとなるようにグルコースを添加し、カソードとアノードをポテンショスタットに接続した(構成は図2を参照)。試料液に、アルゴンガス又は亜酸化窒素ガスをバブリングし、その際の電流値をポテンショスタットにより計測した。
【0051】
結果を図4に示した。試料液にアルゴンガスをバブリングしたときと亜酸化窒素をバブリングしたときでは、発生する電力に違いが認められ、亜酸化窒素をバブリングしたときに発生する電力は、アルゴンガスをバブリングしたときに発生する電力の数倍に及んだ(図4)。この結果は、アノードにおけるグルコースの酸化により生じた電子を用いてカソードにおいて亜酸化窒素還元酵素の作用により、亜酸化窒素が選択的に還元、すなわち分解されることが確認された。この結果はまた、電子メディエーターを添加しなくても、NOR電極から直接電子が亜酸化窒素還元酵素に移動していることを示している。
【0052】
以上の実施例より、本発明の亜酸化窒素分解装置は、外部電源からの電圧の供給を必要とせず、アノードで発生した電子を利用して亜酸化窒素を分解できることが示された。
【符号の説明】
【0053】
1…亜酸化窒素還元酵素、2…有機物分解手段、11…カソード、12…アノード、21…リード、31…イオン交換膜、32…塩橋、50、51、52…試料液、100、110…反応槽。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
亜酸化窒素還元酵素を有する酵素電極からなるカソードと、該カソードに接続されたアノードとを備える亜酸化窒素分解装置。
【請求項2】
前記アノードが、有機物から電子を生成することのできる生物由来触媒を含むものである、請求項1に記載の亜酸化窒素分解装置。
【請求項3】
前記生物由来触媒が、酵素、微生物及びバイオフィルムからなる群より選ばれる少なくとも1種である、請求項1又は2に記載の亜酸化窒素分解装置。
【請求項4】
前記亜酸化窒素還元酵素が、チトクロームCと複合体を形成しているものである、請求項1〜3のいずれか一項に記載の亜酸化窒素分解装置。
【請求項5】
前記亜酸化窒素還元酵素が、チトクロームCをドメインに有するものである、請求項1〜4のいずれか一項に記載の亜酸化窒素分解装置。
【請求項6】
前記亜酸化窒素還元酵素が、Wolinella succinogenes由来のものである、請求項1〜5のいずれか一項に記載の亜酸化窒素分解装置。
【請求項7】
請求項1〜6のいずれか一項に記載の亜酸化窒素分解装置を用いた亜酸化窒素分解方法であって、
前記カソードと亜酸化窒素を含む試料とを接触させ、前記アノードにおいて生成される電子を利用して、前記亜酸化窒素還元酵素の作用により前記亜酸化窒素を分解する亜酸化窒素分解方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公開番号】特開2012−34576(P2012−34576A)
【公開日】平成24年2月23日(2012.2.23)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−174410(P2010−174410)
【出願日】平成22年8月3日(2010.8.3)
【出願人】(000001373)鹿島建設株式会社 (1,387)
【出願人】(504132881)国立大学法人東京農工大学 (595)
【Fターム(参考)】