説明

亜酸化銅粉末およびその製造方法

【課題】炭素含有量および塩素含有量が低く且つ微粒の亜酸化銅粉末およびその製造方法を提供する。
【解決手段】2価の銅イオンを含有する水溶液にアルカリ溶液と還元剤溶液を添加して亜酸化銅粒子を還元析出させる亜酸化銅粉末の製造方法において、アルカリ溶液として炭素および塩素を含まないアルカリの溶液を使用するとともに、還元剤溶液として炭素および塩素を含まない還元剤の溶液を使用することにより、50%粒径が0.05〜1.0μm、炭素含有量が0.1質量%以下、塩素含有量が0.01質量%未満であり、球状と、略球状と、六面体状および鱗片状の少なくとも一方とを混合した形状の亜酸化銅粉末を製造する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、亜酸化銅粉末およびその製造方法に関し、特に、電子材料用銅粉の原料などに使用するのに適した亜酸化銅粉末およびその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
亜酸化銅粉末は、電子材料用銅粉などの銅粉、船底塗料(防汚塗料)用の防腐剤、殺菌剤、農薬、導電塗料、銅めっき液、窯業関係の着色剤、触媒、整流器、太陽電池などの原料や材料として、種々の分野で使用されている。
【0003】
亜酸化銅粉末を電子材料用銅粉の原料として使用する場合、例えば、積層セラミックコンデンサや積層セラミックインダクタなどの積層セラミック電子部品の内部電極、小型積層セラミックコンデンサや積層セラミックインダクタなどの外部電極などを形成する銅ペーストに使用する銅粉の原料として亜酸化銅粉末が使用されている。
【0004】
近年、積層セラミックコンデンサなどの高容量化や小型化に伴って、電極の薄層化が求められている。そのため、積層セラミックコンデンサなどの電極用の金属材料として、サブミクロン領域(約1μm以下の領域)の粒径で粒度分布がシャープな単分散の銅微粒子からなる銅粉が求められている。また、積層セラミックコンデンサなどの電子部品の電極が炭素などの不純物を含むと、電極の緻密性に影響するため、銅粉中の炭素含有量が低いことも求められている。特に、積層セラミックコンデンサなどの電子部品の電極が塩素を含むと、電子部品の信頼性が低下するため、銅粉中の塩素含有量が極めて低いことが求められている。
【0005】
一般に、銅粉は、化学還元法やアトマイズ法により製造されている。化学還元法は、サブミクロン領域の粒径で粒度分布がシャープな単分散の銅微粒子からなる銅粉を製造するのに適しているが、還元剤、錯化剤、分散剤などの原料に由来する炭素や塩素などの不純物を銅粒子中に取り込んでしまうので、緻密な電極を得るには適していない。一方、アトマイズ法では、銅粉の原料の純度を高くすることによって銅粉中の不純物を少なくすることはできるが、サブミクロン領域の粒径で粒度分布がシャープな銅微粒子からなる銅粉を効率的に得る技術が確立されていない。
【0006】
そこで、本発明者らは、化学還元法によって炭素含有量および塩素含有量が低く且つサブミクロン領域の粒径で粒度分布がシャープな単分散の銅微粒子からなる銅粉を製造するために鋭意研究した結果、炭素含有量および塩素含有量が低く且つ微粒の亜酸化銅粉末を原料として使用すれば、炭素含有量および塩素含有量が低く且つサブミクロン領域の粒径で粒度分布がシャープな単分散の銅微粒子からなる銅粉を製造することができることを見出した。
【0007】
また、亜酸化銅粉末を船底塗料(防汚塗料)などの塗料の原料として使用する場合には、塗布性や塗布量削減の観点から、微粒で表面積が大きい亜酸化銅粉末が求められている。また、亜酸化銅粉末を銅めっき液の材料として使用する場合にも、銅めっき液への溶解性を高くするために、微粒で表面積が大きい亜酸化銅粉末が求められている。さらに、亜酸化銅粉末を触媒の原料として使用する場合にも、少量で有効な効果を得られるように、微粒で表面積が大きい亜酸化銅粉末が求められている。また、これらの製品が不純物によって汚染されるのを防止する観点から、亜酸化銅粉末の純度が高いことも求められている。
【0008】
従来、亜酸化銅の製造方法として、銅塩含有溶液にアルカリ溶液と還元糖を添加して亜酸化銅粉末を製造する方法(例えば、特許文献1、2参照)、光触媒を用いて溶液中の銅イオンを還元して亜酸化銅粉末を製造する方法(例えば、特許文献3参照)、塩酸含有塩化銅溶液に金属銅などを溶解させて塩化第二銅を塩化第一銅に還元し、得られた溶液をアルカリ溶液と反応させて亜酸化銅を生成させる方法(例えば、特許文献4、5参照)、2価の銅の水溶液にホルマリン、亜硫酸ソーダ、転化糖などの還元剤とアルカリを添加して亜酸化銅を製造する方法(例えば、特許文献6参照)、塩素イオン含有溶液中で陽極を金属銅として電解する方法などが提案されている。
【0009】
【特許文献1】特開2005−255445号公報(段落番号0024)
【特許文献2】特開2005−255446号公報(段落番号0025)
【特許文献3】特開2002−308620号公報(段落番号0008)
【特許文献4】特開2003−165724号公報(段落番号0006)
【特許文献5】特開2003−165725号公報(段落番号0006)
【特許文献6】特開昭61−58816号公報(第1−2頁)
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
しかし、特許文献1および2の方法では、得られる亜酸化銅粉末の粒径は1.5〜15μmであり、サブミクロン領域の粒径の亜酸化銅粉末を得ることができず、また、多量の還元糖を使用しているため、炭素含有量が低い亜酸化銅粉末を得るのは困難である。
【0011】
また、特許文献3の方法では、得られる亜酸化銅粉末の粒径は1.0〜5.0μmであり、サブミクロン領域の粒径の亜酸化銅粉末を得ることができず、また、還元剤として光触媒を使用しているので還元剤由来の炭素などの不純物を含まないが、炭素を含む錯化剤を使用しているため、炭素含有量が低い亜酸化銅粉末を得るのは困難である。
【0012】
また、特許文献4および5の方法では、得られる亜酸化銅粉末の粒径は4〜5μmであり、サブミクロン領域の粒径の亜酸化銅粉末を得ることができず、また、不純物としての塩素含有量が低い亜酸化銅粉末を得るのは困難である。
【0013】
また、特許文献6の方法では、得られる亜酸化銅粉末の粒径は明確に記載されていないが、325Mの篩を使用していることからミクロン領域(約1μm以上の領域)から〜数十μm領域であると考えられ、また、不純物として0.4質量%の塩素分を含有しており、塩素含有量が低い亜酸化銅粉末を得るのは困難である。
【0014】
さらに、塩素イオン含有溶液中で陽極を金属銅として電解する方法では、サブミクロン領域の粒径の亜酸化銅粉末を得ることができず、また、不純物としての塩素含有量が低い亜酸化銅粉末を得るのは困難である。
【0015】
したがって、本発明は、このような従来の問題点に鑑み、炭素含有量および塩素含有量が低く且つ微粒の亜酸化銅粉末およびその製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0016】
本発明者らは、上記課題を解決するために鋭意研究した結果、2価の銅イオンを含有する水溶液にアルカリ溶液と還元剤溶液を添加して亜酸化銅粒子を還元析出させる亜酸化銅粉末の製造方法において、アルカリ溶液として炭素および塩素を含まないアルカリの溶液を使用するとともに、還元剤溶液として炭素および塩素を含まない還元剤の溶液を使用することにより、炭素含有量および塩素含有量が低く且つ微粒の亜酸化銅粉末を製造することができることを見出し、本発明を完成するに至った。
【0017】
すなわち、本発明による亜酸化銅粉末の製造方法は、2価の銅イオンを含有する水溶液にアルカリ溶液と還元剤溶液を添加して亜酸化銅粒子を還元析出させる亜酸化銅粉末の製造方法において、アルカリ溶液が炭素および塩素を含まないアルカリの溶液であり、還元剤溶液が炭素および塩素を含まない還元剤の溶液であることを特徴とする。この亜酸化銅粉末の製造方法において、2価の銅イオンを含有する水溶液にアルカリ溶液を添加した後に還元剤溶液を添加してもよいし、2価の銅イオンを含有する水溶液に還元剤溶液を添加した後にアルカリ溶液を添加してもよい。また、炭素および塩素を含まないアルカリが、アンモニア、水酸化ナトリウム、水酸化カリウムおよび水酸化リチウムからなる群から選ばれる1種以上のアルカリであるであるのが好ましい。また、炭素および塩素を含まない還元剤が、硫酸ヒドロキシルアミン、硝酸ヒドロキシルアミン、亜硫酸ナトリウム、亜硫酸水素ナトリウム、亜ジチオン酸ナトリウム、硫酸ヒドラジン、リン酸ヒドラジン、ヒドラジン、次亜リン酸および次亜リン酸ナトリウムからなる群から選ばれる1種以上の還元剤であるのが好ましく、特に、硫酸ヒドロキシルアミンであるのが好ましい。さらに、2価の銅イオンを含有する水溶液が、硫酸銅および硝酸銅の少なくとも一方を含む水溶液であるのが好ましい。
【0018】
また、本発明による亜酸化銅粉末は、50%粒径が0.05〜1.0μm、炭素含有量が0.1質量%以下、塩素含有量が0.01質量%未満であることを特徴とする。この亜酸化銅粉末において、亜酸化銅粉末の形状が、球状と、略球状と、六面体状および鱗片状の少なくとも一方とを混合した形状であるのが好ましい。
【0019】
さらに、本発明による銅粉の製造方法は、上記のいずれかに記載の亜酸化銅粉末を還元することを特徴とする。
【0020】
なお、本明細書中において、「炭素および塩素を含まない」とは、組成中に炭素(C)や塩素(Cl)を含まないことをいい、不可避不純物を除いて炭素および塩素を含まないことを意味する。
【発明の効果】
【0021】
本発明によれば、2価の銅イオンを含有する水溶液にアルカリ溶液と還元剤溶液を添加して亜酸化銅粒子を還元析出させる亜酸化銅粉末の製造方法において、アルカリ溶液として炭素および塩素を含まないアルカリの溶液を使用するとともに、還元剤溶液として炭素および塩素を含まない還元剤の溶液を使用することにより、炭素含有量および塩素含有量が低く且つ微粒の亜酸化銅粉末を製造することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0022】
本発明による亜酸化銅粉末の製造方法の実施の形態では、2価の銅イオンを含有する水溶液にアルカリ溶液と還元剤溶液を添加して亜酸化銅粒子を還元析出させる亜酸化銅粉末の製造方法において、アルカリ溶液として炭素および塩素を含まないアルカリの溶液を使用するとともに、還元剤溶液として炭素および塩素を含まない還元剤の溶液を使用する。
【0023】
この亜酸化銅粉末の製造方法では、2価の銅イオンを含有する水溶液にアルカリ溶液を添加して懸濁液とした後に還元剤溶液を添加してもよいし、2価の銅イオンを含有する水溶液に還元剤溶液を添加した後にアルカリ溶液を添加してもよい。なお、2価の銅イオンを含有する水溶液にアルカリ溶液を添加して懸濁液とした後に還元剤溶液を添加する場合には、2価の銅イオンを含有する水溶液にアルカリ溶液を添加して、水酸化銅(Cu(OH))を生成している懸濁液に還元剤溶液を添加してもよいし、水酸化銅を加熱して脱水および分解させて、酸化銅(CuO)を生成している懸濁液に還元剤溶液を添加してもよい。
【0024】
2価の銅イオンを使用するのは、水溶性反応系における取扱いが簡便になるからである。2価の銅イオンの供給源になる原料として、コスト、入手し易さ、取扱いの安全性などを考慮して、硫酸銅(硫酸銅水和物を含む)、硝酸銅(硝酸銅水和物を含む)、またはこれらの混合物を使用するのが好ましい。なお、1価の銅イオンを使用すると、水溶性反応系における取扱いが簡便ではない。例えば、シアン化銅(I)を使用すると、酸性溶液中では有毒なシアン化水素が発生するので、安全に反応させるための設備が必要になり、また、取扱上の制約も多くなる。
【0025】
炭素および塩素を含まないアルカリ溶液としては、アンモニア、水酸化ナトリウム、水酸化カリウム、水酸化リチウムなどの一般に使用されている様々なアルカリの溶液を使用することができるが、水酸化ナトリウム溶液を使用するのが好ましい。アルカリの添加量は、(pHによって還元剤による還元の強さが異なるので)還元剤の添加量により異なるが、2価の銅イオンに対して1.0〜2.0当量にするのが好ましい。なお、空気中の二酸化炭素によって汚染されたアルカリ溶液を使用すると、生成する亜酸化銅が炭素を含有する場合があるので、アルカリ溶液が空気中の二酸化炭素によって汚染されないように注意する必要がある。
【0026】
炭素および塩素を含まない還元剤としては、硫酸ヒドロキシルアミン(硫酸ヒドロキシルアンモニウム)、硝酸ヒドロキシルアミン、亜硫酸ナトリウム、亜硫酸水素ナトリウム、亜ジチオン酸ナトリウム(ハイドロサルファイド)、硫酸ヒドラジン、リン酸ヒドラジン、ヒドラジン、次亜リン酸、次亜リン酸ナトリウムなどの様々な還元剤を使用することができる。これらの還元剤のうち、生成する亜酸化銅粒子の粒径を小さくすることができ且つ亜酸化銅粒子の粒径を制御し易くなることから、硫酸ヒドロキシルアミンを使用するのが好ましい。炭素および塩素を含まない還元剤を使用するのは、炭素や塩素を含む還元剤を使用すると、生成した亜酸化銅中に、還元反応により分解した微量の物質(酸化された還元剤)が混入するので好ましくないからである。還元剤の添加量は、化学量論的に2価の銅イオンを1価の銅まで(すなわち亜酸化銅まで)還元することができる量以上にする必要があるが、還元剤の添加量が多過ぎると、コスト的に不利であり、また、pHや還元剤の種類によって銅まで還元されてしまうので、1〜4当量であるのが好ましい。なお、還元剤溶液の添加後の溶液内の均一反応を実現するために、還元剤溶液を一挙に添加するのが好ましい。具体的には、反応溶液の攪拌方法(反応溶液の拡散速度)や反応スケールにより一概にはいえないが、還元剤溶液を速く添加する程よく、例えば、1分以内に添加するのが好ましい。
【0027】
また、還元反応の際に反応液が均一に混合するように反応液を攪拌するのが好ましく、攪拌方法としては、例えば、マグネットスターラーにより攪拌する方法や、羽根を備え付けた攪拌棒を反応液中に設置して外部モーターにより回転することにより攪拌する方法などが挙げられる。この還元時の反応温度は、10℃〜100℃程度であればよく、反応の制御性から25℃〜80℃であるのが好ましい。
【0028】
このようにして得られた亜酸化銅含有スラリーをろ過し、水洗することによって、塊状の亜酸化銅ケーキが得られる。ろ過および水洗の方法としては、フィルタープレスなどにより粉体を固定した状態で水洗する方法や、スラリーをデカントし、その上澄みを除去した後に純水を加えて攪拌し、その後、再びデカントして上澄み液を除去する操作を繰り返し行う方法や、ろ過後の亜酸化銅をリパルプした後に再度ろ過する操作を繰り返し行う方法などのいずれでもよいが、得られた亜酸化銅ケーキ中に局所的に残留している不純物をできる限り除去することができる方法が好ましい。また、得られた亜酸化銅ケーキを、銅まで還元させず、酸化銅(CuO)まで酸化させない雰囲気および温度で乾燥(例えば、真空状態における乾燥)することによって、亜酸化銅微粒子を得ることができる。また、必要に応じて、乾式解砕処理、篩分け、風力分級などの処理を行ってもよい。
【0029】
上述した本発明による亜酸化銅粉末の製造方法の実施の形態によって、50%粒径(D50)が0.05〜1.0μm、好ましくは0.05〜0.60μm、炭素含有量が0.1質量%以下、好ましくは0.05質量%以下、さらに好ましくは0.01質量%以下、塩素含有量が0.01質量%未満の亜酸化銅粉末を製造することができる。なお、亜酸化銅粉末の50%粒径(D50)が1.0μmを越えると、亜酸化銅粉末を還元して得られる銅粉を電子材料用銅粉として使用する場合、例えば、積層セラミックコンデンサの内部電極用銅粉に使用する場合に、薄層の電極を作製するのが困難になり、また、小型の積層セラミックコンデンサの外部電極用銅粉に使用する場合に、外観形状に悪影響を与える可能性がある。また、亜酸化銅粉末中の炭素含有量が0.1質量%を超えると、亜酸化銅粉末を銅粉の原料として使用する場合に、亜酸化銅粉末中に取り込まれる炭素量が増加して、亜酸化銅粉末を還元して得られる銅粉を電極に使用する場合に電極の緻密性が悪化する。また、亜酸化銅粉末中の塩素含有量が0.01質量%を超えると、亜酸化銅粉末を還元して得られる銅粉を電子部品に使用する場合に電子部品の信頼性が悪化する。
【0030】
また、亜酸化銅粉末の形状は、球状、略球状、六面体状および鱗片状を任意の割合で混合した形状であるのが好ましく、球状と、略球状と、六面体状および鱗片状の少なくとも一方とを任意の割合で混合した形状であるのがさらに好ましい。この任意の割合は、亜酸化銅粉末の用途に応じて、例えば、亜酸化銅粉末を銅粉の原料として使用する場合には銅粉の特性に応じて、変化させるのが好ましい。なお、この亜酸化銅粉末の形状は、電界放出型走査電子顕微鏡(FE−SEM)によって観察したFE−SEM画像から判断し、本明細書中において、長軸/短軸の平均値が限りなく1に近い場合(具体的には1.0〜1.2の場合)に「球状」とし、長軸/短軸の平均値が1.2〜2で球状に対して表面の凹凸が見られるともに一部に角がある場合に「略球状」とし、長軸/厚さ(アスペクト比)の平均値が3以上の場合(上述した球状および略球状の場合は3未満)に「鱗片状」とする。
【0031】
上述した本発明による亜酸化銅粉末の製造方法の実施の形態によって製造された亜酸化銅粉末は、銅粉、船底塗料(防汚塗料)、導電塗料、銅めっき液、太陽電池などの原料や材料として種々の分野で使用することができる。
【0032】
亜酸化銅粉末を電子材料用銅粉などの銅粉の原料として使用する場合には、亜酸化銅粉末を還元することによって銅粉を得ることができる。この還元方法として、一酸化炭素、水素などの還元ガスを用いた乾式還元法や、水和ヒドラジン、水素化ホウ素ナトリウムなどの還元剤を用いた湿式還元法を使用することができる。
【0033】
亜酸化銅粉末を船底塗料(防汚塗料)に使用する場合には、顔料、溶剤、可塑剤、充填剤、硬化促進剤などの塗料を調整するために一般に用いられる成分を適宜配合すればよい。また、防汚性を向上させるために、チオシアン銅、ロダン銅、ピリジン系銅化合物などの銅無機化合物や、有機化合物を混合してもよい。
【0034】
亜酸化銅粉末を導電塗料に使用する場合には、用途に応じて各種の樹脂(例えば、アクリル系、セルロース系など)、溶剤(例えば、ターピネオールなど)、ガラスフリットなどを配合すればよい。また、導電塗料の添加剤として亜酸化銅粉末を少量だけ添加してもよい。
【0035】
亜酸化銅粉末を銅めっき液に使用する場合には、例えば、硫酸銅を使用しない無電解銅めっき液などの銅イオンの供給源として使用することができる。
【0036】
亜酸化銅粉末を太陽電池に使用する場合には、例えば、亜酸化銅粉末を含む薄膜を基板上に形成し、その薄膜上に透明電極膜を形成して、亜酸化銅ショットキー障壁太陽電池にすることができる。
【実施例】
【0037】
以下、本発明による亜酸化銅粉末およびその製造方法の実施例について詳細に説明する。
【0038】
[実施例1]
まず、1Lの反応槽内に硫酸銅5水和物(和光純薬工業株式会社製)49.9gと純水523gを入れ、反応槽の上部から1L/分の流量で窒素を供給して反応槽内を窒素雰囲気中に維持し、反応槽内の攪拌棒の回転数を630rpmに調整し、反応槽内の温度を30℃に調整して、硫酸銅5水和物を溶解させた。
【0039】
次に、水酸化ナトリウム(和光純薬工業株式会社製)を純水に溶解させて作製した20質量%の水酸化ナトリウム水溶液96.0gを反応槽内の硫酸銅水溶液に添加した後、10分間攪拌しながら熟成させて水酸化銅を析出させた。
【0040】
次に、還元剤として硫酸ヒドロキシルアミン(和光純薬工業株式会社製)32.8gを純水200gに溶解させて作製した硫酸ヒドロキシルアミン水溶液を反応槽内の水溶液に添加し、1.8℃/分で60℃まで昇温させ、60℃の温度を30分間保持した後、攪拌を止め、ろ過し、洗浄し、乾燥させて、亜酸化銅微粒子を得た。
【0041】
[実施例2]
2価の銅イオンの原料として硫酸銅5水和物の代わりに硝酸銅(II)3水和物(片山化学工業株式会社製)37.5gを使用した以外は、実施例1と同様の方法により、亜酸化銅微粒子を得た。
【0042】
[実施例3]
硫酸ヒドロキシルアミン水溶液と水酸化ナトリウム水溶液を添加する順序を逆にした、すなわち、硫酸ヒドロキシルアミン水溶液を添加した後に水酸化ナトリウム水溶液を添加した以外は、実施例1と同様の方法により、亜酸化銅微粒子を得た。
【0043】
[実施例4]
硫酸ヒドロキシルアミン水溶液を反応槽内の水溶液に添加する前に、反応槽内の温度を70℃まで昇温させ、生成した水酸化銅の全量を脱水して酸化銅に分解し、この反応液の温度を30℃まで降温させた以外は、実施例1と同様の方法により、亜酸化銅微粒子を得た。
【0044】
[実施例5]
硫酸ヒドロキシルアミンの使用量を65.6gにした以外は、実施例1と同様の方法により、亜酸化銅微粒子を得た。
【0045】
[比較例1]
硫酸ヒドロキシルアミンの代わりにグルコース(和光純薬工業株式会社製)72.0gを使用した以外は、実施例1と同様の方法により、亜酸化銅微粒子を得た。
【0046】
[比較例2]
水酸化ナトリウムの使用量を24gにするとともに、硫酸ヒドロキシルアミンの代わりにグルコース(和光純薬工業株式会社製)8.2gを使用した以外は、実施例1と同様の方法により、亜酸化銅微粒子を得た。
【0047】
これらの実施例および比較例で得られた亜酸化銅粒子の組成について、X線回折(XRD)装置(株式会社リガク製のRint−UltimaIII)によって、走査範囲10°〜90°において走査速度2°/分で評価したところ、X線回折データから、いずれもCuO単一組成であることがわかった。
【0048】
また、実施例および比較例で得られた亜酸化銅粒子の形状について、電界放出型走査電子顕微鏡(FE−SEM)(日立製作所製のS−4700型)によって観察した2万倍のFE−SEM画像から判断した。この粒子の形状の判断では、長軸/短軸の平均値が限りなく1に近い場合(具体的には1.0〜1.2の場合)に球状とし、長軸/短軸の平均値が1.2〜2で球状に対して表面の凹凸が見られるともに一部に角がある場合に略球状とし、長軸/厚さ(アスペクト比)の平均値が3以上の場合(上述した球状および略球状の場合は3未満)に鱗片状とした。その結果、実施例1、2および5では、球状と略球状と六面体状を混合した形状であり、実施例3では、球状と略球状と鱗片状を混合した形状であり、実施例4では、球状と略球状と六面体状と鱗片状を混合した形状であり、比較例1では、球状と略球状を混合した形状であり、比較例2では、八面体と六面体状を混合した形状であった。
【0049】
また、実施例および比較例で得られた亜酸化銅粒子のBET比表面積、炭素含有量、塩素含有量および粒度分布を測定した結果を表1に示す。なお、BET比表面積は、比表面積測定器(ユアサアイオニクス製の4ソーブ)を用いて測定し、炭素含有量は、金属中炭素分析装置(堀場製作所製のEMIA1110型)を用いて測定し、塩素含有量は、分光光度計(日立制作所製のU−1500型)を用いて測定した。また、粒度分布については、2万倍のFE−SEM画像において画像解析式粒度分布測定ソフトウェア(マウンテック社のMac−View Ver4)を用いて100個の粒子のHeywood径(投影面積円相当径)、すなわち、FE−SEM画像上の粒子の面積と同一の面積の円の直径を求めて、それらを算術平均することにより、それぞれ10%粒径(D10)、25%粒径(D25)、50%粒径(D50)、75%粒径(D75)、90%粒径(D90)および最大粒径(Dmax)を求めた。なお、2万倍のFE−SEM画像では100個の粒子のHeywood径を求めることができない場合に、倍率を下げて撮影した画像を用いて粒子径を測定した。
【0050】
【表1】

【0051】
表1に示すように、実施例1〜5で得られた亜酸化銅粉末では、50%粒径(D50)がサブミクロン領域であり、炭素含有量および塩素含有量が低いことがわかる。
【産業上の利用可能性】
【0052】
本発明による亜酸化銅粉末は、電子材料用銅粉などの銅粉、船底塗料(防汚塗料)用の防腐剤、殺菌剤、農薬、導電塗料、銅めっき液、窯業関係の着色剤、触媒、整流器、太陽電池などの原料や材料として利用することができる。電子材料用銅粉の原料として使用する場合には、例えば、積層セラミックコンデンサや積層セラミックインダクタなどの積層セラミック電子部品の内部電極、小型積層セラミックコンデンサや積層セラミックインダクタなどの外部電極などを形成する銅ペーストに使用する銅粉の原料として使用することができる。


【特許請求の範囲】
【請求項1】
2価の銅イオンを含有する水溶液にアルカリ溶液と還元剤溶液を添加して亜酸化銅粒子を還元析出させる亜酸化銅粉末の製造方法において、前記アルカリ溶液が炭素および塩素を含まないアルカリの溶液であり、前記還元剤溶液が炭素および塩素を含まない還元剤の溶液であることを特徴とする、亜酸化銅粉末の製造方法。
【請求項2】
前記2価の銅イオンを含有する水溶液に前記アルカリ溶液を添加した後に前記還元剤溶液を添加することを特徴とする、請求項1に記載の亜酸化銅粉末の製造方法。
【請求項3】
前記2価の銅イオンを含有する水溶液に前記還元剤溶液を添加した後に前記アルカリ溶液を添加することを特徴とする、請求項1に記載の亜酸化銅粉末の製造方法。
【請求項4】
前記炭素および塩素を含まないアルカリが、アンモニア、水酸化ナトリウム、水酸化カリウムおよび水酸化リチウムからなる群から選ばれる1種以上のアルカリであることを特徴とする、請求項1乃至3のいずれかに記載の亜酸化銅粉末の製造方法。
【請求項5】
前記炭素および塩素を含まない還元剤が、硫酸ヒドロキシルアミン、硝酸ヒドロキシルアミン、亜硫酸ナトリウム、亜硫酸水素ナトリウム、亜ジチオン酸ナトリウム、硫酸ヒドラジン、リン酸ヒドラジン、ヒドラジン、次亜リン酸および次亜リン酸ナトリウムからなる群から選ばれる1種以上の還元剤であることを特徴とする、請求項1乃至4のいずれかに記載の亜酸化銅粉末の製造方法。
【請求項6】
前記炭素および塩素を含まない還元剤が、硫酸ヒドロキシルアミンであることを特徴とする、請求項1乃至4のいずれかに記載の亜酸化銅粉末の製造方法。
【請求項7】
前記2価の銅イオンを含有する水溶液が、硫酸銅および硝酸銅の少なくとも一方を含む水溶液であることを特徴とする、請求項1乃至6のいずれかに記載の亜酸化銅粉末の製造方法。
【請求項8】
50%粒径が0.05〜1.0μm、炭素含有量が0.1質量%以下、塩素含有量が0.01質量%未満であることを特徴とする、亜酸化銅粉末。
【請求項9】
前記亜酸化銅粉末の形状が、球状と、略球状と、六面体状および鱗片状の少なくとも一方とを混合した形状であることを特徴とする、請求項8に記載の亜酸化銅粉末。
【請求項10】
請求項1乃至9のいずれかに記載の亜酸化銅粉末を還元することを特徴とする、銅粉の製造方法。

【公開番号】特開2010−59001(P2010−59001A)
【公開日】平成22年3月18日(2010.3.18)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−224488(P2008−224488)
【出願日】平成20年9月2日(2008.9.2)
【出願人】(506334182)DOWAエレクトロニクス株式会社 (336)